特許第6618705号(P6618705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧 ▶ 東芝産業機器システム株式会社の特許一覧

特許6618705モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム
<>
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000002
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000003
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000004
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000005
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000006
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000007
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000008
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000009
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000010
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000011
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000012
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000013
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000014
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000015
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000016
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000017
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000018
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000019
  • 特許6618705-モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618705
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システム
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/12 20060101AFI20191202BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20191202BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20191202BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20191202BHJP
   B29L 31/34 20060101ALN20191202BHJP
【FI】
   H01F41/12 C
   B29C39/10
   B29C39/24
   H01F41/04 F
   B29L31:34
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-85013(P2015-85013)
(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公開番号】特開2016-207741(P2016-207741A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 美和
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】上川 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 照彦
(72)【発明者】
【氏名】久保田 正治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】陦 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中前 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】桑原 豪
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−21205(JP,A)
【文献】 特開昭63−72106(JP,A)
【文献】 特開平6−196340(JP,A)
【文献】 特開2012−113836(JP,A)
【文献】 特開2013−133406(JP,A)
【文献】 特開2014−203923(JP,A)
【文献】 特開2012−107160(JP,A)
【文献】 特開平11−349664(JP,A)
【文献】 特開2002−3581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/12
B29C 39/10
B29C 39/24
H01F 41/04
B29L 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を巻回して形成したコイル本体の内部に液状の熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程の前に行われ、前記含浸工程において液状の前記熱硬化性樹脂が貯留される容器を予熱温度に加熱する予熱工程と、
前記含浸工程の後に行われ、前記熱硬化性樹脂を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、を備え、
前記含浸工程は、
パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い値になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含み、
前記硬化工程は、前記熱硬化性樹脂の温度を前記含浸工程時の前記熱硬化性樹脂の温度以下である第1温度に調整する第1温度調整処理を含んでいる、
モールドコイルの製造方法。
【請求項2】
前記第1温度調整処理は、前記熱硬化性樹脂がゲル化点を超えるまで行われ、
前記硬化工程は、前記熱硬化性樹脂がゲル化点を超えた後に前記熱硬化性樹脂の温度を前記含浸工程時の前記熱硬化性樹脂の温度よりも高い第2温度に調整する第2温度調整処理を含んでいる、
請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項3】
前記含浸工程の前に行われ、前記雰囲気圧力を前記含浸工程時の雰囲気圧力よりも低い圧力に減圧する減圧工程を更に備え、
前記含浸工程は、前記コイル本体に対する前記熱硬化性樹脂の含浸を一旦停止する一旦停止処理を含み、
前記圧力調整処理は、前記一旦停止処理の後に行われる、
請求項1又は2に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記コイル本体は、隣接する前記導体間に設けられ前記導体間を絶縁する絶縁紙を有し、
前記圧力調整処理は、前記絶縁紙で囲まれた内側に対して行われる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項5】
前記含浸工程は、前記コイル本体の上端部まで前記熱硬化性樹脂を含浸させた後に、前記コイル本体に通電して前記コイル本体の温度を上昇させることで前記コイル本体周辺の前記硬化性樹脂を硬化させる仮硬化処理を含み、
前記圧力調整処理は、前記仮硬化処理の後に行われる、
請求項4に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項6】
導体を巻回して形成したコイル本体を収容することができる収容部を有し、前記収容部内に前記コイル本体が収容されるとともに液状の熱硬化性樹脂が貯留されて前記コイル本体に前記熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程を行うことができる含浸装置と、
前記収容部内の雰囲気圧力を調整することができる圧力調整装置と、
前記収容部内を加熱することができる加熱装置と、
前記含浸装置と前記圧力調整装置と前記加熱装置との駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記含浸工程の前に、前記加熱装置を駆動させて前記収容部内を予熱温度に加熱する予熱工程を行い、
前記含浸工程の後に、前記加熱装置を駆動させて前記熱硬化性樹脂を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程を行い、
前記含浸工程は、前記圧力調整装置を駆動させて、パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い値になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理を含み、
前記硬化工程は、前記熱硬化性樹脂の温度を前記含浸工程時の前記熱硬化性樹脂の温度以下である第1温度に調整する第1温度調整処理を含んでいる、
モールドコイルの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば計器用変成器やモールド変圧器などの機器に用いられるもので、導体を巻回した後に樹脂注型したモールドコイルがある。このようなモールドコイルは、成形硬化した樹脂の内部にボイド(気泡)が発生し、そのボイドによってモールドコイル内に空隙が形成されることがある。すると、モールドコイルの使用時に空隙内で部分放電が発生し、その結果、モールドコイル自身や、モールドコイルに接続された機器などの寿命を低下させるおそれがある。そのため、従来は、樹脂注型を行う際に、樹脂注型用の型の内部を真空排気して雰囲気圧力を減圧し、樹脂内の空気を樹脂外に放出させることで、成形硬化した樹脂内にボイドによる空隙が発生することを抑制していた。
【0003】
しかし、例えばコイル本体の導体の巻き方によっては、導体間に樹脂を十分に含浸させることが難しい。このため、成形硬化した樹脂内から空隙を完全に排除することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−232176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、硬化樹脂内及び表面にボイドが発生することを極力抑え、仮に硬化樹脂内にボイドによる空隙が発生した場合であっても、その空隙による部分放電を抑制することができるモールドコイルの製造方法、及びモールドコイルの製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のモールドコイルの製造方法は、導体を巻回して形成したコイル本体の内部に液状の熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程の前に行われ、前記含浸工程において液状の前記熱硬化性樹脂が貯留される容器を予熱温度に加熱する予熱工程と、前記含浸工程の後に行われ、前記熱硬化性樹脂を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、を備えている。前記含浸工程は、パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い値になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含んでいる。前記硬化工程は、前記熱硬化性樹脂の温度を前記含浸工程時の前記熱硬化性樹脂の温度以下である第1温度に調整する第1温度調整処理を含んでいる。
【0007】
また、実施形態のモールドコイルの製造システムは、導体を巻回して形成したコイル本体を収容することができる収容部を有し、前記収容部内に前記コイル本体が収容されるとともに液状の熱硬化性樹脂が貯留されて前記コイル本体に前記熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程を行うことができる含浸装置と、前記収容部内の雰囲気圧力を調整することができる圧力調整装置と、前記収容部内を加熱することができる加熱装置と、前記含浸装置と前記圧力調整装置と前記加熱装置との駆動を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記含浸工程の前に、前記加熱装置を駆動させて前記収容部内を予熱温度に加熱する予熱工程を行い、前記含浸工程の後に、前記加熱装置を駆動させて前記熱硬化性樹脂を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程を行う。前記含浸工程は、前記圧力調整装置を駆動させて、パッシェンの法則を用いて雰囲気圧力と隣接する前記導体間の距離である絶縁距離との積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い値になるように前記雰囲気圧力を調整する圧力調整処理を含んでいる。前記硬化工程は、前記熱硬化性樹脂の温度を前記含浸工程時の前記熱硬化性樹脂の温度以下である第1温度に調整する第1温度調整処理を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態による、モールドコイルの製造システムの概略構成の一例を示す図
図2】第1実施形態について、含浸装置の概略構成の一例を示す図
図3】第1実施形態について、製造システムで行われる工程の一例を示すフローチャート
図4】第1実施形態について、含浸工程を示すフローチャート
図5】第1実施形態について、硬化工程を示すフローチャート
図6】第1実施形態について、各工程における収容部内の温度を示す図
図7】第1実施形態について、各工程における収容部内の雰囲気圧力を示す図
図8】パッシェン曲線の一例を示す図
図9】第2実施形態について、硬化工程を示すフローチャート
図10】第2実施形態について、各工程における収容部内の温度を示す図
図11】第3実施形態について、製造システムで行われる工程を示すフローチャート
図12】第3実施形態について、含浸工程を示すフローチャート
図13】第3実施形態について、各工程における収容部内の雰囲気圧力を示す図
図14】第4実施形態について、含浸装置の概略構成を示すもので、モールド樹脂の注入途中であって通気管が収容部内に配置されている状態を示す図
図15】第4実施形態について、含浸装置の概略構成を示すもので、モールド樹脂の注入後であって通気管が収容部内から取り外された状態を示す図
図16】第4実施形態について、含浸工程を示すフローチャート
図17】第5実施形態について、含浸装置の概略構成を示すもので、モールド樹脂の注入途中であって通気管が収容部内に配置されている状態を示す図
図18】第5実施形態について、含浸装置の概略構成を示すもので、モールド樹脂の注入後であって通気管が収容部内から取り外された状態を示す図
図19】第5実施形態について、含浸工程を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態によるモールドコイルの製造方法及びモールドコイルの製造システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図1図8を参照して説明する。まず、図1及び図2を参照して、モールドコイルの製造システム10(以下、製造システム10と称する)の概略構成について説明する。図1に示すように、製造システム10は、コイル本体91を樹脂注型したモールドコイル90を製造するための製造システムである。モールドコイル90は、コイル本体91を、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂いわゆるモールド樹脂92で樹脂注型して構成される。コイル本体91は、例えば図2に示すような絶縁被覆で覆われた線状の導体911やシート状の導体を巻回して形成されている。また、導体911の隣接する層間には、層間絶縁紙912が設けられている。
【0011】
図1に示すように、製造システム10は、含浸装置20、圧力調整装置30、樹脂供給装置40、及び制御装置50を備えている。含浸装置20は、型21を有している。型21は、コイル本体91内にモールド樹脂92を含浸させる含浸工程の際に、液状のモールド樹脂92を貯留するための容器である。型21は、例えば金属製の金型であって、厚さ1〜5mm程度の鋼板を曲げ加工して形成された複数の部材を組み合わせて構成されている。
【0012】
型21は、本体部211と、蓋部212と、を有している。本体部211は、上方が開口した二重の円筒によって容器状に形成されており、その容器状の内側にコイル本体91を収容する収容部213を有している。蓋部212は、本体部211の上側の開口を開閉するように設けられている。コイル本体91は、蓋部212を開放した状態で、本体部211の収容部213に収容される。そして、コイル本体91が収容部213内に収容された後、蓋部212によって収容部213の上部の開口が閉鎖される。
【0013】
型21は、注入口214及び排気口215を有している。注入口214及び排気口215は、型21の内部つまり収容部213と、型21の外部とを連通している。注入口214は、例えば本体部211の底部に設けられており、供給管41を介して樹脂供給装置40に接続されている。
【0014】
樹脂供給装置40は、液状のモールド樹脂92を減圧して内部の空気を脱気した状態で、そのモールド樹脂92を型21の収容部213内に供給するものである。樹脂供給装置40から吐出された液状のモールド樹脂92は、供給管41を通り、注入口214から収容部213内に注入される。モールド樹脂92は、樹脂供給装置40によって所定温度例えば50〜60℃程度の比較的低い温度に加熱され、流動性を有した状態で注入口214から収容部213内に注入される。
【0015】
排気口215は、例えば蓋部212に設けられており、排気管31を介して圧力調整装置30に接続されている。圧力調整装置30は、収容部213内の雰囲気圧力Pxを調整することができる。この場合、圧力調整装置30は、例えば真空ポンプなどであって、収容部213内の空気を真空排気して収容部213内を減圧状態にするものである。モールド樹脂の注入によって押された収容部213内の空気は、排気口215から排気管31を通り、圧力調整装置30によって収容部213の外部に排出される。
【0016】
含浸装置20は、加熱装置22を一体に有している。加熱装置22は、型21の周囲に設けられており、型21を加熱することで、収容部213内を加熱することができる。この場合、加熱装置22は、型21を加熱することで、間接的に収容部213内に注入されたモールド樹脂92を加熱することができる。加熱装置22は、例えば電磁誘導によって型21に渦電流を生じさせて加熱するものや抵抗加熱によるものなどであるが、これら以外の加熱方式を採用することもできる。
【0017】
また、含浸装置20は、温度検出部23を有している。温度検出部23は、例えばサーミスタや熱電対などの温度センサであって、型21に設けられている。温度検出部23は、収容部213内に注入されたモールド樹脂92の温度を直接的に検出するものでもよいし、型21の温度を検出することで間接的に収容部213内のモールド樹脂92の温度を検出するものでもよい。
【0018】
加熱装置22と、温度検出部23と、圧力調整装置30と、樹脂供給装置40とは、それぞれ制御装置50に電気的に接続されている。制御装置50は、例えばCPU、ROM、RAM、及び書き換え可能なフラッシュメモリなどを有するマイクロコンピュータを主体に構成されており、製造システム10の全体を制御する。制御装置50は、温度検出部23の検出結果に基づいて、加熱装置22、圧力調整装置30、及び樹脂供給装置40の駆動を制御することができる。
【0019】
次に、製造システム10で行われる各工程について、図3図8も参照して説明する。
まず、図1において、型21の蓋部212が開放され、コイル本体91が、型21の収容部213内に配置される。そして、蓋部212が閉鎖されて収容部213が密閉された後、モールドコイルの製造工程が開始される(図3のスタート)。モールドコイル90の製造工程が開始されると、図3に示すように、ステップS10の予熱工程と、ステップS20の含浸工程と、ステップS30の硬化工程と、ステップS40の離型工程と、が順に行われる。
【0020】
ステップS10の予熱工程は、含浸工程の前に行われる工程であって、含浸工程においてモールド樹脂が貯留される容器すなわち型21を予熱温度T0に加熱する工程である。ステップS10で予熱工程が実行されると、制御装置50は、加熱装置22を駆動させることで、図6に示すように収容部213内を予熱温度T0まで上昇させる。予熱温度T0は、例えば100℃程度である。予熱処理を行うことで、型21の収容部213内及びコイル本体91が乾燥するとともに、収容部213内及びコイル本体91の温度分布が均一になる。これにより、次の含浸工程で収容部213内に注入されるモールド樹脂92の流動性を向上させることができる。
【0021】
図3のステップS20の含浸工程は、コイル本体91の内部にモールド樹脂92を含浸させる工程である。この場合、コイル本体91の内部とは、図2に示すように、主に隣接する導体911間及び層間絶縁紙912間を意味する。含浸工程が実行されると、制御装置50は、図4に示すように、ステップS21において圧力調整処理を実行する。圧力調整処理は、パッシェンの法則に基づいて求められる最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも、収容部213内の雰囲気圧力Pxが高い値になるように、収容部213内の雰囲気圧力Pxを調整する処理である。
【0022】
ここで、パッシェンの法則によれば、次の式(1)で示すように、平行な電極間で火花放電が生じる火花電圧Vが、気体の圧力Pと電極間の絶縁距離Lの積の関数であることがわかる。
V=F(P・L)・・・式(1)
【0023】
図8は、絶縁距離Lを変化させた場合における火花電圧Vと気体の圧力Pとの関係を示したパッシェン曲線を示している。この場合、曲線Aは、絶縁距離L=1.00(mm)のパッシェン曲線を示している。曲線Bは、絶縁距離L=0.40(mm)のパッシェン曲線を示している。曲線Cは、絶縁距離L=0.10(mm)のパッシェン曲線を示している。そして、曲線Dは、絶縁距離L=0.04(mm)のパッシェン曲線を示している。火花電圧Vは、各パッシェン曲線A〜Dで示すように、最低火花電圧Vminを最下点にして、二次曲線的に増加する。すなわち、最低火花電圧Vminにおける圧力P0を境界にして、圧力Pの減少側又は増加側のいずれの領域においても、火花電圧Vが高くなっている。
【0024】
本実施形態において、例えば図2に示すように、モールド樹脂92内に複数の小さなボイド(気泡)が生じ、その複数のボイドが集まることによって、モールドコイル90内に空隙93が生じることがある。この場合、上述の絶縁距離Lは、隣接する導体911間の絶縁距離L1に相当し、上述の圧力Pは、モールドコイル90内の空隙93内の雰囲気圧力Pyに相当する。ここで、空隙93内には、含浸工程時における収容部213内の空気が封入されている。この場合、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールド樹脂92からの揮発成分、水分、構造的要因、注入時や硬化時の温度など複数の要因が関係して定まる。そのため、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、含浸工程時の収容部213内の雰囲気圧力Pxと同一の値にはなり難く、また、どの程度の値となっているかを把握することは困難である。しかし、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールド樹脂92からの揮発成分などによって、含浸工程時の収容部213内の雰囲気圧力Pxよりも高くなる傾向がある。
【0025】
この場合、上述したパッシェンの法則によれば、火花電圧Vは、空隙93内の雰囲気圧力Pyと導体911間の絶縁距離L1とによって定まるところ、導体911間の絶縁距離L1は、コイル本体91の設計段階で決定されるため、コイル本体91に固有の値である。したがって、モールドコイル90内に生じた空隙93で絶縁劣化を起こすか否かは、空隙93内の雰囲気圧力Py、つまり含浸工程時における収容部213の雰囲気圧力Pxに大きく依存する。
【0026】
そこで、制御装置50は、図4のステップS21で示すように、含浸工程において圧力調整処理を実行する。これにより、制御装置50は、図7に示すように、圧力調整装置30を駆動させて、含浸工程時における収容部213の雰囲気圧力Pxを第1圧力P1に調整する。第1圧力P1は、コイル本体91の隣接する導体911間の絶縁距離L1について、パッシェンの法則に基づいて求められた最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも高い圧力である。この場合、第1圧力P1は、上述した最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも大きく、かつ、大気圧Pt未満の値である。ちなみに、本実施形態の場合、大気圧Ptは、約100(kPa)としている。
【0027】
例えば、図8に示すように、導体911間の絶縁距離L1=1.00(mm)であれば、第1圧力P1は、パッシェン曲線Aに基づいて、1.0(kPa)<P1<Ptの値に設定される。導体911間の絶縁距離L1=0.40(mm)であれば、第1圧力P1は、パッシェン曲線Bに基づいて、2.5(kPa)<P1<Ptの値に設定される。導体911間の絶縁距離L1=0.10(mm)であれば、第1圧力P1は、パッシェン曲線Cに基づいて、10.0(kPa)<P1<Ptの値に設定される。そして、導体911間の絶縁距離L1=0.04(mm)であれば、第1圧力P1は、パッシェン曲線Dに基づいて、25.0(kPa)<P1<Ptの値に設定される。
【0028】
次に、制御装置50は、図4のステップS22において注入処理を実行する。制御装置50は、注入処理を実行すると、樹脂供給装置40を駆動させて、型21の収容部213内に対するモールド樹脂92の注入を開始する。このとき、モールド樹脂92の注入によって押し出された収容部213内の空気は、圧力調整装置30によって収容部213外に排出される。また、この場合、樹脂供給装置40から吐出されるモールド樹脂92の温度は、使用可能時間(ポットライフ)を考慮して、50〜60℃と比較的低温に設定されているため、収容部213内の予熱温度T0(例えば、約100℃)よりも低い。そのため、モールド樹脂92が収容部213内に注入されると、型21の熱がモールド樹脂92に移動し、これにより図6に示すように、収容部213内の温度が予熱温度T0よりも低い温度に(例えば、約80℃)に低下する。このときの収容部213内及びモールド樹脂92の温度を、含浸工程時の温度と称する。
【0029】
次に、制御装置50は、ステップS23において、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かを判断する。この場合、所定位置は、コイル本体91の上端部を覆う位置である。本実施形態の場合、所定位置は、図2の一点鎖線H2で示すように、蓋部212の下面に到達する位置である。なお、図2は、注入処理の途中、つまり、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達する前の状態を示している。モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かの判断は、例えば型21の所定位置、この場合蓋部212の下面にモールド樹脂92の液面を検出するセンサを設けて、このセンサが液面を検出したことで判断することができる。
【0030】
液面を検出するセンサは、例えば一対の電極で構成されたものを採用することができる。この場合、電極にモールド樹脂92が接触することで、電極間の電気抵抗が変化する。制御装置50は、この電極間の電気抵抗の変化を検出することで、モールド樹脂92が所定位置に到達したと判断することができる。また、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かの判断は、例えば収容部213の容積及びコイル本体91の体積と、樹脂供給装置40から吐出したモールド樹脂92の吐出量と、に基づいて判断してもよい。
【0031】
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達していない間、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(図4のステップS23でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したと判断すると(ステップS23でYES)、ステップS24へ移行し、樹脂供給装置40の駆動を停止させて、モールド樹脂92の注入を停止する。そして、制御装置50は、含浸工程を終了し(リターン)、図3のステップS30に移行して硬化工程を実行する。
【0032】
ステップS30の硬化工程は、ステップS20の含浸工程の後に行われ、コイル本体91の導体911間に含浸されたモールド樹脂92を加熱してモールド樹脂92を硬化させる工程である。ステップS30で硬化工程が実行されると、制御装置50は、図5のステップS31へ移行し、加熱装置22を駆動させて第1温度調整処理を実行する。第1温度調整処理は、加熱装置22を駆動させて型21の収容部213内の温度を加熱調整することにより、モールド樹脂92の温度を含浸工程時のモールド樹脂92の温度以下である第1温度T1に調整する処理である。この場合、第1温度T1は、収容部213に注入される際のモールド樹脂92の温度(例えば、50〜60℃)よりも高い。本実施形態において、第1温度T1は、図6に示すように、含浸工程時のモールド樹脂92の温度に等しい。
【0033】
モールド樹脂92は、第1温度調整処理によって第1温度T1に加熱され、その加熱による吸熱量の増大に伴って硬化する。次に、制御装置50は、図5のステップS32において、モールド樹脂92の硬化が完了したか否かを判断する。このモールド樹脂92の硬化が完了したか否かの判断は、例えばステップS31の第1温度調整処理を開始してからの経過時間によって判断することができる。また、例えば、モールド樹脂92の表面状態を測定できるセンサを設け、そのセンサの検出結果に基づいて判断してもよい。
【0034】
制御装置50は、モールド樹脂92の硬化が完了したと判断すると(ステップS32でYES)、硬化工程を終了する(リターン)。そして、図3のステップS40において、離型工程が実行される。作業者は、離型工程において、モールドコイル90を、型21から離型する。これにより、モールドコイル90が完成する。
【0035】
なお、製造システム10は、ステップS30の硬化工程を1次硬化工程とし、ステップS40の離型工程の前又は後に実行される2次硬化工程を更に備えていてもよい。2次硬化工程は、ステップS30の1次硬化工程時の第1温度T1よりも高い温度で、モールド樹脂92を更に硬化させる工程である。
また、加熱装置22は、含浸装置20の型21に内蔵されたものでなく、型21を収容して加熱することができる硬化炉等であってもよい。
【0036】
本実施形態の構成によれば、含浸工程は、圧力調整処理を含んでいる。圧力調整処理は、パッシェンの法則を用いて、雰囲気圧力Pxと、隣接する導体911間の距離である絶縁距離L1と、の積に基づいて求められる最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも高い値である第1圧力P1になるように雰囲気圧力Pxを調整する処理である。
【0037】
すなわち、パッシェンの法則によれば、図8に示すように、最低火花電圧Vminにおける圧力P0を境界にして、圧力Pの減少側又は増加側のいずれの領域においても、火花電圧Vが高くなっている。そのため、モールドコイル90内に空隙93が生じた場合、その空隙93内の雰囲気圧力Pyを、最低火花電圧Vminにおける圧力P0に対して減少又は増加する方向に遠ざかるように調整することで、火花電圧Vを高い値にして部分放電を抑制することができる。
【0038】
しかし、上述したように、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールド樹脂92からの揮発成分などによって、含浸工程時の雰囲気圧力Pxよりも高くなる傾向がある。また、モールドコイル90の使用時にコイル本体91が通電されると、コイル本体91が発熱し、その熱によって空隙93内の空気が加熱されて膨張する。したがって、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、モールドコイル90の使用時に特に高くなり易い。そのため、含浸工程時の雰囲気圧力Pxを、最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも低い値にすると、モールドコイル90の使用時に、空隙93内の雰囲気圧力Pyが含浸工程時の雰囲気圧力Pxよりも高くなることによって、かえって最低火花電圧Vminにおける圧力P0に近づくことになる。すると、火花電圧Vが含浸工程時よりも低くなって、かえって部分放電が生じ易くなるおそれがある。
【0039】
そこで、本実施形態では、含浸工程時の雰囲気圧力Pxを、パッシェンの法則に基づいて求められる最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも高い値である第1圧力P1になるように調整している。これによれば、モールドコイル90内に空隙93内の雰囲気圧力Pyが、含浸工程時の雰囲気圧力Pxよりも高くなったとしても、空隙93内の雰囲気圧力Pyは、最低火花電圧Vminにおける圧力P0から離れる方向、つまり火花電圧Vが高く方向に増加する。これにより、空隙93内における絶縁抵抗が増大し、空隙93内での部分放電を効果的に抑制することができる。
【0040】
ここで、上述のようにモールドコイル90内の空隙93の圧力を高くすることにより、部分放電を抑制することができるが、一方で、モールド樹脂92内に残留する空気量が多くなる。すなわち、一般的なモールドコイルは、硬化工程において、モールド樹脂の温度を含浸工程時の温度よりも高い温度に加熱して硬化させる。しかし、モールド樹脂92に残留する空気量が多くなると、その空気が温度上昇によって膨張し易くなる。すると、残留空気の膨張によってボイド(気泡)が発生し、そのボイドがモールド樹脂92内に留まることで空隙93が発生したり、ボイドがモールドコイル90の表面に残り外観不良や絶縁不良を生じさせたりするおそれがあった。
【0041】
そこで、本実施形態において、硬化工程は、モールド樹脂92の温度を含浸工程時のモールド樹脂92の温度以下である第1温度T1に調整する第1温度調整処理を含んでいる。これにより、含浸工程時の雰囲気圧力Pxを高くしてモールド樹脂92内に残留する空気量が多くなったとしても、硬化工程時のモールド樹脂92の温度上昇を極力低く抑えることにより、残留空気が膨張してボイドが発生することを極力抑えることができる。したがって、空隙93の発生や、モールドコイル90の表面にボイドが残ることによる外観不良や絶縁不良を抑制することができる。これらの結果、硬化したモールド樹脂92内及び表面にボイドが発生することを極力抑えることができる。また、仮にモールドコイル90内にボイドによる空隙93が発生した場合であっても、その空隙93による部分放電を抑制することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図9及び図10を参照して説明する。
この第2実施形態では、硬化工程が第2調整処理を含んでいる点で、上記第1実施形態と異なる。
図9に示すように、制御装置50は、硬化工程を開始すると、まずステップS31において、第1温度調整処理を実行する。第2実施形態における第1温度調整処理は、モールド樹脂92がゲル化点を超えるまで行われる。この場合、ゲル化点とは、モールド樹脂92の粘度が上昇して流動性が無くなり、モールド樹脂92内の空気が移動不可となった状態を言う。
【0043】
制御装置50は、ステップS41において、収容部213内のモールド樹脂92がゲル化点を通過したか否かを判断する。この場合、制御装置50は、収容部213内のモールド樹脂92がゲル化点を通過したか否かを、型21の収容部213内にモールド樹脂92が注入されてからの経過時間によって判断してもよいし、センサ等によってモールド樹脂92の状態を測定することで判断してもよい。制御装置50は、収容部213内のモールド樹脂92がゲル化点を通過していなければ(ステップS41でNO)、図10に示すように、収容部213内の温度つまりモールド樹脂92の温度を第1温度T1に維持する。
【0044】
一方、制御装置50は、収容部213内のモールド樹脂92がゲル化点を通過したと判断すると(ステップS41でYES)、ステップS42において第2温度調整処理を実行する。第2温度調整処理は、モールド樹脂92がゲル化点を超えた後に実行されるもので、図10に示すように、モールド樹脂92の温度を含浸工程時のモールド樹脂92の温度よりも高い第2温度T2に調整する処理である。この場合、第2温度T2は、例えば約110℃であり、予熱温度T0(約100℃)よりも高く、かつ、第1温度T1(約80℃)よりも高い値に設定されている。
【0045】
その後、制御装置50は、ステップS32において、モールド樹脂92の硬化が完了したか否かを判断する。制御装置50は、モールド樹脂92の硬化が完了していなければ(ステップS32でNO)、型21の収容部213内の温度つまりモールド樹脂92の温度を第2温度T2に維持する。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の硬化が完了したと判断すれば(ステップS32でYES)、硬化工程を終了し(リターン)、図3のステップS40へ移行して離型工程を実行する。
【0046】
ここで、モールド樹脂92は、硬化工程において硬化反応が進展するにつれて、モールド樹脂92の粘度が高くなっていく。そして、モールド樹脂92は、ゲル化点を超えると、流動性が失われることによってモールド樹脂92内の空気の移動がほとんど無くなる。そこで、本実施形態では、硬化工程においてモールド樹脂92がゲル化点を超えるまでは、モールド樹脂92の温度を含浸工程時の温度以下である第1温度T1に維持する。これにより、モールド樹脂92内の空気の膨張を抑制して、モールド樹脂92内にボイドが発生することを抑制することができる。
【0047】
更に、本実施形態では、モールド樹脂92がゲル化点を超えてモールド樹脂92内の空気の移動が不可になると、モールド樹脂92の温度を含浸工程時の温度よりも高い第2温度T2に加熱する。これにより、モールド樹脂92の硬化を促進して硬化時間を短縮させることができる。したがって、本実施形態によれば、ボイドによる空隙93の発生を抑制するという上記第1実施形態の作用効果を得つつ、更に硬化工程によるモールド樹脂92の硬化時間を短縮することができるという作用効果が得られる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図11図13を参照して説明する。
この第3実施形態は、含浸工程の前に減圧工程を実行する点、及び含浸工程の具体的内容が、上記各実施形態と異なる。すなわち、第3実施形態において、制御装置50は、モールドコイル90の製造工程が開始されると、図11に示すように、ステップS20の含浸工程の前に、ステップS50の減圧工程が実行される。ステップS50の減圧工程は、ステップS10の予熱工程の前後又は予熱工程と並行して実行される。
【0049】
ステップS50の減圧工程は、圧力調整装置30を駆動させることで、型21の収容部213内の雰囲気圧力Pxを含浸工程時の雰囲気圧力Px(この場合、第1圧力P1)よりも低い圧力に減圧する工程である。本実施形態の場合、制御装置50は、減圧工程において、図13に示すように、収容部213内の雰囲気圧力Pxを、大気圧Ptよりも低く、かつ最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも低い圧力である第2圧力P2に減圧する。
【0050】
次に、図11に示すステップS10において予熱工程を実行した後、ステップS20の含浸工程を実行する。含浸工程が実行されると、制御装置50は、まず図12に示すステップS61において、1次注入処理を実行する。制御装置50は、1次注入処理を実行すると、樹脂供給装置40を駆動させて、収容部213内に対してモールド樹脂92の注入を開始する。その際、収容部213内の雰囲気圧力Pxは、図11のステップS50における減圧工程によって、図13に示すように大気圧Ptより低い第2圧力P2に減圧されている。したがって、コイル本体91内の空気量が減少しており、コイル本体91内にモールド樹脂92が含浸し易くなっている。これにより、コイル本体91内に空隙が発生することを抑制することができる。
【0051】
次に、制御装置50は、図12のステップS62において、モールド樹脂92の液面が第1位置H1に到達したか否かを判断する。この場合、第1位置H1は、例えば図2に一点鎖線で示すように、コイル本体91の下端部と上端部との間の位置である。つまり、モールド樹脂92の液面が第1位置H1にある場合、コイル本体91の上端部は、モールド樹脂92の液面から露出している。
【0052】
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第1位置H1に到達していない間、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(ステップS62でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第1位置H1に到達したと判断すると(ステップS62でYES)、ステップS63へ移行して一旦停止処理を実行する。制御装置50は、一旦停止処理を実行すると、樹脂供給装置40の駆動を一旦停止させて、モールド樹脂92の注入を一旦停止する。
【0053】
次に、制御装置50は、ステップS64において圧力調整処理を実行する。制御装置50は、圧力調整処理を実行すると、圧力調整装置30の駆動を制御して、図13に示すように収容部213内の雰囲気圧力Pxを第1圧力P1となるように調整(この場合、昇圧)する。その後、制御装置50は、ステップS65において2次注入処理を実行し、樹脂注入装置40を再度駆動させて、モールド樹脂92の注入を再開する。その後、制御装置50は、図12のステップS66において、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達したか否かを判断する。この場合、第2位置H2は、第1位置H1よりも高い位置であって、コイル本体91の上端部を覆う位置、つまり第1実施形態の所定位置と同等の高さ位置である。
【0054】
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達していない間、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(ステップS66でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達したと判断すると(ステップS66でYES)、ステップS67へ移行し、樹脂供給装置40の駆動を停止させて、モールド樹脂92の注入を停止する。そして、制御装置50は、含浸工程を終了する(リターン)。その後、図11のステップS30の硬化工程と、ステップS40の離型工程と、が順に実行される。なお、本実施形態において、硬化工程は、図5に示す第1実施形態の硬化工程、及び図9に示す第2実施形態の硬化工程、のいずれも採用することができる。
【0055】
これによれば、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
更に、含浸工程前に減圧工程を実行して、収容部213内を大気圧Ptよりも低く、かつ、最低火花電圧Vminにおける圧力P0よりも低い圧力に減圧することで、モールド樹脂92がコイル本体91の内部に浸透し易くなる。これにより、モールドコイル90内にボイドによる空隙の発生を更に効果的に抑制することができる。
【0056】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、図14図16を参照して説明する。なお、図14は、モールド樹脂92の注入処理の途中の状態を示している。また、図15は、モールド樹脂92の注入処理後の状態を示している。
【0057】
第4実施形態において、コイル本体91は、図14に示すように、複数の連通孔913を有している。連通孔913は、コイル本体91の外周側から内周側へ向かって層間絶縁紙912を貫いて形成された孔である。この場合、連通孔913は、コイル本体91の最内周側の層間絶縁紙912には設けられていない。複数の連通孔913は、コイル本体91の軸方向の中央部、この場合図14の紙面の上下方向の中央部に設けられている。連通孔913は、コイル本体91において層間絶縁紙912で囲まれた内部と、外部とを連通している。換言すれば、複数の連通孔913は、コイル本体91の内部と外部とを連通する管として機能する。
【0058】
含浸装置20は、通気管24を有している。通気管24は、型21の収容部213内に対して着脱可能に構成されている。通気管24の一端部は、圧力調整装置30に接続され、通気管24の他端部は、コイル本体91の最外周側の層間絶縁紙912に形成された連通孔913に接続される。すなわち、通気管24は、コイル本体91の連通孔913と圧力調整装置30とを接続するものである。通気管24がコイル本体91の連通孔913と圧力調整装置30とを接続した状態つまり図14に示す状態で、圧力調整装置30が駆動されると、コイル本体91において層間絶縁紙912で囲まれた内側の圧力が調整される。本実施形態の場合、圧力調整装置30が駆動されると、コイル本体91内の空気が排気されて、コイル本体91内の圧力が減圧される。
【0059】
本実施形態において、モールドコイル90の製造工程が開始されると、上記第3実施形態と同様に、図11に示すステップS50の減圧工程と、ステップS10の予熱工程と、ステップS20の含浸工程と、ステップS30の硬化工程と、ステップS40の離型工程と、が順に実行される。本実施形態では、ステップS20の含浸工程の具体的内容が、上記第3実施形態と異なる。
【0060】
すなわち、本実施形態の含浸工程は、上記第1実施形態の図4に示す含浸工程を基礎にしている。この場合、第1実施形態の含浸工程において、圧力調整処理(図4のステップS21)は、モールド樹脂92の注入処理(図4のステップS22)の前に、コイル本体91の周囲の雰囲気圧力Pxに対して行われる。一方、本実施形態の含浸工程において、圧力調整処理(図16のステップS25)は、モールド樹脂92の注入処理(図16のステップS22)の後に、コイル本体91の内部つまり空隙93内の雰囲気圧力Pyに対して行われる。
【0061】
具体的には、制御装置50は、図11のステップS20において含浸工程を実行すると、図16に示すように、まずステップS22において注入処理を実行し、モールド樹脂92を、収容部213内に注入する。次に、制御装置50は、ステップS23において、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したか否かを判断する。制御装置50は、モールド樹脂92の液面が所定位置に到達したと判断すると(ステップS23でYES)、ステップS24へ移行し、樹脂供給装置40の駆動を停止させて、モールド樹脂92の注入を停止する。
【0062】
次に、制御装置50は、収容部213内のモールド樹脂92の粘度がある程度上昇した後、例えばゲル化点付近まで上昇した後に、ステップS25において、圧力調整処理を実行する。このステップS25の圧力調整処理は、コイル本体91の層間絶縁紙912で囲まれた内側に対して行われる。すなわち、ステップS25の圧力調整処理が実行されると、圧力調整装置30の作用により、連通孔913及び通気管24を介して、コイル本体91の層間絶縁紙912で囲まれた内側の圧力が第1圧力P1に調整(この場合、昇圧)される。
【0063】
そして、コイル本体91内の圧力が第1圧力P1に調整されると、図15に示すように通気管24が型21の収容部213内から取り外されて、コイル本体91の全体がモールド樹脂92に浸される。そして、制御装置50は、含浸工程を終了する(リターン)。その後、図11のステップS30の硬化工程と、ステップS40の離型工程と、が順に実行される。なお、本実施形態においても、硬化工程は、図5に示す第1実施形態の硬化工程、及び図9に示す第2実施形態の硬化工程、のいずれも採用することができる。
【0064】
これによれば、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
更に、本実施形態によれば、層間絶縁紙912に連通孔913を設けるとともに、含浸装置20は、連通孔913と圧力調整装置30とを接続する通気管24を有している。これにより、製造システム10は、圧力調整処理を、コイル本体91の層間絶縁紙913で囲まれた内側に対して直接的に行うことができる。したがって、コイル本体91内の圧力をより確実に高くすることができ、その結果、モールドコイル90の空隙93による部分放電をより効果的に抑制することができる。
【0065】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について、図17図19を参照して説明する。なお、図17は、モールド樹脂92の注入処理の途中の状態を示している。また、図18は、モールド樹脂92の注入処理後の状態を示している。
【0066】
第5実施形態において、製造システム10は、図17に示すように、通電装置60を更に備えている。通電装置60は、コイル本体91の導体911に接続されており、コイル本体91を通電させることができる。コイル本体91は、通電装置60によって通電されると、抵抗加熱によって温度が上昇する。また、通電装置60は、制御装置50に接続されており、制御装置50によって駆動が制御される。
【0067】
本実施形態において、モールドコイル90の製造工程が開始されると、上記第3及び第4実施形態と同様に、図11に示すステップS50の減圧工程と、ステップS10の予熱工程と、ステップS20の含浸工程と、ステップS30の硬化工程と、ステップS40の離型工程と、が順に実行される。本実施形態では、ステップS20の含浸工程の具体的内容が、上記第3及び第4実施形態と異なる。この場合、本実施形態の含浸工程は、上記第3実施形態の図12に示す含浸工程を基礎にしている。
【0068】
具体的には、制御装置50は、図11のステップS20において含浸工程を実行すると、図19に示すように、ステップS61において、1次注入処理を実行して、収容部213に対するモールド樹脂92の注入を開始する。次に、制御装置50は、図19のステップS71において、モールド樹脂92の液面が第3位置H3に到達したか否かを判断する。この場合、第3位置H3は、例えば図17に一点鎖線で示すように、コイル本体91の上端部よりも若干高い位置であり、かつ、蓋部212の下面よりも低い位置である。モールド樹脂92の液面が第3位置H3にある場合、コイル本体91の上端部は、モールド樹脂92に覆われている。
【0069】
制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第3位置H3に到達していない間は、樹脂供給装置40を駆動させて、モールド樹脂92の注入を継続する(ステップS71でNO)。一方、制御装置50は、モールド樹脂92の液面が第3位置H3に到達したと判断すると(ステップS71でYES)、ステップS63へ移行して一旦停止処理を実行する。制御装置50は、一旦停止処理を実行すると、樹脂供給装置40の駆動を一旦停止させて、モールド樹脂92の注入を一旦停止する。
【0070】
次に、制御装置50は、ステップS72において仮硬化処理を実行する。仮硬化処理は、コイル本体91に通電し、抵抗加熱によってコイル本体91の温度を上昇させることで、コイル本体91周辺のモールド樹脂92を硬化させる処理である。制御装置50は、仮硬化処理を実行すると、通電装置60を駆動させてコイル本体91に通電する。これにより、コイル本体91の温度が上昇し、コイル本体91周辺のモールド樹脂92の硬化が促進される。この仮硬化処理は、コイル本体91周辺のモールド樹脂92が所定の粘度よりも高い粘度になるまで、例えばモールド樹脂92がゲル化点を超えるまで行われる。
【0071】
その後、制御装置50は、ステップS73において、圧力調整処理を実行する。このステップS73の圧力調整処理は、上記第4実施形態の圧力調整処理(図16のステップS25)と同様に、コイル本体91の層間絶縁紙912で囲まれた内側に対して行われる。すなわち、ステップS73の圧力調整処理が実行されると、圧力調整装置30の作用により、連通孔913及び通気管24を介して、コイル本体91の層間絶縁紙912で囲まれた内側の圧力が第1圧力P1に調整(この場合、昇圧)される。
【0072】
そして、コイル本体91内の圧力が第1圧力P1に調整されると、図18に示すように通気管24が型21から取り外されて、コイル本体91の全体がモールド樹脂92に浸される。その後、制御装置50は、第3実施形態の図12に示す含浸工程と同様に、ステップS65〜ステップS67を実行して、モールド樹脂92の液面が第2位置H2に到達するまでモールド樹脂92を注入した後、含浸工程を終了する(リターン)。その後、図11のステップS30の硬化工程と、ステップS40の離型工程と、が順に実行される。なお、本実施形態においても、硬化工程は、図5に示す第1実施形態の硬化工程、及び図9に示す第2実施形態の硬化工程、のいずれも採用することができる。
【0073】
これによれば、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
更に、本実施形態によれば、コイル本体91の空隙93内の雰囲気圧力Pyに対する圧力調整処理を行う前に、コイル本体91を通電発熱させてモールド樹脂92を硬化させる仮硬化処理を実行する。この場合、モールドコイル90は、内部のコイル本体91が発熱するため、例えば加熱装置22や加熱炉のようにモールドコイル90の外部から加熱するものに比べて、より短時間でモールド樹脂92を硬化させることができる。
【0074】
すなわち、本実施形態のようにコイル本体91を通電発熱させて仮硬化処理を行うもの(以下、前者と称する)と、モールドコイル90の外部からの加熱のみで仮硬化処理を行うもの(以下、後者と称する)とを比較した場合、仮硬化処理に要する時間つまりモールド樹脂92の加熱時間が同一であれば、後者よりも前者の方がモールド樹脂92の硬化をより促進することができる。したがって、モールド樹脂92は、後者よりも前者の方が硬くなる。これにより、前者の方が、圧力調整処理において空隙93内の雰囲気圧力Pyを高くすることができ、その結果、前者の方が、空隙93における耐絶縁性をより高いものとすることができる。
【0075】
また、圧力調整処理において設定された第1圧力P1、つまり圧力調整処理により調整される空隙93内の雰囲気圧力Pyが、前者と後者で同一である場合、後者よりも前者の方が、モールド樹脂92の粘度を第1圧力P1に耐えうる粘度により早く到達させることができる。すなわち、モールド樹脂92は、後者よりも前者の方が、早く硬化する。したがって、後者よりも前者の方が、仮硬化処理に要する時間を短縮することができる。これにより、硬化処理に要する時間も短縮することができ、その結果、モールドコイル90の製造に要する時間を短縮することができる。
【0076】
以上説明した実施形態によれば、含浸工程は、パッシェンの法則を用いて、雰囲気圧力と、隣接する導体間の距離である絶縁距離と、の積に基づいて求められる最低火花電圧時の圧力よりも高い値になるように雰囲気圧力を調整する圧力調整処理、を含んでいる。これによれば、モールドコイルの使用時等において、空隙内の雰囲気圧力が含浸工程時の雰囲気圧力より高くなったとしても、その空隙内の雰囲気圧力によって定まる火花電圧を増大させることができる。そのため、空隙内における絶縁抵抗が増大し、空隙内での部分放電を効果的に抑制することができる。
【0077】
また、硬化工程は、樹脂の温度を含浸工程時の樹脂の温度以下である第1温度に調整する第1温度調整処理を含んでいる。これによれば、含浸工程時の雰囲気圧力を高くすることでモールド樹脂内に残留する空気量が多くなったとしても、硬化工程時のモールド樹脂の温度上昇を極力低く抑えることにより、残留空気が膨張してボイドが発生することを極力抑えることができる。そのため、空隙の発生や、モールドコイルの表面にボイドが残ることによる外観不良や絶縁不良を抑制することができる。
【0078】
これらの結果、上記の実施形態によれば、硬化したモールド樹脂内及び表面にボイドが発生することを極力抑えることができる。また、仮にモールドコイル内にボイドによる空隙が発生した場合であっても、その空隙による部分放電を抑制することができる。
【0079】
なお、上記各実施形態では、含浸工程として、型21の内部にコイル本体91を収容した後、型21の内部にモールド樹脂92を注入するようにした。しかし、これに限られず、含浸工程は、例えば予めモールド樹脂が貯留された容器に、コイル本体91の全体を浸すようにしてもよい。
【0080】
また、上記各実施形態において、モールド樹脂92を収容部213内に注入する際には、収容部213内に注入されたモールド樹脂92によって押し出される空気を収容部213外に排出する必要がある。そのため、上記各実施形態では、含浸工程時の第1圧力調整処理によって調整される第1圧力P1を、大気圧よりも低い値に設定している。しかし、例えば上記第4実施形態及び第5実施形態のように、モールド樹脂92の注入後に第1圧力調整処理を実行するものにおいては、第1圧力P1を大気圧よりも大きい値に設定することもできる。この場合、圧力調整装置30は、減圧装置ではなく加圧装置とすることができる。
【0081】
また、圧力調整処理は、圧力調整装置30のみによって行うのではなく、樹脂供給装置40と圧力調整装置30との協働によって行うようにしてもよい。この場合、第1圧力P1を、大気圧Pt以上にすることができる。すなわち、例えば第1圧力P1を大気圧Pt以上に設定するとともに、樹脂供給装置40から吐出されるモールド樹脂92の吐出圧力を第1圧力P1以上にする。この場合、モールド樹脂92が収容部213内に注入されると、収容部213内の空気がモールド樹脂92によって圧縮される。すると、収容部213内の雰囲気圧力Pxが上昇して、第1圧力P1以上の圧力になろうとする。このとき、圧力調整装置30が収容部213内の空気を排気することで、収容部213内の雰囲気圧力Pxを第1圧力P1に維持するように調整される。これによれば、空隙93内の圧力を、大気圧Pt以上の圧力にすることができるため、更に効果的に空隙93における部分放電を抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
図面中、10はモールドコイルの製造システム、20は含浸装置、21は型(容器)、213は収容部、22は加熱装置、30は圧力調整装置、50は制御装置、90はモールドコイル、91はコイル本体、911は導体、912は層間絶縁紙(絶縁紙)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19