(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、省資源あるいは環境問題といった観点から古紙の利用が拡大している。一方で印刷物の高品質化、多様化が進み、古紙として回収される印刷物の中に、再生し難い印刷古紙、例えば、UV印刷された印刷物や樹脂フィルムで被覆された印刷物などの混入が頻発するようになっている。
【0003】
これらの印刷物を原料として脱墨パルプ(DIP)を製造する場合、製造工程の操業性が悪化したり、得られた再生紙の品質が低下するなどの問題が生じることがある(非特許文献1)。このような再生し難い印刷物を含む古紙原料からパルプを製造する場合、古紙原料に対して強い機械的負荷を付加したり、多くの薬品を使用して対応することもあるが、繊維の劣化やコストの増加など新たな問題を生じてしまう。
【0004】
このような再生し難い印刷物について、これらを選別し、再生し難い印刷物を禁忌品として古紙原料から除去することが検討されてきた。しかし、例えば、UVクリアコートされた印刷物は、既存の水性クリアコートされた印刷物と見た目の違和感が生じないように作られているため、UVクリアコートされた印刷物を目視で判別することは困難である。そのため、印刷物を識別する技術として、特開平10−149473号公報(特許文献1)には、フーリエ変換近赤外線分析装置(FT−NIR)を用いた紙幣等の識別方法が提案されている。また、特開2005−345208号公報(特許文献2)には、溶媒に対する印刷物の印刷面の溶解性から、古紙として再生し難い印刷物を選別する方法が提案されている。
【0005】
また、脱墨剤の用い方を工夫して、古紙原料からの脱墨を効率的に行うことも検討されている。例えば、特開2007−119955号公報(特許文献3)には、曇点が0〜25℃のポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤をパルパーに添加することによって、効率的に脱墨することが記載されている。また、特表2005−520057号公報(特許文献4)には、曇点の異なる複数の脱墨剤を用いることによってパルプ繊維から効果的にインキを除去することが提案されている。
【0006】
さらに、アニオン性の界面活性剤を脱墨剤として用いることも提案されている。例えば、特開2007−314894号公報(特許文献5)や特開2009−221636号公報(特許文献6)には、非イオン界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用して脱墨することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような状況に鑑み、本発明は、UV印刷物などの脱墨し難い古紙原料から脱墨パルプを製造する技術を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題について鋭意検討したところ、本発明者らは、アニオン性界面活性剤を含む薬品を、アニオン性界面活性剤の溶解温度よりも高い温度において、エマルジョン状態で使用することによって、古紙原料を効率的に脱墨できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
(1) UV印刷物を含む印刷古紙を水性溶媒に離解してパルプスラリーを得る工程、アニオン性界面活性剤を含む脱墨剤を、アニオン性界面活性剤の溶解温度以下の温度において、エマルジョン状でパルプスラリーと接触させる工程、を含む、印刷古紙から脱墨パルプを製造する方法。
(2) 脱墨剤で処理されたパルプスラリーからインキを除去する工程をさらに含む、(1)に記載の方法。
(3) 前記アニオン性界面活性剤が、脂肪酸系界面活性剤である、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記アニオン性界面活性剤が、C18〜C22の脂肪酸塩を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記アニオン性界面活性剤の溶解温度が、20〜65℃である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記脱墨剤が、C18〜C22の脂肪酸塩を10〜50重量%含有する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) UV印刷物を含む印刷古紙を脱墨するための、20〜65℃の溶解温度を有するアニオン性界面活性剤を含んでなる脱墨剤。
(8) 前記アニオン性界面活性剤が、脂肪酸系界面活性剤である、(7)に記載の脱墨剤。
(9) C18〜C22の脂肪酸塩を含んでなる、(7)または(8)に記載の脱墨剤。
(10) C18〜C22の脂肪酸塩を10〜50重量%含有する、(7)〜(9)のいずれかに記載の脱墨剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、再生し難い印刷物を効率的に脱墨して脱墨パルプを製造することが可能である。本発明に係る技術は、再生し難い印刷物から高品質の脱墨パルプを製造できるため、従来は禁忌品として脱墨パルプの原料として使用できなかったような印刷古紙を資源として有効活用することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、古紙原料を脱墨して脱墨パルプ(DIP)を製造する技術に関する。また、本発明は、古紙原料を脱墨して得られる脱墨パルプを用いて再生紙を抄造する技術に関する。
【0015】
本発明においては、古紙原料として印刷物を使用する。印刷物としては、紙を含む基材に印刷が施されたものであれば特に制限なく使用でき、例えば、紙にフィルムなどを付したものに印刷を施した印刷物、塗工紙に印刷を施した印刷物、非塗工紙に印刷を施した印刷物などに、本発明を適用することができる。具体的には、例えば、新聞用紙、中質紙、上質紙、塗工紙、微塗工紙、感熱記録紙、ノーカーボン紙、色上質紙、PPC用紙(トナー印刷用紙)、紙器、シール・ラベル、帳票、段ボール、白板紙などに印刷した古紙に本発明を適用でき、光沢のある印刷物やOPニスやUVクリアコート等の表面加工処理した印刷物に本発明を適用することも可能である。
【0016】
本発明を適用する印刷物として、あらゆる印刷方式で印刷した古紙を用いることができ、本発明によれば、脱墨パルプや再生紙の製造に適した印刷物を選別することが可能になる。印刷物に施された印刷の方式としては、例えば、UVインキやハイブリッドUVインキ、高感度UVインキを用いたUV印刷、フレキソ印刷などの凸版印刷、グラビア印刷などの凹版印刷、オフセット印刷などの平版印刷、スクリーン印刷(シルク印刷)などの孔版印刷、静電気を利用した静電印刷(トナー印刷)、パソコン用プリンターなどに広く用いられるインクジェット印刷やレーザー印刷などを挙げることができる。また、印刷されたインキ(インク)についても特に制限はなく、各種印刷方式で用いられる色材が印刷された印刷物を用いることができる。例えば、UV印刷は、UV光によってインキを硬化・定着される印刷方式であるところ、UV印刷物は脱墨し難い印刷として知られており、場合によっては、禁忌品として脱墨パルプの製造工程への混入が避けられている印刷物である。このようなUV印刷物であっても、本発明によれば、脱墨パルプを製造することができる。なお、近年はUV印刷物のリサイクル性を改善させるため、および/または、UV印刷にかかるエネルギー削減のため、ハイブリッドUVインキや通常のUVインキよりもリサイクルしやすい高感度UVインキが開発され、使用されているが、このような高感度UVインキで印刷された印刷物についても、本発明によって脱墨することができる。なおここで高感度UVインキとは、いわゆる省エネUVシステム、ハイブリッドUVシステム、LED−UVシステム等の印刷方式に対応可能なUVインキのことを言う。
【0017】
本発明において脱墨パルプ(DIP)とは、印刷物から印刷インキなどを除去して再生されたパルプを意味し、一般に、印刷物を離解してスラリーとしつつ、機械的応力、脱墨剤などの薬品を用いてインキを除去することによって得られる。原料となる印刷物としては、例えば、新聞紙、チラシ、雑誌、書籍、事務用紙、封書、感熱紙、ノーカーボン紙、段ボール、白板紙、その他複写機、OA機器から生ずる印刷紙などが含まれる。粘着剤、接着剤、粘着テープ、雑誌の背糊などの粘着物、樹脂などのコーティングやラミネートを含む印刷物も本発明の印刷物として用いることができる。また、印刷物は、灰分と呼ばれる無機粒子を含有してもよい。灰分は無機粒子全般を指し、紙の製造時に内添された、もしくは、塗工された填料、顔料など紙を灰化した際に残存する物質である。例えば、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、二酸化チタン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0018】
本発明においては、印刷物を含む古紙原料を用いて脱墨パルプを製造することができる。脱墨パルプを製造するための方法は特に制限されず、一般に公知の方法を採用することができる。本発明において印刷物を脱墨する際には、公知の脱墨装置を使用することができる。脱墨工程で用いる装置の例としては、例えば、ニーダーやディスパーザー、フローテーターなどを挙げることができる。例えば、脱墨パルプを製造する一つの態様において、アルカリ性薬品や界面活性剤などを添加して古紙の離解を行う離解処理、機械的シェアとアルカリ条件下でインキをパルプから剥離するインキ剥離処理、パルプから分離されたインキを除去するフローテーション処理および/または洗浄処理、などを実施することができる。また、例えば、パルプを脱水して20〜35質量%のパルプ濃度に調整した後、アルカリ性薬品や界面活性剤などを添加してパルプからインキをさらに剥離させたり(アルカリ浸漬処理や熟成処理)、再度のフローテーション処理や洗浄処理によってパルプからインキを除去することをしてもよい。また、除塵工程(異物除去工程)を設けて異物を除去してもよい。
【0019】
本発明においては、パルプ繊維に付着しているインキを機械的なシェアを与えることにより剥離する工程のことを「脱インキ工程」といい、剥離されたインキを系外に除去する工程のことを「インキ除去工程」ということもある。
【0020】
アニオン性界面活性剤
本発明においては、アニオン性界面活性剤を含む薬品を、アニオン性界面活性剤の溶解温度(クラフト点)以下の温度にて、エマルジョン状態で使用する。溶解温度以下の温度でアニオン性界面活性剤を用いることによって、アニオン性界面活性剤をエマルジョン状態(懸濁状態)で使用し、パルプ繊維と脱墨剤を効率的に接触させ、効果的にインキを剥離させることができる。
【0021】
本発明で用いるアニオン性界面活性剤は、その溶解温度が20〜65℃の範囲であることが好ましく、30〜60℃がより好ましく、40〜55℃であってもよい。アニオン性界面活性剤の溶解温度(クラフト点)とは、界面活性剤を水に溶解したエマルジョンを冷却した際に界面活性剤が析出する温度のことであり、温度を上げていけば、クラフト点で溶解度が急上昇しミセルが形成されることになる。一般に、溶解温度より低温では、界面活性剤がミセルを形成できないので界面活性剤による洗浄効果は失われるとされるが、驚くべきことに、本発明者らは、アニオン性界面活性剤をその溶解温度以下で使用することによって、UV印刷物などから効率的に脱墨できることを見出した。
【0022】
本発明で用いるアニオン性界面活性剤は、好ましい態様において脂肪酸系のアニオン性界面活性剤であり、炭素数18〜22の長鎖脂肪酸塩を10〜50重量%含有する。一般に、アニオン性界面活性剤の疎水鎖が長いほど溶解温度が高くなる傾向があるが、溶解温度は、他の成分の組成によっても変化するとされる。
【0023】
アニオン性界面活性剤は、1つの態様において、エマルジョンの形態にしてからパルプスラリーに添加することができる。エマルジョンの調製方法は特に限定されないが、水に所望の濃度となるようにアニオン性界面活性剤を添加し、溶解温度以下の温度で十分に攪拌することにより調製することができる。本発明において、アニオン性界面活性剤を含むエマルジョンの固形分濃度は、1〜50重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。固形分濃度が1重量%以下であると、インキ剥離の促進効果が低減する傾向があり、固形分濃度が50重量%以上となると、懸濁液の流動性が悪くなり、操業しにくくなるおそれがある。
【0024】
アニオン性界面活性剤を含むエマルジョンは、調製後速やかに用いることが好ましい。調製後、長時間経過すると、インキ剥離の促進効果が低減するおそれがある。
【0025】
本発明において使用するアニオン性界面活性剤の量は、絶乾パルプ重量に対して0.1〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3.0重量%であることがより好ましい。添加量を0.1質量%以上とすることにより、古紙の離解性やインキ剥離性をより良好にすることができる。また、添加量が5重量%を超えると効果が飽和してくることもあり、5重量%以下の量において特に効率よく本発明を実施することができる。
【0026】
本発明においては、アルカリ性薬品を添加して脱インキ工程を行うことができる。中性以上のpHで脱インキ工程を行うと、古紙の離解性やインキ剥離性が向上するため好ましい。好ましい態様において、脱インキ工程におけるpHは7〜11であり、より好ましくは8〜10.5、さらに好ましくは9〜10のpHとしてもよい。pHの調整は、いつ行ってもよいが、脱インキ工程の初段階である離解処理時に実施することが最も好ましい。アルカリ薬品は、苛性ソーダ、水酸化カリウム、珪酸ソーダ、炭酸ソーダのうち少なくとも一種類以上を使用すればよい。
【0027】
離解工程
本発明においては、印刷古紙を水性溶媒に離解してパルプスラリーを得る。この離解工程においては、高濃度パルパー、低濃度パルパー、ドラムパルパーなど公知の装置を制限なく使用することができるが、高濃度パルパーを用いて離解処理を行うことが好ましい。また、離解処理時の温度に関しては、例えば、35℃以上、40℃以上、45℃以上、50℃以上の温度において離解することができる。
【0028】
インキ剥離処理
本発明において、機械的シェアによるインキ剥離処理を行う場合、ニーダーやディスパーザー、リファイナーなどの公知の装置を制限なく使用することができる。
【0029】
本発明において、離解工程、および、インキ剥離処理を終えた後は、所望に応じて脱墨剤、漂白剤、キレート剤、凝集剤などのフローテーション助剤などを加えてフローテーション処理や洗浄処理などのインキ除去工程を行なうことができる。また、その後、除塵工程(異物除去工程)を行なってもよい。これらのときには繊維や異物に高剪断力がかからないため、pHは弱アルカリ性から中性のままでもよいし、アルカリ性にしてもかまわない。ただし、望ましくは弱アルカリ性から中性のままで処理を行った方が、パルプ繊維がアルカリ性条件下にある時間が短くなるので、CODの低減効果は高くなる。除塵工程(異物除去工程)は離解処理の後及び/またはインキ剥離処理の後で行ってもよい。
【0030】
さらに、このようにして得られた脱墨パルプは、その後、必要に応じて、ECF漂白などの漂白を行なってもよい。本発明の方法により製造された脱墨パルプを用いて紙を製造数ことができる。本発明により製造された脱墨パルプを含む紙は、紙面上のダート(黒点、チリ等)が少なく、優れた品質を有する。本発明の脱墨パルプの製造方法においては、必要以上に機械的な力をかけずに済むため、パルプ繊維の膨潤や損傷が抑制され、繊維の濾水性や強度が低下することがないため、嵩、不透明度、剛度が良好で、かつ印刷適性に優れた紙を得ることができる。
【0031】
また本発明においては、上記したようにして得られた脱墨パルプを用いて紙を製造することができる。抄紙方法は特に制限されず一般に公知の方法を採用することができる。本発明によれば、脱墨し難い印刷物の混入が少ない古紙原料を用いることができるため、優れた脱墨パルプを効率的に製造することが可能になり、ひいては、優れた再生紙を効率的に製造することが可能になる。なお、本発明の抄紙方法においては、本発明によって得られた脱墨パルプのみによって抄紙しなければならないわけでなく、本発明によって得られた脱墨パルプを任意の比率で原料パルプとして用いて紙を製造すればよい。
【0032】
本発明に係る脱墨パルプの他には、例えば、針葉樹または広葉樹クラフトパルプ(NKPまたはLKP)、針葉樹または広葉樹を用いた機械パルプ、例えば、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等、段ボールを離解した古紙パルプ、塗工紙や塗工原紙、その他の紙を含む損紙を離解してなるコートブローク、及び、これらのパルプの2種以上の混合物を併用して抄紙してもよい。
【0033】
また本発明においては、パルプから抄紙する際に、薬品や填料を添加してもよい。添加する薬品としては、ロジンエマルションや中性ロジン、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン/アクリル共重合体などのサイズ剤、カチオン性や両イオン性、アニオン性のポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアクリル酸を含む樹脂、グアーガムなどの乾燥紙力増強剤、カチオン性や両イオン性、アニオン性の変性澱粉、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、カルボキシメチルセルロースなどの湿潤紙力増強剤、濾水性向上剤、着色剤、染料、蛍光染料、凝結剤、嵩高剤、歩留剤などが挙げられる。また、填料としては、一般に無機填料及び有機填料と呼ばれる粒子であれば良く、特に限定はない。具体的には、無機填料として、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、合成炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー(カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン)、タルク、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合体、シリカ/二酸化チタン複合体)、白土、ベントナイト、珪藻土、硫酸カルシウム、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料および再生する過程でシリカや炭酸カルシウムと複合体を形成した無機填料などが上げられる。炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、炭酸カルシウムおよび/または軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用しても良い。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料である炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物が好ましく使用される。
【0034】
本発明により製造された脱墨パルプを含む紙は、例えば、これらに限定されないが、印刷用紙、新聞用紙の他、塗工紙、情報記録用紙、加工用紙、衛生用紙等として使用することができる。情報記録用紙として、更に詳しくは、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、感熱記録体、フォーム用紙等が挙げられる。加工用紙として、更に詳しくは、剥離紙用原紙、積層板用原紙、成型用途の原紙等が挙げられる。衛生用紙として、更に詳しくは、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル等が挙げられる。また、段ボール原紙等の板紙として使用することもできる。さらに、塗工紙、情報記録用紙、加工用紙等の顔料を含む塗工層を有する紙の原紙としても使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実験例を挙げて本発明をより具体的に示すが、本発明はかかる実験例に限定されるものではない。また、本明細書においては、特記しない限り、数値範囲はその端点を含むものとし、濃度などは重量基準である。
【0036】
実験1:アニオン性界面活性剤の分析
脱墨剤として使用するアニオン性界面活性剤3種について、その物性を分析した。
(1)溶解温度(クラフト点)の測定
アニオン性界面活性剤の水和結晶が溶解する温度はクラフト点として知られているが、脂肪酸塩の水和混合物においては、単独成分のクラフト点と異なる温度で溶解する。そこで、下記の3種の界面活性剤(脂肪酸塩の重量比を括弧内に示す)について、示差走査熱量計Q2000(TAインスツルメント社製)を使用し、窒素雰囲気中で昇温速度10℃/分の条件で溶解温度を測定した。DSCチャートを
図2、溶解温度の測定結果を以下に示す。
・アニオン性界面活性剤A(New純せっけん、ミヨシ油脂製脂肪酸ナトリウム、C12脂肪酸ナトリウム塩:C14脂肪酸ナトリウム塩:C16脂肪酸ナトリウム塩:C18脂肪酸ナトリウム塩:C18不飽和脂肪酸ナトリウム塩=15:5:20:20:40、C18不飽和脂肪酸は二重結合が1つである)溶解温度:約47℃
・アニオン性界面活性剤B(C16脂肪酸のナトリウム塩:C18脂肪酸のナトリウム塩=7:3、重量比)溶解温度60℃
・アニオン性界面活性剤C(C6脂肪酸のナトリウム塩:C10脂肪酸のナトリウム塩:C14脂肪酸のナトリウム塩:C18脂肪酸のナトリウム塩:C22脂肪酸のナトリウム塩=10:20:20:25:25)溶解温度60℃
(2)濁度の測定
アニオン性界面活性剤Aについて、その1%水溶液の660nmの透過光強度を紫外・可視分光計で測定し、ホルマジン標準液を用いて作成した検量線からJIS K 0101に基づいて濁度(FTU)を算出した。
【0037】
濁度が約40FTU以上である場合、界面活性剤が懸濁状態で存在しておりエマルジョン状であった(
図3、左:40℃/右:50℃)。下表から明らかなように、溶解温度以下の温度では、アニオン性界面活性剤溶液はエマルジョン状となっていた。
【0038】
【表1】
【0039】
実験2:脱墨パルプの製造
UVインキで印刷された印刷古紙を含む原料から、下記の手順によって脱墨パルプを製造した。さらに、得られた脱墨パルプを用いて手抄きにより再生紙を製造し、脱墨パルプの品質を評価した。
(1)パルパーでの離解
高濃度離解機(熊谷理機製)を用いて、UVインキで印刷された印刷古紙(80g)とPPC用紙(330g、未印刷)を温水(40℃、2L)と混合し、40℃で6分間離解して、固形分濃度が約15%のパルプスラリー(未脱墨)を得た。
(2)インキの微細化と脱墨
脱墨剤として、アニオン性界面活性剤A(New純せっけん、ミヨシ油脂製、脂肪酸ナトリウム系、溶解温度:約47℃)を、古紙原料に対して約1.0重量%の量で使用した。具体的には、この脱墨剤をパルプスラリーに添加し、約25分間、約40℃または約60℃にてパルプスラリーを攪拌した。約40℃で使用した場合、アニオン性界面活性剤を含む脱墨剤の性状はエマルジョン状であったが、約60℃で使用した場合、脱墨剤の性状はエマルジョン状ではなかった。
【0040】
次いで、約40℃のパルプスラリーをPFIミル(熊谷理機製)で500カウント撹拌し、インキの微細化処理をおこなった(サンプルA、完全洗浄前)。その後、150メッシュの篩上に微細化処理したサンプルを取り(固形分量で約7g)、上からシャワー水でインキを洗浄した後、篩上に残ったパルプ(サンプルB:脱墨パルプ、完全洗浄後)を回収した。
(3)再生紙の抄造とダート測定
サンプルA(未脱墨パルプ)およびサンプルB(脱墨パルプ)を用いて、JIS P 8222に準じて坪量60g/m
2の手抄きシートを製造した。得られた手抄きシートについて、画像解析装置(EasyScan、日本製紙ユニテック製)を用いて微細インキを測定した。
【0041】
【表2-1】
【0042】
【表2-2】
【0043】
評価結果を上記の表に示す。表から明らかなように、アニオン性界面活性剤を含む脱墨剤を、アニオン性界面活性剤の溶解温度以下の温度において使用して脱墨すると、脱墨後において微細なダート(直径φ100μm以上)および粗大なダート(直径φ250μm以上)のいずれもが効率的に除去されていた。