特許第6618752号(P6618752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6618752水硬性組成物用分散剤およびこれを含有する水硬性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618752
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】水硬性組成物用分散剤およびこれを含有する水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20191202BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20191202BHJP
   C04B 103/40 20060101ALN20191202BHJP
【FI】
   C04B24/26 E
   C04B28/02
   C04B24/26 B
   C04B24/26 F
   C04B24/26 H
   C04B103:40
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-194919(P2015-194919)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65989(P2017-65989A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】田村 純夫
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−511095(JP,A)
【文献】 特開2004−307590(JP,A)
【文献】 特開2001−220417(JP,A)
【文献】 特開2010−189200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 103/40
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体(I)に由来する構成単位、不飽和モノカルボン酸系単量体(II)に由来する構成単位、不飽和ジカルボン酸系単量体(III)に由来する構成単位、および、単量体(I)〜(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)に由来する構成単位を含み、各単量体の共重合時の重量比率が1≦(I)≦97、1≦(II)≦50、0.01≦(III)<1、0≦(IV)≦50であり、重量平均分子量がポリエチレングリコール換算で9,000〜30,000であるポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)ならびに、
下記一般式(2)で表される単量体(VI)に由来する構成単位と、前記単量体(II)に由来する構成単位と、単量体(VI)および(II)と共重合可能なその他の単量体(VII)に由来する構成単位とを含み、単量体(I)および(III)に由来する構成単位を含まない、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)および/または
前記単量体(I)に由来する構成単位と、前記単量体(II)に由来する構成単位とを含むか、又はさらに4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位アリル置換物である前記単量体(I)および(II)と共重合可能なその他の単量体(VIII)に由来する構成単位とを含む、単量体(III)と(VI)に由来する構成単位を含まない、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)
を含有する水硬性組成物用分散剤。
1−O−(A1O)n1−R2・・・(1)
(式中、R1は、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。A1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、70の数を表す。R2は、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【化1】
(式中、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。mは、0〜2の数を表す。A2Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200の数を表す。Xは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)の分子量分布(Mw/Mn)が、1.2以上である請求項1に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項3】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5,000〜60,000である請求項1または2に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項4】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5,000〜60,000である請求項1〜3のいずれか一項に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の水硬性組成物用分散剤を含む水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用分散剤およびこれを含有する水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの施工性ならびに耐久性を向上させるためには、コンクリート中の単位水量を減らすことが有効である。しかしながら、単位水量を減少させると、コンクリートの流動性が低下し、作業性を損なうことが知られている。そのため、単位水量を減少した際にも、コンクリートの効率的な作業性を確保するために、セメント粒子を分散させる働きを持つ様々な水硬性組成物用分散剤が使用されている。
【0003】
コンクリートを製造する際には、コンクリート材料を混練する速度が速いこと、混練後の流動性が高いこと、流動保持性が高いこと、硬化する速度が速いこと、コンクリート粘性の低減が求められる。
【0004】
硬化速度の改善には、ポリカルボン酸系共重合体中のアルキレンオキサイド鎖の長さを長くすることが有効であることが報告されている(特許文献1、2、3)。
【0005】
特許文献4には、流動性の低下が少なく、低粘性である、特定の構成単位を含むポリカルボン酸系共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−220417号公報
【特許文献2】特開2010−189200号公報
【特許文献3】特開2014−031296号公報
【特許文献4】特許第3819271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されている水硬性組成物用分散剤では、流動保持性、コンクリート粘性の点でまだ改善の余地があった。
【0008】
また、コンクリートの製造直後におけるコンクリート粘性とスランプ保持後のコンクリート粘性とを比較すると、スランプ保持後のコンクリート粘性が増大するという問題がある。特にスランプ保持後のコンクリート粘性の増大は、打設時に、コンクリートが十分に充填されず、コンクリート硬化体の強度を低下させる原因となり得る。
【0009】
本発明では上記の課題を解決すべく、凝結速度が速く、流動保持性能に優れ、しかも水硬性組成物とした場合に、該水硬性組成物の粘性の増加を抑制することができる水硬性組成物用分散剤およびこれを含有する水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、特定の炭素原子数のアルケニル基を有する構成単位と不飽和モノカルボン系の構成単位と不飽和ジカルボン酸系単量体に由来する構成単位とを含むポリカルボン酸系共重合体またはその塩を含む水硬性組成物用分散剤が、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔5〕である。
〔1〕下記一般式(1)で表される単量体(I)に由来する構成単位、不飽和モノカルボン酸系単量体(II)に由来する構成単位、不飽和ジカルボン酸系単量体(III)に由来する構成単位、および、単量体(I)〜(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)に由来する構成単位を含み、各単量体の共重合時の重量比率が1≦(I)≦97、1≦(II)≦50、0.01≦(III)<1、0≦(IV)≦50であるポリカルボン酸系共重合体またはその塩を含有する、水硬性組成物用分散剤。
1−O−(A1O)n1−R2・・・(1)
(式中、R1は、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。A1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200の数を表す。R2は、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
〔2〕単量体(I)が、一般式(1)中のn1が1以上100未満の数である上記〔1〕に記載の水硬性組成物用分散剤。
〔3〕ポリカルボン酸系共重合体またはその塩の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5,000〜30,000である〔1〕または〔2〕に記載の水硬性組成物用分散剤。
〔4〕下記一般式(2)で表される単量体(VI)に由来する構成単位と、前記単量体(II)に由来する構成単位と、単量体(VI)および(II)と共重合可能なその他の単量体(VII)に由来する構成単位とを含むポリカルボン酸系共重合体またはその塩および/または
前記単量体(I)に由来する構成単位と、前記単量体(II)に由来する構成単位と、前記単量体(I)および(II)と共重合可能なその他の単量体(VIII)とを含むポリカルボン酸系共重合体またはその塩を
さらに含有する〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の水硬性組成物用分散剤。
【化1】
(式中、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。mは、0〜2の数を表す。A2Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200の数を表す。Xは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の水硬性組成物用分散剤を含む水硬性組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、凝結速度が速く、流動保持性能に優れ、しかも水硬性組成物とした場合に、該水硬性組成物の粘性の増加を抑制することができる水硬性組成物用分散剤およびこれを含有する水硬性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、(A)成分を含有し、(B)および/または(C)成分をさらに含有してもよい。
【0014】
<(A)成分>
(A)成分は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)である。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、一般式(1)で表される単量体(I)(以下、単量体(I)ということがある。)に由来する構成単位と、不飽和モノカルボン酸系単量体(II)(以下、単量体(II)に由来する構成単位と、不飽和ジカルボン酸系単量体(III)(以下、単量体(III)に由来する構成単位とを含む。必要に応じてさらに、単量体(I)〜(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)(以下、単量体(IV)ということがある。)に由来する構成単位を含んでいてもよい。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、単量体(I)〜(III)に由来する各構成単位または単量体(I)〜(IV)に由来する各構成単位からなることが好ましい。
【0015】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)の、共重合時の各単量体の重量比率は、下記の通りである。
【0016】
単量体(I)の重量比率は、1≦(I)≦97であり、10≦(I)≦97が好ましく、20≦(I)≦97がより好ましい。
【0017】
単量体(II)の重量比率は、1≦(II)≦50であり、1≦(II)≦40が好ましく、1≦(II)≦30がより好ましい。
【0018】
単量体(III)の重量比率は、0.01≦(III)<1であり、0.05≦(III)<1が好ましく、0.1≦(III)<1がより好ましい。
【0019】
単量体(IV)の重量比率は、0≦(IV)≦50であり、0≦(IV)≦40が好ましく、0≦(IV)≦30がより好ましい。
【0020】
なお、上記重量比率は、単量体(I)の配合率+単量体(II)の重量比率+単量体(III)の重量比率+単量体(IV)の重量比率=100重量%としたときの重量比率である。
【0021】
以下、まず単量体(I)について説明する。
【0022】
単量体(I)は、下記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルである。
【0023】
1−O−(A1O)n1−R2・・・(1)
(式中、R1は、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。A1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200の数を表す。R2は、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0024】
一般式(1)中のR1は、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。該アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは3〜5である。R1としては、アリル基、メタリル基、3−メチル−3−ブテン−1−オールの残基等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0025】
一般式(1)中のA1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)、オキシブチレン基(ブチレングリコール単位)が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)が好ましい。
【0026】
上記「同一若しくは異なって」とは、一般式(1)中にA1Oが複数含まれる場合(n1が2以上の場合)、それぞれのA1Oが同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2以上の)オキシアルキレン基であってもよい、ことを意味する。一般式(1)中にA1Oが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)およびオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様、またはオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であることが好ましく、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様であることがより好ましい。異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。オキシエチレン基とオキシプロピレン基が混在する場合、オキシエチレン基とオキシプロピレン基の平均付加モル数の比率は、オキシエチレン基の平均付加モル数/オキシプロピレン基の平均付加モル数=50〜99.9%/50〜0.1%であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)中のn1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200の数を表す。n1は、200以下であり、150以下であることが好ましく、100未満であることが好ましい。下限は1以上であればよい。従って、1〜150であることが好ましく、1以上100未満であることがより好ましい。本明細書において、オキシアルキレン基の平均付加モル数とは、単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を意味する。
【0028】
一般式(1)中のR2は、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。炭素原子数が比較的小さい基であることにより水硬性組成物用分散剤のセメント分散性がより発揮され得ることから、R2は水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基であることがさらに好ましく、水素原子またはメチル基であることが最も好ましい。
【0029】
単量体(I)の製造方法としては、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1〜200モル付加する方法が挙げられる。
【0030】
単量体(I)としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノメタリルエーテル、および3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。単量体(I)としては、これらのうち1種若しくは2種以上を用いることができる。親水性および疎水性のバランスがよいので、単量体(I)は、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物、および3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイド付加物から選ばれるいずれか1種以上を含むことが好ましく、これらのいずれかであることが好ましく、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタリルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、ポリエチレングリコールモノメタリルエーテル、ポリエチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテルおよび3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイド付加物であることがより好ましい。単量体(I)のオキシアルキレン基(ポリアルキレングリコール単位)の平均付加モル数は、1〜70であることが好ましく、5〜70であることがより好ましく、8〜70であることが更に好ましい。なお、本明細書において「(ポリ)」は、その直後に記載される構成要素または原料が、1個または2個以上結合していることを意味する。
【0031】
単量体(I)は、一般式(1)で表される単量体単独であってもよいし、2以上の組み合わせであってもよい。
【0032】
次に、単量体(II)について説明する。単量体(II)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸類、およびこれらの塩(例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)を挙げることができる。単量体(II)は、これらのうちの1または2以上であればよい。単量体(II)は、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらのいずれかの塩からなる群より選ばれる1又は2以上を含むことが好ましく、斯かる群より選ばれる1又は2以上であることが好ましい。
アクリル酸およびメタクリル酸を併用する場合のこれらの比率(合計を100重量%とする)は、通常、アクリル酸/メタクリル酸が(0.1%〜99.9%)/(99.9%〜0.1%)であり、好ましくは(1%〜99%)/(99%〜1%)である。
【0033】
モノカルボン酸はモノマーとダイマーを含む混合物であることが好ましい。アクリル酸の場合、アクリル酸モノマーとダイマーの混合物であることが好ましい。両者の比率(合計を100重量%とする)は、アクリル酸モノマー/アクリル酸ダイマー=(90.0重量%〜100重量%)/(0重量%〜10重量%)であることが好ましい。
【0034】
続いて、単量体(III)について説明する。単量体(III)は、不飽和ジカルボン酸系単量体であり、例えば、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸類、これらの塩(例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)及び無水物を挙げることができる。単量体(III)は、これらのうちから選ばれる1または2以上であることが好ましく、マレイン酸、その塩および無水物を含むことがより好ましく、無水マレイン酸であることがさらに好ましい。
【0035】
さらに、単量体(IV)について説明する。単量体(IV)は、単量体(I)、(II)および(III)からなる群から選ばれる1または2以上の単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されない。なお、単量体(IV)は、単量体(I)〜(III)を含まない。
【0036】
単量体(IV)としては、下記のもの等を例示することができ、これらのうちの1または2以上を用いることが可能である;
【0037】
一般式(IV−1):
【化2】
で示されるジアリルビスフェノール類、例えば4,4’−ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位アリル置換物;
【0038】
一般式(IV−2):
【化3】
で示されるモノアリルビスフェノール類、例えば4,4’−ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3位アリル置換物;
【0039】
一般式(IV−3):
【化4】
で示されるアリルフェノール;
【0040】
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;
上記アルコールまたはアミンに、炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと、上記不飽和ジカルボン酸類との、ハーフエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコールまたはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;
マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコールまたはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
【0041】
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;
トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;
ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩;
メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;
1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;
ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;
【0042】
(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;
(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;
ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;
(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;
メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、等のビニルエーテルあるいはアリルエーテル類;および、
ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン−ビス−(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−メタクリレート)等のシロキサン誘導体。
【0043】
単量体(VI)は、単独であってもよいし、2以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
単量体(VI)は、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位アリル置換物を含むことが好ましく、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位アリル置換物であることが好ましい。
【0045】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、6,000以上であることがより好ましく、6,500以上であることが更に好ましく、9,000以上であることがとりわけ好ましい。これにより、水硬性組成物用分散剤のセメント分散性が十分発揮され、リグニンスルホン酸系またはオキシカルボン酸系などのAE減水剤を上回る減水率を得ることができ、流動性または作業性が改善され、水硬性組成物用分散剤としての目的の効果を十分に発現することができる。重量平均分子量の上限は、60,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが更に好ましい。これにより、セメント粒子の凝集作用が抑制され、作業性を良好にすることができる。重量平均分子量は、5,000〜60,000であることが好ましく、6,000〜50,000であることがより好ましく、9,000〜30,000であることがさらにより好ましい。
【0046】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.2以上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましい。上限は、3.0以下であることが好ましく、2.50以下であることがより好ましい。分子量分布は、1.2〜3.0の範囲であることが好ましい。
【0047】
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0048】
GPCの測定条件として特に限定はないが、例として以下の条件を挙げることができる。後段の実施例における重量平均分子量は、この条件で測定した値である。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH−pak SB−806HQ、SB−804HQ、SB−802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
検量線;ポリエチレングリコール基準
【0049】
(A)成分は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)単独であってもよいし、互いに異なるポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0050】
<(B)成分>
(B)成分は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)である。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)は、一般式(2)で表される単量体(VI)(以下、単量体(VI)ということがある。)に由来する構成単位と、単量体(II)に由来する構成単位とを含む。必要に応じてさらに、単量体(VI)および(II)と共重合可能なその他の単量体(VII)に由来する構成単位を含んでもよい。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)は、共重合体(VI)および(II)に由来する各構成単位、または単量体(VI)、(II)および(VII)に由来する各構成単位からなることが好ましい。(B)成分は、(A)および(C)成分とは区別される(例えば、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)は、単量体(I)および(III)に由来する構成単位を含まない)。
【0051】
単量体(VI)は、下記一般式(2)で表される。
【0052】
【化5】
(式中、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。mは、0〜2の数を表す。A2Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜200の数を表す。Xは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0053】
一般式(2)中のR3、R4およびR5は、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。
【0054】
一般式(2)中のA2Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)、オキシブチレン基(ブチレングリコール単位)が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)が好ましい。
【0055】
上記「同一若しくは異なって」とは、一般式(2)中にA2Oが複数含まれる場合(n2が2以上の場合)、それぞれのA2Oが同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2種類以上の)オキシアルキレン基であってもよい、ことを意味する。一般式(2)中にA2Oが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)およびオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様、またはオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であることが好ましく、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様であることがより好ましい。異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2種類以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。
【0056】
一般式(2)中のn2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、下限は1以上であり、5以上が好ましい。上限は、200以下であり、160以下であることが好ましい。従って、n2は、1〜200の数を表し、5〜200であることが好ましく、5〜160であることがより好ましい。
【0057】
単量体(VI)は、一般式(2)で表される単量体単独であってもよいし、2以上の組み合わせであってもよい。2以上の組み合わせは、オキシアルキレン基の平均付加モル数が異なる2種の単量体(VIa)および(VIb)(ただし、オキシアルキレン基の平均付加モル数をそれぞれn2a、n2bとした場合、n2a<n2bである。)を含むことが好ましく、斯かる組み合わせであることが好ましい。これにより、水硬性組成物に添加して長時間経過しても優れた流動性を発揮することができる。単量体(VIa)と単量体(VIb)とは互いに、オキシアルキレン基の平均付加モル数n2のみが異なり、R3、R4、R5、m、およびXが同一の単量体であってもよいし、n2に加えて、R3、R4、R5、m、およびXの少なくとも一つが異なる単量体であってもよい。n2aは、1〜20であることが好ましい。n2bは、21〜200であることが好ましく、21〜160であることがより好ましい。
【0058】
単量体(VI)が単量体(VIa)および(VIb)の組み合わせである場合、それぞれの重量比率(合計を100重量%とする)は、(VIa)/(VIb)が(0.1〜99.9)/(99.9〜0.1)であることが好ましく、(1〜99)/(99〜1)であることがより好ましく、(10〜90)/(90〜10)であることがさらに好ましく、(25〜75)/(75〜25)であることがとりわけ好ましい。
【0059】
一般式(2)中のXは、水素原子または炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。炭素原子数が大きくなると、水硬性組成物用分散剤のセメント分散性が十分発揮されないおそれがあるため、Xは水素または炭素原子数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基であることがさらに好ましく、水素原子またはメチル基であることが最も好ましい。
【0060】
単量体(VI)としては、例えば、(メタ)アクリレート(以下、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタアクリレート」を意味する)等の不飽和モノカルボン酸と、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールなどの(ポリ)アルキレングリコールとのエステル化物が挙げられる。また例えば、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレートなどの、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体(VI)は、これらのうち1若しくは2以上の組み合わせであってもよい。単量体(VI)は、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート)、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、ヒドロキシエチルアクリレート)、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート)およびメトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートのうち少なくとも1つ又はこれらから選ばれる2以上の組み合わせを含むことがより好ましい。(ポリ)アルキレングリコールの平均付加モル数は1〜50であることが好ましい。単量体(VIa)が(ポリ)アルキレングリコールである場合、単量体(VIa)としての(ポリ)アルキレングリコールの付加モル数は、1〜20であることが好ましい。単量体(VIb)が(ポリ)アルキレングリコールである場合、単量体(IIb)としての(ポリ)アルキレングリコールの付加モル数は、21〜200であることが好ましく、21〜160であることがより好ましい。
【0061】
次に、単量体(II)について説明する。単量体(II)の例および好ましい例は、(A)成分にて先に説明した単量体(II)の例および好ましい例と同じである。
【0062】
続いて、単量体(VII)について説明する。単量体(VII)は、単量体(VI)および(II)からなる群より選ばれる1または2以上の単量体と共重合可能であれば特に限定されない。単量体(VII)の例および好ましい例は、先に説明した単量体(IV)の例および好ましい例と同様である。
【0063】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)を得る際の、共重合時の重合体の重合比率は、以下のとおりである。共重合の際には通常、単量体の一部が共重合せずに反応系に残るため、ポリカルボン酸系共重合体における各構成単位の比率を特定することは困難である。
【0064】
単量体(VI)の重量比率は、1≦(VI)≦97が好ましく、10≦(VI)≦97がより好ましく、20≦(VI)≦97がさらに好ましい。
【0065】
単量体(II)の重量比率は、1≦(II)≦50が好ましく、1≦(II)≦40がより好ましく、1≦(II)≦30がさらに好ましい。
【0066】
単量体(VII)の重量比率は、0≦(VII)≦50が好ましく、0≦(VII)≦40がより好ましく、0≦(VII)≦30がさらに好ましい。
【0067】
なお、上記重量比率は、単量体(VI)の重量比率+単量体(II)の重量比率+単量体(VII)の重量比率=100重量%としたときの重量比率である。
【0068】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、6,000以上であることがより好ましい。上限は、60,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがより好ましい。従って、5,000〜60,000であることが好ましく、6,000〜50,000であることがより好ましい。
【0069】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)の分子量分布(Mw/Mn)は1.2以上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましい。上限は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。従って分子量分布は、1.2〜3.0の範囲であることが好ましく、1.25〜2.5であることがより好ましい。
【0070】
(B)成分は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)単独であってもよいし、互いに異なるポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0071】
(B)成分を含有することにより、本発明の水硬性組成物用分散剤は、より良好なスランプ保持性を発揮することができる。
【0072】
本発明の水硬性組成物用分散剤が(B)成分を含有する場合、その含有割合は、(A)成分に対して1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。上限は、99重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましく、90重量%以下であることがさらに好ましい。従って、1重量%〜99重量%であることが好ましく、5重量%〜95重量%であることがより好ましく、10重量%〜90重量%であることが更に好ましい。
【0073】
<(C)成分>
(C)成分は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)である。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)は、単量体(I)に由来する構成単位と、単量体(II)に由来する構成単位とを含む。必要に応じてさらに、単量体(I)および単量体(II)と共重合可能なその他の単量体(VIII)に由来する構成単位を含んでもよい。(C)成分は、(A)および(B)成分とは区別される(例えば、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)は、単量体(III)および(VI)に由来する構成単位を含まない)。
単量体(I)および(II)について説明する。単量体(I)の例および好ましい例は、(A)成分にて先に説明した単量体(I)の例および好ましい例と同じである。単量体(II)の例および好ましい例は、先に説明した単量体(II)の例および好ましい例と同じである。
【0074】
単量体(VIII)は、単量体(I)および(II)からなる群より選ばれる1または2以上の単量体と共重合可能であればよい。単量体(VIII)の例および好ましい例は、先に説明した単量体(IV)の例および好ましい例と同様である。
【0075】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)を得る際の、共重合時の各共重合体の重合比率は、下記のとおりである。共重合の際には通常、単量体の一部が共重合せずに反応系に残るため、ポリカルボン酸系共重合体における各構成単位の比率を特定することは困難である。
【0076】
単量体(I)の重量比率は、1≦(I)≦97が好ましく、10≦(I)≦97がより好ましく、20≦(I)≦97がさらに好ましい。
【0077】
単量体(II)の重量比率は、1≦(II)≦50が好ましく、1≦(II)≦40がより好ましく、1≦(II)≦30がさらに好ましい。
【0078】
単量体(VIII)の重量比率は、0≦(VIII)≦50が好ましく、0≦(VIII)≦40がより好ましく、0≦(VIII)≦30がさらに好ましい。
【0079】
なお、上記重量比率は、単量体(I)の重量比率+単量体(II)の重量比率+単量体(VIII)の重量比率=100重量%としたときの重量比率である。
【0080】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、6,000以上であることがより好ましく、6,500以上であることがさらに好ましい。上限は、60,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。これにより、セメント粒子の凝集作用が抑制され、作業性を良好にすることができる。従って、5,000〜60,000であることが好ましく、6,000〜50,000であることがより好ましい。
【0081】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.2以上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましい。上限は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。従って、1.2〜3.0の範囲であることが好ましく、1.25〜2.5であることがより好ましい。
【0082】
(C)成分は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)単独であってもよいし、互いに異なるポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0083】
(C)成分を含有することにより、本発明の水硬性組成物用分散剤は、より良好なスランプ保持性を得ることができる。
【0084】
本発明の水硬性組成物用分散剤が(C)成分を含有する場合、その含有割合は、(A)成分に対して1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。上限は、99重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましく、90重量%以下であることがさらに好ましい。従って、1重量%〜99重量%であることが好ましく、5重量%〜95重量%であることがより好ましく、10重量%〜90重量%であることが更に好ましい。
【0085】
水硬性組成物用分散剤に含まれる成分(A)、(B)および(C)を構成する各単量体(I)〜(VIII)は、それぞれ独立であり、成分(A)〜(C)の区別がつけば、各単量体は同じであってもよいし別個であってもよい。
【0086】
<ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)〜(C)における塩>
成分(A)におけるポリカルボン酸系共重合体の塩としては例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられる。
【0087】
<ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)〜(C)の製造方法>
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)〜(C)は、それぞれの所定の単量体を、共重合させて製造することができる。共重合の方法は限定されないが、例えば、溶媒中での重合、塊状重合などの重合方法が挙げられる。
【0088】
溶媒中での共重合において使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。原料単量体および得られる共重合体の溶解性の面から、水および低級アルコールからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、その中でも水を用いることがより好ましい。
【0089】
溶媒中で共重合を行う場合は、各単量体と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下してもよいし、各単量体の混合物と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下してもよい。また、反応容器に溶媒を仕込み、単量体と溶媒の混合物と、重合開始剤溶液を各々反応容器に連続滴下してもよいし、単量体の一部または全部を反応容器に仕込み、重合開始剤を連続滴下してもよい。
【0090】
溶媒中で共重合を行う場合は、各単量体を予め反応を行う容器の前段に設置された、前記反応容器とは異なる容器で混合してから、反応容器に連続滴下することが好ましい。
【0091】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)〜(C)は、共重合反応終了後、反応溶媒等を含んだそのままの状態で水硬性組成物に含有されていてもよいし、さらになんらかの処理を行った状態で含有されていてもよい。処理として、例えば、反応溶媒の除去、濃縮または希釈などによる濃度の調整、精製、pH調整が挙げられる。反応終了後は、反応容器の後段に設置された容器にて濃度調整、および/またはpH調整を行うことが好ましい。濃度調製の方法に特に限定はないが、例えば、濃縮、加水による希釈により行ってよい。pH調整については後述する。
【0092】
共重合に使用し得る重合開始剤は、水溶媒中で共重合を行う際には例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの水溶性有機過酸化物が挙げられる。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩などの促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル類あるいはケトン類等の溶媒中で共重合を行う際には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどのパーオキサイド;クメンパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリルなどの芳香族アゾ化合物などが重合開始剤として使用できる。この際、アミン化合物などの促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤中で共重合を行う場合には、前述の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して使用することができる。重合温度は、用いる溶媒、重合開始剤の種類等重合条件によって適宜異なるが、通常50〜120℃の範囲で行われる。
【0093】
共重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いて分子量を調整してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、および、2−メルカプトエタンスルホン酸などの既知のチオール系化合物:亜リン酸、次亜リン酸、およびその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、およびその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物およびその塩;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2以上を併用してもよい。
【0094】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)〜(C)は、それぞれ上記した単量体に加え、さらに連鎖移動性の高い単量体(V)を含んでいてもよいい。これにより、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)〜(C)の分子量を調整することができる。単量体(V)としては、例えば(メタ)アリルスルホン酸(塩)系単量体が挙げられる。単量体(V)の重量比率は、通常は20重量%以下であり、10重量%以下であることが好ましい。
【0095】
なお、上記重量比率は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)については、単量体(I)の重量比率+単量体(II)の重量比率+単量体(III)の重量比率+単量体(IV)の重量比率=100重量%としたときの重量比率である。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(B)については、単量体(VI)の重量比率+単量体(II)の重量比率+単量体(VII)の重量比率=100重量%としたときの重量比率である。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(C)については、単量体(I)の重量比率+単量体(II)の重量比率+単量体(VIII)の重量比率=100重量%としたときの重量比率である。
【0096】
水溶媒中での共重合の場合、重合時のpHは通常不飽和結合を有する単量体の影響で強酸性となるが、これを適当なpHに調整してもよい。重合の際にpHの調整が必要な場合は、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸などの酸性物質を用いてpHの調整を行うことができる。これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等から、リン酸を用いることが好ましい。しかし、エステル系の単量体が有するエステル結合の不安定さを解消するためには、pH2〜7で重合を行うことが好ましい。また、pHの調整に用い得るアルカリ性物質に特に限定はないが、NaOH、Ca(OH)2などのアルカリ性物質が一般的である。pH調整は、重合前の単量体に対して行ってもよいし、重合後の共重合体溶液に対して行ってもよい。また、これらは重合前に一部のアルカリ性物質を添加して重合を行った後、さらに共重合体に対してpH調整を行ってもよい。
【0097】
<分散剤の使用形態(剤型)および用途>
本発明の水硬性組成物用分散剤において、(A)成分の含有形態に制限はなく、(A)成分をそのまま含んでいてもよいし、(A)成分を、溶媒に溶解させた溶液、分散させた分散液、懸濁させた懸濁液として配合されていてもよい。また、必要に応じて含まれる(B)および(C)成分の含有形態にも制限はなく、(A)成分の溶液、分散液または懸濁液に含まれていてもよい。分散液は、他の水硬性組成物用分散剤をあわせて含んでいてもよい。本発明の水硬性組成物用分散剤が(B)および/または(C)成分を含む場合、(A)成分の溶液、分散液または懸濁液と、(B)および/または(C)成分を溶媒に溶解させた溶液、分散させた分散液、懸濁させた懸濁液とを別途に調製し、これらを配合して水硬性組成物用分散剤を調製してもよい。
【0098】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、水溶液の形態、あるいは乾燥させて粉体化した形態で使用することが可能である。尚、水硬性組成物用分散剤を水硬性組成物に添加する時期は特に制限されず、例えば、水硬性組成物の使用時でもよい。また、水硬性組成物を構成する水以外の成分(例えば、セメント粉末、ドライモルタル)に、粉体化した形態の本発明の水硬性組成物用分散剤を予め混合しておいて、左官、床仕上げ、グラウト等の際に水を添加して用いるプレミックス製品として用いることもできる。
【0099】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、セメント等の水硬性材料に添加してセメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等の水硬性組成物として利用することができる。
【0100】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物用分散剤を含有すればよく、組み合わせる水硬性材料は特に限定されない。水硬性材料としては、例えば、セメント、石膏(半水石膏、二水石膏など)、ドロマイトが例示される。最も一般的な水硬性材料はセメントである。
【0101】
セメントは、特に限定されないが、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられる。セメントには、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体、石膏などが添加されていてもよい。
【0102】
また、水硬性組成物は骨材を含んでいてもよい。骨材は、細骨材および粗骨材のいずれであってもよい。骨材としては、例えば、砂、砂利、砕石;水砕スラグ;再生骨材等;珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が挙げられる。
【0103】
上記水硬性組成物における上記水硬性組成物用分散剤の配合割合については、特に限定はない。例えば、水硬性組成物が、モルタルまたはコンクリートである場合には、水硬性組成物用分散剤に含まれる(A)成分の添加量(配合量)は、セメントの全重量に対して、通常は0.01〜5.0重量%、好ましくは0.02〜2.0重量%、より好ましくは0.05〜1.0重量%である。この添加量とすることにより、得られる水硬性組成物には、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。上記配合割合が0.01重量%未満では、得られる水硬性組成物が性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に5.0重量%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。
【0104】
上記の水硬性組成物は、例えば、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等のコンクリートとして有効である。さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルまたはコンクリート、としても有効である。
【0105】
本発明の水硬性組成物は、他のセメント水硬性組成物用分散剤、水溶性高分子、高分子エマルジョン、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤、AE剤、その他の界面活性剤などの公知のコンクリート用添加剤から選ばれる1又は2以上を含んでいてもよい。
【0106】
他のセメント水硬性組成物用分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸塩等のスルホン酸系水硬性組成物用分散剤(S)が挙げられる。スルホン酸系水硬性組成物用分散剤(S)の含有率は、本発明の(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計量に対して、0.01重量%〜50重量%であることが好ましい。なお、本明細書において、「(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計量」という場合、(A)成分、(B)成分、および(C)成分のすべてが本発明の水硬性組成物用分散剤に含まれている場合の合計量を意味するだけではなく、(B)成分および(C)成分のいずれかが本発明の水硬性組成物用分散剤に含まれない場合であって、含まれない成分の重量を0として計算した場合の合計量をも意味する。
【0107】
水溶性高分子(P)としては、例えば、ポリアルキレングリコール、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリブチレングリコール等が挙げられる。水溶性高分子(P)の含有率は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計量に対して、0.01重量%〜50重量%であることが好ましい。
【0108】
遅延剤としては、例えば、グルコン酸(塩)、クエン酸(塩)等のオキシカルボン酸類、グルコース等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール類(G)が挙げられる。糖アルコール類(G)の含有率は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計量に対して、0.01重量%〜50重量%であることが好ましい。
【0109】
硬化促進剤としては、例えば、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類(K)が挙げられる。硬化促進剤(K)の含有率は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計量に対して、0.01重量%〜50重量%であることが好ましい。
【0110】
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、公知のセルロースナノファイバー、公知のセルロースナノクリスタル(Z)が挙げられる。増粘剤(Z)の含有率は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計量に対して、0.01重量%〜50重量%であることが好ましい。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中特に断りの無い限り%は重量%を、また、部は重量部を示す。
【0112】
<(A)成分>
<製造例1>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水760部、および、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数38、プロピレンオキサイドの平均付加モル数1、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加)1770部、無水マレイン酸16部を仕込み、攪拌下で反応容器90℃に昇温した。その後、アクリル酸(モノマー/ダイマー=99重量%/1重量%)214部、次亜リン酸ナトリウム10部、水1380部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム15部および水485部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は、共重合体(A−1)(重量平均分子量14,000、Mw/Mn1.7)であった。
【0113】
<製造例2>
製造例1において、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアリルエーテルをポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数39、プロピレンオキサイドの平均付加モル数1、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加)にした以外は、製造例1と同様とした。液中の共重合体は共重合体(A−2)(重量平均分子量16,000、Mw/Mn1.7)であった。
【0114】
<製造例3>
製造例1において、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアリルエーテルを3−メチル−3−ブテン−1−オールのポリエチレングリコールポリプロピレングリコール付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数39、プロピレンオキサイドの平均付加モル数1、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加)にした以外は、製造例1と同様とした。液中の共重合体は共重合体(A−3)(重量平均分子量16,500、Mw/Mn1.7)であった。
【0115】
<製造例4>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水760部、および、ポリエチレングリコールモノメタリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数55)1440部、無水マレイン酸16部を仕込み、攪拌下で反応容器90℃に昇温した。その後、アクリル酸(モノマー/ダイマー=99重量%/1重量%)170部、3−メルカプトプロピオン酸10部、水530部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム12部および水488部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は、共重合体(A−4)(重量平均分子量20,000、Mw/Mn1.8)であった。
【0116】
<製造例5>
製造例4において、ポリエチレングリコールモノメタリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数55)を3−メチル−3−ブテン−1−オールのポリエチレングリコール付加物にした以外は、製造例4と同様とした。液中の共重合体は共重合体(A−5)(重量平均分子量21,000、Mw/Mn1.8)であった。
【0117】
<(B)および(C)成分>
<製造例6>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水2631部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数10)806部、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位をアリル置換した化合物3部、メタクリル酸98部、および水893部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸ナトリウム17部および水283部の混合液を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は共重合体(B−1)(重量平均分子量17,000、Mw/Mn1.6)であった。
【0118】
<製造例7>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水2631部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数20)806部、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位をアリル置換した化合物3部、メタクリル酸98部、および水893部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸ナトリウム17部および水283部の混合液を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は共重合体(B−2)(重量平均分子量19,000、Mw/Mn1.6)であった。
【0119】
<製造例8>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水148部、および、ポリエチレングリコールモノメタリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数40)513部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。その後、アクリル酸(モノマー/ダイマー=99重量%/1重量%)60部、30%NaOH水溶液1部、および水288部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム7部および水113部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は共重合体(C−1)(重量平均分子量18,000、Mw/Mn1.7)であった。
【0120】
<製造例9>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水501部、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数30)500部、ならびに、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位をアリル置換した化合物2部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。その後、アクリル酸(モノマー/ダイマー=99重量%/1重量%)135部および水501部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム12部および水188部の混合液とを、各々1時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は共重合体(C−2)(重量平均分子量20,200、Mw/Mn1.7)であった。
【0121】
<製造例10>
製造例1において、無水マレイン酸を使用しない以外は、製造例1と同様とした。液中の共重合体は、共重合体(Q−1)(重量平均分子量14,500、Mw/Mn1.7)であった。
【0122】
<製造例11>
製造例2において、無水マレイン酸を使用しない以外は、製造例2と同様とした。液中の共重合体は、共重合体(Q−2)(重量平均分子量16,000、Mw/Mn1.7)であった。
【0123】
<製造例12>
製造例3において、無水マレイン酸を使用しない以外は、製造例3と同様とした。液中の共重合体は、共重合体(Q−3)(重量平均分子量16,500、Mw/Mn1.7)であった。
【0124】
<製造例13>
製造例4において、無水マレイン酸を使用しない以外は、製造例4と同様とした。液中の共重合体は、共重合体(Q−4)(重量平均分子量20,000、Mw/Mn1.8)であった。
【0125】
<製造例14>
製造例5において、無水マレイン酸を使用しない以外は、製造例5と同様とした。液中の共重合体は、共重合体(Q−5)(重量平均分子量21,000、Mw/Mn1.8)であった。
【0126】
<実施例1〜11および比較例1〜5>
環境温度(20℃)において、表1のように配合した細骨材、セメント、水および表2に示す水硬性組成物用分散剤を投入して、モルタルミキサによる機械練りにより120秒間練混ぜた(水硬性組成物用分散剤は水に混合させて投入した)。各モルタルのモルタルフロー、J14ロート流下時間、簡易断熱温度変化試験における最高温度到達時間を評価した。
【0127】
〔モルタルフロー値の測定〕
底面の直径20cm、上面の直径10cm、高さ30cmの中空円筒のミニスランプコーンに上記のモルタルを詰め、ミニスランプコーンを垂直に持ち上げた際のテーブルに広がったモルタルの2方向の直径の平均値をモルタルフロー値とした。スランプ保持性の評価は、所定時間経過後に上記操作を繰り返しモルタルフローの経時変化を求めた。経時変化後のモルタルフロー値が高いほど、混和剤のスランプ保持性が良好であると評価される。
【0128】
〔粘性の評価基準:J14ロート流下時間の測定〕
上端70mm、下端14mm、高さ392mmの円筒状のJ14ロートに、モルタルフロー値が230mmのモルタルをすり切りまで充填し、モルタルがJ14ロートを流れ落ちるまでの時間を測定した。J14ロート流下時間は、短い方が、モルタルの粘性が低いと評価される。
【0129】
〔凝結速度の評価基準:簡易断熱温度の測定〕
直径6.5cm、高さ6.5cmのプラスチック製のカップに練り混ぜ後のモルタルを投入し、20cm×20cm×20cmの断熱容器内に設置する。断熱容器内のモルタルに熱電対を差し込み、外部記録装置にて連続的に温度を測定した。モルタルの混練開始時を0分として、温度履歴から最高温度到達時間を読み取り、最高温度到達時間とした。最高温度到達時間が短い方が、凝結時間が早いと評価される。
【0130】
結果を表2〜3に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
C:以下のセメント3種を等重量混合
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、比重3.16)
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、比重3.16)
普通ポルトランドセメント(株式会社トクヤマ製、比重3.16)
W:水道水
S:静岡県掛川産陸砂(細骨材、比重2.57)
水硬性組成物用分散剤(固形分換算) 表2参照
【0133】
【表2】
【0134】
表2中、括弧内の数値は、A成分に対する重量%である。
【0135】
【表3】
【0136】
表3中、水硬性組成物用分散剤の「添加率」は、セメントに対する混和剤の固形分添加率を示す。また、SLFはスランプフローをそれぞれ示す。
【0137】
表3から明らかなように、各実施例のモルタルは、各比較例のモルタルと比較して、時間経過後のJ14ロート流下時間が速く、最高温度到達時間が早く、流動保持性能にも問題がないことが分かる。これらの結果は、本発明の水硬性組成物用分散剤が、時間経過後の水硬性組成物の粘性増加を抑制することができ、しかも、凝結速度を速めることができ、しかも優れた流動保持性能を有し得ることを示すものである。