特許第6618652号(P6618652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618652
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20191202BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20191202BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   E02F9/20 M
   E02F9/22 Q
   E02F3/43 B
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-510390(P2019-510390)
(86)(22)【出願日】2017年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2017033077
(87)【国際公開番号】WO2019053814
(87)【国際公開日】20190321
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 勝道
(72)【発明者】
【氏名】中野 寿身
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 輝樹
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5865510(JP,B2)
【文献】 特開平09−273502(JP,A)
【文献】 特開平02−176023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/22
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフロント部材を有する作業装置と,
前記複数のフロント部材を駆動する複数の油圧アクチュエータと,
オペレータの操作に応じて前記複数の油圧アクチュエータの動作を指示する操作装置と,
前記操作装置の操作時に,前記複数の油圧アクチュエータの速度と予め定めた条件に従って前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つを制御するアクチュエータ制御部を有する制御装置とを備える作業機械において,
前記複数のフロント部材の1つである特定フロント部材の姿勢に関する物理量を検出する姿勢検出装置と,
オペレータから前記操作装置に入力される操作量のうち前記特定フロント部材に対する操作量に関する物理量を検出する操作量検出装置とを備え,
前記制御装置は,
前記複数の油圧アクチュエータのうち前記特定フロント部材を駆動する特定油圧アクチュエータの第1速度を前記操作量検出装置の検出値から算出する第1速度演算部と,
前記特定油圧アクチュエータの第2速度を前記姿勢検出装置の検出値から算出する第2速度演算部と,
前記アクチュエータ制御部で前記特定油圧アクチュエータの速度として利用される第3速度を前記第1速度と前記第2速度に基づいて算出する第3速度演算部とを備え,
前記第3速度演算部は,
前記操作量検出装置にて前記特定フロント部材に対する操作が入力されたことが検出されてから第1の所定時間までの間,前記第1速度を前記第3速度として算出し,
前記第1の所定時間から前記第1の所定時間よりも大きな第2の所定時間までの間,前記第1速度と前記第2速度から算出される速度を前記第3速度として算出し,
前記第2の所定時間以降,前記第2速度を前記第3速度として算出する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の作業機械において,
前記第3速度演算部は,前記第1の所定時間から前記第2の所定時間までの間,時間の増加に応じて値が減少する第1の重み付関数を前記第1速度に乗じた値と,時間の増加に応じて値が増加する第2の重み付関数を前記第2速度に乗じた値との和を前記第3速度として算出する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の作業機械において,
前記第3速度演算部は,
前記操作量検出装置にて前記特定フロント部材に対する操作量の変化量が所定量以上であることが検出されてから第3の所定時間までの間,前記第1速度を前記第3速度として算出し,
前記第3の所定時間から前記第3の所定時間よりも大きな第4の所定時間までの間,前記第1速度と前記第2速度から算出される速度を前記第3速度として算出し,
前記第4の所定時間以降,前記第2速度を前記第3速度として算出する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1の作業機械において,
前記特定油圧アクチュエータを駆動するための作動油温を検出する作動油温検出装置をさらに備え,
前記第1速度演算部は,前記作動油温検出装置によって検出された油温が所定値以下の場合,前記操作量検出装置の検出値から算出される速度よりも小さい速度を前記第1速度として算出する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1の作業機械において,
前記特定フロント部材はアームであり,
前記特定油圧アクチュエータは前記アームを駆動するアームシリンダである
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,操作装置の操作時に,予め定めた条件に従って複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つを制御する作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧アクチュエータで駆動される作業装置(例えばフロント作業装置)を備える作業機械(例えば油圧ショベル)の作業効率を向上する技術としてマシンコントロール(Machine Control:MC)がある。MCは,操作装置がオペレータに操作された場合に,予め定めた条件に従って作業装置を動作させる半自動制御を実行することでオペレータの操作支援を行う技術である。
【0003】
例えば特許第5865510号公報には,バケットの刃先を基準面に沿って移動させるようにフロント作業装置をMCする技術が開示されている。この文献では,アーム操作レバーの操作量が少ない場合,フロント作業装置の姿勢に依ってはバケットの自重落下に起因して,アーム操作レバーの操作量に基づいて算出されるアームシリンダの推定速度よりも実際のアームシリンダ速度が大きくなり,このような状況でアームシリンダの推定速度に基づくMCを実行すると,バケットの刃先が安定せずハンチングが生じる可能性があることを課題として挙げている。そして,この文献は,アーム操作レバーの操作量が所定量未満の場合には,アーム操作レバーの操作量を基に算出される速度よりも大きい速度をバケットの自重落下を加味したアームシリンダの推定速度として算出し,その推定速度に基づいてMCを行うことで上記の課題の解決を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5865510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術のようにアームシリンダの推定速度の算出時にバケットの自重落下を考慮すると,その推定速度がアームシリンダの実速度に近づくので,MC中のハンチング発生を防止できる。しかし,アーム操作レバーの操作量に基づくアームシリンダの推定速度と実速度の乖離はバケットの自重落下のみに起因するものではなく,特許文献1のようにバケットの自重落下を考慮してアームシリンダの速度を推定するだけではハンチング発生防止の対策として不充分である。
【0006】
例えば,作業機械の作動油が低温時には作動油の粘度が大きくなるが,この場合の実際のアームシリンダ速度はレバー操作量から推定される速度よりも遅くなる場合がある。
【0007】
また,例えば,図13のような作業機械よりも下側にある斜面の土砂を掻き均す,いわゆる切上げ作業の場合,主に自重に抗してフロント作業装置(例えばバケット)を持ち上げる方向にアームシリンダを駆動することになる。このため,特許文献1のようにアームシリンダの駆動に関するフロント作業装置(アーム,バケット)の自重の影響でアームシリンダ速度が想定よりも速くなる場合は少ない。むしろ,フロント作業装置の自重を持ち上げる方向に駆動する影響で実際のアームのシリンダ速度は推定速度よりも遅くなる場合がある。以下この場合の詳細を説明する。
【0008】
図14に作業機械に用いられる油圧システムのうち,オープンセンタバイパス方式のスプールの開口面積特性を示す。オープンセンタバイパス方式のスプールの開口面積はポンプからの圧油をタンクに流す流路のセンタバイパス開口,ポンプからの圧油をアクチュエータに供給する流路のメータイン開口,アクチュエータからタンクへ流す流路のメータアウト開口がある。センタバイパス開口の閉じきり点をSXとする。ここで,切上げ作業のようにフロント作業装置の自重に対して持ち上げる方向にアームシリンダを駆動した場合の圧油の流れを説明する。切上げ作業では,フロント作業装置の自重に対して持ち上げる方向にアームシリンダを駆動するので,フロント作業装置の自重によりメータイン側の圧力が上昇している。アーム操作レバーの操作量が少なくスプールのストローク量がSX未満の場合,センタバイパス開口が開いているため,ポンプから供給される圧油はメータイン開口を通ってアームシリンダへ供給されるものと,センタバイパス開口を通ってタンクへ流れるものに分かれる。圧油は負荷が軽い方向に流れやすい特性があるため,フロント作業装置の自重に対して持ち上げる方向にアームシリンダを駆動する場合,フロント作業装置の自重に対して持ち上げる方向にアームシリンダを駆動しない場合と比べてアームシリンダの負荷が大きくなり,アームシリンダへ圧油が流れにくくなる。結果としてアームシリンダ速度が遅くなる。
【0009】
以上のように,作業機械の状態や作業内容によっては実際のアームシリンダ速度がレバー操作量から推定される速度と異なる場合があり,結果としてMCをする際のバケットの刃先(作業装置の先端)が安定せずハンチングを起こしてしまう可能性がある。
【0010】
一方,このようなMCを行う作業機械には作業装置の姿勢を検出するための姿勢センサ(例えば,アームとブームを連結するピンに設けられたポテンショメータ)が備えられている。レバー操作量から演算されるアームシリンダ速度はあくまで推定値の域をでないが,姿勢センサの出力からは作業装置の実際の姿勢を把握でき,姿勢センサの出力値の時間変化から算出されるアームシリンダ速度はレバー操作量から算出されるものよりも定常的には実際の速度に近い。そこで,この姿勢センサの出力値から算出したアームシリンダ速度をもとにMCを実施することが考えられる。しかし,この場合も次の課題がある。
【0011】
姿勢センサはアームが実際に動き始めてからはじめてその姿勢変化を検出可能になるものであるため,姿勢センサの出力から算出したアーム速度に基づくMCをアームの動き始めから実施した場合,実際のアームの動き始めに対してMCの応答(例えば,ブーム上げ指令)が遅れてしまい,バケットの刃先位置が安定せずハンチングが生じる可能性がある。
【0012】
なお,ここではアームシリンダの速度を例示して課題を説明したが,作業装置を駆動する他の油圧アクチュエータの速度についても同じ課題が当て嵌まる。
【0013】
本発明の目的は,作業装置を駆動する特定の油圧アクチュエータの速度をより適切に算出でき,MCにおける作業装置の先端(例えばバケット刃先)の挙動が安定化した作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが,その一例を挙げるならば,複数のフロント部材を有する作業装置と,前記複数のフロント部材を駆動する複数の油圧アクチュエータと,オペレータの操作に応じて前記複数の油圧アクチュエータの動作を指示する操作装置と,前記操作装置の操作時に,前記複数の油圧アクチュエータの速度と予め定めた条件に従って前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つを制御するアクチュエータ制御部を有する制御装置とを備える作業機械において,前記複数のフロント部材の1つである特定フロント部材の姿勢に関する物理量を検出する姿勢検出装置と,オペレータから前記操作装置に入力される操作量のうち前記特定フロント部材に対する操作量に関する物理量を検出する操作量検出装置とを備え,前記制御装置は,前記複数の油圧アクチュエータのうち前記特定フロント部材を駆動する特定油圧アクチュエータの第1速度を前記操作量検出装置の検出値から算出する第1速度演算部と,前記特定油圧アクチュエータの第2速度を前記姿勢検出装置の検出値から算出する第2速度演算部と,前記アクチュエータ制御部で前記特定油圧アクチュエータの速度として利用される第3速度を前記第1速度と前記第2速度に基づいて算出する第3速度演算部とを備え,前記第3速度演算部は,前記操作量検出装置にて前記特定フロント部材に対する操作が入力されたことが検出されてから第1の所定時間までの間,前記第1速度を前記第3速度として算出し,前記第1の所定時間から前記第1の所定時間よりも大きな第2の所定時間までの間,前記第1速度と前記第2速度から算出される速度を前記第3速度として算出し,前記第2の所定時間以降,前記第2速度を前記第3速度として算出するものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,作業装置を駆動する特定の油圧アクチュエータの速度をより適切に算出でき,MCにおける作業装置の先端先の挙動を安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】油圧ショベルの構成図。
図2】油圧ショベルの制御コントローラを油圧駆動装置と共に示す図。
図3】フロント制御用油圧ユニットの詳細図。
図4】油圧ショベルの制御コントローラのハードウェア構成図。
図5図1の油圧ショベルにおける座標系および目標面を示す図。
図5A】アームシリンダの第2速度の算出に利用するフロント作業装置1Aの寸法値の説明図。
図6図1の油圧ショベルの制御コントローラの機能ブロック図。
図7図6中のMC制御部の機能ブロック図。
図8】ブーム制御部によるブーム上げ制御のフローチャート。
図9】操作量に対するシリンダ速度の関係を示す図。
図10】バケット爪先速度の垂直成分の制限値ayと距離Dとの関係を示す図。
図11】アームシリンダ想定速度を算出するフローチャート。
図12】重み付割合Wactの時間変化を示す図。
図13】切上げ作業の説明図。
図14】センタバイパス式スプールのスプールストロークに対する開口面積を示す図。
図15】第2実施形態のMC制御部の機能ブロック図。
図16】第2実施形態のアームシリンダ想定速度を算出するフローチャート。
図17】アーム操作圧とアームシリンダ速度(第1速度,第2速度,実速度)の関係の説明図。
図18】第2実施形態の操作量に対するシリンダ速度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお,以下では,作業装置の先端の作業具(アタッチメント)としてバケット10を備える油圧ショベルを例示するが,バケット以外のアタッチメントを備える作業機械で本発明を適用しても構わない。さらに,複数のフロント部材(アタッチメント,アーム,ブーム等)を連結して構成される多関節型の作業装置を有するものであれば油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
【0018】
また,本稿では,或る形状を示す用語(例えば,目標面,設計面等)とともに用いられる「上」,「上方」又は「下方」という語の意味に関し,「上」は当該或る形状の「表面」を意味し,「上方」は当該或る形状の「表面より高い位置」を意味し,「下方」は当該或る形状の「表面より低い位置」を意味することとする。また,以下の説明では,同一の構成要素が複数存在する場合,符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが,当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば,2つのポンプ2a,2b,が存在するとき,これらをまとめてポンプ2と表記することがある。
【0019】
<第1実施形態>
<基本構成>
図1は本発明の第1の実施形態に係る油圧ショベルの構成図であり,図2は本発明の実施形態に係る油圧ショベルの制御コントローラを油圧駆動装置と共に示す図であり,図3図2中のフロント制御用油圧ユニット160の詳細図である。
【0020】
図1において,油圧ショベル1は,多関節型のフロント作業装置1Aと,車体1Bで構成されている。車体1Bは,左右の走行油圧モータ3a(図2参照),3bにより走行する下部走行体11と,下部走行体11の上に取り付けられ,旋回油圧モータ4により旋回する上部旋回体12とからなる。
【0021】
フロント作業装置1Aは,垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム8,アーム9及びバケット10)を連結して構成されている。ブーム8の基端は上部旋回体12の前部においてブームピンを介して回動可能に支持されている。ブーム8の先端にはアームピンを介してアーム9が回動可能に連結されており,アーム9の先端にはバケットピンを介してバケット10が回動可能に連結されている。これら複数のフロント部材8,9,10は複数の油圧アクチュエータである油圧シリンダ5,6,7によって駆動される。具体的には,ブーム8はブームシリンダ5によって駆動され,アーム9はアームシリンダ6によって駆動され,バケット10はバケットシリンダ7によって駆動される。
【0022】
ブーム8,アーム9,バケット10の姿勢に関する物理量である回動角度α,β,γ(図5参照)を測定可能なように,ブームピンにブーム角度センサ30,アームピンにアーム角度センサ31,バケットリンク13にバケット角度センサ32が取付けられ,上部旋回体12には基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(車体1B)の傾斜角θ(図5参照)を検出する車体傾斜角センサ33が取付けられている。なお,本実施形態の角度センサ30,31,32はロータリポテンショメータであるが,それぞれ基準面(例えば水平面)に対する傾斜角センサや慣性計測装置(IMU)などに代替可能である。
【0023】
上部旋回体12に設けられた運転室内には,走行右レバー23a(図1)を有し走行右油圧モータ3a(下部走行体11)を操作するための操作装置47a(図2)と,走行左レバー23b(図1)を有し走行左油圧モータ3b(下部走行体11)を操作するための操作装置47b(図2)と,操作右レバー1a(図1)を共有しブームシリンダ5(ブーム8)及びバケットシリンダ7(バケット10)を操作するための操作装置45a,46a(図2)と,操作左レバー1b(図1)を共有しアームシリンダ6(アーム9)及び旋回油圧モータ4(上部旋回体12)を操作するための操作装置45b,46b(図2)が設置されている。以下では,走行右レバー23a,走行左レバー23b,操作右レバー1aおよび操作左レバー1bを操作レバー1,23と総称することがある。
【0024】
上部旋回体12に搭載された原動機であるエンジン18は,油圧ポンプ2a,2bとパイロットポンプ48を駆動する。油圧ポンプ2a,2bはレギュレータ2aa,2baによって容量が制御される可変容量型ポンプであり,パイロットポンプ48は固定容量型ポンプである。油圧ポンプ2およびパイロットポンプ48はタンク200より作動油を吸引する。本実施形態においては,図2に示すように,パイロットライン144,145,146,147,148,149の途中にシャトルブロック162が設けられている。操作装置45,46,47から出力された油圧信号が,このシャトルブロック162を介してレギュレータ2aa,2baにも入力される。シャトルブロック162の詳細構成は省略するが,油圧信号がシャトルブロック162を介してレギュレータ2aa,2baに入力されており,油圧ポンプ2a,2bの吐出流量が当該油圧信号に応じて制御される。
【0025】
パイロットポンプ48の吐出配管であるポンプライン48aはロック弁39を通った後,複数に分岐して操作装置45,46,47,フロント制御用油圧ユニット160内の各弁に接続している。ロック弁39は本例では電磁切換弁であり,その電磁駆動部は運転室(図1)に配置されたゲートロックレバー(不図示)の位置検出器と電気的に接続している。ゲートロックレバーのポジションは位置検出器で検出され,その位置検出器からロック弁39に対してゲートロックレバーのポジションに応じた信号が入力される。ゲートロックレバーのポジションがロック位置にあればロック弁39が閉じてポンプライン48aが遮断され,ロック解除位置にあればロック弁39が開いてポンプライン48aが開通する。つまり,ポンプライン48aが遮断された状態では操作装置45,46,47による操作が無効化され,旋回,掘削等の動作が禁止される。
【0026】
操作装置45,46,47は,油圧パイロット方式の操作装置であり,パイロットポンプ48から吐出される圧油をもとに,それぞれオペレータにより操作される操作レバー1,23の操作量(例えば,レバーストローク)と操作方向に応じたパイロット圧(操作圧と称することもある)を発生する。このように発生したパイロット圧は,対応する流量制御弁15a〜15f(図2または図3)の油圧駆動部150a〜155bにパイロットライン144a〜149b(図3参照)を介して供給され,これら流量制御弁15a〜15fを駆動する制御信号として利用される。
【0027】
油圧ポンプ2から吐出された圧油は,流量制御弁15a,15b,15c,15d,15e,15f(図2参照)を介して走行右油圧モータ3a,走行左油圧モータ3b,旋回油圧モータ4,ブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7に供給される。供給された圧油によってブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7が伸縮して,ブーム8,アーム9,バケット10がそれぞれ回動し,バケット10の位置及び姿勢が変化する。また,供給された圧油によって旋回油圧モータ4が回転して,下部走行体11に対して上部旋回体12が旋回する。そして,供給された圧油によって走行右油圧モータ3a,走行左油圧モータ3bが回転して,下部走行体11が走行する。
【0028】
タンク200は油圧アクチュエータを駆動するための作動油の油温を検出するための作動油温検出装置210を備えている。作動油温検出装置210はタンク200の外にも設置することができ,例えばタンク200の入口管路または出口管路に取り付けても良い。
【0029】
図4は本実施形態に係る油圧ショベルが備えるマシンコントロール(MC)システムの構成図である。図4のシステムは,MCとして,操作装置45,46がオペレータに操作されたとき,各油圧シリンダ5,6,7の速度とフロント作業装置1Aを予め定められた条件に基づいて制御する処理を実行する。本稿ではマシンコントロール(MC)を,操作装置45,46の非操作時に作業装置1Aの動作をコンピュータにより制御する「自動制御」に対して,操作装置45,46の操作時にのみ作業装置1Aの動作をコンピュータにより制御する「半自動制御」と称することがある。次に本実施形態におけるMCの詳細を説明する。
【0030】
フロント作業装置1AのMCとしては,操作装置45b,46aを介して掘削操作(具体的には,アームクラウド,バケットクラウド及びバケットダンプの少なくとも1つの指示)が入力された場合,目標面60(図5参照)と作業装置1Aの先端(本実施形態ではバケット10の爪先とする)の位置関係に基づいて,作業装置1Aの先端の位置が目標面60上及びその上方の領域内に保持されるように油圧アクチュエータ5,6,7のうち少なくとも1つを強制的に動作させる制御信号(例えば,ブームシリンダ5を伸ばして強制的にブーム上げ動作を行う)を該当する流量制御弁15a,15b,15cに出力する。
【0031】
このMCによりバケット10の爪先が目標面60の下方に侵入することが防止されるので,オペレータの技量の程度に関わらず目標面60に沿った掘削が可能となる。なお,本実施形態では,MC時のフロント作業装置1Aの制御点を,油圧ショベルのバケット10の爪先(作業装置1Aの先端)に設定しているが,制御点は作業装置1Aの先端部分の点であればバケット爪先以外にも変更可能である。例えば,バケット10の底面や,バケットリンク13の最外部も選択可能である。
【0032】
図4のシステムは,作業装置姿勢検出装置50と,目標面設定装置51と,オペレータ操作量検出装置52aと,運転室内に設置され,目標面60と作業装置1Aの位置関係が表示可能な表示装置(例えば液晶ディスプレイ)53と,MC制御を司る制御コントローラ(制御装置)40とを備えている。
【0033】
作業装置姿勢検出装置(姿勢検出装置)50は,ブーム角度センサ30,アーム角度センサ31,バケット角度センサ32,車体傾斜角センサ33から構成される。これらの角度センサ30,31,32,33は複数のフロント部材であるブーム8,アーム9,バケット10の姿勢に関する物理量を検出する姿勢センサとして機能している。
【0034】
目標面設定装置51は,目標面60に関する情報(各目標面の位置情報や傾斜角度情報を含む)を入力可能なインターフェースである。目標面設定装置51は,グローバル座標系(絶対座標系)上に規定された目標面の3次元データを格納した外部端末(図示せず)と接続されている。なお,目標面設定装置51を介した目標面の入力は,オペレータが手動で行っても良い。
【0035】
オペレータ操作量検出装置(操作量検出装置)52aは,オペレータによる操作レバー1a,1b(操作装置45a,45b,46a)の操作によってパイロットライン144,145,146に生じる操作圧(第1制御信号)を取得する圧力センサ70a,70b,71a,71b,72a,72bから構成される。これらの圧力センサ70a,70b,71a,71b,72a,72bは,ブーム7(ブームシリンダ5),アーム8(アームシリンダ6),バケット9(バケットシリンダ7)に対する操作装置45a,45b,46aを介したオペレータの操作量に関する物理量を検出する操作量センサとして機能している。
【0036】
<フロント制御用油圧ユニット160>
図3に示すように,フロント制御用油圧ユニット160は,ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144a,144bに設けられ,操作レバー1aの操作量としてパイロット圧(第1制御信号)を検出する圧力センサ70a,70bと,一次ポート側がポンプライン148aを介してパイロットポンプ48に接続されパイロットポンプ48からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁54aと,ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144aと電磁比例弁54aの二次ポート側に接続され,パイロットライン144a内のパイロット圧と電磁比例弁54aから出力される制御圧(第2制御信号)の高圧側を選択し,流量制御弁15aの油圧駆動部150aに導くシャトル弁82aと,ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144bに設置され,制御コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン144b内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して出力する電磁比例弁54bを備えている。
【0037】
また,フロント制御用油圧ユニット160は,アーム9用のパイロットライン145a,145bに設置され,操作レバー1bの操作量としてパイロット圧(第1制御信号)を検出して制御コントローラ40に出力する圧力センサ71a,71bと,パイロットライン145bに設置され,制御コントローラ40からの制御信号を基にパイロット圧(第1制御信号)を低減して出力する電磁比例弁55bと,パイロットライン145aに設置され,制御コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン145a内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して出力する電磁比例弁55aが設けられている。
【0038】
また,フロント制御用油圧ユニット160は,バケット10用のパイロットライン146a,146bには,操作レバー1aの操作量としてパイロット圧(第1制御信号)を検出して制御コントローラ40に出力する圧力センサ72a,72bと,制御コントローラ40からの制御信号を基にパイロット圧(第1制御信号)を低減して出力する電磁比例弁56a,56bと,一次ポート側がパイロットポンプ48に接続されパイロットポンプ48からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁56c,56dと,パイロットライン146a,146b内のパイロット圧と電磁比例弁56c,56dから出力される制御圧の高圧側を選択し,流量制御弁15cの油圧駆動部152a,152bに導くシャトル弁83a,83bとがそれぞれ設けられている。なお,図3では,圧力センサ70,71,72と制御コントローラ40との接続線は紙面の都合上省略している。
【0039】
電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bは,非通電時には開度が最大で,制御コントローラ40からの制御信号である電流を増大させるほど開度は小さくなる。一方,電磁比例弁54a,56c,56dは,非通電時には開度をゼロ,通電時に開度を有し,制御コントローラ40からの電流(制御信号)を増大させるほど開度は大きくなる。このように各電磁比例弁の開度54,55,56は制御コントローラ40からの制御信号に応じたものとなる。
【0040】
上記のように構成される制御用油圧ユニット160において,制御コントローラ40から制御信号を出力して電磁比例弁54a,56c,56dを駆動すると,対応する操作装置45a,46aのオペレータ操作が無い場合にもパイロット圧(第2制御信号)を発生できるので,ブーム上げ動作,バケットクラウド動作,バケットダンプ動作を強制的に発生できる。また,これと同様に制御コントローラ40により電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bを駆動すると,操作装置45a,45b,46aのオペレータ操作により発生したパイロット圧(第1制御信号)を減じたパイロット圧(第2制御信号)を発生することができ,ブーム下げ動作,アームクラウド/ダンプ動作,バケットクラウド/ダンプ動作の速度をオペレータ操作の値から強制的に低減できる。
【0041】
本稿では,流量制御弁15a〜15cに対する制御信号のうち,操作装置45a,45b,46aの操作によって発生したパイロット圧を「第1制御信号」と称する。そして,流量制御弁15a〜15cに対する制御信号のうち,制御コントローラ40で電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bを駆動して第1制御信号を補正(低減)して生成したパイロット圧と,制御コントローラ40で電磁比例弁54a,56c,56dを駆動して第1制御信号とは別に新たに生成したパイロット圧を「第2制御信号」と称する。
【0042】
第2制御信号は,第1制御信号によって発生される作業装置1Aの制御点の速度ベクトルが所定の条件に反するときに生成され,当該所定の条件に反しない作業装置1Aの制御点の速度ベクトルを発生させる制御信号として生成される。なお,同一の流量制御弁15a〜15cにおける一方の油圧駆動部に対して第1制御信号が,他方の油圧駆動部に対して第2制御信号が生成される場合は,第2制御信号を優先的に油圧駆動部に作用させるものとし,第1制御信号を電磁比例弁で遮断し,第2制御信号を当該他方の油圧駆動部に入力する。したがって,流量制御弁15a〜15cのうち第2制御信号が演算されたものについては第2制御信号を基に制御され,第2制御信号が演算されなかったものについては第1制御信号を基に制御され,第1及び第2制御信号の双方が発生しなかったものについては制御(駆動)されないことになる。上記のように第1制御信号と第2制御信号を定義すると,MCは,第2制御信号に基づく流量制御弁15a〜15cの制御ということもできる。
【0043】
<制御コントローラ40>
図4において制御コントローラ40は,入力部91と,プロセッサである中央処理装置(CPU)92と,記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と,出力部95とを有している。入力部91は,作業装置姿勢検出装置50である角度センサ30〜32及び傾斜角センサ33からの信号と,目標面60を設定するための装置である目標面設定装置51からの信号と,操作装置45a,45b,46aからの操作量を検出する圧力センサ(圧力センサ70,71,72を含む)であるオペレータ操作量検出装置52aからの信号を入力し,CPU92が演算可能なように変換する。ROM93は,後述するフローチャートに係る処理を含めMCを実行するための制御プログラムと,当該フローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり,CPU92は,ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力部91及びメモリ93,94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力部95は,CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成し,その信号を電磁比例弁54〜56または表示装置53に出力することで,油圧アクチュエータ5〜7を駆動・制御したり,車体1B,バケット10及び目標面60等の画像を表示装置53の画面上に表示させたりする。
【0044】
なお,図4の制御コントローラ40は,記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えているが,記憶装置であれば特に代替可能であり,例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備えても良い。
【0045】
図6は,制御コントローラ40の機能ブロック図である。制御コントローラ40は,MC制御部43と,電磁比例弁制御部44と,表示制御部374を備えている。
【0046】
表示制御部374は,MC制御部43から出力される作業装置姿勢及び目標面を基に表示装置53を制御する部分である。表示制御部374には,作業装置1Aの画像及びアイコンを含む表示関連データが多数格納されている表示ROMが備えられており,表示制御部374が,入力情報に含まれるフラグに基づいて所定のプログラムを読み出すとともに,表示装置53における表示制御をする。
【0047】
図7図6中のMC制御部43の機能ブロック図である。MC制御部43は,操作量演算部43aと,姿勢演算部43bと,目標面演算部43cと,アームシリンダ第1速度演算部43fと,アームシリンダ第2速度演算部43dと,アームシリンダ第3速度演算部43eと,アクチュエータ制御部81(ブーム制御部81a及びバケット制御部81b)とを備えている。
【0048】
操作量演算部43aは,オペレータ操作量検出装置52aの検出値を基に操作装置45a,45b,46a(操作レバー1a,1b)の操作量を算出する。すなわち,操作装置45a,45b,46aの操作量は圧力センサ70,71,72の検出値から算出できる。
【0049】
なお,操作量の算出に圧力センサ70,71,72を利用することは一例に過ぎず,例えば各操作装置45a,45b,46aの操作レバーの回転変位を検出する位置センサ(例えば,ロータリーエンコーダ)で当該操作レバーの操作量を検出しても良い。
【0050】
姿勢演算部43bは,作業装置姿勢検出装置50の検出値に基づき,ローカル座標系におけるブーム8,アーム9及びバケット10の姿勢と,フロント作業装置1Aの姿勢と,バケット10の爪先の位置を演算する。
【0051】
ブーム8,アーム9及びバケット10の姿勢とフロント作業装置1Aの姿勢は図5のショベル座標系(ローカル座標系)上に定義できる。図5のショベル座標系(XZ座標系)は,上部旋回体12に設定された座標系であり,上部旋回体12に回動可能に支持されているブーム8の基底部を原点とし,上部旋回体12における垂直方向にZ軸,水平方向にX軸を設定した。X軸に対するブーム8の傾斜角をブーム角α,ブーム8に対するアーム9の傾斜角をアーム角β,アームに対するバケット爪先の傾斜角をバケット角γとした。水平面(基準面)に対する車体1B(上部旋回体12)の傾斜角を傾斜角θとした。ブーム角αはブーム角度センサ30により,アーム角βはアーム角度センサ31により,バケット角γはバケット角度センサ32により,傾斜角θは車体傾斜角センサ33により検出される。図5中に規定したようにブーム8,アーム9,バケット10の長さをそれぞれL1,L2,L3とすると,ショベル座標系におけるバケット爪先位置の座標,ブーム8,アーム9及びバケット10の姿勢および作業装置1Aの姿勢はL1,L2,L3,α,β,γで表現できる。
【0052】
目標面演算部43cは,目標面設定装置51からの情報に基づき目標面60の位置情報を演算し,これをROM93内に記憶する。本実施形態では,図5に示すように,3次元の目標面を作業装置1Aが移動する平面(作業機の動作平面)で切断した断面形状を目標面60(2次元の目標面)として利用する。
【0053】
なお,図5の例では目標面60は1つだが,目標面が複数存在する場合もある。目標面が複数存在する場合には,例えば,作業装置1Aから最も近いものを目標面と設定する方法や,バケット爪先の下方に位置するものを目標面とする方法や,任意に選択したものを目標面とする方法等がある。
【0054】
アームシリンダ第1速度演算部43fは,オペレータ操作量検出装置52aの検出値のうちアーム9に対する操作量の検出値からアームシリンダ6の速度を算出し,その演算結果をアームシリンダ第3速度演算部43eに出力する部分である。本実施形態では,操作量演算部43aがオペレータ操作量検出装置52aによるアーム操作量の検出値からアーム操作量を算出しており,アームシリンダ第1速度演算部43fは,操作量演算部43aが算出したアーム操作量と,アーム操作量とアームシリンダ速度の相関関係が一対一で規定された図9のテーブルとを基にアームシリンダ6の速度を算出している。図9のテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた操作量に対するシリンダ速度に基づいて,アーム操作量の増加とともにアームシリンダ速度が単調に増加するように操作量と速度の相関関係が規定されている。
【0055】
本稿では,フロント作業装置1Aを構成する3つのフロント部材8,9,10のうちアーム9を「特定フロント部材」と称し,そのアーム9を駆動するアームシリンダ6を「特定油圧アクチュエータ」と称す。そして,アームシリンダ第1速度演算部43fで算出されるアームシリンダ6の速度を「第1速度」と称する。
【0056】
アームシリンダ第2速度演算部43dは,作業装置姿勢検出装置50の検出値のうちアーム9の姿勢の検出値からアームシリンダ6の速度を算出し,その演算結果をアームシリンダ第3速度演算部43eに出力する部分である。本実施形態では,姿勢演算部43bが作業装置姿勢検出装置50によるアーム9の検出値からアーム9の姿勢を算出しており,アームシリンダ第2速度演算部43dは,姿勢演算部43bが算出したアーム9の姿勢の時間変化と,ブーム8,アーム9,アームシリンダ6がそれぞれ接続されている位置間の寸法値(図5Aを用いて後述)とからアームシリンダ6の速度を算出している。本稿では,アームシリンダ第2速度演算部43dで算出されるアームシリンダ6の速度を「第2速度」と称する。
【0057】
第2速度の算出に用いるフロント作業装置1Aの寸法値について図5Aを用いて説明する。まず,ブーム8とアーム9の接続点とアーム9とアームシリンダ6の接続点を結ぶ線分M2と,ブーム8とアーム9の接続点とブーム8とアームシリンダ6の接続点を結ぶ線分M3と,ブーム8の長さである線分L1と線分M3のなす角F1と,アーム9の長さである線分L2と線分M2のなす角F2と,アーム角βとを用いて,線分M1,M2,M3からなる三角形について余弦定理を用いることでアームシリンダ長さM1を求める。さらに,求められたアームシリンダ長さM1の時間変化を算出することでアームシリンダ6の第2速度が算出できる。
【0058】
アームシリンダ第3速度演算部43eは,アームシリンダ第1速度演算部43fで演算されたアームシリンダ6の第1速度と,アームシリンダ第2速度演算部43dで演算されたアームシリンダ6の第2速度とに基づいて,アクチュエータ制御部81がMCを実行する際にアームシリンダ6の速度として利用される速度(「第3速度」と称する)を算出し,その演算結果をアクチュエータ制御部81へ出力する部分である。アームシリンダ第3速度演算部43eが第3速度を算出する際の詳細については図11を用いて後述する。
【0059】
ブーム制御部81aとバケット制御部81bは,操作装置45a,45b,46aの操作時に,予め定めた条件に従って複数の油圧アクチュエータ5,6,7の少なくとも1つを制御するアクチュエータ制御部81を構成する。アクチュエータ制御部81は,各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a,15b,15cの目標パイロット圧を演算し,その演算した目標パイロット圧を電磁比例弁制御部44に出力する。
【0060】
ブーム制御部81aは,操作装置45a,45b,46aの操作時に,目標面60の位置と,フロント作業装置1Aの姿勢及びバケット10の爪先の位置と,各油圧シリンダ5,6,7の速度とに基づいて,目標面60上またはその上方にバケット10の爪先(制御点)が位置するようにブームシリンダ5(ブーム8)の動作を制御するMCを実行するための部分である。ブーム制御部81aでは,ブームシリンダ5の流量制御弁15aの目標パイロット圧が演算される。ブーム制御部81aによるMCの詳細は図8を用いて後述する。
【0061】
バケット制御部81bは,操作装置45a,45b,46aの操作時に,MCによるバケット角度制御を実行するための部分である。具体的には,目標面60とバケット10の爪先の距離が所定値以下のとき,目標面60に対するバケット10の角度θが予め設定した対目標面バケット角度θTGTとなるようにバケットシリンダ7(バケット10)の動作を制御するMC(バケット角度制御)が実行される。バケット制御部81bでは,バケットシリンダ7の流量制御弁15cの目標パイロット圧が演算される。
【0062】
電磁比例弁制御部44は,アクチュエータ制御部81から出力される各流量制御弁15a,15b,15cへの目標パイロット圧を基に,各電磁比例弁54〜56への指令を演算する。なお,オペレータ操作に基づくパイロット圧(第1制御信号)と,アクチュエータ制御部81で算出された目標パイロット圧が一致する場合には,該当する電磁比例弁54〜56への電流値(指令値)はゼロとなり,該当する電磁比例弁54〜56の動作は行われない。
【0063】
<アームシリンダ第3速度演算部43eによる第3速度算出のフロー>
図11にアームシリンダ第3速度演算部43eがアームシリンダ6の第3速度を算出するフローチャート図を示す。アームシリンダ第3速度演算部43eは図11のフローを所定の制御周期で繰り返し実行し,以下の説明では制御周期をステップとも称している。なお,以下の図11の説明における主語はアームシリンダ第3速度演算部43eである。
【0064】
S600では,操作量演算部43aで演算された現在のアーム操作量が閾値Pitより大きいかを判定する。ここで閾値Pitはアーム9が操作されたか否かを判定するための定数である。アーム操作量が閾値Pitより大きい場合アーム操作がなされたと判定しS610に進み,アーム操作量が閾値Pit以下の場合アーム操作がなされていないと判定し,S690へ進む。
【0065】
S610では,1ステップ前のアーム操作量が閾値Pitより大きいかを判定する。S610でYESの場合,1ステップ前からアーム操作が継続しているとみなしてS620でタイマーのカウント時間tを制御周期分だけ進めて,S640へ進む。一方,S610でNOの場合,今回のステップからアーム操作が開始したとみなしてS630でタイマーのカウント時間tをリセット,すなわちt=0として,S640へ進む。
【0066】
S640では,アームシリンダ第2速度演算部43dで算出した第2速度Vamaを取得し,S650へ進む。
【0067】
S650では,アームシリンダ第1速度演算部43fで算出した第1速度Vameを取得し,S660へ進む。
【0068】
S660では,S620またはS630で算出されたタイマーのカウント時間tと図12のテーブルから第2速度Vamaの重み付割合Wactを算出する。重み付割合Wactは図12に示すようにタイマーのカウント時間tで決まる関数であり,本稿では重み付割合Wactを「第2の重み付関数」と称することがある。図12において,t=0〜t0の間ではWactは0で一定であり,t=t0〜t1の間ではWactはカウント時間tの増加に応じて0から1まで単調増加し,t=t1以降ではWactは1で一定となる。
【0069】
本稿では,t0を「第1の所定時間」,t1を「第2の所定時間」と称することがある。t0及びt1は,作業装置姿勢検出装置50の応答遅れを考慮した値を選定し設定し,例えば次のように設定できる。図17は,t0,t1の一例と,アームシリンダ6の第1速度,第2速度及び実速度との関係を模式的に示した説明図である。図17における上の図のようにアーム操作圧をゼロから急激に増加させると,アームシリンダ6の第1速度,第2速度及び実速度(真値)は図17における下の図のように変化する。すなわち,第1速度は,既述の通りアーム操作圧(操作量)と図9のテーブルから算出されるため,アーム操作圧の変化とほぼ同じタイミングで変化する。しかし,実際はオペレータがレバーを操作してからアームシリンダ6が動き出すまでには応答遅れがあるため,実速度は第1速度に遅れて図のように変化する。そして,第2速度は,既述の通りアーム9の実際の姿勢変化を基に算出されるため,実速度に遅れて図のように変化し,時間t0でようやく実速度と同定し得る値に達する。上記の事情を鑑みて,本実施形態では,レバー操作を開始してから第2速度と実速度の値が一致するとみなし得るまでに要する時間をt0に設定している。そして,t1はt0よりも大きな時間とし,t0からt1に至るまでの間に第3速度が第1速度から第2速度に徐々に遷移してもバケット爪先の動作がオペレータに違和感を与えないような必要十分な時間をt1に設定している。t0およびt1はブームの応答(MCの応答)が確保できる可能な限り小さい値に設定できる(例えば,t0およびt1はそれぞれ2秒以下の値に設定できる)。
【0070】
S670では,S660で算出したアームシリンダ第2速度の重み付割合Wactからアームシリンダ第1速度Vameの重み付割合Westを算出する。本稿では重み付割合Westを「第1の重み付関数」と称することがある。重み付割合Westは,West=1−Wactにて算出する。すなわち,t=0〜t0の間ではWestは1で一定であり,t=t0〜t1の間ではWestはカウント時間tの増加に応じて1から0まで単調減少し,t=t1以降ではWestは0で一定となる。
【0071】
S680では,アームシリンダ第3速度VamsをVams=Vama×Wact+Vame×Westとして出力する。すなわち,第1の重み付関数Westを第1速度Vameに乗じた値と,第2の重み付関数Wactを第2速度Vamaに乗じた値との和を第3速度として算出し,その演算結果をアクチュエータ制御部81に出力する。
【0072】
ところで,S600でNoと判定された場合,S600にてアーム操作がなされていないとみなして,S690にてアームシリンダ第3速度Vams=0を出力する。
【0073】
<ブーム制御部81aによるブーム上げ制御のフロー>
本実施の形態の制御コントローラ40は,ブーム制御部81aによるブーム上げ制御をMCとして実行する。このブーム制御部81aによるブーム上げ制御のフローを図8に示す。図8はブーム制御部81aで実行されるMCのフローチャートであり,操作装置45a,45b,46aがオペレータにより操作されると処理が開始される。
【0074】
S410では,ブーム制御部81aは各油圧シリンダ5,6,7の速度を取得する。まず,ブームシリンダ5とバケットシリンダ7の速度については,操作量演算部43aで演算されたブーム8とバケット10に対する操作量を基にブームシリンダ5とバケットシリンダ7の速度を演算して取得する。具体的には,前述の図9と同様にあらかじめ実験やシミュレーションで求めた操作量に対するシリンダ速度をテーブルとして設定し,これに従ってブームシリンダ5とバケットシリンダ7の速度を算出する。一方,アームシリンダ6の速度については,アームシリンダ第3速度演算部43eが前述の図11のフローに基づいて算出した第3速度Vamsをアームシリンダ6の速度として取得する。
【0075】
S420では,ブーム制御部81aは,S410で取得した各油圧シリンダ5,6,7の動作速度と,姿勢演算部43bで演算された作業装置1Aの姿勢とを基に,オペレータ操作によるバケット先端(爪先)の速度ベクトルBを演算する。
【0076】
S430では,ブーム制御部81aは,姿勢演算部43bで演算したバケット10の爪先の位置(座標)と,ROM93に記憶された目標面60を含む直線の距離から,バケット先端から制御対象の目標面60までの距離D(図5参照)を算出する。そして,距離Dと図10のグラフを基にバケット先端の速度ベクトルの目標面60に垂直な成分の下限側の制限値ayを算出する。
【0077】
S440では,ブーム制御部81aは,S420で算出したオペレータ操作によるバケット先端の速度ベクトルBにおいて,目標面60に垂直な成分byを取得する。
【0078】
S450では,ブーム制御部81aは,S430で算出した制限値ayが0以上か否かを判定する。なお,図8の右上に示したようにxy座標を設定する。当該xy座標では,x軸は目標面60と平行で図中右方向を正とし,y軸は目標面60に垂直で図中上方向を正とする。図8中の凡例では垂直成分by及び制限値ayは負であり,水平成分bx及び水平成分cx及び垂直成分cyは正である。そして,図10から明らかであるが,制限値ayが0のときは距離Dが0,すなわち爪先が目標面60上に位置する場合であり,制限値ayが正のときは距離Dが負,すなわち爪先が目標面60より下方に位置する場合であり,制限値ayが負のときは距離Dが正,すなわち爪先が目標面60より上方に位置する場合である。S450で制限値ayが0以上と判定された場合(すなわち,爪先が目標面60上またはその下方に位置する場合)にはS460に進み,制限値ayが0未満の場合にはS480に進む。
【0079】
S460では,ブーム制御部81aは,オペレータ操作による爪先の速度ベクトルBの垂直成分byが0以上か否かを判定する。byが正の場合は速度ベクトルBの垂直成分byが上向きであることを示し,byが負の場合は速度ベクトルBの垂直成分byが下向きであることを示す。S460で垂直成分byが0以上と判定された場合(すなわち,垂直成分byが上向きの場合)にはS470に進み,垂直成分byが0未満の場合にはS500に進む。
【0080】
S470では,ブーム制御部81aは,制限値ayと垂直成分byの絶対値を比較し,制限値ayの絶対値が垂直成分byの絶対値以上の場合にはS500に進む。一方,制限値ayの絶対値が垂直成分byの絶対値未満の場合にはS530に進む。
【0081】
S500では,ブーム制御部81aは,マシンコントロールによるブーム8の動作で発生すべきバケット先端の速度ベクトルCの目標面60に垂直な成分cyを算出する式として「cy=ay−by」を選択し,その式とS430の制限値ayとS440の垂直成分byを基に垂直成分cyを算出する。そして,算出した垂直成分cyを出力可能な速度ベクトルCを算出し,その水平成分をcxとする(S510)。
【0082】
S520では,目標速度ベクトルTを算出する。目標速度ベクトルTの目標面60に垂直な成分をty,水平な成分txとすると,それぞれ「ty=by+cy,tx=bx+cx」と表すことができる。これにS500の式(cy=ay−by)を代入すると目標速度ベクトルTは結局「ty=ay,tx=bx+cx」となる。つまり,S520に至った場合の目標速度ベクトルの垂直成分tyは制限値ayに制限され,マシンコントロールによる強制ブーム上げが発動される。
【0083】
S480では,ブーム制御部81aは,オペレータ操作による爪先の速度ベクトルBの垂直成分byが0以上か否かを判定する。S480で垂直成分byが0以上と判定された場合(すなわち,垂直成分byが上向きの場合)にはS530に進み,垂直成分byが0未満の場合にはS490に進む。
【0084】
S490では,ブーム制御部81aは,制限値ayと垂直成分byの絶対値を比較し,制限値ayの絶対値が垂直成分byの絶対値以上の場合にはS530に進む。一方,制限値ayの絶対値が垂直成分byの絶対値未満の場合にはS500に進む。
【0085】
S530に至った場合,マシンコントロールでブーム8を動作させる必要が無いので,ブーム制御部81aは,速度ベクトルCをゼロとする。この場合,目標速度ベクトルTは,S520で利用した式(ty=by+cy,tx=bx+cx)に基づくと「ty=by,tx=bx」となり,オペレータ操作による速度ベクトルBと一致する(S540)。
【0086】
S550では,ブーム制御部81aは,S520またはS540で決定した目標速度ベクトルT(ty,tx)を基に各油圧シリンダ5,6,7の目標速度を演算する。なお,上記説明から明らかであるが,図8の場合に目標速度ベクトルTが速度ベクトルBに一致しないときには,マシンコントロールによるブーム8の動作で発生する速度ベクトルCを速度ベクトルBに加えることで目標速度ベクトルTを実現する。
【0087】
S560では,ブーム制御部81aは,S550で算出された各シリンダ5,6,7の目標速度を基に各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a,15b,15cへの目標パイロット圧を演算する。
【0088】
S590では,ブーム制御部81aは,各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a,15b,15cへの目標パイロット圧を電磁比例弁制御部44に出力する。
【0089】
電磁比例弁制御部44は,各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a,15b,15cに目標パイロット圧が作用するように電磁比例弁54,55,56を制御し,これにより作業装置1Aによる掘削が行われる。例えば,オペレータが操作装置45bを操作して,アームクラウド動作によって水平掘削を行う場合には,バケット10の先端が目標面60に侵入しないように電磁比例弁55cが制御され,ブーム8の上げ動作が自動的に行われる。
【0090】
なお,本実施形態では,ブーム制御部81aによるブーム制御(強制ブーム上げ制御)と,バケット制御部81bによるバケット制御(バケット角度制御)がMCとして実行されるが,バケット10と目標面60の距離Dに応じたブーム制御をMCとして実行しても良い。
【0091】
<動作・効果>
上記のように構成される油圧ショベルの動作について図13を利用して説明する。ここでは,アーム回動中心を通過する水平面とアーム9のなす角をアーム角度φとし,アームクラウド操作を入力して切り上げ作業を開始する状態S1(図13:アーム角度φ1≦90度)から,切り上げ作業の途中段階である状態S2(図13:アーム角度φ2>90度)に遷移する場合のオペレータ操作と,制御コントローラ40(ブーム制御部81a)によるMCについて説明する。
【0092】
ここで,図12の時間t0および時間t1はブームの応答(MCの応答)が確保できる可能な限り小さい値(例えば,2秒以下の値)であるため,アームクラウド操作の開始後に状態S1から状態S2に遷移するのは時間t1以降であるとする。図13の状態S1から状態S2の間,オペレータはアーム9のクラウド操作を行う。アーム9のクラウド操作によりバケット10が目標面60の下方に侵入すると判断されるときには,図8のフローに基づいてブーム制御部81aから電磁弁54aに指令が出力され,強制的にブーム8を上昇させる制御(MC)が実行される。
【0093】
(1)アームクラウド開始からの経過時間がt0未満の場合
まず,オペレータがアーム9のクラウド操作を開始してからの経過時間がt0未満の場合は,アームシリンダ第3速度演算部43eは図11の制御フローに基づいてアームシリンダ6の速度として第1速度をアクチュエータ制御部81に出力する。このとき,アクチュエータ制御部81(ブーム制御部81a)は,アームシリンダ6の速度として第1速度を利用しながらバケット先端速度Bを算出し,図8のフローに基づいて必要に応じてMCが発動され,これによりバケット10の爪先が目標面60の上またはその上方に保持される。このようにアーム9の始動時のアームシリンダ6の速度として第1速度を利用してMCを行うと,第1速度は実際のアームの速度より速くなる傾向があるものの(図17参照),MCによるブーム上げ制御の応答性は確保されるので,爪先の挙動を安定させることができる。
【0094】
(2)アームクラウド開始からの経過時間がt0以後かつt1未満の場合
次に,オペレータがアーム9のクラウド操作を開始してからの経過時間がt0以後かつt1未満の場合は,アームシリンダ第3速度演算部43eは図11の制御フローに基づいて第1速度Vame及び第2速度Vama及び重み付割合Wact,Westから算出される第3速度Vams(Vams=Vama×Wact+Vame×West)をアームシリンダ6の速度としてアクチュエータ制御部81に出力する。これによりアクチュエータ制御部81(ブーム制御部81a)でアームシリンダ6の速度として利用される速度は,時間の経過とともに第1速度から徐々に第2速度にシフトするので,第1速度から第2速度に突然変化する場合と比較してバケット爪先の挙動が突然変化することが防止され,その結果オペレータが爪先の挙動に違和感をおぼえることを防止できる。
【0095】
(3)アームクラウド開始からの経過時間がt1以後の場合
最後に,オペレータがアーム9のクラウド操作を開始してからの経過時間がt1以後の場合は,アームシリンダ第3速度演算部43eは図11の制御フローに基づいてアームシリンダ6の速度として第2速度をアクチュエータ制御部81に出力する。このとき,アクチュエータ制御部81(ブーム制御部81a)は,アームシリンダ6の速度として第2速度を利用しながらバケット先端速度Bを算出し,図8のフローに基づいて必要に応じてMCが発動され,これによりバケット10の爪先が目標面60の上またはその上方に保持される。このようにアーム9の動作中のアームシリンダ6の速度として第2速度を利用してMCを行うと,実速度に近い速度でMCを行うことができるので,爪先の挙動を安定させることができる。
【0096】
特に,時間t1以後で状態S2のようにアーム角度φが90度以下の状態でMCが実行される場合は,アーム9より先のフロント作業装置(アーム9およびバケット10)の自重により実際のアームシリンダ速度は第1速度よりも小さくなってしまう。しかし,本実施形態によれば,図11の制御フローにより,時間t1以降は,実際の姿勢変化に基づいて算出される第2速度をアームシリンダの速度としてMCが行われるので適切なブーム上げ指令を出力でき,MCの精度を向上できる。
【0097】
つまり,本実施形態によれば,MC時のアームシリンダの速度として第1速度を常に利用していた場合と比較して,実際の姿勢変化に基づいて算出される第2速度を利用することで,負荷圧や姿勢,油温等の変化の影響を受けにくくなるため,MCを安定させることができる。
【0098】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について説明する。
まず,本実施形態が解決しようとする主たる課題を説明する。第1実施形態では,姿勢センサはアームが実際に動き始めてからその姿勢変化を検出可能となるため,アームの動き始めに対してMCの応答が遅れる可能性がある点を挙げた。しかし,アームの動き始め以外であっても,オペレータがアーム操作レバーの操作量を急変させた場合には,姿勢センサの応答よりも早く実際のアームシリンダ速度が変化し得るので,アームの動き始めと同様に姿勢センサの出力から算出したアーム速度は実際のアーム速度と乖離し得る。本実施形態はこの点の解決を図ったものである。
【0099】
図15は第2実施形態のMC制御部43Aの機能ブロック図である。この図に示すように,本実施形態のMC制御部43Aは,第1実施形態のものと異なり,作動油温検出装置210で検出された検出値をアームシリンダ第1速度演算部43fに入力しており,その検出値を第1速度の補正に利用している。また,アームシリンダ第3速度演算部43eの制御フローが第1実施形態と異なっている。その他の部分については第1実施形態と同じであり説明は省略する。以下,本実施形態について詳説する。
【0100】
<アームシリンダ第3速度演算部43eによる第3速度算出のフロー>
図16に第2実施形態のアームシリンダ第3速度演算部43eがアームシリンダ6の第3速度を算出するフローチャート図を示す。第1実施形態と同様に,アームシリンダ第3速度演算部43eは図16のフローを所定の制御周期で繰り返し実行し,図11と同じ処理には同じ符号を付して説明を省略する。なお,以下の図16の説明における主語はアームシリンダ第3速度演算部43eである。
【0101】
S720では,操作量演算部43aで演算された現在と1ステップ前のアーム操作量の変化量が閾値dPitよりも大きいかを判定する。ここで,閾値dPitは次の方法にて決定することができる。
【0102】
<閾値dPitについて>
オペレータの操作によってアーム9の動作速度が急速に変化したとき(アーム9の動作速度の時間変化量が大きいとき)に,作業装置姿勢検出装置50の検出応答性能により,実際のアームシリンダ速度(真値)とアームシリンダ第2速度演算部43dで演算した第2速度とで乖離が生じる場合がある。この乖離が生じるアーム9の動作速度の時間変化量が閾値dWam以上であるとする。すなわち,アーム9の動作速度の時間変化量が閾値dWam以上であれば作業装置姿勢検出装置50は応答遅れが生じ,閾値dWam未満であれば作業装置姿勢検出装置50はアーム9の動作速度の時間変化量に対して十分追従できる。
【0103】
本実施形態では,アーム9の動作速度の時間変化量が閾値dWamとなるアーム操作量(アーム操作圧と等価)の変化量をあらかじめ実験やシミュレーションにて求め,これを閾値dPitとして設定している。
【0104】
S720でYESと判定された場合(現在と1ステップ前のアーム操作量の変化量が閾値dPitよりも大きいと判定された場合),1ステップ前から今回のステップでアーム9の動作速度が急速に変化しているとみなして,S730で1ステップ前と2ステップ前のアーム操作量の変化量が閾値dPitよりも大きいかを判定する。
【0105】
S730でYESと判定された場合(1ステップ前と2ステップ前のアーム操作量の変化量が閾値dPitよりも大きいと判定された場合),アーム9の動作速度が急速に変化している状態が継続しているとみなして,S620でタイマーのカウント時間tを制御周期分だけ進めて,S640へ進む。
【0106】
S730でNOと判定された場合(1ステップ前と2ステップ前のアーム操作量の変化量が閾値dPit以下と判定された場合),アーム9の動作速度の急速な変化が今回のステップで開始したとみなして,S630でタイマーのカウント時間tをリセット,すなわちt=0として,S640へ進む。
【0107】
S720でNOと判定された場合(現在と1ステップ前のアーム操作量の変化量が閾値dPit以下と判定された場合),1ステップ前からアーム操作が継続しているとみなして(すなわち第1実施形態のS610でYESと判定された場合と同じに扱われる),S620でタイマーのカウント時間tを制御周期分だけ進めて,S640へ進む。
【0108】
S640では,アームシリンダ第2速度演算部43dで算出した第2速度Vamaを取得し,S770へ進む。
【0109】
S770では,アームシリンダ第1速度演算部43fが作動油温検出装置210の検出値を考慮して算出した第1速度Vameを取得する。
【0110】
<作動油温による第1速度の補正処理>
ここで本実施形態のアームシリンダ第1速度演算部43fの第1速度の演算処理について説明する。アームシリンダ第1速度演算部43fは,操作量演算部43aが算出したアーム操作量と,アーム操作量とアームシリンダ速度の相関関係が規定された図18のテーブルと,作動油温検出装置210の検出値(検出温度Tt)とを基にアームシリンダ6の第1速度を算出している。図18のテーブルでは,図9同様,アーム操作量の増加とともにアームシリンダ速度が単調に増加するように操作量と速度の相関関係が規定されている。図18のテーブルは,作動油温検出装置210の検出温度Ttが所定値Tt0以下の場合,作動油温検出装置210の検出温度Ttと所定値Tt0の偏差ΔTtの増加に応じてアームシリンダ速度が減少するように補正される。図18には,作動油温検出装置210の検出温度がTt0,Tt1,Tt2,Tt3(但し,Tt3<Tt2<Tt1<Tt0)のときに利用される関数を示した。このように,作動油温検出装置210によって検出された油温Ttが所定値Tt0以下の場合,所定値Tt0との偏差ΔTtの増加に応じてアームシリンダ6の速度が小さくなることを加味して,アームシリンダ第1速度演算部43fは,図9のテーブルと操作量演算部43aが算出したアーム操作量から算出される速度よりも小さい速度を第1速度Vameとして算出する。
【0111】
S660以降の処理は図11の処理と同じなので説明は省略する。
【0112】
<動作・効果>
上記のように構成される油圧ショベルにおいて,オペレータがアーム操作中にアーム操作量を急変させると,アームシリンダ第3速度演算部43eは図16のS720,730の処理を経由してS630でタイマーをリセットし,アームシリンダ6の速度として第1速度をアクチュエータ制御部81に出力する。これにより,第1速度は実際のアームの速度より速くなる傾向があるものの,MCによるブーム上げ制御の応答性は確保されるので,爪先の挙動を安定させることができる。
【0113】
レバー操作量の変化量が継続してdPitを越えている場合には,次の制御周期で,アームシリンダ第3速度演算部43eは図16のS720,730の処理を経由してS620でタイマーのカウント時間tを制御周期分だけ進めて,S640へ進む。S640以降の処理ではアームシリンダ第3速度演算部43eはカウント時間tに応じた第3速度をアクチュエータ制御部81に出力する。
【0114】
カウント時間tがt0以上かつt1未満の場合,アームシリンダ第3速度演算部43eは図16の制御フローに基づいて第1速度Vame及び第2速度Vama及び重み付割合Wact,Westから算出される第3速度Vams(Vams=Vama×Wact+Vame×West)をアームシリンダ6の速度としてアクチュエータ制御部81に出力する。
【0115】
カウント時間tがt1以上の場合,アームシリンダ第3速度演算部43eは図16の制御フローに基づいて第2速度をアームシリンダ6の速度としてアクチュエータ制御部81に出力する。このようにアーム9の動作中のアームシリンダ6の速度として第2速度を利用してMCを行うと,実速度に近い速度でMCを行うことができるので,爪先の挙動を安定させることができる。
【0116】
また,作動油温が低温で油圧アクチュエータの速度が低下する場合であっても,作動油温検出装置210の検出結果に基づいてアームシリンダの推定速度を算出するため,ブーム上げ操作量を適切に算出できる。
【0117】
したがって,本実施形態においても,MC時のアームシリンダの速度として第1速度を常に利用していた場合と比較して,実際の姿勢変化に基づいて算出される第2速度を利用することで,負荷圧や姿勢,油温等の変化の影響を受けにくくなるため,MCを安定させることができる。
【0118】
<その他>
上記第2実施形態では時間t0,t1を固定の値としているが,アーム操作量の変化量に応じて時間t0,t1の値を可変としても良い。
【0119】
また,第2実施形態のS660では,第1実施形態と同様に,タイマーのカウント時間tと図12のテーブルから第2速度Vamaの重み付割合Wactを算出するが,S610でNOと判定された場合(アーム操作が開始したと判定された場合)と,S730でNOと判定された場合(アーム操作量の変化量が閾値dPit以上と判定された場合)とで,利用するテーブルを異ならせても良い。すなわち,S730でNOと判定された場合は,図12のテーブルと異なるテーブルを利用しても良い。
【0120】
第2実施形態では,アームシリンダ第1速度演算部43fにおいて作動油温による第1速度の補正処理を行ったが,この処理は本実施形態から省略可能であり,また第1実施形態にも追加可能である。
【0121】
上記の各実施形態ではブーム8,アーム9,バケット10の角度を検出する角度センサを用いたが,角度センサではなくシリンダストロークセンサによりショベルの姿勢情報を算出するとしても良い。また,油圧パイロット式のショベルを例として説明したが,電気レバー式のショベルであれば電気レバーから生成される指令電流を制御するような構成としても良い。フロント作業装置1Aの速度ベクトルの算出方法について,オペレータ操作によるパイロット圧ではなく,ブーム8,バケット10の角度を微分することで算出される角速度から求めても良い。
【0122】
上記の各実施形態では,アームを特定フロント部材,アームシリンダを特定油圧アクチュエータとして,アーム操作開始からの時間やアームの急動作開始からの時間に応じてアームシリンダの速度を算出するプロセスを変更したが,操作量から算出される速度の精度や姿勢検出装置の応答性の課題は,アーム以外のフロント部材であるブームやバケットにも該当する。したがって, 特定フロント部材と特定油圧アクチュエータは,ブーム8とブームシリンダ5や,バケット10とバケットシリンダ7にも変更可能である。
【0123】
上記の制御コントローラ40に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は,それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また,上記の制御コントローラ40に係る構成は,演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御コントローラ40の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は,例えば,半導体メモリ(フラッシュメモリ,SSD等),磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク,光ディスク等)等に記憶することができる。
【0124】
本発明は,上記の各実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の各実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施形態に係る構成の一部を,他の実施形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【符号の説明】
【0125】
1A…フロント作業装置,8…ブーム,9…アーム,10…バケット,30…ブーム角度センサ,31…アーム角度センサ,32…バケット角度センサ,40…制御コントローラ(制御装置),43…MC制御部,43a…操作量演算部,43b…姿勢演算部,43c…目標面演算部,43d…アームシリンダ第2速度演算部,43e…アームシリンダ第3速度演算部,43f…アームシリンダ第1速度演算部,44…電磁比例弁制御部,45…操作装置(ブーム,アーム),46…操作装置(バケット,旋回),50…作業装置姿勢検出装置(姿勢検出装置),51…目標面設定装置,52a…オペレータ操作量検出装置(操作量検出装置),53…表示装置,54,55,56…電磁比例弁,81…アクチュエータ制御部,81a…ブーム制御部,81b…バケット制御部,210…作動油温検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図5A
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18