特許第6618141号(P6618141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6618141水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618141
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20191202BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20191202BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20191202BHJP
【FI】
   A23L5/00 B
   A23L29/256
   A23L29/212
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-90595(P2015-90595)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-202119(P2016-202119A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優作
(72)【発明者】
【氏名】菰田 好弘
(72)【発明者】
【氏名】村山 晃一
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−173615(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0144909(US,A1)
【文献】 特開2004−248665(JP,A)
【文献】 特開2014−168419(JP,A)
【文献】 特開平02−311535(JP,A)
【文献】 特開2010−189386(JP,A)
【文献】 特開2010−136685(JP,A)
【文献】 米国特許第05654103(US,A)
【文献】 特表平08−511296(JP,A)
【文献】 米国特許第05820998(US,A)
【文献】 特開平07−300795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00−5/30
A23L 29/00−29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなるデンプン塗剤をベース部材上に塗工してデンプン塗膜を形成するデンプン塗膜塗工工程と、
アルギン酸ナトリウムを含有する水溶液からなる増粘塗剤を前記デンプン塗膜上に塗工して増粘塗膜を形成する増粘塗膜塗工工程と
を備え前記ベース部材上に水不溶化膜部が形成される
ことを特徴とする水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法。
【請求項2】
アルギン酸ナトリウムを含有する水溶液からなる増粘塗剤をベース部材上に塗工して増粘塗膜を形成する増粘塗膜塗工工程と、
デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなるデンプン塗剤を前記増粘塗膜上に塗工してデンプン塗膜を形成するデンプン塗膜塗工工程と
を備え前記ベース部材上に水不溶化膜部が形成される
ことを特徴とする水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記デンプン塗膜塗工工程または前記増粘塗膜塗工工程の後に乾燥工程がさらに含められる請求項1または2に記載の水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記デンプン塗剤における前記デンプンの濃度が5〜40重量%である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性アルギン酸塩フィルム製造方法に関し、特にアルギン酸化合物を主体とする不溶化フィルムを簡便に作成可能な製造方法提供する。
【背景技術】
【0002】
増粘性多糖類の一種として知られているアルギン酸は、そのままの状態では水に溶けない。しかし、アルギン酸のカルボキシル基にナトリウムが結合したアルギン酸ナトリウムは水溶性となる。そのため、アルギン酸ナトリウムは各種食品の保形性や粘度の調整等に多用されている。
【0003】
さらにアルギン酸ナトリウムはカルシウムイオンと接触すると、ナトリウムとカルシウムの間で交換が生じ、結果として水不溶化することが知られている。アルギン酸ナトリウムはいったんアルギン酸カルシウムに転換されると、高い含水性を示し乾燥耐性も高まる。このような性質を生かして、フィルム状やシート状、さらにはカプセル化する技術が提案されている。これらの各種形態は食品、化粧品、医薬品等の各種製品に利用されている。加えて、ソーセージ等の被覆食品へも応用されている(特許文献1,2,3,及び4等参照)。
【0004】
従前の方法により水不溶化アルギン酸化合物のフィルム状物を作製する場合、アルギン酸ナトリウム溶液を含有する溶液が調製され、同溶液は塩化カルシウム等のカルシウムイオンを含む溶液を満たした水浴中に流延される。あるいは、水不溶化アルギン酸化合物の皮膜を備えた食品を製造する場合、はじめにアルギン酸ナトリウム溶液を含有する溶液は予め基材または被覆対象の食品表面に塗布、乾燥される。その後、塩化カルシウム等のカルシウムイオンを含む溶液を満たした水浴中に沈降、浸漬される。いずれにおいても、溶液中でアルギン酸ナトリウムのナトリウムイオンはカルシウムイオンに置換されてアルギン酸カルシウムが生じる。この結果、水不溶化したアルギン酸カルシウムの膜状物単体、または食品表面に水不溶化したアルギン酸カルシウムの膜状物が形成される。
【0005】
膜状物は浴中から回収した時点では含水により膨潤している。固形化物を所望の場合、さらに乾燥が必要となる。既述のとおり、アルギン酸カルシウム自体は水に不溶である。しかし、水により膨潤しやすくゲル状を呈するため、膜状物中に内包されている水分は容易に蒸発しない。このように、溶液の塗布、乾燥等の各工程に専用の設備やエネルギーコストを強いることが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−1057号公報
【特許文献2】特開2007−117072号公報
【特許文献3】特許第4217029号公報
【特許文献4】特表2005−533511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであって、アルギン酸塩を利用した水不溶性フィルムについて、より簡便かつ安価に製造でき、使用時の利便性も高めた水不溶性アルギン酸塩フィルム製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなるデンプン塗剤をベース部材上に塗工してデンプン塗膜を形成するデンプン塗膜塗工工程と、アルギン酸ナトリウムを含有する水溶液からなる増粘塗剤を前記デンプン塗膜上に塗工して増粘塗膜を形成する増粘塗膜塗工工程とを備え前記ベース部材上に水不溶化膜部が形成されることを特徴とする水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法に係る。
【0009】
請求項2の発明は、アルギン酸ナトリウムを含有する水溶液からなる増粘塗剤をベース部材上に塗工して増粘塗膜を形成する増粘塗膜塗工工程と、デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなるデンプン塗剤を前記増粘塗膜上に塗工してデンプン塗膜を形成するデンプン塗膜塗工工程とを備え前記ベース部材上に水不溶化膜部が形成されることを特徴とする水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法に係る。
【0010】
請求項3の発明は、前記デンプン塗膜塗工工程または前記増粘塗膜塗工工程の後に乾燥工程がさらに含められる請求項1または2に記載の水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法に係る。
【0011】
請求項4の発明は、前記デンプン塗剤における前記デンプンの濃度が5〜40重量%である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法に係る。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法によると、デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなるデンプン塗剤をベース部材上に塗工してデンプン塗膜を形成するデンプン塗膜塗工工程と、アルギン酸ナトリウムを含有する水溶液からなる増粘塗剤を前記デンプン塗膜上に塗工して増粘塗膜を形成する増粘塗膜塗工工程とを備え前記ベース部材上に不溶化膜部が形成されるため、アルギン酸塩を利用した水不容性フィルムについて、安定した品質でより簡便かつ安価に製造でき、使用時の利便性も高めることができる。
【0013】
請求項2の発明に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法によると、アルギン酸ナトリウムを含有する水溶液からなる増粘塗剤をベース部材上に塗工して増粘塗膜を形成する増粘塗膜塗工工程と、デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなるデンプン塗剤を前記増粘塗膜上に塗工してデンプン塗膜を形成するデンプン塗膜塗工工程とを備え前記ベース部材上に水不溶化膜部が形成されるため、アルギン酸塩を利用した水不容性フィルムについて、安定した品質でより簡便かつ安価に製造でき、使用時の利便性も高めることができる。
【0014】
請求項3の発明に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法によると、請求項1または2の発明において、前記デンプン塗膜塗工工程または前記増粘塗膜塗工工程の後に乾燥工程がさらに含められるため、表面を平坦にして塗工を正確に行うことができる。
【0015】
請求項4の発明に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法によると、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記デンプン塗剤における前記デンプンの濃度が5〜40重量%であるため、良好な膜形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法を示す概略工程図である。
図2】第2実施形態に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1実施形態に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムについて、図1の概略工程図とともに説明する。水不溶性アルギン酸塩フィルム1Aは、図示から理解されるように、順に塗剤がベース部材30の上に塗工されることによって形成される。
【0018】
塗工のための土台となるベース部材30は、平滑でも粗面でもよく、また材質に特段の限定はない。例えば、ガラス板、ステンレス鋼板等の公知の板部材である。これらにおいて、軽量であり安価であることから樹脂フィルム部材が好ましく使用される。樹脂の種類には限定は無い。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、フッ素樹脂等の各種樹脂が使用される。
【0019】
樹脂フィルム部材とすることにより、水不溶性アルギン酸塩フィルムを貼り付けたまま折り曲げたり適当な大きさに裁断したりすることができる。それゆえ、使用時の利便性が高まる。図示ではベース部材30を樹脂フィルム部材としている(図2も同様である。)。
【0020】
はじめに、デンプン塗剤がベース部材30上に塗工される。そこで、デンプン塗剤はデンプン塗膜10となる。デンプン塗剤は、デンプン、可塑剤、及び塩化カルシウムを有する水溶液からなる。デンプン塗剤の主成分であるデンプンは、最終的に出来上がる水不溶性アルギン酸塩フィルム1Aの形状維持、すなわち賦形の目的から配合される。
【0021】
デンプンは市販されており一般に入手できる種類ならば特段限定されない。具体的には、トウモロコシ(コーンスターチ)、小麦、大麦、ライ麦、米、サツマイモ(甘糖)、ジャガイモ(馬鈴薯)、エンドウ、枝豆、タピオカ等のデンプンの他、もち小麦、もち粟、もち稗等のもち種のデンプンや、ワキシーコーンスターチ、もち米デンプン等のいずれも利用可能である。後記の実施例によると、粳(うるち)デンプンまたは糯(もち)デンプンのいずれも使用可能であり、アミロペクチン量の多少の影響は少ない。デンプンは安価であり、食品であることから極めて安全である。従って、他の成分を含有して塗剤に調製する上で都合が良い。
【0022】
これらのデンプンに加えて物理加工デンプンも使用される。物理加工デンプンの作製に際してもデンプンの種類は適宜である。物理加工デンプンの代表的な調製は以下のとおりである。前出の公知のデンプンは、水に分散後、加熱などにより適度にデンプン結晶中に水分子の入り込んだ状態となる。すなわちデンプンは糊化によりゲル化され、まずデンプン糊化液が得られる。次にデンプン糊化液に対して超音波が照射される。照射された超音波の振動の物理的なエネルギーが加わることにより、複数のデンプン分子の糖鎖同士の絡み合いが適度に解消されて、微分散化が促進すると考えられている。
【0023】
デンプンは超音波照射により適度に微分散化されることにより、当初の糖鎖の鎖長が短くなる他、デンプン結晶中の糖鎖同士の塊が小さくなることが予想される。超音波照射に伴う物理的なエネルギーが加わることによって、加工前のデンプンと比較して低分子量化が進む。デンプンの物理加工方法としては、超音波照射の他にもボールミル等を用いた磨砕、電子線、エックス線等の放射線、紫外線、赤外線、高周波、磁力線等の照射、凍結や高圧処理といった方法が知られている。
【0024】
超音波照射は物理的な衝撃をデンプンの糖鎖に加えるのみである。つまり、照射の開始と停止の切り替えは機器の通電操作により行われるため、低分子量化の処理の継続、打ち切りは一般に用いられる酵素分解よりも簡単である。そのため、適時試料を採取しながら所望の時点で処理を止めることができる。デンプン糊化液の粘度は、デンプンの種類、設備面等により好適に勘案される。たいてい、デンプンは0.2〜40Pa・sの粘度範囲内に調製される。
【0025】
工程間の流動性等が考慮されるため、デンプンは前記の粘度範囲内に調製されることが好ましい。照射する超音波は、20kHz〜1MHzの一般的な周波数であり、超音波発振器の出力も100〜2000Wの適宜である。周波数や出力は照射対象となるデンプンの種類、濃度、糊化の性状、並びに所望する最終的な粘度等により総合的に規定される。超音波の照射方法は適宜であり、例えば、公知の超音波振動子、超音波発振器等が用いられる。超音波照射に用いる処理槽、超音波振動子、超音波発振器等は、生産規模や処理能力等を勘案して適切に選択される。デンプン糊化物に対する超音波照射は、逐次回分式あるいは連続式のいずれであってもよい。
【0026】
超音波照射を通じて得た物理加工デンプン(微分散デンプンまたは低分子量デンプンとも称される。)は、水と混合された状態である。そこで、乾燥されて乾燥粉末とされる。乾燥に際しては、凍結乾燥、真空ドラムドライヤによる乾燥、噴霧乾燥(スプレードライ)等が用いられる。乾燥することにより、防腐や保存、取り扱いやすさ等の利便性が向上する。
【0027】
ベース部材30上に塗工するデンプン塗剤の調製に際し、デンプンを水溶液とするため水と混合の後加熱される。加熱は、デンプンを一様に糊化させるため、温度と攪拌に留意して行われる。可塑剤はデンプン塗剤に添加されることにより水への分散性を良好にして、デンプン同士の結着性が高められていると考えられる。結着性の向上によりフィルム自体の強度も高まる。
【0028】
従って、デンプン塗剤に占めるデンプンの配合割合、すなわちデンプンの濃度は水への分散性等を考慮して5ないし20重量%の範囲が好ましい。デンプン塗剤に占めるデンプンの配合割合が5重量%を下回る場合、デンプン塗剤に占めるデンプン量自体が希薄となり膜形成に支障が生じる。また、20重量%を上回る場合、デンプン量が過剰であり、塗剤中へのデンプンの分散が悪くなる。
【0029】
前述の物理加工デンプンの場合、既に糊化(アルファ化)を経ているため、水への溶解性は向上する。そのため、デンプン塗剤に占める配合割合は通常の未処理のデンプンと比較して高くなる。従って、デンプン塗剤に占めるデンプンの配合割合は20ないし40重量%まで高められる。これに対して通常のデンプンの場合は5ないし20重量%の範囲である。通常のデンプンの場合、デンプンが過剰となるとデンプン塗膜10が白化するおそれもある。そのため、配合量は物理加工デンプンよりも少なくなる。
【0030】
デンプン塗剤に配合される可塑剤は、可食性であることが必須であることから糖類または糖アルコールの中から選択される。具体的には、グルコース、マンノース、ガラクトース等の単糖、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の二糖、さらにはデキストリンから選択される。加えて、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、さらには、グリセリン等の糖アルコールから選択される。列記の糖類、糖アルコールは、ヒトが常用し通常の食品に添加される。そのため、食品を対象とする上で極めて安全性が高い。可塑剤の配合割合は、その糖類または糖アルコールの種類により大きく異なる。概ね配合するデンプンの10分の1ないし3分の2重量が適切な範囲と勘案される。
【0031】
デンプン塗剤に配合される塩化カルシウムは、次述のアルギン酸ナトリウムと反応するカルシウムイオンの供給源である。塩化カルシウムに限らずカルシウム塩の形態であれば、ほぼいずれも使用可能である。この塩化カルシウムは「にがり」等の食品添加物として認可されており安全性は確保されている。このことから、安価であることも踏まえて塩化カルシウムが好ましい。塩化カルシウムは無水物に加え、二水和物等の各種の水和物も含まれる。
【0032】
デンプン塗剤における塩化カルシウムの配合量はアルギン酸ナトリウムの量と関連する。ただし、塩化カルシウムは苦味を呈する。水不溶性アルギン酸塩フィルムは可食性用途のため配合を多くすることはできない。そこで、塩化カルシウムの配合量はデンプン重量の20分の1ないし4分の1重量が適切な範囲と勘案される。
【0033】
前述のデンプン(物理加工デンプンを含む)、可塑剤、及び塩化カルシウムは、計量されて所定量の水に投入後加熱され、十分に攪拌される。こうして水溶液状のデンプン塗剤は調製される。なお、可塑剤の糖類または糖アルコールは甘味を呈する種類が多いことから、塩化カルシウムの苦味を被覆(マスキング)する効果もある。
【0034】
ベース部材30上にデンプン塗剤を塗工する方法は特段限定されず公知の各種方法が採用される。バーコーター、ドクターナイフ、へら、刷毛、ローラ等の適宜の装置や器具が使用される。ベース部材30上では均一な厚さに塗工されることが望ましい。図1(a)のとおり、当該塗工によりデンプン塗膜10がベース部材30上に形成される。この処理は「デンプン塗膜塗工工程」である。
【0035】
ベース部材30上のデンプン塗膜10の塗工量は適宜である。そこで、塗工量が少なければ、室温下で静置して自然乾燥とすることができる。また、時間短縮による生産性向上を念頭に置くと、デンプン塗膜塗工工程の後、温風の吹き付けや乾燥機内への搬入等により乾燥される。この処理は「乾燥工程」である。乾燥は選択的ではあるものの、次述の増粘塗剤の正確な塗工の便宜から加えることが望ましい。特に、表面を平坦にすることができる。
【0036】
デンプン塗膜塗工工程、乾燥工程に続き、デンプン塗膜10上に増粘塗剤が塗工される。増粘塗剤はアルギン酸ナトリウムを含有する水溶液である。アルギン酸ナトリウムは、コンブ(昆布)等の海藻(褐藻類)から抽出されたアルギン酸にナトリウムが結合した多糖類の一種である。アルギン酸にナトリウムは粉末状で販売されそのまま水に溶解される。これは良好な水溶性を示し、含水により粘性を帯びる。
【0037】
増粘塗剤に占めるアルギン酸ナトリウムの配合割合、すなわちアルギン酸ナトリウムの濃度は、最終的に出来上がる水不溶性アルギン酸塩フィルム1Aの硬さ(粘弾性)、フィルム自体の厚さ、用途、大きさ等により加減される。また、前記のデンプン塗膜中に含有されている塩化カルシウム量の影響も受ける。これらを考慮して食品として適切な範囲を規定すると、3ないし12重量%と想定される。
【0038】
デンプン塗膜上に増粘塗剤を塗工する方法も特段限定されず公知の各種方法が採用される。バーコーター、ドクターナイフ、へら、刷毛、ローラ等の適宜の装置や器具が使用される。増粘塗剤もデンプン塗膜上に均一な厚さに塗工されることが望ましい。図1(b)のとおり、当該塗工により増粘塗膜20がデンプン塗膜10上に形成される。この処理は「増粘塗膜塗工工程」である。
【0039】
これまでの説明のとおり、デンプン塗膜10に増粘塗膜20が重ねられる。そこで、増粘塗膜20の水分により双方の膜中の成分は相互に混合し合う。この混合により、増粘塗膜20中のアルギン酸ナトリウムのナトリウムイオンがデンプン塗膜10中のカルシウムイオンにより置換される。アルギン酸カルシウムの状態では、架橋によりゲル化が進む。つまり、塗剤段階の流動性は喪失し粘弾性を有する膜状物に変化する。同時に、水に不溶化する。図1(c)のとおり、この膜状物が水不溶化膜部40である。
【0040】
水不溶化膜部40の形成後、塗工量が少なければ、室温下で静置して自然乾燥される。また、時間短縮による生産性向上から、増粘塗膜塗工工程の後、前述と同様に温風の吹き付けや乾燥機内への搬入等により乾燥される。この時点の処理も「乾燥工程」である。
【0041】
前述のデンプン塗剤(デンプン塗膜)または増粘塗剤(増粘塗膜)のいずれかもしくは両方に、アスコルビン酸(ビタミンC)等の酸化防止剤、その他の調味料、香料等の食品添加物を必要により配合してもよい。また、香辛料、香草や薬草等を配合してもよい。さらには、目的に応じて、各種医薬品、化粧料等の配合も可能である。
【0042】
こうして、水不溶化膜部40がベース部材30上に形成され、本発明の目的とする水不溶性アルギン酸塩フィルム1Aが得られる。図1(c)から自明なように、水不溶性アルギン酸塩フィルム1Aはベース部材30と一体となっている。使用時または喫食時において、図1(d)のとおり、水不溶性アルギン酸塩フィルム1Aはベース部材30から剥がされる。提供に際し、いずれの形態(ベース部材の有無)も採用され、目的等に応じて使い分けられる。
【0043】
水分の蒸発後(乾燥後)の水不溶化膜部40の膜厚は、概ね10ないし250μmの範囲である。膜厚は両塗剤の塗工量により加減される。フィルム状に加工できることと、容易に乾燥されることを満たす限り膜厚は適宜である。10μm未満では極端に薄く、強度低下から取り扱いに支障を来たすおそれがある。250μmよりも厚くすることは可能であるものの、前述のアルギン酸カルシウム形成のため金属イオンの移動と膜内の均質化、さらには乾燥に困難が伴う。従って、塗工のみ用いる本発明の製造方法を勘案すると250μmが上限と考えられる。
【0044】
第2実施形態に係る水不溶性アルギン酸塩フィルムについて、図2の概略工程図とともに説明する。第2実施形態の水不溶性アルギン酸塩フィルム1Bは、第1実施形態のフィルム1Aと異なり塗剤を塗工する順番を逆にして形成したことである。使用する部材、材料は第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略し、同一箇所に同一符号を用いて説明する。
【0045】
図2(a)のとおり、はじめにベース部材30上に増粘塗剤が塗工されて増粘塗膜20が形成される(「増粘塗膜塗工工程」)。このとき、必要により塗膜に対して乾燥も行われる(「乾燥工程」)。次に図2(b)より、増粘塗膜20上にデンプン塗剤が塗工されデンプン塗膜10が形成される(「デンプン塗膜塗工工程」)。この時点において、図2(c)に示すように、デンプン塗膜10の水分により双方の膜中の成分は相互に混合し合う。結果、アルギン酸カルシウムが形成されて架橋によりゲル化が進む。そして、粘弾性を有する水不溶化膜部40が形成される。その後も必要により塗膜に対して乾燥も行われる(「乾燥工程」)。第2実施形態の水不溶性アルギン酸塩フィルム1Bも図2(c)の段階で完成である。そして図2(d)のように水不溶性アルギン酸塩フィルム1B(水不溶化膜部40)はベース部材30から剥がされて使用される。
【0046】
第2実施形態の水不溶性アルギン酸塩フィルム1Bも前記の第1実施形態のフィルム1Aとほぼ同様に形成される。第1及び第2実施形態の水不溶性アルギン酸塩フィルム1A及び1Bの性質は同様である。そこで、前述のとおり、印刷等の加工も可能である。
【0047】
図1及び2に開示の両実施形態の工程に基づく製造方法は量産性に優れている。工程から自明であるように、塩化カルシウム溶液等を満たした槽への浸漬を省略して塗工のみで済む。浸漬を行った場合、成形した水不溶化膜部は過剰に水を含んでゲル状になる。このようなゲル状物の乾燥に多くの熱量が必要とされる。これに対し、連続的に塗工しながら乾燥することにより、水不溶化膜部の含水量は制限される。従って、目的の水不溶性アルギン酸塩フィルムの乾燥に必要な熱量は抑制される。結果的に、設備負担等は大きく軽減され、安価での提供が可能となる。
【0048】
また、両実施形態の工程に基づく製造方法により製造された水不溶性アルギン酸塩フィルム1A及び1Bは、可食性であるため主に食品用途として想定される。具体的には対象食品上に貼付したり、対象食品を被覆したりする用途も好適である。また、アルギン酸カルシウムの含水、膨潤を利用した化粧品の担体、パック用のシート等も想定される。あるいは、皮膚の保護(創傷被覆)シート等としての活用も期待される。さらには、切り分けた肉から漏出する血液や組織液等のドリップを吸収するシートとしても考えられる。
【0049】
加えて、ベース部材の樹脂フィルム部材を採用した場合、曲げ加工が容易であり、水不溶性アルギン酸塩フィルムを貼り付けたまま裁断して所望の大きさや形状に加工することもできる。従って、取り扱いの利便性も増す。また、裁断前または裁断後に当該水不溶性アルギン酸塩フィルムの表面に、食品添加物として認可されている天然系または合成系の色素を用いた印刷が施されることによって、フィルム自体の装飾性が増す。印刷に際し、スタンプ押し、スクリーン印刷、凸版印刷、インクジェットプリンタ等の公知の手法が用いられる。インクジェットプリンタによる印刷の利点としては、小規模事業者等による多品種少量生産に柔軟に対応可能である。これに対して、スクリーン印刷等では、量産化に適する。
【実施例】
【0050】
[使用原料]
〔デンプン塗剤の配合種〕
デンプンには、ワキシーコーンスターチ(日本食品化工株式会社製)、バレイショデンプン(株式会社扇カネ安食品本舗製)、タピオカデンプン(株式会社ギャバン製)を使用した。
【0051】
実施例及び比較例にて使用した物理加工デンプンの作成に際し、前記のワキシーコーンスターチ(日本食品化工株式会社製)に適量の水を加え、ミニクッカー(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)により10%濃度の糊化液とした。次に、超音波分散機GSD1200CVP(株式会社ギンセン製)を用い、周波数20kHz、出力1200Wの条件の下、約50℃の液温を維持しながらデンプン糊化液に超音波照射し、粘度が約0.3Pa・sになるまで微分散化した。得られた液状物を乾燥機内に入れて100℃の熱風に晒して乾燥し物理加工デンプンの粉末状物を得た。以降、超音波照射を経由して調製した加工デンプンについては、酵素処理等の加工デンプンとは異なるため、「物理加工デンプン」として表等に表記する。
【0052】
粘度の測定は、日本薬局方の一般試験法における粘度測定法に準拠し、粘度分析装置(東機産業株式会社製:TVB−10M)を用い、50℃における粘度(Pa・s)として測定した。なお、上記の粘度の選択に際し、出願人が以前に出願した超音波照射により微分散化したデンプンの乳化安定剤(特許第5033553号)等の知見を参考とした。
【0053】
〔その他の原料〕
可塑剤として以下の3種を使用した。
グリセリン(健栄製薬株式会社製,品名「グリセリンPケンエー」)
グルコース(キシダ化学株式会社製,特級グルコース)
スクロース(キシダ化学株式会社製,特級スクロース)
塩化カルシウムは、キシダ化学株式会社製,特級塩化カルシウム二水和物を使用した。
アルギン酸ナトリウムは、和光純薬工業株式会社製,アルギン酸ナトリウム80−120mPa・Sを使用した。
ベース部材は、ポリエチレンテレフタレートのフィルム(PETフィルム)(フタムラ化学株式会社製,品名「FE2001」,膜厚25μm)を使用した。なお、各塗剤の塗工に際し、フィルム表面にはコロナ処理を施した。
【0054】
[水不溶性アルギン酸塩フィルムの作製]
発明者らは、後出の表1ないし表5の配合割合(重量%(wt%))に従い、条件を変えながら試作例1ないし27のフィルムを作製した。各成分の配合量は水を含む塗剤全体に占める濃度として表した。併せて、水不溶化評価の良否も検証した。
【0055】
〔試作例1〕
デンプン塗剤の調製に際し、デンプンとしてワキシーコーンスターチ8重量%、可塑剤としてグリセリン5重量%、及び塩化カルシウム二水和物2重量%(合計15重量%)とするように蒸留水中に溶解し試作例1のデンプン塗剤とした。ベース部材(PETフィルム)上にバーコーターを用いてデンプン塗剤を塗工し塗剤を乾燥してデンプン塗膜を形成した(第1層目)。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚は20μmであった。
【0056】
増粘塗剤の調製に際し、蒸留水にアルギン酸ナトリウムを溶解し8重量%の溶液(増粘塗剤)を得た。前出のデンプン塗膜上にバーコーターを用いて増粘塗剤を塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した(第2層目)。増粘塗剤は塗工段階で20μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例1の水不溶性フィルムとした。
【0057】
〔試作例2,3,4,5〕
試作例2及び3は、デンプン塗剤中のデンプンの種類のみを試作例1から変更した。その他の配合量は同量とし、同様の方法により水不溶性フィルムを作製した。試作例4ではデンプン塗剤の調製に際し、物理加工デンプン35重量%、グリセリン5重量%、及び塩化カルシウム二水和物2重量%(合計42重量%)となるように蒸留水中に溶解し試作例4のデンプン塗剤とした。試作例4も試作例1と同様に塗工して水不溶性フィルムを作製した。
【0058】
試作例5はデンプン塗剤中のデンプンを無配合(0重量%)とし、グリセリン5重量%、塩化カルシウム二水和物2重量%(合計7重量%)となるように蒸留水に溶解した。この塗剤をベース部材上にバーコーターを用いて塗工し乾燥した。しかし、乾燥は進まず膜状にならなかったため、以降の作製を取り止めた。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例2ないし4の水不溶性フィルムとした。試作例1ないし5の組成及び結果は表1に表記した。
【0059】
〔試作例6,7,8,9,10〕
試作例6,7,8,9及び10は、塗剤の塗工の順番を前記の試作例1等と逆にした。これらは第2実施形態に対応する。試作例6では、蒸留水にアルギン酸ナトリウムを溶解し8重量%の溶液(増粘塗剤)を得た。ベース部材上にバーコーターを用いて増粘塗剤を塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した(第1層目)。乾燥後の増粘塗膜の膜厚は20μmであった。次に、物理加工デンプン35重量%、グリセリン5重量%、及び塩化カルシウム二水和物2重量%(合計42重量%)となるように蒸留水中に溶解してデンプン塗剤を調製した。増粘塗膜上にバーコーターを用いてデンプン塗剤を塗工し塗剤を乾燥してデンプン塗膜を形成した(第2層目)。デンプン塗剤は塗工段階で20μmの膜厚に調整した。
【0060】
試作例7,8,9では、デンプン塗剤の組成成分と配合割合のみを試作例6から変更して塗工条件は同様に作製した。試作例10は、試作例6と同様に増粘塗膜を形成した。乾燥後の増粘塗膜上に試作例5にて調製の塗剤を塗工した。試作例7ないし10においても膜厚は試作例6と同様とした。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例6ないし10の水不溶性フィルムとした。試作例6ないし10の組成及び結果は表2に表記した。
【0061】
〔試作例11,12,13〕
試作例11,12,13は、試作例4と同等の層構成としつつ、第1層目のデンプン塗膜の乾燥後の膜厚を変化させた。試作例4と同組成のデンプン塗剤をベース部材上に塗工する際のバーコーターの設定のみを変更し、同様の方法で塗工した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚は順に、7,40,88μmであった。デンプン塗膜上にバーコーターを用いて試作例4と同組成の増粘塗剤を塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した(第2層目)。増粘塗剤は塗工段階でいずれも20μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例11,12,13の水不溶性フィルムとした。
【0062】
〔試作例14,15,16〕
試作例14,15,16は、試作例4と同等の層構成としつつ、第2層目の増粘塗膜の膜厚を変化させた。試作例4と同組成のデンプン塗剤を同様のバーコーターを使用してベース部材上に塗工し乾燥してデンプン塗膜を形成した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚は20μmであった。デンプン塗膜上に試作例4と同組成の増粘塗剤をベース部材上に塗工する際のバーコーターの設定のみを変更し、同様の方法で塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した(第2層目)。増粘塗剤は塗工段階で順に5,50,100μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例14,15,16の水不溶性フィルムとした。試作例11ないし16の組成及び結果は表3に表記した。
【0063】
〔試作例17,18,19〕
試作例17,18,19は、配合する塩化カルシウム濃度を変化した例である。各試作例のデンプン塗剤は、塩化カルシウム二水和物の配合を0.5,10,32重量%と増加して調製した。試作例17及び18はデンプン塗剤を試作例4と同様のバーコーターを使用してベース部材上に塗工し乾燥してデンプン塗膜を形成した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚はいずれも20μmであった。続いて、デンプン塗膜上にバーコーターを用いて増粘塗剤を塗工して塗剤を乾燥し増粘塗膜を形成した。増粘塗膜は塗工段階においていずれも20μmの膜厚に調整した。試作例19は塩化カルシウムを高濃度で添加した場合の例である。高濃度の塩化カルシウムにより粘度上昇が生じるため、物理加工デンプンの濃度を下げた。そこで、物理加工デンプン18重量%、グリセリン5重量%、及び塩化カルシウム二水和物32重量%(合計55重量%)とするように蒸留水中に溶解しデンプン塗剤とした。当該デンプン塗剤をベース部材上に塗工する際のバーコーターの設定を変更し、試作例4と同様の方法で塗工した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚は20μmであった。続いて、デンプン塗膜上にバーコーターを用いて増粘塗剤を塗工して塗剤を乾燥し増粘塗膜を形成した。増粘塗膜は塗工段階において20μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例17,18,19の水不溶性フィルムとした。
【0064】
〔試作例20,21,22,23〕
試作例20,21,22,23は、配合するアルギン酸ナトリウム濃度を変化した例である。試作例4にて調製したデンプン塗剤を試作例4と同様のバーコーターを使用してベース部材上に塗工し乾燥してデンプン塗膜を形成した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚はいずれも20μmであった。各試作例の増粘塗剤は、アルギン酸ナトリウムの配合を1,5,12,15重量%と増加して調製した。デンプン塗膜上にバーコーターを用いて各試作例の増粘塗剤を塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した。増粘塗剤は塗工段階でいずれも20μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例20,21,22,23の水不溶性フィルムとした。試作例17ないし23の組成及び結果は表4に表記した。
【0065】
〔試作例24,25,26,27〕
試作例24,25,26は、可塑剤の種類を変更して作製した例である。物理加工デンプン35重量%、可塑剤(順にグルコース、スクロース、グリセリン)10重量%、塩化カルシウム二水和物2重量%(合計47重量%)となるように蒸留水中に溶解して各試作例のデンプン塗剤を調製した。各試作例のデンプン塗剤を試作例4と同様のバーコーターを使用してベース部材上に塗工し乾燥してデンプン塗膜を形成した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚はいずれも20μmであった。デンプン塗膜上にバーコーターを用いて試作例4と同組成の増粘塗剤を塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した。増粘塗剤は塗工段階でいずれも20μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例24ないし26の水不溶性フィルムとした。
【0066】
試作例27はデンプン塗剤において可塑剤のみを排除した組成である。物理加工デンプン35重量%、塩化カルシウム二水和物2重量%(合計37重量%)となるように蒸留水中に溶解してデンプン塗剤を調製した。乾燥後のデンプン塗膜の膜厚は20μmであった。デンプン塗膜上にバーコーターを用いて試作例4と同組成の増粘塗剤を塗工し塗剤を乾燥して増粘塗膜を形成した。増粘塗剤は塗工段階で20μmの膜厚に調整した。一連の塗工を経た後、ベース部材から剥がして試作例27の水不溶性フィルムとした。試作例24ないし27の組成及び結果は表5に表記した。
【0067】
[評価内容]
〔水不溶化評価〕
100mLのビーカーに20℃の蒸留水80mLを入れてスターラーにより200rpmで攪拌した。各試作例の水不溶性フィルムを一辺2cmの正方形状に裁断し、攪拌中のビーカー内に投入した。投入から1分後に取り出して性状を目視により確認した。
【0068】
乾燥時と比較して水への浸漬によっても形状変化が生じなかったフィルムを「A」の評価とした。
乾燥時と比較して水への浸漬によってやや形状に変化が生じたフィルムを「B」の評価とした。
水への浸漬によって形状が維持できなくなった。またはフィルムの成形が困難であったフィルムを「C」の評価とした。
「A」と「B」の評価のフィルムが実需要に対応でき、「C」は不可である。
【0069】
〔フィルム性状〕
試作例24ないし27について、乾燥後のフィルムの外観を目視により観察した。
フィルム表面上に生じた「ひび」や「しわ」のある部分の面積が表面全体のおよそ1/5未満に留まったフィルムを「A」の評価とした。
フィルム表面上に生じた「ひび」や「しわ」のある部分の面積が表面全体のおよそ1/5ないし4/5に留まったフィルムを「B」の評価とした。
フィルム表面上に生じた「ひび」や「しわ」のある部分の面積が表面全体のおよそ4/5を超えたフィルムを「C」の評価とした。
「A」の評価のフィルムが実需要に対応でき、「B」と「C」は不可である。
【0070】
〔官能評価〕
試作例24ないし27について、一辺2cmの正方形状に裁断しそれぞれを被験者により口に含んでもらった。そこで、苦味、塩味の味覚上の違和感を評価した。
フィルムから苦味、塩味をほとんど感じなかったフィルムを「A」の評価とした。
フィルムから苦味、塩味を多少感じたに留まったフィルムを「B」の評価とした。
フィルムから苦味、塩味を強く感じ、口に含むことを躊躇したフィルムを「C」の評価とした。
「A」の評価のフィルムは食品用途をはじめとする各種用途に対応できる。「B」の評価のフィルムは食品以外の用途に対応できる。「C」の評価のフィルムについては使用不可である。
次に、表1ないし5として、試作例1ないし27の組成、配合、評価の結果を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
[結果・考察(性能)]
〔表1について〕
試作例1ないし4は図1に開示の第1実施形態に相当する層構造である。表1からは使用するデンプンの種類を変更しても十分な水不溶性フィルムに形成することが確認できた。また、デンプンについては糯種と粳種の区別なく使用することもできた。また、試作例4の物理加工デンプンは事前のアルファ化のため、デンプン塗剤調製時の水溶性は良好であった。このため、より多くの配合が可能となった。しかしながら、試作例5のように、デンプン自体を含まない場合、塗膜自体の形成不良となった。このことから、第1層目の塗膜形成のためには、賦形剤となるデンプンが必須である。
【0077】
試作例1ないし4のフィルム化可能な例を勘案すると、適切なデンプン配合量は5ないし40重量%である。5重量%を下回る場合、賦形剤としての効果は発揮されにくい。そのことから概ね5重量%を下限とした。物理加工デンプンについては配合量をより高めることができる。そこで、40重量%を上限とした。
【0078】
〔表2について〕
試作例6ないし9は図2に開示の第2実施形態に相当する層構造である。表2からも使用するデンプンの種類を変更しても十分な水不溶性フィルムに形成することが確認できた。従って、塗剤を塗工する際の順序の入れ替えは可能である。ただし、乾燥に時間を要した。なお、試作例7ないし10については、膜厚を得ることはできたもののやや脆弱に仕上がった。試作例10は第2層目にデンプンを含まない塗剤組成であることからさらに脆弱となった。それゆえ、第2実施形態の場合であってもデンプンは必須である。
【0079】
〔表3について〕
試作例11,12,13の水不溶性フィルムの結果から、第1層目の乾燥後のデンプン塗膜の膜厚は増減可能である。試作例11については、膜厚が薄いため相対的に塩化カルシウム量は少なくなる。そのため、アルギン酸カルシウムの生成が減少したと考えられる。
【0080】
試作例14,15,16の水不溶性フィルムの結果から、第2層目の増粘塗膜の膜厚は増減可能である。試作例の増粘塗膜の膜厚であっても塩化カルシウムの浸透を確認することができた。ただし、増粘塗膜の膜厚が厚くなりすぎると、水不溶性部分が増大するため、消化には不向きと考える。そこで、用途に応じて選択する必要がある。
【0081】
〔表4について〕
試作例17,18,19の水不溶性フィルムの結果は、デンプン塗剤中の塩化カルシウム量の増減である。試作例17の塩化カルシウム量ではアルギン酸ナトリウムとの反応にやや足りない。しかし、試作例19まで塩化カルシウム量を増やしてしまうとアルギン酸ナトリウムとの反応に過剰である。水不溶性フィルムを喫食用途とする場合には苦味が強く不向きとなった。
【0082】
試作例20ないし23の水不溶性フィルムの結果は、増粘塗剤中のアルギン酸ナトリウム量の増減である。試作例20では根本的にアルギン酸ナトリウム量が少なすぎであり、フィルム化には向かない。また、試作例23ではアルギン酸ナトリウム量が多く粘度が非常に高くなった。それゆえ、塗膜の成形ができず評価に至らなかった。この結果から、アルギン酸ナトリウム量の適切な範囲を3ないし12重量%として規定した。
【0083】
〔表5について〕
試作例24,25,26の水不溶性フィルムの結果からは、フィルム形成の観点からは可塑剤の種類による相違はほとんど生じなかった。従って、多くの種類の糖類または糖アルコールを可塑剤として使用することができる。グルコースやスクロースの甘味はグリセリンよりも強い。そのため、カルシウムイオンに由来する苦味を上手くマスキングすることができた。おそらく、この差が試作例26の結果となった。試作例27では可塑剤無配合であるため、苦味のマスキングが無く不味さが際立った。加えて、可塑剤による延展性も伴わないため、フィルム性状も好ましくなくなった。それゆえ、フィルムの品質、味覚面から可塑剤の配合は必須である。
【0084】
[人工胃液による溶解]
人工胃液の調製は日本薬局方溶出試験第一液に準拠した。液調製には、特級塩化ナトリウム(キシダ化学株式会社製)、特級塩酸(同社製)を使用した。300mLのビーカーに人工胃液を注ぎ、液温を約37℃に保ちスターラーにより200rpmで攪拌した。この中に試作例25の水不溶性フィルムを一辺2cmの正方形状に裁断して浸漬した。
【0085】
所定時間経過ごとに水不溶性フィルムを人工胃液中から引き上げて、フィルムの性状を目視により観察した。
浸漬直後はフィルムに形状変化は無かった。
6時間の浸漬経過後でも、フィルムに形状変化は無かった。
21時間の浸漬経過後、フィルムに溶解が生じた。
この結果から、水不溶性フィルムは安易には水に溶けない。しかし、消化器官内での溶解は可能である。従って、喫食時には形状を維持しつつも消化可能なフィルムに仕上げることができた。
【0086】
[食品への応用]
試作例25の水不溶性フィルムを1.5cm×1.5cmの大きさに裁断し、当該フィルム片表面に食用インク(食紅)を用いて描画した。描画後のフィルム片を市販のカスタードプリン表面に貼着し、様子を観察した。描画後のフィルム片はカスタードプリンの水分によっては溶解せず、当初の描画も維持されたままであった。よって、食品への印刷、装飾においての有効性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の水不溶性アルギン酸塩フィルムの製造方法は、可食性と水への水不溶性を併せ持つフィルムを塗工の簡便な工程を通じて効率良く製造することができる。従って、水不溶性の性質を生かして水分の多い食品への装飾に用いるフィルムの安価な製造が可能となることが期待される。特に、フィルム状であることから、印刷、裁断等の加工の利便性も高く、量産規模の展開も考えられる。また、本発明の製造方法により製造した水不溶性アルギン酸塩フィルムは、水不溶性を生かした食品、化粧品、医薬品分野の材料として有望である。
【符号の説明】
【0088】
1A,1B 水不溶性アルギン酸塩フィルム
10 デンプン塗膜
20 増粘塗膜
30 ベース部材
40 水不溶化膜部
図1
図2