(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂が、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド66/6I/6Tおよびポリアミド66/6I/6T/6の中から選ばれる1種以上である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
前記(A)ポリアミド樹脂100質量%における、前記(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂の割合が30質量%以上95質量%以下であり、前記(a2)脂肪族ポリアミド樹脂の割合が5質量%以上70質量%以下である請求項1、2または3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
〔ポリアミド樹脂組成物〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂と(B)ガラス繊維とを含むポリアミド樹脂組成物であって、
(A)ポリアミド樹脂が、少なくとも
(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂と
(a2)JIS K7121を元に測定した補外結晶化開始温度(Tic)が(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂の補外結晶化開始温度より高い脂肪族ポリアミド樹脂とを含む混合物であり、
(B)ガラス繊維の含有量が、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して50質量%を超え70質量%以下であることを特徴とする。以下、本発明のポリアミド樹脂組成物の構成要素について説明する。
【0016】
(A)ポリアミド樹脂
(A)ポリアミド樹脂(以下、単にポリアミド樹脂あるいは(A)成分と記載する場合もある)とは、主鎖に−CO−NH−(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。
本発明において(A)ポリアミド樹脂は、結晶性を向上させた樹脂組成物とするため、少なくとも(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂(以下、単に(a1)結晶性芳香族ポリアミドあるいは(a1)成分と記載する場合もある)と(a2)JIS K7121を元に測定した補外結晶化開始温度(Tic)が(a1)の補外結晶化開始温度より高い脂肪族ポリアミド樹脂(以下、単に(a2)脂肪族ポリアミドあるいは(a2)成分と記載する場合もある)とを含有する。
【0017】
(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂
本発明における(a1)成分は、結晶性を有し、かつ分子中に芳香環を含むポリアミドのことを意味する。
「結晶性」を有するポリアミドは、示差走査熱量計(DSC)を用いてJIS K7121に準拠して、昇温速度を10℃/minとして測定した時の結晶融解熱(ΔH)が1J/g以上であるポリアミドを意味する。
また、分子中に芳香環を含むポリアミド樹脂とは、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド樹脂、ならびにジアミン及びジカルボン酸の他にラクタムあるいはω−アミノカルボン酸との共重合物であって、ジアミン及びジカルボン酸の少なくともいずれか一方が芳香族を有するものを意味する。
【0018】
単量体のジアミンおよびジカルボン酸において、芳香族を有するジアミンあるいは芳香族を有するジカルボン酸のいずれかが使用されていれば、他方は芳香族を含んでいなくてもよい。加えて(a1)成分は共重合ポリアミドであってもよい。その場合は、芳香族を有するジアミンあるいは芳香族を有するジカルボン酸のいずれかが使用されたユニットが含まれていれば、他方のポリアミドは芳香族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸を含んでいなくてもよい。また、ジアミンやジカルボン酸のほか、ω−アミノカルボン酸やラクタム等が含まれていてもよい。この中で、(a1)成分としては、芳香族ジカルボン酸を構成単位の一部として含有していることが外観向上の観点から好ましい。
【0019】
(a1)成分における原料モノマーとしての芳香族を有するジアミンの例としては、以下に限定されるものではないが、例えばp−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン等が挙げられる。また(a1)成分における原料モノマーとしての芳香族を有するジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0020】
(a1)成分における原料モノマーとしての芳香族を含まないジアミンとしては、直鎖状のジアミンや分岐型のジアミン、脂環型のジアミンが挙げられ、例としては、以下に限定されるものではないが、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、2−メチルペンタジアミン、2−エチルヘキサジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロペンタジアミン、シクロオクタジアミン等が挙げられる。
【0021】
原料モノマーとしての芳香族を含まないジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸や脂環式ジカルボン酸が挙げられ、例としては、以下に限定されるものではないが、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
さらに原料モノマーとしてのω−アミノカルボン酸およびラクタムの例としては、以下に限定されるものではないが、ε−カプロラクタム、エナンスラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、1,4−アミノブタン酸、1,6−アミノヘキサン酸、1,7−アミノヘプタン酸、1,8−アミノオクタン酸、1,11−アミノウンデカン酸、1,12−アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0023】
芳香族を有するジカルボン酸およびジアミンの割合は、(a1)結晶性芳香族ポリアミド樹脂を構成する全単量体100質量%に対して5〜100質量%であることが好ましい。外観性の観点から5質量%以上が好ましい。
【0024】
(a1)成分としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミドMXD6(ポリm−キシリレンアジパミド)、ポリメタキシリレンドデカミド、ポリアミド66/6I(ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド66/6I/6(ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミド)、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6T/6、ポリアミド6/6T、ポリアミド66/6I/6T、ポリアミド66/6I/6T/6、ポリアミド6/6I/6T、ポリアミド610/6I(ポリヘキサメチレンセバカミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド610/6I/6、ポリアミド610/6T、ポリアミド610/6T/6、ポリアミド610/6I/6T、ポリアミド610/6I/6T/6、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とアジピン酸及びメタキシリレンジアミンとの重縮合物等の芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0025】
上記で列挙した(a1)成分の中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物に用いる(a1)成分としては、原料モノマーとしてイソフタル酸を構成単位として含むポリアミド樹脂が外観向上の観点から好ましい。かかる特性を具備する好ましいポリアミド樹脂としては、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I/6T、ポリアミド66/6I/6T/6、ポリアミド6/6I/6T、ポリアミド610/6I、ポリアミド610/6I/6、ポリアミド610/6T、ポリアミド610/6T/6、ポリアミド610/6I/6T、ポリアミド610/6I/6T/6が挙げられ、より好ましくは、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I/6T、ポリアミド66/6I/6T/6、ポリアミド6/6I/6T、ポリアミド6T/6Iが挙げられ、さらに好ましくは、PA66/6I、PA66/6I/6、PA66/6I/6T、PA66/6I/6T/6が挙げられる。
上述した(a1)成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(a2)脂肪族ポリアミド
(a2)脂肪族ポリアミドは補外結晶化開始温度(T
ic)が(a1)成分よりも高い脂肪族ポリアミドである。
ここで、補外結晶化開始温度(T
ic)とは、JIS K7121に元に、DSC(示差走査熱量測定:DSCには入力補償DSCと熱流速DSCの2つの測定方法があるが、本発明においてDSCは入力補償DSCである)を用いて、融点+20℃の温度で5分保持した後、ポリアミド樹脂を冷却速度100℃/minで降温させたときに観測される結晶化ピークの補外結晶化開始温度のことを指す。補外結晶化開始温度は、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶化ピークの高温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接線の交点の温度である。
【0027】
補外結晶化開始温度(T
ic)が(a1)成分よりも高いとは、(a2)成分の補外結晶化開始温度(T
ic)が(a2)成分の補外結晶化開始温度(T
ic)よりも高ければよく、20℃以上高いことが好ましく、より好ましくは25℃以上、さらには30℃以上、特には35℃以上が望ましい。補外結晶化開始温度(T
ic)の差が20℃以上であると優れた引張強度をもたらす点で好ましい。
【0028】
(a2)脂肪族ポリアミドとしては、上述の補外結晶化開始温度が(a1)成分よりも高く、脂肪族ポリアミドであれば、特に限定されるものではなく、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド樹脂、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド樹脂、ω―アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド樹脂、ならびにこれらの共重合物が挙げられる。これらのポリアミド樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0029】
脂肪族ポリアミドとはポリアミド樹脂を構成する単量体において芳香族環を持たない単量体によって構成されたポリアミドのことを指す。
【0030】
(a2)成分の原料モノマーについて説明する。
ラクタムとしては、芳香族環を持たないものであればよく、以下に限定されるものではないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタム、及びドデカラクタムが挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ω―アミノカルボン酸としては、芳香族環を持たないものであればよく、以下に限定されるものではないが、たとえば、ラクタムの水による開環化合物であるω−アミノ脂肪酸が挙げられる。なお、ラクタムまたはω―アミノカルボン酸はそれぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
【0032】
続いて、ジアミンおよびジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド樹脂について説明する。
単量体であるジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、直鎖状のジアミンや分岐型のジアミン、脂環型のジアミンが挙げられ、例としては、以下に限定されるものではないが、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、2−メチルペンタジアミン、2−エチルヘキサジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロペンタジアミン、シクロオクタジアミン等が挙げられる。
【0033】
単量体であるジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸や脂環式ジカルボン酸が挙げられ、例としては、以下に限定されるものではないが、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0034】
(a2)成分の単量体は、上述のラクタム、ω−アミノカルボン酸、芳香族を含まないジアミンおよび芳香族を含まないジカルボン酸から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(a2)成分としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド4(ポリα−ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミドが挙げられる。
【0036】
上記で列挙した(a2)成分の中でも、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミドがより好ましく、結晶化開始温度の高さの観点から、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)またはポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)であることがさらに好ましい。
上述した(a2)成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(A)ポリアミド樹脂100質量%において、(a1)成分の割合は、30質量%以上95質量%以下であることが好ましく40質量%以上90質量%以下がより好ましく、50質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。また、(A)ポリアミド樹脂100質量%において、(a2)成分の割合は、5質量%以上70質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下がより好ましく、10質量%以上50質量%以下がさらに好ましい。(a1)成分を30質量%以上とすることで高い外観性を示し、95質量%以下とすることで、優れた引張強度や加工安定性をもたらす。(a2)成分を5質量%以上とすることで優れた引張強度や加工安定性を示し、70質量%以下とすることで高い外観性をもたらす。
【0038】
(A)ポリアミド樹脂中の芳香族含有単量体比率、すなわち(A)ポリアミド樹脂を構成する全単量体100質量%に対する芳香族構造を構成単位として有する単量体の割合は、5〜21質量%であることが好ましい。より好ましくは8.5〜21質量%であり、さらに好ましくは8.5〜18質量%であり、さらにより好ましくは8.5〜15質量%である。5質量%以上とすることで成形品の表面にガラス繊維の露出を抑制し、ポリアミド樹脂組成物成形品として優れた外観を得やすくなり、21質量%以下とすることでポリアミド樹脂組成物として結晶性の低下を抑制し、高い機械的物性を発揮する。
(A)ポリアミド樹脂中の芳香族含有単量体比率の算出方法は、特に制限されないが、核磁気共鳴法(NMR)などにより求めることができる。
【0039】
本発明の(A)ポリアミド樹脂は、(a1)成分、(a2)成分に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他のポリアミドをブレンドすることができる。他のポリアミドとしては、例えば、非結晶性ポリアミドや(a1)成分の補外結晶化開始温度(Tic)以下の脂肪族ポリアミドが該当する。非晶性ポリアミドの具体例としては、以下に限定されるものではないが、ポリアミド6I、ポリアミド6I/6Tなどが挙げられる。
【0040】
本発明に用いるポリアミド樹脂を製造する方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの塩から溶融重合法、固相重合法、塊状重合法、溶液重合法、またはこれらを組み合わせた方法等、種々の重縮合を利用することができる。また、アジピン酸クロライド、イソフタル酸クロライドとヘキサメチレンジアミンから溶液重合、界面重合等の方法によっても得ることができる。これらの中でも好ましくは、溶融重合もしくは溶融重合と固相重合の組み合わせによる方法が経済的にも好ましい。
【0041】
本発明に用いるポリアミド樹脂は、JIS−K6920−2の付属書JAに準じて測定した25℃の蟻酸溶液粘度((ポリアミド5.5g)/(90%蟻酸50mL))で10以上45以下が好ましい。より好ましくは15以上35以下、さらに好ましくは25以上35以下、さらにより好ましくは25以上33以下である。蟻酸溶液粘度が10以上であることで樹脂組成物の脆化を抑えられ、実用上充分な機械的特性を有する成形品が得られ、また成形時にシリンダーのノズル先端からのドローリングが起こりにくくすることができる。蟻酸溶液粘度が45以下であることで、樹脂の溶融粘度が高くなりすぎず、成形時の部分的な無機充填剤の浮き上がりを抑え、表面光沢性を維持できる。
【0042】
(A)ポリアミド樹脂の配合量としては30質量%以上50質量%未満の範囲であり、好ましくは30〜45質量%、より好ましくは35〜45質量%である。30質量%以上とすることで、樹脂の流動性が維持でき、薄肉部に対しても樹脂の充填が可能、また表面光沢性の良い成形品を得ることができる。又、50質量%未満とすることで金属代替可能な外装材料として強度剛性を確保することができる。
【0043】
(B)ガラス繊維
本発明に用いる(B)ガラス繊維は、通常、熱可塑性樹脂に使用されているものを使うことができ、繊維径や長さに特に制限はなく、例えば、直径が5〜25μmのチョップドストランド、ロービング、ミルドファイバーのいずれを使用してもよい。強度剛性の発現および組成物中での分散性の観点から、好ましくはチョップドストランドである。チョップドストランドを用いる場合には、その長さが0.1から6mmの範囲で適宜選択して用いることができる。
【0044】
(B)ガラス繊維は、その表面に、通常公知のシラン系カップリング剤を付着させたものを用いてもよい。例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが利用できる。
【0045】
(B)ガラス繊維は、通常公知の集束剤を付着させたものを用いてもよい。例えば、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とカルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、エポキシ化合物、ポリカルボジイミド化合物、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級または第3級アミンとの塩などが挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ガラス繊維は、公知のガラス繊維の製造工程において、連続的に反応させることにより得られる。
具体的には、ローラー型アプリケーターなどの公知の方法を用いて、集束剤をガラス繊維に付与して製造した繊維ストランドを乾燥することによりガラス繊維が得られる。
繊維ストランドはロービングとしてそのまま使用してもよく、さらに切断工程を行いチョップドガラスストランドとして使用してもよい。ストランドの乾燥は切断工程後に行ってもよく、又はストランドの乾燥後に切断工程を行ってもよい。
【0047】
ガラス繊維の集束を維持する観点から、集束剤の添加量は、ガラス繊維100質量%に対し、固形分率として0.2質量%を付与(添加)することが好ましく、ポリアミド樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、3質量%以下相当であることが好ましい。より好ましくは0.3〜2質量%を付与(添加)することが好ましい。
【0048】
(B)ガラス繊維の配合量としては50質量%を超え70重量%以下であり、好ましくは55〜70質量%であり、より好ましくは55〜65質量%である。50質量%を超えて添加することで、金属代替可能な材料として強度剛性を維持できる。また、70重量%以下とすることで、樹脂の流動性を維持でき、薄肉部への樹脂の充填が可能となるほか、表面光沢性の良い成形品を得ることができる。
【0049】
機械的強度発現の観点から、本発明のポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、(A)ポリアミド樹脂と(B)ガラス繊維の合計は90質量%以上であることが好ましい。
【0050】
(C)核剤
本発明のポリアミド樹脂組成物には、(C)核剤を添加してもよい。(C)核剤としては、特に限定されるものではないが、カーボンブラックやタルクなどが挙げられる。なかでもカーボンブラックの使用が好ましい。
【0051】
カーボンブラックとしては、特に限定されるものではないが、平均一次粒径が10nm〜40nmの範囲が好ましく、10〜30nmがより好ましく、10〜20nmが特に好ましい。組成物中への分散性の観点から10nm以上が好ましく、強度、剛性発現の観点から40nm以下が好ましい。また、比表面積が50〜300m
2/g(BET吸着法)の範囲、吸油量(ジブチルフタレートを用いた測定値)が50mL/100g〜150mL/100gの範囲であるものが好ましく使用できる。
【0052】
また、カーボンブラックを使用する場合、その添加量は(A)ポリアミド樹脂と(B)ガラス繊維の合計を100質量部としたとき、好ましくは0.1質量部以下0.02質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以下0.025質量部以上、さらに好ましくは0.06質量部以下0.03質量部以上である。ポリアミド樹脂組成物の結晶化温度を200℃以下とし、高い表面外観を発現する観点からは10質量部以下が好ましい。
【0053】
(D)結晶化遅延剤
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形品外観および機械的強度をより一層向上させる観点から、(D)結晶化遅延剤を添加してもよい。結晶化遅延剤とは、ポリアミド樹脂に配合することにより、ポリアミド樹脂の結晶化開始点を降下させる作用効果を有する物質である。(D)結晶化遅延剤としては、特に限定されるものではないが、アジン系染料、フタロシアニン系染料や塩化リチウムなどが挙げられる。中でもアジン系染料あるいはフタロシアニン系染料が好ましい。アジン系染料としては、ニグロシンが好ましく、フタロシアニン系染料としては、銅フタロシアニン系染料が好ましい。
【0054】
(D)結晶化遅延剤の含有量は、(A)ポリアミド樹脂と(B)ガラス繊維の合計を100質量部としたとき、0.005〜0.1質量部が好ましく、より好ましくは0.005〜0.04質量部、さらに好ましくは0.01〜0.02質量部である。(D)結晶化遅延剤の含有量を0.1質量部以下とすることにより、外観性に優れるポリアミド樹脂組成物が得られ、0.005質量部以上とすることにより、機械的強度に優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0055】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、外観と強度のバランス向上の観点から(C)核剤と(D)結晶化遅延剤を併用することが好ましい。併用する場合、ポリアミド樹脂組成物中の(C)核剤に対する(D)結晶化遅延剤の質量比は0.05〜1.0の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.25〜0.5の範囲である。成形品外観向上の観点から0.05以上が好ましく、強度向上の観点から1.0以下が好ましい。
【0056】
(E)滑剤
本発明のポリアミド樹脂組成物には、成形品外観をより一層向上させる観点から(E)滑剤を添加してもよい。滑剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、及び脂肪酸金属塩の中から選ばれる1種以上の脂肪酸化合物が挙げられる。
滑剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
脂肪酸化合物を構成する脂肪酸とは、脂肪族モノカルボン酸を示す。特に、炭素数8以上の脂肪酸が好ましい。より好ましくは炭素数8〜40の脂肪酸である。
脂肪酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分岐状の、脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。より具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0058】
脂肪酸エステルとは、脂肪酸とアルコールとのエステル化合物である。
アルコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,3−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。
【0059】
脂肪酸エステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、モンタン酸−1,3−ブタンジオールエステル、モンタン酸−トリメチロールプロパンエステル、トリメチロールプロパントリラウレート、ブチルステアレート等が挙げられる。
【0060】
脂肪酸アミドとは、脂肪酸のアミド化物である。
脂肪酸アミドとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N−ステアリルステアリルアミド、N−ステアリルエルカアミド等が挙げられる。特に、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、及びN−ステアリルエルカアミドが好ましく、エチレンビスステアリルアミド及びN−ステアリルエルカアミドがより好ましい。
【0061】
脂肪酸金属塩とは、上述した脂肪酸の金属塩である。
脂肪酸と塩を形成する金属元素としては、元素周期律表の第1族元素(アルカリ金属)、第2族元素(アルカリ土類金属)、第3族元素、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
金属元素としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウムが好ましい。
【0062】
脂肪酸金属塩としては、モンタン酸金属塩、ベヘン酸金属塩及びステアリン酸金属塩が好適に用いられ、特に、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム等が好ましく、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛がより好ましく、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛が、さらに好ましい。
これら脂肪酸金属塩は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
(E)滑剤の含有量は、(A)ポリアミド樹脂と(B)ガラス繊維の合計を100質量部としたとき、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.03〜5質量部であることがより好ましく、0.05〜2質量部であることがさらに好ましい。
(E)滑剤の含有量をこの範囲内とすることにより、外観、離型性、機械的強度及び可塑化性に一層優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0064】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じ本発明の目的を損なわない範囲において、通常のポリアミド樹脂に添加されるガラス繊維以外の補強充填材、銅化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光劣化防止剤、可塑剤、離型剤、難燃剤等を添加することもできるし、他の熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。
【0065】
〔ポリアミド樹脂組成物の製造方法〕
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、以下に制限されないが、例えば単軸または多軸の押出機によって、(A)ポリアミド樹脂を溶融させた状態で、(B)ガラス繊維、(C)核剤、(D)結晶化遅延剤、及び(E)滑剤を混練する方法を用いることができる。(B)ガラス繊維は、上流側供給口と下流側供給口を備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口から(A)ポリアミド樹脂、(C)核剤、(D)結晶化遅延剤、及び(E)滑剤を供給して溶融させた後、下流側供給口から(B)ガラス繊維を供給して溶融混練する方法を用いることが好ましい。
【0066】
〔成形品〕
本発明の成形品は、上述した本発明のポリアミド樹脂組成物を成形することにより得られる。
【0067】
〔用途〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は、例えば、アウタードアハンドル、ホイールキャップ、ルーフレール、ドアミラーベース、ルームミラーアーム、サンルーフデフレクター、ラジエターファン、ベアリングリテーナー等の自動車部品、及び机及び椅子の脚、座受け、肘掛け等の各種オフィス部品、さらには、車椅子部品、ドアハンドル、手摺り、浴室等の握り棒、窓用ノブ、グレーティング材等、工業用途及び雑貨用途に利用できる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
(1)評価方法は下記の通りである。
【0069】
〔補外結晶化開始温度〕
JIS K7121を元に、パーキンエルマー社製DSC7を用いて、融点+20℃の温度で5分保持した後、ポリアミド樹脂を冷却速度100℃/minで降温させたときに観測される結晶化ピークに対し、JIS K7121に記載の方法で補外結晶化開始温度を測定した。なお、補外結晶化開始温度は、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶化ピークの高温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接線の交点の温度である。
【0070】
〔25℃の蟻酸溶液粘度〕
JIS−K6920−2の付属書JAに準じて測定した。90%蟻酸を用いて、ポリマー溶解液((ポリアミド5.5g)/(90%蟻酸50mL)の割合)を作製し、25℃の温度条件下で測定した。
【0071】
〔引張強度〕
東芝機械(株)製;IS−50EP射出成形機を用いて、樹脂温度290℃、金型温度:80℃に設定し、射出+保圧時間:25秒、冷却時間:15秒の成形条件で、ISOタイプAの多目的試験片を成形した。得られた多目的試験片を用いて、ISO527に従って、引張速度5mm/minの条件で、引張破断強さを測定した。得られた破断強さを引張強度とした。
【0072】
〔表面光沢〕
東芝機械(株)製;IS150E射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で、充填時間が約1.0秒になるように射出圧力、及び速度を適宜調整し、100×90×3mmの射出成形板を得た。この平板を用い、光沢計(HORIBA製;IG320)を用いてJIS−K7150に準じて60度グロスを測定した。
【0073】
〔押出加工安定性〕
東芝機械(株)製;TEM35 2軸押出機(設定温度:290℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、トップフィードホッパーよりポリアミド樹脂と核剤、結晶化遅延剤および滑剤を供給し、さらに、サイドフィード口よりガラス繊維を供給し、紡口より押し出された溶融混練物のストランドを水浴で冷却後、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物を得る際、ストランドが切れる頻度によって以下のように判定した。
A:60minに1回以下
B:60minに2〜5回
C:60minに6回以上
【0074】
(2)実施例、比較例に用いた原料を以下に示す。
(A)ポリアミド樹脂
a1−1)ポリアミド66/6I共重合体:製造例1に従って作製した。
ポリアミド樹脂中の芳香族含有単量体成分比率:17.7質量%
結晶化補外開始温度(T
ic):186℃
25℃の蟻酸溶液粘度 :22
【0075】
a1−2)ポリアミド66/6I共重合体:製造例2に従って作製した。
ポリアミド樹脂中の芳香族含有単量体成分比率:11.8質量%
結晶化補外開始温度(T
ic):193℃
25℃の蟻酸溶液粘度 :27
【0076】
a1−3)ポリアミド66/6I/6共重合体:製造例3に従って作製した。
ポリアミド樹脂中の芳香族含有単量体成分比率:8.8質量%
結晶化補外開始温度(T
ic):200℃
25℃の蟻酸溶液粘度 :25
【0077】
a2)ポリアミド66:レオナ(登録商標)1300(旭化成ケミカルズ社製)
ポリアミド樹脂中の芳香族含有単量体成分比率:0質量%
結晶化補外開始温度(T
ic):224℃
【0078】
(B)ガラス繊維
b1)ガラス繊維(日本電気硝子(株)製;ECS 03T−275H)
平均繊維径 10μm
カット長 3mm
【0079】
(C)核剤
c1)一次粒子径が18nmのカーボンブラック
【0080】
(D)結晶化遅延剤
d1)ニグロシン ヌビアンブラックTN−870(オリヱント化学工業社製)
【0081】
(E)滑剤
e1)Licowax−E(クラリアントジャパン(株)製モンタン酸エステルワックス)
【0082】
〔製造例1:ポリアミド(a1−1)の製造〕
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩1050gと、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩450g、及びアジピン酸4.1g、ヨウ化銅17g、ヨウ化カリウム288g及び純水1500gを5Lのオートクレーブの中に仕込み、充分N
2置換した後、攪拌しながら加温を開始した。缶内圧力は最大20kg/cm
2(G)に調整しながら最終到達温度は270℃とし、水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。JIS K7121を元に冷却速度100℃/minで測定した結晶化補外開始温度は186℃であった。
【0083】
〔製造例2:ポリアミド(a1−2)の製造〕
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩1200gと、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩300g、及びアジピン酸4.2g、ヨウ化銅17g、ヨウ化カリウム288g及び純水1500gを5Lのオートクレーブの中に仕込み充分N
2置換した後、攪拌しながら加温を開始した。缶内圧力は最大20kg/cm
2(G)に調整しながら最終到達温度は270℃とし、水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。JIS K7121を元に冷却速度100℃/minで測定した結晶化補外開始温度は193℃であった。
【0084】
〔製造例3:ポリアミド(a1−3)の製造〕
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩1200gと、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩225gと、ε−カプロラクタム75g及びアジピン酸4.2g、ヨウ化銅17g、ヨウ化カリウム288gおよび純水1500gを5Lのオートクレーブの中に仕込み充分N
2置換した後、撹拌しながら加温を開始した。缶内圧力は20kg/cm
2(G)に調整しながら最終到達温度は270℃とし、水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。JIS K7121を元に冷却速度100℃/minで測定した結晶化補外開始温度は200℃であった。
【0085】
〔実施例1〜7、比較例1〜6〕
ポリアミド樹脂、格剤、結晶化遅延剤および滑剤を表1記載の割合になるように、東芝機械(株)製;TEM35 2軸押出機(設定温度:290℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、トップフィードホッパーより供給し、さらに、サイドフィード口よりガラス繊維を供給し、紡口より押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物を得た。その組成および評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、本発明のポリアミド樹脂組成物である実施例1〜7は優れた機械的物性と高い生産加工性を有しながら外観に優れる成形品を得ることができた。ガラス繊維が本発明の範囲であっても(a2)成分を含まない比較例1や5、(a2)成分を含んでいてもガラス繊維が本発明の範囲外である比較例3、4や6、(a2)成分を含まずガラス繊維も本発明の範囲外である比較例2では、機械的物性および外観ともに優れる成形品は得られなかった。