【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)金属イオン、オキソアニオン、及びプロトン配位性分子を含み、前記オキソアニオン及び/又は前記プロトン配位性分子が、前記金属イオンに配位して配位高分子を形成しているプロトン伝導体と、
(B)エンジニアリングプラスチックを含む樹脂の樹脂フィラーと、
を含み、
前記樹脂が、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミド、及びこれらの誘導体から成る群から選ばれる1種以上であり、
前記プロトン伝導体と前記樹脂フィラーとの重量比が、1:0.1〜3の範囲内であり、
膜厚が50μm以上500μm以下であることを特徴とするプロトン伝導膜。
前記プロトン配位性分子が、イミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、及びこれらの誘導体から成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
前記金属イオンが、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオン、及びガリウムイオンから成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
前記プロトン伝導体が、金属酸化物、有機ポリマー、及びアルカリ金属イオンから成る群から選ばれる1種以上である添加材料を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を説明する。本発明の伝導膜は、(A)金属イオン、オキソアニオン、及びプロトン配位性分子を含み、オキソアニオン及び/又はプロトン配位性分子が、金属イオンに配位して配位高分子を形成しているプロトン伝導体と、(B)エンジニアリングプラスチックを含む樹脂の樹脂フィラーとを含む。
【0013】
本発明における金属イオンは特に限定されるものではないが、オキソアニオン及び/又はプロトン配位性分子との配位結合の形成しやすさの観点から、高周期の遷移金属イオンや典型金属イオンが好ましい。中でも、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオン、及びガリウムイオンが好ましい。
【0014】
本発明におけるオキソアニオンとしては、例えば、リン酸イオン、硫酸イオン等が挙げられるが、水素に対する化学的安定性から、リン酸イオンが好ましい。リン酸イオンは、プロトンが1つ配位したリン酸水素イオン、又はプロトンが2つ配位したリン酸二水素イオンの形態であってもよい。本発明におけるオキソアニオンは、例えば、縮合が起こっていない単量体の形態で金属イオンに配位しており、これによりプロトン濃度が高い状態で保持され、水分に対する安定性にも優れる。
【0015】
また、本発明におけるプロトン配位性分子は、分子内にプロトンを配位するための配位点を好ましくは2つ以上持った分子である。イオン伝導性の観点では、プロトンの配位と放出とのバランスに優れた配位点を持ったイミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール、及びこれらの誘導体が好ましい。ここで誘導体とは、化学構造の一部を他の原子又は原子団で置き換えたものを意味し、その具体例としては、イミダゾールに対して、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、ヒスタミン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0016】
また、本発明におけるプロトン配位性分子としては、例えば、一般式R-NH
2で表される第一級アミン、一般式R
1(R
2)-NHで表される第二級アミン、一般式R
1(R
2)(R
3)-Nで表される第三級アミンが挙げられる。ここで、R、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、脂環式炭化水素基、及び複素環基のうちのいずれかである。
【0017】
このような第一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等の低級アルキルアミン、アニリン、トルイジン等の芳香族アミンが挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等のジ低級アルキルアミン、N−メチルアニリン、N−メチルトルイジン等の芳香族二級アミン等が挙げられる。
【0018】
第三級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリ低級アルキルアミンが挙げられる。また、本発明におけるプロトン配位性分子として、例えば、エチレンジアミン、そのN−低級アルキル誘導体(例えばテトラメチルエチレンジアミン)等の炭素直鎖ジアミンを挙げることができる。
【0019】
さらには、本発明におけるプロトン配位性分子として、ピロリジン、N−低級アルキルピロリジン(例えばN−メチルピロリジン)、ピペリジン、N−低級アルキルピペリジン(例えばN−メチルピペリジン)、モルホリン、N−低級アルキルモルホリン(例えばN−メチルモルホリン)等の飽和環状アミンを挙げることができる。
【0020】
またさらには、本発明におけるプロトン配位性分子として、ピペラジン、N−低級ジアルキルピペラジン(例えば、N、N−ジメチルピペラジン)、1、4−ジアザビシクロ [2.2.2]オクタン(別名:トリエチレンジアミン)等の飽和環状ジアミン等を挙げることができる。
【0021】
本発明におけるプロトン伝導体は、金属イオン、オキソアニオン、及びプロトン配位性分子を含むが、これら構成要素が効率的に配位高分子を形成するためには、金属イオン1モルに対して、オキソアニオンで1〜4モル、プロトン配位性分子で1〜3モルの配合比率であることが望ましい。オキソアニオン、プロトン配位性分子が1モルより少ないと配位高分子を形成しないことがあり、またオキソアニオンを4モルより多く配合した場合とプロトン配位性分子を3モルより多く配合した場合では、プロトン伝導体が固体状にならず、さらに非常に高い吸湿性を示し、形状安定性が著しく低下してしまうことがある。
【0022】
本発明におけるプロトン伝導体は、金属イオン源としての金属酸化物、オキソ酸、プロトン配位性分子を混合攪拌することで得られる。前記混合攪拌工程では、各原料を溶解又は均一に分散可能な溶媒を用いることができるが、製造コストの観点から無溶媒反応によって行うことが好ましい。また上記製造工程において、上記プロトン伝導体を200℃よりも高い温度で熱処理すると、含まれるリン酸イオンの縮合が起こることがあるため、200℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0023】
本発明におけるプロトン伝導体は、金属イオン、オキソアニオン、及びプロトン配位性分子に加えて、添加材料を含んでいてもよい。この添加材料としては、例えば、金属酸化物、有機ポリマー、及びアルカリ金属イオンから成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの添加材料を含む場合、プロトン伝導体の高温(例えば100℃以上)における性能を損なうことなく、低温(例えば100℃未満)におけるイオン伝導率が一層高くなる。
【0024】
添加材料の添加量は、金属イオン、オキソアニオン、及びプロトン配位性分子の合計重量を100重量部としたとき、1〜20重量部の範囲が好ましく、添加材料が金属酸化物又は有機ポリマーである場合は、5〜20重量部の範囲が好ましい。添加量がこの範囲内である場合、プロトン伝導体の高温(例えば100℃以上)における性能を損なうことなく、低温(例えば100℃未満)におけるイオン伝導率が一層高くなる。
【0025】
前記金属酸化物としては、例えば、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、WO
3、MoO
3、ZrO
2、及びV
2O
5から成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの金属酸化物を用いる場合、プロトン伝導体の高温(例えば100℃以上)における性能を損なうことなく、低温(例えば100℃未満)におけるイオン伝導率が一層高くなる。金属酸化物の粒子径は、5〜500nmの範囲が好ましい。粒子径がこの範囲内である場合、プロトン伝導体の高温(例えば100℃以上)における性能を損なうことなく、低温(例えば100℃未満)におけるイオン伝導率が一層高くなる。なお、粒子径とは、金属酸化物の粒子を電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、得られた画像を画像解析する方法で得られる値である。
【0026】
前記有機ポリマーは、酸性官能基を有することが好ましい。酸性官能基を有する有機ポリマーを用いる場合、プロトン伝導体の高温(例えば100℃以上)における性能を損なうことなく、低温(例えば100℃未満)におけるイオン伝導率が一層高くなる。酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO
3H)、及びホスホン酸基(−PO
3H
2)のいずれかが挙げられる。有機ポリマーのpHは、4以下の範囲が好ましい。pHがこの範囲内である場合、プロトン伝導体の高温(例えば100℃以上)における性能を損なうことなく、低温(例えば100℃未満)におけるイオン伝導率が一層高くなる。
【0027】
前記有機ポリマーとしては、例えば、
図1に示すポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルホスホン酸(PVPA)、ポリスチレンスルホン酸(PSSA)、デオキシリボ核酸(DNA)等が挙げられる。
【0028】
アルカリ金属イオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、及びCsから成る群から選ばれる1種以上の金属イオンが挙げられる。これらのアルカリ金属イオンを用いる場合、プロトン伝導体のイオン伝導率が、低温(例えば100℃未満)、及び高温(例えば100℃以上)において一層高くなる。
【0029】
上記の添加剤を含む場合、本発明におけるプロトン伝導体は、例えば、金属イオン源としての金属酸化物、オキソ酸、プロトン配位性分子、及び添加剤を混合攪拌することで得られる。混合攪拌においては、全原料を一度に混合攪拌することが好ましい。
【0030】
前記混合攪拌工程では、各原料を溶解又は均一に分散可能な溶媒を用いることができるが、製造コストの観点から無溶媒反応によって行うことが好ましい。また上記製造工程において、上記プロトン伝導体を200℃よりも高い温度で熱処理すると、含まれるリン酸イオンの縮合が起こることがあるため、200℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0031】
本発明において、エンジニアリングプラスチックとは、100℃以上でも分解、融解、破損しない耐熱性と、500kg/cm
2以上の引張り強さと、20000kg/cm
2以上の曲げ弾性率との全ての特性を満たす樹脂を意味する。エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0032】
本発明において、プロトン伝導体と樹脂フィラーとの重量比は、1:0.1〜3の範囲内であることが好ましい。
プロトン伝導体に対する樹脂フィラーの重量比が0.1以上であることにより、伝導膜の強度が一層強くなり、脆さが低減するので、伝導膜を薄膜化することが一層容易になる。また、プロトン伝導体に対する樹脂フィラーの重量比が3以下であることにより、伝導膜中でプロトン伝導性粒子が伝導パスを形成し易くなり、伝導膜のプロトン伝導性が一層高くなる。
【0033】
本発明の伝導膜は、例えば、以下の方法で製造できる。
(i) プロトン伝導体の粉末と、樹脂フィラー溶液とを混合し、混合液を調製する。ここで、樹脂フィラー溶液における樹脂フィラーの濃度は特に限定されないが、例えば、0.5〜30wt%とすることができる。また、樹脂フィラー溶液における溶媒は特に限定されないが、例えば、1−メチル−2−ピロリドン、アセトン、エタノール、ジメチルアセトアミド、それらから選択される2種以上の混合溶媒等が挙げられる。
【0034】
プロトン伝導体と樹脂フィラー溶液とを混合した後、プロトン伝導体の粉末を粉砕し、さらに微細化することができる。
(ii)混合液を低圧環境に置き、脱泡する。また、溶媒の一部を蒸発させて、混合液における樹脂フィラーの濃度を適切な濃度にまで高める。なお、この(ii)の工程は省略してもよい。
【0035】
(iii)混合液を平坦な板の表面にキャストする。その後、溶媒が蒸発すると、伝導膜が得られる。なお、伝導膜の膜厚は、単位面積当りのキャスト量により調整できる。板の周囲に堤を設け、板上に混合液を多く保持すれば、膜厚が大きい伝導膜を得ることができる。なお、混合液から伝導膜を形成する方法としては、キャスト法以外の他の周知の方法を用いてもよい。
【0036】
伝導膜の膜厚は、例えば、500μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下とすることができる。膜厚を上記の範囲内とすると、膜抵抗が一層低下する。また、伝導膜の膜厚は、例えば、1μm以上とすることができ、好ましくは10μm以上とすることができる。この場合、伝導膜の膜強度が一層向上する。
【0037】
本発明の燃料電池は、上記伝導膜を電解質として使用したものである。
(実施例)
1.プロトン伝導体X1の製造
酸化亜鉛210mg、85%リン酸530μL、及びイミダゾール350mgを乳鉢に量り取り、大気雰囲気下、常温で15分間攪拌混合した。その後、80℃で15時間乾燥させて、白色粉末(プロトン伝導体X1)を得た。
【0038】
プロトン伝導体X1における金属イオンの種類、プロトン配位性分子の種類、及び配合比率を表1に示す。
【0039】
【表1】
この粉末のX線結晶構造解析を行い、亜鉛イオンにリン酸イオンが配位した1次元の配位高分子とイミダゾールは上記配位高分子のリン酸イオンとプロトンを介して水素結合した結晶構造であることを確認した。X線結晶構造解析の結果を
図2に示す。さらに
31P−MAS−NMR測定を実施し、粉末中に縮合リン酸が存在しないことを確認した。
【0040】
また、プロトン伝導体X1に対し、粉末X線回折測定を行い、格子パラメータを測定した。粉末X線回折測定の条件は以下のとおりである。格子パラメータの測定結果を表2に示す。
【0041】
X線源:CuKα線
測定範囲:5°≦2θ≦40°
ステップ幅:0.04°
【0042】
【表2】
2.プロトン伝導体X2の製造
プロトン伝導体X1の製造方法と基本的には同様の製造方法であるが、金属イオンの種類、プロトン配位性分子の種類、及び配合比率を変え、表1に示す水準のプロトン伝導体X2を製造した。そして、プロトン伝導体X2について、X線結晶構造解析、及び格子パラメータの測定を行った。格子パラメータの測定結果を上記表2に示す。
【0043】
3.伝導膜Y1の製造
以下のようにして、伝導膜Y1を製造した。
(i) プロトン伝導体X1の粉末と、樹脂フィラー溶液とを混合し、混合液を調製した。ここで用いた樹脂フィラー溶液における樹脂フィラーの種類、溶媒の種類、及び樹脂フィラーの濃度は、表3に示すとおりである。また、調製した混合液における、プロトン伝導体X1に対する樹脂フィラーの重量比は、表3に示すとおりである。
【表3】
【0044】
なお、表3における「樹脂フィラー」の列が樹脂フィラーの種類を表し、「溶媒」の列が溶媒の種類を表し、「樹脂濃度」の列が樹脂フィラー溶液における樹脂フィラーの濃度を表し、「B/A比」の列がプロトン伝導体X1に対する樹脂フィラーの重量比を表す。
【0045】
(ii)混合液を低圧環境に置き、脱泡した。また、溶媒の一部を蒸発させて、混合液における樹脂フィラーの濃度を調整した。
(iii)混合液を平坦な板の表面にキャストした。その後、溶媒が蒸発すると、伝導膜Y1が得られた。伝導膜Y1の膜厚は、表3における「膜厚」の列に示すように、50μmであった。この膜厚は、マイクロメーターで測定した値、もしくは光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡での観察に基づき求めた値である。なお、キャストする混合液の量を少なくすれば、伝導膜Y1の膜厚を薄くすることができ、キャストする混合液の量を多くすれば、伝導膜Y1の膜厚を厚くすることができる。
【0046】
4.伝導膜Y2〜Y12の製造
伝導膜Y1の製造方法と基本的には同様の製造方法であるが、プロトン伝導体の種類、樹脂フィラーの種類、樹脂フィラー溶液における溶媒の種類、樹脂フィラー溶液における樹脂フィラーの濃度、及び混合液におけるプロトン伝導体に対する樹脂フィラーの重量比を種々に変えて、表3に示す伝導膜Y2〜Y12を製造した。
【0047】
ただし、伝導膜Y8とY12は、プロトン伝導体に樹脂フィラー溶液を混合せず、プロトン伝導体の粉のみを直径20mmの円形の型に入れ、室温にて円と垂直な方向から370MPaの力でプレス成形することで作製した膜である。
【0048】
伝導膜Y2〜Y12の膜厚は、表3における「膜厚」の列に示す値である。伝導膜Y2〜Y7の膜厚は、100μm以下とすることができた。なお、伝導膜Y2〜Y12のいずれにおいても、まず、膜厚100μm以下の薄膜形成を試みたが、伝導膜Y8〜Y12では、材質が脆すぎるため、そのような薄膜形成が不可能であった。そのため、伝導膜Y8、Y10、Y12については、膜厚が1000μmである膜を形成した。
【0049】
5.伝導膜Y1〜Y12の評価
(1)膜抵抗の測定
伝導膜Y1〜Y12を、
図3に示すような直径10mmの円形のシートに切り出し、電解質1とした。そして、電解質1の両側から、直径9mmの板状の白金担持カーボン電極3、5を120℃にて130kgの荷重をかけて圧着し、
図4に示す燃料電池の単セル7を製造した。
【0050】
上記のように製造した単セル7に対して、交流インピーダンス測定を行い、膜抵抗を測定した。測定は、120℃の温度、窒素ガス気流下、無加湿の条件で行い、0.1Hz〜1MHzの周波数領域、電圧振幅は10mVの条件で行った。測定結果を上記表3における「膜抵抗」の列に示す。表3に示されているように、伝導膜Y1〜Y7の膜抵抗は顕著に低かった。
(2)膜強度の測定
伝導膜Y1〜Y12について、膜強度を測定した。その測定方法は以下のとおりである。
【0051】
使用機器として、エー・アンド・ディー社製のテンシロンRTC−1310A型を用いた。試験片幅は10mmとし、試験片長さは35mmとした。測定は室温で実施し、試験片の長さ方向に10mm/minの速度で引っ張り、試験片の伸びに対する応力を測定し、その値から引張強度を算出した。この引張り強度を膜強度とした。
【0052】
膜強度の測定結果を上記表3における「膜強度」の列に示す。表3に示されているように、伝導膜Y1、Y2、Y4での膜強度は顕著に高かった。なお、表3における「膜強度」の列での「×」は、膜が脆すぎて膜強度を測定できなかったことを表す。
(3)120℃での耐熱試験
伝導膜Y1〜Y12について、120℃での耐熱試験を行った。その試験方法と、耐熱性の良否の判断基準とはそれぞれ以下のとおりである。
【0053】
窒素雰囲気での熱重量分析を行い、120℃まで試料を加熱した際の重量減少を測定した。その結果、(イ)熱分解による重量減少が観察されず、且つ(ロ)ホットプレート上にて膜を120℃に加熱した際に破損が生じない、という2つの条件を満たすものについては耐熱性を良好と判断し、上記(イ)、(ロ)のうち一方でも満たさなければ、耐熱性がないと判断した。
【0054】
耐熱試験の結果を上記表3における「耐熱試験」列に示す。表3に示されているように、伝導膜Y1〜Y7の耐熱性は顕著に高かった。
6.伝導膜Y1〜Y7が奏する効果
(1)伝導膜Y1〜Y7は、上述したように、高温下においても膜抵抗が低い。そのため、伝導膜Y1〜Y7から成る電解質を備えた燃料電池は、高温(例えば100℃以上)の条件でも使用できる。そのことにより、燃料電池の温度を高温として、電極触媒の被毒抑制をすることができる。また、燃料電池の温度を高温とすることで、排熱効率を向上させることができる。
【0055】
(2)伝導膜Y1〜Y7は、イオン伝導において水を媒介としない。そのため、伝導膜Y1〜Y7から成る電解質を備えた燃料電池は、無加湿又は低加湿条件で使用できる。また、電解質の水分を管理するシステムが不要となる。
【0056】
(3)伝導膜Y1〜Y7は固体状態であるため、伝導膜Y1〜Y7から成る電解質を備えた燃料電池では、液体の染み出しの問題、及び、染み出した液体が電極で反応することによる劣化や、混成電位により出力が低下してしまう問題が生じない。
【0057】
(4)伝導膜Y1〜Y7は、容易に薄膜化することができ、膜強度が高く、高温耐熱性が高い。