特許第6618254号(P6618254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618254
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】温度測定装置およびカテーテルシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/01 20060101AFI20191202BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20191202BHJP
   G01K 7/00 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   A61B5/01 250
   A61B5/00 102A
   G01K7/00 301M
   G01K7/00 311
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-260066(P2014-260066)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-119936(P2016-119936A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年2月6日
【審判番号】不服2018-14829(P2018-14829/J1)
【審判請求日】2018年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 康弘
【合議体】
【審判長】 伊藤 昌哉
【審判官】 信田 昌男
【審判官】 渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−517417(JP,A)
【文献】 特表2013−508058(JP,A)
【文献】 米国特許第5849028(US,A)
【文献】 特表2014−508547(JP,A)
【文献】 特開2013−22217(JP,A)
【文献】 特開平7−163527(JP,A)
【文献】 特開2007−229080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/01
G01K 1/00 - 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食道の内部温度に適用される温度測定装置であって、
先端付近に複数の金属リングを有するカテーテルシャフトと、前記複数の金属リングに対応付けて配置されると共に前記食道の内部温度を測定するための複数の温度センサと、を備えたカテーテルが接続される接続部と、
前記接続部に接続された前記カテーテルにおける前記複数の温度センサを利用して得られる複数の前記内部温度の情報を個別に表示する複数の温度表示部と、
前記複数の温度センサを利用して得られる複数の前記内部温度のうちの少なくとも1つの温度が第1温度閾値に到達したと判断された場合に、外部に警報を出力する警報出力部と
を備え、
前記複数の温度表示部が、前記温度測定装置内の上下方向に沿って、1列のみで直線状に並んで配置されており、
前記複数の温度表示部の配置順序が、前記カテーテルが前記食道に挿入された際における、対応する前記複数の温度センサおよび前記複数の金属リングにおける各配置順序と互いに一致することとなるように、
前記温度測定装置内において相対的に上側に配置された前記温度表示部は、前記カテーテルシャフトにおける相対的に基端側の前記金属リングに対応付けて配置された前記温度センサを利用して得られる、前記内部温度の情報を表示すると共に、
前記温度測定装置内において相対的に下側に配置された前記温度表示部は、前記カテーテルシャフトにおける相対的に先端側の前記金属リングに対応付けて配置された前記温度センサを利用して得られる、前記内部温度の情報を表示する
温度測定装置。
【請求項2】
前記温度表示部、前記温度センサおよび前記金属リングの個数がそれぞれ、4以上である
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記警報出力部は、
前記少なくとも1つの温度が、前記第1温度閾値の手前の第2温度閾値に到達したと判断された場合、
前記警報としての本警報に対する前段階としての、予備警報を出力する
請求項1または請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記警報出力部は、
前記複数の温度センサを利用して得られる複数の前記内部温度において、前記本警報を出力する条件を満たすと判断された温度と、前記予備警報を出力する条件を満たすと判断された温度と、の双方が同時に存在する場合、
前記本警報および前記予備警報のうち、前記本警報を優先して出力する
請求項3に記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記第1温度閾値として、上限値および下限値の双方が設けられており、
前記警報出力部は、前記少なくとも1つの温度が、前記上限値以上または前記下限値以下となった場合に、前記警報を出力する
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの温度が前記第1温度閾値に到達したと判断された場合に、
前記警報出力部が、所定の音声を利用して前記警報を出力すると共に、
前記複数の温度表示部における表示態様の変化を利用して、外部への通知が行われる
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【請求項7】
先端付近に複数の金属リングを有するカテーテルシャフトと、前記複数の金属リングに対応付けて配置されると共に食道の内部温度を測定するための複数の温度センサと、を備えたカテーテルと、
前記カテーテルにおける前記複数の温度センサを利用して、前記内部温度を測定する温度測定装置と
を備え、
前記温度測定装置は、
前記カテーテルが接続される接続部と、
前記接続部に接続された前記カテーテルにおける前記複数の温度センサを利用して得られる複数の前記内部温度の情報を個別に表示する複数の温度表示部と、
前記複数の温度センサを利用して得られる複数の前記内部温度のうちの少なくとも1つの温度が第1温度閾値に到達したと判断された場合に、外部に警報を出力する警報出力部と
を有し、
前記複数の温度表示部が、前記温度測定装置内の上下方向に沿って、1列のみで直線状に並んで配置されており、
前記複数の温度表示部の配置順序が、前記カテーテルが前記食道に挿入された際における、対応する前記複数の温度センサおよび前記複数の金属リングにおける各配置順序と互いに一致することとなるように、
前記温度測定装置内において相対的に上側に配置された前記温度表示部は、前記カテーテルシャフトにおける相対的に基端側の前記金属リングに対応付けて配置された前記温度センサを利用して得られる、前記内部温度の情報を表示すると共に、
前記温度測定装置内において相対的に下側に配置された前記温度表示部は、前記カテーテルシャフトにおける相対的に先端側の前記金属リングに対応付けて配置された前記温度センサを利用して得られる、前記内部温度の情報を表示する
カテーテルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食道などの体内の中空器官の内部温度を測定するための温度センサを有するカテーテルと、温度測定装置とを備えたカテーテルシステム、およびこのようなカテーテルシステムに適用される温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不整脈等の治療法の1つとして、例えば心臓内部の不整脈となっている部分をアブレーションカテーテルによって焼灼(アブレーション)する手術が行われている。この焼灼の手法は、一般的に、高周波電流を用いて高温焼灼(加熱)する手法と、液化亜酸化窒素や液体窒素等を用いて低温焼灼(冷却)する手法とに大別される。このようなアブレーションカテーテルを用いて、例えば心臓の左房後壁を焼灼する場合(左房アブレーション術の際には)、一般に、この左房後壁に近接する食道もが加熱または冷却され、食道が損傷を受けてしまうおそれがある。
【0003】
そこで、患者の鼻を通して(経鼻的アプローチによって)食道の内部に温度測定用のカテーテル(いわゆる食道カテーテル)を挿入し、食道内部(内壁)の温度に関する情報を測定(監視)する手法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。この温度測定用のカテーテルには、カテーテルシャフトにおける先端付近の金属リングの近傍に、そのような温度を測定するための温度センサが内蔵されている。また、この手法を実現するシステム(カテーテルシステム)は、上記した温度測定用のカテーテルと、このカテーテルにおける温度センサを利用して食道内部の温度を測定する温度測定装置と、により構成されている。
【0004】
このようにして食道内部の温度を監視することで、例えば上記した左房アブレーション術の際に、食道が損傷を受けてしまうおそれを回避することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−505592号公報
【特許文献2】特表2012−515612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したシステムでは一般に、温度測定用のカテーテルが食道などの体内の中空器官に挿入されて使用される際の、ユーザ(操作者)の利便性を向上させることが求められている。したがって、そのような使用の際の利便性を向上させる手法の提案が望まれる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、使用の際の利便性を向上させることが可能な温度測定装置およびカテーテルシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温度測定装置は、先端付近に複数の金属リングを有するカテーテルシャフトと、これら複数の金属リングに対応付けて配置されると共に食道の内部温度を測定するための複数の温度センサと、を備えたカテーテルが接続される接続部と、この接続部に接続されたカテーテルにおける複数の温度センサを利用して得られる複数の内部温度の情報を個別に表示する複数の温度表示部と、複数の温度センサを利用して得られる複数の内部温度のうちの少なくとも1つの温度が第1温度閾値に到達したと判断された場合に、外部に警報を出力する警報出力部とを備えたものである。これら複数の温度表示部は、この温度測定装置内の上下方向に沿って、1列のみで直線状に並んで配置されている。また、これら複数の温度表示部の配置順序は、カテーテルが食道に挿入された際における、対応する複数の温度センサおよび複数の金属リングにおける各配置順序と互いに一致することとなるように、この温度測定装置内において相対的に上側に配置された温度表示部は、カテーテルシャフトにおける相対的に基端側の金属リングに対応付けて配置された温度センサを利用して得られる内部温度の情報を表示すると共に、この温度測定装置内において相対的に下側に配置された温度表示部は、カテーテルシャフトにおける相対的に先端側の金属リングに対応付けて配置された温度センサを利用して得られる内部温度の情報を表示する。
【0009】
本発明のカテーテルシステムは、先端付近に複数の金属リングを有するカテーテルシャフトと、これら複数の金属リングに対応付けて配置されると共に食道の内部温度を測定するための複数の温度センサと、を備えたカテーテルと、このカテーテルにおける複数の温度センサを利用して上記内部温度を測定する、上記本発明の温度測定装置とを備えたものである。
【0010】
本発明の温度測定装置およびカテーテルシステムでは、カテーテルにおける複数の温度センサを利用して得られる複数の内部温度の情報を個別に表示する複数の温度表示部が、この温度測定装置内の上下方向に沿って、1列のみで直線状に並んで配置されている。また、これら複数の温度表示部の配置順序が、カテーテルが食道に挿入された際における、対応する複数の温度センサおよび複数の金属リングにおける各配置順序と互いに一致している。具体的には、この温度測定装置内において相対的に上側に配置された温度表示部は、カテーテルシャフトにおける相対的に基端側の金属リングに対応付けて配置された温度センサを利用して得られる、内部温度の情報を表示するようになっている。一方、この温度測定装置内において相対的に下側に配置された温度表示部は、カテーテルシャフトにおける相対的に先端側の金属リングに対応付けて配置された温度センサを利用して得られる、内部温度の情報を表示するようになっている。これにより、カテーテルが食道に挿入された際に、複数の金属リング(複数の温度センサ)の各位置と、対応する各内部温度の情報との対応関係が、直感的に結び付けて把握し易くなる。また、上記複数の内部温度のうちの少なくとも1つの温度が上記第1温度閾値に到達したと判断された場合に、警報が外部に出力されることで、食道の内部温度の監視が容易となり、利便性の更なる向上が図られる。
【0011】
また、上記温度表示部、上記温度センサおよび上記金属リングの個数はそれぞれ、4以上であるのが望ましい。このようにした場合、それらの個数が3以下である場合と比べ、上記した内部温度の測定範囲の広範化、あるいは、測定地点同士の間隔が密になることによる測定精度の向上が図られたり、測定範囲内での温度分布や温度勾配の把握がし易くなる。その結果、温度測定の際の利便性の更なる向上が実現される。
【0013】
また、上記警報出力部は、上記少なくとも1つの温度が上記第1温度閾値の手前の第2温度閾値に到達したと判断された場合に、上記警報としての本警報に対する前段階としての予備警報を出力するのが望ましい。このようにした場合、前段階としての予備警報が出力されることで、食道の内部温度の変化に対して事前に対処することができるようになり、利便性がより一層高まることになる。
【0014】
ここで更に、上記警報出力部は、複数の温度センサを利用して得られる複数の内部温度において、本警報を出力する条件を満たすと判断された温度と、予備警報を出力する条件を満たすと判断された温度との双方が同時に存在する場合に、本警報および予備警報のうちの本警報を優先して出力するのが望ましい。このようにした場合、予備警報よりも本警報のほうが優先的に出力されることで、優先度の高い温度測定地点に対して先に対処することができ、効率的な対応策を取ることが可能となる。
【0015】
また、上記警報出力部は、本警報と予備警報とを互いに区別した態様で出力するのが望ましい。このようにした場合、本警報と予備警報との間での操作者の誤認が防止され易くなり、利便性の更なる向上が図られる。
【0016】
ここで、上記第1温度閾値として上限値および下限値の双方を設けると共に、上記警報出力部は、上記少なくとも1つの温度が上限値以上または下限値以下となった場合に警報を出力するのが望ましい。このようにした場合、高温焼灼する手法の場合と低温焼灼する手法の場合との双方において、測定された内部温度に関する警告を出力することができ(双方の手法に対して警告動作が適用可能となり)、利便性がより一層高まることになる。
【0017】
また、上記少なくとも1つの温度が第1温度閾値に到達したと判断された場合に、上記警報出力部が所定の音声を利用して警報を出力すると共に、上記複数の温度表示部における表示態様の変化を利用して外部への通知が行われるのが望ましい。このようにした場合、音声を利用した警報の出力と、表示態様の変化を利用した通知との双方がなされるため、食道の内部温度の監視が更に容易となり、利便性の更なる向上が図られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の温度測定装置およびカテーテルシステムによれば、上記複数の温度表示部を、この温度測定装置内の上下方向に沿って、1列のみで直線状に並んで配置すると共に、これら複数の温度表示部の配置順序が、カテーテルが食道に挿入された際における対応する複数の温度センサおよび複数の金属リングにおける各配置順序と互いに一致しているようにしたので、カテーテルが食道に挿入された際に、複数の金属リングの各位置と対応する各内部温度の情報との対応関係が、直感的に結び付けて把握し易くなる。よって、使用の際の利便性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態に係るカテーテルシステムの概略構成例を表す模式図である。
図2図1に示したカテーテルの詳細構成例を表す模式図である。
図3図2に示したカテーテルシャフトにおける先端付近の詳細構成例を表す模式斜視図である。
図4図1に示した温度測定装置の外観構成例を表す模式図である。
図5図2および図3に示したカテーテルの使用態様例を表す模式図である。
図6】測定温度の大きさと警報動作等との関係の一例を表す模式図である。
図7図1に示した温度測定装置における警報動作の際の動作例を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(複数の温度表示部が垂直配置され、警報出力機能も設けられている例)
2.変形例
【0022】
<実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルシステム(カテーテルシステム3)の概略構成例を、模式的にブロック図で表したものである。このカテーテルシステム3は、患者における不整脈等の治療(例えば左房アブレーション術)の際に、その患者の体内の中空器官(例えば、垂直方向に延在する中空器官である、食道等)の内部温度(内壁の温度)に関する情報を測定するためのシステムである。カテーテルシステム3は、図1に示したように、カテーテル1および温度測定装置2を備えている。
【0023】
(カテーテル1)
カテーテル1は、鼻を通して(経鼻的アプローチにて)患者の食道等に挿入されるもの(いわゆる食道カテーテル)であり、例えば上記した左房アブレーション術中において、食道等の内部温度を測定するためのカテーテルである。
【0024】
図2は、カテーテル1の詳細構成例(Z−X上面構成例)を模式的に表したものである。このカテーテル1は、カテーテル本体(長尺部分)としてのカテーテルシャフト11(カテーテルチューブ)と、このカテーテルシャフト11の基端側に装着されたハンドル12とを有している。
【0025】
カテーテルシャフト11は、可撓性を有する管状構造(中空のチューブ状部材)からなり、自身の軸方向(Z軸方向)に沿って延伸する形状となっている。具体的には、カテーテルシャフト11の軸方向の長さは、ハンドル12の軸方向(Z軸方向)の長さと比べて数倍〜数十倍程度に長くなっている。なお、このカテーテルシャフト11は、その軸方向に向かって同じ特性のチューブで構成されていてもよいが、比較的可撓性に優れた先端部分(先端可撓部分11A)と、この先端部分に対して軸方向に一体に形成されると共に先端部分よりも比較的に剛性のある基端部分とを有するようにするのが好ましい。
【0026】
カテーテルシャフト11はまた、自身の軸方向に沿って延在するように内部に1つのルーメン(内孔,細孔,貫通孔)が形成された、いわゆるシングルルーメン構造、あるいは複数(例えば4つ)のルーメンが形成された、いわゆるマルチルーメン構造を有している。なお、カテーテルシャフト11の内部において、シングルルーメン構造からなる領域とマルチルーメン構造からなる領域との双方が設けられていてもよい。このようなカテーテルシャフト11におけるルーメンには、各種の細線(図示しない一対の操作用ワイヤや、後述する導線L1〜L5等)がそれぞれ、互いに電気的に絶縁された状態で挿通されている。
【0027】
このうち、一対の操作用ワイヤ(引張りワイヤ)はそれぞれ、カテーテルシャフト11内を延伸してハンドル12内へと引き出されており、後述するカテーテルシャフト11の先端部分(先端可撓部分11A)の偏向動作の際に用いられるものである。換言すると、これらの操作用ワイヤはそれぞれ、カテーテルシャフト11の先端付近を撓ませるために用いられるものである(例えば図2中の矢印d2a,d2b参照)。これらの操作用ワイヤにおける各先端は、カテーテルシャフト11内の先端付近において、アンカーおよびはんだ等によって固定されている。また、操作用ワイヤの各基端側は、上記したように、カテーテルシャフト11内からハンドル12内へと延伸され、ハンドル12内で留め具(図示せず)により固定されている。これらの操作用ワイヤはそれぞれ、例えばSUS(ステンレス鋼)やNiTi(ニッケルチタン)等の超弾性金属材料により構成されており、その径は約100〜500μm程度(例えば200μm)である。ただし、必ずしも金属材料で構成されていなくともよく、例えば高強度の非導電性ワイヤ等で構成されていてもよい。
【0028】
このようなカテーテルシャフト11は、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド等の合成樹脂により構成されている。また、カテーテルシャフト11の軸方向の長さは、約500〜1200mm程度(例えば870mm)であり、カテーテルシャフト11の外径(X−Y断面の外径)は、約1.0〜3.0mm程度(例えば2.0mm)である。
【0029】
また、図2に示したように、カテーテルシャフト11の先端付近(先端可撓部分11A)には、複数の金属リング(ここでは、5つの金属リング111〜115)および1つの先端チップ110が、所定の間隔をおいて配置されている。具体的には、金属リング111〜115(温度測定用金属リング)はそれぞれ、カテーテルシャフト11の外周面上に固定配置される一方、先端チップ110は、カテーテルシャフト11の最先端に固定配置されている。
【0030】
図3は、これらの金属リング111〜115および先端チップ110を含めた、カテーテルシャフト11における先端付近の詳細構成例を、模式的に斜視図で表したものである。この図3に示したように、上記した5つの金属リング111〜115は、カテーテルシャフト11の先端側(先端チップ110側)から基端側に向けて、この順序にて所定の間隔(図3中に示した金属リング間距離d)で並んで配置されている。なお、この金属リング間距離dは、例えば5mm以下であることが好ましく、更に好ましくは2〜4mm程度(例えば2mm)である。また、図3中に示した金属リング111〜115の金属リング幅wはそれぞれ、例えば5mm以下であることが好ましく、更に好ましくは1〜4mm程度(例えば2mm)である。
【0031】
このような金属リング111〜115はそれぞれ、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、SUS、金(Au)、白金(Pt)等の、電気伝導性の良好な金属材料により構成されている。なお、カテーテル1の使用時におけるX線に対する造影性を良好にするためには、白金またはその合金により構成されていることが好ましい。また、先端チップ110は、例えばこれら金属リング111〜115と同様の金属材料により構成されているほか、例えばシリコーンゴム樹脂やポリウレタンなどの樹脂材料でできていることが好ましい。なお、これらの金属リング111〜115および先端チップ110の外径は、特には限定されないが、上記したカテーテルシャフト11の外径と同程度であることが望ましい。
【0032】
ここで、図3中に模式的に示したように、カテーテルシャフト11における先端可撓部分11Aには、各金属リング111〜115の近傍(例えば、各金属リング111〜115の対向位置)に、これらと対応付けられた5つの温度センサ51〜55が内蔵されている。なお、この例では、先端チップ110の近傍には、これに電気的接続された温度センサは設けられていない。
【0033】
これらの温度センサ51〜55はそれぞれ、例えば前述した左房アブレーション術中において、食道等の内部温度を測定するためのセンサであり、各金属リング111〜115と対応付けて個別に電気的接続されている。具体的には、温度センサ51は、金属リング111の近傍に内蔵されており、この金属リング111に対して電気的に接続されている。同様に、温度センサ52は、金属リング112の近傍に内蔵されており、この金属リング112に対して電気的に接続されている。温度センサ53は、金属リング113の近傍に内蔵されており、この金属リング113に対して電気的に接続されている。温度センサ54は、金属リング114の近傍に内蔵されており、この金属リング114に対して電気的に接続されている。温度センサ55は、金属リング115の近傍に内蔵されており、この金属リング115に対して電気的に接続されている。
【0034】
このような温度センサ51〜55はそれぞれ、例えば熱電対(熱電対の測温接点)を用いて構成されている。また、これらの温度センサ51〜55に個別に電気的接続された導線L1〜L5(リード線)はそれぞれ、例えば、その熱電対を構成する異種同士の金属線からなる。なお、これらの導線L1〜L5はそれぞれ、前述したようにカテーテルシャフト11におけるルーメン内に挿通され、ハンドル12内を介して温度測定装置2内へ引き出されるようになっている(図1参照)。
【0035】
図2に示したハンドル12は、カテーテル1の使用時に操作者(医師)が掴む(握る)部分である。このハンドル12は、図2に示したように、カテーテルシャフト11の基端側に装着されたハンドル本体121と、回転操作部122とを有している。
【0036】
ハンドル本体121は、操作者が実際に握る部分(把持部)に相当し、その軸方向(Z軸方向)に沿って延在する形状となっている。このようなハンドル本体121は、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂により構成されている。
【0037】
回転操作部122は、詳細は後述するが、カテーテルシャフト11の先端付近(先端可撓部分11A)を撓ませる(偏向させる)操作(回転操作)の際に用いられる部分である。この回転操作部122は、図2に示したように、回転板41および調整摘み42を含んで構成されている。
【0038】
回転板41は、ハンドル本体121に対して、その長手方向(Z軸方向)に垂直な回転軸(Y軸方向)を中心として回転自在に装着された部材である。この回転板41は、前述した回転操作の際に操作者が実際に操作を行う部分に相当し、略円盤状の形状からなる。具体的には、この例では図2中の矢印d1a,d1bで示したように、ハンドル本体121に対し、回転板41をZ−X平面内で双方向に回転させる操作(回転軸を回転中心とした回転操作)が可能となっている。
【0039】
この回転板41の側面には、一対の摘み41a,41bが回転板41と一体的に設けられている。この例では図2に示したように、回転板41の回転軸を中心として、摘み41aと摘み41bとが互いに点対称となる位置に配置されている。これらの摘み41a,41bはそれぞれ、操作者が回転板41を回転操作させる際に、例えば片手の指で操作される(押される)部分に相当する。なお、このような回転板41は、例えば前述したハンドル本体121と同様の材料(合成樹脂等)により構成されている。
【0040】
調整摘み42は、Z−X平面内で回転可能に構成されており、回転板41の回転位置(カテーテルシャフト11の先端付近の湾曲状態)を固定化(保持)するための部材である。すなわち、操作者がこの調整摘み42をねじって回転板41をハンドル本体121に固定することで、この回転板41の回転位置が固定化されるようになっている。
【0041】
(温度測定装置2)
図1に示した温度測定装置2は、カテーテル1における複数の温度センサ51〜55を利用して、例えば前述した左房アブレーション術中において、食道等の内部温度を測定する装置である。この温度測定装置2は、図1に示したように、接続部21、入力部22、制御部23、上限値表示部24U、下限値表示部24L、複数(この例では5つ)の温度表示部251〜255、および警報出力部26を有している。
【0042】
接続部21は、カテーテル1の基端側(具体的には、図1に示したように、前述した導線L1〜L5)が接続される部分(接続端子)である。
【0043】
入力部22は、例えば、各種の設定値や、所定の動作を指示するための指示信号等を入力するための部分(入力操作部)である。各種の設定値としては、例えば、後述する所定の温度閾値(この例では、上限値(第1温度閾値)TU1,下限値(第1温度閾値)TL1,第2温度閾値TU2,TL2)等が挙げられる。これらの設定値は、温度測定装置2の操作者(例えば医師等)によって入力されるようになっている。ただし、操作者によって入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め温度測定装置2内で設定されているようにしてもよい。また、このようにして入力部22において入力された設定値や指示信号はそれぞれ、図1に示したように、制御部23へ供給されるようになっている。このような入力部22は、例えば所定のダイヤルやボタン、タッチパネル等を用いて構成されている(例えば後述する図4参照)。
【0044】
制御部23は、温度測定装置2全体を制御すると共に所定の演算処理を行う部分であり、例えばマイクロコンピュータ等を用いて構成されている。具体的には、制御部23は、まず、接続部21に接続されたカテーテル1に内蔵する温度センサ51〜55における各検出値V1〜V5(例えば、各導線L1〜L5を介して得られる熱電対での熱起電力)に基づいて、熱電対を用いた一般的な演算手法により、食道等の内部温度を演算(測定,導出,算出)する機能を有している。このようにして、各温度センサ51〜55に対して個別に電気的接続された各金属リング111〜115(温度測定用金属リング)近傍の内部温度(測定温度T1〜T5)が、温度測定装置2において個別に求められるようになっている。
【0045】
ここで、制御部23はまた、このようにして求められた測定温度T1〜T5をそれぞれ、後述する温度表示部251〜255において個別に表示(出力)させる制御(測定温度表示制御)を行う機能を有している。また、制御部23は、上記した入力部22において入力された、各種の設定値(上限値TU1,下限値TL1,第2温度閾値TU2,TL2等)や指示信号等を取得し、上限値TU1および下限値TL1については後述する上限値表示部24Uおよび下限値表示部24Lにおいて個別に表示させる制御(温度閾値表示制御)を行う機能を有している。更に、制御部23は、後述する所定の条件を満たすと判断した場合には、後述する警報出力部26において所定の警報(音声等)を出力させる制御(警報出力制御)を行う機能も有している。なお、このような制御部23における動作例の詳細については、後述する(図6図7)。
【0046】
上限値表示部24Uは、上記したように、入力部22において入力された設定値の1つである上限値TU1を表示して、外部へと出力する部分(モニター)である。同様に、下限値表示部24Lは、入力部22において入力された設定値の1つである下限値TL1を表示して、外部へと出力する部分である。このような上限値表示部24Uおよび下限値表示部24Lはそれぞれ、各種の方式によるディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等)を用いて構成されている。
【0047】
温度表示部251〜255はそれぞれ、上記したように、制御部23において求められた測定温度T1〜T5を個別に表示して、外部へと出力する部分である。具体的には図1に示したように、温度表示部251は測定温度T1を表示し、温度表示部252は測定温度T2を表示し、温度表示部253は測定温度T3を表示し、温度表示部254は測定温度T4を表示し、温度表示部255は測定温度T5を表示するようになっている。このような温度表示部251〜255もそれぞれ、各種の方式によるディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイやCRTディスプレイ、有機ELディスプレイ等)を用いて構成されている。
【0048】
なお、これらの測定温度T1〜T5の情報(データ)を温度測定装置2の外部機器(例えばPC(Personal Computer)等)へ出力する機能(データ出力機能)を、温度測定装置2が有しているようにしてもよい。そのようにした場合、例えば、各測定温度T1〜T5の時間変化をPC上でモニターしたり、ログデータ等としてPC上に記憶したりすることも可能となる。
【0049】
警報出力部26は、上記したように、制御部23において測定温度T1〜T5が所定の条件を満たすと判断された場合に、所定の警報(例えば図1中に示した音声Sout等)を外部へ出力して、操作者へ通知(報知)する機能を有している。具体的には、警報出力部26は、制御部23において、例えば、測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が前述した上限値TU1または下限値TL1(第1温度閾値)に到達した(超えた)と判断された場合に、そのような所定の警報を本警報として出力する。また、警報出力部26は、例えば、この少なくとも1つの温度が、上記第1温度閾値の手前の所定温度(第2温度閾値TU2または第2温度閾値TL2)に到達したと判断された場合に、上記した本警報に対する前段階としての予備警報を出力する機能を有しているのが望ましい。このような警報出力部26は、例えば、ブザーやスピーカ等を含んで構成されている。なお、このような警報出力部26における動作(警報動作)の詳細については、後述する(図6図7)。
【0050】
ここで、図4は、このような温度測定装置2の外観構成例を模式図で表したものであり、所定の作業台の表面St上に温度測定装置2が置かれた状態の例を示している。
【0051】
この図4に示したように、温度測定装置2の筺体20上(この例では筺体20の前面)には、上記した各種の部材が並んで配置されている。具体的には、この筺体20の前面には、接続部21(接続端子)、入力部22、上限値表示部24U、下限値表示部24Lおよび5つの温度表示部251〜255がそれぞれ、並んで配置されている。なお、制御部23および警報出力部26はそれぞれ、この例では筺体20の内部に配置(内蔵)されている。
【0052】
ここで本実施の形態では、図4に示したように、これら5つの温度表示部251〜255が、垂直方向V(縦方向)に沿って並んで(縦一列に)配置されている。具体的には、垂直方向Vにおける下側から上側に向かって、測定温度T1を表示する温度表示部251、測定温度T2を表示する温度表示部252、測定温度T3を表示する温度表示部253、測定温度T4を表示する温度表示部254、測定温度T5を表示する温度表示部255の順に、配置されている。このような温度表示部251〜255の配置順序は、詳細は後述するが(図5)、以下のようになっている。すなわち、カテーテル1のカテーテルシャフト11が食道等に挿入された際における、対応する温度センサ51〜55の配置順序と、それらに個別に電気的接続された金属リング(温度測定用金属リング)111〜115の配置順序と、互いに一致するようになっている。
【0053】
[作用・効果]
(A.基本動作)
このカテーテルシステム3では、患者における不整脈等の治療(例えば左房アブレーション術)の際に、温度測定用のカテーテル1(いわゆる食道カテーテル)を用いて、その患者の体内の中空器官(食道等)の内部温度に関する情報が測定される。なお、このときのアブレーションの手法としては、高周波電流を用いて高温焼灼(加熱)する手法と、液化亜酸化窒素や液体窒素等を用いて低温焼灼(冷却)する手法とが挙げられる。
【0054】
ここで、図5に模式的に示したように、このような内部温度測定の際には、例えば患者9の鼻を通して(経鼻的アプローチにて)、カテーテル1におけるカテーテルシャフト11が、その先端側から患者9の食道Eへ挿入される。このとき、カテーテル1の操作者による回転板41の回転操作に応じて、この挿入されたカテーテルシャフト11の先端付近の形状が、両方向に変化する。
【0055】
具体的には、例えば、操作者がハンドル12を片手で掴み、その片手の指で摘み41aを操作することにより、回転板41を図2中の矢印d1a方向(右回り)に回転させた場合、以下のようになる。すなわち、カテーテルシャフト11内で、前述した一対の操作用ワイヤのうちの一方が、基端側へ引っ張られる。すると、このカテーテルシャフト11の先端付近が、図2中の矢印d2aで示した方向に沿って湾曲する(撓む)。
【0056】
また、例えば、操作者が摘み41bを操作することにより、回転板41を図2中の矢印d1b方向(左回り)に回転させた場合、以下のようになる。すなわち、カテーテルシャフト11内で、他方の操作用ワイヤが基端側へ引っ張られる。すると、このカテーテルシャフト11の先端付近が、図2中の矢印d2bで示した方向に沿って湾曲する。
【0057】
このように、操作者が回転板41を回転操作することにより、カテーテルシャフト11の首振り偏向動作を行うことができる。なお、ハンドル本体121を軸回りに(XY平面内で)回転させることで、カテーテルシャフト11が患者9の体内(食道E内)に挿入された状態のまま、カテーテルシャフト11の先端付近の湾曲方向の向きを自由に設定することができる。
【0058】
ここで、このようなカテーテルシャフト11の先端付近には、温度測定用金属リングとしての5つの金属リング111〜115と、それらに個別に電気的接続された5つの温度センサ51〜55とが設けられている。そのため、これらを利用して、食道Eの内部温度に関する情報を測定(監視)することが可能となる。なお、カテーテル1のカテーテルシャフト11はその先端側から患者9の食道Eに挿入されると、金属リング111が食道の下側(胃側)、金属リング115が食道の上側(口腔側)をそれぞれ測定するように配置される。
【0059】
具体的には、例えば図1に示したように、これらの温度センサ51〜55における各検出値V1〜V5(例えば熱電対での熱起電力)は、まず、各温度センサ51〜55に個別に電気的接続された導線L1〜L5を介して、温度測定装置2内へ入力される。次いで、この温度測定装置2内では、各検出値V1〜V5が接続部22を介して制御部23へ供給される。この制御部23では、前述した手法にて、各金属リング111〜115近傍の内部温度(測定温度T1〜T5)をそれぞれ求める。そして、このようにして求められた測定温度T1〜T5はそれぞれ、5つの温度表示部251〜255において個別に表示されることで、外部へと出力される。
【0060】
このようにして、カテーテルシステム3におけるカテーテル1および温度測定装置2を利用して、患者9の食道Eの内部温度を監視することで、例えば上記した左房アブレーション術の際に、その食道Eが損傷を受けてしまうおそれを回避することが可能となる。すなわち、アブレーションカテーテルを用いて、例えば心臓の左房後壁を焼灼する場合(左房アブレーション術の際には)、一般に、この左房後壁に近接する食道もが加熱または冷却され、食道が損傷を受けてしまうおそれがある。そこで、このようにして食道Eの内部温度を監視することで事前の対応を取ることができるようになり、そのような損傷のおそれを回避することが可能となる。
【0061】
(B.温度測定装置2の作用)
(B−1.温度表示部251〜255の配置について)
ここで、本実施の形態の温度測定装置2では、例えば図4に示したように、筺体20の前面において、5つの温度表示部251〜255が、垂直方向Vに沿って並んで配置されている。また、この温度測定装置2では、例えば図4および図5に示したように、これら5つの温度表示部251〜255の配置順序が、以下のようになっている。すなわち、カテーテル1のカテーテルシャフト11が食道Eに挿入された際における、対応する5つの温度センサ51〜55の配置順序、および、これらに個別に電気的接続された5つの金属リング111〜115の配置順序と、互いに一致している。
【0062】
具体的には、この例では図4および図5に示したように、垂直方向Vに沿って下側から上側への順序で配置されるようになっている。つまり、金属リング111(温度センサ51)において測定される、食道Eの下方側(胃側)の温度(測定温度T1)は、最も下に位置する温度表示部251において表示される。一方、金属リング115(温度センサ55)において測定される、食道の上方側(口腔側)の温度(測定温度T5)は、最も上に位置する温度表示部255において表示される。
【0063】
このようにして、上記した配置順序が互いに一致していることから、例えば図5に示したように、カテーテル1のカテーテルシャフト11がその先端側から患者9の食道E(体内の垂直方向Vに延在)に挿入された際に、以下のようになる。すなわち、5つの金属リング111〜115(5つの温度センサ51〜55)の各位置と、対応する内部温度(測定温度T1〜T5)の情報との対応関係が、操作者にとって直感的に結び付けて把握し易くなる。つまり、操作者が温度測定装置2の温度表示部251〜255を目視したときに、表示されている温度が、食道Eにおけるどの部分の内部温度であるかを直感的に把握することができるようになる。
【0064】
その結果、前述した左房アブレーション術中に、食道Eが過度に高温または低温の状態になった場合でも、該当する食道Eの部位を速やかに特定することができ、例えばアブレーションを一旦中止するなど、食道Eへの悪影響を及ぼさないようにするための処置を迅速に行うことが可能となる。これは、即座の(迅速な)対応を求められる臨床現場においては、大きなメリットであると言える。以上のことから、本実施の形態では、カテーテル1を使用する際(温度測定の際)の利便性が向上する。
【0065】
なお、これに対して筺体20の前面に、5つの温度表示部251〜255が、例えば水平方向(横方向)に沿って並んで配置されていたり、例えば行列状(格子状)に配置されていたり、上記した配置順序が互いに一致していない(異なっている)場合には、以下のようになる。すなわち、5つの金属リング111〜115の各位置と対応する内部温度(測定温度T1〜T5)の情報との対応関係を、直感的に結び付けて把握するのが困難となり、利便性が低下してしまうことになる。
【0066】
また、これらの温度測定装置2およびカテーテル1では、図1図5に示したように、温度表示部、温度センサおよび金属リング(温度測定用金属リング)の個数がそれぞれ、4以上(この例では5つ)となっている。これにより、それらの個数が少ない(3以下である)場合と比べ、例えば以下の利点が得られる。すなわち、食道Eの内部温度の測定範囲の広範化、あるいは、測定地点同士の間隔が密になることによる測定精度の向上が図られたり、測定範囲内での温度分布や温度勾配の把握がし易くなる。よって、温度測定の際の更なる利便性向上が実現される。
【0067】
(B−2.警報出力部26による警報動作について)
更に、この温度測定装置2には、図1に示したように、測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が第1温度閾値(前述した上限値TU1または下限値TUL1)に到達したと判断された場合に外部に警報(本警報)を出力する警報出力部26が設けられている。そのような警報が外部に出力される(例えば図1中に示したように、所定の音声Sout等が出力される)ことで、例えば食道Eの内部温度の監視が容易となり、この点でも利便性の更なる向上が図られる。
【0068】
より具体的には、この警報出力部26は、例えば図6に示したようにして、警報動作を行う。この図6は、測定温度T1〜T5の大きさと警報動作等との関係の一例を、模式図で表したものである。なお、上限値TU1(第1温度閾値)としては、一例として41℃が挙げられ、下限値TL1(第1温度閾値)としては、一例として15℃が挙げられる。また、第2温度閾値TU2としては、一例として39℃(=41℃−2℃)が挙げられ、第2温度閾値TL2としては、一例として17℃(=15℃+2℃)が挙げられる。
【0069】
まず、上記したように、第1温度閾値としては上限値TU1および下限値TL1の双方が設けられており、警報出力部26は、測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が上限値TU1以上または下限値TL1以下となった場合に、警報(本警報)を出力する。これにより、前述した高温焼灼する手法の場合と低温焼灼する手法の場合との双方において、測定された食道E等の内部温度に関する警告を出力することができ(双方の手法に対して警告動作が適用可能となり)、温度測定の際の利便性がより一層高まることになる。
【0070】
また、この例では図6に示したように、このような警告出力の条件を満たすと判断された場合に、警報出力部26が所定の音声Soutを利用して警報を出力するとともに、警告出力の条件に該当する温度表示部における表示態様の変化(この例では点滅表示)を利用して、外部への通知が行われる。これにより、音声を利用した警報の出力と、表示態様の変化を利用した通知との双方がなされるため、食道E等の内部温度の監視が更に容易となり、温度測定の際の利便性の更なる向上が図られる。
【0071】
更に、この例では図6に示したように、警報出力部26は、測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が、上記した第1温度閾値の手前の第2温度閾値TL2,TL2に到達したと判断された場合、本警報に対する前段階としての予備警報を出力する。具体的には、警報出力部26は、上限値TU1の手前の(上限値TU1よりも低い)第2温度閾値TU2に到達したと判断された場合に、上記した所定の音声Soutや点滅表示等を利用して、そのような予備警報を出力する。また、警報出力部26は、下限値TL1の手前の(下限値TL1よりも高い)第2温度閾値TL2に到達したと判断された場合に、上記した所定の音声Soutや点滅表示等を利用して、そのような予備警報を出力する。このようにして、本警報の前段階としての予備警報が出力されることで、食道E等の内部温度の変化に対して事前に対処することができるようになり、温度測定の際の利便性がより一層高まることになる。
【0072】
加えて、この例では図6に示したように、警報出力部26は、このような本警報と予備警報とを、互いに区別した態様で出力するようにしている。具体的には、例えば、本警報と予備警報とで、音声Soutにおける音の種類は同一であるものの、音声Soutにおける周波数は互いに異なる(例えば、本警報では相対的に高周波の音声S1、予備警報では相対的に低周波の音声S2など)ように設定されている。また、例えば、該当する温度表示部における点滅表示の際に、本警報では相対的に早い(高周波の)点滅表示が、予備警報では相対的に遅い(低周波の)点滅表示が行われるように設定されている。このようにして互いに区別した態様で出力されることで、本警報と予備警報との間での操作者の誤認が防止され易くなり、温度測定の際の利便性の更なる向上が図られる。
【0073】
また、この際に、測定温度T1〜T5において、本警報を出力する条件を満たすと判断された温度と、予備警報を出力する条件を満たすと判断された温度と、の双方が同時に存在する場合、警報出力部26は、これら本警報および予備警報のうちの本警報を優先して出力するのが望ましい。このようにして予備警報よりも本警報のほうが優先的に出力されることで、優先度の高い温度測定地点に対して先に対処することができ、効率的な対応策を取ることが可能となるからである。
【0074】
(B−3.警報動作の際の制御動作について)
続いて、図7を参照して、このような警報出力部26による警報動作例について、より詳細に説明する。図7は、この警報動作の際の温度測定装置2における動作例を、流れ図で表したものである。
【0075】
この動作例ではまず、温度測定装置2の操作者による入力部22への操作によって、各温度閾値(上限値TU1,TL1および第2温度閾値TU2,TL2)が、入力部22から制御部23へ事前に登録される(図7のステップS11)。
【0076】
次いで、制御部23は、接続部21に接続されたカテーテル1に内蔵する温度センサ51〜55における各検出値V1〜V5(例えば熱電対での熱起電力)を、各導線L1〜L5および接続部21を介して取得する(ステップS12)。そして、制御部23は、このようにして得られた各検出値V1〜V5に基づいて、前述した演算手法により、食道E等の内部温度(各測定温度T1〜T5)を個別に算出する(ステップS13)。
【0077】
続いて、制御部23は、このようにして求められた測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が、上限値TU1以上または下限値TL1以下となっているのか否か、すなわち、前述した本警報の出力条件を満たすのか否かを判断する。具体的には、制御部23は、(T1〜T5)≧TU1、または、(T1〜T5)≦TL1を満たすのか否かを判断する(ステップS14)。
【0078】
ここで、(T1〜T5)≧TU1または(T1〜T5)≦TL1を満たすと判断された場合(ステップS14:Y)、次に制御部23は、以下のような制御を行う。すなわち、例えば前述した図6に示したように、本警報(音声Sout=S1)が出力されるように警報出力部26を制御するとともに、該当する温度表示部において点滅表示が行われるように制御する(ステップS15)。このようにして、この例では前述したように、予備警報よりも本警報のほうが優先的に出力される(この例では、本警報の出力条件を満たす場合には、後述する予備警報の出力条件を満たすのか否かの判断を行わずに、本警報を出力する)ようにしている。なお、このステップS15の後は、前述したステップS12へと再び戻ることになる。
【0079】
一方、(T1〜T5)≧TU1および(T1〜T5)≦TL1のいずれも満たさないと判断された場合(ステップS14:N)、すなわち、TL1<(T1〜T5)<TU1となっている場合には、次に制御部23は、以下の予備警報の出力条件を満たすのか否かを判断する。具体的には、制御部23は、測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が、第2温度閾値TU2,TL2に達しているのか否かを判断する。より具体的には、制御部23は、(T1〜T5)≧TU2、または、(T1〜T5)≦TL2を満たすのか否かを判断する(ステップS16)。
【0080】
ここで、(T1〜T5)≧TU2および(T1〜T5)≦TL2のいずれも満たさないと判断された場合(ステップS16:N)、すなわち、TL2<(T1〜T5)<TU2となっている場合には、以下のようになる。つまり、この場合には前述した図6に示したように、測定温度T1〜T5がいずれも、本警報および予備警報の双方の出力条件に該当しない正常温度範囲内にあると言えるため、何も行われずに前述したステップS12へと再び戻ることになる。
【0081】
一方、(T1〜T5)≧TU2または(T1〜T5)≦TL2を満たすと判断された場合(ステップS16:Y)、次に制御部23は、以下のような制御を行う。すなわち、例えば前述した図6に示したように、予備警報(音声Sout=S2)が出力されるように警報出力部26を制御するとともに、該当する温度表示部において点滅表示が行われるように制御する(ステップS17)。なお、このステップS17の後も、前述したステップS12へと再び戻ることになる。以上で、図7に示した一連の動作例についての説明は完了となる。
【0082】
以上のように本実施の形態では、温度測定装置2において、5つの温度表示部251〜255が垂直方向Vに沿って並んで配置されている。また、これらの温度表示部251〜255の配置順序が、カテーテル1が食道E等に挿入された際における、対応する温度センサ51〜55および金属リング111〜115における各配置順序と、互いに一致している。これにより、カテーテル1が食道E等に挿入された際に、5つの金属リング111〜115の各位置と対応する各測定温度T1〜T5の情報との対応関係が、直感的に結び付けて把握し易くなる。よって、使用(温度測定)の際の利便性を向上させることが可能となる。
【0083】
また、この温度測定装置2には、測定温度T1〜T5のうちの少なくとも1つの温度が第1温度閾値TU1,TL1に到達したと判断された場合に外部に警報を出力する警報出力部26が設けられているようにしたので、以下の効果も得られる。すなわち、そのような警報が外部に出力されることで、例えば食道Eの内部温度の監視が容易となり、利便性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0084】
<変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0085】
例えば、上記実施の形態において説明した各部材の形状や配置位置、材料等は限定されるものではなく、他の形状や配置位置、材料等としてもよい。
【0086】
また、上記実施の形態では、カテーテルシャフト11の構成を具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。具体的には、例えばカテーテルシャフト11の内部に、首振り部材として、撓み方向に変形可能な板バネが設けられているようにしてもよい。また、カテーテルシャフト11における金属リング111〜115および先端チップ110の配置や形状、個数等は、上記実施の形態で挙げたものには限られない。更に、温度センサ(温度測定用金属リング)や導線の個数はそれぞれ、上記実施の形態で説明したもの(5つ)には限定されず、例えば2〜20個の範囲内で適宜調整される。ただし、前述した理由から、これらの個数はそれぞれ4つ以上程度であるのが望ましい。加えて、上記実施の形態では先端チップ110には温度センサが電気的接続されていない例について説明したが、これには限られず、
例えば、先端チップ110にも温度センサを電気的に接続し、先端チップ110も温度測定機能を有するようにしてもよい。また、この温度センサとしても、上記実施の形態で説明したように熱電対を用いた構成には限られず、例えばサーミスタ等の他の温度センサを用いるようにしてもよい。加えて、金属リング111〜115と温度センサ51〜55とは、必ずしも電気的に接続されていなくともよい。
【0087】
更に、上記実施の形態では、ハンドル12(ハンドル本体121および回転操作部122)の構成についても具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。
【0088】
加えて、カテーテルシャフト11における先端付近の形状の態様は、上記実施の形態で説明したものには限られない。具体的には、上記実施の形態では、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が回転板41の操作に応じて両方向に変化するタイプ(バイディレクションタイプ)のカテーテル1を例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、本発明は、例えば、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が回転板41の操作に応じて片方向に変化するタイプ(シングルディレクションタイプ)のカテーテルにも適用することが可能である。この場合、前述した操作用ワイヤを1本(1つ)だけ設けることとなる。
【0089】
また、上記実施の形態では、温度測定装置2のブロック構成を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態で説明した各ブロックを必ずしも全て備える必要はなく、また、他のブロックを更に備えていてもよい。また、カテーテルシステム3全体としても、上記実施の形態で説明した各装置に加えて他の装置を更に備えていてもよい。
【0090】
更に、上記実施の形態では、温度測定装置2における外観構成(各部材の配置構成)や警報動作について具体的に説明したが、これらの外観構成(配置構成)や警報動作はそれぞれ、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の構成や動作としてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1…カテーテル、11…カテーテルシャフト、11A…先端可撓部分、110…先端チップ、111〜115…金属リング(温度測定用金属リング)、12…ハンドル、121…ハンドル本体(把持部)、122…回転操作部、2…温度測定装置、20…筺体、21…接続部、22…入力部、23…制御部、24U…上限値表示部、24L…下限値表示部、251〜255…温度表示部、26…警報出力部、3…カテーテルシステム、41…回転板、41a,41b…摘み、42…調整摘み、51〜55…温度センサ、9…患者、L1〜L5…導線、V1〜V5…検出値(熱起電力)、T1〜T5…測定温度、TU1…上限値(第1温度閾値)、TL1…下限値(第1温度閾値)、TU2,TL2…第2温度閾値、Sout,S1,S2…音声、St…表面、V…垂直方向、E…食道。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7