特許第6618507号(P6618507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6618507パーフルオロエラストマー組成物及びシール材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618507
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】パーフルオロエラストマー組成物及びシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20191202BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20191202BHJP
   C08K 5/02 20060101ALI20191202BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20191202BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K5/14
   C08K5/02
   C09K3/10 M
   F16J15/10 G
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-101792(P2017-101792)
(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-214556(P2017-214556A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-107141(P2016-107141)
(32)【優先日】2016年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大住 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 海南
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/167797(WO,A1)
【文献】 特表2009−529070(JP,A)
【文献】 特表2009−541561(JP,A)
【文献】 特開2008−001894(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/094527(WO,A1)
【文献】 特開2016−145167(JP,A)
【文献】 特開2016−145277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08J 3/24
C09K 3/10
F16J 15/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロエラストマーと、パーオキサイド架橋剤と、ジオレフィン化合物である共架橋剤と、有機顔料と、を含み、
前記ジオレフィン化合物は、下記式(1):
CH2=CH−(CF2n−CH=CH2 (1)
[式(1)におけるnは、4〜12の整数である。]
で表され、
前記有機顔料の含有量が、前記パーフルオロエラストマー100重量部あたり0.05重量部以上2重量部未満である、パーフルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
無機充填剤を含まない、請求項1記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロエラストマー組成物及びそれを用いたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
シール材(ガスケット、パッキン等)は、各種用途に用いられており、その用途に応じた特性が求められる。例えば、高温環境下で使用される場合には耐熱性が求められ、ラズマに晒される環境下で使用される場合にはプラズマに対する耐性(耐プラズマ性)が求められる。
【0003】
一方、半導体装置やフラットパネルディスプレイの製造における成膜工程では、強力な酸化力を有するオゾンを使用する場合がある。オゾンを使用する製造装置に用いられるシール材には、オゾンに対する耐性(耐オゾン性)が求められる。
【0004】
特許文献1〜3は、シール材の耐オゾン性に着目している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−151450号公報
【特許文献2】特開2004−263038号公報
【特許文献3】特開2010−037558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載の技術は、少なくとも次の点で改善の余地があった。
(1)特許文献1:高温環境下における耐オゾン性が不十分である。また、特許文献1に記載のフッ素ゴム成形体には、耐オゾン性等を良好に保持しつつゴム配合量を削減する観点から、好ましくは無機充填剤等の充填剤が配合されるが、無機充填剤は、シール材を適用した装置やそれを用いて製造される製品を汚染する要因となり得る。すなわち、耐オゾン性が良好なシール材を用いる場合であっても、過酷なオゾン環境下ではシール材のエラストマー成分がオゾンによってエッチングされることがあり、この場合、配合されている無機充填剤が上記装置内に飛散するおそれがある。
【0007】
(2)特許文献2:テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体を用いたフッ素ゴム成形体を開示するが、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、ポリマー骨格にC−H結合を含むため、パーフルオロエラストマーに比べて耐オゾン性に劣る。
【0008】
(3)特許文献3:特定の架橋剤を含む含フッ素エラストマー組成物を開示するが、その架橋剤は一般に入手することが困難である。
【0009】
一方、高温環境下で使用されるシール材には、高温環境下での圧縮永久歪特性(高温環境下で使用される際の寿命の指標である。)に優れることも要求される。
【0010】
本発明の目的は、一般に入手可能な原材料を用いて調製することができ、無機充填剤を配合しなくても、高温環境下において良好な耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性を示す架橋物を形成できるパーフルオロエラストマー組成物、並びにそれを用いたシール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の示すパーフルオロエラストマー組成物及びシール材を提供する。
[1] パーフルオロエラストマーと、パーオキサイド架橋剤と、ジオレフィン化合物である共架橋剤と、有機顔料と、を含む、パーフルオロエラストマー組成物。
【0012】
[2] 前記有機顔料の含有量が、前記パーフルオロエラストマー100重量部あたり0.05重量部以上2重量部未満である、[1]に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【0013】
[3] 無機充填剤を含まない、[1]又は[2]に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【0014】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載のパーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機充填剤を配合しない場合であっても、高温環境下において良好な耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性を示す架橋物を形成できるパーフルオロエラストマー組成物、並びにそれを用いたシール材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<パーフルオロエラストマー組成物>
〔a〕パーフルオロエラストマー
パーフルオロエラストマーとしては特に制限されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体や、TFE−パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)系共重合体等を挙げることができる。これらの共重合体は、他のパーフルオロモノマー由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。パーフルオロエラストマーを含むパーフルオロエラストマー組成物によれば、水素原子含有フッ素エラストマーを含む組成物に比べて、耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性をより高めることができる。パーフルオロエラストマー組成物は、パーフルオロエラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0017】
テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体を形成するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、アルキル基の炭素数が1〜5であることができ、例えばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等であることができる。好ましくは、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0018】
TFE−パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)系共重合体を形成するパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)は、ビニルエーテル基(CF2=CFO−)に結合する基の炭素数が3〜12であることができ、例えば
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCn2n+1
CF2=CFO(CF23OCn2n+1
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1、又は
CF2=CFO(CF22OCn2n+1
であることができる。上記式中、nは例えば1〜5であり、mは例えば1〜3である。
【0019】
パーフルオロエラストマーは架橋性を有している。架橋性は、架橋部位モノマーをさらに共重合させる(架橋部位モノマー由来の構成単位をさらに含ませる)ことにより付与することができる。架橋部位とは、架橋反応可能な部位を意味する。架橋部位としては、例えば、ハロゲン基(例えば、I基、Br基等)を挙げることができ、好ましくはI基である。架橋部位としてハロゲン基を有するパーフルオロエラストマーは、パーオキサイド架橋剤を用いたパーオキサイド架橋系によって架橋させることができ、これにより、高温環境下における耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性が良好な架橋物を得ることができる。
【0020】
架橋部位としてハロゲン基を有する架橋部位モノマーの一例は、ハロゲン基含有パーフルオロビニルエーテルである。ハロゲン基含有パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)X(nは例えば2〜4)、
CF2=CFO(CF2nX(nは例えば2〜12)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2nX(Xはハロゲン基、nは例えば2、mは例えば1〜5)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2nX(Xはハロゲン基、nは例えば1〜4、mは例えば1〜2)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]nCF2CF(CF3)X(Xはハロゲン基、nは例えば0〜4)
等を挙げることができる。
【0021】
架橋性のパーフルオロエラストマーは、2つの主鎖間を架橋する架橋構造を有していてもよい。
【0022】
パーフルオロエラストマーにおけるTFE由来の構成単位/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位/架橋部位モノマー由来の構成単位の比は、モル比で、通常50〜74.8%/25〜49.8%/0.2〜5%であり、好ましくは60〜74.8%/25〜39.5%/0.5〜2%である。本発明のパーフルオロエラストマー組成物は、上記構成単位の比が異なる2種以上のパーフルオロエラストマーを含むこともできる。
【0023】
〔b〕有機顔料
パーフルオロエラストマー組成物は、有機顔料を含有する。これにより、ジオレフィン化合物である共架橋剤を併用したパーオキサイド架橋系によって架橋された高温環境下における耐オゾン性、及び/又は、高温環境下(特に250℃以上)における圧縮永久歪特性を向上させることができる。一般に、パーオキサイド架橋系によって架橋された架橋物は、オキサゾル架橋系やトリアジン架橋系によって架橋された架橋物に比べて、高温環境下における圧縮永久歪特性に劣る傾向にあるが、有機顔料を含有させる本発明のパーフルオロエラストマー組成物によれば、パーオキサイド架橋系によって架橋された架橋物の高温環境下における圧縮永久歪特性を有意に向上させ得る。
【0024】
本発明で使用可能な有機顔料の具体例は、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料等);アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等の多環式顔料、フタロシアニン系顔料などを含む。パーフルオロエラストマー組成物は、有機顔料を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。有機顔料としては、カラーインデックスにおいてピグメントに分類されている有機顔料を使用することができる。
【0025】
好ましく用いられる有機顔料は、金属元素を含有しない有機顔料である。金属元素を含有しない有機顔料は、シール材が半導体用途など過酷なオゾン環境下で用いられ、シール材がエッチングされることがあっても、金属元素由来の物質が飛散るおそれがない。
【0026】
パーフルオロエラストマー組成物における有機顔料(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、高温環境下における耐オゾン性、及び/又は、高温環境下での圧縮永久歪特性を効果的に向上させる観点から、パーフルオロエラストマー100重量部あたり、好ましくは0.05重量部以上2重量部未満であり、より好ましくは0.05重量部以上1.8重量部以下であり、さらに好ましくは0.05重量部以上1.5重量部以下であり、なおさらに好ましくは0.05重量部以上1.3重量部以下(例えば0.05重量部以上1.1重量部以下)である。
【0027】
〔c〕架橋剤及び共架橋剤
パーフルオロエラストマー組成物は、パーオキサイド架橋剤を含む。パーオキサイド架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。パーオキサイド架橋剤は、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(市販品の例:日油製「パーヘキサ25B」);ジクミルペルオキシド(市販品の例:日油製「パークミルD」);2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド;ジ−t−ブチルパーオキサイド;t−ブチルジクミルパーオキサイド;ベンゾイルペルオキシド(市販品の例:日油製「ナイパーB」);2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(市販品の例:日油製「パーヘキシン25B」);2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン;α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(市販品の例:日油製「パーブチルP」);t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;パラクロロベンゾイルパーオキサイド等であることができる。
【0028】
パーオキサイド架橋系においては、パーオキサイド架橋剤とともに共架橋剤を併用する。本発明では、この共架橋剤の少なくとも一部として、下記式(1):
CH2=CH−(CF2n−CH=CH2 (1)
で表されるジオレフィン化合物を用いる。式(1)におけるnは、好ましくは4〜12の整数であり、より好ましくは4〜8の整数である。本発明によれば、該ジオレフィン化合物を用いたパーオキサイド架橋系を用いているため、他のパーオキサイド架橋系と比較して、高温環境下における架橋物の耐オゾン性、及び/又は、高温環境下(特に250℃以上)における架橋物の圧縮永久歪特性を有意に向上させることができる。上記式(1)で表されるジオレフィン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
共架橋剤は、上記ジオレフィン化合物以外の他の共架橋剤を含むことができる。他の共架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート(市販品の例:日本化成社製「TAIC」);トリアリルシアヌレート;トリアリルホルマール;トリアリルトリメリテート;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド;ジプロパギルテレフタレート;ジアリルフタレート;テトラアリルテレフタルアミド等のラジカルによる共架橋が可能な化合物(不飽和多官能性化合物)を挙げることができる。共架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
パーフルオロエラストマー組成物におけるパーオキサイド架橋剤(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、パーフルオロエラストマー100重量部あたり、例えば0.01〜20重量部であり、高温環境下における耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性の向上の観点から、好ましくは0.1〜10重量部であり、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0031】
パーフルオロエラストマー組成物における共架橋剤(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、パーフルオロエラストマー100重量部あたり、例えば0.1〜40重量部であり、高温環境下における耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性の向上の観点から、好ましくは0.2〜10重量部である。
【0032】
〔d〕その他の配合剤
パーフルオロエラストマー組成物は、加工性改善や物性調整等を目的として、必要に応じて、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、加工助剤(ステアリン酸等)、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を含むことができる。添加剤の他の例は、フッ素系オイル(例えば、パーフルオロエーテル等)のような粘着性低減(防止)剤である。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ただし、シール材を高温環境下で使用する場合などにおいては、揮発、溶出又は析出を生じるおそれがあることから、添加剤の量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、パーフルオロエラストマー100重量部あたり10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、添加剤を含有しないことが望ましい。
【0034】
また、パーフルオロエラストマー組成物は、必要に応じて、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉のような無機充填剤を含むことができる。
【0035】
ただし、無機充填剤は、上述のように、過酷なオゾン環境下で飛散するおそれがあることから、無機充填剤の量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、パーフルオロエラストマー100重量部あたり10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、無機充填剤を配合しないことが望ましい。なお、無機充填剤とは、金属元素(Ba、Ti、Zn、Al、Mg、Ca、Si等)を含有する充填剤をいう。
【0036】
パーフルオロエラストマー組成物は、フッ素樹脂をさらに含むことができる。これにより、パーフルオロエラストマー組成物の架橋物の耐オゾン性や機械的強度をさらに向上させ得る。フッ素樹脂の形態は特に制限されないが、例えばフッ素樹脂粒子としてパーフルオロエラストマー組成物に含有させることができる。
【0037】
フッ素樹脂は、分子内にフッ素原子を有する樹脂であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VDF−HFP共重合体)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(VDF−HFP−TFE共重合体)等であることができる。フッ素樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記の中でも、高温環境下で樹脂が溶融して圧縮永久歪等の特性が損なわれることを防ぐ観点から、PFA、PTFE等の融点が比較的高いフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
フッ素樹脂は、官能基を含有するものであってもよい。官能基は、例えば当該官能基を有するモノマーを共重合させることによって導入できる。官能基を有するモノマーとして上述の架橋部位モノマーを共重合させると、上記架橋剤によってフッ素樹脂とパーフルオロエラストマーとの架橋も進行するので、パーフルオロエラストマー組成物の架橋物の機械的強度等をさらに高め得る。官能基を含有するフッ素樹脂の例として、特開2013−177631号公報に記載されるニトリル基含有ポリテトラフルオロエチレンを挙げることができる。
【0040】
また、フッ素樹脂は、例えば「TFM変性PTFE」(ダイニオン社製)のような、変性されたフッ素樹脂であることもできる。
【0041】
フッ素樹脂を用いる場合、パーフルオロエラストマー組成物におけるフッ素樹脂の含有量(2種以上のフッ素樹脂を用いる場合はその合計量)は、架橋物の機械的強度等を効果的に高める観点から、パーフルオロエラストマー100重量部あたり、好ましくは1〜100重量部であり、より好ましくは5〜50重量部である。フッ素樹脂の含有量が過度に多いと、弾性を示すパーフルオロエラストマーの含有量が相対的に減少して、圧縮永久歪特性が悪化する。
【0042】
〔e〕パーフルオロエラストマー組成物の調製
パーフルオロエラストマー組成物は、パーフルオロエラストマー、有機顔料、架橋剤、共架橋剤、及び必要に応じて添加されるその他の配合剤を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、オープンロールのようなミキシングロール;ニーダー、バンバリーミキサーのようなミキサー等の従来公知のものを用いることができる。これらの配合剤は、一度に混合して混練されてもよいし、一部の配合剤を混練した後、残りの配合剤を混練するといったように複数段に分けてすべての配合剤を混練するようにしてもよい。
【0043】
パーフルオロエラストマーとフッ素樹脂との混練に関していえば、例えば、1)パーフルオロエラストマー粉末とフッ素樹脂粉末とをミキシングロールを用いて混練する方法、2)パーフルオロエラストマー粉末又はペレットとフッ素樹脂粉末又はペレットとをミキサーや二軸押出機等の装置を用いて溶融混練する方法のほか、3)パーフルオロエラストマーの調製段階でフッ素樹脂を添加する方法を用いることができる。
【0044】
上記3)の方法としては、いずれも乳化重合法で得られたパーフルオロエラストマーの水性分散液とフッ素樹脂の水性分散液とを混合した後、共凝析によりパーフルオロエラストマーとフッ素樹脂との混合物を得る方法を挙げることができる。
【0045】
<シール材>
上記パーフルオロエラストマー組成物を架橋成形(加硫成形)することにより、シール材のような架橋成形物を得ることができる。すなわち、シール材は、パーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなる。架橋成形は、必要に応じてパーフルオロエラストマー組成物を予備成形した後、金型を用いてプレス成形することにより行うことができる。成形温度は、例えば150〜220℃程度である。送りプレス成形、インジェクション成形、押出成形等により成形を行ってもよい。必要に応じて、150〜320℃程度の温度で二次架橋を行ってもよい。
【0046】
上記のような架橋成形(プレス成形等)を行った後に、さらに電離性放射線を照射して架橋させる工程を設けてもよい。これにより、圧縮永久歪特性をさらに向上させ得る。電離性放射線としては、電子線やγ線を好ましく用いることができる。
【0047】
シール材は、パッキンやガスケット等であることができる。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択され、その代表例は、断面形状がO型であるOリングである。本発明に係るシール材は、高温環境下においても良好な耐オゾン性及び/又は圧縮永久歪特性を示すため、半導体装置やフラットパネルディスプレイの製造における成膜工程で使用される装置など、高温環境下でオゾンを使用する装置内の真空度を保持するためのシール材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1〜11、比較例1>
次の手順に従って、パーフルオロエラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である)、各配合剤の所定量をオープンロールにより混練した。次に、得られたパーフルオロエラストマー組成物を、165℃、20分の条件でプレス成形した後、230℃、16時間の条件で熱による2次架橋を行ってシール材(Oリング)を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
上記の実施例及び比較例で用いた各配合剤の詳細は次のとおりである。
〔1〕FFKM1:テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−ヨウ素原子含有パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であるパーフルオロエラストマーと、上記式(1)で表される共架橋剤と、ポリテトラフルオロエチレン粒子とを含む組成物〔ソルベイスペシャリティポリマーズ社製「Tecnoflon PFR5910M」)。表1には、「FFKM1」の欄に、FFKM1に含まれるパーフルオロエラストマーの含有量(重量部)を示し、「フッ素樹脂1」の欄に、FFKM1に含まれるフッ素樹脂の含有量(重量部)を示し、「共架橋剤」の欄に、FFKM1に含まれる上記式(1)で表される共架橋剤の含有量(重量部)を示している。
〔2〕架橋剤:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン〔日油製「パーヘキサ25B」〕。
〔3〕有機顔料A:C.I.ピグメントブルー60、
〔4〕有機顔料B:C.I.ピグメントブルー177、
〔5〕有機顔料C:C.I.ピグメントレッド149、
〔6〕有機顔料D:C.I.ピグメントレッド178。
【0052】
(シール材の評価)
得られた架橋成形品(シール材)について、下記の項目を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0053】
〔1〕耐オゾン性の評価
シール材を、オゾン濃度200g/m3、温度160℃の環境下に72時間置くオゾン暴露試験を行った。試験前後のシール材の重量を測定し、下記式:
重量減少率(%)={(試験前の重量−試験後の重量)/(試験前の重量)}×100に従って重量減少率を求めた。
【0054】
〔2〕シール材の圧縮永久歪
JIS K6262に準拠し、200℃×72時間、圧縮率25%、及び260℃×72時間、圧縮率25%のそれぞれの条件で、線径φ3.53 Oリングを使用して圧縮永久歪を測定した。
【0055】
<実施例12〜18、比較例2〜5>
次の手順に従って、パーフルオロエラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表2に示される配合組成に従って(表2における配合量の単位は重量部である)、各配合剤の所定量をオープンロールにより混練した。次に、得られたパーフルオロエラストマー組成物を、165℃、20分の条件でプレス成形した後、230℃、16時間の条件で熱による2次架橋を行ってシール材(Oリング)を得た。
【0056】
【表2】
【0057】
上記の実施例及び比較例で用いた各配合剤の詳細は次のとおりである。
〔1〕FFKM1:テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−ヨウ素原子含有パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であるパーフルオロエラストマーと、上記式(1)で表される共架橋剤と、ポリテトラフルオロエチレン粒子とを含む組成物〔ソルベイスペシャリティポリマーズ社製「Tecnoflon PFR5910M」)。表2には、「FFKM1」の欄に、FFKM1に含まれるパーフルオロエラストマーの含有量(重量部)を示し、「フッ素樹脂1」の欄に、FFKM1に含まれるフッ素樹脂の含有量(重量部)を示し、「共架橋剤」の欄に、FFKM1に含まれる上記式(1)で表される共架橋剤の含有量(重量部)を示している。
〔2〕架橋剤:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン〔日油製「パーヘキサ25B」〕。
〔3〕有機顔料C:C.I.ピグメントレッド149、
〔4〕有機顔料E:C.I.ピグメントレッド179、
〔5〕有機顔料F:C.I.ピグメントイエロー95、
〔6〕有機顔料G:C.I.ピグメントイエロー110、
〔7〕有機顔料H:C.I.ピグメントレッド254、
〔8〕有機顔料I:C.I.ピグメントバイオレット19、
〔9〕有機顔料J:C.I.ピグメントイエロー139。
【0058】
(シール材の評価)
得られた架橋成形品(シール材)について、実施例1〜11、比較例1と同様にして耐オゾン性及び圧縮永久歪を測定、評価した。結果を表2に示す。