(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1で得られるハイドロゲルは、ハイドロゲル作製時に使用するジメチルスルホキシド(DMSO)に毒性がり、また、DMSOによって他の有害物質の吸収を早める効果もあり生体内での使用時に問題となる。また、脱溶媒によって一定レベルのDMSOの除去は可能だが、完全に除去することが難しい。さらには、ハイドロゲルの機械的強度を維持したまま含水率を高くしたいが、含水率と強度が反比例するため、含水率を高くすると軟骨として適した材料とならない。
【0009】
また、非特許文献2で得られるハイドロゲルの機械的強度も十分に満足できるものではなく、ゲル化までに長時間を必要とすることから工業的に有利な方法ではなかった。
【0010】
本発明の目的は、機械的強度に優れたハイドロゲル及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、生体内での毒性の問題がないハイドロゲル及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、工業的に有利な方法で製造できるハイドロゲル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、立体規則性の高いポリビニルアルコール(具体的には、シンジオタクティシティがトライアッド表示で32%以上のポリビニルアルコール)を水と混合し、加熱圧縮してハイドロゲルを製造することにより上記課題を解決出来ることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、以下のハイドロゲルの製造方法等に関する。
[1]シンジオタクティシティがトライアッド表示で32%以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)を水(B)に膨潤させ、1〜50MPa、90〜160℃の加熱圧縮条件下で溶解し、その後放冷するハイドロゲルの製造方法。
[2]前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)および水(B)の割合が、質量比で90/10〜20/80である前記[1]記載のハイドロゲルの製造方法。
[3]ホットプレス機を用いて溶解する前記[1]又は[2]に記載のハイドロゲルの製造方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法を用いて得られるハイドロゲル。
[5]前記[4]記載のハイドロゲルで形成された人工関節軟骨材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短時間でのゲル化によりハイドロゲルを製造することができ、生産性に優れる。
また、本発明によれば、シンジオタクティシティの高いPVAを高濃度(例えば40質量%以上等の濃度)で水に溶解することができ、目的に応じたハイドロゲルの作製が可能である。
また、本発明によれば、高含水率で強度の高いハイドロゲルを作製出来る。
さらに、本発明によれば、DMSOなどの生体に対して毒性のある有機溶媒を使用することなく、機械的強度の高いハイドロゲルを作製することが出来るため、人工関節軟骨などの生体材料に適したハイドロゲルを提供することができる。
【0014】
尚、シンジオタクティシティが高いPVAは、水だけでなく有機溶媒に対しても溶解性が悪いため、従来のゲル化方法では、ゲル化自体が困難であった。
一方、有機溶媒を使用しなくともシンジオタクティシティの高いPVAを水に溶解(さらには、高濃度で溶解)することができ、さらに、優れた機械的強度を有するハイドロゲルが短時間で得られるという本願発明の効果は、驚くべきものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明で使用されるポリビニルアルコール系樹脂(A)について説明する。
[ポリビニルアルコール系樹脂(A)]
本発明で使用されるシンジオタクティシティがトライアッド表示で32%以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)(以下、St−PVA(A)と略記する場合がある)は、トライアッド表示によるシンジオタクティシティが、例えば32〜40%であり、好ましくは33%以上(例えば、33〜39%)、より好ましくは34%以上(例えば、34〜38%)、さらに好ましくは36%以上(例えば、36〜38%)である。尚、トライアッド表示のシンジオタクティシティは、ポリビニルアルコール系樹脂を重DMSOに溶解し、プロトンNMR測定による水酸基のピークより求める事ができる。
【0017】
本発明で使用されるSt−PVA(A)の製法は、トライアッド表示によるシンジオタクティシティが32%以上になれば特に限定されず、従来公知の方法で得られたビニルエステル重合体を鹸化する方法により得られる。
ビニルエステル重合体の製造方法としては、ビニルエステル系単量体を重合する方法であれば特に限定されず、従来公知の方法に従って良い。
重合の際には、重合容器の形状、重合攪拌機の種類、さらには重合温度や、重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してかまわない。重合方法としては、従来から公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の各種の重合方法が可能である。重合度の制御や重合後に行うケン化反応のこと等を考慮すると、アルコールを溶媒とした溶液重合、あるいは、水又は水及びアルコールを分散媒とする懸濁重合が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0018】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、脂肪酸ビニルエステル、非脂肪酸系ビニルエステル(例えば、蟻酸ビニル、芳香族カルボン酸ビニルエステル等)等のビニルエステル等が挙げられるが、シンジオタクティシティが高いPVAが得られる等の観点から、C
3―15脂肪酸ビニルエステル[例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の直鎖又は分岐C
3―15脂肪酸ビニルエステル、好ましくは、C
3―10脂肪酸ビニルエステル(例えば、直鎖又は分岐C
3―10脂肪酸ビニルエステル等)等]、置換基(例えば、ハロゲン基)を有するC
3―15脂肪酸ビニルエステル[例えば、トリフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル等]、蟻酸ビニル等が挙げられる。これらのビニルエステルは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
St−PVA(A)の製法としては、具体的には、嵩高い側鎖を有するプロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのビニルエステルを重合した後、アルカリ触媒により鹸化する方法や、蟻酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニルなどの高極性のビニルエステルを重合した後、アルカリ触媒により鹸化する方法が挙げられる。中でもピバリン酸ビニルが好適に用いられるが、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルを共重合しても構わない。
【0020】
St−PVA(A)の構成成分において、ビニルエステルの含有量は、例えば20〜100質量%、30〜100質量%、40〜100質量%等であってよい。
また、St−PVA(A)の構成成分において、ビニルエステルの含有量は、例えば220〜100モル%、好ましくは30〜100モル%、より好ましくは40〜100モル%等であってよい。
【0021】
ピバリン酸ビニルを使用する場合、St−PVA(A)の全ビニルエステル成分において、ピバリン酸ビニルの含有量は、例えば40〜100質量%(例えば、45〜100質量%等)、好ましくは50〜100質量%(例えば、55〜100質量%等)、より好ましくは60〜100質量%(例えば、65〜10095質量%等)である。
【0022】
また、ピバリン酸ビニルを使用する場合、St−PVA(A)の全ビニルエステル成分において、ピバリン酸ビニルの含有量は、例えば60〜100モル%(例えば、65〜95モル%等)、好ましくは70〜100モル%(例えば、75〜95モル%等)、より好ましくは80〜100モル%(例えば、85〜95モル%等)である。
【0023】
また、ビニルエステル重合体には、上記したビニルエステルの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、ビニルエステルと共重合可能な他の不飽和単量体を共重合してもよい。
他の不飽和単量体としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体{例えば、不飽和モノカルボン酸[例えば、(メタ)アクリル酸等]、不飽和ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、ウンデシレン酸等)又はその無水物(例えば、無水マレイン酸等)等}、不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル類(例えば、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等)、アミド基含有不飽和単量体[例えば、アクリルアミド類(例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等)、アセトアミド類(例えば、N−ビニルアセトアミド等)]、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、
グリシジル基を有する不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等)、2−ピロリドン環含有不飽和単量体(例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−3−プロピル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−5,5−ジメチル−2−ピロリドン、N−ビニル−3,5−ジメチル−2−ピロリドン、N−アリル−2−ピロリドン等)、アルキルビニルエーテル類(例えば、メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等)、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等)、水酸基含有不飽和単量体[例えば、不飽和アルコール類(例えば、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等)、ヒドロキシアルキルビニルエーテル類(例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)等]、アセチル基含有不飽和単量体[例えば、アリルアセテート類(例えば、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等)等]、(メタ)アクリル酸エステル類[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−n−ブチル等]、ビニルシラン類(例えば、トリメトキシビニルシラン、トリブチルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン等)、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等]、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等]、ポリオキシアルキレンビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等)、ポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンビチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等)、α−オレフィン類[例えば、エチレン、プロピレン、n1−ブテン類(例えば、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等)、1−ペンテン類(例えば、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン等)、1−ヘキセン類(例えば、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等)等]、アミン系不飽和単量体[例えば、N,N−ジメチルアリルアミン、N−アリルピペラジン、3−ピペリジンアクリル酸エチルエステル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン、5−ブテニルピリジン、4−ペンテニルピリジン、2−(4−ピリジル)アリルアルコール等]、第四アンモニウム化合物を有する不飽和単量体(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等)、芳香族系不飽和単量体(例えば、スチレン等)、スルホン酸基を含有する不飽和単量体(例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−1−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等)又はその塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩又は有機アミン塩等)、グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、アクリロイルモルホリン、ビニルエチレンカーボネート等から選ばれる1種以上と共重合したものであってもよい。
【0024】
前記他の単量体を使用する場合は、他の単量体は、ビニルエステルに対して、例えば20質量%以下(例えば0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%等)を使用することができる。
前記他の単量体を使用する場合は、他の単量体は、ビニルエステルに対して、例えば20モル%以下(例えば0.1〜20モル%、1〜10モル%等)を使用することができる。
【0025】
ビニルエステルの重合に使用されるアルコール溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類が挙げられ、中でもメタノールが工業的に好ましい。
【0026】
また、重合において重合開始剤を使用してもよい。
重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、パーカーボネート化合物(例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等)、パーオキシエステル化合物(例えば、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルネオヘキサノエート、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシ−2−ネオデカノエート等)、アゾ化合物[例えば、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等]、パーオキシド化合物(例えば、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等)等が挙げられる。
【0027】
また、重合おいて、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を使用してもよい。
連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等の有機ハロゲン類が挙げられ、中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。これらの連鎖移動剤は1種又は2種以上使用することができる。
連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10質量%が望ましい。
【0028】
上述のようにして得られたビニルエステル系重合体をケン化反応することにより、St−PVA(A)を製造することができる。
ビニルエステル系重合体のケン化反応方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又は塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。
ケン化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0029】
また、鹸化物の乾燥、粉砕方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。重合の終了には、特に限定されないが、重合停止剤を使用することができる。重合停止剤は、特に限定されず、例えば、m−ジニトロベンゼン等が挙げられる。
【0030】
St−PVA(A)の鹸化度は、好ましくは90モル%以上(例えば、90〜99.99モル%)であり、より好ましくは98モル%以上(例えば、98.〜99.95モル%)、さらに好ましくは99モル%以上(例えば、99〜99.93モル%)である。尚、St−PVA(A)の鹸化度は、重DMSO溶液中で
1H−NMRを測定し求めることができる。
【0031】
St−PVA(A)の重合度は、好ましくは100〜10000であり、より好ましくは500〜8000であり、さらに好ましくは1000〜5000であり、ハンドリングが比較的容易で、得られるハイドロゲルをべたつきが少ないものとでき、強度や耐水性に優れたものとできる等の観点から、特に好ましくは1000〜3000である。また、St−PVA(A)の重合度は、例えば1000〜2000、好ましくは2000〜3000、より好ましくは3000〜4000、さらに好ましくは4000〜5000等であってもよい。重合度が100以上であれば、樹脂強度が強く、保形性のある水性ゲルが作製しやすい。重合度が10000以下であれば、水溶液粘度が取り扱い易い。なお、重合度はJISK6725記載のベンゼン溶液、30℃におけるポリ酢酸ビニル換算の重合度である。
【0032】
St−PVA(A)は、脂肪酸ビニルエステル由来の単位(又は、脂肪酸ビニルエステル単位ともいう。以下、同様の表現において同じ)を含むことが好ましい。すなわち、PVA樹脂は、ケン化されずに共重合された脂肪酸ビニルエステル単位が残存することが好ましい。
St−PVA(A)における脂肪酸ビニルエステル単位の含有量は、例えば25質量%以下(例えば、0.01〜25質量%)、好ましくは10質量%以下(例えば、0.01〜10質量%)、より好ましくは0.01〜2質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%である。
また、St−PVA(A)中の脂肪酸ビニルエステル単位の含有量は、St−PVA(A)を構成するモノマー由来単位全体に対して、例えば10モル%以下(例えば、0.01〜10モル%)、好ましくは0.01〜2モル%、より好ましくは0.01〜1モル%である。
【0033】
St−PVA(A)は、脂肪酸ビニルエステル単位の中でも、ピバリン酸ビニル単位を含むことが好ましい。
St−PVA(A)におけるピバリン酸ビニル単位の含有量は、例えば25質量%以下(例えば、0.01〜25質量%)、好ましくは10質量%以下(例えば、0.01〜10質量%)、より好ましくは0.01〜2質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%である。
また、St−PVA(A)におけるピバリン酸ビニル単位の含有量は、St−PVA(A)を構成するモノマー由来単位全体に対して、例えば10モル%以下(例えば、0.01〜10モル%)、好ましくは0.01〜2モル%、より好ましくは0.01〜1モル%である。
【0034】
St−PVA(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性したものでもよい。
【0035】
[ハイドロゲルの製造方法]
次に、ハイドロゲルの製造方法について説明する。
本発明のハイドロゲルは、St−PVA(A)および水(B)を、加熱圧縮により溶液化させ、その後放冷することにより得られる。尚、加熱圧縮は、通常、St−PVA(A)を水(B)に膨潤させてから行う。
【0036】
加熱圧縮の条件は、St−PVA(A)が水に溶解する条件であれば特に限定されない。
加熱圧縮の温度は、好ましくは90〜160℃である。
加熱圧縮の圧力は、好ましくは1〜50MPa、より好ましくは1.5〜40MPa、さらに好ましくは2〜30MPaである。
加熱圧縮の時間は、加熱圧縮の温度や圧力によって適宜変更できるが、例えば、1分〜2時間、1分〜1時間等である。
【0037】
また、加熱圧縮に供するSt−PVA(A)および水(B)の割合(質量比)は、特に限定されないが、例えば90/10〜20/80であり、好ましくは80/20〜25/75であり、より好ましくは70/30〜30/70である。また、St−PVA(A)および水(B)の割合は、例えば90/10〜40/60、好ましくは80/20〜45/55等であってもよい。
【0038】
放冷温度は、例えば−30〜40℃であり、25〜35℃等の室温であってもよい。
また、放冷時間は、放冷温度によって適宜調整することができ、特に限定されないが、例えば30分〜24時間、好ましくは30分〜12時間等であってよい。
【0039】
加熱圧縮に使用する装置としては、例えば、ホットプレス機を用いることができる。ホットプレス機を用いて加熱圧縮にすることで、St−PVA(A)および水(B)を容易に溶液化させることができる。
【0040】
[ハイドロゲル]
本発明のハイドロゲルを構成するSt−PVA(A)は、ビニルエステル単位を、例えば0.01〜25質量%(又は、モノマー単位換算で0.01〜10モル%)含有していてもよい。ハイドロゲルを構成するSt−PVA(A)中には、ビニルエステル単位の中でも、脂肪酸ビニルエステル単位が含有されていることが好ましく、脂肪酸ビニルエステル単位の中でも、水性ゲルの耐水性が優れる等の観点から、特に、ピバリン酸ビニル単位が含有されていることが好ましいが、非脂肪酸系ビニルエステルが含有されていてもよい。
【0041】
また、ハイドロゲルに含まれるSt−PVA(A)および水の含有量は、通常、加熱圧縮に供するSt−PVA(A)および水(B)の割合をそのまま反映している。すなわち、ハイドロゲルに含まれるSt−PVA(A)および水の割合は、質量比で、例えば90/10〜20/80であり、好ましくは80/20〜25/75であり、より好ましくは70/30〜30/70である。
【0042】
本発明の水性ゲルには、必要に応じて、St−PVA(A)および以外の他の成分が含有されていてもよいが、St−PVA(A)は、実質PVAのみからなることが好ましい。
他の成分としては、例えば、St−PVA(A)以外のPVA[例えば、シンジオタクティシティが31%以下のPVA等]、デンプン類(例えば、デンプン、変性デンプン等)、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリアクリル酸及びその誘導体、他の高分子化合物(例えば、ゼラチン、寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム等)、無機充填剤(例えば、増粘剤、クレー、カオリン、タルク、シリカ、炭酸カルシウム等)、可塑剤(例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等)、消泡剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、有機溶剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
上記他の成分を含有する場合、他の成分の含有量は、PVA樹脂および水性溶媒に対して、例えば、0.1〜20質量%等であってよい。
【0043】
本発明の水性ゲルは、PVA樹脂を構成成分とした含水ゲルであるにもかかわらず、強度に優れたものである。
本発明の水性ゲルのヤング率は、例えば2〜100MPa、好ましくは2〜80MPa、より好ましくは2〜30MPaである。尚、ヤング率は、例えば後述の実施例に記載の方法を用いて求めることができる。
【0044】
本発明の水性ゲルは、PVA樹脂を構成成分とするにもかかわらず、耐水性に優れたものである。さらに、本発明の水性ゲルは、水の含有量を多くしても、耐水性に優れる。
本発明の水性ゲルの水の溶出率は、例えば0.01〜5%、好ましくは0.01〜0.5%である。尚、水の溶出率は、例えば後述の実施例に記載の方法を用いて求めることができる。
【0045】
また、本発明のハイドロゲルは、生体に対して毒性のある有機溶剤を使用せずに製造することができ、さらには機械的強度に優れるため、人工関節軟骨材料などの生体適合性材料として使用することができる。
本発明のハイドロゲルを人工関節軟骨材料に形成する方法は、特に限定されない。
例えば、ハイドロゲルを作製した後に、人工関節軟骨型の容器に入れて放置してから取り出すことにより、人工関節軟骨材料に形成することができる。放置の温度や時間は、特に限定されず、室温で行うことができる。また、本発明のハイドロゲルを作製する際に、人工関節軟骨型の容器内で溶解及び/又は放冷させることにより、人工関節軟骨材料用のハイドロゲルを形成してもよい。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、例中の「部」および「%」は、特に指定しない限り「質量部」および「質量%」を示す。
また、実施例及び比較例中の物性評価は以下の方法で行なった。
【0047】
(1)トライアッド表示のシンジオタクティシティ
d
6−DMSO溶液中で
1H−NMRを測定しトライアッド表示のシンジオタクティシティ(%)を求めた。
【0048】
(2)鹸化度
d
6−DMSO溶液中で
1H−NMRを測定し鹸化度(モル%)を求めた。
【0049】
(3)重合度
JISK6725記載のベンゼン溶液、30℃におけるポリ酢酸ビニル換算の重合度を測定した。
【0050】
(4)溶出率
加熱圧縮にて作製したゲル(20×20mm
2)を、室温下、乾燥しないように密閉した状態で、純水中に2日間浸漬した。純水中に溶出したPVA重量(W
elu)を経過時間ごとに測定し、浸漬後の試験片を乾燥させることにより測定した残存PVA重量(W
gel)から、以下の式を用いて溶解度を算出した。
溶解度[%]=W
elu/(W
elu+W
gel)×100
【0051】
(5)X線小角散乱
本研究では、ゲル化過程の進行度と微結晶間の間隔を測定するため、圧縮法で作製したSt−PVAゲルとアタクティックPVAゲルについて、経時的にSAXSの測定を行った。ゲルはカプトンフィルムにくるみ、乾燥を避けるために恒湿度下で12時間X線を照射し測定を行った。測定は、株式会社リガク製ナノスケールX線構造評価装置NANO−Viewerを用いて行った。試験条件を以下に示す。
(SAXSの試験条件)
IP検出器
ターゲット:Cu Kα線(0.154nm)
出力:45kV−60mA
ビームストッパー:φ2.5mm
カメラ長:960mm
露光時間:12時間
スリット:1stスリット=0.20mm、2ndスリット=0.10mm、3rdスリット=0.25mm
【0052】
(6)力学的強度
St−PVAゲルおよびアタクティックPVAゲルを圧縮法で作製した後、時間経過ごとのゲルの弾性率を、引張試験により求めた。引張試験は島津製作所製オートグラフAGS−Jを用いて、試験片形状JISダンベル7型、初期加重0.5N、引張速度5mm/minとした。また、今回の引張試験では、測定を簡略化するため、すべての試料において標点間距離をつかみ部間の距離とした。
【0053】
[合成例1]
攪拌機、温度計、滴下ロ−ト及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、ピバリン酸ビニル800部、メタノール190部を仕込み、系内の窒素置換を行った後加熱し、還流が発生した時点で2,2−アゾビスイソブチリロニトリル0.07部をメタノール10部に溶解した溶液を添加し重合を開始し、6時間後に重合停止剤としてm−ジニトロベンゼン0.008部を添加し、重合を停止した。重合収率は70%であった。
得られた反応物からメタノール、ピバリン酸ビニルを除去後、ポリピバリン酸ビニルの20%アセトン溶液を得た。
このアセトン溶液250部に水酸化カリウムの25%メタノール溶液115部とを加えてよく混合し、50℃で2.5時間鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、アセトン150部、水酸化カリウムの25%メタノール溶液380部中でさらに50℃で4時間鹸化反応を行った。反応後酢酸で中和し、固液分離を行い、メタノール、水で洗浄、乾燥後、St−PVAを得た。得られたSt−PVAの重合度は1200であり、ケン化度は99.92モル%であった。またシンジオタクティシティは37.0%であった。
【実施例1】
【0054】
合成例1で得られたSt−PVAを8部秤量し、水12部と混合し、膨潤させた。この膨潤体をシリコンシートで作製した5cm×5cm×2mmの型に入れ、テフロン(登録商標)シートを上から重ね、真鍮板で挟んであらかじめ130℃に熱しておいたホットプレス機にセットした。5MPa程度の圧を加え、5分程度サンプル内部まで温度が安定させた。その後、90℃に設定温度を下げ、5分後に10MPaまで圧をかけた。続いて15分後に20MPaとし、30分後に圧縮機から取り出し、型から外し、室温で1時間冷却させた。このゲルは作製直後より取り出し可能で、ゲル化が早いことが示された。そのときのハイドロゲルの写真を
図1に示すが、透明なゲルが出来ていることが見て取れる。
【0055】
また、得られたハイドロゲルの溶出率測定結果を
図2に示す。実施例1で得られたハイドロゲルでは、作製後15分で既に溶出率は0%であり、作製後48時間後も0%であった。このように、実施例1で得られたハイドロゲルは、耐水性に優れることが確認された。
【0056】
シンジオタクティシティ30.8%、鹸化度99.1モル%、重合度1920のアタクティックPVAを用いる以外は実施例1と同様にハイドロゲルを作製した。この場合、作製後数時間(3時間)はハイドロゲルが柔らかくシリコン型から取り出すことが出来なかった。
また、得られたハイドロゲルの溶出率の測定結果を、
図2に示す。この場合、作製後48時間放置後の溶出率は23%あった。
【0057】
また、実施例1および比較例1で作製したハイドロゲルの微小構造の経時変化を、エックス線小角散乱(SAXS)にて測定した。結果を
図3に示す。
実施例1から得られたハイドロゲルでは、作製1日目より微小ではあるがピーク(2θ=0.4°)が見られ、作製1日目の周期構造が23.2nmであることが分かった。これは23.2nm以下の微小な結晶が形成され、架橋点を形成しゲル化していることを示す。また、1日目以降は経時的にピークが広角側にシフトしていることから、結晶が経時的に成長している事が示唆される。
一方で、比較例1で得られたハイドロゲルの場合、作製30日後でようやくピークが観測でき、微結晶の形成が明らかに遅いことが確認された。
【0058】
また、比較例1では、上記したように作製直後(ゲル作製0時間後)ではゲル化しておらず、作製20時間後にやっとゲルとしての形をなした程度で、作製120時間後でもヤング率が1.3MPaでありゲルとして十分に使用できる強度のものではなかった。
一方、表1に示すように、実施例1のゲルは、ゲル作製直後(ゲル作製0時間後)でもヤング率が2.6MPaであり、作製20時間後には4.4MPaと高いヤング率となり、作製170時間後には4.8MPaのさらに強固なゲルとなった。
【0060】
また、作製直後の実施例1のハイドロゲルを、人工関節軟骨型の容器に入れ、室温で12時間放置してから取り出すことにより、人工関節軟骨用のゲルを形成することができた。