特許第6618373号(P6618373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618373
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】摩擦式走行装置および乗物
(51)【国際特許分類】
   B62K 17/00 20060101AFI20191202BHJP
   B62K 1/00 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   B62K17/00
   B62K1/00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-11805(P2016-11805)
(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公開番号】特開2017-132294(P2017-132294A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢田 渉
(72)【発明者】
【氏名】吉野 勉
(72)【発明者】
【氏名】稲田 潤
【審査官】 杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/132779(WO,A1)
【文献】 特開2005−067334(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0220427(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104309744(CN,A)
【文献】 米国特許第04241931(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 17/00
B62K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
左右方向に延在する軸線を中心とした円環状の芯体と、前記芯体の円周方向に複数配置され各々自身の配置位置に於ける前記芯体の接線方向に延在する軸線周りに回転可能なドリブンローラとを含む主輪と、
前記フレームに取り付けられて前記主輪の内方を左右方向に貫通する支持軸と、
前記主輪の左右両側に配置され、各々自身の中心軸線周りに回転可能に前記支持軸に支持された左右のドライブディスクと、
前記左右のドライブディスクの各々に当該ドライブディスクの周方向に間隔をおいて配置され、各々前記ドライブディスクの中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に支持されて外周面をもって各々前記ドリブンローラの外周面に接触する複数の左右のドライブローラと、
前記フレームに取り付けられ、前記左右のドライブディスクを個別に回転駆動する駆動装置と、
前記フレームに回転可能に取り付けられ、前記ドライブローラが接触していない前記ドリブンローラを左右両側から挟むように前記ドリブンローラの外周面に転動可能に接触する左右のガイドローラを有する摩擦式走行装置。
【請求項2】
前記ガイドローラは、当該ガイドローラが接触する前記ドリブンローラの中心軸線に直交する方向に延在する中心軸線周りに回転可能である請求項1に記載の摩擦式走行装置。
【請求項3】
前記ガイドローラは前記芯体の中心を通る円周より前記主輪の径方向内方において前記ドリブンローラの外周面に接触し、前記左右のガイドローラの中心軸線がなす挟み角が90度以下である請求項1または2に記載の摩擦式走行装置。
【請求項4】
前記ガイドローラは前記主輪の中心軸線より上方に位置する前記ドリブンローラの外周面に接触している請求項1から3の何れか一項に記載の摩擦式走行装置。
【請求項5】
前記ガイドローラは前記主輪の中心軸線より上方において前記ドライブローラが接触していない前記ドリブンローラの外周面に前記芯体の中心を通る円周より前記主輪の径方向内方において接触し、接触部位における前記外周面の接線方向に延在する軸線周りに転動可能なガイドローラを前記主輪の円周方向に複数有し、前記主輪が如何なる回転位置にあっても複数の前記ガイドローラのうちの少なくとも1個が前記ドリブンローラの外周面に接触する請求項1に記載の摩擦式走行装置。
【請求項6】
前記ガイドローラは、前記主輪の中心軸線を隔てた前後に各々配置されている請求項1から5の何れか一項に記載の摩擦式走行装置。
【請求項7】
前記ドライブローラが前記ドリブンローラと接触する点の集合により画成されるドライブ側接触円の直径が、前記ドリブンローラが前記ドライブローラと接触する点の集合により画成されるドリブン側接触円の直径より小さく、前記ドライブディスクが前記主輪に対して径方向にオフセットして配置され、前記ドリブンローラに近い側に位置する前記ドライブローラのみが前記ドリブンローラに接触している請求項1から6の何れか一項に記載の摩擦式走行装置。
【請求項8】
前記支持軸の中心軸線と前記主輪の中心軸線とが互いに平行であり、前記ドライブ側接触円を含む仮想平面とドリブン側接触円を含む仮想平面とが互いに平行である請求項7に記載の摩擦式走行装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の摩擦式走行装置を有し、前記フレームに乗員の臀部を支持するサドルおよび乗員の足裏を支持するフットステップの少なくとも何れか一方が設けられた乗物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦式走行装置および乗物に関し、更に詳細には、全方向移動装置に用いられる摩擦式走行装置およびそれを用いた乗物に関する。
【背景技術】
【0002】
全方向移動体のための摩擦式走行装置として、円環状の芯体と当該芯体の円周方向(円環方向)に複数配置され各々自身の配置位置に於ける前記芯体の接線方向の軸線周りに回転可能なドリブンローラ(フリーローラ)とを含むオムニホイール式の主輪(車輪)と、前記主輪の軸線方向の左右両側に各々自身の中心軸線周りに回転可能に配置された左右のドライブディスクと、前記左右のドライブディスクの各々に等間隔に円環状に配置され、各々前記ドライブディスクの中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に支持されて外周面をもって前記ドリブンローラの外周面に接触する複数のドライブローラとを有し、左右のドライブディスクが走行装置のフレームによって回転可能に支持され、左右のドライブローラがドリブンローラを左右より挟むようにして主輪を回転可能に支持し、主輪の下側に位置するドリブンローラが接地するものが知られている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
この摩擦式走行装置は、左右のドライブディスクが個別の電動モータによって個別に回転駆動されることにより、主輪の回転(芯体の中心軸線周りの回転であり、以降、この回転を公転と云うことがある)とドリブンローラの回転との組み合わせによって前後、斜めおよび真横の全方向に走行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2008/132779号パンフレット
【特許文献2】特開2013−237327号公報
【特許文献3】特開2011−63209号公報
【特許文献4】特開2013−107575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の摩擦式走行装置は、左右のドライブローラがドリブンローラを左右より挟むようにして主輪を回転可能に支持しているだけであるから、主輪がフレームに対して左右に倒れ、左右のドライブローラとドリブンローラとの接触関係が変動し、走行性能が低下したり、走行振動が発生したりする虞がある。このような課題はドライブディスクの小径化によって左右のドライブローラによるドリブンローラの挟む込みが下側においてのみ行われる型式のものほど顕著なものになる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、主輪がフレームに対して左右に倒れたことによる走行性能の低下或いは走行振動の発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による摩擦式走行装置は、フレーム(10)と左右方向に延在する軸線を中心とした円環状の芯体(32)と前記芯体(32)の円周方向に複数配置され各々自身の配置位置に於ける前記芯体(32)の接線方向に延在する軸線周りに回転可能なドリブンローラ(34)とを含む主輪(30)と、前記フレーム(10)に取り付けられて前記主輪(30の内方を左右方向に貫通する支持軸(22)と、前記主輪(30)の左右両側に配置され、各々自身の中心軸線周りに回転可能に前記支持軸(22)に支持された左右のドライブディスク(70)と、前記左右のドライブディスク(70)の各々に当該ドライブディスク(70)の周方向に間隔をおいて配置され、各々前記ドライブディスク(70)の中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に支持されて外周面をもって各々前記ドリブンローラ(34)の外周面に接触する複数の左右のドライブローラ(76)と、前記フレーム(10)に取り付けられ、前記左右のドライブディスク(70)を個別に回転駆動する駆動装置(64)と、前記フレーム(10)に回転可能に取り付けられ、前記ドライブローラ(76)が接触していない前記ドリブンローラ(34)を左右両側から挟むように前記ドリブンローラ(34)の外周面に転動可能に接触する左右のガイドローラ(104)を有する。
【0008】
この構成によれば、左右のガイドローラ(104)によって主輪(30)がフレーム(10)に対して左右に倒れることが防止され、左右のドライブローラ(76)とドリブンローラ(34)との接触関係が変動することがなく、走行性能が低下したり、変動したり、走行振動が発生することが回避される。
【0009】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記ガイドローラ(104)は、当該ガイドローラ(104)が接触する前記ドリブンローラ(34)の中心軸線に直交する方向に延在する中心軸線周りに回転可能である。
【0010】
この構成によれば、ガイドローラ(104)は、接触部位におけるドリブンローラ(34)の外周面の接線方向に延在する軸線周りに転動自在になり、主輪(30)の公転に伴って転動し、主輪(30)の公転を阻害することがない。
【0011】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記ガイドローラ(104)は前記芯体(32)の中心を通る円周より前記主輪(30)の径方向内方において前記ドリブンローラ(34)の外周面に接触し、前記左右のガイドローラ(104)の中心軸線がなす挟み角が90度以下である。
【0012】
この構成によれば、ヨー方向の振動とピッチ方向の振動の双方を低減することができる。
【0013】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記ガイドローラ(104)は前記主輪(30)の中心軸線より上方に位置する前記ドリブンローラ(34)の外周面に接触している。
【0014】
この構成によれば、主輪(30)に対して車体フレーム(10)が上下に移動することが規制され、車体フレーム(10)が持ち上げられた際には、車体フレーム(10)と一体的に主輪(30)も持ち上げられるので、車体フレーム(10)と主輪(30)とが上下方向に不要に相対的に変位することがない。
【0015】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記ガイドローラ(104)は前記主輪(30)の中心軸線より上方において前記ドライブローラ(76)が接触していない前記ドリブンローラ(34)の外周面に前記芯体(32)の中心を通る円周より前記主輪(30)の径方向内方において接触し、接触部位における前記外周面の接線方向に延在する軸線周りに転動可能なガイドローラ(104)を前記主輪(30)の円周方向に複数有し、前記主輪(30)が如何なる回転位置にあっても複数の前記ガイドローラ(104)のうちの少なくとも1個が前記ドリブンローラ(34)の外周面に接触する。
【0016】
この構成によれば、主輪(30)が如何なる回転位置にあっても、左右のガイドローラ(104)による主輪(30)の拘束作用が確実に行われる。
【0017】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記ガイドローラ(104)は、前記主輪(30)の中心軸線(B)を隔てた前後に各々配置されている。
【0018】
この構成によれば、左右のガイドローラ(104)によって主輪(30)がフレーム(10)に対して前後左右(ヨー方向、ピッチ方向、ロール方向)に倒れることが防止され、左右のドライブローラ(76)とドリブンローラ(34)との接触関係が変動することがなく、走行性能が低下したり、変動したりすることが回避されると共に、ヨー方向の振動、ピッチ方向の振動及びロール方向の振動が低減する。
【0019】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記ドライブローラ(76)が前記ドリブンローラ(34)と接触する点の集合により画成されるドライブ側接触円の直径(D1)が、前記ドリブンローラ(34)が前記ドライブローラ(76)と接触する点の集合により画成されるドリブン側接触円の直径(D2)より小さく、前記ドライブディスク(70)が前記主輪(30)に対して径方向にオフセットして配置され、前記ドリブンローラ(34)に近い側に位置する前記ドライブローラ(76)のみが前記ドリブンローラ(34)に接触している。
【0020】
この構成によれば、D1=D2である場合に比してドライブローラ(76)の個数を削減でき、部品点数および組付工数の削減、重量の低減化を図ることができる。また、接地していないドリブンローラ(34)が無駄に回転駆動されることが減少し、動力損失が低減する。
【0021】
本発明による摩擦式走行装置は、好ましくは、前記支持軸(22)の中心軸線(A)と前記主輪(30)の中心軸線(B)とが互いに平行であり、前記ドライブ側接触円を含む仮想平面とドリブン側接触円を含む仮想平面とが互いに平行である。
【0022】
この構成によれば、左右のドライブディスク(70)の配置が左右に拡がることがなく、ドライブ側接触円を含む仮想平面が傾斜している場合に比して摩擦式走行装置の左右幅を小さくすることができる。
【0023】
本発明による乗物は、上述の発明による摩擦式走行装置を有し、前記フレーム(10)に乗員の臀部を支持するサドル(18)および乗員の足裏を支持するフットステップ(20)の少なくとも何れか一方が設けられている。
【発明の効果】
【0024】
本発明による摩擦式走行装置および乗物によれば、左右のガイドローラによって主輪がフレームに対して左右に倒れることが防止され、左右のドライブローラとドリブンローラとの接触関係が変動することがなく、走行性能が低下したり、変動したり、走行振動が生じたりすることが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明による摩擦式走行装置が用いられた倒立振子型車両の一つの実施形態を示す斜視図
図2】本実施形態による摩擦式走行装置の正面図
図3】本実施形態による摩擦式走行装置の要部の斜視図
図4】本実施形態による摩擦式走行装置の要部の側面図
図5】本実施形態による摩擦式走行装置の要部の拡大平断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明による摩擦式走行装置が用いられた搭乗タイプの倒立振子型車両(乗物)の一つの実施形態を、図1図5を参照して説明する。
【0027】
図1に示されているように、本実施形態の倒立振子型車両(全方向移動装置)は、車体骨格をなす車体フレーム10を有する。車体フレーム10は、前後2個の上部部材12と、上部部材12の左右両端より各々垂下し且つ前後2個の上部部材12を互いに接続する左右の脚部材14と、脚部材14の下部に取り付けられた左右の下部支持プレート16とを含む。上部部材12の上部には乗員の臀部を支持するサドル18が取り付けられている。下部支持プレート16には乗員の足裏を支持する左右のフットステップ20が取り付けられている。
【0028】
左右の脚部材14および下部支持プレート16間には主輪30および左右のドライブディスク70が配置されている。
【0029】
主輪30は、図2に示されているように、左右方向に水平に延在する軸線(中心軸線B)を中心とした円環状の芯体32と、芯体32の円周方向に複数配置され、各々自身の配置位置に於ける芯体32の接線方向に延在する軸線周りに回転可能なドリブンローラ34とを含む。芯体32は金属等の硬質材料によって構成され、ドリブンローラ34はゴム等の弾性体によって構成されている。
【0030】
左右のドライブディスク70は、図1図2に示されているように、主輪30の左右両側に対称に配置され、各々、円筒状のハブ部72と、ハブ部72の外周より外方に延出した略円盤状のホイール部74とを有する。左右のドライブディスク70の各ホイール部74の外周部には周方向に隔置して複数のドライブローラ76が各々ローラ支持軸78によってドライブディスク70の回転軸線(中心軸線A)に対してねじれの関係をなす回転軸線周りに回転可能に取り付けられている。ドライブローラ76は、金属或いはプラスチック等の比較的硬質の材料によって構成されている。
【0031】
ドライブローラ76はホイール部74の周方向に等間隔をおいて「はすば歯車」の歯の配列のような配置になり、ドライブディスク70の中心軸線Aに対するドライブローラ76のねじれの関係が、全てのドライブローラ76において同一になっている。
【0032】
左右の下部支持プレート16には各々スリーブ23(図2参照)が取り付けられている。スリーブ23は主輪30の内方を左右方向に貫通して略水平に延在するディスク支持軸22を支持している。ディスク支持軸22は、左右のハブ部72内を左右方向に貫通し、ボール軸受75(図2参照)によって左右のハブ部72を同軸上に個別に回転可能に支持している。換言すると、車体フレーム10は一つのディスク支持軸22によって左右のハブ部72、つまり左右のドライブディスク70を各々略水平な同一軸線上に回転可能に支持している。ディスク支持軸22の中心軸線はドライブディスク70の中心軸線Aと同一であり、中心軸線Aと主輪30の中心軸線Bとは互いに平行である。
【0033】
ここで、ドライブローラ76がドリブンローラ34と接触する点を結んだ仮想円、つまりドライブローラ76がドリブンローラ34と接触する点の集合により画成される仮想円をドライブ側接触円と呼び、ドライブローラ76がドリブンローラ34と接触する点を結んだ仮想円、つまりドリブンローラ34がドライブローラ76と接触する点の集合により画成される仮想円をドリブン側接触円と呼ぶ。
【0034】
ドライブ側接触円の直径D1(図2参照)とドリブン側接触円の直径D2(図3参照)との関係は、D1<D2であり、例えば、ドライブ側接触円の直径D1はドリブン側接触円の直径D2の概ね1/2程度であってよい。そして、ドライブディスク70の中心軸線Aと主輪30の中心軸線Bとは水平方向(左右方向)に延在して互いに平行であり、左右のドライブディスク70はディスク支持軸22によって同一軸線上に支持されているから、ドライブ側接触円を含む仮想平面とドリブン側接触円を含む仮想平面とはドライブディスク70の中心軸線Aおよび中心軸線Bに直交する面をもって、つまり鉛直面をもって互いに平行である。
【0035】
前述の如く、D1<D2であることにより、ドライブディスク70が主輪30に対して径方向(上下方向)にオフセットして配置され、このオフセットによってドリブンローラ34に近い側に位置するドライブローラ76がドリブンローラ34に接触している。つまり、ドライブディスク70の中心軸線Aが主輪30の中心軸線Bに対して直径D2と直径D1との差に応じた量をもって下方(径方向)に偏倚しており、左右のドライブローラ76はドリブンローラ34に近い側に位置するもののみが外周面をもって下側、つまり接地側に位置するドリブンローラ34の外周面(主輪30の径方向内方の外周面)に左右対称に摺接(接触)している。理想的には接地状態にあるドリブンローラ34にのみドライブローラ76が摩擦による動力伝達に有効に接触している。D1<D2であることにより、D1=D2である場合に比してドライブローラ76の個数を削減でき、ドライブディスク70を小型化、軽量化することができる。
【0036】
接地側に位置するドライブローラ76は、サドル18に乗員が着座した状態では、乗員の荷重が車体フレーム10を介してディスク支持軸22に作用することにより、接地している主輪30のドリブンローラ34に上方から押し付けられる。接地するドリブンローラ34の個数は、設計上は1〜2個であるが、サドル18に乗員が着座した状態では、乗員の荷重が、車体フレーム10、ディスク支持軸22、ドライブディスク70、ドライブローラ76を介してドリブンローラ34に作用し、ゴム製のドリブンローラ34が弾性変形することにより、多くなると考えられる。
【0037】
図1図5に示されているように、左右の下部支持プレート16の前部及び後部には、各々、取付金具100によってヨーク形状のブラケット102が固定されている。前後、左右の合計の4個のブラケット102は、各々、2個のガイドローラ104を主輪30の円周方向に隔置してローラ軸106によって回転自在に支持している。ガイドローラ104は、円筒状のストレートローラであり、主輪30の中心軸線Bを隔てた前後に、各々ローラ軸106によって主輪30の左右両側に2個ずつ配置され、主輪30の中心軸線Bを通る水平面より上方に位置してドライブローラ76が接触していないドリブンローラ34を左右両側から挟むようにドリブンローラ34の外周面に転動可能に接触している。
【0038】
ガイドローラ104は、当該ガイドローラ104が接触するドリブンローラ34、つまり接触相手のドリブンローラ34の中心軸線に直交する方向に延在する中心軸線Cの周りに回転可能である。更に詳細には、ガイドローラ104は、側面視で、芯体32の中心を通る円周より主輪30の径方向内方においてドリブンローラ34の外周面に接触しており、図5に示されているように、接触部位におけるドリブンローラ34の外周面の接線方向に延在する軸線(中心軸線C)周りに転動可能であり、平面視で、左右のガイドローラ104の中心軸線Cがなす挟み角θaが、90度以下で、左右のドライブローラ76の中心軸線Cがなす挟み角より大きい。図4に示されているように、主輪30の円周方向の上側に位置するドライブローラ76のピッチ角θb(水平線に対する中心軸線Cの傾斜角)は10〜20度であってよく、搭乗荷重による主輪30に対する車体フレーム10の沈み込みを考量してピッチ角θbにオフセット角θcが加えられてよい。
【0039】
隣り合うドリブンローラ34のガイドローラ104が接触する部位におけるピッチと左右2個ずつのガイドローラ104のピッチとが相違しており、左右のガイドローラ104は、主輪30が如何なる回転位置にあっても、主輪30の円周方向に異なる位置にある2個のガイドローラ104のうちの少なくとも一方が必ずドリブンローラ34の外周面に接触する。
【0040】
左右のホイール部74の外側には各々円盤状の取付プレート71によってドリブンプーリ60が同心に固定されている。車体フレーム10には、図1に示されているように、主輪30の上方にギヤボックス62が取り付けられている。ギヤボックス62の外壁には左右の電動モータ64(図1では右側のドライブディスク70を駆動する電動モータのみを図示)および左右のドライブプーリ66(図1では左側のドライブディスク70用のドライブプーリのみを図示)が取り付けられている。ギヤボックス62は減速歯車装置(不図示)を内蔵しており、当該減速歯車装置は左右の電動モータ64の回転を減速して左右のドライブプーリ66に個別に伝達する。ドライブプーリ66とドリブンプーリ60とには左右で対応するもの同士間に無端のコグドベルト68(図1では左側のドライブディスク70用のコグドベルトのみを図示)が掛け渡されている。これにより、左右のドライブディスク70は左右の電動モータ64によって個別に回転駆動される。
【0041】
図1に示されているように、下部支持プレート16にはアーム支持軸90によって尾輪支持アーム92の基端が回動可能に連結されている。尾輪支持アーム92は、基端より主輪30の後方に向けて延在し、アーム支持軸90の中心軸線周りに車体フレーム10に対して略上下方向に回動可能になっている。尾輪支持アーム92は遊端にオムニホイール式の尾輪(副輪)94をドライブディスク70の回転軸線(中心軸線A)に直交する略水平な中心軸線E周りに回転可能に支持している。尾輪94は尾輪支持アーム92に取り付けられた電動モータ96によって中心軸線E周りに回転駆動される。
【0042】
ギヤボックス62の前部には電気ボックス98が取り付けられている。電気ボックス98は、電子制御装置、ジャイロセンサ、モータドライブユニット等を内蔵している。電子制御装置は、倒立振子制御則に従った制御処理に基づいて車体フレーム10が略直立姿勢を維持すべく左右の電動モータ64を制御すると共に、旋回のために電動モータ96を制御する。なお、車体フレーム10には、図示されていないが、これらの電装品の電源をなすバッテリが搭載されている。
【0043】
左右の電動モータ64が同一方向に且つ同一速度で駆動されている場合には、左右のドライブディスク70が同一速度で同一方向に回転し、ドライブディスク70の回転がドライブローラ76および第2のドライブローラ84とドリブンローラ34との摩擦力によって主輪30に伝達され、主輪30が、円環中心を回転軸線(中心軸線B)として回転、つまり公転する。このとき、左右のドライブディスク70に回転速度差が生じないため、主輪30のドリブンローラ34が自転せず、倒立振子型車両は真っ直ぐに前進あるいは後進する。
【0044】
左右の電動モータ64が互いに異なった回転方向及び又は互いに異なった回転速度に駆動されている場合には、左右のドライブディスク70間に回転速度差が生じ、左右のドライブディスク70の回転力による円周(接線)方向の力に対し、この力に直交する向きの分力が左右のドライブローラ76と主輪30のドリブンローラ34との接触面に作用する。この分力によってドリブンローラ34が自身の中心軸線回りに回転(自転)することになる。
【0045】
ドリブンローラ34の回転は、左右のドライブディスク70の回転速度差によって定まるから、例えば、左右のドライブディスク70を互いに同一速度で逆向きに回転させると、主輪30は全く公転せず、ドリブンローラ34の自転だけが生じる。これにより、主輪30には左右方向の走行力が加わることになり、倒立振子型車両は、左右方向に走行(真横移動)する。左右のドライブディスク70を同一方向に相違した速度で回転させると、主輪30の公転と共にドリブンローラ34の自転が生じ、倒立振子型車両は斜め前方あるいは斜め後方に走行する。
【0046】
電動モータ96によって尾輪94が回転駆動されると、倒立振子型車両は主輪30の接地点を中心として旋回する。なお、主輪30及び尾輪94が同時に回転駆動されると、その回転駆動の状態に応じて、旋回中心位置は変化する。
【0047】
前後のガイドローラ104は、各々、主輪30の上側に位置するドリブンローラ34に左右両側に接触していることにより、主輪30が接地点を傾斜基点として左右方向に傾斜することを規制、つまり車体フレーム10に対する主輪30のロール運動を規制する。
【0048】
このことにより、D1<D2であっても、主輪30が車体フレーム10に対して左右に倒れることが防止され、左右のドライブローラ76とドリブンローラ34との接触関係が変動することがなく、走行性能が低下したり、走行性能が変動したり、走行振動が発生したりすることが回避される。この作用は、ガイドローラ104が主輪30の中心軸線Bを隔てた前後に各々配置されていることにより、より確実なものになる。
【0049】
また、ガイドローラ104は、接地点を通る鉛直線より前後方向に離れた位置にあるドリブンローラ34に接触していることにより、主輪30が車体フレーム10に対して接地点を通る鉛直線周りに回転することを規制、つまり車体フレーム10に対する主輪30のヨー運動を規制すること、及び主輪30が車体フレーム10に対してピッチ運動することを規制する。これにより、主輪30の上側のドリブンローラ34が左右のドライブローラ76によって挟まれていなくても、主輪30が車体フレーム10に対してヨー運動(回転変位)及びピッチ運動(前後変位)することが防止される。
【0050】
平面視で左右のガイドローラ104の中心軸線Cがなす挟み角θaが大きいと、ヨー方向の振動を低減する作用が顕著になり、挟み角θaが小さいと、ピッチ方向の振動が低減する作用が顕方著になるから、振動の具合に応じて挟み角θaが、30〜90度程度に最適設定されればよい。ヨー方向の振動とピッチ方向の振動の双方を低減する挟み角θaは90度以下である。
【0051】
また、左右のガイドローラ104は、主輪30が如何なる回転位置にあっても、主輪30の円周方向に異なる位置にある2個のガイドローラ104のうちの少なくとも一方が、側面視で、芯体32の中心を通る円周より主輪30の径方向内方からドリブンローラ34の外周面に必ず接触するから、ロール運動、ヨー運動、ピッチ運動の規制が、主輪30の回転位置に如何に拘わらず常に確実に行われる。
【0052】
ガイドローラ104は、接触相手のドリブンローラ34の中心軸線に直交する方向に延在する中心軸線Cの周りに回転可能であり、接触部位におけるドリブンローラ34の外周面の接線方向に延在する軸線周りに転動自在であるから、主輪30の公転に伴って転動し、主輪30の公転を阻害することがない。
【0053】
ガイドローラ104は、接触相手のドリブンローラ34の回転(自転)を阻害するが、接触相手のドリブンローラ34はドライブローラ76と接触しておらず、自転することがないドリブンローラ34であるから、このことが問題なることがない。
【0054】
また、主輪30は、ガイドローラ104によって車体フレーム10から支持され、ピッチ角θb+オフセット角θcの存在によって車体フレーム10と主輪30との上下方向の相対的な移動が規制されているから、車体フレーム10が持ち上げられた際には、車体フレーム10と一体的に主輪30も持ち上げられ、車体フレーム10と主輪30とが上下方向に不要に相対的に変位することが回避される。
【0055】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。たとえば、左右のガイドローラ104は、2個ずつに限られることはなく、それ以上の複数であっても、1個であってもよい。左右のガイドローラ104は、主輪30の左右両側に互い平行な軸線上に配置されてもよい。また。ガイドローラ104の設置は、D1<D2の摩擦式走行装置以外に、D1とD2とが略等しい摩擦式走行装置にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 車体フレーム
12 上部部材
14 脚部材
16 下部支持プレート
18 サドル
20 フットステップ
22 ディスク支持軸
23 スリーブ
30 主輪
32 芯体
34 ドリブンローラ
60 ドリブンプーリ
62 ギヤボックス
64 電動モータ
66 ドライブプーリ
68 コグドベルト
70 ドライブディスク
71 取付プレート
72 ハブ部
74 ホイール部
75 ボール軸受
76 ドライブローラ
78 ローラ支持軸
90 アーム支持軸
92 尾輪支持アーム
94 尾輪
96 電動モータ
98 電気ボックス
100 取付金具
102 ブラケット
104 ガイドローラ
106 ローラ軸
図1
図2
図3
図4
図5