特許第6618300号(P6618300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618300
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】シューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
   A43B23/02 101A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-168244(P2015-168244)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-42440(P2017-42440A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】木野 高志
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/025678(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0255105(US,A1)
【文献】 特開昭61−092602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/00−13/42
23/00−23/30
A43D 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の足裏部分を覆うソールカバーおよび着用者の甲側部分を覆うインステップカバーを有するシューズアッパーと、前記ソールカバーの外側に取り付けられるアウターソールと、を備えるシューズにおいて、
編成によって形成された前記シューズアッパーと、
前記シューズアッパーに編成によって一体に形成され、前記シューズアッパーの外周に巻き付けられる環状のバンド状編地部を備え、
前記バンド状編地部は、前記インステップカバーの踵側の後端部に編成で繋がる接合部と、前記接合部とは反対側の先端部と、それら両部間に配置される中間部と、を備え、
前記バンド状編地部における前記接合部近傍の部分が、前記インステップカバーの踵領域に沿って配置され、
前記先端部が、前記ソールカバーまたは前記インステップカバーの爪先側部分に引っ掛けられ、
前記中間部の少なくとも一部が、前記ソールカバーと前記アウターソールとの間に挟み込まれて固定されているシューズ。
【請求項2】
前記中間部が、前記ソールカバー側と前記インステップカバー側で1回ずつ交差しており、
前記バンド状編地部のうち、前記ソールカバー側に配置される部分は、前記ソールカバーと前記アウターソールとの間に挟み込まれて固定されている請求項1に記載のシューズ。
【請求項3】
前記中間部が、前記先端部よりも肉厚の編組織で構成される請求項1または請求項2に記載のシューズ。
【請求項4】
さらに、前記シューズアッパーの外周に巻き付けられる環状の補助編地部を備え、
前記補助編地部は、前記インステップカバーの踵側の後端部に編成で繋がる接合部を備え、
前記補助編地部における前記接合部近傍の部分が、前記インステップカバーの踵領域に沿って配置されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンド状編地部を備えるシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
シューズは、シューズアッパーに合成樹脂などでできたアウターソールを取り付けることで製造される。シューズアッパーは、着用者の足裏部分を覆うソールカバーと、着用者の甲側部分を覆うインステップカバーと、を備える。近年、特許文献1に示すように、横編機で編成した編地によってシューズに備わるシューズアッパーを構成し、柔軟であるという編地の特性を活かしたシューズを得ることが試みられている。例えば、特許文献1には、シューズアッパー全体を編地で構成したシューズが開示されている。この特許文献1ではさらに、シューズアッパー(インステップカバー)の開口縁部に繋がる右側追加編地と左側追加編地を形成し、インステップカバーにおける指の付け根近傍に対応する部分にそれらの追加編地を重ね、当該部分を補強することも行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/025678号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
編地で構成されるシューズアッパーにアウターソールを取り付けた場合、シューズアッパーの変形し易さとアウターソールの変形し易さとの差が大きいと、シューズアッパー内で足がずれ易く、履き心地が悪いシューズとなるという問題がある。そのため、従来では、シューズアッパーの大部分を熱融着糸などで編成することでシューズアッパー自体を変形し難くする、あるいはシューズアッパーに後付けの補強部材などを取り付けてシューズアッパーの変形を抑制する、といった対応が行なわれている。しかし、前者の構成では編地の特性である柔軟性が損なわれる虞があり、後者の構成では後付けの補強部材の用意や取り付けの手間のためにシューズの生産性が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、着用時に確りと足にフィットし、柔軟で履き心地に優れるシューズを提供することにある。また、本発明の別の目的は、生産性に優れるシューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題について鋭意検討した結果、特にシューズアッパー内での着用者の踵の位置を固定することが、シューズの履き心地を向上させる上で重要であることが分かった。この知見に基づいて、本発明者らは以下に示す本発明のシューズを完成させた。
【0007】
本発明のシューズは、着用者の足裏部分を覆うソールカバーおよび着用者の甲側部分を覆うインステップカバーを有するシューズアッパーと、前記ソールカバーの外側に取り付けられるアウターソールと、を備えるシューズであって、前記シューズアッパーの外周に巻き付けられる環状のバンド状編地部を備える。前記バンド状編地部は、前記インステップカバーの踵側の後端部に編成で繋がる接合部と、前記接合部とは反対側の先端部と、それら両部間に配置される中間部と、を備える。そして、前記バンド状編地部における前記接合部近傍の部分が、前記インステップカバーの踵領域に沿って配置され、前記先端部が、前記ソールカバーまたは前記インステップカバーの爪先側部分に引っ掛けられ、前記中間部の少なくとも一部が、前記ソールカバーと前記アウターソールとの間に挟み込まれて固定されている。
【0008】
本発明のシューズの一形態として、前記中間部が、前記ソールカバー側と前記インステップカバー側で1回ずつ交差している形態を挙げることができる。この場合、前記バンド状編地部のうち、前記ソールカバー側に配置される部分は、前記ソールカバーと前記アウターソールとの間に挟み込まれて固定されている。
【0009】
本発明のシューズの一形態として、前記中間部が、前記先端部よりも肉厚の編組織で構成される形態を挙げることができる。
【0010】
本発明のシューズの一形態として、さらに、前記シューズアッパーの外周に巻き付けられる環状の補助編地部を備え、その補助編地部は前記インステップカバーの踵側の後端部に編成で繋がる接合部を備える形態を挙げることができる。この場合、前記補助編地部における前記接合部近傍の部分が、前記インステップカバーの踵領域に沿って配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシューズでは、シューズに備わるバンド状編地部がインステップカバーの踵領域を補強することで当該踵領域が変形し難くなっているため、着用時にシューズ内で足がずれ難くなっている。また、本発明のシューズにおけるバンド状編地部で補強された部分以外は靴下のような状態であるため、本発明のシューズでは柔軟であるという編地の特性が十分に活かされている。このように、踵領域が補強され、かつ補強された部分以外が柔軟に仕上がった本発明のシューズは、着用時に確りと足にフィットし、かつシューズアッパー内で足がずれ難いため、履き心地に優れる。
【0012】
また、本発明のシューズは、生産性に優れるという利点もある。バンド状編地部をシューズアッパーに一体に編成し、バンド状編地部をシューズアッパーに巻き付けて固定すると共に、シューズアッパーのソールカバーの外側にアウターソールを取り付けるだけで、本発明のシューズを完成させることができるからである。また、この本発明のシューズでは、従来のニットシューズのように、ヒールカウンタなどの後付けの補強部材を必要としないため、その補強部材の準備、取り付けの手間を省くことができる。その点も、本発明のシューズの生産性の向上に寄与している。
【0013】
本発明のシューズにおいて、バンド状編地部の中間部をソールカバー側とインステップカバー側で1回ずつ交差させる、即ちシューズの外周を螺旋状に周回するようにバンド状編地部を巻き付けることで、シューズアッパー全体を効果的に補強することができる。特に、バンド状編地部の交差位置を調整することで、着用時に力がかかり易い部分を適切に補強することができる。
【0014】
本発明のシューズにおいて、バンド状編地部が肉厚の編組織で構成されていれば、バンド状編地部が単層の編組織で構成されている場合に比べて、シューズアッパーにおけるバンド状編地部を巻き付けた部分を効果的に補強することができる。
【0015】
本発明のシューズにおいて、さらに環状の補助編地部を設けることで、シューズアッパーの複数箇所を補強することができる。また、バンド状編地部と補助編地部を引っ掛ける方向を異ならせることで、シューズアッパーの踵を補強しつつ、シューズアッパーを所望の形状に保形することもできる。例えば、シューズ全体が偏平になるように、非着用時に踵を含むインステップカバーがソールカバーに向って折り畳まれた状態で保形されていれば、コンパクトで携行性に優れるシューズとなる。また、非着用時にインステップカバーの踵が、着用時の形に近い形に保形されていれば、着用し易いシューズとなる。補助編地部も、バンド状編地部と同様に肉厚の編組織で構成されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)は実施形態1に示すバンド状編地部を備えるシューズを爪先側の上方から見た上方斜視図、(B)は踵側の上方から見た上方斜視図である。
図2】実施形態1のシューズの下方斜視図である。
図3】実施形態1のシューズの編成手順を模式的に示す編成イメージ図である。
図4】実施形態2に示す複数のバンド状編地部を備えるシューズを踵側の上方から見た上方斜視図である。
図5】実施形態2のシューズの下方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のシューズの実施形態を図面に基づいて説明する。もちろん、以下に示す実施形態は一例に過ぎず、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0018】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1,2に示すシューズ100は、編地によって形成されるシューズアッパー1と、シューズアッパー1の底側に取り付けられるアウターソール4(図2では図示を省略)と、を備える。上記シューズアッパー1は、着用者の足裏部分を覆うソールカバー2と、着用者の甲側部分を覆うインステップカバー3と、を備える。このシューズ100における従来のニットシューズとの主な相違点は、インステップカバー3の踵部分に編成で繋がるバンド状編地部5を備えることにある。以下、各構成を詳細に説明する。
【0019】
[シューズアッパー]
本例のシューズアッパー1に備わるソールカバー2とインステップカバー3は、無縫製で繋ぎ目無く編成されている。このシューズアッパー1は単層の編組織で構成されており、着用者の足にフィットする柔軟性を有している。
【0020】
ソールカバー2は、シューズ100の中敷きとして機能する。ソールカバー2とは別に中敷きとなる部材を用意し、その部材をソールカバー2に貼り付けることで中敷きを形成しても良い。
【0021】
インステップカバー3は、履き口の輪郭形状を形成する履き口編地部6を備える。履き口は爪先側に向って大きく開いており、そのためシューズアッパー1(シューズ100)の全体形状が、スリッポン(slip−on shoes)のような短靴(low shoes)形状となっている。
【0022】
上記シューズアッパー1を編成する編糸は特に限定されないが、非熱融着糸であることが好ましい。シューズアッパー1のうち、爪先などの特に強度が求められる部分を熱融着糸で編成し、残部を非熱融着糸で編成することもできる。シューズアッパー1全体、あるいは大部分を非熱融着糸で編成すれば、編地の特性である柔軟性を十分に活かすことができる。
【0023】
[バンド状編地部]
バンド状編地部5は、後述する編成工程の説明で参照する図3に示すように、インステップカバー3の踵側の後端部に編成で繋がっている。図3ではバンド状編地部5は1本の帯状に示されているが、紙面奥側にも図示される帯状体と略同一形状の帯状体がある。両帯状体は、インステップカバー3との接合部5Aの位置と、接合部5Aとは反対側の端部である先端部5Bのうちの紙面下端の位置で繋がっており、従ってバンド状編地部5は環状体となっている。
【0024】
上記バンド状編地部5は、接合部5Aと先端部5Bとの間に配置される中間部が、ソールカバー2側(図2参照)で1回交差された後、インステップカバー3側(図1参照)でもう1回交差され、先端部5Bがソールカバー2(図2参照)の爪先側部分に引っ掛けられた状態になっている。爪先側部分とは、シューズアッパー1の履き口よりも爪先側にある部分、またはシューズアッパー1を長さ方向に三分割したときの爪先側にある部分である。このようにバンド状編地部5を配置することで、バンド状編地部5の接合部5A側近傍の部分(接合部5Aからソールカバー2側に回り込むまでの部分)が、インステップカバー3の踵領域全体を覆うように踵領域の外周に沿って配置された状態になる。そのため、バンド状編地部5によって、インステップカバー3の踵領域がその外周側から補強される。また、バンド状編地部5のうち、ソールカバー2側の交差部からインステップカバー3側の交差部に至る部分によってインステップカバー3における足指の付け根に対応する部分がその外周から補強され、インステップカバー3側の交差部からソールカバー2側の先端部5Bに至る部分によってインステップカバー3における足指に対応する部分がその外周から補強される。
【0025】
上記バンド状編地部5によって、インステップカバー3のうち、着用時に力が掛かり易い部分が補強され、変形し難くなっている。そのため、着用時にインステップカバー3の全体形状も変形し難くなるので、シューズ100(シューズアッパー1)内で足がずれ難くなる。また、非熱融着糸でインステップカバー3を構成すれば、インステップカバー3のうち、バンド状編地部5で補強された部分以外では柔軟であるという編地の特性が十分に活かされ、ソフトな肌触りのインステップカバー3となる。その結果、本例のシューズ100は、着用時に確り足にフィットし、履き心地に優れるシューズ100となっている。
【0026】
ここで、シューズアッパー1におけるバンド状編地部5の巻き付け方は、図1,2に示す巻き付け方に限定されるわけではない。例えば、バンド状編地部5のうち、接合部5A側の部分を履き口編地部6に沿うように巻き付け、中間部をインステップカバー3側で1回交差させた後、ソールカバー2側でもう1回交差させ、先端部5Bをインステップカバー3における爪先側部分に引っ掛けても良い。また、バンド状編地部5のうち、接合部5A側の部分を履き口編地部6に沿うように巻き付け、中間部をインステップカバー3側で1回交差させた後、先端部5Bをソールカバー2における爪先側部分に引っ掛けても良い。あるいはバンド状編地部5をソールカバー2側に伸ばし、その中間部をソールカバー2側で1回交差させた後、その先端部5Bをインステップカバー3における爪先側部分に引っ掛けても良い。バンド状編地部5を1回だけ交差させる場合、バンド状編地部5は、メビウスの帯のように1回捻じれた環状に編成することが好ましい。そうすることで、バンド状編地部5をシューズアッパー1に巻き付けたときに、バンド状編地部5の捻じれが解消された状態にすることができる。
【0027】
前段で例示したいずれの巻き付け方であっても、バンド状編地部5がインステップカバー3の踵側の後端部に繋がっているため、バンド状編地部5の接合部5A近傍の部分は、インステップカバー3の踵領域の外周を覆う。つまり、バンド状編地部5がインステップカバー3の踵側の後端部に繋がっており、その先端部5Bがシューズアッパー1の爪先側部分に引っ掛けられていれば、バンド状編地部5をシューズアッパー1にどのように巻き付けても、踵領域が補強された履き心地に優れるシューズ100となる。
【0028】
バンド状編地部5のうち、中間部は、先端部5Bよりも肉厚の編組織で構成することができる。肉厚の編組織は伸び難いため、バンド状編地部5によるシューズアッパー1の補強効果を向上させることができる。
【0029】
上記バンド状編地部5は、非熱融着糸で編成することもできるし、熱融着糸で編成することもできる。特に、熱融着糸でバンド状編地部5を編成することで、バンド状編地部5によるシューズアッパー1の補強効果を向上させることができる。非熱融着糸として、伸び難い編糸を利用することで、上記補強効果の向上を図っても良い。上述した肉厚の組織、並びにそれ以外も含めたバンド状編地部5の編組織や編糸の種類を適宜組み合わせることで、上記補強効果を調整できる。
【0030】
[アウターソール]
アウターソール4としては、公知の構成を利用することができる。例えば、樹脂製のアウターソール4を利用することができる。アウターソール4は、シューズアッパー1のソールカバー2に接着剤などで固定することができる。本例のアウターソール4は、ソールカバー2との間でバンド状編地部5を挟み込み、シューズアッパー1におけるバンド状編地部5の位置を固定する機能を有する。
【0031】
≪シューズの製造方法≫
シューズ100は、横編機を用いてバンド状編地部5をシューズアッパー1に一体に編成する編成工程、バンド状編地部5をシューズアッパー1に巻き付ける巻付工程、およびソールカバー2にアウターソール4を取り付ける取付工程、を経て製造することができる。
【0032】
[編成工程]
図3の編成イメージ図に基づいて上記編成工程を説明する。図3では、シューズアッパー1、バンド状編地部5、および履き口編地部6の左側部分のみが図示されているが、紙面奥側の見えない位置には各部1,5,6の右側部分が配置されている。また、バンド状編地部5の中間部(45°のハッチングで示す部分)を除き、図示される各部1,5,6の左側部分は横編機の一方の針床(以下、FB)で編成され、図示されない各部1,5,6の右側部分は横編機の他方の針床(以下、BB)で編成される。二点鎖線は、ソールカバー2とインステップカバー3との境界を示す。
【0033】
まず、FBとBBの針床とシューズアッパーに使用する編糸よりも確りとした非熱融着糸を用いてバンド状編地部5の編出し部(白抜き矢印参照)を編成した後、編出し部から分岐するバンド状編地部5の左側部分(バンド左部)と右側部分(バンド右部)とをそれぞれ、FBとBBで編成する。バンド左部とバンド右部の編成コース数を増しながら、針床の長手方向にバンド左部とバンド右部の係止位置を編幅方向に重複しない位置まで左右にずらす。このようにして編成されたバンド左部とバンド右部とで先端部5Bが形成される。先端部5Bは、一つの針床を用いて編成された単層の編組織となっている。ここで、捻じれたバンド状編地部5を編成する場合、バンド状編地部5の編出し部から分岐されるバンド左部またはバンド右部の編目の左右位置を入れ換えれば良い。
【0034】
バンド左部とバンド右部とが針床の長手方向の重複しない位置に配置されたら、バンド左部とバンド右部をそれぞれ、FBとBBの両方を用いて先端部5Bよりも肉厚の編組織となるように編成する。肉厚の編組織の編成方法は特に限定されない。例えば、リブ編みや袋編みなどのFBとBBの両方を用いた編成を適宜組み合わせて肉厚の編組織を編成することができる。肉厚の編組織は、前後いずれかの針床を用いて編成された編組織(例えば、天竺組織)よりも厚く、丈夫で、伸び難い。ここで、バンド左部とバンド右部の形状を異ならせたり、両部のウエール方向の目数を異ならせたり、バンド状編地部5の編組織を部分的に変化させたりすることで、バンド状編地部5の強度を部分的に変化させても良い。そうすることで、バンド状編地部5によるシューズアッパー1の補強度合いを部分的に変化させることができる。
【0035】
バンド左部とバンド右部の編成が終了したら、両部のウエール方向端部を編成によって繋ぎ合わせ、その繋ぎ合わせた部分に連続してシューズアッパー1を編成する。バンド左部とバンド右部を繋ぎ合わせる方法は特に限定されない。例えば、ラッキングと目移しを用いて、バンド左部の編目とバンド右部の編目を重ね、その重ね目に続く新たな編目を編成する方法を挙げることができる。繋ぎ目に続けてシューズアッパー1を編成する際には、編糸をソフトな非熱融着糸に変更して、繋ぎ目からFBに分岐する分岐部とBB側に分岐する分岐部を編成し、それら分岐部に続けて、シューズアッパー1の左側部分(アッパー左部)と右側部分(アッパー右部)をそれぞれ、FBとBBとで編成する。
【0036】
アッパー左部とアッパー右部は、ソールカバー2側で繋がるC字状編成によって編成することができる。その際、アッパー左部とアッパー右部の編幅を適宜増減させることで、足の形状に沿ったシューズアッパー1を編成することができる。また、本例では、シューズアッパー1の編成位置と重複しない位置で、シューズアッパー1とは別に履き口編地部6を編成し、その履き口編地部6をシューズアッパー1に接続している(円弧状の矢印を参照)。別途編成した履き口編地部6をシューズアッパー1に接続することで、履き口編地部6の編目の向きがインステップカバー3の編目の向きと直交し、履き口の形状を安定化させることができる。この履き口編地部6をリブ組織とすれば、履き口を足首にフィットさせることができ、好ましい。
【0037】
[巻付工程・取付工程]
以上説明した編成手順に従ってシューズアッパー1を編成したら、バンド状編地部5をシューズアッパー1の外周に巻き付け(巻付工程)、ソールカバー2の外周にアウターソール4を取り付ける(取付工程)。アウターソール4の固定により、ソールカバー2とアウターソール4との間にバンド状編地部5が挟み込まれて、バンド状編地部5の位置が固定される。ここで、シューズアッパー1、またはバンド状編地部5の編成に熱融着糸を用いている場合、アウターソール4の固定前や固定後に、シューズアッパー1に足型を挿入し、シューズアッパー1を熱処理すれば良い。
【0038】
上述したように、実施形態1のシューズ100は、バンド状編地部5をシューズアッパー1に一体に編成し、バンド状編地部5をシューズアッパー1に巻き付けてソールカバー2の外側にアウターソール4を取り付けるだけで、作製することができる。即ち、シューズ100は、縫製作業を経ることなく作製することができる。また、このシューズ100は、従来のニットシューズのように、ヒールカウンタなどの後付けの補強部材を必要としないため、その補強部材の準備、取り付けの手間を省くことができる。そのため、本例のシューズ100は、従来のニットシューズに比べて生産性に優れる。
【0039】
[その他の編成工程]
シューズアッパー1の爪先側から編成を開始し、バンド状編地部5の先端部5Bで編成を終了することもできる。その場合、バンド状編地部5の接合部5A近傍の部分が単層の編組織となるが、それ以外の部分は肉厚の編組織とすることができる。また、図3に示すようにシューズアッパー1とバンド状編地部5を縦向きに編成するのではなく、両者1,5を横向きに編成する(つまりシューズアッパー1の底側から編成を開始し、履き口側で編成を終了する、あるいはその逆)こともできる。その他、シューズアッパー1を横向きに編成し、シューズアッパー1とは別にバンド状編地部5を縦向きに編成し、シューズアッパー1とバンド状編地部5を接合しても構わない。
【0040】
<実施形態2>
実施形態2では、バンド状編地部51に加え、バンド状編地部51と同様にインステップカバー3の踵側の後端部に編成で繋がる環状の補助編地部52を備えるシューズ101を図4,5に基づいて説明する。
【0041】
図4,5に示すように、本例のシューズ101には、シューズ101の高さ方向に並ぶバンド状編地部51と補助編地部52が設けられている。これらのうち、バンド状編地部51は、実施形態1のシューズ100のバンド状編地部5と同様に、ソールカバー2側(図5参照)で1回、インステップカバー3側(図4参照)で1回交差されており、その先端部51B(図5参照)がソールカバー2側に配置されている。一方、補助編地部52は、ソールカバー2側(図5参照)で1回交差され、その先端部52B(図4参照)がインステップカバー3側に配置されて固定されている。補助編地部52は、メビウスの帯のように1回捻じられた環状に編成されており、シューズアッパー1に巻き付けたときにその捻じれが解消されている。インステップカバー3の踵領域におけるバンド状編地部5と補助編地部52とは互いに重複しないように踵領域の外周に配置されており、これらバンド状編地部51と補助編地部52とによって、踵領域の大部分が覆われた状態になっている。その結果、踵領域の変形が抑制される。
【0042】
ここで、補助編地部52のうち、接合部52A側の部分を履き口編地部6に沿うように巻き付け、中間部をインステップカバー3側で1回交差させた後、先端部52Bをソールカバー2における爪先側部分に配置しても良い。また、補助編地部52の長さを短くし、その補助編地部52を履き口編地部6に沿うように巻き付け、先端部52Bをインステップカバー3側の履き口近傍の位置に配置しても良い。あるいは、短い補助編地部52の先端部52Bをソールカバー2の踵側の位置に引っ掛けても構わない。補助編地部52の数は特に限定されず、例えば1〜4つとすることが好ましい。
【符号の説明】
【0043】
100,101 シューズ
1 シューズアッパー
2 ソールカバー
3 インステップカバー
4 アウターソール
5,51 バンド状編地部 52 補助編地部
5A,51A,52A 接合部 5B,51B,52B 先端部
6 履き口編地部
図1
図2
図3
図4
図5