(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、地盤改良体の水平変位(せん断変形)に伴う杭頭部の水平変位が考慮されていない。そのため、地震時に、杭頭部に発生する縁ひずみが過大となり、当該杭頭部が地盤改良体よりも先に破損する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、地震時に、上部構造体から地盤改良体に水平力を伝達しつつ、地盤改良体よりも先に杭の杭頭部が破損することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の基礎構造の設計方法は、地盤に埋設され、該地盤上の上部構造体を支持する杭と、前記地盤内に設けられ、前記杭を囲むとともに、前記上部構造体から水平力が伝達される地盤改良体と、を備える基礎構造の設計方法であって、前記上部構造体から前記杭の杭頭部に伝達される軸力によって該杭頭部に発生する縁ひずみと、前記地盤改良体に破壊せん断ひずみを発生させる水平変位によって前記杭頭部に発生する縁ひずみとの合計値が、前記杭頭部の許容縁ひずみ以下となるように、前記杭及び前記地盤改良体の諸元を設定する。
【0008】
請求項1に係る基礎構造の設計方法によれば、地震時に、上部構造体から地盤改良体に水平力(地震力)が伝達される。これにより、地震時に、上部構造体から杭の杭頭部に伝達される水平力が低減される。したがって、例えば、杭の杭径(断面積)等を小さくすることができる。
【0009】
ここで、地震時には、上部構造体から地震に伴う軸力が杭頭部に伝達される。この軸力によって、杭頭部に縁ひずみ(以下、「軸力縁ひずみ」という)が発生する。
【0010】
また、上部構造体から地盤改良体に水平力が伝達されると、地盤改良体がせん断変形するとともに、地盤改良体によって囲まれた地盤が水平変位する。この地盤の水平変位に杭が追従すると、杭が曲げ変形し、当該杭の杭頭部に縁ひずみ(以下、「曲げ縁ひずみ」という)が発生する。そして、この曲げ縁ひずみと前述した軸力縁ひずみとの合計値が、杭頭部の許容縁ひずみを超えると、当該杭頭部が破損する可能性がある。
【0011】
この対策として本発明では、地盤改良体に破壊せん断ひずみを発生させる水平変位によって杭頭部に発生する曲げ縁ひずみを算出し、この曲げ縁ひずみと前述した軸力縁ひずみとの合計値が杭頭部の許容縁ひずみ以下となるように、杭及び地盤改良体の諸元を設定する。つまり、本発明では、地盤改良体のせん断変形に伴う杭頭部の水平変位を考慮して、杭及び地盤改良体の諸元を設定する。これにより、地震時に、地盤改良体よりも先に杭頭部が破損することを抑制することができる。
【0012】
また、曲げ縁ひずみと軸力縁ひずみとの合計値は、例えば、杭の杭径を大きくするのではなく、杭径を小さくして当該杭の曲げ剛性を低くすることで、許容縁ひずみ以下にすることができる。つまり、本発明では、杭の杭径を小さくしつつ、地震時に、地盤改良体よりも先に杭頭部が破損することを抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載の基礎構造は、地盤に埋設され、該地盤上の上部構造体を支持する杭と、前記地盤内に設けられ、前記杭を囲むとともに、前記上部構造体から水平力が伝達される地盤改良体と、を備え、前記上部構造体から前記杭の杭頭部に伝達される軸力によって該杭頭部に発生する縁ひずみと、前記地盤改良体に破壊せん断ひずみを発生させる水平変位によって前記杭頭部に発生する縁ひずみとの合計値が、前記杭頭部の許容縁ひずみ以下となる。
【0014】
請求項2に係る基礎構造によれば、地震時に、上部構造体から地盤改良体に水平力(地震力)が伝達される。これにより、地震時に、上部構造体から杭の杭頭部に伝達される水平力が低減される。したがって、例えば、杭の杭径(断面積)等を小さくすることができる。
【0015】
また、本発明では、地盤改良体に破壊せん断ひずみを発生させる水平変位によって杭頭部に発生する曲げ縁ひずみと、前述した軸力縁ひずみとの合計値が杭頭部の許容縁ひずみ以下とされる。これにより、地震時に、地盤改良体よりも先に杭頭部が破損することを抑制することができる。
【0016】
さらに、曲げ縁ひずみと軸力縁ひずみとの合計値は、例えば、杭の杭径を大きくするのではなく、杭径を小さくして当該杭の曲げ剛性を低くすることで、許容縁ひずみ以下にすることができる。つまり、本発明では、杭の杭径を小さくしつつ、地震時に、地盤改良体よりも先に杭頭部が破損することを抑制することができる。
【0017】
請求項3に記載の基礎構造は、請求項2に記載の基礎構造において、前記地盤改良体は、平面視にて格子状に形成され、前記杭頭部は、前記地盤改良体の格子枠内に配置される。
【0018】
請求項3に係る基礎構造によれば、地盤改良体は、平面視にて格子状に形成される。これにより、地震時に、地盤改良体が負担可能な上部構造体の水平力を効率的に増やすことができる。したがって、地震時に、杭頭部が負担する水平力を低減することができる。
【0019】
また、地盤改良体の格子枠内に杭頭部を配置し、格子枠と杭頭部との間隔を狭くすることで、地震時に上部構造体から杭頭部に伝達される水平力を地盤改良体に効率的に伝達することができる。したがって、上部構造体から杭頭部に伝達される水平力をさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る基礎構造の設計方法及び基礎構造によれば、地震時に、上部構造体から地盤改良体に水平力を伝達しつつ、地盤改良体よりも先に杭の杭頭部が破損することを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る基礎構造及び基礎構造の設計方法ついて説明する。
【0023】
図1には、本実施形態に係る基礎構造10が適用された構造物12が示されている。構造物12は、上部構造体14と、上部構造体14を支持する基礎20とを備えている。上部構造体14は、地盤18上に設けられている。ここで、上部構造体とは、地下階を有する構造体であれば、地下構造体も含む概念である。
【0024】
基礎20は、複数の杭22と、格子状地盤改良体30とを有している。複数の杭22は、円筒状に形成されており、地盤18に埋設されている。各杭22は、上部構造体14の基礎スラブ(基礎底盤)16から下方へ延出し、地盤18の支持層18Aに達している。これらの杭22によって、上部構造体14が支持されている。
【0025】
また、杭22の杭頭部22Uは、基礎スラブ16と接合されている。これにより、地震時に、上部構造体14から杭頭部22Uに水平荷重が伝達される。なお、杭22は、円筒状に限らず、円柱状(中実)に形成されても良い。また、杭22は、例えば、鋼杭(鋼管杭、H形鋼杭)、コンクリート杭(既製杭、場所打ち杭)、及び合成杭であっても良い。さらに、杭22は、支持杭に限らず、摩擦杭であっても良い。
【0026】
格子状地盤改良体30は、地盤18の表層部から所定深度に亘って形成されている。この格子状地盤改良体30は、例えば、砂質土等で構成され、液状化の可能性がある液状化層や、液状化の可能性は低いが、軟弱な粘土等で構成された軟弱層に設けられる。なお、前述した地盤18の支持層18Aは、上部構造体14を支持可能な充分な強度を有している。
【0027】
図2に示されるように、格子状地盤改良体30は、例えば、ソイルセメント柱列工法等によって、平面視にて格子状に形成されている。この格子状地盤改良体30は、地盤18Bを囲む複数の格子枠32を有している。
【0028】
格子枠32は、平面視にて矩形状に形成されており、4枚の枠壁部32Aを有している。この格子枠32内に杭22が設けられており、格子枠32によって杭22の杭頭部22Uが囲まれている。また、枠壁部32Aの上端部32Uと杭頭部22Uとは、同じ又は略同じ高さ(深度)に位置している。なお、格子状地盤改良体30の施工方法は、適宜変更可能である。また、格子状地盤改良体30は、地盤改良体の一例である。
【0029】
ここで、
図2及び
図3に示されるように、格子状地盤改良体30の上部には、複数の連結部材34が設けられている。複数の連結部材34は、例えば、断面形状が波形形状の金属板等によって形成されている。各連結部材34は、枠壁部32Aに沿って設けられている。
【0030】
図1に示されるように、連結部材34の上部は、基礎スラブ16に埋設されている。つまり、連結部材34は、格子状地盤改良体30と上部構造体14の基礎スラブ16とに亘って設けられている。この連結部材34によって、上部構造体14と格子状地盤改良体30とが水平力Pを伝達可能に連結されている。これにより、地震時に、上部構造体14に作用する水平力Pが、連結部材34を介して格子状地盤改良体30に伝達される。なお、連結部材34は、水平力伝達部の一例である。
【0031】
次に、杭22の設計方法の一例について説明する。
【0032】
先ず、杭22の設計方法の概要(設計思想)について説明する。本実施形態では、各杭22の杭頭部22Uが上部構造体14の基礎スラブ16に接合されている。また、格子状地盤改良体30は、連結部材34を介して基礎スラブ16と連結されている。
【0033】
そのため、地震時には、上部構造体14に作用する水平力Pが、各杭22の杭頭部22Uに伝達されるとともに、連結部材34を介して格子状地盤改良体30に伝達される。つまり、本実施形態では、地震時に上部構造体14に作用する水平力Pを杭22及び格子状地盤改良体30によって分担して負担している。
【0034】
ここで、従来の杭の設計では、例えば、地震時に杭が分担する水平力Pの分担率に応じた水平力に対して杭頭部を評価したり、地震時に想定される地盤18の水平変位に対して杭頭部を評価したりすることで、地震時に格子状地盤改良体30よりも先に杭頭部に破壊が生じないように杭が設計される。
【0035】
しかしながら、
図4(A)に示されるように、地震時に上部構造体14から格子状地盤改良体30の枠壁部32Aに水平力Pが伝達されると、枠壁部32Aがせん断変形(水平変位δ)する。この枠壁部32Aのせん断変形に伴って、枠壁部32A(格子枠32)によって囲まれた地盤18B(
図2参照)も水平変位する。さらに、地盤18Bの水平変位に伴って、杭22の杭頭部22Uも水平変位δする。
【0036】
ところが、従来の杭の設計では、上記のような格子状地盤改良体30の枠壁部32Aのせん断変形に伴う杭頭部22Uの水平変位δが考慮されていない。そのため、
図6(A)に示されるように、例えば、地震時に格子状地盤改良体に作用する水平力Pが設計値(以下、「設計水平荷重P
1」という)以内であっても、
図6(B)に示されるように、杭頭部に発生する縁ひずみεが許容縁ひずみを超え、格子状地盤改良体よりも先に杭頭部に破壊が発生する可能性がある。
【0037】
なお、
図6(A)及び
図6(B)における「従来の杭」とは、従来の設計方法によって設計された杭の一例であり、「実施形態の杭」とは、本実施形態に係る基礎構造の設計方法によって設計された杭の一例である。また、δ1は、格子状地盤改良体に設計水平荷重P
1が作用したときの格子状地盤改良体の水平変位であり、δ
maxは、格子状地盤改良体にせん断破壊が発生するときの格子状地盤改良体の水平変位である。
【0038】
この対策として本実施形態では、格子状地盤改良体30のせん断変形に伴う杭頭部22Uの水平変位δを考慮して杭22の設計を行う。具体的には、
図4(A)に示されるように、格子状地盤改良体30がせん断変形したときに、杭22の杭頭部22Uにも格子状地盤改良体30の上端32U1の水平変位δと同じ水平変位δが発生するものと仮定する。そして、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aがせん断破壊するときの枠壁部32Aの上端32U1の水平変位δ
maxに対し、杭頭部22Uに破壊(曲げ破壊)が発生しないように杭22を設計する。これにより、
図6(A)及び
図6(B)に示されるように、地震時に、格子状地盤改良体30よりも先に杭頭部22Uに破壊が発生しない、すなわち杭頭部22Uに発生する縁ひずみεが許容縁ひずみを超えないことを担保する。
【0039】
この際、格子状地盤改良体30の水平変位δ
maxに対して杭頭部22Uに破壊が発生する場合には、例えば、杭22の杭径Bを大きくして杭22の耐力(曲げ耐力)を高めるのではなく、杭頭部22Uに破壊が発生しないように、杭22の杭径B(
図4(C)参照)を縮小し、杭22の曲げ剛性を低くする。これにより、経済性に優れた杭22を設計することができる。
【0040】
以下、具体的な評価式を示しつつ、杭22の設計手順の一例について説明する。
【0041】
先ず、地震時に、格子状地盤改良体30に作用する水平力Pの設計水平荷重P
1を設定する。次に、格子状地盤改良体30の平面形状や、
図4(A)及び
図5に示されるように、枠壁部32Aの高さH、幅W、厚みS等の諸元を適宜設定する。
【0042】
次に、格子状地盤改良体30に設計水平荷重P
1が作用したときに、格子状地盤改良体30に生じるせん断応力τ(=設計水平荷重P
1/枠壁部32Aの断面積A)を算定する。なお、枠壁部32Aの断面積Aは、枠壁部32Aの幅W×厚みSである。
【0043】
次に、上記せん断応力τと、格子状地盤改良体30の既知のせん断剛性Gとせん断ひずみγとの相関関係から、格子状地盤改良体30に設計水平荷重P
1が作用したときに、格子状地盤改良体30に発生するせん断ひずみγ(=せん断応力τ/等価なせん断剛性G)を算定する。また、この際、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aにせん断破壊が生じる破壊せん断ひずみγ
maxも併せて算定する。
【0044】
ここで、前述したように、格子状地盤改良体30がせん断変形したときに、格子状地盤改良体30の上端32U1及び杭頭部22Uに同じ水平変位δが発生するものと仮定すると、格子状地盤改良体30(枠壁部32A)に破壊せん断ひずみγ
maxを発生させる水平変位δ
maxが杭頭部22Uに作用したときに、当該杭頭部22Uに発生する曲率φは、次式で求められる。
【0045】
【数1】
ただし、
B :杭(杭頭部)の杭径
kh:地盤の反力係数
EI:杭の曲げ剛性(=E×I)
E :杭のヤング率
I :杭の断面2次モーメント
である。
【0046】
次に、上記水平変位δ
max(曲げモーメント)によって杭頭部22Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mは、ε
M=φ×(B/2)であるから、ε
M=γ
max×β×Bとなる。なお、杭頭部22Uの縁応力σ
Mは、σ
M=ε
M×Eとなる。
【0047】
次に、地震時に上部構造体14から杭頭部22Uに伝達される軸力(地震時軸力)Neによって当該杭頭部22Uに発生する縁応力σ
N(=Ne/Ap)、及び軸力縁ひずみε
N(=(Ne/(Ap×E))を求める。なお、Apは、杭22(杭頭部22U)の断面積である。
【0048】
また、杭頭部22Uに発生する縁ひずみεは、ε=曲げ縁ひずみε
M+軸力縁ひずみε
N(=γ
max×β×B+Ne/(Ap×E))となる。この縁ひずみεが、許容縁ひずみ以下になるように、杭22の諸元(B,β,Ap)を適宜設定する。これにより、地震時に、格子状地盤改良体30よりも先に、杭頭部22Uが破損することを抑制することができる。
【0049】
ここで、地震時に杭頭部22Uに発生する縁ひずみεが許容縁ひずみを超える場合、従来の杭の設計では、例えば、
図7(A)に示されるように、杭100の杭径Bを杭径B1に拡大したり(B<B1)、杭径Bは変えずに、外殻鋼管102を有する杭(SC杭)100に変更したりすることで、杭100の耐力(曲げ耐力)を高める。
【0050】
これに対して本実施形態では、
図7(B)に示されるように、例えば、杭22の杭径Bを杭径B2に縮小し(B>B2)、杭22の曲げ剛性EIを低くする一方で、上部構造体14の鉛直荷重を支持するために、杭22の肉厚tを肉厚t1に厚くすることで(t<t1)、杭断面積Apを確保する。若しくは、杭22の杭径Bを杭径B3に縮小し(B>B2>B3)、杭22の曲げ剛性EIを低くする一方で、杭22を円柱状(中実)にすることで、杭断面積Apを確保する。これにより、地震時に、杭頭部22Uに発生する縁ひずみεを許容縁ひずみ以下にすることができる。したがって、経済性に優れた杭22を設計することができる。
【0051】
なお、杭22の曲げ剛性EIと縁ひずみεとの関係について補足すると、本実施形態では、杭22の杭頭部22Uが格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって囲まれるため、杭頭部22Uに発生する曲率φ及び曲げ縁ひずみε
Mは、次式で求められる。
【数2】
【0052】
[杭が円筒状の場合]
ここで、
図4(C)に示されるように、杭22が円筒状(中空)の場合、杭22の外径をD
1、内径をD
2とすると、地震時に杭頭部22Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mは、次式で求められる。
【数3】
【0053】
この場合、(D
2/D
1)が小さくなるに従って、曲げ縁ひずみε
Mも小さくなる。このことから、杭22が円筒状の場合は、杭22に所定の肉厚t(=(D
1−D
2)/2)、すなわち所定の杭断面積Apを確保すれば、地震時に杭頭部22Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mを低減しつつ、杭22の外径D
1(杭径B)を小さくすることができる。
【0054】
[杭が円柱状の場合]
次に、杭22が円柱状(中実)の場合、地震時に杭頭部22Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mは、次式で求められる。
【数4】
【0055】
この場合、B×khを一定とすると、地震時に杭頭部22Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mは、杭径Bに依存しないことが分かる。
【0056】
これに対して、杭22の杭頭部22Uが格子状地盤改良体30の枠壁部32Aで囲まれていない場合、杭頭部22Uに発生する曲率φ及び曲げ縁ひずみε
Mは、次式で求められる。なお、地震時における杭頭部22Uの変形形状は、杭頭部22Uが枠壁部32Aで囲まれた場合と同じと仮定する。なお、δは、杭頭部22Uの水平変位である。
【数5】
【0057】
[杭が円筒状の場合]
ここで、杭100が円筒状(中空)の場合、地震時に杭頭部100Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mは、次式で求められる。
【数6】
【0058】
この場合、杭100の外径D
1を小さくすると、曲げ縁ひずみε
Mが大きくなる可能性があるため、杭100の外径D
1(杭径B)を小さくすることが難しい。
【0059】
これに対して、本実施形態のように格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって杭22が囲まれている場合は、所定の杭断面積Apを確保すれば、杭22の曲げ縁ひずみε
Mを低減しつつ、杭22の杭径B(外径D
1)を小さくすることができる。これは、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって杭22が囲まれていると、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aで囲まれた地盤18及び杭頭部22Uが同一方向に水平変位するためと考えられる。したがって、本実施形態では、経済性に優れた杭22を設計することができる。
【0060】
[杭が円柱状の場合]
また、杭100が円柱状(中実)の場合、地震時に杭頭部100Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mは、次式で求められる。なお、地震時における杭頭部22Uの変形形状は、杭頭部22Uが枠壁部32Aで囲まれた場合と同じと仮定する。
【数7】
【0061】
この場合、(B×kh)を一定にすると、曲げ縁ひずみε
Mは、杭径Bに反比例することになり、杭径Bが小さくなるに従って曲げ縁ひずみε
Mが大きくなる。つまり、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって杭22が囲まれていない場合は、杭径Bを小さくすることが難しい。なお、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって杭22が囲まれていない場合、杭径Bを小さくすると、杭頭部22Uの水平変位δが大きくなるため(水平荷重が同じ場合)、杭径Bを小さくすることはできない。
【0062】
これに対して、本実施形態のように格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって杭22が囲まれている場合は、曲げ縁ひずみε
Mに対する杭径Bの影響が小さくなるため、杭径Bを小さくすることができる。これは、前述したように、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aによって杭22が囲まれていると、格子状地盤改良体30の枠壁部32Aで囲まれた地盤18及び杭頭部22Uが同一方向に水平変位するためと考えられる。したがって、本実施形態では、経済性に優れた杭22を設計することができる。
【0063】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0064】
本実施形態によれば、地震時に、上部構造体14から格子状地盤改良体30に水平力(地震力)Pが伝達される。これにより、地震時に、上部構造体14から杭22の杭頭部22Uに伝達される水平力が低減される。したがって、例えば、杭22の杭径B及び杭断面積Ap等を小さくすることができる。
【0065】
また、本実施形態では、格子状地盤改良体30に破壊せん断ひずみγ
maxを発生させる水平変位δ
maxによって杭頭部22Uに発生する曲げ縁ひずみε
Mと、軸力縁ひずみε
Nとの合計値εが、杭頭部22Uの許容縁ひずみ以下とされる。これにより、地震時に、格子状地盤改良体30よりも先に、杭頭部22Uが破損することを抑制することができる。
【0066】
また、曲げ縁ひずみε
Mと軸力縁ひずみε
Nとの合計値εは、前述したように、杭径B(外径D
1)を小さくし、当該杭22の曲げ剛性を低くすることで、許容縁ひずみ以下にすることができる。したがって、本実施形態では、杭22の杭径Bを小さくしつつ、地震時に、格子状地盤改良体30よりも先に、杭頭部22Uが破損することを抑制することができる。
【0067】
さらに、格子状地盤改良体30は、平面視にて格子状に形成されている。これにより、地震時に、格子状地盤改良体30が負担可能な上部構造体14の水平力Pを効率的に増やすことができる。この結果、地震時に、杭頭部22Uが負担する水平力Pを低減することができる。
【0068】
しかも、格子状地盤改良体30の格子枠32内に杭頭部22Uを配置し、格子枠32と杭頭部22Uとの間隔を狭くすることで、地震時に上部構造体14から杭頭部22Uに伝達される水平力を、格子状地盤改良体30に効率的に伝達することができる。したがって、上部構造体14から杭頭部22Uに伝達される水平力をさらに低減することができる。
【0069】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0070】
上記実施形態では、地震時に杭頭部22Uに発生する縁ひずみεが、許容縁ひずみ以下になるように、杭22の諸元を適宜設定(調整)する例を示したが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、杭22の諸元及び格子状地盤改良体30の諸元(形状、高さ、厚み)の少なくとも一方を調整することで、地震時に杭頭部22Uに発生する縁ひずみεが許容縁ひずみ以下になるように設計しても良い。
【0071】
また、上記実施形態では、地震時に上部構造体14に作用する水平力Pが、水平力伝達部としての連結部材34を介して格子状地盤改良体30に伝達されるが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、鉄筋やコッター等の水平力伝達部を介して上部構造体14から格子状地盤改良体30に水平力を伝達しても良い。
【0072】
また、例えば、
図8に示されるように、上部構造体14の基礎スラブ16に格子状地盤改良体30の上端部32Uを埋設(呑み込ませる)することで、地震時に上部構造体14に作用する水平力Pを格子状地盤改良体30の上端部32Uに伝達しても良い。なお、この例では、格子状地盤改良体30の上端部32Uが、水平力伝達部となる。
【0073】
また、上部構造体14を格子状地盤改良体30上に載置し、上部構造体14の底面と格子状地盤改良体30の上面との間に発生する摩擦力(接地圧×摩擦係数)によって、地震時に、上部構造体14に作用する水平力Pを格子状地盤改良体30の上端部32Uに伝達することも可能である。
【0074】
また、上記実施形態では、杭22の杭頭部22Uが、基礎スラブ16と接合されるが、上記実施形態はこれに限らない。杭22は、少なくとも上部構造体14の鉛直荷重を支持可能であれば良い。そのため、上部構造体14と杭22の杭頭部22Uとの接合構造は、特に限定されず、剛接合や半剛接合、ピン接合であっても良い。さらに、上部構造体14と杭22の杭頭部22Uとは、非接合であっても良い。
【0075】
また、上記実施形態では、格子状地盤改良体30の格子枠32によって杭22の杭頭部22Uが囲まれるが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、格子枠32のせん断変形に伴って杭22の杭頭部22Uが水平変位する範囲内において、杭22の杭頭部22Uを格子枠32よりも上方に位置させても良い。
【0076】
また、上記実施形態では、格子状地盤改良体30の格子枠32が、平面視にて矩形状に形成されるが、上記実施形態はこれに限らない。格子枠の平面形状は、例えば、3角形や5角形以上の多角形状であっても良いし、円形状であっても良い。
【0077】
また、上記実施形態では、格子枠32内に1本の杭22が配置されるが、格子枠32内に複数の杭22を配置しても良い。また、上記実施形態では、格子状地盤改良体30が平面視にて格子状に形成されるが、上記実施形態はこれに限らない。地盤改良体は、杭22を囲んでいれば良い。そのため、地盤改良体は、例えば、上部構造体14の外周部に沿った枠状であっても良い。また、杭22ごとに、当該杭22の囲む枠状の地盤改良体を複数形成しても良い。
【0078】
また、本実施形態の基礎20は、格子状地盤改良体30及び複数の杭22の両方によって上部構造体14の鉛直荷重を負担するパイル・ドラフト基礎であっても良いし、格子状地盤改良体30を併用し、上部構造体14の鉛直荷重を主として杭22が支持する杭基礎であっても良い。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。