(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618880
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】刃物研ぎ器
(51)【国際特許分類】
B24B 3/36 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
B24B3/36 A
B24B3/36 M
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-204791(P2016-204791)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2018-65215(P2018-65215A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】591128970
【氏名又は名称】プリンス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084102
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】高野 信雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 宏仁
【審査官】
山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−093443(JP,U)
【文献】
実開平04−070456(JP,U)
【文献】
実開昭58−128855(JP,U)
【文献】
特開2008−260095(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3087779(JP,U)
【文献】
特開平03−142153(JP,A)
【文献】
特開2005−138222(JP,A)
【文献】
特開平10−180598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/36 − 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥面及び砥面両側外方に脚ガイド部を備えた砥石本体と、脚ガイド部に添って移動可能に設けた脚部、及び脚部間に砥面上から所定の高さに浮いた状態で架設した刃体支持部を備えた移動刃物台で構成される刃物研ぎ器であって、脚ガイド部をレールに形成し、脚部下端に前記レール上を走行する車輪を設けると共に、前記車輪をレールから浮かし且つ刃体支持部の刃体支持位置を高くする上方位置へ付勢する付勢上昇機構を脚部に付設し、上昇時に前記車輪の上方部分が当接する上方レールを設けてなることを特徴とする刃物研ぎ器。
【請求項2】
刃体支持部が、刃体載置面部と、前記刃体載置面部の後縁部側から延設して刃体載置面部と対面して研ぎ対象の刃体の上方離脱を阻止する刃体抑え部とを備え、前記刃体抑え部を刃体載置面部との先端対面箇所が研ぎ対象の刃体厚さに対応した狭小箇所に形成し、前記狭小間隙より厚みを有する刃体に対して開拡可能で且つ開拡に対応して弾性を備えるクリップ形状に形成してなる請求項1記載の刃物研ぎ器。
【請求項3】
刃体抑え部を板状に形成し、先端適宜位置に点状磁石部若しくは滑り止め部材を設けてなる請求項2記載の刃物研ぎ器。
【請求項4】
刃体支持部における刃体載置面部の前縁を研ぎ方向に対して斜辺に形成すると共に、刃体載置面自体も前記斜辺に対応する傾斜面に形成してなる請求項2又は3記載の刃物研ぎ器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包丁等の刃物の刃を手動で研磨する刃物研ぎ器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包丁等の刃物の刃体を平砥石の砥面上を滑らすようにして刃先を研磨する場合、刃先角度を砥面に対して一定に維持しながら行う必要がある。この角度保持手段として砥石両側外方に位置させる脚部と、脚部間に砥面上から所定の高さに浮いた状態で架設した刃物支持部で構成するコの字状の移動刃物台を、砥石と砥石台で構成される砥石本体に付設した器具が知られている。
【0003】
前記器具は、刃物支持部に刃物の刃体を載置して、刃体と砥面の角度を一定に維持した状態で、移動刃物台と共に刃体を往復移動させることで刃先研磨(研ぎ)を行うものである。特に移動刃物台が往復移動時に横方向にぶれない様に、脚部の下端に車輪を設けると共に砥石台にガイドレールを設け(特許文献1,2)、或いは脚部が嵌合するガイド溝を設けている(特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭54―72793号公報。
【特許文献2】特開2005−138222号公報。
【特許文献3】実開昭59−183743号公報。
【特許文献4】実開昭61−127973号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで包丁などの刃先研磨作業(研ぎ作業)において、刃先を砥面に当接して一定角度を維持して砥面上を往復運動させているが、往復時の押し引きの力加減に微妙な相違があるために、
図8(ロ)左側の刃先図に示すように、刃先が僅かに丸く砥がれてしまい、研ぎ上がりの刃物の切れ味に問題がある。従って研ぎ作業は
図8(イ)に示すように一方向でのみで研磨するのが好ましい。
【0006】
しかし前記した移動刃物台を採用して一方向研磨を行うには、非常に煩瑣な動作が要求される。即ち研磨動作時(研ぎ動作時)は、手で刃物(包丁)を保持し、移動刃物台の載置台に刃体を押し付けて刃先縁を砥面に押圧しながら移動刃物台とともに研ぎを行うが、戻りの復帰動作には、非研磨動作が要求される。このため復帰動作時に刃先縁を砥面上から浮かせなければならなく、手に持った刃物を持ち上げると、移動刃物台から刃体の載置が解除されて移動刃物台の復帰動作ができなくなり、刃体と移動刃物台に何らかの関わりを持たせて刃物と一緒に移動刃物体の復帰動作を行う必要があるが、連続する往復動作において前記の微妙な操作は煩瑣であり、実際の研ぎ作業では容易に実現できない。
【0007】
そこで本発明は、移動刃物台を採用した研ぎ器において、一方向研ぎを容易に実現できる新規な刃物研ぎ器を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載に係る刃物研ぎ器は、砥面及び砥面両側外方に脚ガイド部を備えた砥石本体と、脚ガイド部に添って移動可能に設けた脚部、及び脚部間に砥面上から所定の高さに浮いた状態で架設した刃体支持部を備えた移動刃物台で構成される刃物研ぎ器であって、脚ガイド部をレールに形成し、脚部下端に前記レール上を走行する車輪を設けると共に、前記車輪をレールから浮かし且つ刃体支持部の刃体支持位置を高くする上方位置へ付勢する付勢上昇機構を脚部に付設し、上昇時に前記車輪の上方部分が当接する上方レールを設けてなることを特徴とするものである。
【0009】
而して研ぎ対象の刃物(例えば庖丁)の刃体を刃体支持部に位置させて、移動刃物台の往復動作で刃体の刃先縁を砥面に当てながら摺動させるものであるが、移動刃物台に付勢上昇機構を設けているので、刃物で刃体支持部を下圧して刃先縁を砥面に当て、一方向に動作させた後(研ぎ動作後)、刃物による刃体支持部の下圧を減じて刃先縁を砥面から浮かせても刃体は刃体支持体で持ち上げられた状態となるので、そのまま元の位置に戻すと(復帰動作)、刃物と一緒に移動刃物台が研磨開始位置に戻り、再度研磨動作を行う。従って刃物に対する僅かな力加減で容易に一方向研磨を実現できるものである。
【0010】
また特に脚部に付勢上昇機構を脚部に設けてなるもので、付勢上昇機構は例えば刃体支持部を付勢部材が介在した二重構造として実現することも可能であるが、刃体支持部に刃体支持のための多機能性を求めた場合に刃体支持部の構造が複雑になり製造上の煩瑣が生ずるが、脚部に付勢上昇機構を設ける場合は、脚部自体の伸縮構造、或いは脚下端と脚ガイド面との間に付勢伸縮機構を介装するという簡易な構成で実現することができる。
【0011】
更に脚ガイド部をレールに形成し、脚部下端に前記レール上を走行する車輪を設けると共に、前記車輪をレールから浮かす付勢上昇機構部を脚部に付設し、上昇時に前記車輪の上方部分が当接する上方レールを設けてなるものであるから、付勢上昇機構による刃体支持部の浮き上がり高さが抑えられると共に、移動刃物台の復帰動作がスムーズになされる。
【0012】
本発明の請求項2記載に係る刃物研ぎ器は、刃体支持部が、刃体載置面部と、前記刃体載置面部の後縁部側から延設して刃体載置面部と対面して研ぎ対象の刃体の上方離脱を阻止する刃体抑え部とを備え、前記刃体抑え部を刃体載置面部との先端対面箇所が研ぎ対象の刃体厚さに対応した狭小箇所に形成し、前記狭小間隙より厚みを有する刃体に対して開拡可能で且つ開拡に対応して弾性を備えるクリップ形状に形成してなるものである。
【0013】
従って研ぎ作業は、刃体を刃体載置面部と刃体抑え部の間に差し入れて行うもので、前記刃体抑え部を刃体載置面部に対してクリップ形状に設けたもので、狭小対面箇所を備えることによって復帰動作時の移動刃物体との関わり(復帰動作時の同時移動)が確実になり、且つ刃体抑え部の上面から刃体を刃体載置面部に押しつけることができ、カーブしている様な刃体の刃元から刃先まで何れの箇所にも対応できる。更に厚みのある刃体に対しても対応できる。
【0014】
本発明の請求項3記載に係る刃物研ぎ器は、刃体抑え部を板状に形成し、先端適宜位置に点状磁石部若しくは滑り止め部材を設けてなるもので、刃体と移動刃物台との関わりが確実となり刃体の安定保持機能が高められる。
【0015】
本発明の請求項4記載に係る刃物研ぎ器は、刃体支持部における刃体載置面部の前縁を研ぎ方向に対して斜辺に形成すると共に、刃体載置面自体も前記斜辺に対応する傾斜面に形成してなるもので、刃体を斜交状態として研ぎを行えるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成は上記のとおりで、移動刃物台に付勢上昇機構を設け、或いは刃体支持部を刃体載置面部及びこれと対面する刃体抑え部の具備したもので、研ぎ作業に際して刃物の下圧加減で移動刃物台と共に往復動作するに際して、刃先の砥面への当接の有無を選択できるので、簡単に一方向研ぎを実現でき、最適な仕上がりを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図8】同刃先の研ぎ状態の説明図で(イ)は本発明(ロ)は従来例を示す。
【
図10】同刃体先部の研ぎ操作の場合の使用状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態について説明する。
図1乃至10は第一実施例の構成及びその使用状態を示すもので、その基本構成は、砥石本体Aと移動刃物台Bで構成されるものである。
【0019】
砥石本体Aは、全体が左右側面を備えた下方開口コの字状の本体1と、本体1の上面の全体に貼設したマグネットシート2と、マグネットシート2上に設けた砥石板(ダイヤモンドシャープナー)3で形成される。
【0020】
特に本体1の側面には後述する車輪が走行するための脚ガイド部11を設ける。この脚ガイド部11は、本体1の側面に凹部12を形成すると共に、前記凹部12の下縁全長に下方レール13を設け、上縁全長に上方レール14を設けてなるものである。また凹部12の基端(本体1の基端)に前記凹部12を塞ぐ方向にストッパー部15を突設したものである。
【0021】
移動刃物台Bは、砥石本体Aを跨る構成としたもので、本体1の左右側面に位置することになる脚部4と脚部4の上端間に設けた刃体支持部5で構成され、脚部4には、前記下方レール13上を走行すると共に、上下レール13,14間の距離よりも短径の車輪41a,41bを前後に軸装し、更に上昇付勢機構6を付設したものである。
【0022】
刃体支持部5は、脚部4と連続する金属板で形成される刃体載置面部51と、前記刃体載置面部51の後縁部側から延設して刃体載置面部51と対面する刃体抑え部52で構成され、刃体載置面部51は砥石板3の砥面に対して研磨角度θと対応する傾斜面としてなる。また刃体抑え部52は、板状で刃体載置面部51との先端が狭小間隙となるU状の面クリップ形状(拡開に対して対応できる弾性を備える形状)となるように形成し、また先端の適宜位置に点状磁石部53を設けてなる。
【0023】
上昇付勢機構6は、脚部4の下方位置の前後車輪41a,41bに切り起こしの突板部61を設け、当該突板部61に湾曲板バネ体62を設けて形成されたものである。
【0024】
特に湾曲板バネ体62が下方レール13に当接状態では、車輪41a,41bを下方レール13から持ち上げて上方レール14と当接させ、移動刃物台B全体を下圧すると車輪41a,41bが下方レール13と当接するように、湾曲板バネ体62の位置を設定するものである。
【0025】
而して包丁(刃物)Cを研ぐ場合は、包丁Cの刃体01を刃体載置面部51と刃体抑え部52間に差し入れて、刃先縁02が刃体載置面部51の前縁と略平行で且つ適宜突出するように保持させ、当該状態で包丁Cの刃体01の先方と柄部03を手で保持して移動刃物台Bを前後に操作して研ぎ作業を行う。
【0026】
この時の作業における往復動作において、手前に引き戻すときに下圧を加えて刃先縁02を砥面31に押し付けて刃先研磨(研ぎ動作)を行い(
図5イ,
図6イ)、手前側から砥石3の前方位置に移動させる際には、下圧力を減じて刃先縁02を砥面31から浮かせた状態で行う(復帰動作)。即ち下圧力を減ずると付勢上昇機構6によって刃体支持部5が浮き上がり、それとともに包丁C自体も浮き上がりそのまま手前に引き戻し、研ぎ動作開始位置に復帰させる。特に刃体01は刃体載置面部51に載置状態であるか、或いは刃体抑え部52に当接しているので、前記の復帰動作は必ずは移動刃物台Bと包丁Cが一緒に動作することになる。
【0027】
従って往復動作を下圧状態と下圧を減じての状態を繰り返す動作とすることで、刃先縁02の研磨は移動刃物台Bを手前に引き寄せる際のみの一方向となり、刃先縁02の鈍くなる(丸くなる)研磨を防ぐことになる。勿論前方へ押し出す動作に際して下圧して研磨し、手前に引き戻す際に下圧を減ずる状態で研ぎ作業を行っても良い。
【0028】
特に前記の下圧移動及び下圧を減じての移動に際しては、
図6,7に示すように下圧移動に際しては車輪41a,41bが下方レール13と当接して走行することになり、下圧を減じた際の移動においては、湾曲板バネ体62で移動刃物台B全体を持ち上げ、車輪41a,41bが上方レール14と当接して移動することになり、移動刃物台Bの上方の浮き上がりが制限されると共に、移動刃物台Bの移動がスムーズになされる。
【0029】
また前記の研ぎ作業は
図9に示すように刃体01の位置をずらしたり、包丁Cの角度を変えることで包丁Cの何れの箇所の研ぎにも対応でき、特に刃先部分を研ぐ場合には、
図10に示すように刃体抑え部52を抑え込んで作業すると安全に行うことができる。特に包丁Cが磁気吸着材料で形成されている場合には、刃体01を刃体載置面部51と刃体抑え部52の間に位置させると、下圧を減じた際に刃体01が点状磁石部53に吸着し、確実な復帰動作がなされる。また点状磁石部に代えて滑り止め部材を設けておくと、下圧を減じた際の引き戻しにおいて、刃体01が前記滑り止め部材に当接し、移動刃物台Bと一体となって移動とするので、包丁Cが磁気吸着材料で形成されいな場合でも各自な復帰動作が実現できる。
【0030】
また本発明の変形例としては、
図11及び
図12に示す第二実施例のように、刃体支持部5aにおける刃体載置面部51aの前縁を研ぎ方向となる前後摺動方向に対して斜辺54に形成すると共に、刃体載置面55も前記斜辺54に対応する傾斜面に形成した研ぎ器でも良い。また線材で形成した刃体抑え部52aを採用しても良い。この第二実施例の研ぎ器は
図12に示すよう刃先縁02を斜めにした状態で一方向研磨の研ぎ作業を行うことができるものである。
【0031】
更に
図13には第三実施例を示した。この第三実施例は刃体抑え部52bに刃体挟持機能を備えさせた研ぎ器である。この研ぎ器は上昇付勢機構を具備している場合に適用されるもので、刃体が刃体載置面部51と刃体抑え部52bとで挟持されて移動刃物台Bと一体にとなって研ぎ作業がなされるものである。
【符号の説明】
【0032】
A 砥石本体
B 移動刃物台
C 包丁
1 本体
11 脚ガイド部
12 凹部
13 下方レール
14 上方レール
15 ストッパー部
2 マグネットシート
3 砥石板
4 脚部
41a,41b 車輪
5 刃体支持部
51,51a 刃体載置面部
52,52a,52b 刃体抑え部
53 点状磁石部
54 斜辺
55 刃体載置面
6 上昇付勢機構
61 突板部
62 湾曲板バネ体
01 刃体
02 刃先縁
03 柄