【実施例】
【0056】
以下、本発明の乳化油脂組成物の実施形態について、実施例とともに詳しく説明する。本発明の乳化油脂組成物は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<1>乳化油脂組成物の調製
表1、表2に示す油脂を混合して75℃に調温して、実施例1〜8、比較例1〜6および参考例1の油相とした。実施例1については、表1の油脂に呈味剤2を添加し、油相とした。
【0057】
さらに、表1、表2に示す水に脱脂粉乳、呈味剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウムを添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。
【0058】
次に、この油相に水相を添加し、プロペラ撹拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和し、乳化油脂組成物としてのマーガリンを得た。
【0059】
なお、エステル交換油脂1、2、呈味剤は、以下の方法で製造した。
(エステル交換油脂1)
パーム核極度硬化油20質量%、パーム軟質油50質量%、パーム極度硬化油30質量%混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭を行い、エステル交換油脂1を得た。
(エステル交換油脂2)
パーム軟質油に、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭を行い、エステル交換油脂2を得た。
(呈味剤)
呈味剤1〜4は、以下配合で、製造した。水にリパーゼを添加し、25℃で溶解しリパーゼ水溶液を得た。乳脂肪としてバターを溶解し、バターにリパーゼ水溶液を添加し、40〜45℃で反応させ、酸価がそれぞれの値に達したら、85℃に加熱し、リパーゼを失活させ、その後、パーフェクターによって急冷混和し呈味剤を得た。
【0060】
なお、上記で得た呈味剤については、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.1−2013(酸価)」に準じ酸価を測定した。
【0061】
バター 90質量%
リパーゼ(リパーゼAY「アマノ」30G) 0.4質量%
水 9.6質量%
【0062】
<2>SUS型トリグリセリド含量およびSUS/SSU
油脂におけるSUS型トリグリセリドおよびSSU型トリグリセリドの含有量と質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により測定し算出した。
【0063】
<3>マーガリンの酸価
上記<1>で得た乳化油脂組成物(マーガリン)の製造直後と、10℃で60日間保管した後、マーガリンの酸価を、基準油脂分析法「2.3.1−2013(酸価)」に準じて測定した。
【0064】
<4>マーガリンの呈味(1日後)
マーガリンを喫食し、呈味の発現性を以下基準で評価した。
◎:呈味剤のバター様の風味が口中に素早く広がる。
○:呈味剤のバター様の風味が口中に広がる。
△:呈味剤のバター様の風味が口中で感じづらい、あるいは呈味剤の苦味を感じる。
×:呈味剤のバター様の風味が口中で感じられない、あるいは呈味剤の苦味を強く感じる。
【0065】
<5>マーガリンの呈味(60日後)
10℃で60日保管したマーガリンを喫食し、呈味について以下基準で評価した。
◎:呈味剤のバター様の良好な風味を感じる。
○:呈味剤のバター様の風味を感じる。
△:脂肪酸による刺激臭はないが、呈味剤のバター様の風味は感じづらい。
×:呈味性が極めて低い、あるいは脂肪酸の刺激臭を感じる。
【0066】
<6>焼成品の呈味(スポンジケーキ)
10℃で60日保管した実施例1〜8および比較例1〜6のマーガリンを用い、以下の配合と製造方法によりスポンジケーキを作製し、スポンジケーキの呈味を評価した。
(1)スポンジケーキの配合
卵 200質量部
砂糖 120質量部
薄力粉 100質量部
マーガリン 30質量部
水 10質量部
(2)製造方法
1)砂糖、薄力粉をふるっておく。
2)卵と砂糖をボールに入れ、35℃前後に温め充分泡立てる。
3)2)に薄力粉を加え、手合わせする。
4)マーガリンと水を合わせ、60℃以上に温めた後に加え、良く手合わせ、滑らかな状態にする。
5)7号丸型に400g流し込み、165℃で30分焼成する。
(3)評価方法
焼成したスポンジケーキを20℃、2日保管後、喫食し以下基準で評価した。
◎:呈味剤のバター様の良好な風味を感じる。
○:呈味剤バター様の風味を感じる。
△:呈味剤のバター様の風味は感じづらいあるいは、異味を感じる。
×:呈味性が極めて低い、あるいは、異味を非常に強く感じる。
【0067】
<7>焼成品(スポンジケーキ)のボリューム
上記<6>で焼成した実施例1〜8、比較例1〜6の焼成品(スポンジケーキ)について、焼成後20℃、1日保管後のスポンジケーキの円の中央部の高さを測定し、以下基準でボリュームを評価した。
【0068】
呈味剤無添加マーガリン(参考例)でスポンジケーキを製造し、スポンジケーキの円の中央部の高さを測定し、呈味剤無添加マーガリン(参考例)に対する、実施例、比較例マーガリンでスポンジケーキを製造したときのスポンジケーキの円の中央部の高さ比率を求めた。
{(実施例1〜8、比較例1〜6のスポンジケーキの中央部の高さ)/(参考例1のスポンジケーキの中央部の高さ)}
◎:0.95以上
○:0.90以上0.95未満
△:0.80以上0.90未満
×:0.80未満
【0069】
<8>焼成品の呈味(クッキー)
10℃で60日保管した実施例1〜8、比較例1〜6のマーガリンを用い、以下の配合でクッキーを作製した。
(1)クッキーの配合
薄力粉 100質量部
マーガリン 35質量部
粉糖 50質量部
脱脂粉乳 2質量部
食塩 1.5質量部
全卵 20質量部
ベーキングパウダー 1.5質量部
コーンスターチ 10質量部
【0070】
(2)製造法
ミキサーにマーガリン、粉糖、脱脂粉乳、食塩をビーターで十分にすり合わせた後、全卵を3回に分けてすり合わせ、薄力粉とコーンスターチ、ベーキングパウダーを混ぜ合わせ、クッキー生地を得た。クッキー生地を冷蔵庫に入れ、リタードをとった後、生地をもみまとめ、5mmに圧延し55×55mmの型で抜き、180℃のオーブンで11分焼成しクッキーを得た。
【0071】
焼成後20℃、2日間保管後に喫食し以下基準で評価した。
◎:呈味剤のバター様の良好な風味を感じる。
○:呈味剤のバター様の風味を感じる。
△:呈味剤のバター様の風味は感じづらいあるいは、異味を感じる。
×:呈味性が極めて低い、あるいは、異味を非常に強く感じる。
【0072】
<9>焼成品の呈味(パン)
10℃で60日保管した実施例1〜8、比較例1〜6のマーガリンを用い、以下の配合で食パンを作製した。
(1)パンの配合
中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
マーガリン 5質量部
水 25質量部
【0073】
(2)製造法
イーストを分散させた水、イーストフード、及び強力粉をミキサーボールに投入し、フックを使用し、低速4分、中低速1分でミキシングを行った。捏上げ温度は24℃であった。その後、27℃、湿度75%の条件で4時間発酵を行った。発酵の終点温度は29℃であり、発酵後、中種生地を得た。その後、上記で製造したマーガリン以外の材料及び中種生地を、低速3分、中高速3分でミキシングした後、上記で製造したマーガリンを投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングしパン生地を得た。捏上温度は28℃であった。
【0074】
その後、室温で20分フロアタイムをとった後、パン生地をモルダーに通して成型して3斤用の焼成型に入れ、38℃、湿度80%のホイロで45分発酵させた後、200℃で40分間焼成した。
【0075】
焼成後20℃、2日間保管後に喫食し以下基準で評価した。
◎:呈味剤のバター様の良好な風味を感じる。
○:呈味剤のバター様の風味を感じる。
△:呈味剤のバター様の風味は感じづらいあるいは、異味を感じる。
×:呈味性が極めて低い、あるいは、異味を非常に強く感じる。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
<10>結果
表1に示したように、実施例1〜8の乳化油脂組成物は、(A)油脂に含まれるSUS型トリグリセリドが9〜25質量%であり、かつ、SUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量比(SUS/SSU)が0.4〜2.0であり、(B)呈味剤は、油脂の加水分解物(乳脂肪の酵素分解物)であり、かつ、酸価が5〜60であり、(C)無機塩(塩化ナトリウムまたは塩化カリウム)や有機塩(クエン酸ナトリウム)を配合している。
【0079】
実施例1〜8の乳化油脂組成物は、マーガリンの呈味(バター様の風味)が60日後も持続していることが確認された。また、実施例1〜8の乳化油脂組成物を使用したスポンジケーキの呈味、ボリュームも良好であり、実施例1〜8の乳化油脂組成物を使用したクッキーの呈味も良好であった。
【0080】
一方、表2に示したように、有機塩および/または無機塩が添加されていない比較例1、2の乳化油脂組成物は、60日後におけるマーガリンの酸価が高く、マーガリンの呈味(バター様の風味)が劣化していることが確認された。また、比較例1、2の乳化油脂組成物を使用したスポンジケーキの呈味、ボリューム、パンの呈味も実施例1〜8と比較して劣っていた。さらに、比較例1、2の乳化油脂組成物を使用したクッキーの呈味も実施例1〜8と比較して劣っていた。
【0081】
油脂に含まれるSUS型トリグリセリドが9質量%未満(5.8質量%)であり、かつ、SUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量比(SUS/SSU)が0.4未満(0.25)である比較例3の乳化油脂組成物は、マーガリンの呈味が発現し難く、60日後のマーガリンの呈味も感じづらかった。また、比較例3の乳化油脂組成物を使用したスポンジケーキの呈味、クッキー、パンの呈味も実施例1〜8と比較して劣っていた。
【0082】
油脂に含まれるSUS型トリグリセリドが25質量%より大きく(28.7質量%)、かつ、SUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量比(SUS/SSU)が2.0より大きい(2.49)比較例4の乳化油脂組成物は、マーガリンの呈味が発現し難く、60日後のマーガリンの呈味も感じづらかった。また、比較例4の乳化油脂組成物を使用したスポンジケーキの呈味、クッキー、パンの呈味も実施例1〜8と比較して劣っていた。
【0083】
呈味剤の酸価が低い比較例5の乳化油脂組成物は、マーガリンの呈味性が低く、バター様の風味が感じられなかった。また、比較例5の乳化油脂組成物を使用したスポンジケーキの呈味、クッキー、パンの呈味も実施例1〜8と比較して劣っていた。
【0084】
さらに、呈味剤の酸価が高い比較例6の乳化油脂組成物は、苦みを感じ、バター様の風味が感じられなかった。また、比較例6の乳化油脂組成物を使用したスポンジケーキの呈味、クッキー、パンの呈味も実施例1〜8と比較して劣っていた。
【0085】
以上の通り、実施例1〜8の乳化油脂組成物は、上記の(A)(B)(C)の条件をすべて満たすことで、バター様の香りや風味を長期に亘って安定的に維持することができ、また、起泡性を有するスポンジケーキ等の焼成品において良好なボリュームが得られることが確認された。