(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記CD96阻害抗体又はCD96阻害抗体断片が、ドメイン1;ドメイン2;ドメイン3;ドメイン1及びドメイン2;ドメイン1及びドメイン3;ドメイン2及びドメイン3;並びにドメイン1、ドメイン2及びドメイン3からなる群から選択される、CD96の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインと結合するか又はそれと相互作用する、請求項3に記載の使用。
前記CD96阻害抗体又はCD96阻害抗体断片が、ヒトCD96アイソフォーム2(配列番号2)の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインと結合するか又はそれと相互作用する、請求項3又は請求項4に記載の使用。
前記CD96阻害抗体又はCD96阻害抗体断片が、ドメイン1;ドメイン2;ドメイン3;ドメイン1及びドメイン2;ドメイン1及びドメイン3;ドメイン2及びドメイン3;並びにドメイン1、ドメイン2及びドメイン3からなる群から選択される、CD96の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインと結合又は相互作用する、請求項16に記載の方法。
前記CD96阻害抗体又はCD96阻害抗体断片が、ヒトCD96アイソフォーム2(配列番号2)の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインと結合又は相互作用する、請求項16又は請求項17に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】CD96は、CD155結合をDNAM−1と競合する。a、b C57BL/6WT(薄灰色)及びCD96
−/−マウス(暗灰色)に由来する表示の脾臓リンパ球集団でのCD96の発現をフローサイトメトリーで分析した。代表的なFACSヒストグラム(a)及び3つの実験のうち1つの代表的な実験の3匹のマウスの平均±SD(b)が示されている。c、d 新しく単離したか又はIL−2(1000U/ml)で48時間活性化したWT脾臓NK細胞での、CD96、DNAM−1、及びTIGITの発現を測定した。e.WT、CD96
−/−、DNAM−1
−/−、又はDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスから新しく単離した精製NK細胞に対する、AF−647結合マウスCD155−Fcの結合を、表示されている濃度で、フローサイトメトリーにより評価した。f.精製WT NK細胞に対する、AF−647結合CD155−Fc(10μg/ml)の結合を、抗CD96mAb又は抗DNAM−1mAbの存在下で分析した。g.BMDCの細胞表面でのAF−647標識DNAM−1−Fc(0.5〜10μg/ml)の結合を、50μg/mlの対照Ig、組換えCD96、又はTIGIT−Fcの存在下で分析した。c〜g.代表的なFACSヒストグラム、及び少なくとも3つの実験のうち1つの代表的な実験の三重反復ウェルの平均±SDが示されている。
***p<0.001 スチューデントT検定。
【
図2】CD155に対するCD96の結合は、NK細胞でのIFNγ産生を制御する。CD155−Fcに対するCD96の結合は、外来性サイトカイン(a、b、d)及びNK細胞受容体(c)により誘導されるNK細胞によるIFN−γの産生を制限する。a、b、d.本発明者らは、CD155−Fc(0.5μg/ウェル)を用いて又は用いずにコーティングしたプレートを使用して、抗CD96(50μg/ml)の存在下又は非存在下で、IL−12(25〜100pg/ml)及びIL−18(50ng/ml)に応答する、新しく精製したCD96
−/−、TIGIT
−/−、及びWT NK細胞によるIFN−γの細胞内産生を分析した。c.本発明者らは、抗NK1.1(2.5μg/ウェル)及びCD155−Fc(0.5μg/ウェル)でコーティングしたプレートを使用して、CD96
−/−及びWTマウスに由来するIL−2活性化NK細胞によるIFN−γの細胞内産生を分析した。代表的なFACSヒストグラム(a)、及び3つの実験うち1つの代表的な実験の三重反復ウェルの平均±SD(b、c、d)が示されている。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、スチューデントT検定。
【
図3】CD96は、NK細胞依存性腫瘍免疫監視を制限する。a、b.CD96及びDNAM−1は、B16F10転移の制御に逆の役割を有する。a.2×10
5個のB16F10細胞を、WT、CD96
−/−、DNAM−1
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスに静脈内注射し、14日後に肺の転移量を定量した。3つの実験のうち代表的な実験。b.2×10
5個及び5×10
5個のB16F10細胞を注射した2週間後の、WT及びCD96
−/−マウスの肺を示す画像。2つの実験うちの代表的な実験。c.CD96及びTIGITは、B16F10の細胞表面でのCD155の結合をDNAM−1と競合する。B16F10細胞の細胞表面でのAF−647標識DNAM−1−Fc(0.5〜20μg/ml)の結合を、50μg/mlの対照Ig、組換えCD96、又はTIGIT−Fcの存在下で分析した。FACSヒストグラム、及び3つの実験うち1つの代表的な実験の三重反復ウェルの平均±SDが示されている。d.4時間の
51Cr放出アッセイを、表示されているエフェクター標的比にて、B16F10細胞と、WT、DNAM−1
−/−、及びCD96
−/−マウスに由来するIL−2活性化NK細胞との間で実施した。黒い円はWT NK細胞を表し、白抜き円はCD96
−/−NK細胞を表し、黒い正方形はDNAM−1
−/−NK細胞を表す。e〜h.CD96及びDNAM−1は、NK細胞により媒介されるMCA誘導性線維肉腫の免疫監視において逆の役割を有する。e〜h 15〜30匹の雄WT、DNAM−1
−/−、及びCD96
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスの群に、MCA(100μg/マウス)を注射した。肉腫を有する個々のマウスの生存率(e〜g)及び増殖曲線(h)が示されている。f.「材料及び方法」に規定されているように、抗CD96、抗DNAM−1、又は抗CD155mAbでWTマウスを処置した。g.WT及びCD96
−/−マウスに100μgのMCAを注射し、対照抗体、抗IFN−γ抗体、又は抗asialoGM1のいずれかで処置した。
*p<0.05 マンテル−コックス検定。
【
図4】抗CD96mAbは、単剤活性を有し、抗PD1の非腫瘍応答を増強する。C57BL/6野生型(WT)マウスに、AT3−OVA
dim腫瘍細胞(10
6細胞)を皮下注射し、16、20、及び24日目に、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)又は抗PD−1(RMP1−14、250μg i.p.)の腹腔内注射で処置した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定によりcIg単独と比較)。
【
図5】抗CD96mAbは、ドキソルビシン(DOX)化学療法により生成される抗腫瘍応答を増強する。C57BL/6野生型(WT)、DNAM−1
−/−、及びCD96
−/−マウスに、AT3−OVA
dim腫瘍細胞(10
6細胞)を皮下注射し、14日目に、対照PBS又はDOX(50マイクロリットル、2mM、腫瘍内)で処置した。また、WTマウスの幾つかの群は、12、14、18、21、24、及び28日目に、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)又は抗DNAM−1(480.1、250μg i.p.)の腹腔内注射を受けた。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている。
【
図6】宿主がCD96を欠損する場合のドキソルビシン(DOX)化学療法の抗腫瘍応答の増強。C57BL/6野生型(WT)、DNAM−1
−/−、及びCD96
−/−マウスに、AT3−OVA
dim腫瘍細胞(10
6細胞)を皮下注射し、16日目に、対照PBS又はDOX(50マイクロリットル、2mM、腫瘍内)で処置した。1群当たり5匹のマウスの平均±標準誤差(mm
2)が示されている。
【
図7】抗CD96mAbは、ドキソルビシン(DOX)化学療法により生成される抗腫瘍応答を増強する。C57BL/6野生型(WT)に、AT3−OVA
dim腫瘍細胞(10
6細胞)を皮下注射し、16日目に、対照PBS又はDOX(50マイクロリットル、2mM、腫瘍内)で処置した。また、WTマウスの幾つかの群は、16、20、及び23日目に、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)の腹腔内注射を受けた。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定によりcIg単独と比較)。
【
図8】初期抗CD96mAbは、抗PD−1及び抗CTLA−4mAbにより生成される抗腫瘍応答を増強する。C57BL/6野生型(WT)マウスに、B16−OVA黒色腫細胞(10
5細胞)を皮下注射し、1、5、及び9日目に、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)、抗PD−1mAb(RMP1−14、250μg i.p.)、抗CTLA−4(UC10−4F10、250μg i.p.)、抗CD96/抗PD−1mAb(各250μg i.p)、抗CD96/抗CTLA−4mAb(各250μg i.p)、又は対照Ig(cIg)(2A3、250μg i.p)の腹腔内注射で処置した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定により抗CD96単独と比較)。
【
図9】後期抗CD96mAbは、抗PD−1mAbにより生成される抗腫瘍応答を増強する。C57BL/6野生型(WT)マウスに、B16−OVA黒色腫細胞(10
5細胞)を皮下注射し、16、20、及び24日目に、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)、抗PD−1mAb(RMP1−14、250μg i.p.)、抗CTLA−4(UC10−4F10、250μg i.p.)、抗CD96/抗PD−1mAb(各250μg i.p)、抗CD96/抗CTLA−4mAb(各250μg i.p)、又は対照Ig(cIg)(2A3、250μg i.p)の腹腔内注射で処置した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定により抗CD96単独と比較)。
【
図10】宿主CD96は、B16F10肺転移を促進する。C57BL/6野生型(WT)、DNAM−1
−/−、CD96
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスに、B16F10黒色腫細胞(10
5細胞)を静脈内注射し、14日後に肺表面のコロニーを計数することにより、肺の転移量を定量した。1群当たり9〜17匹のマウスの平均±SEMが示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定によりWTと比較)。
【
図11】宿主CD96は、RM−1肺転移を促進する。C57BL/6野生型(WT)、DNAM−1
−/−、CD96
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスに、RM1前立腺癌細胞(10
4細胞)を静脈内注射し、14日後に肺表面のコロニーを計数することにより、肺の転移量を定量した。1群当たり10〜15匹のマウスの平均±SEMが示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定によりWTと比較)。
【
図12】宿主CD96は、3LL肺転移を促進する。C57BL/6野生型(WT)、DNAM−1
−/−、CD96
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスに、3LL肺癌細胞(10
5細胞)を静脈内注射し、14日後に肺表面のコロニーを計数することにより、肺の転移量を定量した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEMが示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定によりWTと比較)。
【
図13】抗CD96は、単独で又はT細胞チェックポイント遮断との組み合わせで、B16F10肺転移を抑制する。C57BL/6野生型(WT)マウスに、B16F10黒色腫細胞(10
5細胞)を静脈内注射した。腫瘍接種後の0日目及び3日目に、マウスを、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)、抗PD−1mAb(RMP1−14、250μg i.p.)、抗CTLA−4(UC10−4F10、250μg i.p.)、抗CD96/抗PD−1mAb(各250μg i.p)、抗CD96/抗CTLA−4mAb(各250μg、i.p)、又は対照Ig(cIg)(2A3 250μg i.p)の腹腔内注射で処置した。14日後に肺表面のコロニーを計数することにより、肺の転移量を定量した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEMが示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定により抗CD96単独と比較)。
【
図14】抗CD96は、単独で又はT細胞チェックポイント遮断との組み合わせで、RM−1肺転移を抑制する。C57BL/6野生型(WT)マウスに、RM−1前立腺癌細胞(10
4細胞)を静脈内注射した。腫瘍接種後の0日目及び3日目に、マウスを、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)、抗PD−1mAb(RMP1−14、250μg i.p.)、抗CTLA−4(UC10−4F10、250μg i.p.)、抗CD96/抗PD−1mAb(各250μg i.p)、抗CD96/抗CTLA−4mAb(各250μg、i.p)、又は対照Ig(cIg)(2A3 250μg i.p)の腹腔内注射で処置した。14日後に肺表面のコロニーを計数することにより、肺の転移量を定量した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEMが示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定により抗CD96単独と比較)。
【
図15】後期抗CD96mAbは、抗PD−1mAbにより生成される抗腫瘍応答を増強する。C57BL/6野生型(WT)マウスに、MC38−OVA
dim結腸腺癌細胞(10
6細胞)を皮下注射し、14、18、22、及び26日目に、抗CD96mAb(3.3、250μg i.p)、抗PD−1mAb(RMP1−14、250μg i.p.)、抗CTLA−4(UC10−4F10、250μg i.p.)、抗CD96/抗PD−1mAb(各250μg i.p)、抗CD96/抗CTLA−4mAb(各250μg i.p)、又は対照Ig(cIg)(2A3、250μg i.p)の腹腔内注射で処置した。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定により抗CD96単独と比較)。
【
図16】AT3−OVA
dim乳癌に対する抗CD96単独の抗腫瘍効果の機序。(A〜B)C57BL/6野生型(WT)及びpfp
−/−マウスに、AT3−OVA
dim乳癌(1×10
6細胞)をs.c.注射した。腫瘍接種後の(A)16、20、及び24日目、又は(B)12、16、18日目に、マウスを、cIg(250μg i.p.)又は抗CD96mAb(250μg i.p.)のi.p.注射で処置した。マウスの幾つかの群を、腫瘍接種後の(A)14、16、及び23日目に、cIg、抗CD4/抗CD8β(100μg i.p.)、又は抗asGM1(100μg i.p.)で、又は腫瘍接種後の(B)10、12、及び18日目に、cIg又は抗IFN−γ(250μg i.p.)で処置した。その後、マウスの腫瘍増殖をモニタリングした。1群当たり5匹のマウスの平均±SEM(mm
2)が示されている(
*:p<0.05 マン−ホイットニー検定によりcIg処置マウスを抗CD96処置マウスと比較)。
【
図17A】in vitro NK細胞活性化。ヒトNK細胞からのIFNγ産生を分析するために、96ウェルU底プレートを、組換えヒトCD155−Fcキメラ(0.25μg/ウェル)で一晩4℃にてコーティングした。3回洗浄した後、バフィコートから新たに単離し、FACS選別した2.5×10
4個のヒトNK細胞を、ヒト抗CD96抗体(クローンNK92.39、50μg/ml)の存在下又は非存在下で、ヒトIL−12(10ng/ml)、IL−15(100ng/ml)、及びIL−18(100ng/ml)を添加した完全RPMIに播種した。CD155−Fcコーティングを含有していないウェルにも培養物をセットアップした。24時間インキュベーションした後、細胞を回収し、フローサイトメトリーによりIFNγ産生を分析した。条件は全て、三重反復で実行した。エラーバーは±SEMを表す。IL−12、18、及び15を使用したフローサイトメトリーの結果。
【
図17B】in vitro NK細胞活性化。ヒトNK細胞からのIFNγ産生を分析するために、96ウェルU底プレートを、組換えヒトCD155−Fcキメラ(0.25μg/ウェル)で一晩4℃にてコーティングした。3回洗浄した後、バフィコートから新たに単離し、FACS選別した2.5×10
4個のヒトNK細胞を、ヒト抗CD96抗体(クローンNK92.39、50μg/ml)の存在下又は非存在下で、ヒトIL−12(10ng/ml)、IL−15(100ng/ml)、及びIL−18(100ng/ml)を添加した完全RPMIに播種した。CD155−Fcコーティングを含有していないウェルにも培養物をセットアップした。24時間インキュベーションした後、細胞を回収し、フローサイトメトリーによりIFNγ産生を分析した。条件は全て、三重反復で実行した。エラーバーは±SEMを表す。異なるドナー(17Aに示されているドナー1ではない)のIFNγ陽性NK細胞の割合を示す結果。
【
図18】ヒトNK細胞に対するヒトCD96mAb(NK92.39)の結合は、NK細胞表面に存在するCD96のレベルを低減した。全NK細胞を、ヒトNK細胞単離キット(Miltenyi Biotec.社)を使用して、末梢血単核細胞(PBMC)から、ネガティブ選択により精製した。その後、単離したNK細胞を、カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンミジルエステル(CFSE;Biolegend社)で標識して、細胞増殖を測定した。CFSE標識NK細胞を、96ウェルU底プレートに5×10
4細胞/ウェルで播種し、30μg/mlの対照IgG又は抗CD96mAb(クローンNK92−39)の存在下にて、表示の濃度(10単位/ml及び25単位/ml)の組換えIL−2で刺激した。3日目及び6日目に、BD FACS Canto II(BD Biosciences社)を使用して、増殖の変化(A)又は表面CD96の有無;及び(B)について、NK細胞を評価した。分析は、FlowJo(Tree Star社)を使用して実施した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、CD96が、休止NK細胞及びT細胞のサブセットにより高度に発現され、休止NK細胞上でのCD155の結合をDNAM−1と競合するという予想外の発見に、少なくとも部分的に基づく。CD96が、CD155結合に対するDNAM−1との競合により、及び直接阻害により、in vitro及びin vivoでNK細胞でのIFN−γ産生を低下又は抑制することは、CD96
−/−マウスを使用して示される。更に、CD96
−/−マウスは、発癌の指標としての3’−メチルコラントレン(MCA)誘導性腫瘍形成、又はB16F10(黒色腫)、RM−1(前立腺癌)、3LL(肺癌)の実験的転移に対して、より抵抗性であることが示された。ヒトNK細胞では、抗CD96抗体の投与は、細胞表面CD96を除去するか又は喪失させ、かつ/又はCD96細胞表面発現の下方制御を引き起こすと考えられる。これらの観察に基づき、特にIFN−γ産生及び/又は分泌を抑制することのみによらないが、CD96が通常、T細胞及びNK細胞の抗腫瘍機能の負の調節因子として作用することが提唱される。したがって、本発明は、CD96の負の免疫制御機能を軽減又は低減することにより、特にT細胞及びNK細胞による免疫監視を促進又は回復させ、それにより、癌、癌細胞転移、及び/又はウイルス感染症を治療又は予防するための方法を提供する。
【0020】
したがって、本発明の1つの態様は、哺乳動物の免疫抑制を低減又は軽減する方法であって、哺乳動物の1つ又は複数の細胞のCD96活性を少なくとも部分的に阻害又は低減することにより、哺乳動物の免疫抑制を軽減、及び/又は免疫監視を強化若しくは回復させるステップを含む方法を提供する。
【0021】
CD96に関しての「免疫抑制を軽減する」とは、通常CD96を発現する細胞の1つ又は複数の免疫機能を抑制又は阻害する、CD96の正常な活性又は機能を少なくとも部分的に解消、除去、又は克服することを意味する。典型的には、通常CD96を発現する1つ又は複数の細胞は、CD4
+及びCD8
+T細胞、γδT細胞、NK T細胞、並びにナチュラルキラー(NK)細胞を含むT細胞である。幾つかの実施形態では、免疫抑制の軽減は、外来病原体、外来病原体を提示する宿主細胞(例えば、自己MHCに関しては、外来病原体由来ペプチドを提示する)、及び/又は宿主の癌性細胞若しくは組織に対する末梢寛容を抑制することを含むか又は抑制することに関する。
【0022】
「免疫監視を強化又は回復させる」とは、免疫系の1つ又は複数の要素が、外来病原体、外来病原体を提示する宿主細胞(例えば、自己MHCに関しては、外来病原体由来ペプチドを提示する)、及び/又は宿主の癌性細胞若しくは組織を、監視、検出、及び/又は応答する能力を、少なくとも部分的に向上又は促進することを意味する。好適には、免疫系の要素は、CD4
+及びCD8
+T細胞、γδT細胞、NK T細胞、並びにナチュラルキラー(NK)細胞を含むT細胞等の、通常CD96を発現する1つ又は複数の細胞である。
【0023】
哺乳動物の1つ又は複数の細胞におけるCD96活性の少なくとも部分的な阻害又は低減は、哺乳動物に「CD96阻害剤」を投与することにより実施、促進、又は達成することができる。CD96阻害剤は、CD96の生物活性を少なくとも部分的に抑制又は低減する能力を有するか又は示す任意の分子であり得る。CD96の生物活性には、以下の1つ又は複数が含まれる:CD155との結合、細胞表面発現、細胞内シグナル伝達の誘発、並びに/又はサイトカイン若しくはケモカインの発現及び/若しくは分泌の刺激若しくは誘導。好ましくは、サイトカイン又はケモカインには、限定するものではないが、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、TNF−α、及びIFN−γを含む任意の炎症促進性サイトカイン又はケモカインが含まれる。好ましくは、サイトカインはIFN−γである。
【0024】
本明細書で開示されているように、CD96は、ヒトでは2つのアイソフォームが存在する膜貫通型タンパク質である。アイソフォーム1は、急性骨髄性白血病で検出されており、アイソフォーム2と比較して追加のアミノ酸を含む。ヒトでは、アイソフォーム2がより一般的な形態であり、アイソフォーム2の予想ドメイン構造は、表1に列挙されているように、3つの外部免疫グロブリン様ドメイン(ドメイン1、2、及び3)を有する。ヒトCD96アイソフォーム1のアミノ酸配列は、配列番号2に示されている。アイソフォーム2をコードするヌクレオチド配列は、配列番号1に示されている。マウスCD96は、単一のアイソフォームとして存在し、そのアミノ酸配列は、配列番号4に示されている。マウスCD96をコードするヌクレオチド配列は、配列番号3に示されている。また、マウスCD96の外部免疫グロブリン様ドメイン(ドメイン1、2、及び3)は、表1に列挙されている。
【0025】
好ましい形態では、CD96阻害剤は、CD96の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインのアミノ酸配列と結合又は相互作用する。例えば、CD96阻害剤は、ドメイン1;ドメイン2;ドメイン3;ドメイン1及びドメイン2;ドメイン1及びドメイン3;ドメイン2及びドメイン3;又はドメイン1、ドメイン2、及びドメイン3のアミノ酸配列と結合又は相互作用することができる。
【0026】
1つの実施形態では、CD96阻害剤は、ヒトCD96アイソフォーム2の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインと結合又は相互作用する。
また、CD96阻害剤は、1つ又は複数の外部又は細胞外免疫グロブリン様ドメインに加えて、他のCD96ドメイン又はアミノ酸配列と結合又は相互作用してもよいことが理解されるであろう。
【0027】
1つの実施形態では、CD96阻害剤は、CD96とCD155との結合相互作用を阻害、阻止、又はそれと拮抗する。例に過ぎないが、CD96阻害剤は、CD155と相互作用する(例えば、CD155と結合するか又はCD155により結合される)ことが可能なCD96の細胞外ドメイン又はその部分に結合することにより、CD155に対するCD96の結合を少なくとも部分的に阻害又は阻止することができる。
【0028】
別の実施形態では、CD96阻害剤は、CD96シグナル伝達活性を阻害又は低減する能力を有するか又は示す分子である。CD96シグナル伝達活性の阻害又は低減は、CD155との結合相互作用を阻害、阻止、又は拮抗することによるものであってもよく、又はCD155結合に応答して通常生じるであろうCD96誘発シグナル伝達を阻止することによるものであってもよい。例として、CD96は、免疫受容体チロシン抑制性モチーフ(ITIM)を含む。ITIMは、チロシン(Y)残基を含み、N末端(Y−2)及びC末端(Y+3)残基が部分的に保存されている、6アミノ酸の配列として構造的に規定される。一般的だが非限定的なモチーフは(S/I/V/LXYXXI/V/L)であり、配列中Xは任意のアミノ酸である。例えば、CD96のアイソフォーム1は、ITIM配列IKYTCIを含み、配列中Yは、残基566である。
【0029】
ITIMは、活性化受容体と共凝集すると、Srcファミリーチロシンキナーゼによりリン酸化され、活性化シグナルと拮抗するSrc相同性2ドメイン含有ホスファターゼ(PTPase)を動員することが可能になると提唱されている。したがって、1つの実施形態では、CD96阻害剤は、CD96 ITIMにより媒介されるCD96シグナル伝達活性を阻害又は低減する能力を有するか又は示す。好ましくは、CD96 ITIMにより媒介されるCD96シグナル伝達活性の阻害又は低減は、サイトカイン(例えばIFN−γ)の発現、産生、及び/又は分泌の増加又は増強を可能にする。
【0030】
別の実施形態では、CD96阻害剤は、細胞表面CD96を除去、及び/又はCD96の細胞表面発現を低減又は下方制御する分子である。
CD96阻害剤は、タンパク質(ペプチド、抗体、及び抗体断片を含む)、核酸(リボザイム、RNAi、miRNA、及びsiRNA等の抑制性RNA分子を含むが、それらに限定されない)、脂質、炭水化物、有機小分子、又はこれらの任意の組み合わせ(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、ペプチド核酸等)であってもよい。
【0031】
1つの特定の実施形態では、CD96阻害剤は、CD96に結合する抗体又は抗体断片である。
好ましい形態では、抗体又は抗体断片は、CD96の1つ又は複数の外部又は細胞外免疫グロブリン様ドメインのアミノ酸配列と結合又は相互作用する。例えば、抗体又は抗体断片は、ドメイン1;ドメイン2;ドメイン3;ドメイン1及びドメイン2;ドメイン1及びドメイン3;ドメイン2及びドメイン3;又はドメイン1、ドメイン2、及びドメイン3のアミノ酸配列と結合又は相互作用することができる。
【0032】
1つの実施形態では、抗体は、ヒトCD96アイソフォーム2の1つ又は複数の外部免疫グロブリン様ドメインと結合又は相互作用する。
1つの形態では、抗体は、CD96と結合し、CD155に対するCD96の結合を少なくとも部分的に阻止又は阻害する。
【0033】
抗体は、ポリクローナルであってもよく又はモノクローナルであってもよく、天然物であってもよく又は組換え体であってもよい。抗体断片には、Fab断片及びFab’2断片、ダイアボディ(diabody)、並びに単鎖抗体断片(例えば、scV)が含まれるが、それらに限定されない。別の種で産生されているか又は別の種に由来する抗体及び抗体断片は、「外来性」抗体に対する有害な免疫応答を誘発せずにある種に投与可能になるように修飾されていてもよい。ヒトに関しては、これは、別の種で産生されるか又は別の種に由来する抗体の「ヒト化」である。そのような方法は、当技術分野で周知であり、一般的に、ヒト抗体スキャフォールド又は骨格に、非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を組換え「接合」すること含む。
【0034】
好適には、哺乳動物のCD96活性を阻害又は低減するステップは、哺乳動物のCD96発現細胞を死滅させることを含まない。この文脈では、「死滅」は、補体媒介性細胞溶解及び抗体媒介性細胞媒介性細胞傷害機序(ADCC、antibody-mediated cell-mediated cytotoxic mechanism)等の、任意の抗体媒介性細胞傷害機序を指す場合があり、後者は、典型的にはナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、好中球、及び好酸球により媒介される。この点で、Fc部分を欠如するか又は突然変異Fc部分を有する抗体断片を使用することが有利であり得る。
【0035】
哺乳動物のCD96活性を阻害又は低減するステップは、哺乳動物にCD96阻害剤を投与することにより達成又は促進することができる。
「投与する」とは、CD96阻害剤を特定の経路で哺乳動物に導入することを意味する。好適には、治療上有効量のCD96阻害剤が、哺乳動物に投与される。
【0036】
用語「治療上有効量」は、その作用剤で治療される哺乳動物で所望の効果を達成するのに十分な特定の作用剤の量を指す。
一般的に、本発明の方法は、CD96媒介性の免疫阻害、抑制、又は末梢寛容を低減又は軽減するのに有用であり得る。好適には、本方法は、CD96媒介性の免疫阻害、抑制、又は末梢寛容の少なくとも部分的阻止に応答する1つ又は複数の疾患又は状態の治療又は予防を容易にする。
【0037】
「治療する」又は「治療」は、本明細書で使用される場合、CD96媒介性の免疫阻害、抑制、又は末梢寛容の少なくとも部分的阻止に応答する疾患又は状態の1つ又は複数の既存の又は以前に特定されている症状を少なくとも部分的に解消又は改善する治療介入を指す。
【0038】
「予防する」又は「予防」は、本明細書で使用される場合、CD96媒介性の免疫阻害、抑制、又は末梢寛容の少なくとも部分的阻止に応答する疾患又は状態の症状が発症する前の、症状の発生を少なくとも部分的に又は一時的に予防するための予防的処置を指す。
【0039】
典型的には、CD96媒介性の免疫阻害、抑制、又は末梢寛容の少なくとも部分的な阻止に応答する疾患又は状態は、免疫監視の強化又は回復が、疾患又は状態を罹患している対象体に有益であり得る任意の疾患又は状態である。そのような疾患及び状態には、疾患又は状態の持続を、細胞媒介性免疫により制御又は抑制することができるものが含まれる。非限定的な例には、癌及びウイルス感染症が含まれる。本発明により企図される特定のウイルス感染症には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、単純ヘルペスウィルス(HSV1及びHSV2を含むHSV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、帯状疱疹ウイルス(VSV)、及びサイトメガロウイルス(CMV)により引き起こされるもの等の持続性ウイルス感染症が含まれるが、それらに限定されない。
【0040】
好ましい実施形態では、本方法は、哺乳動物の免疫抑制を低減又は軽減して、哺乳動物の癌又は癌転移を治療又は予防する。好適には、癌は、CD96媒介性の免疫阻害、抑制、又は末梢寛容の少なくとも部分的な阻止に応答するものであればよい。癌は、固形腫瘍、肉腫、リンパ腫、ミエローマ、カルシノーマ、黒色腫、細胞腫、及び髄膜腫の形態であってもよいが、それらに限定されない。癌の非限定的な例には、副腎、膀胱、硬骨、骨髄、脳、胸部、頚部、胆嚢、神経節、胃腸管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、下垂体、副甲状腺、前立腺、唾液腺、皮膚、脾臓、精巣、甲状腺、及び子宮の癌が含まれる。特定の非限定的な癌の例には、結腸癌、肺癌、及び前立腺癌が含まれる。幾つかの実施形態では、癌は、体内の別の部位、組織、又は器官に移動し、その部位、組織、又は器官で腫瘍を形成することが可能な転移癌である。これは、経時的に繰り返して生じる場合がある。本発明により企図される特に侵襲性の転移性癌は、転移性黒色腫である。
【0041】
また、癌を治療又は予防するための方法は、癌治療又は癌予防を促進する1つ又は複数の他の治療剤を同時投与することを更に含んでいてもよいことが理解されるであろう。例に過ぎないが、他の治療剤には、限定するものではないが、パクリタキセル、ドキソルビシン、メトトレキサート、及びシスプラチン等の化学療法剤;及び/又は限定するものではないが、抗PD−1抗体(例えば、ニボルマブ)及び抗CTLA4抗体(例えば、イピリムマブ)等の生物学的治療剤が含まれる。また、CD96と、PD−1及びCTLA4を含むがそれらに限定されない1つ又は複数の他の分子との両方に結合する二重特異性抗体が企図される。
【0042】
癌治療又は癌予防を促進する1つ又は複数の他の作用剤は、当技術分野で十分に理解されているように、CD96阻害剤と組み合わせて投与してもよく、又は別々に投与してもよい。
【0043】
幾つかの実施形態では、CD96阻害剤は、単独で、又は1つ若しくは複数の他の作用剤と一緒に、医薬組成物の形態に製剤化してもよい。
ヒト投与を含む哺乳動物投与用の、CD96阻害剤単独の、又は他の治療剤と一緒にしたCD96阻害剤の好適な用量は、当業者であれば、容易に決定することができる。
【0044】
好適には、医薬組成物は、適切な薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤を含む。
好ましくは、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤は、哺乳動物に対する、より好ましくはヒトに対する投与に好適である。
【0045】
「薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤」とは、全身性投与用に安全に使用することができる固形又は液体の充填剤、希釈剤、又は封入物質を意味する。特定の投与経路に応じて、当技術分野で周知の種々の担体、希釈剤、及び賦形剤を使用することができる。これらの担体は、糖、デンプン、セルロース及びその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝溶液、乳化剤、等張性生理食塩水、並びに塩酸塩、臭化物、及び硫酸塩を含む鉱酸塩等の塩、アセタート、プロピオナート、及びマロナート等の有機酸、並びに発熱物質除去水を含む群から選択することができる。
【0046】
薬学的に許容される担体、希釈剤、及び賦形剤が記載されている有用な文献は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.社、ニュージャージー州、米国、1991年)である。
【0047】
任意の安全な投与経路を使用して、CD96阻害剤を含む組成物を対象体に提供することができる。例えば、経口、直腸、非経口、舌下、頬側、静脈内、関節内、筋肉内、皮内、皮下、吸入、眼内、腹腔内、脳室内、及び経皮等を使用することができる。
【0048】
本発明の更なる態様は、CD96阻害剤を、スクリーニング、設計、遺伝子操作、又は他の手段で製造するための方法であって、候補分子が、CD96活性を少なくとも部分的に阻害又は低減することにより、哺乳動物の免疫抑制を軽減することが可能であるか否か、及び/又は免疫監視を強化若しくは回復させることが可能であるか否かを決定するステップを含む方法を提供する。
【0049】
また、本発明は、上述の態様によりスクリーニング、設計、遺伝子操作、又は他の手段で製造されたCD96阻害剤を提供する。
候補分子は、タンパク質(ペプチド、抗体、及び抗体断片を含む)、核酸(リボザイム、RNAi、miRNA、及びsiRNA等の抑制性RNA分子を含むが、それらに限定されない)、脂質、炭水化物、有機小分子、又はこれらの任意の組み合わせ(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、ペプチド核酸等)であってもよい。
【0050】
幾つかの実施形態では、候補調節因子は、候補調節因子が、CD155結合、細胞内シグナル伝達、並びに/又はIFN−γ産生及び/若しくは分泌等の、CD96の1つ又は複数の生物活性を阻止又は阻害し得ることを示す、所望の又は予想される構造特性又は特徴に基づき、de novoで合理的に設計又は遺伝子操作されていてもよい。他の実施形態では、候補調節因子は、候補調節因子が、CD96の1つ又は複数の生物活性を阻止又は阻害し得ることを示す、所望の又は予想される構造特性又は特徴に基づき、初期選択を行わずに分子ライブラリーをスクリーニングすることにより特定してもよい。そのようなライブラリーは、無作為に生成又は誘導された、タンパク質、ペプチド、核酸、組換え抗体若しくは抗体断片(例えば、ファージディスプレイライブラリー)、炭水化物、及び/若しくは脂質のライブラリー、天然分子のライブラリー、並びに/又は合成有機分子のコンビナトリアルライブラリーを含む。
【0051】
候補調節因子を設計及び/又はスクリーニングするために適用可能な技術の非限定的な例は、当技術分野で周知である、X線結晶解析、NMR分光法、コンピュータ支援構造データベーススクリーニング、コンピュータ支援モデリング、又は分子結合相互作用を検出する生化学的若しくは生物物理学的技術を使用することができる。
【0052】
分子相互作用を特定する生物物理学的及び生化学的技術には、CURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE、Coliganら編(John Wiley&Sons社、1997年)の第20章に提供されているような、競合的放射性リガンド結合アッセイ、共免疫沈降、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)結合アッセイを含む蛍光に基づくアッセイ、電気生理学法、分析超遠心法、標識転移、化学的架橋、質量分光法、マイクロカロリメトリー、表面プラズモン共鳴法、及び光バイオセンサーに基づく方法が含まれる。ツーハイブリッド及びファージディスプレイスクリーニング法等の生化学的技術は、CURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE、Coliganら編(John Wiley&Sons社、1997年)の第19章に提供されている。
【0053】
したがって、本方法の初期ステップは、CD96に結合する能力等の、幅の広い構造的及び/又は機能的属性により選択される複数の候補分子を特定することを含んでもよい。
本方法は、候補分子への応答におけるCD96の1つ又は複数の生物活性の変化を測定又は検出する更なるステップを含んでいてもよい。それらには、CD155結合、細胞表面CD96の有無、細胞内シグナル伝達、サイトカイン及び/若しくはケモカインの産生若しくは分泌、並びに/又はin vivoモデルにおける腫瘍攻撃からの保護が含まれていてもよい。
【0054】
候補分子による、CD96に対するCD155結合の阻害は、競合的放射性リガンド結合アッセイ、表面プラズモン共鳴法(例えば、BIACore(商標)分析)、共免疫沈降、及びCD96に対するCD155結合を阻止する候補阻害剤の能力の蛍光に基づく分析(CD155がフルオロフォアで標識されているフローサイトメトリー等による)を含む、当技術分野で知られている幾つかの技術のいずれかにより決定することができる。フルオロフォアの非限定的な例には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、アロフィコシアニン(APC)、FAM及びROX等のフルオロセイン誘導体、Texas Red、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITL)、R−フィコエリトリン(RPE)、Alexa及びBodipyフルオロフォアが含まれるが、それらに限定されない。
【0055】
或いは、この蛍光に基づく分析は、FRET分析(例えば、1つのタンパク質がドナーフルオロフォアに結合され、他方がアクセプターフルオロフォアに結合される)を含むことができるが、それに限定されない。
【0056】
幾つかの実施形態では、細胞内シグナル伝達は、NK細胞又はT細胞のサブセットにより発現されるCD96によるSH2ドメイン含有PTPaseの動員を測定すること等により、CD96のレベルで直接測定することができる。本発明の候補分子は、CD155の存在下でCD96によるSH2ドメイン含有PTPaseの動員を適切に防止又は低減する。この実施形態によると、候補分子は、CD96とCD155との結合を少なくとも部分的に阻害又は防止することにより、CD96による細胞内シグナル伝達を少なくとも部分的に阻害又は防止することができ、かつ/又はCD155結合にも関わらずCD96による細胞内シグナル伝達を少なくとも部分的に阻害又は防止することができる。
【0057】
他の実施形態では、CD96に対する候補分子の効果は、CD96を発現する細胞による1つ又は複数のサイトカイン又はケモカインの発現、産生、及び/又は分泌を測定することにより決定することができる。一般的に、サイトカイン又はケモカインの発現、産生、及び/又は分泌の変化の測定は、サイトカインmRNAのRT−PCRにより、細胞内に位置するサイトカイン若しくはケモカインタンパク質を測定することにより(例えば、サイトカイン特異的抗体又はケモカイン特異的抗体を使用する免疫細胞化学法により)、並びに/又はフローサイトメトリーのサイトカインビーズアレイ(BD Biosciences社等から市販されている)、サイトカイン特異的抗体若しくはケモカイン特異的抗体を使用したELISA、及びサイトカイン応答性細胞系若しくはケモカイン応答性細胞系を使用して細胞上清に分泌されたサイトカイン及び/若しくはケモカインを測定するバイオアッセイ等により、分泌されたサイトカイン又はケモカインを測定することにより可能である。サイトカインは、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、TNF−α、及びIFN−γを含む任意の炎症促進性サイトカイン又はケモカインであってもよいが、それらに限定されない。好ましくは、サイトカインは、IFN−γである。
【0058】
候補CD96阻害剤の効果は、細胞表面発現及びCD96遺伝子発現を含むCD96発現に対してであってもよい。限定ではないがNK細胞等のある細胞では、CD96阻害剤は、CD96発現の除去、喪失、及び/又は下方制御を引き起こすか又は促進することができることが理解されるであろう。したがって、幾つかの実施形態では、細胞表面でのCD96発現の除去、喪失、及び/又は下方制御が含まれていてもよい。これは、細胞表面CD96の内部移行又はエンドサイトーシスが増強される結果として、及び/又はCD96遺伝子発現の下方制御又は抑制により生じる場合がある。特定の実施形態では、CD96細胞表面発現は、上述したように、典型的にはCD96に結合する抗体又は抗体断片による、フローサイトメトリー、免疫沈降法、免疫細胞化学法、又は免疫組織化学法により検出又は測定することができる。特定の実施形態では、CD96遺伝子発現は、核酸配列増幅(例えば、定量的及び半定量的PCRを含むPCR)又はノーザンブロット法等の核酸ハイブリダイゼーション技術により測定することができる。
【0059】
好ましくは、候補分子のCD96阻害効果は、in vivo腫瘍攻撃モデルを使用して決定することができる。例えば、CD96発現マウスが使用されるマウスモデルを使用して、メチコラントレン(MCA)等の、投与した発癌物質に応答した腫瘍形成及び/又は増殖を阻害又は防止する候補分子の能力を決定することができる。別の例では、CD96発現マウスが使用されるマウスモデルを使用して、限定するものではないが、黒色腫、結腸腺癌、前立腺癌、及び乳癌腫等の腫瘍細胞の投与に応答した腫瘍形成及び/又は増殖を阻害又は防止する候補分子の能力を決定することができる。他のマウスモデルでは、MMTV−ポリオーマ、MT乳癌、DMBA/TPA誘導性皮膚癌、p53喪失リンパ腫/肉腫、及びTRAMP Tg前立腺癌を含むがそれらに限定されない腫瘍を自然に形成し易いマウスを使用してもよい。
【0060】
この態様の方法は、反復して実施することができ、それによりスクリーニング、設計、及び生物学的試験が複数ラウンド実施されることが理解されるであろう。これは、各ラウンドの前に候補分子を構造的に変更し、それにより候補分子の「微調整」を可能にすることを含んでいてもよい。
【0061】
また、本方法は、特に候補分子の特定及び選択の初期段階では、「ハイスループット」、「自動化」、「半自動化」の様式で実施することができることが理解されるであろう。
好ましい実施形態では、候補分子は抗体又は抗体断片である。上述のように、抗体は、ポリクローナルであってもよく又はモノクローナルであってもよく、天然物であってもよく又は組換え体であってもよい。抗体断片には、Fab断片及びFab’2断片、ダイアボディ、並びに単鎖抗体断片(例えば、scV)が含まれるが、それらに限定されない。抗体産生、選択、精製、及び使用に適用可能な周知のプロトコールは、例えば、Coliganら、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(John Wiley&Sons社、ニューヨーク州、1991〜1994年)の第2章、及びHarlow,E.&Lane,D.、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor、Cold Spring Harbor Laboratory、1988年に見出すことができる。これら両文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
ポリクローナル抗体は、例えば、マウス又はウサギを含んでいてもよい産生種に、CD96又はその断片(例えば、ペプチド)を注射して、ポリクローナル抗血清を得ることにより調製することができる。ポリクローナル抗体を産生する方法は、当業者に周知である。使用することができる例示的なプロトコールは、例えば、Coliganら、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(上記)及びHarlow&Lane、1988年(上記)に記載されている。
【0063】
モノクローナル抗体は、例えば、Koehler&Milstein、1975年、Nature 256巻、495頁の論文に記載されているような標準的方法を使用して産生することができる。この文献は参照により本明細書に組み込まれる。或いは、例えば、Coliganら、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(上記)に記載されているような、より最近のその改良法により、又は本発明の単離されたタンパク質、断片、変異体、若しくは誘導体の1つ若しくは複数を接種した産生種に由来する不死化脾臓若しくは他の抗体産生細胞により産生することができる。好適には、抗体又は抗体断片は、ヒト投与に好適である。この状況では、上述のように、抗体又は抗体断片は、別の種で産出されたか又は別の種に由来する抗体又は抗体断片の「ヒト化」形態であってもよい。そのような方法は、当技術分野で周知であり、一般的に、ヒト抗体スキャフォールド又は骨格に、非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を組換え「接合」すること含む。
【0064】
好ましい実施形態では、抗体又は抗体断片は、ヒトに投与してもCD96発現細胞を死滅させない。この文脈において、「死滅」は、補体媒介性細胞溶解及び抗体媒介性細胞媒介性細胞傷害機序(ADCC)等の任意の抗体媒介性細胞傷害機序を指す場合があり、後者は、典型的にはナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、好中球、及び好酸球により媒介される。この点で、Fc部分を欠如するか又はヒトFc部分(例えば、ヒト化抗体)を有する抗体断片を使用することが有利であり得る。
【0065】
前述の態様によりスクリーニング、設計、遺伝子操作、又は他の手段で製造されたCD96阻害剤は、第1の態様の方法により(例えば、抗癌剤及び/又は抗ウイルス剤として)、好ましくは、上述のような医薬組成物の形態で使用することができる。
【0066】
本発明を容易に理解し、実用的効果を実現させることができるように、以下の非限定的な例を参照する。
実施例
実施例1
マウス腫瘍モデルにおけるCD155に対するCD96結合並びにCD96阻害及びノックアウトの効果
材料及び方法
マウス
野生型C57BL/6マウスは、Walter and Eliza Hall Institute for Medical Research又はARC Animal Resource Centreから購入した。C57BL/6 CD96
−/−マウスは、ワシントン大学医学部(セントルイス、ミズーリ州、米国)のMarco Colonna博士及びSusan Gilfillan博士により、以下のようにして作り出された。開始部位を含むCD96のエキソン1及び2を、loxP部位に挟まれたMC1−neor遺伝子と置換するように設計された標的構築体を、E14.1(129P2/OlaHsd)胚性幹細胞にエレクトロポレーションした(
図S1)。標的化対立遺伝子を運搬するキメラを2つのクローンから取得し、その後C57BL/6胚盤胞に注射した。標的化対立遺伝子を保持するマウスを、CMVプロモーター支配下でCreトランスジーンを発現するC57BL/6マウスと交配して、MC1−neor遺伝子を欠失させた(Schwenkら、1995年)。CD96欠失は、C57BL/6バックグランドに戻し交配し、各生成において10センチモルガン間隙で、多型マイクロサテライトマーカーをゲノムワイドスクリーニングすることにより促進させた。CD96
+/−>99%のC57BL/6マウスを互いに交配させて、CD96
−/−マウスを作出した。DNAM−1
−/−マウスは、既に記載されている。DNAM−1
−/−CD96
−/−は、CD96
−/−をDNAM−1
−/−マウスと互いに交配させることにより生成した。マウスを飼育して、6〜14週齢で使用した。実験は全て、動物倫理委員会の承認を受けた。
【0067】
細胞培養
B16F10、RM−1、3LL、AT3、MC38、及びYAC−1細胞系を、5%CO
2中37℃にて、完全RPMI培地(Gibco社、Invitrogen社)で、すなわち10%FCS(Thermo Scientific社)、L−グルタミン(Gibco社)、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、HEPES(Gibco社)、及びペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社)を添加したRPMI培地で増殖させた。細胞毒性アッセイ及びIL−12/IL−18滴定実験の場合、一次NK細胞を脾臓から回収し、マウスNK細胞単離キット(Miltenyi Biotec社)及びAutoMACS(Miltenyi Biotec社)を使用して選別し、その後、10%FCS、L−グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸(Gibco社)、ピルビン酸ナトリウム(Gibco社)、HEPES(Gibco社)、β−2−メルカプトエタノール(Calbiochem社)、及び1000IU/mlの組換えヒトIL−2(Chiron Corporation社)を添加したRPMI培地で5日間培養した。細胞は全て5%CO
2中37℃でインキュベートした。
【0068】
in vivo LPS攻撃
PBSに懸濁したLPS(大腸菌0127由来:B8、Sigma社)を、記載されている用量でマウスに腹腔内注射した。生存曲線を得るために、マウスの敗血症の症状を毎時チェックした。これらのマウスの血清を、サイトカイン分析用に、後眼窩出血又は心臓出血により種々の時点で採取した。また、種々の時点で脾臓を採取して、受容体及びリガンド発現、並びにNK細胞の細胞内IFN−γ発現を分析した。
【0069】
in vivo腫瘍攻撃
マウスB16F10又はB16−OVA黒色腫、RM−1前立腺癌、3LL肺癌、MC38−OVA
dim結腸腺癌、又はAT3−OVA
dim乳癌を、WT、DNAM−1
−/−、CD96
−/−、又はDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスに、表示されている用量で皮下又は静脈内注射し、固形腫瘍増殖又は転移をそれぞれモニタリングした。図凡例に示されるように処置を行った。固形腫瘍増殖をモニタリングするために、触知可能な腫瘍の長さ及び幅をカリパスで計測することにより、成長した腫瘍の面積を計算し、時間に対してプロットした。転移形成をモニタリングするために、細胞を注射した14日後に肺を回収し、ブアン固定液中に置き、解剖顕微鏡を使用して転移を計数した。
【0070】
MCA誘導性線維肉腫
WT、DNAM−1
−/−、CD96
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスの右側腹に、種々の用量のMCA(5〜400μg、例えば、100μgのMCA)を皮下注射し、線維肉腫形成を経時的にモニタリングした。加えて、幾つかのマウスを対照抗体で処置し、抗asialoGM1(Wako Chemicals社;−1日目、0日目、及びその後は8週目まで毎週、100μgをi.p.注射した)での処置によりNK細胞を欠乏させ、IFN−γ(H22、−1日目、0日目、及びその後は8週目まで毎週、250μgをi.p.注射した)、CD155、DNAM−1、又はCD96を無効化した。
【0071】
樹状細胞(BMDC):NK細胞共培養アッセイ
BMDCを、以前の記載ように作製した。簡潔に述べると、本発明者らは、マウスの大腿骨及び脛骨から骨髄細胞を回収し、10%FCS、L−グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、β−2−メルカプトエタノール、及び250ng/mlのGM−CSF(eBioscience社)を添加したDMEM中で6日間培養した。WT又はCD96
−/−NK細胞を脾臓から回収し、NK1.1(PK136)抗体及びTCRβ(H57−597)抗体及びCD3(17A2)抗体での染色により、高純度にFACS選別した。NK細胞は、アッセイ当日に回収した。アッセイのセットアップは、5×10
4個のBMDMを、96ウェルU底プレートに播種した。その後、NK細胞を、様々な用量設定で(2:1、1:1、0.5:1、及び0.25:1)BMDMに添加した。アッセイには、BMDMのみ及びNKのみが対照として常に含まれていた。細胞を全て播種したら、各ウェルを適量の培地で満たして、ウェル間の容積を等しくした。その後、ウェルに100ng/mlのLPSを添加し、2時間後、5mMの精製ATP(Sigma社)を添加して30分間おいた。これは、5%CO
2中37℃で実施した。また、アッセイには、LPSのみ及びATPのみが対照として含まれていた。ATPの30分後に、上清を回収し、分析まで−20℃で保存した。
【0072】
51Cr細胞毒性アッセイ
標準的
51Cr細胞毒性アッセイを使用して、WT細胞及びCD96
−/−NK細胞の標的を死滅させる能力を分析した。簡潔に述べると、100μCiの
51Crで標識した20,000個の標的を、V底プレートに添加し、その後、NK細胞を、規定のエフェクター対標的比で標的に添加した。5%CO
2中37℃で4時間後に上清を回収し、
51Crのレベルをガンマカウンター(Wallac Wizard社)で計数した。比死滅率は、以下の式を使用して決定した:(試料Cr放出−自然Cr放出)/(総Cr放出−自然Cr放出)×100。
【0073】
サイトカイン検出
IL−18を除いて、血清又は上清におけるサイトカイン検出は全て、サイトメトリービーズアレイ(CBA)技術(BD Biosciences社)を使用することにより達成した。データ取得は、CantoII又はLSRIIフローサイトメトリーアナライザー(BD Biosciences社)を使用して実施した。分析は、FCAPアレイソフトウェアを使用して実施した。IL−18は、製造業者(MRL社)の説明書に従ってELISAにより検出した。細胞内サイトカインを検出する場合、単離リンパ球を肝臓から取得し、表面マーカーを染色し、固定し、透過処理し(BD Biosciences社)、抗IFN−γ抗体(XMG1.2)で染色した。
【0074】
フローサイトメトリー分析及び選別
免疫細胞恒常性及びCD96/CD155発現の分析:種々の器官(リンパ節、肺、脾臓、骨髄、及び肝臓)を、赤血球細胞溶解物を含む単一リンパ球懸濁液に加工した。1×10
6〜5×10
6個の細胞を、特異的抗体を使用する前に、まず2.4G2と共にインキュベーションして、非特異的Fc抗体の結合を阻止した。NK細胞恒常性及びIFN−γ産生を分析するために、以下の抗体を使用した:抗マウスNK1.1、抗マウスTCRβ、抗マウスCD27(LG.7F9)、抗マウスCD11b(M1/70)、及び抗マウスIFN−γ。T細胞の場合:抗マウスTCRβ、抗マウスCD8(53−6.7)、及び抗マウスCD4(RM4−5)。B細胞の場合:抗マウスB220(RA3−6B2)、抗CD19(1D3)。NK T細胞の場合:α−ガラクトシルセラミドを負荷したマウスCD1d四量体(メルボルン大学のDale Godfrey教授の厚意により提供)、抗マウスTCRβ又は抗マウスCD3、抗マウスCD4、及び抗マウスNK1.1。マクロファージの場合:抗マウスF4/80(BM8)及び抗マウスCD11b。好中球の場合:抗マウスLy6G(1A8)及び抗マウスCD11b。従来型DCの場合:抗マウスMHCII(M5/114.15.2)及び抗マウスCD11c(N418)。γδT細胞の場合:抗マウスγδTCR(GL3)及び抗マウスCD3。CD96及びCD155発現を分析するために、目的の特定の細胞タイプを、抗マウスCD96(3.3.3)又は抗マウスCD155(4.24.3)と共に上記の抗体カクテルを使用して選別した。データ取得は、LSRII又はCantoIIフローサイトメトリーアナライザー(BD Biosciences社)を使用して実施した。分析は、Flowjo(Treestar社)を使用して達成した。
【0075】
細胞選別
脾臓に由来する未感作NK細胞及びマクロファージを、上述のように調製及び染色した。その後、これらの細胞を、Aria II FACSソーター(BD Biosciences社)を使用して、高純度に選別した。
【0076】
統計分析
統計分析は、Graphpad Prismソフトウェアを使用して達成した。データは、p値が0.05以下であった場合に、統計的に有意であるとみなした。使用した統計検定は、独立スチューデントt検定、マン−ホイットニーt検定、及びマンテル−コックス生存検定であった。使用した適切な検定は、図凡例に規定されている。
【0077】
結果
CD96は、CD155との結合においてDNAM−1と競合し(
図1)、CD96がCD155と結合すると、NK細胞でのIFNγ産生が下方制御される(
図2)。CD96は、MCA処置マウスのNK細胞依存性腫瘍免疫監視を制限し、実験的B16F10肺転移を促進する(
図3)。
【0078】
図4のデータは、抗CD96mAbが単剤活性を有し(つまり、抗PD1処置を必要としない)、また抗PD1の抗腫瘍応答を増強することを示す。また、抗CD96mAb処置は、ドキソルビシン(DOX)化学療法により生じる抗腫瘍応答を増強する(
図5及び7)。これは、ドキソルビシン(DOX)化学療法に対する抗腫瘍応答の増強が、CD96欠損宿主で観察された
図6と一致する。
図8及び9を参照すると、初期でも後期でも、抗CD96mAbは、抗PD−1mAb及び抗CTLA−4mAbにより生じる抗腫瘍応答を増強し、抗PD−1との著しく強力な相乗効果を示す。
【0079】
腫瘍転移の促進に対するCD96の効果も調査した。
図10では、B16F10肺転移の制御を、C57BL/6野生型(WT)、DNAM−1
−/−、CD96
−/−、及びDNAM−1
−/−CD96
−/−マウスで調査した。
図11では、宿主CD96は、RM−1肺転移を促進した。
図12では、宿主CD96は、3LL肺転移を促進した。
図13は、抗CD96mAbが、単独で又はT細胞チェックポイント遮断との組み合わせで、B16F10肺転移を抑制することを示す。
図14では、抗CD96は、単独で又はT細胞チェックポイント遮断との組み合わせで、RM−1肺転移を抑制する。
図15では、抗CD96mAbは、MC38結腸腫瘍に対する抗PD−1mAb及び抗CTLA−4mAbにより生じる抗腫瘍応答を増強し、抗PD−1との著しい強力な相乗効果を示す。
【0080】
実施例2
抗CD96抗体を特定するためのスクリーニングアッセイ
導入
以下のアッセイを使用して、本発明に有用な抗体を特定することができる。第1のアッセイを使用すれば、ヒトCD96とヒトCD155との結合を阻止又は阻害可能なヒト抗体を識別することができるであろう。第2のアッセイを使用すれば、特定した抗体が、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を引き起こすか否かを試験することができる。その後、第3のアッセイを、主要候補に適用することができる。第3のアッセイは、ヒトCD96抗体が、ヒトリンパ球エフェクター機能を調節することができるか否かを決定することを含む。
【0081】
材料及び方法
アッセイ1:CD155に対するCD96の結合
CD96発現細胞(NK細胞等)の細胞表面に対するCD155の結合を防止する候補抗CD96抗体の能力は、以下のように試験されるであろう。ヒトIgG1のC末端Fc領域と融合させた組換えヒトCD155(Sino Biological社から入手可能なCD155−Fc等)を、製造業者の説明書に従ってZenonヒトIgG標識キット(Molecular Probe社)を使用して、Alexa Fluor 647(AF647)等のフルオロフォアで標識する。健常ドナーの末梢血から新たに単離したNK細胞又は他のCD96発現細胞を、様々な濃度の抗CD96又は対照IgGの存在下で、AF647標識CD155−Fcと共にインキュベートする(細胞を回収し、AF647−CD155−Fcの細胞表面結合を、フローサイトメトリーにより試験する)。CD96発現細胞に対するCD155細胞の結合を防止する抗体は、CD96発現細胞に対するCD155−Fcの結合を阻止する能力により特定されるであろう。
【0082】
アッセイ2:ADCCアッセイ
抗CD96抗体の存在下での免疫細胞(NK細胞及び/又はT細胞等)の生存率を、以下のように分析する。健常ドナーに由来する末梢血免疫細胞を、フィコール勾配分離により単離する。免疫細胞を、適切な用量のヒトIL−2の存在下で抗CD96mAb濃度を増加させた96ウェルプレートに播種する。CD96発現細胞(NK細胞及び/又はT細胞等)の生存率並びにパーセントを、フローサイトメトリーにより経時的に分析する。このアッセイに好適な市販キットの非限定的な例は、アネキシンVアポトーシス検出キットである。
【0083】
アッセイ3:ヒトCD96抗体によるヒト白血球エフェクター機能調節のアッセイ
新しい血液試料を、健常ドナーから収集する。末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll−Paque密度勾配で遠心分離により調製する。高度に純粋なCD3−CD56+NK細胞を、磁気活性化細胞選別によりPBMCから得る。ヒトNK細胞でのIFN−γ産生に影響を及ぼすCD96の能力を分析するために、96ウェルU底プレートを、組換えヒトCD155−Fcキメラ(Sino Biological Inc.社;0.25μg/ウェル)又は無関係のヒトIgG1抗体で、一晩4℃にてコーティングする。その後、新しく精製したヒトNK細胞を、ヒトIL−12、IL−18、及び任意選択でIL−15を添加した完全RMPI培地に播種して24時間後、IFN−γの細胞内含有量及び上清レベルを、様々な培地で分析する。或いは、ヒトNK細胞を、抗NKG2D、抗NKp46、抗NKp30、又は抗CD16抗体でコーティングしたウェルで24時間刺激して、他のNK細胞受容体と相互作用するCD96シグナル伝達の能力を分析する。試験する抗ヒトCD96抗体又は対照抗体を、上記のサイトカイン又は抗体を添加する前に培養に添加して、これらの試験抗ヒトCD96抗体が、ヒトNK細胞のIFNγ産生を増強する能力を確認する。IFNγ産生が対照よりも統計的に増加した場合を、有意であるとみなす。
【0084】
実施例3
抗CD96抗体によるマウスNK細胞機能調節のアッセイ
また、追加の抗マウスCD96抗体を、CD96シグナル伝達活性を調節する能力についてスクリーニングする。マウスNK細胞でのIFN−γ産生を分析するために、96ウェルU底プレートを、組換えマウスCD155−Fcキメラ(Sino Biological Inc.社;0.25μg/ウェル)又は無関係のヒトIgG1抗体で、一晩4℃にてコーティングする。PBSで3回洗浄した後、表示されているマウス株に由来する新しく精製したNK細胞を、マウスIL−12(ebiosciences社;25〜100pg/ml)及びマウスIL−18(R&D社;50ng/ml)を添加した完全RMPI培地に播種して24時間おく。或いは、IL−2活性化NK細胞を、抗NK1.1(PK136;0.125μg/ウェル)でコーティングしたウェルにて6時間刺激する。様々な時点で、抗マウスCD96抗体(50〜200μg/ml)又は対照抗体を添加して、CBA分析により測定して、これらがNK細胞でのIFN−g産生を増強するか否かを決定する。
【0085】
実施例4
マウス及びヒト抗CD96抗体の産生
ヒトCD96は、膜貫通型タンパク質であり、2つのアイソフォームが存在する。アイソフォーム1は、急性骨髄性白血病で検出されており、アイソフォーム2と比較して追加のアミノ酸を含む。ヒトでは、アイソフォーム2が一般的な形態であり、アイソフォーム2の予想ドメイン構造は、表1に列挙されているように、3つの外部免疫グロブリン様ドメイン(ドメイン1、2、及び3)を有する。本発明での使用には、アイソフォーム2に対する抗体が好ましい。アイソフォーム2の核酸及びアミノ酸配列は、NCBIコンセンサス配列番号CCDS2958.1(それぞれ配列番号1及び2)に示されている。
【0088】
マウスCD96タンパク質も膜貫通型タンパク質であるが、マウスでは、配列番号3及び4に示されるような単一の転写物/アイソフォームのみが知られている。
【0092】
マウス及びヒトCD96タンパク質の外部ドメインを、ヒト胚腎臓細胞等の哺乳動物細胞で発現させるための適切な発現構築体にクローニングする。好適な発現構築体には、典型的には、CD96遺伝子断片の発現を駆動するCMVプロモーターが含まれる。哺乳動物細胞に形質移入した後、抗体産生の前にタンパク質を好適な培養条件下で発現させてから精製する。
【0093】
4匹のCD96ノックアウトマウスを、マウスCD96外部ドメインタンパク質で免疫し、同様に、4匹のCD96ノックアウトマウスを、精製したヒトCD96外部ドメインタンパク質で免疫する。免疫処置は、4週間間隔でおよそ3回行われる。マウスは、3回目の免疫の10〜12日後に出血させ、血清を、ELISAにより抗原スクリーニングで滴定する。最も高い抗体価を有するマウスを融合に使用する。或いは、マウスが十分に応答しない場合、更なる免疫処置を試みる。選択したハイブリドーマをクローニングし、各クローンからmAbを精製した後、個々のヒト又はマウスmAbを、それぞれ実施例2又は3のスクリーニングアッセイを使用してスクリーニングする。任意選択で、IgG2及びIgG4抗体等の、ADCCを誘導する可能性が低いか又は誘導することができない抗体を特定するために、クローンのアイソタイプ決定を行う。実施例4の表1に列挙されているように、ヒトCD96に対するおよそ20個の抗体、及びマウスCD96に対する20個の抗体を得る。
【0094】
実施例5
マウス及びヒト抗CD96抗体のスクリーニング
抗マウスCD96モノクローナル抗体及び抗ヒトCD96モノクローナル抗体の各々およそ20個の抗体を、実施例4に記載のように得る。抗ヒトCD96抗体を、実施例2に記載のヒトNK細胞アッセイを使用して、CD96シグナル伝達活性を調節する能力についてスクリーニングする。また、更なる4つの市販の抗ヒトCD96抗体(1C8、NK92.39、3H8、MAA6359)を、CD96シグナル伝達を調節する能力についてスクリーニングする。また、抗マウスCD96mAbを、実施例3に記載のように、NK細胞機能を調節する能力についてスクリーニングする。
【0095】
抗体の場合あり得ることだが、全ての抗体が、所与の標的に有用な効果を示すとは限らないことが予想される。したがって、CD96シグナル伝達を、抗体毎に、ヒト又はマウスNK細胞アッセイを使用して評価して、どの抗体がCD96シグナル伝達に効果を示すかを決定することになるであろう。
【0096】
ヒトNK細胞アッセイを使用した予備的結果
図17A及び17Bに示されるように、実施例2に記載のヒトNK細胞アッセイを使用して、NK92.39ヒトCD96mAbが、ヒトNK細胞でのIFN−γレベルを増加させることを見出した。この結果は、ヒトCD96受容体に対する抗体が、ヒトNK細胞でのIFN−γ産生を増加させるのに有効であり得ることを示す。
【0097】
実施例6
癌モデルにおける抗マウスCD96抗体試験
マウス癌モデルにおいて、CD96シグナル伝達の調節に活性があることが見出された抗マウスCD96抗体を、免疫抑制を軽減する、CD96活性を低減する、及び/又は免疫監視を強化若しくは回復させる能力について試験する。
【0098】
およそ10個の活性抗マウスCD96抗体を、実施例1で使用したものと同じ又は同様のin vivo腫瘍攻撃を使用して、およそ5〜7つの癌モデルで個々に試験する。
それぞれの腫瘍に対する各CD96抗体の効力及び/又は腫瘍モデルでの効力は様々であり得る。あるものは、他よりも処置に対してより応答性であり得る。試験する腫瘍及び腫瘍モデルの非限定的な例には、乳癌、前立腺癌、肺癌、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、子宮内膜癌、腎臓癌、腸癌、胃癌、食道癌、白血病、リンパ腫、卵巣癌、膀胱癌、及び脳腫瘍が含まれ、前述の癌の原発性腫瘍及び/又は転移が含まれる。
【0099】
実施例7
ヒトCD96抗体結合研究
抗ヒトCD96抗体のサブセットを更に調査して、CD96のどのドメインが、有効なCD96抗体と結合するかを決定する。上記の実施例3で議論されているように、CD96のアイソフォーム2は、3つの外部ドメイン(ドメイン1、2、及び3)を含む。
【0100】
抗体は、CD96タンパク質と結合し、特定のCD96タンパク質残基は、水素/重水素交換及び質量分析法を使用して決定されるであろう
23,24。或いは、X線結晶解析、指定部位突然変異誘発、又は当技術分野で知られている他の方法等の、他の方法を使用して、抗体−CD96結合部位を探索することができる。
【0101】
有効な抗体は、CD96タンパク質の1つ又は複数の外部ドメインに結合することができることが予想される。例えば、ヒトNK細胞機能を調節する抗CD96抗体は、外部CD96ドメインの以下の組み合わせのいずれかと結合することができ、各々の考え得る単一の結合ドメイン又は結合ドメインの組み合わせは、括弧内に示される:(1)、(2)、(3)、(1、2)、(1、3)、(2、3)、(1、2、3)。
【0102】
実施例8
NK及びT細胞機能の両方におけるCD96の役割
ナチュラルキラー(NK)細胞は、初期腫瘍増殖及び転移を制限するために重要であり得る先天性リンパ球であり、T細胞は、確立した原発性腫瘍の制御において、より重要であり得る。CD96は、NK細胞機能及びT細胞機能の両方に影響を及ぼすことができるチェックポイント免疫調節物質である。
【0103】
原発腫瘍を使用して、T細胞におけるCD96の役割を調査した。CD8
+Tエフェクター細胞が腫瘍増殖を自然に制御することが知られているAT3−OVA
dimモデルを使用した。AT3−OVA
dim乳癌(1×10
6細胞)を皮下注射した。その後、マウスの腫瘍増殖をモニタリングし、ノギスを使用して2つの直交する直径の積(mm
2)として測定を行った。
【0104】
抗CD96処置は、腫瘍増殖の速度を大幅に低減した。この有益な効果は、抗CD4/CD8抗体を使用してCD4及びCD8T細胞を枯渇させることにより、又は抗IFN−γでの処置により、除去することができた(
図16A及び16B)。これは、抗CD96mAbが、この特定の腫瘍モデルで完全な抗腫瘍活性を示すには、CD8
+T細胞及びIFN−γを必要とすることが決定的に重要であることを示す。
【0105】
実施例9
CD96mAb結合後のNK細胞表面からのCD96の喪失
また、CD96に対する抗体結合時に生じ得る機構的効果/シグナル伝達効果は、CD96−CD155結合の効果に関する機能的情報を明らかにすることができる。これを更に研究するために、全NK細胞を、ヒトNK細胞単離キット(Miltenyi Biotec.社)を使用して、末梢血単核細胞(PBMC)から、ネガティブ選択により精製した。その後、細胞増殖を測るため、単離したNK細胞をカルボキシフルオレセインジアセテートスクシンミジルエステル(CFSE;Biolegend社)で標識した。CFSE標識NK細胞を、96ウェルU底プレートに5×10
4細胞/ウェルで播種し、30μg/mlの対照IgG又は抗CD96mAb(クローンNK92−39)の存在下にて、表示されている濃度(10単位/ml及び25単位/ml)の組換えIL−2で刺激した。3日目及び6日目に、BD FACS Canto II(BD Biosciences社)を使用して、増殖の変化又は表面CD96の有無について、NK細胞を評価した。分析は、FlowJo(Tree Star社)を使用して実施した(
図18(A)及び(B)。CD96に対する抗CD96の結合は、NK細胞増殖に影響を及ばさなかったが、mAb結合後のCD96内部移行、又は恐らくはCD96発現の低減のいずれかにより、6日目までに細胞表面のCD96レベルが大幅に低減したと考えられた。
【0106】
明細書の全体にわたって、本発明を任意の1つの実施形態又は特定の一群の特徴に限定することなく、本発明の好ましい実施形態を記載することが目的である。したがって、本開示を参照すれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示されている特定の実施形態に種々の改変及び変更をなすことができることは、当業者であれば理解するところである。
【0107】
本明細書で参照されているコンピュータプログラム、アルゴリズム、特許、及び科学文献は全て、参照により本明細書に組み込まれる。
参考文献