(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618689
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】共回り防止翼付き掘削撹拌装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-42397(P2015-42397)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-160706(P2016-160706A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年1月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593010132
【氏名又は名称】株式会社テノックス九州
(74)【代理人】
【識別番号】100097179
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 一幸
(72)【発明者】
【氏名】福田 厚生
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−180647(JP,A)
【文献】
実開昭54−032010(JP,U)
【文献】
特開2013−007240(JP,A)
【文献】
米国特許第05411353(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中で回転する回転軸と、
前記回転軸の下端部に突設され土砂を掘削する掘削翼と、
前記回転軸において前記掘削翼よりも所定距離だけ上方に設けられ、前記回転軸を周回し前記回転軸に対して遊嵌されるボス部を有する共回り防止翼とを備える共回り防止翼付き掘削撹拌装置であって、
前記共回り防止翼は、平面視において前記ボス部に近接する基端部に比べ、先端部が前記掘削翼から遠ざかる形状をなすように形成することにより、前記共回り防止翼と前記掘削翼とがいずれも直線状である場合よりも前記共回り防止翼と前記掘削翼とがなす角を拡大し、前記共回り防止翼が異物をカラムの外周側へ押し出すように構成したことを特徴とする共回り防止翼付き掘削撹拌装置。
【請求項2】
前記形状は、滑らかな曲線で形成されている請求項1記載の共回り防止翼付き掘削撹拌装置。
【請求項3】
前記形状は、階段状に折れ曲がる複数の直線群により形成されている請求項1記載の共回り防止翼付き掘削撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深層混合処理工法などの地盤改良工法に使用され、掘削土が掘削翼や撹拌翼と共に回転する事態を防止する共回り防止翼付き掘削撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌の粘性が高い(例えば、粘土やシルト等)場合、掘削された土砂及び固化材ミルクが掘削翼の回転につれて共回りしようとするが、共回り現象が発生すると、固化材ミルクと土砂の撹拌が不足して不均質なコラムが造成されてしまうため、共回り防止翼が必要となる。
【0003】
具体的には、特許文献1(特許第1197295号公報)に開示されるように、回転軸の下端部に掘削翼を設けたオーガ式の掘削装置では、掘削翼の回転外径である掘削径よりも、大径の共回り防止翼を、回転軸に遊嵌させるのが望ましい。
【0004】
このようにすると、地中において、駆動手段により回転軸が盛んに回転する一方、共回り防止翼の先端部は周囲の地山に触れているので、共回り防止翼は地中でほとんど回転しない。言い換えると、回転軸と共回り防止翼とにおいて、大きな角速度差が生じることになり、この角速度差により、共回り防止翼を境界として、その上側と下側(掘削翼側)の土壌が縁切りされることになる。
【0005】
本明細書において、掘削翼の掘削作用が及ぶ領域を「操作体積」と呼ぶと、共回り防止翼は、操作体積の境界部分に位置することになり、共回りしようとする土壌から見ると、共回りを妨げる邪魔板のような働きをする。このような働きにより、操作体積は一定範囲に限定されることとなり、結果として、掘削翼による混練が良好となる。
【0006】
昨今、建物の建て替え時に地盤改良を行う例が増えており、埋め土や盛土等の地盤が改良の対象となることが多い。このような地盤には、土のみでなく、しばしば異物(例えば、コンクリートガラ、アスファルトガラ、岩砕、岩塊、玉石、大礫、木屑等、通常、直径約10センチメートル〜50センチメートル程度のもの)が含まれている。
【0007】
地盤に異物が含まれていると、異物が掘削翼と共回り防止翼との間に挟まり、これらの翼が変形あるいは損傷するおそれがある。さらには、異物が掘削翼と共回り防止翼との間に挟まったままとなると、本来上記角速度差を発生させるべきこれらの翼が、異物で接続されることにより、一体的に回転し、共回り防止翼の縁切り作用が果たされなくなってしまう。こうなると、地盤改良体の品質が著しく低下する。もともとは、異物はソイルセメントを上回る強度を有することが多いから、異物が地盤改良体内に残存しても、地盤改良体の品質は損なわれないのであるが、共回り防止翼の縁切り作用が無効にされてはならない。
【特許文献1】特許第1197295号公報
【特許文献2】特開2010−180647号公報
【特許文献3】特開2005−325548号公報
【特許文献4】特開2001−40651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、異物が存在してもその悪影響を抑制できる共回り防止翼付き掘削撹拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る共回り防止翼付き掘削撹拌装置は、地中で回転する回転軸と、回転軸の下端部に突設され土砂を掘削する掘削翼と、回転軸において掘削翼よりも所定距離だけ上方に設けられ、回転軸を周回し回転軸に対して遊嵌されるボス部を有する共回り防止翼とを備える共回り防止翼付き掘削撹拌装置であって、共回り防止翼は、ボス部に近接する基端部に比べ、先端部が掘削翼から遠ざかる形状をなすように形成されている。
【0010】
共回り防止翼の形状は、滑らかな曲線で形成されていてもよい。あるいは、共回り防止翼の形状は、階段状に折れ曲がる複数の直線群により形成されていてもよい。
【0011】
この構成において、共回り防止翼は、ボス部に近接する基端部に比べ、先端部が掘削翼から遠ざかる形状をなすように形成されているため、共回り防止翼と掘削翼との近傍に異物が存在していたとしても、共回り防止翼と掘削翼とがなす角が大きく、異物は、共回り防止翼にカラムの外周側へ向けて押し出され、掘削翼と共回り防止翼との間に異物が挟まりにくくなる。
【0012】
よって、共回り防止翼と掘削翼とが一体的に回転する事態が回避され、共回り防止翼による縁切り効果が維持される。その結果、良質な地盤改良体を形成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、共回り防止翼をボス部に近接する基端部に比べ、先端部が掘削翼から遠ざかる形状をなすように形成したため、異物がカラムの外周側へ押し出され、異物が掘削翼と共回り防止翼とに挟まらないようにすることができる。その結果、共回り防止翼による縁切り効果を維持して、良質な地盤改良体を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(比較例)
本発明の実施の形態を説明するに先立ち、比較例における異物による悪影響について、
図9〜
図10を参照しながら説明する。ここで、
図9は、比較例における掘削撹拌装置の側面図、
図10は、
図9のA−A線断面図である。
【0015】
図9において、回転軸2は、中心線1を有し、中心線1を中心に矢印N方向又はその逆方向に図示しない駆動手段による回転力を印加され、正転又は逆転する。なお、正転/逆転は、駆動手段により下降又は上昇する動作を考慮して切り替えられる。地中において、土壌の抵抗や振動などにより、中心線1の位置が若干変動することはあるが、以下、中心線1の位置は固定されていることを前提として説明を行う。
【0016】
中心線1が固定されているので、回転軸2の下端部に設けられる掘削翼3の先端縁は、中心線1を中心とする円軌道(これは、コラム外周9となる。)を描く。より具体的には、掘削翼3の下側には複数の爪3aが設けられており、これらの爪3aが土壌に食い込みながら回転することにより、掘削が進行する。
【0017】
共回り防止翼7は、回転軸2において掘削翼3よりも所定距離だけ上方に設けられる。具体的には、共回り防止翼7の中心部(基端部)は、回転軸2を周回し回転軸に対して遊嵌されるボス部7aとなっており、ボス部7aの上下には、回転軸2から外径方向にフランジ上に設けられる上ストッパ5と下ストッパ6とが位置する。
【0018】
上ストッパ5よりもさらに上方には、掘削翼3に直交する(但し、直交することは必須でなく任意事項である。)撹拌翼4の基端部が固着される。
【0019】
上述したように、回転軸2が回転すると、それと一体的に撹拌翼4と掘削翼3が回転するが、共回り防止翼7はほとんど静止し、大きな角速度差が生じる。この角速度差により、上述した縁切り作用が奏される。
【0020】
上述した操作体積は、カラム外周9内の面積に、共回り防止翼7と掘削翼3との間隔t1と掘削翼3の高さとの和を乗じたものである。この面積は、掘削翼3の直径により固定されるものであるから、一定と考えて良い。したがって、操作体積を小さくして混練の効果を高めるためには、間隔t1を小さく設定するしかない。
【0021】
比較例の共回り防止翼7は、平面視において掘削翼3とほぼ同様に直線状に形成されている。ほぼ静止している共回り防止翼7に対して、掘削翼3が回転すると、共回り防止翼7と掘削翼3とは、小さな角をなし、あたかもハサミのように間隔t1にある土壌を切り裂くような動きをする。
【0022】
ここで、間隔t1を上回る高さを有する異物8が共回り防止翼7と掘削翼3との間に近づくと、
図10に示すように、これらの翼7、3の間に、異物8が挟まり込んでしまう。
【0023】
運良く、異物8が切断されれば良いが、通常では、異物8が掘削翼3と共回り防止翼7とを接続する接続具のような役割を果たしてしまい、その結果、共回り防止翼7が掘削翼3により強制的に回転させられてしまう。こうなると、縁切り作用はほとんど果たされなくなり、地盤改良体の品質が著しく低下することになる。
【0024】
(実施の形態1)
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施の形態における掘削撹拌装置の側面図、
図2は
図1のB−B線断面図である。
【0025】
図1、
図2において、比較例を示す
図9、
図10と同様の要素については、同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する。なお、
図1、
図2では、共回り防止翼10と掘削翼3あるいは共回り防止翼10と撹拌翼4の各ペアを一段のみ図示しているが、勿論、これらを複数段上下に設ける場合にも、本発明は同様に適用できるものであって、このような場合も本発明の保護範囲に包含される。
【0026】
本発明の特徴は、共回り防止翼10の平面視の形状にある。即ち、
図2に示すように、共回り防止翼10は、ボス部10aに近接する基端部に比べ、先端部が掘削翼3から遠ざかる形状をなすように形成されている。このため、平面視で共回り防止翼10と掘削翼3とが近づいた状態においても、共回り防止翼10と掘削翼3との接点付近がなす角が大きい(この点は、
図10と
図2とを比較して参照されたい。)。
【0027】
このような関係があることにより、異物8は、共回り防止翼10と掘削翼3との間に挟まらず掘削翼3の上又は下をすり抜けるような動きをなし、
図2矢印で示すように、カラムの外周側へ押し出されることになる。このため、本発明によれば、比較例の間隔t1よりもさらに小さな間隔t2を採用することができ、その結果、操作体積をより小さく設定して高品質な地盤改良体を構築できると共に、異物8が掘削翼3と共回り防止翼10との間に挟まらないようにすることができる。このように、間隔を縮めると地盤改良体の品質を向上できる一方、異物の挟み込みの危険が増加するという、トレードオフの関係にある問題を一気に解決できるものである。
【0028】
共回り防止翼10は、
図2では2枚を一対としているが、一枚あるいは三枚以上とすることもできる。
【0029】
さらに、
図3〜
図8に例示するように、共回り防止翼10を平面視した形状は、種々変更できる。例えば、
図3に示すように、基端部がボス部10aと接するようにスタートし、ある曲率で滑らかに湾曲する曲線状としてもよい。
【0030】
あるいは、
図4に示すように、
図3よりも曲率を大きくして、先端部が内側を向くようにしても良い。
【0031】
あるいは、
図5に示すように、階段状に折れ曲がる複数の直線群で構成しても良い。
【0032】
あるいは、
図6に示すように、基端部を回転軸2に直交させ先端部を掘削翼3から遠ざかるように曲げても良い。
【0033】
あるいは、
図7に示すように、基端部側をやや
図7の上側にふくらませても良い。
【0034】
さらには、
図8に示すように、基端部をボス部10aに直交させ、それから
図8右向きに折り曲げ、さらに曲線部を連続させて先端部へ至るように形成しても良い。
【0035】
図3〜
図8の各種形状には、それぞれ一長一短があるが、いずれの形状を採用しても、一定の効果があるから、これらの形状は、当然全て本発明に包含されるし、本発明の趣旨を変更しない限り、図示されていない形状をも本発明の保護範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る共回り防止翼付き掘削撹拌装置は、例えば、地盤改良等を行う分野において好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の一実施の形態における掘削撹拌装置の側面図
【
図3】本発明の第1例における共回り防止翼の形状を示す断面図
【
図4】本発明の第2例における共回り防止翼の形状を示す断面図
【
図5】本発明の第3例における共回り防止翼の形状を示す断面図
【
図6】本発明の第4例における共回り防止翼の形状を示す断面図
【
図7】本発明の第5例における共回り防止翼の形状を示す断面図
【
図8】本発明の第6例における共回り防止翼の形状を示す断面図
【符号の説明】
【0038】
1 中心線
2 回転軸
3 掘削翼
3a 爪
4 撹拌翼
5 上ストッパ
6 下ストッパ
7、10 共回り防止翼
7a、10a ボス部
8 異物
9 コラム外周
t1、t2 間隔