(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0022】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0023】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば200μHである。
【0024】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、定常溶接期間中は正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0025】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0026】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0027】
溶接開始回路STは、溶接開始指令のときはHighレベルとなり、溶接終了指令のときはLowレベルとなる溶接開始信号Stを出力する。この溶接開始回路STは、溶接トーチ4の起動スイッチ、溶接工程を制御するPLC、ロボット制御装置等が相当する。
【0028】
逆送制御期間判別回路STKは、上記の溶接開始信号St及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、溶接開始信号StがHighレベルからLowレベル(溶接終了指令)に変化した後に、短絡判別信号SdがHighレベルからLowレベル(アーク)に変化した時点でHighレベルにセットされ、それから予め定めた逆送制御期間Tkが経過した時点でLowレベルにリセットされる逆送制御期間信号Stkを出力する。
【0029】
アンチスティック電圧出力期間判別回路STBは、上記の逆送制御期間信号Stkを入力として、逆送制御期間信号StkがHighレベルに変化した時点でHighレベルにセットされ、それから予め定めたアンチスティック電圧出力期間Tbが経過した時点でLowレベルにリセットされるアンチスティック電圧出力期間信号Stbを出力する。
【0030】
平均送給速度設定回路FARは、予め定めた平均送給速度設定信号Farを出力する。周期設定回路TFRは、予め定めた周期設定信号Tfrを出力する。振幅設定回路WFRは、予め定めた振幅設定信号Wfrを出力する。
【0031】
定常溶接期間送給速度設定回路FCRは、上記の平均送給速度設定信号Far、上記の周期設定信号Tfr及び上記の振幅設定信号Wfrを入力として、振幅設定信号Wfrによって定まる振幅Wf及び周期設定信号Tfrによって定まる周期Tfで正負対称形状に変化する予め定めた台形波を、平均送給速度設定信号Farの値だけ正送側にシフトした波形となる定常溶接期間送給速度設定信号Fcrを出力する。この定常溶接期間送給速度設定信号Fcrについては、
図2で詳述する。
【0032】
逆送送給速度設定回路FKRは、予め定めた逆送送給速度設定信号Fkrを出力する。Fkrは逆送であるので負の値となる。
【0033】
送給速度設定回路FRは、上記の定常溶接期間送給速度設定信号Fcr、上記の逆送送給速度設定信号Fkr及び上記の逆送制御期間信号Stkを入力として、逆送制御期間信号StkがLowレベルのときは定常溶接期間送給速度設定信号Fcrを送給速度設定信号Frとして出力し、Stk=Highレベルのときは逆送送給速度設定信号Fkrを送給速度設定信号Frとして出力する。
【0034】
送給制御回路FCは、上記の溶接開始信号St、上記の逆送制御期間信号Stk及び上記の送給速度設定信号Frを入力として、溶接開始信号StがHighレベル(溶接開始指令)に変化すると送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを出力し、逆送制御期間信号StkがLowレベルに変化した時点で送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0035】
定常出力電圧設定回路ECRは、予め定めた定常出力電圧設定信号Ecrを出力する。アンチスティック出力電圧設定回路EBRは、予め定めたアンチスティック出力電圧設定信号Ebrを出力する。
【0036】
出力電圧設定回路ERは、上記の定常出力電圧設定信号Ecr、上記のアンチスティック出力電圧設定信号Ebr及びアンチスティック電圧出力期間信号Stbを入力として、アンチスティック電圧出力期間信号StbがLowレベルのときは定常出力電圧設定信号Ecrを出力電圧設定信号Erとして出力し、Stb=Highレベルのときはアンチスティック出力電圧設定信号Ebrを出力電圧設定信号Erとして出力する。
【0037】
出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0038】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。この回路によって、溶接電源は定電圧制御される。
【0039】
駆動回路DVは、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の溶接開始信号St及び上記のアンチスティック電圧出力期間信号Stbを入力として、溶接開始信号StがHighレベル(溶接開始指令)に変化すると電圧誤差増幅信号Evに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、アンチスティック電圧出力期間信号StbがLowレベルに変化すると駆動信号Dvの出力を停止する。すなわち、溶接電源は、溶接開始信号がHighレベルに変化した時点からアンチスティック電圧出力期間信号StbがLowレベルに変化した時点まで起動されて、溶接電圧Vwが出力される。
【0040】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す、
図1の溶接電源における溶接終了時の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(F)は逆送制御期間信号Stkの時間変化を示し、同図(G)はアンチスティック電圧出力期間信号Stbの時間変化を示す。以下、同図を参照して溶接終了時における各信号の動作について説明する。
【0041】
同図に示すように、時刻t14までの期間が定常溶接期間となり、時刻t14〜t15の期間がアンチスティック期間となる。そして、時刻t14〜t15の期間が逆送制御期間Tkとなり、時刻t14〜t15の期間がアンチスティック電圧出力期間Tbとなる。後述するように、アンチスティック期間、逆送制御期間Tk及びアンチスティック電圧出力期間Tbの各開始時点は同一時刻t14であり、溶接開始信号StがLowレベル(溶接終了指令)に変化した時点t11の後に、短絡期間からアーク期間へと移行した時点t14である。また、逆送制御期間Tk及びアンチスティック電圧出力期間Tbの終了時点はそれぞれ独立して設定されるが、同図においては終了時点が同一時刻である場合を例示している。
【0042】
同図(B)に示す送給速度Fwは、
図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。定常溶接期間中の送給速度設定信号Fr(定常溶接期間送給速度設定信号Fcr)は、振幅設定信号Wfrによって定まる振幅Wf及び周期設定信号Tfrによって定まる周期Tfで正負対称形状に変化する予め定めた台形波を、平均送給速度設定信号Farの値だけ正送側にシフトした波形となる。このために、同図(B)に示すように、定常溶接期間中の送給速度Fwは、平均送給速度設定信号Farによって定まる破線で示す平均送給速度Faを基準線として、上下に対称となる振幅Wf及び周期Tfで予め定めた台形波状の送給速度パターンとなる。すなわち、基準線から上側の振幅と下側の振幅とは同一値であり、基準線より上側の期間と下側の期間とは同一値となっている。
【0043】
ここで、0を基準線として定常溶接期間中の送給速度Fwの台形波を見ると、同図(B)に示すように、時刻t1〜t5の定常溶接期間逆送期間は、それぞれ所定の定常溶接期間逆送加速期間、定常溶接期間逆送ピーク期間、定常溶接期間逆送ピーク値及び定常溶接期間逆送減速期間から形成され、時刻t5〜t9の定常溶接期間正送期間は、それぞれ所定の定常溶接期間正送加速期間、定常溶接期間正送ピーク期間、定常溶接期間正送ピーク値及び定常溶接期間正送減速期間から形成される。
【0044】
[時刻t1〜t5の定常溶接期間逆送期間の動作]
同図(A)に示すように、溶接開始信号StはHighレベル(溶接開始指令)になっている。同図(B)に示すように、送給速度Fwは時刻t1〜t2の定常溶接期間逆送加速期間に入り、0から上記の定常溶接期間逆送ピーク値まで加速する。この期間中は短絡状態が継続しているので、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡)となっている。
【0045】
時刻t2において定常溶接期間逆送加速期間が終了すると、同図(B)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t4の定常溶接期間逆送ピーク期間に入り、上記の定常溶接期間逆送ピーク値になる。この期間中の時刻t3において、逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってアーク3が再発生する。これに応動して、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。同図(C)に示すように、溶接電流Iwはこれ以降のアーク期間中は次第に減少する。
【0046】
時刻t4において定常溶接期間逆送ピーク期間が終了すると、同図(B)に示すように、時刻t4〜t5の定常溶接期間逆送減速期間に入り、上記の定常溶接期間逆送ピーク値から0へと減速する。
【0047】
[時刻t5〜t9の定常溶接期間正送期間の動作]
同図(B)に示すように、送給速度Fwは時刻t5〜t6の定常溶接期間正送加速期間に入り、0から上記の定常溶接期間正送ピーク値まで加速する。この期間中は、アーク期間のままである。
【0048】
時刻t6において定常溶接期間正送加速期間が終了すると、同図(B)に示すように、送給速度Fwは時刻t6〜t8の定常溶接期間正送ピーク期間に入り、上記の定常溶接期間正送ピーク値になる。この期間中の時刻t7において、正送によって短絡が発生する。これに応動して、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡)に変化する。同図(C)に示すように、溶接電流Iwはこれ以降の短絡期間中は次第に増加する。
【0049】
時刻t8において定常溶接期間正送ピーク期間が終了すると、同図(B)に示すように、時刻t8〜t9の定常溶接期間正送減速期間に入り、上記の定常溶接期間正送ピーク値から0へと減速する。
【0050】
時刻t9〜t10の定常溶接期間逆送期間中は上記の動作を繰り返す。したがって、定常溶接期間逆送ピーク期間中にアークが発生する。
【0051】
時刻t10から定常溶接期間正送期間に入り、時刻t10〜t12の定常溶接期間正送加速期間中の時刻t11において、同図(A)に示すように、溶接開始信号StがLowレベル(溶接終了指令)に変化する。したがって、溶接開始信号Stはアーク期間中にLowレベルに変化したことになる。溶接開始信号StがLowレベルに変化した後に、最初に短絡期間からアーク期間へと変化した時点(同図では時刻t14)までは定常溶接期間となる。したがって、時刻t10〜t13の定常溶接期間正送期間中は、上記と同様の動作を繰り返す。このために、定常溶接期間正送ピーク期間中に短絡が発生する。溶接開始信号StがLowレベルになるタイミングは、送給速度Fwの任意のタイミングとなり、アーク期間中であるか短絡期間中であるかも任意となる。
【0052】
[時刻t14〜t15のアンチスティック期間中の動作]
時刻t13からは定常溶接期間逆送期間に入り、定常溶接期間逆送ピーク期間中の時刻t14にアークが発生する。この時刻t14からアンチスティック期間に入る。時刻t14において、アークが発生すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。これに応動して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。これに応動して、同図(F)に示すように、逆送制御期間信号StkがHighレベルに変化し、予め定めた逆送制御期間Tk経過後の時刻t15においてLowレベルに戻る。同時に、同図(G)に示すように、アンチスティック電圧出力期間信号StbもHighレベルに変化し、予め定めたアンチスティック電圧出力期間Tb経過後にLowレベルに戻る。逆送制御期間信号StkがHighレベルに変化すると、同図(B)に示すように、送給速度Fwは、予め定めた逆送送給速度Fkまでスロープを有して減速する。この逆送送給速度Fkは、
図1の逆送送給速度設定信号Fkrによって設定される。時刻t14〜t15の期間が、予め定めた逆送制御期間Tk及び予め定めたアンチスティック電圧出力期間Tbとなる。上述したように、TkとTbは独立して設定されるので、Tk≠Tbでも良い。同図(B)に示すように、送給速度Fwは、逆送制御期間Tk中は逆送送給速度Fkとなり、時刻t15において送給が停止されるので0となる。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwの出力は、アンチスティック電圧出力期間Tb中継続されて、時刻t15において0となる。溶接電源は全期間中定電圧制御されており、定常溶接期間中は定常出力電圧設定信号Ecrに基づいて定電圧制御され、アンチスティック期間中はアンチスティック出力電圧設定信号Ebrに基づいて定電圧制御される。Ebr<Ecrに設定される。
【0053】
同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t14から減少し、数十Aの状態をアンチスティック電圧出力期間Tbが終了する時刻t15まで継続する。溶接電流Iwの値は、出力が定電圧制御されているので、アーク負荷によって変化する。
【0054】
時刻t14〜t15のアンチスティック期間中は、アーク期間が継続し、溶接ワイヤは逆送されながら、アーク熱によって溶融される。そして、時刻t15に溶接が終了した時点において、溶接ワイヤの先端とビードとの距離及び溶接ワイヤ先端粒の大きさが適正になるように、上記の逆送送給速度Fk及び逆送制御期間Tkが設定される。両値は、溶接ワイヤの直径、材質、継手形状、溶接姿勢等の溶接条件に応じて実験によって適正値に設定される。例えば、逆送送給速度Fkは−3〜−10m/min程度に設定され、逆送制御期間Tkは1〜50ms程度に設定される。逆送送給速度Fkに切り換えるときのスロープは、0〜5ms程度に設定される。0のときはスロープを設けない場合である。
【0055】
定常溶接期間中の送給速度Fwの台形波の数値例を以下に示す。
周期Tf=10ms、振幅Wf=60m/min、平均送給速度Fa=5m/min、半周期の各傾斜期間=1.2ms、ピーク期間=2.6ms、ピーク値=30m/minの台形波に設定すると、この台形波を平均送給速度Fa=5m/minだけ正送側にシフトした波形となる。平均溶接電流は約250Aとなる。この場合の各波形パラメータは、以下のようになる。
定常溶接期間逆送期間=4.6ms、定常溶接期間逆送加速期間=1.0ms、定常溶接期間逆送ピーク期間=2.6ms、定常溶接期間逆送ピーク値=−25m/min、定常溶接期間逆送減速期間=1.0ms。
定常溶接期間正送期間=5.4ms、定常溶接期間正送加速期間=1.4ms、定常溶接期間正送ピーク期間=2.6ms、定常溶接期間正送ピーク値=35m/min、定常溶接期間正送減速期間=1.4ms。
【0056】
上述した実施の形態1によれば、溶接終了指令が入力されると、送給速度を正逆送給制御から逆送制御に切り換えて溶接を終了する。アンチスティック期間中は、溶接ワイヤが逆送制御されるので、アーク状態が継続することになり、安定した溶接状態となる。このために、溶接終了時において、溶接ワイヤ先端とビードとの距離が適正距離となるので、溶接ワイヤがビードと溶着することを防止することができる。さらに、溶接ワイヤ先端粒の大きさが適正化され、次回のアークスタート性を良好にすることができる。
【0057】
さらに、上述した実施の形態1によれば、逆送制御への切り換えを、溶接終了指令が入力された後に短絡期間からアーク期間へと移行した後に行う。これにより、定常溶接期間からアンチスティック期間への移行が円滑になり、アンチスティック期間中の溶接状態がより安定化する。
【0058】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、逆送制御に切り換えた後は溶接電源を定電流制御するものである。実施の形態1の発明では、定常溶接期間及び逆送制御に切り換えた後のアンチスティック期間中は、定電圧制御されている。これに対して、実施の形態2の発明では、定常溶接期間中は定電圧制御され、アンチスティック期間中は定電流制御される。
【0059】
図3は、実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した
図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は繰り返さない。同図は、
図1にアンチスティック電流設定回路IBR、電流検出回路ID、電流誤差増幅回路EI及び電源特性切換回路SWを追加し、
図1の駆動回路DVを第2駆動回路DV2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0060】
アンチスティック電流設定回路IBRは、予め定めたアンチスティック電流設定信号Ibrを出力する。アンチスティック電流設定信号Ibrは、例えば30〜100A程度に設定される。電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0061】
電流誤差増幅回路EIは、上記のアンチスティック電流設定信号Ibr及び上記の電流検出信号Idを入力として、アンチスティック電流設定信号Ibr(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この回路によって、アンチスティック期間中は溶接電源は定電流制御される。
【0062】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記のアンチスティック電圧出力期間信号Stbを入力として、アンチスティック電圧出力期間信号StbがLowレベル(定常溶接期間)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力し、Stb=Highレベル(アンチスティック期間)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
【0063】
第2駆動回路DV2は、上記の誤差増幅信号Ea、上記の溶接開始信号St及び上記のアンチスティック電圧出力期間信号Stbを入力として、溶接開始信号StがHighレベル(溶接開始指令)に変化すると誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、アンチスティック電圧出力期間信号StbがLowレベルに変化すると駆動信号Dvの出力を停止する。すなわち、溶接電源は、溶接開始信号がHighレベルに変化した時点からアンチスティック電圧出力期間信号StbがLowレベルに変化した時点まで起動されて、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwが出力される。
【0064】
本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を示す、
図3の溶接電源における溶接終了時の各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同一であるので説明は繰り返さない。但し、時刻t14以降のアンチスティック期間中は、定電流制御となるので、同図(C)に示す溶接電流Iwは、アンチスティック電流設定信号Ibrによって定まる一定の電流値となる点は異なる。
【0065】
上述した実施の形態2によれば、逆送制御に切り換えた後は溶接電源を定電流制御する。これにより、アンチスティック期間中の溶接電流Iwの値が所定値となるので、アンチスティック期間中の溶接ワイヤへの入熱量を精密に制御することができる。このために、実施の形態1の効果に加えて、溶接終了時における溶接ワイヤ先端とビードとの距離及び溶接ワイヤ先端粒の大きさを適正値により精密に制御することができる。
【0066】
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、逆送制御中に溶接電流が通電しなくなった時点で送給を停止して逆送制御を終了するものである。実施の形態1及び2の発明では、逆送制御期間は所定値である。これに対して、実施の形態3の発明では、溶接電流が通電しなくなった時点(アークが消滅した時点)で逆送制御期間を終了する。
【0067】
図4は、実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した
図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は繰り返さない。同図は、
図1に電流検出回路ID及び電流通電判別回路CDを追加し、
図1の逆送制御期間判別回路STKを第2逆送制御期間判別回路STK2に置換し、
図1のアンチスティック電圧出力期間判別回路STBを第2アンチスティック電圧出力期間判別回路STB2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0068】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0069】
電流通電判別回路CDは、上記の電流検出信号Idを入力として、この値がしきい値(10A程度)以上のときは溶接電流Iwが通電していると判別してHighレベルとなる電流通電判別信号Cdを出力する。
【0070】
第2逆送制御期間判別回路STK2は、上記の溶接開始信号St、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流通電判別信号Cdを入力として、溶接開始信号StがHighレベルからLowレベル(溶接終了指令)に変化した後に、短絡判別信号SdがHighレベルからLowレベル(アーク)に変化した時点でHighレベルにセットされ、その後に電流通電判別信号CdがLowレベル(非通電)に変化した時点でLowレベルにリセットされる逆送制御期間信号Stkを出力する。
【0071】
第2アンチスティック電圧出力期間判別回路STB2は、上記の逆送制御期間信号Stkを入力として、逆送制御期間信号StkがHighレベルに変化した時点でHighレベルにセットされ、逆送制御期間信号StkがLowレベルに変化した時点又はそれから遅延させた時点でLowレベルにリセットされるアンチスティック電圧出力期間信号Stbを出力する。
【0072】
本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を示す、
図4の溶接電源における溶接終了時の各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同一であるので説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なる。
図2において、時刻t14からの逆送制御によってアーク長が次第に長くなり、時刻t15においてアークを維持することができなくなりアークが消滅する。アークが消滅すると、同図(C)に示す溶接電流Iwが通電しなくなる。これに応動して、同図(F)に示す逆送制御期間信号StkがLowレベルに変化するので、同図(B)に示す送給速度Fwは0となり送給は停止する。同様に、時刻t15において溶接電流Iwが通電しなくなると、同図(G)に示すアンチスティック電圧出力期間信号StbもLowレベルに変化するので、同図(D)に示す溶接電圧Vwは0となり出力は停止する。
【0073】
実施の形態3は、実施の形態1を基礎とした場合であるが、実施の形態2を基礎とする場合も同様である。
【0074】
上述した実施の形態3によれば、逆送制御中に溶接電流が通電しなくなった時点で送給を停止して逆送制御を終了する。これにより、実施の形態3では、実施の形態1及び2の効果に加えて、以下の効果を奏する。実施の形態1及び2では、逆送制御期間を溶接条件ごとに適正値になるように実験によって予め設定しておく必要があった。これに対して、実施の形態3では、アークが消滅して溶接電流が通電しなくなった時点で自動的に逆送制御期間が終了するので、設定する必要がなく、作業効率が向上する。
【0075】
[実施の形態4]
実施の形態4の発明は、逆送制御中は送給速度を次第に減速するように設定するものである。実施の形態1〜3の発明では、逆送制御中は送給速度を一定速度に設定していた。
【0076】
図5は、実施の形態4に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した
図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は繰り返さない。同図は、
図1の逆送送給速度設定回路FKRを第2逆送送給速度設定回路FKR2に置換したものである。以下、同図を参照してこのブロックについて説明する。
【0077】
第2逆送送給速度設定回路FKR2は、上記の逆送制御期間信号Stkを入力として、逆送制御期間信号StkがHighレベル(逆送制御期間)に変化した時点で予め定めた初期値までスロープを有して減速し、その後は時間経過に伴って次第に減速するパターンの逆送送給速度設定信号Fkrを出力する。Fkrは逆送であるので負の値であり、減速するのでその絶対値が時間経過と共に小さくなる値である。
【0078】
本発明の実施の形態4に係るアーク溶接制御方法を示す、
図5の溶接電源における溶接終了時の各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同一であるので説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なる。
図2において、時刻t14〜t15の逆送制御期間Tk中は、同図(B)に示すように、送給速度Fwは、予め定めた逆送送給速度Fkの初期値までスロープを有して減速し、その後は時間経過に伴って逆送制御期間Tkが終了するまで次第に減速する。
【0079】
実施の形態4は、実施の形態1を基礎とした場合であるが、実施の形態2及び3を基礎とする場合も同様である。
【0080】
上述した実施の形態4によれば、逆送制御中は送給速度を次第に減速するように設定する。これにより、実施の形態4では、実施の形態1〜3の効果に加えて、以下の効果を奏する。実施の形態4では、逆送制御期間中に送給速度が次第に減速して0に近づくので、溶接終了後の溶滴サイズのバラツキが小さくなる。このために、次回のアークスタート性がより良好になる。