(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリエステル(A)の製造に使用される、少なくとも1種のモノマー(a1)の前記脂肪族基が、13〜50個の炭素原子を有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
前記モノマー(a1)が、完全水素化ビスフェノール、二量体脂肪族脂肪アルコール、及び二量体脂肪族脂肪酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
前記ポリエステル(A)の製造に使用される前記モノマーの合計量に対して、少なくとも5mol%のモノマー(a1)が、前記ポリエステル(A)の製造に使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
更に、少なくとも1種の架橋剤、少なくとも1種の、前記ポリエステル(A)以外のポリマー結合剤、及び/又は少なくとも1種の有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
(a)20〜250mgKOH/gの範囲の酸価を有するカルボキシ官能性ポリエステル(A)であって、官能基間に12〜70個の炭素原子を有する脂肪族基を有する少なくとも1種の二官能性モノマー(a1)を使用して製造される、少なくとも1種のカルボキシ官能性ポリエステル(A)
の存在下で、
(b)少なくとも1種の合成層状ヒドロキシド、
を製造することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
層状水酸化物、これらの層状水酸化物様々な特性、及びコーティング材料、例えば、塗料におけるそれらの使用方法が公知である。層状水酸化物は、より具体的には、層状複水酸化物(double hydroxides、ダブル水酸化物)(以下、LDHと略す)、及び層状単水酸化物(single hydroxides、シングル水酸化物)(以下、LSHと略す)を含む。
【0003】
LDHの関連する群は、理想的な一般式[M2
2+(1−x) M3
3+x(OH)
2]
x+ [A
y−(x/y)・nH
2O]、又は類似の実験式によって文献中にしばしば記載される。式中、M2は、二価の金属カチオンを表し、M3は、三価の金属カチオンを表し、Aは、原子価Xのアニオンを表す。天然に発生するLDHの場合には、問題のアニオンは、一般的に、無機アニオン、例えば、カーボネート、クロリド、ニトラート、水酸化物、及び/又はブロミドである。最も一般的なアニオンは、カーボネート、サルフェート、クロリド、及び水酸化物である。公知のものは、スルフィド、及び[Sb(OH)
6]
−を含むLDHである(鉱物学マガジン(2012年9月、76巻、1289ページ)参照)。
【0004】
様々な他の無機、及び有機アニオンも同様に、特に、以下に示すような合成LDH中に存在してもよい。上述の一般式では、更に、存在する結晶水を考慮する。LDHの一つの公知の種類は、ハイドロタルサイトである。ハイドロタルサイトにおいては、Mg
2+は、2価のカチオンとして存在し、Al
3+は、3価のカチオンとして存在し、及びカーボネートは、基本的にアニオンとして存在する。特に、合成ハイドロタルサイトにおいては、カーボネートは、水酸化物イオン、又は他の無機、及び有機アニオンによって、少なくとも比例して置換されていてもよい。ハイドロタルサイト、又はLDHは、ブルーサイト(Mg(OH)
2)に類似した層状構造を有し、その中で、2個の無機金属水酸化物層の間で、比例して存在する3価の金属カチオンのために、正電荷を運ぶ。ここで、それぞれの場合において、負に帯電した層間アニオンの層が存在し、この層は、一般的に、更に結晶水を含む。言い換えれば、対応するイオンの相互作用の結果として、正、及び負に帯電した層が、交互に存在する層構造を形成している。上述の式においては、LDH層構造は、対応して置かれたブラケットによって考慮される。LDHの製造法、例えば、直接共沈法は、当業者に公知であり、後述される。
【0005】
同様に、例えば、公知のものは、合成LDHであり、二価、及び三価の金属カチオンを組み合わせる代わりに、ここでは、金属水酸化物層に存在する、一価の金属カチオン(例えば、Li
+)と、三価の金属カチオン(例えば、Al
3+)の組み合わせが存在する。これらのLDHは、同様に、例えば、上述の共沈法によって、具体的には、水性媒体中で、リチウム塩の存在下で、アルミニウム水酸化物(ギブサイト、又はバイヤライト)を共沈させることによって製造され得る。それらの構造は、正に帯電した金属水酸化物層、及び負に帯電した中間層の点で、上述のハイドロタルサイトと類似する。これらのLDHの代表例の一つは、式[LiAl
2(OH)
6]
+ [A−・nH
2O]によって示されてもよい。この場合には、リチウムカチオンが、層状アルミニウム水酸化物中の占有されていない格子位置を占める。この結果は、対応する正に帯電する層であり、アニオンによって補償される。これらのアニオンは、正に帯電した金属水酸化物層間に、介在した状態で位置する。
【0006】
LSHは、公知のように、LDHに関連する層構造成分であるが、無機金属水酸化物層中に、異なる原子価を有する2個の金属カチオンを有さず、代わりに、カチオン性成分として、単に、二価の金属カチオンを有する。上述の正電荷過剰は、LDHの場合には、3価の金属カチオンによって発生し、交互の正負層シーケンスを必要とする。ここでは、その正電荷過剰は、Z方向に隣接する2個の四面体配位カチオンを有する金属水酸化物層(X/Y平面)における自由な格子位置の統計学的に生じる組み合わせによって発生する。この点において、これらのLSHは、他の層状の、電気的に中性の金属水酸化物、例えば、マグネシウム水酸化物(ブルーサイト)とは異なる。具体例は、Zn、Co、Ni、及びCuの水酸化物、又は混合された2価、例えば、Zn/Niを有する水酸化物である。
【0007】
従って、層状水酸化物の重要な特性は、顕著な構造異方性であり、及びそれぞれの場合、2個の隣接する金属水酸化物層間で、非共有結合性の、イオン性の、及び/又は非共有結合性の極性の相互作用によってインターカレートされた試剤が存在することである。これらの試剤は、例えば、上述の無機アニオン、より具体的には、アルボネート及び水でもよい。しかしながら、同様に可能なのは、更なる無機、及び有機試剤、より具体的には、アニオンを挿入することであり、これらの試剤は、層状水酸化物の製造時に直接取り込まれ、及び/又はアニオン交換反応法によって、既に製造された層状水酸化物に導入されることが可能である。
【0008】
層状水酸化物が、上述の構造異方性を示し、更に、上述の方法で、層状水酸化物中に、集約された様々なアニオンが存在することが可能であるということによって、これらの系、特に、LDHの系を、非常に幅広く利用し、及び応用することを可能にする。ここで、中心的な技術分野の一つは、コーティング材料、又は塗料の分野である。
【0009】
例えば、LDHが、ポリマー結合剤(例えば、プライマー、界面活性剤、及び水性ベースコート材料である)を主成分とするコーティング材料に取り込まれるアプローチが存在し、それらによって、様々な性能特性、例えば、向上した耐腐食性、及び/又は向上した機械的抵抗性、より具体的には、向上した耐ストーンチップ性を可能にする。また、光学特性に意図的に影響を及ぼすために、例えば、水性効果ベースコート材料における、それらの使用方法が公知である。従って、構造異方性、その結果生ずるバリア効果、及び化学的適応性の相互作用が、ここでは利用される。従って、例えば、アニオン性の状態で、腐食防止剤が、ハイドロタルサイト、及び/又はLDHのアニオン性の層の中に挿入され、それゆえに、LDHは、腐食防止に寄与する。しかしながら、一般的な無機アニオン、例えば、カーボネートを含むLDHもまた、耐腐食性を向上させる。
【0010】
従って、WO03/102085には、合成ハイドロタルサイト成分、又は交換性アニオンを含む層状複水酸化物(double hydroxides)(LDH)、及びアルミニウム表面の耐腐食性を向上させるために、コーティング材料において、それらを使用する方法が記載されている。層状複水酸化物は、前述の理想的な一般式[M2
2+(1−x) M3
3+x(OH)
2]
x+ [A
x−・nH2O]である。好ましい金属カチオンは、ハイドロタルサイトカチオンマグネシウム(II)、及びアルミニウム(III)である。記載されたアニオンは、例えば、ニトラート、カーボネート、又はモリブデート、及びクロム含有アニオンクロメート、及びジクロメートである。
【0011】
更なるハイドロタルサイト成分、又はLDH、及び有機ポリマー結合剤を主成分とするコーティング材料中における腐食防止剤としてのそれらの使用方法は、例えば、EP0282619A1、WO2005/003408A2、又はECS会報(24(1)、67〜76ページ、(2010年))に記載されている。これらの場合には、上述の無機アニオンと同様に、有機アニオンが使用される。例えば、サリチラート、オキサラート、DMTD(2,4−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)、及びその誘導体、EDTAから得られるアニオン、又はベンゾトリアゾレートである。
【0012】
同様に、WO2009/062621A1には、自動車の仕上げにおいて、耐ストーンチップ性のOEMコート系を製造するための、コーティング材料におけるLDH含有有機アニオンの使用方法が記載されている。公知のように、そのようなOEMコート系は、一般的に、腐食防止コーティング(より具体的には、カソード電着)サーフェーサーコート、ベースコート、及び含有するクリアコートからなる。LDHは、サーフェーサーコート中で使用される。高い耐ストーンチップ性と同様に、このサーフェーサーコートは、下部のカソード電着、及び上部のベースコートへの効果的な粘着性を示し、更に、良好な表面特性(基材の構造部分を覆う)を有する。
【0013】
WO2010/130308A1には、特定のポリエステルを主成分とする水性効果ベースコート材料中におけるLDHの使用方法が記載されている。そして、それらから得られる仕上げは、有利な光学特性を有している。より具体的に達成されることは、フロップ効果を有する連結部における仕上げが、高輝度であることである。
【0014】
公知のLDH含有コーティング材料の欠点の一つは、異方性の層状水酸化物は、一般的に、凝集する傾向がある。すなわち、コーティング材料中で、及びそれから製造されるコーティング中で、LDHは、しばしば、均一に分散せず、代わりに、凝集して形成する傾向がある。そのように凝集することは、当然に、均一なコーティングフィルム、及びその特性の開発を決定的に妨げる。凝集は、LDHが、コーティング材料中で使用される前に、粉末状で得られるか、又はそれに対応して粉末にされるかどうかに関係なく形成される。コーティング材料においては、LDH構造体は、例えば、再び、大きな層構造複合体を形成するための再構成を受ける。天然のハイドロタルサイト成分中に存在する、アニオンとしてのカーボネートアニオンが、おそらく、金属水酸化物層に対して大きな結合親和性を有し、それゆえに、凝集、又は明白な正負の層構造の形成を促進させるので、特に、カーボネートを主成分とするLDHによって凝集する。上述の他のアニオン、例えば、無機、又は有機腐食防止アニオンで、カーボネートを置換することが、しばしば必要であり、上述のカーボネートの凝集効果を緩和することができることは真である。しかしながら、この効果は、減衰状態でさえも、他のアニオンを挿入したところに存在し、この場合には、しばしば、凝集効果を十分に抑制しない。
【0015】
カーボネート以外のアニオンを含む層状水酸化物を使用するときの更なる問題は、コーティング材料中の対応するアニオン、例えば、腐食防止剤、又は凝集効果を低くするために使用されるアニオンは、カーボネートによって連続して置換されてもよい。これは、熱力学制御下で、カーボネートによって置換されてもよいことを意味する。この効果は、既に硬化したコーティング中では、ほとんど生じないが、それにもかかわらず、特に、水性コーティング材料においては可能である。結果として、順番に促進される不要な凝集だけでなく、代わりに、いやしくも、特定の条件、例えば、コーティングのダメージ、及び腐食防止剤の有効性においてのみ、放出される、一般的に、モノマーアニオンの層状水酸化物からの放出もまた存在する。そのようなダメージがないことは、放出が不要であり、代わりに、予測不能な非互換性があってもよい。例えば、可塑化、及び親水性成分として、これらの放出されるイオンは、コーティングのバリア機能に影響を及ぼしてもよく、水分による膨潤性を向上させ、層間剥離(例えば、これらの薬剤が隣接するコートに移動する場合には)させてもよい。
【0016】
層状水酸化物を含むコーティング材料が、更に、ポリマー結合剤を含み、そのポリマー結合剤それ自体が、(潜在的に)有機アニオン性基、より具体的には、カルボキシル基、及び/又はカルボキシレート基を含むときには、放出又は風化の効果は、特に明白である。この場合において、カルボキシレート基は、LDHから有機アニオンを移してもよく、従って、特に顕著な非互換性を生じさせる。残っている唯一の選択肢は、カーボネート含有LDHであり、凝集のおかげで、同様に有害である。
【0017】
しかしながら、公知のように、特定のカルボキシ官能性ポリマー結合剤、特には、ポリエステルは、そのような結合剤は、特に、例えば、水系の製造に好適であるので、関連性が高い。しかしながら、非水系でさえ、ポリマー結合剤、例えば、ポリエステルの化学構造は、しばしば、カルボキシル基が存在することを意味する。
【0018】
概説される問題は、当然に、混合物中に存在する。その混合物は、実際のコーティング材料、又は塗料として、まだ特定され得ないが、既に、層状水酸化物、及びポリマー結合剤、特に(潜在的な)アニオン性ポリエステルを含み、それは、更なる成分、例えば、一般的な架橋剤、及び/又は一般的な添加剤を加えることによってコーティング材料に変換するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ポリエステル(A)
本発明の組成物は、少なくとも1種の特定のカルボキシ官能性ポリエステル(A)を含む。
【0029】
公知のように、ポリエステルは、多価有機アルコール、及び多塩基性有機カルボン酸を使用して製造されるポリマー有機化合物である。これらのアルコール、及びカルボン酸は、エステル化によって、言い換えれば、縮合反応によって結合される。ポリエステルは、それに対応して、重縮合樹脂の群に割り当てられる。ポリエステルは、公知のように、対応する有機カルボン酸の代わりに、又は対応する有機カルボン酸に加えて、カルボン酸の無水物、より具体的には、ジカルボン酸の無水物を使用して製造されてもよい。従って、本発明においては、“無水物”の語は、カルボン酸無水物を意味する。同様に、ヒドロキシカルボン酸を分子内エステル化をすることによって製造される、ヒドロキシカルボン酸、又はラクトンを使用することで製造することが可能である。
【0030】
本発明の組成物を製造するために使用されるポリエステル(A)は、少なくとも1種の、官能基間に12〜70個の炭素原子を有する脂肪族基を有する二官能性モノマー(a1)を使用して製造されるものである。
【0031】
ポリエステル(A)の製造において使用されるモノマーは、本発明の目的のためには、これらのポリエステル(A)の製造に使用され、それらの基本構造が、ポリエステルに取り込まれる、全ての個々の出発化合物である。これらは、例えば、2個の対応する官能基を有する一般的なモノマー化合物、例えば、1,6−ヘキサンジオールである。しかしながら、ポリエステルを製造するための出発化合物として、それ自体既に、2個以上の別個の分子の結合により製造された化合物を使用することが可能なことも公知であり、ここで、この結合は異なる方法の非常に多様な種類とすることができる。例えば、以下に記載した二量体脂肪酸でもよい。しかしながら、これらの化合物でさえも、対応する重合反応によってポリエステルに取り込まれ、ポリエステルの非独立部分を形成する、出発化合物として特定される。従って、これらの出発化合物も同様に、モノマーと呼ばれる。
【0032】
脂肪族化合物は、芳香族ではない、非環状、又は環状、飽和、又は不飽和炭化水素化合物として公知である。本発明の目的のためには、脂肪族化合物は、脂肪族炭化水素化合物であり、これらは、炭素、及び水素からなる化合物である。“脂肪族化合物”の語は、非環状、及び環状脂肪族化合物を含み、同様に、本発明においては、対応する一般的な用語であると解釈される。非環状脂肪族化合物は、直鎖状、又は分岐状でもよい。直鎖状は、ここでは、公知のように、問題の化合物が、炭素鎖について分岐を有さず、その代わり、専ら、直鎖状に連続して配列されている。従って、分岐状、又は非直鎖状は、本発明においては、それぞれの場合、考慮中の化合物が、炭素鎖中に分岐を有することを意味する。言い換えれば、直鎖状化合物の場合とは対照的に、問題の化合物中の少なくとも1個の炭素原子が、第三級、又は第四級炭素原子であることを意味する。環状脂肪族化合物、又は脂環式化合物は、存在する少なくともいくつかの炭素原子が、1個以上の環が形成されるような方法で、分子内で結合されている化合物である。1個以上の環の他に、当然に、脂環式化合物中に、更なる非環状の直鎖状、又は分岐状脂肪族基が存在してもよい。
【0033】
従って、脂肪族基は、脂肪族化合物について、上述した要件を満たす基であるが、分子の一部にすぎない。脂肪族基の他に、問題の分子はまた、他の基、例えば、官能基を含む。本発明の目的のための官能基は、ヘテロ原子、例えば、酸素、硫黄、及び/又は窒素を含む末端基であり、例えば、ヒドロキシル基、又はカルボキシル基である。当然に、そのような分子中に存在するのは、架橋ヘテロ原子、又はヘテロ原子を含む架橋基でもよい。例として、エーテル結合を挙げてもよい。
【0034】
従って、官能基間に脂肪族基を有するモノマーは、対応する官能基に加えて、官能基間に配置される脂肪族基を有するモノマーについて使用される語である。従って、モノマーは、対応する官能基、及び脂肪族基からなり、従って、(末端の)官能基、及び脂肪族基のみ含む。
【0035】
二官能性モノマー(a1)の官能基は、明らかに、エステル結合を形成することができる基であり、言い換えると、より具体的には、ヒドロキシル基、及び/又はカルボン酸基、及び無水物基である。従って、モノマー(a1)は、好ましくは、ジオール、ジカルボン酸、及び/又はヒドロキシカルボン酸、及び無水物である。
【0036】
モノマー(a1)の脂肪族基は、12〜70個、好ましくは、13〜50個、より好ましくは、14〜40個の炭素原子を有する。
【0037】
ポリエステル(A)の製造のために使用されるモノマー(a1)のフラクションは、それぞれの場合によって非常に幅広くてもよい。以下に詳しく説明するように、例えば、二量体脂肪アルコール(a1)、及び二量体脂肪酸(a1)を使用してポリエステル(A)を製造することが可能である。モノマー(a1)が任意の割合で使用されるならば、かなりの、或いは優勢なフラクションの他のモノマーを使用することもできる。好ましくは、ポリエステル(A)を製造するときに使用されるモノマーの合計量に対して、少なくとも5mol%のモノマー(a1)が、ポリエステル(A)の製造時に使用されることである。本発明の実施形態の一つにおいては、フラクションは、好ましくは、5〜70mol%、特に好ましくは、6〜66mol%、非常に好ましくは、7〜62mol%のモノマー(a1)でもよい。更に好ましい実施形態においては、例えば、少なくとも80mol%、好ましくは、少なくとも90mol%、より特には、少なくとも95mol%のモノマー(a1)が使用される。この実施形態においては、ポリエステル(A)は、好ましくは、脂肪族二量体脂肪酸(a1)と二量体脂肪族脂肪アルコール(a1)が反応することによって得られる。一般的に使用される二量体脂肪酸(a1)は、市販製品として、通常、非脂肪族二量体脂肪酸の少量のフラクション(以下で詳述する)も含む混合物の状態で存在するので、専ら、この少量のフラクションの非脂肪族二量体脂肪酸とは別のモノマー(a1)からなるポリエステル(A)が得られる。
【0038】
特に好ましいモノマー(a1)は、例えば、完全に水素化されたビスフェノールであり、例えば、完全に水素化されたビスフェノールAである。同様に好ましくは、二量体脂肪族脂肪アルコール、及び/又は二量体脂肪族脂肪酸であり、その中で、二量体脂肪族脂肪酸が好ましい。本発明の目的のために特に好ましくは、24〜40個の炭素原子を有する二量体脂肪族脂肪酸、及び完全に水素化されたビスフェノールAである。
【0039】
二量体脂肪族脂肪酸が、不飽和性の、植物由来の脂肪酸を触媒二量体化することにより製造される。このとき、18個の炭素原子を含む不飽和脂肪酸が、より特には、その製造で使用され、従って、生成物は、全部で36個の炭素原子を有する。結合は主に、ディールスアルダー型に従って進行し、例えば、環状脂肪族、及び直鎖状脂肪族二量体脂肪酸の混合物が結果として生じる。それは、メカニズム、及び/又は任意のその後の水素化によって、飽和、又は不飽和でもよい。脂肪族付加物(a1)と同様に、これらの混合物は、通常、一定のフラクションの芳香族、及び/又は混合脂肪族−芳香族基を含む。二量体脂肪族脂肪アルコールは、一般的に、二量体脂肪酸の還元によって得られ、そのとき、芳香族基が、同様に還元されてもよい。従って、一般的には、脂肪族二量体脂肪アルコールは、記載された芳香族基のフラクションを含まない。
【0040】
従って、モノマー(a1)と同様に、ポリエステル(A)は、好ましくは、二官能性モノマー(a2)を使用して製造され、その二官能性モノマー(a2)は、同様に、官能基間に、12〜70個、好ましくは、13〜50個、より好ましくは、14〜40個の炭素原子を含む。しかしながら、それらは、純粋な脂肪族ではなく、その代わりに、同様に、少なくとも比例して芳香族である。従って、好ましくは、これらの基は、混合脂肪族−芳香族基であり、これは、12〜70個の炭素原子を有する基が、脂肪族部分と、芳香族部分を含むことを意味する。従って、ポリエステル(A)を製造するために使用されるモノマーの割合としての、これらのモノマー(a2)のフラクションは、例えば、二量体脂肪酸がモノマー(a1)として使用される、及び/又は二量体脂肪酸が、モノマー(a1)中で使用される割合によって変化してもよい。実際に、二量体脂肪酸が使用される場合には、好ましくは、一般的に、この目的のために使用される上述の混合物であり、従って、モノマー(a2)が同様に存在することを意味する。二量体脂肪酸が使用されない場合には、代わりに、例えば、水素化ビスフェノールA、及び/又は二量体ジオールのみ使用され、一般的に、モノマー(a2)は存在しない。しかしながら、好ましくは、任意の割合で二量体脂肪族脂肪酸が使用され、非常に好ましくは、二量体脂肪族脂肪酸、及び水素化ビスフェノールAである。
【0041】
触媒二量体化によって製造される上述の混合物中における、純粋な脂肪族二量体脂肪酸の非脂肪族二量体脂肪酸に対するモル比は、一般的に、2〜10である。
【0042】
従って、ポリエステル(A)の製造時に使用されるモノマーの合計量に対して、モノマー(a2)は、ポリエステル(A)の製造時に、例えば、0〜10mol%、好ましくは、0.5〜5mol%のフラクションで使用される。このときその量は、特に、上述の基準によって影響される。
【0043】
上述の二量体脂肪酸、又はモノマー(a1)は、市販製品としてのモノマー(a2)を有する混合物に対応して得られてもよい。具体的な例は、Unichema(R)社製のPripol(R)シリーズの二量体脂肪酸を含む。
【0044】
ポリエステル(A)の製造において使用され得る更なる構成要素は、好ましくは、以下のモノマーである:
−(a3)2〜11個の炭素原子を有する、直鎖状脂肪族、及び/又は環状脂肪族ジオール、例えば、特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、及び/又は1,4−ジメチロールシクロヘキサン、非常に好ましくは、1,4−ブタンジオール、及び/又は1,6−ヘキサンジオール、これらのジオールは、ポリエステル(A)の製造において、ポリエステル(a1)の製造において使用されるモノマーの合計量に対して、例えば、0〜40mol%、好ましくは、0〜35mol%のフラクションで使用される。
【0045】
−(a4)4〜11個の炭素原子を有する分岐状脂肪族、例えば、特に、ネオペンチルグリコール、2−メチル−2−プロピルプロパンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,5−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、非常に好ましくは、ネオペンチルグリコールであり、これらのジオールは、ポリエステル(A)の製造において、好ましくは、例えば、ポリエステル(A)の製造時に使用されるモノマーの合計量に対して、0〜45mol%、好ましくは、0〜40mol%のフラクションで使用される。
【0046】
−(a5)4〜13個の炭素原子を有する、直鎖状脂肪族、環状脂肪族、及び/又は芳香族ジカルボン酸、例えば、特に、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、1,4−シクロヘキサン二酸、及び/又はそれらの無水物、非常に好ましくは、ヘキサハイドロフタル酸であり、ポリエステル(A)の製造において使用されるこれらのジカルボン酸は、ポリエステル(A)の製造時に使用されるモノマーの合計量に対して、例えば、5〜30mol%、好ましくは、10〜25mol%のフラクション(分量)で使用される。
【0047】
−任意の更なる二官能性モノマー(a6)であって、例えば、12〜70個の炭素原子を有し、例えば、ポリエステル(A)の製造時に使用されるモノマーの合計量に対して、例えば、0〜10mol%のフラクションで、例えば、架橋ヘテロ原子、及び/又はヘテロ原子を含む架橋基を含む、二官能性モノマー(a6)、
−モノマー(a1)〜(a6)とは異なる任意のモノマー(a7)であって、例えば、単なる単官能性、言い換えれば、1個のヒドロキシル基、又は1個のカルボン酸基のみを含み、又は例えば、2個以上の官能基、例えば、3個の官能基を有するモノマー(a7)である。このモノマー(a)は、1個の遊離カルボン酸基及び1個の無水物基有するもの、例えば、ベンゼントリカルボン酸無水物とすることも勿論可能である。そこから可能な結合に関して、無水物基は二官能性であるので、このモノマーは当然に、同様に、形式的に3個の官能基が備えられる。例えば、ヒドロキシカルボン酸、及び当業者に公知の他のモノマーも同様にモノマー(a7)として成り得る。そのようなモノマー(a7)は、ポリエステル(A)の製造時に使用されるモノマーの合計量に対して、例えば、0〜10mol%のフラクションで存在する。
【0048】
ポリエステル(A)は、カルボキシ官能性であり、20〜250、好ましくは、25〜175、非常に好ましくは、30〜150mgKOH/gの酸価を有する。本発明の目的のためには、酸価は、DIN EN ISO3682に従って測定される。
【0049】
ポリエステル(A)のOH価は、使用されるモノマー、及び/又は製造時に選択される反応条件によって幅広く変化してもよく、例えば、0〜200、好ましくは、0〜150、非常に好ましくは、0〜100mgKOH/gにある。本発明の組成物のために考えられた特定の使用方法のおかげで、例えば、コーティング材料中で、架橋剤を用いて化学的に架橋する目的のために、一定の量のヒドロキシル基を利用することができることは有利である。従って、本発明の好ましい変形例においては、OH価は、40〜200、より特には、60〜150mgKOH/gの範囲にある。或いは、ポリエステルが、ほとんどOH基を含まないか、又は全く含まなくてもよい。従って、更なる好ましい変形例においては、OH価は、0〜50、好ましくは、0〜25mgKOH/gの範囲にある。OH価は、DIN53240に従って測定される。本発明の目的のためには、ポリマーについてのOH価、又は酸価の記載は、常に、対応する不揮発性のフラクション(125℃の温度で、60分の試験時間の間、初期質量1.0gの反応混合物を用いて、DIN ISO3251に従って測定される)と関連して理解されるべきである。本発明において参照する公式の標準は、当然に、出願日における有効な標準のバージョン、又はその時点で有効なバージョンがない場合には、直近における有効なバージョンである。
【0050】
ポリエステル(A)の数平均分子量は、幅広く変化してもよく、例えば、500〜20000g/molの範囲である。同様に、質量平均分子量は、それ自体重要ではないパラメーターであり、例えば、1000〜30000g/molの範囲である。本発明の目的のためには、スチレンジビニルベンゼンのカラムの組み合わせにおいて、溶離液(1ml/分)としてTHF(+0.1%の酢酸)を使用するGPC分析によって測定される。キャリブレーションは、ポリスチレン標準を使用して行われる。
【0051】
ポリエステル(A)の製造、及びモノマーの反応は、広く公知のポリエステル化学の方法によって行われる。同様に、当業者は、例えば、上述の好ましい特性、例えば、OH価、及び酸価を得るために、どのような条件を選択しなければならないのかを知っている。反応は、例えば、50℃〜300℃、好ましくは、100℃〜290℃、より特には、140℃〜280℃の温度で、一般的な有機溶媒を使用して、バルクで、又は溶液で行ってもよい。特に、140℃を超える反応温度によって、無水物と、遊離カルボン酸を同時に使用することで、遊離カルボン酸が効果的に反応すること、言い換えれば、ポリエステル骨格の中に対応するモノマーを効果的に取り込むことを確実にすることを可能にする。言うまでもなく、一般的な触媒が使用され得る。例えば、硫酸、及び/又はテトラアルキルチタネート、亜鉛アルコキシレート、及び/又はスズアルコキシレート、ジアルキルスズオキシド、又はジアルキルスズオキシドの有機塩である。
【0052】
本発明の特定の一実施形態においては、ポリエステル(A)が使用される。そのポリエステル(A)は、少なくとも1種の、一般式(I)
【化1】
(式中、R
1は、H、C
1〜C
24アルキル、又はC
2〜C
24アルケニルである。)
の無水物が、
少なくとも1種の直鎖状、ヒドロキシ官能性ポリエステル(AA)と、開環反応することによって製造され得る。ここで、ポリエステル(AA)は、その製造時に使用されるモノマーの合計量に対して7〜95mol%の、少なくとも1種の二官能性モノマー(a1)を使用して製造され、この二官能性物モノマー(a1)は官能基間に12〜70個の炭素原子を含む脂肪族基を有する。
【0053】
当業者に公知のように、無水物とヒドロキシル基との間のこの種の反応は、エステル結合、及びカルボキシル基の形成を伴って行われる。
【0054】
従って、直鎖状ヒドロキシ官能性ポリエステル(AA)、好ましくは、ジヒドロキシ官能性ポリエステル(AA)は、エステル結合の形成を伴って、対応するカルボキシ官能性末端基を修飾することで、本発明に従って使用するためのポリエステル(A)を形成する。
【0055】
従って、本発明においては、“開環反応”の表現は、特に、この開環反応の他に、更なる反応は起こらないことを意味するものとして理解され、すなわち、より具体的には、開環反応によって形成されるカルボン酸基が、反応混合物中に既に存在する、ヒドロキシ官能性成分(AA)の更なる分子と、更に反応することはないことを意味する。当業者が知っているように、更なるエステル結合の形成を伴う、この種の縮合反応は、原則的には可能である。しかしながら、任意の更なる反応は、当業者に公知の方法で、適切に適合された反応レジームを通じて、容易に妨げられてもよい。公知のように、無水物は、リング張力、及びヒドロキシル基との反応の結果として生じる高エネルギー放出のおかげで、遊離カルボン酸基よりも高い反応性を有する。このようにして、例えば、開環反応を可能とし、いかなる縮合反応をさせない反応温度で、作用することが可能である。更に、故意に使用し、又は故意に使用を省略する、より具体的には、触媒、例えば、一般的な酸触媒、又はジブチルスズラウラートの使用を省略することによって、所望の反応レジームを確実にすることができる。更に、水若しくは水分離器の使用の追加、又は省略は、例えば、水は、カルボン酸とアルコールとの間の一般的な縮合反応において放出されるので(これは、無水物とアルコールとの反応の場合ではない)、様々な反応性に影響を与えることが知られている。当業者は、これらの条件を、それに応じて適合させる方法を知っている。
【0056】
従って、本発明の開環反応は、カルボン酸基、又は更なるカルボン酸基を含むポリエステル(A)を製造する。ポリエステル、又は本発明のジエステル誘導体は、好ましくは、両端に、そのようなカルボキシ官能基を有する。
【0057】
従って、これは、反応過程において、好ましくは、成分(AA)、及び/又は使用される無水物の、成分(AA)のヒドロキシル基に対するモル比を、結果として生じるポリエステル(A)が、対応するカルボキシ官能基を末端に運ぶように選択されることを意味する。そのようなポリエステル(A)は、好ましくは、分子あたり、正確に、2個のカルボン酸基を有する。
【0058】
従って、好ましくは、そのようなポリエステル(A)において、ポリエステル(AA)から生じる分子ユニットが、ポリエステル(A)のコア、又は中心に位置し、一方で、無水物から生じる分子ユニットが、側基、及び/又は末端基の形態で存在する。好ましくは、ポリエステル(A)は、正確に、無水物に基づく2個の末端基を有する。従って、これは、具体的には、成分(AA)が、好ましくは、2個の末端ヒドロキシル基を有することを意味する。これらの基は、その後、両方とも、無水物(A)と反応してもよい。前述のように、成分(AA)は、ポリエステル(A)と同様に、特定の、少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪族基を含む。そして、結果として生じる成分(AA)の疎水性の性質は、特定の両親媒性の特性に寄与する。それは、両端に位置する無水物分子、又は2個の対応する遊離カルボキシル基を有することで、親水性の特性を与えることによる。より疎水性のユニットが、分子の中心に位置しているのに対し、両末端の、反対側の側基が、親水性である。本発明においては、これらの特定のポリエステル(A)は、LDHの細部に関して非常に特有の利点を有する。
【0059】
当業者が知っているように、上述の反応、及び反応レジームによって、純粋に統計学的な理由により、上述の理想的な構造を有さない生成物も製造する。一般的に、例えば、副生成物は、同様に、結果として生じるポリエステル(A)と、既に存在するポリエステル(AA)の分子の更なる反応によって形成されるか、又は好ましくは、両側の官能化にもかかわらず、片側のみ官能化された生成物である。反応混合物中には、未反応の出発成分も存在する。これにも関わらず、記載されたポリエステル(A)は、上述の反応レジームによって、主生成物として容易に得られ得る。これらの誘導体もまた、更なる精製を必要とせずに使用され得る。
【0060】
式(I)の無水物と、成分(AA)との開環反応は、当業者に公知の様々な方法によって行われてもよい。その方法は、結果として生じるポリエステル(A)と、ヒドロキシ官能性成分(AA)の分子との更なる反応が上述のように生じないようにすることが順守されている。反応は、例えば、バルクで、又は溶液中、好ましくは、有機溶媒、例えば、4−メチル−2−ペンタノン、又は他の一般的な溶媒を伴う溶液中で、例えば、50℃〜200℃、好ましくは、60℃〜150℃、より特には、65℃〜100℃の温度で行われてもよい。特に、100℃未満の反応温度によって、ポリエステル(A)が、ヒドロキシ官能性成分(AA)の分子と更なる反応をすることを効果的に防止することができる。上述の更なる反応を防止するためには、そのような触媒の使用を省略することが有利であるが、当然に、一般的な触媒、例えば、硫酸、又はジブチルスズラウリン酸を使用することも可能である。任意に使用される有機溶媒の蒸発(evaporation、蒸留)の後に、ポリエステル、及びジエステル誘導体が、例えば、有機溶媒を伴う反応混合物として、又は固体樹脂として、又は油脂として得られてもよい。
【0061】
上述の好ましい両親媒性のポリエステル(A)は、より特には、0〜50、非常に好ましくは、0〜25mgKOH/gの、上述で指定された範囲のOH価を有する。これらのポリエステル(A)の酸価は、好ましくは、無水物から得られるカルボキシル基の結果としてより高く、より特には、60〜250、好ましくは、80〜200、非常に好ましくは、90〜150mgKOH/gの範囲にある。測定方法は、上述されている。
【0062】
上述のモノマーを使用する上述の方法によると、これらのポリエステル(A)を製造するために使用されるポリエステル(AA)は、容易に製造され得る。
【0063】
ポリエステル(AA)が直鎖状であり、従って、特に、2個を超える官能基を含むモノマーではなく、二官能性モノマーが製造するために使用されることを確実にすべきである。
【0064】
上述のように、ポリエステル(AA)は、好ましくは2個の末端OH基を有し、それにより、優先して2個の無水物分子と反応する。ポリエステル(AA)のOH価は、好ましくは、80〜200、より好ましくは、100〜190、非常に好ましくは、120〜180mgKOH/gである。反応後、上述のカルボキシ官能性、及び他のできる限り好ましいパラメータ、より具体的には、OH価、酸価、及び分子量が得られる。従って、当業者が、ポリエステル(AA)を製造する方法は、一般的な従来技術の知識である。
【0065】
無水物に関しては、R
1は、H、C
1〜C
24アルキル、C
2〜C
24アルケニルであり、好ましくは、H、C
6〜C
20アルキル、C
6〜C
20アルケニル、より好ましくは、H、及びC
6〜C
20アルケニル、特に有利なことには、C
6〜C
20アルケニルである。
【0066】
層状水酸化物(B)、及び本発明に係る組成物の製造
本発明に係る組成物は、少なくとも1種の層状水酸化物(B)を含み、層状水酸化物は、少なくとも1種のポリエステル(A)の存在下で製造される。
【0067】
層状水酸化物、より具体的には、層状複水酸化物(LDH)が公知である。
【0068】
LDHの1つの関連する基は、以下の一般式(II):
【化2】
(式中、M2
2+は、二価の金属カチオンを表し、M3
3+は、三価の金属カチオンを表し、A
y−は、平均価数yのアニオンを表す)
によって記述されてもよい。本発明における平均価数は、取り込まれ得る様々なアニオンの平均価数を意味する。当業者が容易にわかるように、価数が異なる様々なアニオン(例えば、カーボネート、ニトラート、EDTAから得られるアニオン等)は、アニオンの合計量におけるそれぞれの割合によって(質量因子)、それぞれの場合においてそれぞれの平均価数に寄与する。n=0〜10の値を有する結晶水のフラクションが非常に異なっていてもよいのに対して、xについては、値は0.05〜0.5であることが知られている。二価、及び三価の金属カチオン、並びに水酸化物イオンは、正に荷電された金属水酸化物層(式(II)中の最初のカッコ内の表現)中で、端が結合された八面体の規則的な配置で存在し、インターカレートアニオンは、負に荷電された中間層(式(II)中の二番目のカッコ内の表現)内に存在し、更に、結晶水も存在してもよい。
【0069】
LDHにおいて、例えば、二価の金属カチオンの代わりに、一価の金属カチオンのみを使用することも可能であり、これらのLDHは、様々な金属カチオン、及びアニオンについて、様々な化学量論を有してもよい。例えば、金属カチオンの組み合わせLi
+/Al
3+である。金属水酸化物層中のそのようなLDH中に存在する化学量論は、実験式LiAl
3+2(OH)
6によって記述される。
【0070】
LSHは、同様に層状水酸化物、より具体的には、Zn
2+、Co
2+、Ni
2+及びCu
2+の層状水酸化物として使用されてもよい。
【0071】
好ましくは、本発明において使用される層状水酸化物、より具体的には、LDH、及びLSHは、従って、1種の金属カチオン、又は2種の異なる種類の金属カチオンを含む。LSHは、1種の二価の金属カチオン、例えば、Zn
2+、又は2種の異なる二価の金属カチオンを含むのに対して、LDHは、例えば、二価の金属カチオン及び三価の金属カチオン、又は一価の金属カチオン及び三価の金属カチオンを含む。
【0072】
本発明の組成物は、好ましくは、層状の水酸化物、より具体的には、LDH、及びLSHを含む。そこでは、選択される一価の金属カチオンは、Li
+であり、二価の金属カチオンM2
2+は、Zn
2+、Mg
2+、Ca
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、及びそれらの混合物からなる群から選択され、三価の金属カチオンM3
3+は、Al
3+、Bi
3+、Fe
3+、Cr
3+、Ga
3+、Ni
3+、Co
3+、Mn
3+からなる群から選択される。
【0073】
層状水酸化物の製造は、従来からあるものである。例えば、E. Kanezakiによる“層状複水酸化物の製造”(“表面科学技術”第1巻、第12章、345ページff)を参照してもよい。
【0074】
Elsevier(2004年、ISBN 0−12−088439−9)には、例えば、LDHを製造するための様々な方法が記載されている。LDHの合成に関する更なる情報は、例えば、D.G. Evansらによる“層状複水酸化物の製造”(Struct. Bond、(2006年)、119巻、89〜119ページ、[DOI 10.1007/430_006.スプリンガー、ベルリン、ハイデルベルグ、2005年)又はPoulらによる“Chem. Mater.”(2000年、12(10)、3123〜3132ページ)に記載されている。
【0075】
層状水酸化物、より具体的には、LDH、及びLSHは、例えば、層状水酸化物に取り込まれる金属カチオンの無機塩の混合物から製造されてもよい。このとき、pHレベルが一定で、かつ塩基性を示す水相中に、必要な、及び/又は所望の割合(化学量論)の一価、二価、及び三価の金属カチオンが観察される。カーボンジオキシドの存在下で合成が行われるところでは、例えば、大気条件下で、及び/又はカーボネートを加えることによって、LDHは、一般的に、層間アニオンとしてカーボネートを含む。この理由は、既に上述した、LDHの層構造に層間されるためにカーボネートが高親和性を有するためである。カーボンジオキシド、及びカーボネートを除外して(例えば、不活性窒素、又はアルゴンガスの雰囲気、非カーボネート含有塩、カーボネートを含まない水)操作を行う場合には、LDHは、層間アニオンとして、無機アニオンの金属塩、例えば、クロリドイオンを含む。
【0076】
合成は、原則として、カーボンジオキシド(不活性ガス雰囲気)、及び/又はカーボネートのない状態で、更に、例えば、有機アニオン、又は金属塩の中でアニオンとして存在しないそれらの酸性前駆体の存在下で行われてもよい。その場合には、生成物は、一般的に、問題の有機アニオンが挿入されている混合水酸化物である。
【0077】
直接共沈法と呼ばれる上述の方法によって、所望の層状水酸化物は、一工程の合成で得られる。
【0078】
同様に、いわゆるアルコールルート(例えば、Poul等による“Chem. Mater.”(2000年、12(10)、3123〜3132ページ)参照))によって製造をすることが可能であることが知られている。この場合には、原則として、まず第一に、無機塩、又は金属カチオンの無機塩の混合物が溶解して、必要な、及び/又は所望の割合(化学量論)で、層状水酸化物に取り込まれることによって、例えば、エタノール、又は2−ブトキシエタノール中のこれらの塩のアルコール溶液が製造される。塩を溶解する目的のためには、混合物は、溶解度の関係に従って、室温で、又は高温で攪拌されてもよい。この後に、原則として、塩基性水溶液を加えることによって、再び水酸化物の製造を実現する。
【0079】
同様に、再構成法として知られている方法によって、層状水酸化物、より具体的には、LDH、及びLSHを製造することが可能である。この場合において、例えば、粉末状で存在するLDHは、数時間、摂氏数百度(例えば、450℃で3時間)で加熱される。LDH構造体が崩壊することで、揮発性、及び/又は熱分解する層間アニオン、及び結晶水が抜け出すことができる。極度の処理の結果として、例えば、カーボネートが分解することで、二酸化炭素と水が放出される。残るのは、例えば、金属オキシドのアモルファス混合物である。不活性ガス雰囲気下で、挿入されるアニオンの水溶液を加えることによって、LDH構造が再構築され、所望のLDHが製造される。
【0080】
書き逃しがないように、いわゆるアニオン交換反応方法を参照してもよい。この場合に利用されるのは、層間アニオンを交換するというLDHの特性である。LDH中のカチオン性混合金属水酸化物層の層構造が保持される。まず第一に、既に製造されたLDH、例えば、不活性ガス雰囲気下で共沈法によって製造されるLDHであって、カーボネート、例えば、クロリド、又はニトラートと比較して容易に交換可能なアニオンを含むLDHは、不活性ガス雰囲気下で、アルカリ性水溶液中で懸濁される。このスラリー、又は懸濁液は、その後、不活性ガス雰囲気下で、挿入される有機アニオンのアルカリ性水溶液に加えられ、複合系は、一定時間攪拌され、その間、上述のアニオン交換が行われる。アニオン交換反応方法は、本発明においては、純粋には、LDHの製造方法ではないが、それよりも、既に製造されたLDHを修飾する方法である。特に、層状水酸化物の一般的な層構造の製造、又は一時的な破壊を含まない。
【0081】
本発明においては、層状水酸化物は、ポリエステル(A)の存在下で製造される。この場合における層状水酸化物は、好ましくは、直接共沈法、又はアルコールルート、非常に好ましくは、アルコールルートによって製造される。
【0082】
従って、これは、層状水酸化物の製造時に、少なくとも1種のポリエステル(A)、好ましくは、1種のポリエステル(A)のみが存在し、それが、層状水酸化物を製造するために使用される、又は必要な反応物質として、同一の反応容器内に存在することを意味する。この場合には、ポリエステル(A)は、最初からそれぞれの反応容器内に存在していてもよい。言い換えれば、例えば、ポリエステルが最初に加えられ、層状水酸化物を製造するための反応物質が加えられる。特に、無機金属塩、及び好ましくは、反応媒体、例えば、水、又はアルコールルートにおいては、アルコールである。又は、反応物質、及び反応媒体、好ましくは、水、又はアルコールルートにおいては、アルコール、例えば、エタノール、又は2−ブトキシエタノールが最初のチャージとして加えられる。その後、続いて、層状水酸化物が製造される前に、ポリエステル(A)が加えられる。最初にいくつかの反応物質を加え、その後、ポリエステル(A)を加え、続いて、反応物質の残りを加えることができる。他には、全ての反応物質、及びポリエステル(A)を反応媒体に、同時に移すことが可能である。
【0083】
驚くことに、記載された方法のみによってLDHの製造が可能であるだけでなく、この方法で製造される組成物は、LDHが良好に細分化されていることを示す。従って、これは、LDHは、凝集する傾向が非常に低く、冒頭に記載した利点を有することを意味する。LDH、及び/又は本発明の組成物はまた、更に、無機、又は有機アニオン、又はそれらの酸性の前駆体を加えることなく製造されてもよい。従って、これは、反応物質として使用される金属塩中に存在するアニオンとは別に、及び基本的に塩基中に存在する水酸化物イオン、及び合成のために有利に使用される水性反応媒体とは別に、他の一般的なアニオンは存在しない。いかなる特定の理論に拘束されることを望むことなく、カルボキシル官能基が、塩基性の水性反応媒体中で脱プロトン化されているカルボキシ官能性ポリエステル(A)が、アニオン性分子と同様に、層状水酸化物の中間層に、少なくとも部分的に取り込まれているようにみえる。従って、この視点から、ポリエステル、及び/又はカルボキシレート基は、同様に、LDHを製造するための反応物質とみなされてもよい。従って、驚くことに、ポリエステル(A)のポリマーの性質にもかかわらず、層状水酸化物の基本的な合成が成功するだけでなく、これらの層状水酸化物もまた、実際に細分化されている。
【0084】
本発明においては、既に上述された直接共沈法を使用することは、有利であることが明らかとなった。ここで、有利なことは、金属塩が、層状水酸化物の製造に使用され、又は金属塩の一部が、水溶液の状態で、ポリエステル(A)、又はポリエステル(A)及び残りの金属塩を含む塩基性水溶液からなる最初のチャージに、不活性ガス雰囲気下で、言い換えれば、酸素がない状態で、又は大気条件でない状態で滴下され、同時に、塩基、例えば、水酸化ナトリウム溶液、又は水酸化アンモニウムを制御して追加することによって、pHを一定に保つことである。反応媒体は、当然に、他の成分を含んでもよい。例えば、ポリエステルの合成で得られる一般的な有機溶媒の残留分(残りのフラクション)、又は他の無機及び/又は有機アニオンでもよい。制御され、効果的な結晶化を実現するためには、金属塩溶液が、有利なことに、約1〜10時間、より特には、2〜5時間にわたって、ゆっくりと滴下されることである。言い換えれば、滴下される溶液の濃度、及び量、最初のチャージとして加えられる溶液に従って滴下されることである。十分に滴下した後、有利なことに、確実に、最大限に変換(効果的な結晶化)し、及び十分に細分化するために、約1時間〜10日間、より具体的には、2〜24時間、エイジングし、又は更に懸濁液を攪拌する。
【0085】
直接共沈法によって層状水酸化物を製造するときに選択されるpHは、有利なことには、7より大きく12迄であり、合成のときは一定に保たれる。所望の組成物(例えば、金属カチオンM
2+/M
3+を選択)によって、一般的には、最適のpHが存在する。そのpHは、当業者によって容易に適合させることができる。しかしながら、原則として好ましいpH値の範囲は、8と11の間である。
【0086】
本発明において更により好ましいのは、アルコールルートを使用することである。これは、好ましくは、少なくとも1種のアルコールを含む、塩基性の反応媒体中で、ポリエステル(A)の存在下で、LDHを製造することであることを意味する。好ましいアルコールは、エタノール、及び2−ブトキシエタノール、より特には、2−ブトキシエタノールである。金属塩から水酸化物の製造を可能にするために、反応媒体は塩基性である。反応媒体は、好ましくは、アルコールと水の混合物を含み、その場合には、アルコールの水に対する質量比は、好ましくは1.0〜5.0、より特には、1.5〜3.0であり、従って、アルコールは、好ましくは過剰である。反応媒体の塩基性の性質は、好ましくは、塩基性の水溶液を、アルコール、又は水とアルコールの混合物に加えることによって実現される。
【0087】
特に好ましい実施形態においては、まず、第一に、層状水酸化物に取り込まれる金属カチオンの無機塩、又は無機塩の混合物が、少なくとも1種のポリエステル(A)を含むアルコール溶液中に溶解される。このとき、必要な、及び/又は所望の割合(化学量論)が観察される。この後に、水の追加、及び塩基性のpHの確立が続く。その後、有利なことに、例えば、1時間〜10日間、より特には、2〜24時間にわたって、最大限の変換、及び十分な細分化を確実にするために、懸濁液をエイジングし、又は更に攪拌する。
【0088】
層状水酸化物の製造時には、更なるアニオンが、当然に、ポリエステル(A)、金属塩中に存在するアニオン、及び任意の場合に、塩基性の水性反応媒体中に存在する水酸化物イオンに加えて、同様に存在することが可能である。例えば、不活性ガス下で操作するのでなければ、カーボネートは、少なくとも比例して存在してもよく、従って、LDHに取り込まれてもよい。他の無機、又は有機アニオンが、製造時に存在することも可能である。しかしながら、他にアニオンが存在しない場合には有利である。これは、金属塩の結果として存在するアニオン、ポリエステル(A)、及び任意の場合に存在する水酸化物イオンを除いて他のアニオンは含まれないことを意味する。
【0089】
層状水酸化物を製造するための金属塩として、それ自体任意の塩を使用することが可能である。好ましい塩は、好ましい金属カチオン、言い換えれば、一価の金属カチオンLi
+、Zn
2+、Mg
2+、Ca
2+、Cu
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、Cd
2+、Pb
2+、Sr
2+、及びそれらの混合物、好ましくは、Zn
2+、Mg
2+、Ca
2+、及びそれらの混合物、非常に好ましくは、Zn
2+及び/又はMg
2+、より特には、Zn
2+からなる群から選択される二価の金属カチオンM2
2+、並びにAl
3+、Bi
3+、Fe
3+、Cr
3+、Ga
3+、Ni
3+、Co
3+、及びMn
3+からなる群から選択される三価の金属カチオンM3
3+だけでなく、カーボネート、ニトラート、サルフェート、クロリド、水酸化物、オキシド、及びアセテート、好ましくは、水酸化物及びアセテートからなる群から選択されるアニオンもまた含む。
【0090】
しかしながら、特に有利なことに、カーボネートの初期の取り込み(primary incorporation)を防止するために、金属塩としてカーボネートを使用しない。
【0091】
pHを塩基性にするための塩基として、同様に、それ自体任意であり、当業者に公知の成分を使用することができる。例としては、水酸化ナトリウム溶液、及び水酸化アンモニウムである。
【0092】
特に好ましい実施形態の一つにおいては、金属塩、及び塩基は、本発明の組成物の製造後に、組成物中に、金属塩、及び塩基から生じる無関係の成分が一切存在しないように、又はこれらの無関係の成分が、蒸発操作による簡単な方法で、コストがかからず、不便な洗浄操作を要することなく、組成物から除去され得るように選択される。
【0093】
これらの種類の無関係の成分が除去されない場合には、それらは、次々と、例えば、コーティング材料中に異質なものを生じさせる。その残る唯一の結果として、しばしば、コストがかかり、不便な精製をすることになる。除去され難い無関係の成分の例は、ニトラート、クロリド、及びサルフェートを含み、それらは、製造後、組成物中に、例えば、ナトリウムクロリドの状態で残り、蒸発では除去され得ない。
【0094】
蒸発操作によって容易に除去可能な成分の例は、アンモニアであり、それは、その公知の低い蒸気圧のおかげで、本発明の組成物の温度が、40〜60℃に緩やかに上昇することによって簡単に除去され得る。同様の考えが、金属アセテートを使用することによって生じる酢酸について当てはまる。同様に、酢酸は、本発明の組成物を含むコーティング組成物が硬化するまでに除去される。従って、酢酸は、系中に無関係の成分として残らない。例えば、水酸化物、及び/又はオキシドが金属塩として使用される場合には、金属塩から生じる無関係の成分は残らない。
【0095】
驚くことに、層状水酸化物の許容され得る製造のために、専ら使用され、又は文献で非常によく提案されるニトラート、サルフェート、及び/又はクロリドにもかかわらず、ポリエステル(A)の存在下では、これらの塩の必要はなく、これにもかかわらず、層状水酸化物が得られることが明らかとなった。特に、アルコールルートの使用によって、記載された好ましい金属塩、及び塩基が使用されたときでさえも、微細化された層状水酸化物を含む組成物が実現される。
【0096】
従って、特に、直接共沈法によって層状水酸化物を製造するために、本発明は、好ましくは、上述の好ましい金属、及び塩基としてのアンモニウム水酸化物の、水酸化物、アセテート、及びオキシドの金属塩としての使用をする。
【0097】
本発明の組成物は、特に、明確に微細な状態の、少なくとも1種の層状水酸化物(B)、及びポリエステル(A)を含む。これらの成分に加えて、更なる成分が存在してもよい。より特には、水が、好ましくは溶媒として存在する。そして、本発明の組成物は、好ましくは、水性の組成物である。
【0098】
従って、本発明の組成物はコーティング材料として、又はコーティング材料を製造するために非常に好適である。そのコーティング材料は、ポリマー結合剤を主原料とし、例えば、プライマー、界面活性剤、及び水性ベースコート材料である。これは、本発明の組成物は、すでに存在する他の成分、又はまだ追加されるべき成分によって、コーティング材料として、又はそのようなコーティング材料を製造するために好適である。従って、コーティング材料としての本発明の組成物の使用方法は、本発明によって提供される。この場合には、組成物、より具体的には、存在する層状水酸化物は、それらの有利な特性、例えば、耐腐食性の向上、及び/又は機械抵抗、より具体的には、耐ストーンチップ性の増加、及び/又は光学特性の制御された影響をもたらすことができる。しかしながら、同時に、有害な凝集効果が防止され、又はかなり減少される。そして、それに関連する有害な特性、例えば、部分的に不均一なコーティングフィルムの製造が防止され得る。アニオンの風化の結果生じる非互換性を防止することができる。一方で、同時に、凝集が防止され、LDHは、(潜在的な)アニオン性ポリマー結合剤と結合され得る。本発明の組成物から製造されるコーティング材料、又はコーティング材料として使用される本発明の組成物は、一般的に、ポリエステル(A)、LDH、及び好ましくは、水に加えて、他の一般的なコーティング成分を含む。これらの成分は、より具体的には、一般的な架橋剤、他の一般的なポリマー結合剤((潜在的に)アニオン性基を含んでもよく、又はこれらの基を含まなくてもよい)、他の一般的なコーティング添加剤、及び有機溶媒でもよい。
【0099】
以下の記載の目的は、実施例を用いて本発明を説明することである。
【実施例】
【0100】
実施例中に記載した測定データの全ては、別段の記載がない限り、一般的な説明で記載した測定方法によって得たものである。
【0101】
1.本発明に使用するポリエステルの製造
1.1 第1のポリエステル(A)(A−1)の製造
ポリエステル(A)は、次のように製造する。アンカー攪拌機、窒素流入口、オーバーヘッド温度測定器を有する水分離器、及び還流コンデンサーを有するトップマウント充填カラムを備える反応器内に、44.40gの完全水素化(完全水添、fully hydrogenated)ビスフェノール−A、7.07gのシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、23.41gの二量体脂肪酸(Unichema(R)社製のPripol(R)1012(不飽和C18脂肪酸誘導体を主原料とし、その不飽和C18脂肪酸誘導体の二量体の含有量は、少なくとも97質量%であり、三量体の含有量は、1質量%以下であり、単量体の含有量は、わずか痕跡量である))を入れる。その反応器の内容物を、窒素雰囲気下で、攪拌しながら、反応混合物の酸価が8〜12mgKOH/gとなるまで、190℃で加熱する。オーバーヘッド温度は、100℃を超えてはならない。9日後、酸価は、11.4mgKOH/gとなり、反応混合物を冷却する。凝縮反応から1.7mlの水が得られる。生成物は、72.7gの固体樹脂である。その樹脂のOH価は、143mgKOH/gであり、質量平均分子量は、1884g/molであり、数平均分子量は、753g/molである。
【0102】
27gの2−ブタノンを、80℃に加熱した結果として生じるポリエステルの樹脂溶融物に加え、この組成物を、アンカー攪拌機、窒素流入口、及び還流コンデンサーを備える反応器内で、攪拌しながら溶解し、そこに、35.7gの2−オクテニルコハク酸無水物(使用されるポリエステル(B1)中のヒドロキシル基のモル量に対して、0.9当量)を加える。混合物を、窒素雰囲気下で95℃に加熱し、この温度で攪拌し、18時間、還流状する。このようにして得られた無色透明の溶液は、68.4質量%の不揮発性分(ポリエステル(A)の部分)を有する。その酸価は、97mgKOH/gである。その樹脂のOH価は18mgKOH/gであり、質量平均分子量は2218g/molであり、数平均分子量は1181g/molである。
【0103】
水分離器を蒸発ブリッジに置き換え、ポリエステル溶液を、95℃の窒素雰囲気下で、攪拌しながら、10.19gのN,N−ジメチルアミノ−2−エタノールと共に、滴下して混合する。これは、後に得られるポリエステル中で、酸価によって測定される、0.95のカルボキシル基の中和の程度に対応する。樹脂溶液を80℃に冷却した後、1分当たり2gの質量流量で、その樹脂溶液に60gの脱イオン水(室温)を加える。続いて、80℃で、攪拌しながら、減圧下で、残っているポリエステル溶液中の残りの2−ブタノン含有量が0.5質量%未満となるまで(ガスクロマトグラフィー分析によって測定する)、2−ブタノン/水混合物の蒸発除去を行う。
【0104】
得られたポリエステル水溶液の不揮発性分は、72.3質量%であり、酸性基含有量は、1.60meq/gであり、塩基含有量は、1.48meq/gであり、2−ブタノン含有量は、0質量%である。
【0105】
1.2 第2のポリエステル(A)(A−2)の製造
アンカー攪拌機、窒素流入口、還流コンデンサー、及び蒸発ブリッジを備える反応器中に、10.511gの1,6−ヘキサンジオール、9.977gの2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、6.329gのシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、23.410gの二量体脂肪酸(Unichema(R)社製のPripol(R)1012(この二量体含有量は、少なくとも97質量%であり、三量体含有量は、1質量%以下であり、単量体含有量は、ほんの痕跡量にすぎない。))、及び0.806gのシクロヘキサンを加える。反応器の内容物を、攪拌しながら、窒素雰囲気下で、220℃で加熱する。この加熱を、反応混合物の酸価(DIN EN ISO 3682に準ずる)が、不揮発性分の8〜12mgKOH/gとなり、粘度が、3.7〜4.2dPas(ICI社製のコーン/プレート型粘度計で、23℃で、反応混合物の80質量%2−ブトキシエタノール中の溶液として測定する)となるまで行う。その後、シクロヘキサンを蒸発によって除去し、反応混合物を160℃に冷却する。
【0106】
続いて、反応混合物を、10.511gの1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物と混合し、その後、160℃に加熱し、この温度を維持する。この温度の維持は、結果として生じるポリエステルの酸価(DIN EN ISO 3682に準ずる)が、不揮発性分38mgKOH/gであり、ヒドロキシル価(DIN EN ISO 4629に準ずる)が、不揮発性分81mgKOH/gであり、質量平均分子量M
wが、約19000ダルトン(標準物質としてポリスチレンを使用し、DIN55672−1〜3の規格に準ずるゲル浸透クロマトグラフィーによって測定する)であり、及び粘度が、5.0〜5.5dPas(ICI社製のコーン/プレート型粘度計中で、23℃で、2−ブトキシエタノール中の反応混合物の50質量%溶液として測定する)となるまで継続する。
【0107】
その反応混合物を、130℃まで冷却し、その反応混合物に、2.369gのN,N−ジメチルアミノ−2−エタノールを加える。更に、95℃まで冷却した後、その反応混合物に17.041gの脱イオン水、及び19.046gの2−ブトキシエタノールを加える。結果として生じる分散液に、更にN,N−ジメチルアミノ−2−エタノール、及び脱イオン水を加えることで、その分散液のpHが、7.4〜7.8であり、及び不揮発性分が、60質量%になるように調整する。
【0108】
2.層状ヒドロキシド(B)、及びポリエステル(A)を含む本発明の組成物の製造
2.1 ポリエステル(A−1)の存在下における、複水酸化物Zn
2Al(OH)
6*(CH
3CO
2)(組成物I1)の製造
3.00gの、1.1で得られるポリエステル(A−1)の溶液、0.137g(0.846mmol)の塩基性のアルミニウムアセテートAl(OH)(CH
3CO
2)
2、0.3712g(0.169mmol)の亜鉛アセテートジヒドラート、(これは、Zn/Al比が2に相当する)及び25.9mlの2−ブトキシエタノールを、磁気攪拌機、及び還流コンデンサーを備える、100mlの三又フラスコ内で、攪拌しながら、オイルバス中で、70℃に加熱する。そして、90分後、攪拌しながら、11.4mlの脱イオン水を加え、アンモニウムヒドロキシドの30%濃度の水溶液を用いて、混合物のpHが、8の値となるように調整する。その混合物を、一晩中、70℃で攪拌し、その後、オイルバス内で、室温に冷却する。その混合物を、10分間、4500rpmで遠心分離し、液相を除去し、生成物を分離する。
【0109】
2.2 ポリエステル(A−2)の存在下における、複水酸化物Zn
2Al(OH)
6*(CH
3CO
2)(組成物I2)の製造
手順は、実施例2.1の工程と全く同じである。ただし、3.00gの、1.1で得られるポリエステル(A−1)の溶液の代わりに、3.00gの、1.2で得られるポリエステル(A−2)の分散液を使用する。
【0110】
2.3 ポリエステル(A−1)の存在下における、単水酸化物Zn
5(OH)
8*(CH
3CO
2) (LSH)(組成物I3)の製造
3.00gの、1.1で得られるポリエステル(A−1)の溶液、0.533g(2.43mmol)の亜鉛アセテートジヒドラート、及び13.37mlの2−ブトキシエタノールを、磁気攪拌機、及び還流コンデンサーを備える100mlの三又フラスコ内で、攪拌しながら、室温で混合する。そして、90分後、攪拌しながら、5.89mlの脱イオン水を加え、混合物のpHを、アンモニウムヒドロキシドの30%濃度の水溶液を用いて、8の値になるように調整する。その混合物を、一晩中、室温で攪拌し、その後、10分間、4500rpmで遠心分離することで、液相を除去して、生成物を分離する。
【0111】
2.4 ポリエステル(A−2)の存在下における、単水酸化物Zn
5(OH)
8*(CH
3CO
2)(LSH)(組成物I4)の製造
手順は、実施例2.3の工程と全く同じである。ただし、3.00gの、1.1で得られるポリエステル(A−1)の溶液の代わりに、3.00gの、1.2で得られるポリエステル(A−2)の分散液を使用する。
【0112】
3.本発明に係るものではない、層状ヒドロキシド(B)、及びポリエステル(A)を含む組成物の製造
3.1 複水酸化物Zn
2Al(OH)
6*(CH
3CO
2)(LDH1)の製造
1.370g(8.46mmol)の塩基性アルミニウムアセテートAl(OH)(CH
3CO
2)
2、3.712g(16.9mmol)の亜鉛アセテートジヒドラート(これは、Zn/Al比が、2に相当する)、及び259mlの2−ブトキシエタノールを、磁気攪拌機、及び還流コンデンサーを備える500mlの三又フラスコ中で、攪拌しながら、オイルバス中で80℃に加熱する。そして、90分後、攪拌しながら、50mlの脱イオン水を加え、混合物のpHを、アンモニウムヒドロキシドの30パーセント濃度の水溶液を用いて、8の値になるように調整する。その混合物を、一晩中、80℃で攪拌し、その後、オイルバス内で、室温に冷却する。その混合物を、10分間、4500rpmで遠心分離することで、液相を除去し、その後、生成物を、50mlの脱イオン水中で3回攪拌し、10分間、4500rpmで遠心分離する。得られる水性ペーストのLDH含有量は、13.79質量%である。
【0113】
3.2 単水酸化物Zn
5(OH)
8(CH
3CO
2)(LSH1)の製造
5.328g(24.3mmol)の亜鉛アセテートジヒドラート、及び134mlの2−ブトキシエタノールを、磁気攪拌機、及び還流コンデンサーを備える250mlの三又フラスコ中に、計量して入れる。室温で、90分間攪拌した後、攪拌しながら、59mlの脱イオン水を加え、その混合物のpHを、アンモニウムヒドロキシドの30パーセントの濃度の水溶液を用いて、8の値となるように調整する。その混合物を、室温で、一晩中攪拌する。その後、10分間、4500rpmで遠心分離することで、液相を除去し、生成物を、50mlの脱イオン水中で、3回攪拌する。その後、10分間、4500rpmで遠心分離する。得られた水性ペーストのLSH含有量は、12.12質量%である。
【0114】
3.3 ポリエステル(A)、及び層状ヒドロキシド(B)を含む混合物の製造
層状ヒドロキシド(B)を含む、3.1、及び3.2に記載のペーストの物理的混合物、並びにポリエステル(A)を含む、1.1、及び1.2に記載の水性混合物を、それぞれの場合、1種のヒドロキシド(B)、及び1種のポリエステル(A)を、周囲条件下で、スパチュラを用いて共に攪拌することによって、プラスチック製のビーカー内で製造した。存在する混合物が、均一であると見ることができるまで、攪拌を継続する(一般的には、5〜10分間)。実験における初期の質量を、表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
層状ヒドロキシドの、ペースト、又は溶液の不揮発性分を主成分とするポリマーに対する質量比を、表2に示す。表2では、対応する本発明の実施例についての、理論上の質量比と比較して示している。
【0117】
層状ヒドロキシドの質量の計算は、実施例2、及び3に記載した実験式に従って、100%変換されるという仮定に基づく。したがって、挿入された(intercalated)水又は吸着された水は考慮していない。
【0118】
表2:比較例の組成物における、層状ヒドロキシドのポリマーに対する質量比。ここでは、類似する、対応する本発明の実施例の質量比と比較している。
【0119】
【表2】
【0120】
4.X線回折による、本発明の組成物、及び比較例の組成物の特性評価
表3は、検討している系に含まれる成分(A)及び(B)に関する、系の他の概要を示す。本発明の系Iにおいては、層状ヒドロキシドをポリエステルの存在下で製造した(実施例2.1〜2.4、組成物I1〜I4)。比較例の系においては、層状ヒドロキシドを、最初に単独で製造し、その後、ポリエステルを加えた(組成物C1〜C4)。
【0121】
【表3】
【0122】
組成物I1〜I4、及びC1〜C4について、シーメンス社製 D501 装置を使用して調査した。更に、ヒドロキシドLDH1(例3.1)、及びLSH1(例3.2)について、ポリエステルを加えることなく調査した。各試料を、スパチュラを使用して、ガラス支持体に塗布した。一次ビームは、銅管(励起:30mAで35kV)からのCuKα発光(λ=1.5406Å)であった。散乱線を、2θ角度範囲2〜70°で記録した(0.08°ステップ幅、ステージあたりの測定時間が4秒)。
【0123】
得られた散乱曲線(2θ散乱角に対する強度)を、
図1〜10に示す(
図3〜10について、表3における相互関係を参照のこと)。それぞれの例について記載されている、「ヒドロキシドの層化についての相関反射」は、X線回折についてのブラッグ条件から得られる:
n・λ=2d・sinθ
(式中、
n=回折次数(自然数)
λ=X線の波長
d=格子面の間隔(ここでは、層の間隔)
θ=X線と格子面(層)がなす角度)
純粋な層状ヒドロキシドLDH1(例3.1)、及びLSH1(例3.2)の試料は、13.68Å(LDH1)、及び12.98Å(LSH1)の層間隔dに対応して、6.84°、13.72°、21°(LSH1)、及び6.49°、13.03°、19.94°(LSH1)の位置で、ヒドロキシドの層化についての強い相関反射(001)を示す。散乱角約35°、及び60°における層状ヒドロキシドについての一般的な反射は、それぞれ、層(0kl)、及び(hk0)におけるカチオン間隔を表す。
【0124】
層状ヒドロキシドがポリエステル(A)の存在下で製造されたものである組成物(現場の系)は、大きな散乱角(約35°、及び60°)での反射を示す。一方で、調査した小さな角度の範囲では、反射(001)は全く観測されず(I2、及びI4の場合)、又は比較的小さな散乱角の場合(I1、及びI3の場合)には、新しい相関反射が観測される。混合物I1は、49Åの層間隔dに対応する、4つの相関反射(3.59°、5.38°、7.20°、9.12°)を示す。I3については、46Åの層間隔dに対応して、5つの相関反射が検出される(3.87°、5.77°、7.65°、9.58°、11.5°)。
【0125】
従って、剥離された層:exfoliated layer(ポリエステル(A−2)の存在下、系I2、及びI4)、又はポリエステル(A−1)の存在下で(系I1、及びI3)、ポリエステルが挿入された(すなわち、ポリエステルで膨張された)層が存在する。後者の系は、アセテート含有ヒドロキシド(LDH1、及びLSH1)と比較して、大きな層間隔を有する。そのように個別化され、大きく分離した層を有する、LDH、及びLSHは、ナノ複合材料を製造するために好適な出発材料であることを意味する。これらの系における層状ヒドロキシドは、細かく分布している。
【0126】
それとは対照的に、層状単水酸化物LSH1(例C1、及びC3)の物理的混合物についての散乱曲線は、ポリエステル(A)の効果の結果として、剥離は言うまでもなく、層内への挿入(intercalation)が無いことを示す。層化についての相関反射は、使用したアセテート含有ヒドロキシドLSH1の相関反射と一致する。
【0127】
ポリエステルA−2の存在下における、層状複水酸化物LDH1の場合には(系C4)、現場で製造されるヒドロキシドと比べて、僅かな差異しか観察されない。26Åの層間隔dに対応して、層化に関して7個の相関反射(3.55°、6.93°、10.31°、13.85°、17.32°、20.86°、24.15°)が観測されることから、層状複水酸化物LDH1は、ポリエステルA−1を挿入している(例C2)。従って、この層間隔の拡張は、現場の系と比べて、はるかに顕著ではない。
【0128】
結論:上記実験が示すように、ポリエステル(A)の存在下で、層状ヒドロキシドを製造することによって、層状ヒドロキシドの、個別化され(剥離され)、又は大きく分離された(挿入された)層を得ることが可能になる。それとは対照的に、現場以外で製造される層状ヒドロキシド、及びポリマー(A)の物理的混合物は、剥離、又は挿入を散発的に示すのみであり、後者は、非常に減少した層膨張を伴う。従って、本発明の組成物は、構造的に、従来技術の組成物とは異なる。更に、この差異は、技術的な利点と関連している。細かく分布することで生じる上述した効果は、好ましいポリエステル(A)について、特に顕著である(ここでは、ポリエステル(A−1)について示される)。