(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記阻害剤は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体および抗CCR7抗体からなる群より選択される少なくとも2種の抗体、またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を含む、請求項1に記載の脳マラリアの予防または治療剤。
前記阻害剤は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体および抗CCR7抗体の3種の抗体、またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を含む、請求項1に記載の脳マラリアの予防または治療剤。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を適宜説明する。
【0014】
本明細書において「脳マラリア」とは、Plasmodium falciparum(P.falciparum)マラリアの最も致命的な合併症であり、血液脳関門(BBB)の破壊に起因して生じるとされる。意識低下、言語のもつれなどの神経症状が起こるとされており、進行すると昏睡状態に陥り、死亡するとされている。脳マラリア(CM)の病理を理解するために、P.berghei ANKA(PbA)寄生虫を使用したCMのマウスモデルが広く用いられており(Langhorne,J.ら(2011).Malar J 10,23.)、このマウスモデルにおける結果は、当該分野においてヒトに外挿可能であるとされている。
【0015】
本明細書において「嗅球(OLFと略称することがある)」とは、当該分野で慣用されるのと同じ意味で用いられ、嗅葉前端の隆起であり、終脳の前端に位置し球状に突出した構造をしている。内部は層構造を示す主嗅球および副嗅球があり、それぞれ化学感覚受容器である嗅覚器からの嗅神経と鋤鼻器官からの鋤鼻神経が終始するとされている。嗅覚情報処理において重要な役割を果たすとされる。
【0016】
本明細書において「嗅球の状態」は、嗅球の外見上、構造上または機能上の状態を包含する。より詳細には、嗅球の状態は、嗅覚異常、細胞検査および嗅球の診断画像等によって判定することができるが、これに限定されない。
【0017】
本明細書において「超高磁場」の核磁気共鳴画像法(MRI)とは、現在臨床用として使用されている3テスラの磁場を超える高い磁場でのMRIをいい、例えば、約4テスラ以上、約5テスラ以上、約6テスラ以上、約7テスラ以上などをさす。実施例では、11.7テスラのものが使用され、嗅球の状態を判定することができている。
【0018】
本明細書において診断画像における「スポット」とは、正常な状態で見出される嗅球においては密に詰まった映像において、斑点状のものが見えることをいう。機能不全が推定される。
【0019】
本明細書において、「細胞検査」は当該分野において慣用されるのと同じ意味を持ち、染色(例えば、HE染色)や免疫組織化学法等の染色が含まれる。
【0020】
本明細書において、「CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系」または「CCL21−CXCR3−CCR7軸」とは、CCL21、CXCR3およびCCR7を経路とするシグナルの伝達経路をいい、脳マラリアの発症メカニズムのことをいう。その模式図は
図7に示される。「CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系」の因子は、CCL21、CXCR3およびCCR7のほか、IP−10(CXCR3リガンド)、CXCL11(I−TAC),CXCL9(MIG)、インターロイキン(IL)−6、IL−12p40、インターフェロン(IFN)−γ、KC、MCP−1(CCR2リガンド)、MIP−1α、MIP−1β、およびRANTESからなる群より選択される少なくとも1つの炎症性サイトカイン、CD8α樹状細胞(DC)、CD11c
+ CD8T細胞などもこの因子として考慮することができる。いったん宿主がマラリア原虫に感染すると、血液や脾臓などの末梢において免疫細胞が活性化される。脾臓における感染により活性化されたCD8α
+樹状細胞が、CCR7の発現を介してCD8 T細胞に対して抗原をクロスプライミングする能力を獲得する。活性化されたCD8 T細胞の一部は、CD11cおよび/またはCXCR3を発現することによって、エフェクターの表現型となる。これらの活性化された免疫細胞、感染赤血球(iRBC)または寄生虫の産生物が、OLFの糸球内の血管付近の星状細胞およびその周囲のエンドフィートによって感知され、これにより、星状細胞からの段階的なCCL21分泌を誘導し、プライムされた免疫細胞に対するBBB出入口を開口すると考えられる。活性化されたCD8 T細胞は、OLFへと特異的に移動し、ここでCCL21が分泌され、OLFにおける発熱および出血につながると考えられる。
【0021】
本明細書において「CCL21」とは、CCR7の内因性リガンドであり、高内皮細静脈(そこを通ってリンパ球が血液を離れリンパ節に入るように特化した血管)にみられるとされるケモカインリガンドであり、CCサブファミリーのメンバーである。6Ckine、CKb9、ECL、SCYA21、SLC、TCA4ともいわれる。ヒトCCL21の核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれNCBI登録番号NM_002989(配列番号1)およびNP_002980(配列番号2)に開示されており、マウスの核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、NM_011124およびNP_035254に開示されており、本明細書でもこれらの情報を援用する。CCL21としては、OMIM:602737とのアクセッション番号で同定されうる。本明細書の目的で使用される場合は、「CCL21」は、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、意味することが理解される。
【0022】
なお、本発明で挙げる他のタンパク質すべてにも同じことがあてはまる。従って、既定のタンパク質または核酸の名称は、配列表に示すようなタンパク質または核酸を指すだけでなく、機能的に活性な誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシーまたは低ストリンジェンシー条件下で、好ましくは上述のような条件下で、前記タンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、指す。本明細書で使用される「誘導体」または「構成要素タンパク質の類似体」または「変異体」は、好ましくは、限定を意図するものではないが、構成要素タンパク質に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、構成要素タンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、天然存在タンパク質を修飾した所産であり、その誘導体がなお天然存在タンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。
【0023】
ヒト以外の多くの哺乳動物が本発明のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21タンパク質)を発現していることが知られているため、これらの哺乳動物についても、本発明の範囲内に入ることが理解される。
【0024】
本明細書で使用される「機能的に活性な」は、本明細書において、本発明のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。本発明において、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21)のフラグメントとは、タンパク質または核酸の場合、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の任意の領域を含むポリペプチドであり、本発明の目的を達成し得る限り天然のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の生物学的機能を有していなくてもよい。
【0025】
CCL21の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、CCL21の有する活性をいう。
【0026】
CCL21のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および
欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、CCL21の有する活性をいう。
【0027】
本明細書において「CXCR3」とは、当該分野で慣用されるのと同じ意味を有し、Gタンパク質共役受容体であるCXCケモカインレセプターファミリーの1つである。Gタンパク質共役受容体9(GPR9)やCD183のほか、CD182;CKR−L2;CMKAR3;IP10−R;Mig−R;MigRなどとも呼ばれることがある。2つの変異体があるとされており、CXCR3−AおよびCXCR3−Bの二種類がある。CXCR3−Aは、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP−10)およびCXCL11(I−TAC)に結合するとされており、CXCR3−Bは、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP−10)およびCXCL11 (I−TAC)に加えてCXCL4にも結合し得るとされている。ヒトCXCR3の核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれNCBI登録番号NM_001142797(配列番号3)およびNP_001136269(配列番号4)に開示されており、マウスの核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、NM_009910およびNP_034040に開示されており、本明細書でもこれらの情報を援用する。CXCR3としては、OMIM:300574とのアクセッション番号で同定されうる。本明細書の目的で使用される場合は、「CXCR3」は、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、意味することが理解される。
【0028】
CXCR3の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号3に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、CXCR3の有する活性をいう。
【0029】
CXCR3のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号4に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、CXCR3の有する活性をいう。
【0030】
本明細書において「CCR7」とは、当該分野で慣用されるのと同じ意味を有し、chemokine(C−C motif)receptor 7の略称であり、ケモカインレセプターの一つである。CCR7には2種類の内因性リガンドが存在する。1つはCCL21で、これは高内皮細静脈(そこを通ってリンパ球が血液を離れリンパ節に入るように特化した血管)にみられる。もう1つはCCL19で、これはリンパ節のT細胞域(T細胞がB細胞とは分かれて集合している部位)に存在するとされている。BLR2;CD197;CDw197;CMKBR7;EBI1などとも呼ばれることがある。ヒトCCR7の核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれNCBI登録番号NM_001838(配列番号5)およびNP_001829(配列番号6)に開示されており、マウスの核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、NM_007719およびNP_031745に開示されており、本明細書でもこれらの情報を援用する。CCR7としては、OMIM:600242とのアクセッション番号で同定されうる。本明細書の目的で使用される場合は、「CCR7」は、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、意味することが理解される。
【0031】
CCR7の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号5に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号5に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、CCR7の有する活性をいう。
【0032】
CCR7のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号6に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号5に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号6に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、CCR7の有する活性をいう。
【0033】
このほかにも、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子は存在し、例えば、以下を挙げることができる:
(1)IP−10(CXCR3リガンド)、CXCL11(I−TAC)、およびCXCL9(MIG)からなる群より選択される少なくとも1つの炎症性サイトカイン、ならびにそれらをコードする核酸、その発現産物およびその由来物からなる群より選択される少なくとも1つ;
(2)CCL21および/またはCCL19(3)CD8α樹状細胞および他の樹状細胞;ならびに
(4)CD8T細胞および他のT細胞。
【0034】
これらはいずれも、当該分野で公知の手法を用いて同定することができる。そのような手法として参考にできる文献として本明細書において他に言及した文献等を挙げることができる。
【0035】
本発明の関連において、「CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子に結合する物質」または「CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の相互作用分子」は、少なくとも一時的にCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子に結合し、そして好ましくは、結合したことを表示しうる(例えば標識されるか標識可能な状態である)、分子または物質である。CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)に結合する物質はCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)の阻害剤であってもよく、その例としては、抗体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA、低分子量分子(LMW)、結合性ペプチド、アプタマー、リボザイムおよびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができ、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)に対して向けられる、特にCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)の活性部位に対して指向される、結合性タンパク質または結合性ペプチド、並びにCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)の遺伝子(核酸)に対して指向される核酸も含まれる。CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)に対する核酸は、例えばCCL21遺伝子の発現またはCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)の活性を阻害する、二本鎖または一本鎖DNAまたはRNA、あるいはその修飾物または誘導体を指し、そして限定なしに、アンチセンス核酸、アプタマー、siRNA(低分子干渉RNA)およびリボザイムを含む。本明細書において、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)について「結合性タンパク質」または「結合性ペプチド」とは、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子に結合する種類のタンパク質またはペプチドを指し、そしてCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)に対して指向されるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、抗体フラグメントおよびタンパク質骨格を含むがこれらに限定されない。
【0036】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0037】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−0−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−0−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzeret al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniet al.,Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0038】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0039】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは哺乳動物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。本発明の目的に合致する限り、このような相同体、相同遺伝子産物、オルソログ遺伝子産物等も用いることができることが理解される。
【0040】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.2.28(2013.4.2発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0041】
本発明の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Market al.,Proc Natl Acad Sci U S A.1984 Sep;81(18):5662−5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res.1982 Oct 25;10(20):6487−6500.、Wang et al.,Science.1984 Jun29;224(4656):1431−1433.)。欠失等がなされた抗体は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、または抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD−Plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO CO.,LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0042】
本発明の一実施形態において「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99、または100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0043】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodiumcitrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37−50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubelet al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−38,DNA Cloning1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford UniversityPress(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Vol.1、7.42−7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50°Cでの、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(または約42°Cでの約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60°C、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本発明において使用されるポリペプチドには、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0044】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
【0045】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸あるいは部分とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7)において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドあるいは部分と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいい、複合分子にあっては対応する部分(例えば、ヘパラン硫酸等)をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S−S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。このような対応する領域またはドメインは、本発明において複合分子を設計する場合に有用である。
【0046】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。従って、ヒトのCCL21、CXCR3、CCR7は、それぞれ、他の動物(特に哺乳動物)において、対応するCCL21、CXCR3、CCR7を見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。従って、例えば、ある動物(例えば、マウス)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等)は、配列番号1、3、5または配列番号2、4、6等の配列をクエリ配列として用いてその動物の配列を含むデータベースを検索することによって見出すことができる。
【0047】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーまたは標的分子として機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーまたは標的分子としての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
【0048】
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活
性は、その二分子の間の結合およびそれによって生じる生物学的変化であり得、そして、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
【0049】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、CCL21、CXCR3、CCR7等のmRNAの量、CCL21、CXCR3、CCR7等タンパク質の量、そしてCCL21、CXCR3、CCR7等タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現レベルを知ることができる。このような測定値はコンパニオン診断において使用し得る。CCL21、CXCR3、CCR7等のmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0050】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「CCL21、CXCR3、CCR7等」またはその抗体の機能的等価物は、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体自体ではないが、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体の変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体の持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体自体またはこのCCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体の変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体自体またはCCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体の変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本発明において、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体の機能的等価物は、格別に言及していなくても、CCL21、CXCR3、CCR7等またはその抗体と同様に用いられうることが理解される。機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson&Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smithand Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedlemanand Wunsch法(Needlemanand Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索として
は、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびinsituハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0051】
本発明の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、CCL21、CXCR3、CCR7等のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0052】
本明細書において「阻害剤」とは、対象となる実体(例えば、レセプターまたは細胞)に対してそのレセプターまたは細胞の生物学的作用を阻害する物質または因子をいい、抑制剤等ともいう。本発明のCCL21、CXCR3、CCR7等の阻害剤としては、対象となるCCL21、CXCR3、CCR7等またはCCL21、CXCR3、CCR7等を発現する細胞等の機能を一時的または永久に低下または消失させることができる因子である。このような因子には、抗体、その抗原結合フラグメント、それらの誘導体、機能的等価物、アンチセンス、siRNA等のRNAi因子等の核酸の形態のもの等を挙げることができるがこれらに限定されない。
本明細書において「アゴニスト」とは、対象となる実体(例えば、レセプター)に対してそのレセプターの生物学的作用を発現またはそれを増強する物質をいう。天然のアゴニスト(リガンドとも称される)のほか、合成されたものや改変されたもの等を挙げることができる。
本明細書において「アンタゴニスト」とは、対象となる実体(例えば、レセプター)に対してそのレセプターの生物学的作用の発現を抑制または阻害する物質をいう。天然のアンタゴニストのほか、合成されたものや改変されたもの等を挙げることができる。アゴニスト(またはリガンド)と競合的に抑制または阻害するもののほか、非競合的に抑制または阻害するもの等がある。アゴニストを改変することによっても得られうる。生理現象を抑制または阻害することから、アンタゴニストは阻害剤(抑制剤)または阻害(抑制)(する)因子の概念に包含されうる。したがって、本明細書においては実質的にアンタゴニストは「阻害剤」と同義で用いられる。
【0053】
本発明の一実施形態において「抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等」は、CCL21、CXCR3、CCR7等に結合性を有する抗体を含む。この抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等の生産方法は特に限定されないが、例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等を哺乳類または鳥類に免疫することによって生産してもよい。
【0054】
また、「CCL21、CXCR3、CCR7等に対する抗体(抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等)、または、そのフラグメント」の「機能的等価物」は、例えば、抗体の場合、CCL21、CXCR3、CCR7等の結合活性、必要であれば抑制活性を有する抗体自体およびそのフラグメント自体のほか、キメラ抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)
2(single chain(Fv)
2)、scFv−Fcなども包含されることが理解される。
【0055】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、悪性腫瘍の増殖が特に強く抑制される観点からは、CCL21、CXCR3、CCR7等の特定のエピトープに特異的に結合する抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等であることが好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体であれば、ポリクローナル抗体に比べて、効率的にCCL21、CXCR3、CCR7等に対して作用させることができる。抗CCL21モノクローナル抗体、抗CXCR3モノクローナル抗体、抗CCR7モノクローナル抗体等を効率的に生産する観点からは、CCL21、CXCR3、CCR7等をニワトリに免疫することが好ましい。
【0057】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等の抗体クラスは特に限定されないが、例えばIgM、IgD、IgG、IgA、IgE、またはIgYであってもよい。
【0058】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、抗原結合活性を有する抗体フラグメント(以下、「抗原結合性フラグメント」と称することもある)であっても良い。この場合、安定性または抗体の生産効率が上昇する等の効果がある。
【0059】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、融合タンパク質であってもよい。この融合タンパク質は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等のNまたはC末端に、ポリペプチドまたはオリゴペプチドが結合したものであってもよい。ここで、オリゴペプチドは、Hisタグであってもよい。また融合タンパク質は、マウス、ヒト、またはニワトリの抗体部分配列を融合したものであってもよい。それらのような融合タンパク質も、本実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等の一形態に含まれる。
【0060】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、例えば、精製CCL21、CXCR3、CCR7等、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現細胞、またはCCL21、CXCR3、CCR7等の含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体であってもよい。CCL21、CXCR3、CCR7等の陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現細胞を免疫に使用することが好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、精製CCL21、CXCR3、CCR7等、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現細胞またはCCL21、CXCR3、CCR7等含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体の、CDRセットを有する抗体であってもよい。CCL21、CXCR3、CCR7等の陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現細胞を免疫に使用することが好ましい。CDRセットとは、重鎖CDR1、2、および3、並びに、軽鎖CDR1、2、および3のセットである。
【0062】
本発明の一実施形態において「CCL21、CXCR3、CCR7等の発現細胞」は、例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入後、CCL21、CXCR3、CCR7等を発現させることによって得てもよい。ここでCCL21、CXCR3、CCR7等は、CCL21、CXCR3、CCR7等のフラグメントを含む。また本発明の一実施形態において「CCL21、CXCR3、CCR7等含有脂質膜」は、例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等と脂質二重膜を混合することによって得てもよい。ここでCCL21、CXCR3、CCR7等は、CCL21、CXCR3、CCR7等のフラグメントを含む。また本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、CCL21、CXCR3、CCR7等の陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、抗原をニワトリに免疫する工程を経て得られる抗体、またはその抗体のCDRセットを有する抗体が好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、目的を達成する限り、どのような結合力を有していてもよく、例えば、少なくとも1.0×10
6以上、2.0×10
6以上、5.0×10
6以上、1.0×10
7以上を挙げることができるがこれらに限定されず、通常は、KD値が、1.0×10
7以上であってもよい。
【0064】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、ADCCまたはCDC活性を有していてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、CCL21、CXCR3、CCR7等の野生型または変異型に結合する抗体であってもよい。変異型とは、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。野生型または変異型のCCL21、CXCR3、CCR7等のアミノ酸配列は、配列番号2、4、6等に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有している。
【0066】
本明細書において「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる分子またはその集団を含む。また抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、様々な形態で存在することができ、例えば、全長抗体(Fab領域とFc領域を有する抗体)、Fv抗体、Fab抗体、F(ab’)
2抗体、Fab’抗体、diabody、一本鎖抗体(例えば、scFv)、dsFv、多価特異的抗体(例えば、二価特異的抗体)、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド、キメラ抗体(例えば、マウス−ヒトキメラ抗体、ニワトリ−ヒトキメラ抗体等)、マウス抗体、ニワトリ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはそれらの同等物(または等価物)からなる群から選ばれる1種以上の形態であってもよい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。本発明で用いられる抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、CCL21、CXCR3、CCR7等のタンパク質に結合すればよく、その由来、種類、形状などは問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本発明においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルを抗体として利用することができるが好ましくはモノクローナル抗体である。抗体のCCL21、CXCR3、CCR7等タンパク質への結合は特異的な結合であることが好ましい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
【0067】
本発明の一実施形態において「ポリクローナル抗体」は、例えば、抗原に特異的なポリクローナル抗体の産生を誘導するために、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)、鳥類等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、および所望の場合にはアジュバントの注入をしてもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全または不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、または界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコールは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):86−91.)。
【0068】
本発明の一実施形態において「モノクローナル抗体」は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する抗体である場合を含む。または、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に同一である抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成できる点で有用である。「モノクローナル」という形容は、実質的に均一な抗体集団から得られるという特徴を示していてもよいが、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、モノクローナル抗体は、″Kohler G,Milstein C.,Nature.1975 Aug7;256(5517):495−497.″に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、モノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。または、モノクローナル抗体は、″Clacksonet al.,Nature.1991 Aug 15;352(6336):624−628.″、または″Markset al.,JMol Biol.1991 Dec 5;222(3):581−597.″に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。または、″タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):92−96.″に掲載されている方法でよって作製してもよい。
【0069】
抗体の大量生産については、当該分野で公知の任意の手法を用いることができるが、例えば、代表的な抗体の大量生産系の構築および抗体製造としては、以下を例示することができる。すなわち、CHO細胞にH鎖抗体発現ベクターおよびL鎖抗体発現ベクターをトランスフェクションし、選択試薬であるG418およびZeocinを用いて培養を行い、限界希釈法によるクローニングを行う。クローニング後、安定的に抗体を発現しているクローンをELISA法により選択する。選択したCHO細胞を用いて拡大培養し、抗体を含む培養上清を回収する。回収した培養上清からProteinAもしくはProtein G精製により抗体を精製することができる。
【0070】
本発明の一実施形態において「Fv抗体」は、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH−VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
【0071】
本発明の一実施形態において「Fab抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られるフラグメントのうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。Fabは、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等を、タンパク質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0072】
本発明の一実施形態において「F(ab’)
2抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られるフラグメントのうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。F(ab’)
2は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等を、タンパク質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。また、例えば、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させることで、作製することができる。
【0073】
本発明の一実施形態において「Fab’抗体」は、例えば、F(ab’)
2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる抗体である。例えば、F(ab’)
2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0074】
本発明の一実施形態において「scFv抗体」は、VHとVLとが適当なペプチドリンカーを介して連結した抗体である。scFv抗体は、例えば、本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH−ペプチドリンカー−VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0075】
本発明の一実施形態において「diabody」は、二価の抗原結合活性を有する抗体である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。diabodyは、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0076】
本発明の一実施形態において「dsFv」は、VHおよびVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、上記システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。システイン残基に導入する位置はReiterらにより示された方法(Reiteret al.,Protein Eng.1994 May;7(5):697−704.)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0077】
本発明の一実施形態において「抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド」は、抗体のVH、VL、またはそれらのCDR1、2、もしくは3を含んで構成される抗体である。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0078】
上記のFv抗体、Fab抗体、F(ab’)
2抗体、Fab’抗体、scFv抗体、diabody、dsFv抗体、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド(以下、「Fv抗体等」と称することもある)の生産方法は特に限定しない。例えば、本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等におけるFv抗体等の領域をコードするDNAを発現用ベクターに組み込み、発現用細胞を用いて生産できる。または、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって生産してもよい。なお本発明の一実施形態に係る抗原結合性フラグメントは、上記Fv抗体等の1種以上であってもよい。
【0079】
本発明の一実施形態において「キメラ抗体」は、例えば、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって構築できる。マウス−ヒトキメラ抗体は、例えば、″Roguska et al.,ProcNatl Acad Sci U S A.1994Feb 1;91(3):969−973.″に記載の方法で作製できる。マウス−ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。または、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域のフラグメントは、任意のヒト抗体のH鎖定常領域およびヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4を、L鎖のものについてはCλまたはCκを各々挙げることができる。
【0080】
本発明の一実施形態において「ヒト化抗体」は、例えば、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、およびヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域(FR)、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化は、当該技術分野で既知の種々の手法を使用して実施可能である(Almagroet al.,FRont Biosci.2008 Jan 1;13:1619−1633.)。例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al.,Blood.1999 Jun 1;93(11):3922−3930.)、Re−surfacing(Roguska et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.1994 Feb1;91(3):969−973.)、またはFRシャッフル(Damschroder et al.,Mol Immunol.2007 Apr;44(11):3049−3060.Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変するために(好ましくは改善するために)、ヒトFR領域のアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmann et al.,Nature.1988 Mar 24;332(6162):323−327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。または、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。
【0081】
本発明の一実施形態において「ヒト抗体」は、例えば、抗体を構成する重鎖の可変領域および定常領域、軽鎖の可変領域および定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。主な作製方法としてはヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法、ファージディスプレイ法などがある。ヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法では、内因性Igをノックアウトしたマウスに機能的なヒトのIg遺伝子を導入すれば、マウス抗体の代わりに多様な抗原結合能を持つヒト抗体が産生される。さらにこのマウスを免疫すればヒトモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ法で得ることが可能である。例えば、″Lonberget al.,Int Rev Immunol.1995;13(1):65−93.″に記載の方法で作製できる。ファージディスプレイ法は、典型的には大腸菌ウイルスの一つであるM13やT7などの繊維状ファージのコートタンパク質(g3p、g10p等)のN末端側にファージの感染性を失わないよう外来遺伝子を融合タンパク質として発現させるシステムである。例えば、″Vaughanet al.,Nat Biotechnol.1996Mar;14(3):309−314.″に記載の方法で作製できる。
【0082】
また抗体は、CDR−grafting(Ozaki et al.,Blood.1999 Jun 1;93(11):3922−3930.)によって任意の抗体に本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをグラフティングすることで作製してもよい。または、本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをコードするDNAと、公知のヒトまたはヒト以外の生物由来の抗体の、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域をコードするDNAとを、当該技術分野で公知の方法に従ってベクターに連結後、公知の細胞を使用して発現させることによって得ることができる。このとき、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等の標的抗原への作用効率を上げるために、当該分野で公知の方法(例えば、抗体のアミノ酸残基をランダムに変異させ、反応性の高いものをスクリーニングする方法、またはファージディスプレイ法等)を用いて、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域を最適化してもよい。また、例えば、FRシャッフル(Damschroderet al.,Mol Immunol.2007 Apr;44(11):3049−3060.Epub 2007 Jan 22.)、またはバーニヤゾーンのアミノ酸残基またはパッケージング残基を置換する方法(特開2006−241026、またはFooteet al.,J Mol Biol.1992 Mar 20;224(2):487−499.)を用いて、FR領域を最適化してもよい。
【0083】
本発明の一実施形態において「重鎖」は、典型的には、全長抗体の主な構成要素である。重鎖は、通常、軽鎖とジスルフィド結合および非共有結合によって結合している。重鎖のN末端側のドメインには、同種の同一クラスの抗体でもアミノ酸配列が一定しない可変領域(VH)と呼ばれる領域が存在し、一般的に、VHが抗原に対する特異性、親和性に大きく寄与していることが知られている。例えば、″Reiteret al.,J Mol Biol.1999 Jul 16;290(3):685−98.″にはVHのみの分子を作製したところ、抗原と特異的に、高い親和性で結合したことが記載されている。さらに、″Wolfson W,Chem Biol.2006 Dec;13(12):1243−1244.″には、ラクダの抗体の中には、軽鎖を持たない重鎖のみの抗体が存在していることが記載されている。
【0084】
本発明の一実施形態において「CDR(相補性決定領域)」は、抗体において、実際に抗原に接触して結合部位を形成している領域である。一般的にCDRは、抗体のFv(可変領域:重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む)上に位置している。また一般的にCDRは、5〜30アミノ酸残基程度からなるCDR1、CDR2、CDR3が存在する。そして、特に重鎖のCDRが抗体の抗原への結合に寄与していることが知られている。またCDRの中でも、CDR3が抗体の抗原への結合における寄与が最も高いことが知られている。例えば、″Willy et al.,Biochemicaland Biophysical Research Communications Volume 356,Issue1,27 April2007,Pages 124−128″には、重鎖CDR3を改変させることで抗体の結合能を上昇させたことが記載されている。CDR以外のFv領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれ、FR1、FR2、FR3およびFR4からなり、抗体間で比較的よく保存されている(Kabatet al.,「Sequence of Proteins of Immunological Interest」USDept.Health andHuman Services,1983.)。即ち、抗体の反応性を特徴付ける要因はCDRにあり、特に重鎖CDRにあるといえる。
【0085】
CDRの定義およびその位置を決定する方法は複数報告されている。例えば、Kabatの定義(Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public HealthService,
National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))、またはChothiaの定義(Chothiaet al.,J.Mol.Biol.,1987;196:901−917)を採用してもよい。本発明の一実施形態においては、Kabatの定義を好適な例として採用するが、必ずしもこれに限定されない。また、場合によっては、Kabatの定義とChothiaの定義の両方を考慮して決定しても良く、例えば、各々の定義によるCDRの重複部分を、または各々の定義によるCDRの両方を含んだ部分をCDRとすることもできる。そのような方法の具体例としては、Kabatの定義とChothiaの定義の折衷案である、Oxford Molecular’s AbM antibody modeling softwareを用いたMartinらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989;86:9268−9272)がある。このようなCDRの情報を用いて、本発明に使用されうる変異体を生産することができる。このような抗体の変異体では、もとの抗体のフレームワークに1または数個(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個)の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まないように生産することができる。
【0086】
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。本発明の抗体は、エピトープが同じであれば、他の配列を有する抗体であっても同様に利用することができることが理解される。
【0087】
本明細書において使用される抗体は、擬陽性が減じられる限り、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本発明において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
【0088】
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識することができる手段をいう。
【0089】
本明細書において「マーカー(物質または遺伝子)」とは、ある状態(例えば、脳マラリアの疾患状態、障害状態、あるいは悪性状態のレベル、有無等)にあるかまたはその危険性があるかどうかを追跡する示標となる物質をいう。このようなマーカーとしては、遺伝子、遺伝子産物、代謝物質、酵素などを挙げることができる。本発明において、ある状態(例えば、脳マラリア等の疾患の状態)についての検出、診断、予備的検出、予測または事前診断は、その状態に関連するマーカーに特異的な薬剤、剤、因子または手段、あるいはそれらを含む組成物、キットまたはシステム等を用いて実現することができる。本明細書において、「発現産物」(遺伝子産物ともいう)とは、遺伝子によってコードされるタンパク質またはmRNAをいう。本明細書では、脳マラリアへの関連が示されていない遺伝子産物(CCL21、CXCR3、CCR7等)が脳マラリアの指標として使用可能であることが見出された。
【0090】
本明細書において「被験体(者)」とは、本発明の診断または検出、あるいは治療等の対象となる対象(例えば、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。
【0091】
本明細書において「試料」とは、被験体等から得られた任意の物質をいい、例えば、血清等が含まれる。当業者は本明細書の記載をもとに適宜好ましい試料を選択することができる。
【0092】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0093】
本明細書において「診断」とは、被験体における疾患、障害、状態(例えば、脳マラリア)などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような疾患、障害、状態の現状または未来を判定することをいう。本発明の方法、装置、システムを用いることによって、体内の状態を調べることができ、そのような情報を用いて、被験体における疾患、障害、状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。本明細書において、狭義には、「診断」は、現状を診断することをいうが、広義には「早期診断」、「予測診断」、「事前診断」等を含む。本発明の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができ、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。本明細書において、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることを明確にするために、特に「予測診断、事前診断もしくは診断」を「支援」すると称することがある。
【0094】
本明細書において「検出薬(剤)」または「検査薬(剤)」とは、広義には、目的の対象を検出または検査することができるあらゆる薬剤をいう。
【0095】
本明細書において「診断薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、脳マラリア等の疾患など)を診断できるあらゆる薬剤をいう。
【0096】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害(例えば、脳マラリア)について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。
【0097】
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、脳マラリア等の疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいい、本発明が提供するような阻害剤(例えば、抗体)をいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。
【0098】
本明細書において「予防」とは、ある疾患または障害(例えば、脳マラリア)について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。本発明の薬剤を用いて、診断を行い、必要に応じて本発明の薬剤を用いて例えば、脳マラリア等の予防をするか、あるいは予防のための対策を講じることができる。
【0099】
本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、脳マラリア等の疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
【0100】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼしあうこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。本発明の検出、検査および診断は、このような相互作用を利用して実現することができる。
【0101】
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つの物質の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
【0102】
従って、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に」相互作用する(または結合する)「因子」(または、薬剤、検出剤等)とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
【0103】
本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含む試料中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用する(または結合する)ことをいう。物質または因子について特異的な相互作用(または結合)としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の反応、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)ことには、抗体と、その抗原との間の相互作用(または結合)が包含される。このような特異的な相互作用または結合の反応を利用することにより、試料中の対象物の検出または定量を行うことができる。
【0104】
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、検出剤、検査剤または診断剤への結合または相互作用を含む、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫拡散法(SRID)、免疫比濁法(TIA)、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、NatGenet.2002 Dec;32 Suppl:526−532に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、invitro翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0105】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞、組織などにおいて、ポリペプチドまたはmRNA等が発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。あるマーカーの発現量を測定することによって、マーカーに基づく種々の検出または診断を行うことができる。
【0106】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「減少」または「抑制」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。減少のうち「消失」した場合は、活性、発現産物等が検出限界未満になることをいい、特に「消失」ということがある。本明細書では、「消失」は「減少」または「抑制」に包含される。
【0107】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
【0108】
本明細書において「(核酸)プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。本明細書においてプライマーはマーカー検出手段として使用され得る。
【0109】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチド、特異的抗体またはそのフラグメントなどが挙げられるがそれに限定されない。本明細書においてプローブは、マーカー検出、検査または診断の手段としてもちいられる。
【0110】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。本発明のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。リガンドを標識する場合、機能に影響を与えないものならば何れも用いることができるが、蛍光物質としては、Alexa
TM Fluorが望ましい。Alexa
TMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、Alexa
TM555とAlexa
TM633の組み合わせ、Alexa
TM488とAlexa
TM555の組み合わせ等を挙げることができる。核酸を標識する場合は、その塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDye
TMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、2−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0111】
本明細書において使用される場合、「タグ」とは、受容体−リガンドのような特異的認識機構により分子を選別するための物質、より具体的には、特定の物質を結合するための結合パートナーの役割を果たす物質(例えば、ビオチン−アビジン、ビオチン−ストレプトアビジンのような関係を有する)をいい、「標識」の範疇に含まれうる。よって、例えば、タグが結合した特定の物質は、タグ配列の結合パートナーを結合させた基材を接触させることで、この特定の物質を選別することができる。このようなタグまたは標識は、当該分野で周知である。代表的なタグ配列としては、mycタグ、Hisタグ、HA、Aviタグなど
が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のマーカーまたはマーカーの検出剤、検査剤、診断剤(プライマーまたはプローブ等であり得る)にはこのようなタグを結合させてもよい。
【0112】
本明細書において「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする物質が配置されるべき位置をいう。
【0113】
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0114】
本明細書において「エキソビボ」とは、ある処置について、体外で行われるがその後体内に戻されることが意図される場合、一連の動作をエキソビボという。本発明においても、生体内にある細胞を本発明の薬剤で処置して再度患者に戻すような実施形態を想定することができる。
【0115】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、検査薬、診断薬、治療薬、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0116】
本明細書において「指示書」は、本発明を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、経口、食道への投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(packageinsert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0117】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0118】
(嗅球の状態に基づく脳マラリアの診断)
1つの局面において、本発明は、被験体の嗅球(OLF)の状態を脳マラリアの指標とする方法を提供する。あるいは、本発明は、被験体の嗅球(OLF)の状態を判定する工程を包含する、脳マラリアの診断方法を提供する。ここで、被験体の嗅球が異常であることは、該被験体が脳マラリアに罹患していることの指標であることが本発明において見出された。このような診断は、脳マラリアの他の症状が出る前に見出すことができることから、脳マラリアの早期診断を可能にするものとして注目されるべきである。すなわち、被験体の嗅球の異常は、脳マラリアの罹患早期の指標といえる。また、嗅球の状態の判定は、種々の手法で行うことが可能であり、脳マラリアの早期診断、および本発明が初めて提供するもののような脳マラリアの予防または治療薬を投与することで、脳マラリアの本格的な処置を可能にするという点でも注目される。
【0119】
1つの実施形態において、本発明が判定する被験体の嗅球(OLF)の状態は、嗅覚異常、細胞検査および嗅球の診断画像等を挙げることができるが、これらに限定されない。したがって、本発明の診断方法は、嗅覚異常、細胞検査および嗅球の診断画像等から選択される少なくとも1つを行う工程を包含し、その結果によって、被験体の嗅球(OLF)の状態を判定することができ、それによって、脳マラリアの罹患早期の指標とすることができる。
【0120】
本明細書において、嗅覚は、食品に対する反応、芳香剤に対する反応、(他の可能な試験をご列挙ください)等があり、嗅覚測定法としては、例えば、各種におい物質に対する基準嗅覚検査、アリナミンなどを用いる静脈的嗅覚検査、ASTM注射器法,無臭室法,セントメータ法,食塩水平衡法,三点比較式臭袋法などによって試験することができる。
【0121】
本明細書において、嗅球の診断画像は核磁気共鳴映像法(MRI)によって得られたものであり得るが、これに限定されない。本発明が使用する「超高磁場」の核磁気共鳴画像法(MRI)としては、現在臨床用として使用されている3テスラ(T)の磁場またはそれを超える高い磁場、例えば、少なくとも3テスラ以上、少なくとも4テスラ以上、少なくとも5テスラ以上、少なくとも6テスラ以上、少なくとも7テスラ以上、少なくとも8テスラ以上、少なくとも9テスラ以上、少なくとも10テスラ以上、少なくとも11テスラ以上、少なくとも12テスラ以上でのMRIを挙げることができる。実施例では、11.7テスラのものが使用され、嗅球の状態を判定することができている。
【0122】
本発明の判定において、診断画像において、スポットが観察されることは脳マラリアの指標である。このようなスポットは、嗅球に異常があることが示されるものであり、脳マラリアの感染の指標であることが本発明において明らかになった。
【0123】
本発明では、嗅球の状態は、細胞検査によって判定してもよく、そのような判定は、染色(例えば、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色)または免疫組織化学法で検査される。
【0124】
1つの局面では、本発明は、嗅球の状態を測定する手段を含む、脳マラリアの検出または診断のための装置を提供する。このような装置は、上記方法を実現するものであれば、どのようなものでもよいことが理解される。
【0125】
1つの実施形態では、本発明の装置において用いられる手段は、磁気共鳴画像化(MRI)手段である。好ましくは、本発明において用いられるMRIは、超高磁場MRIである。通常のMRIでは、嗅球の異常をとらえることができなかったが、本発明では、超高磁場のMRIを用いることによって、はじめて、嗅球の異常を脳マラリアとの関係を解明することができた。したがって、本発明は、超高磁場によるMRIを用いるという点でも顕著性を示すといえる。
【0126】
(CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系に基づく治療剤)
別の局面において、本発明は、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子の阻害剤を含む、脳マラリアの予防または治療剤、予防薬または治療薬、予防または治療のための医薬もしくは医薬組成物(これらの用語は、本明細書において特に断らない限り相互に交換可能に使用され同じ対象を指す。)を提供する。あるいは、本発明は、脳マラリアの予防または治療のための、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子の阻害剤を提供する。この治療または予防薬または特定の治療または予防用の阻害剤を用いれば、脳マラリアを治療または予防することができる。またこの予防または治療薬は、これまで治療・予防法がなかった脳マラリアに初めて予防および治療薬を提供するという点で優れており、好ましい実施形態で使用される場合は抗体を使用するため、安全性の観点から優れている。
【0127】
1つの実施形態では、本発明が使用するCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子の阻害剤は、CCL21、CXCR3およびCCR7、ならびにこれらをコードする核酸からなる群より選択される少なくとも1つ因子の阻害剤を含む。
【0128】
より特定した実施形態では、本発明の阻害剤は、低分子化合物、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物、siRNA、shRNA、アンチセンス核酸、アプタマー、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物を少なくとも1種含む。これらは、2種以上使用してもよい。
【0129】
好ましい実施形態では、本発明で使用される阻害剤は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、および抗CCR7抗体からなる群より選択される少なくとも1種の抗体、またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を含む。より好ましい実施形態では、本発明で使用される阻害剤は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体および抗CCR7抗体からなる群より選択される少なくとも2種の抗体、またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を含む。理論に束縛されることを望まないが、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系のうちの2か所以上で阻害効果を発揮させることによって脳マラリアのより顕著な効果がおいて示されており、より効果を望む場合には2種類以上の因子の阻害が好ましいと想定される。
【0130】
さらに別の実施形態では、本発明で使用される阻害剤は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体および抗CCR7抗体の3種の抗体、またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を含む。
【0131】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、重鎖CDR1、2、および3、ならびに軽鎖CDR1、2および3のアミノ酸配列のセットを含み、さらに、重鎖FR1、2、3、4、軽鎖FR1、2、3、および4のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、あるいはすべてのフレームワークが特定されたもののいずれかのものと同一または実質的に同一あるいは保存的置換を除き同一であるものであり得る。1種以上の抗体であってもよい。また本発明の別の実施形態は、上に列挙した重鎖FR1、2、3、および4のアミノ酸配列のセットのうち、少なくとも1つのセットを含む抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等である。
【0132】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等は、scFvの形態であってもよく、その場合、重鎖と軽鎖間のリンカーは、重鎖と軽鎖との間のアミノ酸配列を有していてもよい。上に列挙したアミノ酸配列は、抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等が所望の効果を有する限り、(i)上記のアミノ酸配列において、1または数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(ii)上記のアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、および(iii)上記のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列であってもよい。
【0133】
本発明の一実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等をコードするポリヌクレオチドまたはベクターを細胞に導入することによって、形質転換体を作成できる。この形質転換体を用いれば、本発明の実施形態に係る抗CCL21抗体、抗CXCR3抗体、抗CCR7抗体等を作製できる。形質転換体は、ヒトまたはヒトを除く哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル等)の細胞であってもよい。哺乳動物細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、サル細胞COS−7などが挙げられる。または、形質転換体はEscherichia属菌、酵母等であってもよい。
【0134】
上記のベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpET−Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1−11、pcDNA3.1−V5/His−TOPO)、λファージなどのバクテリオファージ、ウイルス由来のベクターなどを用いることができる。これらのベクターは、プロモーター、複製開始点、または抗生物質耐性遺伝子など、タンパク質発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。ベクターは発現ベクターであってもよい。
【0135】
上記のポリヌクレオチドまたはベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、アデノウイルスによる方法、レトロウイルスによる方法、またはマイクロインジェクションなどを使用できる(改訂第4版 新 遺伝子工学ハンドブック,羊土社(2003):152−179.)。抗体の細胞を用いた生産方法としては、例えば、″タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):128−142.″に記載の方法を使用できる。抗体の精製においては、例えば、硫酸アンモニウム、エタノール沈殿、プロテインA、プロテインG、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン、陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、またはレクチンクロマトグラフィーなどを用いることができる(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):27−52.)。
【0136】
別の実施形態では、前記CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の阻害剤は、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物である。抗体は、全長配列のCDRを含む任意の配列を含む抗体またはその抗原結合フラグメント、あるいは、特定の配列の可変領域を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、そのフレームワーク領域において、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、12個、15個、17個、もしくは、20個、またはそれ以上の置換、不可、もしくは、欠失を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであってもよい。抗体の製造等については、本明細書の他の箇所に記載された実施形態および/または当該分野で公知の手法を用いることができる。なお、本発明の治療または予防の目的では、このような抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物は、好ましくは、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の下流の阻害活性を有することが好ましい。
【0137】
本発明を実施するために、本発明の核酸形態の抑制剤としてはアンチセンス活性を指標に核酸を選択することができる。ここで、「アンチセンス活性」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に抑制または減少させることができる活性をいう。より具体的には細胞内に導入したあるヌクレオチド配列に依存して、その配列と相補的なヌクレオチド配列領域をもつ遺伝子のmRNA量を特異的に低下させることで、タンパク発現量を減少させ得る活性をいう。手法としては、標的となる遺伝子からつくられるmRNAに相補的なRNA分子を直接的に細胞に導入する方法と、細胞内に目的遺伝子と相補的なRNAを発現させ得る構築ベクターを導入する方法に大別される。
【0138】
アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、21の連続するヌクレオチド長の、22の連続するヌクレオチド長の、23の連続するヌクレオチド長の、24の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。したがって、本明細書において、アンチセンス活性には、遺伝子の発現量の減少が含まれるがそれらに限定されない。
【0139】
一般的なアンチセンス技術については、教科書に記載されている(Murray,JAH eds.,Antisense RNA and DNA,Wiley−Liss Inc,1992)。さらに最新の研究でRNA干渉(RNAinterference;RNAi)と呼ばれる現象が明らかになり、アンチセンス技術の発展をもたらした。
【0140】
本明細書において「RNA干渉」または「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、当該分野で一般に知られており、RNAiを引き起こす因子によって媒介される、細胞における遺伝子発現を阻害または下方制御する生物学的プロセスである。例えば、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書において「RNAi」はまた、場合によっては、「RNAiを引き起こす因子」、「RNAiを起こす因子」、「RNAi因子」などと同義に用いられ得る。RNAiについては、例えば、Zamore and Haley,2005,Science,309,1519−1524;Vaughn and Martienssen,2005,Science,309,1525−1526;Zamore et al.,2000,Cell,101,25−33;Bass,2001,Nature,411,428−429;Elbashiretal.,2001,Nature,411,494−498;およびKreutzer他、国際公開第00/44895号;Zernicka−Goetz他、国際公開第01/36646号;Fire、国際公開第99/32619号;Plaetinck他、国際公開第00/01846号;MelloおよびFire、国際公開第01/29058号;Deschamps−Depaillette、国際公開第99/07409号およびLi他、国際公開第00/44914号;Allshire,2002,Science,297,1818−1819;Volpe et al.,2002,Science,297,1833−1837;Jenuwein,2002,Science,297,2215−2218;およびHall et al.,2002,Science,297,2232−2237;Hutvagner andZamore,2002,Science,297,2056−60;McManus et al.,2002,RNA,8,842−850;Reinhart et al.,2002,gene & Dev.,16,1616−1626;およびReinhart & Bartel,2002,Science,297,1831を参照。)。また、本明細書では、RNAiという用語は、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、転写阻害、エピジェネティクスなどの配列特異的RNA干渉の記述に用いられる他の用語と同義のものを示すものとして理解される。本明細書では、「RNAiを起こす因子」は「RNAi」を起こす限りどのようなものであってもよい。
【0141】
本明細書では「RNAiを起こす因子」としては、「低分子干渉核酸」、「siNA」、「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」または「化学修飾低分子干渉核酸分子」等が挙げられ、これらの用語は、RNA干渉「RNAi」または遺伝子サイレンシングを配列特異的に媒介することによって、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害または下方制御することができる任意の核酸分子を指す。これらの用語は、個々の核酸分子、複数のかかる核酸分子、またはかかる核酸分子のプールも表し得る。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む二本鎖核酸分子であり得る。
【0142】
本発明で代表的に用いられる「siRNA」は、短い長さ、通常、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAである。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
【0143】
本発明において、siRNA等のRNAiを起こす因子では、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、一方の鎖がセンス鎖であり、他方がアンチセンス鎖である、2個の別々のオリゴヌクレオチドから組み立てることができる。ここで、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(すなわち、アンチセンス鎖とセンス鎖が二本鎖または二本鎖構造を形成するなど、各鎖は、他方の鎖中のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。ここで、例えば、二本鎖領域は、約15から約30、例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30塩基対でありうるが、これらより長くてもよい。アンチセンス鎖は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む(例えば、その分子の約15から約25個またはそれを超えるヌクレオチドは、標的核酸またはその一部に相補的である)。あるいは、これらの分子は、単一のオリゴヌクレオチドから組み立てられ、これらの分子の自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域は、核酸リンカーまたは非核酸リンカーによって連結されている。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む、二本鎖、非対称二本鎖、ヘアピンまたは非対称ヘアピン二次構造を有するポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、別個の標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、2個以上のループ構造と、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む軸(stem)とを有する、環状一本鎖ポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有するセンス領域を含み、環状ポリヌクレオチドは、インビボまたはインビトロでプロセシングを受けて、RNAiを媒介し得る活性な分子を生成し得る。これらの因子は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドも含み得る(例えば、これらの因子は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列がこれらの因子内に存在する必要がない。)。一本鎖ポリヌクレオチドは、5’リン酸(例えば、Martinez et al.,2002,Cell.,110,563−574およびSchwarz et al.,2002,Molecular Cell,10,537−568参照)、5’,3’−二リン酸などの末端リン酸基を更に含み得る。ある実施形態においては、本発明のCCL21、CXCR3、CCR7等の抑制剤は、別々のセンスおよびアンチセンス配列または領域を含む。ここで、センス領域とアンチセンス領域は、当該分野で公知のヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有結合しており、またはイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水的相互作用および/またはスタッキング相互作用によって交互に非共有結合している。ある実施形態においては、本発明のCCL21、CXCR3、CCR7等の抑制剤は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。別の実施形態においては、本発明のCCL21、CXCR3、CCR7等の抑制剤は、標的遺伝子の発現を阻害するように、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本明細書では、CCL21、CXCR3、CCR7等の抑制剤は、RNAのみを含む分子に必ずしも限定されず、化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドも包含する。ある実施形態においては、本発明が低分子干渉核酸分子である場合は、2’ヒドロキシ(2’−OH)含有ヌクレオチドを欠いていてもよいく。ある実施形態において、本発明はRNAiを媒介するのに2’ヒドロキシル基を有するヌクレオチドの存在が不要である低分子干渉核酸でありうる。したがって、本発明が低分子干渉核酸分子である場合は、リボヌクレオチド(例えば、2’−OH基を有するヌクレオチド)を含まなくてもよい。しかし、RNAiを維持するのにCCL21、CXCR3、CCR7等の抑制剤内のリボヌクレオチドの存在が不要である場合は、2’−OH基を有する1個以上のヌクレオチドを含む、結合したリンカー、または他の結合若しくは会合した基、部分若しくは鎖を有し得る。場合によっては、本発明のCCL21、CXCR3、CCR7等を阻害する因子は、ヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40または50%においてリボヌクレオチドを含み得る。本明細書ではCCL21、CXCR3、CCR7等の抑制剤は、配列特異的RNAiを媒介し得る核酸分子、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)であってもよい。
【0144】
本明細書においてRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0145】
あるいは、本発明において用いられるRNAiとしては、例えば、短い逆向きの相補的配列(例えば、15bp以上であり、例えば、24bpなど)のペアが挙げられるがそれらに限定されない。
【0146】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものを、RNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0147】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0148】
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0149】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法等の任意の適切な方法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明において有用である。
【0150】
本発明の一実施形態は、CCL21、CXCR3、CCR7等に対するRNAi分子、またはそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドを含む、CCL21、CXCR3、CCR7等陽性脳マラリアの治療薬である。このRNAi分子、またはそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドを用いれば、CCL21、CXCR3、CCR7等陽性脳マラリア細胞の増殖を抑制することができる。本発明の一実施形態において「ポリヌクレオチド」は、10以上のヌクレオチドを有する、ヌクレオチドが直鎖状に重合した高分子化合物であってもよい。
【0151】
本発明の一実施形態において「RNAi分子」は、RNAi作用を有するRNA鎖であり、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、またはRNAi作用を有するsmallRNA等を挙げることができる。
【0152】
本発明の一実施形態において「RNAi」は、siRNA、shRNA、miRNA、短鎖もしくは長鎖の1もしくは2本鎖RNA、またはそれらの修飾物等の1つ以上によって、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能が抑制、またはサイレンシングされる現象を含む。
【0153】
RNAi分子のデザインには、例えば、siDirect2.0(Naito et al.,BMCBioinformatics.2009 Nov 30;10:392.)等を使用できる。また、受託会社(例えば、タカラバイオ(株)等)に委託してもよい。RNAi作用の確認は、リアルタイムRT−PCRによるRNA鎖発現量の定量によって行なうことができる。または、ノザンブロットによるRNA鎖発現量の解析や、ウェスタンブロットによる蛋白量の解析・表現型の観察等の方法でも行うことができる。また、特定の遺伝子に対するsiRNAまたはshRNAを生成するプラスミドは、例えば、受託会社(例えば、タカラバイオ(株)等)から購入することができる。
【0154】
本発明の一実施形態において「siRNA」は、RNAiを誘導可能なRNA鎖を含む。一般的にsiRNAの2本鎖はガイド鎖とパッセンジャー鎖に分けることができ、ガイド鎖がRISCに取り込まれる。RISCに取り込まれたガイド鎖は、標的RNAを認識するために使われる。RNAi研究では主に人工的に作成したものが使用されるが、生体内において内在的に存在するものも知られている。上記ガイド鎖は15塩基以上のRNAから構成されていてもよい。15塩基以上であれば、標的のポリヌクレオチドに対して精度よく結合できる可能性が高まる。また、そのガイド鎖は40塩基以下のRNAから構成されていてもよい。40塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクがより低くなる。
【0155】
本発明の一実施形態において「shRNA」は、RNAiを誘導可能で、且つヘアピン状に折りたたまれた構造(ヘアピン様構造)を形成可能な1本鎖のRNA鎖を含む。典型的には、shRNAは細胞内でDicerによって切断され、siRNAが切り出される。このsiRNAによって標的RNAの切断が生じることが知られている。上記shRNAは35以上のヌクレオチドから構成されていてもよい。35以上であれば、shRNAに特有のヘアピン様構造を精度よく形成できる可能性が高まる。また、上記shRNAは100塩基以下のRNAから構成されていてもよい。100塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクが低くなる。但し、一般的にshRNAと構造および機能が類似しているpre−miRNAの多くが、100ヌクレオチド程度またはそれ以上の長さを有していることから、shRNAの長さは必ずしも100塩基以下でなくても、shRNAとして機能できると考えられる。
【0156】
本発明の一実施形態において「miRNA」は、siRNAと類似の機能を有しているRNA鎖を含み、標的RNA鎖の翻訳抑制や分解をすることが知られている。miRNAとsiRNAとの違いは、一般的に生成経路と、詳細なメカニズムにある。
【0157】
本発明の一実施形態において「small RNA」とは、比較的小さいRNA鎖をいい、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、1または2本鎖の低分子RNAなどを挙げることができる。
【0158】
上記RNAi分子は、5’末端または3’末端に1〜5塩基からなるオーバーハングを含んでいてもよい。この場合、RNAiの効率が上昇すると考えられる。この数は、例えば、5、4、3、2、または1塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また上記RNAi分子が2本鎖のとき、各RNA鎖間にミスマッチRNAが存在していてもよい。その数は、例えば、1、2、3、4、5、または10個以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また上記RNAi分子は、ヘアピンループを含んでいてもよい、ヘアピンループの塩基数は、例えば、10、8、6、5、4、または3塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。塩基配列は、所望の効果を有する限り、1または複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加していてもよい。なお、各塩基配列の表記は、左側が5’末端、右側が3’末端である。
【0159】
上記RNAi分子の長さは、例えば、15、18、20、25、30、40、50、60、80、100、200、または400塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この数は、CCL21、CXCR3、CCR7等陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、15以上、または100以下が好ましい。
【0160】
本発明の一実施形態において「RNA鎖」は、RNAまたはその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。また本発明の一実施形態において「DNA鎖」は、DNAまたはその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。このRNA鎖またはDNA鎖は、1本鎖または複数本鎖(例えば、2本鎖)の形態のRNA鎖またはDNA鎖を含む。RNA鎖またはDNA鎖は、細胞取込促進物質(例えば、PEGまたはその誘導体)、標識タグ(例えば、蛍光標識タグ等)、またはリンカー(例えば、ヌクレオチドドリンカー等)等と結合していてもよい。RNA鎖またはDNA鎖は、核酸合成装置を用いて合成可能である。その他、受託会社(例えば、インビトロジェン社等)から購入することもできる。生体内のRNA鎖またはDNA鎖は、塩または溶媒和物を形成することがある。また、生体内のRNA鎖またはDNA鎖は、化学修飾を受けることがある。RNA鎖またはDNA鎖の用語は、例えば、塩もしくは溶媒和物を形成しているRNA鎖もしくはDNA鎖、または化学修飾を受けているRNA鎖もしくはDNA鎖等を含む。またRNA鎖またはDNA鎖は、RNA鎖のアナログ、またはDNA鎖のアナログであってもよい。
【0161】
上記RNAi分子は、安定的にRNAi作用を発揮する観点からは、CCL21、CXCR3、CCR7等のmRNAの塩基配列の一部に対して、相補的な塩基配列を含むことが好ましい。上記「一部」は、例えば、5、10、15、18、20、22、24、26、28、30、35、40、または50塩基以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0162】
本発明の一実施形態において「タンパク質の発現を阻害すること」は、例えば、遺伝子からmRNAへの転写機構を阻害、またはmRNAからタンパク質への翻訳機構を阻害することを含む。また、例えば、遺伝子、mRNA、またはタンパク質の分解を誘導することによって、結果的にタンパク質量を減少させることを含む。本発明の一実施形態において「タンパク質の機能を阻害すること」は、タンパク質に構造変化を生じさせ、タンパク質の活性を低下させることを含む。また、例えば、遺伝子の発現を阻害した結果、mRNAまたはタンパク質の生成量が低下することを含む。
【0163】
本発明の一実施形態において「発現が阻害されている状態」は、発現量が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。発現量はmRNA量、またはタンパク質量を指標としてもよい。本発明の一実施形態において「有意に」は、例えば統計学的有意差をスチューデントのt検定(片側または両側)を使用して評価し、p<0.05であるときを含んでいてもよい。または、実質的に差異が生じている状態を含む。本発明の一実施形態において「機能が阻害されている状態」は、活性が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。
【0164】
別の局面において、本発明は、有効量のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子の阻害剤またはこれを含む組成物または医薬(治療薬または予防薬)を、必要とする被験者に投与することを含む、該被験者の脳マラリアを予防または治療するための方法を提供する。これまでは、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系が脳マラリアの予防または治療に適用され得ることは知られておらず、有効量についても、当然知られるところではなかった。他方、本発明では、本明細書において得られた知見に基づき、使用される阻害剤に応じて有効量を当業者が選択することができる。
【0165】
治療薬の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、または経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。抗体またはポリヌクレオチドを投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、またはステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、またはNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0166】
一般的に、本発明の組成物、医薬、治療剤、予防剤等は、治療有効量の治療剤または有効成分、および薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。本明細書において「薬学的に許容しうる」は、動物、そしてより詳細にはヒトにおける使用のため、政府の監督官庁に認可されたか、あるいは薬局方または他の一般的に認められる薬局方に列挙されていることを意味する。本明細書において使用される「キャリア」は、治療剤を一緒に投与する、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このようなキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin,Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Publishing Company,Easton,U.S.A)に記載される。このような組成物は、患者に適切に投与する形を提供するように、適切な量のキャリアと一緒に、治療有効量の療法剤、好ましくは精製型のものを含有する。配合物は、投与様式に適していなければならない。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
【0167】
本発明の一実施形態において「塩」は、例えば、任意の酸性(例えばカルボキシル)基で形成されるアニオン塩、または任意の塩基性(例えばアミノ)基で形成されるカチオン塩を含む。塩類には無機塩または有機塩を含み、例えば、Berge et al.,J.Pharm.Sci.,1977,66,1−19に記載されている塩が含まれる。また例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。本発明の一実施形態において「溶媒和物」は、溶質および溶媒によって形成される化合物である。溶媒和物については例えば、J.Honiget al.,The Van Nostrand Chemist’s Dictionary P650(1953)を参照できる。溶媒が水であれば形成される溶媒和物は水和物である。この溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものが好ましい。そのような好ましい溶媒の例として、特に限定するものではないが、水、または各種バッファーが挙げられる。本発明の一実施形態において「化学修飾」は、例えば、PEGもしくはその誘導体による修飾、フルオレセイン修飾、またはビオチン修飾等が挙げられる。
【0168】
本発明を医薬として投与する場合、種々の送達(デリバリー)系が知られ、そしてこのような系を用いて、本発明の治療剤を適切な部位(例えば、食道)に投与することも可能であり、このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包:治療剤(例えば、ポリペプチド)を発現可能な組換え細胞の使用、受容体が仲介するエンドサイトーシスの使用;レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての療法核酸の構築などがある。導入法には、限定されるわけではないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口経路が含まれる。好適な経路いずれによって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして他の生物学的活性剤と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所であることも可能である。本発明が脳(例えば、嗅球)領域で使用される場合、さらに、脳(例えば、嗅球)に直接注入する等、適切な経路いずれかによって投与されうる。
【0169】
治療剤が核酸である特定の態様において、適切な核酸発現ベクターの一部として該核酸を構築し、そして細胞内に存在するように投与することによって、核酸をin vivo投与して、コードされるタンパク質の発現を促進することも可能であり、これは、例えばレトロウイルスベクターの使用によって、または直接注射によって、または微小粒子銃の使用によって、または核酸を脂質、細胞表面受容体もしくはトランスフェクション剤でコーティングすることによって、または核に進入することが知られるタグ配列に連結した核酸を投与することによって、実行可能である。あるいは、核酸治療剤を細胞内に導入し、そして発現のため、宿主細胞DNA内に相同組換えによって取り込ませることも可能である。
【0170】
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として、組成物を配合することができる。このような組成物は注射により投与することができる。代表的には、注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝剤中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を和らげるリドカインなどの局所麻酔剤も含むことも可能である。一般的に、成分を別個に供給するか、または単位投薬型中で一緒に混合して供給し、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密封容器中、凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として供給することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。組成物を注射によって投与しようとする場合、投与前に、成分を混合可能であるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することも可能である。
【0171】
本発明の組成物、医薬、治療剤、予防剤を中性型または塩型あるいは他のプロドラッグ(例えば、エステル等)で配合することも可能である。薬学的に許容しうる塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成されるもの、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成されるもの、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄などに由来するものが含まれる。
【0172】
特定の障害または状態の治療に有効な本発明の治療剤の量は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。悪性腫瘍マーカーが、投与後に有意に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量−反応曲線から推定可能である。
【0173】
本発明の一実施形態において「患者」または「被験体」は、ヒト、またはヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、またはチンパンジー等の1種以上)を含む。また患者または被験体は、CCL21、CXCR3、CCR7等の発現が異常であると判断または診断された患者または被験体であってもよい。このとき、判断または診断は、CCL21、CXCR3、CCR7等のタンパク質レベルを検出することにより行われることが好ましい。
【0174】
本発明の医薬組成物または治療剤もしくは予防剤はキットとして提供することができる。
【0175】
特定の実施形態では、本発明は、本発明の組成物または医薬の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0176】
本発明のキットはまた、本発明の組成物、治療剤、予防剤または医薬として使用するタンパク質をコードする発現ベクターも含有することも可能であり、このタンパク質は、発現された後、生物学的に活性な複合体を形成するため、再構成されることも可能である。このようなキットは、好ましくはまた、必要な緩衝剤および試薬も含有する。場合によって、このような容器に付随して、キット使用のための指示書(添付文書)、並びに/あるいは医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0177】
特定の実施形態において、本発明の核酸を含む医薬組成物を、リポソーム、微小粒子、または微小カプセルを介して投与することができる。本発明の多様な態様において、このような組成物を用いて、核酸の持続放出を達成することが有用である可能性もある。
【0178】
(CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系に基づく脳マラリアの診断)
別の局面において、本発明は、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子を含む、脳マラリアのマーカーを提供する。あるいは、本発明は、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子のいずれかまたはその発現産物に結合する物質を用いる、脳マラリアを識別または診断する方法を提供する。ここでは、対象検体のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子のいずれかの発現が正常検体のものに比べて上昇している場合、該対象検体は脳マラリアを有すると診断される。このような診断は、以下に説明するような結合剤ないし検出剤を用いて行うことができる。したがって、本発明の方法は、対象検体のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子のいずれかの発現を調べる工程を包含し、その結果によって、脳マラリアの罹患の指標とすることができる。
【0179】
このCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系は、本明細書の他の箇所で説明されるように、CCL21、CXCR3およびCCR7を経路とするシグナルの伝達経路をいい、脳マラリアの発症メカニズムのことをいい、その模式図は
図7に示される。「CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系」の因子は、CCL21、CXCR3およびCCR7のほか、IP−10(CXCR3リガンド)、CXCL11(I−TAC)、およびCXCL9(MIG)からなる群より選択される少なくとも1つの炎症性サイトカイン;CCL21および/またはCCL19、CD8α樹状細胞(DC)および他の樹状細胞、CD11c
+ CD8T細胞(ヒトの場合CD8T細胞)および他のT細胞などもこの因子として考慮することができる。
【0180】
典型的な実施形態としては、本発明で使用されるCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子は、CCL21、CXCR3、CCR7、ならびにそれらをコードする核酸、その発現産物およびその由来物からなる群より選択される少なくとも1つを含む。CCL21、CXCR3、CCR7の各因子については、脳マラリアとの関連が知られておらず、本発明は、このゆな経路および各々の因子を脳マラリアの診断または検出の指標として使用することができることを初めて提供する。
【0181】
別の実施形態では、本発明において使用されるCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子は、CCL21、CXCR3、CCR7、ならびにそれらをコードする核酸、その発現産物およびその由来物からなる群より選択される少なくとも1つに加えて、或いはそれと代替的に以下:
(1)IP−10(CXCR3リガンド)、CXCL11(I−TAC)、およびCXCL9(MIG)からなる群より選択される少なくとも1つの炎症性サイトカイン、ならびにそれらをコードする核酸、その発現産物およびその由来物からなる群より選択される少なくとも1つ;
(2)CCL21および/またはCCL19
(3)CD8α樹状細胞および他の樹状細胞;ならびに
(4)CD11c
+ CD8T細胞(ヒトの場合CD8T細胞)および他のT細胞
からなる群より選択される、少なくとも1つの因子を含む。
【0182】
より詳細な実施形態では、本発明の検出または診断は、以下:
(A)嗅球におけるCCL21および/またはCCL19の発現上昇;
(B)皮質におけるIFN−γの発現上昇;
(C)前記CD8α樹状細胞は、CCR7依存的にプライミングされるものが観察されること;および/または
(D)脳または脾臓においてCD11c
+ CD8T細胞が観察されることを脳マラリアの発症の指標とすることができるがこれらに限定されない。
【0183】
前記脳マラリアは、P.falciparumからなる群より選択されるマラリア原虫に対応するヒトマラリア原虫によって生じる。
【0184】
1つの特定の実施形態では、本発明が対象とする脳マラリアはげっ歯類または霊長類のものを包含する。
【0185】
特定の実施形態では、本発明は、本発明が使用するCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子は、配列番号1、3、5等に記載の核酸配列もしくはそのフラグメントもしくはその等価物または配列番号2、4、6等に記載のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントもしくはその等価物を含む。
【0186】
特定の実施形態では、本発明のマーカーは
(1)CCL21タンパク質またはこれをコードする核酸;
(2)CXCR3またはこれをコードする核酸;および/または
(3)CCR7タンパク質またはこれをコードする核酸
を含む。
【0187】
別の局面では、本発明は、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の少なくとも1つの因子、ならびにそれらをコードする核酸、その発現産物およびその由来物からなる群より選択される少なくとも1つに結合する物質を含む、脳マラリアの検出剤または診断剤を提供する。CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系が脳マラリアに関連していることは本発明において初めて見出されたものであり、これを利用した検出、検査、または診断も本発明によって初めて実現された。
【0188】
本発明において、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の異常(発現増加等)は、脳マラリアの指標となることが見出された。従って、本発明によれば、対象となる被験者またはそれに由来する試料(例えば、細胞試料、脳髄液、血清等)においてCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出することにより、脳マラリアを検出または選択することができる。また、従って、本発明のマーカーの減少、抑制、増加または活性化等の調節能力を指標に、脳マラリア治療を行う薬剤を検出、スクリーニングすることができることが理解される。
【0189】
別の局面において、本発明は、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子に結合または相互作用する物質を含む、脳マラリアを識別するための検出剤、検査剤または診断剤を提供する。このような検出、検査または診断のためには、物質の結合は、特異的であることが好ましい。
【0190】
このような検出剤、検査剤または診断剤は、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子に結合または相互作用することができる限り、どのような物質を利用してもよいが、例えば、その代表的な例として、これらの因子の抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物、あるいはこれらの因子をコードする核酸、特にCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を増幅し得る核酸プライマーもしくはCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子に結合もしくは相互作用し得るプローブを挙げることができるが、それらに限定されない。
【0191】
本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、検出キット、検査キットまたは診断キットとして利用することができる。
【0192】
1つの実施形態では、本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、検出、検査または診断可能とする部分(例えば、抗体等)に他の物質(例えば、標識等)を結合させた複合体または複合分子であってもよい。本明細書において使用される場合、「複合体」または「複合分子」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、糖、脂質、核酸、他の炭化水素等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。2以上の部分がポリペプチドの場合は、キメラポリペプチドとも称しうる。従って、本明細書において「複合体」は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子を含む。
【0193】
本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、プローブおよびプライマーの形態を採ることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子と特異的にハイブリダイズすることができる。本明細書に記載されるように、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現は脳マラリアの指標であり、指標として有用である。従って、本発明によるプローブおよびプライマーは、脳マラリアを識別するために用いることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、1つの実施形態では、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出することができればよく、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指す。二本鎖cDNAも組織insituハイブリダイゼーションにおいて利用可能であることが知られており、本発明のプローブおよびプライマーにはそのような二本鎖cDNAも含まれる。組織中のRNAの検出において特に好ましいプローブおよびプライマーとしては、RNAプローブ(リボプローブ)を挙げることができる。
【0194】
特定の実施形態において、本発明はプライマーの形態をとることができる。通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列(例えば、配列番号1)と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0195】
特定の実施形態において、本発明によるプライマーは、二種以上の該プライマーからなる、プライマーセットとしても使用することができる。特定の実施形態において、本発明によるプライマーおよびプライマーセットは、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、in situ PCR法、LAMP法等の核酸増幅法を利用して目的遺伝子を検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーおよびプライマーセットとして利用することができる。
【0196】
本発明によるプライマーセットはCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子等目的のタンパク質のヌクレオチド配列をPCR法等の核酸増幅法により増幅できるように選択することができる。核酸増幅法は周知であり、核酸増幅法におけるプライマーペアの選択は当業者に自明である。例えば、PCR法においては、二つのプライマー(プライマーペア)の一方がCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子等目的のタンパク質の二本鎖DNAのプラス鎖に対合し、他方のプライマーが二本鎖DNAのマイナス鎖に対合し、かつ一方のプライマーにより伸長された伸長鎖にもう一方のプライマーが対合するようにプライマーを選択できる。また、LAMP法(WO00/28082号公報)においては、標的遺伝子に対して3’末端側からF3c、F2c、F1cという3つの領域を、5’末端側からB1、B2、B3という3つの領域を、それぞれ規定し、この6つの領域を用いて4種類のプライマーを設計することができる。本発明のプライマーは、本明細書に開示したヌクレオチド配列に基づき、化学合成できる。プライマーの調製は周知であり、例えば、”MolecularCloning,A Laboratory Manual 2
nd ed.”(Cold Spring Harbor Press(1989))、”CurrentProtocols in Molecular Biology”(John Wiley & Sons(1987−1997))に従って実施することができる。
【0197】
特定の実施形態において、本発明は「プローブ」の形態をとることができる。通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列(例えば、配列番号1)と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。
【0198】
1つの実施形態において、本発明の検出剤は、標識されたものでありうる。あるいは、本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、タグを結合させたものであってもよい。本発明で使用される標識またはタグは、本明細書において説明された任意の形態をとることができる。
【0199】
1つの局面において、本発明は、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を、脳マラリアを識別する指標とするための方法、あるいは脳マラリアを検出、検査または診断する方法を提供する。
【0200】
1つの実施形態では、本発明の方法では、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を、脳マラリアを識別する指標とするために、例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAを生体内で検出する工程を行って実施することができる。例えば、その際に、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAに結合する物質を含む検出剤、検査剤または診断剤を用いることができる。そのような検出剤、検査剤または診断剤は、本明細書において記載されており、その記載を元に、必要に応じて当該分野で公知の技術を用いて当業者が本発明の方法を実施することができることが理解される。
【0201】
本発明の方法は、本発明の検出剤、検査剤または診断剤を目的とする試料に接触させ、その試料中に目的とする対象であるCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAがあるかどうか、あるいはそのレベルまたは量を測定する。
【0202】
本発明において「接触」は、複数の物質の間の相互作用または結合が生じるようにその複数の物質を配置することであり、本発明では、検出剤、検査剤、診断剤として機能し得る物質(たとえば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のマーカーまたはそれを含む試料に対して物理的に近接させることによって達成することができる。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在させることができる。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。具体的なCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAを検出する方法は、試料(例えば、血清等)におけるCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAを検出できる方法であれば特に限定されず、例えば、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法、抗原抗体反応法が挙げられる。ここで、試料として使用されるものとしては、発現産物を含むと考えられる試料であればよく、例えば、血清を用いることができる。血清は慣用の方法により取得することができる。
【0203】
特定の実施形態では、本発明による検出、検査または診断は、本発明によるプローブを核酸試料(mRNA、またはそれから転写された相補的DNA(cDNA)等)とハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーション複合体、すなわちヌクレオチド二本鎖、を直接または間接的に検出することにより細胞試料におけるCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出することができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、”Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2
nd ed.”(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47−9.58)、”Current Protocols in Molecular Biology”(John Wiley &Sons(1987−1997)、特にSection 6.3−6.4)、”DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach 2
nd ed.”(Oxford University(1995)、条件については特にSection 2.10)を参照しうる。
【0204】
ハイブリダイゼーション法を利用したCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現産物、例えば、mRNAの検出は、例えば、:(a)被験試料由来のポリヌクレオチドと、本発明によるプローブとを接触させる工程;および(b)ハイブリダイゼーション複合体を検出する工程により実施することができる。工程(a)において、目的の被験試料から調製されたmRNAまたはそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を、被験細胞試料由来のポリヌクレオチドとして、プローブと接触させることができる。プローブを用いた検出法においては、プローブを標識して用いることができる。標識としては例えば、放射能活性(例えば、
32P、
14C、および
35S)、蛍光(例えば、FITC、ユーロピウム)、化学発色のような酵素反応(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)等を利用した標識が挙げられる。ハイブリダイゼーション産生物の検出は、ノーザンハイブリダイゼーション、サザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等の周知の方法を用いて実施できる。ハイブリダイゼーション複合体が検出された試料は、被験者の組織がCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を発現していることを示すので、該試料が由来する被験者について、脳マラリアの可能性が高いと判定することができる。
【0205】
本発明による検出、検査または診断の別の実施形態によれば、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法により核酸試料(mRNAまたはその転写産物)を増幅させ、増幅産物を検出することにより、試料におけるCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出、検査またはこれを用いて診断することができる。
【0206】
核酸増幅法を利用したCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現の検出は、例えば、(i)被験試料由来のポリヌクレオチドを鋳型とし、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法を実施する工程;および(ii)形成された増幅産物を検出する工程により実施することができる。
【0207】
工程(i)において、目的の被験試料から調製されたmRNAまたはそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を鋳型として用いることができる。増幅産物の検出は、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法等の核酸増幅法を用いて実施できる。この試料中に増幅産物が検出されることは、被験者の組織がCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を発現していることを示すので、該試料が由来する被験者について、脳マラリアの可能性が高いと判定することができる。
【0208】
本発明による検出の別の実施形態によれば、本発明による抗体と試料とを接触させ、抗原抗体反応を検出することにより試料におけるCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出、検査またはこれを用いて診断することができる。
【0209】
抗原抗体反応を利用したCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現の検出は、例えば、(I)被験細胞試料由来のタンパク質と、本発明による抗体とを接触させる工程;および(II)抗原抗体複合体を測定する工程により実施することができる。抗原抗体反応の検出方法は当業者に周知であり、例えば、免疫学的方法により、血清中のCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を検出することができる。免疫学的方法としては、細胞試料を必要に応じて適切な処理、例えば、細胞の分離、抽出操作などをした試料について、免疫組織染色法、酵素免疫測定法、ウェスタンブロット法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。免疫組織染色法は、例えば標識化抗体を用いる直接法、該抗体に対する抗体の標識化されたものを用いる間接法などにより行うことができる。標識化剤としては蛍光物質、放射性物質、酵素、金属、色素など公知の標識物質を使用することができる。抗原抗体複合体が検出される試料は、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を発現している細胞を含むので、該試料が由来する被験者について、脳マラリアの可能性が高いと判定することができる。
【0210】
前記の各検出工程は1回のみならず、同工程を繰り返しあるいは組み合わせて行うことにより、脳マラリアの診断精度を高めていくことができる。従って、このような実施形態を採用した場合、本発明による検出、検査または診断方法によれば、前記の工程を2回以上行うことにより、脳マラリアの診断をより高精度に行うことができる。
【0211】
また、他のマーカー遺伝子、好ましくはCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子以外の増殖マーカー遺伝子(例えば、既知のマーカーであるSCCまたはCEA等)あるいはこれらの因子を併用することにより、脳マラリアの診断精度を高めていくことができる。
【0212】
本発明の診断薬等の医薬等としての製剤化手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、使用すべき量等の実施形態を決定することができる。
【0213】
1つの実施形態では、質量分析によってマーカーの濃度を測定することができる。この場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix−assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time−of−flight mass spectromer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカーの濃度を測定することができる。さらに、2台の質量分析計を用いたMS/MSによれば、より正確にマーカーの濃度を測定することができる。
【0214】
電気泳動によりマーカーの濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカーを分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカーに相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカーの分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウェスタンブロッティングを行って膜上のマーカーの量を測定することもできる。
【0215】
クロマトグラフィーによってマーカーの濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカーを分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカーの濃度を測定することができる。
【0216】
1つの局面において、本発明によれば、本発明による検出、検査および/または診断のための方法を実施するための検出、検査および/または診断のためのキットが提供される。このキットは、本発明の検出剤、検査剤および/または診断剤を含む。その実施形態としては、本明細書において記載された任意の実施形態を単独または組み合わせ用いることができる。
【0217】
1つの実施形態では、本発明による検出キットとしては、本発明による実施形態の検出を実施するための検出キットが挙げられ、具体的には、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出するためのキットであって、本発明によるプローブを少なくとも含んでなるキットが挙げられる。このプローブは、標識したものであってもよい。この検出用キットはハイブリッド形成法によりCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出する。従って第一の態様の検出方法は、所望により、ハイブリッド形成法を実施するための種々の試薬、例えば標識の検出に用いられる基質化合物、ハイブリダイゼーション緩衝液、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。
【0218】
本発明によるこの実施形態の検出キットは、精度の高い検出を行うために、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子以外の脳マラリアのマーカー遺伝子(例えば、SCC、CEA等)の発現を検出可能なプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体を更に含んでいてもよい。これらのプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットはハイブリッド形成法、核酸増幅法、抗原抗体反応法のいずれかの方法により、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子以外の脳マラリアのマーカー遺伝子の発現を更に検出する。
【0219】
別の実施形態において、本発明による検出用キットとしては、本発明による別の実施形態の検出を実施するための検出キットが挙げられ、具体的には、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出するためのキットであって、本発明によるプライマーまたは本発明によるプライマーセットを少なくとも含んでなるキットが挙げられる。この検出用キットは核酸増幅法によりCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出する。従って第二の態様の検出方法は、所望により、核酸増幅法を実施するための種々の試薬、例えば緩衝液、PCRが正常に進行し得ることを示す内部標準、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。
【0220】
本発明によるこの実施形態の検出キットは、精度の高い検出を行うために、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子以外の脳マラリアのマーカー遺伝子の発現を検出可能なプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体を更に含んでいてもよい。これらのプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットはハイブリッド形成法、核酸増幅法、抗原抗体反応法のいずれかの方法により、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子以外の脳マラリアのマーカーの発現を更に検出する。
【0221】
さらなる実施形態において、本発明による検出キットとしては、本発明によるさらなる実施形態の検出を実施するための検出キットが挙げられ、具体的には、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子のタンパク質を検出するためのキットであって、本発明による抗体を少なくとも含んでなるキットが挙げられる。この抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットは抗原抗体反応を検出することによりCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子の発現を検出する。この実施形態の検出方法は、所望により、抗原抗体反応を実施するための種々の試薬、例えばELISA法等に用いる2次抗体、発色試薬、緩衝液、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。
【0222】
これらのキット、組成物またはシステムは、本発明のマーカー(例えば、CCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子を同定することができる限り、任意の被験体由来の試料中のマーカー、該マーカーに特異的に相互作用する因子、または該マーカーを選択的に認識する手段を用いることができることが理解され得る。従って、本明細書において具体的に記載された因子または手段のみならず、当該分野において公知の任意の等価の因子または手段を用いることができることが理解される。
【0223】
1つの実施形態では、本発明において使用される因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択され、好ましくは、因子は、タンパク質または複合分子(例えば、糖タンパク質、脂質タンパク質など)である。好ましくは、因子は、抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)である。このような因子は、標識されるか、または標識可能であることが好ましい。なぜなら、診断することが容易となるからである。
【0224】
本発明の好ましい実施形態において、使用される手段は、質量分析装置、核磁気共鳴測定装置、X線解析装置、SPR、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)、免疫学的手段(例えば、ウェスタンブロッティング、EIA(エンザイムイムノアッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ))、生化学的手段(例えば、pI電気泳動、サザンブロッティング、二次元電気泳動)、電気泳動機器、化学的分析機器、蛍光二次元ディファレンシャル電気泳動法(2DE−DIGE)、同位体標識法(ICAT)、タンデムアフィニティ精製法(TAP法)、物理学的手段、レーザーマイクロダイセクションおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0225】
本発明の好ましい実施形態では、本発明のシステムまたはキットは、さらに、マーカーの標準を含む。このような標準は、マーカーの検出手段(該マーカーに特異的に相互作用する因子、または該マーカーを選択的に認識する手段など)が正常に機能しているかどうかを確認するために用いることが好ましい。
【0226】
好ましい実施形態では、本発明では、対象となる試料を精製する手段をさらに備え得る。このような精製手段としては、例えば、クロマトグラフィーなどを挙げることができる。精製することによって、診断の精度を上げることができることから、好ましい実施形態において使用され得るが、これは必須ではない。
【0227】
1つの実施形態では、本発明において使用される因子または手段は、本発明のマーカーの定量をする能力を有する。このような定量は、標準曲線を描いたときに、検量線がきちんと描ける手段または因子であるものがよい。好ましくは、例えば、抗体、質量分析、クロマトグラフィー分析などを挙げることができる。従って、ある実施形態では、本発明のシステムは、マーカーの定量を行うための定量手段をさらに備える。
【0228】
1つの実施形態では、定量手段は、標準曲線と測定結果とを比較して前記マーカーが正常値の範囲内かどうかを判定する判定手段を含む。このような判定手段は、コンピュータを用いて実現することができる。
【0229】
1つの実施形態では、本発明のキットまたはシステムは、マーカーまたはマーカーに特異的に相互作用する因子を含む組成物を含む。
【0230】
1つの局面において、本発明は、被験体由来の試料中のマーカー、該マーカーに特異的に相互作用する因子、または該マーカーを選択的に認識する手段の、増殖能のレベルまたは分化状態、またはそれに関する疾患、障害または状態の予測診断、事前診断、予測、検出または診断するための医薬の製造における、使用を提供する。ここで、試料の取得は、どのような手段で行ってもよい。通常、医師以外の担当者が測定に従事する場合は、何らかの形で医師が取得したものであり得る。測定結果から、増殖能のレベルまたは分化状態、またはそれに関する疾患、障害または状態またはその可能性があるかどうかの決定は、正常値と比べて、各々のマーカーに比較して異常であるかどうかを判定することによって実施することができる。本発明の方法において、使用されるマーカーなどは、本明細書の他の場所において記載される任意の1または複数の特徴を矛盾することがない限り有していても良いことが理解される。本発明の検出または診断において、マーカーの濃度を測定する方法は、そのマーカーの濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
【0231】
本発明の検出または診断における好ましい実施形態の一つは、マーカーを担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカーの濃度を測定することである。すなわち、マーカーに対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカーを担体上に捕捉する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカーの濃度を測定することができる。
【0232】
1つの実施形態においてマーカーの測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカーに特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカーの濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
【0233】
一方、1つの実施形態において、マーカーの測定方法に質量分析を用いる場合は、抗体の他、イオン結合や疎水性相互作用によってマーカーを担体に捕捉することもできる。イオン結合や疎水性相互作用は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がなく、マーカー以外の物質も捕捉されるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を使用したプロテインチップを用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface−enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time−of−flight mass spectrometry)(本明細書中「SELDI−TOF−MS」と称する)を行えば、マーカーの濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、金属イオン基板が好ましく用いられる。
【0234】
イオン結合によってマーカーを担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陰イオン交換体、陽イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体のいずれも用いることができる。例えば、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。一方、疎水性相互作用によってマーカーを担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。さらに、Cu
2+、Zn
2+、Ni
2+、Ca
2+、Co
2+、Mg
2+等の金属イオンを固定化した担体にマーカーを捕捉することもできる。
【0235】
1つの実施形態において、用いる担体の例としては、ビーズ、マイクロタイタープレート、樹脂等の公知のものを使用することができる。特に、ビーズとマイクロタイタープレートは、イムノアッセイにおいて従来から用いられており、測定系の構築が容易である。一方、基板のような、平面部分を有する担体を用いることもできる。この場合は、平面部分の一部にマーカーに対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基盤としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカーに特異的な抗体を固定化した担体が挙げられる。
【0236】
本発明による検出、検査または診断方法は、脳マラリアの予防または治療に有効な物質のスクリーニングに適用することができる。すなわち、被験物質をCCL21、CXCR3、CCR7等のCCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系の因子またはそれをコードする核酸分子に対する結合または相互作用を指標に、有効な物質をスクリーニングすることができる。使用されうる被験物質としては、合成低分子化合物、タンパク質、合成ペプチド、精製または部分精製ポリペプチド、抗体、細菌放出物質(細菌代謝産物を含む)、核酸(アンチセンス、リボザイム、RNAi等)等が挙げられ、好ましくは、化合物もしくはその塩またはそれらの溶媒和物(例えば、水和物)であるが、これらに限定されるものではない。被験物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。本発明によるスクリーニング法により特定された物質は、脳マラリアの治療または予防に有効な物質として用いることができる。
【0237】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols inMolecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0238】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0239】
例えば、本明細書において、当該分野に知られる標準法によって、例えば自動化DNA合成装置(Biosearch、Applied Biosystems等から市販されるものなど)の使用によって、本発明のオリゴヌクレオチドを合成することも可能である。例えば、Steinら(Stein et al.,1988,Nucl.Acids Res.16:3209)の方法によって、ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドを合成することも可能であるし、調節孔ガラスポリマー支持体(Sarin et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7448−7451)等の使用によって、メチルホスホネート・オリゴヌクレオチドを調製することも可能である。
【0240】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0241】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0242】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0243】
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、必要な場合、医薬基盤研究所において規定される基準を遵守し、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma−Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
(材料および方法)
P.berghei ANKA(PbA)
2種類の異なるPbA系統を使用した。これらのPbA系統の詳細(GFP有、無)については、以前に記載されている(Coban,C.ら(2007).Int Immunol 19,67−79.;Ishino,T.ら(2006).Mol Microbiol 59,1175−1184.;Zhao,H.ら(2012).Cell Host Microbe 12,705−716.)。
【0244】
動物および抗体によるインビボケモカインブロッキング
マウス
年齢と性別をマッチさせたC57BL/6(CLEA,Osaka,Japan)または同腹仔マウス(Ccr7
+/−)を野生型(WT)群として使用した。C57BL/6バックグラウンドのCcr7
−/−マウスは、M.MiyasakaおよびM.H.Jang(大阪大学)によって提供され、以前に記載されたとおりに作製された(Forster,R.ら(1999).Cell 99,23−33.)。Batf3
−/−マウスは、Jackson Laboratoriesから購入し、C57BL/6マウスと交配させて、
+/−表現型を作製した。
【0245】
野生型マウスに、PbA感染の開始から3日間、エンドトキシンフリーの抗CCL21抗体またはアイソタイプコントロール(毎日マウス1匹あたり50μg,Peprotech)を毎日静脈内(i.v.)注射した。あるいは、感染後4日目および5日目に2回、抗CXCR3抗体(LEAF精製抗マウスCD183(CXCR3),マウス1匹あたり100μg,Biolegend)を注射した。組み合わせ治療は、感染後4日目に抗CXCR3および抗CCL21抗体混合物を用いて行い、感染後5日目に抗CCL21抗体の注射を繰り返した。
【0246】
サル
体重5kgの雌性ニホンザル(Macacafuscata)に、以前に記載されたように、1×10
9の凍結P.coatneyi感染赤血球(CDC系統)をi.v.接種し、毎日追跡した(Kawai,S.およびSugiyama,M.(2010).Acta Trop 114,152−156.)。サルが重篤なマラリアの症状を示し、意識不明となった感染後14日目の終わりに、ケタミン−HCl(15mg/kg)の筋肉内注射により麻酔をかけた後に検死解剖を行った。コントロールとして、P.knowlesiiを感染させたニホンザル1頭と、非感染コントロールとしてのカニクイザル1頭を用いた。
【0247】
全てのマウスおよびサルの実験は、独立行政法人 医薬基盤研究所および大阪大学のガイドライン、ならびに、日本実験動物学会公認の実験動物の使用に関する指針に従って行った。
【0248】
MRI脳イメージング
マウス頭部のMRIイメージングは、超高磁場11.7T MRIスキャナ(AVANCE−II 500 WB;Bruker BioSpin)を用いて行った。ナイーブなマウスを、MRI処理手順の間に1.0〜1.5%イソフルランで麻酔することにより、生体からの最初の像と、4%パラホルムアルデヒド(PFA)固定した死亡マウスからの像とを比較した。この比較から、両者に有意な差がないことが示唆された(
図1E)。それゆえ、この後の実験においては、深麻酔をかけた感染マウスを、PFA中で固定し、MRIによって可視化した。以下のパラメーターでT2
*強調画像(FLASHシーケンス)および拡散強調画像(DWI;スピンエコーシーケンス)を用いて出血を検出した:1)T2
*強調細密画像:視野,15mm×15mm;マトリックスサイズ,512×512;スライス厚,0.3mm;繰り返し時間,450ms;エコー時間,6.0ms;平均,64;スキャン時間,4時間5分。2)T2
*強調通常画像:視野,20mm×20mm;マトリックスサイズ,256×256;スライス厚,0.5mm;繰り返し時間,400ms;エコー時間,6.0ms;平均,16;スキャン時間,27分。3)DWI:視野,15mm×15mm;マトリックスサイズ,512×512;スライス厚,0.3mm;繰り返し時間,6000ms;エコー時間,21.0ms;b値,1000s/mm
2;平均,9;スキャン時間,7時間41分。
【0249】
薄型頭蓋外科手術および多光子イメージング
生体マウス内のOLFを可視化するために、マウスを、ケタミン(0.13mg/g)およびキシラジン(0.01mg/g)の筋肉内注射により絶えず麻酔しながら、以前に記載された外科的「薄型頭蓋(thinned−skull)」技術をOLF領域用に改良した(Sawada,M.ら、(2011).J Neurosci 31,11587−11596.;Wake,H.ら(2009).J Neurosci 29,3974−3980.)。簡単に述べると、定位固定ステージ上にイヤーバーを用いてマウスの頭部を固定した。双眼実体顕微鏡下で、高速ドリル(Minimo,ミニター株式会社)および手術用メスを用いて、OLF上の頭蓋を注意深く薄く(約20〜30μm)した。その領域上の頭蓋に金属リングを取り付け、実験の間、薄くした領域を湿った状態に維持した。イメージングは、1〜2.5倍のデジタルズームにて、水浸対物レンズ(XLPLN25XWMP,Olympus)を備えた顕微鏡(FV1000MPE,Olympus)を用いて行った。OLFの血管構造をテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)−デキストラン(5mg/マウス)(T1287,Sigma)を静脈内注射することにより可視化し、T細胞を、ブリリアントバイオレット421を結合させたTCR−β(H57−597,Biolegend)10μg、またはCD8α(53−6.7,Biolegend)5μgにより標識した。チタンサファイアレーザー(MaiTai Hp,Spectral Physics)をT細胞および血管用に800nmの励起波長にチューニングし、そして、Chameleonレーザー(Coherent)をGFP−PbA用に950nmの励起波長にチューニングした。30〜80のz平面を含む蛍光画像スタックを連続的に繰り返し取得することによって、小さなOLF領域のコマ撮りイメージング[1.1095秒あたり507.934μm(x),507.934μm(y),5μm(z)]を行った(1つのスタック画像の取得には、取得するz平面の数に応じて約40〜90秒を要する)。典型的なイメージングの深さは、軟膜表面から80〜150μmであり、これは、糸球層に対応していた(
図2A〜B)(Chaigneau,E.ら、(2003).Proc Natl Acad Sci U SA 100,13081−13086.)。ケタミンおよびキシラジンの混合物の断続的な筋肉内注射は、動物を1〜2時間にわたりモニタリングすることを可能にした。各マウスについて1回だけイメージングを行った。全てのイメージングデータは、Velocityソフトウェアを用いて処理および分析した。
【0250】
血管直径の測定
糸球に近い深部層における血管の直径を、Z像スタックの取得し、これを二次元画像へと投影することによって測定した。次いで、血管の内径を、以前に記載されたとおりに測定した(Chaigneau,E.ら、(2003).Proc Natl Acad Sci U SA 100,13081−13086.)。
BBB透過性の評価
示す時点において、マウスに、1%エバンスブルー染料(Sigma)200μlをi.v.注射した。2時間後にマウスを屠殺し、脳を摘出し、PBSで洗浄し、そして、解剖顕微鏡下で脳の像を撮影した。
【0251】
定量的リアルタイム逆転写PCR分析
脳サンプルをホモジナイズし、総RNAを単離し、そして、q−PCRを以前に記載されたとおりに実施した(Zhao,H.ら(2012).Cell HostMicrobe 12,705−716.)。マラリア感染を、PbA 18S rRNAに特異的なプライマーを用いて定量した。全てのプライマーは、Assays on Demand(Applied Biosystems)から購入した。
【0252】
食料埋設試験
食料埋設試験を、以前に記載されたとおりに実施した(Yang,M.およびCrawley,J.N.(2009).Curr Protoc Neurosci Chapter 8,Unit 8 24.)。簡単に述べると、マウスを、18時間にわたって食料の無い状態にし、続いて、床敷きを含み、ケージのランダムなコーナーに、表面からおよそ1cm下に食料が埋設された新しいケージに移した。マウスが埋設された食料を見つけるまでの時間を記録した。15分が経過してもマウスが埋設された食料を見つけられなかった場合、試験を中止し、その時間を900秒(潜伏スコア,>>>)として記録した。
【0253】
組織学
脳を摘出し、以前に報告されたとおりに免疫組織化学(IHC)のために調製した(Zhao,H.ら(2012).Cell HostMicrobe 12,705−716.)。以下の抗体を使用した:抗マウスTER119抗体(Biolegend)、ZO−1抗体(Invitrogen)、CCL21抗体(Peprotech)、PECAM抗体(BD Pharmingen)およびGFAP抗体(Dakocytomation)。切片は、蛍光またはLSM 780共焦点レーザースキャン顕微鏡(Zeiss,Germany)を用いて観察した。
【0254】
温度のモニタリング
継続的な発熱を記録するために、内製のサーマルモニタリングシステムを備えたマウスのケージを開発した(Aoshiら、論文投稿準備中、特開2012−231725参照)。ケージは、12時間−12時間の明暗サイクルを持ち、そして、食料および水への自由なアクセスが可能な、環境温度が30℃に制御されたインキュベーターのように調製した。マウスの背の毛を電気バリカンで取り除き、背の皮膚温度を、インキュベーターの内側に備え付けたFLIR b60サーマルカメラによって1分間隔で連続的に記録し、そして、データを、QuickPlotソフトウェア(FLIR Systems,Inc.)により分析した。
【0255】
フローサイトメトリー分析
脾臓および脳の細胞を、以前に記載されたとおりに精製した(Coban,C.ら(2007).Int Immunol 19,67−79.;Zhao,H.ら(2012).Cell Host Microbe 12,705−716.)。細胞表面を、APC−CD11c(HL3)、PE−CD4(RM4−5)、PerCp Cy5.5−CD8α(53−6.7)、PE Cy7−CD3(145−2C11)、APC Cy7−TCRβ(H57−597)、APC−CCR7(4B12)、APC−CD44(IM7)、PE CY7−CD11c(HL3)およびAPC Cy7−CD11b(M1/70)で染色した。これらの抗体は、BD Biosciences(San Jose,CA)およびBioLegend(San Diego,CA)から購入した。サンプルを、BD LSRFortessaフローサイトメーター上に取り込み、FlowJoソフトウェアを用いて分析した。細胞内IFNγ染色には、脾細胞をブレフェルジンA(10μg/ml,Sigma)の存在下で2時間インキュベートし、細胞を回収して、細胞内染色プロトコール(eBioscience)に従ってIFNγで染色した。
【0256】
トランスウェル移動アッセイ
48ウェルのトランスウェルプレート(5μm孔径,Costar,Corning Inc.)を、以前に記載されたとおりに、化学走性アッセイに使用した(Rappert,A.ら、(2002).J Immunol 168,3221−3226.)。簡単に述べると、無血清DMEM中に指定した濃度で希釈した組換えタンパク質CCL21および/または抗CCL21抗体(R&D Systems)を、下側の区画に充填した。感染後6日目の感染動物由来の、B細胞およびCD11b
+細胞およびCD4
+細胞を枯渇させた後に濃縮された脾臓CD8 T細胞を、上側のウェルに三連で加え(5×10
6/ウェル)、37℃にて2時間無血清DMEM培地中でインキュベートした。リンパ球に対する強力な化学走性リガンドであるヒトSDF−1α(Peprotech,Inc.)をポジティブコントロールとして使用した。CD11c
+CXCR3
+CD8 T細胞の移動率を、フローサイトメーターにより全細胞をカウントすることによって計算した。ケモカイン誘導性の移動を、非刺激のコントロール群の移動に対して標準化し、コントロールに対する割合(%)として表した。
【0257】
血清サイトカイン
感染後5日目に採血を行い、マウスBio−Plex(Bio−rad)によってサイトカインおよびケモカインの検出を行った。
【0258】
養子免疫実験
PbANKA感染後5日目のRag2
−/−マウスから総脾細胞を調製し、脾臓CD8α
+DCを濃縮した。簡単に述べると、抗マウスCD11bマイクロビーズ(MACS,Miltenyi Biotec.,Germany)を用いてCD11b
−集団をネガティブ選択し、その後、CD4
+集団を除去した(L3T4,MACS)。残った濃縮CD8α
+DC(20×10
6細胞)を、0日目にPbA感染の2時間前にレシピエントマウスにi.v.注入した。ポジティブ選択したCD8α
+DC細胞集団の純度および表現型は、養子免疫の前にフローサイトメトリーにより評価し、典型的には、95%超の純度であることが分かった(
図6I)。
統計解析
2群間の差は、両側対応無しのStudentのt検定またはノンパラメトリックMann−Whitney検定(Prismソフトウェア)のいずれかを用いて統計的有意差について解析した。生存曲線については、Log−rank(Mantel−Cox)検定を行った。p<0.05を統計的に有意とみなした。
【0259】
(実施例1:脳マラリアと嗅球の関係性の解明)
実施例1では、マウスモデルを用いて、脳マラリアと嗅球の関係性に関する実験を行った。
【0260】
(超高磁場MRIイメージング)
本実施例ではまず、超高磁場MRIイメージングは嗅球をP.berghei ANKA寄生虫より引き起こされる脳マラリア中の脳における微小出血の場所として同定した。
【0261】
マウスの脳内の変化を研究し、ECMに関連する病理を可視化するために、本発明者らは、超高磁場11.7T MRI(Mori,Y.ら(2011).Magn Reson MedSci 10,219−227.)を行った。方向感覚の喪失や麻痺といった特定のECM症状が始まったPbA感染から6日後に、11.7T MRIは、両側のOLFにおいて暗いはっきりとしたスポットを示し(
図1Aの冠状断面および
図1E)、大脳または小脳を含む脳の他の部分はこのようなスポットを示さなかった(
図1Aの矢状断面)。拡散強調画像(DWI)を取得すると、OLF領域の細部がより明らかとなり、これは、組織学的な詳細と顕著に類似しており、低密度の領域がヘマトキシリン・エオジン(HE)染色による出血部位と対応していた(
図1Bおよび1C)。本発明者らはまた、免疫組織化学(IHC)により、出血(TER119
+赤血球)とGFP−PbA寄生虫がOLFの同じ領域に存在し、その領域が顆粒細胞層(GGL)と同じくらい深部であったことを確認した(
図1D)。本発明者らは、より早い時点のOLF内のMRIを追加で行ったが、感染後6日目よりも前には変化は検出されなかった(
図1F)。さらに、症状発症後のいくつかのMRI画像は、おそらく進行性の疾患状態を引き起こしているOLFにおいて、異なる程度の微小出血の重症度を示した(
図3H、I)。これに対し、OLFにおいて重度の出血が生じていても、MRIでは脳の他の部分における微小出血の明らかな証拠は見られなかった(
図3H、I)。加えて、致死性の寄生虫P.yoeliiL(PyL)に感染したマウスは、MRIではそのOLFにおける微小出血が検出されなかった(
図3H、I)。それゆえ、より低磁場のMRIではなく、本発明者らの超高磁場MRIセッティングが、嗅球を、PbA感染の間に攻撃されやすく、脳の他の部分と比較して出血が起こりやすい領域として同定することを可能にしたと考えるのが合理的である。
【0262】
(OLFの柵状微小血管内の寄生虫の生体内多光子イメージング)
本発明者らは次に、BBB崩壊の潜在的な関与を含めて、ECMの間にOLF領域からの出血が何故、そして、どのようにして生じるかを調べた。OLFは、高密度でかつ様々な方向(放射状および接線方向)を向いた柵状の微小血管構造から構成される。このような複雑な血管構造は、神経細胞およびグリア細胞と一緒に糸球内でシナプス性の相互作用を行い、組織内での神経細胞移動のための適切な足場環境として機能し得る(Bovetti,S.ら(2007).J Neurosci 27,5976−5980.;Danielyan,L.ら(2009).Eur J Cell Biol 88,315−324.)。このOLFの独特な血管構造が、PbA感染赤血球ならびに感染に関連する事象のための「脆弱な」スポットとなり得るかどうかを調べるために、OLFを生体内MP顕微鏡により可視化した。GL程度に深い(約150μm)OLF毛細管が可視化され得るOLFのMPイメージングは、これまでに、げっ歯類を用いて実施されている(Chaigneau,E.ら、(2003).Proc Natl Acad Sci USA100,13081−13086.;Petzold,G.C.ら、(2008).Neuron 58,897−910.;Sawada,M.ら、(2011).J Neurosci 31,11587−11596.)(
図2A)。本発明者らは、以前に記載されたとおり(Sawada,M.ら、上掲)にマウスの背部OLFの上で薄型頭蓋外科手術を行い、組織をインタクトなまま維持した。OLF血管の生体画像は、この領域が解剖学的に複雑な毛細管構造(直径<5μm)を有しており(Petzold,ら、上掲)、感染から5日後に、PbA寄生虫内で発現されるGFPシグナルとして示される、循環iRBCの付着/閉塞に適していることを示した(
図2B、また動画S1(本明細書では示さない)でも確認している)。動画S1では、生体内多光子顕微鏡によって可視化したマウスの嗅球を確認した。マウスにGFP−PbA寄生虫を感染させた。感染後5日目、マウスは目に見えるECMの症状を示さなかったが、血管を赤色TRITC−デキストランで標識し、
図2Aに示されるように、30分間にわたって像を取得した。一部の寄生虫が減速し、血管に付着しているのが観察された。撮影した動画は5つあったが、感染後5日目の5匹のマウスにおいて同様であった。この動画S1に見られるように、一部のGFP標識された寄生虫の速度は低減および/または停止され、最終的には閉塞を引き起こした。これは、脳の他の部分と比較して、感染後6日目のOLFにおいて18S rRNAレベルならびにT細胞の蓄積によって測定される寄生虫負荷量が有意により高かったことと一致していた(
図2C)。まとめると、これらの結果は、OLFが、おそらくはその柵状の毛細管構造に起因して、ECM発病に特有の領域となり、それによって、循環iRBCが減速し、付着し、そして/または、隔離され得、最終的には出血へと至ることを示唆している。
【0263】
(OLF内の血管を介したCD8 T細胞の往来)
脳内のCD8 T細胞の血管内蓄積は、ECMの発病において重要な役割を有することが示された(Belnoue,E.ら(2002).J Immunol 169,6369−6375.;Miyakoda,M.ら、(2008).J Immunol 181,1420−1428.)。それゆえ、本発明者らは、CD8 T細胞の補充が、OLFの生体内MPイメージングによって、観察され得るかどうか、そして/または、PbA感染後の微小出血と関連し得るかどうか、を検討した。感染マウスのOLFにおける標識CD8 T細胞およびGFP発現PbA寄生虫の生体内イメージングは、微小出血が分岐毛細管において生じていることをはっきりと示した(
図2D、動画S2でも確認している(本明細書では示さない))。動画S2では、嗅球毛細管における新たな微小出血部位を示す、GFP−PbA寄生虫を感染させたマウスの代表的な3D像を撮影した。感染マウスを、感染後6日目に約1時間、生体内多光子顕微鏡によって可視化した。赤色、赤色TRITC−デキストランで標識した血管;緑色、GFPを発現するPbA寄生虫;青色、抗CD8α抗体で標識したCD8 T細胞。一部の赤色領域は、血管の完全性が失われた既に出血した領域を示している;T細胞は組織中をクロールしている。中心部の血管の完全性の突然の喪失は新たな出血が示された。動画S2に見られるように、微小出血の発生中に、赤色のデキストラン標識された毛細管が変更された(赤色色素がほとんど組織内に放出された)。重要なことには、CD8 T細胞は、ECMの発症中、血管内を前後に「クロール」し、数が増加することが分かり(
図2D、動画S2、S3およびS4(本明細書では示さない)でも確認している)、一部は、出血領域周囲に付着することが分かった(動画S2(本明細書では示さない))。これらのOLF内でのCD8 T細胞の挙動は、ECMの末期における不安定な血流に受動的に従い得るが、比較的大きな血管(10μm前後)における感染後5日目に本願発明者らが構築した3D動画は、CD8 T細胞が、血管に付着し、血管壁に沿って活発にクロールしている様子をはっきりと示した(動画S3(本明細書では示さない))。動画3Sでは、T細胞が嗅球内の微小血管に沿ってクロールする様子が示され、感染後5日目のGFP−PbA寄生虫を感染させたマウスの嗅球の3D構築した多光子動画が示される。赤色、赤色TRITC−デキストランで標識した血管;緑色、GFPを発現するPbA寄生虫;青色、抗TCRβ抗体で標識したT細胞が示される。T細胞は、微小血管(直径約10μm)の壁に付着し、壁に沿って移動していることが分かった。これらのT細胞によるクロール挙動は、インビボでの抗TCRβまたは抗CD8抗体(これらの抗体は、ナイーブな動物のT細胞に対して影響を有さなかった)標識に因るものではなかった(動画S4(本明細書では示さない)、データ示さず)。それどころか、完全に活性化されたT細胞は、感染後5日目にOLF毛細管内に蓄積し始め、クロールの動きによってその数を大いに増加させた(動画S4(本明細書では示さない))。動画S4では、T細胞が活性化され、嗅球毛細管内をクロールする様子を示す、感染後4〜6日目のナイーブマウスおよびGFP−PbA寄生虫感染マウスの嗅球生体内多光子イメージングが示される。赤色、赤色TRITC−デキストランで標識した血管;緑色、GFPを発現するPbA寄生虫;青色、抗TCRβ抗体で標識したT細胞であるが、これらの動画では、青色チャンネルのみが示される。各動画は約1時間撮影した。青色の円は、血管内で速く流れるT細胞を示し、赤色の円は、減速し、血管内をクロールするT細胞を示す。ナイーブなマウスにおいてT細胞の動きを捉えるのは困難であったが、T細胞数は感染後の日数と共に増加した。その動きはクロール挙動を示す。まとめると、これらのOLFの生体画像は、クロールするCD8 T細胞の数の増加とともに、蓄積したiRBCが、最終的には小さなOLF毛細血管の微小出血によって血管から出ていくにちがいないことを示す。
【0264】
脳内のCD8 T細胞の血管内蓄積は、脳マラリアの発病において重要な役割を有することが示された(Belnoue,E.ら(2002).J Immunol 169,6369−6375.)。それゆえ、本発明者らは、CD8 T細胞の補充が、OLFの生体内MPイメージングによって、観察され得るかどうか、そして/または、PbA感染後の微小出血と関連し得るかどうか、を検討した。感染マウスのOLFにおける標識CD8 T細胞およびGFP発現PbA寄生虫の生体内イメージングは、微小出血が分岐血管において生じていることをはっきりと示した(
図2Cおよび動画S2(本明細書では示さない))。重要なことには、CD8 T細胞は、OLF血管内の寄生虫を「追跡する」かのように、血管内を前後に行き来することが分かった(
図2Dおよ動画S3(本明細書では示さない))。さらに、構築した3D動画は、CD8 T細胞が、血管に付着し、血管壁に沿ってクロールし得ることを示唆した(動画S4(本明細書では示さない))。まとめると、これらのOLFの生体画像は、OLF内に蓄積した寄生虫が、CD8 T細胞によって追跡され、小さなOLF血管の微小出血によって血管から出ていくことを示す。
【0265】
(嗅覚機能は脳マラリア中に破壊されることの確認)
iRBCならびにCD8 T細胞の蓄積が、ECMの間に段階的に生じ、OLF内の微小出血をもたらすという上記の知見を考慮して、本発明者らは、OLFが化学感受性のための複雑な生理学的シナプスを形成する嗅覚神経を含んでいるために、OLFの機能(嗅覚)が影響を受けると仮説を立てた。OLFの機能を評価するために、本発明者らは、単純な「食料埋設試験」を実施した(Yang,M.およびCrawley,J.N.(2009).Curr Protoc Neurosci Chapter 8,Unit 8 24.)。簡単に述べると、マウスを、18時間にわたって食料の無い状態にし、続いて、床敷きを含み、ケージのランダムなコーナーに、表面からおよそ1cm下に食料が埋設された新しいケージに移した。マウスが埋設された食料を見つけるまでの時間を記録した。OLF機能は、食料を見つけるまでの時間の遅延によって決定した場合、BALB/cまたはRag2
−/−マウスまたは致死性のPyL寄生虫に感染したマウスのようなECMに対して抵抗性の正常なマウス(
図3B)と比較して、早くも感染後4日目には有意に損なわれていた(
図3A)。このように、OLF機能の喪失は、OLF内の出血およびBBBの完全性の潜在的な喪失といったECMの顕在化の予測を可能にし得る。
【0266】
OLF機能の喪失がBBBの完全性の喪失(BBB漏出)と直接相関するかどうかを評価するために、感染後の早い時点(3〜6日目)にマウスにエバンスブルー染料を注射し、脳組織への青色染料の滲出をモニターした。iRBCが血管内で減速し停止したMPイメージングの観察によれば、脳組織への青色染料の滲出は、早くも感染後5日目にOLFから出現し、一方で、脳全体は感染後6〜7日目に青くなった(
図3C)。BBBは、密着結合および密着帯−1(ZO−1)のようなタンパク質に起因して拘束性であるので、本発明者らは次に、OLFにおけるZO−1染色がBBB漏出と関係するかどうかを調べた。ZO−1は、嗅上皮、嗅覚ニューロン、ならびに、嗅球僧帽細胞層に局在することが示されている(Miragall,F.ら、(1994).J Comp Neurol 341,433−448.)。感染後6日目に、本発明者らは、GFP発現寄生虫の蓄積(iRBC)と一致した、OLFMCLにおけるZO−1免疫染色の有意な中断を観察し(
図3D)、これは、OLFの密着結合におけるZO−1発現の中断が、ECM中のBBBの完全性の喪失と関連し得ることを示唆している。
【0267】
(実施例2:脳マラリアとケモカインとの関係)
次に、本実施例では脳マラリアとケモカインとの関係を確認し、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系と脳マラリアとの関係性を解明した。
【0268】
(脳マラリア中の高熱およびケモカインストームはOLFの機能不全および物理的ダメージと関連する)
本発明者らは次に、ECMの間のOLF機能不全に寄与する潜在的な因子を探索した。高熱は、BBB機能喪失の促進因子の一つであることが示された(Kiyatkin,E.A.およびSharma,H.S.(2009).Neuroscience 161,926−939.)。高熱がマラリア性昏睡状態の重要な症状であることを考慮し、本発明者らは、サーマルカメラを用いてPbA感染マウスの体温の連続的な測定を可能にする実験システムを開発した。感染マウスの体温の連続的かつ非侵襲性の測定は、高熱の攻撃が、ECM症状の発症の24時間前(PbA感染後5日目付近)に始まり、24時間持続し、その後、熱損により終結し、最終的には次の12〜24時間以内に死に至ることを明らかにした(
図3、動画S5(本明細書では示さない))。動画S5では、サーマルモニターカメラによる、感染/非感染マウスの継続的な発熱の記録がなされた。10日間にわたってケージを継続的にモニターした。動は32秒間撮影され、感染後5〜7日目に対応する。非感染のナイーブコントロールマウス(#1、右上、黄色)、感染マウス(#2、左上;#3、右下;#4、左下)。感染マウス#4は、最終的には熱を失って早期に死亡し、カメラから消えている。感染マウス#3は、感染マウス#4が死亡した翌日に死亡した。動画は、少なくとも10匹のマウスで撮影したところほぼ同様の様子を示した。
脳マラリアを発症しない免疫不全マウスであるRag2
−/−マウスに感染させると、これらのマウスは、感染の全体を通じて高熱の徴候を示さず、OLFがインタクトであることがMRIによって確認された(
図3Fおよび
図3I)。さらに、致死性のPyLまたは非致死性のP.yoelii−NLを感染させたマウスは、感染の間に発熱せず(
図3Gおよび
図5F〜G)、感染後5日目の熱の上昇はPbA特異的であり得ることが示唆された。高熱がBBBの崩壊とその後のOLF機能不全および出血をトリガーし、そして/または、促進する正確な機構は明らかでないが、データは、高熱がECM関連死の24時間前に生じ、OLFが機能不全となり、出血が促進された後のBBB漏出と相関し得ることを示唆する。特筆すべきことは、PbA感染後5日目に、全身血清サイトカインレベル(大部分は炎症促進性サイトカイン)が上昇しており、サイトカインストームが高熱を伴うという考えを裏付けている(
図5F〜G)。
【0269】
(CCL21は感染の初期段階でOLFにおいて高度に発現される)
本発明者らはさらに、PbA感染の初期段階における嗅覚の喪失と関連し得る要因を調べた。ケモカインは、感染または炎症の初期メディエーターであり、次第に、発熱の発生に貢献するものと認識されている(Machado,R.R.ら(2007).Brain Res 1161,21−31.)。一部のケモカインおよびサイトカインは、ECMの発症において重要な役割を有するので、本発明者らは、OLFにおいて、インターフェロン(IFN)−γ、IP−10(CXCR3リガンド)、MCP−1(CCR2リガンド)、CCL19およびCCL21(CCR7リガンド)を含むいくつかのサイトカイン/ケモカインmRNAの発現レベルを測定した。CCL21およびCCL19のmRNAおよびタンパク質は、OLFにおいて、早くも感染後3日目に高度に発現されており(
図4A〜B)、ケモカインリガンド、特にCCL21の早期発現が、脳への免疫細胞の補充に重要であり得ることが示唆された。
【0270】
上記の結果から、本発明者らは、CCR7が、OLFを介して脳内にCCR7発現細胞を補充することによって、ECMの病理に関与するかどうかを調べることにした。本発明者らは、WT(C57BL/6)および同腹仔のCcr7
+/−およびCcr7
−/−マウスにPbAを感染させ、その生存を追跡した。Ccr7
−/−マウスの生存率の有意な増加が生じ、死は最終的には高寄生虫血症によって引き起こされたが、両群間で寄生虫レベルに違いはなかった(
図4C、データ示さず)。Ccr7
−/−マウスにおけるOLF機能がインタクトであったかどうかを評価するために、食料埋設試験を実施したところ、WTマウスと比較してインタクトなOLF機能が観察された(
図4D)。興味深いことに、Ccr7
−/−マウスでは、WTマウス(24時間)と比較して、高熱発生の遅延(約48時間)が生じており(
図4E)、MRIおよびエバンスブルー染色によって決定した場合、感染後6日目に、OLFにおける出血の徴候はなかった(
図5HおよびI)。エバンスブルー染色は、8日目以降のCcr7
−/−マウスの脳の約80%において徐々に生じた(
図5HおよびI)。これらのデータは、CCR7がECMの発病において役割を有しており、OLF機能不全、微小出血および高熱にも寄与していることを示唆した。
【0271】
(CCR7の発現はCD11c
+CD8 T細胞のCD8α DC活性化にとって重要であるが、その脳内への移動にとっては重要ではない)
本発明者らは次に、ECMからのCcr7
−/−マウスの生存率の増加を担う基礎的な機構を調べた。CCR7は、DCおよびT細胞のような免疫細胞の二次リンパ系器官への移動において重要なケモカイン受容体であるので、本発明者らは、脳内でのT細胞の補充を調べた。PbA感染後6日目の脳から得た免疫細胞のフローサイトメトリー分析は、脳内のCD8 T細胞蓄積が、WTマウスと比較して、Ccr7
−/−マウスにおいて50%減少することを示した(
*p<0.05;
図5A)。特筆すべきことに、近年の報告は、脳内に補充されたCD8 T細胞の中でも、CD11c
+CD8 T細胞が、高度に活性化されており、おそらくはIFN−γおよびグランザイム−Bを産生することによって発病に関与していると示唆した(Tamura,T.ら(2011).Infect Immun 79,3947−3956.)。この報告と一致して、本発明者らは、PbA感染したWTマウスの脳におけるCD8 T細胞の大部分がCD11c
+であり、この集団は、Ccr7
−/−マウスの感染脳(
図5A;
**p<0.01および
***p<0.001)ならびに脾臓(
図5B;
**p<0.01)においてパーセンテージおよび数が著しく減少していたが、WTマウスとCcr7
−/−マウスの間で、脾臓内のCD8 T細胞のパーセンテージおよび数は同等であったことを見い出した。脾臓におけるCD11c
+CD8T細胞の活性化もまた、同じ細胞集団からのIFN−γ分泌の減少を伴って、CCR7の非存在(CD44の発現によって決定)下で損なわれた(
図5C〜D)。まとめると、これらのデータは、CCR7が、CD8T細胞のごく特定の部分集団である活性型CD11c
+CD8 T細胞のPbA感染脳内への誘導および/または移動に関与し、そして、ECMの発病において重要な役割を有し得ることを示唆し得る。このことを確認するために、本発明者らはさらに、PbA感染中のCcr7
−/−マウスの脾臓におけるCD11c
+CD8 T細胞のパーセンテージの低下が、脾臓における以前のプライミングにおける欠陥によって引き起こされたかどうかを決定した。CD8α
+DCは、CD8 T細胞応答をクロスプライミングし得るので、マウス脳マラリアの発病においてCD8 T細胞を病気に罹りやすくすることが示唆されている(Lundie,R.J.ら(2008).Proc NatlAcad Sci U S A 105,14509−14514.;Piva,L.ら(2012).J Immunol 189,1128−1132.)。このことと一致して、本発明者らは、脾臓内にCD8α DCを持たない塩基性ロイシンジッパー転写因子ATF様−3(Batf3)欠失マウス(Hildner,K.ら(2008).Science 322,1097−1100.)を用いて、PbAに感染させたときに、脾臓における活性型CD11c
+CD8 T細胞の数および脳におけるその蓄積は、Batf3
+/−コントロールと比較してBatf3
−/−マウスにおいて有意に損なわれていた(
図6EおよびF)。また、Batf3
−/−マウスが生存率の改善を示したことを確認した(
図6G)。他方、Ccr7
−/−マウスが、WTマウスの脾臓内のものとほぼ同等数のCD8α DCを有したことを考慮し(
図6E)、本発明者らは、CD8α DC上の機能的なCCR7発現がCD8 T細胞活性化に必要とされるかどうかを理解するための実験を設計した。
【0272】
(機能的なCCR7は、脾臓におけるCD11c
+CD8 T細胞のプライミングに必要とされる)
本発明者らは、インタクトなDCを有するがT/B細胞を有さない感染Rag2
−/−マウスからCDR8α DCを精製した(McLellan,A.D.ら(2002).Blood 99,2084−2093.)。Rag2
−/−マウスからの脾臓CD8α
+DCは、感染後5日目に高レベルのCCR7を発現したが、CD8α
−DCはこれを発現しなかった(
図6HおよびI)。これらのDCを精製するために、CD8α
+DCをまず、CD11b
+ビーズを用いてネガティブ選択によって濃縮し、次いで、NK細胞、マクロファージおよび顆粒球を除去し、そして、さらなるCD4
+細胞枯渇の後に純粋なCD8α
+DC集団を得た(95%超の純度、
図6B)。その後、高度に濃縮したCCR7
+CD8α
+DCを、Ccr7
−/−マウスに養子免疫した。濃縮CD8α
+DCの養子免疫は、Ccr7
−/−マウスにおいて、脳内の活性型CD11c
+CD8 T細胞(Ccr7
−/−マウス起源のもの)の補充を効率的に復活させ、ECMを加速させた(
図5E)。まとめると、これらの知見は、PbA感染中の活性型CD8α
+DC上の高レベルでの機能的CCR7発現が、おそらくは、CD11c
+CD8T細胞とその膨張を活性化することによって、ECMの発病において重要な役割を有することを示唆する。しかしながら、CD11c
+CD8 T細胞上のCCR7発現は、脳内へのこれらの病原性細胞の移動には不必要である。
【0273】
(OLF内で発現されるCCL21は、星状細胞の活性化と一致しており、CD11c
+CD8 T細胞のOLF内への移動にとって重要であり得る)
CCR7がCD11c
+CD8 T細胞のOLF内への移動に不必要であるとの知見は、CD8 T細胞のプライミング中のCCL21の重要性を意味している。しかしながら、CCL21の発現もまた、3日目から最終段階までPbA感染したOLFにおいて観察されたので、本発明者らはさらに、CCL21が、CCR7以外の代替的なケモカイン受容体相互作用を介してOLF内へのCD8T細胞の補充に関してさらなる役割を有し得るという仮説を立てた。CXCR3が、特に小膠細胞および星状細胞においてCCL21の代替的ケモカイン受容体となり得ること(Rappert,A.ら、(2002).J Immunol 168,3221−3226.;vanWeering,H.R.ら(2010).Brain Behav Immun 24,768−775.)、そして、CD8 T細胞の脳内への移動を担う重要なケモカイン受容体であること(Campanella,G.S.ら(2008).ProcNatl Acad Sci U S A 105,4814−4819.;Hansen,D.S.ら(2007).J Immunol 178,5779−5788.;Van denSteen,P.E.ら(2008).Eur J Immunol 38,1082−1095.)を考慮し、本発明者らはさらに、感染したOLFにおけるCCL21の局在性および/または供給源を分析した。OLF内でCCL21を発現する細胞型を扱うことは困難であったが、CCL21染色は、星状細胞がしばしば同時局在化する炎症を起こした血管の内皮に限定されていた(
図6A)。星状細胞は、そのエンドフィートを介して血管の変化を監視し、感知する特殊化された細胞であり、ECMの間には、網膜におけるその再分配が関係付けられている(Medana,I.M.ら、(1996).Glia 16,51−64.)。感染後6日目には、OLFにおける星状細胞の形態変化(例えば、不十分な分布、厚くより長い突起)が明らかとなり、星状細胞とPECAM染色との相互関係は、大きく乱されていた(
図6B)。興味深いことに、特にその線維様構造によるCCL21染色は、OLF内のCD8 T細胞と密接に相互関係していた(図は示さず、この省略した図ではCD8 T細胞がOLF内のCCL21と関連する様子が示される。感染後6日目の、PbA感染したWTマウスからのOLF切片を、抗CCL21(緑色)および抗CD8(赤色)抗体で染色した。核をDAPI(青色)により可視化した。スケールバーは10μmである。)矢印はCD8T細胞と相互作用するCCL21の線維様構造を示す。CCL21とCXCR3発現CD11c
+CD8 T細胞との間に化学走性相互作用が存在するかどうかを検討するために、本発明者らは次に、インビトロトランスウェル移動アッセイを行った。その結果に見られるように、CXCR3
+CD11c
+CD8 T細胞はCCL21に向かって用量依存性に移動したが、この移動は、抗CCL21抗体によって特異的にブロックされ(図は省略する)、CCL21が、ECMの間にCXCR3にとっての代替的ケモカインリガンドとして機能し得ることを示唆する。省略した図では、増加する濃度(0、0.1、1および2μg/ml)のCCL21に応じた、感染したWTマウスからの精製脾臓CD11c
+CXCR3
+CD8 T細胞の移動を示される。ポジティブコントロールとしてヒトSDF1−α(80ng/ml)を使用し、(E)CCL21(1μg/ml)および/または抗CCL21抗体(1および5μg/ml)に対する応答を検討した。移動した細胞を三連のウェルから回収し、フローサイトメーターでカウントし、そして、ケモカイン誘導性の移動を、非刺激のコントロール(灰色の点線)に対して標準化し、非刺激コントロールの移動に対する割合(%)として示し、抗CCL21抗体によって特異的にブロックされることが示された。
【0274】
(実施例3:脳マラリアの予防及び治療)
次に、CCL21−CXCR3−CCR7シグナル伝達系をブロックすることで、脳マラリアが予防および治療することができるのではないかと考え、その例として抗体を用いた実験を行った。
【0275】
(CCL21−CCR7−CXCR3軸のブロックはECM治療のための新規ストラテジーである)
CCL21−CCR7−CXCR3軸がCD8α DC−CD8 T細胞媒介性のECM免疫病理において重要な役割を有することを考慮し、本発明者らは、CCL21がECMの治療のための治療標的として利用されうるかどうかを評価した。感染の最初の3日間の、抗CCL21抗体でのOPbA感染マウスのインビボ処置は、アイソタイプコントロールで処置したマウスと比較して、マウスにおける有意に良好な生存につながった(
図6F、
**p<0.01)。しかしながら、感染後4日目の抗CCL21抗体処置は、ECMの進行に対して顕著な効果を有さず(データ示さず)、ECMの後期段階の間のCCL21の関与が、他のエフェクター機構の活性化によって損なわれ得ることが示唆された。それゆえ、本発明者らは、CCR21とCXCR3の標的化の組み合わせを行った。概念実証として、感染後4日目および5日目における準最適用量の抗体(100μg)によるCXCR3のブロッキングは、WTの対応マウスと比較して、Ccr7
−/−マウスにおいてECMからの有意な生存をもたらした(
図6D)。同様に、嗅覚を喪失した日(感染後4日目)の抗CXCR3+CCL21抗体混合物による組み合わせ抗体治療は、抗CXCR3抗体単独治療よりも良好なECMからの生存をもたらした(図は示さず)。これらのデータは、ケモカインの組み合わせブロッキングがECMからの脱出を導き得る新規治療ストラテジーとして活用され得ることを示唆した。省略した図では、組み合わせ抗ケモカイン抗体治療の生存曲線を示が示される。抗CXCR3および抗CCL21抗体の混合物を、嗅覚の喪失が始まった感染後4日目に注射した。抗CCL21抗体注射は5日目にも繰り返した。Log−rank(Mantel−Cox)検定により、コントロール 対 抗CXCR3抗体群、そして、コントロール 対 組合せ治療群で
*p<0.05(各群n=5)。その結果、抗CXCR3抗体単独治療よりも良好なECMからの生存をもたらしたことが示された。
【0276】
(実施例4:霊長類での確認:脳マラリアと嗅球の関係性)
次に、本実施例では、脳マラリアと嗅球の関係性に関する実験を霊長類で行う。
【0277】
(嗅球は脳マラリアのサルモデルにおいて標的化される)
本発明者らは最後に、我々の知見が非ヒト霊長類のOLFのMRIを行うことによって、ヒトにも応用可能であるかどうかを検討する。ニホンザル(Macaca fuscata)のP.coatneyi感染は、脳マラリアの霊長類モデルである(Kawai,S.およびSugiyama,M.(2010).Acta Trop 114,152−156.)。P.coatneyi感染した赤血球のi.v.接種後、サルを毎日追跡し、血液スメアから寄生虫血症レベルをカウントする。寄生虫血症レベルが低く、おそらくは毛細血管内に隔離されており、サルが典型的な症状を示し、昏睡状態となった終わりに、検死解剖を行う。頭蓋を摘出した後、頭部を4% パラホルムアルデヒド中で固定し、7T MRIを用いて全頭部のイメージングを行う。7TMRIは、OLF内でいくつかの疑わしい出血スポットを検出すること、および脳の他の部分には出血の徴候を確認することができる。出血スポットの存在を確認するために、OLFを取り出し、11.7T MRIによるイメージングを行う。超高磁場イメージングは、マウスと同様に、P.coatneyi感染後のサルのOLF内で出血が生じることを確認することができる。これに対して、ナイーブなサル、ならびに、重篤なマラリアモデルであるが脳マラリアではないP.knowlesii感染サルからのOLFでは低密度な領域は存在しないことを確認することが出来る(White,N.J.(2008).Clin Infect Dis 46,172−173.)。
【0278】
予備的な実験結果では、サルでもマウスと同様の結果が出ていることが確認されている。
【0279】
(考察)
脳は、BBBの破壊、血管漏出、免疫細胞の蓄積(特に、CD8 T細胞の浸潤)といった多数の病理学的事象に起因してECM中に重度に機能不全となるが、脳が破壊される正確な位置はあまり理解されていない。本研究において、本発明者らは、マウスおよび非ヒト霊長類の両方において、OLF領域がECM中の血管漏出の攻撃を受けやすい場所であることを同定したが、この発見は、超高磁場MRIを、MP生体イメージング顕微鏡と組み合わせて用いることによってのみ可能となり得た。本発明者らはさらに、ECMにおいて昏睡状態の開始前に、初期の症状である嗅覚の喪失が存在することを同定した。1日でも早いマラリア性昏睡の検出が治療の成功率を劇的に増大させ得ることを考慮すると、マラリア感染中のこの以前には気付かれていなかった真に見過ごされていた位置と、嗅覚の喪失の検出は、ECMの早期の安価でかつ容易な診断を提供し得、昏睡状態とその後の状態が確立する前の早期治療を可能にし得る。OLFを介したECMの病理の基礎的機構の探求において、本発明者らは、OLFの星状細胞から分泌されたCCL21が、CXCR3ケモカイン軸を利用することにより、病理学的なCD11c
+CD8 T細胞の脳内への補充において役割を有し得ることを見い出した(
図7)。本発明者らはさらに、この新たな理解を、ECMの初期症状である嗅覚の喪失が顕らかとなった時点で、抗体の組み合わせによりケモカイン−受容体相互作用をブロックすることによる新規治療ストラテジーへと発展させた。
【0280】
興味深い疑問は、何故OLFがPlasmodium寄生虫によって影響を受ける最初の場所なのか、ということである。OLFは、様々な方向(放射状および接線方向)を向いた高密度の毛細血管から構成され(
図2A〜BおよびムービーS1)、このような構造は、血管を取り囲む星状細胞の細いエンドフィートとの密着結合のネットワークを呈し、BBBの「ガーディアン」を形作っている。これが血液と神経組織との間の物質の流れを制限するが、これはおそらく、密着結合が星状細胞間で情報を伝達する能力を介するものであり得る(Bailey,M.S.およびShipley,M.T.(1993).J Comp Neurol 328,501−526.;Chen,Y.ら、(2013).J Biomed Opt 18,126012.;Whitman,M.C.ら(2009).J Comp Neurol 516,94−104.)。本研究において、OLFの神経層(ONL)、糸球層(GL)周囲の血管足場、ならびに、僧帽細胞層(MCL)程度の深さが、PbA感染赤血球または寄生虫に関連した免疫学的事象による標的とされた。現在、本発明者らは、どの寄生虫または関連する因子がこのことに貢献し得るかを理解していないが、ECMの間に、OLF内の密着結合ネットワーク(ZO−1)が標的とされ、おそらくは破壊されていた可能性がある。末梢の寄生虫負荷量が非常に少ない場合でも、感染後3日目には、GLおよびMCLにおいて豊富な血管周囲の星状細胞エンドフィートが血管の変化を感知する可能性がある(Bailey,M.S.およびShipley,M.T.(1993).J Comp Neurol 328,501−526.;De Saint Jan,D.およびWestbrook,G.L.(2005).J Neurosci 25,2917−2924.;Petzold,G.C.ら、(2008).Neuron 58,897−910.)。ECM発病の際にも、毛細管細静脈および/または細動脈後の脳において同様の事象が報告された(Cabrales,P.ら、(2010).Am J Pathol 176,1306−1315.;Nacer,A.ら、(2012).PLoS Pathog 8,e1002982.)が、ECM発病の際に異なる解剖学的構造に異なる役割が存在するかどうかについては、さらなる検討が必要である。
【0281】
OLFは、OLFの神経投射、特に、化学感受性の動的な位置として知られる。OLF神経は、鼻粘膜から始まり、篩板を経由して嗅球で終わる。リンパ管や血管がこれらの神経を取り囲み、これらの管を通じて、分子、細胞、そして病原体さえもが、脳の実質へのアクセスを獲得し得る(Danielyan,L.ら(2009).Eur J CellBiol 88,315−324.)。近年の研究は、神経細胞が、中枢神経系(CNS)から神経を介して、脳血管に沿ってOLFに向かって移動することを明らかにしており(Bovetti,S.ら(2007).J Neurosci 27,5976−5980.)、OLFが外的環境とCNSとの間の動的な細胞移動の出入口となり得ることを示唆している。それゆえ、神経変性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病、そして、全身性エリテマトーデス(SLE)のような自己免疫疾患を罹患する患者が、初期症状としてOLFの機能不全を経験するのは合理的である(Mesholam,R.I.ら(1998).ArchNeurol 55,84−90.;Perricone,C.ら(2012).Smell and Autoimmunity:A Comprehensive Review.Clin Rev Allergy Immunol.(2012年12月13日オンライン版公開,doi:10.1007/s12016−012−8343−x);Talamo,B.R.ら(1989).Nature 337,736−739.)。同様に、本発明者らの知見は、iRBCが血管の内部を移動したとしても、これらの密集した様々な方向に構造化された毛細血管が、Plasmodium寄生虫の付着/閉塞に適した環境ともなり、これらの連続した事象が、嗅覚の喪失の理由となり得ることを意味している。
【0282】
本研究は、OLFからのBBB開口に先行して関与し得る因子を同定した。BBB漏出に関与する因子の一つは、高熱であり得る。マウス敗血症モデルと同様に、マウスマラリアモデルにおいて体温調節が存在するはずであると推測されるが、現在、マウスマラリアにおいてる熱から起こる反応は報告されていない(Lamb,T.J.ら(2006).Expert RevMol Med 8,1−22.)。さらに、マウスの脳マラリアは、ヒトの感染とは対照的に、低体温症を引き起こすと考えられる(Grau,G.E.ら(1991).Eur J Immunol21,2265−2267.)。サーマルカメラを用いることによって、最近開発された新しいが比較的単純な技術(AoshiおよびIshii、論文投稿準備中、特開2012−231725参照)が、熱損や死といった、疾患の最終的な顕在化の24時間前に、別の発熱期間が生じることを検出した。重要なことに、この発熱期間は、重篤な嗅覚の喪失と相関していた。マウスのサーカディアンリズムが、単一時点における正確な発熱の測定を妨げることを考慮すると、以前の研究が、疾患の最終段階における最終的な熱損しか測定できなかったことは驚くべきことではない。本発明者らは、全身性および局所性のサイトカインおよびケモカインストームが、ヒトの脳マラリアの場合と同様に、マウスにおいて高熱の攻撃を引き起こし得、そしておそらくは、BBBの完全性の喪失において主要な役割を有したと結論付けた。重要なことに、Rag2
−/−マウスならびに非致死性および致死性のPy感染において高熱が存在しないことは、発熱がECMに関連しており、脳マラリアの間のBBB漏出に関連し得るという本発明者らの知見を確認し得る。しかしながら、ECMの間に発熱を引き起こすメディエーターとそのBBB破壊に対する直接的な役割は、現在未知のままである。発熱の機構とそのサイトカイン血症との関連性の科学的な理解は、LPSのような大部分は細菌性の生成物と、発熱がサイトカインIL−1βおよびTNFαとよく相関することが知られるLPSチャレンジモデルとを用いてしか行われていない(Netea,M.G.ら、(2000).Clin Infect Dis 31 Supp15,S178−184.)。これに対し、これらとまったく同じサイトカインが上昇し、マラリア性の発熱を引き起こすマウスマラリアにおいて入手可能な明確な情報および直接的な相関性は存在しない。明らかに、この領域にはさらなる検討が必要である。
【0283】
星状細胞は、血流の調節とBBBの維持に必須の一般的なCNS駐在細胞である。星状細胞はまた、生理学的状態および病理学的状態の間に広範な種々のケモカインを発現することによって、CNSの免疫防御においても重要な働きを有する(de Haas,A.H.ら(2007).MolNeurobiol 36,137−151.;Medana,I.M.ら、(1996).Glia 16,51−64.)。さらに、星状細胞は、CNS損傷および感染に応答してCCL21発現を増加させる(Lalor,S.J.およびSegal,B.M.(2010).J Neuroimmunol 224,56−61.;Noor,S.ら(2010).Infect Immun 78,2257−2263.)。OLF、特に、非常に多数の星状細胞が存在するGLにおけるCCL21発現の勾配が増加していることから、本発明者らは、Ccr7欠失マウスを検討することにした。なぜならば、CCR7は、そのリガンドであるCCL19およびCCL21との相互作用を介して、CNSの免疫監視のためのリンパ球の往来を調節しているからである(Noor,S.およびWilson,E.H.(2012).J Neuroinflammation 9,77.)。加えて、これまでの研究が、CCR1、CCR2、CCR5、CCR7、CCR8、CXCR3およびCXCR1のようなケモカイン受容体が、脳内への細胞の移動にとって重要であり得ること(Miu,J.ら(2008).J Immunol 180,1217−1230.)、そして、ケモカイン/ケモカイン受容体を欠失するマウスにおいて、CCR1およびCCR2がECMの発病に不必要であったのに対し、CCR5とCXCR3は、脳マラリアの最中に脳内へのCD8T細胞の移動を増強したこと(Belnoue,E.ら(2003).Infect Immun71,3648−3651.;Belnoue,E.ら(2003).Blood 101,4253−4259.;Hansen,D.S.(2012).PLoS Pathog 8,e1003045.;Miu,J.ら(2008).J Immunol 180,1217−1230.)を報告している。抗ウイルス性のエフェクターおよびメモリーCTL応答の誘導および維持におけるCCR7の役割は、Ccr7
−/−マウスにおいて徹底的に検討されているが(Junt,T.ら(2004).J Immunol 173,6684−6693.)、ECMなどの重篤なマラリアモデルにおけるCCR7の役割はこれまでに検討されていなかった。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス感染モデルにおいて、CCR7は、抗ウイルス性のエフェクターおよびメモリーCTLの移動および増殖の協調にとって重要であった(Junt,T.ら(2004).J Immunol 173,6684−6693.)。同様に、本発明者らは、CD11cを発現するエフェクターCD8 T細胞の増殖および移動が、CCR7の非存在下において、脾臓ならびに脳でひどく損なわれていることを見い出した。しかしながら、Rag2
−/−マウスからのCD8α DCを用いた本発明者らの詳細な分析からは、CD11c
+CD8 T細胞の増殖が、脾臓におけるCD8α DCからの抗原性刺激を必要とし、CCR7の存在お必要としたと結論付けるに至った。CD8α DCは、抗原、特に、死細胞からの抗原をT細胞に対してクロスプレゼンテーションし得ることが示唆された(Shortman,K.およびHeath,W.R.(2010).Immunol Rev 234,18−31.)。他方で、Batf3
−/−マウスが部分的(約50%)にしかECMから逃れることができないことを考慮すると、ECMの間に、BATF3、BATFおよびBATF2の組み合わさった作用の結果としてDC発症におけるBATFファミリーのメンバー間で代償が生じるのか、あるいは、他のDCタイプの間で代償が生じるのかについては、さらなる検討が必要である(Edelson,B.T.ら、(2011).Immunity 35,236−248.;Murphy,T.L.ら、(2013).Nat Rev Immunol 13,499−509.)。それにもかかわらず、これらの結果は、PbA感染中のCD8 T細胞のCD8α DCクロスプライミングが、エフェクターCD11c
+CD8 T細胞の増殖を誘導するCCR7を必要とし、これらのCD11c
+CD8 T細胞がOLFを介して脳内に移動し、最終的にはECMを引き起こすことを示した。しかしながら、活性化されたCD11c
+CD8 T細胞は、エフェクター期に、IP−10およびCXCR3のようないくつかのケモカインおよびケモカイン受容体を含む複数の分子を介して脳に移動する。CCL21がCD11c
+CD8 T細胞のプライミングに関与していることは明らかであるが、感染後3日目という感染早期のOLFにおけるCCL21の存在は、T細胞の移動についての化学走性の裏付けとのその関連性を意味した。本発明者らの仮説の裏付けとして、CXCR3は、特に星状細胞および小膠細胞において、CCL21の代替的ケモカイン受容体として認識されている(van Weering,H.R.ら(2010).BrainBehav Immun 24,768−775.)。さらに、CCL21が、トキソプラズマ感染後に脳において急速に増加し、T細胞の移動を裏付けることが示されている(Wilson,E.H.ら(2009).Immunity 30,300−311.)。それゆえ、CXCR3
+CD8 T細胞もまた、CCL21が関与する同様の機構によってOLFに移動し得る可能性がある。本発明者らによるインビトロのトランスウェル移動アッセイは、これらの仮説を裏付けるが、OLF機能不全の発症時(4日目)における抗CCL21抗体治療の効果が限られていることから、インビボでECMのエフェクター期に病理を引き起こす他の機構による代償が示唆され得る。とはいえ、本発明者らは、本明細書において、CCL21のブロッキング、抗CCL21治療、ならびに、CCR7−CCL21軸およびCXCR3−CCL21軸の妨害の組み合わせという新たな治療アプローチは、ECM処置のための新規ストラテジーとして開発され得るという「概念実証」を示す。嗅覚の喪失が、ECM症状の新たな早期診断マーカーとなり得、PbA感染後早くも4日目には、マウスの治療を可能にし得ることは特筆すべきである。
【0284】
まとめると、本研究は、OLFが、マウスおよびサルの両方において、多くの病原菌が脳に侵入するための「弱点」であり、それゆえ、その複雑な毛細管構造がECMを引き起こすPlasmodium寄生虫の標的となり得ることを実証する。マウスの研究はまた、病原性CD11c
+CD8 T細胞のような免疫細胞がOLFにおける微小出血を介して脳に侵入すると結論付けた。感染初期のOLFのGLにおけるCCL21は、病原性CD11c
+CD8 T細胞の蓄積の基礎的な機構の一つとなり得、CCL21の発現は、ECMの発症にとってのリスクファクターとなり得る(
図7)。これらの結果は、OLFの機能不全がECMの発症および早期診断の有用なマーカーであるという証拠を提供する。現在、マウスにおけるこれらの知見がヒトにも適用可能であるかどうかは不明である。特筆すべきことに、「幻嗅」(Perry,T.L.ら、(2009).Open Med 3,e10−16.)のように、ヒトにおけるOLFが関与する症状は、マウスのものとは異なり得る。嗅覚の喪失の新たな試験や、改良されたヒトOLF MRIイメージング(Wang,J.ら、(2011).AJNR Am J Neuroradiol 32,677−681.)のような技術が将来必要とされるのは明らかである。さらに、OLF、早期のBBB漏出および出血の位置は、脳マラリアにとって、ならびに、ヒトにおける自己免疫疾患および炎症性疾患を含む様々な神経免疫学的疾患にとって、有用な治療標的であることが証明され得る(Barresi,M.ら、(2012).J Neurol Sci 323,16−24.)。
【0285】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。