(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を以下に説明する。実施形態において正極とは、正極活物質と、バインダーと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダーと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、本実施形態においては特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して積層されて、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0010】
実施形態のリチウムイオン二次電池は、外装体の内部に該発電要素が含まれて成り、好ましくは、発電要素は該外装体内部に封止されている。封止されているとは、発電要素が外気に触れないように、外装体材料により包まれていることを意味する。すなわち外装体は、発電要素をその内部に封止することが可能な袋形状をしている。
【0011】
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体に配置された負極を含む。好ましくは、負極は、負極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。
【0012】
黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。実施形態において、負極活物質として用いる黒鉛粒子の粒子径(D90)は14〜25μmであることが好ましい。D90とは、黒鉛粒子の粒度分布において積算値が90%のときの粒子径の値を表す。
【0013】
また、負極活物質として、非晶質炭素が含まれていてもよく、場合により黒鉛と非晶質炭素との混合物を用いてもよい。非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。非晶質炭素は粒子の形状をしていることが好ましい。上記の黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とをともに含む混合炭素材を用いると、電池の回生性能が向上する。
【0014】
負極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0015】
負極活物質層に用いられるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブラジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0016】
すべての実施形態において用いることができる負極は、先に説明した負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体に配置された負極を含む。好ましくは、負極は、負極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。このとき負極活物質層の厚さは18〜35μmであることが好ましく、20〜25μmであることが特に好ましい。負極活物質層の厚さが小さすぎると均一な負極活物質層の形成が難しいという不都合があり、一方負極活物質層の厚さが大きすぎると高レートでの充放電性能が低下するという不都合があり得る。リチウムイオン電池の高電流密度(すなわち高レート)での入出力特性は、電池の動作中にリチウムイオンが電極の厚み方向にどこまで拡散できるかに影響される。電極活物質層の厚さはリチウムイオンの電極活物質層の厚み方向の拡散可能距離に影響し、活物質の粒径はリチウムイオンの実効的な拡散距離に影響すると考えられる。黒鉛粒子の粒子径(D90)が14〜25μmであり、負極活物質層の厚さが18〜35μmである場合に、電極活物質層の厚み方向に存在する電極活物質を多く活用することができるため、電池の出力特性を向上できると考えられる。特に、この時、該負極活物質の粒子径(D90)の値に対する該負極活物質層の厚さの比の値が1.3〜2.3であると上記効果が特に顕著となり電池の出力特性が更に向上する。
【0017】
本明細書のすべての実施形態において用いる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(以下「DMC」と称する。)、ジエチルカーボネート(以下「DEC」と称する。)、エチルメチルカーボネート(以下「EMC」と称する。)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジ−t−プロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジ−イソブチルカーボネート、またはジ−t−ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(以下「EC」と称する。)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0018】
電解液は、環状カーボネートであるPCとECと、鎖状カーボネートであるDMCとEMCとを必須の成分として含む。特にPCは、凝固点が低い溶媒であり、電池の低温時の出力の向上のために欠かすことができない。ただしPCは負極として用いられる黒鉛との相性がやや低いことが知られている。ECは極性が高く誘電率が高い溶媒であり、リチウムイオン二次電池用電解液の構成成分として欠かすことができない。ただしECは融点(凝固点)が高く、室温で固体であるため、これを混合溶媒にしても、低温下では凝固および析出するおそれがある。DMCは拡散係数が大きく粘度が低い溶媒である。ただしDMCは融点(凝固点)が高いため、電解液が低温下で凝固するおそれがある。EMCもDMCと同様拡散係数が大きく粘度が低い溶媒である。このように、電解液の構成成分はそれぞれに異なる特性を有しており、電池の低温時の出力を向上させるためにはこれらのバランスを考慮することが重要である。
【0019】
電解液全体の体積を基準として、PCの体積割合は10%以下であり、環状カーボネートであるECとPCの合計体積割合は30%以上40%以下であることが好ましい。環状カーボネートの含有割合を上記の範囲とすると、常温での粘度が低く、低温下においても性能を失わない電解液を得ることができる。
【0020】
さらにPCおよびEMCが含まれている場合はこれらとその他の鎖状カーボネートとの合計体積の値をBとし、ECおよびDMCの合計体積の値をAとしたとき、A/Bの値が0.5以上1.5以下となるよう電解液を調製することが好ましい。ここで「その他の鎖状カーボネート」としては、たとえばDECを挙げることができる。Bの値は、電解液の構成成分のうち比較的融点が低い成分の合計体積であり、Aの値は、電解液の構成成分のうち比較的融点が高い成分の合計体積である。AとBの値のバランスを考慮して電解液を配合することは、電池の低温下での性能の向上に役立つ。A/Bの値が上記の範囲外では、極低温下で電解液の一部が凝固し、電池性能が大きく低下するおそれがある。
【0021】
電解液は、このほか、添加剤として環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0022】
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、1,4−ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,3−エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,3−エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、1,4−ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)は特に好ましく用いられる。
【0023】
実施形態において、正極活物質層は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式Li
xNi
yMe
(1−y)O
2(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。
【0024】
すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体に配置された正極を含む。好ましくは、正極は、正極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。各実施形態において、正極活物質層は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式Li
xNi
yMe
(1−y)O
2(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。
【0025】
正極活物質層は、さらにリチウム・マンガン系複合酸化物を正極活物質として含むことができる。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO
2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)等を挙げることができる。リチウム・マンガン系複合酸化物を併用することで、より安価に正極を作製することができる。特に、過充電状態での結晶構造の安定度の点で優れるスピネル型のマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)を用いることが好ましい。
【0026】
正極活物質層は、特に、一般式Li
xNi
yCo
zMn
(1−y−z)O
2で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1−y−z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、z<y、z<1−y−zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1−y−z、y>zとすることが特に好ましい。
【0027】
正極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0028】
正極活物質層に用いられるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブラジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0029】
すべての実施形態において用いられるセパレータは、オレフィン系樹脂層から構成される。オレフィン系樹脂層は、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα−オレフィンを重合または共重合させたポリオレフィンから構成される層である。実施形態において、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンから構成される層であることが好ましい。オレフィン系樹脂層がこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。セパレータは、場合により耐熱性微粒子層を有していてよい。この際、電池の異常発熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α−アルミナ、β−アルミナ、θ−アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、耐熱層を有するセラミックセパレータを用いることもできる。
【0030】
ここで、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。
図1はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。
図1では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位、すなわち発電要素である(図中、単電池19)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極リード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極リード27上に一括して接合してある。なお正極リードとしてアルミニウム板、負極リードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極リードおよび負極リードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極リード25および正極リード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、周縁部が熱融着した形状をしている。
【0031】
実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の出力と容量との比(W/Wh)は、25以上であることが好ましい。このような範囲の出力容量比を有するリチウムイオン電池は、特に車両積載用電池、あるいは定置型電池として都合よく用いられる。これらの電池は高い容量維持率が要求されるため、本実施形態の電池を適用することは特に有用である。
【実施例】
【0032】
<負極の作製>
負極活物質として、負極活物質として、BET比表面積3m
2/g、粒子径(D90)が17μmの黒鉛粉末を用いた。この黒鉛粉末と、導電助剤としてBET比表面積62m
2/gのカーボンブラック粉末(以下、「CB」と称する。)(TIMCAL製、SC65)と、バインダー樹脂としてフッ化ビニリデン樹脂(以下「PVDF」と称する。)(クレハ製、#7200)を、固形分質量比で黒鉛:導電助剤:バインダー=93:2:5の割合で混合し溶媒であるN−メチルピロリドン(以下、「NMP」と称する。)に添加した。これらの材料を均一に混合・分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み10μmの銅箔上に乾燥後重量が片面あたり4.1mg/cm
2となるように塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより負極活物質層を形成した。さらに、負極活物質層の空孔率が40%となるように電極をプレスして、負極集電体の片面上に厚さ31μmの負極活物質層を塗布した負極を作製した。
【0033】
<正極の作製>
D50平均粒径が8μmのリチウム・ニッケル系複合酸化物(ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(「NCM523」、すなわちニッケル:コバルト:マンガン=5:2:3))と、導電助剤としてBET比表面積62m
2/gのCB(TIMCAL製、SC65)と、バインダー樹脂としてPVDF(クレハ製、#7200)とを、固形分質量比でNCM523:CB:PVDFが90:5:5の割合となるように混合し、溶媒であるNMPに添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で遊星方式の分散混合を30分間実施することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み12μmのアルミニウム箔上に乾燥後重量が片面あたり6mg/cm
2となるように塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層の空孔率が30%となるように電極をプレスして、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
【0034】
<セパレータ>
耐熱微粒子としてアルミナを用いた耐熱微粒子層とポリプロピレンからなる厚さ25μmのセラミックセパレータを使用した。
【0035】
<電解液>
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびジメチルカーボネート(DMC)とを、表1に記載するような体積比で混合した非水溶媒を用意した。各混合非水溶媒に電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を濃度が0.9mol/Lとなるように溶解させ、次いで、添加剤としてMMDSを1重量%となるように溶解させた。これらの非水混合溶媒を電解液として各々用いた。
【0036】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した正極板をサイズ200mm×140mmの矩形に切り出し、対向する負極板をサイズ204mm×144mmの矩形に切り出した。ポリプロピレン多孔質セパレータの両面に上記負極板と正極板とを両活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置したものを10層重ねて電極積層体を得た。そして、電極板積層体の箔部分にアルミニウム製の正極リード端子を超音波溶接した。同様に、負極箔部分にニッケル製の負極リード端子を負極板に超音波溶接した。この電極積層体を2枚のアルミニウムラミネートフィルムで包み、長辺の一方を除いて三辺を熱融着により接着した。表1に示す各電解液を電極積層体とセパレータの空孔に対して145%の液量となるように注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により封止することによって、積層型リチウムイオン電池を作成した。この積層型リチウムイオン電池の初充電を行った後、45℃でエージングを数日間行い、表1に表す実施例1〜6、比較例1、2の積層型リチウムイオン電池を得た。
【0037】
<初回充放電効率および電池容量>
初回充放電は、雰囲気温度25℃で、0.1C電流、上限電圧4.2Vでの定電流定電圧(CC−CV)充電を行った。その後、45℃で数日間エージングを行った。その後、3.0Vまで0.2C電流での定電流放電を行った。初回充放電効率は、再度電池電圧4.2VまでCC−CV充電を行い、電池電圧3.0Vまで0.2Cで放電したときの放電電気量と上記の初回充電容量との比(0.2C放電容量/初回充電容量)から求めた。電池の容量(Ah)は、上記の放電容量(4.2Vから3.0Vまで0.2C放電したときの放電電流値と時間の積)であり、Wh容量は、放電出力と時間の積から求めた。
【0038】
<残容量(SOC)>
残容量(SOC、State of charge)とは、電池の使用電圧範囲における電池の容量に対する充電量を百分率で表した値のことである。本実施例では、電池の使用電圧範囲を3.0V(SOC0%)から4.2V(SOC100%)をSOCの範囲とした。
【0039】
<SOCの調整>
上記で求めた電池の容量に対し、所望の充電量(SOC)となるように、電池電圧3Vの状態から0.2C電流でCC充電した。この状態で1時間放置した後の電池電圧を所望のSOCにおける電圧値とした。
【0040】
<電池の直流抵抗>
電池抵抗は、電池の残容量(SOC)50%の電池を用意し、25℃下で10Aでの定電流放電を10秒間行い放電終了時の電圧を測定することにより電池の直流抵抗値(DCR)を求めた。同じく、0℃下で10Aでの定電流放電を10秒間行い放電終了時の電圧を測定することにより電池の直流抵抗値(DCR)を求めた。電池の体積は、JIS Z 8807「固体の密度及び比重の測定法−液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法」にしたがい測定した。
【0041】
<電池の最大出力>
SOC50%の電池を25℃で、10秒間、各種レートで放電を行った。電流値を横軸、10秒後の電池電圧を縦軸としたグラフに各放電実験の結果をプロットした。プロットした各点を結び、内外挿法により、所望の下限電圧値(本実施例では電池電圧3V)にあたる電流値をI
Maxとした。このI
Maxと、開始SOCでの電圧と最終SOCでの電圧との平均値電圧と、を乗じたものを電池の最大出力Wとした。
【0042】
<出力容量比(W/Wh)>
出力容量比は、上記で測定した最大出力と容量との比(最大出力/容量)で算出した。
【0043】
上記の実施例1〜6および比較例1、2の積層型リチウムイオン二次電池について、上記の評価を行った結果を表1に示す。なお直流抵抗値は、比較例1にて測定された直流抵抗値に対する相対値である。
【0044】
【表1】
【0045】
A/Bの値が本発明の範囲を満たす実施例と、A/Bの値が本発明の範囲外となっている参考例の電池につき、初回効率と直流抵抗値とを測定した。本発明の実施例の電池の初回効率は、いずれも向上した。また本発明の実施例の電池直流抵抗値は、比較例1と比べておよそ10%前後低減した。特に低温下(0℃)の直流抵抗値が数%低減することは、特に車両用ハイブリッド電池として用いる場合に非常に大きな利益をもたらす。電池の直流抵抗値が数%でも小さいと、大きな電流を流すことができるため、低温下でも大容量での充放電を行うことができる。このように、一般的には黒鉛負極との相性が良くないといわれているPCを電解液として用いても、各電解液の構成成分のバランスを考慮することで、PCによる黒鉛の構造破壊を防ぎつつ、電池の抵抗を低下させることが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。