特許第6618295号(P6618295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618295
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】画像加熱装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
   G03G15/20 535
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-156032(P2015-156032)
(22)【出願日】2015年8月6日
(65)【公開番号】特開2017-32951(P2017-32951A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141508
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】竹松 浩二
【審査官】 飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−322995(JP,A)
【文献】 特開平09−236958(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0091229(US,A1)
【文献】 特開2003−029555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を担持した記録材をその間のニップで挟持搬送して加熱する回転体対と、
前記回転体対を駆動させるための駆動モータと、
前記駆動モータから前記回転体対に駆動を伝達する駆動伝達部材と、
前記駆動モータの駆動トルクを検知するトルク検知部と、
記録材の搬送方向において前記ニップ部の下流側に設けられ、記録材が通紙されていることを検知する通紙検知部と、
制御部と、を有し、
前記通紙検知部は、画像形成装置に通紙可能な最小サイズの記録材を通紙したときに前記通紙検知部が記録材の検知を開始してから所定期間までは記録材が前記ニップ部にあるように、前記ニップ部に対して配置されており、
前記制御部は、前記通紙検知部が記録材の検知を開始してから前記所定期間よりも短い期間内に前記トルク検知部が複数回の前記駆動トルクを検知し、検知した複数回の前記駆動トルクの平均値が所定の値を超えたら前記駆動モータの駆動を停止することを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
前記所定の値が前記駆動伝達部材の破損トルク以下であることを特徴とする請求項1に記載の画像加熱装置。
【請求項3】
表示部を有し、前記制御部は、前記駆動モータの駆動を停止する際にエラーメッセージを前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像加熱装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記トルク検知部が検知した前記駆動トルクが第1の所定の値を超えているが前記第1の所定の値よりも大きい第2の所定の値に至っていない場合には第1の判定に対応する警告を前記表示部に表示させると共に画像形成可能とし、前記第2の所定の値を超えている場合には前記第1の判定とは異なる第2の判定に対応する警告を前記表示部に表示させると共に画像形成を禁止することを特徴とする請求項3に記載の画像加熱装置。
【請求項5】
前記駆動伝達部材がギアであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項6】
前記回転体対の少なくとも一方の回転体が複数の支持部材に張架されたエンドレスベルトであり、その内面に潤滑剤が塗布されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項7】
前記複数の支持部材のうちの少なくとも一つは前記エンドレスベルトを他方の回転体に圧接させる非回転の加圧部材であることを特徴とする請求項に記載の画像加熱装置。
【請求項8】
前記回転体対はローラ対であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式や静電記録方式等を採用した画像形成装置に搭載され、記録材上の画像を加熱する画像加熱装置に関する。
【0002】
画像加熱装置としては、例えば、記録材上の未定着画像を定着する定着装置や、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を増大させる光沢増大化装置を挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
定着装置(画像加熱装置)の構成形態の一つとして、定着ローラと圧接ベルト(無端ベルト)を用いた、いわゆる、ベルト定着装置がある。このベルト定着装置は、定着ローラを加熱して回転させ、これに接触させてベルトを従動回転させるように配置する。そして、定着ローラとベルトの接触部である定着ニップ部で未定着トナー像を担持した記録材(シート:以下用紙と記す)を挟持搬送しつつ、トナー像を熱と圧力で記録材に定着させるものである。その際、定着ローラとベルトにニップを形成して圧接させるために、定着ローラに向けてベルトを圧接する加圧部材がベルト内面と摺動自在に設けられる。
【0004】
特許文献1には、ベルトの摺動性を向上させるためにベルトの内面に潤滑剤を塗布するこが記載されている。さらに、潤滑剤の枯渇に伴う駆動部のトルク上昇に起因する装置寿命の低下を防止するために、装置の駆動トルクを検知して検知結果に応じたてメッセージを表示部に表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−322995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の技術は非通紙時にトルクを検知している。この場合は非通紙時に高トルクになるまで装置が使われると、通紙時には更にトルクが増大して駆動部のギアにかかる負荷が高い状況になってしまい、ギア破壊の予測ができない。即ち、トルクが極端に増大する用紙が通紙された場合で故障し得るトルクとなったらメンテナンスとなり、メンテナンス頻度が増大することが考えられる。
【0007】
本発明は上記の従来技術を更に発展させたものである。その目的とするところは、潤滑剤の減少に伴う駆動トルクの上昇に起因する装置寿命の低下をより確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明に係る画像加熱装置の代表的な構成は、画像を担持した記録材をその間のニップで挟持搬送して加熱する回転体対と、前記回転体対を駆動させるための駆動モータと、前記駆動モータから前記回転体対に駆動を伝達する駆動伝達部材と、前記駆動モータの駆動トルクを検知するトルク検知部と、記録材の搬送方向において前記ニップ部の下流側に設けられ、記録材が通紙されていることを検知する通紙検知部と、制御部と、を有し、前記通紙検知部は、画像形成装置に通紙可能な最小サイズの記録材を通紙したときに前記通紙検知部が記録材の検知を開始してから所定期間までは記録材が前記ニップ部にあるように、前記ニップ部に対して配置されており、前記制御部は、前記通紙検知部が記録材の検知を開始してから前記所定期間よりも短い期間内に前記トルク検知部が複数回の前記駆動トルクを検知し、検知した複数回の前記駆動トルクの平均値が所定の値を超えたら前記駆動モータの駆動を停止することを特徴とする。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録材のニップに対する導入中に駆動トルクを確実に検知して、駆動トルクが所定の値を超えたら駆動部の駆動を停止するから、潤滑剤の減少に伴う駆動トルクの上昇に起因する装置寿命の低下をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における制御フローチャート図
図2】実施例の画像形成装置の概略構成図
図3】(a)は実施例の定着装置の要部の概略の横断面模式図、(b)は(a)における加圧パッド部分の拡大模式図
図4】定着装置の要部の概略の上面模式図と制御系統のブロック図
図5】駆動トルク波形を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、実施例は、本発明における最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0012】
《実施例1》
〔画像形成装置〕
図2は本実施例における画像形成装置の構成略図である。この画像形成装置100は、装置本体の内部に、画像形成手段として例えばY(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン),K(ブラック)の各色に対応する画像形成部200Y,200M,200C,200Kが直列に配置されている。すなわち、可視像化までのプロセスを各色で並列処理するタンデム方式が採用された画像形成装置である。
【0013】
以下、記述の煩雑化を防ぐために、Y,M,C,Kの4つの画像形成部を符号200で代表させて説明するものとし、関連する次の各プロセス手段についても同様とする。また、Y,M,C,K各色の画像形成部の配列順序はそれに限定されない。
【0014】
各画像形成部200では以下の各プロセス手段が備わっている。Y,M,C,K各色に対応して表面に静電潜像を担持する像担持体120と、一次帯電装置121と、露光装置122と、そして現像装置123を有している。像担持体120は反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。一次帯電装置121は対応する像担持体120の表面を設定された電位の帯電バイアス電圧を印加して一様に帯電する。その帯電面が露光装置122によって露光されて静電潜像が形成される。静電潜像は、現像装置123によってトナー現像され、トナー像として可視画像化される。
【0015】
像担持体120の表面に形成して担持された各トナー像は、一次転写装置124によって矢印R2の時計方向に所定の周速度で回転駆動される無端状ベルトによる中間転写体125の上に順次重ねて一次転写される。中間転写ベルト125は、駆動ローラ126、テンションローラ127、及び対向ローラ128に掛け渡して支持され、駆動ローラ126に駆動されて矢印R2の方向に回転する。
【0016】
二次転写装置130に設けられた二次転写ローラ131は、対向ローラ128によって内側から支持された中間転写ベルト125に圧接して、二次転写ローラ131と中間転写ベルト125との間に二次転写ニップN2を形成する。そして、Y,M,C,K全色が一次転写された中間転写体125上のトナー像は、その後に二次転写ニップN2で用紙(記録材)Pの上に一括して二次転写される。ベルトクリーニング装置129は、中間転写ベルト125にクリーニングウエブを摺擦させて、二次転写ニップN2を通過した中間転写ベルト125の表面に残留した転写残トナー、紙粉等を除去する。
【0017】
また、用紙給送装置(記録材給送装置)110は、上下2段の用紙収納カセット111A,11Bのうちの何れかのカセットからピックアップローラ112で引き出した用紙Pを、分離装置113で1枚ずつに分離して、レジストローラ115へ送り出す。レジストローラ115は、停止状態で用紙Pの先端部を受け止めて待機させ、中間転写ベルト125上のトナー像にタイミングをあわせて、二次転写ニップN2へ用紙Pを送り出す。
【0018】
二次転写ニップN2で転写されたトナー像を担持した用紙Pはベルト搬送装置140によって、定着装置1に搬送される。定着装置1では、定着ニップNにて用紙Pを挟持搬送して未定着のトナー像に熱と圧を加えることで定着させる。定着処理を終えて定着装置1から送り出された用紙Pは、搬送ローラ対52によって排出パス150または両面搬送パス160などにむけて搬送される。
【0019】
片面印刷モードの場合、トナー像を定着された用紙Pは、排出パス150へ進んで排出ローラ151により排出トレイ152へ排出して積載される。両面印刷モードの場合、トナー像を片面に定着され用紙Pは、反転パス153へ進んでスイッチバックされて両面搬送パス160へ送り込まれ、再給送ローラ161で待機する。その後、用紙Pは、レジストローラ115によって二次転写ニップN2へ送り込まれて裏面にもトナー像を二次転写され、定着装置1で未定着のトナー像を定着される。
【0020】
以上のようにして、画像形成装置100は、帯電、露光、現像、転写、定着など一連の画像形成プロセスを実行して、普通紙やOHPシートなどによる用紙P上にカラートナー像を形成して排出する。なお、モノクロ画像形成装置の場合は、ブラック(K)の像担持体のみが存在し、その像担持体に形成されたトナー像を転写装置で用紙Pに転写する。
【0021】
〔定着装置〕
次に、本実施例における定着装置(画像加熱装置)1の構成について図3図4を用いて詳細に説明する。図3の(a)は定着装置1の要部の概略の横断面模式図、(b)は(a)における加圧パッド部分の拡大模式図である。図4は定着装置1の要部の概略の上面模式図と制御系統のブロック図である。ここで、以下の説明において、上流側と下流側は用紙搬送方向(記録材搬送方向)aに関して上流側または下流側である。
【0022】
本実施例における定着装置1はいわゆる下ベルト構成のベルト定着装置である。加熱源を内蔵した定着ローラ51(加熱回転体)を有する。また、定着ローラ51の下方に配置された定着ベルトユニット2を有する。この定着ローラ51と定着ベルトユニット2とにより定着装置1の主要部が構成されている。
【0023】
定着ベルトユニット2は、複数の支持部材である分離ローラ55、ステアリングローラ56、インレットローラ57の3本のローラ間に張架された定着ベルト52(エンドレスベルト)を有する。また、この定着ベルト52の内面側に当接され、定着ローラ51の表面に沿って定着ベルト52を押圧する加圧パッド60(加圧部材)を有する。この加圧パッド60も定着ベルト52(一方の回転体)を支持して定着ローラ51(他方の回転体)に圧接する非回転の支持部材である。
【0024】
定着ベルト52が定着ローラ51に対して分離ローラ55と加圧パッド60の部分で圧接されて定着ローラ51と定着ベルト52との間に用紙搬送方向aにおいて幅広のニップNが形成される。このニップNに二次転写装置130の側からベルト搬送装置140によって定着装置1に搬送された用紙Pが進入して挟持搬送されて用紙上の未定着トナー像Tが加熱加圧されて定着される。
【0025】
即ち、本実施例の定着装置1においては、定着ローラ51と定着ベルト52がトナー像(画像)Tを担持した用紙Pをその間のニップNで挟持搬送して加熱する回転体対である。定着ローラ51が用紙Pのトナー像Tの担持面側に対応する。定着ベルト52が用紙Pのトナー像Tの担持面側とは反対面側に対応する。
【0026】
定着ローラ51は、制御部301で制御される駆動モータ(駆動部)300のモータギア303と駆動ギア304を介して矢印Aの時計方向に所定の速度、例えば450mm/secの周速で回転駆動されるようになっている。モータギア303と駆動ギア304が駆動モータ300から定着ローラ51に駆動を伝達する駆動伝達部材である。
【0027】
本実施例の定着装置1においては、定着ベルト52は定着ローラ51の回転駆動に従動して矢印Bの反時計方向に回転する。定着ローラ51の定着ベルト52の両方に対して、あるいは定着ベルト52に対して駆動モータ300の駆動モータ300から駆動を駆動伝達部材によって伝達する装置構成にすることもできる。
【0028】
定着ローラ51は、例えば3mm厚の円筒形状に形成されたアルミニウム合金からなる芯金51aの周面に、2mm厚のシリコーンゴム等からなる弾性層51bが形成されている。そして、この弾性層51bの表面に離形層51cとして50μm厚のPFAチューブが被覆されている。定着ローラ51の外径はφ80mmとしている。
【0029】
また、定着ローラ51の内部には加熱源として出力1000Wのハロゲンランプ58が配置されている。ハロゲンランプ58は制御部301で制御される給電部(不図示)から電力供給されて発熱する。その発熱により定着ローラ51が内部から加熱される。ハロゲンランプ58で内部加熱される定着ローラ51の表面温度が定着ローラ51の表面に接触する温度検出素子であるサーミスタ59によって検出される。
【0030】
そして、サーミスタ59の検知温度情報が制御部301にフィードバックされる。制御部301はその入力する検知温度情報に基づいて、定着ローラ51の表面温度が所定の温度、例えば160℃に立ち上げられてその温度が維持されるように給電部からハロゲンランプ58への供給電力を制御して温度制御(温調)する。
【0031】
また、定着ベルトユニット2において、定着ベルト52は、100μm厚のポリイミド製の基層52aの周面に、0.2mm厚のシリコーンゴム等からなる弾性層52bが形成されている。また、この弾性層51bの表面に離形層52cとして50μm厚のPFAチューブが被覆されている。定着ベルト52は、分離ローラ55、ステアリングローラ56、インレットローラ57に張架されている。
【0032】
分離ローラ55は、ステンレス等の金属によってクラウン形状に形成されたローラである。分離ローラ55は、加圧機構(不図示)によってニップNの用紙出口部Nbにおいて、定着ローラ51に定着ベルト52を介して、例えば490N(50kgf)の圧力で加圧されている。
【0033】
ニップNに進入した用紙Pの未定着トナー像TはニップNで溶融、加圧される。そのため、トナーTと定着ローラ51の表層は貼り付く傾向にある。しかし、定着ローラ51の弾性層51b、離形層51cは、分離ローラ55の圧接によって変形し、その円弧形状が反対方向になっているため、定着ローラ51に貼り付いたトナー像Tは剥離され、用紙Pは定着ローラ51から順次に分離される。2点鎖線Paは定着ローラ51から分離された用紙を示している。
【0034】
その後、用紙Pは先端がニップNよりも下流側においてニップ近傍に配置されている通紙センサ(記録材検知部)90に通過時に検知される。その通過検知信号が制御部301にフィードバックされる。これにより、定着ローラ51から用紙Pが確実に分離されて搬送されていることが制御部301により確認される。
【0035】
ステアリングローラ56は、定着ベルト52の蛇行制御ローラである。ステアリングローラ56は、定着ベルト52に所定のテンション、例えば4.9N(5kgf)を付与しつつ、定着ベルト52が回転に伴って支持部材の長手方向に沿って蛇行移動(ベルト52の幅方向への寄り移動)するのを防止する制御ローラである。
【0036】
即ち、ステアリングローラ56の両端部のうちの少なくとも一方が図3において水平方向に移動可能に支持されている。そして、定着ベルト52の蛇行移動が所定の範囲内に収まるように、ステアリングローラ56が制御部Aで制御される揺動機構(不図示)で揺動される。これにより、定着ベルト52の蛇行制御がなされる。
【0037】
インレットローラ57はステンレス等の金属ローラであり、定着装置1に用紙Pが進入するニップNの入口Na側に設けられている。
【0038】
加圧パッド60は定着ベルト52の内側において、分離ローラ55とインレットローラ57の間で、分離ローラ55寄りの位置に配置されている。そして、加圧パッド60は定着ベルト52を定着ローラ51に圧接する方向に加圧機構(不図示)により例えは490N(50kgf)の押圧力で加圧付勢されている。これにより、分離ローラ55と加圧パッド60との部分において定着ベルト52が定着ローラ51の周面に押し付けられて、定着ローラ51と定着ベルト52との間に用紙搬送方向aにおいて幅広のニップNが形成される。
【0039】
加圧パッド60は、図3の(b)のように、ステンレス等の金属からなるベースプレート65の表面にアルミニウム合金からなるパッドスペーサ66を介して設けられている。加圧パッド60は、アルミニウム合金からなる加圧パッドベース61上に、弾性層62として5mm厚のシリコーンゴム層が形成されており、このゴム層上に摺動層63としてフッ素ゴムコーティング層が被覆されている。
【0040】
さらに、加圧パッド60の表面は摺動部材としての摺動シート70によって被覆されている。摺動シート70は100μm厚のポリイミド製の基層71の表面にPTFEコーティング層72が形成されている。そして、摺動シート70はニップNの入口Na側の部分が固定板73によってベースプレート65に固定されており、加圧パッド60を覆うように分離ローラ55の近傍まで延びている。
【0041】
また、定着ベルト52の内面には、潤滑剤Jとして粘度300csのシリコーンオイルが塗布されており、これによって定着ベルト52の内面と摺動シート70との間の摩擦係数が小さくなるようになされている。
【0042】
また、定着ベルト52の内側において、摺動シート70とインレットローラ57の間には潤滑剤塗布ローラ80が定着ベルト52の内面に当接されて配置されている。潤滑剤塗布ローラ80は直径φ4mmのステンレス等の金属軸の周りに潤滑剤Jを含浸させた不織布を巻き付けた外径φ8mmのローラである。この不織布に潤滑剤Jとしてのシリコーンオイルが8ml保持されている。
【0043】
潤滑剤塗布ローラ80は、摺動シート70のニップNの入口Naよりも上流側でインレットローラ57よりも下流側において、定着ベルト52の内面と接触して定着ベルト52の回転に従動して回転する。これにより、不織布内部に含浸されたシリコーンオイルがしみだし適量定着ベルト52内周面に塗布されるようになっている。
【0044】
〔駆動伝達部材の保護〕
前述したように、用紙の通紙枚数が進むと、定着ベルト52の内面に塗布された潤滑剤Jの一部は加圧パッド60のニップNの入口Na側でせき止められ徐々に溜まっていく。これにより、定着ベルト52の内面に塗布された潤滑剤の量は徐々に減少していき摺動面での摩擦力及び摩耗量が増大する。そして、摺動面での摩擦力及び摩耗量が過度に増大すると、ベルトを従動回転させる負荷が増え、定着ローラを回転駆動させるトルクが増える。
【0045】
その結果、定着ローラ51に連結される駆動伝達部材としてのモータギア303や駆動ギア304の歯面に加わる負荷が過剰に加わり続け、ギア303、304が破損に至ってしまう虞がある。以下、このギアの保護対策を説明する。
【0046】
図4に示すように、定着装置1を駆動する駆動モータ300と、制御部301と表示部(報知部)302とを有している。表示部302は、例えば、画像形成装置の操作部のタッチパネル方式の液晶画面表示器である。制御部301は通紙ジョブ信号が入力されると、駆動モータ300の回転駆動を開始する。これにより定着装置1の駆動が開始される。
【0047】
また、本実施例においては、制御部301は、駆動モータ300の駆動トルクとして駆動モータに流れる電流値を電流値検知機能部(電流計:不図示)で検知する。そして、定着装置1が異常(エラー)である場合には、この異常状態(エラーメッセージ)を音声または表示部302に表示(報知)させるものである。
【0048】
このため、制御部301は定着装置1を駆動する駆動モータ300の電流値を常に検出し、電流値とその経過時間により駆動トルクの変動を取得することができるトルク検知部(駆動モータ300の駆動トルクを検知するトルク検知機能部:不図示)を有する。表示部302は制御部301による取得結果(演算結果)を表示することにより定着装置1の異常(エラーメッセージ)を確実に報知することができる。
【0049】
図1図5を用いて、第一の実施形態を説明する。図5は定着装置1に紙坪量350gsmを通紙した時の駆動モータ300の駆動トルク波形を示す。図1は制御を示すフローチャートである。
【0050】
図5の(a)は、定着装置1の定着ベルト52の内面にシリコーンオイル(潤滑剤)が十分に塗布されている「正常時」の場合の駆動モータ300の駆動トルク波形を示す図である。
【0051】
同図(b)は、通紙枚数が増え、定着ベルト52の内面のシリコーンオイルが減少することで駆動トルクが上昇し、定着ベルト52の交換をサービスマンまたはユーザーに報知する「アラーム報知」の場合の駆動モータ300の駆動トルク波形を示す図である。
【0052】
同図(c)は、さらに通紙枚数が増えることで定着ベルト52の内面のシリコーンオイルが枯渇状態となる。そのため、モータギア303、駆動ギア304にかかる負荷が更に増え、モータギア303、駆動ギア304が破損に至る可能性がある「エラー報知」の場合の駆動トルク波形を示す図である。
【0053】
定着装置1の構成や大きさ、駆動ギア比等にもよるが、本実施例においては、駆動時の駆動モータ300の駆動トルクが「400mNm」を超えた状態で連続回転すると、モータギア303、駆動ギア304の歯面が疲労破損に至る負荷がかかり続ける。そため、ギアが破損に至る場合がある。
【0054】
下記に駆動トルク検知を行い、「アラーム報知」、「エラー報知」をする制御について図1を用いて説明する。
【0055】
制御部Aは、用紙印刷ジョブ(通紙ジョブ信号)が入力されると(S02)、駆動モータ300の電流値検出を開始する(S03)。用紙Pが定着装置1の下流側近傍にある通紙センサ90を通過し、通紙センサ90の信号がONしてから150ms〜250ms間に10msごと10個、駆動モータ電流値を記録し、10個の電流値を平均化する(S04)。
【0056】
平均電流値を駆動トルク(mNm)に変換する(用紙1枚の駆動トルク)(S05)。通紙センサ90のONから150ms〜250ms間に検知することで、用紙PがニップNに突入する際に電流値がばらつく要因を無くすことができ、且つ確実に用紙Pがニップ通紙中の範囲でトルクを測定できる。通紙センサ90のONからまた、10msごと10個の測定値を平均化することで波形のバラツキをなくすことができる。
【0057】
本実施例では、定着装置1と通紙センサ90は、装置に使用できる最小サイズ(用紙搬送方向のサイズ)の用紙Pが通紙センサ90をONから350msまではニップN内に残るように配置されている。
【0058】
この時に検知された駆動トルクが第1の所定の値としての350mNm以上かどうかを確認する(S06)。350mNm未満(第1の所定の値に至っていない場合)であれば、「正常時」と判断する。そして、次の印刷ジョブがあるかを確認し(S10)、印刷ジョブがあれば再度印刷ジョブを開始し(S02)、印刷ジョブがなければ通紙を終了する(S11)。
【0059】
検知された駆動トルクが350mNm以上(第1の所定の値を超えている場合)であった場合、駆動トルクが400mNm以上か確認する(S07)。この駆動トルク400mNmは第1の所定の値である350mNmよりも大きい所定の第2の値である。400mNm未満(第2の所定の値に至っていない場合)であれば、「アラーム報知」が必要と判断する(第1の判定)。
【0060】
そして、画像形成装置内の通信手段(不図示)を用いて、サービスマンにアラームの発生を連絡する。または、表示部302にサービスマンコールを指示する内容(第1の判定に対応するエラーメッセージ)を表示させてもよい(S08)。その後、画像形成装置は停止することなく、次の印刷ジョブがあるかを確認する(S10)。
【0061】
ここで、上記の駆動トルクに関する第1の所定の値および第2の所定の値は共に駆動伝達部材であるギア303、304の破損トルク以下の値としている。アラーム報知の場合、駆動トルクが350mNm以上400mNm未満であるため、モータギア303、駆動ギア304が破損する負荷ではないが、さらに通紙を続けると駆動トルクが徐々にアップし400mNmに至ると予測される。
【0062】
その前にサービスマンに報知し、定着ベルト52を交換しシリコーンオイルを定着ベルト52の内周面に塗布するなどのメンテナンスを施すことにより、駆動トルクが正常状態に戻り、モータギア303、駆動ギア304が破損を事前に防止することができる。
【0063】
検知された駆動トルクが400mNm以上であった場合(第2の所定の値を超えている場合)、「エラー報知」が必要と判断する(第2の判定)。
【0064】
そして、制御部301は、画像形成装置内の通信手段を用いて、サービスマンにエラーの発生を連絡する。定着装置1を含む画像形成装置の作動(駆動)を停止する(S09)。つまり、表示部302にサービスマンコールを指示する内容(第1の判定とは異なる第2の判定に対応するエラーメッセージ)を表示した状態で、画像形成装置の作動を停止させる。その結果、モータギア303、駆動ギア304には、400mNm以上の高い負荷が連続してかからないため、モータギア303、駆動ギア304の破損を防止することができる。
【0065】
上記の制御をまとめると次のとおりである。制御部301は、用紙PがニップNを通過する間にトルク検知部により駆動トルクを検知し、検知した駆動トルクが所定の値を超えたら駆動部300の駆動を停止する。所定の値はギア(駆動伝達部材)304・303の破損トルク以下である。制御部301は、駆動部300の駆動を停止する前段階でエラーメッセージを表示部(報知部)302に表示(報知)させる。
【0066】
以上のように、本実施例においては、実際に用紙Pが定着装置1のニップNを通過中の駆動トルクを検知することで、確実にギア破損防止がなされる。
【0067】
表1の(a)に、本実施例における定着装置1について、定着ベルト52の内面にシリコーンオイルが十分に塗布されている「正常時」の場合における、定着ニップ非通紙時(用紙なし)の駆動トルクの実測値を示した。また、坪量がそれぞれ80gsm,157gsm,250gsm,350gsmの各用紙のニップ通過中における駆動トルクの実測と、通紙時トルクアップ量を示した。
【0068】
表1の(b)に、定着ベルト52の内面のシリコーンオイルが減少した状態時における定着ニップ非通紙時(用紙なし)の駆動トルクの実測値を示した。また、坪量がそれぞれ80gsm,157gsm,250gsm,350gsmの各用紙のニップ通過中における駆動トルクの予測値と、ジョブ受付可否を示した。
【0069】
表1の(c)に、定着ベルト52の内面のシリコーンオイルが枯渇状態となった時における定着ニップ非通紙時(用紙なし)の駆動トルクの実測値を示した。また、坪量がそれぞれ80gsm,157gsm,250gsm,350gsmの各用紙のニップ通過中における駆動トルクの予測値と、ジョブ受付可否を示した。
【0070】
【表1】
【0071】
《その他の事項》
(1)実施例1では、1枚の用紙Pを通紙中の駆動トルクを検知することでアラーム報知、エラー報知を判断(判定)している。これに限られず、連続した複数枚の用紙Pを通紙した際の複数の駆動トルクから、その最大値を除き、残りを平均化した値を駆動トルクとして判断してもよい。
【0072】
(2)実施例1における定着装置1は、用紙P上のトナー像T側が加熱源を内蔵した定着ローラ51(一方の回転体)であり、対向する加圧側が定着ベルトユニット2であって、パッドで定着ベルト52(他方の回転体)を押圧する下ベルト構成で説明した。これに限られず、用紙P上のトナー像T側が定着ベルトユニット2であり、対向する加圧側が加圧ローラである上ベルト構成であってもよい。
【0073】
また、用紙P上のトナー像T側と対向する加圧側とが両方とも定着ベルトユニットである上下定着ベルト構成であってもよい。また、用紙P上のトナー像T側と対向する加圧側の両方ともローラであるローラ構成であってもよい。
【0074】
(3)実施例1では、画像加熱装置として、用紙上に形成された未定着トナー像を加熱して定着する定着装置を例にして説明したがこれに限られない。用紙Pに定着もしくは仮定着されたトナー像を再加熱して画像のグロス(光沢度)を増大させる装置にも本発明を適用することが可能である。
【0075】
(4)駆動部の駆動トルクを検知するトルク検知部は駆動モータの電流値を検出する方式に限られない。その他、例えば、磁気式位相差方式のトルク検出器などのトルク検出器を実動軸につけて直接検出する方式などの構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0076】
1・・画像加熱装置(定着装置)、51・52・・回転体対(定着ローラと定着ベルト)、N・・ニップ、300・・駆動部(駆動モータ)、303・304・・駆動伝達部材(ギア)、301・・トルク検知部・制御部、P・・記録材、T・・トナー像
図1
図2
図3
図4
図5