特許第6618350号(P6618350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618350
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】ラジエータサポート構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20191202BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20191202BHJP
   B60R 19/52 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   B62D25/08 D
   B60K11/04 H
   B60R19/52 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-252013(P2015-252013)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-114302(P2017-114302A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】坂野 公彦
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 英二
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−297588(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0086237(US,A1)
【文献】 特開2010−000972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60K 11/04
B60R 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に配設され、左右のサイドメンバーの前端に取り付けられてラジエータを支持するラジエータサポート構造において、
正面視ロ字状を成す樹脂製のラジエータサポートと、
後面に設けられた取付部が前記左右のサイドメンバーの前端に連結固定されて前記ラジエータサポートの前方に配設されるバンパーリインフォースメントと、
前記ラジエータサポートの下辺の前部に前方に突出して一体に形成され、歩行者の衝突時に膝より下を払って該歩行者の膝を保護する足払い部と、
前記ラジエータサポートの左右の下部後面にそれぞれ形成され前記左、右サイドメンバーの前端部下面に固定されずに当接する当接面を有する支持部と、
前記ラジエータサポートの左、右辺の前面にそれぞれ形成され前記取付部が挿入される透孔とを備え、
前記透孔付近の前記ラジエータサポートの一部が脆弱に形成されていることを特徴とするラジエータサポート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部に配設され、左右のサイドメンバーの前端に取り付けられてラジエータを支持するラジエータサポート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の前部に、歩行者の衝突時に膝よりも下を足払いして該歩行者の膝を保護する足払い構造を設けて成る歩行者保護装置が採用されている(特許文献1参照)。このとき、前部バンパーよりも下方に前方に突出した足払い用部材を配設し、足払い部材をラジエータサポートに固定するときに、歩行者の車両前面への衝突による衝撃が予め設定された基準量を越えると、足払い部材のラジエータサポートへの固定が解除されるように所定の固定機構により足払い部材を固定するようになっている。これにより、歩行者の衝突時に、足払い部材により歩行者が膝にダメージを受ける前に歩行者の膝よりの下のすね部分を払い、歩行者が膝を損傷することを未然に防止できる。
【0003】
ところで、従来の車両の場合、金属製のラジエータサポートを採用するのが一般的であるが、近年の車両を軽量化するために、ラジエータサポートを樹脂により形成して軽量化を図ることも考えられている(特許文献2参照)。このような樹脂製のラジエータサポートは、歩行者の衝突等の軽衝突時の衝撃に耐え得る程度にラジエータサポートの縦方向の柱部の強度を確保する必要がある上、その一方で車両同士の衝突のような強衝突に備えて、車体を構成する左右のサイドメンバーの前部が変形して衝撃を効率よく吸収できるように構成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−55543号公報(要約、段落0055〜0094および図1図2参照)
【特許文献2】特開2002−160665号公報(段落0015〜0017および図1図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した特許文献2のような樹脂製のラジエータサポートの場合、樹脂素材を厚くして剛性を高めすぎる余り、車両同士の衝突のような強衝突時にサイドメンバーの前部が変形するに至らず、衝突の衝撃を効率よく吸収できないおそれがあり、重量の増大を懸念も生じる。
【0006】
本発明は、歩行者の衝突等の軽衝突時には確実に歩行者の足を払って歩行者の膝を保護しつつ、車両同士の衝突等の強衝突時にはサイドメンバーの前部が容易に変形できるようにしたラジエータサポート構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明のラジエータサポート構造は、車両前部に配設され、左右のサイドメンバーの前端に取り付けられてラジエータを支持するラジエータサポート構造において、正面視ロ字状を成す樹脂製のラジエータサポートと、後面に設けられた取付部が前記左右のサイドメンバーの前端に連結固定されて前記ラジエータサポートの前方に配設されるバンパーリインフォースメントと、前記ラジエータサポートの下辺の前部に前方に突出して一体に形成され、歩行者の衝突時に膝より下を払って該歩行者の膝を保護する足払い部と、前記ラジエータサポートの左右の下部後面にそれぞれ形成され前記左、右サイドメンバーの前端部下面に固定されずに当接する当接面を有する支持部と、前記ラジエータサポートの左、右辺の前面にそれぞれ形成され前記取付部が挿入される透孔とを備え、前記透孔付近の前記ラジエータサポートの一部が脆弱に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正面視ロ字状を成す樹脂製のラジエータサポートの左右の両辺に、左、右サイドメンバーの前端に固定するための取付部が挿入される透孔を形成し、透孔付近のラジエータサポートの一部を脆弱に形成したため、ラジエータサポートの透孔付近の脆弱部分が、車両同士の衝突等の強衝突による衝撃で破断し易くなる。
【0009】
このとき、脆弱部分として、例えばラジエータサポートの透孔付近の厚みとして、歩行者との衝突等の軽衝突時の衝撃では破断せず、車両同士の衝突等の強衝突時の衝撃により破断するような厚みを予め実験的に求めておき、ラジエータサポートの透孔付近の脆弱部の厚みを予め求めた厚みに設定することにより、歩行者の衝突等の軽衝突時には確実に歩行者の膝より下部(すね部分)を払って歩行者の膝を保護することができる一方、車両同士の衝突等の強衝突時にはラジエータサポートの透孔付近の肉薄部が破断してサイドメンバーの前部が容易に変形できるようになる。また、ラジエータサポートの下辺に、足払い部への歩行者の衝突による衝撃が加わっても、ラジエータサポートの下辺の変形が抑制され、歩行者の膝より下のすね部分を足払い部により確実に払うことができて歩行者の膝の損傷が防止できる。一方、車両同士の衝突等の強衝突時には、支持部7が左、右サイドメンバーの前端部下面に当接しているだけであるため、ラジエータサポートの支持部の当接面を左、右のサイドメンバーが摺動して後方に容易に移動し、両サイドメンバーの前部の変形が阻害されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るラジエータサポート構造の一実施形態の分解状態の斜視図である。
図2】ラジエータサポートの背面図である。
図3】ラジエータサポートの断面を示し、(a),(b),(c)はそれぞれ図2中のX−X線、Y−Y線、Z−Z線における矢視断面図である。
図4】ラジエータサポートの切断側面図である。
図5図2に示すラジエータサポートの一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るラジエータサポート構造の一実施形態について、図1ないし図5を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態でいう前後、左右とはシートに着座した状態で見た前後、左右を意味する。
【0012】
図1に示すように、自動車等の車両1のエンジンが配設される前部構造として、車体を構成する前後方向に延びる左、右サイドメンバー2a,2bと、ラジエータ支持用のラジエータサポート3と、前部バンパー(図示せず)の補強用バンパーリインフォースメント4とを備える。
【0013】
ラジエータサポート3は、図2に示すように正面視でロ字状を成すとともに、図3に示すように上下左右の各辺が後面側に開放した断面コ字状を成すように樹脂成形により形成されている。なお、図3(a)は図2に示すラジエータサポート3のX−X線、(b)はY−Y線、(c)はZ−Z線における各矢視断面を示す。
【0014】
また、図4に示すように、ラジエータサポート3の下辺の前部には左右方向全体にわたって前方に突出した足払い部6が一体に形成されており、この足払い部6により、歩行者が衝突したときに歩行者の膝より下のすね部分を払い、歩行者の膝の損傷を未然に防止して膝を保護するようになっている。
【0015】
さらに、ラジエータサポート3の左、右下部の後面には、下端から斜め後ろ上方に延び出すように支持部7,7が一体形成され、これら支持部7,7の上面には、それぞれ左、右サイドメンバー2a,2bの前端部下面に当接する当接面7a,7aがそれぞれ形成され、当接面7a,7aの当接によりラジエータサポート3の下辺が左右のサイドメンバー2a,2bに対して突っ張り状態に支持されることになる。
【0016】
そのため、ラジエータサポート3の下辺に、足払い部6への歩行者の衝突による衝撃が加わっても、ラジエータサポート3の下辺の変形が抑制され、歩行者の膝より下のすね部分を足払い部6により確実に払うことができて歩行者の膝の損傷が防止される。一方、車両同士の衝突等の強衝突時には、支持部7,7が左、右サイドメンバー2a,2bの前端部下面に当接しているだけであるため、ラジエータサポート3の支持部7,7の当接面7a,7aを左、右のサイドメンバー2a,2bが摺動して後方に容易に移動し、両サイドメンバー2a,2bの前部に変形を容易にするために形成された複数のV字溝8における両サイドメンバー2a,2bの前部の変形が阻害されることはない。
【0017】
また、図4に示すように、ラジエータサポート3の左右の下部後面それぞれと、左、右サイドメンバー2a,2bの前端下面それぞれとに固定された“く”字状を成す金属製ブラケット10,10が設けられている。これらブラケット10,10の前片は、ラジエータサポート3に形成されたボルト穴に挿通されたボルトおよびナットによりラジエータサポート3に固定され、ブラケット10,10の上片は左、右サイドメンバー2a,2bの前端下面に溶接されて固定される。
【0018】
さらに、図2に示すように、ラジエータサポート3の左右の両辺のほぼ中央部には、角を丸くしたほぼ三角形状もしくは三角おにぎり状の透孔12が形成され、バンパーリインフォースメント4の左右の両端部後面それぞれに後方に窪み加工された取付部4a,4aが、透孔12,12にそれぞれ挿通された状態で左、右サイドメンバー2a,2bの前端にボルトにより連結固定されるようになっている。
【0019】
そして、ラジエータサポート3の左、右辺の透孔12,12付近に位置する図5中に丸囲みしたラジエータサポート3の縦壁部分Pが、その他の部位よりも薄い脆弱部に形成されている。このとき、ラジエータサポート3の透孔12付近の脆弱部の厚みを設定するに当って、歩行者との衝突等の軽衝突時の衝撃では破断せず、車両同士の衝突等の強衝突時の衝撃により破断するように衝撃に強さに応じた厚みを予め実験的に求めておき、ラジエータサポート3の透孔12付近の脆弱部を強衝突時に破断する厚みに設定しておくのが望ましい。
【0020】
このような脆弱部をラジエータサポート3に形成することにより、歩行者の衝突等の軽衝突時には確実に歩行者の膝より下部(すね部分)を払って歩行者の膝を保護することができる一方、車両同士の衝突等の強衝突時にはラジエータサポート3の透孔12付近の肉薄部が破断して左、右サイドメンバー2a,2bの前部がV字溝8で容易に変形する。
【0021】
したがって、上記した実施形態によれば、正面視ロ字状を成す樹脂製のラジエータサポート3の各辺を、後面側に開放した断面コ字状に形成し、ラジエータサポート3の下辺の前部に前方に突出して一体に足払い部6を形成し、左、右サイドメンバー2a,2bの前端に固定するためのラジエータサポート6の取付部4aが挿入される透孔12をラジエータサポート3の左右の両辺に形成し、透孔12付近のラジエータサポート3の一部の肉厚をその他の部位よりも薄くしてなる脆弱部を形成したため、ラジエータサポート3の透孔12付近の脆弱部が、車両同士の衝突等の強衝突による衝撃で破断し易くなる。
【0022】
そのため、ラジエータサポート3の透孔12付近の脆弱部の厚みとして、歩行者との衝突等の軽衝突時の衝撃では破断せず、車両同士の衝突等の強衝突時の衝撃により破断するような厚みを予め実験的に求めておき、ラジエータサポート3の透孔12付近の脆弱部を予め求めた厚みに設定することにより、歩行者の衝突等の軽衝突時には、確実に歩行者の膝より下部(すね部分)を払って歩行者の膝を保護することができる一方、車両同士の衝突等の強衝突時には、ラジエータサポート3の透孔12付近の脆弱部が破断することによってサイドメンバー2a,2bの前部を容易に変形させることが可能になる。
【0023】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0024】
例えば、上記した実施形態では、ラジエータサポート3の透孔12付近の肉厚を薄くした脆弱部を形成し、この脆弱部が車両同士の衝突等の強衝突時に破断するようにした例について説明したが、脆弱部はこれに限定されるものではなく、例えば図5中に丸囲みしたラジエータサポート3の縦壁部分Pの壁の高さを低くして脆弱にしたり、透孔12から縦壁部分Pまでの距離をより短くして脆弱にしてもよい。
【0025】
また、上記した実施形態では、ラジエータサポート3の上下左右の各辺が後面側に開放した断面コ字状を成し、ラジエータサポート3の下辺の前部に左右方向全体にわたって前方に突出した足払い部6を一体に形成した場合について説明したが、ラジエータサポート3の上下左右の各辺は断面コ字状でなくてもよく、下辺に足払い部6を備えていなくてもよい。
【0026】
また、上記した実施形態では、ラジエータサポート3に角を丸くしたほぼ三角形状もしくは三角おにぎり状の透孔12を形成した場合について説明したが、透孔12の形状はこれに限るものではなく、サイドメンバー2a,2bと連結する際の寸法誤差を吸収できるように遊びを持った形状にすればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 …車両
2a,2b …サイドメンバー
3 …ラジエータサポート
12 …透孔
P …縦壁部分(脆弱部)
図1
図2
図3
図4
図5