(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記素地鋼板は、ホウ素(B):0.003%以下(0%を除く)及びモリブデン(Mo):0.2%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の耐時効性及び焼付硬化性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板。
重量%で、炭素(C):0.002〜0.012%、マンガン(Mn):1.6〜2.7%、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02〜0.06%、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)を含み、残部鉄及び不可避な不純物からなり、さらに、1.3≦Mn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))≦20.5の関係を満たし、下記関係式1によって定義されるMneqが1.9≦Mneq≦3.9を満たす鋼スラブを設けた後、前記鋼スラブを再加熱する工程と、
前記再加熱された鋼スラブをAr3+20℃〜950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延した後、450〜700℃で巻取する工程と、
前記巻取された熱延鋼板を40〜80%の圧下率で冷間圧延し、続いて、760℃〜850℃の温度範囲で連続焼鈍する工程と、
前記連続焼鈍された鋼板を630〜670℃の温度範囲まで平均冷却速度3℃/s以上で1次冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行い、次いで、Ms−200℃以下の温度まで4℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却する工程と、を含み、
前記2次冷却によって製造される溶融亜鉛めっき鋼板をなす素地鋼板は、
その鋼の微細組織が、面積%で95%以上のフェライトと残部硬質第2相からなり、
下記関係式2によって定義されるフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有率が90%以上であり、
前記第2相をなすマルテンサイト相のうち、平均直径1μm以下の微細マルテンサイトの鋼の微細組織全体に対する面積%が2%以下(0%を除く)であり、さらに
下記関係式3によって定義される、素地鋼板の1/4t地点におけるマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と前記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差が0.3wt%以上である、耐時効性及び焼付硬化性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[関係式1]
Mneq=Mn+0.45Si+2P+1.15Cr
[関係式2]
P(%)={Pgb/(Pg+Pgb)}×100
(ここで、Pはフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有率を示し、Pgbはフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有面積を示し、Pgはフェライト結晶粒内に存在するマルテンサイトの占有面積を示す。)
[関係式3]
a−b≧0.3wt%
(ここで、aは素地鋼板の1/4t地点におけるマルテンサイト相での平均Mn濃度(wt%)を示し、bは前記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度(wt%)を示す。)
前記の1次冷却を行った後、亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行い、次いで、460〜610℃の温度域で合金化処理を行った後、Ms−200℃以下の温度まで4℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却する、請求項5又は6に記載の耐時効性及び焼付硬化性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車外板用素材は、外部からの衝撃に対して安全に表面が保護されるようにするために、降伏強度の高い鋼板が要求される。これは、耐デント性を向上させ、走行中に外板に欠陥が発生しないようにするために、なるべく降伏強度が高い鋼板を使用することで、耐デント性及び軽量化に寄与している。
【0003】
従来、ドア、トランクリッド、及びフェンダーのような優れた耐デント性が要求される自動車外板パネルには、引張強度340MPaクラスのBH鋼板(焼付硬化型鋼板)が主に適用されており、近年では、耐デント性の評価によって降伏強度の重要度が高くなり、降伏強度の基準としては180MPa以上を有するように設計されて外板材に適用されている。そのため、降伏強度の増加による減厚により、軽量化への寄与を高めるために、降伏強度の基準で210MPa、240MPa、260MPa級の高強度焼付硬化型鋼板が開発されるようになり、量産への適用を進めている。
【0004】
しかし、これらの鋼種は、大部分が極低炭素鋼をベースとして微量のTiあるいはNb含量を効果よく制御することで、焼付硬化性を確保しているが、製鋼操業の際に、Cの含量の範囲におけるばらつきによって焼付硬化性(以下、「BH」性という。)が変化するだけでなく、一部の「BH」性が高くなると、逆に、耐時効特性(以下、「AI」特性という。)が劣位となり、長距離運送による時効の発生により、部品加工時に表面欠陥が発生することが問題となっている。
【0005】
即ち、「BH」性が増加すると、耐時効性が劣化する。耐時効性が劣化するというのは、長距離運送、及び部品加工前の倉庫での長時間保管による時効発生のことであり、プレス後の外板表面に発生するしわ現象といった表面欠陥を引き起こし、焼付硬化型鋼板として多くの問題点を抱えている。よって、「BH」性に加えて耐時効特性にも優れ、時効の問題がほとんど発生しない複合組織(フェライト+マルテンサイト)型BH鋼板を製造できる技術開発に対する要求が高まっている。
【0006】
このような複合組織型の焼付硬化型鋼板は、組織内に形成されたマルテンサイト(M)相周辺において可動転位によって優れた焼付硬化特性が現れた一方、耐時効特性に優れている。しかし、このような複合組織型鋼板を製造するためには、基本的に適正水準以上のC、Mn、Crなどの硬化能元素の添加が必須であるため、却って降伏強度が低い複合組織鋼を製造することが困難である。
【0007】
一方、自動車用に好適に適用するためには、優れた耐食性が要求されており、そのため、従来から自動車用鋼板として耐食性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が用いられてきた。このような鋼板は、再結晶焼鈍及びめっきを同一ラインで行う連続溶融亜鉛めっき設備により製造されるため、安価で高耐食性の鋼板を製造することができるという長所がある。また、溶融亜鉛めっき後に再び加熱処理した合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、優れた耐食性に加えて、溶接性や成形性にも優れており、広く使用されている。
【0008】
このような複合組織型焼付硬化型鋼板として、特許文献1には、C含量を0.01〜0.12%、Mn含量を2%未満とし、第2相の平均粒径の面積率を管理し、焼鈍時の加熱速度を3℃/s以下に管理することで、「BH」性に優れた焼付硬化鋼を製造しているが、焼鈍時の加熱速度が遅すぎて、実際の量産製造において経済性の効果が十分でないだけでなく、特に、C含量が0.02%の水準、降伏強度が230MPa級以上と高いことからも、部品加工時に表面欠陥が多く発生するという問題点がある。
【0009】
特許文献2では、C含量が0.015%を超える鋼板を対象とし、P含量を0.015〜0.05%に制御して複合組織型焼付硬化鋼を製造しているが、引張強度が440MPa級以上で、降伏強度も220MPa付近であることから、既存の340BH鋼の降伏強度180MPa級を代替することが困難であり、一部のベイナイト(B)相を含ませて穴広げ性を向上させたが、それも部品成形時の高い降伏強度によって表面欠陥の発生可能性が高いという問題点がある。
【0010】
特許文献3にも、鋼中の組織内にベイナイトが一部含まれており、引張強度に比べて降伏強度が上昇するため、表面欠陥の問題を引き起こす可能性があり、Cr含量が0.5%を超えることで鋼板の表面にCr系酸化物が形成され、熱間圧延時にスケールの除去が困難となり、外板材として表面欠陥を多く含有し得るため、表面が美麗な外板鋼材を製造し難いという問題を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、上述した従来技術の限界を克服するためのものであり、鋼の組成成分及び製造工程を最適化することで、焼付硬化性と耐時効特性に優れた降伏強度170MPa以上の自動車外板用鋼板として好適な溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することをその目的とする。
【0013】
また、本発明は、上記溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供することをその目的とする。
【0014】
しかし、本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されるものではなく、言及されていない他の課題は以下の記載から当業者には明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明は、素地鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層が形成されている溶融亜鉛めっき鋼板であって、上記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.002〜0.012%、マンガン(Mn):1.6〜2.7%、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02〜0.06%、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、残部鉄及び不可避な不純物を含んで組成され、さらに、1.3≦Mn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))≦20.5の関係を満たし、下記関係式1によって定義されるMneqが1.9≦Mneq≦3.9を満たし、その鋼の微細組織が、面積比で95%以上のフェライトと残部硬質第2相からなり、下記関係式2によって定義されるフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有比率が90%以上であり、さらに、下記関係式3によって定義される、素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差が0.3wt%以上であることを特徴とする耐時効性及び焼付硬化性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
[関係式1]
Mneq=Mn+0.45Si+2P+1.15Cr
[関係式2]
P(%)={Pgb/(Pg+Pgb)}×100
(ここで、Pはフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有率を示し、Pgbはフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有面積を示し、Pgはフェライト結晶粒内に存在するマルテンサイトの占有面積を示す。)
[関係式3]
a−b≧0.3wt%
(ここで、aは素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度(wt%)を示し、bは上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度(wt%)を示す。)
【0016】
上記素地鋼板は、ホウ素(B):0.003%以下(0%を除く)及びモリブデン(Mo):0.2%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0017】
上記第2相をなすマルテンサイト相のうち、平均直径1μm以下の微細マルテンサイトの面積%が2%以下(0%を除く)であることが好ましい。
【0018】
上記素地鋼板は、調質圧延前の降伏強度が210MPa級以下であることができ、降伏比が0.55以下であることができる。
【0019】
上記溶融亜鉛めっき鋼板の溶融亜鉛めっき層を合金化処理することによって、耐時効性及び焼付硬化性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【0020】
また、本発明は、重量%で、炭素(C):0.002〜0.012%、マンガン(Mn):1.6〜2.7%、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02〜0.06%、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、残部鉄及び不可避な不純物を含み、さらに、1.3≦Mn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))≦20.5の関係を満たし、上記関係式1によって定義されるMneqが1.9≦Mneq≦3.9を満たす鋼スラブを設けた後、これらを再加熱する工程と、上記再加熱された鋼スラブをAr3+20℃〜950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延した後、450〜700℃で巻取する工程と、上記巻取された熱延鋼板を40〜80%の圧下率で冷間圧延し、続いて、760℃〜850℃の温度範囲で連続焼鈍する工程と、上記連続焼鈍された鋼板を630〜670℃の温度範囲まで平均冷却速度3℃/s以上で1次冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行い、次いで、Ms−200℃以下の温度まで4℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却する工程と、を含む耐時効特性及び焼付硬化性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【0021】
上記鋼スラブは、ホウ素(B):0.003%以下(0%を除く)及びモリブデン(Mo):0.2%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0022】
また、上記2次冷却によって製造される溶融亜鉛めっき鋼板をなす素地鋼板は、その鋼の微細組織が、面積比で95%以上のフェライトと残部硬質第2相からなり、上記関係式2によって定義されるフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有比率が90%以上であり、さらに、上記関係式3によって定義される、素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差が0.3wt%以上であることができる。
【0023】
さらに、上記第2相をなすマルテンサイト相のうち、平均直径1μm以下の微細マルテンサイトの面積%が2%以下(0%を除く)であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、上記の1次冷却を行った後、亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行い、次いで、460〜610℃の温度域で合金化処理を行った後、Ms−200℃以下の温度まで4℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却することを特徴とする耐時効特性及び焼付硬化性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
上述した構成を有する本発明によると、優れた耐時効性と焼付硬化性を同時に確保することができる溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができるため、長距離運送時に時効欠陥が発生せず、自動車外板用に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、自動車外板用に適するように耐時効性と焼付硬化性を同時に確保して成形性に優れた鋼板を提供すべく鋭意研究した結果、合金設計とともに製造条件を最適化することによって意図する物性を満たす複合組織鋼板を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0029】
先ず、本発明の耐時効性と焼付硬化性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板について詳細に説明する。
【0030】
本発明の冷延鋼板(素地鋼板)、又は、溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板をなす素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.002〜0.012%、マンガン(Mn):1.6〜2.7%、リン(P):0.03%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02〜0.06%、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、残部鉄及び不可避な不純物を含んで組成され、以下では、その合金成分及び制限する理由について詳細に説明する。このとき、特に言及しない限り、各成分の含量は全て重量%を意味する。
【0031】
C:0.002〜0.012%
炭素(C)は、本発明において第2相を確保して複合組織を有する鋼板を製造するのに重要な成分であり、これは、2相組織のうちの一つであるマルテンサイトを形成させて強度を確保するのに有利な元素である。一般的にCの含量が増加するほど、マルテンサイトの形成が容易で、複合組織鋼の製造に有利になるが、最適な複合組織鋼を製造するためにはその含量を制御することが重要である。C含量が過度に少ないと、十分な第2相の面積率を確保できず、複合組織鋼により耐時効性に優れた焼付硬化型鋼板を製造できなくなる。一方、C含量が過度に高いと、複合組織鋼の形成には有利になるが、降伏強度が上昇して、顧客部品加工時に表面に曲げ欠陥が発生する傾向が高くなるだけでなく、調質圧延前に降伏強度210MPa以下の複合組織鋼を得ることができなくなる。
【0032】
本発明は、できるだけC含量を最適化し、低いC含量でも耐時効性に優れた焼付硬化型複合組織鋼を製造することを目的とする。ここで、C含量が0.002%未満であると、複合組織鋼を得ることができず、C含量が0.012%を超えると、複合組織鋼は得ることができるが、降伏強度が上昇して、一般的に表面特性に優れた焼付硬化鋼を供給できなくなる。したがって、本発明では、C含量を0.002〜0.012%の範囲に制限することが好ましく、より好ましくは0.004〜0.01%の範囲に制限する。
【0033】
Mn:1.6〜2.7%
マンガン(Mn)は、複合組織を有する鋼板において硬化能を向上させる元素であり、特に、マルテンサイトを形成するのに重要な元素である。既存の固溶強化鋼では、固溶強化効果により強度上昇に有効で、鋼中に不可避に添加されるSをMnSとして析出させて、熱間圧延時にSによる板破断の発生及び高温脆化現象を抑制する重要な役割を果たす。
【0034】
本発明では、Mnを1.6%以上添加することが好ましいが、その含量が1.6%未満であると、マルテンサイトを形成することができず、複合組織鋼の製造が困難となるだけでなく、引張時に降伏点延伸特性が現れ、降伏比が高くなるという問題点を有する。一方、2.7%を超えると、マルテンサイトが過剰に形成されて材質が不安定になり、組織内においてMnバンド(Mn−Band(Mn酸化物の帯))が形成されて加工クラック及び板破断の発生リスクが高くなるという問題がある。また、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出し、めっき性を大きく阻害するという問題がある。
【0035】
したがって、本発明では、Mnの含量を1.6〜2.7%に制限することが好ましく、より好ましくはMn含量を2.0〜2.4%に制限する。
【0036】
Cr:1.0%以下(0%を除く)
クロム(Cr)は、上述したMnと類似する特性を有する成分であり、鋼の硬化能を向上させ、高強度を確保するために添加される元素である。Crはマルテンサイトの形成に有効で、熱間圧延過程でCr
23C
6のような粗大なCr系炭化物を形成し、鋼中の固溶C量を適正水準以下に析出させることにより、降伏点延伸(YP−El)の発生を抑制するため、降伏比の低い複合組織鋼の製造に有利な元素である。また、強度の上昇に対する延伸率の低下を最小化するため、高延性を有する複合組織鋼の製造にも有利である。
【0037】
本発明において、上記Crは硬化能を向上させることでマルテンサイトの形成を容易にするが、その含量が1.0%を超えると、マルテンサイトの形成比率を過度に増加させ、強度及び延伸率を低下させるという問題がある。したがって、本発明では、Crの含量を1.0%以下に制限することが好ましく、製造上不可避に添加される量を考慮して0%は除く。
【0038】
P:0.03%以下(0%を除く)
鋼中のリン(P)は、成形性を大きく害することなく強度を確保するのに最も有利な元素であるが、過剰に添加すると、脆性破壊の発生可能性が大きく増加し、熱間圧延中にスラブの板破断が発生する可能性が高くなるだけでなく、めっき表面特性を阻害する元素として作用するという問題がある。
【0039】
したがって、本発明では、Pの含量を最大0.03%に制限するが、不可避に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0040】
S:0.01%以下(0%を除く)
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素で、不可避に添加される元素であり、できるだけ低く管理することが重要である。特に、鋼中のSは赤熱脆性の発生可能性を増加させるため、その含量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、製造過程中に不可避に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0041】
N:0.01%以下(0%を除く)
窒素(N)は、鋼中の不純物元素で、不可避に添加される元素である。Nはできるだけ低く管理することが重要であるが、これにより鋼の精錬費用が急激に上昇するという問題があるため、操業条件が可能な範囲である0.01%以下に制御することが好ましい。但し、不可避に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0042】
Sol.Al:0.02〜0.06%
酸可溶アルミニウム(sol.Al)は、鋼の粒度微細化と脱酸のために添加される元素であり、その含量が0.02%未満であると、通常の安定した状態でアルミニウムキルド(Al killed)鋼を製造することができない。一方、その含量が0.06%を超えると、結晶粒の微細化効果により強度の上昇には有利であるが、製鋼連鋳操業時に介在物が過度に形成されて溶融亜鉛めっき鋼板の表面不良が発生する可能性が高くなるだけでなく、製造コストが上昇するという問題がある。したがって、本発明では、sol.Alの含量を0.02〜0.06%に制御することが好ましい。
【0043】
本発明では、その他の選択元素として、ホウ素(B)とモリブデン(Mo)のうち1種以上を含んでもよいが、これらは硬化能を多少向上させるため、複合組織鋼を製造するのに役立つ。
【0044】
B:0.003%以下(0%を除く)
鋼中ホウ素(B)は、Pの添加による耐2次加工脆性を防止するために添加する元素である。ホウ素(B)の含量が0.003%を超えると、延伸率が低下するという問題があるため、上記ホウ素(B)の含量を0.003%以下に制御し、このとき、不可避に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0045】
Mo:0.2%以下(0%を除く)
モリブデン(Mo)は、複合組織を有する鋼板において硬化能を向上させる元素であり、特に、マルテンサイトを形成するのに重要な元素である。本発明では、Moを0.2%以下添加することが好ましく、より好ましくは、0.1%以下の範囲で添加する。Moの含量が0.2%を超えると、鋼板の硬化能が向上してM相を形成するのに役立つが、M含量自体も増加して降伏強度を増加させる現象が生じるだけでなく、合金設計時にコストが上昇するため、適さない。
【0046】
本発明では、MoとBを同時に添加するか、あるいは、Moを単独で添加してもよく、このとき、焼鈍中の均一な結晶粒の形成によって成形性の側面で有利に作用する。したがって、本発明では、Moの含量を0.2%以下に制限することが好ましい。
【0047】
本発明の素地鋼板は、上記成分以外にも、残部Fe及びその他不可避な不純物を含んでもよい。
【0048】
また、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板などをなす素地鋼板は、硬化元素であるMn及びCrが、1.3≦Mn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))≦20.5の関係を維持することが好ましい。Mnに比べてCrの含量が高くなると、硬化能の側面では、両元素の作用が類似していても、耐食性向上元素であるCrを過度に多く添加すると、熱延後の酸洗スケールの除去に問題が生じるため、特に、外板用鋼材に使用できなくなる。
【0049】
したがって、本発明では、素地鋼板が1.3≦Mn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))≦20.5の関係を満たすことが望ましい。これは、Mn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))の関係式においてその値が20.5を超えると、外板表面の品質を確保できず、その値が1.3未満であると、Mn含量が相対的に高くなって組織内にMnバンド(Mn−band)が形成され、表面欠陥とともに加工不良が発生する恐れがあるためである。
【0050】
また、本発明で要求されるC含量0.012%以下の極低炭素鋼を用いて複合組織鋼を製造するためには、硬化能向上元素であるMn、Crなどの適正水準以上の添加が必要である。本発明では、下記[関係式1]によって定義されるマルテンサイト(M)相の形成のための硬化能を示すMneq値が1.9≦Mneq≦3.9を満たすように成分組成を制御することが好ましい。
【0051】
上記Mneq値が1.9未満であると、低いC含量のため、焼鈍後に急冷しても全くマルテンサイト(M)相が形成されず、本発明に適さない。また、上記Mneq値が3.9を超えると、複合組織鋼を製造することは可能であるが、多量の合金元素の添加によって降伏強度と引張強度が上昇し、延伸率が低下する恐れがある。そのため、本発明では、これらを考慮して、上記Mneq値が1.9〜3.9の範囲になるように管理することが好ましく、より好ましくは2.1〜3.5の範囲で管理する。
【0052】
[関係式1]
Mneq=Mn+0.45Si+2P+1.15Cr
【0053】
一方、上述した成分組成を満たす本発明の溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、その素地鋼板の微細組織として、柱状フェライトと残部マルテンサイトを含むことが好ましく、このとき、ベイナイトを一部含んでもよく、ベイナイトの量はできるだけ最小にするか、含まないことが好ましい。
【0054】
そのため、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板をなす素地鋼板は、その微細組織が、全厚(t)を基準として、面積%で95%以上のフェライトと、残部硬質の第2相とから構成されることが好ましい。本発明において上記フェライト分率が95%未満であると、相対的に2相の分率が増加するため、複合組織鋼を製造するのに有利になる。しかしながら、フェライト分率が減少すると、降伏強度及び降伏比が上昇し、部品加工時に表面屈曲欠陥の発生も高くなるため、上記フェライト分率を95%以上にすることが好ましい。
【0055】
このとき、本発明では、上記硬質の第2相中に平均直径1μm以下の微細マルテンサイト分率が、面積%で2%以下(0%を除く)であることが好ましい。極めて微細なマルテンサイト(M)相が幅広く分布するほど、マルテンサイト相周辺に形成された可動転位と固溶Cの相互作用によって優れた焼付硬化性を有する。しかし、上記第2相のうち平均直径1μm以下の微細マルテンサイト分率が、面積%で2%を超えると、降伏比が上昇し、降伏強度も高くなって、加工時に表面不良の発生可能性が高くなる恐れがあるため、上記マルテンサイト相分率を、面積比で2%以下に管理することが好ましい。
【0056】
また、本発明では、下記[関係式2]によって定義される面積%で、フェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有比率が90%以上であることが好ましい。
【0057】
[関係式2]
P(%)={Pgb/(Pg+Pgb)}×100
(ここで、Pはフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有率を示し、Pgbはフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有面積を示し、Pgはフェライト結晶粒内に存在するマルテンサイトの占有面積を示す。)
【0058】
上記[関係式2]においてP(%)が90%未満であると、フェライト(F)粒内に形成されたマルテンサイト(M)相が多く、耐時効性に優れた焼付硬化鋼を製造できなくなるため、より好ましくは92%以上である。換言すると、結晶粒界に微細なマルテンサイト相が多く存在する場合、耐時効性に優れた焼付硬化鋼製造により優れることが分かる。
【0059】
即ち、結晶粒界に形成されたマルテンサイト(M)相周辺のフェライト(F)相には多量の可動転位が形成され、固溶Cとの相互作用によって焼付硬化性を有する。通常の焼付温度(Baking Temperature 170℃、20分間)では、マルテンサイト相に濃縮されたCの活動度が高いため、加熱時にフェライト相へ拡散移動して転位と相互作用(以下、ロッキング(Locking)という。)し、優れた焼付硬化性を有するようになる。一方、人工時効(100℃、1時間)の条件では、マルテンサイト相に濃縮されたCの活動度が低いため、Cがフェライト(F)相へ拡散移動せず、マルテンサイト(M)相にそのまま残存し、マルテンサイト相周辺の転位とロッキング(Locking)されないため、時効が問題とならない。このようなことから、組織内にマルテンサイト(M)相が結晶粒界に多く存在するほどフェライト(F)相周辺に可動転位が多く形成され、耐時効特性に優れた焼付硬化鋼製造が可能となる。
【0060】
一方、本発明では、下記[関係式3]によって素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト(M)相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト(M)相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)差が0.3wt%以上になるようにすることが好ましい。
【0061】
[関係式3]
a−b≧0.3wt%
(ここで、aは素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度(wt%)を示し、bは上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度(wt%)を示す。)
【0062】
上記第2相の強度、即ち、マルテンサイト(M)相の硬度が高いほど本発明に好適であるが、マルテンサイト相自体の強度を高めるためには、マルテンサイト相に含まれたMn含量を周辺のフェライト相に比べて高くしなければならない。これは、マルテンサイト相の強度が高いほど、相対的に周辺のフェライト相の軟質化が可能で、降伏強度及び降伏比が低い鋼板を製造できるようになり、耐時効特性に優れた焼付硬化鋼製造が可能となるためである。
【0063】
即ち、マルテンサイト相の強度が高いほどマルテンサイト相内の固溶Cの濃化度(密集度)が高くなり、適正水準の焼付温度でマルテンサイト相内のCがフェライト相へ容易に拡散移動し、焼付硬化性を向上させるためである。
【0064】
このような観点から、マルテンサイト相と周辺1μm以内のフェライト相とのMn濃度差(wt%)は、高いほど有利となる。上記Mn濃度差が0.3wt%未満であると、焼付時にCが容易にフェライト相へ拡散移動せず、焼付硬化性が劣位となることがあるため、その濃度差を0.3wt%以上に管理することが好ましい。
【0065】
一方、上記各相(マルテンサイト(M)相あるいはフェライト(F)相)のMn濃度分析は、TEM及びEDS分析技法を用いて各相で10ポイント(Point)を測定し、その平均値を測定することで行うことができる。
【0066】
上述したような鋼の組成成分及び微細組織を有する本発明は、降伏強度が調質圧延前に210MPa以下であり、降伏比(YS/TS)が0.55以下であって、低い降伏強度と降伏比を有する冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0067】
また、基本的に焼付硬化特性(「BH」性)は、40MPa以上が確保可能であり、常温で6ヶ月の時効保証ができるように人工時効評価(100℃、1hr)の後、引張試験において降伏点延伸(YP−El)が全く現れない耐時効特性に優れた焼付硬化鋼を提供することができる。
【0068】
次に、本発明の耐時効性と優れた焼付硬化特性を有する複合組織型溶融亜鉛めっき鋼板ないし合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について詳細に説明する。もちろん、亜鉛めっきを行っていない冷延鋼板(素地鋼板)も本発明の範疇に含まれる。
【0069】
先ず、本発明では、上述したような鋼の組成成分を有する鋼スラブを設けた後、それを再加熱する。このような再加熱工程は、後続する熱間圧延工程を円滑に行って、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明は、このような再加熱の条件に特に制限されず、通常の条件であれば構わない。一例として、1100〜1300℃の温度範囲で再加熱工程を行ってもよい。
【0070】
次いで、本発明では、上記再加熱された鋼スラブをAr3+20℃〜950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延した後、450〜700℃で巻取する工程を含む。
【0071】
このとき、本発明では、上記再加熱された鋼スラブを下記[関係式4]によって定義されるAr3+20℃〜950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延することが好ましい。仕上げ熱間圧延の場合、根本的にオーステナイト系単相域で行うことが有利である。これは、オーステナイト単相域で仕上げ圧延を行うことで、基本的に単相結晶粒で構成される組織においてより均一な変更を加えて、組織内の均一性を増加させることができるためである。仕上げ熱間圧延温度がAr3+20℃未満であると、フェライト+オーステナイトの2相域圧延の可能性が高くなり、材質の不均一性をもたらす恐れがある。一方、950℃を超えると、高温圧延によって異常な粗大粒が形成され、材質不均一による熱延冷却時にコイルの歪み現象が発生する恐れがある。
【0072】
[関係式4]
Ar3=910−310*C−80*Mn−20*Cu−15*Cr−55*Ni−80*Mo
(ここで、Ar3は理論式温度を示す。)
【0073】
また、本発明では、上記仕上げ熱間圧延された熱延板を450〜700℃で巻取する。巻取温度が450℃未満であると、過多なマルテンサイト又はベイナイトが生成し、熱延鋼板の強度が過多に上昇するようになり、後続する冷間圧延時に負荷による形状不良などの問題が発生する恐れがある。一方、巻取温度が700℃を超えると、鋼中Mn、Bなどの溶融亜鉛めっきの濡れ性を低下させる元素による表面濃化が激しくなるという問題がある。したがって、それを考慮して、巻取温度を450〜700℃に制御することが好ましい。これに続き、上記巻取された熱延板は通常の条件で酸洗処理されることができる。
【0074】
次に、本発明では、上記巻取された熱延鋼板を40〜80%の圧下率で冷間圧延を行う。上記冷間圧延時に40〜80%の圧下率で行うことが好ましいが、これは、冷間圧下率が40%未満であると、目標とする厚さを確保できなくなるだけでなく、鋼板の形状矯正が困難になる一方で、80%を超えると、鋼板のエッジ(edge)部でクラックが発生する可能性が高くなり、冷間圧延の負荷をもたらすという問題があるためである。
【0075】
続いて、本発明では、760℃〜850℃の温度範囲で連続焼鈍工程を行う。焼鈍温度は、基本的に2相域焼鈍であり、2相域焼鈍時にフェライトとオーステナイト分率に応じて最終的に形成されるマルテンサイト含量によって異なる。焼鈍温度が低いと、オーステナイト含量は低くなるが、オーステナイト内のCの濃化度は高くなるため、最終的に強度の高いマルテンサイト相が形成され、焼付時にの焼付硬化特性に優れたものとなる。また、焼鈍温度が過度に高いと、現場製造時に板の歪みなどの問題が発生し、相対的に粗大なマルテンサイト相が形成されるため、本発明で要求される耐時効性に優れた焼付硬化鋼を製造できなくなる。上記焼鈍温度が760℃未満であると、非常に低い温度によって引張強度が却って高くなり、延伸率が低下するだけでなく、却って部品加工時に加工クラックの発生可能性が高くなる恐れがある。一方、上記温度が850℃を超えると、高温焼鈍によって板形状が不良となり、焼付硬化特性があまり得られない。したがって、本発明では、上記連続焼鈍温度の範囲を760℃〜850℃に制限することが好ましく、より好ましくは770℃〜810℃の範囲に制限する。
【0076】
本温度区間は、全て2相域(フェライト+オーステナイト)の温度区間であるが、できるだけフェライト領域が多く含まれた温度で行うことが好ましい。2相域焼鈍温度で初期フェライトが多いほど、焼鈍後の結晶粒の成長がより容易になり、延性に優れたものとなる。また、オーステナイト内のC濃化度が増加してマルテンサイト開始温度(Ms)を下げることで、後続するめっき浴での溶融亜鉛めっき処理後の最終冷却時にマルテンサイトの形成を可能にし、そのため、微細かつ均一なマルテンサイトが結晶粒に多く分布するようになり、延性及び低降伏比に優れた鋼板を製造できるようになる。
【0077】
また、本発明では、上記連続焼鈍された鋼板を630〜670℃の温度範囲まで3℃/s以上の平均冷却速度で1次冷却する。上記1次冷却温度区間である630〜670℃は、通常、フェライト又はパーライト(以下、「P」相という。)が形成される温度区間である。但し、この温度範囲で冷却速度を制御することで、できるだけパーライトが形成されないようにし、冷却中にオーステナイト相へCを最大限に拡散させて、オーステナイト相内にC濃化度を増加させることが好ましいためである。
【0078】
即ち、1次冷却中にマルテンサイト(M)相の形成前にパーライト(P)相が形成されると、降伏強度が上昇し、延伸率が低下するため、できるだけパーライト相の形成を抑制する必要がある。そのため、冷却速度が速いほど有利になるが、現場製造特性上、無条件に冷却速度を上げることができないため、その上限は制限されないが、その冷却速度が3℃/s未満であると、パーライト相が形成され、降伏比が高くなるため、本発明に適さない。
【0079】
本発明では、上記1次冷却速度をできるだけ速くすることで、めっき浴の浸漬前にマルテンサイト相への変態を最小化し、最終2次冷却時に微細なマルテンサイト相を形成させることが好ましい。1次冷却中に微量ながら炭素(C)がオーステナイト系へ拡散することができる十分な時間を与えることができるが、これは、2相域での炭素は、常に流動的に、通常、炭素(C)濃化度の高いオーステナイト系へ拡散移動するが、温度が高いほど、また、時間が多いほど、その拡散速度は増加するようになる。よって、上記1次冷却温度が重要となるが、630℃未満であると、非常に低い温度によって炭素(C)の拡散活動度が低くなり、オーステナイト系へ十分に拡散できず、フェライト内の炭素(C)濃度が高くなるため、延性の確保に不利となる。また、670℃を超えると、上記言及した特性の側面では有利であるが、後続する冷却工程で急冷が必要になるという問題が発生し得る。
【0080】
その後、本発明では、上記1次冷却された冷延鋼板を亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきを行い、次いで、Ms−200℃以下の温度まで4℃/s以上の平均2次冷却速度で冷却するため、耐時効特性及び焼付硬化性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造できるようになる。一方、このとき、Msは、下記[関係式5]によって定義されることができる。
【0081】
[関係式5]
Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo
(ここで、M
sはマルテンサイト生成の理論式温度を示す。)
【0082】
本研究によると、通常の溶融亜鉛めっき浴槽の温度範囲である440〜480℃を通過する前にマルテンサイト相が生成されると、最終的にマルテンサイト相が粗大化する傾向にあり、低降伏比が得られない。したがって、本発明では、Ms−200℃以下の条件で行うことが好ましいが、これは、それ以上の温度ではマルテンサイト(M)相の強度が低いため、優れた焼付硬化性を示すことができないためである。このとき、冷却速度も現場製造条件が可能な4℃/s以上で行うことが好ましい。もちろん、上記2次冷却速度も速いほど有利であるが、現場製造条件を鑑みて、少なくとも4℃/s以上の冷却速度を維持することで形成されたマルテンサイト(M)相の強度をできるだけ高めることが好ましい。
【0083】
本発明において、上記溶融亜鉛めっき処理は、通常の温度範囲である440〜480℃の温度域でのめっき浴(Pot)に浸漬することによって行われることができる。本発明では、このような具体的な溶融亜鉛めっき処理条件に制限されるものではない。
【0084】
一方、本発明では、溶融亜鉛めっき処理を行った後、合金化のために460〜610℃の温度域で20秒間以上合金化処理を行うことによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。次いで、Ms−200℃以下の温度まで4℃/s以上の平均冷却速度で冷却することで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。本発明において合金化温度の範囲は特に限定されないが、通常の合金化処理が容易な温度範囲を設定した。但し、上記合金化処理温度が460℃未満であると、現実的に合金化できず、610℃を超えると、合金化度が過度に高くなり、加工時に表面欠陥を引き起こす恐れがある。また、その維持時間も、最小限の合金化度のために20秒間以上とすることが好ましく、特に、合金化度及び生産性を考慮してその上限は限定されない。その他の条件は、上述した溶融亜鉛めっき鋼板の場合と同様である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
【0086】
下記表1に示された鋼の組成成分を鋼スラブを設けた後、下記表2のような製造工程を用いて溶融亜鉛めっき鋼板又は合金化処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。下記表1において発明鋼1、2、4、6、8は溶融亜鉛処理(GI)の鋼板製造に、発明鋼 3、5は合金化溶融亜鉛鋼板(GA)の製造に使用された。また、比較鋼11、12がGA鋼板に、残りの比較鋼がGI鋼板の製造に使用された。
【0087】
上記のように製造された溶融亜鉛めっき鋼板に対して物性などを評価し、下記表3に示した。このとき、本発明では、調質圧延を行っていない状態で降伏比が0.55以下、焼付硬化性が45MPa以上であり、さらに、基本的に100℃で1時間維持した後、引張試験時に降伏点延伸(YP−El)現象が現れないため、耐時効性が保証されることを目標とする。
【0088】
このとき、それぞれの試片に対する引張試験は、JIS規格を用いてC方向に施し、微細組織で柱状であるフェライト相を含んで第2相であるマルテンサイト相の分率は鋼板の板厚1/4t地点で基地組織を分析し、その結果を利用した。具体的には、マルテンサイトは、先ず、光学顕微鏡を用いてレペラ(Lepelar)腐食により面積率を計算し、これらを再びSEM(3000倍)を用いて観察した後、ポイントカウント(Count Point)作業によって正確に測定して補正した。
【0089】
一方、素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)とは、薄膜試片を製造して、TEM及びポイント(Point)方式を用いて各相のMn濃度比(wt%)を10ポイント以上測定し、その平均を代表値として示した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
上記表1〜3に示したように、本発明の鋼の組成成分及び製造工程の条件をいずれも満たす発明例1〜8では、調質圧延前の降伏強度が210MPa級以下であり、降伏比が0.55以下を示す。また、基本的に「BH」性が45MPa以上であり、100℃×1時間の人工時効後の引張試験時にYP−Elが全く現れておらず、時効性の側面でも優れていることが分かる。
【0094】
上記表3には、鋼板の微細組織が、面積比で95%以上のフェライトと残部第2相とからなり、面積%でフェライト結晶粒界に存在するマルテンサイトの占有比率を90%以上含んでなり、さらに、素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差が0.3wt%以上となる条件において、基本的に本発明で目的とする材質の物性を確保できることが分かる。
【0095】
図1は、本発明の一実施例による素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差を示すグラフであって、TEMを用いてポイント(Point)方式による各相のMn濃度比(wt%)を10ポイント以上測定して、その平均を代表値として示したものである。
【0096】
図1に示したように、素地鋼板の1/4t地点においてマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差が0.3wt%以上であると、本発明で要求される耐時効性に優れた焼付硬化型鋼板を製造できることが分かる。即ち、マルテンサイト相の硬度が高いほど本発明に好適であるが、マルテンサイト相自体の強度を高くするためには、マルテンサイト相に含まれたMn含量を周辺のフェライト相に比べて高くする必要がある。マルテンサイト相の強度が高くなるほど、相対的に周辺のフェライト相の軟質化が可能となり、降伏強度及び降伏比が低い鋼板を製造することができ、さらに、耐時効特性に優れた焼付硬化鋼も製造できるようになる。これは、マルテンサイト相の強度が高いほど、マルテンサイト相内の固溶Cの濃化度(密集度)が高くなり、適正水準の焼付温度でマルテンサイト相内の炭素(C)がフェライト相へ容易に拡散移動し、焼付硬化性を向上させるためである。マルテンサイト相と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相とのMn濃度の差(wt%)が高いほど有利となる。そのMn濃度の差が0.3wt%未満であると、焼付時に炭素(C)が容易にフェライト相に拡散移動せず、焼付硬化性が劣位となるため、その濃度差を0.3wt%以上に管理することが好ましい。
【0097】
一方、
図2は、本発明の一実施例による素地鋼板の1/4t地点におけるフェライト相周辺にマルテンサイト相が形成されているTEM組織写真を示すグラフであって、マルテンサイト相周辺に多くの転位が形成されて基地組織内に存在する固溶Cとの密接な関係によって「BH」性が現れていることを予測することができる。
【0098】
これに対して、鋼の組成成分は、本発明の範囲内であるが、その製造工程の条件が本発明の範囲から外れた比較例1〜6では、平均直径1μm以下の微細マルテンサイトの面積比が高いか、又はフェライト相の面積比が基本的に低く、よって、本発明で目的とする優れた「BH」性を確保することができず、又は、一部において時効の問題が発生した。
【0099】
例えば、比較例6の場合、焼鈍温度が本発明の範囲から外れて高温焼鈍を行うようになると、1/4t地点におけるマルテンサイト相での平均Mn濃度wt%(a)と上記マルテンサイト相周辺1μm以内のフェライト相での平均Mn濃度wt%(b)との差が低く、マルテンサイト相の強度が低いため、要求される「BH」性を確保することができなかった。
【0100】
また、鋼の組成成分自体が本発明の範囲から外れた比較例7〜11では、基本的に平均直径1μm以下の微細マルテンサイトの面積比が高く、成分自体の特性も満たしていないため、本発明で要求される特性を確保することができなかった。
【0101】
さらに、比較例7〜10は、C含量を高めて複合組織鋼を製造するコンセプトであるが、基本的にC含量が高く、降伏強度が上昇するため、本発明で要求される調質圧延前に210MPa以下の降伏強度を確保できないという問題点があった。
【0102】
一方、比較例9〜11では、[関係式1]のMneqを満たすことができず、本発明で要求される物性を確保することができなかった。また、比較例7〜8では、[関係式1]とMn(wt%)/(1.15×Cr(wt%))の条件は満たしているが、その場合も、鋼中のC含量が本発明範囲から外れたものであるため、本発明で要求される物性を確保することができなかった。
【0103】
以上、実施例を参照して説明したが、当該技術分野の熟練した当業者は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から外れない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更できることが理解できるであろう。