【文献】
Eur. J. Immunol.(1999)Vol.29, p.2819-2825
【文献】
J. Biol. Chem.,Vol.276, No.9 ,p.6591-6604
【文献】
Nat. Rev. Immunol.,Vol.7, No.9 ,p.715-725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとで異なるアミノ酸残基以外の1〜3個のアミノ酸残基において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIgGクラスFc領域。
(a)の第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと(a)の第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとを含むIgGクラスFc領域よりも、ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインAに対する結合が減少している、請求項1〜4のいずれか一項に記載のIgGクラスFc領域。
ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む、FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体である、請求項6〜10のいずれか一項に記載の抗体。
ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む、FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体であって、
(α)該VEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 14のCDR3H領域、SEQ ID NO: 15のCDR2H領域、およびSEQ ID NO: 16のCDR1H領域を含み、かつ軽鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 17のCDR3L領域、SEQ ID NO: 18のCDR2L領域、およびSEQ ID NO: 19のCDR1L領域を含み、かつ
(β)該ANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 22のCDR3H領域、SEQ ID NO: 23のCDR2H領域、およびSEQ ID NO: 24のCDR1H領域を含み、かつ軽鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 25のCDR3L領域、SEQ ID NO: 26のCDR2L領域、およびSEQ ID NO: 27のCDR1L領域を含み、かつ
(γ)該二重特異性抗体が、請求項1〜5のいずれか一項に記載のIgGクラスFc領域を含む、
二重特異性二価抗体。
(α)前記VEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメインVHとしてSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変ドメインVLとしてSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)前記ANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメインVHとしてSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変ドメインVLとしてSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含み、かつ
(γ)前記二重特異性抗体が、請求項1〜5のいずれか一項に記載のIgGクラスFc領域を含む、
請求項12に記載の二重特異性抗体。
【発明を実施するための形態】
【0057】
発明の態様の詳細な説明
I.定義
「約」という用語は、その後に続く数値の+/-20%の範囲を意味する。1つの態様において、約という用語は、その後に続く数値の+/-10%の範囲を意味する。1つの態様において、約という用語は、その後に続く数値の+/-5%の範囲を意味する。
【0058】
本明細書の目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」とは、下記に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワークまたは重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでもよく、またはアミノ酸配列改変を含んでもよい。いくつかの態様において、アミノ酸改変の数は、10個もしくはそれ未満、9個もしくはそれ未満、8個もしくはそれ未満、7個もしくはそれ未満、6個もしくはそれ未満、5個もしくはそれ未満、4個もしくはそれ未満、3個もしくはそれ未満、または2個もしくはそれ未満である。いくつかの態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0059】
「親和性成熟」抗体とは、抗原に対する抗体の親和性を向上させるような改変を有していない親抗体と比べて、1つまたは複数の超可変領域(HVR)に1つまたは複数の改変を有する抗体を意味する。
【0060】
「改変」という用語は、修飾された抗体または融合ポリペプチドを得るための、親抗体または融合ポリペプチド、例えば、Fc領域に関する少なくとも1つのFcRn結合部分を含む融合ポリペプチド中の1つまたは複数のアミノ酸残基の変異(置換)、挿入(付加)、または欠失を意味する。「変異」という用語は、異なるアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基で置換することを意味する。例えば、変異L234Aは、抗体Fc領域(ポリペプチド)中の234位のアミノ酸残基リジンがアミノ酸残基アラニンによって置換されていること(アラニンによるリジンの置換)(EU指標に基づく番号付与)を意味する。
【0061】
「アミノ酸変異」という用語は、少なくとも1つの既存のアミノ酸残基を別の異なるアミノ酸残基(=置換アミノ酸残基)で置換することを意味する。置換アミノ酸残基は、「天然に存在するアミノ酸残基」であってよく、アラニン(3文字記号:ala、1文字記号:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)からなる群より選択され得る。置換アミノ酸残基は、「天然に存在しないアミノ酸残基」であってよい。例えば、US 6,586,207、WO 98/48032、WO 03/073238、US 2004/0214988、WO 2005/35727、WO 2005/74524、Chin, J.W., et al., J. Am. Chem. Soc. 124 (2002) 9026-9027; Chin, J.W. and Schultz, P.G., ChemBioChem 11 (2002) 1135-1137; Chin, J.W., et al., PICAS United States of America 99 (2002) 11020-11024;および Wang, L. and Schultz, P.G., Chem. (2002) 1-10(すべて、参照により全体が本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0062】
「アミノ酸挿入」という用語は、アミノ酸配列中の所定の位置に少なくとも1つのアミノ酸残基を(付加的に)組み入れることを意味する。1つの態様において、挿入は、1つまたは2つのアミノ酸残基の挿入である。挿入されるアミノ酸残基は、任意の天然に存在するアミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基であることができる。
【0063】
「アミノ酸欠失」という用語は、アミノ酸配列中の所定の位置において少なくとも1つのアミノ酸残基が取り除かれることを意味する。
【0064】
本明細書において使用される「ANG-2」という用語は、例えば、Maisonpierre, P.C., et al, Science 277 (1997) 55-60およびCheung, A.H., et al., Genomics 48 (1998) 389-91において説明されているヒトアンギオポエチン-2(ANG-2)(あるいは、ANGPT2またはANG2と略される)(SEQ ID NO: 31)を意味する。アンギオポエチン-1(SEQ ID NO: 32)およびアンギオポエチン-2は、Tie、すなわち血管内皮内で選択的に発現されるチロシンキナーゼファミリーに対するリガンドとして発見された(Yancopoulos, G.D., et al., Nature 407 (2000) 242-248)。現在、アンギオポエチンファミリーには4つの明確に定められたメンバーがある。アンギオポエチン-3およびアンギオポエチン-4 (ANG-3 およびANG-4) は、マウスおよびヒトにおいて同じ遺伝子座の広く分岐した対応物に相当し得る(Kim, I., et al., FEBS Let, 443 (1999) 353-356; Kim, I., et al., J. Biol. Chem. 274 (1999) 26523-26528)。ANG-1およびANG-2はもともと、組織培養実験において、それぞれアゴニストおよびアンタゴニストとして同定された(ANG-1に関してはDavis, S., et al., Cell 87 (1996) 1161-1169を、ANG-2に関してはMaisonpierre, P.C., et al., Science 277 (1997) 55-60を参照されたい)。公知のアンギオポエチンはいずれも、主としてTie2 (SEQ ID NO: 33)に結合し、ANG-1およびANG-2のどちらも、3nM (Kd)の親和性でTie2に結合する(Maisonpierre, P.C., et al., Science 277 (1997) 55-60)。
【0065】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体)、ならびに所望の抗原結合活性および/またはプロテインA結合活性および/またはFcRn結合活性を示す限りにおいて抗体断片を含む、様々な抗体構造体を包含する。
【0066】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」とは、競合アッセイ法において、参照抗体がその抗原に結合するのを50%またはそれ以上妨害する抗体を意味し、逆に言えば、競合アッセイ法において、参照抗体が、その抗体がその抗原に結合するのを50%またはそれ以上妨害する。例示的な競合アッセイ法が、本明細書において提供される。
【0067】
「非対称Fc領域」という用語は、KabatのEU指標番号付与システムに基づく対応位置に異なるアミノ酸残基を有する一対のFc領域ポリペプチドを意味する。
【0068】
「FcRn結合に関する非対称Fc領域」という用語は、対応位置に異なるアミノ酸残基を有する2つのポリペプチド鎖からなるFc領域を意味し、これらの位置はKabatのEU指標番号付与システムに基づいて決定され、それらの異なる位置は、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)へのFc領域の結合に影響を及ぼす。本明細書の目的において、「FcRn結合に関する非対称Fc領域」におけるFc領域の2つのポリペプチド鎖の差異には、例えば二重特異性抗体を作製する目的で、ヘテロ二量体Fc領域の形成を促進させるために導入された差異は含まれない。これらの差異もまた、非対称であり得る。すなわち、それら2つの鎖は、KabatのEU指標番号付与システムに基づく非対応アミノ酸残基において差異を有する。これらの差異は、ヘテロ二量体化を促進し、ホモ二量体化を減少させる。このような差異の例は、いわゆる「ノブイントゥーホール」置換である(例えば、US 7,695,936およびUS 2003/0078385を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の各ポリペプチド鎖における次のノブアンドホール(knobs and holes)置換は、ヘテロ二量体形成を増加させることが判明している:(1)一方の鎖におけるY407Tおよび他方の鎖におけるT366Y;(2)一方の鎖におけるY407Aおよび他方の鎖におけるT366W;(3)一方の鎖におけるF405Aおよび他方の鎖におけるT394W;(4)一方の鎖におけるF405Wおよび他方の鎖におけるT394S;(5)一方の鎖におけるY407Tおよび他方の鎖におけるT366Y;(6)一方の鎖におけるT366YおよびF405A、ならびに他方の鎖におけるT394WおよびY407T;(7)一方の鎖におけるT366WおよびF405W、ならびに他方の鎖におけるT394SおよびY407A;(8)一方の鎖におけるF405WおよびY407A、ならびに他方の鎖におけるT366WおよびT394S;ならびに(9)一方の鎖におけるT366W、ならびに他方の鎖におけるT366S、L368A、およびY407V;ここで、最後に挙げたものが特に適している。さらに、2つのFc領域ポリペプチド鎖の間に新しいジスルフィド架橋を生成する変更も、ヘテロ二量体形成を促進する(例えば、US 2003/0078385を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の各ポリペプチド鎖に新しい鎖内ジスルフィド結合を形成させるための適切な間隔を空けて離れたシステイン残基をもたらす次の置換は、ヘテロ二量体形成を増加させることが判明している:一方の鎖におけるY349Cおよび他方の鎖におけるS354C;一方の鎖におけるY349Cおよび他方の鎖におけるE356C;一方の鎖におけるY349Cおよび他方の鎖におけるE357C;一方の鎖におけるL351Cおよび他方の鎖におけるS354C;一方の鎖におけるT394Cおよび他方の鎖におけるE397C;または一方の鎖におけるD399Cおよび他方の鎖におけるK392C。ヘテロ二量体化を促進するアミノ酸変更のさらに別の例は、いわゆる「電荷対置換」である(例えば、WO 2009/089004を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の各ポリペプチド鎖における次の電荷対置換は、ヘテロ二量体形成を増加させることが判明している:(1)一方の鎖におけるK409DまたはK409Eおよび他方の鎖におけるD399KまたはD399R;(2)一方の鎖におけるK392DまたはK392Eおよび他方の鎖におけるD399KまたはD399R;(3)一方の鎖におけるK439DまたはK439Eおよび他方の鎖におけるE356KまたはE356R;(4)一方の鎖におけるK370DまたはK370Eおよび他方の鎖におけるE357KまたはE357R;(5)一方の鎖におけるK409DおよびK360Dならびに(plus)他方の鎖におけるD399KおよびE356K;(6)一方の鎖におけるK409DおよびK370Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびE357K;(7)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399K、E356K、およびE357K;(8)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399K;(9)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびE356K;(10)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびD357K;(11)一方の鎖におけるK409DおよびK370Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびD357K;(12)一方の鎖におけるD399Kならびに他方の鎖におけるK409DおよびK360D;ならびに(13)一方の鎖におけるK409DおよびK439Dならびに他方におけるD399KおよびE356K。
【0069】
「(抗原への)結合」という用語は、インビトロのアッセイ法における、1つの態様においては、表面に抗体を結合し、その抗体への抗原の結合を表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定する結合アッセイ法における、抗原への抗体の結合を示す。結合とは、10
-8Mまたはそれ未満、いくつかの態様において、10
-13〜10
-8M、いくつかの態様において、10
-13〜10
-9Mの結合親和性(K
D)を意味する。
【0070】
結合は、BIAcoreアッセイ法(GE Healthcare Biosensor AB, Uppsala, Sweden)によって調査することができる。結合親和性は、用語k
a(抗体/抗原複合体から得られる抗体の会合速度定数)、k
d(解離定数)、およびK
D(k
d/k
a)を用いて定義される。
【0071】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部分は、ある特定の供給源または種に由来するが、重鎖および/または軽鎖の残りの部分は、異なる供給源または種に由来する、抗体を意味する。
【0072】
「CH2ドメイン」という用語は、おおよそEU位置231位からEU位置340位(Kabatに基づくEU番号付与システム)まで伸びる、抗体重鎖ポリペプチドの部分を意味する。1つの態様において、CH2ドメインは、
のアミノ酸配列を有する。
【0073】
「CH3ドメイン」は、おおよそEU位置341位からEU位置446位まで伸びる、抗体重鎖ポリペプチドの部分を意味する。1つの態様において、CH3ドメインは、
のアミノ酸配列を有する。
【0074】
抗体の「クラス」という用語は、その重鎖が有する定常ドメインまたは定常領域のタイプを意味する。抗体には5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IgA
1、およびIgA
2にさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ、およびμとそれぞれ呼ばれる。
【0075】
「同程度の長さ」という用語は、2つのポリペプチドが、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1つもしくは複数の最大10個までのアミノ酸残基分だけ長さが異なり得ることを意味する。1つの態様において、Fc領域ポリペプチドは、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1〜10個の数のアミノ酸残基分だけ異なる。1つの態様において、Fc領域ポリペプチドは、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1〜5個の数のアミノ酸残基分だけ異なる。1つの態様において、Fc領域ポリペプチドは、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1〜3個の数のアミノ酸残基分だけ異なる。
【0076】
「由来する」という用語は、あるアミノ酸配列が、少なくとも1つの位置に改変を導入することによって親アミノ酸配列から誘導されることを意味する。したがって、誘導されたアミノ酸配列は、少なくとも1つの対応位置(抗体Fc領域に対するKabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)において、対応する親アミノ酸配列と異なる。1つの態様において、親アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、対応位置において、1〜15個のアミノ酸残基が異なる。1つの態様において、親アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、対応位置において、1〜10個のアミノ酸残基が異なる。1つの態様において、親アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、対応位置において、1〜6個のアミノ酸残基が異なる。同様に、誘導されたアミノ酸配列は、その親アミノ酸配列に対して高いアミノ酸配列同一性を有する。1つの態様において、親アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、80%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。1つの態様において、親アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、90%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。1つの態様において、親アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。
【0077】
「エフェクター機能」とは、抗体クラスによって異なる、抗体のFc領域に起因し得る生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合および補体依存性細胞障害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方調節;ならびにB細胞活性化が含まれる。
【0078】
作用物質、例えば薬学的製剤の「有効量」とは、必要な投与量および期間で、所望の治療的結果または予防的結果を実現するのに有効な量を意味する。
【0079】
「Fc融合ポリペプチド」という用語は、結合ドメイン(例えば、単鎖抗体のような抗原結合ドメインまたは受容体のリガンドのようなポリペプチド)と所望の標的結合活性および/またはプロテインA結合活性および/またはFcRn結合活性を示す抗体Fc領域との融合物を意味する。
【0080】
「ヒト起源のFc領域」という用語は、ヒンジ領域についての少なくとも1つの部分、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、ヒト起源の免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。1つの態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、重鎖のCys226またはPro230からカルボキシル末端まで伸びる。1つの態様において、Fc領域は、SEQ ID NO: 60のアミノ酸配列を有する。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在する場合もあれば存在しない場合もある。本明細書において別段の指定が無い限り、Fc領域中または定常領域中のアミノ酸残基の番号付与は、EU指標とも呼ばれるEU番号付与システムに基づき、これは、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91 3242において説明されている。Fc領域は、ポリペプチド間のジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基によって互いに共有結合することができる2つの重鎖Fc領域ポリペプチドから構成される。
【0081】
「FcRn」という用語は、ヒト新生児型Fc受容体を意味する。FcRnは、リソソーム分解経路からIgGを救助する機能を果たし、その結果、クリアランスを減らし、半減期を増大させる。FcRnは、2つのポリペプチド:50kDaのクラスI主要組織適合性複合体様タンパク質(α-FcRn)および15kDaのβ2-ミクログロブリン(β2m)からなるヘテロ二量体タンパク質である。FcRnは、IgGのFc領域のCH2-CH3部分に高い親和性で結合する。IgGとFcRnの相互作用は、pHに厳密に依存しており、1:2の化学量論比で起こり、1つのIgGが、2つの重鎖を介して2つのFcRn分子に結合する(Huber, A.H., et al., J. Mol. Biol. 230 (1993) 1077-1083)。酸性pH(pH<6.5)ではFcRn結合がエンドソーム中で起こり、中性の細胞表面(pH約7.4)ではIgGは遊離する。相互作用のpH感受性の性質のおかげで、エンドソームの酸性環境内での受容体への結合によって、細胞中へ飲作用されるIgGを細胞内分解からFcRnを介して保護することが容易になる。次いで、FcRnは、FcRn-IgG複合体が細胞外の中性pH環境に曝露された際に、細胞表面にIgGを再循環させ、続いて血流中に放出するのを促進する。
【0082】
「Fc領域のFcRn結合部分」という用語は、おおよそEU位置243位からEU位置261位、ならびにおおよそEU位置275位からEU位置293位、ならびにおおよそEU位置302位からEU位置319位、ならびにおおよそEU位置336位からEU位置348位、ならびにおおよそEU位置367位からEU位置393位およびEU位置408位、ならびにおおよそEU位置424位からEU位置440位まで伸びる、抗体重鎖ポリペプチドの部分を意味する。1つの態様において、KabatのEU番号付与に基づく次のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数が改変される:
。
【0083】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を意味する。一般に、可変ドメインのFRは、4つのFRドメイン、すなわちFR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。したがって、一般に、HVR配列およびFR配列は、VH(またはVL)中に次の順序で現われる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0084】
「完全長抗体」という用語は、ネイティブ抗体の構造に実質的に同様の構造を有するか、または本明細書において定義するFc領域を含む重鎖を有する、抗体を意味する。完全長抗体は、例えば、完全長抗体の鎖のうちの1つまたは複数にコンジュゲートされたscFvまたはscFabなどのさらなるドメインを含んでよい。これらのコンジュゲートもまた、完全長抗体という用語に包含される。
【0085】
「ヘテロ二量体」または「ヘテロ二量体の」という用語は、(例えば、同程度の長さの)2つのポリペプチド鎖を含む分子を意味し、これら2つのポリペプチド鎖は、KabatのEU指標に基づいて決定される対応位置において少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有するアミノ酸配列を有する。
【0086】
「ホモ二量体」および「ホモ二量体の」という用語は、同程度の長さの2つのポリペプチド鎖を含む分子を意味し、これら2つのポリペプチド鎖は、KabatのEU指標に基づいて決定される対応位置において同一であるアミノ酸配列を有する。
【0087】
本明細書において報告される抗体またはFc領域融合ポリペプチドは、そのFc領域に関してホモ二量体またはヘテロ二量体であることができ、これは、重点が置かれている(focus)変異または特性を基準にして決定される。例えば、FcRn結合および/またはプロテインA結合(すなわち、特性に重点が置かれている)に関して、Fc領域(抗体)は、変異H310A、H433A、およびY436A(これらの変異は、Fc領域融合ポリペプチドまたは抗体のFcRn結合特性および/またはプロテインA結合特性に関して重点が置かれている)についてホモ二量体である(すなわち、両方の重鎖Fc領域ポリペプチドがこれらの変異を含む)が、同時に、変異Y349C、T366S、L368A、およびY407V(これらの変異は、重鎖のヘテロ二量体化を対象としており、FcRn/プロテインA結合特性を対象としていないため、これらの変異は、重点が置かれていない)ならびに変異S354CおよびT366W、それぞれについてヘテロ二量体である(第1のセットは第1のFc領域ポリペプチドにのみ含まれ、第2のセットは、第2のFc領域ポリペプチドにのみ含まれる)。さらに、例えば、本明細書において報告されるFc領域融合ポリペプチドまたは抗体は、変異I253A、H310A、H433A、H435A、およびY436A(すなわち、これらの変異はすべて、二量体ポリペプチドのFcRn結合特性および/またはプロテインA結合特性を対象としている)についてヘテロ二量体であることができ、すなわち、一方のFc領域ポリペプチドが変異I253A、H310A、およびH435Aを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異H310A、H433A、およびY436Aを含む。
【0088】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」という用語は同義的に使用され、外来性核酸が導入された細胞を、そのような細胞の子孫を含めて意味する。宿主細胞には、「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれ、初代形質転換細胞およびそれに由来する子孫が継代の回数に関わらず含まれる。子孫の核酸内容は親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでもよい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたのと同じ機能または生物活性を有する変異子孫は、本明細書に含まれる。
【0089】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生されるか、またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を使用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的には除く。
【0090】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンのVLまたはVHのフレームワーク配列の選抜物(selection)において最も多く存在するアミノ酸残基に相当するフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVL配列またはVH配列の選抜物は、可変ドメイン配列のサブグループに由来する。通常、配列のサブグループは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD (1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3に記載されているようなサブグループである。1つの態様において、VLについて、サブグループは、前記Kabat et al.に記載されているようなサブグループκIである。1つの態様において、VHについて、サブグループは、前記Kabat et al.に記載されているようなサブグループIIIである。
【0091】
「ヒトFc領域ポリペプチド」という用語は、「ネイティブ」または「野生型」のヒトFc領域ポリペプチドと同一であるアミノ酸配列を意味する。「変種(ヒト)Fc領域ポリペプチド」という用語は、少なくとも1つの「アミノ酸改変」によって「ネイティブ」または「野生型」のヒトFc領域ポリペプチドから誘導されるアミノ酸配列を意味する。「ヒトFc領域」は、2つのヒトFc領域ポリペプチドからなる。「変種(ヒト)Fc領域」は、2つのFc領域ポリペプチドからなり、両方が変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドであってもよく、または一方がヒトFc領域ポリペプチドであり、他方が変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドである。
【0092】
1つの態様において、ヒトFc領域ポリペプチドは、SEQ ID NO: 60のヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、またはSEQ ID NO: 61のヒトIgG2 Fc領域ポリペプチド、またはSEQ ID NO: 62のヒトIgG3 Fc領域ポリペプチド、またはSEQ ID NO: 63のヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドのアミノ酸配列を有する。1つの態様において、変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドは、SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のFc領域ポリペプチドに由来し、SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のヒトFc領域ポリペプチドと比べて少なくとも1つのアミノ酸変異を有している。1つの態様において、変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドは、約1〜約12個のアミノ酸変異を、1つの態様において、約1〜約8個のアミノ酸変異を含む/有する。1つの態様において、変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドは、SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のヒトFc領域ポリペプチドと少なくとも約80%の相同性を有している。1つの態様において、変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドは、SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のヒトFc領域ポリペプチドと少なくとも約90%の相同性を有している。1つの態様において、変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドは、SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のヒトFc領域ポリペプチドと少なくとも約95%の相同性を有している。
【0093】
SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のヒトFc領域ポリペプチドに由来する変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドは、含まれているアミノ酸改変に基づいて定義される。したがって、例えば、P329Gという用語は、SEQ ID NO: 60、または61、または62、または63のヒトFc領域ポリペプチドを基準として、アミノ酸位置329がプロリンからグリシンに変異した、ヒトFc領域ポリペプチドに由来する変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドを意味する。
【0094】
本明細書において使用される場合、重鎖および軽鎖のすべての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991) において説明されているKabat番号付与システムに基づいて番号を付けられ、本明細書において「Kabatに基づく番号付与」と呼ばれる。具体的には、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)のKabat番号付与システム(647〜660頁を参照されたい)が、κアイソタイプおよびλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLのために使用され、KabatのEU指標番号付与システム(661〜723頁を参照されたい)が、定常重鎖ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、およびCH3)のために使用される。
【0095】
ヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0096】
変異L234A、L235Aを有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0097】
Y349C変異、T366S変異、L368A変異、およびY407V変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0098】
S354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0099】
L234A変異、L235A変異、およびY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0100】
L234A変異、L235A変異、およびS354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0101】
P329G変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0102】
L234A変異、L235A変異、およびP329G変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0103】
P239G変異、およびY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0104】
P329G変異、およびS354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0105】
L234A変異、L235A変異、P329G変異、およびY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0106】
L234A変異、L235A変異、P329G変異、およびS354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG1 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0107】
ヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0108】
S228P変異およびL235E変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0109】
S228P変異、L235E変異、およびP329G変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0110】
S354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0111】
Y349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0112】
S228P変異、L235E変異、およびS354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0113】
S228P変異、L235E変異、およびY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0114】
P329G変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0115】
P239G変異、およびY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0116】
P329G変異、およびS354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0117】
S228P変異、L235E変異、P329G変異、およびY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0118】
S228P変異、L235E変異、P329G変異、およびS354C変異、T366W変異を有する、ヒトIgG4 Fc領域に由来するFc領域ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
。
【0119】
様々なヒトFc領域のアライメントを下記に示す(EU番号付与)。
【0120】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基およびヒトFRに由来するアミノ酸残基を含むキメラ抗体を意味する。特定の態様において、ヒト化抗体は、HVR(例えばCDR)のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト抗体のものに相当し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト抗体のものに相当する、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域についての少なくとも1つの部分を任意で含んでよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化型」とは、ヒト化を受けた抗体を意味する。
【0121】
本明細書において使用される「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列が超可変性であり(「相補性決定領域」もしくは「CDR」)、かつ特徴的な構造の(structurally defined)ループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原接触残基(「抗原接触部分(contact)」)を含む、抗体可変ドメインの各領域を意味する。一般に、抗体は6個のHVRを含む。3個はVH中にあり(H1、H2、H3)、3個はVL中にある(L1、L2、L3)。本明細書において示すHVRは、
(a)アミノ酸残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、91〜96(L3)、26〜32(H1)、53〜55(H2)、および96〜101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia, C. and Lesk, A.M., J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917);
(b)アミノ酸残基24〜34( L1)、50〜56(L2)、89〜97(L3)、31〜35b (H1)、50〜65(H2)、および95〜102(H3)に存在するCDR(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242.);
(c)アミノ酸残基27c〜36(L1)、46〜55(L2)、89〜96(L3)、30〜35b(H1)、47〜58(H2)、および93〜101(H3)に存在する抗原接触部分(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに
(d)HVRアミノ酸残基46〜56(L2)、47〜56(L2)、48〜56(L2)、49〜56(L2)、26〜35(H1)、26〜35b(H1)、49〜65(H2)、93〜102(H3)、および94〜102(H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ
を含む。
【0122】
1つの態様において、HVR残基は、本明細書の別の場所で特定されるものを含む。
【0123】
別段の定めが無い限り、本明細書において、可変ドメイン中のHVR残基および他の残基(例えばFR残基)は、KabatのEU指標番号付与システム(Kabat et al.、前記)に従って番号を付与する。
【0124】
本明細書において使用される「IGF-1R」という用語は、別段の定めが無い限り、霊長類(例えばヒト)およびげっ歯動物(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源に由来する任意のネイティブIGF-1Rを意味する。この用語は、「完全長の」プロセシングされていないIGF-1R、ならびに細胞中でのプロセシングの結果として生じる任意の形態のIGF-1Rを包含する。この用語はまた、IGF-1Rの天然に存在する変種、例えば、スプライス変種または対立遺伝子変種も包含する。ヒトIGF-1Rのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 11に示されている。
【0125】
「個体」または「対象」は哺乳動物である。哺乳動物には、飼い慣らされた動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ、ならびにげっ歯動物(例えば、マウスおよびラット)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。特定の態様において、個体または対象はヒトである。
【0126】
「単離された」抗体とは、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換HPLCもしくは逆相HPLC)によって測定した場合に95%または99%を超える純度まで精製される。抗体純度を評価するための方法に関する概要については、例えば、Flatman, S. et al., J. Chrom. B 848 (2007) 79-87を参照されたい。
【0127】
「単離された」核酸とは、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸は、その核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、その核酸分子は、染色体外に存在するか、または天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0128】
「抗IGF-1R抗体をコードする単離された核酸」とは、抗体の重鎖および軽鎖(またはその断片)をコードする1つまたは複数の核酸分子を意味し、単一のベクターまたは別々のベクター中のこのような核酸分子、および宿主細胞中の1つまたは複数の位置に存在するこのような核酸分子を含む。
【0129】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団を構成する個々の抗体は、存在し得る変種抗体を除いて、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。例えば、天然に存在する変異を含むか、またはモノクローナル抗体調製物を作製する間に発生するこのような変種は通常、少量で存在する。様々な決定基(エピトープ)を対象とする様々な抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られたものであるという抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の作製を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用するためのモノクローナル抗体は、限定されるわけではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含むトランスジェニック動物を使用する方法を含む、様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法および他の例示的な方法は、本明細書において説明される。
【0130】
「ネイティブ抗体」とは、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を意味する。例えば、ネイティブIgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)とそれに続く3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)とそれに続く軽鎖定常(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てることができる。
【0131】
「添付文書」という用語は、治療的製造物の市販用パッケージに習慣的に含まれる、そのような治療的製造物の使用に関する適応症、用法、投与量、投与、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含む取扱い説明書を意味するのに使用される。
【0132】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、かつ必要な場合にはギャップを導入して、最大の配列同一性パーセントを実現した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部分とみなさない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当技術分野の技能の範囲内である様々な方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなど公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて、実現することができる。当業者は、比較される配列の全長に渡って最大限のアライメントを実現するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のためには、配列比較コンピュータープログラムALIGN-2を用いて、アミノ酸配列同一性%の値を得る。配列比較コンピュータープログラムALIGN-2は、Genentech, Inc.の著作物であり、ソースコードはユーザー向け文書と共にU.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559に提出され、米国著作権登録番号(U.S. Copyright Registration No.)TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc., South San Francisco, Californiaから公的に入手可能であり、またはソースコードからコンパイルされ得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティング・システムにおける使用向けにコンパイルされるべきである。配列比較パラメーターはすべて、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0133】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために使用される状況において、所与のアミノ酸配列Bに対する、該配列Bとの、または該配列Bと比較しての所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bに対する、該配列Bとの、または該配列Bと比較してのある特定のアミノ酸配列同一性%を有するか、または含む所与のアミノ酸配列Aと表現することもできる)は、次のとおりに算出される。
100×比X/Y
式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムによるAおよびBのアラインメントにおいて同一のマッチとして採点されたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%と等しくならないが認識されると考えられる。別段の記載が特に無い限り、本明細書において使用されるアミノ酸配列同一性%の値はすべて、すぐ前の節で説明したとおりに、ALIGN-2コンピュータープログラムを用いて得られる。
【0134】
「薬学的製剤」という用語は、その中に含まれる有効成分の生物活性が有効になるのを可能にするような形態で存在し、かつその製剤が投与され得る対象に対して許容されないほど毒性である追加成分を含まない、調製物を意味する。
【0135】
「薬学的に許容される担体」とは、対象にとって非毒性である、薬学的製剤中の有効成分以外の成分を意味する。薬学的に許容される担体には、緩衝剤、賦形剤、安定化剤、または保存剤が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0136】
本明細書において使用される「ペプチドリンカー」という用語は、1つの態様において合成起源であるアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。ペプチドリンカーは、1つの態様において、少なくとも30アミノ酸長、1つの態様において、32〜50アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、ペプチドリンカーは、32〜40アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、ペプチドリンカーは、G=グリシン、S=セリン、(x=3、n=8、9、もしくは10)または(x=4およびn=6、7、もしくは8)の(GxS)nであり、1つの態様において、x=4、n=6または7であり、1つの態様において、x=4、n=7である。1つの態様において、ペプチドリンカーは(G
4S)
6G
2である。
【0137】
「組換え抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されるあらゆる抗体(キメラ、ヒト化、およびヒト)を意味する。これは、NS0細胞もしくはCHO細胞などの宿主細胞またはヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体、または宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体を含む。このような組換え抗体は、可変領域および定常領域を再配列された形態で有する。本明細書において報告される組換え抗体は、インビボの体細胞超変異に供されてよい。したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に由来しかつ関連してはいるものの、インビボにおいてヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在し得ない配列である。
【0138】
本明細書において使用される場合、「治療(treatment)」(およびその文法的変形、例えば「治療する(treat)」または「治療すること(treating)」)は、治療される個体の自然経過を変化させようとする臨床的介入を意味し、予防のために、または臨床的病状の過程中に、実施され得る。治療の望ましい効果には、疾患の発生または再発の予防、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な任意の病理学的転帰の減少、転移の予防、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、および寛解または予後改善が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、本発明において報告される抗体またはFc領域融合ポリペプチドは、疾患の発症を遅らせるため、または疾患の進行を遅くするために使用される。
【0139】
本出願内で使用される「価」という用語は、(抗体)分子中に特定の数の結合部位が存在することを意味する。したがって、「二価」、「四価」、および「六価」という用語は、(抗体)分子中に2個の結合部位、4個の結合部位、および6個の結合部位が存在することをそれぞれ意味する。本明細書において報告される二重特異性抗体は、1つの好ましい態様において「二価」である。
【0140】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体がその抗原に結合するのに関与している抗体重鎖または抗体軽鎖のドメインを意味する。一般に、抗体の重鎖および軽鎖(それぞれVHおよびVL)の可変ドメインは、4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を各ドメインが含む、類似した構造を有する。(例えば、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y. (2007), page 91を参照されたい)。1つのVHドメインまたはVLドメインは、抗原結合特異性を与えるのに十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、その抗原に結合する抗体に由来するVHドメインまたはVLドメインを用いて、相補的なVLドメインまたはVHドメインのライブラリーをそれぞれスクリーニングして、単離することができる。例えば、Portolano, S., et al., J. Immunol. 150 (1993) 880-887; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628を参照されたい。
【0141】
「眼血管疾患」という用語は、眼内血管新生症候群、例えば、糖尿病性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、未熟児網膜症、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、黄斑変性症、加齢黄斑変性症、色素性網膜炎、網膜血管腫状増殖、黄斑部毛細血管拡張症(telangectasia)、虚血性網膜症、虹彩血管新生、眼内血管新生、角膜血管新生、網膜血管新生、脈絡膜血管新生、および網膜変性症を含むが、それらに限定されるわけではない(例えば、Garner, A., Vascular diseases, In: Pathobiology of ocular disease, A dynamic approach, Garner, A., and Klintworth, G.K., (eds.), 2nd edition, Marcel Dekker, New York (1994), pp. 1625-1710を参照されたい)。
【0142】
本明細書において使用される「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を増殖させることができる核酸分子を意味する。この用語は、自己複製する核酸構造体としてのベクター、ならびに導入された先の宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。ある種のベクターは、機能的に連結されている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0143】
本明細書において使用される「VEGF」という用語は、Leung, D.W., et al., Science 246 (1989) 1306-1309; Houck et al., Mol. Endocrin. 5 (1991) 1806-1814; Keck, P.J., et al., Science 246 (1989) 1309-1312、およびConnolly, D.T., et al., J. Biol. Chem. 264 (1989) 20017-20024によって説明されているような、ヒト血管内皮増殖因子(VEGF/VEGF-A)、165アミノ酸ヒト血管内皮細胞増殖因子(ヒトVEGF165の前駆体配列のアミノ酸27〜191:SEQ ID NO: 30;アミノ酸1〜26はシグナルペプチドに相当する)、ならびに関連する血管内皮細胞増殖因子アイソフォーム121、189、および206を、これらの増殖因子の天然に存在する対立遺伝子形態およびプロセシングされた形態も合わせて、意味する。VEGFは、腫瘍および眼内障害に関連した正常および異常な血管形成および血管新生の調節に関与している(Ferrara, N., et al., Endocrin. Rev. 18 (1997) 4-25; Berkman, R.A., et al., J. Clin. Invest. 91 (1993) 153-159; Brown, L.F., et al., Human Pathol. 26 (1995) 86-91; Brown, L.F., et al., Cancer Res. 53 (1993) 4727-4735; Mattern, J., et al., Brit. J. Cancer. 73 (1996) 931-934;およびDvorak, H.F., et al., Am. J. Pathol. 146 (1995) 1029-1039)。VEGFは、いくつかの供給源から単離されたホモ二量体糖タンパク質であり、いくつかのアイソフォームを含む。VEGFは、内皮細胞に対して著しく特異的な分裂促進活性を示す。
【0144】
本明細書において使用される「変異IHH-AAAを有する」という用語は、変異I253A(Ile253Ala)、H310A(His310Ala)、およびH435A(His435Ala)の組合せを意味し、本明細書において使用される「変異HHY-AAAを有する」という用語は、変異H310A(His310Ala)、H433A(His433Ala)、およびY436A(Tyr436Ala)の組合せを意味し、本明細書において使用される「変異YTEを有する」という用語は、変異M252Y(Met252Tyr)、S254T(Ser254Thr)、およびT256E(Thr256Glu)の組合せを意味し、これらはIgG1サブクラスまたはIgG4サブクラスの重鎖定常領域に存在し、番号付与はKabatのEU指標に基づいている。
【0145】
本明細書において使用される「変異P329G LALAを有する」という用語は、IgG1サブクラスの重鎖定常領域における変異L234A(Leu234Ala)、L235A(Leu235Ala)、およびP329G(Pro329Gly)の組合せを意味し、番号付与はKabatのEU指標に基づいている。本明細書において使用される「変異SPLEを有する」という用語は、IgG4サブクラスの重鎖定常領域における変異S228P(Ser228Pro)およびL235E(Leu235Glu)の組合せを意味し、番号付与はKabatのEU指標に基づいている。本明細書において使用される「変異SPLEおよびP239Gを有する」という用語は、IgG4サブクラスの重鎖定常領域における変異S228P(Ser228Pro)、L235E(Leu235Glu)、およびP329G(Pro329Gly)の組合せを意味し、番号付与はKabatのEU指標に基づいている。
【0146】
II.本発明
本発明は、個々のFc領域ポリペプチド中の非対応位置のアミノ酸残基を改変することによって、これらの改変がFcRn結合の変更に共同で作用するため、抗体またはFc領域融合ポリペプチドのFcRn結合を変更できるという知見に、少なくともある程度基づいている。本明細書において報告される抗体およびFc領域融合ポリペプチドは、例えば、特定の目的に合わせた全身滞留時間が必要とされる疾患の治療に有用である。
【0147】
A.新生児型Fc受容体(FcRn)
新生児型Fc受容体(FcRn)は、IgGクラスの抗体のインビボでの代謝運命にとって重要である。FcRnは、リソソーム分解経路から野生型IgGを救助する機能を果たし、その結果、クリアランスを減らし、半減期を長くする。これは、2つのポリペプチド:50kDaのクラスI主要組織適合性複合体様タンパク質(α-FcRn)および15kDaのβ2-ミクログロブリン(β2m)からなるヘテロ二量体タンパク質である。FcRnは、クラスIgGの抗体のFc領域のCH2-CH3部分に高い親和性で結合する。クラスIgGの抗体とFcRnとの相互作用は、pHに依存しており、1:2の化学量論比で起こる。すなわち、1つのIgG抗体分子が、その2つの重鎖Fc領域ポリペプチドを介して、2つのFcRn分子と相互作用することができる(例えば、Huber, A.H., et al., J. Mol. Biol. 230 (1993) 1077-1083を参照されたい)。
【0148】
したがって、IgGのインビトロでのFcRn結合特性/特徴は、血液循環におけるインビボでのその薬物動態学的特性を示唆している。
【0149】
FcRnとIgGクラスの抗体のFc領域との相互作用には、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの異なるアミノ酸残基が関与している。FcRnと相互作用するアミノ酸残基は、おおよそEU位置243〜EU位置261の間、おおよそEU位置275〜EU位置293の間、おおよそEU位置302〜EU位置319の間、おおよそEU位置336〜EU位置348の間、おおよそEU位置367〜EU位置393の間、EU位置408、およびおおよそEU位置424〜EU位置440の間に位置している。より具体的には、KabatのEU番号付与に基づく次のアミノ酸残基が、Fc領域とFcRnの相互作用に関与している:
。
【0150】
部位特異的変異誘発研究により、FcRnに対するIgGのFc領域中の不可欠な結合部位は、ヒスチジン310、ヒスチジン435、およびイソロイシン253、ならびに程度は落ちるが、ヒスチジン433およびチロシン436であることが判明した(例えば、Kim, J.K., et al., Eur. J. Immunol. 29 (1999) 2819-2825; Raghavan, M., et al., Biochem. 34 (1995) 14649-14657; Medesan, C., et al., J. Immunol. 158 (1997) 2211-2217を参照されたい)。
【0151】
FcRnへのIgG結合を増加させるための方法は、IgGの様々なアミノ酸残基:トレオニン250、メチオニン252、セリン254、トレオニン256、トレオニン307、グルタミン酸380、メチオニン428、ヒスチジン433、およびアスパラギン434を変異させることによって実施されてきた(Kuo, T.T., et al., J. Clin. Immunol. 30 (2010) 777-789を参照されたい)。
【0152】
一部の場合において、血液循環における半減期が短縮された抗体が望まれる。例えば、硝子体内に適用するための薬物は、眼において長い半減期を有し、患者の血液循環において短い半減期を有するべきである。このような抗体はまた、例えば眼の中の疾患部位への曝露が増大するという利点を有している。
【0153】
FcRn結合およびそれに加えて血液循環における半減期に影響を及ぼす異なる変異は公知である。マウスFcとマウスFcRnの相互作用に決定的に重要なFc領域残基は、部位特異的変異誘発によって同定されている(例えば、Dall'Acqua, W.F., et al. J. Immunol 169 (2002) 5171-5180を参照されたい)。残基I253、H310、H433、N434、およびH435(Kabatに基づくEU番号付与)が、相互作用に関与している(Medesan, C., et al., Eur. J. Immunol. 26 (1996) 2533-2536; Firan, M., et al., Int. Immunol. 13 (2001) 993-1002; Kim, J.K., et al., Eur. J. Immunol. 24 (1994) 542-548)。残基I253、H310、およびH435が、ヒト FcとマウスFcRnの相互作用に決定的に重要であることが判明した(Kim, J.K., et al., Eur. J. Immunol. 29 (1999) 2819-2825)。タンパク質間の相互作用研究によってFcRn結合を改良するために、残基M252Y、S254T、T256EがDall'Acquaらによって説明されている(Dall'Acqua, W.F., et al. J. Biol. Chem. 281 (2006) 23514-23524)。ヒトFc-ヒトFcRn複合体の研究により、残基I253、S254、H435、およびY436が相互作用に決定的に重要であることが示された(Firan, M., et al., Int. Immunol. 13 (2001) 993-1002; Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604)。Yeung, Y.A., et al. (J. Immunol. 182 (2009) 7667-7671)において、残基248〜259位および301〜317位および376〜382位および424〜437位の様々な変異体が報告され検査されている。例示的な変異およびFcRn結合に対するそれらの影響を下記の表に挙げる。
【0155】
1つのFc領域ポリペプチド中の片側だけの1つの変異が、Fc受容体への結合を有意に弱めるのに十分であることが判明している。Fc領域に導入される変異の数が多いほど、FcRnへの結合が弱くなる。しかし、片側だけの非対称変異は、FcRn結合を完全に阻害するのには十分ではない。両側に存在する変異が、FcRn結合を完全に阻害するのに必要である。
【0156】
したがって、変種(ヒト)IgGクラスFc領域はヘテロ二量体であり、ヘテロ二量体は、機能的Fc領域を形成するために第1の(重鎖)Fc領域ポリペプチドおよび第2の(重鎖)Fc領域ポリペプチドが対形成した結果、形成される。
【0157】
FcRn結合に影響を及ぼすためのIgG1 Fc領域の対称的操作の結果を、下記の表に示す(変異の整列(alignment)およびFcRnアフィニティークロマトグラフィーカラムにおける保持時間)。
【0159】
3分未満の保持時間は、その物質が通過画分中に存在するため、結合なしに相当する(ボイドピーク)。
【0160】
単一変異H310Aは、任意のFcRn結合をなくすための最もサイレントな対称的変異である。
【0161】
対称的単一変異I253AおよびH435Aは、保持時間の0.3〜0.4分の相対的変化をもたらす。通常、これは、検出不可能な結合とみなすことができる。
【0162】
単一変異Y436Aは、FcRnアフィニティーカラムに対する検出可能な相互作用強度をもたらす。この理論に拘泥するものではないが、この変異は、I253A変異、H310A変異、およびH435A変異の組合せ(IHH-AAA変異)のような相互作用の無い状態と区別できる、FcRnを媒介とした半減期を有し得る。
【0163】
対称的に修飾した抗HER2抗体を用いて得られた結果を、下記の表に提示する(例えば、参照のためのWO 2006/031370を参照されたい)。
【0165】
FcRn結合に影響を及ぼす非対称変異をFc領域中に導入する影響を、ノブイントゥーホール技術(例えば、US 7,695,936、US2003/0078385を参照されたく;「ノブ鎖」変異:S354C/T366W、「ホール鎖」変異:Y349C/T366S/L368A/Y407V)を用いて組み立てた二重特異性抗VEGF/ANG2抗体(下記を参照されたい)を用いて例示した。非対称的に導入される変異がFcRn結合に与える影響は、FcRnアフィニティークロマトグラフィー法を用いて容易に測定することができる(
図9および下記の表を参照されたい)。FcRnアフィニティーカラムから遅れて溶出する、すなわち、FcRnアフィニティーカラムにおける保持時間が長い抗体は、インビボでより長い半減期を有し、逆もまた同様である。
【0167】
非対称的なIHH-AAA変異およびLLL-DDD変異(LLL-DDD変異=L251D、L314D、およびL432D)は、対応する親抗体または野生型抗体よりも弱い結合を示す。
【0168】
対称的HHY-AAA変異(=変異H310A、H433A、およびY436Aの組合せ)は、ヒトFcRnにもはや結合しないが、プロテインAへの結合は維持されているFc領域をもたらす(
図11、12、13、および14を参照されたい)。
【0169】
FcRn結合に影響を及ぼす非対称変異をFc領域中に導入する影響を、非対称変異の導入を可能にするためにノブイントゥーホール技術(例えば、US 7,695,936、US2003/0078385を参照されたい;「ノブ鎖」変異:S354C/T366W、「ホール鎖」変異:Y349C/T366S/L368A/Y407V)を用いて組み立てた二重特異性抗VEGF/ANG2抗体(VEGF/ANG2)、単一特異性抗IGF-1R抗体(IGF-1R)、および両方の重鎖のC末端に融合物を有する完全長抗体(融合物)を用いてさらに例示した。非対称的に導入される変異がFcRn結合およびプロテインA結合に与える影響は、FcRnアフィニティークロマトグラフィー法、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー法、およびSPRに基づく方法を用いて容易に測定することができる(下記の表を参照されたい)。
【0171】
変異I253A、H310A、H435A、またはL251D、L314D、L432D、またはL251S、L314S、L432Sの組合せの結果、プロテインAへの結合が失われるのに対し、変異I253A、H310A、H435A、またはH310A、H433A、Y436A、またはL251D、L314D、L432Dの組合せの結果、ヒト新生児型Fc受容体への結合が失われる。
【0172】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される変種ヒトIgGクラスFc領域を含む、抗体またはFc領域融合ポリペプチドである。
【0173】
Fc領域融合ポリペプチド中のFc領域は、前述の特徴をその融合相手に与える。融合相手は、そのインビボ半減期が短縮または延長される、すなわちそのインビボ半減期がはっきりと定められ、意図された用途に特別に合わせられる、生物活性を有する任意の分子であることができる。
【0174】
Fc領域融合ポリペプチドは、例えば、本明細書において報告される変種(ヒト)IgGクラスFc領域、およびリガンドを含む標的に結合する受容体タンパク質を含んでよく、例えば、TNFR-Fc領域融合ポリペプチド(TNFR=ヒト腫瘍壊死因子受容体(human tumor necrosis factor receptor))、またはIL-1R-Fc領域融合ポリペプチド(IL-1R=ヒトインターロイキン-1受容体(human interleukin-1 receptor))、またはVEGFR-Fc領域融合ポリペプチド(VEGFR=ヒト血管内皮増殖因子受容体(human vascular endothelial growth factor receptor))、またはANG2R-Fc領域融合ポリペプチド(ANG2R=ヒトアンギオポエチン2受容体(human angiopoietin 2 receptor))などである。
【0175】
Fc領域融合ポリペプチドは、例えば、本明細書において報告される変種(ヒト)IgGクラスFc領域、および例えば、抗体Fab断片、scFv(例えば、Nat. Biotechnol. 23 (2005) 1126-1136を参照されたい)、またはドメイン抗体(dAb)(例えば、WO 2004/058821、WO 2003/002609を参照されたい)などを含む、標的に結合する抗体断片を含んでよい。
【0176】
Fc領域融合ポリペプチドは、例えば、本明細書において報告される変種(ヒト)IgGクラスFc領域および受容体リガンド(天然または人工のいずれか)を含んでよい。
【0177】
B.例示的な抗体
1つの局面において、本発明は、変更されたFcRn結合を有する単離された抗体を提供し、すなわち、これらの抗体は、FcRn結合に影響を及ぼす変異を有していない抗体より高い親和性または低い親和性でヒトFcRnに結合する。
【0178】
1つの態様において、抗体は、第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、
(a)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、同じヒトFc領域ポリペプチドに由来し、かつ
(b)第1のFc領域ポリペプチドは、少なくとも、KabatのEU指標番号付与システムに基づく1つの対応位置において、そのアミノ酸配列が第2のFc領域ポリペプチドアミノ酸配列と異なるという点で修飾されており、第2のFc領域ポリペプチドは、少なくとも、KabatのEU指標番号付与システムに基づく1つの対応位置において、そのアミノ酸配列が第1のFc領域ポリペプチドアミノ酸配列と異なるという点で修飾されており、第1のFc領域ポリペプチド中の修飾位置と第2のFc領域ポリペプチド中の修飾位置は異なり、かつ
(c)このFc領域は、第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドとして(a)のヒトFc領域ポリペプチドを含む(すなわち、KabatのEU指標番号付与システムに基づく対応位置にa)のヒトFc領域ポリペプチドと同じアミノ酸残基を有する)Fc領域と比べて、ヒトFc受容体に対する親和性が異なる。
【0179】
本明細書において報告される1つの例示的な抗体およびまた本発明の1つの局面は、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む、FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体であり、
(i)VEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位は、重鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 14のCDR3H領域、SEQ ID NO: 15のCDR2H領域、およびSEQ ID NO: 16のCDR1H領域を含み、かつ軽鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 17のCDR3L領域、SEQ ID NO: 18のCDR2L領域、およびSEQ ID NO: 19のCDR1L領域を含み、かつ
(ii)ANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位は、重鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 22のCDR3H領域、SEQ ID NO: 23のCDR2H領域、およびSEQ ID NO: 24のCDR1H領域を含み、かつ軽鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 25のCDR3L領域、SEQ ID NO: 26のCDR2L領域、およびSEQ ID NO: 27のCDR1L領域を含み、かつ
(iii)この二重特異性抗体は、第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、
(a)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、同じヒトFc領域ポリペプチドに由来し、かつ
(b)第1のFc領域ポリペプチドは、少なくとも、KabatのEU指標番号付与システムに基づく1つの対応位置において、そのアミノ酸配列が第2のFc領域ポリペプチドアミノ酸配列と異なるという点で修飾されており、第2のFc領域ポリペプチドは、少なくとも、KabatのEU指標番号付与システムに基づく1つの対応位置において、そのアミノ酸配列が第1のFc領域ポリペプチドアミノ酸配列と異なるという点で修飾されており、第1のFc領域ポリペプチド中の修飾位置と第2のFc領域ポリペプチド中の修飾位置は異なり、かつ
(c)このFc領域は、第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドとして(a)のヒトFc領域ポリペプチドを含む(すなわち、KabatのEU指標番号付与システムに基づく対応位置に(a)のヒトFc領域ポリペプチドと同じアミノ酸残基を有する)Fc領域と比べて、ヒトFc受容体に対する親和性が異なる。
【0180】
全局面の1つの態様において、Fc領域は、変種(ヒト)IgGクラスFc領域である。1つの態様において、変種(ヒト)IgGクラスFc領域は、IgGクラスヘテロ二量体Fc領域である。
【0181】
全局面の1つの態様において、ヘテロ二量体は、(機能的)Fc領域を形成するために第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが対形成した結果、形成される。
【0182】
1つの態様において、ヒトFc領域ポリペプチドは、IgG1サブクラスまたはIgG4サブクラスのヒトFc領域ポリペプチドである。
【0183】
1つの態様において、ヒトFc領域ポリペプチドは、変異L234A、L235A、およびP329Gをさらに含む、IgG1サブクラスのヒトFc領域ポリペプチドである。
【0184】
1つの態様において、ヒトFc領域ポリペプチドは、変異S228PおよびL235Eをさらに含む、IgG4サブクラスのヒトFc領域ポリペプチドである。
【0185】
1つの態様において、第1のFc領域ポリペプチドは、変異S354CおよびT366Wをさらに含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドは、変異Y349C、T366S、L368A、およびY407Vをさらに含む。
【0186】
1つの態様において、二重特異性抗体は、
(i)VEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメインVHとしてSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメインVLとしてSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含むこと、および
(ii)ANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメインVHとしてSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメインVLとしてSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むこと
を特徴とする。
【0187】
1つの態様において、二重特異性抗体は、(iii)のFc領域がヒトIgG1サブクラスのものであることを特徴とする。1つの態様において、二重特異性抗体は、ヒトIgG1サブクラスのFc領域が変異L234A、L235A、およびP329G(KabatのEU指標に基づく番号付与)をさらに含むことを特徴とする。
【0188】
1つの態様において、二重特異性抗体は、(iii)のFc領域がヒトIgG4サブクラスのものであることを特徴とする。1つの態様において、二重特異性抗体は、ヒトIgG4サブクラスのFc領域が変異S228PおよびL235E(KabatのEU指標に基づく番号付与)をさらに含むことを特徴とする。1つの態様において、二重特異性抗体は、ヒトIgG4サブクラスのFc領域が変異S228P、L235E、およびP329G(KabatのEU指標に基づく番号付与)をさらに含むことを特徴とする。
【0189】
1つの態様において、二重特異性抗体は、両方ともヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのものである(すなわち、ヒト源に由来する)第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、Fc領域は、(i)群I253A、H310A、H435A、または(ii)群H310A、H433A、Y436A、または(iii)群L251D、L314D、L432D、または(iv)群L251S、L314S、L432S(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)より選択される変異のうちの1つまたは2つを第1のFc領域ポリペプチド中に含み、かつ変異L251D、L251S、I253A、H310A、L314D、L314S、L432D、L432S、H433A、H435A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)を含む群より選択される変異のうちの1つまたは2つを第2のFc領域ポリペプチド中に含み、その結果、変異(i)I253A、H310A、H435A、または(ii)H310A、H433A、Y436A、または(iii)L251D、L314D、L432D、または(iv)L251S、L314S、L432SのすべてがFc領域中に含まれる。
【0190】
1つの態様において、二重特異性抗体は、両方ともヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのものである(すなわち、ヒト源に由来する)第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、Fc領域は、変異I253A/H310A/H435AもしくはH310A/H433A/Y436AもしくはL251D/L314D/L432DもしくはL251S/L314S/L432Sまたはそれらの組合せをFc領域中に含み(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)、すべての変異が、第1のFc領域ポリペプチド中もしくは第2のFc領域ポリペプチド中に存在するか、または1つもしくは2つの変異が、第1のFc領域ポリペプチド中に存在し、かつ1つもしくは2つの変異が、第2のFc領域ポリペプチド中に存在し、その結果、変異(i)I253A、H310A、H435A、または(ii)H310A、H433A、Y436A、または(iii)L251D、L314D、L432D、または(iv)L251S、L314S、L432SのすべてがFc領域中に含まれる。
【0191】
本明細書において報告されるさらに別の局面は、二重特異性抗体を含む薬学的製剤、眼血管疾患の治療における使用のための薬学的製剤、眼血管疾患の治療用の医薬の製造のための二重特異性抗体の使用、そのような治療を必要とする患者に二重特異性抗体を投与する段階によって、眼血管疾患に罹患している患者を治療する方法である。1つの態様において、二重特異性抗体または二重特異性抗体を含む薬学的製剤は、硝子体内適用によって投与される。
【0192】
本発明によるさらなる局面は、本明細書において報告される二重特異性抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子である。
【0193】
本発明はさらに、原核宿主細胞または真核宿主細胞において核酸を発現できる、本明細書において報告される核酸を含む発現ベクター、および本明細書において報告される二重特異性抗体を組換え作製するためのそのようなベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0194】
本発明はさらに、本明細書において報告されるベクターを含む原核宿主細胞または真核宿主細胞も含む。
【0195】
本発明はさらに、原核宿主細胞または真核宿主細胞において本明細書において報告される核酸を発現させる段階、およびその細胞または細胞培養上清から二重特異性抗体を回収する段階を特徴とする、本明細書において報告される二重特異抗体を作製するための方法も含む。1つの態様は、
(a)抗体をコードする核酸分子を含むベクターで宿主細胞を形質転換する段階;
(b)抗体の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養する段階;および
(c)培養物から抗体を回収する段階
を含む、本明細書において報告される二重特異抗体を調製するための方法である。
【0196】
本発明はさらに、二重特異性抗体を作製するためのこのような方法によって得られる抗体も含む。
【0197】
本明細書において報告される抗体は、眼血管疾患に罹患している患者に恩恵をもたらすFc領域中の特殊な修飾の寄与により、極めて有用な特性を有する。それらは、(重鎖定常領域を有していないより小さな抗体断片と比べて)硝子体内環境における高い安定性および眼からの緩徐な拡散を示し、その場所で、実際の疾患が捜し出され、治療される(したがって、治療スケジュールが、例えばFab断片および(Fab)2断片のようなIgGに似ていない抗体と比べて良くなる可能性が潜在的にある)。その一方で、本明細書において報告される抗体は、血清からかなり速くクリアランスされる(このことは、全身的曝露に起因する潜在的副作用を減少させるために極めて望ましい)。驚くべきことに、それらはまた、(定常領域中に変異I253A、H310A、およびH435Aの組合せを有していない種類と比べて)低い粘度を示し(
図2を参照されたい)、したがって、眼疾患の治療期間中に細い針によって硝子体内適用するのに特に有用である(このような適用のために、典型的には、細い針が使用され、粘度が高いと、適切に適用することがかなり困難になる)。低粘度はまた、高濃度の製剤も可能にする。
【0198】
また、驚くべきことに、本明細書において報告される抗体は、(Fc領域中に変異I253A、H310A、およびH435Aの組合せを有していない種類と比べて)保存中に低い凝集傾向を示し(
図4を参照されたい)、このことは、(眼における凝集は、そのような治療中に合併症を招く場合があるため、)眼における硝子体内適用にとって不可欠である。
【0199】
本明細書において報告される二重特異性抗体は、血管疾患を阻止するにあたって優れた有効性を示す。
【0200】
特定の態様において、本明細書において報告される二重特異性抗体は、定常領域中の特殊な修飾(例えば、P329G LALA)の寄与により、Fcγ受容体への結合なし/Fcγ受容体の結合なし、のような有用な特性を示し、これにより、血栓症および/または望まれない(例えばADCCに起因する)細胞死のような副作用のリスクが低下する。
【0201】
本明細書において報告される1つの態様において、本明細書において報告される二重特異性抗体は、二価である。
【0202】
本発明による1つの局面において、本明細書において報告される二重特異性二価抗体は、
(a)VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖、ならびに
(b)定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖
を含むことを特徴とする。
【0203】
ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)およびヒトアンギオポエチン-2(ANG-2)に特異的に結合する二重特異性抗体のための、この二重特異性二価抗体形態は、WO 2009/080253において説明されている(ノブイントゥーホール修飾されたCH3ドメインを含む)。この二重特異性二価抗体形態に基づく抗体は、CrossMabと名付けられている。
【0204】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 38のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 40のアミノ酸配列、ならびに
(b)第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 39のアミノ酸配列、および第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 41のアミノ酸配列
を含むことを特徴とする。
【0205】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 34のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 36のアミノ酸配列、ならびに
(b)第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 35のアミノ酸配列、および第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 37のアミノ酸配列
を含むことを特徴とする。
【0206】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 42のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 44のアミノ酸配列、ならびに
(b)第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 43のアミノ酸配列、および第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 45のアミノ酸配列
を含むことを特徴とする。
【0207】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 90のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 40のアミノ酸配列、ならびに
(b)第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 91のアミノ酸配列、および第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 41のアミノ酸配列
を含むことを特徴とする。
【0208】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 88のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 36のアミノ酸配列、ならびに
(b)第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 89のアミノ酸配列、および第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 37のアミノ酸配列
を含むことを特徴とする。
【0209】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 92のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 44のアミノ酸配列、ならびに
(b)第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 93のアミノ酸配列、および第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 45のアミノ酸配列
を含むことを特徴とする。
【0210】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 38、SEQ ID NO: 39、SEQ ID NO: 40、およびSEQ ID NO: 41のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0211】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 34、SEQ ID NO: 35、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 37のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0212】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 42、SEQ ID NO: 43、SEQ ID NO: 44、およびSEQ ID NO: 45のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0213】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 90、SEQ ID NO: 91、SEQ ID NO: 40、およびSEQ ID NO: 41のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0214】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 88、SEQ ID NO: 89、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 37のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0215】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 92、SEQ ID NO: 93、SEQ ID NO: 44、およびSEQ ID NO: 45のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0216】
本明細書において報告される別の局面において、本明細書において報告される二重特異性抗体は、
(a)VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖、ならびに
(b)重鎖のN末端がペプチドリンカーを介して軽鎖のC末端に連結されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の重鎖および軽鎖
を含むことを特徴とする。
【0217】
ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)およびヒトアンギオポエチン-2(ANG-2)に特異的に結合するこの二重特異性抗体のための、この二重特異性二価抗体形態は、WO 2011/117330において説明されている(ノブイントゥーホール修飾されたCH3ドメインを含む)。この二重特異性二価抗体形態に基づく抗体は、一アーム単鎖Fab(OAscFab)と名付けられている。
【0218】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 46のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 48のアミノ酸配列を含み、かつ
(b)ペプチドリンカーを介して第2の完全長抗体の軽鎖に連結された第2の完全長抗体の重鎖として、SEQ ID NO: 47のアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする。
【0219】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 49のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 51のアミノ酸配列を含み、かつ
(b)ペプチドリンカーを介して第2の完全長抗体の軽鎖に連結された第2の完全長抗体の重鎖として、SEQ ID NO: 50のアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする。
【0220】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 94のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 48のアミノ酸配列を含み、かつ
(b)ペプチドリンカーを介して第2の完全長抗体の軽鎖に連結された第2の完全長抗体の重鎖として、SEQ ID NO: 95のアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする。
【0221】
1つの態様において、このような二重特異性二価抗体は、
(a)第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 96のアミノ酸配列、および第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 51のアミノ酸配列を含み、かつ
(b)ペプチドリンカーを介して第2の完全長抗体の軽鎖に連結された第2の完全長抗体の重鎖として、SEQ ID NO: 97のアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする。
【0222】
1つの態様において、第2の完全長抗体の重鎖および軽鎖の抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体軽鎖可変ドメイン(VL)は、次の位置:重鎖可変ドメイン44位と軽鎖可変ドメイン100位の間にジスルフィド結合を導入することによってさらに安定化されている(Kabatに基づく番号付与(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。安定化のためにジスルフィド架橋を導入するための技術は、例えば、WO 94/029350、Rajagopal, V., et al, Prot. Eng. 10 (1997) 1453-1459、Kobayashi et al., Nuclear Medicine & Biology 25 (1998) 387-393、およびSchmidt, M., et al., Oncogene 18 (1999) 1711-1721において説明されている。
【0223】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 47、およびSEQ ID NO: 48のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0224】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 49、SEQ ID NO: 50、およびSEQ ID NO: 51のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0225】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 94、SEQ ID NO: 95、およびSEQ ID NO: 48のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0226】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、SEQ ID NO: 96、SEQ ID NO: 97、およびSEQ ID NO: 51のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む二重特異性二価抗体である。
【0227】
1つの態様において、本明細書において報告される二重特異性二価抗体のCH3ドメインは、例えば、WO 96/027011、Ridgway J.B., et al., Protein Eng. 9 (1996) 617-621、およびMerchant, A.M., et al., Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681においていくつかの例を用いて詳細に説明されている「ノブイントゥーホール」技術によって改変される。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面を改変して、これら2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増加させる。(2本の重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれが、「ノブ」となることができ、他方が「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入により、ヘテロ二量体はさらに安定し (Merchant, A.M, et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681、Atwell, S., et al. J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、収率は増加する。
【0228】
本明細書において報告される全局面の1つの好ましい態様において、二重特異性抗体は、
一方の重鎖のCH3ドメインと他方の重鎖のCH3ドメインとが、抗体CH3ドメイン間の元の境界面を含む境界面でそれぞれ接する
ことを特徴とし、
境界面は、二重特異性抗体の形成を促進するように改変されており、
この改変は、
(a)一方の重鎖のCH3ドメインが、
二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面と接する、一方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面内で、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積が大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方の重鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起が生じるように、改変されること、
および
(b)他方の重鎖のCH3ドメインが、
二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの元の境界面と接する第2のCH3ドメインの元の境界面内で、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積が小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみが生じるように、改変される
ことを特徴とする。
【0229】
したがって、本発明による抗体は、1つの好ましい態様において、
(a)の完全長抗体の重鎖のCH3ドメインと(b)の完全長抗体の重鎖のCH3ドメインとが、抗体のCH3ドメイン間の元の境界面に改変を含む境界面でそれぞれ接する
ことを特徴とし、
(i)一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積が大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方の重鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起が生じ、
かつ
(ii)他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積が小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみが生じる。
【0230】
1つの好ましい態様において、側鎖の体積が大きいアミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0231】
1つの好ましい態様において、側鎖の体積が小さいアミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0232】
1つの態様において、両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの対応位置にシステイン残基(C)を導入することによってさらに改変される。
【0233】
1つの態様において、二重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、ならびに「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、およびY407V変異を含む。また、例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中へのY349C変異またはS354C変異および「ホール鎖」のCH3ドメイン中へのY439C変異またはE356C変異またはS354C変異の導入による、CH3ドメイン間のさらなる鎖間ジスルフィド架橋も使用され得る(Merchant, A. M, et al. , Nature Biotech 16 (1998) 677-681)。
【0234】
1つの態様において、本明細書において報告される二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方に変異Y349CまたはS354Cおよび変異T366W、ならびに2つのCH3ドメインのうちの他方に変異S354CまたはE356CまたはY349Cならびに変異T366S、L368A、およびY407Vを含む。1つの好ましい態様において、二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含む(一方のCH3ドメイン中の追加のY349C変異および他方のCH3ドメイン中の追加のS354C変異が、鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(KabatのEU指標に基づく番号付与)(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。1つの好ましい態様において、二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にS354C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含む (一方のCH3ドメイン中の追加のY349C変異および他方のCH3ドメイン中の追加のS354C変異が鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(KabatのEU指標に基づく番号付与(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。
【0235】
しかし、EP 1870459 A1において説明されている他のノブインホール技術もまた、代わりにまたは追加で使用することができる。したがって、二重特異性抗体のための別の例は、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中のR409D変異およびK370E変異、ならびに「ホール鎖」のCH3ドメイン中のD399K変異およびE357K変異である(KabatのEU指標に基づく番号付与(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。
【0236】
別の態様において、二重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、およびY407V変異、ならびにさらに、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D変異、K370E変異、「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K変異、E357K変異を含む。
【0237】
1つの態様において、二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、ならびに2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、およびY407V変異を含むか、または二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、およびY407V変異、ならびにさらに、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D変異、K370E変異、「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K変異、E357K変異を含む。
【0238】
1つの態様において、二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にS354C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にY349C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含むか、または二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にS354C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にY349C変異、T366S変異、L368A変異、およびY407V変異、ならびにさらに、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D変異、K370E変異、「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K変異、E357K変異を含む。
【0239】
1つの態様において、本明細書において報告される二重特異性抗体は、次の特性:
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、低い血清濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスに硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、右眼ライセート全体において同様(0.8〜1.2倍)の濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスにおいて、右眼の硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-ヒト新生児型Fc受容体に対する結合を示さないこと
のうちの1つまたは複数を有することを特徴とする。
【0240】
1つの態様において、二重特異性二価抗体は、第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むことを特徴とし、
(a)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異Y436Aを含むか、または
(b)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異I253A、H310A、およびH435Aを含むか、または
(c)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異H310A、H433A、およびY436Aを含むか、または
(d)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異L251D、L314D、およびL432Dを含むか、または
(e)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、または
(f)第1のFc領域ポリペプチドは、変異Y436Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドは、
-変異I253A、H310A、およびH435A、もしくは
-変異H310A、H433A、およびY436A、もしくは
-変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
-変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、または
(g)第1のFc領域ポリペプチドは、変異I253A、H310A、およびH435Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドは、
-変異H310A、H433A、およびY436A、もしくは
-変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
-変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、または
(h)第1のFc領域ポリペプチドは、変異H310A、H433A、およびY436Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドは、
(a)変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
(b)変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、
または
(i)第1のFc領域ポリペプチドは、変異L251D、L314D、およびL432Dを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドは、
(a)変異L251S、L314S、およびL432Sを含む。
【0241】
1つの態様において、二重特異性抗体は、両方ともヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのものである(すなわち、ヒト源に由来する)第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、Fc領域は、(i)群I253A、H310A、H435A、または(ii)群H310A、H433A、Y436A、または(iii)群L251D、L314D、L432D、または(iv)群L251S、L314S、L432S(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)より選択される変異のうちの1つまたは2つを第1のFc領域ポリペプチド中に含み、かつ変異L251D、L251S、I253A、H310A、L314D、L314S、L432D、L432S、H433A、H435A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)を含む群より選択される変異のうちの1つまたは2つを第2のFc領域ポリペプチド中に含み、その結果、ひとまとめにして考えた場合の第1のFc領域ポリペプチド中および第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436A、または(iii)L251D、L314D、およびL432D、または(iv)L251S、L314S、およびL432SがFc領域中に含まれることになる。
【0242】
1つの態様において、二重特異性抗体は、両方ともヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのものである(すなわち、ヒト源に由来する)第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、Fc領域は、変異I253A/H310A/H435AもしくはH310A/H433A/Y436AもしくはL251D/L314D/L432DもしくはL251S/L314S/L432Sまたはそれらの組合せをFc領域中に含み(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)、すべての変異が、第1のFc領域ポリペプチド中もしくは第2のFc領域ポリペプチド中に存在するか、または1つもしくは2つの変異が、第1のFc領域ポリペプチド中に存在し、かつ1つもしくは2つの変異が、第2のFc領域ポリペプチド中に存在し、その結果、ひとまとめにして考えた場合の第1のFc領域ポリペプチド中および第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436A、または(iii)L251D、L314D、およびL432D、または(iv)L251S、L314S、およびL432SがFc領域中に含まれることになる。
【0243】
1つの態様において、二重特異性二価抗体は、
(i)第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)としてSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)としてSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(ii)第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)としてSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)としてSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(iii)二重特異性抗体が、両方ともヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのものである(すなわち、ヒト源に由来する)第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、Fc領域は、(i)群I253A、H310A、H435A、または(ii)群H310A、H433A、Y436A、または(iii)群L251D、L314D、L432D、または(iv)群L251S、L314S、L432S(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)より選択される変異のうちの1つまたは2つを第1のFc領域ポリペプチド中に含み、かつ変異L251D、L251S、I253A、H310A、L314D、L314S、L432D、L432S、H433A、H435A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)を含む群より選択される変異のうちの1つまたは2つを第2のFc領域ポリペプチド中に含み、その結果、ひとまとめにして考えた場合の第1のFc領域ポリペプチド中および第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436A、または(iii)L251D、L314D、およびL432D、または(iv)L251S、L314S、およびL432SがFc領域中に含まれることになること
を特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位ならびにヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位
を含むことと、
次の特性:
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、低い血清濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスに硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、右眼ライセート全体において同様(0.8〜1.2倍)の濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスにおいて、右眼の硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-ヒト新生児型Fc受容体に対する結合を示さないこと
のうちの1つまたは複数を有することと
を特徴とする。
【0244】
1つの態様において、二重特異性二価抗体は、
(i)第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)としてSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)としてSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(ii)第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)としてSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)としてSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(iii)二重特異性抗体が、第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含み、
(a)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異Y436Aを含むか、または
(b)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異I253A、H310A、およびH435Aを含むか、または
(c)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異H310A、H433A、およびY436Aを含むか、または
(d)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異L251D、L314D、およびL432Dを含むか、または
(e)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、または
(f)第1のFc領域ポリペプチドが変異Y436Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
-変異I253A、H310A、およびH435A、もしくは
-変異H310A、H433A、およびY436A、もしくは
-変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
-変異L251S、L314S、およびL432S
を含むか、
または
(g)第1のFc領域ポリペプチドが変異I253A、H310A、およびH435Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
-変異H310A、H433A、およびY436A、もしくは
-変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
-変異L251S、L314S、およびL432S
を含むか、
または
(h)第1のFc領域ポリペプチドが、変異H310A、H433A、およびY436Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
(a)変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
(b)変異L251S、L314S、およびL432S
を含むか、
または
(i)第1のFc領域ポリペプチドが、変異L251D、L314D、およびL432Dを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
(a)変異L251S、L314S、およびL432S
を含むこと
を特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位ならびにヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位
を含むことと、
次の特性:
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、低い血清濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスに硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、右眼ライセート全体において同様(0.8〜1.2倍)の濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスにおいて、右眼の硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-ヒト新生児型Fc受容体に対する結合を示さないこと
のうちの1つまたは複数を有することと
を特徴とする。
【0245】
1つの態様において、二重特異性抗体は、
(i)第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(ii)第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(iii)二重特異性抗体が、両方ともヒトIgG1サブクラスまたはヒトIgG4サブクラスのものである(すなわち、ヒト源に由来する)第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含むFc領域を含み、Fc領域は、(i)群I253A、H310A、H435A、または(ii)群H310A、H433A、Y436A、または(iii)群L251D、L314D、L432D、または(iv)群L251S、L314S、L432S(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)より選択される変異のうちの1つまたは2つを第1のFc領域ポリペプチド中に含み、かつ変異L251D、L251S、I253A、H310A、L314D、L314S、L432D、L432S、H433A、H435A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)を含む群より選択される変異のうちの1つまたは2つを第2のFc領域ポリペプチド中に含み、その結果、ひとまとめにして考えた場合の第1のFc領域ポリペプチド中および第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436A、または(iii)L251D、L314D、およびL432D、または(iv)L251S、L314S、およびL432SがFc領域中に含まれることになること
を特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位ならびにヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位
を含むことと、
次の特性:
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、低い血清濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスに硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、右眼ライセート全体において同様(0.8〜1.2倍)の濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスにおいて、右眼の硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-ヒト新生児型Fc受容体に対する結合を示さないこと
のうちの1つまたは複数を有することと
を特徴とする。
【0246】
1つの態様において、二重特異性抗体は、
(i)第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(ii)第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン(VH)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を、軽鎖可変ドメイン(VL)として、1、2、または3個のアミノ酸置換を有するSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むこと、ならびに
(iii)二重特異性抗体が、第1のFc領域ポリペプチドと第2のFc領域ポリペプチドとを含み、
(a)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異Y436Aを含むか、または
(b)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異I253A、H310A、およびH435Aを含むか、または
(c)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異H310A、H433A、およびY436Aを含むか、または
(d)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異L251D、L314D、およびL432Dを含むか、または
(e)第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドが、変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、または
(f)第1のFc領域ポリペプチドが、変異Y436Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
-変異I253A、H310A、およびH435A、もしくは
-変異H310A、H433A、およびY436A、もしくは
-変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
-変異L251S、L314S、およびL432S
を含むか、
または
(g)第1のFc領域ポリペプチドが、変異I253A、H310A、およびH435Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
-変異H310A、H433A、およびY436A、もしくは
-変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
-変異L251S、L314S、およびL432Sを含むか、
または
(h)第1のFc領域ポリペプチドが、変異H310A、H433A、およびY436Aを含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
(a)変異L251D、L314D、およびL432D、もしくは
(b)変異L251S、L314S、およびL432S
を含むか、または
(i)第1のFc領域ポリペプチドが、変異L251D、L314D、およびL432D を含み、かつ第2のFc領域ポリペプチドが、
(a)変異L251S、L314S、およびL432S
を含むこと
を特徴とする、ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位ならびにヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位
を含むことと、
次の特性:
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、低い血清濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスに硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、右眼ライセート全体において同様(0.8〜1.2倍)の濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているが、ヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスにおいて、右眼の硝子体内適用後96時間目)(実施例6で説明するアッセイ法によって測定)こと、
-ヒト新生児型Fc受容体に対する結合を示さないこと
のうちの1つまたは複数を有することと
を特徴とする。
【0247】
本明細書において報告される二重特異性抗体の抗原結合部位は、抗原に対する結合部位の親和性に様々な程度で寄与する、6つの相補性決定領域(CDR)を含む。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2、およびCDRH3)ならびに3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2、およびCDRL3)がある。CDRおよびフレームワーク領域(FR)の範囲は、配列の可変性に基づいてそれらの領域が定められた、アミノ酸配列をまとめたデータベースと比較することによって決定される。
【0248】
全局面の1つの態様において、抗体は、ヒトFcRnに特異的に結合しない。全局面の1つの態様において、抗体は、さらに、ブドウ球菌プロテインAに特異的に結合する。
【0249】
全局面の1つの態様において、抗体は、ヒトFcRnに特異的に結合しない。全局面の1つの態様において、抗体は、さらに、ブドウ球菌プロテインAに特異的に結合しない。
【0250】
全局面の1つの態様において、第1のポリペプチドは、変異Y349C、T366S、L368A、およびY407Vをさらに含み(「ホール」)、第2のポリペプチドは、変異S354CおよびT366Wを含む(「ノブ」)。
【0251】
全局面の1つの態様において、第1のポリペプチドは、変異S354C、T366S、L368A、およびY407Vをさらに含み(「ホール」)、第2のポリペプチドは、変異Y349CおよびT366Wを含む(「ノブ」)。
【0252】
全局面の1つの態様において、Fc領域ポリペプチドは、ヒトIgG1サブクラスのものである。1つの態様において、第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異L234AおよびL235Aをさらに含む。1つの態様において、第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異P329Gをさらに含む。
【0253】
全局面の1つの態様において、Fc領域ポリペプチドは、ヒトIgG4サブクラスのものである。1つの態様において、第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異S228PおよびL235Eをさらに含む。1つの態様において、第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドは、変異P329Gをさらに含む。
【0254】
本明細書において報告される抗体は、組換え手段によって作製される。したがって、本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される抗体をコードする核酸であり、さらなる局面は、本明細書において報告される抗体をコードする核酸を含む細胞である。組換え作製のための方法は、最新技術において広く知られており、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現と、それに伴うその後の抗体単離および通常は薬学的に許容される純度までの精製とを含む。前述したように宿主細胞において抗体を発現させる場合、各(修飾された)軽鎖および重鎖をコードする核酸が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、または大腸菌(E.coli)細胞のような適切な原核宿主細胞または真核宿主細胞において実施され、抗体はこれらの細胞(培養上清または溶解後の細胞)から回収される。抗体を組換えによって作製するための一般的方法は最新技術において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202、Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282、Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160、およびWerner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880といった総説論文で説明されている。
【0255】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、
(a)抗体をコードする核酸分子を含むベクターで宿主細胞を形質転換する段階、
(b)抗体の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養する段階、および
(c)培養物から抗体を回収する段階
を含む、本明細書において報告される二重特異抗体を調製するための方法である。
【0256】
1つの態様において、(c)の回収する段階は、軽鎖定常ドメインに特異的な捕捉試薬(例えば、κ軽鎖またはλ軽鎖が二重特異性抗体中に含まれるかどうかに応じて、κ定常軽鎖またはλ定常軽鎖に特異的)の使用を含む。1つの態様において、この軽鎖特異的捕捉試薬は、結合および溶出(bind-and-elute)様式で使用される。このような軽鎖定常ドメイン特異的捕捉試薬の例は、例えば、KappaSelect(商標)およびLambdaFabSelect(商標)(GE Healthcare/BACから入手可能)であり、これらは、大規模での速い流速および低い背圧を可能にする剛性の高いアガロースベースマトリックスに基づいている。これらの材料は、κ軽鎖またはλ軽鎖の定常領域に結合するリガンドをそれぞれ含む(すなわち、軽鎖の定常領域を欠く断片は結合しないと考えられる;
図1)。したがって、両方とも、軽鎖の定常領域を含む他の標的分子、例えば、IgG、IgA、およびIgMに結合することができる。これらのリガンドは、長い親水性スペーサーアームを介してマトリックスに結合されて、標的分子に結合するために容易に利用できる状態になる。それらは、ヒトIgのκまたはλのいずれかについてスクリーニングされた単鎖抗体断片に基づいている。
【0257】
1つの態様において、(c)の回収する段階は、Fc領域に特異的な捕捉試薬の使用を含む。1つの態様において、Fc領域特異的捕捉試薬は、結合および溶出様式で使用される。このようなFc領域特異的捕捉試薬の例は、例えば、ブドウ球菌プロテインAに基づくアフィニティークロマトグラフィー材料である。
【0258】
二重特異性抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順、例えば、アフィニティークロマトグラフィー(プロテインA-セファロース、またはKappaSelect(商標)、LambdaFabSelect(商標))、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、または透析などによって、培地から適宜分離される。
【0259】
モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を用いて、容易に単離され、配列決定される。B細胞またはハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNAの供給源として役立つことができる。単離すると、DNA発現ベクター中に挿入してもよく、その後、宿主細胞中での組換えモノクローナル抗体の合成を実現するために、発現ベクターをHEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクトし、宿主細胞はさもなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない。
【0260】
本明細書において報告される分子のうちのいくつかは、修飾のうちの少なくとも1つが、(i)(ブドウ球菌)プロテインAに対するその分子の差次的な親和性、および(ii)ヒトFcRnに対するその分子の差次的な親和性をもたらす、差次的に修飾されたFc領域を含むことによって、単離/精製を容易にし、この分子は、プロテインAに対する親和性に基づいて、粉砕された細胞から、培地から、または分子の混合物から、単離することができる。
【0261】
抗体の精製は、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知の他の技術(例えば、Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい)を含む標準技術によって、細胞構成要素または他の混在物、例えば、他の細胞核酸または細胞タンパク質を除去するために実施される。微生物タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、および混合モードの交換)、硫黄親和性吸着(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを使用)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザアレーン親和性(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を使用)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)親和性材料およびCu(II)親和性材料を使用)、サイズ排除クロマトグラフィー、ならびに電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)などの様々な方法が十分に確立されており、タンパク質精製のために広く普及して使用されている(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0262】
本明細書において報告されるヒトVEGFおよびヒトANG-2に対する二価二重特異性抗体は、有用な有効性/安全性プロファイルを有することができ、抗VEGFおよび抗ANG-2療法を必要とする患者に恩恵を与えることができる。
【0263】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される抗体を含む薬学的製剤である。本明細書において報告される別の局面は、薬学的製剤を製造するための、本明細書において報告される抗体の使用である。本明細書において報告されるさらなる局面は、本明細書において報告される抗体を含む薬学的製剤を製造するための方法である。別の局面において、製剤、例えば、薬学的担体と合わせて製剤化された、本明細書において報告される抗体を含む薬学的製剤が、提供される。
【0264】
本発明の製剤は、当技術分野において公知の様々な方法によって投与することができる。当業者には理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なる。ある種の投与経路によって本明細書において報告される化合物を投与するために、化合物の不活性化を防止するための材料で化合物をコーティングすること、または化合物の不活性化を防止するための材料と共に化合物を同時投与することが必要な場合がある。例えば、適切な担体、例えば、リポソーム、または希釈剤中に入れて、化合物を対象に投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が含まれる。薬学的担体には、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注射液剤または分散剤を用時調製するための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質に対してこのような媒体および作用物質を使用することは、当技術分野において公知である。
【0265】
限定されるわけではないが、眼内適用または局所適用を含む、多くの実施可能な送達様式を使用することができる。1つの態様において、適用は眼内であり、結膜下注射、前房内(intracanieral)注射、耳側輪部(termporai limbus)を介した前房中への注射、基質内注射、角膜内注射、網膜下注射、眼房水注射、テノン嚢下(subtenon)注射、または持続的送達器具、硝子体内注射(例えば、前部硝子体注射、中央部硝子体注射、または後部硝子体注射)を含むが、それらに限定されるわけではない。1つの態様において、適用は局所的であり、角膜への点眼剤を含むが、それに限定されるわけではない。
【0266】
1つの態様において、本明細書において報告される二重特異性抗体または薬学的製剤は、硝子体内適用によって、例えば、硝子体内注射によって投与される。これは、当技術分野において公知の標準手順に従って実施することができる(例えば、Ritter et al., J. Clin. Invest. 116 (2006) 3266-3276、Russelakis-Carneiro et al., Neuropathol. Appl. Neurobiol. 25 (1999) 196-206、およびWray et al., Arch. Neurol. 33 (1976) 183-185を参照されたい)。
【0267】
いくつかの態様において、本明細書において報告される治療用キットは、本明細書において説明する薬学的製剤中に存在する1回量または複数回量の(二重特異性)抗体、薬学的製剤の硝子体内注射のための適切な器具、ならびに注射を実施するための適切な対象およびプロトコールを詳述している取扱い説明書を含み得る。これらの態様において、典型的には、製剤は、硝子体内注射による治療を必要とする対象に投与される。これは、当技術分野において公知の標準手順に従って実施することができる(例えば、Ritter et al., J. Clin. Invest. 116 (2006) 3266-3276、Russelakis-Carneiro et al., Neuropathol. Appl. Neurobiol. 25 (1999) 196-206、およびWray et al., Arch. Neurol. 33 (1976) 183-185を参照されたい)。
【0268】
これらの製剤はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤も含んでよい。微生物の存在の防止は、前記の滅菌手順、ならびに様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸などを含めることの両方によって徹底することができる。また、糖および塩化ナトリウムなどの等張化剤を製剤中に含めることが望ましい場合もある。さらに、注射可能な薬剤形態の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど吸収を遅延させる作用物質を含めることによって実現することができる。
【0269】
選択された投与経路に関わらず、適切な水和型で使用され得る本明細書において報告される化合物、および/または本明細書において報告される薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0270】
本明細書において報告される薬学的製剤中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者に毒性とならずに、個々の患者、製剤、および投与様式にとって望ましい治療応答を達成するのに有効である量の活性成分を得られるように、変更することができる。選択される投与量レベルは、使用される個々の製剤の活性、投与経路、投与時間、使用される個々の化合物の排出速度、治療の継続期間、使用される個々の製剤と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的健康状態、および以前の病歴、ならびに医薬分野で周知である同様の因子を含む、様々な薬物動態学的因子に依存すると考えられる。
【0271】
これらの製剤は、無菌であり、かつ注射器によって製剤を送達できる程度に流動性でなければならない。水のほかには、担体は、好ましくは、等張性の緩衝生理食塩水である。
【0272】
適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング剤の使用、分散系の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール、および塩化ナトリウムを製剤中に含むことが好ましい。
【0273】
製剤は、結膜下投与のための活性物質を含む眼用デポー製剤を含むことができる。眼用デポー製剤は、本質的に純粋な活性物質、例えば、本明細書において報告される二重特異性抗体の微粒子を含む。本明細書において報告される二重特異性抗体を含む微粒子は、生体適合性の薬学的に許容されるポリマーまたは脂質カプセル化物質中に埋め込むことができる。デポー製剤は、長期間に渡って、実質的にすべての活性材料を残さず放出するように適合させることができる。ポリマーまたは脂質マトリックスが存在する場合、すべてまたは実質的にすべての活性物質を放出した後、投与部位から輸送されるのに十分な程度に分解するようにそれらを適合させることができる。デポー製剤は、薬学的に許容されるポリマーおよび溶解または分散された活性物質を含む液体製剤であることができる。注射すると、ポリマーは、例えば、ゲル化(gelifying)または沈殿することによって、注射部位にデポーを形成する。
【0274】
本明細書において報告される別の局面は、眼血管疾患の治療における使用のための、本明細書において報告される二重特異性抗体である。
【0275】
本明細書において報告される別の局面は、眼血管疾患の治療における使用のための、本明細書において報告される薬学的製剤である。
【0276】
本明細書において報告される別の局面は、眼血管疾患の治療用の医薬の製造のための、本明細書において報告される抗体の使用である。
【0277】
本明細書において報告される別の局面は、そのような治療を必要とする患者に本明細書において報告される抗体を投与する段階によって、眼血管疾患に罹患している患者を治療する方法である。
【0278】
本明細書において使用される「含む(comprising)」という用語は、「からなる(consisting of)」という用語を含むことを、ここにはっきりと言明する。したがって、「含む(comprising)」という用語を含む局面および態様はすべて、「からなる(consisting of)」という用語を用いて同様に開示される。
【0279】
修飾
さらなる局面において、上記の態様のいずれかに記載の抗体は、下記のセクション1〜6において説明する特徴のうちのいずれかを、単独でまたは組み合わせて組み入れてよい。
【0280】
1.抗体親和性
特定の態様において、本明細書において提供される抗体の解離定数(Kd)は、100nM以下、10nM以下(例えば、10
-7Mまたはそれ未満、例えば10
-7M〜10
-13M、例えば10
-8M〜10
-13M)である。
【0281】
1つの態様において、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイ法を用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)2000またはBIACORE(登録商標)3000(GE Healthcare Inc., Piscataway, NJ)を用いたアッセイ法を、約10レスポンスユニット(RU)の抗原固定化CM5チップを用いて25℃で実施する。1つの態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、GE Healthcare Inc.)を、供給業者の取扱い説明書に従ってN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/mL(約0.2μM)に希釈した後、結合タンパク質のレスポンスユニット(RU)が約10に達するように流速5μL/分で注入する。抗原の注入後、反応しなかった基をブロックするために1Mエタノールアミンを注入する。動態測定のために、25℃、流速約25μL/分で、Fabの2倍段階希釈物(0.78nM〜500nM)を0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS(PBST)に注入する。結合センサーグラムおよび解離センサーグラムを同時にフィッティングすることにより、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Softwareバージョン3.2)を用いて、結合速度(k
on)および解離速度(k
off)を算出する。平衡解離定数(Kd)は、比k
off/k
onとして算出する(例えば、Chen, Y. et al., J. Mol. Biol. 293 (1999) 865-881を参照されたい)。上記の表面プラズモン共鳴アッセイ法による結合速度が10
6M
-1 s
-1を上回る場合、ストップフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)または撹拌キュベットを用いる8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計で測定されるように、漸増濃度の抗原の存在下にてpH7.2のPBS中20nM抗抗原抗体(Fab型)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、帯域16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって、結合速度を測定することができる。
【0282】
2.キメラ抗体およびヒト化抗体
特定の態様において、本明細書において提供される抗体は、キメラ抗体である。いくつかのキメラ抗体が、例えば、US4,816,567;およびMorrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855において説明されている。1つの例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはヒト以外の霊長類、例えばサルに由来する可変領域)およびヒト定常領域を含む。別の例において、キメラ抗体は、クラスまたはサブクラスが親抗体のものから変更された、「クラススイッチされた」抗体である。キメラ抗体には、その抗原結合断片が含まれる。
【0283】
特定の態様において、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体をヒト化して、非ヒト親抗体の特異性および親和性を保持しつつ、ヒトに対する免疫原性を低下させる。通常、ヒト化抗体は、HVR、例えばCDR(またはその一部分)が非ヒト抗体に由来し、FR(またはその一部分)がヒト抗体配列に由来する、1つまたは複数の可変ドメインを含む。また、ヒト化抗体は、ヒト定常領域についての少なくとも1つの部分も任意で含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体中のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性または親和性を回復させるか、または向上させるために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基の由来元である抗体)に由来する対応する残基で置換されている。
【0284】
ヒト化抗体およびそれらを作製する方法は、例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633において概説されており、例えば、Riechmann, I., et al., Nature 332 (1988) 323-329; Queen, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033; US5,821,337、US7,527,791、US6,982,321、およびUS7,087,409; Kashmiri, S.V., et al., Methods 36 (2005) 25-34(特異性決定領域(SDR)グラフティングを説明); Padlan, E.A., Mol. Immunol. 28 (1991) 489-498(「リサーフェシング」を説明); Dall'Acqua, W.F. et al., Methods 36 (2005) 43-60(「FRシャッフリング」を説明); Osbourn, J. et al., Methods 36 (2005) 61-68; およびKlimka, A. et al., Br. J. Cancer 83 (2000) 252-260(「FRシャッフリング」に取り組む「導かれた選択」アプローチを説明)においてさらに説明されている。
【0285】
ヒト化のために使用され得るヒトフレームワーク領域には、「ベストフィット」法(例えば、Sims, M.J., et al., J. Immunol. 151 (1993) 2296-2308を参照されたい)を用いて選択されたフレームワーク領域;特定のサブグループの軽鎖可変領域または重鎖可変領域のヒト抗体コンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;およびPresta, L.G., et al., J. Immunol. 151 (1993) 2623-2632を参照されたい);ヒト成熟(体細胞性に変異した)フレームワーク領域またはヒト生殖系列フレームワーク領域(例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633を参照されたい);およびFRライブラリーをスクリーニングして得られたフレームワーク領域(例えば、Baca, M., et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 10678-10684およびRosok, M.J., et al., J. Biol. Chem. 271 (19969 22611-22618を参照されたい)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0286】
3.ヒト抗体
特定の態様において、本明細書において提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野において公知の様々な技術を用いて作製することができる。ヒト抗体は、van Dijk, M.A. and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Pharmacol. 5 (2001) 368-374およびLonberg, N., Curr. Opin. Immunol. 20 (2008) 450-459において一般的に説明されている。
【0287】
ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してヒトインタクト抗体またはヒト可変領域を有するインタクト抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって、調製することができる。典型的には、このような動物は、内在性の免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、または染色体外に存在するか、もしくは動物の染色体中にランダムに組み込まれる、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含む。このようなトランスジェニックマウスにおいて、通常、内在性の免疫グロブリン遺伝子座は不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の概説については、Lonberg, N., Nat. Biotech. 23 (2005) 1117-1125を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を説明するUS6,075,181およびUS6,150,584;HUMAB(登録商標)技術を説明するUS5,770,429;K-M MOUSE(登録商標)技術を説明するUS7,041,870、ならびにVELOCIMOUSE(登録商標)技術を説明するUS2007/0061900も参照されたい。このような動物によって産生されるインタクト抗体に由来するヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と結合させることによって、さらに修飾することができる。
【0288】
ヒト抗体はまた、ハイブリドーマに基づく方法によって作製することもできる。ヒトモノクローナル抗体を作製するためのヒト骨髄腫細胞株およびマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株は説明されている(例えば、Kozbor, D., J. Immunol. 133 (1984) 3001-3005; Brodeur, B.R., et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York (1987), pp. 51-63;およびBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95を参照されたい)。また、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって作製したヒト抗体が、Li, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006) 3557-3562において説明されている。その他の方法には、例えば、US7,189,826(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の作製を説明)およびNi, J., Xiandai Mianyixue 26 (2006) 265-268(ヒト-ヒトハイブリドーマを説明)において説明されているものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers, H.P. and Brandlein, S., Histology and Histopathology 20 (2005) 927-937およびVollmers, H.P. and Brandlein, S., Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27 (2005) 185-191においても説明されている。
【0289】
ヒト抗体はまた、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーより選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって作製することもできる。次いで、このような可変ドメイン配列を、所望のヒト定常ドメインと結合させてよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術を以下に説明する。
【0290】
4.ライブラリー由来の抗体
本明細書において報告される抗体は、所望の1種または複数種の活性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって、単離することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、所望の結合特徴を有する抗体についてそのようなライブラリーをスクリーニングするための様々な方法が、当技術分野において公知である。このような方法は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al., Methods in Molecular Biology 178 (2001) 1-37において概説されており、例えば、McCafferty, J. et al., Nature 348 (1990) 552-554; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628; Marks, J.D. et al., J. Mol. Biol. 222 (1992) 581-597; Marks, J.D. and Bradbury, A., Methods in Molecular Biology 248 (2003) 161-175; Sidhu, S.S. et al., J. Mol. Biol. 338 (2004) 299-310; Lee, C.V. et al., J. Mol. Biol. 340 (2004) 1073-1093; Fellouse, F.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (2004) 12467-12472;およびLee, C.V. et al., J. Immunol. Methods 284 (2004) 119-132においてさらに説明されている。
【0291】
特定のファージディスプレイ法では、VH遺伝子のレパートリーおよびVL遺伝子のレパートリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングし、ファージライブラリーにおいて無作為に組み換え、次いで、Winter, G., et al., Ann. Rev. Immunol. 12 (1994) 433-455で説明されているとおりに、抗原結合ファージについてそれらをスクリーニングすることができる。典型的には、ファージは、単鎖Fv(scFv)断片またはFab断片のいずれかとして抗体断片を提示する。免疫化された供給源に由来するライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性抗体を提供する。あるいは、Griffiths, A.D., et al., EMBO J. 12 (1993) 725-734によって説明されているように、未処置のレパートリーを(例えばヒトから)クローニングして、まったく免疫化せずに、広範な非自己抗原およびまた自己抗原に対する単一の抗体供給源を提供することもできる。最後に、Hoogenboom, H.R. and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388によって説明されているように、幹細胞由来の再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、かつランダム配列を含むPCRプライマーを用いて可変性に富むCDR3領域をコードし、インビトロでの再配列を達成することによって、未処置のライブラリーを合成的に作製することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを説明している特許公報には、例えば、US5,750,373、およびUS2005/0079574、US2005/0119455、US2005/0266000、US2007/0117126、US2007/0160598、US2007/0237764、US2007/0292936、およびUS2009/0002360が含まれる。
【0292】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体または抗体断片は、本明細書においてヒト抗体またはヒト抗体断片とみなされる。
【0293】
5.多重特異性抗体
特定の態様において、本明細書において提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。また、二重特異性抗体は、標的抗原の1つまたは複数を発現する細胞に細胞障害性物質を局在させるのにも使用され得る。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。
【0294】
多重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組み換え同時発現(Milstein, C. and Cuello, A.C., Nature 305 (1983) 537-540、WO93/08829、およびTraunecker, A., et al., EMBO J. 10 (1991) 3655-3659を参照されたい)および「ノブインホール(knob-in-hole)」操作(例えばUS5,731,168を参照されたい)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。また、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電気的操縦(electrostatic steering)効果を操作すること(WO2009/089004);2つまたはそれ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、US4,676,980およびBrennan, M. et al., Science 229 (1985) 81-83を参照されたい);二重特異性抗体を作製するためのロイシンジッパーを用いること(例えば、Kostelny, S.A., et al., J. Immunol. 148 (1992) 1547-1553を参照されたい);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術を用いること(例えば、Holliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448を参照されたい);および単鎖Fv(sFv)二量体を用いること(例えば、Gruber, M. et al., J. Immunol. 152 (1994) 5368-5374を参照されたい);ならびに例えばTutt, A. et al., J. Immunol. 147 (1991) 60-69で説明されているとおりに、三重特異性抗体を調製することによって、多重特異性抗体を作製することもできる。
【0295】
「オクトパス抗体(Octopus antibodies)」を含む、3つまたはそれ以上の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体もまた、本明細書に含まれる(例えば、US2006/0025576を参照されたい)。
【0296】
また、本明細書の抗体または断片には、第1の抗原におよび別の異なる抗原に結合する抗原結合部位を含む「二重作用性Fab」または「DAF」が含まれる(例えば、US2008/0069820を参照されたい)。
【0297】
本明細書の抗体または断片にはまた、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792、およびWO2010/145793において説明されている多重特異性抗体も含まれる。
【0298】
6.抗体変種
特定の態様において、本明細書において提供される抗体のアミノ酸配列変種が企図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列変種は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入することによって、またはペプチド合成によって、調製することができる。このような修飾には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、ならびに/または残基中への挿入、および/もしくは残基の置換が含まれる。最終構築物が所望の特徴、例えば、抗原結合を示すことを条件として、欠失、挿入、および置換の任意の組合せを行って、最終構築物を得てもよい。
【0299】
(a)置換変種、挿入変種、および欠失変種
特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する抗体変種が、提供される。対象となる置換変異誘発部位には、HVRおよびFRが含まれる。保存的置換は、下記の表の「好ましい置換」という項目の下に示す。より実質的な変更は、以下の表の「例示的置換」という項目の下に提供し、アミノ酸側鎖のクラスに関してさらに後述する。アミノ酸置換を関心対象の抗体に導入し、その作製物を所望の活性、例えば、保持された/向上した抗原結合、低下した免疫原性、または改善したADCCもしくはCDCについてスクリーニングすることができる。
【0301】
アミノ酸は、側鎖の共通特性に基づいてグループ分けされ得る:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性で親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の向きに影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0302】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
【0303】
置換変種の1つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つまたは複数の超可変領域残基の置換を含む。一般に、その後の研究のために選択される得られた変種は、親抗体を基準としていくつかの生物学的特性の変化(例えば改善)(例えば、増大した親和性、低下した免疫原性)を有しており、かつ/または親抗体のいくつかの生物学的特性を実質的に保持する。例示的な置換変種は、例えば、本明細書において説明するもののようなファージディスプレイに基づく親和性成熟技術を用いて簡便に作製することができる、親和性成熟抗体である。簡単に説明すると、1つまたは複数のHVR残基を変異させ、変種抗体をファージ上に提示させ、特定の生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。
【0304】
例えば、抗体親和性を向上させるために、HVR中に改変(例えば置換)がなされてよい。このような改変は、HVR「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟プロセスの間に高頻度で変異を経験するコドンにコードされる残基(例えば、Chowdhury, P.S., Methods Mol. Biol. 207 (2008) 179-196を参照されたい)中、および/または抗原と接触する残基中になされてよく、得られた変種VHまたは変種VLを結合親和性について試験する。二次ライブラリーを構築し、それから再選択することによる親和性成熟は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al. in Methods in Molecular Biology 178 (2002) 1-37において説明されている。親和性成熟のいくつかの態様において、様々な方法(例えば、誤りがちなPCR、チェーンシャッフリング、またはオリゴヌクレオチド指定変異誘発)のいずれかによって、成熟のために選択された可変遺伝子中に多様性が導入される。次いで、二次ライブラリーが作製される。次いで、ライブラリーをスクリーニングして、所望の親和性を有する任意の抗体変種を同定する。多様性を導入するための別の方法は、いくつかのHVR残基(例えば、同時に4〜6個の残基)がランダム化される、HVRを対象とするアプローチを伴う。抗原結合に関与しているHVR残基は、例えばアラニンスキャニング変異誘発またはモデリングを用いて、特異的に同定することができる。特に、CDR-H3およびCDR-L3がしばしば標的とされる。
【0305】
特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、このような改変によって、抗体が抗原に結合する能力が実質的に低下しない限り、1つまたは複数のHVR内に存在してよい。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的改変(例えば、本明細書において提供される保存的置換)がHVR中になされてよい。このような改変は、例えば、HVRにおける抗原接触残基の外側でもよい。上記で提供した変種VH配列および変種VL配列の特定の態様において、各HVRは、未改変であるか、または1個、2個、もしくは3個以下のアミノ酸置換を含むかのいずれかである。
【0306】
変異誘発の標的とされ得る抗体の残基または領域を同定するために有用な方法は、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれ、Cunningham, B.C. and Wells, J.A., Science 244 (1989) 1081-1085によって説明されている。この方法では、残基または標的残基群(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電残基)を同定し、中性アミノ酸または負電荷を持つアミノ酸(例えば、アラニンまたはポリアラニン)によって置換して、抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうか判定する。最初の置換に対して機能的感受性を示すアミノ酸位置に、さらに置換を導入してよい。あるいはまたはさらに、抗体と抗原の接触点を特定するための抗原-抗体複合体の結晶構造を用いることができる。このような接触残基および隣接残基を、置換の候補として標的とするか、または除去してよい。変種をスクリーニングして、それらが所望の特性を有するかどうかを判定してよい。
【0307】
アミノ酸配列挿入には、長さが残基1個から100個またはそれ以上の残基を含むポリペプチドまで及ぶアミノ末端融合および/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変種には、(例えばADEPTのための)酵素または抗体の血清半減期を長くするポリペプチドへの、抗体のN末端またはC末端への融合が含まれる。
【0308】
(b)グリコシル化変種
特定の態様において、本明細書において提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を大きくするか、または小さくするように改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加または欠失は、1つまたは複数のグリコシル化部位が作製されるかまたは取り除かれるようにアミノ酸配列を改変することによって、簡便に達成することができる。
【0309】
抗体がFc領域を含む場合、それに結合する炭水化物を改変してよい。典型的には、哺乳動物細胞によって産生されるネイティブ抗体は、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN結合によって通常結合している分枝状の二分岐オリゴ糖を含む。例えば、Wright, A. and Morrison, S.L., TIBTECH 15 (1997) 26-32を参照されたい。オリゴ糖には、様々な炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、およびシアル酸、ならびに二分岐オリゴ糖構造の「軸(stem)」中のGlcNAcに結合したフコースが含まれ得る。いくつかの態様において、いくつかの特性が改善した抗体変種を作製するために、本明細書で報告される抗体中のオリゴ糖に修飾を加えてよい。
【0310】
1つの態様において、Fc領域に(直接的にまたは間接的に)結合されたフコースを欠く炭水化物構造を有する抗体変種が提供される。例えば、このような抗体中のフコースの量は、1%〜80%、1%〜65%、5%〜65%、または20%〜40%であってよい。フコースの量は、例えばWO2008/077546において説明されているように、MALDI-TOF質量分析法によって測定して、Asn297に結合した糖構造物(glycostructure)すべて(例えば、複合体構造物、ハイブリッド構造物、および高マンノース構造物)の合計に対するAsn297における糖鎖内のフコースの平均量を算出することによって決定される。Asn297は、Fc領域中の297位あたり(Fc領域残基のEU番号付与)に位置するアスパラギン残基を意味する;しかしながら、Asn297は、抗体の軽微な配列変異が原因で、297位からアミノ酸±約3個だけ上流または下流に、すなわち、294位と300位の間に位置してもよい。このようなフコシル化変種は、ADCC機能が向上している場合がある。例えば、US2003/0157108; US2004/0093621を参照されたい。「脱フコシル化された」または「フコースを欠く」抗体変種に関連した刊行物の例には、US2003/0157108;WO2000/61739;WO2001/29246;US2003/0115614;US2002/0164328;US2004/0093621;US2004/0132140;US2004/0110704;US2004/0110282;US2004/0109865;WO2003/085119;WO2003/084570;WO2005/035586;WO2005/035778;WO2005/053742;WO2002/031140;Okazaki, A. et al., J. Mol. Biol. 336 (2004) 1239-1249;Yamane-Ohnuki, N. et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622が含まれる。脱フコシル化抗体を産生できる細胞株の例には、タンパク質フコシル化に欠陥があるLec13 CHO細胞(Ripka, J., et al., Arch. Biochem. Biophys. 249 (1986) 533-545;US2003/0157108;およびWO2004/056312、特に実施例11)およびノックアウト細胞株、例えば、α-1,6-フコシル基転移酵素遺伝子FUT8ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki, N., et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622; Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng. 94 (2006) 680-688;およびWO2003/085107を参照されたい)が含まれる。
【0311】
抗体変種は、分岐したオリゴ糖と共にさらに提供され、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐型オリゴ糖は、GlcNAcによって分岐している。このような抗体変種は、フコシル化が減少し、かつ/またはADCC機能が向上している場合がある。このような抗体変種の例は、例えば、WO2003/011878;US6,602,684;およびUS2005/0123546において説明されている。Fc領域に結合したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変種もまた、提供される。このような抗体変種は、CDC機能が向上している場合がある。このような抗体変種は、例えば、WO1997/30087;WO1998/58964;およびWO1999/22764において説明されている。
【0312】
(c)Fc領域変種
特定の態様において、1つまたは複数のさらなるアミノ酸修飾を本明細書において提供される抗体のFc領域中に導入し、それによってFc領域変種を作製することができる。Fc領域変種は、1つまたは複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば置換/変異)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)を含み得る。
【0313】
特定の態様において、本発明は、すべてではないがいくつかのエフェクター機能を有する抗体変種を企図する。このことにより、その抗体は、インビボでの抗体の半減期が重要ではあるが、ある種のエフェクター機能(CDCおよびADCCなど)が不必要または有害である用途に対する望ましい候補となる。インビトロおよび/またはインビボの細胞障害性アッセイ法を行って、CDC活性および/またはADCC活性の減少/消失(depletion)を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイ法を行って、抗体はFcγR結合を欠く(したがって、ADCC活性を欠く可能性が高い)がFcRn結合能を保持していることを確実にすることができる。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcR発現は、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492の464頁の表3に要約されている。関心対象の分子のADCC活性を評価するためのインビトロのアッセイ法の非限定的な例は、US5,500,362(例えば、Hellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;およびHellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502を参照されたい);US5,821,337(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照されたい)において説明されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTI(商標)非放射性細胞障害性アッセイ法(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞障害性アッセイ法(Promega, Madison, WI)を参照されたい)。このようなアッセイ法に有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、またはさらに、関心対象の分子のADCC活性は、インビボで、例えば、Clynes, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 652-656で開示されているもののような動物モデルにおいて評価してもよい。また、C1q結合アッセイ法を実施して、抗体はC1qに結合することができず、したがって、CDC活性を欠くことを確認することもできる。例えば、WO2006/029879およびWO2005/100402におけるC1qおよびC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイ法を実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro, H. et al., J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171; Cragg, M.S. et al., Blood 101 (2003) 1045-1052;およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照されたい)。FcRn結合およびインビボのクリアランス/半減期の測定はまた、当技術分野において公知の方法を用いて実施することもできる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int. Immunol. 18 (2006) 1759-1769を参照されたい)。
【0314】
エフェクター機能が低下している抗体には、Fc領域残基238位、265位、269位、270位、297位、327位、および329位のうちの1つまたは複数が置換されたものが含まれる(US6,737,056)。このようなFc領域変種には、残基265位および297位がアラニンに置換された、いわゆる「DANA」Fc領域変異体を含む、アミノ酸265位、269位、270位、297位、および327位のうちの2つまたはそれ以上における置換を有するFc領域が含まれる(US7,332,581)。
【0315】
FcRへの結合が改善されているか、または減弱している特定の抗体変種が説明されている(例えば、US6,737,056;WO2004/056312、およびShields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照されたい)。
【0316】
特定の態様において、抗体変種は、ADCCを向上させる1つまたは複数のアミノ酸置換、例えばFc領域の298位、333位、および/または334位(残基のEU番号付与)の位置における置換を有するFc領域を含む。
【0317】
例えば、US6,194,551、WO99/51642、およびIdusogie, E.E. et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184において説明されているように、いくつかの態様において、C1q結合および/または補体依存性細胞障害性(CDC)の変化(すなわち、向上または減弱のいずれか)をもたらす改変が、Fc領域中に施される。
【0318】
胎児への母親のIgGの移行に関与する、半減期が長くなり新生児型Fc受容体(FcRn)への結合が向上した抗体(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117 (1976) 587-593およびKim, J.K. et al., J. Immunol. 24 (1994) 2429-2434)は、US2005/0014934において説明されている。これらの抗体はFcRnへのFc領域の結合を向上させる1つまたは複数の置換をその中に有するFc領域を含む。このようなFc領域変種には、Fc領域残基:238位、256位、265位、272位、286位、303位、305位、307位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、413位、424位、または434位のうちの1つまたは複数における置換、例えばFc領域残基434位の置換を有するものが含まれる(US7,371,826)。
【0319】
Fc領域変種の他の例に関しては、Duncan, A.R. and Winter, G., Nature 322 (1988) 738-740;US5,648,260;US5,624,821;およびWO94/29351も参照されたい。
【0320】
(d)システインで操作された抗体変種
特定の態様において、システインで操作された抗体、例えば、抗体の1つまたは複数の残基がシステイン残基で置換されている「チオMAb」を作製することが望ましい場合がある。特定の態様において、置換される残基は、抗体の接近可能な部位に存在する。それらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基が、その結果、抗体の接近可能な部位に位置づけられ、本明細書においてさらに説明するように、薬物部分またはリンカー-薬物部分などの他の部分に抗体をコンジュゲートさせて免疫コンジュゲートを作製するために使用され得る。特定の態様において、次の残基の任意の1つまたは複数をシステインで置換してよい:軽鎖のV205(Kabatの番号付与);重鎖のA118(EU番号付与);および重鎖Fc領域のS400(EU番号付与)。システインで操作された抗体は、例えば、US7,521,541において説明されているとおりに作製することができる。
【0321】
(e)抗体誘導体
特定の態様において、本明細書において提供される抗体は、当技術分野において公知であり、容易に入手可能である付加的な非タンパク性部分を含むようにさらに修飾され得る。抗体の誘導体化に適した部分には、水溶性ポリマーが含まれるがそれに限定されるわけではない。水溶性ポリマーの非限定的な例には、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダム共重合体のいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレン(prolypropylene)オキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中で安定であるため、製造の際に有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量のものでよく、分枝状または非分枝状でよい。抗体に結合されるポリマーの数は変動してよく、複数のポリマーが結合される場合、それらは同じ分子または異なる分子でよい。通常、誘導体化のために使用されるポリマーの数および/またはタイプは、限定されるわけではないが、改善しようとする抗体の特定の特性または機能、その抗体誘導体が所定の条件下で治療法において使用されるかどうかなどを含む考慮すべき事柄に基づいて決定することができる。
【0322】
別の態様において、抗体と放射線への曝露によって選択的に加熱され得る非タンパク性部分とのコンジュゲートが提供される。1つの態様において、非タンパク性部分はカーボンナノチューブである(Kam, N.W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (2005) 11600-11605)。放射線は、任意の波長のものでよく、普通の細胞には害を与えないが、抗体-非タンパク性部分の近位にある細胞が死滅する温度まで非タンパク性部分を加熱する波長が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0323】
(f)ヘテロ二量体化
ヘテロ二量体化を強いるためのCH3修飾にはいくつかのアプローチが存在し、例えば、WO 96/27011、WO 98/050431、EP 1870459、WO 2007/110205、WO 2007/147901、WO 2009/089004、WO 2010/129304、WO 2011/90754、WO 2011/143545、WO 2012058768、WO 2013157954、WO 2013096291において十分に説明されている。典型的には、このようなアプローチのいずれにおいても、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインは両方とも、各CH3ドメイン(またはそれを含む重鎖)がそれ自身とはもはやホモ二量体化できないが、操作された相補的な他方のCH3ドメインとヘテロ二量体化することを余儀なくされるように、相補的な様式で操作される(その結果、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインがヘテロ二量体化し、第1のCH3ドメイン2つのホモ二量体も第2のCH3ドメイン2つのホモ二量体も、形成されない)。重鎖のヘテロ二量体化を改善するためのこれらの様々なアプローチは、軽鎖が誤対合したベンス・ジョーンズ型副産物を減少させる、本発明による多重特異性抗体における重鎖-軽鎖修飾(1つの結合アームにおけるVHおよびVLの交換/置換、ならびにCH1/CL境界面における、反対電荷による荷電アミノ酸の置換の導入)と組み合わせた様々な代替手段として企図される。
【0324】
本発明の1つの好ましい態様(多重特異性抗体が重鎖中にCH3ドメインを含む場合)において、本発明による該多重特異性抗体のCH3ドメインは、例えば、WO 96/027011、Ridgway J.B., et al., Protein Eng. 9 (1996) 617-621;およびMerchant, A.M., et al., Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681; WO 98/ 050431においていくつかの例を用いて詳細に説明されている「ノブイントゥーホール」技術によって改変することができる。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面を改変して、これら2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増加させる。(2本の重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれが、「ノブ」となることができ、他方が「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入により、ヘテロ二量体はさらに安定し (Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、収率は増加する。
【0325】
したがって、本発明の1つの態様において、(各重鎖中にCH3ドメインを含む、および)前記多重特異性抗体は、
(a)の抗体の第1の重鎖の第1のCH3ドメインと(b)の抗体の第2の重鎖の第2のCH3ドメインとが、抗体CH3ドメイン間の元の境界面を含む境界面でそれぞれ接する
ことをさらに特徴とし、
該境界面は、多重特異性抗体の形成を促進するように改変されており、
この改変は、
(i)一方の重鎖のCH3ドメインが、
多重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面と接する、一方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面内で、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積が大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方の重鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起が生じるように、改変されること、
および
(ii)他方の重鎖のCH3ドメインが、
多重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの元の境界面と接する第2のCH3ドメインの元の境界面内で、あるアミノ酸残基が、側鎖の体積が小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみが生じるように、改変されること
を特徴とする。
【0326】
好ましくは、側鎖の体積が大きい前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0327】
好ましくは、側鎖の体積が小さい前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0328】
本発明の1つの局面において、両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの対応位置のアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによってさらに改変される。
【0329】
1つの好ましい態様において、前記多重特異性抗体は、「ノブ鎖」の第1のCH3ドメインにアミノ酸変異T366W、ならびに「ホール鎖」の第2のCH3ドメインにアミノ酸変異T366S、L368A、Y407Vを含む。また、例えば、「ホール鎖」のCH3ドメイン中へのアミノ酸変異Y349Cおよび「ノブ鎖」のCH3ドメイン中へのアミノ酸変異E356Cまたはアミノ酸変異S354Cの導入による、CH3ドメイン間のさらなる鎖間ジスルフィド架橋も使用され得る(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681)。
【0330】
1つの好ましい態様において、(各重鎖中にCH3ドメインを含む)前記多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にアミノ酸変異S354C、T366W、および2つのCH3ドメインのうちの他方にアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含む(一方のCH3ドメイン中の追加のアミノ酸変異S354Cおよび他方のCH3ドメイン中の追加のアミノ酸変異Y349Cが、鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(Kabatに基づく番号付与)。
【0331】
ヘテロ二量体化を強いるCH3修飾のための他の技術は、本発明の代替手段として企図され、例えば、WO 96/27011、WO 98/050431、EP 1870459、WO 2007/110205、WO 2007/147901、WO 2009/089004、WO 2010/129304、WO 2011/90754、WO 2011/143545、WO 2012/058768、WO 2013/157954、WO 2013/096291において説明されている。
【0332】
1つの態様において、EP 1870459 A1で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。このアプローチは、両方の重鎖間のCH3/CH3ドメイン境界面の特定のアミノ酸位置における、反対電荷による荷電アミノ酸の置換/変異の導入に基づいている。前記多重特異性抗体に関する1つの好ましい態様は、(多重特異性抗体の)第1のCH3ドメイン中のアミノ酸変異R409D;K370Eおよび多重特異性抗体の第2のCH3ドメイン中のアミノ酸変異D399K;E357Kである(Kabatに基づく番号付与)。
【0333】
別の態様において、前記多重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中にアミノ酸変異T366W、および「ホール鎖」のCH3ドメイン中にアミノ酸変異T366S、L368A、Y407V、ならびにさらに、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中にアミノ酸変異R409D;K370E、および「ホール鎖」のCH3ドメイン中にアミノ酸変異D399K;E357Kを含む。
【0334】
別の態様において、前記多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にアミノ酸変異S354C、T366W、および2つのCH3ドメインのうちの他方にアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むか、または前記多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にアミノ酸変異Y349C、T366W、および2つのCH3ドメインのうちの他方にアミノ酸変異S354C、T366S、L368A、Y407V、ならびにさらに、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中にアミノ酸変異R409D;K370E、および「ホール鎖」のCH3ドメイン中にアミノ酸変異D399K;E357Kを含む。
【0335】
1つの態様において、WO 2013/157953で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。1つの態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Kを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドは、アミノ酸変異L351Dを含む。さらなる態様において、第1のCH3ドメインは、さらなるアミノ酸変異L351Kを含む。さらなる態様において、第2のCH3ドメインは、Y349E、Y349D、およびL368Eより選択されるさらなるアミノ酸変異(好ましくはL368E)を含む。
【0336】
1つの態様において、WO 2012/058768で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。1つの態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる態様において、第2のCH3ドメインは、例えば、(a)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E、またはT411W、(b)D399R、D399W、D399Y、またはD399K、c S400E、S400D、S400R、またはS400K F405I、F405M、F405T、F405S、F405V、またはF405W N390R、N390K、またはN390D K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、またはK392Eより選択される、T411、D399、S400、F405、N390、またはK392の位置のさらなるアミノ酸変異を含む。さらなる態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366V、K409Fを含む。さらなる態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる態様において、第2のCH3ドメインは、さらなるアミノ酸変異K392E、T411E、D399R、およびS400Rを含む。
【0337】
1つの態様において、例えば、368および409からなる群より選択される位置のアミノ酸修飾を用いて、WO2011/143545で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。
【0338】
1つの態様において、前述のノブイントゥーホール技術を同じく使用する、WO 2011/090762で説明されているヘテロ二量体化アプローチを、別法として使用することができる。1つの態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Wを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異Y407Aを含む。1つの態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Yを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異Y407Tを含む。
【0339】
1つの態様において、多重特異性抗体は、IgG2アイソタイプのものであり、WO2010/129304で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。
【0340】
1つの態様において、WO2009/089004で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。1つの態様において、第1のCH3ドメインは、陰性荷電アミノ酸によるK392またはN392のアミノ酸置換(例えば、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)、好ましくはK392DまたはN392D)を含み、第2のCH3ドメインは、陽性荷電アミノ酸によるD399、E356、D356、またはE357のアミノ酸置換(例えば、リジン(K)またはアルギニン(R)、好ましくはD399K、E356K、D356K、またはE357K、ならびにより好ましくはD399KおよびE356K)を含む。さらなる態様において、第1のCH3ドメインは、陰性荷電アミノ酸によるK409またはR409のアミノ酸置換(例えば、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)、好ましくはK409DまたはR409D)をさらに含む。さらなる態様において、第1のCH3ドメインは、陰性荷電アミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D))によるK439および/またはK370のアミノ酸置換を、さらにまたは代わりに含む。
【0341】
1つの態様において、WO2007/147901で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。1つの態様において、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異K253E、D282K、およびK322Dを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異D239K、E240K、およびK292Dを含む。
【0342】
1つの態様において、WO2007/110205で説明されているヘテロ二量体化アプローチを別法として使用することができる。
【0343】
組換え方法および製剤
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号において説明されているとおりに、組換え方法および製剤を用いて作製することができる。1つの態様において、本明細書において説明する抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードし得る。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。1つのこのような態様において、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターおよび抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、それらで形質転換されている)。1つの態様において、宿主細胞は、真核生物性、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞(例えば、Y0細胞、NS0細胞、Sp20細胞)である。1つの態様において、本明細書において報告される抗体を作製する方法が提供され、この方法は、抗体の発現に適した条件下で、上記に提供されるような抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養する段階、および任意で、宿主細胞(または宿主細胞培地)から抗体を回収する段階を含む。
【0344】
変種Fc領域を組換え作製する場合、例えば前述したような変種Fc領域をコードする核酸は、単離され、宿主細胞におけるその後のクローニングおよび/または発現のために、1つまたは複数のベクター中に挿入される。このような核酸は、従来の手順を用いて(例えば、変種Fc領域または抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)、容易に単離および配列決定され得る。
【0345】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に適した宿主細胞には、本明細書において説明する原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、抗体は、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合には特に、細菌において産生させることができる。細菌における抗体断片および抗体ポリペプチドの発現については、例えば、US5,648,237、US5,789,199、およびUS5,840,523を参照されたい。(大腸菌における抗体断片の発現を説明するCharlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2003), pp. 245-254)も参照されたい)。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離することができ、さらに精製することができる。
【0346】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母などの真核微生物も、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング宿主または発現宿主であり、これらには、グリコシル化経路が「ヒト化」されており、その結果、部分的または全面的にヒトグリコシル化パターンを有する抗体を産生する真菌株および酵母株が含まれる。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414;およびLi, H. et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照されたい。
【0347】
グリコシル化抗体の発現のために適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物および脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。昆虫細胞と組み合わせて、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために使用され得る多数のバキュロウイルス株が同定されている。
【0348】
植物細胞培養物もまた、宿主として使用することができる。例えば、US5,959,177、US6,040,498、US6,420,548、US7,125,978、およびUS6,417,429(トランスジェニック植物において抗体を産生させるためのPLANTIBODIES(商標)技術を説明している)を参照されたい。
【0349】
脊椎動物細胞もまた、宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で増殖するように順応させた哺乳動物細胞株が、有用である場合がある。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胚性腎臓株(例えばGraham, F.L., et al., J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74で説明されているHEK293または293細胞);仔ハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P., Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252で説明されているTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(HepG2);マウス乳房腫瘍(MMT060562);例えば、Mather, J.P., et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68で説明されている、TRI細胞;MRC5細胞;およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR
- CHO細胞(Urlaub, G., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220)を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体産生に適したいくつかの哺乳動物宿主細胞株の概要については、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2004), pp. 255-268を参照されたい。
【0350】
アッセイ法
本明細書において提供される抗体は、当技術分野では公知である様々なアッセイ法によって、それらの物理的/化学的特性および/もしくは生物学的活性を特定されてもよいか、該特性および/もしくは該活性についてスクリーニングされてもよいか、または該特性および/もしくは該活性について特徴決定されてもよい。
【0351】
1つの局面において、本明細書において報告される抗体は、その抗原結合活性について、例えばELISA、ウェスタンブロット法などの公知の方法によって試験される。
【0352】
免疫コンジュゲート
本発明はまた、1種または複数種の細胞障害性物質、例えば、化学療法剤もしくは化学療法薬、増殖抑制剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、もしくは動物に由来するタンパク毒素、酵素的に活性な毒素、またはそれらの断片)、または放射性同位元素にコンジュゲートされた本明細書において報告される抗体を含む、免疫コンジュゲートも提供する。
【0353】
1つの態様において、免疫コンジュゲートは、抗体が1種または複数種の薬物にコンジュゲートされている抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。これらの薬物には、マイタンシノイド(US5,208,020、US5,416,064、およびEP0425235 B1を参照されたい);アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチン薬物部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF)(US5,635,483、US5,780,588、およびUS7,498,298を参照されたい);ドラスタチン;カリケアミシンまたはその誘導体(US5,712,374、US5,714,586、US5,739,116、US5,767,285、US5,770,701、US5,770,710、US5,773,001、およびUS5,877,296;Hinman, L.M. et al., Cancer Res. 53 (1993) 3336-3342;ならびにLode, H.N. et al., Cancer Res. 58 (1998) 2925-2928を参照されたい);アントラサイクリン、例えば、ダウノマイシンまたはドキソルビシン(Kratz, F. et al., Curr. Med. Chem. 13 (2006) 477-523;Jeffrey, S.C. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16 (2006) 358-362; Torgov, M.Y. et al., Bioconjug. Chem. 16 (2005) 717-721;Nagy, A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97 (2000) 829-834;Dubowchik, G.M. et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12 (2002) 1529-1532;King, H.D. et al., J. Med. Chem. 45 (2002) 4336-4343;およびUS6,630,579を参照されたい);メトトレキサート;ビンデシン;タキサン、例えば、ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、およびオルタタキセル;トリコテセン;ならびにCC1065が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0354】
別の態様において、免疫コンジュゲートは、限定されるわけではないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、およびトリコテセンを含む、酵素的に活性な毒素またはその断片にコンジュゲートされた、本明細書において説明する抗体を含む。
【0355】
別の態様において、免疫コンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートされて放射性コンジュゲートを形成した、本明細書において説明する抗体を含む。様々な放射性同位元素が、放射性コンジュゲートの作製のために利用可能である。例には、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212、およびLuの放射性同位元素が含まれる。放射性コンジュゲートが検出に使用される場合、放射性コンジュゲートは、シンチグラフィー調査のための放射性原子、例えば、TC
99mもしくはI
123、または核磁気共鳴(NMR)画像法(磁気共鳴画像法、MRIとしても公知)のためのスピン標識、例えば、ヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン、もしくは鉄を含んでよい。
【0356】
抗体および細胞障害性物質のコンジュゲートは、様々な二官能性タンパク質結合剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばアジプイミド酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えばスベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えばトルエン2,6-ジイソシアナート)、および置換基が2つの活性なフッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を用いて作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta, E.S. et al., Science 238 (1987) 1098-1104で説明されているとおりに調製することができる。炭素14で標識された1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、抗体に放射性ヌクレオチドを結合させるための例示的なキレート剤である。WO94/11026を参照されたい。リンカーは、細胞における細胞障害性薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であってよい。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性のリンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィドを含むリンカーが使用され得る(Chari, R.V. et al., Cancer Res. 52 (1992) 127-131;US5,208,020)。
【0357】
本明細書における免疫コンジュゲートまたはADCは、(例えば、Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aから)市販されているBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、およびスルホ-SMPB、およびSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾアート)を非限定的に含む架橋剤試薬を用いて調製されたこのようなコンジュゲートを明確に企図するが、それらに限定されるわけではない。
【0358】
診断および検出のための方法および製剤
特定の態様において、本明細書において提供される抗体のいずれかは、生物試料においてその同族抗原の存在を検出するのに有用である。本明細書において使用される「検出する」という用語は、定量的検出または定性的検出を包含する。特定の態様において、生物試料は、細胞または組織を含む。
【0359】
1つの態様において、診断または検出の方法における使用のための本明細書において報告される抗体が提供される。
【0360】
特定の態様において、本明細書で報告される標識された抗体が提供される。標識には、直接的に検出される標識または部分(例えば、蛍光性標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、および放射性標識)、ならびに例えば酵素反応または分子相互作用を通じて間接的に検出される酵素またはリガンドなどの部分が含まれるが、それらに限定されるわけではない。例示的な標識には、ラジオアイソトープ
32P、
14C、
125I、
3H、および
131I、希土類キレートまたはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロンなどの蛍光体、ルシフェラーゼ、例えば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(US4,737,456)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシターゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、過酸化水素を使用して色素前駆体を酸化する酵素、例えば、HRP、ラクトペルオキシダーゼ、またはミクロペルオキシダーゼと併用される、糖類酸化酵素、例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、およびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼなどの複素環酸化酵素、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、ならびに安定なフリーラジカルなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0361】
薬学的製剤
本明細書において説明する抗体の薬学的製剤は、所望の程度の純度を有するそのような抗体を1種または複数種の任意の薬学的に許容される担体(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980))と混合することによって、凍結乾燥製剤または水性液剤の形態で調製される。通常、薬学的に許容される担体は、使用される投与量および濃度において受容者に非毒性であり、限定されるわけではないが、次のものが含まれる:リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリ(ビニルピロリドン)のような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む、単糖類、二糖類、および他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムのような塩を形成する対イオン;金属複合体(例えばZn-タンパク質複合体);ならびに/またはポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン系界面活性剤。本明細書における例示的な薬学的に許容される担体には、さらに、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)のような侵入型(interstitial)薬物分散剤、例えば、rhuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.)のようなヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質が含まれる。rhuPH20を含む、いくつかの例示的なsHASEGPおよび使用方法は、US2005/0260186およびUS2006/0104968において説明されている。1つの局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼのような1種または複数種の追加のグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0362】
例示的な凍結乾燥抗体製剤が、US6,267,958において説明されている。水性抗体製剤には、US6,171,586およびWO2006/044908において説明されているものが含まれ、後者の製剤は、ヒスチジン-酢酸緩衝液を含む。
【0363】
本明細書における製剤はまた、治療される個々の適応症に対する必要に応じて複数の有効成分、好ましくは、補完的な活性を有しており、互いに悪影響を及ぼさないものも含んでよい。このような有効成分は、意図される目的のために有効な量で組み合わせられて存在するのが適切である。
【0364】
有効成分は、例えば、コアセルベーション技術または界面重合により調製されたマイクロカプセル中に、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルもしくはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリラート)マイクロカプセル中に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)中に、またはマクロエマルジョン中に閉じ込めることができる。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980)で開示されている。
【0365】
徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適切な例には、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、これらのマトリックスは造形品、例えばフィルム、またはマイクロカプセルの形態である。
【0366】
通常、インビボ投与のために使用される製剤は、滅菌済みである。無菌状態は、例えば、滅菌ろ過膜に通してろ過することによって、容易に実現することができる。
【0367】
治療方法および製剤
本明細書において提供される抗体のいずれかを治療方法で使用することができる。
【0368】
1つの局面において、医薬としての使用のための本明細書において報告される抗体が提供される。
【0369】
特定の態様において、治療の方法における使用のための抗体が提供される。1つのこのような態様において、この方法は、例えば後述するような少なくとも1種の追加の治療物質の有効量を個体に投与する段階をさらに含む。上記の態様のいずれかに記載の「個体」は、1つの好ましい態様において、ヒトである。
【0370】
さらなる局面において、本発明は、医薬を製造または調製する際の抗体の使用を提供する。上記の態様のいずれかに記載の「個体」は、ヒトであってよい。
【0371】
さらなる局面において、本発明は、例えば、上記の治療方法のいずれかにおける使用のための、本明細書において提供される抗体のいずれかを含む薬学的製剤を提供する。1つの態様において、薬学的製剤は、本明細書において提供される抗体のいずれかおよび薬学的に許容される担体を含む。別の態様において、薬学的製剤は、本明細書において提供される抗体のいずれか、および例えば後述するような少なくとも1種の追加の治療物質を含む。
【0372】
本明細書において報告される抗体は、治療法において単独でまたは他の作用物質と組み合わせて使用することができる。例えば、本明細書において報告される抗体は、少なくとも1種の追加の治療物質と同時投与されてよい。
【0373】
本明細書において報告される抗体(および任意の追加の治療物質)は、非経口投与、肺内投与、および鼻腔内投与、ならびに局所的治療のために望ましいならば、病巣内投与を含む、任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、または皮下投与が含まれる。投薬は、投与が短時間であるかまたは長期的であるかにある程度応じて、任意の適切な経路によって、例えば、静脈内注射または皮下注射などの注射によって行うことができる。限定されるわけではないが、単回投与または様々な時点に渡る複数回投与、ボーラス投与、およびパルス注入を含む様々な投薬スケジュールが、本明細書において企図される。
【0374】
本明細書において報告される抗体は、優良医療規範(good medical practice)と一致する様式で製剤化され、分量を決定され(dosed)、投与される。この状況で考慮すべき因子には、治療される個々の障害、治療される個々の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、作用物質の送達部位、投与方法、投与スケジューリング、および医療担当者に公知である他の因子が含まれる。抗体は、そうする必要はないが、任意で、問題の障害を予防または治療するのに現在使用されている1種または複数種の作用物質と共に製剤化される。このような他の作用物質の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害または治療のタイプ、および上記の他の因子に依存する。通常、これらは、本明細書において説明するのと同じ投与量および投与経路で、もしくは本明細書において説明する投与量の約1〜99%で、または適切であると実験的に/臨床的に判定される任意の投与量および任意の経路で、使用される。
【0375】
疾患を予防または治療する際、本明細書において報告される抗体の適切な投与量(単独で、または1種もしくは複数種の他の追加の治療物質と組み合わせて使用される場合)は、治療しようとする疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度および経過、その抗体が予防目的で投与されるのかまたは治療目的で投与されるのか、以前の治療法、患者の臨床歴、および抗体に対する応答、ならびに主治医の判断に依存する。抗体は、1回で、または一連の治療の間、患者に適宜投与される。疾患のタイプおよび重症度によって、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば0.5mg/kg〜10mg/kg)の抗体が、患者に投与するための最初の候補投与量であることができ、例えば、1回または複数回の個別投与によるか持続輸注によるかを問わない。1つの典型的な1日投与量は、前述の因子に応じて、約1μg/kg〜100mg/kgまたはそれ以上の範囲に及び得る。数日間またはそれより長い期間に渡る反復投与の場合、病態に応じて、疾患症状の所望の抑制が起こるまで、通常、治療は継続される。抗体の1つの例示的な投与量は、約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲である。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、もしくは10mg/kg(またはその任意の組合せ)という1種または複数種の用量が、患者に投与され得る。このような用量は、断続的に、例えば、毎週または3週間ごとに(例えば、患者に抗体が約2〜約20回、または例えば約6回与えられるように)投与されてよい。最初に多めの負荷用量、続いて、1回または複数回の少なめの用量を投与してよい。この治療法の経過は、従来の技術およびアッセイ法を用いて容易にモニターされる。
【0376】
本明細書において報告される抗体の代わりにまたは本明細書において報告される抗体に加えて、本明細書において報告されるイムノコンジュゲートを用いて、上記の製剤化または治療方法のいずれか実施できることが理解される。
【0377】
製造物
本明細書において報告される発明の別の局面において、前述の障害の治療、予防、および/または診断に有用な材料を含む製造物が提供される。製造物は、容器、および容器の上または容器に伴うラベルまたは添付文書を含む。適切な容器には、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなど様々な材料から形成されてよい。容器は、単独であるか、または病態を治療、予防、および/もしくは診断するのに有効な別の製剤と組み合わせられた製剤を収容し、無菌取出口を有してよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き刺すことができる栓を有する静注液バッグまたはバイアルでよい)。製剤中の少なくとも1種の活性物質は、本明細書において報告される抗体である。ラベルまたは添付文書は、その製剤が、選ばれた病態を治療するのに使用されることを示す。さらに、製造物は、(a)本明細書において報告される抗体を含む製剤がその中に含まれる第1の容器;および(b)別の細胞障害性物質またはそうでなければ治療物質を含む製剤がその中に含まれる第2の容器を含んでよい。本明細書において報告されるこの態様の製造物は、それらの製剤を用いて特定の病態を治療できることを示す添付文書をさらに含んでよい。あるいはまたはさらに、製造物は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第2の(または第3の)容器をさらに含んでよい。これは、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジを含む、商業的観点および使用者の観点から望ましい他の材料もさらに含んでよい。
【0378】
上記の製造物のいずれかは、本明細書において報告される抗体の代わりにまたは該抗体に加えて、本明細書において報告される免疫コンジュゲートを含んでよいことが理解される。
【0379】
III.具体的な態様
1. 第1の変種Fc領域ポリペプチドと第2の変種Fc領域ポリペプチドとを含むIgGクラスFc領域であって、
(a)該第1の変種Fc領域ポリペプチドが、第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドに由来し、かつ該第2の変種Fc領域ポリペプチドが、第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドに由来し、該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと同一であるかまたは異なり、かつ
(b)該第1の変種Fc領域ポリペプチドが、該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとで異なるアミノ酸残基以外の1つまたは複数のアミノ酸残基において、該第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なり、かつ
(c)該第1の変種Fc領域ポリペプチドと該第2の変種Fc領域ポリペプチドとを含む該IgGクラスFc領域が、ヒトFc受容体に対して、(a)の第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと(a)の第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとを含むIgGクラスFc領域の親和性と異なる親和性を有している、
IgGクラスFc領域。
2. 前記ヒトFc受容体が、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)またはヒトFcγIII受容体(FcγRIII)である、態様1に記載のIgGクラスFc領域。
3. 前記ヒトFc受容体が前記ヒト新生児型Fc受容体である、態様1または2に記載のIgGクラスFc領域。
4. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドと前記第2の変種Fc領域ポリペプチドとを含む前記IgGクラスFc領域の、ヒトFc受容体に対する親和性が、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した場合に、(a)の第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと(a)の第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとを含むIgGクラスFc領域の親和性と比べて10%またはそれ以上増大または低下している、態様1〜3のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
5. 前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとで異なるアミノ酸残基のうちの少なくともいくつかが、ヘテロ二量体IgGクラスFc領域の形成を促進する、態様1〜4のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
6. (i)前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、
-ヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-ヒトIgG2 Fc領域ポリペプチド、
-ヒトIgG3 Fc領域ポリペプチド、
-ヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235Aを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329Gを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、P329Gを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、P329G、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、P329G、S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235Eを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、P329Gを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329Gを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、P329G、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、P329G、S354C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異K392Dを有しているヒトIgG1、IgG2、またはIgG4、および
-変異N392Dを有しているヒトIgG3
を含む群より選択され、
かつ
(ii)前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、
-ヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-ヒトIgG2 Fc領域ポリペプチド、
-ヒトIgG3 Fc領域ポリペプチド、
-ヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235Aを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異S354C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異Y349C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、S354C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、Y349C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329Gを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、P329Gを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、S354C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、Y349C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、P329G、S354C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異L234A、L235A、P329G、Y349C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235Eを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、P329Gを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S354C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異Y349C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、S354C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、Y349C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329Gを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、S354C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異P329G、Y349C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、P329G、S354C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異S228P、L235E、P329G、Y349C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチド、
-変異D399K、D356K、および/またはE357Kを有しているヒトIgG1、ならびに
-変異D399K、E356K、および/またはE357Kを有しているヒトIgG2、IgG3、またはIgG4
を含む群より選択される、
態様1〜5のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
7. (i)前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 60、61、62、63、64、65、67、69、70、71、73、75、76、78、80、81、82、および84を含む群より選択されるアミノ酸配列を有しており、
かつ
(ii)前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 60、61、62、63、64、66、68、69、70、72、74、75、76、77、79、81、83、および85を含む群より選択されるアミノ酸配列を有している、
態様1〜6のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
8. (i)前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドがヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであり、かつ前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドがヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(ii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235Aを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235Aを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(iii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235A、P329Gを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235A、P329Gを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(iv)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235A、S354C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235A、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(v)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235A、P329G、S354C、T366Wを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異L234A、L235A、P329G、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG1 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(vi)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドがヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドがヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(vii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235Eを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235Eを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(viii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235E、P329Gを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235E、P329Gを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(ix)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235E、S354C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235E、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであるか、あるいは
(x)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235E、P329G、S354C、T366Wを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドであり、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、変異S228P、L235E、P329G、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを有しているヒトIgG4 Fc領域ポリペプチドである、
態様1〜7のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
9. (i)前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 60のアミノ酸配列を有しており、かつ前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 60のアミノ酸配列を有しているか、または
(ii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 64のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 64のアミノ酸配列を有しているか、または
(iii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 70のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 70のアミノ酸配列を有しているか、または
(iv)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 68のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 67のアミノ酸配列を有しているか、または
(v)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 74のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 73のアミノ酸配列を有しているか、または
(vi)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 63のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 63のアミノ酸配列を有しているか、または
(vii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 75のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 75のアミノ酸配列を有しているか、または
(viii)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 76のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 76のアミノ酸配列を有しているか、または
(ix)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 79のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 80のアミノ酸配列を有しているか、または
(x)該第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 85のアミノ酸配列を有しており、かつ該第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドが、SEQ ID NO: 84のアミノ酸配列を有している、
態様1〜5および7のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
10. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとで異なるアミノ酸残基以外の1〜8個のアミノ酸残基において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1〜9のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
11. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとで異なるアミノ酸残基以外の1〜6個のアミノ酸残基において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1〜10に記載のIgGクラスFc領域。
12. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、前記第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと前記第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとで異なるアミノ酸残基以外の1〜3個のアミノ酸残基において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1〜11のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
13. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、228、234、235、236、237、238、239、248、250、251、252、253、254、255、256、257、265、266、267、268、269、270、272、285、288、290、291、297、298、299、307、308、309、310、311、314、327、328、329、330、331、332、385、387、428、433、434、435、および436位(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1〜12のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
14. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、228、234、235、236、237、238、239、253、254、265、266、267、268、269、270、288、297、298、299、307、311、327、328、329、330、331、332、434、および435位(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1および2ならびに4〜13のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
15. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、233、236、265、297、329、および331位のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1および2ならびに4〜14のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
16. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、アミノ酸改変E233P、ΔG236、D265A、N297A、N297D、P329A、およびP331Sのうちの1つまたは複数によって、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様15に記載のIgGクラスFc領域。
17. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、248、250、251、252、253、254、255、256、257、272、285、288、290、291、308、309、310、311、314、385、386、387、428、432、433、434、435、および436位のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1〜3および5〜13のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
18. 前記第1の変種Fc領域ポリペプチドが、251、253、310、314、432、433、435、および436位のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において、前記第2の変種Fc領域ポリペプチドと異なる、態様1〜3および5〜17に記載のIgGクラスFc領域。
19. 前記第1のFc領域ポリペプチドが、(i)群I253A、H310A、およびH435A、または(ii)群H310A、H433A、およびY436A、または(iii)群L251D、L314D、およびL432D、または(iv)群L251S、L314S、およびL432S(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)より選択される変異のうちの1つまたは2つによって、前記第2のFc領域ポリペプチドと異なり、かつ該第2のFc領域ポリペプチドが、変異L251D、L251S、I253A、H310A、L314D、L314S、L432D、L432S、H433A、H435A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)を含む群より選択される変異のうちの1つまたは2つによって、該第1のFc領域ポリペプチドと異なり、その結果、ひとまとめにして考えた場合の該第1のFc領域ポリペプチド中および該第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436A、または(iii)L251D、L314D、およびL432D、または(iv)L251S、L314S、およびL432Sが前記IgGクラスFc領域中に含まれることになる、態様1〜3および5〜18のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
20. 前記第1のFc領域ポリペプチドが、(i)群I253A、H310A、およびH435A、または(ii)群H310A、H433A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)より選択される変異のうちの1つまたは2つによって、前記第2のFc領域ポリペプチドと異なり、かつ該第2のFc領域ポリペプチドが、変異I253A、H310A、H433A、H435A、およびY436A(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)を含む群より選択される変異のうちの1つまたは2つによって、該第1のFc領域ポリペプチドと異なり、その結果、ひとまとめにして考えた場合の該第1のFc領域ポリペプチド中および該第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436Aが前記IgGクラスFc領域中に含まれることになる、態様1〜3および5〜18のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
21. 変異I253A/H310A/H435AもしくはH310A/H433A/Y436AもしくはL251D/L314D/L432DもしくはL251S/L314S/L432Sまたはそれらの組合せを前記IgGクラスFc領域中に含み(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)、(i)すべての変異が、前記第1のFc領域ポリペプチド中もしくは前記第2のFc領域ポリペプチド中に存在するか、または(ii)1つもしくは2つの変異が、該第1のFc領域ポリペプチド中に存在し、かつ1つもしくは2つの変異が、該第2のFc領域ポリペプチド中に存在し、その結果、ひとまとめにして考えた場合の該第1のFc領域ポリペプチド中および該第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436A、または(iii)L251D、L314D、およびL432D、または(iv)L251S、L314S、およびL432Sが該IgGクラスFc領域中に含まれることになる、態様1〜3および5〜18のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
22. 変異I253A/H310A/H435AもしくはH310A/H433A/Y436Aまたはそれらの組合せを前記IgGクラスFc領域中に含み(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)、(i)すべての変異が、前記第1のFc領域ポリペプチド中もしくは前記第2のFc領域ポリペプチド中に存在するか、または(ii)1つもしくは2つの変異が、該第1のFc領域ポリペプチド中に存在し、かつ1つもしくは2つの変異が、該第2のFc領域ポリペプチド中に存在し、その結果、ひとまとめにして考えた場合の該第1のFc領域ポリペプチド中および該第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異(i)I253A、H310A、およびH435A、または(ii)H310A、H433A、およびY436Aが該IgGクラスFc領域中に含まれることになる、態様1〜3および5〜18のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
23. (a)の第1の親IgGクラスFc領域ポリペプチドと(a)の第2の親IgGクラスFc領域ポリペプチドとを含むIgGクラスFc領域よりも、ブドウ球菌プロテインAに対する結合が減少している、態様1〜3および5〜22のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
24. 変異M252Y/S254T/T256Eを前記IgGクラスFc領域中に含み(KabatのEU指標番号付与システムに基づく番号付与)、(i)すべての変異が、前記第1のFc領域ポリペプチド中もしくは前記第2のFc領域ポリペプチド中に存在するか、または(ii)1つもしくは2つの変異が、該第1のFc領域ポリペプチド中に存在し、かつ1つもしくは2つの変異が、該第2のFc領域ポリペプチド中に存在し、その結果、ひとまとめにして考えた場合の該第1のFc領域ポリペプチド中および該第2のFc領域ポリペプチド中の変異のすべてにより、変異M252Y/S254T/T256Eが該IgGクラスFc領域中に含まれることになる、態様1〜3および5〜17のいずれかに記載のIgGクラスFc領域。
25. 態様1〜24のいずれかに記載のIgGクラスFc領域を含む、抗体。
26. モノクローナル抗体である、態様25に記載の抗体。
27. ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、態様25または26に記載の抗体。
28. 二重特異性抗体である、態様25〜27のいずれかに記載の抗体。
29. 二価抗体である、態様25〜28のいずれかに記載の抗体。
30. ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む、FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体である、態様25〜29のいずれかに記載の抗体。
31. ヒトVEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位とヒトANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位とを含む、FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体であって、
(α)該VEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 14のCDR3H領域、SEQ ID NO: 15のCDR2H領域、およびSEQ ID NO: 16のCDR1H領域を含み、かつ軽鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 17のCDR3L領域、SEQ ID NO: 18のCDR2L領域、およびSEQ ID NO: 19のCDR1L領域を含み、かつ
(β)該ANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 22のCDR3H領域、SEQ ID NO: 23のCDR2H領域、およびSEQ ID NO: 24のCDR1H領域を含み、かつ軽鎖可変ドメイン中にSEQ ID NO: 25のCDR3L領域、SEQ ID NO: 26のCDR2L領域、およびSEQ ID NO: 27のCDR1L領域を含み、かつ
(γ)該二重特異性抗体が、態様1〜24のいずれかに記載のIgGクラスFc領域を含む、
二重特異性二価抗体。
32. (α)前記VEGFに特異的に結合する第1の抗原結合部位が、重鎖可変ドメインVHとしてSEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変ドメインVLとしてSEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)前記ANG-2に特異的に結合する第2の抗原結合部位が、重鎖可変ドメインVHとしてSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変ドメインVLとしてSEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含み、かつ
(γ)前記二重特異性抗体が、態様1〜24のいずれかに記載のIgGクラスFc領域を含む、
態様31に記載の二重特異性抗体。
33. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 38のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 40のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)該第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 39のアミノ酸配列を含み、かつ該第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 41のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体。
34. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 34のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 36のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)該第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 35のアミノ酸配列を含み、かつ該第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 37のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体。
35. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 42のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 44のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)該第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 43のアミノ酸配列を含み、かつ該第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 45のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体。
36. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 90のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 40のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)該第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 91のアミノ酸配列を含み、かつ該第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 41のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体。
37. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 88のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 36のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)該第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 89のアミノ酸配列を含み、かつ該第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 37のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体。
38. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の修飾された重鎖および修飾された軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 92のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 44のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)該第2の完全長抗体の修飾された重鎖としてSEQ ID NO: 93のアミノ酸配列を含み、かつ該第2の完全長抗体の修飾された軽鎖としてSEQ ID NO: 45のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性二価抗体。
39. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、重鎖のN末端がペプチドリンカーを介して軽鎖のC末端に連結されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の該重鎖および該軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 46のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 48のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)ペプチドリンカーを介して該第2の完全長抗体の軽鎖に連結された該第2の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 47のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性抗体。
40. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、重鎖のN末端がペプチドリンカーを介して軽鎖のC末端に連結されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の該重鎖および該軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 49のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 51のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)ペプチドリンカーを介して該第2の完全長抗体の軽鎖に連結された該第2の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 50のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性抗体。
41. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、重鎖のN末端がペプチドリンカーを介して軽鎖のC末端に連結されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の該重鎖および該軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 94のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 48のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)ペプチドリンカーを介して該第2の完全長抗体の軽鎖に連結された該第2の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 95のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性抗体。
42. VEGFに特異的に結合する第1の完全長抗体の重鎖および軽鎖と、重鎖のN末端がペプチドリンカーを介して軽鎖のC末端に連結されている、ANG-2に特異的に結合する第2の完全長抗体の該重鎖および該軽鎖とを含み、
(α)該第1の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 96のアミノ酸配列を含み、かつ該第1の完全長抗体の軽鎖としてSEQ ID NO: 51のアミノ酸配列を含み、かつ
(β)ペプチドリンカーを介して該第2の完全長抗体の軽鎖に連結された該第2の完全長抗体の重鎖としてSEQ ID NO: 97のアミノ酸配列を含む、
FcRn結合が消失した二重特異性抗体。
43. 前記第2の完全長抗体の重鎖および軽鎖の抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体軽鎖可変ドメイン(VL)が、該重鎖可変ドメイン44位と該軽鎖可変ドメイン100位(Kabatに基づく番号付与)の間にジスルフィド結合を導入することによってジスルフィドで安定化されている、態様39〜42のいずれかに記載の二重特異性抗体。
44. 2つのCH3ドメインのうちの一方に変異S354C、T366Wを含み、かつ該2つのCH3ドメインのうちの他方に変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むか、または、該2つのCH3ドメインのうちの一方に変異Y349C、T366Wを含み、かつ該2つのCH3ドメインのうちの他方に変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを含む、態様33〜43のいずれかに記載の二重特異性抗体。
45. 2つのCH3ドメインのうちの一方に変異S354C、T366Wを含み、該2つのCH3ドメインのうちの他方に変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含み、かつ変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vに加えてCH3ドメインに変異R409D、K370Eを含み、かつ変異S354C、T366Wに加えてCH3ドメインに変異D399K、E357Kを含むか、または、該2つのCH3ドメインのうちの一方に変異Y349C、T366Wを含み、該2つのCH3ドメインのうちの他方に変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを含み、かつ変異S354C、T366S、L368A、Y407Vに加えてCH3ドメインに変異R409D、K370Eを含み、かつ変異Y349C、T366Wに加えてCH3ドメインに変異D399K、E357Kを含む、態様33〜43のいずれかに記載の二重特異性抗体。
46. 次の特性のうちの1つまたは複数を有している、態様25〜45のいずれかに記載の二重特異性抗体:
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、より低い血清濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているがヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスへの硝子体内適用後96時間目)こと、および/または
-(iii)において説明される変異を有していない対応する二重特異性抗体と比べて、右眼ライセート全体において同様(0.8〜1.2倍)の濃度を示す(マウスFcRnを欠損しているがヒトFcRnについてヘミ接合性トランスジェニックであるマウスにおいて、右眼の硝子体内適用後96時間目)こと、および/または
-ヒト新生児型Fc受容体に対する結合を示さないこと、および/または
-ブドウ球菌プロテインAに対する結合を示さないこと、および/または
-ブドウ球菌プロテインAに対する結合を示すこと。
47. 態様1〜24のいずれかに記載のIgGクラスFc領域を含む、Fc領域融合ポリペプチド。
48. 態様25〜46のいずれかに記載の抗体または態様47に記載のFc領域融合ポリペプチドを含む、薬学的製剤。
49. 眼血管疾患の治療における使用のためである、態様48に記載の薬学的製剤。
50. 医薬としての使用のための、態様25〜46のいずれかに記載の抗体または態様47に記載のFc領域融合ポリペプチド。
51. 眼血管疾患の治療のためである、態様50に記載の使用。
52. 医薬の製造における、態様25〜46のいずれかに記載の抗体または態様47に記載のFc領域融合ポリペプチドの使用。
53. 眼血管疾患の治療用の医薬の製造のためである、態様52に記載の使用。
54. 眼血管疾患の治療における使用のための、態様25〜46のいずれかに記載の抗体または態様47に記載のFc領域融合ポリペプチド。
55. そのような治療を必要とする患者に、態様25〜46のいずれかに記載の抗体または態様47に記載のFc領域融合ポリペプチドを投与する段階によって、眼血管疾患に罹患している患者を治療する方法。
【実施例】
【0380】
IV.実施例
以下は、本明細書において報告される方法および製剤の例である。上記に提供した一般的説明を前提として、他の様々な態様が実施され得ることが理解される。
【0381】
前述の本発明は、理解を明確にするために、例示および例としていくらか詳しく説明してきたが、これらの説明および例は、本明細書において報告される範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用されるあらゆる特許および科学文献の開示は、その全体が参照により明確に組み入れられる。
【0382】
方法
エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)
N-グリカナーゼplus(Roche)0.5μLおよびリン酸ナトリウム緩衝液(0.1M、pH7.1)を添加することによってタンパク質アリコート(50μg)を脱グリコシル化して、最終試料体積115μLを得た。この混合物を37℃で18時間インキュベートした。その後、還元および変性のために、4M塩酸グアニジン(Pierce)に溶かした0.5M TCEP(Pierce)60μLおよび8M塩酸グアニジン50μLを添加した。この混合物を37℃で30分間インキュベートした。サイズ排除クロマトグラフィー(セファロースG-25、無勾配、2%ギ酸を含む40%アセトニトリル)によって試料を脱塩した。ナノESI供給源(TriVersa NanoMate、Advion)を装備されたQ-TOF機器(maXis、Bruker)を用いて、ESI質量スペクトル(+ve)を記録した。MSパラメーター設定は次のとおりであった:移動:ファンネルRF、400Vpp;ISCIDエネルギー、0eV;多重極RF、400Vpp;四重極:イオンエネルギー、4.0eV;低質量、600m/z;供給源:乾燥ガス、8L/分;乾燥ガスの温度、160℃;コリジョンセル:衝突エネルギー、10eV;衝突RF:2000Vpp;イオンクーラー:イオンクーラーRF、300Vpp;移動時間:120μ秒;プレパルス蓄積、10μ秒;スキャン範囲m/z600〜2000。データを評価するために、施設内で開発したソフトウェア(MassAnalyzer)を使用した。
【0383】
FcRn表面プラズモン共鳴(SPR)解析
FcRnに対する野生型抗体および変異体の結合特性を、BIAcore T100機器(BIAcore AB, Uppsala, Sweden)を用いて表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって解析した。この方式は、分子相互作用の研究のために十分に確立されている。これにより、リガンド/分析物結合を連続的にリアルタイムでモニタリングし、したがって、様々なアッセイ法設定において動態パラメーターを測定することが可能になる。SPR技術は、金でコーティングされたバイオセンサーチップの表面近くでの屈折率の測定に基づいている。屈折率の変化から、固定化されたリガンドと溶液中に注入された分析物の相互作用によって引き起こされる表面の質量変化が示唆される。分子が、表面の固定化されたリガンドに結合する場合、質量は増加し、解離する場合は質量が減少する。本アッセイ法においては、400レスポンスユニット(RU)のレベルまで、アミンカップリングによってFcRn受容体をBIAcore CM5バイオセンサーチップ(GE Healthcare Bioscience, Uppsala, Sweden)上に固定化した。アッセイ法は、PBS、0.05% Tween-20(商標) pH6.0(GE Healthcare Bioscience)をランニング緩衝液および希釈用緩衝液として用いて室温で実施した。200nMの抗体試料を室温、流速50μL/分で注入した。結合時間は180秒であった。解離相は360秒に及んだ。HBS-P、pH8.0を短時間注入することにより、チップ表面の再生を達成した(reached)。注入後180秒および注入後300秒における生物学的応答シグナルの高さを比較することによって、SPRデータの評価を行った。対応するパラメーターは、RU最大レベル(注入後180秒)および後期の安定性(注入終了後300秒)である。
【0384】
プロテインA表面プラズモン共鳴(SPR)解析
このアッセイ法は、表面プラズモン共鳴分光法に基づいている。プロテインAを、SPRバイオセンサーの表面に固定化する。SPR分光計のフローセルに試料を注入することにより、それが、固定化されたプロテインAとの複合体を形成して、センサーチップ表面の塊が増加し、したがって、レスポンスが大きくなる(1RUは1pg/mm
2と定義される)。その後、試料-プロテインA複合体を溶解することによってセンサーチップを再生する。次いで、得られたレスポンスを、レスポンスユニット(RU)の高いシグナルおよび解離挙動に関して評価する。
【0385】
GE Healthcareのアミンカップリングキットを用いて、pH4.0で、CM5チップ(GE Healthcare)上に約3,500レスポンスユニット(RU)のプロテインA(20μg/mL)を結合させた。
【0386】
試料および系の緩衝液は、HBS-P+(0.01M HEPES、0.15M NaCl、0.005% Surfactant P20滅菌ろ過、pH7.4)であった。フローセル温度を25℃に、試料コンパートメント温度を12℃に設定した。ランニング緩衝液を系に流して準備した。次いで、試料構築物の5nM溶液を流速30μL/分で120秒間注入し、300秒間の解離相がそれに続いた。次いで流速30μL/分でグリシン-HCl pH1.5を30秒間2回注射することによって、センサーチップ表面を再生した。各試料を三つ組として測定した。
【0387】
二重特異性抗体およびそれらの各配列
【0388】
本明細書において使用される「変異IHH-AAAを有している」という用語は、IgG1またはIgG4サブクラスの重鎖定常領域における変異I253A(Ile253Ala)、H310A(His310Ala)、およびH435A(His435Ala)の組合せ(KabatのEU指標に基づく番号付与)を意味し、本明細書において使用される「変異HHY-AAAを有している」という用語は、IgG1またはIgG4サブクラスの重鎖定常領域における変異H310A(His310Ala)、H433A(His433Ala)、およびY436A(Tyr436Ala)の組合せ(KabatのEU指標に基づく番号付与)を意味し、本明細書において使用される「変異P329G LALAを有している」という用語は、IgG1サブクラスの重鎖定常領域における変異L234A(Leu234Ala)、L235A(Leu235Ala)、およびP329G(Pro329Gly)の組合せ(KabatのEU指標に基づく番号付与)を意味し、本明細書において使用される「変異SPLEを有している」という用語は、IgG4サブクラスの重鎖定常領域における変異S228P(Ser228Pro)およびL235E(Leu235Glu)の組合せ(KabatのEU指標に基づく番号付与)を意味する。
【0389】
一般原則
ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的情報は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)において示されている。抗体鎖のアミノ酸残基は、EU番号付与に従って番号付与され、参照される(Edelman, G.M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85; Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。
【0390】
組換えDNA技術
Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)において説明されているように、標準的方法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の取扱い説明書に従って使用した。
【0391】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、所与の仕様に従ってGeneart(Regensburg, Germany)に注文した。
【0392】
DNA配列決定
DNA配列は、MediGenomix GmbH(Martinsried, Germany)またはSequiServe GmbH(Vaterstetten, Germany)で実施された二重鎖配列決定によって決定された。
【0393】
DNAおよびタンパク質の配列解析および配列データの管理
GCG(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)のソフトウェアパッケージバージョン10.2およびInfomaxのVector NT1 Advance suiteバージョン8.0を、配列の作製、マッピング、解析、アノテーション、および図示のために使用した。
【0394】
発現ベクター
前述の抗体を発現させるために、CMVイントロンAプロモーターを含むもしくは含まないcDNA構成、またはCMVプロモーターを含むゲノム構成のいずれかに基づく、(例えばHEK293-F細胞における)一過性発現のための発現プラスミドを使用した。
【0395】
抗体遺伝子の転写単位は、以下のエレメントから構成された:
-5'末端の独特な制限部位、
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-cDNA構成の場合、イントロンA配列、
-ヒト免疫グロブリン遺伝子の5'非翻訳領域、
-免疫グロブリン重鎖シグナル配列をコードする核酸、
-cDNAとして、または免疫グロブリンのエキソン-イントロン構成を有しているゲノム構成においてのいずれかで、ヒト抗体鎖 (野生型またはドメイン交換されたもの)をコードする核酸、
-ポリアデニル化シグナル配列を有している3'非翻訳領域、ならびに
-3'末端の独特な制限部位。
【0396】
抗体発現カセットのほかに、これらのプラスミドは以下を含んだ:
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする複製起点、
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子、および
-真核細胞における選択マーカーとしての、ハツカネズミ(Mus musculus)に由来するジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子。
【0397】
抗体鎖をコードする核酸をPCRおよび/または遺伝子合成によって作製し、公知の組換え法および組換え技術により、例えば、各ベクター中の独特な制限部位を用いて、一致する核酸セグメントを連結することによって、組み立てた。サブクローニングした核酸配列は、DNA配列決定によって確認した。一過性トランスフェクションのために、形質転換された大腸菌培養物(Nucleobond AX, Macherey-Nagel)からのプラスミド調製によって、より多量のプラスミドを調製した。
【0398】
細胞培養技術
Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J. and Yamada, K.M. (eds.), John Wiley & Sons, Inc.に説明されているように、標準的な細胞培養技術を使用した。
【0399】
後述するように、懸濁状態で増殖するHEK293-F細胞において各発現プラスミドを一過性に同時トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。
【0400】
実施例1
発現および精製
HEK293-F系における一過性トランスフェクション
製造業者の取扱い説明書に従ってHEK293-F系(Invitrogen)を用いて、(例えば、重鎖および修飾された重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾された軽鎖をコードする)各プラスミドで一過性トランスフェクションすることによって、単一特異性抗体および二重特異性抗体を作製した。簡単に説明すると、振盪フラスコまたは撹拌発酵槽のいずれかにおいて、無血清FreeStyle(商標)293発現培地(Invitrogen)に懸濁した状態で増殖するHEK293-F細胞(Invitrogen)を、各発現プラスミドおよび293フェクチン(商標)またはフェクチン(Invitrogen)の混合物を用いてトランスフェクトした。2L容振盪フラスコ(Corning)の場合、600mL中に1×10
6細胞/mLの密度でHEK293-F細胞を播種し、120rpm、8%CO
2でインキュベートした。翌日、約1.5×10
6細胞/mLの細胞密度の細胞を、A)それぞれ重鎖または修飾された重鎖、および等モル比の対応する軽鎖をコードする全プラスミドDNA(1μg/mL)600μgを含むOpti-MEM(Invitrogen)20mLならびにB)293フェクチンまたはフェクチン(2μL/mL)1.2mLを含むOpti-MEM 20mlの混合物約42mLを用いてトランスフェクトした。グルコース消費に応じて、発酵の過程でグルコース溶液を添加した。分泌された抗体を含む上清を5〜10日後に回収し、抗体を上清から直接的に精製するか、または上清を凍結し、保存した。
【0401】
精製
MabSelectSure-Sepharose(商標)(IHH-AAA変異体以外の場合)(GE Healthcare, Sweden)またはKappaSelect-Agarose(IHH-AAA変異体の場合)(GE Healthcare, Sweden)を用いたアフィニティークロマトグラフィー、ブチルセファロースを用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー(GE Healthcare, Sweden)、およびSuperdex 200(GE Healthcare, Sweden)サイズ排除クロマトグラフィーによって、二重特異性抗体を細胞培養上清から精製した。
【0402】
簡単に説明すると、滅菌ろ過した細胞培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na
2HPO
4、1mM KH
2PO
4、137mM NaCl、および2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化したMabSelectSuRe樹脂(IHH-AAA変異以外および野生型抗体)上に捕捉し、平衡化緩衝液で洗浄し、pH3.0の25mMクエン酸ナトリウムを用いて溶出させた。IHH-AAA変異体は、25mM Tris、50mM NaCl、pH7.2で平衡化したKappaSelect樹脂上に捕捉し、平衡化緩衝液で洗浄し、pH2.9の25mMクエン酸ナトリウムを用いて溶出させた。溶出された抗体画分を集め、2M Tris、pH9.0で中和した。1.6M硫酸アンモニウム溶液を最終濃度が0.8M硫酸アンモニウムとなるように添加することによって、抗体プールを疎水性相互作用クロマトグラフィーのために準備し、酢酸を用いてpHをpH5.0に調整した。ブチルセファロース樹脂を35mM酢酸ナトリウム、0.8M硫酸アンモニウム、pH5.0で平衡化した後、抗体を樹脂に添加し、平衡化緩衝液で洗浄し、35mM酢酸ナトリウムpH5.0までの直線勾配を用いて溶出させた。(単一特異性または二重特異性の)抗体を含む画分を集め、20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0で平衡化したSuperdex 200 26/60 GL (GE Healthcare, Sweden)カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって、さらに精製した。(単一特異性または二重特異性の)抗体を含む画分を集め、Vivaspin限外ろ過装置(Sartorius Stedim Biotech S.A., France)を用いて必要とされる濃度まで濃縮し、-80℃で保存した。
【0403】
(表)二重特異性<VEGF-ANG-2>抗体の収量
【0404】
純度および抗体の完全性を、各精製段階の後に、マイクロ流体Labchip技術(Caliper Life Science, USA)を用いたCE-SDSによって解析した。5μLのタンパク質溶液を、製造業者の取扱い説明書に従ってHTタンパク質発現試薬キットを用いるCE-SDS解析のために調製し、HTタンパク質発現チップを用いてLabChip GXIIシステムにおいて解析した。データは、LabChip GXソフトウェアを用いて解析した。
【0405】
(表)CE-SDSによって測定した、異なる連続的精製工程による典型的副産物の除去
【0406】
抗体試料の凝集物含有量を、25℃で、2×PBS(20mM Na
2HPO
4、2mM KH
2PO
4、274mM NaCl、および5.4mM KCl、pH7.4)ランニング緩衝液を用いて、Superdex 200分析用サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を用いた高速SECによって解析した。タンパク質25μgを流速0.75mL/分でカラムに注入し、50分間に渡って無勾配で溶出させた。
【0407】
同様に、<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体であるVEGFang2-0012およびVEGFang2-0201を調製して精製し、以下の収量を得た。
【0408】
また、<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体、すなわち、IHH-AAA変異およびSPLE変異を有している<VEGF-ANG-2>CrossMAb IgG4 (SEQ ID NO: 42、SEQ ID NO: 43、SEQ ID NO: 44、SEQ ID NO: 45)、IHH-AAA変異を有している<VEGF-ANG-2>OAscFab IgG1(SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 47、SEQ ID NO: 48)、IHH-AAA変異およびSPLE変異を有している<VEGF-ANG-2>OAscFab IgG4(SEQ ID NO: 49、SEQ ID NO: 50、SEQ ID NO: 51)、HHY-AAA変異およびP329G LALA変異を有している<VEGF-ANG-2>CrossMab IgG1 (SEQ ID NO: 90、SEQ ID NO: 91、SEQ ID NO: 40、SEQ ID NO: 41)、HHY-AAA変異およびSPLE変異を有している<VEGF-ANG-2> CrossMab IgG4(SEQ ID NO: 92、SEQ ID NO: 93、SEQ ID NO: 44、SEQ ID NO: 45)、HHY-AAA変異を有している<VEGF-ANG-2> OAscFab IgG1(SEQ ID NO: 94、SEQ ID NO: 95、SEQ ID NO: 48)、ならびにHHY-AAA変異およびSPLE変異を有している<VEGF-ANG-2> OAscFab IgG4(SEQ ID NO: 96、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 51)を調製し、同様に精製することもできる。
【0409】
実施例2
解析学および発展性
小規模なDLSに基づく粘度測定
本質的に、(He, F. et al., Analytical Biochemistry 399 (2009) 141-143)において説明されているとおりに、粘度測定を実施した。簡単に説明すると、ポリスチレンラテックスビーズ(直径300nm)およびPolysorbate 20(0.02%v/v)を添加する前に、200mMコハク酸アルギニン、pH5.5中で試料を濃縮して様々なタンパク質濃度にした。0.4μmフィルタープレートを通す遠心分離によって、384ウェルオプティカルプレート中に試料を移し、パラフィン油で覆った。ラテックスビーズの見かけの直径を、25℃で、動的光散乱法によって測定した。溶液の粘度は、η=η0(rh/rh、0)として算出することができる(η:粘度;η0:水の粘度;rh:ラテックスビーズの見かけの流体力学半径;rh、0:水中のラテックスビーズの流体力学半径)。
【0410】
様々な試料を同じ濃度で比較することを可能にするために、ムーニーの式(式1)(Mooney, M., Colloid. Sci., 6 (1951) 162-170; Monkos, K., Biochem. Biophys. Acta 304 (1997) 1339)を用いて、粘度-濃度データをフィッティングし、それに応じてデータを補間した。
(S:タンパク質の流体力学相互作用パラメーター;K:セルフクラウディング(self-crowding)係数;Φ溶解したタンパク質の体積分率)。
【0411】
結果を
図2に示す。Fc領域にIHH-AAA変異を有するVEGFang2-0016は、Fc領域にIHH-AAA変異を有していないVEGFang2-0015と比べて、測定したすべての温度において、低い粘度を示している。
【0412】
DLS凝集開始温度
20mMヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩、140mM NaCl、pH6.0中に溶かして濃度1mg/mLの試料を調製し、0.4μmフィルタープレートを通す遠心分離によって、384ウェルオプティカルプレート中に移し、パラフィン油で覆った。0.05℃/分の割合で25℃から80℃まで試料を加熱しながら、動的光散乱法によって流体力学半径を繰り返し測定した。凝集開始温度は、流体力学半径が増加し始める温度と定義される。結果を
図3に示す。
図3では、Fc領域にIHH-AAA変異を有するVEGFang2-0016と比べて、IHH-AAA変異を有していないVEGFang2-0015の凝集を示している。VEGFang2-0016は、61℃の凝集開始温度を示したのに対し、IHH-AAA変異を有していないVEGFang2-0015は、60℃の開始温度を示した。
【0413】
DLS経時変化
20mMヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩、140mM NaCl、pH6.0中に溶かして濃度1mg/mLの試料を調製し、0.4μmフィルタープレートを通す遠心分離によって、384ウェルオプティカルプレート中に移し、パラフィン油で覆った。最長で145時間、試料を50℃の一定温度に保ちながら、動的光散乱法によって流体力学半径を繰り返し測定した。この実験では、天然の折り畳まれていないタンパク質が高温で凝集する傾向が原因で、時間の経過につれて平均粒径が増加すると考えられた。凝集物は散乱光の強度に不釣り合いに大きく(over-proportionally)寄与するため、DLSに基づくこの方法は、凝集物に対する感度が非常に高い。VEGFang2-0015およびVEGFang2-0016のいずれに関しても、50℃(凝集開始温度に近い温度、上記を参照されたい)で145時間経過後でさえ、わずか0.5nm未満の平均粒径増加しか見出されなかった。
【0414】
40℃、100 mg/mLでの7日間保存
200mMコハク酸アルギニン、pH5.5中で試料を最終濃度100mg/mLに濃縮し、滅菌ろ過し、40℃で7日間、静止状態で保存した。保存前および保存後に、高分子量の種および低分子量の種(それぞれ、HMWおよびLMW)の含有量を、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定した。保存試料と調製直後に測定した試料とのHMW含有量およびLMW含有量の差を、それぞれ「HMW増加」および「LMW増加」として報告する。結果を下記の表および
図4に示す。これらから、VEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)の方が、VEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)と比べて、メインピークの大きな減少およびHMWの大きな増加を示すことが示される。驚くべきことに、VEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)は、VEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)と比べて、低い凝集傾向を示した。
【0415】
(表)40℃で7日経過後のメインピーク、HMWピーク、およびLMWピークの増分
【0416】
<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体の機能解析を、BIAcore(登録商標)のT100装置またはT200装置(GE Healthcare)を25℃で用いて表面プラズモン共鳴(SPR)によって評価した。BIAcore(登録商標)システムは、分子相互作用の研究のために十分に確立されている。SPR技術は、金でコーティングされたバイオセンサーチップの表面近くでの屈折率の測定に基づいている。屈折率の変化から、固定化されたリガンドと溶液中に注入された分析物の相互作用によって引き起こされる表面の質量変化が示唆される。分子が、表面の固定化されたリガンドに結合する場合、質量は増加し、反対に、固定化されたリガンドから分析物が解離する場合は、質量が減少する(複合体の解離を反映する)。SPRにより、リガンド/分析物の結合を連続的にリアルタイムでモニターすること、したがって、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、および平衡定数(KD)の決定が可能になる。
【0417】
実施例3
VEGF、ANG-2、FcγR、およびFcRnへの結合
種交差反応性の評価を含むVEGFアイソフォームの動力学的親和性
GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いることにより、約12,000レゾナンスユニット(RU)の捕捉系(10μg/mLヤギ抗ヒトF(Ab)'
2;注文コード28958325; GE Healthcare Bio-Sciences AB, Sweden)をpH5.0でCM5チップ(GE Healthcare BR-1005-30)に結合させた。試料および系の緩衝液は、PBS-T(0.05% Tween-20(商標)を含む10mMリン酸緩衝化生理食塩水)、pH7.4であった。フローセルを25℃に設定し、試料ブロックを12℃に設定し、ランニング緩衝液を2回流して、準備した。50nM溶液を流速5μL/分で30秒間注入することによって、二重特異性抗体を捕捉した。300nMから始めて1:3で希釈した、様々な濃度のヒトhVEGF121溶液、マウスmVEGF120溶液、またはラットrVEGF164溶液を流速30μL/分で300秒間注入することによって、結合を測定した。解離相は、最長1200秒間モニターし、試料溶液をランニング緩衝液に切り替えることによって誘発した。流速30μL/分のグリシンpH2.1溶液で60秒間洗浄することによって、表面を再生した。ヤギ抗ヒトF(Ab')
2表面から得られるレスポンスを引くことによって、バルク屈折率の差を補正した。また、ブランクの注入も差し引いた(=二重の参照(double referencing))。見かけのK
Dおよび他の動態パラメーターを算出するために、ラングミュア1:1モデルを使用した。結果を下記に示す。
【0418】
種交差反応性の評価を含むANG-2溶液親和性
溶液親和性とは、平衡混合物中の遊離の相互作用相手の濃度を測定することによる相互作用の親和性の測定値である(measures)。溶液親和性アッセイ法は、一定濃度に保った<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体を様々な濃度のリガンド(=ANG-2)と混合する段階を含む。実現可能な最大値のレゾナンスユニット(例えば、17,000レゾナンスユニット(RU))の抗体を、GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いて、pH5.0でCM5チップ(GE Healthcare BR-1005-30)表面に固定化した。試料および系の緩衝液は、HBS-P、pH7.4であった。フローセルを25℃に設定し、試料ブロックを12℃に設定し、ランニング緩衝液を2回流して、準備した。検量線を作成するために、固定化された<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体を含むBIAcoreフローセル中に、濃度を段階的に上げたANG-2を注入した。結合されたANG-2の量をレゾナンスユニット(RU)として測定し、濃度に対してプロットした。各リガンドの溶液(<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体の場合、0〜200nMの11種類の濃度)を10nM ANG-2と共にインキュベートし、室温で平衡に到達させた。公知の量のANG-2を用いて溶液のレスポンスを測定する前および後に作成した検量線から、遊離ANG-2の濃度を決定した。遊離ANG-2濃度をy軸として用い、阻害のための抗体の濃度をx軸として用いて、Model 201を用いるXLfit4(IDBS Software)によって、4パラメーター当てはめを設定した。この曲線の変曲点を決定することによって、親和性を算出した。流速30μL/分の0.85% H
3PO
4溶液で30秒間、1回洗浄することによって、表面を再生した。ブランクを結合させた(blank-coupled)表面から得られるレスポンスを差し引くことによって、バルク屈折率の差を補正した。結果を下記に示す。
【0419】
FcRn定常状態親和性
FcRn測定のために、定常状態親和性を用いて、互いに対する二重特異性抗体を比較した。ヒトFcRnを、カップリング緩衝液(10μg/mL、酢酸Na、pH5.0)中で希釈し、BIAcoreウィザードを用いる標的を定めた固定化手順によって、最終レスポンスが200RUになるようにC1チップ(GE Healthcare BR-1005-35)上に固定化した。フローセルを25℃に設定し、試料ブロックを12℃に設定し、ランニング緩衝液を2回流して、準備した。試料および系の緩衝液は、PBS-T(0.05% Tween-20(商標)を含む10mMリン酸緩衝化生理食塩水)、pH6.0であった。各抗体について様々なIgG濃度を評価するために、62.5nM、125nM、250nM、および500nMの濃度を調製した。流速を30μL/分に設定し、様々な試料を連続的にチップ表面に注入し、180秒の結合時間を選択した。流速30μL/分で60秒間注入されたPBS-T pH8によって、表面を再生した。ブランク表面から得られるレスポンスを差し引くことによって、バルク屈折率の差を補正した。また、緩衝液の注入も差し引いた(=二重の参照)。定常状態親和性を算出するために、BIA-Evaluationソフトウェアの方法を使用した。簡単に説明すると、解析した濃度に対してRU値をプロットして、用量反応曲線を得た。2パラメーター当てはめに基づいて上側漸近線を算出して、最大半量のRU値、したがって親和性の決定を可能にした。結果を
図5および下記の表に示す。同様に、カニクイザルFcRn、マウスFcRn、およびウサギFcRnに対する親和性も決定することができる。
【0420】
FcγRIIIa測定
FcγRIIIa測定のために直接的結合アッセイ法を使用した。GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いることにより、約3,000レゾナンスユニット(RU)の捕捉系(1μg/mL ペンタHis; Qiagen)をpH5.0でCM5チップ(GE Healthcare BR-1005-30)に結合させた。試料および系の緩衝液は、HBS-P+、pH7.4であった。フローセルを25℃に設定し、試料ブロックを12℃に設定し、ランニング緩衝液を2回流して、準備した。100nM溶液を流速5μL/分で60秒間注入することによって、FcγRIIIa-His-受容体を捕捉した。100nMの二重特異性抗体または単一特異性の対照抗体(IgG1サブクラス抗体およびIgG4サブクラス抗体の場合、抗ジゴキシゲニン抗体(抗Dig))を流速30μL/分で180秒間注入することによって、結合を測定した。流速30μL/分のグリシンpH2.5溶液で120秒間洗浄することによって、表面を再生した。FcγRIIIa結合はラングミュア1:1モデルとは異なるため、このアッセイ法を用いて、結合/非結合のみを測定した。同様の様式で、FcγRIa結合およびFcγRIIa結合を測定することができる。結果を
図6に示し、要するに、変異P329G LALAの導入により、FcγRIIIaへの結合をもはや検出することはできなかったということになる。
【0421】
<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体に対する独立したVEGF結合およびANG-2結合に関する評価
GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いることにより、約3,500レゾナンスユニット(RU)の捕捉系(10μg/mLヤギ抗ヒトIgG; GE Healthcare Bio-Sciences AB, Sweden)をpH5.0でCM4チップ(GE Healthcare BR-1005-34)に結合させた。試料および系の緩衝液は、PBS-T(0.05% Tween-20(商標)を含む10mMリン酸緩衝化生理食塩水)、pH7.4であった。フローセルの温度を25℃に、試料ブロックの温度を12℃に設定した。捕捉前に、フローセルにランニング緩衝液を2回流して、準備した。
【0422】
10nM溶液を流速5μL/分で60秒間注入することによって、二重特異性抗体を捕捉した。逐次的にまたは同時に添加した(30μL/分の流量)、各リガンドの活性結合能力を測定することによって、二重特異性抗体への各リガンドの独立した結合を解析した。
1.濃度200nMのヒトVEGFを180秒間注入(抗原の単一結合を同定する)。
2.濃度100nMのヒトANG-2を180秒間注入(抗原の単一結合を同定する)。
3.濃度200nMのヒトVEGFを180秒間注入し、続いて、濃度100nMのヒトANG-2を180秒間、追加注入(VEGFの存在下でのANG-2の結合を同定する)。
4.濃度100nMのヒトANG-2を180秒間注入し、続いて、濃度200nMのヒトVEGFを追加注入(ANG-2の存在下でのVEGFの結合を同定する)。
5.濃度200nMのヒトVEGFおよび濃度100nMのヒトANG-2を180秒間、同時注入(VEGFおよびANG-2の同時の結合を同定する)。
【0423】
流速30μL/分の3M MgCl
2溶液で60秒間洗浄することによって、表面を再生した。ヤギ抗ヒトIgG表面から得られるレスポンスを差し引くことによって、バルク屈折率の差を補正した。
【0424】
アプローチ3、4、および5から得られる最終シグナルが、アプローチ1および2の個々の最終シグナルの合計に等しいか、または同様である場合、二重特異性抗体は、両方の抗原に相互に独立に結合することができた。結果を下記の表に示し、両方の抗体VEGFang2-0016、VEGFang2-0012とも、VEGFおよびANG-2に相互に独立に結合できることが示された。
【0425】
<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体に対する同時のVEGF結合およびANG-2結合に関する評価
第1に、GE Healthcareによって供給されるアミンカップリングキットを用いることにより、約1,600レゾナンスユニット(RU)のVEGF(20μg/mL)をpH5.0でCM4チップ(GE Healthcare BR-1005-34)に結合させた。試料および系の緩衝液は、PBS-T(0.05% Tween-20(商標)を含む10mMリン酸緩衝化生理食塩水)、pH7.4であった。フローセルを25℃に設定し、試料ブロックを12℃に設定し、ランニング緩衝液を2回流して、準備した。第2に、二重特異性抗体の50nM溶液を流速30μL/分で180秒間注入した。第3に、hANG-2を流速30μL/分で180秒間注入した。hANG-2の結合レスポンスは、VEGFに結合した二重特異性抗体の量に依存し、同時結合を示す。流速30μL/分の0.85% H
3PO
4溶液で60秒間洗浄することによって、表面を再生した。先にVEGFが結合した<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体に対する、hANG-2の追加の特異的結合シグナルによって、同時結合が示される。両方の二重特異性抗体VEGFang2-0015およびVEGFang2-0016について、<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体に対する同時のVEGF結合およびANG-2結合を検出することができた(データ不掲載)。
【0426】
(表)結果:異なる種に由来するVEGFアイソフォームに対する動力学的親和性
【0427】
(表)結果:ANG-2に対する溶液親和性
【0428】
(表)結果:<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体のFcRnに対する親和性
【0429】
(表)結果:FcγRI〜FcγRIIIaに対する結合
【0430】
(表)結果:<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体に対するVEGFおよびANG-2の独立した結合
【0431】
実施例4
質量分析
このセクションでは、正確な組立に重点を置いて、<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体の特性決定を説明する。脱グリコシル化し、かつ完全なままであるかまたはIdeSで消化した(化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)のIgG分解酵素)<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体のエレクトロスプレーイオン化法質量分析(ESI-MS)によって、予想される一次構造を確認した。IdeS消化は、100mmol/L NaH
2PO
4/Na
2HPO
4、pH7.1に溶かしたIdeSプロテアーゼ(Fabricator)2μgと共に、37℃で5時間、精製抗体100μgをインキュベートすることによって、実施した。続いて、100mmol/L NaH
2PO
4/Na
2HPO
4、pH7.1に溶かしたN-グリコシダーゼF、ノイラミニターゼ、およびO-グリコシダーゼ(Roche)を用いて、37℃で最長16時間、タンパク質濃度1mg/mLで抗体を脱グリコシル化し、続いて、Sephadex G25カラム(GE Healthcare)を用いたHPLCによって脱塩した。TriVersa NanoMate供給源(Advion)を装備したmaXis 4G UHR-QTOF MSシステム(Bruker Daltonik)を用いたESI-MSによって、総質量を測定した。
【0432】
IdeSで消化し脱グリコシル化した分子(下記の表)、または完全なままで脱グリコシル化した分子(下記の表)から得られた質量は、2種の異なる軽鎖LC
ANG-2およびLC
ルセンティス、および2種の異なる重鎖HC
ANG-2およびHC
ルセンティスからなる<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体のアミノ酸配列から導き出された予測質量に対応している。
【0433】
(表)脱グリコシル化しかつIdeSで消化した二重特異性<VEGF/ANG2>抗体VEGFang2-0201(IHH-AAA変異を有していない)およびVEGFang2-0012(IHH-AAA変異を有している)の質量
【0434】
(表)脱グリコシル化した<VEGF/ANG2>抗体VEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)およびVEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)の質量
【0435】
実施例5
FcRnクロマトグラフィー
ストレプトアビジンセファロースへの結合:
ストレプトアビジンセファロース(GE Healthcare)1gを、ビオチン標識し透析した受容体に添加し、振盪しながら2時間インキュベートした。受容体で誘導体化したセファロースを、1mL容XKカラム(GE Healthcare)に詰めた。
【0436】
FcRnアフィニティーカラムを用いるクロマトグラフィー:
条件:
カラム寸法:50mm×5mm
カラム床の高さ:5cm
添加量:試料50μg
平衡化緩衝液:pH5.5に調整された、150mM NaClを含む20mM MES
溶出緩衝液:pH8.8に調整された、150mM NaClを含む20mM Tris/HCl
溶出:7.5カラム体積(CV)の平衡化緩衝液、30カラム体積をかけて100%溶出緩衝液とし、10カラム体積の溶出緩衝液
【0437】
ヒトFcRnアフィニティーカラムクロマトグラフィー
以下の表において、ヒトFcRnを含むアフィニティーカラムにおける<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体の保持時間を示す。データは、上記の条件を用いて得た。
【0438】
(表)結果:<VEGF-ANG-2>二重特異性抗体の保持時間
【0439】
実施例6
IHH-AAA変異を有している抗体の薬物動態学的(PK)特性
ヒトFcRnに関してトランスジェニックであるマウスのFcRn(FcRn mice)を用いたPKデータ
生存中の段階:
この研究は、雌のC57BL/6Jマウス(遺伝背景(background));マウスFcRnを欠損しているがヒトFcRnに関してヘミ接合性トランスジェニックであるもの(huFcRn、276-/tg系統)を含んだ。
【0440】
パート1:
2μL/動物の適切な溶液(すなわち、化合物21μg/動物(VEGFAng2-0015(IHH-AAA変異を有していない))または化合物23.6μg/動物(VEGFAng2-0016(IHH-AAA変異を有している))を、すべてのマウスの右眼の硝子体内に一回注入した。
【0441】
マウスを、それぞれ動物6匹を含む2グループに割り当てた。投与後、グループ1からは2時間、24時間、および96時間の時点に、グループ2からは7時間、48時間、および168時間の時点に、血液試料を採取した。
【0442】
マウス右眼の硝子体中への注入は、World Precision Instruments, Inc., Berlin, Germany社製のナノリットル注入用のNanoFil Microsyringe系を用いることによって実施した。2.5%イソフルランでマウスを麻酔し、マウスの眼を見えるようにするために、倍率40倍でリングライト付きのLeica MZFL 3顕微鏡をLeica KL 2500 LCD照明装置(lightning)と共に用いた。続いて、35ゲージの針を用いて、化合物2μLを注入した。
【0443】
血清中の化合物レベルを測定するために、各動物の反対側の眼の眼球後静脈叢から血液を採取した。
【0444】
室温で1時間後の血液から、4℃で3分間の遠心分離(9,300×g)によって、少なくとも50μLの血清試料を得た。遠心分離後、血清試料を直接凍結し、解析するまで-80℃で凍結して保存した。グループ1の動物の処置された眼を、処置後96時間目に摘出(isolated)し、グループ2の動物の処置された眼を、処置後168時間目に摘出した。解析するまで、-80℃で試料を凍結して保存した。
【0445】
パート2:
200μL/動物の適切な溶液(すなわち、化合物21μg/動物(VEGFAng2-0015(IHH-AAA変異を有していない))または化合物23.6μg/動物(VEGFAng2-0016(IHH-AAA変異を有している))を、すべてのマウスの尾静脈に一回静脈内注入した。
【0446】
マウスを、それぞれ動物5匹を含む2グループに割り当てた。投与後、グループ1からは1時間、24時間、および96時間の時点に、グループ2からは7時間、48時間、および168時間の時点に、血液試料を採取した。血清中の化合物レベルを測定するために、各動物の眼球後静脈叢から血液を採取した。
【0447】
室温で1時間の後の血液から、4℃で3分間の遠心分離(9,300×g)によって、少なくとも50μLの血清試料を得た。遠心分離後、血清試料を直接凍結し、解析するまで-80℃で凍結して保存した。
【0448】
全眼ライセート(whole eye lysate)(マウス)の調製
眼ライセートは、実験動物の眼全体を物理化学的に分解することによって得た。機械的破壊のために、底が円錐形の1.5mL容マイクロバイアルに各眼を移した。凍結および解凍後、細胞洗浄用緩衝液1mLで眼を一度洗浄した(Bio-Rad, Bio-Plex細胞溶解キット、カタログ番号171-304011)。次の段階で、新しく調製した細胞溶解緩衝液500μLを添加し、1.5mL用の組織粉砕ペッスル(Kimble Chase、1.5mL用のペッスル、製品番号749521-1500)を用いて、眼を粉砕した。次いで、この混合物を5回凍結および解凍し、再び粉砕した。残存組織からライセートを分離するために、試料を4,500gで4分間遠心分離した。遠心分離後、上清を採取し、定量ELISAでさらに解析するまで-20℃で保存した。
【0449】
解析
マウス血清および眼ライセート中の<VEGF-ANG-2>抗体の濃度を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて測定した。
【0450】
マウスの血清試料および眼ライセート中の<VEGF-ANG-2>抗体を定量するために、ビオチン標識モノクローナル抗体およびジゴキシゲニン標識モノクローナル抗体が捕捉抗体および検出抗体として使用される標準的な固相逐次的サンドイッチイムノアッセイ法を実施した。分析物の二重特異性の完全性を確認するために、ビオチン標識捕捉抗体がVEGF結合部位を認識し、一方、ジゴキシゲニン標識検出抗体が分析物のANG-2結合部位に結合する。次いで、ストレプトアビジンコーティングされたマイクロタイタープレート(SA-MTP)の固相上に結合された、捕捉抗体、分析物、および検出抗体の免疫複合体を、抗ジゴキシゲニン抗体に連結された西洋ワサビペルオキシダーゼを用いて検出した。結合していない材料をSA-MTPから洗浄し、ABTS基質を添加した後、得られたシグナルは、SA-MTPの固相に結合された分析物の量に比例していた。次いで、並行して解析された検量用試料を基準として試料の測定シグナルを濃度に変換することによって、定量を実施した。
【0451】
第1の段階で、MTP振盪機において500rpmで1時間、濃度1μg/mLのビオチン標識捕捉抗体溶液(抗イディオタイプ抗体mAb<Id<VEGF>>M-2.45.51-IgG-Bi(DDS))をウェル当たり100μL用いて、SA-MTPをコーティングした。その間に、検量用試料、QC試料、および試料を調製した。検量用試料およびQC試料は、2%血清マトリックスまで希釈した。検量用試料の直線範囲内にシグナルが入るまで、試料を希釈した。
【0452】
SA-MTPを捕捉抗体でコーティングした後、洗浄用緩衝液および300μL/ウェルで、プレートを3回洗浄した。続いて、100μL/ウェルの検量用試料、QC試料、および試料をSA-MTP上にピペットで分注し、500rpmで1時間、再びインキュベートした。次に、分析物を、その抗VEGF結合部位を用いて、捕捉抗体を介してSA-MTPの固相に結合させた。インキュベーションし、プレートを洗浄することによって未結合の分析物を除去した後に、濃度250ng/mLの第1の検出抗体(抗イディオタイプ抗体mAb<Id-<ANG-2>>M-2.6.81-IgG-Dig(XOSu))をウェル当たり100μL、SA-MTPに添加した。再び、500rpmで1時間、振盪機上でプレートをインキュベートした。洗浄後、濃度50mU/mLの第2の検出抗体(pAb<ジゴキシゲニン>S-Fab-POD(ポリ))をウェル当たり100μL、SA-MTPのウェルに添加し、500rpmで1時間、プレートを再びインキュベートした。過剰な検出抗体を除去するための最終洗浄工程の後、100μL/ウェルの基質(ABTS)を添加した。抗体-酵素コンジュゲートは、ABTS(登録商標)基質の呈色反応を触媒する。次いで、ELISAリーダーによって波長405nmでのシグナルを測定した(参照波長:490nm([405/490]nm))。
【0453】
薬物動態学的評価
薬物動態パラメーターは、薬物動態評価プログラムWinNonlin(商標)(Pharsight)、バージョン5.2.1を用いて非コンパートメント解析によって算出した。
【0454】
結果:
(A)血清濃度
血清濃度に関する結果を下記の表および
図7B〜7Cに示す。
【0455】
(表)VEGFAng2-0015(IHH-AAA変異を有していない):
硝子体内適用後および
静脈内適用後の
血清濃度の比較
【0456】
(表)VEGFAng2-0016(IHH-AAA変異を有している):
硝子体内適用後および
静脈内適用後の
血清濃度の比較
【0457】
(表)VEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)およびVEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している):
硝子体内適用後の
血清濃度の比較
【0458】
(表)VEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)およびVEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している):
静脈内適用後の
血清濃度の比較
【0459】
結果:
(B)左眼および右眼の眼ライセート中の濃度
眼ライセート中の濃度に関する結果を下記の表および
図7D〜7Eに示す。
【0460】
(表)右眼に硝子体内適用した後の、眼ライセート中のVEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)の濃度
【0461】
(表)静脈内内適用した後の、眼ライセート中のVEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)の濃度
【0462】
(表)右眼に硝子体内適用した後の、眼ライセート中のVEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)の濃度
【0463】
(表)静脈内内適用した後の、眼ライセート中のVEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)の濃度
【0464】
結果の要約:
硝子体内適用後、本明細書において報告される二重特異性<VEGF-ANG-2>抗体であるVEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)は、IHH-AAA変異を有していない二重特異性<VEGF-ANG-2>抗体であるVEGFang2-0015と比べて、眼ライセート中で同様の濃度(96時間後および168時間後)を示す。
【0465】
また、硝子体内適用後、本明細書において報告される二重特異性<VEGF-ANG-2>抗体であるVEGFang2-0016(IHH-AAA変異を有している)は、IHH-AAA変異を有していない二重特異性<VEGF-ANG-2>抗体であるVEGFang2-0015と比べて、血清においてより速いクリアランスおよびより短い半減期をさらに示す。
【0466】
実施例7
マウス角膜マイクロポケット血管形成アッセイ法
SEQ ID NO: 20および21のVEGF結合VHおよびVLならびにSEQ ID NO: 28および29のANG-2結合VHおよびVLそれぞれを有する二重特異性<VEGF-ANG-2>抗体が、インビボでVEGFによって誘導した血管形成に与える抗血管形成効果を試験するために、マウス角膜マイクロポケット血管形成アッセイ法を実施した。このアッセイ法では、VEGFを染み込ませたNylafloディスクを、角膜縁の血管から一定距離にある、血管の無い角膜のポケット中に埋め込んだ。血管が、VEGF勾配が高くなる方向に向かって(towards the developing VEGF gradient)直ちに成長して、角膜中に入り込んで行く。8〜10週齢の雌Balb/cマウスを、Charles River, Sulzfeld, Germanyから購入した。Rogers, M.S., et al., Nat. Protoc. 2 (2007) 2545-2550によって説明されている方法に従って、プロトコールを修正した。簡単に説明すると、麻酔をかけたマウスにおいて、外科用ブレードおよび尖ったピンセットを用いて、角膜縁から約1mmの位置から角膜の先端までの幅約500μmのマイクロポケットを顕微鏡下で作った。直径0.6mmのディスク(Nylaflo(登録商標), Pall Corporation, Michigan)を埋め込み、埋め込み領域の表面を滑らかにした。対応する増殖因子中またはビヒクル中で少なくとも30分間、ディスクをインキュベートした。3、5、および7日後(または、別法として単に3、5、または7日後)に、眼を撮影し、血管応答を測定した。角膜の総面積当たりの新血管面積の比率を算出することによって、このアッセイ法を定量化した。
【0467】
ディスクに300ngのVEGFまたは対照としてのPBSを添加し、7日間埋め込んだ。角膜縁からディスクへの血管の伸長を、3、5、および/または7日目に経時的にモニターした。ディスク埋め込みの1日前に、インビボでVEGFによって誘導した血管形成に与える抗血管形成効果を試験するために、10mg/kgの用量で抗体を静脈内投与した(静脈内適用するため、VEGFang2-0016とIHH-AAA変異だけが異なり、同じ抗VEGFおよび抗ANG-2のVHおよびVLを有して有効性をもたらす、血清中で安定なVEGFang2-0015(IHH-AAA変異を有していない)を、代用物として使用した)。対照群の動物には、ビヒクルを与える。適用体積は、10mL/kgであった。
【0468】
実施例8
HHY-AAA変異を有している抗体の薬物動態学的(PK)特性
ヒトFcRnに関してトランスジェニックであるマウスのFcRnを用いたPKデータ
生存中の段階:
この研究は、雌のC57BL/6Jマウス(遺伝背景);マウスFcRnを欠損しているがヒトFcRnに関してヘミ接合性トランスジェニックであるもの(huFcRn、276-/tg系統)を含む。
【0469】
パート1:
2μL/動物のVEGF/ANG2-0016、VEGF/ANG2-0096、VEGF/ANG2-0098、VEGF/ANG2-0121の適切な溶液を、すべてのマウスの右眼の硝子体内に一回注入した。
【0470】
マウスを、それぞれ動物6匹を含む2グループに割り当てる。投与後、グループ1からは2時間、24時間、および96時間の時点に、グループ2からは7時間、48時間、および168時間の時点に、血液試料を採取する。
【0471】
マウス右眼の硝子体中への注入は、World Precision Instruments, Inc., Berlin, Germany社製のナノリットル注入用のNanoFil Microsyringe系を用いることによって実施する。2.5%イソフルランでマウスを麻酔し、マウスの眼を見えるようにするために、倍率40倍でリングライト付きのLeica MZFL 3顕微鏡をLeica KL 2500 LCD照明装置と共に用いる。続いて、35ゲージの針を用いて、化合物2μLを注入する。
【0472】
血清中の化合物レベルを測定するために、各動物の反対側の眼の眼球後静脈叢から血液を採取する。
【0473】
室温で1時間後の血液から、4℃で3分間の遠心分離(9,300×g)によって、少なくとも50μLの血清試料を得る。遠心分離後、血清試料を直接凍結し、解析するまで-80℃で凍結して保存する。グループ1の動物の処置された眼を、処置後96時間目に摘出し、グループ2の動物の処置された眼を、処置後168時間目に摘出する。試料は、分析するまで-80℃で凍結して保存する。
【0474】
パート2:
200μL/動物の適切なVEGF/ANG2-0096、VEGF/ANG2-0098、またはVEGF/ANG2-0121を、すべてのマウスの尾静脈に一回静脈内注入する。
【0475】
マウスを、それぞれ動物5匹を含む2グループに割り当てる。投与後、グループ1からは1時間、24時間、および96時間の時点に、グループ2からは7時間、48時間、および168時間の時点に、血液試料を採取する。血清中の化合物レベルを測定するために、各動物の眼球後静脈叢から血液を採取する。
【0476】
室温で1時間後の血液から、4℃で3分間の遠心分離(9,300×g)によって、少なくとも50μLの血清試料を得る。遠心分離後、血清試料を直接凍結し、解析するまで-80℃で凍結して保存する。
【0477】
全眼ライセート(マウス)の調製
眼ライセートは、眼全体を物理化学的に分解することによって得る。機械的破壊のために、底が円錐形の1.5mL容マイクロバイアルに各眼を移す。凍結および解凍後、細胞洗浄用緩衝液1mLで眼を一度洗浄する(Bio-Rad, Bio-Plex細胞溶解キット、カタログ番号171-304011)。次の段階で、新しく調製した細胞溶解緩衝液500μLを添加し、1.5mL用の組織粉砕ペッスル(Kimble Chase、1.5mL用のペッスル、製品番号749521-1500)を用いて、眼を粉砕する。次いで、この混合物を5回凍結および解凍し、再び粉砕する。残存組織からライセートを分離するために、試料を4,500gで4分間遠心分離する。遠心分離後、上清を採取し、定量ELISAでさらに解析するまで-20℃で保存する。
【0478】
解析
マウス血清および眼ライセート中の抗体の濃度を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて測定する。
【0479】
マウスの血清試料および眼ライセート中の抗体を定量するために、ビオチン標識モノクローナル抗体およびジゴキシゲニン化(digoxigenated)モノクローナル抗体が捕捉抗体および検出抗体として使用される標準的な固相逐次的サンドイッチイムノアッセイ法を実施する。具体的には、分析物の二重特異性の完全性を確認するために、ビオチン標識捕捉抗体がVEGF結合部位を認識し、一方、ジゴキシゲニン化検出抗体が分析物のANG-2結合部位に結合する。次いで、ストレプトアビジンコーティングされたマイクロタイタープレート(SA-MTP)の固相上に結合された、捕捉抗体、分析物、および検出抗体の免疫複合体を、抗ジゴキシゲニン抗体に連結された西洋ワサビペルオキシダーゼを用いて検出する。結合していない材料をSA-MTPから洗浄し、ABTS基質を添加した後、得られたシグナルは、SA-MTPの固相に結合された分析物の量に比例している。次いで、並行して解析された検量用試料を基準として試料の測定シグナルを濃度に変換することによって、定量を実施する。
【0480】
第1の段階で、MTP振盪機において500rpmで1時間、濃度1μg/mLのビオチン標識捕捉抗体溶液(抗イディオタイプ抗体、例えば、mAb<Id<VEGF>>M-2.45.51-IgG-Bi(DDS))をウェル当たり100μL用いて、SA-MTPをコーティングする。その間に、検量用試料、QC試料、および試料を調製する。検量用試料およびQC試料は、2%血清マトリックスまで希釈する。検量用試料の直線範囲内にシグナルが入るまで、試料を希釈する。
【0481】
SA-MTPを捕捉抗体でコーティングした後、洗浄用緩衝液および300μL/ウェルで、プレートを3回洗浄する。続いて、100μL/ウェルの検量用試料、QC試料、および試料をそれぞれSA-MTP上にピペットで分注し、500rpmで1時間、再びインキュベートする。次に、分析物を、その結合部位のうちの1つを用いて、捕捉抗体を介してSA-MTPの固相に結合させる。インキュベーションし、プレートを洗浄することによって未結合の分析物を除去した後に、濃度250ng/mLの第1の検出抗体(抗イディオタイプ抗体、例えば、mAb<Id-<ANG-2>>M-2.6.81-IgG-Dig(XOSu))をウェル当たり100μL、SA-MTPに添加する。再び、500rpmで1時間、振盪機上でプレートをインキュベートする。洗浄後、濃度50mU/mLの第2の検出抗体(例えば、pAb<ジゴキシゲニン>S-Fab-POD(ポリ))をウェル当たり100μL、SA-MTPのウェルに添加し、500rpmで1時間、プレートを再びインキュベートする。過剰な検出抗体を除去するための最終洗浄工程の後、100μL/ウェルの基質(ABTS(登録商標)6)を添加する。抗体-酵素コンジュゲートは、ABTS(登録商標)基質の呈色反応を触媒する。ELISAリーダーによって波長405nmでのシグナルを測定する(参照波長:490nm([405/490]nm))。
【0482】
薬物動態学的評価
薬物動態パラメーターは、薬物動態評価プログラムWinNonlin(商標)(Pharsight)、バージョン5.2.1を用いて非コンパートメント解析によって算出する。
【0483】
前述の本発明は、理解を明確にするために、例示および例としていくらか詳しく説明してきたが、これらの説明および例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用されるあらゆる特許および科学文献の開示は、その全体が参照により明確に組み入れられる。