(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る磁気センサ100の構成の概要を示す。本例の磁気センサ100は、磁気素子10、駆動方向変更部20、電流制御部30および信号処理部40を備える。
【0012】
磁気素子10は、磁気素子10に与えられた磁場の変化を検出する。本例の磁気素子10は、ホール素子Hを備える。磁気素子10は、与えられた磁場の変化に基づいて出力信号S
oおよび制御用信号S
cを出力する。例えば、磁気素子10は、出力信号S
oとして、ホール素子Hの高電位側の出力電圧V
OHおよび低電位側の出力電圧V
OLを出力する。出力電圧V
OH,V
OLは、ホール素子Hのホール起電力信号である。また、磁気素子10は、制御用信号S
cとして、ホール素子Hの高電位側および低電位側の駆動端の電位V
H,V
Lをそれぞれ出力する。
【0013】
一例において、磁気素子10は、磁気素子10の近傍を流れる被測定電流を検出する。この場合、磁気素子10は、被測定電流が磁気素子10の近傍を流れることにより生じた被測定磁場の変化により被測定電流を検出する。つまり、磁気センサ100を有することにより、被測定電流を検出する電流センサが構成されてもよい。
【0014】
駆動方向変更部20は、磁気素子10が有するホール素子Hに駆動電流を流す方向を周期的に変化させる。これにより、駆動方向変更部20は、磁気素子10をスピニングカレント法により動作させる。スピニングカレント法とは、駆動電流を供給する方向を順次切り替えて、ホール電圧およびオフセット電圧の周波数を分離することにより、オフセットを低減する方法である。例えば、駆動方向変更部20は、予め定められたローテーション周期で、磁気素子10が有するホール素子Hの駆動方向を90度ずつ変更する。
【0015】
電流制御部30は、制御用信号S
cに応じてフィードバック信号S
fbを生成する。ここで、ホール素子Hの高電位側の出力電圧V
Hとホール素子Hの低電位側の出力電圧V
Lとの差分V
H−V
Lは、駆動方向の変化の周期に応じて周期的に変動する。本例の電流制御部30は、ホール素子Hの高電位側および低電位側の駆動端の電位V
H,V
Lの差分が一定値となるようにフィードバック信号S
fbを生成する。電流制御部30は、生成したフィードバック信号S
fbを磁気素子10に出力する。これにより、電流制御部30は、磁気素子10に流れる電流を制御する。例えば、電流制御部30は、ホール素子Hの駆動方向の電位差が、駆動方向の変化の複数周期において予め定められた電圧値となるように、ホール素子Hの駆動方向の電流値をフィードバック制御する。
【0016】
信号処理部40は、ホール素子Hのホール起電力信号に応じた出力信号S
outを生成する。本例の信号処理部40は、ホール素子Hの高電位側の出力電圧V
OHとホール素子Hの低電位側の出力電圧V
OLとの差分を増幅して出力信号S
outを生成する。信号処理部40は、生成した出力信号S
outを磁気センサ100の出力端子に出力する。
【0017】
図2は、実施例1に係る磁気センサ100の具体的な構成の一例を示す。本例の電流制御部30は、増幅回路51および電流源61を備える。なお、本例では、駆動方向変更部20については省略している。本例の電流源61は、NMOSトランジスタを備える。
【0018】
増幅回路51は、ホール素子Hの高電位側および低電位側の駆動端の電位V
H,V
Lに基づいて、電流源61を制御する。一例において、増幅回路51は、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lと基準電圧V
tcalとの差分を増幅して電流源61のゲート電圧V
gを出力する。これにより、増幅回路51は、電流源61が有するNMOSトランジスタの電流量を制御する。なお、本例の増幅回路51の動作周波数は、駆動方向変更部20のチョッパ周波数と等しくてよい。
【0019】
電流源61は、ホール素子Hの一方の駆動端に接続され、増幅回路51の出力に応じた電流をホール素子Hの駆動方向に流す。電流源61は、増幅回路51からの信号に応じて磁気素子10に流れる電流の大きさを制御する。電流源61のドレイン端子は、ホール素子Hの低電位側の駆動端に接続され、ソース端子は基準電位に設定された基準端子に接続される。本例の電流源61は、ホール素子Hの低電位側の駆動端に接続されているが、高電位側の駆動端に接続されてもよい。なお、増幅回路51は、第1増幅回路の一例である。
【0020】
例えば、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lが基準電位V
tcalよりも小さい場合、電流源61のNMOSトランジスタのゲート電圧が上昇し、ホール駆動電流I
Bが増加する。これにより、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lが大きくなる。一方、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lが基準電位V
tcalよりも大きい場合、電流源61のNMOSトランジスタのゲート電圧が下降し、ホール電流I
Bが減少する。これにより、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lが小さくなる。したがって、電位差V
H−V
LがV
tcalとなるように制御される。
【0021】
ここで、ホール素子Hに流れる電流をI
B、ホール素子Hの抵抗をR
hall、電流源61のNMOSのトランスコンダクタンスをGmn、増幅回路51のゲインをG、増幅回路51の出力をV
gとする。また、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lは、ホール素子Hの高電位側の駆動端の電位V
Hと低電位側の駆動端の電位V
Lとの差分である。この場合、次の関係式が得られる。
[数1]
V
H−V
L=I
B × R
hall
[数2]
V
g=−G × {(V
H−V
L)−V
tcal}
[数3]
I
B=V
g × Gmn
【0022】
(数1)式〜(数3)式に関して方程式を解くと、次式が得られる。
V
H−V
L=−G × Gmn × R
hall × {(V
H−V
L)−V
tcal}
V
H−V
L={(G × Gmn × R
hall) /(1+G × Gmn × R
hall )} × V
tcal
【0023】
ここで、増幅回路51のゲインGが非常に大きいと仮定すると、1/(G × Gmn × R
hall )が0となる。よって、V
H−V
L=V
tcalとなるようにフィードバックがかかる。つまり、本例の磁気センサ100は、平均的には、ホール素子Hの駆動方向における電位差V
H−V
Lを一定の電圧値V
tcalとなるように制御できるので、平均的には電圧駆動とみなせる。これにより、磁気センサ100は、感度特性を良好に保つことができる。一方、本例の磁気センサ100は、瞬時的には電流駆動しているので、ホール素子Hの感度異方性の影響を受けにくい。
【0024】
[比較例1]
図3は、比較例1に係る磁気センサ500の構成の一例を示す。本例の磁気センサ500は、磁気素子510および信号処理部540を備える。磁気素子510は、ホール素子Hを有する。
【0025】
磁気素子510は、高電位側の駆動端の電位および低電位側の駆動端の電位がそれぞれ電位V
H,V
Lとなるように制御されている。また、磁気素子510の高電位側および低電位側の駆動端の電位は、V
H−V
L=V
tcalとなるように固定されている。磁気素子510は、ホール素子Hの出力電圧V
OH,V
OLを信号処理部540に出力する。
【0026】
信号処理部540は、ホール素子Hの出力電圧V
OH,V
OLに基づいて、出力信号S
outを生成する。信号処理部540は、生成した出力信号S
outを磁気センサ500の出力端子に出力する。
【0027】
次に、
図4〜
図7を用いて、本明細書に係る磁気センサ100の優位性について説明する。
【0028】
図4は、比較例1に係る磁気センサ500で生じるリップルを示す模式図である。縦軸は磁気素子510が有するホール素子Hの出力電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0029】
本例の磁気センサ500は、電圧駆動でスピニングカレント動作している。磁気センサ500が感度異方性を有する場合、磁気素子510の出力電圧にはローテーションに応じたリップルが含まれる。例えば、ホール素子Hに流れる駆動電流の角度が0度、90度、180度、270度と変化した場合、駆動電流の流れる角度の変更時にリップルが生じる。このように、ホール素子Hを電圧駆動させると、感度異方性によるリップルが瞬時的に生じる場合がある。
【0030】
図5は、電流駆動と電圧駆動の温度特性を比較するためのグラフである。縦軸は磁気素子10のホール起電力V
hallを示し、横軸は温度を示す。
【0031】
磁気素子10のホール起電力V
hallは、電流駆動の場合も電圧駆動の場合も温度依存性を示す。電流駆動および電圧駆動のいずれの場合も温度の上昇に応じて、ホール起電力V
hallが低下している。しかしながら、電流駆動の場合は、電圧駆動の場合よりも温特が変化しやすい。即ち、温度特性の観点からは、電流駆動よりも電圧駆動の方が好ましい。
【0032】
図6は、本明細書に係る磁気素子10の駆動端の電位差V
H−V
Lの時間変化を示す。縦軸は磁気素子10の駆動端の電位差V
H−V
Lを示し、横軸は時間を示す。
【0033】
磁気素子10の駆動端の電位差V
H−V
Lは、ローテーション周期に合わせて変動する。しかしながら、磁気センサ100は、電流制御部30によって磁気素子10の駆動端の電位差V
H−V
LがV
tcalとなるようにフィードバック制御する。これにより、磁気素子10の駆動端の電位差V
H−V
Lは、平均としてV
tcalに固定される。つまり、ローテーション周期よりも長い時間を考えた場合、磁気センサ100は磁気素子10を電圧駆動させている。これにより、長期的に温度変化が生じた場合であっても、磁気素子10の温度特性が良好となる。よって、本例の磁気センサ100は、優れた感度特性を有する。
【0034】
図7は、本明細書に係る磁気素子10の駆動電流I
Bの時間変化の一例を示す。縦軸は駆動電流I
Bを示し、横軸は時間を示す。また、駆動電流I
Bの時間変化の拡大図において、φ1,φ2,φ3,φ4は、それぞれローテーション周期に対応する。
【0035】
磁気センサ100の周囲の温度は、ローテーション周期よりも長い時間で変化する場合がある。ローテーション周期を考慮した場合、磁気センサ100の周囲の温度を一定とみなせるので、駆動電流I
Bが実質的に変化しない。一方、ローテーション周期よりも長い周期を考慮した場合、磁気センサ100の周囲の温度が変化するので、駆動電流I
Bが温度に応じて変化する。
【0036】
ここで、本明細書に係る磁気センサ100は、ローテーション周期よりも長い時間で考えると、駆動電流I
Bが一定ではないが、ローテーション周期では電流駆動で動作しているように見える。即ち、磁気センサ100の動作は、ローテーション周期で考えた場合、温度の影響を受けにくい電流駆動とみなせる。ローテーション周期よりも長い時間とは、少なくとも複数のローテーション周期を含む時間を指す。一例において、ローテーション周期よりも長い時間とは、駆動電流I
Bが一定でないとみなせる程度の温度変化が生じ得る時間を指す。
【0037】
例えば、駆動方向変更部20は、ホール素子Hの駆動方向を第1周期(即ち、ローテーション周期)で周期的に変化させる。駆動方向変更部20は、ホール素子Hを、第1周期の時間スケールにおいて定電流駆動し、第1周期よりも長い第2周期の時間スケールで定電圧駆動する。この場合の駆動方向変更部20は、ホール駆動部として動作する。
【0038】
以上の通り、本明細書に係る磁気センサ100は、ローテーション周期程度の短い時間スケールにおいて定電流駆動として動作し、ローテーション周期よりも長い時間スケールにおいて定電圧駆動として動作する。これにより、磁気センサ100は、磁気素子10の感度異方性によるリップルを抑制しつつ、磁気素子10の温度特性の影響を低減できる。
【0039】
[実施例2]
図8は、実施例2に係る磁気センサ100の構成の概要を示す。本例の磁気センサ100は、電圧制御部70を更に備える点で、実施例1に係る磁気センサ100と相違する。その他の構成は、実施例1の対応する構成と基本的に同様に動作する。
【0040】
電圧制御部70は、磁気素子10の高電位側および低電位側の駆動端の電圧を制御する。本例の電圧制御部70は、ホール素子Hの差動出力のコモン電圧を、予め定められた電圧Vcに近づけるように制御する。電圧Vcは、第2基準電圧の一例である。電圧制御部70は、ホール素子Hの差動出力のコモン電圧を制御することにより、信号処理部40の動作点を適切な範囲に制御することができる。
【0041】
図9は、実施例2に係る磁気センサ100の構成の一例を示す。本例の磁気センサ100は、電圧制御部70として、増幅回路52および電流源62を備える。
【0042】
増幅回路52は、ホール素子Hの差動出力のコモン電圧と、第2基準電圧との差分を増幅して出力する。本例の増幅回路52の正側入力端子には出力電圧V
OH,V
OLが入力される。また、増幅回路52の負側入力端子には2Vcが入力される。これにより、増幅回路52は、出力電圧V
OHおよびV
OLの和が2Vcと等しくなるように電流源62のゲート電圧を制御する。
【0043】
電流源62は、ホール素子Hの他方の駆動端に接続され、増幅回路52の出力に応じた電流をホール素子Hの駆動方向に流す。本例の電流源62は、PMOSトランジスタを有する。例えば、出力電圧V
OHおよびV
OLの和が2Vcよりも大きい場合、増幅回路52の出力が上昇し、電流源62のPMOSトランジスタのゲート電圧が上昇することで電流源62の電流が減少する。一方、出力電圧V
OHおよびV
OLの和が2Vc以下の場合、増幅回路52の出力が下降し、電流源62のPMOSトランジスタのゲート電圧が下降することで電流源62の電流が増加する。これにより、電圧制御部70は、ホール素子Hの差動出力のコモン電圧をVcに制御する。
【0044】
以上の通り、本例の磁気センサ100は、ホール素子Hの差動出力のコモン電圧をVcに制御することにより、信号処理部40の動作点を適切な範囲に制御することができる。また、本例の磁気センサ100は、実施例1に係る磁気センサ100と同様に、磁気素子10の感度異方性によるリップルを抑制しつつ、磁気素子10の温度特性の影響を低減できる。
【0045】
[実施例3]
図10は、実施例3に係る磁気センサ100の構成の一例を示す。磁気素子10は、ホール素子を有する。電流制御部30は、増幅回路33、増幅回路34、電流源61および電流源63を備える。なお、本例では、駆動方向変更部20については省略している。
【0046】
電流源61は、磁気素子10に流れる駆動電流I
Bを制御する。本例の電流源61は、NMOSトランジスタを有する。NMOSトランジスタのドレイン端子は、ホール素子Hの低電位側の駆動端に接続され、ソース端子は基準電位に設定された基準端子に接続される。
【0047】
電流源63は、磁気素子10に流れる駆動電流I
Bを制御する。本例の電流源63は、PMOSトランジスタを有する。PMOSトランジスタのソース端子は、電源端子に接続され、ドレイン端子はホール素子Hの高電位側の駆動端に接続される。
【0048】
増幅回路33は、ホール素子Hの高電位側の駆動端における電圧を固定電圧V
Hに近づけるようにフィードバック制御する。増幅回路33の出力端子は、電流源63が有するPMOSトランジスタのゲート端子に接続される。増幅回路33の負側入力端子には、固定電圧V
Hが入力され、正側入力端子には、ホール素子Hの高電位側の駆動端の電圧が入力される。増幅回路33は、第3基準回路の一例である。電位V
Hは、第3基準電圧の一例である。なお、本例の増幅回路33の動作周波数は、駆動方向変更部20のチョッパ周波数と等しい。
【0049】
増幅回路34は、ホール素子Hの低電位側の駆動端における電圧を電圧V
Lに近づけるようにフィードバック制御する。増幅回路34の出力端子は、電流源61が有するNMOSトランジスタのゲート端子に接続される。増幅回路34の正側入力端子には、ホール素子Hの低電位側の駆動端の電圧が入力され、負側入力端子には、固定電圧V
Lが入力される。増幅回路34は、第4基準回路の一例である。電位V
Lは、第4基準電圧の一例である。なお、本例の増幅回路34の動作周波数は、駆動方向変更部20のチョッパ周波数と等しい。
【0050】
本例の磁気センサ100は、増幅回路33および増幅回路34により、ホール素子Hの駆動端の電位をV
H−V
L=V
tcalとなるように制御する。この場合も、磁気センサ100は、ローテーション周期程度の短い時間スケールにおいて定電流駆動として動作し、ローテーション周期よりも長い時間スケールにおいて定電圧駆動として動作する。したがって、磁気センサ100は、磁気素子10の感度異方性によるリップルを抑制しつつ、磁気素子10の温度特性の影響を低減できる。
【0051】
以上の通り、本明細書に係る磁気センサ100は、平均的には電圧駆動として動作するので、良好な感度特性を有する。また、磁気センサ100は、瞬時的には電流駆動として動作するので、ホール素子Hの感度異方性の影響を低減できる。
【0052】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0053】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。