特許第6618682号(P6618682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618682
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】補体阻害剤による慢性障害の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20191202BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20191202BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20191202BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20191202BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20191202BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20191202BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   A61K38/08ZNA
   A61K9/72
   A61P11/00
   A61P11/06
   A61P19/00
   A61P21/00
   A61P21/04
【請求項の数】27
【全頁数】106
(21)【出願番号】特願2014-517223(P2014-517223)
(86)(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公表番号】特表2014-523882(P2014-523882A)
(43)【公表日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】US2012043845
(87)【国際公開番号】WO2012178083
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年6月22日
【審判番号】不服2018-6615(P2018-6615/J1)
【審判請求日】2018年5月15日
(31)【優先権主張番号】61/499,895
(32)【優先日】2011年6月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513283268
【氏名又は名称】アペリス・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APELLIS PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・デシャテレッツ
【合議体】
【審判長】 岡崎 美穂
【審判官】 吉田 知美
【審判官】 田村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−540654(JP,A)
【文献】 Protein Sci.(1998)vol.7,no.3,p.619−627
【文献】 Current Allergy and Asthma Reports(2011)Vol.11,No.2,p.122−130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
MEDLINE/CAPLUS/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性呼吸器障害またはその他の慢性補体介在性障害の治療を必要とする対象の治療に使用するための、補体阻害剤を含む医薬であって、
その他の慢性補体介在性障害が、筋骨格系または神経系を冒す障害であり、
該治療が、該補体阻害剤の複数回投与を該対象に実施した後に、平均で(i)該補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の20%以下に減少して少なくとも2週間後に、または(ii)該補体阻害剤の終末血漿中半減期の少なくとも3倍に等しい間隔で、次の投与を実施する投与スケジュールに従って、該対象に実施することを含み、
該補体阻害剤が、呼吸器経路で投与され、および
該補体阻害剤が、コンプスタチンに対して4位に1−メチル−トリプトファンまたは1−ホルミル−トリプトファンを含み、コンプスタチンに対して9位にアラニンを含む、コンプスタチン類似体である、医薬。
【請求項2】
平均で(i)該補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の20%以下に減少して2週間〜6週間後に、または(ii)該補体阻害剤の終末血漿中半減期の少なくとも5倍に等しい間隔で、該補体阻害剤の次の投与を実施する、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
慢性補体介在性障害が、重症筋無力症である、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
平均で補体阻害剤の終末血漿中半減期の少なくとも5倍に等しい間隔で該補体阻害剤の次の投与を実施する、請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の10%以下に減少して平均で少なくとも2週間後に、該補体阻害剤の次の投与を実施する、請求項1に記載の医薬。
【請求項6】
補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の5%以下に減少して平均で少なくとも2週間後に、該補体阻害剤の次の投与を実施する、請求項1に記載の医薬。
【請求項7】
該投与スケジュールが、少なくとも部分的には、対象の集団で測定された該補体阻害剤の血漿中濃度、該補体阻害剤の血漿中半減期および/または該血漿補体活性化能の値に基づいて決定される、請求項1に記載の医薬。
【請求項8】
該投与スケジュールが、少なくとも部分的には、治療を受けている該対象の該補体阻害剤の血漿中濃度、該補体阻害剤の血漿中半減期および/または該血漿補体活性化能の値に基づいて決定される、請求項1に記載の医薬。
【請求項9】
少なくとも5回投与を実施する、請求項1〜8のいずれかに記載の医薬。
【請求項10】
該対象が喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)またはその両方の治療を必要とする、請求項1〜9のいずれかに記載の医薬。
【請求項11】
該対象が重症喘息の治療を必要とする、請求項1〜9のいずれかに記載の医薬。
【請求項12】
該補体阻害剤を呼吸経路によって投与する、請求項1〜11のいずれかに記載の医薬。
【請求項13】
噴霧器、定量吸入器または乾燥粉末吸入器を用いて該補体阻害剤を投与する、請求項1〜11のいずれかに記載の医薬。
【請求項14】
振動メッシュ噴霧器を用いて該補体阻害剤を投与する、請求項1〜11のいずれかに記載の医薬。
【請求項15】
再治療が、固定された日程で実施される、請求項1〜14のいずれかに記載の医薬。
【請求項16】
該補体阻害剤がC3またはC5の切断を阻害する、請求項1〜14のいずれかに記載の医薬。
【請求項17】
該補体阻害剤が、配列が配列番号28、32または34を含むコンプスタチン類似体を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の医薬。
【請求項18】
該補体阻害剤が、配列が配列番号28を含むコンプスタチン類似体を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の医薬。
【請求項19】
該補体介在性障害がTh17と関連のある障害である、請求項1〜18のいずれかに記載の医薬。
【請求項20】
該治療が該対象中または該対象から得られた試料中のTh17バイオマーカーを検出することを含む、請求項1〜19のいずれかに記載の医薬。
【請求項21】
体液を含む試料中に該Th17バイオマーカーを検出し、該体液が血液、BAL液、痰、鼻汁もしくは尿またはこれらの組合せから任意に選択される、請求項20に記載の医薬。
【請求項22】
該バイオマーカーが、Th17細胞によって産生される少なくとも1種類のサイトカインまたはTh17細胞の形成、生存もしくは活性を促進する少なくとも1種類のサイトカインを含む、請求項20に記載の医薬。
【請求項23】
参照と比較した該Th17バイオマーカーのレベル上昇が、該対象が補体阻害剤の投与を必要とすることを示す、請求項20に記載の医薬。
【請求項24】
該参照が、該障害に罹患していない者の正常範囲内にあるか、該障害が十分に管理されている場合の該対象のベースライン値である、請求項23に記載の医薬。
【請求項25】
該Th17バイオマーカーが、該補体阻害剤の投与実施前に検出され、該対象が該補体阻害剤の投与を必要とすることの指標となる、請求項20に記載の医薬。
【請求項26】
該バイオマーカーが、該補体阻害剤の投与実施前に検出され、該対象が該補体阻害剤の投与を必要とすることの指標としての役割を果たし、該治療が、該バイオマーカー検出後の所定の期間内に該補体阻害剤を投与することを含む、請求項20に記載の医薬。
【請求項27】
該所定の期間が1日、2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日または2週間、3週間もしくは4週間である、請求項26に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2011年6月22日に出願された米国特許仮出願第61/499,895号の優先権を主張するものであり、上記出願の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
呼吸器系の慢性障害は、発生率が世界的に増加しつつある罹患率および死亡率の大きな原因となっている。世界保健機関の推定では、約8000万人が中等度ないし重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患しており、2005年には300万人(世界全体の死亡者の約5%)がCOPDで死亡している。COPDは2002年の死因の第5位であったが、主要な危険因子、特に喫煙の抑制に成功しない限り、2030年に世界の死因の第3位になるであろうと推定されている。喘息も世界的に重要な健康問題であり、世界全体で推定3億人が罹患している。喘息およびCOPDとも、特に重症の場合、患者の日々の機能および生活の質を低下させ得るものである。両疾患はほかにも、医療費および生産性の損失の点で大きな負担となっている。
【0003】
喘息およびCOPDの治療には気管支拡張薬や副腎皮質ステロイドなどの薬物療法が広く用いられている。しかし、このような治療介入を受けても、患者の大部分に持続的な症状がみられる。さらに、このような薬剤が重大な副作用を引き起こすこともある。呼吸器系を冒す障害を治療する新たな薬物療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は特に、慢性補体介在性障害を治療する方法を提供し、この方法は、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの態様では、本発明は、呼吸器系の慢性障害を治療する方法を提供し、この方法は、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、障害は喘息である。いくつかの実施形態では、障害はCOPDである。本発明の特定の態様は少なくとも部分的には、補体阻害剤が補体介在性障害、例えば、喘息またはCOPDなどの呼吸器系の慢性補体介在性障害の治療において長い作用持続時間を示すという認識に基づくものである。例えば、いくつかの実施形態では、補体阻害剤が慢性補体介在性障害、例えば慢性呼吸器障害の1つ以上の徴候を有意に減少させる作用持続時間は、静脈内投与した場合、その補体阻害剤が実質的に血漿補体活性化能を阻害する作用持続時間より長い。
【0005】
いくつかの態様では、本発明は、慢性呼吸器障害またはその他の慢性補体介在性障害の治療を必要とする対象を治療する方法を提供し、この方法は、補体阻害剤の複数回投与を、平均で(i)補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の20%以下に減少して少なくとも2週間後に;(ii)前回の投与後に血漿補体活性化能がベースラインの少なくとも50%まで回復して少なくとも2週間後に;(iii)補体阻害剤の終末血漿中半減期の少なくとも2倍に等しい間隔で;または(iv)少なくとも3週間の間隔で次の投与を実施する投与スケジュールに従って、対象に実施することを含む。いくつかの実施形態では、平均で(i)補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の20%以下に減少して2週間〜6週間後に;(ii)前回の投与後に血漿補体活性化能がベースラインの少なくとも50%まで回復して2週間〜6週間後に;(iii)補体阻害剤の終末血漿中半減期の少なくとも2〜5倍に等しい間隔で;または(iv)3〜6週間の間隔で、次の補体阻害剤投与を実施する。いくつかの実施形態では、平均で少なくとも4週間間隔で次の補体阻害剤投与を実施する。いくつかの実施形態では、前回の投与後に血漿補体活性化能が正常範囲内に回復して平均で少なくとも2週間後に、次の補体阻害剤投与を実施する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の10%以下に減少して平均で少なくとも2週間後に、次の補体阻害剤投与を実施する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の5%以下に減少して平均で少なくとも2週間後に、次の補体阻害剤投与を実施する。いくつかの実施形態では、投与スケジュールが少なくとも部分的には、対象の集団で測定された補体阻害剤の血漿中濃度、補体阻害剤の血漿中半減期および/または血漿補体活性化能の値に基づいて決定される。いくつかの実施形態では、投与スケジュールが少なくとも部分的には、治療を受けている対象の補体阻害剤の血漿中濃度、補体阻害剤の血漿中半減期および/または血漿補体活性化能の値に基づいて決定される。
【0006】
投与することを含む任意の方法のいくつかの実施形態では、少なくとも5回投与する。
【0007】
いくつかの実施形態では、対象が喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)またはその両方の治療を必要とする。いくつかの実施形態では、対象が重症喘息の治療を必要とする。
【0008】
いくつかの実施形態では、呼吸器経路によって補体阻害剤を投与する。いくつかの実施形態では、噴霧器、定量吸入器または乾燥粉末吸入器を用いて補体阻害剤を投与する。いくつかの実施形態では、振動メッシュ噴霧器を用いて補体阻害剤を投与する。
【0009】
いくつかの実施形態では、静脈内経路によって補体阻害剤を投与する。
【0010】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は補体カスケードのC3またはC3の上流に作用する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC3、C5またはB因子の切断を阻害する。
【0011】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は抗体、アプタマー、ペプチド、ポリペプチドまたは小分子を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、C3、C5、B因子またはD因子と結合する抗体、アプタマー、ペプチド、ポリペプチドまたは小分子を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤はコンプスタチン類似体を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、配列が配列番号14、21、28、29、32、33、34または36を含むコンプスタチン類似体を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、配列が配列番号3〜41のいずれかを含むコンプスタチン類似体を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、補体介在性障害はTh17と関連のある障害である。
【0017】
いくつかの実施形態では、任意の治療方法が対象中または対象から得られた試料中のTh17バイオマーカーを検出することを含む。いくつかの実施形態では、Th17バイオマーカーは体液を含む試料中に検出され、体液は血液、BAL液、痰、鼻汁もしくは尿またはそれらの組合せから任意に選択されるものである。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、Th17細胞によって産生されるサイトカインまたはTh17細胞の形成、生存もしくは活性を促進するサイトカインを少なくとも1種類含む。いくつかの実施形態では、参照と比較したTh17バイオマーカーレベルの上昇が、対象が補体阻害剤の投与を必要とすることを示す。いくつかの実施形態では、参照は、障害に罹患していない者の正常範囲内にあるか、障害が十分に管理されている場合の対象のベースライン値である。いくつかの実施形態では、Th17バイオマーカーは補体阻害剤の投与実施前に検出され、対象が補体阻害剤の投与を必要とすることの指標ととしての役割を果たす。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは補体阻害剤の投与実施前に検出され、対象が補体阻害剤の投与を必要とすることの指標としての役割を果たし、この方法は、バイオマーカー検出後の所定の期間内に補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、所定の期間は1日、2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日または2週間、3週間もしくは4週間である。
【0018】
いくつかの態様では、慢性補体介在性障害の治療を必要とする対象を治療する方法は、(a)対象に少なくとも1回の補体阻害剤投与を実施することと、(b)対象中または対象から得られた試料中のTh17バイオマーカーについて対象を監視することとを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、(c)対象に少なくとも1回の追加の補体阻害剤投与を実施することをさらに含む。いくつかの実施形態では、段階(b)は、対象中または対象から得られた試料中のTh17バイオマーカーを検出することを含む。いくつかの実施形態では、段階(b)は、参照と比較したバイオマーカーレベルの上昇を検出することを含み、そのレベルの上昇は対象が補体阻害剤の投与を必要とすることを示す。いくつかの実施形態では、段階(b)は、参照と比較したバイオマーカーレベルの上昇を検出することを含み、そのレベルの上昇は対象が補体阻害剤の投与を必要とすることを示し、この方法は、(c)対象に少なくとも1回の追加の補体阻害剤投与を実施することをさらに含む。いくつかの実施形態では、段階(b)は、参照と比較したバイオマーカーレベルの上昇を検出することを含み、そのレベルの上昇は対象が補体阻害剤の投与を必要とすることを示し、この方法は、(c)バイオマーカー検出の所定の期間内に、対象に少なくとも1回の追加の補体阻害剤投与を実施することをさらに含む。いくつかの実施形態では、所定の期間は1日、2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日または2週間、3週間もしくは4週間である。いくつかの実施形態では、方法は、対象に抗Th17剤を投与することをさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、Th17細胞の形成または活性を阻害する薬剤を含む。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、Th17細胞によって産生されるサイトカインの産生もしくは活性を阻害する薬剤またはTh17細胞の形成もしくは活性を促進する薬剤を含む。いくつかの実施形態では、抗Th17剤はIL−1β、IL−6、IL−21、IL−22、IL−17またはIL−23の産生または活性を阻害する薬剤を含む。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は抗体、小分子、アプタマー、ポリペプチドまたはRNAi剤を含む。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、IL−1β、IL−6、IL−21、IL−22、IL−17またはIL−23と結合するか、上記のいずれかの受容体と結合する、抗体、小分子、アプタマーまたはポリペプチドを含む。
【0020】
いくつかの態様では、補体阻害剤と抗Th17剤とを含む医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC3活性またはC3活性化を阻害する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はコンプスタチン類似体を含む。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、IL−1β、IL−6、IL−21、IL−22、IL−17またはIL−23と結合するか、上記のいずれかの受容体と結合する、抗体、小分子、アプタマーまたはポリペプチドを含む。
【0021】
いくつかの態様では、補体介在性障害を治療する方法は、必要とする対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを含む組成物を投与することを含む。
【0022】
いくつかの態様では、Th17と関連のある障害を治療する方法は、必要とする対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを投与することを含む。
【0023】
いくつかの態様では、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルを崩壊させる方法の方法が提供され、この方法は、必要とする対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを含む投与を含む。
【0024】
いくつかの態様では、Th17と関連のある障害を治療する方法は、必要とする対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを投与することを含む。
【0025】
いくつかの態様では、Th17と関連のある障害を治療する方法は、必要とする対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを含む組成物を投与することを含む。
【0026】
いくつかの態様では、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルを崩壊させる方法の方法が提供され、この方法は、必要とする対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを含む投与を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、いずれかの方法が、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、いずれかの方法が、DC−Th17−B−Ab−Cサイクルの証拠について対象を監視することと、少なくとも部分的に前記監視の結果に基づいて、対象に補体阻害剤、抗Th17剤または補体阻害剤、抗Th17剤を含む組成物を投与することとを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、いずれかの方法が、Th17バイオマーカーについて対象を監視することを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、いずれかの方法が、Th17バイオマーカーについて対象を監視することと、少なくとも部分的にその監視の結果に基づいて、対象に補体阻害剤、抗Th17剤または補体阻害剤、抗Th17剤を含む組成物を投与することとを含む。
【0031】
いくつかの態様では、補体介在性障害を有するか補体介在性障害のリスクのある対象を治療する方法は、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することと、少なくとも部分的に前記監視の結果に基づいて、対象に補体阻害剤を投与することとを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、対象に抗Th17剤を投与することをさらに含む。
【0032】
いくつかの態様では、補体介在性障害を有するか補体介在性障害のリスクのある対象を治療する方法は、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することと、少なくとも部分的に前記監視の結果に基づいて、対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを投与することとを含む。
【0033】
いくつかの態様では、Th17と関連のある障害を有するかTh17と関連のある障害のリスクのある対象を治療する方法は、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することと、少なくとも部分的に前記監視の結果に基づいて、対象に補体阻害剤を投与することとを含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、この方法は、対象に抗Th17剤を投与することをさらに含む。
【0035】
いくつかの態様では、Th17と関連のある障害を有するかTh17と関連のある障害のリスクのある対象を治療する方法が提供され、この方法は、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することと、少なくとも部分的に前記監視の結果に基づいて、対象に補体阻害剤と抗Th17剤とを投与することを含む。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC3活性またはC3活性化を阻害する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はコンプスタチン類似体を含む。
【0036】
少なくとも部分的に抗Th17剤と関係のある組成物または方法のいくつかの実施形態では、抗Th17剤は、IL−1β、IL−6、IL−21、IL−22、IL−17またはIL−23と結合するか、上記のいずれかの受容体と結合する、抗体、小分子、アプタマーまたはポリペプチドを含む。
【0037】
DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することを含む任意の方法のいくつかの実施形態では、このような監視は、対象中または対象から得られた試料中のTh17に関連するバイオマーカーを評価することを含む。
【0038】
対象を監視することを含む任意の方法のいくつかの実施形態では、監視を約1〜2週間毎、2〜4週間毎または約1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月もしくは12か月毎に実施する。
【0039】
補体阻害剤、抗Th17剤またはその両方を投与することを含む任意の方法のいくつかの実施形態では、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠またはTh17に関連するバイオマーカーのレベル上昇が検出されてから1日、2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日または2週間、3週間もしくは4週間以内に投与を実施する。
【0040】
いくつかの態様では、AMDの治療を必要とする対象を治療する方法が提供され、この方法は、対象に抗IL−23剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、この薬剤を眼球に局所的に、例えば硝子体内注射により投与する。いくつかの実施形態では、対象は乾燥型AMDを有する。
【0041】
本願で言及される論文、書籍、特許出願、特許、その他の刊行物、ウェブサイトおよびデータベースはすべて、参照により本明細書に組み込まれるものとする。本明細書と、組み込まれるいずれかの参考文献との間に不一致が生じた場合、本明細書(本明細書に対するあらゆる補正を含む)が統制するものとする。特に明示されない限り、本明細書では、当該技術分野で認められている用語および略語の意味を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図2】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図3】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図4】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図5】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図6】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図7】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図8】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図9】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図10】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
図11】ブタ回虫(Ascaris suum)抗原負荷0、1および2の前または後の図示される時点で個々のカニクイザルから得られた試料で測定した、図示されるサイトカインの気管支肺胞洗浄(BAL)液中濃度を示すプロットである。対照個体(青;三角);ブデソニド処置個体(赤;+);CA−28処置個体(緑;丸)。24時間にわたる変化がより明瞭に図示されるよう、各時点での平均サイトカイン濃度のプロットを重ね合わせ、実線で示してある。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(本発明の特定の実施形態の詳細な説明)
I.定義
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗体および抗原結合部位を含む抗体フラグメントを包含する。本発明の特定の実施形態で有用な抗体は、様々な種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ウサギ)、ヤギ、ニワトリに由来するか、これらから得られるものおよび/または様々な抗体クラス、例えば、ヒトクラス:IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgDおよびIgEのものであり得る。例えば、抗体フラグメント(Fab)は、Fab’、F(ab’)、scFv(一本鎖可変部位)または抗原結合部位を保持するか、これを含むその他のフラグメントであり得る。例えば、Allen,T.,Nature Reviews Cancer,Vol.2,750−765,2002およびその参考文献を参照されたい。当該技術分野でダイアボディ、ミニボディまたはナノボディとして知られる抗体を各種実施形態で用いることができる。二重特異性抗体または多重特異性抗体を各種実施形態で用いることができる。IgG免疫グロブリン(例えば、げっ歯類またはヒトのIgG)の重鎖および軽鎖には、3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)によって個々に分離された4つのフレームワーク領域(FR1〜FR4)が含まれている。CDR、具体的にはCDR3領域、特に重鎖CDR3は抗体特異性に大きな役割を果たしている。抗体は例えば、げっ歯類由来もしくは非ヒト霊長類由来の可変ドメインとヒト由来の定常ドメインとを融合させたキメラ抗体、また抗原結合部位を構成する相補性決定領域(CDR)のアミノ酸の一部もしくは全部が(場合によっては1つ以上のフレームワークのアミノ酸または領域とともに)げっ歯類抗体(例えば、マウス抗体)もしくはファージディスプレイ抗体からヒト抗体に「移植」され、げっ歯類抗体もしくはファージディスプレイ抗体の特異性を保持している「ヒト化」抗体であり得る。したがって、ヒト化抗体は、抗体の相補性決定領域のみが非ヒト由来である組換えタンパク質であり得る。ヒト化工程に含まれる抗体配列の改変は一般に、核酸レベルの技術、例えば、標準的な組換え核酸技術により実施されることが理解されよう。いくつかの実施形態では、特異性決定残基(SDR)、抗体−リガンド相互作用において最も重要なCDR残基のみを移植する。SDRは、例えば、構造のわかっている抗原−抗体複合体の三次元構造のデータベースを用いることによって、あるいは抗体結合部位の変異解析によって同定され得る。いくつかの実施形態では、さらに多くのCDR残基を保持する方法、すなわち、いわゆる「短縮された」CDR、全SDRを含む一連のCDR残基の移植を用いる。SDR移植についての詳細な記述に関しては、例えば、Kashmiri,SV,Methods.36(1):25−34(2005)を参照されたい。ヒト化抗体を得る各種の方法の概説に関しては、例えば、Almagro JC,Fransson J.Humanization of antibodies. Front Biosci.13:1619−33(2008)を参照されたい。「〜に由来するか、〜から得られる」とは、抗体配列またはその一部分を定める遺伝情報の入手源を指すものであり、これは抗体が最初に合成される種によって異なり得ることが理解されよう。例えば、ゲノムにヒト免疫グロブリン遺伝子を組み込んだげっ歯類で「ヒト」ドメインを作製し得る。完全ヒト抗体を作製するには、例えば、Vaughanら,(1998),Nature Biotechnology,16:535−539を参照されたい。抗体はポリクローナルであってもモノクローナルであってもよいが、本発明の目的には、治療剤としてモノクローナル抗体が一般に好ましい。実質的に任意の目的分子と特異的に結合する抗体の作製方法が当該技術分野で公知である。例えば、天然源から、例えば、抗体を産生する動物の血液または腹水から(例えば、分子またはその抗原性フラグメントで免疫感作したのち)モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を精製する、あるいはこれを細胞培養物で組換えにより産生させ、例えば培地から精製することが可能である。アフィニティー精製、例えば、プロテインA/Gアフィニティー精製および/または抗原をアフィニティー試薬として用いるアフィニティー精製を用いてもよい。ファージディスプレイおよびそれに関連する技術を用いて適切な抗体を同定することができる。詳細な情報に関しては、例えば、Kaser,M.およびHoward,G.,「Making and Using Antibodies:A Practical Handbook」ならびにSidhu,S.,「Phage Display in Biotechnology and Drug Discovery」,CRC Press,Taylor and Francis Group,2005を参照されたい。抗体フラグメントの作製方法はよく知られている。例えばF(ab’) フラグメントを、例えば、固定化ペプシンを用いて抗体を消化し、固定化プロテインAカラムで精製するImmunopure F(ab’) Preparation Kit(Pierce)を用いて作製することができる。F(ab’)が高収率で得られるよう当業者が消化条件(温度および持続時間など)を最適化することができる。消化によって得られるF(ab’)の収率は、標準的なタンパク質ゲル電気泳動によって監視することができる。抗体のパパイン消化によって、あるいはF(ab’)中のS−S結合を還元することによってF(ab’)を得ることができる。本明細書で使用される「一本鎖Fv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVドメインおよびVドメインを含み、これらのドメインが単一のポリペプチド鎖中に存在するものである。scFv抗体は通常、VとVドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含むが、特定のある実施形態では、他のリンカーを用いてこれらドメインを連結することができる。
【0044】
数に関連する「約」という用語は一般に、特に明記されない限り、あるいは文脈上特に明らかでない限り、その数の±10%以内、いくつかの実施形態では±5%以内、いくつかの実施形態では±1%以内、いくつかの実施形態では±0.5%以内に収まる数を包含する(ただし、その数が許容範囲を超えて、考え得る値の100%を上回る場合は除く)。
【0045】
「補体活性化能」は、最大限の補体活性化を引き起こす刺激に曝露されて生じる補体活性化のレベルを指す。補体活性化能は通常、対象から得られる試料(例えば、血液、血漿、血清またはその他の液体試料。適宜希釈してもよい)を用いて評価され、この試料は補体を活性化する刺激にin vitroで曝露され得る。熱で不活性化した試料を対照として用いることができる。補体活性化能の測定を行うために、刺激が最大限の補体活性化を引き起こすのに十分なものである必要はないことが理解されよう。例えば、定められた期間内に生じる補体活性化の程度を補体活性化能の指標とすることができる。補体活性化を例えば、溶血(例えば、ヒツジまたはニワトリ赤血球の溶解)に基づく機能アッセイ、補体活性化の生成物(例えば、C3a、C3b、iC3b、C5a、MAC)の沈着または捕捉などの適切なアッセイを用いて測定し得る。経路特異的補体活性化能を例えば、1つまたは2つ以上の経路を活性化する適切な刺激およびアッセイ条件(例えば、アッセイ組成物中のカルシウムイオンの有無)を用いて評価し得る。例えば、抗体(例えば、IgMまたは免疫複合体)を用いて古典経路を活性化すること、リポ多糖(LPS)を用いて代替経路を活性化すること、マンナンを用いてレクチン経路のマンノース結合レクチン部分を活性化することなどが可能である。いくつかの実施形態では、古典補体経路の活性化因子としての抗体感作ヒツジまたはニワトリ赤血球と、50%の溶解が生じるのに必要な量を決定するための被験試料の各種希釈物とを用いるCH50試験を用いて、試料の総古典補体活性を測定する。溶血のパーセントを分光測定により決定することができる。依然として50%の溶解が得られる試料の希釈率が高い(すなわち、試料が希釈されている)ほど補体活性化能が高い。いくつかの実施形態では、ELISAに基づくアッセイを用いる。いくつかの実施形態では、概ね国際出願PCT/US2010/035871号(国際公開第2010135717号)(実施例を参照)に記載されている通りに、iC3bレベルに基づいて補体活性化を評価する。いくつかの実施形態では、概ね国際出願PCT/US2008/001483(国際公開第2008/097525号)のそれぞれ実施例1および2に記載されている通りに、C3bレベルに基づいて補体活性化を評価する。いくつかの実施形態では、MicroVue CH50 Eq EIA Kit(古典経路)、MicroVue Bb Plus EIA Kit(代替経路)、MicroVue iC3b EIA KitまたはMicroVue C3a Plus EIA Kit(すべてQuidel社製)を用いて、古典経路を介した補体活性化を評価する。いくつかの実施形態では、補体活性化の生成物の量を、補体活性化刺激に曝露する前に試料中に存在する未変化のC3量に対して正規化する。
【0046】
「補体成分」または「補体タンパク質」とは、補体系の活性化に関与する、あるいは補体が媒介する1つ以上の活性に関与するタンパク質のことである。古典的補体経路の成分としては、例えばC1q、C1r、C1s、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9および膜侵襲複合体(MAC)とも呼ばれるC5b−9複合体ならびに上記のいずれかの活性フラグメントまたは酵素切断産物(例えば、C3a、C3b、C4a、C4b、C5aなど)が挙げられる。代替経路の成分としては、例えばB因子、D因子およびプロパージンが挙げられる。レクチン経路の成分としては、例えばMBL2、MASP−1およびMASP−2が挙げられる。補体成分としてはほかにも、可溶性補体成分に対する細胞結合受容体が挙げられ、この場合、可溶性補体成分が結合すると細胞結合受容体がこの可溶性補体成分の1つ以上の生物活性を媒介する。このような受容体としては、例えばC5a受容体(C5aR)、C3a受容体(C3aR)、補体受容体1(CR1)、補体受容体2(CR2)、補体受容体3(CR3、CD45としても知られる)などが挙げられる。「補体成分」という用語は補体活性化の「トリガー」として働く分子および分子構造、例えば、抗原抗体複合体、微生物の表面または人工的な表面上に存在する外来の構造などを包含することを意図するものではないことが理解されよう。
【0047】
「補体制御タンパク質」とは、補体活性の制御に関与するタンパク質のことである。補体制御タンパク質は、例えば、補体活性化を阻害することにより、あるいは1種類以上の活性化補体タンパク質の崩壊を不活性化または加速することにより、補体活性をダウンレギュレートし得る。補体制御タンパク質の例としては、C1阻害因子、C4結合タンパク質、クラスタリン、ビトロネクチン、CFH、I因子ならびに細胞結合タンパク質CD46、CD55、CD59、CR1、CR2およびCR3が挙げられる。
【0048】
本明細書において2つ以上の部分に関して使用される「結合している」とは、それらの部分が互いに物理的に結び付いて、あるいは繋がって、好ましくはその新たな分子構造が使用される条件下、例えば生理的条件下でそれらの部分の結び付きが維持されるよう十分に安定な分子構造を形成することを意味するものである。本発明の特定の好ましい実施形態では、結合は共有結合である。他の実施形態では、結合は非共有結合である。部分同士が直接結合していても、間接的に結合していてもよい。2つの部分が直接結合している場合、それらは互いに共有結合しているか、あるいは2つの部分の間の分子間力が部分同士の結び付きを維持するのに十分な程度に接近している。2つの部分が間接的に結合している場合、それらはそれぞれが第三の部分と共有結合または非共有結合し、これにより両部分の間の結び付きが維持される。一般に、「結合部分」または「結合部」により結合しているという場合、両結合部分の間の結合は間接的なものであり、通常は、結合される部分のそれぞれが結合部分と共有結合している。2つの部分を「リンカー」を用いて結合させることができる。リンカーは、実体の安定性を維持できる条件下(条件によっては、必要に応じて実体の一部分を保護することがある)適度な時間内に、適度な収率が得られる量で、結合させる実体と反応する、任意の適切な部分であり得る。リンカーは通常、少なくとも2つの官能基を含み、2つの官能基一方が第一の実体と反応し、他方が第二の実体と反応する。リンカーが結合させる実体と反応した後は、「リンカー」という用語は、得られた構造のリンカーに由来する部分または少なくとも反応した官能基を含まない部分を指し得ることが理解されよう。結合部分は、結合させる実体との結合には関与せずに実体を互いに空間的に分離することを目的とする部分を含み得る。このような部分は「スペーサー」と呼ばれ得る。
【0049】
本明細書で使用される「ポリペプチド」は、任意選択でアミノ酸類似体を1つ以上含むアミノ酸のポリマーを指す。タンパク質とは、1つ以上のポリペプチドからなる分子のことである。ペプチドとは、長さが通常約2〜60アミノ酸、例えば、長さが8〜40アミノ酸の比較的短いポリペプチドのことである。「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は互換的に使用され得る。本明細書で使用されるポリペプチドは、タンパク質中に本来みられるアミノ酸、タンパク質中に本来みられないアミノ酸および/またはアミノ酸ではないアミノ酸類似体などのアミノ酸を含み得る。本明細書で使用されるアミノ酸の「類似体」は、アミノ酸と構造が類似している別のアミノ酸またはアミノ酸と構造が類似しているアミノ酸以外の化合物であり得る。タンパク質中に普通にみられる20種類のアミノ酸(「標準」アミノ酸)の当該技術分野で認められている類似体が多数知られている。例えば、炭水化物基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、コンジュゲーション、官能基化またはその他の修飾のためのリンカーなどの化学的実体を付加することにより、ポリペプチド中の1つ以上のアミノ酸を修飾することができる。特定の非限定的な適切な類似体および修飾が国際公開第2004026328号および/または以降に記載されている。ポリペプチドを、例えばN末端でアセチル化し、かつ/または例えばC末端でアミド化してもよい。
【0050】
ポリペプチドは一般に、当該技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて入手または作製することができる。例えば、ポリペプチドを天然源から単離しても、適切な発現系(例えば、組換え宿主細胞またはトランスジェニックの非ヒト動物もしくは植物によるもの)に組換えDNA技術を用いてin vitroまたはin vivoで作製しても、固相ペプチド合成などの化学的手段および/または合成ペプチドの化学ライゲーションを行う方法(例えば、Kent,S.,J Pept Sci.,9(9):574−93,2003および米国特許出願公開第20040115774号を参照)またはこれらの組合せを用いて合成してもよい。当業者であれば、適切な方法(1つまたは複数)を容易に選択するであろう。ポリペプチドはタグ、例えばエピトープタグを含み得るが、このようなタグはポリペプチドの精製および/または検出を容易にし得るものである。タグの例としては、例えば、6×His(配列番号70)、HA、Myc、SNUT、FLAG、TAPなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、タグは切断可能なものであり、例えば、タグはプロテアーゼによる切断のための認識部位を含むか、プロテアーゼによる切断のための認識部位を含む連結部分によってポリペプチドの補体阻害部分から分離されている。例えば、TEVプロテアーゼ切断部位を用いることができる。
【0051】
「ポックスウイルス」は、ポックスウイルス科(Poxyiridae)を構成する複雑な二本鎖DNAウイルスの仲間を指す。この科にはポックスウイルス科(Poxyiridae)、コードポックスウイルス亜科(Chordopoxyirinae)の1属であり、ヒトを含めた哺乳動物に感染する多数の種を含むオルソポックスウイルスが含まれる。ポックスウイルスについては、Fields,B Nら,Fields Virology,第3版,Lippincott Williams & Wilkins,2001に記載されている。オルソポックスウイルスには、特に限定されないが、ワクシニアウイルス、大痘瘡ウイルス、小痘瘡ウイルス、牛痘ウイルス、サル痘ウイルス、ラクダ痘ウイルス、豚痘ウイルスおよびエクトロメリアウイルスが含まれる。
【0052】
「ポックスウイルス補体制御タンパク質」は、多数の異なるポックスウイルスによってコードされ、1種類以上の補体経路タンパク質と結合し、補体活性化の古典経路、補体活性化の代替経路、レクチン経路またはこれらの任意の組合せのいずれかを阻害する相同タンパク質のファミリーのメンバーを指す。ポックスウイルス補体制御タンパク質は、補体活性化制御因子(RCA)スーパーファミリーとも呼ばれる補体制御タンパク質(CCP)のメンバーである(Reid,K B MおよびDay,A J,Immunol Today,10:177−80,1989)。
【0053】
「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」およびその他のこのような用語は、目的のポリペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターなどの外来核酸(通常はDNA)を含んでいる原核または真核の細胞または細胞系を指す。このような用語は、ベクターまたはその他の核酸が導入された元の細胞(1つまたは複数)の子孫を包含することが理解されよう。適切な宿主細胞としては、ポリヌクレオチドの発現に当該技術分野において日常的に用いられる(例えば、このようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド(1つまたは複数)を作製する目的で)任意の宿主細胞が挙げられ、このような細胞としては、例えば、大腸菌(E.coli)などの原核生物ならびに例えば、酵母(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))などの真菌、昆虫細胞(例えば、Sf9)、植物細胞および動物細胞、例えば、CHO、R1.1、B−W、L−M、アフリカミドリザル腎細胞(例えば、COS−1、COS−7、BSC−1、BSC−40およびBMT−10)などの哺乳動物細胞および培養ヒト細胞を含めた真核生物が挙げられる。外来核酸は、プラスミドなどのエピソームとして安定に維持され得るか、任意選択でコピーまたは逆転写の後に少なくとも一部が宿主細胞ゲノム内に組み込まれ得る。「宿主細胞」などのような用語はこのほか、核酸導入前に外来核酸のレシピエントとして使用することができる細胞または細胞系を指すのに使用される。「組換えポリヌクレオチド」とは、天然では互いに直接連結していない核酸配列を含むポリヌクレオチドのことである。例えば、核酸配列は異なる遺伝子または異なる種にみられるものであってよく、また1つ以上の配列が天然の配列のバリアントであるか、少なくとも部分的に天然の配列に相同でない人工配列であってよい。「組換えポリペプチド」とは、組換え宿主細胞もしくは無細胞in vitro発現系による外来核酸の転写および翻訳によって産生されるポリペプチドおよび/または天然では互いに直接連結していないアミノ酸配列を含むポリペプチドのことである。後者の場合、組換えポリペプチドは「キメラポリペプチド」と呼ばれる。キメラポリペプチド内のアミノ酸配列は、例えば、異なる遺伝子または異なる種にみられるものであってよく、また1つ以上の配列が天然の配列のバリアントであるか、少なくとも部分的に天然の配列に相同でない人工配列であってよい。キメラポリペプチドは2つ以上のポリペプチドを含み得ることが理解されよう。例えば、キメラポリペプチドの第一と第二のポリヌクレオチドAとBが直接連結していても(A−BまたはB−A)、第三のポリペプチド部分によって分離されていても(A−C−BまたはB−C−A)よい。いくつかの実施形態では、部分Cは、例えばグリシン残基および/またはセリン残基を複数含み得る、ポリペプチドリンカーを表す。いくつかの実施形態では、2つ以上のポリペプチドが非ポリペプチドリンカー(1つまたは複数)によって連結され得る。
【0054】
本明細書で使用される「反応性官能基」は、特に限定されないが、オレフィン、アセチレン、アルコール、フェノール、エーテル、オキシド、ハロゲン化物、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、シアナート、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、アミン、ヒドラジン、ヒドラゾン、ヒドラジド、ジアゾ、ジアゾニウム、ニトロ、ニトリル、メルカプタン、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホン酸、スルフィン酸、アセタール、ケタール、無水物、硫酸、スルフェン酸、イソニトリル、アミジン、イミド、イミダート、ニトロン、ヒドロキシルアミン、オキシム、ヒドロキサム酸、チオヒドロキサム酸、アレン、オルトエステル、亜硫酸、エナミン、イナミン、尿素、イソ尿素、セミカルバジド、カルボジイミド、カルバミン酸、イミン、アジド、アゾ化合物、アゾキシ化合物およびニトロソ化合物、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、マレイミド、スルフィドリルなどを含めた基を指す。上に挙げた各官能基を調製する方法は当該技術分野で周知であり、特定の目的でのその適用または修飾は当業者の能力の範囲内にある(例えば、SandlerおよびKaro編,ORGANIC FUNCTIONAL GROUP PREPARATIONS,Academic Press,San Diego,1989ならびにHermanson,G.,Bioconjugate Techniques,第2版,Academic Press,San Diego,2008を参照されたい)。
【0055】
「特異的結合」は一般に、標的ポリペプチド(またはより一般には標的分子)と、抗体またはリガンドなどの結合分子との間の物理的な結び付きを指す。この結び付きは通常、結合分子によって認識される抗原決定基、エピトープ、結合ポケットまたは間隙などの標的の特定の構造的特徴の存在に依存するものである。例えば、抗体がエピトープAに対して特異的である場合、遊離の標識されたAおよびそれと結合する結合分子をともに含有する反応物中に、エピトープAを含むポリペプチドが存在することまたは遊離の未標識のAが存在することにより、結合分子と結合する標識されたAの量が減少する。このほか、特異性は完全なものである必要はなく、一般に結合が起こる状況を指すものであることを理解するべきである。例えば、多くの抗体が、標的分子中に存在するエピトープに加えて他のエピトープと交差反応することが当該技術分野で周知である。このような交差反応性は、抗体を使用する適用によっては許容され得るものである。当業者は、任意の適用において(例えば、標的分子の検出のため、治療目的など)、十分に機能できる程度の特異性を有する抗体またはリガンドを選択することができるであろう。このほか、結合分子と他の標的、例えば競合物質との親和性に対する結合分子と標的分子との親和性などの他の因子の観点から特異性が評価され得ることも理解するべきである。結合分子が検出することを望む標的分子に対して高い親和性を示し、非標的分子に対しては低い親和性を示せば、その抗体は許容される試薬である可能性があるであろう。結合分子の特異性が1つ以上の状況において確認されれば、その特異性を再び評価する必要なしにそれを他の状況、好ましくはほぼ同じ状況で用いることができる。いくつかの実施形態では、2分子、例えば、特異的結合を示す2分子の親和性(平衡解離定数Kdにより測定される)は、試験条件下、例えば生理的条件下(例えば、対応するin vivoの条件に適度に類似している塩濃度、pHおよび/または温度などの条件)またはその他のアッセイ条件で10−3M以下、例えば10−4M以下、例えば10−5M以下、例えば10−6M以下、10−7M以下、10−8M以下または10−9M以下である。当該技術分野で公知の様々な方法のいずれかを用いて、結合親和性を測定することができる。例えば、等温滴定熱量測定または表面プラズモン共鳴に基づくアッセイ(例えば、Biacore(登録商標)アッセイ)を特定の実施形態に用いることができる。
【0056】
本発明に従って治療する「対象」は通常、ヒト、非ヒト霊長類または別の哺乳動物(例えば、マウスまたはラット)である。少なくとも補体阻害剤を投与する実施形態では、対象は、使用する特定の補体阻害剤によって阻害され得る補体成分を少なくとも1つ発現するものでなければならないことが理解されよう。例えば、霊長類補体に特異的な補体阻害剤は通常、ヒトもしくは非ヒト霊長類またはヒト補体成分(1つまたは複数)を発現するよう遺伝子操作された動物モデルに投与される。いくつかの実施形態では、対象は雄である。いくつかの実施形態では、対象は雌である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は少なくとも12歳である。いくつかの実施形態では、対象は成体、例えば、少なくとも18歳、例えば18〜100歳のヒトである。いくつかの実施形態では、対象は少なくとも40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳または80歳である。いくつかの実施形態では、対象は子供、例えば、0〜4歳または5〜11歳のヒトである。
【0057】
対象を治療することに関連して本明細書で使用される「治療(すること)」は、治療を提供すること、すなわち、対象の任意のタイプの内科的または外科的処置を提供することを指す。治療は、疾患を正常な状態に戻す、それを軽減する、疾患の進行を抑制する、疾患を予防する、疾患の可能性を低下させるために、あるいは疾患の1つ以上の症状または徴候を正常な状態に戻す、それを軽減する、それを抑制する、疾患の1つ以上の症状または徴候の進行を防ぐ、疾患の1つ以上の症状または徴候を予防する、疾患の1つ以上の症状または徴候の可能性を低下させるために提供され得る。「予防する」とは、少なくともいくつかの個体、例えば、疾患、症状または徴候の発現するリスクのある個体に疾患または疾患の症状もしくは徴候が少なくとも一定期間は生じないようにすることを指すものである。治療には、疾患を示す1つ以上の症状または徴候が発現したときに、例えば、疾患を正常な状態に戻す、それを軽減する、疾患の重症度を軽減するおよび/または疾患の進行を抑制するもしくは防ぐために、ならびに/あるいは疾患の1つ以上の症状もしくは徴候を正常な状態に戻す、それを軽減する、疾患の1つ以上の症状もしく徴候の重症度を軽減するおよび/または抑制するために、対象に化合物または組成物を投与することが含まれ得る。疾患を発症している対象または疾患の発症リスクが一般集団の者より高い対象、任意選択で年齢、性別および/またはその他の人口統計学的変数(1つまたは複数)の点でその対象と一致する者に化合物または組成物を投与することができる。
【0058】
特定のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「バリアント」には、それぞれ「元のポリペプチド」または「元のポリヌクレオチド」と呼ぶことができるポリペプチドまたは核酸に対して1つ以上の改変(例えば、付加、置換および/または削除。これらをまとめて「変異」と呼ぶことができる)がみられる。したがって、バリアントは、それがバリアントとなっているポリペプチドまたはポリヌクレオチドより短いものでも、長いものでもあり得る。「バリアント」という用語は「フラグメント」を包含する。「フラグメント」とは、元のポリペプチドより短い連続するポリペプチドの一部分のことである。本発明の特定の実施形態では、バリアントポリペプチドは、バリアントの長さまたはポリペプチドの長さ(いずれか短い方)の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれ以上を含むバリアントの連続する一部分にわたって、元のポリペプチドと有意な配列同一性を有する。本発明の特定の実施形態では、バリアントポリペプチドは、バリアントの長さまたはポリペプチドの長さ(いずれか短い方)の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれ以上を含むバリアントの連続する一部分にわたって、元のポリペプチドと実質的に配列同一性を有する。非限定的な実施形態では、バリアントは、バリアントの90%〜100%を含むバリアントの連続する一部分にわたって、例えば、バリアントの長さまたはポリペプチドの長さ(いずれか短い方)の100%にわたって、元の配列と少なくとも80%の同一性を有する。別の非限定的な実施形態では、バリアントは、バリアントの90%〜100%を含むバリアントの連続する一部分にわたって、例えば、バリアントの長さまたはポリペプチドの長さ(いずれか短い方)の100%にわたって、元の配列と少なくとも80%の同一性を有する。特定の実施形態では、バリアントポリペプチドの配列には元の配列に対してN個のアミノ酸の相違があり、ここでNは、1〜10の任意の整数である。他の特定の実施形態では、バリアントポリペプチドの配列には元の配列に対してN個のアミノ酸の相違があり、ここでNは、1〜20の任意の整数である。アミノ酸の「相違」は、アミノ酸の置換、挿入または削除を指す。
【0059】
本発明の特定の実施形態では、フラグメントまたはバリアントは、その三次元構造(実際の構造または予測構造)を元のポリペプチドの構造と重ね合わせたとき、重なる体積が元のポリペプチドの構造の総体積の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%になるように元のポリペプチドと十分な構造的類似性を有する。フラグメントまたはバリアントの部分的なまたは完全な三次元構造は、タンパク質を結晶化することによって決定され得るものであり、結晶化は標準的な方法を用いて行うことができる。あるいは、同じく標準的な方法を用いて、NMR溶液構造を作成することができる。MODELERのようなモデリングプログラム(Sali,A.およびBlundell,TL,J.Mol.Biol.,234,779−815,1993)またはその他の任意のモデリングプログラムを用いて予測構造を作成することができる。関連するポリペプチドの構造または予測構造が利用できれば、モデルはその構造に基づくものとなり得る。PROSPECT−PSPPのプログラム一式を用いることができる(Guo,JTら,Nucleic Acids Res.32(ウェブサーバ版):W522−5,July 1,2004)。
【0060】
多くの実施形態では、バリアントまたはフラグメントの1つ、2つ以上またはすべての生物学的機能または活性が、元の分子の対応する生物学的機能または活性と実質的にほぼ同じである。特定の実施形態では、バリアントまたはフラグメントの活性は、元の分子の活性の少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%、元の分子の最大約100%、約125%または約150%であり得る。特定の実施形態では、バリアントまたはフラグメントの活性は、何らかの効果を得るのに必要なバリアントの量または濃度が、その効果を得るのに必要な元の分子の量または濃度の0.5〜5倍以内になる程度のものである。本発明は、本明細書に開示されるいずれかの補体阻害ポリペプチドのバリアントの使用を企図し、そのバリアントは、本明細書に記載の方法に有用な程度に補体を阻害するものである。いくつかの実施形態では、バリアントは、免疫原性などの望ましくないと思われる特性がないか、大幅に減少している。
【0061】
本明細書で使用される「アルキル」は、約1個〜約22個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)を有する飽和の直鎖状、分岐状または環状炭化水素を指し、本発明の特定のある実施形態では、炭素原子の数は約1個〜約12個または約1個〜約7個が好ましい。アルキル基としては、特に限定されないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、シクロペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、シクロオクチル、アダマンチル、3−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチルおよび2,3−ジメチルブチルが挙げられる。
【0062】
本明細書で使用される「ハロ」はF、Cl、BrまたはIを指す。
【0063】
本明細書で使用される「アルカノイル」は、約1個〜10個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)、例えば、理解されるように、末端のC=O基と単結合で結合した(「アシル基」と呼ばれることもある)約1個〜7個の炭素原子を有し、任意選択で置換されている直鎖状または分岐状の脂肪族非環状残基を指す。アルカノイル基としては、特に限定されないが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、イソペンタノイル、2−メチル−ブチリル、2,2−ジメトキシプロピオニル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイルなどが挙げられ、本発明の目的のためには、ホルミル基はアルカノイル基と見なされる。「低級アルカノイル」は、約1個〜約5個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)を有し、任意選択で置換されている直鎖状または分岐状の脂肪族非環状残基を指す。このような基としては、特に限定されないが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、イソペンタノイルなどが挙げられる。
【0064】
本明細書で使用される「アリール」は、約5個〜約14個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)、好ましくは約6個〜約10個の炭素原子を有し、任意選択で置換されている単環式または二環式の芳香環系を指す。非限定的な例としては、例えばフェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0065】
本明細書で使用される「アラルキル」は、アリール置換基を有し、かつ約6個〜約22個の炭素原子(ならびにその炭素原子の範囲および特定の数のすべての組合せおよび部分的組合せ)を有するアルキルラジカルを指し、特定の実施形態では、炭素原子の数は約6個〜約12個が好ましい。アラルキル基は、任意選択で置換されていてもよい。非限定的な例としては、例えば、ベンジル、ナフチルメチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、フェニルエチルおよびジフェニルエチルが挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される「アルコキシ」および「アルコキシル」という用語は、任意選択で置換されているアルキル−O−基を指し、ここでは、アルキルは上で定義した通りのものである。アルコキシ基およびアルコキシル基の例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシおよびヘプトキシが挙げられる。
【0067】
本明細書で使用される「カルボキシ」は−C(=O)OH基を指す。
【0068】
本明細書で使用される「アルコキシカルボニル」は−C(=O)O−アルキル基を指し、ここでは、アルキルは上で定義した通りのものである。
【0069】
本明細書で使用される「アロイル」は−C(=O)−アリール基を指し、ここでは、アリールは上で定義した通りのものである。アロイル基の例としては、ベンゾイルおよびナフトイルが挙げられる。
【0070】
「環系」という用語は、一部が不飽和であるか完全に飽和されている芳香族または非芳香族の3員〜10員環系を指し、これには、3〜8個の原子の大きさの単環ならびに非芳香環と融合した芳香族5員もしくは6員アリール基または芳香族複素環基を含み得る二環系および三環系が含まれる。このような複素環には、独立して酸素、硫黄および窒素からなる群より選択されるヘテロ原子を1個〜3個有する複素環が含まれる。特定の実施形態では、複素環という用語は、少なくとも1つの環原子がO、SおよびNからなる群より選択されるヘテロ原子である非芳香族5員、6員もしくは7員環基または多環基を指し、これには、特に限定されないが、独立して酸素、硫黄および窒素からなる群より選択されるヘテロ原子を1個〜3個有する融合6員環を含む二環基または三環基が含まれる。いくつかの実施形態では、「環系」はシクロアルキル基を指し、本明細書で使用されるシクロアルキル基は、3個〜10個、例えば4個〜7個の炭素原子を有する基を指す。シクロアルキルとしては、特に限定されないが、任意選択で置換されているシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、「環系」は、任意選択で置換されているシクロアルケニル部分またはシクロアルキニル部分を指す。
【0071】
置換されている化学的部分には通常、水素に代わる置換基が1つ以上含まれている。置換基の例としては、例えば、ハロ、アルキル、シクロアルキル、アラルキル、アリール、スルフィドリル、ヒドロキシル(−OH)、アルコキシル、シアノ(−CN)、カルボキシル(−COOH)、−C(=O)O−アルキル、アミノカルボニル(−C(=O)NH)、−N−置換アミノカルボニル(−C(=O)NHR”)、CF、CFCFなどが挙げられる。上記の置換基について、部分R’’はそれぞれ独立して、例えばH、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルのいずれかであり得る。
【0072】
本明細書で使用される「L−アミノ酸」は、タンパク質中に普通に存在する天然の左旋性のα−アミノ酸またはこのα−アミノ酸のアルキルエステルのいずれかを指す。「D−アミノ酸」という用語は右旋性のα−アミノ酸を指す。特に明記されない限り、本明細書で言及されるアミノ酸はすべてL−アミノ酸である。
【0073】
本明細書で使用される「芳香族アミノ酸」とは、芳香環を少なくとも1つ含むアミノ酸のことであり、例えば、芳香族アミノ酸はアリール基を含む。
【0074】
本明細書で使用される「芳香族アミノ酸類似体」とは、芳香環を少なくとも1つ含むアミノ酸類似体のことであり、例えば、芳香族アミノ酸類似体はアリール基を含む。
【0075】
II.補体阻害剤を用いる障害の治療方法
本発明は特に、補体阻害剤を用いる慢性補体介在性障害の治療方法を提供する。例えば、本発明は、補体阻害剤を用いる慢性呼吸器系障害の治療方法を提供する。いくつかの態様では、本発明の方法は、補体阻害剤がその血漿中半減期および/または血漿補体活性化能を阻害する作用持続時間と比較して、様々な障害、例えば慢性呼吸器障害の治療における作用持続時間が長いという認識に少なくとも部分的に基づくものである。いくつかの態様では、本発明は、補体阻害剤の複数回投与を実施することによって慢性補体介在性障害の治療方法を提供し、この方法では、長期間の補体阻害効果を利用する投与スケジュールに従って補体阻害剤を投与する。
【0076】
本明細書で使用される「慢性障害」とは、少なくとも3か月間持続し、かつ/または当該技術分野で慢性障害として認められている障害のことである。多くの実施形態では、慢性障害は少なくとも6か月間、例えば、少なくとも1年間またはそれ以上、例えば無期限に持続するものである。当業者は、各種慢性障害の徴候の少なくとも一部が断続的なものであり得、かつ/または重症度の増悪と寛解を経時的に繰り返し得ることを理解するであろう。慢性障害は、例えば経時的に重症になる、あるいは罹患領域が広がる傾向のある進行性のものであり得る。本明細書では多数の慢性補体介在性障害について述べる。本明細書では、補体介在性の慢性呼吸器障害、特に喘息およびCOPDに関する本発明の各種実施形態について最も詳細に述べるが、本発明の各種態様は、特に限定されないが、本明細書に開示される特定の障害を含めた任意の慢性補体介在性障害に関する実施形態を包含するということを理解するべきである。したがって、本明細書のある実施形態が慢性呼吸器障害のことを言う場合、本発明は、他の補体介在性障害、例えば、補体活性化(例えば、過剰な補体活性化または異常な補体活性化)が、例えば寄与因子および/または少なくとも原因の一部として関与する慢性障害に関する類似の実施形態を提供する。便宜上、障害に罹患している対象の特に冒されることが多い器官または系を参照して障害を分類することがある。複数の器官または系を冒す障害は多数存在すると考えられ、本明細書での分類は決して限定的なものではないということが理解されよう。さらに、多数の異なる障害のいずれかに罹患している対象に多数の徴候(例えば、症状)がみられることがある。いくつかの態様では、本発明は、このような徴候(1つまたは複数)の治療を必要とする対象を治療する方法、例えば、このような徴候(1つまたは複数)を軽減する方法を提供し、その方法は、本発明の投与スケジュール(例えば、本発明の投与間隔を用いる投与スケジュール)に従って補体阻害剤を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、対象は複数の補体介在性障害に罹患している。本明細書で目的とする障害に関する非限定的な情報は、例えば、Cecil Textbook of Medicine(例えば、第23版)、Harrison’s Principles of Internal Medicine(例えば、第17版)などの内科学の標準的なテキストならびに/あるいは特定の医学領域、特定の体組織もしくは器官および/または特定の障害に焦点を絞り込んだ標準的なテキストにみることができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害はTh2と関連のある障害である。本明細書で使用されるTh2と関連のある障害とは、身体またはその一部分、例えば、少なくとも1つの組織、器官または構造においてTh2サブタイプのCD4+ヘルパーT細胞(「Th2細胞」)の数が過剰であることおよび/またはその活性が過剰であるか異常であることを特徴とする障害のことである。例えば、障害に冒された少なくとも1つの組織、器官または構造において、Th2細胞の方がTh1サブタイプのCD4+ヘルパーT細胞(「Th1細胞」)より優勢な場合がある。当該技術分野で公知のように、Th2細胞は通常、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)およびインターロイキン−13(IL−13)などの特徴的なサイトカインを分泌するが、Th1細胞は通常、インターフェロン−γ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子β(TNFβ)を分泌する。いくつかの実施形態では、Th2と関連のある障害は、例えば少なくとも一部の少なくとも1つの組織、器官または構造において、IL−4、IL−5および/またはIL−13の産生および/または量が、例えばIFN−γおよび/またはTNFβに比べて過剰であることを特徴とする。
【0078】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害はTh17と関連のある障害である。本明細書で使用されるTh17と関連のある障害とは、身体またはその一部分、例えば、少なくとも1つの組織、器官または構造においてTh17サブタイプのCD4+ヘルパーT細胞(「Th17細胞」)の数が過剰であることおよび/またはその活性が過剰であるか異常であることを特徴とする障害のことである。例えば、障害に冒された少なくとも1つの組織、器官または構造において、Th17細胞の方がTh1細胞および/またはTh2細胞より優勢な場合がある。いくつかの実施形態では、Th17細胞の優勢は相対的な優勢である、例えば、Th17細胞とTh1細胞の比および/またはTh17細胞とTh2細胞の比が正常値より高くなっている。いくつかの実施形態では、Th17細胞と制御T細胞(CD4CD25制御T細胞。「Treg細胞」とも呼ばれる)の比が正常値より高くなっている。Th17細胞の形成および/またはTh17細胞の活性化は各種サイトカイン、例えば、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン21(IL−21)、インターロイキン23(IL−23)および/またはインターロイキン1β(IL−1β)によって促進される。Th17細胞の形成には、前駆体T細胞、例えばナイーブCD4+T細胞がTh17表現型に分化し、それが機能的なTh17細胞に成熟することが含まれる。いくつかの実施形態では、Th17細胞の形成にはTh17細胞の発生、増殖(拡大)、生存および/または成熟の任意の側面が含まれる。いくつかの実施形態では、Th17と関連のある障害は、IL−6、IL−21、IL−23および/またはIL−1βの過剰な産生および/または量を特徴とする。Th17細胞は通常、インターロイキン−17A(IL−17A)、インターロイキン−17F(IL−17F)、インターロイキン−21(IL−21)およびインターロイキン−22(IL−22)などの特徴的なサイトカインを分泌する。いくつかの実施形態では、Th17と関連のある障害は、Th17エフェクターサイトカイン、例えばIL−17A、IL−17F、IL−21および/またはIL−22の過剰な産生および/または量を特徴とする。いくつかの実施形態では、サイトカインの過剰な産生または量が血液中に検出可能である。いくつかの実施形態では、サイトカインの過剰な産生または量が局所的に、例えば、少なくとも1つの組織、器官または構造に検出可能である。いくつかの実施形態では、Th17と関連のある障害は、Treg数の減少および/またはTregと関連のあるサイトカインの量の減少を原因とするものである。いくつかの実施形態では、Th17障害は任意の慢性炎症性疾患であり、この用語には、様々な組織に対する自己永続的な免疫傷害を特徴とする様々な疾患であって、その疾患を引き起こした最初の傷害(不明な場合もある)から分離したと思われるものが包含される。いくつかの実施形態では、Th17と関連のある障害は任意の自己免疫疾患である。ほとんどではないにしても多数の「慢性炎症性疾患」は、実際には自己免疫疾患であり得る。Th17と関連のある障害の例としては、乾癬およびアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患;全身性強皮症および全身性硬化症;炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎など);ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;変形性関節症;ループス腎炎;関節リウマチ(RA)、Sjorgen症候群、多発性硬化症、血管炎;中枢神経系(CNS)炎症性障害、慢性肝炎;慢性膵炎、糸球体腎炎;サルコイドーシス;甲状腺炎、組織/臓器移植に対する病的免疫応答(例えば、移植拒絶反応);COPD、喘息、細気管支炎、過敏性間質性肺炎、特発性肺線維症(IPF)、歯周炎および歯肉炎が挙げられる。いくつかの実施形態では、Th17疾患は、1型糖尿病または乾癬などの古典的に知られている自己免疫疾患である。いくつかの実施形態では、Th17と関連のある障害は加齢黄斑変性症である。
【0079】
いくつかの態様では、本開示は、補体活性化およびTh17細胞が樹状細胞および抗体を含むサイクルに関与し、様々な障害の基礎となる病的な免疫微小環境の維持の一因となっているという洞察を提供するものである。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、病的な免疫微小環境は、一度確立されると自律して持続し、細胞および組織損傷の一因となる。樹状細胞(DC)は、体の組織、特に皮膚および粘膜の表面などの外部環境に曝される組織のほとんどならびに血液中(未成熟の状態で存在し得る)にみられる白血球の一種である。未成熟DCは、例えば、Toll様受容体(TLR)などのパターン認識受容体を介して、周囲環境の病原体をサンプリングしている。各種の刺激(例えば、病原体による物質またはその他の危険シグナル、炎症性サイトカインおよび/または抗原活性化T細胞)に応答すると、DCは成熟してリンパ系組織に移動し、そこで抗原提示細胞として働き、T細胞およびB細胞などの他の免疫系細胞に抗原フラグメントを非抗原特異的な共刺激分子とともに提示することによって、これらを活性化する。DC刺激がTh細胞の増殖、活性化およびエフェクターTh細胞への分化を促進する。エフェクターTh細胞は、例えば、各種の刺激作用を有するサイトカインを分泌することによって、細胞傷害性T細胞、B細胞およびマクロファージを「補助」する。Thによる補助は、例えば、細胞傷害性T細胞の増殖および活性化を増強し、またB細胞の増殖、成熟および抗体産生を刺激する。本開示の特定の態様において特に重要なのは、成熟DCがCD4+ヘルパーT細胞をTh17細胞に分化させてB細胞の成熟および活性化を刺激し、抗体産生をもたらすことができるということである。
【0080】
抗体応答は一般にポリクローナルであり、抗体のほとんどが低親和性である。しかし、このような抗体のあるものは、様々な方法のいずれかの方法で翻訳後に体内で酵素的に、あるいは非酵素的に化学修飾された自己タンパク質などの自己タンパク質に対して交差反応性を示すことがある。このような自己タンパク質は、例えば、細胞表面に露出している場合、間質腔に存在する場合および/または血中を循環している場合がある。自己タンパク質の修飾としては、例えば、アシル化および/または糖化(タンパク質または脂質と糖との間での非酵素的な共有結合形成)が挙げられる。例えば、タンパク質は多数の方法で酸化され得るが、このような方法は少なくとも3種類に分類することができる。1つ目の機序は、タンパク質主鎖またはアミノ酸側鎖、例えば、Pro、Arg、Lys、Thr、GluまたはAsp残基の側鎖での酸化的切断を含むものであり、この酸化的切断は活性酸素種(ROS)による直接的な酸化によって生じる。通常の細胞代謝時には特定のROSが生成し、このような化合物の潜在的に有害な作用から防御する各種の機序が存在する。ROSの例としては、例えば、スーパーオキシドアニオン、過酸化水素およびペルオキシ亜硝酸が挙げられる。環境および/または細胞プロセスもしくは抗酸化機序の欠陥によって過剰なレベルの活性酸素種(ROS)が生じ、高レベルの酸化ストレスがもたらされ得る。タンパク質酸化の2つ目の機序は、4−ヒドロキシ−2−ノネアル(noneal)、2−プロペナールまたはマロンジアルデヒドなどの脂質酸化生成物がタンパク質に付加されることによるものである。3つめの機序では、糖化最終産物(AGE)の酸化によって、タンパク質中にカルボニル基が生じる。AGEは、最初の糖化反応後の一連の化学反応によって形成され得るものである。AGE修飾部位の例にはカルボキシメチルリジン(CML)およびカルボキシエチルリジン(CEL)がある。ROSは多価不飽和脂質を分解し、脂質過酸化最終産物(ALE)と呼ばれる共有結合によるタンパク質付加物を形成する反応性アルデヒドのマロンジアルデヒドを形成し得る。ドコサヘキサエン酸含有脂質の酸化によりカルボキシエチルピロール(CEP)によるタンパク質修飾が生じる。
【0081】
修飾された自己タンパク質(例えば、マロンジアルデヒド修飾タンパク質、CEP修飾タンパク質)は、免疫系、例えば抗体によって非自己として認識されるエピトープを含み得る。抗体が自己タンパク質と結合すると、古典経路を介して補体活性化が起こる。古典経路媒介による補体活性化は一度開始されると、代替経路によって増幅される。本開示の特定の態様によれば、活性化された補体がDCを極性化してTh17表現型を維持させる。例えば、DCは、Th17の形成および/または活性化を促進するIL−23などのサイトカインを分泌するよう極性化され得る。アナフィロトキシン(例えば、C3a、C4aおよび/またはC5a)などの補体切断生成物および/またはiC3bもしくはC3dなどのC3切断/分解生成物は、DC細胞表面受容体と結合し、DCが極性化されてTh17表現型を維持する一因となり得る。補体がDCを極性化する方法の例には、酸化アルミニウムによる樹状細胞の活性化がある。酸化アルミニウムはワクチンのアジュバントとして広く用いられている。酸化アルミニウムが補体を活性化し、このことがDCを刺激し、Th2表現型およびTh17表現型を促進し維持させる。補体はほかにも、他の種類の抗原提示細胞も極性化する。単球およびマクロファージは抗原提示細胞として働くことができ、同様に補体活性化によって極性化され得る。いくつかの態様では、このサイクルを次のようにまとめることができる:(1)補体活性の高い環境中にある成熟樹状細胞がTh17細胞表現型の分化を刺激する;(2)Th17 T細胞がポリクローナルB細胞の拡大を刺激し、例えば、カルボニル修飾された自己タンパク質などの修飾自己タンパク質に対してポリクローナルの自己反応性抗体が産生される;(3)酸化ストレスによってカルボニル修飾された自己タンパク質が生じ得る。これは、例えば汚染物質、タバコ煙またはアレルゲンが原因で生じ得る;(4)カルボニル修飾された自己タンパク質に対する自己反応性抗体が、補体活性の高い環境を促進または維持し得る;(5)補体活性が高いことが抗原提示細胞にTh17微小環境を維持させる。
【0082】
このサイクルをもたらし組織に損傷を与えるエフェクター経路には様々なものがあり、いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、主要な経路はマクロファージを介するものであると考えられる。いくつかの態様では、Th17細胞により分泌されるIL−17が単独で、あるいはインターフェロンガンマ(IFN−γ)などの1種類以上の他のサイトカインとともに、マクロファージ活性化および/またはM1表現型への極性化の一因となる。M1極性化マクロファージは、炎症誘発性サイトカインを高レベルで発現すること、活性窒素および活性酸素中間体の生成量が多いことを特徴とする免疫エフェクター細胞であり、微生物および腫瘍細胞などの標的に対して強力な細胞傷害活性を示し得る。マクロファージ、例えばM1極性化マクロファージおよびそれが生成する生成物が組織損傷を引き起こすことがあり、免疫病理の重要なメディエーターとなっている。自己タンパク質およびその他の細胞成分が活性窒素および活性酸素種による修飾を受けると、機能不全に陥り、正常な細胞プロセスが阻害されることがある。機能不全の修飾タンパク質が毒性量まで蓄積すると、細胞死が起こり得る。マクロファージはこのほか、変化した自己細胞、例えば、酸化的修飾を受けたタンパク質または脂質が細胞表面に露出した自己細胞を直接死滅させることができる。マクロファージにより産生される活性窒素および活性酸素種が酸化ストレスを増幅し、上記のような機序による自己タンパク質の修飾をさらにもたらすことがあり、このことにより、自己反応性抗体およびマクロファージの新たな標的が生じる。抗体が補体をさらに活性化し、このことがDCのTh17促進表現型への極性化を維持する。このようにして、Th17細胞がB細胞を活性化し、ポリクローナル抗体が産生され、次いで補体が活性化され、これがB細胞の刺激および抗体産生の継続的な刺激を促すTh17促進表現型へのDC極性化を促進するという悪循環が繰り返される。本明細書の目的のために、上でも要約したこのサイクルを「樹状細胞−Th17細胞−B細胞−抗体−補体−樹状細胞」サイクル、略してDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルと呼ぶことがある。細胞成分を直接損傷し得るマクロファージのM1表現型およびROS産生への極性化は、このフィードバックループの「産物」として生じ得る。DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルとその産物により生じた病理学的結果は、組織または器官によって異なるものとなり得る。例えば、呼吸器系では、これらは少なくとも部分的には喘息およびCOPDなどの慢性呼吸器疾患の基礎となり得る。眼球では、これらは少なくとも部分的には加齢黄斑変性症などの慢性障害に基礎となり得る。皮膚では、これらは少なくとも部分的には乾癬の基礎となり得る。膵臓では、これらは少なくとも部分的には1型糖尿病の基礎となり得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害はIgEと関連のある障害である。本明細書で使用される「IgEと関連のある障害」とは、IgEの過剰なおよび/または異常な産生および/または量、IgE産生細胞(例えば、IgEを産生するB細胞または形質細胞)の過剰なまたは異常な活性ならびに/あるいは好酸球またはマスト細胞などのIgE応答性細胞の過剰なおよび/または異常な活性を特徴とする障害のことである。いくつかの実施形態では、IgEと関連のある障害は、対象の血漿中および/または局所の総IgEレベルの上昇および/またはいくつかの実施形態では、アレルゲン特異的IgEレベルの上昇を特徴とする。
【0084】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は補体介在性溶血、例えば、1種類以上の内因性補体制御タンパク質の欠損または変異に起因する補体介在性溶血を特徴とする。いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は、例えば、1つ以上の内因性補体制御タンパク質の欠損または変異に起因する溶血を特徴とするものではない。
【0085】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は、補体を例えば、古典経路を介して活性化し得る自己抗体および/または免疫複合体が体内に存在することを特徴とする。例えば、自己抗体は、例えば体内の細胞または組織上にある自己抗原と結合し得る。いくつかの実施形態では、自己抗体は血管、皮膚、神経、筋肉、結合組織、心臓、腎臓、甲状腺などにある抗原と結合する。いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は、自己抗体および/または免疫複合体を特徴とするものではない。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明は、補体阻害剤の複数回投与を実施することによって慢性補体介在性障害を治療する方法を提供し、ここでは、長期間の補体阻害効果を利用する投与スケジュールに従って補体阻害剤を投与する。「投与スケジュール」は、化合物(または化合物を含有する組成物)の投与のタイミングを指す。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、実質的に全治療期間を通して、例えば、体内での有意なレベルの補体阻害剤および/または有意なレベルの補体阻害を維持することを目的とした投与間隔より長い投与間隔を用いるものである。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、実質的に全治療期間を通して、例えば、補体介在性障害に冒された組織(1つまたは複数)または器官(1つまたは複数)を有意なレベルの補体阻害剤に曝露することならびに/あるいはこのような組織(1つまたは複数)または器官(1つまたは複数)(および/またはこのような組織(1つもしくは複数)もしくは器官(1つもしくは複数)と接触しているか、その中に存在する体液)において有意なレベルの補体阻害を維持することを目的とした投与間隔より長い投与間隔を用いるものである。本明細書で使用される「投与間隔」は、化合物(または化合物を含有する組成物)を連続して投与するときの投与間の時間間隔を指す。
【0087】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は呼吸器障害である。いくつかの実施形態では、慢性呼吸器障害は喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。いくつかの実施形態では、慢性呼吸器障害は肺線維症(例えば、特発性肺線維症)、放射線による肺損傷、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性間質性肺炎(アレルギー性肺胞炎としても知られる)、慢性好酸球性肺炎、間質性肺炎、サルコイド、ウェゲナー肉芽腫症または閉塞性細気管支炎である。
【0088】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害はアレルギー性鼻炎、鼻副鼻腔炎または鼻ポリープである。いくつかの実施形態では、本発明は、アレルギー性鼻炎、鼻副鼻腔炎または鼻ポリープの治療を必要とする対象を治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の投与スケジュールに従って、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は筋骨格系を冒す障害である。このような障害の例としては、炎症性関節病態(例えば、関節リウマチまたは乾癬性関節炎などの関節炎、若年性慢性関節炎、脊椎関節症、ライター症候群、痛風)が挙げられる。いくつかの実施形態では、筋骨格系障害により疼痛、硬直および/または罹患身体部位(1つまたは複数)の運動制限などの症状がみられる。皮膚筋炎、多発性筋炎およびその他の様々な筋炎を含む炎症性ミオパチーは、筋肉の衰弱をもたらす原因不明の慢性筋炎の障害である。いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は重症筋無力症である。いくつかの実施形態では、本発明は、筋骨格系を冒す上記障害のいずれかを治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の投与スケジュールに従って、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は外皮系を冒す障害である。このような障害の例としては、例えば、アトピー性皮膚炎、乾癬、天疱瘡、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、強皮症、強皮皮膚筋炎、シェーグレン症候群および慢性蕁麻疹が挙げられる。いくつかの態様では、本発明は、外皮系を冒す上記障害のいずれかを治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の投与スケジュールに従って、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は神経系、例えば、中枢神経系(CNS)および/または末梢神経系(PNS)を冒すものである。このような障害の例としては、例えば、多発性硬化症、その他の慢性脱髄性疾患、筋萎縮性側索硬化症、慢性疼痛、脳卒中、アレルギー性神経炎、ハンチントン病、アルツハイマー病、およびパーキンソン病が挙げられる。いくつかの実施形態では、本発明は、神経系を冒す上記障害のいずれかを治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の投与スケジュールに従って、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。
【0092】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は循環系を冒すものである。例えば、いくつかの実施形態では、障害は、血管炎あるいは脈管の炎症、例えば、血管および/またはリンパ管の炎症によるその他の障害である。いくつかの実施形態では、血管炎は結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、巨細胞性動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群、顕微鏡的多発血管炎、ヘノッホ‐シェーンライン紫斑病、高安動脈炎、川崎病またはベーチェット病である。いくつかの実施形態では、対象、例えば、血管炎の治療を必要とする対象は抗好中球細胞質抗体(ANCA)に陽性を示す。
【0093】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は胃腸系を冒すものである。例えば、障害は炎症性腸疾患、例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎であり得る。いくつかの実施形態では、本発明は、胃腸系を冒す慢性補体介在性障害の治療方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の投与スケジュールに従って、その障害の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与することを含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は甲状腺炎(例えば、橋本甲状腺炎、グレーブス病、分娩後甲状腺炎)、心筋炎、肝炎(例えば、C型肝炎)、膵炎、糸球体腎炎(例えば、膜性増殖性糸球体腎炎または膜性糸球体腎炎)または脂肪織炎である。
【0095】
いくつかの実施形態では、本発明は、慢性疼痛に罹患している対象を治療する方法を提供し、この方法は、本発明の投与スケジュールに従って対象に補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、対象は神経因性疼痛に罹患している。神経因性疼痛は、神経系の初期病変または機能不全によって始まる、あるいはこれによって引き起こされる疼痛、特に体性感覚系を冒す病変または疾患の直接的な結果として生じる疼痛として定義されている。例えば、神経因性疼痛は、体性感覚経路を冒し、末梢神経の細径線維および/またはCNSの脊髄視床皮質系に損傷を与える病変によって生じ得る。いくつかの実施形態では、神経因性疼痛は自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症)、代謝疾患(例えば、糖尿病)、感染症(例えば、帯状疱疹またはHIVなどのウイルス性疾患)、血管疾患(例えば、脳卒中)、外傷(例えば、傷害、外科手術)または癌によって生じる。例えば、神経因性疼痛は、傷害が治癒した後もしくは末梢神経末端の刺激が停止した後も持続する疼痛または神経の損傷によって生じる疼痛であり得る。神経因性疼痛の病態または神経因性疼痛を原因とする病態の例としては、有痛性糖尿病性ニューロパチー、ヘルペス後神経痛(例えば、急性発症から3か月以上後に急性帯状疱疹部位に持続または再発する疼痛)、三叉神経痛、癌と関連する神経因性疼痛、化学療法による神経因性疼痛、HIVと関連する神経因性疼痛(例えば、HIVニューロパチーによるもの)、中枢性/脳卒中後の神経因性疼痛、背部痛、例えば腰痛(例えば、脊髄根圧迫、例えば、椎間板ヘルニアによって生じ得る腰椎根圧迫などの神経根症によるもの)によるニューロパチー、脊柱管狭窄症、末梢神経傷害性疼痛、幻肢痛、多発性ニューロパチー、脊髄損傷に関連する疼痛、脊髄症および多発性硬化症が挙げられる。本発明の特定の実施形態では、本発明の投与スケジュールに従って補体阻害剤を投与し、上記病態を1つ以上有する対象の神経因性疼痛を治療する。
【0096】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は慢性眼疾患である。いくつかの実施形態では、慢性眼疾患は黄斑変性症、脈絡膜血管新生(CNV)、網膜血管新生(RNV)、眼炎症または上記の任意の組合せを特徴とする。黄斑変性症、CNV、RNVおよび/または眼炎症は、その障害を決定付ける特徴および/または診断的特徴であり得る。このような特徴のうちの1つ以上を特徴とする障害の例としては、特に限定されないが、黄斑変性症と関連する病態、糖尿病性網膜症、早産児の網膜症、増殖性硝子体網膜症、ブドウ膜炎、角膜炎,結膜炎および強膜炎が挙げられる。黄斑変性症と関連する病態としては、例えば加齢黄斑変性症(AMD)が挙げられる。いくつかの実施形態では、対象は湿潤型AMDの治療を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、対象は乾燥型AMDの治療を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、対象は地図状萎縮(GA)の治療を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、対象は眼炎症の治療を必要とする対象である。眼炎症は、結膜(結膜炎)、角膜(角膜炎)、上強膜、強膜(強膜炎)、ブドウ膜路、網膜、血管系および/または視神経などの眼の多数の構造を冒す。眼炎症の証拠としては、眼球内の白血球(例えば、好中球、マクロファージ)などの炎症関連細胞の存在、内因性の炎症性メディエーター(1つまたは複数)の存在、眼痛、充血、光過敏、霧視および飛蚊症のような1つ以上の症状などが挙げられる。ブドウ膜炎は、眼のブドウ膜、例えば、虹彩、毛様体または脈絡膜を含めたブドウ膜のいずれかの構造の炎症を指す一般用語である。ブドウ膜炎の具体的な種類としては、虹彩炎、虹彩毛様体炎、毛様体炎、毛様体扁平部炎および脈絡膜炎が挙げられる。いくつかの実施形態では、対象は地図状萎縮(GA)の治療を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、慢性眼疾患は、緑内障などの視神経損傷(例えば、視神経変性)を特徴とする眼疾患である。
【0097】
いくつかの実施形態では、慢性補体介在性障害は、移植された臓器、組織、細胞または細胞集団(まとめて「移植片」と呼ぶ)の慢性拒絶反応である。移植片の例としては、例えば、腎臓、肝臓、肺、膵臓、心臓などの固形臓器;軟骨、腱、角膜、皮膚、心臓弁および血管などの組織;膵島または島細胞が挙げられる。移植拒絶反応は、遺伝的に異なる同種個体間での移植(同種移植)または異種個体間での移植(異種移植)によって生じる主要なリスクの1つであり、移植不全を引き起こし、レシピエントから移植片を除去する必要が生じる。本明細書で使用される「慢性拒絶反応」は、移植後少なくとも6か月、例えば、移植後6か月〜1年、2年、3年、4年、5年またはそれ以上、多くの場合、良好な移植片機能の数か月から数年後にみられる拒絶反応を指す。本明細書の目的には、慢性拒絶反応に移植組織内部の血管の線維症を表すために使用される用語の慢性移植片血管症を含め得る。いくつかの実施形態では、本発明は、移植片の慢性拒絶反応を抑制するための治療を必要とする対象を治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の投与スケジュールに従って対象に補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明は、既に移植を受けた対象または今後12週間以内に移植を受ける予定の対象を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、移植後1か月、2か月、3か月、6か月または12か月以内に治療を開始する。
【0098】
いくつかの態様では、本発明は、慢性補体介在性障害、例えば慢性呼吸器障害の治療を必要とする対象を治療する方法を提供し、この方法は、補体阻害剤の複数回投与を、平均で(i)補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の20%以下に減少して少なくとも2週間後に;(ii)前回の投与後に血漿補体活性化能がベースラインの少なくとも50%まで、もしくは正常範囲内まで回復して少なくとも2週間後に;(iii)補体阻害剤の終末血漿中半減期の少なくとも2倍に等しい間隔で;または(iv)少なくとも3週間の間隔で次の投与を実施する投与スケジュールに従って、対象に実施することを含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも3週間、例えば3〜15週間、例えば3〜12週間、例えば3〜10週間、例えば4〜8週間、例えば約4週間、5週間、6週間、7週間または8週間毎の平均投与間隔での補体阻害剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、上記条件のうち少なくとも2つが満たされる。いくつかの実施形態では、上記条件のうち少なくとも3つが満たされる。いくつかの実施形態では、上記条件がすべて満たされる。
【0099】
本発明の特定の実施形態では、少なくとも部分的に補体阻害剤の局所補体活性化能および/または局所濃度に基づいて選択される投与スケジュールに従って、補体阻害剤を投与する。本発明の目的のため、「局所補体活性化能」は、補体介在性障害によって冒された組織または器官における補体活性化能を指し、この補体活性化能は、例えば、このような組織または器官から得られた関連試料を用いて決定され得る。本発明の目的のため、「局所濃度」、例えば、補体阻害剤またはTh17関連サイトカインなどのTh17の局所濃度は、組織または器官(例えば、補体介在性障害によって冒された組織または器官)中の濃度を指し、この濃度は、このような組織または器官から得られた関連試料を用いて決定され得る。いくつかの実施形態では、試料は、補体介在性障害によって冒された組織または器官(またはその一部分)から得られた体液を含む。いくつかの実施形態では、体液はBAL液、痰(例えば、誘発喀痰)、胸水、滑液、硝子体液、房水または脳脊髄液である。本発明は本明細書に記載の方法のいずれかの変形形態を提供し、この変形形態では、血漿補体活性化能の代わりに、あるいはこれに加えて局所補体活性化能を用いる。例えば、本発明の特定の実施形態では、前回の投与後に局所補体活性化能がベースラインの少なくとも50%まで、または正常範囲内まで回復して少なくとも2週間後に、補体阻害剤を投与する。本発明のいくつかの実施形態では、前回の投与後に局所補体活性化能がベースラインの少なくとも50%まで、または正常範囲内まで回復して2〜15週間後に、補体阻害剤を投与する。いくつかの実施形態では、平均で(i)補体阻害剤の局所濃度が、前回の投与後に達した最高局所濃度の20%以下に減少して少なくとも2週間後に次の投与を実施する投与スケジュールに従って、補体阻害剤を投与する。任意の上記方法のいくつかの実施形態では、補体阻害剤を局所投与する。
【0100】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも3週間、例えば3〜15週間、例えば3〜12週間、例えば3〜10週間、例えば4〜8週間、例えば約4週間、5週間、6週間、7週間または8週間毎の平均投与間隔での補体阻害剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、4〜6週間の平均投与間隔での補体阻害剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、血漿補体活性化能を実質的に阻害するのに十分な用量を投与する。いくつかの実施形態では、補体介在性障害によって冒された組織または器官における局所補体活性化能を実質的に阻害するのに十分な用量を投与する。いくつかの実施形態では、補体活性化能、例えば、血漿補体活性化能または局所補体活性化能は、それがバックグラウンドレベルの2倍以下、例えば、ほぼバックグラウンドレベルまで低下した場合、「実質的に阻害された」と見なされる。バックグラウンドレベル(例えば、本発明の任意の態様または実施形態における)は、様々な適切な方法を用いて決定されるレベルであり得る。例えば、補体を例えば熱不活性化によって不活性化した、あるいはC3などの補体成分を1種類以上枯渇させた対照試料、例えば血漿またはその他の体液の対照試料を用いることができ、かつ/または不可欠なアッセイ成分を除外した対照アッセイを実施することができる。いくつかの実施形態では、血漿中の補体を正常範囲内に減少させ、かつ/または正常範囲内に維持するのに十分な用量を投与する。いくつかの実施形態では、補体介在性障害によって冒された組織または器官における局所補体活性化を正常範囲内に低下させ、かつ/または正常範囲内に維持するのに十分な用量を投与する。
【0101】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、要素(i)は、補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の10%以下、またはいくつかの実施形態では5%以下、またはいくつかの実施形態では1%以下に減少して平均で少なくとも2週間後に次の投与を実施する投与スケジュールに従って、対象に補体阻害剤の複数回投与を実施することを含む。本発明の方法のいくつかの実施形態では、要素(i)は、補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の20%以下に減少して平均で少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間または15週間後に、あるいはいくつかの実施形態では、補体阻害剤の血漿中濃度が、前回の投与後に達した最高血漿中濃度の10%以下、またはいくつかの実施形態では5%以下、またはいくつかの実施形態では1%以下に減少して少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間または15週間後に次の投与を実施する投与スケジュールに従って、対象に補体阻害剤の複数回投与を実施することを含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象の血漿補体活性化能が投与と投与の間の平均少なくとも2週間、ベースラインの少なくとも50%であるか正常範囲内にあるような間隔で補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象の血漿補体活性化能が投与と投与の間の平均少なくとも2週間、ベースラインの少なくとも50%であるような間隔で補体阻害剤を投与することを含む。この文脈での「ベースライン」は、過去6週間以内に、補体系に有意な影響を及ぼす薬剤の投与または刺激への曝露の影響を受けておらず、喘息またはCOPD(または本発明のいくつかの態様では、場合に応じて別の補体介在性障害)の増悪がみられない場合の対象の典型的な補体活性化能を指す。いくつかの実施形態では、本発明の投与レジメンは、対象の血漿補体活性化能が投与と投与の間の平均少なくとも2週間、正常範囲内にあるような間隔で補体阻害剤を投与することを含む。この文脈での「正常範囲」は通常、対象母集団の平均値(例えば、算術平均値)の±2標準偏差以内の範囲を指す。当業者は、「正常範囲」の具体的な数値が少なくとも部分的には、補体活性化能を評価するのに用いる具体的なアッセイおよび/または使用する具体的な試薬などの因子によって決まるということを理解するであろう。いくつかの実施形態では、公開されているデータを用いて正常範囲が決定され得る。いくつかの実施形態では、研究所、試験施設、当業者などによって正常範囲が適宜定められ得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、対象の補体活性化能が投与と投与の間の平均少なくとも3週間、例えば3〜15週間、例えば3〜12週間、例えば3〜10週間、例えば4〜8週間、例えば約4週間、5週間、6週間、7週間または8週間、ベースラインの少なくとも50%であるか正常範囲内にあるような投与間隔で補体阻害剤を投与する。本発明の目的のため、血漿補体活性化能と血清補体活性化能にはほとんど相違がなく、そうでないという根拠がない限り互換的に使用され得るものとする。相違があることが明らかになった場合、本発明は、血漿補体活性化能を用いる実施形態、血清補体活性化能を用いる実施形態および平均値を用いる実施形態を提供する。
【0104】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、静脈内投与した場合の補体阻害剤の血漿中半減期の少なくとも平均で2倍に等しい間隔で補体を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明の投与レジメンは、静脈内投与した場合の補体阻害剤の血漿中半減期の少なくとも平均で3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍に等しい間隔で補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、選択された投与経路によって投与した場合の補体阻害剤の血漿中半減期の少なくとも平均で2倍に等しい間隔で、同じ投与経路によって補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、選択された投与経路によって投与した場合の補体阻害剤の血漿中半減期の少なくとも平均で3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍に等しい間隔で、同じ投与経路によって補体阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、投与経路は呼吸経路である。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は平均血漿中半減期が1〜5日である。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は平均血漿中半減期が5〜10日である。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は平均血漿中半減期が10〜20日である。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は平均血漿中半減期が20〜30日である。
【0105】
半減期などの薬物動態(PK)パラメータを決定するための様々な方法を用い得ることが理解されよう。適切な方法が当業者によって選択され得る。一般に半減期は、対象に化合物を1回以上投与し、投与後の様々な時間に対象から血液試料を採取し、前記試料中の化合物の濃度を測定し、少なくとも部分的に前記測定に基づいて半減期を算出することを含む方法によって決定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、投与後0時間(投与前)、5分、15分、30分、1時間、4時間、8時間、24時間(1日)、48時間(2日)、96時間(4日)、192時間(8日)、14日、21日、28日の各時間に試料を採取し得る。ここに挙げた時点は例示的なものであることが理解されよう。異なる時点および/またはこれより多いまたは少ない時点を各種実施形態で用いることができる。当業者であれば適切な時点を選択するであろう。通常は測定実施前に血液試料を処理して血漿または血清を得る。本発明の目的のため、血漿中濃度と血清中濃度(および半減期などの薬物動態)にはほとんど相違がなく、そうでないという根拠がない限り互換的に使用され得るものとする。相違があることが明らかになった場合、本発明は、血漿中濃度(および/または血漿中半減期)を用いる実施形態、血清中濃度(および/または血清中半減期)を用いる実施形態および平均値を用いる実施形態を提供する。
【0106】
当業者であれば、化合物を測定する適切な方法を選択するであろう。例えば、いくつかの実施形態では、イムノアッセイを用いる。いくつかの実施形態では、クロマトグラフィーに基づく方法を用いる(例えば、液体クロマトグラフィー(LC)、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)または液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS−MS)。いくつかの実施形態では、バイオアッセイを用いる。多くの実施形態では、半減期は終末(消失)半減期である。いくつかの実施形態では、単回投与の実施後に終末相半減期を算出する。いくつかの実施形態では、複数回投与を実施し、濃度が定常状態に達したのちに終末相半減期を算出する。いくつかの実施形態では、初期(分布)相について決定された半減期を用いる。例えば、分布相で化合物の大部分が循環中から除去される場合、いくつかの実施形態で初期半減期を用い得る。
【0107】
いくつかの実施形態では、対象群から得られた複数回投与のPKデータに非コンパートメント解析を用いてPK解析を実施することにより半減期を決定する。いくつかの実施形態では、対象群から得られた複数回投与のPKデータに標準的な1コンパートメントモデルを用いてPK解析を実施することにより半減期を決定する。いくつかの実施形態では、慢性呼吸器障害(例えば、喘息またはCOPD)に罹患している対象で決定される半減期を用いる。いくつかの実施形態では、健常で障害に罹患していることが明らかにされていない対象で決定される半減期を用いる。いくつかの実施形態では、慢性呼吸器障害以外の補体介在性障害に罹患している対象で決定される半減期を用いる。いくつかの実施形態では、成人(18歳以上の者)で決定される半減期を用いる。
【0108】
いくつかの実施形態では,慢性補体介在性障害、例えば慢性呼吸器障害、例えば喘息またはCOPDを治療するのに適した用量を用いて半減期を決定する。いくつかの実施形態では、用量は、血漿補体活性化能を正常範囲の下限の50%以下まで低下させるのに十分な用量である。いくつかの実施形態では、用量は、血漿補体活性化能をバックグラウンドレベルの2倍以下、例えば、ほぼバックグランドレベルまで低下させるのに十分な用量である。いくつかの実施形態では、補体阻害剤を含む組成物を用いて半減期を決定し、その組成物は、慢性補体介在性障害を治療するのに用いる組成物と同じであるか、実質的にほぼ同じものである。
【0109】
特定の実施形態では、化合物を安定化させる、化合物の免疫原性を低減する、体内での化合物の寿命を延ばす、化合物の溶解度を増大させるか低減させるおよび/または化合物の分解に対する耐性を増大させるのに有用なポリペプチド成分または非ポリペプチド成分とのコンジュゲーションによって補体阻害剤を修飾する。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリマー、アルブミンまたはアルブミン結合ペプチドを使用し得る。このような実施形態では、「半減期」は通常、そのように修飾された補体阻害剤の半減期を指す。
【0110】
PKパラメータの計算を容易にするのに様々なソフトウェアツールを利用することが可能である。例えば、Phoenix NMLEまたはPhoenix WinNonlinソフトウェア(PharSight社、St.Louis、MO)またはKinetica(Thermo Scientific社)を用いることができる。モデルに基づいて合理的に推定された半減期を用い得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、本発明の投与間隔を決定する際の半減期として、特定の化合物の第I相、第II相または第III相臨床試験で決定された半減期および/またはFDAなどの規制当局への申請(例えば、INDまたはNDA)の形で提出された半減期を用いる。
【0111】
いくつかの実施形態では、方法は、本発明の投与スケジュールに従って対象に(すなわち、本発明による投与間隔を用いて)少なくとも5回、10回、15回、20回または25回投与することを含む。いくつかの実施形態では、治療を少なくとも3か月、6か月、9か月、12か月またはそれ以上の期間にわたって、例えば数か月またはそれ以上の期間にわたって、例えば1〜2年、2〜5年、5〜10年またはそれ以上の期間にわたって、例えば無期限に継続する。
【0112】
本明細書に明記されている投与の間隔または範囲より短いまたは長い投与間隔を随時用いることなど、わずかな逸脱もすべて本発明の範囲内にあることが理解されよう(例えば、6か月、1年などの期間内で、例えば、用量の最大約5%、10%または20%など)。いくつかの実施形態では、対象への投与間隔は、経時的に変化し得るものであり、かつ/または少なくとも部分的には投与間の補体活性化能の測定および/または疾患活動性(またはそのバイオマーカー)の評価に基づいて選択され得るものである。
【0113】
本発明のいずれかの方法のいくつかの実施形態では、補体阻害剤を静脈内投与する。本発明のいずれかの方法のいくつかの実施形態では、呼吸器経路によって補体阻害剤を投与する。本発明のいずれかの方法のいくつかの実施形態では、補体阻害剤を皮下投与する。本発明のいずれかの方法のいくつかの実施形態では、補体阻害剤を筋肉内投与する。本発明のいずれかの方法のいくつかの実施形態では、補体阻害剤を経口投与する。
【0114】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤の徐放(「持続放出」または「制御放出」とも呼ばれる)をもたらす製剤として補体阻害剤を投与する。徐放性製剤を用いるいくつかの実施形態では、少なくとも部分的には徐放性製剤が補体阻害剤を放出する時間の長さに基づいて、投与間の時間間隔を算出する。例えば、徐放性製剤が投与後N週間、補体阻害剤を枯渇するまで放出する場合、本発明は、少なくともN+3週間、例えばN+3〜N+15週間、例えばN+3〜N+12週間、例えばN+3〜N+10週間、例えばN+4〜N+8週間、例えば、約N+4週間毎、N+5週間毎、N+6週間毎、N+7週間毎またはN+8週間毎の平均投与間隔で次の投与を実施する投与スケジュールに従って前記徐放性製剤の複数回投与を実施することを含む、対象の治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、徐放性製剤は、対象の血漿補体活性化能および/または局所補体活性化能(例えば、補体介在性障害によって冒された組織または器官におけるもの)を正常範囲未満の状態またはベースラインの少なくとも50%だけ低い状態を維持するのに十分な補体阻害剤を放出しなくなった場合、枯渇したと見なされる。いくつかの実施形態では、徐放性製剤は、対象の血漿補体活性化および/または局所補体活性化(例えば、補体介在性障害によって冒された組織または器官におけるもの)を正常範囲未満の状態またはベースラインの少なくとも50%だけ低い状態を維持するのに十分な補体阻害剤を放出しなくなった場合、枯渇したと見なされる。いくつかの実施形態では、徐放性製剤は、投与時に製剤中に含まれる補体阻害剤の少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上が放出されるか、製剤が実質的に補体阻害剤を放出しなくなった場合、枯渇したと見なされる。
【0115】
本明細書に開示される各種の補体阻害剤、補体阻害剤の特性(例えば、化合物のクラス、分子量、半減期、分子標的など)、投与パラメータ(例えば、投与間隔、投与経路など)および障害、例えば呼吸器障害のあらゆる組合せが、本発明の各種実施形態で企図される。例えば、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも3週間、例えば3〜15週間、例えば3〜12週間、例えば3〜10週間、例えば4〜8週間、例えば、約4週間毎、5週間毎、6週間毎、7週間毎または8週間毎の平均投与間隔で補体阻害剤を静脈内投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも3週間、例えば3〜15週間、例えば3〜12週間、例えば3〜10週間、例えば、約4週間毎、5週間毎、6週間毎、7週間毎または8週間毎の平均投与間隔で補体阻害剤を経肺投与することを含む。
【0116】
さらに、補体阻害剤を投与する投与間隔を選択する方法が提供される。いくつかの実施形態では、補体阻害剤を投与する投与間隔を選択する方法は、(a)補体阻害剤の半減期を把握することと、(b)半減期より少なくとも2〜10週間長い投与間隔を選択することとを含む。いくつかの実施形態では、補体阻害剤を投与する投与間隔を選択する方法は、(a)補体阻害剤の半減期を把握することと、(b)半減期の少なくとも3倍の長さの投与間隔を選択することとを含む。いくつかの実施形態では、補体阻害剤を投与する投与間隔を選択する方法は、(a)補体阻害剤が血漿補体活性化能をベースラインの少なくとも50%だけ低下させる時間の長さおよび/または補体阻害剤が血漿補体活性化能を正常範囲未満に低下させる時間の長さを明らかにすることと、(b)前記測定された時間の長さに基づいて、上記本発明の投与間隔のいずれかを選択することとを含む。いくつかの実施形態では、投与間隔を選択する方法は、本発明の投与スケジュールに従って慢性補体介在性障害、例えば、慢性補体媒介性呼吸器障害のモデルとしての役割を果たす動物に投与した補体阻害剤を試験することをさらに含み得る。
【0117】
いくつかの実施形態では、本発明の治療方法は導入期と維持期とを含む。多くの実施形態では、対象が治療を開始する時点で導入期(用いる場合)が生じる。導入期は、補体阻害剤を維持期より高用量かつ/または高頻度で、かつ/あるいは維持期と異なる経路を用いて投与する期間で構成され得る。維持期には、上に記載した本発明の投与スケジュールおよび/または投与間隔のいずれかを用いて補体阻害剤を投与し得る。例えば、導入期に週1回、維持期に平均4〜15週間毎、例えば4〜8週間毎に補体阻害剤を投与し得る。いくつかの実施形態では、導入期に1日1回以上、補体阻害剤を投与する。いくつかの実施形態では、導入期に毎週少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回または7回、補体阻害剤を投与する。いくつかの実施形態では、導入期が最大1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間または8週間続く。いくつかの実施形態では、導入期に用量または投与間隔を調節する。例えば、いくつかの実施形態では、導入期に投与間隔を経時的に長くし、かつ/または用量を経時的に減少もしくは増加させ得る。
【0118】
上記の通り、いくつかの実施形態では、慢性呼吸器疾患は喘息である。喘息の危険因子、疫学、病因、診断、現在用いられている管理などに関する情報は、例えば、「Expert Panel Report 3:Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma」.National Heart Lung and Blood Institute.2007.http://www.nhlbi.nih.gov/guidelines/asthma/asthgdln.pdf.(「NHLBI Guidelines」;www.nhlbi.nih.gov/guidelines/asthma/asthgdln.htm),Global Initiative for Asthma,Global Strategy for Asthma Management and Prevention 2010「GINA Report」ならびに/あるいはCecil Textbook of Medicine(第20版)、Harrison’s Principles of Internal Medicine(第17版)などの内科学の標準的なテキストおよび/または呼吸器学に焦点を絞り込んだ標準的なテキストにみることができる。喘息は、マスト細胞、好酸球、Tリンパ球、マクロファージ、好中球および上皮細胞などの多数の細胞および細胞成分が何らかの役割を演じている気道の慢性炎症性障害である。喘息患者には喘鳴、息切れ(breathlessness)(呼吸困難または息切れ(shortness of breath)とも呼ばれる)、胸部絞扼感および咳などの症状を伴う再発エピソードがみられる。このようなエピソードは通常、自然発生的なまたは治療による、多くの場合可逆性の広範囲であるが一定しない気流閉塞を原因とするものである。炎症はほかにも、既にある様々な刺激に対する気管支過敏性を付随的に増大させる。気道過敏症(刺激に対する過剰な気管支収縮反応)が喘息の典型的な特徴である。一般に、気管支収縮および気道浮腫により気流制限が生じる。喘息患者によっては気流制限の可逆性が不十分なことがある。例えば、気道再構築により固定的な気道狭窄が生じ得る。構造的な変化としては、基底膜下の肥厚、上皮下線維症、気道平滑筋の肥大および肥厚、血管の増殖および拡張ならびに粘液腺の過形成および分泌過多が挙げられる。
【0119】
喘息患者には増悪がみられることがあり、これは患者の以前の状態からの変化を特徴とする事象として確認される。重症の喘息増悪は、喘息による入院または死亡などの重篤な転帰を防ぐため患者とその医師の側に緊急の対策が必要とされる事象と定義することができる。例えば、重症の喘息増悪では、通常は経口副腎皮質ステロイド薬(OCS)なしでも喘息が十分管理されている対象または一定の維持量を増加させる必要があり得る対象に全身副腎皮質ステロイド薬(例えば、経口副腎皮質ステロイド薬)の使用が必要となることがある。中等度の喘息増悪は、対象には厄介なものであり、治療の変更の必要性を促すが、重症ではない事象と定義することができる。上に挙げた事象は臨床的には、対象の日常的な喘息の変化の通常範囲を外れることによって確認される。
【0120】
現在喘息に用いられている薬剤は通常、大きく2種類に分類され、持続性喘息の管理を行い維持するために使用される吸入副腎皮質ステロイド薬(ICS)、経口副腎皮質ステロイド薬(OCS)、長時間作用型気管支拡張薬(LABA)、ロイコトリエン調節薬(例えば、ロイコトリエン受容体アンタゴニストまたはロイコトリエン合成阻害薬、抗IgE抗体(オマリズマブ(Xolair(登録商標))、クロモリンおよびネドクロミルなどの長期管理薬(「コントローラー薬」)と、急性の症状および増悪を治療するために使用される短時間作用型気管支拡張薬(SABA)などの急速リリーフ薬がある。本発明の目的のため、ここに挙げた治療法を「従来の治療法」と呼ぶことがある。増悪の治療としてはこのほか、コントローラー薬療法の用量および/または強度を増大させることが挙げられる。例えば、OCS治療を用いて喘息の管理を取り戻すことができる。現在のガイドラインでは、持続性喘息の対象にはコントローラー薬剤を毎日投与すること、または多くの場合、コントローラー薬を毎日複数回投与することが義務付けられている(ただし、2週間または4週間毎に投与するXolairを除く)。
【0121】
対象の症状発現が平均週2回を超え、かつ/または対象が通常、症状管理のために急速リリーフ薬(例えば、SABA)を週2回を超えて用いている場合、その対象は一般に持続性喘息であると見なされる。一度関連する共存症が治療され、吸入器の扱いおよび順守が最適化されれば、「喘息重症度」は、対象の喘息を管理するのに必要な治療の強度に基づいて分類することができる(例えば、GINA Report;Taylor,DR,Eur Respir J 2008;32:545−554を参照)。治療強度の記述は、NHLBI Guidelines 2007,GINA Reportなどのガイドラインおよびその先行物ならびに/あるいは標準的な医学テキストにみられる段階的な治療アルゴリズムで推奨される薬剤および用量に基づくものであり得る。例えば、喘息は、表1に示すように間欠性、軽症、中等症または重症に分類することができ、表中の「治療」は、対象の最高レベルでの喘息管理を達成するのに十分な治療を指す。(軽症喘息、中等症喘息および重症喘息のカテゴリーは一般に、間欠性喘息よりも持続性であることを示すことが理解されよう)。表1が例示的なものであること、またここに挙げたすべての薬剤がすべての医療制度で利用できるとは限らず、一部の環境において喘息重症度の評価に影響を及ぼし得ることものであることを当業者は理解するであろう。また、他の登場しつつある方法または新たな方法が軽症/中等症喘息の分類に影響を及ぼし得ることも理解されよう。しかし、軽症喘息がきわめて低強度の治療を用いて良好に管理することができることによって定義され、重症喘息が高強度の治療を必要とすることによって定義されるという同じ原理が依然として適用され得る。これと同時にあるいはこれに代えて、治療を加えない疾患本来の強度に基づいて喘息重症度を分類することができる(例えば、NHBLI Guidelines 2007を参照)。現在のスパイロメトリー検査および患者による過去2〜4週間にわたる症状の回想に基づいて評価を実施することができる。現在の障害および将来のリスクのパラメータを評価し、喘息重症度のレベルの決定に含めてもよい。いくつかの実施形態では、0〜4歳、5〜11歳、12歳以上の患者について、NHBLI Guidelinesのそれぞれ図3.4(a)、3.4(b)、3.4(c)に示される通りに喘息重症度を定義する。
【0122】
【表1】
【0123】
「喘息管理」は、喘息の徴候が治療(薬物療法、非薬物療法に関係なく)によって軽減されるか、除去される程度を指す。症状の頻度、夜間症状、スパイロメトリーのパラメータなどの客観的な肺機能測定値(例えば、%FEV予測値、FEVの変動)、症状管理のためのSABA使用の必要性などの因子に基づいて、喘息管理を評価することができる。現在の障害および将来のリスクのパラメータを評価し、喘息管理のレベルの決定に含めてもよい。いくつかの実施形態では、0〜4歳、5〜11歳または12歳以上の患者について、NHBLI Guidelinesのそれぞれ図4.3(a)、4.3(b)、4.3(c)に示される通りに喘息管理を定義する。
【0124】
一般に、当業者は喘息重症度レベルおよび/または管理の程度を決定する適切な手段選択することが可能であり、当業者によって妥当であると考えらえている任意の分類スキームを用いることができる。
【0125】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の投与レジメンを用いて、持続性喘息に罹患している対象を補体阻害剤で治療する。いくつかの実施形態では、対象は軽症または中等症喘息に罹患している。いくつかの実施形態では、対象は重症喘息に罹患している。いくつかの実施形態では、対象は、従来の治療法を用いて良好に管理されない喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、従来の治療法を用いて治療する場合、良好に管理するのにICSの使用が必要な喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、ICSを使用しても良好に管理することができない喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、従来の治療法を用いて治療する場合、良好に管理するのにOCSの使用が必要な喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、OCSを含む高強度の従来の治療法を使用しても良好に管理することができない喘息を有する。本発明のいくつかの実施形態では、本発明の投与レジメンは、コントローラー薬として補体阻害剤を投与することを含み、ここでは、標準的なコントローラー薬に比べて少ない頻度でかつ/または不定期に補体阻害剤を投与し、同時に少なくとも同等の喘息管理を維持する。いくつかの実施形態では、本発明の投与レジメンは、従来のコントローラー薬の標準的なレジメンに比べて患者の受容性、コンプライアンスおよび/または利便性を改善し、同時に少なくとも同等の喘息管理を維持する。いくつかの実施形態では、例えば本発明の投与レジメンに従って、補体阻害剤で治療した対象は、コントローラー薬としてのICS、Xolairおよび/またはOCSの用量を大幅に低減するか(例えば、少なくとも50%だけ)、実質的にこれらの使用を回避することができる。
【0126】
いくつかの実施形態では、対象は、ほとんどの喘息患者が該当するアレルギー性喘息に罹患している。いくつかの実施形態では、喘息の非アレルギー性のトリガー(例えば、寒冷、運動)が明らかではなく、かつ/または標準的な診断評価で確認されない場合、喘息対象はアレルギー性喘息を有すると見なされる。いくつかの実施形態では、喘息対象が、(i)対象が感受性である1つまたは複数のアレルゲンに曝露されたのち、喘息症状(または喘息症状の悪化)が繰り返し発現する;(ii)対象が感受性である1つまたは複数のアレルゲンに特異的なIgEを示す;(iii)対象が感受性である1つまたは複数のアレルゲンの皮膚プリック試験に陽性を示す;かつ/または(iv)アレルギー性鼻炎、湿疹または総血清IgEの上昇などのアトピーと一致する特徴(1つまたは複数)のその他の症状(1つまたは複数)を示す場合、その対象はアレルギー性喘息を有すると見なされる。特定の環境で対象に症状の悪化がみられる場合、特定のアレルギー性のトリガーが確定されるのではなく、疑われるか推測され得ることが理解されよう。
【0127】
吸入によるアレルゲン負荷は、アレルギー性気道疾患の評価に広く用いられている方法である。アレルゲンの吸入により、例えばマスト細胞および好塩基球上のIgE受容体と結合したアレルゲン特異的IgEの架橋が起こる。次いで分泌経路の活性化が起こることにより、気管支収縮および血管透過性のメディエーターが放出される。アレルギー性喘息の患者には、アレルゲン負荷後に各種の徴候、例えば、即時型喘息反応(early asthmatic response)(EAR)、遅発型喘息反応(LAR)、気道過敏症(AHR)および気道好酸球増加症が発現し、これらはそれぞれ、当該技術分野で公知の通りに検知され定量化され得るものである。例えば、気道好酸球増加症は痰および/またはBAL液中の好酸球の増加として検知され得る。EARは即時型喘息反応(immediate asthmatic response)(IAR)と呼ばれることもある、アレルゲン負荷に対する反応のことであり、この反応は吸入直後、通常は吸入後10分以内に、例えばFEVの減少として検知可能となる。EARは通常、負荷後30分以内に最大となり、2〜3時間以内に解消する。例えば、この時間枠内に対象のFEVがベースラインFEV(この文脈での「ベースライン」は、負荷前の状態、例えば、喘息増悪がみられず、対象が感受性であるアレルギー性刺激に曝露されていない場合の対象の通常の状態と等しい状態を指す)より少なくとも15%、例えば少なくとも20%減少していれば、その対象はEAR「陽性」を示すと見なされる。遅発型喘息反応(LAR)は通常、負荷後3〜8時間に始まり、気道の細胞性炎症、気管支血管の透過性増大および粘液分泌と特徴とする。遅発型喘息反応は通常、FEVの減少として検知され、EARによるFEVの減少より程度が大きく、潜在的に臨床的に重要となり得る。例えば、ベースラインFEVと比較して該当する時間内に対象のFEVがベースラインFEVより少なくとも15%、例えば少なくとも20%減少している場合、その対象はLAR「陽性」を示すと見なされる。遅発型気道反応(DAR)は負荷の約26〜32時間後に始まり、約32〜48時間後に最大となり、負荷後約56時間以内に解消し得る(Pelikan,Z.Ann Allergy Asthma Immunol.2010,104(5):394−404)。
【0128】
いくつかの実施形態では、慢性呼吸器障害は慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。COPDは、治療によっても完全な可逆性が得られない通常は進行性の気流制限を特徴とする、一連の病態を包含する。COPDの症状としては、呼吸困難(息切れ)、運動耐容能の低下、咳、痰産生、喘鳴および胸部絞扼感が挙げられる。COPDの人は、頻度および持続時間に差がみられ罹患率を高める原因となっていることがある急性の(例えば、1週間未満にわたって、多くの場合24時間以下にわたって発現する)症状増悪(COPD増悪と呼ばれる)のエピソードを経験し得る。このようなエピソードは呼吸器感染症、有害粒子への曝露などの事象によって引き起こされ場合もあれば、原因不明の場合もある。喫煙が最もよくみられるCOPDの危険因子であるが、他の吸入による曝露がこの疾患の発症および進行の一因となることもある。COPDにおける遺伝因子の役割は盛んに研究されている分野である。ごく少数のCOPD患者に循環中の主要なセリンプロテアーゼ阻害物質のα−1アンチトリプシンの遺伝的欠損がみられ、この欠損が急性進行型の疾患を引き起こす可能性がある。
【0129】
COPDに特有の病態生理学的特徴としては、最も一般的には慢性炎症による小気道の狭窄および構造変化ならびに肺実質(特に肺胞周辺)の破壊が挙げられる。COPDで観察される慢性気流制限には通常、上に挙げた因子が混在しており、その気流制限の一因としての相対的な重要度は人によって異なる。「肺気腫」という用語は、気腔壁の破壊をみる終末細気管支末端の気腔(肺胞)の腫脹を指す。「肺気腫」という用語は多くの場合、このような病理学的変化を引き起こす医学的状態を指すのに臨床的に使用されるということに留意するべきである。一部のCOPD患者には慢性気管支炎が認められ、慢性気管支炎は、連続2年間、1年のうちの3か月間ほぼ毎日みられる痰産生を伴う咳として臨床的に定義されるものである。COPDの危険因子、疫学、病因、診断および現在の用いられている管理に関する詳細な情報は、例えば、Global Initiative on Chronic Obstructive Pulmonary Disease,Inc.(GOLD)ウェブサイト(www.goldcopd.org)で入手可能な「Global Strategy for the Diagnosis,Management,and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease」(2009年に更新)(本明細書では「GOLDレポート」とも呼ぶ)、ATSウェブサイト(www.thoracic.org/clinical/copd−guidelines/resources/copddoc.pdf)で入手可能なAmerican Thoracic Society/European Respiratory Society Guidelines(2004)(本明細書では「ATC/ERS COPD Guidelines」とも呼ぶ)ならびにCecil Textbook of Medicine(第20版)、Harrison’s Principles of Internal Medicine(第17版)などの内科学の標準的なテキストおよび/または呼吸器学に焦点を絞り込んだ標準的なテキストにみることができる。
【0130】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は上に述べたDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルを阻害する(干渉する、崩壊させる)。例えば、補体阻害剤の投与により、補体がDC細胞を刺激し、Th17表現型を促進するサイクルが破壊され得る。その結果、Th17細胞の数および/または活性が減少し、次いでこのことがTh17媒介によるB細胞刺激の量およびポリクローナル抗体産生量を減少させる。いくつかの実施形態では、上に挙げた作用が免疫微小環境をより正常で病理性の弱い状態に「リセット」する。実施例1に記載する通り、Th17関連サイトカイン産生に対して阻害作用を長時間示すという補体阻害の能力を裏付ける証拠が喘息の動物モデルで得られた。
【0131】
いくつかの実施形態では、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの阻害に疾患調節作用がある。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、単に障害の症状を治療するのではなく、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルを阻害することによって、症状が良好に管理されている場合でも継続する組織損傷の一因となり得る基礎的な病理機序および/または疾患の増悪の一因となり得る基礎的な病理機序が干渉され得る。いくつかの実施形態では、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの阻害により慢性障害が寛解する。いくつかの実施形態では、寛解は、疾患の再発の可能性はあるが、慢性障害の対象の疾患活動性がみられないか、実質的にみられない状態を指す。いくつかの実施形態では、継続的な治療を実施しなくても、あるいは用量を減らしても、あるいは投与間隔を延ばしても寛解が長期間(例えば、少なくとも6か月、例えば、6〜12か月、12〜24か月またはそれ以上)維持され得る。いくつかの態様では、補体の阻害が、Th17細胞に多くみられる組織の免疫微小環境を変化させて、調節T細胞(Treg)に多くみられる微小環境に調節し得る。このようにすることで、免疫系自体が「リセット」され、寛解状態になる。いくつかの実施形態では、例えば、トリガーとなる事象が生じるまで寛解が維持され得る。トリガーとなる事象には、例えば、感染症(感染病原体とも自己タンパク質とも反応するポリクローナル抗体の産生が生じ得る)、特定の環境条件(例えば、高レベルのオゾンもしくは粒子状物質などの大気汚染物質またはタバコ煙などの煙の成分、アレルゲン)への曝露などがある。遺伝因子が何らかの役割を果たしていることもある。例えば、補体成分をコードする遺伝子の特定の対立遺伝子を有する個体では、補体活性のベースラインレベルが比較的高く、補体系の反応性が比較的高く、かつ/または内因性の補体調節タンパク質活性のベースラインレベルが比較的低いことがある。いくつかの実施形態では、個体がAMDのリスク増大の原因となる遺伝子型を有する。例えば、対象は補体タンパク質または補体調節タンパク質、例えばCFH、C3、B因子をコードする遺伝子に多型を有し、この多型がAMDのリスク増大の原因となる。
【0132】
いくつかの実施形態では、例えば、慢性障害の症状を未だ発現していない対象または障害を発症し本明細書に記載の通りに治療を受けた対象において、時間の経過とともに免疫微小環境が病理学的状態に徐々に偏向し得る。このような移行は確率論的に(例えば、おそらく少なくとも部分的には抗体のレベルおよび/または親和性の不規則な変動により)および/または障害の症状発症を誘発する程度に満たない強度の「閾値下」のトリガー事象が蓄積された結果として生じ得る。
【0133】
いくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルの証拠について対象を監視することを含む。このような証拠が発見された場合、対象補体阻害剤および/またはDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルを崩壊させるその他の薬剤で対象を治療し得る。いくつかの実施形態では、Th17細胞(例えば、Th17細胞の数または総対数)ならびに/あるいはTh17細胞および/またはTh17活性に関連する1つ以上のバイオマーカー(「Th17バイオマーカー」)について対象を試験する。いくつかの実施形態では、少なくとも部分的にTh17バイオマーカーによるTh17細胞の評価に基づいて、対象を補体阻害剤で治療する。「Th17バイオマーカー」は、Th17細胞の存在(例えば、Th17細胞の数または濃度)と相関し、かつ/または少なくとも1つのTh17細胞の活性と相関する任意の分子もしくは検出可能な指標を包含する。いくつかの実施形態では、Th17バイオマーカーは、Th17関連サイトカインのレベルを含む。いくつかの実施形態では、Th17関連サイトカインとは、Th17細胞の形成および/または活性化を促進するサイトカイン、例えば、IL−6、IL−21、IL−23および/またはIL−1βのことである。いくつかの実施形態では、Th17関連サイトカインとは、Th17細胞によって産生されるサイトカイン、例えばIL−17(例えば、IL−17Aおよび/またはIL−17F)、IL−21および/またはIL−22のことである。いくつかの実施形態では、Th17と関連のある活性の量の増加または相対量の増加が、Th17細胞の増加および/またはTh17と関連のある活性の増加の指標となる。いくつかの実施形態では、相対量とは、異なるサイトカインと比較した量のことである。いくつかの実施形態では、異なるサイトカインはTreg細胞と関連のあるものである。いくつかの実施形態では、異なるサイトカインはIL−10である。いくつかの実施形態では、2種類、3種類、4種類、5種類またはそれ以上のTh17関連サイトカインのレベルを測定する。Th17と関連のある活性のレベルの指標となる指数またはスコアの合計を求め、Th17バイオマーカーとして用い得る。いくつかの実施形態では、Th17バイオマーカーを評価する任意の目的でTh17細胞自体の存在またはレベルを評価する。いくつかの実施形態では、Tregの存在またはレベルを評価する。いくつかの実施形態では、FOXP3の発現に基づいてTregを同定する。
【0134】
いくつかの実施形態では、対象から得られた試料中のTh17バイオマーカーレベルを測定する。いくつかの実施形態では、試料は体液、例えば、血液、BAL液、痰、鼻汁、尿などを含む。いくつかの実施形態では、試料は、補体介在性障害によって冒された組織または器官から得ることができる組織試料を含む。いくつかの実施形態では、異なる体液または体液試料と組織試料の2つ以上の試料を評価する。いくつかの実施形態では、レベルを参照値と比較する。いくつかの実施形態では、参照値は正常値(例えば、正常範囲内の値、例えば正常範囲の上限)であり得る。いくつかの実施形態では、参照値は、対象について前回確立された値、例えば、対象の障害が良好に管理されていたときまたは障害が発現する前に確立された値であり得る。いくつかの実施形態では、測定値が参照値から大幅に外れているか、参照値から増加の方向に外れる傾向を示す場合、対象を補体阻害剤で治療し得る。いくつかの実施形態では、補体阻害剤とDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルを崩壊させる第二の薬剤とを用いて対象を治療し得る。「正常範囲」は、健常者の少なくとも95%が含まれる範囲であり得る。いくつかの実施形態では、参照値は疾患と関連のある値、例えば、疾患に罹患している対象に未治療状態で通常みられる値であり得る。いくつかの実施形態では、正常範囲または疾患と関連のある範囲は、少なくとも部分的に年齢、性別などの人口統計学的因子によって決まり、それに応じて調整可能なものである。異なる障害および/または異なるTh17バイオマーカーおよび/またはいくつかの実施形態では、個々の対象について、適切な参照値または範囲を実験的に確立し得る。
【0135】
いくつかの実施形態では、Th17細胞および/またはTh17バイオマーカーのin vivo評価を考慮する。例えば、いくつかの実施形態では、Th17細胞(例えば、細胞表面マーカーまたはTh17細胞に対して十分に特異的なその組合せ)と結合するか、Th17関連サイトカインと結合し、検出可能なように標識した薬剤を対象に投与する。適切な画像撮影法を用いて薬剤をin vivoで可視化する。いくつかの実施形態では、例えば、肺、皮膚または補体介在性障害によって冒され得るその他の位置の画像を得る。いくつかの実施形態では、in vivo検出により目的とする組織または器官の免疫微小環境の評価が可能となる。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は蛍光部分、放射性部分、超音波部分または磁気検出が可能な部分を含む。いくつかの実施形態では、画像撮影法は磁気共鳴画像撮影、超音波画像撮影、光学画像撮影(例えば、蛍光画像撮影または生物発光画像撮影)または核画像撮影を含む。いくつかの実施形態では、蛍光部分は、近赤外線蛍光部分または赤外線蛍光部分(スペクトルの近赤外線領域または赤外線領域を放射する)を含む。いくつかの実施形態では、画像撮影法は陽電子放射断層撮影法(PET)および単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)を含む。いくつかの実施形態では、検出する標的と直接結合する物質に検出可能な標識が結合している。いくつかの実施形態では、検出可能な標識が粒子と会合しているか、粒子中に組み込まれているか、粒子を含み、いくつかの実施形態では、この粒子は検出する標的と直接結合する物質を表面にもつ。
【0136】
いくつかの実施形態では、Th17バイオマーカー評価から得られる情報を追加の情報、例えば、遺伝子型、環境への曝露および/または対象の病歴に関する情報とともに用いて、補体阻害剤および/または抗Th17剤の投与の可否もしくは時期を決定し、かつ/または対象に対する用量もしくは投与レジメンを決定する。いくつかの実施形態では、少なくとも部分的に1台以上のコンピュータによって、いずれかのバイオマーカー評価法および/または治療決定法を実施し得る。いくつかの実施形態では、コンピュータで実行可能な命令を有するコンピュータ読取り可能媒体にいずれかのバイオマーカー評価法および/または治療決定法を少なくとも一部取り込むか保存し得る。いくつかの実施形態では、コンピュータ読取り可能媒体は、任意の一時的でない、かつおよび/または有形のコンピュータ読取り可能媒体を含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、固定された日程で再治療を実施し得る。
【0138】
本明細書に記載の態様または実施形態が補体介在性障害と関連させて記載されている場合は常に、Th17と関連のある障害に関連する類似の態様および実施形態が提供される。本明細書に記載の態様または実施形態が補体介在性障害と関連させて記載されている場合は常に、Th17と関連のある障害に関連する類似の態様および実施形態が提供される。本明細書に開示される各種の補体阻害剤、補体阻害剤の特性(例えば、化合物のクラス種類、分子量、半減期、分子標的など)、抗Th17剤、投与パラメータ(例えば、投与間隔、投与経路など)および障害のあらゆる組合せが、本発明の各種実施形態で企図される。本明細書に開示される各種の補体阻害剤、補体阻害剤の特性(例えば、化合物のクラス、分子量、半減期、分子標的など)、抗Th17剤、抗Th17剤の特性(例えば、化合物のクラス、分子量、半減期、分子標的など)、投与パラメータ(例えば、投与間隔、投与経路など)および障害のあらゆる組合せが、本発明の各種実施形態で企図される。
【0139】
いくつかの態様では、本発明は、必要とする対象に補体阻害剤および抗Th17剤を投与することを含む、慢性補体介在性障害またはTh17と関連のある障害の治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、任意の適切な投与レジメンに従って補体阻害剤および/または抗Th17剤を投与する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の投与レジメンに従って補体阻害剤および抗Th17剤を投与する。いくつかの実施形態では、慢性障害は、任意の慢性補体介在性障害または任意のTh17と関連のある障害である。いくつかの態様では、本発明は、必要とする対象に抗Th17剤を投与することを含む、慢性補体介在性障害の治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、任意の適切な投与レジメンに従って抗Th17剤を投与する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の投与レジメンに従って抗Th17剤を投与する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤と抗Th17剤とを含む組成物、例えば医薬組成物を提供する。抗Th17剤の具体例については第V節で述べる。
【0140】
III.補体系
本発明の理解を容易にするため、本発明を限定する意図は一切ないが、本節に補体とその活性化経路の概要を記載する。さらに詳細な説明については、例えば、Kuby Immunology,第6版,2006;Paul,W.E.,Fundamental Immunology,Lippincott Williams & Wilkins;第6版,2008;およびWalport MJ.,Complement.First of two parts.N Engl J Med.,344(14):1058−66,2001に記載されている。
【0141】
補体は、感染病原体から体を防御するのにある重要な役割を担う自然免疫系の一部門である。補体系には、古典経路、代替経路およびレクチン経路として知られる3つの主要な経路に関与する30種類以上の血清タンパク質および細胞タンパク質が含まれる。古典経路は通常、抗原とIgMまたはIgG抗体との複合体がC1と結合することにより誘発される(ただし、ある種の他の活性化因子もこの経路を開始する)。活性化したC1がC4およびC2をC4aとC4bおよびC2aとC2bに分解する。C4bとC2aが合わさってC3転換酵素を形成し、これがC3を分解してC3aとC3bが形成される。C3bとC3転換酵素が結合するとC5転換酵素が生じ、これがC5をC5aとC5bに分解する。C3a、C4aおよびC5aはアナフィロトキシンであり、急性炎症性応答における複数の反応を媒介する。またC3aおよびC5aは、好中球などの免疫系細胞を誘引する走化性因子でもある。
【0142】
代替経路は、例えば、微生物表面および様々な複合多糖類により開始され、またこれらによって増幅される。この経路では、低レベルで自発的に生じるC3からC3(H2O)への加水分解によりB因子との結合が生じ、これがD因子により分解されて液相のC3転換酵素が生じ、これがC3をC3aとC3bに分解することにより補体を活性化する。C3bが細胞表面などの標的と結合してB因子と複合体を形成し、これがのちにD因子により分解されてC3転換酵素が生じる。表面と結合したC3転換酵素がさらに別のC3分子を分解して活性化し、活性化部位に近接してC3bが急速に沈着してさらに別のC3転換酵素が形成され、これによりさらに別のC3bが生じる。このような過程により、反応を大幅に増幅させるC3切断およびC3転換酵素形成のサイクルが生じる。C3の切断および別のC3b分子とC3転換酵素との結合によりC5転換酵素が生じる。この経路のC3転換酵素とC5転換酵素は、宿主細胞分子であるCR1、DAF、MCP、CD59およびfHによって制御される。これらのタンパク質の作用機序には、活性促進の低下(すなわち、転換酵素を解離させる能力)、I因子によるC3bまたはC4bの分解において補助因子として働く能力あるいはその両方が含まれる。通常、宿主細胞表面に補体制御タンパク質が存在することにより、細胞表面で著しい補体活性化が生じないようになっている。
【0143】
両経路で生成したC5転換酵素はC5を分解してC5aとC5bを生じる。次いで、C5bがC6、C7およびC8と結合してC5b−8を形成し、これがC9の重合を触媒してC5b−9膜侵襲複合体(MAC)を形成する。MACは標的細胞膜に侵入し、細胞溶解を引き起こす。細胞膜上のMACの量が少ないと、細胞死以外の様々な結果がもたらされ得る。
【0144】
レクチン補体経路は、マンノース結合レクチン(MBL)およびMBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)が炭水化物と結合することにより開始される。MB1−1遺伝子(ヒトではLMAN−1として知られる)は、小胞体とゴルジ体との間の中間領域に存在するI型内在性膜タンパク質をコードする。MBL−2遺伝子は、血清中に存在する可溶性マンノース結合タンパク質をコードする。ヒトレクチン経路では、MASP−1およびMASP−2がC4とC2のタンパク質分解に関与し、上記のC3転換酵素が生じる。
【0145】
補体活性は、補体制御タンパク質(CCP)または補体活性化制御因子(RCA)タンパク質と呼ばれる様々な哺乳動物タンパク質により制御されている(米国特許第6,897,290号)。これらのタンパク質は、リガンド特異性および補体阻害機序(1つまたは複数)が異なるものである。これらは転換酵素の正常な崩壊を加速し、かつ/またはI因子の補助因子として機能して、C3bおよび/またはC4bを酵素的に分解してさらに小さいフラグメントにする。CCPは、ジスルフィド結合した4つのシステイン(2つのジスルフィド結合)を有する保存されたモチーフ、プロリン、トリプトファンおよび多数の疎水性残基を含み、ショートコンセンサスリピート(SCR)、補体制御タンパク質(CCP)モジュールまたはSUSHIドメインと知られる、長さ約50〜70アミノ酸の複数(通常、4〜56個)の相同なモチーフが存在することを特徴とする。CCPファミリーとしては、補体受容体1(CR1;C3b:C4b受容体)、補体受容体2(CR2)、膜補因子タンパク質(MCP;CD46)、崩壊促進因子(DAF)、補体H因子(fH)およびC4b結合タンパク質(C4bp)が挙げられる。CD59は、構造的にはCCPと関連のない膜結合補体制御タンパク質である。補体制御タンパク質は通常、制限しなければ哺乳動物、例えばヒト宿主の細胞および組織上で生じ得る補体活性化を制限するものである。
【0146】
IV.補体阻害剤
概略
本発明の各種実施形態に様々な異なる補体阻害剤を用い得る。補体阻害剤は一般に、ペプチド、ポリペプチド、抗体、小分子および核酸(例えば、アプタマー、短鎖干渉RNAなどのRNAi剤)などの多数の化合物のクラスのいずれかに属するものであり得る。特定の実施形態では、補体阻害剤は補体タンパク質の酵素活性を阻害する。酵素活性は、別の補体タンパク質を切断する能力などのタンパク質分解活性であり得る。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC3、C5またはB因子の切断を阻害する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC3に作用する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、補体活性化カスケードのC3の上流にある補体成分に作用する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、呼吸器系で産生される1種類の可溶性補体タンパク質の活性化または活性を阻害する。特定の実施形態では、少なくとも補体活性化の古典経路を阻害する補体阻害剤を使用する。特定の実施形態では、古典経路および代替経路をともに阻害する補体阻害剤を使用する。いくつかの実施形態では、C3の活性化または活性を阻害する補体阻害剤を使用する。いくつかの実施形態では、呼吸器系で発現される少なくとも1種類の補体受容体タンパク質を阻害する補体阻害剤を使用する。特定の実施形態では、補体受容体タンパク質はC3aの受容体である。特定の実施形態では、補体受容体タンパク質はC5aの受容体である。
【0147】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、補体を活性化する能力を実質的に欠く抗体を含む。例えば、抗体は、補体刺激活性が完全長ヒトIgG1の10%未満、5%未満または1%未満であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、C1qと結合する能力がヒトIgG1のCH2ドメインより低いCH2ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトIgG4のCH1、CH2および/またはCH3ドメインを含み、かつ/あるいはヒトIgG1のCH1、CH2および/またはCH3ドメインを含まない。
【0148】
いくつかの実施形態では、例えば本発明の投与レジメンで使用する補体阻害剤は、分子量が1kD以下である。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は分子量が1kD〜2kD、2kD〜5kD、5kD〜10kD、10kD〜20kD、20kD〜30kD、30kD〜50kD、50kD〜100kDまたは100kD〜200kDである。
【0149】
補体阻害剤は、天然に存在する補体阻害剤またはそのバリアントもしくはフラグメントと少なくとも部分的に一致し得る。ウイルス(例えば、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス)、細菌(例えば、スタフィロコッカス(Staphylococcus))およびその他の微生物によって様々な異なる補体阻害ポリペプチドが産生される。各種寄生虫、例えば、ダニなどの外部寄生虫によって補体阻害タンパク質が産生される。補体阻害剤は、哺乳動物の補体制御または補体調節タンパク質または受容体の少なくとも一部分を含み得る。各種障害に対する前臨床開発または臨床開発の段階にある、あるいはその段階にあった補体阻害剤で、本発明の方法の各種実施形態で使用し得るものに関する記述については、Ricklin,D.ら,「Complement−targeted Therapeutics」,Nature Biotechnology,25(11):1265−75,2007を参照されたい。
【0150】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、当該技術分野で抗体の代わりに使用されることがあるアドネクチン、アフィボディ、アンチカリンまたはその他のタイプのポリペプチドを含み、このポリペプチドは補体成分と結合する。
【0151】
以下の節では、本発明の実施形態において有用な非限定的な補体阻害剤の具体例について述べる。補体阻害剤は便宜上、各種グループに分類されている。特定の補体阻害剤は複数のカテゴリーに分類されるということが理解されよう。
【0152】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の補体阻害剤と実質的に同じ結合部位(例えば、C3、C5、B因子、D因子などの補体成分または活性な補体分割産物上の結合部位)と結合する補体阻害剤を使用する。一般に、第一の薬剤と第二の薬剤が補体成分または補体受容体など標的分子上の実質的に同じ部位と結合する能力は、競合アッセイ、分子モデリングなどの当該技術分野で公知の方法を用いて評価することができる(例えば、コンプスタチン類似体模倣物に関する記述を参照)。任意選択で、第一の薬剤および/または第二の薬剤を検出可能な標識、例えば放射標識、蛍光標識などで標識してもよい。任意選択で、標的分子、第一の薬剤または第二の薬剤を支持体、例えばスライド、フィルター、チップ、ビーズなどに固定化する。いくつかの実施形態では、第一の抗体と実質的に同じ結合部位と結合する第二の抗体は、第一の抗体のCDR(1つまたは複数)と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%一致するCDRを1つ以上含む。
【0153】
C3の活性化または活性を阻害する化合物
コンプスタチン類似体および模倣物
コンプスタチンは、C3と結合し、例えば、変換酵素によるC3からC3aおよびC3bへの切断を阻害することによって、補体活性化を阻害する環状ペプチドである。米国特許第6,319,897号には、配列Ile−[Cys−Val−Val−Gln−Asp−Trp−Gly−His−His−Arg−Cys]−Thr(配列番号1)を有するペプチドが記載されており、配列中、2つのシステインの間にあるジスルフィド結合が括弧で表わされている。「コンプスタチン」という名称は米国特許第6,319,897号では使用されていないが、のちに、米国特許第6,319,897号に開示されている配列番号2と同じ配列を有するが表2(配列番号8)に示されるようにC末端がアミド化されているペプチドを呼ぶのに科学文献および特許文献(例えば、Morikisら,Protein Sci.,7(3):619−27,1998を参照されたい)で採用されたことが理解されよう。本明細書では一貫して、「コンプスタチン」という用語をこのような使用法で(すなわち、配列番号8を呼ぶ場合に)用いる。コンプスタチンより高い補体阻害活性を有するコンプスタチン類似体が開発されている。例えば、国際公開第2004/026328号(国際出願PCT/US2003/029653号)、Morikis,D.ら,Biochem Soc Trans.32(Pt 1):28−32,2004,Mallik,B.ら,J.Med.Chem.,274−286,2005;Katragadda,M.ら,J.Med.Chem.,49:4616−4622,2006;国際公開第2007062249号(国際出願PCT/US2006/045539号);国際公開第2007044668号(国際出願PCT/US2006/039397号)、国際公開第2009/046198号(国際出願PCT/US2008/078593号);国際公開第2010/127336号(国際出願PCT/US2010/033345号)および後述の考察を参照されたい。
【0154】
コンプスタチン類似体は、例えばN末端および/またはC末端でアセチル化またはアミド化されていてよい。例えば、コンプスタチン類似体は、N末端でアセチル化され、かつC末端でアミド化されていてよい。当該技術分野で使用される通り、本明細書で使用される「コンプスタチン」およびコンプスタチンの活性と比較した本明細書に記載のコンプスタチン類似体の活性は、C末端でアミド化されたコンプスタチンのことを指す(Mallik,2005,上記)。
【0155】
ほかにも、コンプスタチンのコンカテマーもしくは多量体またはその補体阻害類似体が本発明で使用される。
【0156】
本明細書で使用される「コンプスタチン類似体」という用語は、コンプスタチンおよびその任意の補体阻害類似体を包含する。「コンプスタチン類似体」という用語は、コンプスタチンおよびコンプスタチンに基づき設計または同定され、その補体阻害活性が、例えば、当該技術分野で認められている任意の補体活性化アッセイまたはこれと実質的にほぼ同じもしくは同等なアッセイを用いて測定されるコンプスタチンの活性の少なくとも50%の大きさである他の化合物を包含する。特定の適切なアッセイが米国特許第6,319,897号、国際公開第2004/026328号、Morikis,上記、Mallik,上記、Katragadda 2006,上記、国際公開第2007062249号(国際出願PCT/US2006/045539号);国際公開第2007044668号(国際出願PCT/US2006/039397号)、国際公開第2009/046198号(国際出願PCT/US2008/078593号);および/または国際公開第2010/127336号(国際出願PCT/US2010/033345号)に記載されている。アッセイは、例えば、代替経路もしくは古典経路に媒介される赤血球溶解を測定するものであっても、ELISAアッセイであってもよい。いくつかの実施形態では、国際公開第2010/135717号(国際出願PCT/US2010/035871号)に記載されているアッセイを用いる。
【0157】
コンプスタチン類似体の活性はそのIC50(補体活性化を50%阻害する化合物の濃度)により表すことができ、当該技術分野で認められているように、IC50が低いほど活性が高いことを示す。本発明で使用するのに好ましいコンプスタチン類似体の活性は、少なくともコンプスタチンの活性と同じ大きさである。補体阻害活性を減少させるか打ち消すことが知られている特定の修飾が本発明のいずれの実施形態からも明確に除外され得ることが留意される。コンプスタチンのIC50については、代替経路媒介による赤血球溶解アッセイを用いて12μMという測定結果が得られている(国際公開第2004/026328号)。所与のコンプスタチン類似体で測定される正確なIC50値は、実験条件(例えば、アッセイで使用する血清濃度)によって異なることが理解されよう。例えば、実質的に同一の条件下で複数の異なる化合物のIC50を決定する実験から得られた値を比較したものが有用である。一実施形態では、コンプスタチン類似体のIC50はコンプスタチンのIC50以下である。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の活性はコンプスタチンの活性の2〜99倍である(すなわち、類似体のIC50がコンプスタチンのIC50の2〜99倍低い)。例えば、活性は、コンプスタチンの活性の10〜50倍の大きさまたはコンプスタチンの活性の50〜99倍の大きさであり得る。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の活性はコンプスタチンの活性の99〜264倍である。例えば、活性は、コンプスタチンの活性の100倍、110倍、120倍、130倍、140倍、150倍、160倍、170倍、180倍、190倍、200倍、210倍、220倍、230倍、240倍、250倍、260倍または264倍の大きさであり得る。特定の実施形態では、活性は、コンプスタチンの活性の250〜300倍、300〜350倍、350〜400倍または400〜500倍の大きさである。本発明はさらに、コンプスタチンの活性の500〜1000倍またはそれ以上、例えば、コンプスタチンの1000〜2000倍またはそれ以上の活性を有するコンプスタチン類似体を考慮する。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC50は約0.2μM〜約0.5μMである。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC50は約0.1μM〜約0.2μMである。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC50は約0.05μM〜約0.1μMである。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体のIC50は約0.001μM〜約0.05μMである。
【0158】
C3と結合するコンプスタチンのKは等温滴定熱量測定を用いて測定することができる(Katragaddaら,J.Biol.Chem.,279(53),54987−54995,2004)。当該技術分野で認められているように、様々なコンプスタチン類似体のC3に対する結合親和性とその活性との間には相関がみられ、Kが低いほど結合親和性が高いことを示す。試験された特定の類似体には結合親和性と活性との間に線形相関が認められている(Katragadda,2004,上記;Katragadda 2006,上記)。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は0.1μM〜1.0μM、0.05μM〜0.1μM、0.025μM〜0.05μM、0.015μM〜0.025μM、0.01μM〜0.015μMまたは0.001μM〜0.01μMのKでC3と結合する。
【0159】
「コンプスタチンに基づき設計または同定される」化合物としては、特に限定されないが、(i)コンプスタチンの配列を改変すること(例えば、コンプスタチンの配列の1つ以上のアミノ酸を異なるアミノ酸もしくはアミノ酸類似体に置き換えること、コンプスタチンの配列に1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸類似体を挿入することまたはコンプスタチンの配列から1つ以上のアミノ酸を削除すること);(ii)コンプスタチンの1つ以上のアミノ酸を無作為化し、任意選択で方法(i)に従ってさらに改変するファージディスプレイペプチドライブラリーから選択すること;あるいは(iii)C3またはそのフラグメントとの結合に関して方法(i)または(ii)で得られたコンプスタチンまたはその任意の類似体と競合する化合物のスクリーニングにより同定することにより配列が得られるアミノ酸鎖を含む化合物が挙げられる。有用なコンプスタチン類似体の多くが疎水性クラスター、βターンおよびジスルフィド架橋を含むものである。
【0160】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の配列は、コンプスタチンの配列に1個、2個、3個または4個の置換を施すことにより、すなわち、コンプスタチンの配列中の1個、2個、3個または4個のアミノ酸を異なる標準アミノ酸にまたは非標準アミノ酸に置き換えることにより得られる配列を含むか、実質的にこれよりなるものである。本発明の特定の実施形態では、4位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、9位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位と9位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位と9位のアミノ酸のみを変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位または9位のアミノ酸を変化させるか、あるいは特定の実施形態では、4位と9位のアミノ酸をともに変化させ、さらに1位、7位、10位、11位および13位から選択される位置にある2個以下のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、4位、7位および9位のアミノ酸を変化させる。本発明の特定の実施形態では、2位、12位または両方のアミノ酸を変化させるが、この変化は化合物が環状化する能力を保存するものである。2位および/または12位におけるこのような変化(1つまたは複数)は、1位、4位、7位、9位、10位、11位および/または13位における変化(1つまたは複数)に追加されるものであってもよい。任意選択で、コンプスタチン配列の1個以上のアミノ酸を置き換えることにより得られる任意のコンプスタチン類似体の配列は、C末端に最大1個、2個または3個の追加のアミノ酸を含む。一実施形態では、追加のアミノ酸はGlyである。任意選択で、コンプスタチン配列の1つ以上のアミノ酸を置き換えることにより得られる任意のコンプスタチン類似体の配列は、C末端に最大5個または最大10個の追加のアミノ酸をさらに含む。特に明記されない限り、あるいは文脈から明らかでない限り、コンプスタチン類似体が本明細書に記載の様々な実施形態のいずれか1つ以上の特徴または特性を有し得ること、また任意の実施形態の特徴または特性が本明細書に記載の他の任意の実施形態をさらに特徴付け得ることを理解するべきである。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体の配列は、コンプスタチンの配列の4位および9位に対応する位置に関する以外はコンプスタチンと同一の配列を含むか、実質的にこれよりなるものである。
【0161】
コンプスタチンおよびコンプスタチンよりもいくぶん活性が大きい特定のコンプスタチン類似体には標準アミノ酸(「標準アミノ酸」とは、グリシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、メチオニン、アルギニン、リジン、プロリン、セリン、トレオニンおよびヒスチジンである)のみが含まれている。活性が向上した特定のコンプスタチン類似体には非標準アミノ酸が1つ以上組み込まれている。有用な非標準アミノ酸としては、単一のハロゲン化を受けたおよび複数のハロゲン化を受けた(例えば、フッ素化された)アミノ酸、D−アミノ酸、ホモアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、デヒドロアミノ酸、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン以外)、オルト−、メタ−またはパラ−アミノ安息香酸、ホスホ−アミノ酸、メトキシル化アミノ酸およびα,α−二置換アミノ酸が挙げられる。本発明の特定の実施形態では、本明細書の他の箇所に記載されているコンプスタチン類似体の1つ以上のL−アミノ酸を対応するD−アミノ酸に置き換えることにより、コンプスタチン類似体を設計する。このような化合物およびその使用方法は本発明の態様である。有用な非標準アミノ酸の例としては、2−ナフチルアラニン(2−NaI)、1−ナフチルアラニン(1−NaI)、2−インダニルグリシンカルボン酸(2Ig1)、ジヒドロトリプトファン(Dht)、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(Bpa)、2−α−アミノ酪酸(2−Abu)、3−α−アミノ酪酸(3−Abu)、4−α−アミノ酪酸(4−Abu)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、ホモシクロヘキシルアラニン(hCha)、4−フルオロ−L−トリプトファン(4fW)、5−フルオロ−L−トリプトファン(5fW)、6−フルオロ−L−トリプトファン(6fW)、4−ヒドロキシ−L−トリプトファン(4OH−W)、5−ヒドロキシ−L−トリプトファン(5OH−W)、6−ヒドロキシ−L−トリプトファン(6OH−W)、1−メチル−L−トリプトファン(1MeW)、4−メチル−L−トリプトファン(4MeW)、5−メチル−L−トリプトファン(5MeW)、7−アザ−L−トリプトファン(7aW)、α−メチル−L−トリプトファン(αMeW)、β−メチル−L−トリプトファン(βMeW)、N−メチル−L−トリプトファン(NMeW)、オルニチン(orn)、シトルリン、ノルロイシン、γ−グルタミン酸などが挙げられる。
【0162】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体はTrp類似体を(例えば、コンプスタチンの配列に対して4位および/または7位に)1つ以上含む。Trp類似体の例は上に記載されている。このほか、Beeneら,Biochemistry 41:10262−10269,2002(特に単一のハロゲン化を受けたTrp類似体および複数のハロゲン化を受けたTrp類似体について記載している);Babitzke & Yanofsky,J.Biol.Chem.270:12452−12456,1995(特にメチル化Trp、ハロゲン化Trpおよびその他のTrp類似体ならびにインドール類似体について記載している);および米国特許第6,214,790号、同第6,169,057号、同第5,776,970号、同第4,870,097号、同第4,576,750号および同第4,299,838号を参照されたい。その他のTrp類似体としては、インドール環のαまたはβ炭素および任意選択で1つ以上の位置において(例えば、メチル基により)置換されている変異体が挙げられる。2つ以上の芳香環を含むアミノ酸が、その置換変異体、非置換変異体または別法で置換された変異体を含め、Trp類似体の対象となる。本発明の特定の実施形態では、例えば4位におけるTrp類似体は5−メトキシ、5−メチル−、1−メチル−または1−ホルミル−トリプトファンである。本発明の特定の実施形態では、1−アルキル置換基、例えば低級アルキル(例えば、C〜C)置換基を含むTrp類似体(例えば、4位における類似体)を用いる。特定の実施形態では、N(α)メチルトリプトファンまたは5−メチルトリプトファンを用いる。いくつかの実施形態では、1−アルカニオール(alkanyol)置換基、例えば低級アルカノイル(例えば、C〜C)を含む類似体を用いる。例としては、1−アセチル−L−トリプトファンおよびL−β−トリプトファンが挙げられる。
【0163】
特定の実施形態では、Trp類似体は疎水性がTrpに比べて増大している。例えば、インドール環は、1つ以上のアルキル(例えば、メチル)基で置換されたものであり得る。特定の実施形態では、Trp類似体はC3との疎水性相互作用に関与する。このようなTrp類似体は、例えば、コンプスタチンの配列に対して4位に位置し得る。特定の実施形態では、Trp類似体は、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含む。
【0164】
特定の実施形態では、Trp類似体は、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、疎水性はTrpと比べて増大していない。Trp類似体は、極性がTrpに比べて増大したものであり得、かつ/またはC3上での水素結合供与体との静電気的な相互作用に関与する能力が増大したものであり得る。水素結合を形成する性質が増大した特定の例示的なTrp類似体は、インドール環上に電気陰性置換基を含むものである。このようなTrp類似体は、例えば、コンプスタチンの配列に対して7位に位置し得る。
【0165】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は(例えば、コンプスタチンの配列に対して9位に)Ala類似体、側鎖にCH基を1つ以上含むこと以外はAlaと同一であるAla類似体を1つ以上含む。特定の実施形態では、Ala類似体は、2−Abuのような非分岐の単一メチルアミノ酸である。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、1つ以上のTrp類似体(例えば、コンプスタチンの配列に対して4位および/または7位に)と、Ala類似体(例えば、コンプスタチンの配列に対して9位に)とを含む。
【0166】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、(X’aa)−Gln−Asp−Xaa−Gly−(X”aa)の配列(配列番号2)を有するペプチドを含む化合物であり、式中、各X’aaおよび各X”aaは独立してアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され、XaaはTrpまたはTrpの類似体であり、かつn>1、m>1であり、n+mが5〜21である。ペプチドはコア配列Gln−Asp−Xaa−Gly(配列番号71)を有し、式中、XaaはTrpまたはTrpの類似体、例えば、H結合供与体と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。例えば、類似体は、Trpのインドール環が電気陰性部分、例えば、フッ素などのハロゲンで置換されているものであり得る。一実施形態では、Xaaは5−フルオロトリプトファンである。反証がない限り、当業者であれば、配列がこのコア配列を含み、補体活性化を阻害する、かつ/またはC3と結合する任意の非天然のペプチドがコンプスタチンの配列に基づき設計されることを認識するであろう。別の実施形態では、Xaaは、Gln−Asp−Xaa−Gly(配列番号71)ペプチドがβターンを形成することが可能なアミノ酸またはTrp類似体以外のアミノ酸類似体である。
【0167】
本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly(配列番号3)を有し、式中、X’aaおよびXaaはTrpおよびTrpの類似体から選択される。本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly(配列番号3)を有し、式中、X’aaおよびXaaはTrp、Trpの類似体および芳香環を少なくとも1つ含むその他のアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択される。本発明の特定の実施形態では、コア配列は、ペプチドとの関連でβターンを形成する。βターンは、柔軟であり、ペプチドが例えば核磁気共鳴(NMR)を用いて評価される2つ以上のコンホメーションをとることを可能にするものであり得る。特定の実施形態では、X’aaは、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含むTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、X’aaは2−ナフチルアラニン、1−ナフチルアラニン、2−インダニルグリシンカルボン酸、ジヒドロトリプトファンおよびベンゾイルフェニルアラニンからなる群より選択される。本発明の特定の実施形態では、X’aaは、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体である。例えば、X’aaは1−メチルトリプトファンであり得る。本発明の特定の実施形態では、Xaaは、水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているTrpの類似体は、Trpのインドール環の例えば5位に、5位のH原子のハロゲン原子による置換などの修飾を含む。例えば、Xaaは5−フルオロトリプトファンであり得る。
【0168】
本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa(配列番号4)を有し、式中、X’aaおよびXaaはそれぞれ独立して、TrpおよびTrpの類似体から選択され、X”aaはHis、Ala、Alaの類似体、Pheの類似体およびTrpの類似体から選択される。本発明の特定の実施形態では、X’aaは、疎水性がTrpに比べて増大している、1−メチルトリプトファンなどのTrpの類似体またはインドール環上(例えば、1位、4位、5位または6位)にアルキル置換基を有する別のTrp類似体である。特定の実施形態では、X’aaは、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含むTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、X’aaは2−ナフチルアラニン、1−ナフチルアラニン、2−インダニルグリシンカルボン酸、ジヒドロトリプトファンおよびベンゾイルフェニルアラニンからなる群より選択される。本発明の特定の実施形態では、Xaaは、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。本発明の特定の実施形態では、水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているTrpの類似体は、Trpのインドール環の例えば5位に、5位のH原子のハロゲン原子による置換などの修飾を含む。例えば、Xaaは5−フルオロトリプトファンであり得る。特定の実施形態では、X”aaは、AlaもしくはAbuなどのAlaの類似体または別の非分岐の単一メチルアミノ酸である。本発明の特定の実施形態では、ペプチドはコア配列X’aa−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa(配列番号4)を有し、式中、X’aaおよびXaaはそれぞれ独立して、Trp、Trpの類似体および芳香族側鎖を少なくとも1つ含むアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され、X”aaはHis、Ala、Alaの類似体、PheおよびTrpから選択される。特定の実施形態では、X”aaはTrpの類似体、芳香族アミノ酸および芳香族アミノ酸類似体から選択される。
【0169】
本発明の特定の好ましい実施形態では、ペプチドは環状である。ペプチドは、一方が(X’aa)であり他方が(X”aa)内に位置する2つの任意のアミノ酸の間の結合により環状化され得る。特定の実施形態では、ペプチドの環状部分は長さが9〜15アミノ酸、例えば、長さが10〜12アミノ酸である。特定の実施形態では、ペプチドの環状部分は、長さが11アミノ酸であり、2位と12位のアミノ酸の間に結合(例えば、ジスルフィド結合)を有する。例えば、ペプチドは、長さが13アミノ酸であり、2位と12位のアミノ酸の間の結合により長さが11アミノ酸の環状部分が生じたものであり得る。
【0170】
特定の実施形態では、ペプチドは、配列X’aa1−X’aa2−X’aa3−X’aa4−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa1−X”aa2−X”aa3−X”aa4−X”aa5(配列番号5)を含むか、これよりなるものである。特定の実施形態では、X’aa4およびXaaはTrpおよびTrpの類似体から選択され、X’aa1、X’aa2、X’aa3、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4およびX”aa5は独立してアミノ酸およびアミノ酸類似体から選択される。特定の実施形態では、X’aa4およびXaaは芳香族アミノ酸および芳香族アミノ酸類似体から選択される。X’aa1、X’aa2、X’aa3、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4およびX”aa5のうち任意の1つ以上のものが、コンプスタチンの対応する位置にあるアミノ酸と一致し得る。一実施形態では、X”aa1はAlaまたは単一メチル非分岐アミノ酸である。ペプチドは、(i)X’aa1、X’aa2またはX’aa3と(ii)X”aa2、X”aa3、X”aa4またはX”aa5との間の共有結合により環状化され得る。一実施形態では、ペプチドは、X’aa2とX”aa4との間の共有結合により環状化されている。一実施形態では、共有結合しているアミノ酸がそれぞれCysであり、共有結合がジスルフィド(S−S)結合である。他の実施形態では、共有結合がC−C、C−O、C−SまたはC−N結合である。特定の実施形態では、一方の共有結合している残基が、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、他方の共有結合している残基が、カルボン酸基を含む側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、かつ共有結合がアミド結合である。第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸またはアミノ酸類似体としては、リジンならびに一般構造がNH(CHCH(NH)COOHのジアミノカルボン酸、例えば2,3−ジアミノプロピオン酸(dapa)、2,4−ジアミノ酪酸(daba)およびオルニチン(orn)(式中、それぞれn=1(dapa)、2(daba)および3(orn)である)などが挙げられる。カルボン酸基を含む側鎖を有するアミノ酸の例としては、グルタミン酸およびアスパラギン酸などのジカルボキシルアミノ酸が挙げられる。このほか、β−ヒドロキシ−L‐グルタミン酸などの類似体を使用し得る。いくつかの実施形態では、例えば国際出願PCT/US2011/052442号(国際公開第2012/040259号)記載されているように、チオエーテル結合によりペプチドを環状化する。例えば、いくつかの実施形態では、いずれかのペプチドのジスルフィド結合をチオエーテル結合に置き換える。いくつかの実施形態では、シスタチオニンが形成される。いくつかの実施形態では、シスタチオニンはδ−シスタチオニンまたはγ−シスタチオニンである。いくつかの実施形態では、修飾は、配列番号5のX’aa2とX”aa4(または他の配列の対応する位置)のシステイン間のCys−Cysジスルフィド結合をCHの付加により置き換えてX’aa2またはX”aa4にホモシステインを形成することと、チオエーテル結合を導入してシスタチオニンを形成することとを含む。一実施形態では、シスタチオニンはγ−シスタチオニンである。別の実施形態では、シスタチオニンはδ−シスタチオニンである。特定の実施形態において有用な別の修飾は、CHを付加せずにジスルフィド結合をチオエーテル結合に置き換えてランチチオニン(lantithionine)を形成することを含む。いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合の代わりにチオエーテルを有するコンプスタチン類似体は、少なくとも一部の条件下で、ジスルフィド結合を有するコンプスタチン類似体に比べて安定性が増大している。
【0171】
特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列:
Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Gln−Asp−Xaa2−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4(配列番号6)
[式中、
Xaa1はIle、Val、Leu、B−Ile、B−Val、B−LeuまたはGly−IleもしくはB−Gly−Ileを含むジペプチドであり、Bは第一のブロック部分を表し;
Xaa2およびXaa2は独立して、TrpおよびTrpの類似体から選択され;
Xaa3はHis、AlaまたはAlaの類似体、Phe、TrpまたはTrpの類似体であり;
Xaa4はL−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Thr−AlaおよびThr−Asnから選択されるジペプチドまたはThr−Ala−Asnを含むトリペプチドであり、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で第二のブロック部分Bに置き換わっており;
2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している]
を有するペプチドを含む化合物である。いくつかの実施形態では、Xaa4はLeu、Nle、HisもしくはPheまたはXaa5−AlaおよびXaa5−Asnから選択されるデペプチド(depeptide)またはトリペプチドXaa5−Ala−Asnであり、式中、Xaa5はLeu、Nle、HisまたはPheから選択され、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Leu、Nle、His、Phe、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で第二のブロック部分Bに置き換わっており:2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している。
【0172】
他の実施形態では、Xaa1は存在しないか、あるいは任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、Xaa2、Xaa2、Xaa3およびXaa4は上で定義した通りのものである。Xaa1が存在しない場合、N末端Cys残基は、それに結合したブロック部分Bを有し得る。
【0173】
別の実施形態では、Xaa4は任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体であり、Xaa1、Xaa2、Xaa2およびXaa3は上で定義した通りのものである。別の実施形態では、Xaa4は、Thr−AlaおよびThr−Asnからなる群より選択されるジペプチドであり、式中、カルボキシ末端−OHまたはAlaもしくはAsnが任意選択で第二のブロック部分Bに置き換わっている。
【0174】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2はTrpであり得る。
【0175】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2は、置換もしくは非置換二環式芳香環成分または2つ以上の置換もしくは非置換単環式芳香環成分を含むTrpの類似体であり得る。例えば、Trpの類似体は2−ナフチルアラニン(2−NaI)、1−ナフチルアラニン(1−NaI)、2−インダニルグリシンカルボン酸(Ig1)、ジヒドロトリプトファン(Dht)および4−ベンゾイル−L−フェニルアラニンから選択され得る。
【0176】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2は、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体であり得る。例えば、Trpの類似体は1−メチルトリプトファン、4−メチルトリプトファン、5−メチルトリプトファンおよび6−メチルトリプトファンから選択され得る。一実施形態では、Trpの類似体は1−メチルトリプトファンである。一実施形態では、Xaa2は1−メチルトリプトファンであり、Xaa2はTrpであり、Xaa3はAlaであり、その他のアミノ酸はコンプスタチンのものと一致している。
【0177】
配列番号6のコンプスタチン類似体のいずれかの実施形態では、Xaa2はTrpの類似体、例えばC3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体などであり得る。特定の実施形態では、Trpの類似体はインドール環上に電気陰性置換基を含む。例えば、Trpの類似体は、5−フルオロトリプトファンおよび6−フルオロトリプトファンから選択され得る。
【0178】
本発明の特定の実施形態では、Xaa2はTrpであり、Xaa2は、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。配列番号6のコンプスタチン類似体の特定の実施形態では、Xaa2は、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体、例えば1−メチルトリプトファン、4−メチルトリプトファン、5−メチルトリプトファンおよび6−メチルトリプトファンから選択されるTrpの類似体などであり、Xaa2は、C3と水素結合を形成する傾向がTrpに比べて増大しているが、特定の実施形態では疎水性がTrpに比べて増大していないTrpの類似体である。例えば、一実施形態では、Xaa2はメチルトリプトファンであり、Xaa2は5−フルオロトリプトファンである。
【0179】
上記実施形態のうち特定の実施形態では、Xaa3はAlaである。上記実施形態のうち特定の実施形態では、Xaa3は単一メチル非分岐アミノ酸、例えばAbuである。
【0180】
本発明はさらに、上記の配列番号6のコンプスタチン類似体であって、Xaa2およびXaa2が独立して、Trp、Trpの類似体および芳香環を少なくとも1つ含むその他のアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され、Xaa3がHis、AlaもしくはAlaの類似体、Phe、Trp、Trpの類似体または別の芳香族アミノ酸もしくは芳香族アミノ酸類似体であるコンプスタチン類似体を提供する。
【0181】
本発明の特定の実施形態では、本明細書に記載のいずれかのコンプスタチン類似体のN末端またはC末端に存在するブロック部分は、哺乳動物(例えばヒトまたは非ヒト霊長類)の血液中または間質液中で生じ得る分解に対してペプチドを安定化させる任意の部分である。例えば、ブロック部分Bは、ペプチドのN末端アミノ酸とそれに隣接するアミノ酸との間のペプチド結合の切断が阻害されるようペプチドのN末端の構造を変化させる任意の部分であり得る。ブロック部分Bは、ペプチドのC末端アミノ酸とそれに隣接するアミノ酸との間のペプチド結合の切断が阻害されるようペプチドのC末端の構造を変化させる任意の部分であり得る。当該技術分野で公知の任意の適切なブロック部分を用いることができる。本発明の特定の実施形態では、ブロック部分Bはアシル基(すなわち、カルボン酸から−OH基を除去して残った部分)を含む。アシル基は通常、1〜12個の炭素、例えば1〜6個の炭素を含む。例えば、本発明の特定の実施形態では、ブロック部分Bは、ホルミル、アセチル、プロプリオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリルなどからなる群より選択される。一実施形態では、ブロック部分Bはアセチル基である、すなわち、Xaa1はAc−Ile、Ac−Val、Ac−LeuまたはAc−Gly−Ileである。
【0182】
本発明の特定の実施形態では、ブロック部分Bは第一級または第二級アミン(Rがアルキル基などの有機部分である−NHまたは−NHR)である。
【0183】
本発明の特定の実施形態では、ブロック部分Bは、生理的pHにおいてN末端に存在し得る負電荷を中和する、あるいは減少させる任意の部分である。本発明の特定の実施形態では、ブロック部分B2は、生理的pHにおいてC末端に存在し得る負電荷を中和する、あるいは減少させる任意の部分である。
【0184】
本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、N末端および/またはC末端でそれぞれアセチル化またはアミド化されている。コンプスタチン類似体は、N末端でアセチル化されていても、あるいはC末端でアミド化されていても、あるいはN末端でアセチル化されかつC末端でアミド化されていてもよい。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、N末端にアセチル基ではなくアルキル基またはアリール基を含む。
【0185】
特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列:
Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Gln−Asp−Xaa2−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4(配列番号7)
[式中、
Xaa1はIle、Val、Leu、Ac−Ile、Ac−Val、Ac−LeuまたはGly−IleもしくはAc−Gly−Ileを含むジペプチドであり;
Xaa2およびXaa2は独立して、TrpおよびTrpの類似体から選択され;
Xaa3はHis、AlaまたはAlaの類似体、Phe、TrpまたはTrpの類似体であり;
Xaa4はL−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Thr−AlaおよびThr−Asnから選択されるジペプチドまたはThr−Ala−Asnを含むトリペプチドであり、式中、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で−NHに置き換わっており;
2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している]
を有するペプチドを含む化合物である。いくつかの実施形態では、Xaa4はLeu、Nle、HisもしくはPheまたはXaa5−AlaおよびXaa5−Asnから選択されるデペプチド(depeptide)またはトリペプチドXaa5−Ala−Asnであり、式中、Xaa5はLeu、Nle、HisまたはPheから選択され、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Leu、Nle、His、Phe、AlaまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHが任意選択で第二のブロック部分Bに置き換わっており;
2つのCys残基はジスルフィド結合により結合している。
【0186】
いくつかの実施形態では、Xaa1、Xaa2、Xaa2、Xaa3およびXaa4は、配列番号6の各種実施形態について上で述べた通りのものである。例えば、特定の実施形態では、Xaa2はTrpである。特定の実施形態では、Xaa2は、疎水性がTrpに比べて増大しているTrpの類似体、例えば1−メチルトリプトファンである。特定の実施形態では、Xaa3はAlaである。特定の実施形態では、Xaa3は単一メチル非分岐アミノ酸である。
【0187】
本発明の特定の実施形態では、Xaa1はIleであり、Xaa4はL−Thrである。
【0188】
本発明の特定の実施形態では、Xaa1はIleであり、Xaa2はTrpであり、Xaa4はL−Thrである。
【0189】
本発明はさらに、上記の配列番号7のコンプスタチン類似体であって、Xaa2およびXaa2が独立して、Trp、Trpの類似体、その他のアミノ酸または芳香族アミノ酸類似体から選択され、Xaa3がHis、AlaもしくはAlaの類似体、Phe、Trp、Trpの類似体または別の芳香族アミノ酸もしくは芳香族アミノ酸類似体であるコンプスタチン類似体を提供する。
【0190】
本明細書に記載のいずれかのコンプスタチン類似体の特定の実施形態では、PheではなくPheの類似体を用いる。
【0191】
表2は、本発明に有用なコンプスタチン類似体の非限定的なリストを記載したものである。各類似体は、親ペプチドであるコンプスタチンと比較して、指定された位置(1〜13位)における具体的な修飾を示すことにより左側の列に省略形で記されている。当該技術分野で使用される通り、本明細書で使用される「コンプスタチン」およびコンプスタチンの活性と比較した本明細書に記載のコンプスタチン類似体の活性は、C末端でアミド化されたコンプスタチンペプチドのことを指す。特に明示されない限り、表2のペプチドはC末端でアミド化されている。太字を用いて特定の修飾を示した。コンプスタチンと比較した活性は、公開されているデータおよびそこに記載されているアッセイに基づくものである(国際公開第2004/026328号,同第2007044668号,Mallik,2005;Katragadda,2006)。1つの活性について報告している刊行物を複数参照する場合、最近公開された方の値を用いたが、アッセイ間に相違がある場合は値を調整し得ることが認識されよう。また、本発明の特定の実施形態では、表2に挙げられたペプチドが本発明の治療用組成物および方法で使用される場合、これらは2つのCys残基の間のジスルフィド結合を介して環状化され得ることも理解されよう。ペプチドを環状化する別の手段も本発明の範囲内にある。上記のように、本発明の様々な実施形態では、コンプスタチン類似体(例えば、本明細書に開示されるコンプスタチン類似体のいずれか)の1つ以上のアミノ酸がN−アルキルアミノ酸(例えば、N−メチルアミノ酸)であり得る。例えば、特に限定されないが、ペプチドの環状部分の内側にある少なくとも1つのアミノ酸、環状部分のN末端にある少なくとも1つのアミノ酸および/または環状部分のC末端にある少なくとも1つのアミノ酸がN−アルキルアミノ酸、例えばN−メチルアミノ酸であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、例えば、コンプスタチン類似体は、例えばコンプスタチンの8位に対応する位置および/またはコンプスタチンの13位に対応する位置に、N−メチルグリシンを含む。いくつかの実施形態では、表2の1つ以上のコンプスタチン類似体が、例えばコンプスタチンの8位に対応する位置および/またはコンプスタチンの13位に対応する位置に、N−メチルグリシンを1つ以上含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のコンプスタチン類似体が、例えばコンプスタチンの13位に対応する位置に、N−メチルイソロイシンを少なくとも1つ含む。例えば、配列が表2に挙げられているペプチドのC末端にあるか、その付近にあるThrをN−メチルIleによって置き換え得る。理解される通り、いくつかの実施形態では、N−メチル化アミノ酸は、8位にあるN−メチルGlyと13位にあるN−メチルIleとを含む。いくつかの実施形態では、N−メチル化アミノ酸は、配列番号3または配列番号4などのコア配列内にN−メチルGlyを含む。
【0192】
NA=該当データなし
【表2】
【0193】
本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列9〜36から選択される配列を有する。本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列番号14、21、28、29、32、33、34および36から選択される配列を有する。本発明の組成物および/または方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列番号30および31から選択される配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号28の配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号32の配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号34の配列を有する。本発明の組成物および方法の一実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号36の配列を有する。
【0194】
いくつかの実施形態では、ブロック部分Bはアミノ酸を含み、このアミノ酸はXaa0と表され得る。いくつかの実施形態では、ブロック部分Bはアミノ酸を含み、このアミノ酸はXaaNと表され得る。いくつかの実施形態では、ブロック部分Bおよび/またはBはD−アミノ酸、N−アルキルアミノ酸(例えば、N−メチルアミノ酸)などの非標準アミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、ブロック部分Bおよび/またはBは、標準アミノ酸の類似体である非標準アミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸類似体は、類似体となっている標準アミノ酸に対して低級アルキル、低級アルコキシまたはハロゲン置換基を含むものである。いくつかの実施形態では、置換基が側鎖上にある。いくつかの実施形態では、置換基がアルファ炭素原子上にある。いくつかの実施形態では、アミノ酸、例えば非標準アミノ酸を含むブロック部分Bは、部分B1aをさらに含む。例えば、ブロック部分BはB1a−Xaa0と表され得る。いくつかの実施形態では、B1aは、生理的pHでN末端に存在し得る正電荷を中和するか減少させる。いくつかの実施形態では、B1aは例えば、例えば1〜12個の炭素、例えば1〜6個の炭素を含むアシル基を含むか、これよりなるものである。特定の実施形態では、ブロック部分B1aは、ホルミル、アセチル、プロプリオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリルなどからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、アミノ酸、例えば非標準アミノ酸を含むブロック部分Bは部分B2aをさらに含み得る。例えば、ブロック部分BはXaaN−B2aと表され得るものであり、式中、Nはアミノ酸のしかるべき番号(残りのペプチドの番号付けによって決まる)を表す。いくつかの実施形態では、B2aは、生理的pHでC末端に存在し得る負電荷を中和するか減少させる。いくつかの実施形態では、B2aは、第一級または第二級アミン(例えば、NH)を含むか、これよりなるものである。部分B1a−Xaa0および/またはXaaN−B2aのブロッキング活性が、各種実施形態においてその部分の一方または両方の成分によって提供され得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、ブロック部分またはその一部分、例えばアミノ酸残基が、化合物のC3もしくはC3bに対する親和性の増大に寄与し、かつ/または化合物の活性を向上させ得る。いくつかの実施形態では、アミノ酸残基の親和性または活性への寄与が、少なくともブロッキング活性への寄与と同程度に重要である。例えば、いくつかの実施形態では、B1a−Xaa0および/またはXaaN−B2aのXaa0および/またはXaaNが主として化合物の親和性または活性を増大させるよう機能し得るのに対し、B1aおよび/またはB2aはペプチドの消化を阻害し、かつ/またはペプチドの電荷を中和し得る。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は配列番号5〜36のいずれかのアミノ酸配列を含み、配列番号5〜36はN末端および/またC末端においてさらに延長されている。いくつかの実施形態では、配列はB1a−Xaa0−SEQUENCE−XaaN−B2aと表され得るものであり、SEQUENCEは配列番号5〜36のいずれかを表し、式中、B1aおよびB2aは独立して、存在しても存在しなくてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体はB1a−Xaa0−X’aa1−X’aa2−X’aa3−X’aa4−Gln−Asp−Xaa−Gly−X”aa1−X”aa2−X”aa3−X”aa4−X”aa5−XaaN−B2a(配列番号37)を含み、式中、X’aa1−X’aa2−X’aa3−X’aa4、Xaa、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4およびX”aa5は、配列番号5について上に記載されている通りのものである。
【0195】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体はB1a−Xaa0−Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Gln−Asp−Xaa2−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4−XaaN−B2a(配列番号38)を含み、式中、Xaa1、Xaa2、Xaa2、Xaa3およびXaa4は、配列番号6について上に記載されている通りのものである、あるいはXaa1、Xaa2、Xaa2、Xaa3およびXaa4は、配列番号6または配列番号7について上に記載されている通りのものである。
【0196】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体はB1a−Xaa0−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Xaa5−Xaa6−Xaa7−Xaa8−Xaa9−Xaa10−Xaa11−Xaa12−Xaa13−XaaN−B2a(配列番号39)を含み、式中、Xaa1、Xaa2、Xaa3、Xaa4、Xaa5、Xaa6、Xaa7、Xaa8、Xaa9、Xaa10、Xaa11、Xaa12およびXaa13は、配列番号9〜36のいずれかの1〜13位のアミノ酸と一致する。
【0197】
いくつかの実施形態では、任意のコンプスタチン類似体配列のXaa0および/またはXaaNが、1つ以上の位置にアルキル置換基を有する芳香環を含むアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、アルキル置換基は低級アルキル置換基である。例えば、いくつかの実施形態では、アルキル置換基はメチル基またはエチル基である。いくつかの実施形態では、置換基は化合物の芳香族性を消失させない任意の位置にある。いくつかの実施形態では、置換基は置換基が結合している環の芳香族性を消失させない任意の位置にある。いくつかの実施形態では、置換基が1位、2位、3位、4位または5位にある。いくつかの実施形態では、Xaa0はチロシン、2−ヒドロキシフェニルアラニンまたは3−ヒドロキシフェニルアラニンのO−メチル類似体を含む。本開示の目的のため、アミノ酸がN−メチルアミノ酸であることを明示するため、3文字のアミノ酸略号の後ろに小文字「m」を用いることがある。例えば、本明細書に略号「mGly」が記載されている場合、それはN−メチルグリシン(サルコシンまたはSarと呼ばれることもある)を表す。いくつかの実施形態では、Xaa0は、mGly、Tyr、Phe、Arg、Trp、Thr、Tyr(Me)、Cha、mPhe、mVal、mIle、mAla、DTyr、DPhe、DArg、DTrp、DThr、DTyr(Me)、mPhe、mVal、mIle、DAlaまたはDChaであるか、あるいはこれを含むものである。例えば、いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列B−Ile−[Cys−Val−Trp(Me)−Gln−Asp−Trp−mGly−Ala−His−Arg−Cys]−mIle−B(配列番号40)またはB−Ile−[Cys−Val−Trp(Me)−Gln−Asp−Trp−mGly−Ala−His−Arg−Cys]−mIle−B(配列番号41)を有するペプチドを含む。活性化合物内では、2つのCys残基がジスルフィド結合によって結合している。いくつかの実施形態では、ペプチドがN末端でアセチル化されており、かつ/またはC末端でアミド化されている。いくつかの実施形態では、上記のように、BがB1a−Xaa0を含み、かつ/またはBがXaaN−B2aを含む。例えば、いくつかの実施形態では、BがGly、mGly、Tyr、Phe、Arg、Trp、Thr、Tyr(Me)、mPhe、mVal、mIle、mAla、DTyr、DPhe、DTrp、DCha、DAlaを含むか、これよりなるものであり、BがNHを含む、例えば、mIleのカルボキシ末端の−OHがNHに置き換わっている。いくつかの実施形態では、BがmGly、Tyr、DTyrまたはTyr(Me)を含むか、これよりなるものであり、BがNHを含む、例えば、mIleのカルボキシ末端の−OHがNHに置き換わっている。いくつかの実施形態では、Xaa1位のIleがGlyに置き換わっている。選択されたコンプスタチン類似体の補体阻害能および/またはC3b結合パラメータが国際公開第2010/127336号(国際出願PCT/US2010/033345号)および/またはQuら,Immunobiology(2012),doi:10.1016/j.imbio.2012.06.003に記載されている。
【0198】
いくつかの実施形態では、ブロック部分またはその一部分、例えばアミノ酸残基が、化合物のC3もしくはC3bに対する親和性の増大に寄与し、かつ/または化合物の活性を向上させ得る。いくつかの実施形態では、アミノ酸またはアミノ酸類似体の親和性または活性への寄与が、ブロッキング活性より重要である。
【0199】
本発明の組成物および方法の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は表2に記載の配列を有するが、本明細書に記載のようにAc基が代わりのブロック部分Bに置き換わっている。いくつかの実施形態では、−NH基は本明細書に記載のように代わりのブロック部分Bに置き換わっている。
【0200】
一実施形態では、コンプスタチン類似体は、ヒトC3のβ鎖のうちコンプスタチンが結合する領域と実質的に同じ領域と結合する。一実施形態では、コンプスタチン類似体は、ヒトC3のβ鎖のうちコンプスタチンが結合する分子量が約40kDaのC末端部分のフラグメントと結合する化合物である(Soulika,A.M.ら,Mol.Immunol.,35:160,1998;Soulika,A.M.ら,Mol.Immunol.43(12):2023−9,2006)。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、コンプスタチン−C3構造、例えば、結晶構造またはNMRによる3D構造で決定されるコンプスタチンの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、コンプスタチン−C3構造内のコンプスタチンと置き換わることが可能であり、実質的にコンプスタチンと同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペプチド−C3構造内、例えば結晶構造内の表2に記載の配列、例えば配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36の配列または本明細書に開示されている別のコンプスタチン類似体配列を有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペプチド−C3構造内、例えば結晶構造内の配列番号30または31を有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列番号9〜36のペプチドと置き換わることが可能な化合物、例えば、ペプチド−C3構造内の配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36または本明細書に開示されている別のコンプスタチン類似体配列のペプチドと置き換わることが可能であり、実質的にそのペプチドと同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペプチド−C3構造内の配列番号30または31のペプチドと置き換わることが可能であり、実質的にそのペプチドと同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。
【0201】
当業者は、日常的な実験方法を用いて、コンプスタチン類似体がC3のβ鎖のC末端部分のフラグメントと結合するかどうかを容易に判定することができるであろう。例えば、当業者であれば、化合物中の例えば、配列のC末端にp−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(Bpa)などの光架橋アミノ酸を含ませることにより、光架橋性のコンプスタチン類似体を合成することが可能であろう(Soulika,A.M.ら,上記)。任意選択で、追加のアミノ酸、例えば、FLAGタグまたはHAタグなどのエピトープタグを含ませて、例えばウエスタンブロット法による化合物の検出を容易にすることが可能である。コンプスタチン類似体をフラグメントとインキュベートして架橋を開始する。コンプスタチン類似体とC3フラグメントの共局在が結合を示す。このほか、表面プラズモン共鳴を用いて、コンプスタチン類似体がC3のコンプスタチン結合部位またはそのフラグメントと結合するかどうかを判定してもよい。当業者であれば分子モデリングソフトウェアプログラムを用いて、化合物がコンプスタチンあるいは表2に記載のいずれかのペプチドの配列、例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36またはいくつかの実施形態では配列番号30もしくは31の配列または本明細書に開示されている別のコンプスタチン類似体配列を有するペプチドと実質的に同じC3との分子間の接触を形成するかどうかを予測することが可能であろう。
【0202】
アミノ酸残基の縮合を介した当該技術分野で公知のペプチド合成の様々な合成方法によりコンプスタチン類似体を調製することができ、例えば、従来のペプチド合成法に従い、当該技術分野で公知の方法を用いて、それをコードする適切な核酸配列からin vitroまたは生きた細胞内で発現させることにより、コンプスタチン類似体を調製することができる。例えば、Malik,上記,Katragadda,上記,国際公開第2004026328号および/または国際公開第2007062249号に記載されている標準的な固相法を用いて、ペプチドを合成することができる。当該技術分野で公知の様々な保護基および方法論を用いて、アミノ基およびカルボキシル基、反応性官能基などのような潜在的に反応性の部分を保護し、次いで脱保護することができる。例えば、「Protective Groups in Organic Synthesis」,第3版(Greene,T.W.およびWuts,P.G.編,John Wiley & Sons,New York:1999)を参照されたい。逆相HPLCなどの標準的な方法を用いて、ペプチドを精製することができる。必要に応じて、逆相HPLCなどの既知の方法を用いて、ジアステレオマーペプチドペプチドの分離を行ってもよい。所望に応じて、調製物を凍結乾燥させ、次いで適切な溶媒、例えば水に溶解させてもよい。得られた溶液のpHは、NaOHなどの塩基を用いて、例えば生理的pHに調整することができる。必要に応じて、質量分析によってペプチド調製物の特徴付けを行い、質量および/またはジスルフィド結合形成を確認してもよい。例えば、Mallik,2005およびKatragadda,2006を参照されたい。
【0203】
ポリエチレングリコール(PEG)またはこれと同様の分子などの分子の付加によりコンプスタチン類似体を修飾して、化合物を安定化させる、その免疫原性を低減する、その体内での寿命を延ばす、その溶解性を増大または低減する、および/または分解に対するその耐性を増大させることができる。PEG化の方法は当該技術分野で周知である(Veronese,F.M.およびHarris,Adv.Drug Deliv.Rev.54,453−456,2002;Davis,F.F.,Adv.Drug Deliv.Rev.54,457−458,2002);Hinds,K.D.およびKim,S.W.Adv.Drug Deliv.Rev.54,505−530(2002;Roberts,M.J.,Bentley,M.D.およびHarris,J.M.Adv.Drug Deliv.Rev.54,459−476;2002);Wang,Y.S.ら,Adv.Drug Deliv.Rev.54,547−570,2002)。ポリペプチドを適宜結合させることができるPEGおよび誘導体化されたPEGを含めた修飾PEGなどの多種多様なポリマーがNektar Advanced Pegylation 2005−2006 Product Catalog,Nektar Therapeutics,San Carlos,CAに記載されており、この文献からほかにも、適切なコンジュゲーション法の詳細を知ることができる。別の実施形態では、コンプスタチン類似体を免疫グロブリンのFcドメインまたはその一部分と融合させる。他のいくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体をアルブミン部分またはアルブミン結合ペプチドとコンジュゲートする。したがって、いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体を1つ以上のポリペプチド成分または非ポリペプチド成分で修飾する、例えば、コンプスタチン類似体をペグ化するか、別の部分とコンジュゲートする。いくつかの実施形態では、成分は免疫グロブリンのFcドメインでもその一部分でもない。コンプスタチン類似体を単一の分子種または複数の異なる分子種(例えば、複数の異なる類似体)を含み得る多量体として、あるいは超分子複合体の一部として得ることができる。
【0204】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法に有用なコンプスタチン類似体は、終末相半減期が少なくとも3日、4日、5日、6日または7日の長時間作用型コンプスタチン類似体である。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体はペグ化コンプスタチン類似体である。以下および/または2012年5月11日に出願された「CELL−REACTIVE,LONG−ACTING,OR TARGETED COMPSTATIN ANALOGS AND USES THEREOF」と題する国際出願PCT/US12/37648号に長時間作用型コンプスタチン類似体の具体例が記載されている。コンプスタチン類似体に関連する任意の方法または組成物のいくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、配列が配列番号3〜41のいずれかを含むコンプスタチン類似体を含み、このコンプスタチン類似体は長時間作用型コンプスタチン類似体である。
【0205】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、ポリマー骨格またはポリマー足場と共有結合または非共有結合した複数のコンプスタチン類似体部分を含む多価化合物である。コンプスタチン類似体部分は同一のものでも異なるものでもよい。本発明の特定の実施形態では、多価化合物は、複数例または複数コピーの単一のコンプスタチン類似体部分を含む。本発明の他の実施形態では、多価化合物は、2種類以上の異なるコンプスタチン類似体部分、例えば、3種類、4種類、5種類またはそれ以上の異なるコンプスタチン類似体部分のそれぞれの例を1つ以上含む。本発明の特定の実施形態では、コンプスタチン類似体部分の個数(「n」)は2〜6である。本発明の他の実施形態では、nは7〜20である。本発明の他の実施形態では、nは20〜100である。他の実施形態では、nは100および1,000である。本発明の他の実施形態では、nは1,000〜10,000である。他の実施形態では、nは10,000〜50,000である。他の実施形態では、nは50,000〜100,000である。他の実施形態では、nは100,000〜1,000,000である。
【0206】
コンプスタチン類似体部分は、ポリマー足場と直接結合させても、あるいはコンプスタチン類似体部分とポリマー足場とを接続する結合部分を介して結合させてもよい。結合部分は単一のコンプスタチン類似体部分およびポリマー足場と結合させることができる。あるいは、結合部分が複数のコンプスタチン類似体部分をポリマー足場と結合させるよう、結合部分がそれと結合した複数のコンプスタチン類似体部分を有していてもよい。
【0207】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体は、第一級または第二級アミンをを含む側鎖を有するアミノ酸、例えばLys残基を含む。例えば、1つ以上のアミノ酸、例えば、第一または第二級アミンを例えばその側鎖に含む1つ以上のアミノ酸を含むリンカーの付加によって、本明細書に開示されるコンプスタチン類似体配列のいずれかを延長または修飾し得る。例えば、コンプスタチン類似体のN末端および/またはC末端にLys残基またはLys残基を含む配列が付加されている。いくつかの実施形態では、Lys残基は、堅いスペーサーまたは柔軟なスペーサーによりコンプスタチン類似体の環状部分と分離されている。リンカーまたはスペーサーは、例えば、置換または非置換の飽和または不飽和アルキル鎖、オリゴ(エチレングリコール)鎖および/またはその他の部分を含み得る。鎖の長さは、例えば、炭素原子2〜20個であり得る。いくつかの実施形態では、スペーサーはペプチドであるか、これを含むものである。ペプチドスペーサーは、例えば、長さが1〜20アミノ酸、例えば、長さが4〜20アミノ酸であり得る。適切なスペーサーは、例えば、複数のGly残基、Ser残基またはその両方を含むか、これよりなるものであり得る。任意選択で、第一級もしくは第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸および/またはスペーサー内の少なくとも1つのアミノ酸はD−アミノ酸である。PEG部分もしくはこれと同様の分子またはポリマー足場を、任意選択でリンカーを介して、第一級または第二級アミンと結合させ得る。いくつかの実施形態では、二官能性リンカーを用いる。二官能性リンカーは2つの反応性官能基を含み得るものであり、これらの官能基は各種実施形態において同じでものであっても、異なるものであってもよい。各種実施形態では、1つ以上のリンカー、スペーサーおよび/またはHermanson(上記)に記載されているコンジュゲーション技術を用いる。
【0208】
任意の各種ポリマー骨格またはポリマー足場を用いることができる。例えば、ポリマー骨格またはポリマー足場はポリアミド、多糖、ポリ酸無水物、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリペプチド、ポリエチレンオキシドまたはデンドリマーであり得る。例えば、国際公開第98/46270号(国際出願PCT/US98/07171号)または国際公開第98/47002号(国際出願PCT/US98/06963号)に適切な方法およびポリマー骨格が記載されている。一実施形態では、ポリマー骨格またはポリマー足場は、カルボン酸基、無水物基またはスクシンイミド基などの複数の反応性官能基を含む。ポリマー骨格またはポリマー足場をコンプスタチン類似体と反応させる。一実施形態では、コンプスタチン類似体は、カルボン酸、無水物基またはスクシンイミド基などの多数の異なる反応性官能基のいずれかを含み、これらをポリマー骨格のしかるべき基と反応させる。あるいは、互いに結合してポリマー骨格またはポリマー足場を形成し得るモノマー単位を最初にコンプスタチン類似体と反応させ、得られたモノマーを重合させる。別の実施形態では、短鎖を重合し、官能化した後、異なる組成の短鎖の混合物を長いポリマーに組み立てる。
【0209】
いくつかの態様では、例えば化合物を安定化させる、その体内での寿命を延ばす、その溶解性を増大させる、その免疫原性を低減する、および/または分解に対するその耐性を増大させるポリエチレングリコール(PEG)鎖またはその他のポリマー(1つまたは複数)などの部分を本明細書では「クリアランス低減部分」(CRM)と呼ぶことがあり、このような部分を含むコンプスタチン類似体を長時間作用型コンプスタチン類似体と呼ぶことがある。
【0210】
いくつかの態様では、長時間作用型コンプスタチン類似体は式M−L−Aの化合物を含み、式中、AはCRMを含む部分であり、Lは任意選択で存在する結合部であり、Mはコンプスタチン類似体部分を含む。コンプスタチン類似体部分は、様々な実施形態において任意のコンプスタチン類似体、例えば、上記の任意のコンプスタチン類似体を含み得る。式M−L−Aは、L−Aがコンプスタチン類似体部分のN末端に存在する実施形態、L−Aがコンプスタチン類似体部分のC末端に存在する実施形態、L−Aがコンプスタチン類似体部分のアミノ酸の側鎖に結合している実施形態および同じまたは異なるL−AがMの両端に存在する実施形態を包含する。特定のコンプスタチン類似体(1つまたは複数)が式M−L−Aの化合物中のコンプスタチン類似体部分として存在する場合、コンプスタチン類似体の官能基はLの官能基と反応してAまたはLと共有結合を形成していることが理解されよう。例えば、コンプスタチン類似体部分が第一級アミン(NH)基を含む側鎖を有するアミノ酸を含むコンプスタチン類似体(そのコンプスタチン類似体は式R−(NH)で表すことができる)を含む長時間作用型コンプスタチン類似体は、Lとの新たな共有結合(例えば、N−C)が形成されて水素が失われた式R−NH−L−Aを有し得る。したがって、「コンプスタチン類似体部分」という用語は、コンプスタチン類似体の少なくとも1個の原子が第二の部分との共有結合に関与する(例えば、側鎖の修飾となり得る)分子構造を包含する。同様のことが多価化合物中に存在するコンプスタチン類似体部分でも考慮される。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体のN末端またはC末端にあるブロック部分が長時間作用型コンプスタチン類似体の構造内のL−Aに置き換わっている。
【0211】
いくつかの実施形態では、Lは、−CH=CH−もしくは−CH−CH=CH−などの不飽和部分;非芳香族環系を含む部分(例えば、シクロヘキシル部分);芳香族部分(例えば、フェニル部分などの芳香族環系);エーテル部分(−C−O−C−);アミド部分(−C(=O)−N−);エステル部分(−CO−O−);カルボニル部分(−C(=O)−);イミン部分(−C=N−);チオエーテル部分(−C−S−C−);アミノ酸残基;および/または適合性のある2つの反応性官能基の反応により形成され得る任意の部分を含む。特定の実施形態では、結合部の1つ以上の部分が、その部分上の1つ以上の水素(またはその他の)原子が独立して、特に限定されないが、脂肪性;芳香性、アリール;アルキル、アラルキル、アルカノイル、アロイル、アルコキシ;チオ;F;Cl;Br;I;−NO2;−CN;−CF3;−CH2CF3;−CHCl2;−CH2OH;−CH2CH2OH;−CH2NH2;−CH2SO2CH3;−または−GRG1を含めた1つ以上の部分に置き換わることにより置換されており、式中、Gは−O−、−S−、−NRG2−、−C(=O)−、−S(=O)−、−SO2−、−C(=O)O−、−C(=O)NRG2−、−OC(=O)−、−NRG2C(=O)−、−OC(=O)O−、−OC(=O)NRG2−、−NRG2C(=O)O−、−NRG2C(=O)NRG2−、−C(=S)−、−C(=S)S−、−SC(=S)−、−SC(=S)S−、−C(=NRG2)−、−C(=NRG2)O−、−C(=NRG2)NRG3−、−OC(=NRG2)−、−NRG2C(=NRG3)−、−NRG2SO2−、−NRG2SO2NRG3−または−SO2NRG2−であり、RG1、RG2およびRG3はそれぞれ独立して、特に限定されないが、水素、ハロゲンまたは任意選択で置換されている脂肪族部分、芳香族部分またはアリール部分を含む。環系が置換基として存在する場合、それは任意選択で直鎖状部分を介して結合していてもよいことが理解されよう。本発明により構想される置換基と可変物の組合せは、好ましくは、本明細書に記載の方法のいずれか1つ以上において有用な、例えば、本明細書に記載の1つ以上の障害の治療および/または細胞、組織もしくは器官との接触に有用な、ならびに/あるいは1つ以上のこのような化合物の製造の中間体として有用な安定な化合物をもたらすである。
【0212】
Lは様々な実施形態において、前段落に記載されている部分のいずれか1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、Lは、互いに結合して通常は1〜約60個の原子、1〜約50個の原子、例えば、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜10個または1〜6個の原子の長さを有する構造を形成する2つ以上の異なる部分を含み、ここでは長さは、主鎖(最長鎖)の原子の数を指す。いくつかの実施形態では、Lは、互いに結合して通常は主鎖(最長鎖)の炭素原子が1〜約40個、例えば1〜30個、例えば、1〜20個、1〜10個または1〜6個である構造を形成する2つ以上の異なる部分を含む。
【0213】
いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、ヒトまたは非ヒト霊長類に10mg/kgの用量でIV投与した場合、平均血漿中半減期が少なくとも1日、例えば、1〜3日、3〜7日、7〜14日または14〜28日である。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体をヒトまたは非ヒト霊長類に10mg/kgの用量でIV投与した後のその平均血漿中半減期は、同じアミノ酸配列(および該当する場合は1つ以上のブロック部分)を有するがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体より少なくとも2倍、例えば、2〜5倍、5〜10倍、10〜50倍または50〜100倍低い。
【0214】
いくつかの実施形態では、血漿中半減期とは単回IV投与後の終末相半減期のことである。いくつかの実施形態では、血漿中半減期とは、複数回IV投与後に定常状態に達した後の終末相半減期のことである。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、霊長類に単回IV投与を実施した後または複数回IV投与を実施した後、その血漿中CmaxがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体の血漿中Cmaxの少なくとも5倍、例えば、5〜50倍に達する。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、霊長類に単回IV投与を実施した後または複数回IV投与を実施した後、その血漿中CmaxがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体の血漿中Cmaxの10〜20倍に達する。いくつかの実施形態では、霊長類はヒトである。いくつかの実施形態では、霊長類は非ヒト霊長類、例えば、カニクイザルまたはアカゲザルなどのサルである。いくつかの実施形態では、10mg/kgの用量でヒトまたは非ヒト霊長類にIV投与した直後24時間の長時間作用型コンプスタチン類似体の腎クリアランスは、対応するコンプスタチン類似体の腎クリアランスより少なくとも2倍、例えば、2〜5倍、5〜10倍、10〜50倍または50〜100倍低い。コンプスタチン類似体の濃度は、例えば、UV、HPLC、質量分析(MS)もしくはCRMに対する抗体またはLC/MSもしくはLC/MS/MSなどのこのような方法の組合せを用いて、血液試料および/または尿試料中で測定することができる。半減期およびクリアランスなどの薬物動態パラメータは、当業者に公知の方法を用いて明らかにすることができる。例えばWinNonlinソフトウェアv5.2(Pharsight社、St.Louis、MO)を用いて、薬物動態分析を実施することができる。
【0215】
いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、同じアミノ酸配列(および該当する場合は1つ以上のブロック部分)を有するがCRMを含まない対応するコンプスタチン類似体の活性の少なくとも約10%、20%、30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上のモル活性を有する。長時間作用型コンプスタチン類似体が複数のコンプスタチン類似体部分を含むいくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体のモル活性は、前記コンプスタチン類似体部分の活性の合計の少なくとも約10%、20%または30%、例えば、30%〜40%、30%〜50%、30%〜60%、30%〜70%、30%〜80%、30%〜90%またはそれ以上である。いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)は、分子量が少なくとも500ダルトンの(CHCHO)部分を含む。いくつかの実施形態では、リンカーは、平均分子量が約500;1,000;1,500;2,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンの(CHCHO)部分を含む。「平均分子量」は数平均分子量を指す。いくつかの実施形態では、(CHCHO)n部分の多分散度Dが1.0005〜1.50、例えば、1.005〜1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.40もしくは1.50であるか、1.0005〜1.50の任意の値をとる。
【0216】
いくつかの実施形態では、(CHCHO)n部分が単分散であり、(CHCHO)n部分の多分散度は1.0である。このような単分散の(CHCHO)n部分は当該技術分野において公知で、Quanta BioDesign社(Powell、OH)から購入可能であり、またその非限定的な例をとして、nが2、4、6、8、12、16、20または24である単分散部分が挙げられる。
【0217】
いくつかの実施形態では、化合物は複数の(CHCHO)部分を含み、前記(CHCHO)部分の総分子量が約1,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、化合物は、定められた長さ、例えば、n=4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28もしくは30またはそれ以上の長さの(CHCHO)部分を複数含む。いくつかの実施形態では、化合物は、定められた長さの(CHCHO)部分を、前記(CHCHO)部分の総分子量が約1,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンになる程度の数だけ含む。いくつかの実施形態では、nが約30〜約3000である。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体部分が直鎖状PEGの各末端に結合している。例えば上記のように、鎖の各末端に反応性官能基を有する二官能性PEGを用いることができる。いくつかの実施形態では、反応性官能基が同じものであるが、いくつかの実施形態では、各末端に異なる反応性官能基が存在する。いくつかの実施形態では、複数の(CHCHO)部分が分岐構造で与えられる。分岐枝は直鎖状ポリマー骨格に付加されているもの(例えば、櫛形構造)であっても、1つ以上の中核となる基から生じているもの(例えば、星形構造)であってもよい。いくつかの実施形態では、分岐状分子が(CHCHO)鎖を3〜10本有する。いくつかの実施形態では、分岐状分子が(CHCHO)鎖を4〜8本有する。いくつかの実施形態では、分岐状分子が(CHCHO)鎖を10本、9本、8本、7本、6本、5本、4本または3本有する。いくつかの実施形態では、星形分子が、中核となる基から生じている(CHCHO)鎖を10〜100本、10〜50本、10〜30本または10〜20本有する。したがって、いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、それぞれが鎖末端の官能基を介して(CHCHO)鎖と結合したコンプスタチン類似体部分を、例えば、3〜10個、例えば4〜8個含み得る。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、それぞれが鎖末端の官能基を介して(CHCHO)鎖と結合したコンプスタチン類似体部分を、10〜100個含み得る。いくつかの実施形態では、分岐状または星形のPEGの分岐枝(「アーム」と呼ばれることもある)が(CHCHO)部分をほぼ同数含む。いくつかの実施形態では、少なくとも一部の分岐枝の長さが異なっている。いくつかの実施形態では、1つ以上の(CHCHO)鎖がそれと結合したコンプスタチン類似体部分を有さないことが理解されよう。いくつかの実施形態では、鎖の少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%がそれと結合したコンプスタチン類似体部分を有する。
【0218】
本明細書に図示される属および化合物では、酸素原子を反復単位の右側または反復単位の左側にしてポリエチレングリコール部分が描かれている。一方向のみが描かれる場合でも、本発明は所与の化合物または属の両方向のポリエチレングリコール部分(すなわち、(CHCHO)および(OCHCH)を包含し、また化合物または属が複数のポリエチレングリコール部分を含む場合、あらゆる組合せの方向が本開示に包含される。
【0219】
反応性官能基を含む単官能性PEGの例の式を以下にいくつか図示する。例示を目的に、反応性官能基(1つまたは複数)がNHSエステルを含む式が図示されているが、例えば上記のような他の反応性官能基を用いることも可能である。いくつかの実施形態では、(CHCHO)は、左端がメトキシ基(OCH)で終わるように図示されているが、以下または本明細書の他の箇所に図示される鎖が異なるOR部分(例えば、脂肪族基、アルキル基、低級アルキル基または他の任意の適度なPEG末端基)またはOH基で終わっていてもよいことが理解されよう。また、様々な実施形態において、図示されているもの以外の部分が(CHCHO)部分とNHS基を接続し得ることも理解されよう。
【0220】
いくつかの実施形態では、単官能性PEGは式A:
【化1】
式A
のPEGであり、式中、
「反応性官能基」およびnは上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものであり;
は水素、脂肪族または任意の適切な末端基であり;
Tは、共有結合であるか、あるいはTの1つ以上の炭素単位が任意選択で独立して−O−、−S−、−N(R)−、−C(O)−、−C(O)O−、−OC(O)−、−N(R)C(O)−、−C(O)N(R)−、−S(O)−、−S(O)−、−N(R)SO−またはSON(R)−に置き換わっているC1〜12の直鎖状または分岐状炭化水素鎖であり;
はそれぞれ独立して、水素またはC1〜6脂肪族である。
【0221】
式Aの単官能性PEGの例としては:
【化2】
式I
が挙げられる。
【0222】
式Iでは、反応性官能基を含む部分は、m=2である一般構造−CO−(CH−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、単官能性PEGが式Iの構造を有し、式中、mは1〜10、例えば1〜5である。例えば、いくつかの実施形態では、下に示すようにmが3である。
【化3】
式Ia
【化4】
式II
【0223】
式IIでは、反応性官能基を含む部分は、m=1である一般構造−(CH−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、単官能性PEGが式IIの構造を有し、式中、mは1〜10であるか(例えば、下の式IIIに示すようにmが5である)、mが0である(下の式IIIaに示す)。
【化5】
式III
【化6】
式IIIa
【0224】
いくつかの実施形態では、二官能性の直鎖状PEGが、反応性官能基を含む部分をその両端に含む。反応性官能基は同じもの(ホモ二官能性)であっても、異なるもの(ヘテロ二官能性)であってもよい。いくつかの実施形態では、二官能性PEGの構造は対称性のものであり得、この構造では、反応性官能基と−(CHCHO)鎖の各末端にある酸素原子とが同じ部分を用いて接続されている。いくつかの実施形態では、2つの反応性官能基と分子のPEG部分とが異なる部分を用いて接続されている。例となる二官能性PEGの構造を下に図示する。例示を目的に、反応性官能基(1つまたは複数)がNHSエステルを含む式が図示されているが、他の反応性官能基を用いることも可能である。
【0225】
いくつかの実施形態では、二官能性直鎖状PEGは式B:
【化7】

式B
のPEGであり、式中、Tおよび「反応性官能基」はそれぞれ独立して、上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものであり、nは上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものである。
【0226】
式Bの二官能性PEGの例としては:
【化8】
式IV
が挙げられる。
【0227】
式IVでは、反応性官能基を含む部分は、m=1である一般構造−(CH−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、二官能性PEGがIVの構造を有し、式中、mは1〜10、例えば1〜5である。
【0228】
【化9】
式V
【0229】
式Vでは、反応性官能基を含む部分は、m=2である一般構造−CO−(CH−COO−NHSを有する。いくつかの実施形態では、二官能性PEGが式Vの構造を有し、式中、mは1〜10、例えば1〜5である。
【0230】
いくつかの実施形態では、分岐した櫛形または星形のPEGは、反応性官能基を含む部分を複数の各−(CHCHO)鎖の末端に含む。反応性官能基は同じものであってもよく、あるいは少なくとも2つの異なる基が存在してもよい。いくつかの実施形態では、分岐した櫛形または星形のPEGは、下式:
【化10】
式C
【化11】
式D
【化12】

式E
【化13】

式F
【化14】
式G
【化15】
式H
のPEGであり、式中、Rはそれぞれ独立して、「反応性官能基」またはRであり、T、nおよび「反応性官能基」はそれぞれ独立して、上で定義され、本明細書のクラスおよびサブクラスに記載されている通りのものである。反応性官能基としてNHS部分を含む分岐状PEG(アーム、すなわち分岐枝を8本有する)の例の構造を下に図示する。
【化16】
式VI
【化17】
式VII
【0231】
反応性官能基としてNHS部分を含む分岐状PEG(アーム、すなわち分岐枝を4本有する)の例の構造を下に図示する:
【化18】
式VIII
【化19】
式IX
【0232】
骨格から生じる分岐枝の数は様々であり得る。例えば、上式VIおよびVIIの分岐枝数4を様々な実施形態において、0〜10の他の任意の整数に変化させてもよい。特定の実施形態では、1つ以上の分岐枝が反応性官能基を含まず、その分岐枝は上記のような−CHCHOH基または−CHCHOR基で終わっている。
【0233】
いくつかの実施形態では、分岐状PEGが式VII、VIIIまたはIX(または分岐枝の数が異なるそのバリアント)の構造を有する。ただし、xが
【化20】
である。
【0234】
いくつかの実施形態では、分岐状PEGが式VII、VIIIまたはIX(または分岐枝の数が異なるそのバリアント)の構造を有する。ただし、xが
【化21】
である。
【0235】
当然のことながら、上記x部分のメチレン(CH)基が代わりにこれより長いアルキル鎖(CH(mは2、3、4、5、6、8、10、20または30以下である)を含んでもよく、あるいは本明細書に記載の他の部分を1つ以上含んでもよい。
【0236】
いくつかの実施形態では、NHS反応基またはマレイミド反応基を有する分岐状PEGの例が次のように図示される:
【化22】
式X
【化23】
式XI
【0237】
いくつかの実施形態では、4本の分岐枝のうちの3本または各分岐枝が反応性官能基を含む式XまたはXIのバリアントを用いる。
【0238】
PEGのさらに別の例が次のように表され得る。
【化24】
式XII
【化25】
式XIII
【0239】
上で述べたことであるが、本明細書に記載のように、様々な実施形態において、長時間作用型コンプスタチン類似体のペプチド成分と(CHCHO)−R部分との間に、直鎖状アルキル、エステル、アミド、芳香環(例えば、置換もしくは非置換フェニル)、置換もしくは非置換シクロアルキル構造またはこれらの組合せなどの各種部分のいずれかを組み込み得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、このような部分(1つまたは複数)が化合物の加水分解に対する感受性を高め、これにより化合物のペプチド部分がCRMから解離し得る。いくつかの実施形態では、このような解離がin vivoでの組織への浸透性および/または化合物の活性を増大させ得る。いくつかの実施形態では、加水分解は一般的な(例えば、酸−塩基)加水分解である。いくつかの実施形態では、加水分解は酵素触媒によるもの、例えばエステラーゼ触媒によるものである。当然のことながら、加水分解が2種類とも生じる場合がある。1つ以上のこのような部分と反応性官能基としてのNHSエステルとを含むPEGの例には以下のものがある。
【化26】
式XIV
【化27】
式XV
【化28】
式XVI
【0240】
いくつかの実施形態では、分岐状(複数のアームを有する)のPEGまたは星形のPEGは、ペンタエリスリトール核、ヘキサグリセリン核またはトリペンタエリトリトール核を含む。特定の実施形態では、分岐枝がすべて単一の点から生じているとは限らないことが理解されよう。
【0241】
反応性官能基を1つ以上含む一官能性、二官能性、分岐状およびその他のPEGは、例えば、特にNOF America社(White Plains、NY)またはBOC Sciences社(45−16 Ramsey Road Shirley、NY 11967、USA)から入手することができる。
【0242】
いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体、例えば配列番号3〜41のいずれかのコンプスタチン類似体は、N末端、C末端またはその両方で1つ以上のアミノ酸によって延長され、そのアミノ酸のうち少なくとも1つは、第一級または第二級アミン、スルフィドリル基、カルボキシル基(カルボン酸基とも表され得る)、グアニジノ基、フェノール基、インドール環、チオエーテルまたはイミダゾール環などの反応性官能基を含む側鎖を有し、この反応性官能基は、例えば、CRMまたはCRMを含む部分を結合させるために使用され得る。いくつかの実施形態では、アミノ酸(1つまたは複数)はL−アミノ酸である。いくつかの実施形態では、任意の1つ以上のアミノ酸(1つまたは複数)がD−アミノ酸である。複数のアミノ酸が付加される場合、アミノ酸は独立して選択され得る。いくつかの実施形態では、CRMを含む部分を付加するための標的として反応性官能基(例えば、第一級または第二級アミン)を用いる。第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸としては、リジン(Lys)ならびに一般構造NH(CHCH(NH)COOHのジアミノカルボン酸、例えば2,3−ジアミノプロピオン酸(dapa)、2,4−ジアミノ酪酸(daba)およびオルニチン(orn)(それぞれn=1(dapa)、2(daba)および3(orn)の場合)などが挙げられる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸がシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、チロシン、トリプトファン、メチオニンまたはヒスチジンである。システインはスルフィドリル基を含む側鎖を有する。アスパラギン酸およびグルタミン酸はカルボキシル基(イオン化されるとカルボン酸基になる)を含む側鎖を有する。アルギニンはグアニジノ基を含む側鎖を有する。チロシンはフェノール基(イオン化されるとフェノラート基になる)を含む側鎖を有する。トリプトファンは、例えばトリプトファンを含むインドール環を含む側鎖を有する。メチオニンは、例えばメチオニンを含むチオエーテル基を含む側鎖を有する。ヒスチジンはイミダゾール環を含む側鎖を有する。天然のアミノ酸および天然に存在しないアミノ酸を含め、このような反応性官能基を1つ以上含む側鎖を有する多種多様な非標準アミノ酸が利用可能である。例えば、Hughes,B.(編),Amino Acids,Peptides and Proteins in Organic Chemistry,Volumes 1−4,Wiley−VCH(2009−2011);Blaskovich,M.,Handbook on Syntheses of Amino Acids General Routes to Amino Acids,Oxford University Press,2010を参照されたい。1つ以上の非標準アミノ酸を用いてCRMを含む部分の付加の標的を与える実施形態が包含される。必要に応じて、化合物の合成時にいずれか1つ以上のアミノ酸(1つまたは複数)を保護し得る。例えば、標的アミノ酸側鎖を含む反応(1つまたは複数)時に1つ以上のアミノ酸を保護し得る。CRMを含む部分の付加の標的としてスルフィドリル含有アミノ酸を用いるいくつかの実施形態では、システインなどの他のアミノ酸の間で分子内ジスルフィド結合を形成することによって化合物が環化される間、スルフィドリルを保護する。
【0243】
本明細書の特定の記述では、アミン基を含む側鎖を有するアミノ酸を例として用いる。異なる反応性官能基を含む側鎖を有するアミノ酸を用いる類似の実施形態が包含される。いくつかの実施形態では、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸が、ペプチド結合を介して配列番号3〜41のいずれかのN末端またはC末端に直接結合している。いくつかの実施形態では、第一級または第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸が、上記結合部分のいずれか1つ以上を含み得る結合部を介して、配列番号3〜41のいずれかのN末端またはC末端と結合している。いくつかの実施形態では、少なくとも2つのアミノ酸が一端または両端に付加されている。この2つ以上の付加されているアミノ酸はペプチド結合により互いに結合していてもよく、また付加されているアミノ酸の少なくとも一部が、本明細書に記載の結合部分のいずれか1つ以上を含み得る結合部を介して互いに結合していてもよい。
【0244】
CRMを含まない対応するコンプスタチン類似体がほかにも、その対応する長時間作用型コンプスタチン類似体中に存在するこのようなアミノ酸を1つ以上欠き得ることが理解されよう。したがって、配列番号3〜41のいずれかを含み、CRMを欠く対応するコンプスタチン類似体は、それぞれ配列番号3〜41と「同じアミノ酸配列を有する」ものであると理解されよう。例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34または36のアミノ酸配列を含み、CRMを欠く対応するコンプスタチン類似体は、それぞれ配列番号14、21、28、29、32、33、34または36と「同じアミノ酸配列を有する」ものであると理解されよう。
【0245】
説明する目的で、コンプスタチン類似体部分の例としてアミノ酸配列Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thrを有するペプチド(配列番号42)(配列番号28のコンプスタチン類似体に対応し、配列番号42中のアスタリスクは活性化合物中でジスルフィド結合によって結合したシステインを表し、(1Me)Trpは1−メチル−トリプトファンを表す)を使用し、結合部の例として(CHおよび(O−CH2−CH2)を使用し、反応性官能基を含むアミノ酸の例としてリジンを使用し(一部の化合物)、一部の化合物に任意選択で存在するブロック部分の例としてN末端およびC末端のそれぞれアセチル化およびアミド化として使用し、それぞれイタリック体(すなわち、それぞれAcおよびNH)で表すことがある。いくつかの実施形態では、配列番号42が、例えばC末端結合について下に例示するように、延長されてペプチドのN末端またはC末端にLys残基を含む:
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−Lys−NH(配列番号43)。
【0246】
いくつかの実施形態では、Lys残基が、例えばC末端結合について以下に示すように、ペプチドリンカーを介して配列番号42のN末端またはC末端に結合している:
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−(Gly)−Lys−NH(配列番号44)。
【0247】
いくつかの実施形態では、第一級または第二級アミンを含むリンカーがコンプスタチン類似体のN末端またはC末端に付加されている。いくつかの実施形態では、リンカーはアルキル鎖および/またはオリゴ(エチレングリコール)部分を含む。例えば、NH(CHCHO)CHC(=O)OH(例えば、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸(AEEAc)または11−アミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン酸)またはそのNHSエステル(例えば、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸または11−アミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン酸のNHSエステル)を用いることができる。いくつかの実施形態では、得られる化合物は次のようなものである(式中、リンカーによって与えられる部分が太字で示されている):
NH(CHC(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH(配列番号45)
NH(CHCHO)CHC(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH(配列番号46)
【0248】
いくつかの実施形態では、Lys残基が、非ペプチド部分を含むリンカーを介して配列番号42のN末端またはC末端に結合している。例えば、リンカーは、アルキル鎖、オリゴ(エチレングリコール)鎖および/または環系を含み得る。いくつかの実施形態では、8−AEEAcまたはそのNHSエステルを用いて、次のような化合物(式中、8−AEEAcによって与えられる部分が太字で示されている)が得られる(LysがC末端と結合する場合):
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH−CHCHOCHCHOCH−C(=O)−Lys−NH(配列番号47)
【0249】
配列番号45および46では、−C(=O)部分が隣接するIle残基とC−N結合を介して結合しており、Nはアミノ酸の一部分であり、示されていないことが理解されよう。同様に、配列番号47では、−C(=O)部分が隣接するLys残基とC−N結合を介して結合しており、Nはアミノ酸の一部分であり、示されていないことが理解されよう。また、配列番号47では、NH部分が隣接するN末端アミノ酸(Thr)とC−N結合を介して結合しており、Cはアミノ酸のカルボニル炭素であり、示されていないことも理解されよう。
【0250】
配列番号43〜47の化合物を第一級アミン基において修飾し、長時間作用型コンプスタチン類似体を作製することができる。
【0251】
nが約500;1,000;1,500;2,000;5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;〜100,000ダルトンの平均分子量を得るのに十分な値となっている長時間作用型コンプスタチン類似体の例を以下に記載する。
【0252】
(CHCHO)C(=O)−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH)(配列番号48)
【0253】
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH−CHCHOCHCHOCH−C(=O)−Lys−C(=O)−(CHCHO)n−NH(配列番号49)
【0254】
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−Lys−C(=O)−(CHCHO)n−NH(配列番号50)
【0255】
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−(Gly)−Lys−C(=O)−(CHCHO)n−NH(配列番号51)
【0256】
Ac−(CHCHO)nC(=O)Lys−(Gly)5−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH)(配列番号52)
【0257】
Ac−(CHCHO)nC(=O)Lys−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH)(配列番号53)
【0258】
配列番号48では、(CHCHO)nがアミド結合を介してN末端アミノ酸と結合している。配列番号49〜53では、(CHCHO)n部分がアミド結合を介してLys側鎖と結合している。したがって、上記のように、配列番号49、50および51のC末端のNHはペプチドのC末端のアミド化を表していることが理解され、また配列番号52および53では、N末端のAcはペプチドのN末端のアセチル化を表していることが理解されよう。ほかにも、(CHCHO)部分の遊離末端が通常、下線を施したOが末端(CHCHO)基のO原子を表す(R)で終わることが当業者には理解されよう。(OR(Oに下線))は多くの場合、ヒドロキシル(H)基またはメトキシ(−CH)基などの部分であるが、他の基(例えば、他のアルコキシ基)を用いることも可能である。したがって、例えば、配列番号49は、Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH−CHCHOCHCHOCH−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CHCHO)−R)−NH2(配列番号54)(式中、Rは、例えば直鎖状PEGの場合、HまたはCHである)のように表すことができる。二官能性、分岐状または星形のPEGの場合、Rは分子の残りの部分を表す。さらに、反応性官能基を含む部分は本明細書に記載されるように(例えば、本明細書に記載の式のいずれかに従って)変化し得ることが理解されよう。例えば、反応性官能基を含む部分がエステルおよび/またはアルキル鎖を含み、配列番号54と同じペプチド配列を含む長時間作用型コンプスタチン類似体は、次のように表すことができる:
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH−CHCHOCHCHOCH−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CH2)−(CHCHO)−R)−NH2(配列番号55);
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH−CHCHOCHCHOCH−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CHm−C(=O)−(CHCHO)−R)−NH2(配列番号56)
Ac−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−NH−CHCHOCHCHOCH−C(=O)−Lys−(C(=O)−(CHm−C(=O)−(CH)j(CHCHO)−R)−NH2(配列番号57)
配列番号55〜57では、mは様々な実施形態において、1から最大約2、3、4、5、6、7、8、10、15、20または30までの範囲に収まり得る。配列番号57では、jは様々な実施形態において、1から最大約2、3、4、5、6、7、8、10、15、20または30までの範囲に収まり得る。また、本明細書に記載のように、様々な実施形態において、Lys−(C(=O)−と(CHCHO)−Rとの間に、アミド、芳香環(例えば、置換もしくは非置換フェニル)または置換もしくは非置換シクロアルキル構造などの他の部分を組み込み得ることも理解されよう。
【0259】
いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体は、−Ile−Cys−Val−(1Me)Trp−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−(配列番号72)が、他の任意のコンプスタチン類似体、例えば、配列番号3〜27または29〜41のいずれかのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列に置き換わった配列番号48〜57のバリアントを含むが、ただし、コンプスタチン類似体のN末端および/またはC末端に存在するブロック部分(1つまたは複数)が存在しないもの、リンカー(ブロック部分を含み得る)に置き換わったものあるいは対応するバリアント(1つまたは複数)内に存在する異なるN末端またはC末端アミノ酸に結合したものであり得る。
【0260】
任意のコンプスタチン類似体、例えば、配列番号3〜41のいずれかを含む任意の化合物が様々な実施形態において、そのN末端またはC末端を介して、反応性官能基を含む任意の部分、例えば、式I〜XVIまたは化合物I〜IIIのいずれかと直接的にあるいは間接的に結合し得る。
【0261】
いくつかの実施形態では、CRMは、ヒト血清中にみられるポリペプチドもしくはそのフラグメントまたは上記ポリペプチドもしくはそのフラグメントと実質的に類似したバリアントを含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチド、フラグメントまたはバリアントは分子量が5kD〜150kD、例えば、少なくとも5kd、10kd、20kd、30kd、40kd、50kd、60kd、70kd、80kd、90kd、100kdまたはそれ以上、例えば、100〜120kDまたは120〜150kDである。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドの1つ以上のアミノ酸側鎖とを反応させることを含み、この側鎖は適合性のある官能基を含むものである。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドのN末端アミンおよび/またはC末端カルボキシル基とを反応させることを含む。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、アミン反応性官能基を含むコンプスタチン類似体と、第一級アミン(例えば、リジン)を含む側鎖を有するアミノ酸および/またはポリペプチドのN末端アミンとを反応させることを含む。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、カルボキシル反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドのC末端カルボキシル基とを反応させることを含む。いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体部分をポリペプチドの各末端に結合させ、任意選択で、1つ以上の内部アミノ酸の側鎖と結合させる。いくつかの実施形態では、長時間作用型コンプスタチン類似体の作製は、スルフィドリル反応性官能基を含むコンプスタチン類似体とポリペプチドの1つ以上のスルフィドリル基とを反応させることを含む。
【0262】
いくつかの実施形態では、ポリペプチド内に反応性官能基を少なくとも1つ導入する。例えば、いくつかの実施形態では、コンプスタチン類似体と反応させる前に、ポリペプチドの側鎖を少なくとも1つ修飾して、第一の反応性官能基を異なる反応性官能基に変換する。いくつかの実施形態では、チオールを導入する。生体分子内にチオールを導入するには、内在性ジスルフィドの還元およびアミン基、アルデヒド基またはカルボン酸基のチオール基への変換を含めた複数の方法を用いることができる。ジチオスレイトール(DTT)、トリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)またはトリス−(2−シアノエチル)ホスフィンにより、タンパク質中のシスチンのジスルフィド架橋をシステイン残基に還元することができる。スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)と反応させた後、DTTまたはTCEPにより3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルコンジュゲートを還元することにより、アミンを間接的にチオラート化することができる。スクシンイミジルアセチルチオアセタートと反応させた後、ほぼ中性pHで50mMのヒドロキシルアミンまたはヒドラジンを用いてアセチル基を除去することにより、アミンを間接的にチオラート化することができる。2−イミノチオランと反応させ、分子全体の電荷を保持して遊離チオールを導入することにより、アミンを直接チオラート化することができる。チオールを含まないタンパク質中のトリプトファン残基をメルカプトトリプトファン残基に酸化し、次いで、これをヨードアセトアミドまたはマレイミドにより修飾することができる。チオールを1つ以上含むポリペプチドと、Ac−Ile−Cys−Val−Trp(1−Me)−Gln−Asp−Trp−Gly−Ala−His−Arg−Cys−Thr−AEEAc−Lys−(C(=O)−(CH−Mal)−NH(配列番号58)などのマレイミド基を含むコンプスタチン類似体とを反応させて、長時間作用型コンプスタチン類似体を作製してもよい。
【0263】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドは組換えにより作製されたものである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、少なくとも一部が組換えにより作製されたものであり(例えば、細菌内で、あるいは真菌、昆虫、植物または脊椎動物などの真核宿主の細胞内で)および/または少なくとも一部が化学合成を用いて作製されたものである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは精製されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチドがグリコシル化されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはグリコシル化されていない。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはヒト血清アルブミン(HSA)である。いくつかの実施形態では、ポリペプチドと実質的に類似したバリアントが、対象、例えばヒト対象の正常な免疫系によって異物として認識されない程度にそのポリペプチドと類似している。いくつかの実施形態では、MHCクラスIエピトープが生じないよう、バリアントの元となるポリペプチドと比較したときの実質的に類似したバリアントの配列の変化を選択する。当該技術分野で公知の様々な方法を用いて、配列がMHCクラスIエピトープを含むかどうかを予測することができる。
【0264】
コンプスタチンの構造は当該技術分野で公知であり、またコンプスタチンより高い活性を有する数多くのコンプスタチン類似体のNMR構造も知られている(Malik,上記)。構造に関する情報を用いてコンプスタチン模倣物を設計することができる。いくつかの実施形態では、コンプスタチン模倣物は、C3またはそのフラグメント(コンプスタチンが結合するβ鎖の40kDフラグメントなど)との結合に関してコンプスタチンまたは任意のコンプスタチン類似体(例えば、表2に配列が記載されているコンプスタチン類似体)と競合する任意の化合物である。いくつかの実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチンの活性と同等かそれを上回る活性を有する。いくつかの実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチンより安定であるか、経口使用しやすいか、バイオアベイラビリティが高い。コンプスタチン模倣物はペプチド、核酸または小分子であり得る。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチン−C3構造、例えば、結晶構造またはNMR実験で得られる3−D構造において決定されるコンプスタチンの結合部位に結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、コンプスタチン−C3構造内のコンプスタチンと置き換わることが可能で、コンプスタチンと実質的に同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、表2に記載されている配列、例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36またはその他のコンプスタチン類似体配列または特定の実施形態において配列番号30もしくは31をペプチド−C3構造内に有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は、表2に記載されている配列、例えば、配列番号14、21、28、29、32、33、34もしくは36またはその他のコンプスタチン類似体配列または特定の実施形態において配列番号30もしくは31をペプチド−C3構造内に有するペプチドと置き換わることが可能で、そのペプチドと実質的に同じC3との分子間の接触を形成し得る化合物である。特定の実施形態では、コンプスタチン模倣物は非ペプチド骨格を有するが、コンプスタチンの配列に基づき設計された配列で配置された側鎖を有する。
【0265】
短いペプチドの具体的な所望のコンホメーションが確認されれば、そのコンホメーションに適合するペプチドまたはペプチド模倣物を設計する方法がよく知られていることを当業者は理解するであろう。例えば、G.R.Marshall(1993),Tetrahedron,49:3547−3558;HrubyおよびNikiforovich(1991)(Molecular Conformation and Biological Interactions,P.Balaram & S.Ramasehan編,Indian Acad.of Sci.,Bangalore,PP.429−455)、Eguchi M,Kahn M.,Mini Rev Med Chem.,2(5):447−62,2002を参照されたい。本発明に特に関連して、例えば、とりわけ、コンプスタチンおよびその類似体に関して当該技術分野で報告されているように、官能基の作用または立体構造上の考慮事項へのアミノ酸残基の様々な側鎖の関与を考慮に入れることにより、ペプチド類似体の設計をさらに精緻化することができる。
【0266】
C3と結合して補体活性化を阻害するのに必要な特定の骨格コンホメーションおよび側鎖官能基をもたらすという目的に、ペプチド模倣物がペプチドと等しく十分に役立ち得ることが当業者に理解されよう。したがって、結合して適切な骨格コンホメーションを形成することができる天然のアミノ酸、アミノ酸誘導体、アミノ酸類似体または非アミノ酸分子のいずれかを使用ことにより、C3と結合し補体を阻害する化合物を作製し使用することが本発明の範囲内にあるものとして考慮される。本明細書では、例示のペプチドと類似するようにそれとほぼ同じ骨格コンホメーション特性および/またはその他の機能性を有し補体活性化を阻害することができるペプチドの置換体または誘導体を表すために、非ペプチド類似体またはペプチド成分と非ペプチド成分とを含む類似体を「ペプチド模倣物」または「アイソスター模倣物」と呼ぶことがある。より一般的には、コンプスタチン模倣物とは、骨格が異なっていてもファルマコフォアがそのコンプスタチンにおける位置付けと同様に位置付けされ得る任意の化合物のことである。
【0267】
高親和性のペプチド類似体開発のためにペプチド模倣物を使用することは、当該技術分野で周知である。ペプチド内のアミノ酸残基とほぼ同じ回転束縛を仮定し、既知の技術の中でも特にRamachandranプロットを用いて、非アミノ酸部分を含む類似体を分析し、コンホメーションモチーフを検証することができる(HrubyおよびNikiforovich 1991)。
【0268】
当業者は、容易に適切なスクリーニングアッセイを確立して、さらなるコンプスタチン模倣物を同定し、所望の阻害活性を有するものを選択することができるであろう。例えば、コンプスタチンまたはその類似体を(例えば、放射性標識または蛍光標識で)標識し、様々な濃度の試験化合物の存在下でC3と接触させることができる。試験化合物がコンプスタチン類似体とC3の結合を減少させる能力を評価する。コンプスタチン類似体とC3との結合を有意に減少させる試験化合物をコンプスタチン模倣物の候補とする。例えば、コンプスタチン類似体−C3複合体の定常状態濃度を減少させる試験化合物またはコンプスタチン類似体−C3複合体の形成率を少なくとも25%または少なくとも50%減少させる試験化合物をコンプスタチン模倣物の候補とする。当業者には、このスクリーニングアッセイの数多くの変形物を用い得ることが認識されるであろう。スクリーニングの対象となる化合物としては、天然の生成物、アプタマーのライブラリー、ファージディスプレイライブラリー、コンビナトリアル化学を用いて合成された化合物ライブラリーなどが挙げられる。本発明は、上記コア配列に基づいて化合物のコンビナトリアルライブラリーを合成し、そのライブラリーをスクリーニングしてコンプスタチン模倣物を同定することを包含する。このほか、ここに挙げたいずれかの方法を用いて、それまでに試験したコンプスタチン類似体よりも阻害活性が高い新たなコンプスタチン類似体を同定することができる。
【0269】
C3の活性化または活性を阻害するその他の化合物
C3またはC3a受容体(C3aR)と結合するその他の化合物、例えば、ポリペプチド、小分子、モノクローナル抗体、アプタマーなどが本発明の特定の実施形態において有用である。特定の実施形態では、補体阻害剤は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のEfbタンパク質あるいはC3と結合してその活性化を阻害し、かつ/またはC3bと結合して阻害することができるそのバリアントもしくは誘導体もしくは模倣物を含む。薬剤の具体例が国際公開第2004/094600号に記載されている。特定の実施形態では、補体阻害剤は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のスタフィロコッカス(Staphylococcus)補体阻害剤(SCIN)タンパク質あるいはC3変換酵素と結合してその活性化を阻害し、かつ/またはC3bと結合して阻害することができるこのようなタンパク質のバリアントもしくは誘導体もしくは模倣物を含む。SELEXなどの方法を用いて、C3と結合して阻害するアプタマーを同定することができる。米国特許出願公開第20030191084号は、C1q、C3およびC5と結合するアプタマーを開示している。
【0270】
いくつかの実施形態では、C3を分解するプロテアーゼを補体阻害剤として使用し得る。例えば、米国特許第6,676,943号は、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のヒト補体C3分解タンパク質を開示している。このようなタンパク質またはそのバリアントを本発明の特定の実施形態で使用してもよい。
【0271】
米国特許第5,942,405号、国際出願PCT/IB2006/002557号(国際公開第2007/034277号― ARYL SUBSTITUTED IMIDAZO[4,5−C]PYRIDINE COMPOUNDS AS C3A RECEPTOR ANTAGONISTS);国際出願PCT/IB2006/002568号(国際公開第/2007/034282号―DIARYL−IMIDAZOLE COMPOUNDS CONDENSED WITH A HETEROCYCLE AS C3A RECEPTOR ANTAGONISTS)、国際出願PCT/IB2006/002561号(国際公開第2007034278号―FUSED IMIDAZOLE DERIVATIVES AS C3A RECEPTOR ANTAGONISTS)、国際出願PCT/US2007/026237号(国際公開第2008079371号―MODULATORS OF C3A RECEPTOR AND METHODS OF USE THEREOF)は、C3aRアンタゴニストの具体例を開示している。いくつかの実施形態では、C3またはC3aRの発現を阻害するRNAi剤を使用し得る。
【0272】
B因子の活性化または活性を阻害する化合物
特定の実施形態では、補体阻害剤はB因子の活性化または活性を阻害する。例えば、補体阻害剤はB因子と結合し、例えば、B因子の活性化を阻害し得る。B因子の活性化または活性を阻害する薬剤の具体例としては、例えば、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、小分子およびアプタマーが挙げられる。B因子を阻害する抗体の具体例が米国特許出願公開第20050260198号に記載されている。特定の実施形態では、抗体または抗原結合フラグメントが、B因子と第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内で選択的に結合する。特定の実施形態では、抗体はC3bBb複合体の形成を阻止する。特定の実施形態では、抗体または抗原結合フラグメントは、D因子によるB因子の切断を阻止するか、阻害する。いくつかの実施形態では、抗体がB因子のBb部分と結合する。国際出願PCT/US2008/074489号(国際公開第/2009/029669号)は、抗体の具体例、例えば、ATCCアクセッション番号PTA−8543で受託されているハイブリドーマクローンによって産生される抗体を開示している。いくつかの実施形態では、ヒト化型の前記抗体を使用し、この抗体は抗体フラグメントであってもよい。特定の実施形態では、補体阻害剤、例えば、抗体、小分子、アプタマー、ポリペプチドまたはペプチドが、米国特許出願公開第20050260198号または国際公開第2009/029669号に記載されている抗体と実質的に同じB因子上の結合部位に結合する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、TA106(以前、Taligen Therapeutics社によって開発中であった)として知られるモノクローナル抗体フラグメントまたはTA106を使用した場合と実質的に同じB因子上の結合部位に結合する抗体、小分子、アプタマー、ポリペプチドもしくはペプチドを含む。いくつかの実施形態では、例えば、ファージディスプレイなどの方法を用いて、B因子と結合して阻害するペプチドを同定する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、B因子と結合して阻害するアプタマーを含む。いくつかの実施形態では、B因子の発現を阻害するRNAi剤を使用し得る。
【0273】
D因子の活性を阻害する化合物
特定の実施形態では、補体阻害剤はD因子を阻害する。例えば、補体阻害剤はD因子と結合し得る。薬剤の具体例としては、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、小分子およびアプタマーが挙げられる。D因子を阻害する抗体の具体例が米国特許第7,112,327号に記載されている。特定の実施形態では、補体阻害剤は、米国特許第7,112,327号に記載されている抗体と実質的に同じD因子上の結合部位に結合する抗体、小分子、アプタマーまたはポリペプチドである。FCFD4514S(以前、Tanox社によってTNX−234として開発中であった)とは、D因子と結合するヒト化モノクローナル抗体フラグメントのことである。特定の実施形態では、補体阻害剤は、FCFD4514SまたはFCFD4514Sと実質的に同じD因子上の結合部位に結合する抗体、小分子、アプタマーもしくはポリペプチドを含む。代替経路活性化を阻害し、D因子を阻害すると考えられるポリペプチドの具体例が米国特許出願公開第20040038869号に開示されている。ファージディスプレイなどの方法を用いて同定され得る、D因子と結合して阻害するペプチドの使用が本発明の範囲内にある。SELEXなどの方法を用いて同定され得る、D因子と結合して阻害するアプタマーの使用が本発明の範囲内にある。いくつかの実施形態では、D因子の発現を阻害するRNAi剤を使用し得る。
【0274】
哺乳動物の補体調節タンパク質および補体受容体
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、哺乳動物、例えばヒトの補体調節タンパク質または補体受容体の少なくとも一部分を含む。補体調節タンパク質の例としては、例えば、CFH、CFH関連タンパク質(CFHR1などの)、CFI、CR1、DAF、MCP、CD59、C4bpおよび3回貫通型補体受容体2阻害物質が挙げられる(CRIT;Inal,J.ら,J Immunol.,174(1):356−66,2005)。いくつかの実施形態では、補体調節ポリペプチドは、天然の状態で通常、膜と結合しているものである。本発明のいくつかの実施形態では、膜貫通ドメインおよび/または細胞内ドメインの一部または全部を欠くこのようなポリペプチドのフラグメントを使用する。例えば、可溶型の補体受容体1(sCR1)または他の補体受容体の可溶性部分が特定の実施形態において有用である。例えば、TP10またはTP20(Avant Therapeutics社)として知られる化合物を使用し得る。いくつかの実施形態では、可溶性補体制御タンパク質、例えば、CFHまたはCFH関連タンパク質を使用する。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、米国特許出願公開第20020192758号に記載されているようなC3b/C4b補体受容体様分子である。補体阻害活性を保持している哺乳動物の補体調節タンパク質または受容体のバリアントおよびフラグメントを特定の実施形態で使用し得る。
【0275】
キメラ補体阻害剤
本発明の特定の実施形態では、補体阻害剤は、補体活性化を阻害する第二のポリペプチド/または補体成分もしくは補体活性化産物と結合する第二のポリペプチドと結合した、例えば、これと共有結合した補体活性化を阻害する第一のポリペプチドを含む、キメラポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも一方のポリペプチドが、哺乳動物補体調節タンパク質の少なくとも一部分を含む。キメラポリペプチドは、例えば、第一のポリペプチドと第二のポリペプチドとの間または末端に位置する追加のドメインを1つ以上含み得る。例えば、第一のポリペプチドと第二のポリペプチドがスペーサーポリペプチドによって分離され得る。
【0276】
いくつかの実施形態では、第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドがそれぞれ、哺乳動物補体調節タンパク質の少なくとも一部分を含む。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、DAFの少なくとも一部分とMCPの少なくとも一部分とを含む。キメラポリペプチドの具体例については、例えば米国特許第5,679,546号に、例えばCAB−2(MLN−2222としても知られる)が開示されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、少なくとも1つの哺乳動物補体調節タンパク質または補体受容体のSCRドメインを少なくとも4つ含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、第一および第二の異なる哺乳動物補体調節タンパク質それぞれのSCRドメインを少なくとも4つ含む。
【0277】
いくつかの実施形態では、キメラポリペプチドは、補体受容体1(CR1)、補体受容体2(CR2)、補体受容体3(CR3)、補体受容体4(CR4)あるいはC3b、iC3b、C3dおよび/またはC3dgなどの補体成分または補体活性化産物の少なくとも1つと結合するCR1、CR2、CR3またはCR4のバリアントまたはフラグメントの少なくとも一部分を含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、SCRを少なくとも4つ、例えば、CR1またはCR2のSCRを少なくとも4つ含む。例えば、ポリペプチドは、CR2の4つのN末端SCR(例えば、成熟タンパク質の残基1〜250)を含み得る。いくつかの実施形態では、キメラポリペプチドは、哺乳動物補体調節タンパク質の少なくとも4つのSCRドメインと、哺乳動物補体受容体の少なくとも4つのSCRドメインとを含む。
【0278】
プロパージンを阻害する化合物
本発明のいくつかの実施形態では、抗プロパージン抗体、抗体フラグメントまたはその他の抗プロパージン物質を使用する。例えば、米国特許出願公開第20030198636号または国際出願PCT/US2008/068530号(国際公開第2009/110918号―ANTI−PROPERDIN ANTIBODIES)を参照されたい。
【0279】
レクチン経路の成分を阻害する化合物
いくつかの実施形態では、化合物はレクチン経路の1つ以上の成分を阻害する。例えば、国際公開第2007/117996号(METHODS FOR TREATING CONDITIONS ASSOCIATED WITH MASP−2 DEPENDENT COMPLEMENT ACTIVATION)を参照されたい。
【0280】
C5の活性化または活性を阻害する化合物
特定の実施形態では、補体阻害剤はC5の活性化を阻害する。例えば、補体阻害剤はC5と結合し、その切断を阻害し得る。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、例えば、C5もしくはC5変換酵素またはこのような物理的相互作用に通常関与すると思われるC5の部位と結合することによって、C5とC5変換酵素の物理的相互作用を阻害する。C5活性化を阻害する薬剤の具体例としては、抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、小分子およびアプタマーが挙げられる。C5と結合する化合物、例えば抗体の具体例が、例えば、米国特許第6,534,058号;国際出願PCT/US95/05688号(国際公開第1995/029697号)、国際出願PCT/EP2010/007197(国際公開第2011063980号);米国特許出願公開第20050090448号;および米国特許出願公開第20060115476号に記載されている。米国特許出願公開第20060105980号は、C5と結合して阻害するアプタマーを開示している。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5モノクローナル抗体、例えば、エクリズマブ(h5G1.1−mAb;Soliris(登録商標)としても知られる)(Alexion社)またはC5と結合するそのフラグメントもしくは誘導体。いくつかの実施形態では、エクリズマブの重鎖および/または軽鎖とのもの同じ相補性決定領域(CDR1、CDR2および/またはCDR3)の少なくとも一部、例えばCDR1、CDR2およびCDR3のすべてを含む抗体を使用する。いくつかの実施形態では、抗体は、エクリズマブと同じフレームワーク領域の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、エクリズマブと実質的に同じC5上の結合部位に結合する抗体を使用する。いくつかの実施形態では、h5G1.1−mAb由来のヒト化組換え一本鎖抗体のペキセリズマブ(h5G1.1−scFvとしても知られる)を使用する。特定の実施形態では、補体阻害剤は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のスタフィロコッカス(Staphylococcus)SSL7タンパク質またはC5と結合しその切断を阻害することができるこのようなタンパク質のバリアントもしくは誘導体もしくは模倣物を含む。
【0281】
上記の通り、二重特異性または多重特異性の抗体を使用することができる。例えば、国際出願PCT/US2010/039448号(国際公開第2010/151526号)は、2種類以上の異なるタンパク質と結合するものとして記載される二重特異性抗体を開示しており、ここでは、このタンパク質のうち少なくとも2種類がC5a、C5b、C5aの細胞受容体(例えば、C5aR1またはC5L2)、C5b−9複合体およびC5b−6、C5b−7またはC5b−8などの終末補体の成分または中間体から選択される。いくつかの実施形態では、C5またはC5aRの発現を阻害するRNAi剤を使用し得る。
【0282】
いくつかの実施形態では、OmCIとして知られる補体阻害剤またはそのバリアント、誘導体もしくは模倣物を使用する。OmCIは、最も可能性の高いものとして変換酵素との阻害相互作用によって、C5と結合しその活性化を阻害する。OmCIは、マダニの一種Ornithodoros moubataによって天然に産生される。OmCIおよびその特定のバリアントについての記載に関しては、例えば、国際出願PCT/GB2004/002341号(国際公開第2004/106369号)および国際出願PCT/GB2010/000213(国際公開第2010/100396号)を参照されたい。OmCIはエイコサノイド、特にロイコトリエン(LK)、例えばLTB4と結合するということが示されている。いくつかの実施形態では、LK、例えばLTB4と結合する能力を保持しているOmCIポリペプチド(またはそのバリアント、誘導体もしくはフラグメント)を使用する。いくつかの実施形態では、LK、例えばLTB4と結合する能力が低下しているか、実質的にその能力を欠くOmCIポリペプチド(またはそのバリアント、誘導体もしくはフラグメント)を使用する。
【0283】
いくつかの実施形態では、阻害剤はC5a受容体(C5aR)のアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、C5aRアンタゴニストはペプチドを含む。C5a受容体アンタゴニストの具体例としては、様々な小分子の環状ペプチドまたは非環状ペプチド、例えばMarch,D Rら,Mol.Pharmacol.,65(4),2004およびWoodruff,T Mら,J Pharmacol Exp Ther.,314(2):811−7,2005、米国特許第6,821,950号;米国特許出願第11/375,587号;および/または国際出願PCT/US06/08960号(国際公開第2006/099330号)に記載されているものなどまたはその模倣物が挙げられる。特定の実施形態では、補体阻害剤はC5aRと結合し、C5aがC5aRと結合するのを阻害する。特定の実施形態では、配列[OPdChaWR](配列番号59)を含む環状ペプチドを使用する。特定の実施形態では、配列[KPdChaWR](配列番号60)を含む環状ペプチドを使用する。特定の実施形態では、配列(Xaa)[OPdChaWR](配列番号61)を含むペプチドを使用し、式中、Xaaはアミノ酸残基であり、nは1〜5である。特定の実施形態では、配列(Xaa)[KPdChaWR](配列番号62)を含むペプチドを使用し、式中、Xaaはアミノ酸残基であり、nは1〜5である。特定の実施形態では、nが1である。特定の実施形態では、nが1であり、Xaaが標準芳香族アミノ酸または非標準芳香族アミノ酸である。例えば、ペプチドF−[OPdChaWR](配列番号63)、F−[KPdChaWR](配列番号64);Cin−[OPdChaWR](配列番号65)およびHCin−[OPdChaWR](配列番号66)が特定の実施形態において有用である。任意選択で、遊離末端はブロック部分を含み、例えば、末端アミノ酸がアセチル化されている。例えば、いくつかの実施形態では、C5aRアンタゴニストはAcF−[OPdChaWR](配列番号67)(PMX−53としても知られる)である。(略号:O:オルニチン;Cha:シクロヘキシルアラニン;Cin:シンナモイル;Hcin:ヒドロシンナモイル;角括弧は内部ペプチド結合を表す)。いくつかの実施形態では、C5aRアンタゴニストは化合物、例えば、米国特許出願公開第20060183883号(米国特許出願第10/564788号)に開示されているペプチド、例えば、上記明細書中、式I、式II、式IV、式Vまたは式VIにより表される化合物を含む。C5aRアンタゴニストの例には、JPE−1375(Jerini AG社、Germany)として知られるペプチドがある。
【0284】
いくつかの実施形態では、C5aRアンタゴニストは小分子である。各種の小分子C5aRアンタゴニストが以下の参考文献に開示されている:国際出願PCT/US2005/015897号(国際公開第2005/110416号;4,5−DISUBSTITUTED−2−ARYL PYRIMIDINES);国際出願PCT/EP2006/005141号(国際公開第2006128670)号;国際出願PCT/US2008/072902号(国際公開第2009/023669号;SUBSTITUTED 5,6,7,8−TETRAHYDROQUINOLINE DERIVATIVES);国際出願PCT/US2009/068941号(国際公開第2010/075257号;C5AR ANTAGONISTS)。小分子C5aRアンタゴニストの例にはCCX168(ChemoCentryx社、Mountain View、CA)がある。
【0285】
特定の実施形態では、補体阻害剤は、C5またはC5aRと結合する物質を開示している上記参考文献のいずれかに記載されている化合物と実質的に同じC5またはC5aR上の結合部位に結合する物質、例えば、抗体、小分子、アプタマーまたはポリペプチドである。いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC5a受容体のアンタゴニストではない。
【0286】
多様式の補体阻害剤
本発明の特定の実施形態では、補体阻害剤は、2種類以上の補体タンパク質と結合し、かつ/または補体活性化経路の2つ以上の段階を阻害する。本明細書ではこのような補体阻害剤を「多様式」と呼ぶ。本発明の特定の実施形態では、補体阻害剤はウイルス補体制御タンパク質(VCCP)を含む。本発明は、米国特許出願第11/247,886号および国際出願PCT/US2005/36547号に記載されている薬剤のいずれかの使用を企図する。ポックスウイルスおよびヘルペスウイルスは、直鎖状の二本鎖DNAゲノムを有する大型で複雑なウイルスの科である。これらのウイルスのあるものは、正常な免疫応答の1つ以上の側面を崩壊させることおよび/または宿主生物体内でのより好ましい環境の発達を促進することによって病理発生に何らかの役割を演じていると考えられている免疫調節タンパク質をコードする(Kotwal,GJ,Immunology Today,21(5),242−248,2000)。VCCPはこのうちに含まれる。ポックスウイルス補体制御タンパク質は補体制御タンパク質(CCP)スーパーファミリーのメンバーであり、通常4つのSCRモジュールを含んでいる。特定の実施形態では、VCCPはポックスウイルス補体制御タンパク質(PVCCP)である。PVCCPは、ワクシニアウイルス、大痘瘡ウイルス、小痘瘡ウイルス、牛痘ウイルス、サル痘ウイルス、エクトロメリアウイルス、ウサギ痘ウイルス、粘液腫ウイルス、ヤバ痘様疾患ウイルスまたは豚痘ウイルスによってコードされる配列を含み得る。他の実施形態では、VCCPはヘルペスウイルス補体制御タンパク質(HVCCP)である。HVCCPは、ニホンザル(Macaca fuscata)ラジノウイルス、オナガザルヘルペスウイルス17型またはヒトヘルペスウイルス8型によってコードされる配列を含み得る。他の実施形態では、HVCCPは、リスザル単純ヘルペスウイルスのORF4またはORF15によってコードされる配列を含む(Albrecht,JC.およびFleckenstein,B.,J.Virol.,66,3937−3940,1992;Albrecht,J.ら,Virology,190,527−530,1992)。
【0287】
VCCPは、古典補体経路、代替補体経路、レクチン経路またはこのいずれか2つ以上の経路を阻害し得る。本発明の特定の実施形態では、VCCP、例えばPVCCPはC3b、C4bまたはその両方と結合する。本発明の特定の実施形態では、PVCCPは、1つ以上の推定ヘパリン結合部位(K/R−X−K/R)および/または正の総電荷を含む。いくつかの実施形態では、PVCCPは、少なくとも3つのSCRモジュール(例えば、モジュール1〜3)、例えば4つのSCRモジュールを含む。PVCCPタンパク質は、成熟PVCCPの前駆体であり得る(すなわち、タンパク質がウイルス感染細胞内で発現するときに通常は切断されるシグナル配列を含み得る)か、成熟形態であり得る(すなわち、シグナル配列を欠く)。
【0288】
ワクシニア補体制御タンパク質(VCP)は、ワクシニアに感染した細胞から分泌されるウイルスコードタンパク質である。VCPは長さが244アミノ酸であり、4つのSCRを含み、263アミノ酸前駆体の細胞内切断によって天然に産生される。VCPは、還元性条件下の12%SDS/ポリアクリルアミドゲルで約35kDタンパク質として泳動し、予測分子質量が約28.6kDである。VCPについては、米国特許第5,157,110号および同第6,140,472号ならびにKotwal,GKら,Nature,355,176−178,1988に記載されている。米国特許出願第11/247,886号および国際出願PCT/US2005/36547号(国際公開第2006042252号)の図3Aおよび図3Bには、それぞれ前駆体VCPタンパク質と成熟VCPタンパク質が示されている。VCPは、C3およびC4と結合し、両成分のI因子による切断の補因子として作用する能力に加え、既存の変換酵素の崩壊を促進することを介して補体活性化の古典経路を阻害することが示されている(Kotwal,GKら,Science,250,827−830,1990;McKenzieら,J.Infect.Dis.,1566,1245−1250,1992)。VCPはこのほか、C3bのiC3bへの切断を引き起こし、代替経路のC3変換酵素の形成を妨げることによって代替経路を阻害することが示されている(Sahu,Aら,J.Immunol.,160,5596−5604,1998)。このようにして、VCPは複数の段階で補体活性化を阻止し、炎症誘発性の走化性因子C3a、C4aおよびC5aのレベルを低下させる。
【0289】
VCPはほかにも、ヘパラン硫酸プロテオグリカンに加えヘパリンとも強力に結合する能力を有する。VCPは、モジュール1および4に位置する2つの推定ヘパリン結合部位を含む(Jha,PおよびKotwal,GJならびにその参考文献)。VCPは、おそらく細胞表面のヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸との相互作用を介し、内皮細胞表面と結合することによって、抗体結合を減少させることができる。(Smith,SAら,J.Virol.,74(12),5659−5666,2000)。VCPはマスト細胞によって取り込まれ、おそらく組織内に長期間留まることによって、その活性の持続時間が長くなる可能性が考えられる(Kotwal,GJら,In GP.Talwatら(編),第10版 International Congress of Immunology.,Monduzzi Editore,Bologna,Italy,1998)。さらに、VCPは、ケモカイン結合を遮断することによって白血球の走化性遊走能を低下させ得る(Reynolds,Dら,in S.JameelおよびL.Villareal(編),Advances in animal virology. Oxford and IBN Publishing,New Delhi,India,1999)。VCPおよびその他のPVCCPは哺乳動物のCCPより比較的サイズが小さく、このことは本発明での送達に有利である。
【0290】
大痘瘡ウイルスおよび小大痘瘡ウイルスは、VCPと相同性の高いタンパク質をコードし、補体酵素の痘瘡インヒビター(SPICE)と呼ばれている(Rosengard,AMら,Proc.Natl.Acad.Sci.,99(13),8803−8813.米国特許第6,551,595号)。これまでに配列決定された各種痘瘡株由来のSPICEはVCPと約5%異なっている(例えば、約11アミノ酸の相違)。VCPと同様に、SPICEはC3bおよびC4bと結合し、I因子の補因子として作用してそれらの分解を引き起こす。しかし、SPICEは、VCPの約100倍の速さでC3bを分解し、VCPの約6倍の速さでC4bを分解する。SPICEのアミノ酸配列は、米国特許出願第11/247,886号および国際出願PCT/US2005/36547号(国際公開第2006042252号)の図6(配列番号12)に示されており、以下のように説明することができる。米国特許出願第11/247,886号および国際出願PCT/US2005/36547号(国際公開第2006042252号)の図6を参照すると、アミノ酸1からアミノ酸19前後までシグナル配列が伸びている。アミノ酸20前後からアミノ酸263までは4つのSCRが伸びている。各SCRは4つのシステイン残基を特徴とする。この4つのシステイン残基が発現タンパク質内でジスルフィド結合を2つ形成する。各SCRの境界は、配列中の1番目のシステイン残基と4番目のシステイン残基によって最も明確に定められる。各SCRのシステイン3とシステイン4の間に不変のトリプトファン残基が存在する。SCR1はアミノ酸20または21からアミノ酸81まで伸びている。両残基ともジスルフィド結合に関与し得るシステインである。SCR2はアミノ酸86からアミノ酸143まで伸びている。SCR3はアミノ酸148からアミノ酸201まで伸びている。SCR4はアミノ酸206からアミノ酸261まで伸びている。SCRにSPICEの補体結合部位が含まれている。SPICEまたは補体活性化を阻害するそのいずれかの部分、例えば、米国特許第6,551,595号に記載されているようなSPICEおよび4つのSCRを含むSPICE関連ポリペプチドが本発明において有用である。
【0291】
ほかにも牛痘ウイルス由来の補体制御タンパク質(炎症調節タンパク質、IMPとも呼ばれる)およびサル痘ウイルス(本明細書ではサル痘ウイルス補体制御タンパク質、MCPと呼ぶ)が同定され、配列決定されている(Miller,CGら,Virology,229,126−133,1997ならびにUvarova,EAおよびShchelkunov,SN,Virus Res.,81(1−2),39−45,2001)。MCPは、4番目のSCRのC末端部分が切り詰められているという点で、本明細書に記載の他のPVCCPと異なっている。
【0292】
異なるウイルス単離物で同定された補体制御タンパク質の厳密な配列には、わずかな差が認められ得ることが理解されよう。このようなタンパク質は本発明の範囲内に含まれる。タンパク質がその活性を実質的に消失する変異を受けていない限り、このような単離物由来の補体制御タンパク質のいずれも使用し得る。したがって、SPICEまたはVCPなどのVCCPの配列は、本明細書に示される厳密な配列または表3に挙げるアクセッション番号の厳密な配列と異なり得る。また、元のポリペプチドと同等であると見なされるようその活性に大きな影響を及ぼすことなく、多数のアミノ酸改変、例えば、付加、削除または保存的アミノ酸置換などの置換が施され得ることも理解されよう。下の表3のアクセッション番号により認識されるウイルスポリペプチドは、本発明の各種実施形態において有用なものである。
【0293】
【表3】
【0294】
上記VCCP以外にも、補体経路の1つ以上の段階に干渉する他のウイルスタンパク質が多数存在する。このようなタンパク質も本発明の特定の実施形態において有用である。このようなタンパク質のうち特定のものは、現在知られている細胞内補体制御因子と明らかな相同性を必ずしも示すわけではない。例えば、HSV−1、HSV−2、VZV、PRV、BHV−1、EHV−1およびEHV−4はすべて、gCとして知られる保存された型の糖タンパク質をコードする(Schreursら,J Virol.,62,2251−2257,1988;Mettenleiterら,J.Virol.,64,278−286;1990;Heroldら,J Virol.,65,1090−1098;1991)。VZVを除けば、上に挙げたウイルスによってコードされるgCタンパク質はC3bと結合する(Friedmanら,Nature,309,633−634,1984;Huemerら,Virus Res.,23,271−280,1993)。gC1(HSV−1由来)は古典経路のC3変換酵素の崩壊を促進し、プロパージンおよびC5とC3との結合を阻害する。精製EBVビリオンには代替経路のC3変換酵素の崩壊を促進する活性があり、補体調節タンパク質因子1の補因子として作用する(Moldら,J Exp Med,168,949−969,1988)。上記タンパク質は、まとめてウイルス補体干渉タンパク質(VCIP)と呼ばれる。このVCIPは、補体活性化の1つ以上の段階への干渉、補体成分崩壊の促進および/または補体調節タンパク質の活性増大などの様々な手段のいずれかによって補体を阻害すると考えられている。このようなタンパク質またはその誘導体、例えば、そのフラグメントまたはバリアントのいずれかを治療剤として本発明で使用することができる。VCCPの場合と同様に、異なるウイルス単離物で同定されたVCIPの厳密な配列には、わずかな差が認められ得ることが理解されよう。このようなタンパク質は本発明の範囲内に含まれる。
【0295】
本発明の特定の実施形態では、VCCPまたはVCIPのフラグメントまたはバリアントを対象に局所投与する。好ましいPVCCPのフラグメントまたはバリアントは、次に挙げる活性を少なくとも1つ有するものである:(i)C3、C3bまたはその両方と結合する能力;(ii)I因子によるC3切断の補因子として作用する能力;(iii)C4、C4bまたはその両方と結合する能力;(iv)I因子によるC4切断の補因子として作用する能力;(v)古典経路、代替経路またはその両方の既存のC3変換酵素の崩壊を促進させる能力;(vi)ヘパリンと結合する能力;(vii)ヘパラン硫酸プロテオグリカンと結合する能力;(viii)白血球の走化性遊走能を低下させる能力;(iv)ケモカイン(例えば、MIP−1α)と、例えば細胞表面(例えば、白血球表面または内皮細胞表面)との結合を阻止する能力;(X)抗体とクラスI MHC分子との結合を阻害する能力;(Xi)古典補体経路を阻害する能力;(Xii)代替補体経路を阻害する能力;および(Xiii)補体媒介性の細胞溶解を阻害する能力。好ましいPVCCPのフラグメントまたはバリアントは補体結合活性を示し、補体結合活性は、好ましくは(VCCPの場合)C3、C3b、C4およびC4bからなる群より選択される1種類以上の補体成分と検出可能な程度に結合する能力を意味する。HVCCPの好ましいフラグメントまたはバリアントも1種類以上の補体成分と検出可能な程度に結合する能力を示し得る。VCCPと補体成分との結合は特異的なものであることが好ましい。VCCPが単一の補体成分とのみ結合可能な場合もあれば、2種類以上の異なる補体成分と結合可能な場合もあることが理解されよう。
【0296】
本発明の特定の実施形態では、PVCCPのフラグメントまたはバリアントは、少なくとも3つのSCRモジュール(例えば、モジュール1〜3)、好ましくは4つのSCRモジュールを含む。好ましくは、SCRモジュールがそれぞれ、天然のPVCCP、例えば、VCPまたはSPICEにみられるSCRモジュールとの有意な配列同一性を示す。好ましくは、天然のPVCCPとの全体の同一性が最大になるよう複数のSCRモジュールがNからCに向かって配置されている。PVCCPのフラグメントまたはバリアントの配列が1つ以上の位置においてSCRコンセンサス配列とは異なるSCRドメインを含む場合、本発明の特定の実施形態では、その1つ以上の異なる位置のアミノ酸は、天然のPVCCPにみられる最も近縁であるSCRの対応する位置にみられるアミノ酸と一致する。特定の実施形態では、PVCCPバリアントは、第一のPVCPP由来の少なくとも1つのSCRモジュールと、第二のPVCPP由来の少なくとも1つのSCRモジュールとを含む。特定の実施形態では、PVCCPバリアントは、PVCCP由来の少なくとも1つのSCRモジュールと、哺乳動物補体制御タンパク質(RCAタンパク質)由来の少なくとも1つのSCRとを含む。本発明の各種実施形態において、任意の個数、例えば1個、2個、3個、4個またはそれ以上のSCRモジュールが、任意の特定のPVCCPまたはRCAタンパク質に由来するものであり得る。このような組合せおよび順列はすべて、本明細書に明確に記載された場合と同様に企図される。
【0297】
一般に、天然のVCCPまたはVCIPのフラグメントまたはバリアントは、その天然の対応物と十分な構造的類似性を有するため、天然の対応物を認識するポリクローナル抗体によって認識される。本発明の特定の実施形態では、VCCPのフラグメントまたはバリアントは、その三次元構造(実際の構造または予測構造)をVCPまたはSPICEの構造と重ね合わせたとき、重なる体積がVCP構造の総体積の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%がになるように、VCPまたはSPICEと十分な構造的類似性を有する。フラグメントまたはバリアントの部分的なまたは完全な三次元構造は、VCPについて記載されている通りにタンパク質を結晶化することによって決定され得る(Murthy,2001)。あるいは、各種VCPフラグメントに実施されている通りにNMR溶液構造を作成することができる(Wiles,APら,J.Mol.Biol.272,253−265,1997)。MODELERなどのモデリングプログラム(Sali,A.およびBlundell,TL,J.Mol.Biol.,234,779−815,1993)またはその他の任意のモデリングプログラムを用いて予測構造を作成することができる。モデルはVCP構造および/または任意の既知のSCR構造に基づくものとなり得る。PROSPECT−PSPPのプログラム一式を用いることができる(Guo,JTら,Nucleic Acids Res.32(ウェブサーバ版):W522−5,2004年7月1日)。同様の方法を用いてSPICEの構造を作成することができる。
【0298】
VCCPまたはVCIPのフラグメントまたはバリアントは任意の利用可能な手段によって作製することができ、多数のこのような手段が当該技術分野で公知である。例えば、以下に記載するような組換えDNA技術を用いて、VCCP、VCIPおよびそのフラグメントまたはバリアントを作製することができる。VCCPまたはVCIPのフラグメントを化学的に合成すること、クローン化したVCCPまたはVCIP配列からPCR増幅を用いて作製すること、制限消化によって作製することなどが可能である。VCCP配列のランダム変異誘発(例えば、X線、化学物質、またはPCRベースの変異誘発を用いるもの)、部位特異的変異誘発(例えば、PCRまたはオリゴヌクレオチド指向型変異誘発などを用いるもの)などによって、VCCPバリアントの配列を作製してもよい。選択したアミノ酸を変化させるか、付加してもよい。
【0299】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、天然のPVCCP間のアミノ酸の相違がヘパリンとの結合能、活性レベルなどの特定の特性に差をもたらすことに関連する位置で生じると考えられる。例えば、VCPとSPICEはわずか11個のアミノ酸が異なるだけであるが、SPICEの方がC3b切断の補因子としての活性がはるかに高い(例えば、SPICEの方がVCPよりはるかに速い速度で切断が生じる)。アミノ酸の相違が両タンパク質の活性の差の原因となっている可能性がある。このような位置にあるアミノ酸は、さらに高い活性を有するバリアントを同定する改変の魅力的な候補である。
【0300】
さらなる補体阻害剤
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は天然の哺乳動物補体調節タンパク質またはそのフラグメントもしくは誘導体である。例えば、補体調節タンパク質はCR1、DAF、MCP、CFHまたはCFIであり得る。本発明のいくつかの実施形態では、補体調節ポリペプチドは、天然の状態で通常、膜と結合しているものである。本発明のいくつかの実施形態では、膜貫通ドメインおよび/または細胞内ドメインの一部または全部を欠くこのようなポリペプチドのフラグメントを使用する。例えば、可溶型の補体受容体1(sCR1)が特定の実施形態において有用である。例えば、TP10またはTP20(Avant Therapeutics社)として知られる化合物を使用し得る。このほかC1阻害剤(C1−INH)が有用である。いくつかの実施形態では、可溶性補体制御タンパク質、例えばCFHを使用する。本発明のいくつかの実施形態では、ポリペプチドはその溶解性が増大するよう修飾されている。
【0301】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤はC1s阻害剤である。例えば、米国特許第6,515,002号は、C1sを阻害する化合物(フラニルアミジンおよびチエニルアミジン、複素環アミジンならびにグアニジン)を記載している。米国特許第6,515,002号および同第7,138,530号は、C1sを阻害する複素環アミジンを記載している。米国特許第7,049,282号は、古典経路活性化を阻害するペプチドを記載している。このペプチドの特定のものは、WESNGQPENN(配列番号68)またはKTISKAKGQPREPQVYT(配列番号69)あるいはそれと有意な配列同一性および/または3次元構造的類似性を有するペプチドを含むか、これよりなるものである。いくつかの実施形態では、このペプチドはIgGまたはIgM分子の一部分と一致するか、実質的に一致するものである。米国特許第7,041,796号は、C3b/C4b補体受容体様分子および補体活性化を阻害するためのその使用を開示している。米国特許第6,998,468号は、抗C2/C2a補体活性化阻害剤を開示している。米国特許第6,676,943号は、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のヒト補体C3分解タンパク質を開示している。
【0302】
V.抗Th17剤
抗Th17剤とは、Th17細胞の形成、生存および/または活性を阻害するか、IL−17などのTh17細胞エフェクター分子の産生または生物活性を阻害する任意の物質のことである。いくつかの実施形態では、抗Th17剤はTh17細胞の発生、増殖、生存および/または成熟を阻害する。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、IL−6、IL−21、IL−23および/またはIL−1βの産生および/または生物活性を阻害する。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、Th17エフェクターサイトカイン、例えば、IL−17A、IL−17F、IL−21および/またはIL−22の産生および/または活性を阻害する。抗Th17剤の具体例としては、例えば、Th17関連サイトカインと結合する物質またはTh17関連サイトカインの受容体と結合し、例えば、受容体と内因性サイトカインとの相互作用を阻止するが、それ自体は受容体をあまり活性化しない物質が挙げられる。抗Th17剤の具体例としては、例えば、抗体、アプタマー、可溶性受容体フラグメント(例えば、該当するサイトカイン受容体の可溶性細胞外ドメイン)またはその他のポリペプチド、ペプチド、小分子などが挙げられる。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、補体を活性化する能力を実質的に欠く抗体を含む。例えば、抗体は、補体刺激活性が完全長ヒトIgG1の10%未満、5%未満または1%未満である。いくつかの実施形態では、抗体は、C1qと結合する能力がヒトIgG1のCH2ドメインより低いCH2ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトIgG4のCH1、CH2および/またはCH3ドメインを含み、かつ/あるいはヒトIgG1のCH1、CH2および/またはCH3ドメインを含まない。
【0303】
いくつかの実施形態では、抗Th17剤は分子量が1kD以下である。いくつかの実施形態では、抗Th17剤は分子量が1kD〜2kD、2kD〜5kD、5kD〜10kD、10kD〜20kD、20kD〜30kD、30kD〜50kD、50kD〜100kDまたは100kD〜200kDである。
【0304】
いくつかの実施形態では、抗Th17剤は、当該技術分野で抗体の代わりに使用されることがあるアドネクチン、アフィボディ、アンチカリンまたはその他のタイプのポリペプチドを含み、このポリペプチドはTh17関連サイトカインまたはサイトカイン受容体と結合する。
【0305】
様々な抗Th17剤、例えば、Th17関連サイトカインの1つ以上を阻害する薬剤が当該技術分野で公知であり、各種実施形態で使用され得る。
【0306】
本明細書で目的とするポリペプチド、Th17関連サイトカインおよびその受容体の配列は当該技術分野で周知であり、公開データベース、例えば米国立生物工学情報センター((www.ncbi.nih.gov)またはUniversal Protein Resource(www.uniprot.org)のEntrezから入手可能なものなどで入手することができる。データベースの具体例としては、例えば、GenBank、RefSeq、Gene、Protein、Nucleotide、UniProtKB/SwissProt、 UniProtKB/Tremblなどが挙げられる。一般に、目的とする遺伝子の遺伝子産物の配列として、NCBI Reference Sequenceデータベース内の配列、例えばmRNA配列およびポリペプチド配列を用い得る。このような配列を用いて、例えば、遺伝子産物と結合する物質の作製、単離または特徴付けのための抗原または試薬として有用なポリペプチドを作製し得る。同種の個体間に遺伝子の対立遺伝子が複数存在し得ることが理解されよう。例えば、所与の種の個体間に特定のタンパク質をコードする核酸の1つ以上のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチドの最大約1%、2%、3〜5%)の相違が存在し得る。遺伝暗号の縮重により、このような変動は多くの場合、コードされるアミノ酸配列を変化させないが、コードされるタンパク質の配列に変化を引き起こすDNA多型は存在し得る。多型変異体の例を例えば、NCBIウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)で入手可能なSingle Nucleotide Polymorphism Database(dbSNP)(Sherry STら(2001))、 「dbSNP:the NCBI database of genetic variation」.Nucleic Acids Res.29(1):308〜311;Kitts AおよびSherry S,(2009)、The NCBI Handbook[インターネット]のヌクレオチド配列変異の一塩基多型データベース(dbSNP)、McEntyre J,Ostell J編,Bethesda(MD):米国立生物工学情報センター((US);2002(www.ncbi.nlm.nih.gov/bookshelf/br.fcgi?book=handbook&part=ch5)にみることができる。特定のタンパク質の複数のアイソフォームが、例えば、選択的RNAスプライシングまたは編集の結果として存在し得る。一般に、本開示の態様が遺伝子または遺伝子産物に関するものである場合、特に明示されない限り、対立遺伝子変異体またはアイソフォームに関する実施形態が包含される。特定の実施形態が特定の配列(1つまたは複数)、例えば、特定の対立遺伝子(1つまたは複数)またはアイソフォーム(1つまたは複数)に関するものであり得る。
【0307】
表4に特定のヒトTh17関連サイトカインおよびその受容体の遺伝子IDおよびNCBI RefSeqアクセッション番号を記載する。タンパク質配列のうち特定のものは前駆体配列であることが理解されよう。成熟形態のタンパク質は前駆体中に存在する分泌シグナル配列を欠く。表4に記載したサイトカインおよびサイトカイン受容体について各アクセッション番号の下に記載されている配列は例示的なものであり、天然のバリアント、例えば、対立遺伝子バリアントが各種実施形態に包含されることが理解されよう。さらに、検出試薬または治療剤としての使用に有用な結合物質(例えば、抗体)を作製する目的でバリアント配列、短いペプチドセグメントなどを特定の実施形態に使用し得ることが理解されよう。
【0308】
【表4】
【0309】
いくつかの実施形態では、抗Th17剤は抗IL−23剤である。IL−23剤とは、IL−23の生物活性の一部または全体を阻止する、阻害する、中和する、妨害するまたは干渉する薬剤(例えば、分子または複合体)のことである。いくつかの実施形態では、IL−23の生物活性とは、活性化されたT細胞によるIL−17産生を誘導する能力のことである。IL−23は、2つのサブユニットからなるヘテロ二量体サイトカインである。IL−23ベータサブユニットはp40とも呼ばれ、別の種類のサイトカインであるインターロイキン−12(IL−12)と共通のサブユニットである。IL−23アルファサブユニットはp19とも呼ばれる。IL−23のサブユニット同士はジスルフィド結合によって結合している。IL−23は、IL−12受容体と共通のIL−12Rベータ1(IL12RB1)と、IL−23Rとからなるヘテロ二量体受容体との結合を介してシグナルを伝達する(Parham Cら.(2002)J.Immunol.168(11):5699−708)。IL−23RはJanusキナーゼ2(JAK2)と構成的に会合し、またリガンド依存的に転写活性化因子STAT3とも結合する。IL−23シグナル伝達カスケードは、リガンド結合によりJAKが活性化されるという点で他の各種サイトカインのカスケードと類似している。次いで、JAKがIL−23Rを鍵部位においてリン酸化し、STATのドッキング部位を形成する。次いでJAKがSTATをリン酸化し、STATが二量体を形成して核に移行し、そこで標的遺伝子を活性化する。いくつかの実施形態では、抗IL−23剤は、IL−23のp19またはp40サブユニットと結合する抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗IL−23剤、例えば抗IL−23抗体は、p40サブユニットと結合し、IL−23およびIL−12をともに阻害する。
【0310】
特定の抗IL−23剤ならびに抗IL−23剤を同定および/または作製する方法が米国特許出願第10/697,599号に開示されている。例えば、様々な抗IL−23剤(米国特許出願第10/697,599号では「IL−23アンタゴニスト」と呼ばれることもある)を同定および/または作製するのに当業者が容易に用い得るスクリーニング方法およびアッセイが開示されている。
【0311】
特定の実施形態では、IL−23のp40サブユニットと結合する抗IL−23抗体は、ウステキヌマブまたはそのフラグメントである。ウステキヌマブ(実験名CNTO1275、商標製品名Stelara(登録商標)、Centocor社;CAS番号:815610−63−0)はIgG1サブクラスのヒトモノクローナル抗体である。ヒトIL−23のp19サブユニットと結合する抗IL−23抗体の具体例ならび作製のための抗IL−23p19抗体を少なくとも1つコードする単離核酸、ベクター、宿主細胞および方法が米国特許出願第11/617,503号に記載されている。p19サブユニットと結合するさらなる抗IL−23抗体が米国特許出願第11/762,738号に記載されている。
【0312】
いくつかの実施形態では、抗IL−23剤はIL−23p40特異的免疫グロブリン由来のタンパク質を含む(例えば、米国特許出願第11/768,582号を参照)。
【0313】
いくつかの実施形態では、IL−23阻害剤は、溶液中でIL−23と結合することができる可溶型IL−23Rまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含むポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、可溶型IL−23Rは、IL−23RのIL−23Rアルファ遺伝子のエキソン9によってコードされる部分を欠く。例えば、Yu,RY,J Immunol.(2010)15;185(12):7302−8を参照されたい。いくつかの実施形態では、可溶型IL−23Rは、IL−23のIL−23Rアルファ遺伝子のエキソン9および少なくとも一部分のエキソン8によってコードされる部分を欠く。
【0314】
いくつかの実施形態では、IL−23シグナル伝達に干渉することによって、例えば、IL−23シグナル伝達経路に関与する1つ以上の過程またはタンパク質を阻害することによって、IL−23活性を阻害する。例えば、いくつかの実施形態では、JAK阻害剤またはSTAT阻害剤を用いてIL−23シグナル伝達を阻害する。いくつかの実施形態では、JAK阻害剤がJAK発現を阻害する。いくつかの実施形態においてJAK発現を阻害するのに有用な方法としては、RNAi剤(例えば、siRNA)またはアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用が挙げられる。いくつかの実施形態では、JAK阻害剤がJAKとIL−23受容体との結合を阻害する。いくつかの実施形態では、JAK阻害剤がJAKの二量体形成を阻害する。いくつかの実施形態では、JAK阻害剤がJAKキナーゼ活性を阻害する。例えば、いくつかの実施形態では、JAK阻害剤がJAKキナーゼドメイン、例えば、ATP結合部位と結合する。多数のJAK阻害剤が当該技術分野で公知である。例えば、INCB028050は、JAK1(5.9nM)およびJAK2(5.7nM)に対するナノモル濃度の効力が報告されている経口投与可能なJAK1/JAK2阻害剤である(Fridman,JSら,J Immunol.2010;184(9):5298−307)。INCB028050は、IL−6およびIL−23を含めた複数の炎症誘発性サイトカインの細胞内シグナル伝達を50nM未満の濃度で阻害することが報告されている。小分子JAK2阻害剤としては、例えば、AZD1480およびAZ960が挙げられる。
【0315】
いくつかの実施形態では、STAT阻害剤がSTAT発現を阻害する。いくつかの実施形態においてSTATの発現を阻害するのに有用な方法としては、RNAi剤(例えば、siRNA)またはアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用が挙げられる。いくつかの実施形態では、STAT阻害剤がSTATとJAKとの結合を阻害する。いくつかの実施形態では、STAT阻害剤がSTATの二量体形成または核移行を阻害する。いくつかの実施形態では、STAT阻害剤は、例えばリン酸化JAKとの結合に関してSTATと競合する、ホスホペプチドを含む。国際公開第2008/151037号は、特定の実施形態において有用な特定のペプチドベースのSTAT阻害剤を開示している。いくつかの実施形態では、STAT阻害剤がSTATとDNAとの結合を阻害する。例えば、天然の状態でSTATがヒト細胞内で結合する内因性DNA配列と実質的に一致する配列を含むデコイオリゴヌクレオチドがSTATと結合し、STATがその内因性の結合部位(1つまたは複数)と結合しないようにする。小分子STAT3阻害剤としては、例えば、STA−21、IS3 295およびS3I−M2001が挙げられる。特定のSTAT阻害剤に関する詳細な情報については、参照により本明細書に組み込まれるHuang,S.,Clin Cancer Res 2007;13:1362−1366およびその参考文献を参照されたい。
【0316】
いくつかの実施形態では、抗Th17剤は抗IL−17剤である。IL−17剤とは、IL−17の生物活性の一部または全体を阻止する、阻害する、中和する、妨害するまたは干渉する薬剤(例えば、分子または複合体)のことである。抗IL−17ポリペプチド、例えば抗IL−17抗体の具体例が、例えば米国特許出願第11/658,344号に記載されている。さらなる抗IL−17抗体が米国特許出願第11/762,738号に記載されている。いくつかの実施形態では、抗IL−17剤はIL−17受容体の少なくとも一部分を含み、この部分はIL−17と結合する。IL−17受容体の具体例が、例えば米国特許出願第09/022,260号に開示されている。
【0317】
特定の実施形態において、本明細書に記載されている各種抗Th17抗体またはその他のポリペプチドのいずれかの結合ドメインを含むポリペプチドを他のポリペプチド骨格に導入するか、単独の薬剤として使用することができるということが理解されよう。バリアントを使用し得ることがさらに理解されよう。例えば、バリアントは、受容体の結合ドメインと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上一致するものであり得る。いくつかの実施形態では、目的とするサイトカインとの結合に関して当該技術分野で公知の特定の抗体と競合する抗体を使用し得る。いくつかの実施形態では、補体を活性化し得るFcドメインを欠くようIgGクラスの抗体を修飾する。例えば、IgG1抗体の可変ドメインをIgG4抗体の定常領域に移植し得る。
【0318】
VI.医薬組成物および投与方法
適切な調製物、例えば、補体阻害剤の実質的に純粋な調製物と薬学的に許容される担体または溶媒などとを組み合わせて、しかるべき医薬組成物を作製し得る。「薬学的に許容される担体または溶媒」という用語は、一緒に製剤化する化合物の薬理活性を打ち消さない非毒性の担体または溶媒を指す。担体または溶媒が、過度の中毒を引き起こすことなく化合物を送達するのに適した量において対象への投与に適合する場合、その担体または溶媒は「非毒性」であることを当業者は理解するであろう。使用し得る薬学的に許容される担体または溶媒としては、特に限定されないが、水、生理食塩水、リンガー液、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウム溶液、5%ブドウ糖などが挙げられる。組成物は必要に応じて、例えば本明細書で述べるように、所望の製剤に適した他の成分を含み得る。このほか補助的な活性化合物、例えば、呼吸器障害に罹患している対象を治療するのに独立して有用な化合物を組成物に組み込んでもよい。本発明は、補体阻害剤と、任意選択で、呼吸器障害に罹患している対象を治療するのに有用な第二の活性物質とを含む、このような医薬組成物を提供する。
【0319】
いくつかの実施形態では、本発明は、医薬品の規制に関わる政府機関、例えば米国食品医薬品局により認可を受けた添付文書(ラベル)とともに包装された、薬学的に許容される補体阻害剤または補体阻害剤を含む薬学的に許容される組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、(a)濃縮形態または固体形態(例えば、凍結乾燥粉末)の薬学的に許容される補体阻害剤と、(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または溶媒とを含む医薬品パックを提供する。いくつかの実施形態では、担体、希釈剤または溶媒は、噴霧器を用いて組成物を送達するために使用するのに適したものである。いくつかの実施形態では、適切な担体、希釈剤または溶媒は、適切な入手源から健康管理提供者によって個別に提供されるか、入手されるものであり得る。任意選択で、パックは、補体阻害剤を担体、希釈剤または溶媒に溶解するか、これで希釈して投与用の組成物を作製するための指示書を含む。いくつかの実施形態では、添付文書には、1つ以上の慢性補体介在性障害、例えば1つ以上の慢性呼吸器障害、例えば喘息またはCOPDを含めた1つ以上の適応症が記載されている。いくつかの実施形態では、添付文書には、特定の患者および/または治療に組成物の使用が承認されている患者集団もしくは疾患カテゴリーを定める疾病特性もしくは基準が記載されている。いくつかの実施形態では、添付文書には、組成物を本発明の方法に従って、例えば、本明細書に記載の投与スケジュールに従って、かつ/または本明細書に記載の投与間隔を用いて投与し得る、または投与するべきであることが明記されている。
【0320】
一般に、特に限定されないが、静脈内、筋肉内、皮下、呼吸経路によるものなどを含めた任意の適切な投与経路によって、医薬組成物を対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、補体介在性障害によって冒された組織または器官への局所投与を用いる。「投与」は、対象に化合物または組成物を直接投与すること、対象に化合物または組成物を投与するよう第三者に指示すること、(例えば、自己投与のために)対象に化合物または組成物を処方するまたは提案すること、自己投与および必要に応じて、対象に利用可能な化合物または組成物を作製する他の手段を包含することが理解されよう。埋め込みリザーバーを用いて投与を実施する場合、投与は、リザーバーから組成物または化合物を放出させることを指し得る。
【0321】
注射での使用(例えば、静脈内投与、皮下または筋肉内投与)に適した医薬組成物は通常、無菌注射用液剤または無菌注射用分散剤の即時調製のための無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液と無菌粉末とを含む。無菌溶液は、必要量の化合物をしかるべき溶媒に組み込み、任意選択で、フィルターによる滅菌後に1つの成分または成分の組合せ、例えば、酢酸塩、クエン酸、乳酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤;張性を調節する塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの物質;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸、グルタチオンまたは亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;およびその他の適切な成分などを必要に応じて一緒に組み込むことにより調製することができる。当業者には、医薬組成物中に含まれ得る生理的に許容される化合物が多数認識されよう。その他の有用な化合物としては、例えば、グルコース、スクロース、ラクトースなどの炭水化物;デキストラン;グリシンなどのアミノ酸;マンニトールなどのポリオールが挙げられる。上に挙げた化合物は、例えば、粉末中で、および/または製造もしくは保管の工程に凍結乾燥が含まれる場合に、例えば増量剤および/または安定化剤として働き得る。Tween−80、プルロニック−F108/F68、デオキシコール酸、ホスファチジルコリンなどの界面活性剤(1つまたは複数)を組成物中に含ませて、例えば、溶解性を増大させる、あるいは疎水性薬物を送達するマイクロエマルション剤を得ることができる。必要に応じて、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基によりpHを調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨てのシリンジもしくは注入バッグまたはガラス製もしくはプラスチック製の複数回用量バイアルに封入することができる。注射用の液剤は無菌で、毒素を許容される程度に含まないことが好ましい。
【0322】
分散液剤は一般に、基礎となる分散媒と、上に挙げた他の成分のうち適切なものとを含有する無菌溶媒に、活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌注射用液剤の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は、有効成分と、例えば予め滅菌ろ過されたその溶液に由来する、任意の他の所望の成分との粉末が得られる、真空乾燥および凍結乾燥を含み得る。
【0323】
呼吸経路(吸入)による投与では、適切な噴射剤を含む加圧容器またはディスペンサからエアロゾルスプレーの形態で補体阻害剤を送達し得る。定量吸入器(MDI)、粉末乾燥吸入器または噴霧器を使用し得る。エアロゾルは、液体および/または乾燥粒子(例えば、乾燥粉末、大粒径の多孔性粒子など)を含み得る。各種実施形態において有用な適切な水性溶媒としては、任意選択でアルコールを含め、水また生理食塩水が挙げられる。いくつかの実施形態では、組成物は肺への導入に適した界面活性剤を含む。経肺投与に適した他の賦形剤を用いてもよい。
【0324】
呼吸器投与に様々な異なる装置を利用することができる。噴霧器とは、薬剤の溶液または懸濁液を下気道への沈着に適したエアロゾルに変える装置のことである。噴霧器のタイプとしては、ジェット式噴霧器、超音波式噴霧器および振動メッシュ噴霧器が挙げられる。利用可能な振動メッシュ噴霧器の一部のリストとしては、eFlow(Pari社)、i−Neb(Respironics社)、MicroAir(Omron社)、IH50噴霧器(Beurer社)およびAeroneb(登録商標)(Aerogen社)が挙げられる。Respimat(登録商標)Soft Mist(商標)吸入器(Boeringer Ingelheim社)を使用し得る。定量吸入器(MDI)とは、噴射剤を用いて治療剤を送達する携帯型エアロゾル装置のことである。MDIには、懸濁液または溶液の薬理活性物質、噴射剤、界面活性剤(通常)の入った加圧金属缶および絞り弁が含まれる。これまでクロロフルオロカーボン(CFC)が噴射剤として広く用いられてきたが、ほとんどHFC−134aおよびHFC−227eaなどのヒドロフルオロカーボン(HFC、ヒドロフルオロアルカン(HFA)としても知られる)に取って代わられている。二酸化炭素および窒素がほかの代替物としてある。乾燥粉末吸入器(DPI)とは、使用前に穴を開け、通常は噴射剤を使用しないカプセルまたはブリスター内に粒子形態で含まる薬物を送達する装置のことであり、この装置は吸気により作動する。喘息および/またはCOPDを治療する薬剤を送達するのに現在用いられているDPIの例としては、例えば、Diskus、Aerolizer、HandiHaler、Twisthaler、Flexhalerが挙げられる。このような装置は、本発明の各種実施形態において補体阻害剤の送達に使用され得るものである。各種実施形態で使用し得るDPI装置の他の具体例としては、3M(商標)Taperおよび3M Conix(商標)、TAIFUN(登録商標)(AKELA Pharma社)、Acu−Breathe(商標)(Respirics社)が挙げられる。
【0325】
吸入補助具(IAD)は一般に、スペーサーと保持チャンバーの2種類に分類される。スペーサーおよび保持チャンバーが吸入器のマウスピースを延長し、噴霧された薬剤を口の方に向け、空気中に失われる薬剤を低減する。MDIにスペーサーを使用すると、喉の奥に付着する薬物の量を減らすことができ、MDIによって送達される薬剤の方向および沈着が改善される。弁付き保持チャンバ(VHC)により、微細な噴霧薬剤を患者が一方向弁から吸い込むまでスペーサーに保持し、投与薬剤を肺まで引き込むことが可能となる。具体例としては、AerochamberおよびOptichamberが挙げられる。
【0326】
微粒子画分(FPF)、放出用量、平均粒子密度および空気力学的質量中位径(MMAD)などの各種パラメータに基づいて、粒子状組成物を特徴付け得る。適切な方法が当該技術分野で公知であり、その一部は米国特許第6,942,868号および同第7,048,908号ならびに米国特許出願公開第20020146373号、同第20030012742号および同第20040092470号に記載されている。特定の実施形態では、呼吸器送達用にエアロゾル粒子が約0.5μm〜10μm(MMAD)、例えば約5μmであるが、これより小さい粒子または大きい粒子を用いることも可能である。特定の実施形態では、空気力学的質量中位径が1μm〜25μm、例えば1μm〜10μmの粒子を用いる。
【0327】
本明細書では、直径約1mm未満の粒子を含有する乾燥粒子組成物も乾燥粉末と呼ぶ。「乾燥」組成物では、粒子が例えば、エアロゾルまたはスプレーを発生させる乾燥粉末吸入装置内で容易に分散するよう、液体含有量が比較的低くなっている。「粉末」は、そのほとんどが、または実質的に完全に、比較的自由な流動性をもち、吸入装置内で容易に分散することが可能であり、その結果、好ましくは意義ある画分の粒子が気道の所望の部分に到達できるよう対象によって吸入される微細に分散させた固体粒子からなるものである。特定の実施形態では、平均幾何学的直径が3〜15μmの範囲内にあり、タップ密度が0.04〜0.6g/cmである大型の多孔性粒子を用いる。例えば、米国特許第7,048,908号;Edwards,D.ら,Science 276:1868−1871,1997;およびVanbever,R.ら,Pharmaceutical Res.16:1735−1742,1999を参照されたい。
【0328】
本発明の実施形態において有用であり得る呼吸器送達についての様々な考察がBisgaard,H.ら,(編),Drug Delivery to the Lung,Vol.26 in 「Lung Biology in Health and Disease」,Marcel Dekker,New York,2002に記載されている。エアロゾル装置については、例えば、Dolovich MB,Dhand R. Lancet.(2011)377(9770):1032−45で考察されている。
【0329】
特定の実施形態では、経口投与を用い得る。一般に経口組成物は不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療投与の目的には、活性化合物を賦形剤と組み合わせて錠剤、トローチ剤またはカプセル剤、例えばゼラチンカプセル剤の形態で使用し得る。組成物の一部として、薬学的に適合する結合剤および/または補助剤が含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、次に挙げるいずれかの成分またはこれとほぼ同じ性質の化合物を含有し得る:微結晶性セルロース、トラガントゴムもしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogelもしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはSteroteなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;スクロースもしくはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチルもしくはオレンジ香味料などのまたは香味剤。ほかにも液体組成物を経口投与することができる。経口送達用の製剤に消化管内での安定性を向上させる物質および/または吸収を促進する物質を組み込んでもよい。
【0330】
局所適用では、補体阻害剤を、1種類以上の担体に懸濁または溶解させた有効成分を含有する適切な軟膏に製剤化し得る。局所投与用の担体としては、特に限定されないが、鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ロウおよび水が挙げられる。あるいは、薬学的に許容される組成物を、1種類以上の薬学的に許容される担体に懸濁または溶解させたコンプスタチン類似体を含有する適切なローションまたはクリームとして製剤化してもよい。適切な担体としては、特に限定されないが、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水が挙げられる。
【0331】
全身投与はほかにも、経粘膜的手段または経皮的手段によるものであってもよい。経粘膜投与または経皮投与では、バリアを通過させるのに適した浸透剤を製剤に使用し得る。このような浸透剤は一般に、当該技術分野で公知であり、例えば経粘膜的投与用に界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体が挙げられる。例えば、鼻噴霧剤または坐剤の使用により経粘膜投与を実施することができる。いくつかの実施形態では、鼻腔内投与を用いて、鼻ポリープ、慢性副鼻腔炎またはアレルギー性鼻炎の治療を必要とする対象に補体阻害剤を投与する。経皮投与では、活性化合物を通常、一般に当該技術分野で公知のように軟膏剤、塗布剤、ゲル剤またはクリーム剤に製剤化する。
【0332】
このほか、化合物を直腸送達用の坐剤(例えば、カカオ脂およびその他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を用いたもの)または停留浣腸の形態に調製してもよい。
【0333】
眼球への局所投与の方法としては、例えば眼内投与、例えば眼内注射、例えば硝子体内注射が挙げられる。いくつかの実施形態では、投与は脈絡膜内注射、経強膜注射、点眼剤または眼軟膏剤、経網膜注射、結膜下注射、硝子体内注射、上脈絡膜内注射、テノン嚢下注射、強膜ポケット注入または強膜切開注入によるものである。
【0334】
本発明の特定の実施形態では、例えばインプラントおよびマイクロカプセル送達システムを含めた徐放製剤などのように、体内からの迅速な除去から化合物を保護する担体(1つまたは複数)とともに補体阻害剤を調製する。例えば、化合物を微粒子製剤またはナノ粒子製剤中に組み込むか、あるいは微粒子製剤またはナノ粒子製剤中に封入し得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリエーテル、ポリ乳酸、PLGAなどの生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。リポソームまたはその他の脂質ベースの粒子を薬学的に許容される担体として使用することができる。ここに挙げたものは当業者に公知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号および/または同明細書中に挙げられている他の参考文献に記載されている方法に従って調製することができる。補体阻害剤を含有するデポ製剤を用いてもよい。補体阻害剤はデポ剤から徐々に放出される。当業者は、徐放製剤、インプラントなどの調製に選択される材料および方法が、化合物の活性を保持するものであるべきであることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、組成物は、第一のまたは唯一の意図する目的または効果を活性物質、例えば補体阻害剤の徐放または制御放出をもたらすこととする1種類以上の担体を含まないか、実質的に含まない。
【0335】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤を目的とする障害を治療するのに有用な1種類以上の追加の活性物質と組み合わせて使用する(例えば、このような薬剤の例については、Brunton,LLら(編),Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,(例えば、第11版または第12版),McGraw−Hillを参照されたい)。いくつかの実施形態では、1種類以上の追加の活性物質を補体阻害剤と同じ組成物として投与する。いくつかの実施形態では、1種類以上の追加の活性物質を別個の組成物として投与し、この別個の組成物を補体阻害剤投与の前に、ほぼ同時にまたは後に投与し得る。いくつかの実施形態では、補体阻害剤の使用により、少なくとも同等の疾患管理および/または対象への利益を維持しながら追加の活性物質の用量および/または投与頻度を低減することが可能である。本明細書に記載されている、あるいは当該技術分野で公知の薬学的に許容される担体および/または調製方法を用いて、追加の活性物質を含む医薬組成物を調製し、本明細書に記載されている、あるいは当該技術分野で公知の投与経路を用いて、これを投与し得ることが理解されよう。
【0336】
いくつかの実施形態では、第二の活性物質は、補体成分または補体活性化の直接的阻害とは異なる機序によってDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルに干渉する薬剤である。いくつかの実施形態では、第二の活性物質は抗IL−23剤または抗IL−17剤であり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物または医薬品パックは、DC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルに干渉する第二の活性物質を含む。いくつかの実施形態では、添付文書には、2種類の薬剤を併用投与するよう明記されている。いくつかの実施形態では、抗Th17剤を含む任意の治療レジメンに補体阻害剤、例えばコンプスタチン類似体を追加し得る。いくつかの実施形態では、このような追加により、効果を減少させることなく、使用する抗Th17剤の用量を低減する、あるいは投与間隔を延ばすことが可能になる。いくつかの実施形態では、このような追加により効果が増大する。
【0337】
2種類以上の治療法(例えば、化合物または組成物)を互いに「組み合わせて」使用または投与する場合、本発明の各種実施形態において、これらの治療法を同時に、重複する期間内に、あるいは逐次的に(例えば、最大2〜4週間の期間によって隔てて)実施し得る。各種実施形態において、これらを同じ経路を介して投与しても、異なる経路を介して投与してもよい。各種実施形態において、これらをいずれの順序で投与してもよい。いくつかの実施形態では、化合物または組成物を互いに4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間または96時間以内に投与する。いくつかの実施形態では、第一の薬剤を第二の薬剤の投与の前または後に、例えば、両薬剤が少なくとも1度は有効なレベルで体内に存在する程度の近い時間で投与する。いくつかの実施形態では、第二の化合物または組成物が投与される時点で、その前に投与された組成物の90%以下が代謝されて不活性な代謝産物になっている、あるいは体内から除去されている、例えば排泄されている程度の近い時間で、薬剤を投与する。いくつかの実施形態では、第二の化合物または組成物が投与される時点で、その前に投与された薬剤が代謝されて不活性な代謝産物になってから、あるいは体内から除去されてから、例えば排泄されてから2週間以内になる程度の近い時間で、薬剤を投与する。いくつかの実施形態では、2種類の薬剤(例えば、補体阻害剤とDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルに干渉する第二の薬剤)の投与が相加的に作用し、一方の薬剤のみでは得られない効果をもたらす。いくつかの実施形態では、2種類の薬剤(例えば、補体阻害剤とDC−Th17−B−Ab−C−DCサイクルに干渉する第二の薬剤)の投与が相乗的に作用し、臨床的および/または統計的に有意な、相加効果を上回る効果および/または相加効果と質的に異なる効果をもたらす。
【0338】
補体阻害剤および/または追加の活性物質(1つまたは複数)が薬学的に許容される塩として提供され得ることが理解されよう。薬学的に許容される塩としては、薬学的に許容される無機および有機の酸および塩基から得られるものが挙げられる。適切な酸性塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩およびウンデカン酸塩が挙げられる。このほか、活性物質の性質によっては必要に応じて、薬学的に許容される塩をナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩から調製することができる。
【0339】
本明細書に挙げられている薬学的に許容される担体、化合物および調製方法は例示的なものであり、非限定的なものであることが理解されよう。薬学的に許容される化合物および様々なタイプの医薬組成物の調製方法に関するさらなる記述については、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy.第21版.Philadelphia,PA.Lippincott Williams & Wilkins,2005を参照されたい。
【0340】
化合物または組成物、例えば医薬組成物を有効量で対象に使用または投与することができる。いくつかの実施形態では、「有効量」の活性物質、例えば補体阻害剤(または活性物質を含有する組成物)は、例えば、活性物質(または組成物)を投与する対象に目的とする1つ以上の生物学的応答を誘発するに十分な量の活性物質(または組成物)を指す。当業者に理解される通り、特定の薬剤の有効な絶対量は、生物学的評価項目、具体的な活性物質、標的組織などの因子によって異なり得る。当業者はさらに、「有効量」を単回投与で投与しても、複数回投与によって達成してもよいことを理解するであろう。例えば、いくつかの実施形態では、有効量は、次に挙げる1つ以上のことを達成するのに十分な量であり得る:(i)慢性呼吸器障害の1つ以上の徴候(例えば、1つ以上の症状または兆候)の重症度を軽減すること;(ii)増悪の頻度および/または重症度の減少をもたらすこと(この減少により、例えば、通学または労働の損失日数の減少、医師および/または緊急治療室への通院数の減少、入院事象の減少および/または死亡率の低下がもたらされ得る);(iii)少なくとも同等の疾患管理を維持しながら障害に対する標準的な薬剤の使用の低減を可能にすること;ならびに/あるいは(iv)障害による長期的な病理学的変化を阻害または予防すること;ならびに/あるいは(v)日常機能を改善すること。多くの実施形態では、治療上適切な有効量が、慢性障害の1つ以上の徴候(例えば、症状)を少なくとも一部軽減し、かつ/または慢性障害による、あるいはその原因となっている1つ以上の生理学的または生化学的パラメータもしくは指標を少なくとも一部正常に戻す。例えば、いくつかの実施形態では、有効量は、次に挙げる1つ以上のことを達成するのに十分な量であり得る:(i)慢性呼吸器障害の1つ以上の徴候(例えば、1つ以上の症状または兆候)の重症度を軽減すること;(ii)EAR、LARおよび/またはDARの程度(例えば、アレルゲン負荷後の該当する時間内に測定されるFEVの最大減少量および/またはPEFの最大減少量によって評価される)を軽減すること;(iii)EAR、LARおよび/またはDARが発症する可能性を減少させること;(iv)増悪の頻度および/または重症度の減少をもたらすこと(この減少により、例えば、通学または労働の損失日数の減少、医師および/または緊急治療室への通院数の減少、入院事象の減少および/または死亡率の低下がもたらされ得る);(v)少なくとも同等の疾患管理を維持しながらICS、OCS、ロイコトリエン調節薬および/またはXolairの使用の低減を可能にすること;(vi)気道再構築を阻害または予防すること;(vii)日常機能および/または運動耐容能を改善すること;ならびに/あるいは(viii)気道炎症の1つ以上の指標を減少させること。慢性呼吸器障害の治療を必要とする対象に薬剤を投与する多くの実施形態では、治療上適切な有効量が、慢性呼吸器障害の1つ以上の徴候(例えば、症状)を少なくとも一部軽減し、かつ/または慢性呼吸器障害による、あるいはその原因となっている1つ以上の生理学的または生化学的パラメータもしくは指標を少なくとも一部正常に戻す。
【0341】
気道炎症の指標としては、例えば、気道内の白血球(例えば、好酸球、リンパ球、マクロファージおよび/または好中球)および/または炎症性メディエーター(例えば、ケモカイン(例えば、エオタキシン、胸腺および活性化制御ケモカイン(TARC)、マクロファージ由来ケモカイン(MDC))、サイトカイン(例えば、TNFアルファ、IL−1ベータ、IL−4、IL−5、IL−13、IL−25)、ヒスタミン、システイニルロイコトリエン、一酸化窒素)などの炎症関連細胞の数が、適切な参照レベル、例えば、正常レベルより増加していることが挙げられる。例えば、細胞および/またはメディエーターの数および/または濃度が、障害に罹患していない対象の正常範囲の上限(この場合、「正常範囲」は通常、対象母集団の平均値の±2標準偏差以内の範囲を指す)を上回っていること、あるいは対象の障害が十分に管理されている場合にその対象で測定される数値(平均値)を上回っていることであり得る。症状の重症度および/または頻度の減少は、内科医またはその他の医師による妥当な判断の範囲内で統計的に有意なものおよび/または臨床的に意義あるものであり得る。障害が十分に管理されているかどうかの判定は、内科医またはその他の医師による妥当な判断の範囲内である。当該技術分野で認められているガイドラインを用いてもよい。
【0342】
いくつかの実施形態では、有効量がTh17細胞および/またはTh17活性に関連する少なくとも1つのパラメータの減少をもたらす。いくつかの実施形態では、有効量が、Th17細胞および/またはTh17活性と関連のある少なくとも1種類のサイトカイン、例えば、Th17細胞の形成および/または活性を促進するサイトカインあるいはTh17細胞によって産生されるサイトカインのレベルを減少させる。いくつかの実施形態では、サイトカインはIL−17、IL21、IL−22またはIL−23である。いくつかの実施形態では、有効量がTh17からTreg細胞への転換をもたらす。いくつかの実施形態では、Th17細胞からTreg細胞への転換が、IL−10が相対的に多くIL−17およびIL−23が相対的に少ないという免疫微小環境に反映される。
【0343】
AMDの治療では、有効量は、次に挙げる1つ以上のことを達成するのに十分な量であり得る:(i)ドルーゼ形成を阻害または予防すること;(ii)ドルーゼの数および/または大きさの減少をもたらすこと(ドルーゼ退縮);(iii)リポフスチン沈着を減少させる、または予防すること;(iv)視力低下を抑制もしくは予防すること、または視力低下の速度を低下させること;(v)脈絡膜血管新生を阻害すること、または脈絡膜血管新生の速度を低下させること;(vi)脈絡膜血管新生を特徴とする病変の大きさおよび/または数の減少をもたらすこと;(vii)脈絡膜血管新生を阻害すること、または網膜血管新生の速度を低下させること;(viii)網膜血管新生を特徴とする病変の大きさおよび/または数の減少をもたらすこと;(iX)視力および/またはコントラスト感度を改善すること;(X)光受容細胞またはRPE細胞の萎縮またはアポトーシスを阻害もしくは予防すること、または光受容細胞またはRPE細胞の萎縮またはアポトーシスの速度を低下させること;(Xi)非滲出型黄斑変性症から滲出型黄斑変性症への進行を阻害または予防すること;(Xii)炎症の1つ以上の徴候、例えば、眼球内の白血球(例えば、好中球、マクロファージ)などの炎症関連細胞の存在、内因性炎症性メディエーターの存在、眼痛、充血、光過敏、霧視および飛蚊症などのような1つ以上の症状を軽減すること。
【0344】
当業者は、上記生物学的効果およびその他の目的とする生物学的効果を評価する適切な方法を認識するであろう。当該技術分野で公知の標準化された手段(例えば、質問票)を用いて症状を評価することができる。様々な異なる健康に関連した生活の質(HRQOL)に関する手段のいずれかを用いることができ、これらは一般的なものであっても、呼吸器系に特異的に関連するもの(例えば、喘息および/またはCOPDに特異的なもの)であってもよい。肺機能検査、特にスパイロメトリーを用いて、慢性呼吸器障害を有する対象において頻繁に変化するFEV、FVC、FEV/FVC、PEFなどの肺機能パラメータを測定することができる。例えば、Kelly MM.J Allergy Clin Immunol.125(2):349−356,2010に記載されているようなアレルゲン負荷またはCockcroft,DWら,Can Respir J.14(7):414−418,2007に記載されているような試験を実施することができる。筋線維芽細胞はコラーゲンを合成し、喘息およびCOPDなどの慢性気道炎症を特徴とする障害における気道再構築に何らかの重要な役割を演じていると考えられている。アレルゲン負荷後24時間で喘息患者の気道に筋線維芽細胞の増加がみられる。アレルゲン負荷後に生じる気管壁筋線維芽細胞の増加の抑制は、気道再構築の可能性の減少を示すものとなり得る。上記のものに代えてまたは加えて、平滑筋過形成、杯細胞過形成および/または上皮下コラーゲン沈着などの気道再構築に関連する特徴を評価することができる。
【0345】
例えば、平滑筋収縮に関連した薬剤の作用機序を指す「直接的」および「間接的」な抗原負荷試験を用いて、気管支過敏症を評価することができる。直接的な平滑筋刺激質として塩化メタコリンおよびリン酸ヒスタミンが最もよく用いられる。最もよく用いられる間接的な刺激物は高張食塩水、アデノシン一リン酸(AMP)およびマンニトールである。例えば、ERS(Sterk PJら,Airway responsiveness.Standardized challenge testing with pharmacological,physical and sensitizing stimuli in adults.Report Working Party Standardization of Lung Function Tests,European Community for Steel and Coal.Official Statement of the European Respiratory Society.Eur Respir J Suppl 1993;16:53−83)およびATS(Crapo,ROら,Guidelines for methacholine and exercise challenge testing−1999.Am J Respir Crit Care Med 2000;161:309−329)によって公開されているガイドラインに従って、抗原負荷試験を実施することができる。使用し得る薬理学的刺激物の水溶液を吸入する2つの適切な方法が、2分間の安静換気方法およびドシメーター法である。気管支収縮が気道抵抗の増加を引き起こす。PC(X)(Xは、通常10〜100の数)は、気道抵抗をX%減少させるのに必要な刺激の量を指す。一般に、気管支過敏症を有する者は、正常な者より低いPC(X)を示す。例えば、気管支過敏症を有する者がメタコリンPC(20)<4mg/mlであり得るのに対し、気管支機能亢進症を有する者はPC(20)>4mg/mlであり得る。いくつかの実施形態では、有効量の治療剤が、気管支過敏症を特徴とする慢性呼吸器障害に罹患している対象のPC(X)を対照対象より増加させる。
【0346】
例えば、誘発喀痰、BAL液および/または気道組織試料(例えば、気管支内生検などの生検から得られるもの)などの適切な試料中の炎症関連細胞および/またはメディエーターを評価し得る。例えば、電子顕微鏡用、光学顕微鏡法(任意選択で、適切な化学染色または特定のマーカーに対する抗体(免疫組織化学)を用いる)、フローサイトメトリーまたはその他の適切な方法を用いて細胞、例えば炎症関連細胞を検出し、任意選択で定量化することができる。例えば、ELISAアッセイ、ビーズアレイアッセイ(Luminex社のxMAP技術またはBD Biosciences社のサイトメトリービーズアレイ(CBA)システムなど)、抗体アレイアッセイなどの抗体ベースのアッセイまたは適切なバイオアッセイを用いて、メディエーター(例えば、サイトカイン)レベルを測定し得る。上記のものに代えてまたは加えて、このようなメディエーターをコードするmRNAのレベルを測定することによって(例えば、RNAレベルを測定する逆転写PCR、オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションまたはcDNAアレイ、RNA−Seq(例えば、ハイスループットな配列決定技術を利用してcDNAの配列を決定し、試料中のRNAに関する情報を得る方法)などの任意の適切な方法を用いて)、このようなメディエーターの発現を評価することができる。
【0347】
例えば、6分間歩行試験(例えば、この方法では、対象が6分間に歩行可能な距離の増加によって運動耐容能の改善が明らかになる)、シャトル歩行試験および/または心肺運動負荷試験で能力を試験することによって、運動耐容能を評価し得る。例えば、6分間歩行試験に関する記述については、ATS Statement: Guidelines for the Six−Minute Walk Test(2002)を参照されたい。
【0348】
一般に対照対象は、例えば、未治療対象またはプラセボ治療対象であり得る。「未治療対象」は、過去6か月以内に補体阻害剤による治療を受けていない対象であり得る。いくつかの実施形態では、未治療対象は、少なくとも過去4週間以内にICS、OCS、LTRAおよび/またはLABAによる治療を受けていない。いくつかの実施形態では、未治療対象は、少なくとも過去12週間以内に抗IgE剤による治療を受けていない。過去の対照の情報を用いることができる。いくつかの実施形態では、対象を自身の対象とすることができる。例えば、治療前に1回以上、治療中に1回以上および/または治療後に1つ以上のパラメータを測定することができる。いくつかの実施形態では、「実薬対照」(または「実薬比較対照」)を使用し、ここでは、補体阻害剤の生物学的効果を、評価対象となるパラメータに影響を及ぼすことが知られている化合物と比較する。例えば、喘息のコントローラー薬としての使用が認可されている化合物を使用し得る。対象として実薬比較対照を用いる場合、有効量の補体阻害剤の効果は、各種実施形態において実薬比較対照より低いか、高いか、これとほぼ同じものであり得ることが理解されよう。
【0349】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤の1つ以上の生物学的効果は、本発明の投与間隔期間の複数の時点で試験したときに明らかとなり、ここでは、前記時点は投与間隔の少なくとも75%、例えば、投与間隔の少なくとも80%、85%、90%、95%またはそれ以上を含む。いくつかの実施形態では、補体阻害剤の1つ以上の生物学的効果は、投与間隔期間の終了時または終了近くに試験したときに明らかとなり、ここでは、「投与間隔期間の終了時または終了近く」は、投与間隔期間終了の最大2日前、例えば、投与間隔期間終了の1日前を意味する。
【0350】
いくつかの実施形態では、例えば、ヒトを対象に試験するための用量、用量範囲または製剤の選択の指針とするため、1つ以上の生物学的効果を評価するためなどに動物モデルを用いる。よく用いられる気道炎症および/または喘息の動物モデルには、ブタ回虫(Ascaris suum)抗原の吸入がある。例えば、アレルギーのサル(例えば、カニクイザル;Macaca fascicularis)によるブタ回虫(Ascaris suum)抗原の吸入によって、肺炎症性浸潤を含めた即時型気管支収縮および遅発型アレルギー反応が起こる。例えば、Mellado,M.ら,J Pharmacol Exp Ther.(2008)324(2):769−75;Zou,J.ら,Genome Biol.2002;3(5):research0020.Epub 2002 Apr 11を参照されたい。同様のモデルがマウス、ヒツジ、モルモットなどに存在する。いくつかの実施形態では、未治療個体と比較した治療個体のアレルゲン誘発性のEAR、LARおよび/またはAHRの有意な減少(例えば、メタコリン負荷を用いて評価される)および/またはPC(X)の有意な増加が有効性を示す。いくつかの実施形態では、本発明に従って選択した投与間隔期間の終了時(例えば、次の投与の直前)に依然としてEAR、LARおよび/またはAHRの減少が明らかである。
【0351】
一般に、補体阻害剤またはその他の活性物質の適切な用量は、少なくとも部分的には補体阻害剤またはその他の活性物質の効力、投与経路などによって決まる。一般に、効果的で耐容性に優れている用量範囲は当業者によって選択され得る。このような用量は、当該技術分野で公知の臨床試験を用いて決定することができる。任意選択で、例えば、予め選択された所望の応答、例えば補体阻害の予め選択された所望の程度および/またはアレルゲン負荷に対する応答予め選択された所望の減少、気管支過敏症の軽減および/または障害の1つ以上の症状の軽減などが得られるまで用量を漸増させて投与することによって、用量を特定の被投与者に合わせて調節し得る。必要に応じて、任意の特定の対象に対する具体的な用量レベルは、少なくとも部分的には、使用する具体的な化合物の活性、治療する具体的な病態および/またはその重症度、年齢、体重、全般的健康状態、投与経路、任意の併用薬剤ならびに/あるいは対象から得られた1つ以上の試料で測定される補体タンパク質の発現または活性の程度を含めた様々な因子に基づいて選択され得る。いくつかの実施形態では、有効量または用量範囲は、約0.001〜500mg/kg体重、例えば約0.01〜100mg/kg体重、例えば約0.1〜50mg/kg体重、約0.1〜20mg/kg体重、例えば約1〜10mg/kgである。
【実施例】
【0352】
実施例1:ブタ回虫(Ascaris suum)喘息動物モデルにおける強力なコンプスタチン類似体の効果
標準的な方法を用いて、配列番号28のコンプスタチン類似体のアミノ酸配列を有する強力なコンプスタチン類似体を合成した。簡潔に述べれば、各アミノ酸のα−アミノ基がFmocで保護されたFmoc保護アミノ酸としてアミノ酸を入手した。側鎖官能基も各種の適切な保護基でブロックした。Merrifield(J.Amer.Chem.Soc.85,2149(1963))により記載されている固相法に従って合成を行った。固相上で鎖の組立てを行い、組立て終了時にはN末端がアセチル化されていた。次いで、ペプチドを固相から切断し、同時にTFAおよびアミド化を用いた酸加水分解により脱保護した。次いで、直鎖状のペプチドを酸化し精製した。非ヒト霊長類喘息モデルを対象に投与14日後のCA−28の効果を評価するべくデザインされた試験を実施した。この試験では、1日1回、連続14日間、空気噴霧器(Pari LC Plus、Pari社USA、Midlothian、VA)を用いて、2.0%グリセロール溶液中の用量15mg/kgのCA−28を気管内噴霧により麻酔動物(カニクイザル)に投与した。喘息の治療に使用されるグルココルチコイドのブデソニド(10mg/kg、1日1回、9日間、吹入器を用いて粉末として投与)を陽性対照として使用した。主要評価項目にブタ回虫(Ascaris suum)(A.suum)による抗原負荷後の気管支肺胞洗浄(BAL)細胞数、サイトカインレベルならびに気道抵抗(RL)および動的コンプライアンス(CDYN)によって評価される急性肺機能変化に対する効果を含めた。
【0353】
3つの時点(初回投与前−抗原負荷)、第14日(抗原負荷1、すなわち投与最終日)および第30日(抗原負荷2)でカニクイザルにブタ回虫(A.suum)による抗原負荷を実施した。各個体が麻酔状態にある間、人工呼吸器による間欠的陽圧呼吸およびインライン噴霧器により単回用量のブタ回虫(A.suum)を15回の呼吸にわたって投与した。過去に40%を上回る肺抵抗(R)の増加および35%を上回る動的コンプライアンス(CDYN)の低下を誘発した抗原(希釈物)の投与量である至適反応量(ORD)を各個体に投与した。静脈穿刺により血液を採取し、日常的な臨床化学パラメータおよび血液学的パラメータについて分析した。
【0354】
小児用ファイバー気管支鏡をカリナから主気管支に押し込むことによって、気管支肺胞洗浄(BAL)を実施した。時点毎に肺の異なる領域を洗浄するよう努めた。洗浄用に無菌生理食塩水を3回(各20mL)注入し、直ちに吸引してチューブ内に採取した。1回目の洗浄採取物を1つの50mLコニカルチューブに入れ、2回目および3回目の採取物を第二の50mLコニカルチューブに合わせて入れた。輸送まで、試料を湿らせた氷上に置くか、4℃を維持するよう設定された冷蔵庫に入れた。異なる洗浄の組合せ(1回目/2回目/3回目の洗浄)から得られた細胞ペレットを合わせ、総細胞数および鑑別細胞数について分析した。染色したスライドから、計数可能な場合は全洗浄物(細胞ペレットを全洗浄物から組み合わせた)から最低200個の有核細胞を計数することによってBAL細胞の形態判別および鑑別を行い、計数可能な有核細胞が200個未満の場合はこれを試験の記録および結果に記録した。マクロファージ、好酸球、好中球、リンパ球およびマスト細胞の総対数および絶対数を求めた。赤血球、絨毛呼吸器細胞および扁平上皮細胞は計数しなかった。適切な方法を用いて、BAL試料をエオタキシン、RANTES、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−10、IL−13、IL−17a、IL−23およびINF−γについて分析した。
【0355】
結果
抗原負荷0(投与前の対照負荷)時のエアロゾルブタ回虫(A.suum)抗原負荷後、全個体が激しい気管支収縮反応を示し、この反応は肺抵抗の増加(RL)および動的コンプライアンス(CDYN)の低下とそれに続く肺好酸球増加に関連するものであった。
【0356】
CA−28は、抗原負荷2(CA−28投与の最終日)または抗原負荷2(投与中止後28日)のいずれにおいてもブタ回虫(A.suum)抗原負荷による急性期気管支収縮に影響を及ぼさなかった。
【0357】
CA−28は、抗原負荷1および2の後の好酸球増加症にわずかな改善(減少)をもたらした。しかし、1回目のブタ回虫(A.suum)抗原負荷の直後および前に採取したベースライン試料で好酸球数が高くなっていた。
【0358】
2.0%グリセロール水溶液からなる溶媒中のCA−28を15mg/kg吸入させる治療により、治療期間中に、最もアップレギュレートされたサイトカインおよびケモカインのレベルが多くの場合ブデソニドと同程度に、溶媒対照で治療した個体より低くなり、エオタキシン、IFN−y、IL−4、IL−13およびIL−23で最も顕著であったが、データに内在するばらつきが大きく、個体数が少ないことから、ほとんどの場合、抑制が統計的有意性に達しなかった。最も著明なデータは、抗原負荷1および2の後の全時点で観察されたCA−28治療個体におけるIL−23の総抑制量であった。CA−28治療群では、その他のほとんどのサイトカインの阻害が抗原負荷2の後でもみられるようであった。CA−28は、抗原負荷1および2の後に重要な調節サイトカインのIL−10のベースラインレベルをアップレギュレートした。データを図1〜11にグラフ形式で示す。
【0359】
データは、CA−28が、肺内に薬物が存在するとき(抗原負荷1)および薬物のウォッシュアウト後27日(抗原負荷2)(CA−28およびブデソニドがともに1日のウォッシュアウトであると仮定する)の両方において保護的な免疫微小環境(高IL−10、低IFNγ/IL−4/IL−13/IL−17/IL−23)を生じさせるという結論と一致するものである。特に、抗原負荷2の24時間後のCA−28治療個体におけるIL−17およびIl−23レベルが対照個体より低く、このことは有益な効果が持続することを示唆している。ブデソニドの場合、IL−17/IL−23軸が抗原負荷2の24時間後にアップレギュレートされると思われる。
【0360】
当業者は日常的な実験のみを用いて、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態の均等物を多数認識する、あるいは確認することが可能であろう。本発明の範囲は上記「説明」に限定されることが意図されるものではなく、添付の「特許請求の範囲」に記載されている通りのものである。本発明は、任意の具体的な実施例または任意の具体的な実施形態で得られる特定の結果に依存するものでは決してないことが理解されよう。別途明示されない限り、あるいは文脈から特に明らかでない限り、「a」、「an」および「the」などの冠詞は1つを意味することも2つ以上を意味することもある。別途明示されない限り、あるいは文脈から特に明らかでない限り、あるグループの1つ以上の要素間に「または(もしくは、あるいは)」を含む請求項または記載は、そのグループの1つ、2つ以上またはすべての要素が所与の製造物または工程に存在する、用いられる、あるいは関連する場合に満たされるものする。本発明は、所与の製造物または工程にグループのちょうど1つの要素が存在する、用いられる、あるいは関連する実施形態を包含する。例えば、特に限定されないが、請求項または記載が、特定の位置にある残基が特定のグループのアミノ酸またはアミノ酸類似体から選択され得ることを表している場合、本発明は、その位置にある残基が、挙げられているアミノ酸またはアミノ酸類似体のいずれかである個々の実施形態を包含することが理解される。また本発明は、所与の製造物または工程にグループの2つ以上またはすべての要素が存在する、用いられる、あるいは関連する実施形態も包含する。さらに、本発明は、記載されている請求項の1つ以上または上の記述による1つ以上の制限、構成要素、条項、記述用語などが別の請求項に導入されているあらゆる変更、組合せおよび置換を包含することを理解するべきである。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項が、同じ基本請求項に従属する他のすべての請求項に記載されている1つ以上の構成要素、制限、条項または記述用語が含まれるよう改変され得る。さらに、請求項に組成物が引用されている場合、特に明示されない限り、あるいは矛盾または不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、本明細書に開示されているいずれかの方法に従って組成物を投与する方法および本明細書に開示されているいずれかの目的で組成物を使用する方法が本発明の範囲内にあること、また本明細書に開示されているいずれかの製造方法に従って組成物を製造する方法が本発明の範囲内にあることを理解するべきである。対象を治療する方法は、このような治療を必要とする対象(例えば、疾患に罹患している対象または疾患に罹患するリスクの高い対象)を準備する段階、対象が疾患に罹患していると診断する段階ならびに/あるいは補体阻害剤および/または抗Th17剤による治療を実施する対象を選択する段階を含み得る。いくつかの実施形態では、治療方法は、Th17バイオマーカーについて対象を監視することを含む。いくつかの実施形態では、治療方法は、Th17バイオマーカーについて対象を監視することと、少なくとも部分的にこのような監視の結果に基づいて対象を再治療すること、例えば、バイオマーカーがTh17細胞および/またはTh17と関連のある活性の復活を示している場合に対象に補体阻害剤を投与することとを含む。
【0361】
構成要素がリストで示されている場合、構成要素の各サブグループも開示されることになり、また任意の構成要素(1つまたは複数)がそのグループから除去され得ることを理解するべきである。簡潔にするため、本明細書にはここに挙げた実施形態のうち一部のみが具体的に引用されているが、本発明はここに挙げた実施形態をすべて包含するものである。一般に、本発明または本発明の態様もしくは実施形態が特定の構成要素、特徴などを含むものとして記載されている場合、本発明の特定の実施形態または本発明の特定の態様は、そのような構成要素、特徴などからなる、あるいは実質的にそれよりなるものであることも理解するべきである。
【0362】
範囲が記載されている場合、その終点も含まれる。さらに、特に明示されない限り、あるいは文脈および当業者の理解から特に明らかでない限り、範囲として表されている値が、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、本発明の様々な実施形態で記載されている範囲内にある任意の具体的な値または部分範囲が、その範囲の下限の10分の1の単位まで想定され得るものであることを理解するべきである。本発明の任意の実施形態、態様、構成要素、特徴などが請求項から明確に除外され得る。例えば、任意の補体阻害剤、抗Th117剤、担体、製剤、製剤成分、障害、対象の集団もしくは特徴(1つまたは複数)、投与間隔、投与経路またはこれらの組合せが明確に除外され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]