【0014】
海水は、天然の海水であっても人工海水であってもよい。海水中の塩分濃度は、3.1%〜3.8%である。
淡水は、塩分濃度が0.05%以下の水を意味し、その種類は特に限定されないが、水道水、蒸留水やイオン交換水などの純水、ミリQ水などの超純水などが含まれる。
水道水とは、家庭用に上水道から供給される水であり、日本の水道水が好ましい。なお、日本の平均的な水道水の電気伝導率は約100〜200μS/cmである。
純水とは、純度の高い水のことであり、イオン交換、蒸留、濾過、逆浸透膜処理などによって製造される。純水の電気伝導率は特に限定されないが、0.1〜1.0μS/cmであることが好ましい。
超純水とは、純水の中でも極めて純度の高い水のことであり、ミリQなどによって製造できる。超純水の電気伝導率は特に限定されないが、0.1μS/cm未満であることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0023】
実施例1 純水又は水道水添加によるマガキ幼生の遊泳または匍匐停止効果
1.
試験方法
飼育マガキ幼生(眼点アリ)を目合い100μmのメッシュで回収し、試験海水(0.3μmフィルター濾過後)に移した。幼生を含んだ海水を、96wマイクロプレートの各ウエルに、約10個体のマガキ幼生が入るように、100μLずつ入れた。
純水は、Elix Advantage(Merck)で作成した。水道水は、広島県廿日市市宮島口西1丁目2−6、あるいは兵庫県姫路市白浜町甲770番地に設置された水道の蛇口から得られた水を用いた。
【0024】
倒立顕微鏡でマガキ幼生を観察し、全個体遊泳中であることを確認した後、純水または水道水を、20〜100μLまで添加量を変えながら試験容器に添加した(表1、2)。
純水または水道水を添加後、ストップウォッチを用いて5分観察し、その間、閉殻を継続した個体の数を記録した。データは統計解析ソフトR(3.2.0)の一般化線形モデル(glm, probit)で解析した。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
2.
結果
純水添加によるカキ幼生の遊泳または匍匐の停止効果の結果を表1と
図1に示した。同様に水道水の結果を表2と
図2に示した。
図1、2の推定曲線により、試験海水100μL中のカキ幼生に対して半数閉殻継続率(5分)となる添加量は、純水が21.1μL、水道水が62.7μLであり、純水の方が高い効果を示した。9割閉殻継続率(5分)で比較すると、純水が45.3μL、水道水が79.5μLであった。
【0028】
このように、純水の場合は試験海水の半分、水道水の場合は試験海水と等量を添加することにより、ほとんどのカキ幼生の遊泳匍匐の遊泳または匍匐を少なくとも5分間停止させることが可能である。
【0029】
実施例2 水添加により閉殻した個体が回復するまでの時間
1.
試験方法
実施例1と同様に、96wマイクロプレートの各ウエルに、10個体のマガキ幼生が入るように、100μLずつ試験海水を入れた。倒立顕微鏡で全ての個体が遊泳していることを確認した後、水道水50μLまたは純水30μLを添加した。
各水を添加した後、経時観察を行った。ストップウォッチを用い、各個体が回復(遊泳あるいは匍匐を開始すること)した時間を記録した。回復するまでに要した時間の短い順に並び変えたデータを表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
2.
結果
純水30μL添加の場合も水道水50μL添加の場合も、マガキ幼生は、いったん閉殻した後、時間と共に回復し、遊泳を始めた。水道水50μL添加の場合5分以内に全てが回復したが、純水の場合は30μLの添加で、最初の1個体が回復するまでに3分近い時間を要した。
このように、水道水または純水の添加によってマガキ幼生を閉殻させても、条件を調節することで、水を交換しなくても回復しうる。
【0032】
実施例3 水添加処理で回収したカキ幼生の付着及び変態
1.
試験方法
数十個体(>20)のマガキ幼生を含む海水25mLをいれた50mL遠沈管を3本準備した。全幼生が遊泳していることを確認し、試験海水(対照)、純水、水道水を、それぞれの遠沈管に25mLずつ加えた。遠沈管を転倒させ、ゆるやかに混ぜて5分後、マガキ幼生が沈降していることを確認し、マガキ幼生を回収した。対照の場合は試験海水添加直後、マガキ幼生を回収した。回収したマガキ幼生を50mLの海水を加え、シャーレに移しかえ、それぞれ20個体を6wプレートに移して飼育した。エサとして、キートセラス(sp.)培養液1滴を与えた。その後定期的に4.17日目まで観察を行い、遊泳匍匐する個体数、付着した個体数及び死亡した個体数を計測した。
【0033】
2.
結果
水添加処理後に試験海水を交換した場合のカキ幼生の観察結果を表4に示した。多くのマガキ幼生が処理後数日生存し、付着変態した(
図3)。
このように、淡水添加処理によって回収したマガキ幼生は、海水に再懸濁することにより、生体としての実験や養殖に用いることが可能である。さらに、淡水添加により、生存率や付着率が高くなる。
【0034】
【表4】
【0035】
実施例4 分離筒によるマガキ幼生の回収
1.
方法
下部に設置されたコックを閉じた分離筒(
図4)内に3μmフィルターでろ過した海水300mLを入れ、マガキペディペリンジャー幼生を20個体入れた。水道水300mLを加え、薬さじで10回撹拌し、30秒静置した。再び10回撹拌し、30秒静置し、コックを開き、2mLずつ希釈海水を分取し、各分画中の幼生の個数を調べた。同じ試験を繰り返して3度行った。
【0036】
2.
結果
分離筒によるマガキペディペリンジャー幼生は、試験区では分画1の平均回収率が78%であり、大半が分画1で回収されていることが判明した(表5)。
【0037】
【表5】
【0038】
実施例5 夾雑プランクトンの除去効果
1.
方法
1―1.
海水採取
マガキ採苗候補地で海水500L分のプランクトンを北原式表面プランクトンネット(REGOSHA, #5511)を用いて採集した。採集地点A〜Eで各々2試料(海水500L分×2)を採集した。
【0039】
1―2.
幼生分離
1つの試料を用い、以下の工程により、幼生分離を行った(
図5)。
1)プランクトンネットから採集したプランクトンを回収、
2)回収した試料を400μmメッシュでろ過し、
3)ろ過画分を200μmメッシュでろ過し、200μmメッシュ上に残った二枚貝幼生を含む微小物質を回収し、
4)回収した微小物質を、60μmメッシュで不純物をろ過した水道水と海水の混合液(1:1)に再懸濁し、約1〜2分間の静置後、分離筒下部から貝類幼生を含んだ沈殿画分を回収して、試料とした(以下、分離試料と称する)。
【0040】
もう1つの試料は、幼生分離を行わず、ホルマリン固定(5%容)した後、400μmメッシュでろ過し、ろ過画分を200μmメッシュでろ過し、メッシュ上に残った分画を遠沈管に移して24時間放置し、沈降容積を測定した。そして、沈降したカキ幼生を含む下層の分画を避け、上層部から、その一部(100μL)を回収して試料とした(以下、夾雑分画と称する)。
【0041】
分離試料と夾雑分画について、それぞれ実体顕微鏡を用いてプランクトンの同定・計数を行い、採取した500L海水中当たりの個体数に換算した。
【0042】
2.
結果
夾雑分画の24時間沈降容積は1.3〜3.9mLであった。それに対し、分離試料では、全てが50μL以下であった(
図6)。
プランクトン分析の結果を表6に示した。主要な夾雑プランクトン(たとえば、マガキ養殖の妨げとなる、フジツボの幼生を含むノープリウス幼生やキプリス幼生)は、分離試料中にはわずかしか含まれず、除去率は96%以上で、多くはほぼ100%であった。
【0043】
【表6】