(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619097
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】スペキシン基盤のガラニン2型受容体のアゴニスト及びその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20191202BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20191202BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20191202BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20191202BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
A61K38/10ZNA
A61K9/08
A61K9/19
A61P25/00
C07K7/08
【請求項の数】5
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-523789(P2018-523789)
(86)(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公表番号】特表2018-537444(P2018-537444A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】KR2016013950
(87)【国際公開番号】WO2017095132
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2018年5月14日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0168555
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518156428
【氏名又は名称】ニューラクル サイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ジョンイク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドンフン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ギフン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ユナ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ソンシク
(72)【発明者】
【氏名】レイエス−アルカラス,アルファクシャド
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−501632(JP,A)
【文献】
特表2013−539975(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0345141(US,A1)
【文献】
J Neurochem,2005年,Vol.95, No.3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1で表示されるペプチド系ガラニン2型受容体(GALR2)のアゴニストであって、
[化学式1]
[dN]1[W]2[T]3[P]4[N]5[A]6[A]7[L]8[Y]9[L]10[F]11[G]12[P]13[Q]14−NH2
前記化学式1において、アミノ酸は一つ又は複数個に随意に置換され、
前記化学式1において、
[dN]1は、D型アスパラギンを示し、ピログルタミン酸(pQ)、シトルリン(Cit)、L型アスパラギン(N)、及びグリシン(G)のうちいずれか一つに随意に(opptionally)置換され、又は、ポリエチレングリコール(PEG)、アセチル基(Ac)、及びFmocのうちいずれか一つが結合されたアスパラギンに随意に置換され、
[W]2は、トリプトファン(W)を示し、2−ナフチル(2−Naphtyl)基に随意に置換され、
[T]3は、トレオニン(T)を示し、アラニン(A)又はリシン(K)に随意に置換され、
[P]4は、プロリン(P)を示し、ロイシン(L)、グルタメート(E)又はアルギニン(R)に随意に置換され、
[N]5は、アスパラギン(N)を示し、
[A]6は、アラニン(A)を示し、セリン(S)に随意に置換され、
[A]7は、アラニン(A)を示し、
[L]8は、ロイシン(L)を示し、グリシン(G)又はグルタミン(Q)に随意に置換され、
[Y]9は、チロシン(Y)を示し、
[L]10は、ロイシン(L)を示し、
[F]11は、フェニルアラニン(F)を示し、
[G]12は、グリシン(G)を示し、
[P]13は、プロリン(P)を示し、アルギニン(R)、アラニン(A)又はD型アラニン(dA)に随意に置換され、
[Q]14は、グルタミン(Q)、又はプロリン(P)を示し、ヒスチジン(H)に随意に置換され、
2、4、6、12、14番目のアミノ酸は対応するD型アミノ酸に随意に置換されるが、3、9、10番目のアミノ酸は対応するD型アミノ酸に置換されないアゴニスト。
【請求項2】
アゴニストは、下記の化学式2から化学式4のうちいずれか一つで表示されるものである、請求項1に記載のペプチド系ガラニン2型受容体(GALR2)のアゴニスト。
[化学式2]
dNWTPNAALYLFGPQ−NH2
[化学式3]
PEG−NWTdANAALYLFGPdQ−NH2
[化学式4]
Fmoc−NWTdANAALYLFGPdQ−NH2
【請求項3】
ペプチド系ガラニン2型受容体(GALR2)のアゴニストは、ガラニン1型受容体(GALR1)及びガラニン3型受容体(GALR3)は活性化せず、ガラニン2型受容体(GALR2)を特異的に活性化するものである、請求項1に記載のペプチド系ガラニン2型受容体(GALR2)のアゴニスト。
【請求項4】
請求項1によるペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストを含むガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項5】
組成物は、注射用凍結乾燥粉末又は注射液の剤形に製造される、請求項4に記載のガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペキシン(Spexin)ペプチドを基盤としたガラニン2型(GALR2)受容体の特異的なアゴニスト、及び前記アゴニストのGALR2によって誘導される疾患の予防又は治療的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
C12orf39(chromosome 12 open reading frame 39)遺伝子によってコードされる新規の神経ペプチドスペキシン(Spexin/NQ/NPQ/SPX)は、最初、人間の全遺伝情報を有するバイオインフォマティクスツール(bioinfomatics tolls)を用いて発見された。成熟したスペキシンペプチドは、プロタンパク質転換酵素(proprotein convertase)によって二塩基性アミノ酸(dibasic amino acid)が切断されて生成される14個のアミノ酸配列を有しており、人間のみならず、典型的な脊椎動物内で非常に良好に保存されている[Mirabeau et al.,Genome Res,2007,17:320−327]。スペキシンのmRNA及びタンパク質は、人間、マウス、金魚などの多種の多様な脳領域及び末梢器官で発現しており、これは、スペキシンが脊椎動物において多様な生理的機能を担当していることを示唆する。近来、摂食行動及び物質代謝過程に関与するスペキシンの機能が明らかになった。肥満な人の脂肪においてはスペキシンのmRNAが著しく減少しており、食餌基盤の肥満誘導マウスにおけるスペキシンの注入は体重減少を誘導し、金魚におけるスペキシンの注入は食欲を抑制することが確認された。スペキシンは、腸の筋肉の収縮を促進させることによって排便活動を誘導し、ヒトの内分泌組織及び上皮組織で発現し、第2型糖尿病患者におけるスペキシンの数値の減少は、糖代謝及び脂肪代謝に関連しているという研究が近年発表された。ま
た、スペキシンは、生殖(reproduction)、心血管(cardiovascular)、腎機能(renal function)及びノシセプチン(nociceptin)にも関与することが知られている[Waleski et al.,Obesity 2014,22:1643−1652;Wong et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab,2013,305:E348−366;Liu et al.,Mol Cel Endocrinol,2013,374:65−72;Toll et al.,FASEB J,2012,26:947−954;Lin et al.,Sci Rep,2015,5:12095;Gu et al.,Peptides,2015,71:232−239]。しかし、スペキシンが結合して作用する受容体に対する情報不足により、このような機能調節メカニズムに対する研究が良好に進められなかった。近来、本発明者等は、スペキシンがガラニン受容体(galanin receptor、以下、GALRという)1、2、3型の全てを活性化させるガラニン(galanin)とは異なり、GALR1型を活性化させることなく、GALR2、3型に対する内在性リガンドとしてのスペキシンの機能を明らかにした。実際には、ガラニンはGALR3型に対して非常に弱い活性度を示すので、ガラニンとスペキシンはGALR2型と共通して作用するものであると言える[Kim et al.,Endocrinology,2014,155:1864−1873]。
【0003】
スペキシンとガラニンはおそらく進化的には遺伝子の複製による同一の祖先遺伝子に由来し、成熟したアミノ酸内にTrp
2、Thr
3、Tyr
9、Gly
12の保存された序列を共有している[Kim et al.,Endocrinology,2014,155:1864−1873]。ガラニンは、スペキシンと同様に、中枢神経系及び末梢組織で広範囲に発現している。しかし、食欲及び生殖と関連するスペキシンとガラニンは相反する機能を有するものと考えられる。例えば、肥満の女性においてはガラニンの数値が増加しており、ガラニンを注入し、ガラニンを過剰発現する遺伝子組み換えマウスにおいては摂食行動が増加することが観察された。結果的に、ガラニンは食欲誘発性(orexigenic)ペプチドであるが、スペキシンは無食欲誘発性(anorexic)ペプチドであると言える。また、ガラニン類似ペプチド(galanin−like peptide)の注入は黄体形成ホルモンの分泌を促進させるという点で、スペキシンの金魚への注入が黄体形成ホルモンの分泌を阻害させるという結果と相反する[Barnowska et al.,Metabolism,1997,46:1384−1389;Rada et al.,Alcohol,2004,33:91−97;Castellano et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab,2006,291:E1281−1289;Liu et al.,Mol Cel Endocrinol,2013,374:65−72]。このような相反する作用は、GALR1、3型が抑制性Gi信号伝達体系を誘導する一方、GALR2型は興奮性Gq信号伝達体系を誘導することから起こるGALR亜型に特異的な信号伝達体系によるものと考えられる[Webling et al.,Front Endocrinol,2012,3:146]。
【0004】
GALR2型による表現型研究は、受容体の遺伝子ノックアウト(knock−out、KO)マウス及び受容体に選択的に作用するアゴニスト(agonist)又はアンタゴニスト(antagonist)の開発を試みることによって進められた。GALR2型KOマウスは、感覚機能(sensory function)、摂食行動(feeding behavior)、生殖(reproduction)、情緒(mood)、学習及び記憶(learning and memory)などにおいて特異的な異常がないものと報告されたが、その後、GALR2型KOマウスにおいては不安(anxiety)、憂鬱行動(depression−related behavior)が観察された。このような行動変化は、GALR1型KOと類似しているが、GALR3型による効果と反対のものであって、GALR3型特異的拮抗剤の投与による不安及び憂鬱行動の減少が報告されている[Gottsch et al.,Mol Cell Biol,2005,25:4804−4811;Bailey et al.,Pharmacol Biochem Behav,2007,86:8−20;Lu et al.,Neuropeptides,2008,42:387−397;Holmes et al.,Neuropsychopharmacology,2003,28:1031−1044;Swanson et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2005,102:17489−17494]。また、GALR2型欠損は、後根神経節(dorsal root ganglion)発達の損失をもたらすという点と、GALR2型アゴニストの脊椎内への注入が異痛(allodynia)を誘発するという点で痛みを調節する役割を奏すると推測される。GALR2型が中間辺縁系補償回路に関与することは、背側線条体(dorsal striatum)及び側坐核(nucleus accumbens)においてガラニンが興奮性後シナプスの振幅を減少させ、GALR2型KOマウスではこのような効果がないとから知られている。中心扁桃(central amygdala)において、ガラニンはGALR2型を通じてGABA性抑制後シナプスの電位の振幅を減少させるものと報告されている。また、GALR2型の活性化は、セリン/スレオニンキナーゼ(serine/threonine kinase)であるAktなどのリン酸化を通じて海馬を神経細胞の損傷から保護することから知られている[Shi et al.,Eur J Neurosci,2006,23:627−636;Liu et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2001,98:9960−9964;Einstein et al.,Eur J Neurosci 2013,37:1541−1549;Bajo et al.,Addict Biol,2012,17:694−705;Elliotte−Hunt et al.,J Neurochem,2007,100:780−789]。このようなGALR2型による現象は、GALR1型又は3型と共に、相反して又は独立に作用すると考えられるが、学習及び記憶、痛み、不安、情緒調節と関連するGALR2型の役割を示唆している。
【0005】
従来から、GALR亜型の特異的なアゴニストの開発が試みられている。ガラニンペプチドの2番目〜11番目(2位〜11位)のアミノ酸序列(配列)はGALR2型の選択的アゴニストとして最初に開発されたが、その後、GALR3型に対しても類似する活性度(親和性)を示すことが明からになった。その後も、ガラニンペプチドのN−末端、C−末端を変形(修飾)したGALR2型選択的アゴニスト開発の試みが報告されている。これらのうち、M1145及びM1153は、GALR1型及び3型に比べて2型に対して50倍〜100倍ほど良好に反応するが、濃度が高くなると、1型及び3型に対して相当な親和度を示すことが知られている[Liu et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2001,98:9960−9964;Lu et al.,Neuropeptides,2005,39:165−167;Webling et al.,Front Endocrinol,2012,3:146;Runesson et al.,Neuropeptides,2009,43:187−192;Saar et al.,Neurochrm Int,2011,6:714−720]。
【0006】
このように、過去の先行研究で多種のガラニン受容体亜型に特異的なアゴニストを開発する努力がされたにもかかわらず、高濃度のアゴニスト処理による特異性に問題が生じることが判明したという点で、受容体亜型に特異的なアゴニストの開発に伴うGALR亜型による生理学的機能の研究が必要となってきた。
【0007】
そこで、本発明者等は、ガラニン及びスペキシンを構成しているアミノ酸序列の分析及び置換を通じてGALR2型を対象としてスペキシン−受容体の反応性を確認し、安定性を高めるように改善されたアゴニストを開発し、これを動物に注入することによって生理学的機能を確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガラニン2型受容体に対する選択性を高め、血液内での安定性を向上させたペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、前記ペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストをガラニン2型受容体によって誘導された疾患の予防又は治療に使用する薬剤学的用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、下記の化学式1で表示されるペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストを提供する。
【0011】
[化学式1]
[dN]
1[W]
2[T]
3[P]
4[N]
5[A]
6[A]
7[L]
8[Y]
9[L]
10[F]
11[G]
12[P]
13[Q]
14−NH
2
【0012】
前記化学式1において、アミノ酸は一つ又は複数個に随意に置換され、
前記化学式1において、
[dN]1は、D型アスパラギンを示し、ピログルタミン酸(pQ)、シトルリン(Cit)、L型アスパラギン(N)、及びグリシン(G)のうちいずれか一つに随意に(opptionally)置換され、又は、ポリエチレングリコール(PEG)、アセチル基(Ac)、及びFmocのうちいずれか一つが結合されたアスパラギンに随意に置換され、
[W]2は、トリプトファン(W)を示し、2−ナフチル(2−Naphtyl)基に随意に置換され、
[T]3は、トレオニン(T)を示し、アラニン(A)又はリシン(K)に随意に置換され、
[P]4は、プロリン(P)を示し、ロイシン(L)、グルタメート(E)又はアルギニン(R)に随意に置換され、
[N]5は、アスパラギン(N)を示し、
[A]6は、アラニン(A)を示し、セリン(S)に随意に置換され、
[A]7は、アラニン(A)を示し、
[L]8は、ロイシン(L)を示し、グリシン(G)又はグルタミン(Q)に随意に置換され、
[Y]9は、チロシン(Y)を示し、
[L]10は、ロイシン(L)を示し、
[F]11は、フェニルアラニン(F)を示し、
[G]12は、グリシン(G)を示し、
[P]13は、プロリン(P)を示し、アルギニン(R)、A(アラニン)又はD型アラニン(dA)に随意に置換され、
[Q]14は、グルタミン(Q)を示し、プロリン(P)、又はヒスチジン(H)に随意に置換され、
2、4、6、12、14番目のアミノ酸は対応するD型アミノ酸に随意に置換されるが、3、9、10番目のアミノ酸は対応するD型アミノ酸に置換されない。
【0013】
好ましくは、前記アゴニストは下記の化学式2〜4のうちいずれか一つで表示され得る。
【0014】
[化学式2]
dNWTPNAALYLFGPQ−NH
2
【0015】
[化学式3]
PEG−NWTdANAALYLFGPdQ−NH
2
【0016】
[化学式4]
Fmoc−NWTdANAALYLFGPdQ−NH
2
【0017】
また、本発明は、前記ペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストを含むガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ガラニン2型受容体に対する特異性及び安定性を改善したペプチド系アゴニストを提供する。前記ペプチド系アゴニストは、ガラニン2型受容体が関与する体内の生理的機能である摂食、不安、感情、中毒などの調節に関与して食欲を抑制し、不安障害を回復し、快楽中毒性を減少できるという効果を有するので、ガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】スペキシンとガラニンのアミノ酸序列の比較、及び前記序列内のアミノ酸の突然変異の位置及び変形を示した図である。
【
図2A】本発明に使用されたアミノ酸の突然変異、置換及び変形が行われたスペキシン基盤の突然変異ペプチドのリストである。
【
図2B】本発明に使用されたアミノ酸の突然変異、置換及び変形が行われたスペキシン基盤の突然変異ペプチドのリストである。
【
図3A】本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのうち単一突然変異があるペプチドのGALR2及びGALR3に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図3B】本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのうち単一突然変異(N5)、二重突然変異(A7F11)、三重突然変異(N5A7F11)、四重突然変異(N5A7F11P13)ペプチドのGALR1に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図3C】本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのうち単一突然変異(N5)、二重突然変異(A7F11)、三重突然変異(N5A7F11)、四重突然変異(N5A7F11P13)ペプチドのGALR2に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図3D】本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのうち単一突然変異(N5)、二重突然変異(A7F11)、三重突然変異(N5A7F11)、四重突然変異(N5A7F11P13)ペプチドのGALR3に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図4】本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのGALR2及びGALR3に対する活性度を測定した結果を数値化した値を示した図である。
【
図5A】D−型アミノ酸への置換が行われた本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのGALR2及びGALR3に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図5B】1番目のアスパラギン[Asn
1]の置換/変形が行われた本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのGALR2及びGALR3に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図6】D−型アミノ酸への置換及び1番目のアスパラギン[Asn
1]の置換/変形が行われた本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドのGALR2及びGALR3に対する活性度を測定した結果を数値化した値を示した図である。
【
図7A】100%FBSにおける本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドの安定性を検証した結果を示した図である。
【
図7B】100%FBSにおける本発明のスペキシン基盤の四重突然変異ペプチドであるQu類似体の安定性を検証した結果を示した図である。
【
図7C】ヒト血清における本発明のスペキシン基盤の四重突然変異ペプチドであるQu類似体の安定性を検証した結果を示した図である。
【
図7D】GALR2型を発現するHEK293−G
qi安定細胞株において、本発明のスペキシン基盤の四重突然変異ペプチド類似体のガラニン受容体に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図7E】GALR3型を発現するHEK293−G
qi安定細胞株において、本発明のスペキシン基盤の四重突然変異ペプチド類似体のガラニン受容体に対する活性度を測定した結果を示した図である。
【
図8】100%FBS及びヒト血清における本発明のスペキシン基盤の突然変異ペプチドの安定性を検証した結果を数値化した値を示した図である。
【
図9A】GALR2アゴニスト及びスペキシンペプチドの摂食行動調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図9B】GALR2アゴニスト及びスペキシンペプチドの体重変化の効果を検証した結果を示した図である。
【
図9C】GALR2アゴニストの濃度による摂食行動調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図9D】GALR2アゴニストの濃度による体重変化の効果を検証した結果を示した図である。
【
図9E】GALR2アゴニスト及びGALR2アンタゴニストの処理による摂食行動調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図9F】GALR2アゴニスト及びGALR2アンタゴニストの処理による体重変化の効果を検証した結果を示した図である。
【
図10】本発明のGALR2アゴニストの濃度別処理による弓状核内の神経細胞の活性度の増加を検証した結果を示した図である。
【
図11A】GALR2アゴニストの処理による細胞内の信号伝逹調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図11B】GALR2アゴニストの処理によるPOMC遺伝子発現増加の効果を検証した結果を示した図である。
【
図11C】GALR2アゴニストの処理による−MSH分泌調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図11D】インスリン抵抗性を有する状態でのGALR2アゴニストの処理による−MSHホルモン分泌調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図11E】GALR2アゴニストの濃度別処理による−MSHホルモン分泌調節の効果を検証した結果を示した図である。
【
図12】動物モデルにおいてGALR2アゴニストの不安障害に対する治療効果を検証するために、EPM検査法を用いて十字迷路で開放部分に存する時間(time in open arm)(上部図面)、回数(number of open arm entry)(中間図面)及び全体の動き(number of center crossing)(下部図面)を測定した結果を示した図である。
【
図13A】動物モデルにおいてGALR2アゴニストの注入による活動性及び不安に対する治療効果を検証するために、OFT検査法を用いて実験動物が10分間(0分〜5分)中央部に入った比率(%time in center)、全体の動きのうち中央で動いた距離の比率(%distance in center)及び全体の動き(total distance)を測定した結果を示した図である。
【
図13B】動物モデルにおいてGALR2アゴニストの注入による活動性及び不安に対する治療効果を検証するために、OFT検査法を用いて実験動物が10分間(5分〜10分)中央部に入った比率、全体の動きのうち中央で動いた距離の比率及び全体の動きを測定した結果を示した図である。
【
図14】GALR2アゴニストの濃度別処理による扁桃体内の神経細胞の活性度増加を検証した結果を示した図である。
【
図15A】GALR2アゴニスト処理による扁桃体以外の脳領域における神経細胞の活性を検証した結果を示した図である。
【
図15B】GALR2アゴニスト処理による扁桃体以外の脳領域における神経細胞の活性を検証した結果を示した図である。
【
図15C】GALR2アゴニスト処理による扁桃体以外の脳領域における神経細胞の活性を検証した結果を示した図である。
【
図15D】GALR2アゴニスト処理による扁桃体以外の脳領域における神経細胞の活性を検証した結果を示した図である。
【
図16】動物モデルにおいてGALR2アゴニストの中毒性減少効果を検証するために、SPT検査法を用いて2日間の液体中の砂糖水消費の比率(上部図面)、全体の液体消費量(中間図面)及び1%砂糖水消費量(下部図面)を測定した結果を示した図である。
【
図17】鼻腔吸収伝達方式を通じてマウスモデルの脳組織に伝達されたFITC−スペキシンを免疫組織化学法で測定した結果を示した図である。
【
図18】GALR2アゴニストの効果的な伝達方式としての鼻腔吸収伝達方式による扁桃体及び弓状核内の神経細胞の活性度増加を検証した結果を示した図である。
【0021】
以下、本発明の構成を具体的に説明する。
【0022】
本発明は、下記の化学式1で表示されるペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストに関するものである。
【0023】
[化学式1]
[dN]
1[W]
2[T]
3[P]
4[N]
5[A]
6[A]
7[L]
8[Y]
9[L]
10[F]
11[G]
12[P]
13[Q]
14−NH
2
【0024】
前記化学式1において、
アミノ酸は一つ又は複数個に随意に置換され、[A]7はA(アラニン)、[F]11はF(フェニルアラニン)である。そして、好ましくは、[N]5はN(アスパラギン)ある。さらに、好ましくは、[P]13はP(プロリン)である、
そして、[dN]
1は、D型アスパリギンを示し、ピログルタミン酸(pQ)、シトルリン(Cit)、L型アスパラギン(N)、及びグリシン(G)のうちいずれか一つに置換され、又は、ポリエチレングリコール(PEG)、アセチル基(Ac)、及びFmocのうちいずれか一つが結合されたアスパラギンに随意に置換され、
[W]
2は、D型トリプトファン(dW)又は2−ナフチル(2−Naphtyl)基に随意に置換され、
[T]
3は、A(アラニン)、又はK(リシン)に随意に置換され、
[P]
4は、D型アラニン(dA)、又はD型バリン(dV)に随意に置換され、
[N]
5はQ(グルタミン)に随意に置換され、
[A]
6はD型アラニン(dA)に随意に置換され、
[A]
7はM(メチオニン)に随意に置換され、
[F]
8は、リシン(K)、L(ロイシン)、又はY(タイロシン)に随意に置換され、
[P]
9は、D型アラニン(dA)、又はA(アラニン)に随意に置換され、
[Q]
10は、D型グルタミン(dQ)、又はH(ヒスチジン)に随意に置換さ
れ得る。
【0025】
好ましくは、前記アゴニストは下記の化学式2〜4のうちいずれか一つで表示され得る。
【0026】
[化学式1]
dNWTPNAALYLFGPQ−NH
2
【0027】
[化学式3]
PEG−NWTdANAALYLFGPdQ−NH
2
【0028】
[化学式4]
Fmoc−NWTdANAALYLFGPdQ−NH
2
【0029】
本発明のガラニン2型受容体のアゴニストは、ガラニン2型受容体(以下、「GALR2」という)にのみ選択的に作用しながら長く作用し得るペプチド系アゴニストであることを特徴とする。
【0030】
一具体例によると、脊椎動物の多様な種に存在するガラニンとスペキシンのアミノ酸序列(配列)を比較した結果、ほとんどが異なるアミノ酸序列を有するが、ガラニンとスペキシンはトリプトファン[Trp
2]、9番目のチロシン[Tyr
9]、10番目のロイシン[Leu
10]及び12番目のグリシン[Gly
12]を共通的に有することを確認した。スペキシンのアミノ酸序列とガラニンのアミノ酸序列とが同一である場合はD−型アミノ酸に置換し、スペキシン特異的にスペキシンのアミノ酸序列とガラニンのアミノ酸序列とが異なる場合は、該当のスペキシンのアミノ酸序列をガラニンのアミノ酸に置換するだけでなく、14個のスペキシンのアミノ酸序列のそれぞれ異なるアミノ酸又はD−型アミノ酸に置換することによって各突然変異ペプチドを調製した。突然変異ペプチドのガラニン受容体に対する活性変化を観察した。
【0031】
このとき、ガラニン受容体に対する活性変化を観察するためにHEK293−G
qi安定細胞株を使用した。前記HEK293−G
qi安定細胞株は、GqのC−末端をGiのアミノ酸3個に置換し、Giの信号をGq信号伝逹経路に転換したものであった。アルファ(a)、ベータ(b)、及びガンマ(g)の3つのサブユニットからなるヘテロ三量体(hetero trimer)であるGタンパク質は、アルファサブユニットが細胞内の信号伝逹に関与する。アルファユニットは、s型(Gas)、i型(Gai)またはq / 11型であってもよい。アルファサブユニットがs型である場合(Gas)は、細胞内酵素の一つであるアデニルシクラーゼ(adenyl cyclase)を活性化させることによってATPから代表的な二次メッセンジャーであるcAMPを生産し、PKA(protein kinase A)を活性化させる。アルファサブユニットがi型である場合(Gai)は、上述したアデニルシクラーゼの活性を抑制する信号を送り、アルファサブユニットがq/11型である場合は、細胞内のカルシウムの量を増加させたり、PKC(protein kinase C)を活性化させる。GALR亜型は、GALR1、3型が抑制性Gi信号伝達体系を誘導する一方、GALR2型は興奮性Gq信号伝達体系を誘導するという点で互いに異なるので、GqのC−末端をGiの3個のアミノ酸に置換し、Giの信号をGq信号伝逹経路に転換したHEK293−G
qi安定細胞株を使用しなければならない。
【0032】
前記突然変異ペプチドのガラニン受容体に対する活性変化を測定した結果、四重突然変異、すなわち、5番目のアミノ酸をアスパラギン[Asn
5]に、7番目のアミノ酸をアラニン[Ala
7]に、11番目のアミノ酸をフェニルアラニン[Phe
11]に、13番目のアラニンをプロリン[Pro
13]に置換(N5A7F11P13又はQu)した場合、スペキシン水準でGALR2型に対する活性度は残っているが、3型に対する活性度は完全に消えた(
図3A〜
図3D、
図4参照)。また、このようなガラニンアミノ酸序列のスペキシンへの導入はGALR1型に対する活性度を誘導しないという点で、当該アミノ酸はGALR2型を活性化させるのに特異的であると言える。
【0033】
また、D型アミノ酸の置換は、受容体活性化に対する重要な序列を究明し、血清に存在する多様なペプチド分解酵素からペプチドを保護するために行われる。スペキシンの1番目のアミノ酸を除いて他の位置にあるアミノ酸のD型アミノ酸への置換は、ガラニン受容体の活性度を失う結果をもたらした。しかし、スペキシンの1番目のアスパラギン[Asn
1]のD−型置換[dN1]は、むしろGALR2型、3型の双方に対して活性度がやや増加することを示した(
図5A、
図5B及び
図6)。このような変化は、スペキシンの1番目のアミノ酸序列を置換することによって、血清内のペプチド分解酵素に対して安定的なアゴニストを開発することが可能であることを示している。
【0034】
そこで、スペキシンの1番目のアスパラギン[Asn
1]をピログルタミン酸(pyroglutamate、pQ)、シトルリン(citrulline、Cit)、Fmocなどに置換、又は、スペキシンのN−末端をポリエチレングリコール化(polyethylene glycolylated、PEG)又はアセチル化(acetylated)させた結果、D型置換と同様に、これらの変形はGALR2型、3型に対する活性度に影響を与えなかった(
図5A〜
図5B及び
図6)。これは、スペキシンの1番目のアミノ酸序列の置換がGALRの活性度には影響を与えないと共に、血清内のペプチド分解酵素に対する安定性を増加させることを強く示唆している。
【0035】
他の具体例において、本発明のペプチド系GALR2アゴニストの安定性を検証するために、血清内でGALR2に対する活性度を測定し、受容体に対する活性度は、GALR2を発現する細胞におけるIP3生成程度を通じて測定した。
【0036】
その結果、スペキシンの活性度は、12時間以内に80%以下と非常に急速に減少するが、突然変異ペプチドは、スペキシンに比べてIP3生成の減少は少なかった(
図7a〜
図7e及び
図8)。また、突然変異ペプチドは、スぺキシンに比べて血清内の分解速度が遅いので血清内の安定性が高いことが分かる。そこで、安定性が高く、GALR2に対する特異的な形態であるdN1−Qu四重突然変異と、PEG、Fmoc−QudA4dQ14六重突然変異(PEG、Fmoc−se)とを最終的に開発した(
図7A〜
図7E及び
図8)。
【0037】
GALR2アゴニストの効果を検証するために、動物モデルの第3脳室に導管を挿入した後、GALR2アゴニストを注入し、体重及び食餌量の変化を比較した。その結果、GALR2アゴニストを注入した動物モデルの場合、スペキシンを注入した動物モデルに比べて食餌摂取が有意に減少し、これは体重の減少を誘導した(
図9A〜
図9D)。GALR2アゴニストの濃度に依存した食餌摂取減少及び体重減少の効果を確認した。市販されているGALR2アンタゴニストM871によってGALR2アゴニストの効果がなくなることを観察した(
図9E、
図9F)。
【0038】
また、脳室にGALR2アゴニストを注入すると、c−fos抗体を通じて食欲を調節するものと知られている弓状核において神経細胞の活性が増加することが確認された(
図10)。
【0039】
脳内で摂食を調節することが知られているPOMC神経細胞をインビトロで培養し、GALR2アゴニストを処理したとき、細胞回路のpERKがリン酸化され、インスリンとは効果が異なることを観察した。これは、GALR2による効果がインスリンと異なる経路を通じて作用することを意味する(
図11A)。また、GALR2アゴニスト処理によるPOMC遺伝子の増加及びa−MSHホルモンの増加を確認できた(
図11B〜
図11E)。
【0040】
したがって、GALR2アゴニストは、摂食行動を抑制し、肥満を治療するための薬物として使用可能であることを示唆する。
【0041】
次に、不安障害克服に対するGALR2アゴニストの効果を検証するために、動物モデルの側脳室に導管を挿入し、EPM検査法を行って不安/強迫度を測定した結果、GALR2アゴニストの注入によって全体の動きには差がないが、不安度が減少することが示された(
図12)。これはOFT検査法でも確認された(
図13)。また、GALR2アゴニストの注入による不安調節脳領域である扁桃体で神経細胞の活性増加が観察され(
図14)、他の脳領域では神経細胞の活性は増加しなかった(
図15)。よって、GALR2アゴニストは、不安障害治療のための薬物として使用可能であることを示唆する。
【0042】
また、GALR2アゴニストの中毒性減少効果を検証するために、動物モデルの側脳室に導管を挿入し、SPT検査法を行って中毒性を測定した結果、砂糖水の消費量は著しく減少し、甘い成分に対する中毒性が減少したことが分かった(
図16)。また、砂糖水をエネルギー源として認識すると見たとき、砂糖水消費量の減少は食欲又は摂食行動の減少を意味すると見ることができ、中毒に対する治療剤及び摂食障害治療剤としてGALR2アゴニストを使用可能であることが分かる。
【0043】
また、ペプチド性薬物が体内に伝達されて脳に作用するためには、血液脳障壁(Blood brain barrier、BBB)を通過できる薬物伝達システムを導入しなければならない。鼻腔吸収(鼻吸入)方式を用いると、血液脳障壁を通過する小型分子の開発を経なくても薬物の脳内への伝達が可能である。
【0044】
そこで、スペキシンの脳内への伝達を検証するために、プロピレングリコールと組み合わせて蛍光スペキシンを動物モデルの鼻に注入して、鼻腔吸収伝達方式を実施した。その結果、食欲を調節するものと知られている弓状核(arcuate nucleus、ARC)領域と情緒調節に関与するものと知られている黒質−腹側被蓋領域(substantia nigra−ventral tegmental area、SN−VTA)において蛍光斑点(punctate)の形態で発見された(
図17)。また、鼻腔吸収方式は、脳室注射と同様に扁桃体及び弓状核の神経細胞の活性を誘導することが観察された(
図18)。これは、鼻腔吸収方式を用いた方法がペプチド性薬物の脳内への伝達に利用可能であり、スペキシンのアミノ酸序列の置換を通じて開発したGALR2アゴニストが摂食及び情緒関連疾患治療剤として開発可能であることを示唆する。
【0045】
本発明のGALR2アゴニストは、当業界における通常のペプチドの化学的合成方法(W.H.Freeman and Co.,Proteins;structures and molecular principles,1983)によって合成することができる。具体的には、液相ペプチド合成法(Solution Phase Peptide synthesis)、固相ペプチド合成法(solid−phase peptide syntheses)、断片凝縮法、及びF−moc又はT−BOC化学法で合成することが好ましいが、これらに限定されることはない。
【0046】
また、本発明のGALR2アゴニストは遺伝工学的方法によって製造され得る。まず、通常の方法によって前記ペプチドをコーディングするDNA序列を構築する。DNA序列は、適切なプライマーを用いてPCR増幅することによって構築することができる。他の方法として、当業界で公知となった標準方法によって、例えば、自動DNA合成機(例えば、LGC Biosearch又はApplied iosystems社の製品)を用いてDNA序列を合成することもできる。前記DNA序列は、これに作動可能に連結されてDNA序列の発現を調節する一つ又はそれ以上の発現調節序列(例:プロモーター、インヘンサーなど)を含むベクターに挿入する。 発現制御序列がDNA配列の発現を調節するわけではない。形成された組み換え発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換する。生成された形質転換体を、前記DNA序列を発現させるのに適切な培地及び条件下で培養し、培養物から前記DNA序列によってコーディングされた実質的に純粋なペプチドを当業界で公知となった方法(例えば、クロマトグラフィー)を用いて回収する。前記「実質的に純粋なペプチド」とは、本発明に係るペプチドが宿主に由来したいずれのタンパク質も実質的に含まないことを意味する。本発明のペプチド合成のための遺伝工学的方法は次の文献を参考することができる:Maniatis et al.,MolecularCloning;A laboratory Manual,Cold Spring Harbor laboratory,1982;Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,ColdSpring Harbor Press,N.Y.,Second(1998) and Third(2000) Edition;Gene Expression Technology,Method in Enzymology,Genetics and Molecular Biology,Method in Enzymology,Guthrie & Fink(eds.),Academic Press,San Diego,Calif,1991;及びHitzeman et al.,J.Biol.Chem.,255:12073−12080、1990。
【0047】
また、本発明は、前記ペプチド系ガラニン2型受容体のアゴニストを含むガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0048】
前記ガラニン2型受容体によって誘導される疾患は、注意欠陥過活動性障害(attention deficit hyperactivity disorder、ADHD)、双極性障害(bipolar disorder)、身体醜形障害(body dysmorphic disorder)、神経性過食症(bulmia nervosa)を始めとした摂食障害、脱力発作(cataplexy)、気分変調(dysthymia)、全般性不安障害(generalized anxiety disorder)、色情症(hypersexuality)、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome)、衝動調節障害(impulse−control disorder、MDD)、病的盗癖(kleptomania)、偏頭痛(magraine)、大鬱病性障害(major depressive disorder)、ナルコレプシー(narcolepsy)、強迫性障害(obsessive−compulsive disorder)、反抗挑戦性障害(oppositional−defiant disorder)、パニック障害(panic disorder)、外傷後ストレス障害(post−traumatic stress disorder、PTSD)、月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder、PMDD)、社会不安障害(social anxiety disorder)、慢性痛(chronic pain)、間欠性爆発性障害(intermittent explosive disorder)、病的賭博(pathological gambling)、性格異常(personality disorder)、放火狂(pyromania)、薬物乱用及び中毒(substance abuse and addiction)、抜毛癖(trichotillomania)及びアルツハイマー病のうちいずれか一つであり得るが、これに限定されない。好ましくは、本発明のGALR2アゴニストは、神経性大食症、摂食障害、肥満障害、全般性不安障害、外傷後ストレス障害、強迫性障害、パニック障害、社会不安障害、薬物乱用及び中毒、又はアルツハイマー病の予防又は治療に使用可能である。
【0049】
また、本発明の医薬組成物は、薬剤学的に許容可能な担体をさらに含み得る。
【0050】
前記薬剤学的に許容可能な担体は、医薬分野で通常的に使用される担体及びビヒクルを含む。具体的には、イオン交換樹脂、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例:ヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例:各種リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的なグリセリド混合物)、水、塩又は電解質(例:硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム及び亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系基質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアリレート、ワックス、ポリエチレングリコール又は羊毛脂などを含むが、これらに制限されることはない。
【0051】
また、本発明の組成物は、前記各成分以外に、滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、又は保存剤などをさらに含み得る。
【0052】
一様態として、本発明に係る組成物は、非経口投与のために水溶性溶液を用いて調製することができ、好ましくは、ハンクス液(Hank’s solution)、リンゲル液(Ringer’s solution)又は物理的に緩衝された塩水などの緩衝溶液を用いて調製することができる。水溶性注入(injection)懸濁液には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランのように懸濁液の粘度を増加可能な基質を添加することができる。
【0053】
本発明の組成物は、全身的又は局所的に投与することができ、このような投与のために公知の技術で適切な剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与時には、不活性希釈剤又は食用担体と混合したり、硬質又は軟質ゼラチンカプセルに密封したり、又は錠剤に打錠して投与することができる。経口投与用の場合、活性化合物は、賦形剤と混合されて摂取型錠剤、頬側錠剤、トローチ、カプセル、エリクシール、サスペンション、シロップ、ウエハーなどの形態で使用可能である。
【0054】
注射用又は非経口投与用などの各種剤形は、当該技術分野で公知となった技法又は通用する技法によって注射用凍結乾燥粉末又は注射液に調製することができる。GALR2アゴニストは、食塩水又は緩衝液に良好に溶解するので、冷凍乾燥状態で保管した後、有効量のGALR2アゴニストを、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などに適した形態で食塩水又は緩衝液に投与する直前に溶液に溶解させて投与することもできる。より好ましくは、前記組成物は、脳伝達のための鼻腔投与用剤形に調製可能である。
【0055】
本発明に係る医薬組成物の有効成分の有効量は、疾患の予防、抑制又は軽減効果を果たすのに必要な量を意味する。
【0056】
したがって、本発明に係る医薬組成物の投与量は、疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含有された有効成分及び他の成分の種類及び含量、剤形の種類、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、同時に使用される薬物を始めとした多様な因子によって調節可能である。これらに制限されることはないが、本発明の医薬組成物は、大人の場合、0.01mg/kg〜100mg/kg、好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgで1日1回〜3回投与され得る。
【0057】
また、本発明は、薬剤学的有効量の前記ガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療用組成物を、それを必要とする対象体に投与することを含むガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0058】
前記ガラニン2型受容体によって誘導される疾患の治療方法に使用される薬学的組成物及び投与方法は既に記述したので、これらに共通した内容の記載は、本明細書が過度に複雑となることを避けるために省略する。
【0059】
一方、前記ガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療用組成物を投与できる対象体は、全ての動物であり、例えば、人間、豚、ゴリラ、猿、犬、猫、マウスなどの哺乳動物であり得る。
【0060】
前記ガラニン2型受容体によって誘導される疾患の種類は上述した通りである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の利点及び特徴、そして、それらを達成する方法は、詳細に後述している各実施例を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、以下で開示する各実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に具現可能である。但し、本実施例は、本発明の開示を完全にし、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範囲を完全に知らせるために提供されるものであって、本発明は、請求項の範囲によって定義される。
【0062】
<実施例1>スペキシンのアミノ酸序列の置換によるGALR2型特異的、安定的なアゴニストの開発
【0063】
GALR2型に選択的に作用しながら長く作用し得るアゴニストを開発するために、スペキシン1、スペキシン2、ガラニン及びガラニン類似ペプチドのアミノ酸序列を比較した。アミノ酸序列は、Ensembl(http://www.ensembl.org/index.html)からダウンロードし、これらのアミノ酸序列のうち成熟した序列を比較した。脊椎動物内の多様な種に存在するガラニンとスペキシンのアミノ酸序列を比較したとき、ほとんどが異なるアミノ酸を有しているが、ガラニンとスペキシンは、いずれも2番目のトリプトファン[Trp
2]、9番目のチロシン[Tyr
9]、10番目のロイシン[Leu
10]及び12番目のグリシン[Gly
12]を共通的に有することを確認した。スペキシンのアミノ酸序列とガラニンのアミノ酸序列とが同一である場合は、D−型アミノ酸に置換し、スペキシン特異的にスペキシンのアミノ酸序列とガラニンのアミノ酸序列とが異なる場合は、該当のスペキシンのアミノ酸序列をガラニンのアミノ酸に置換した。また、スペキシンのアミノ酸序列をガラニンのアミノ酸に置換すること以外にも、14個のスペキシンのアミノ酸序列のそれぞれを他のアミノ酸又はD−型アミノ酸に置換し、それぞれの突然変異ペプチドのガラニン受容体に対する活性の変化を観察した(
図1及び
図2A〜
図2B)。
【0064】
既存の各文献によると、Gタンパク質−連結受容体は作用剤と結合した後、細胞内への信号伝逹を引き起こすために既存のGタンパク質のアルファサブユニットに連結されたGDP(guanosine diphosphate)型をGTP(guanosine triphosphate)型に置換することが知られている。Gタンパク質は、アルファ(a)、ベータ(b)、及びガンマ(g)の三つのサブユニットからなるヘテロ三量体(hetero trimer)である。このうち、細胞内への信号伝逹において最も主要な信号はアルファサブユニットから発生する。例えば、アルファサブユニットがs型である場合(Gas)は、細胞内酵素の一つであるアデニルシクラーゼ(adenyl cyclase)を活性化させることによってATP(adenosine triphosphate)から代表的な二次メッセンジャー(second messenger)であるcAMP(cyclic AMP)を生成し、PKA(protein kinase A)を活性化させる。一方、アルファサブユニットがi型である場合(Gai)は、上述したアデニルシクラーゼの活性を抑制する信号を送る。アルファサブユニットがq/11型である場合は、細胞内でカルシウムの量を増加させたり、PKC(protein kinase C)を活性化させる。このように、Gタンパク質−連結受容体とGタンパク質との間の結合は、受容体類型に依存的な固有の特性である。GALR亜型の場合は、GALR1、3型が抑制性Gi信号伝達体系を誘導する一方、GALR2型は興奮性Gq信号伝達体系を誘導するという点で互いに異なるので、GqのC−末端をGiのアミノ酸3個に置換し、Giの信号をGq信号伝逹経路に転換したHEK293−G
qi安定細胞株が使用された。SRE(serum responsive element)プロモータによってルシフェラーゼ(luciferase、luc)を発現させるSRE−luc分析システムが受容体の活性度を測定するために使用された。ルミノメーターを使用すると発現するルシフェラーゼと、基質(substrate)であるルシフェリン(luciferin)との反応でもたらされる光を感知することによって受容体亜型特異的又はリガンド特異的な細胞活性を観察することができる。HEK293−G
qi細胞を48ウェル−プレートに継代(2×10
4cells/well)してから1日後、GALR2型又は3型をそれぞれコードするプラスミドDNAとSRE−lucプラスミドDNAを1:1で混ぜ{(75ng + 75ng)/well}、エフェクテン(effectene)試薬を混合(2μl/well)して溶液を処理した。3時間後、これを10%FBSが含まれたDMEMに取り替えた。24時間後、FBSがないDMEM培地に取り替え、これから16時間後に構築したスペキシン基盤の突然変異ペプチドを6時間にわたって37℃でさらに培養した。この段階が終了した各細胞は、PBSで洗浄した後、ライシスバッファー(0.1% triton X−100、0.2M Tris、pH8.0)100μlで20分間常温で溶解した。ルシフェラーゼの活性は、ルシフェリン溶液(0.5M MgCl
2、0.1M ATP、0.05M D−luciferin、1M KH
2PO
4、pH7.8)が自動的に投入されるsynergy 2 マルチモードマイクロプレートリーダー(Multi−mode microplate reader)(BioTek社、Winooski、VT、USA)で測定した。
【0065】
図3A〜
図3D及び
図4に示したように、スペキシン突然変異ペプチドのうちスペキシンの8番目のロイシンをグリシン[Gly
8]に置換したとき、GALR2型と3型の双方に対する活性度が減少した。1番目のアルパラギンをグリシン[Gly
1]に、4番目のプロリンをロイシン[Leu
4]に、14番目のグルタミンをヒスチジン[His
14]に置換したとき、二つの受容体に対する活性度はスペキシンと同様に維持された。5番目のグルタミンをアスパラギン[Asn
5]に、7番目のメチオニンをアラニン[Ala
7]に、11番目のリシンをロイシン[Leu
11]又はフェニルアラニン[Phe
11]に、13番目のアラニンをプロリン[Pro
13]に置換したとき、GALR2型に対する活性度には変化がなかったが、GALR3型に対する活性度は減少することを確認できた。これは、スペキシンのアミノ酸序列の5番目のグルタミン[Gln
5]、7番目のメチオニン[Met
7]、11番目のリシン[Lys
11]及び13番目のアラニン[Ala
13]が、GALR2型の活性化よりもGALR3型の活性化において重要な序列であることを示唆する。追加的な検証のために、スペキシンペプチドの5、7、11、13番目の序列をガラニンの序列に置換させた多重突然変異を構築した。二重突然変異(A7F11、7番目のアミノ酸をアラニン[Ala
7]に、11番目のアミノ酸をフェニルアラニン[Phe
11]に置換)と三重突然変異(N5A7F11、5番目のアミノ酸をアスパラギン[Asn
5]に、7番目のアミノ酸をアラニン[Ala
7]に、11番目のアミノ酸をフェニルアラニン[Phe
11]に置換)のGALR3型に対する活性度が著しく減少したことを確認できた。また、二重、三重突然変異は、10μMの高濃度でのみGALR3型を最大に活性化させることができた。四重突然変異(N5A7F11P13又はQu、5番目のアミノ酸をアスパラギン[Asn
5]に、7番目のアミノ酸をアラニン[Ala
7]に、11番目のアミノ酸をフェニルアラニン[Phe
11]に、13番目のアラニンをプロリン[Pro
13]に置換)は、スペキシン水準でGALR2型に対する活性度は残っているが、3型に対する活性度が完全に消えた(
図3A〜
図3D、
図4)。また、このようなガラニンのアミノ酸序列のスペキシンへの導入はGALR1型に対する活性度を誘導しないという点で、該当のアミノ酸はGALR2型を活性化させるのに特異的であると言える。
【0066】
D−型アミノ酸序列を置換する目的は、受容体の活性化に対して重要な序列を究明することにあり、また、D−型アミノ酸が血清に存在する多様なペプチド分解酵素からペプチドを保護する役割をするという点でD−型アミノ酸への変化に影響を受けない部分を究明することにある。スペキシンのアミノ酸序列のそれぞれがD−型アミノ酸に置換された各突然変異は、GALR2型又は3型を発現する細胞に処理した後で活性度を測定した(
図5A〜
図5B、
図6)。突然変異のうち3、9、10番目のアミノ酸がD−型に置換された場合、GALR2型、3型の全てに対する活性度を失うことを示した。これは、スペキシンの3、9、10番目のアミノ酸がガラニン受容体の活性化において重要な序列であることを意味する。また、6、12、14番目のアミノ酸のD−型置換は、受容体に対する活性度がやや減少したことを示した。2、4番目のアミノ酸のD−型置換は、受容体に対する活性度の変化を少し示すが、これは、スペキシンの2番目のトリプトファン[Trp
2]及び4番目のアラニン[Ala
4]がGALR2型と3型の活性化において重要でないことを意味する。スペキシンの1番目のアスパラギン[Asn
1]のD−型置換[dN
1]は、むしろGALR2型、3型の全てに対する活性度がやや増加することを示した(
図5A〜
図5B、
図6)。このような変化は、スペキシンの1番目のアミノ酸序列を置換することによって血清内のペプチド分解酵素に対して安定的なアゴニストを開発可能であることを示す。そこで、スペキシンの1番目のアスパラギン[Asn
1]をピログルタミン酸(pyroglutamate、pQ)、シトルリン(citrulline、Cit)、Fmocに置換、又は、スペキシンのN−末端をポリエチレングリコール化(polyethylene glycolylated、PEG)又はアセチル化(acetylated)させた。D−型置換と同様に、これらの変形は、GALR2型、3型に対する活性度に影響を与えなかった(
図5a、
図5b及び
図6)。これは、スペキシンの1番目のアミノ酸序列の置換がGALRの活性度に影響を与えないと共に、血清内のペプチド分解酵素に対する安定性を増加させることを強く示唆している。
【0067】
<実施例2>100%胎児血清におけるGALR2アゴニストの安定性
【0068】
スペキシン基盤の突然変異ペプチドの安定性を調査するために、変形した突然変異ペプチドを初期濃度10μM、100%胎児血清(fetal bovine serum、FBS)内で37℃で0、3、6、12、24、48、72時間反応させた後、GALR2型に対する活性度を測定した。受容体に対する活性度は、GALR2型を発現する細胞におけるIP3(inositol 1,4,5−triphosphate)生成程度を介して測定された。IP3生成を確認するために、細胞を12ウェル−プレートに継代(2.5×10
5cells/well)してから1日後、GALR2型をコードするプラスミドDNA 1μgと、リポフェクタミン(lipofectamine)2000(invitrogen社)とを混合した溶液で処理した。1日後、1%FBS、1%L−グルタミン、1%抗生剤及びmyo−
3 Hイノシトール(inositol)(1uCi/well)が含まれたM199培地で20時間にわたって追加的に培養し、イノシトールリン酸塩(inositol phosphate)を放射性標識した。この段階が終了した各細胞は、バッファーA(140mM NaCl、20mM Hepes、4mM KCl、8mM D−glucose、1mM MgCl、1mM CaCl
2、1mg/mLの遊離脂肪酸含有ウテア血清アルブミン、10mM LiCl、pH7.2)で30分間反応させた後、100%FBSで反応させた突然変異ペプチドを処理して37℃で40分間反応させた。反応が終了した後で培地を除去し、10mMのギ酸(formic acid)を1mL入れて反応を終了させた。反応が終了したプレートを30分間4℃に維持した後、ギ酸によって抽出された溶液を500μlのAG1−8X陰イオン交換カラムが入っている6mLプラスチックチューブに移して軽くボルテックス(vortexing)をすると、上層液と標識された混合物とが分離されるが、ここで上層液を除去した。1mLの3次蒸留水で2回ずつ洗った後、60mMのギ酸アンモニウム(ammonium formate)/5mMの四ホウ酸ナトリウム(sodium tetraborate)で2回ずつ洗った。放射性標識された混合物を1Mのギ酸アンモニウム/0.1Mのギ酸1mLで溶出した。このうち800μlをシンチレーション(scintillation)チューブに移した後、2mLのシンチレーション溶液(Ultima Gold
TM、Perkin Elmer社、Waltham、MA、USA)と混ぜた。放射性標識された混合物とシンチレーション溶液とが混じった混合溶液をTRI carb 2100TR液体シンチレーションアナライザー(liquid scintillation analyzer)(Packard社)で測定した。
【0069】
図7A〜
図7E及び
図8に示したように、スペキシンの活性度は、12時間以内に80%以下にと非常に速く減少した。その一方、4番目のアラニン置換のみならず、N−末端変形があるペプチド(dAla4)は、野生型スペキシンに比べてIP3生成程度が減少し、より良い安定性を示した(
図7a)。これは、スペキシンのN−末端をPEG又はFmocなどの疎水性分子に置換、又は、スペキシンの4番目のアラニン及び14番目のグルタミンをD−型に変えたとき、ペプチドの血清内の安定性が増加することを意味する。
【0070】
一方、dAla4及びdGln14置換は、血清内のペプチドの寿命を延した。
【0071】
また、四重突然変異(Qu)及び四重突然変異のN−末端変形及び/又は4、14番目のアミノ酸をD−型に置換したとき、ペプチドの血清内の分解程度を測定した。四重突然変異は、野生型スペキシンに比べて分解が速く起こったが、四重突然変異のN−末端のPEG、Fmoc置換、4、14番目のアミノ酸のD−型二重置換は、血清(FBS及びヒト血清)内でペプチドの寿命を増加させ、安定性を高めることを示した(
図7B及び
図7C)。
【0072】
また、四重突然変異のN−末端変形ペプチドは、GALR2型、3型に対して四重突然変異と同じ程度の活性度を示した(
図7d、
図7e及び
図8)。四重突然変異変形ペプチドのGALR3型に対する活性度は10μMの高濃度でのみ示された。結果的に、
図8で提示した突然変異ペプチドは、スペキシン、四重突然変異と同じ程度にGALR2型に特異的に作用し、血清内でさらに安定的に維持される、改善されたGALR2型のアゴニストであると言える。
【0073】
<実施例3>改善されたGALR2アゴニストの摂食抑制効果の検証
【0074】
9週齢の黒い雄マウス(C57BL/6、mouse)を、オリエントバイオ社(www.orient.co.kr)から購入した。購入したマウスは、飼料及び水が適切に与えられ、20℃〜24℃に温度が維持され、湿度が40%〜70%であるケージ(cage)で飼育された。また、この野生型マウスは、午前8時に点灯し、午後8時に消灯する12/12明暗サイクル(light/dark cycle)で保管された。全ての実験は、最小限数のマウスを使用するように設計され、実験動物倫理に従って麻酔法を実施し、実験に使用されたマウスの苦痛を最小化した。これは、高麗大学動物管理及び利用委員会によって証明された。マウスの脳に導管を挿入するために、マウスをペントバルビタールナトリウム(sodium pentobarbital)(50mg/kg、i.p.)で麻酔した後、定位固定(stereotaxic)装置で26−ケージカニューラを右側脳室に挿入した。これを、二つの小さいねじを用いて脳の頭蓋骨に堅固に固定した後、歯科用セメントで縫合した。2週間の回復期を経たマウスにハミルトンシリンジ(hamilton syringe)を用いて分当たり0.5μlの速度でアゴニストを注入した。食餌の摂取量及び体重の変化は、アゴニストを注入する前の飼料及びマウスの重さを測定した後、1、2、4、12、24時間にわたって飼料の重さを測定し、24時間後のマウスの重さを測定することによって既存の重さとの差を比較した。
【0075】
GALR2アゴニストの摂食行動及び体重変化の効果を検証するために、第3脳室に導管を挿入した後、対照群である人工脳脊髄液(artificial cerebrospinal fluid、acsf)又は実験群であるスペキシン3μg、そして、四重突然変異の1番目のアミノ酸をD−型に置換し、安定性を高めたペプチド(dN1−Qu)3μgを注入した後、24時間にわたって体重及び食餌量の変化を比較した。その結果、対照群と比較したとき、GALR2のアゴニストを注入したマウスは、スペキシンを注入したマウスに比べて時間の経過と共に食餌摂取が有意に減少することを示し、体重の減少効果を誘導することが分かった(
図9A〜
図9B)。また、PEG六重突然変異を0.5、1、3μgずつ濃度別に注入した後、食餌摂取及び体重減少を確認した(
図9C、
図9D)。また、M871を10μg注入した後、PEG六重突然変異を3μg注入したとき、このような食餌摂取及び体重減少の効果がなくなることが分かった(
図9E、
図9F)。
【0076】
GALR2アゴニストの注入による食欲調節脳神経細胞の活性度増加を確認するために免疫組織化学法(immunohistochemistry、IHC)を実施した。成体マウスに対してGALR2アゴニストdN1−Qu 0.4、4、40μgを脳室に注入してから1時間後に腹腔麻酔を実施し、胸部の皮を切開し、左心室(left cardiac ventricle)に注射針を刺入し、0. 9%生理食塩水50mLで血液を抜き出した後、50mLの4%パラホルムアルデヒドが含有された0.9%リン酸緩衝食塩水で24時間固定し、30%の砂糖が含有されたリン酸緩衝食塩水で24時間ほど処理した。その後、これを脳組織用鋳型(mold)に置き、30%の砂糖溶液を含むOCT合成物を入れ、ドライアイス上で冷たく維持させたイソペンタン(isopentane)溶液に移して凍らせ、利用前まで80℃で保管した。保管されたマウスの脳組織を冷凍微細切断機(crystat microtome)を用いて40μmに薄く切断した後、免疫組織化学法を実施した。神経細胞の活性度を検証できるc−fos抗体(1:2000希釈比率)を通じてGALR2アゴニストの注入による食欲調節脳領域である弓状核におけるc−fosを発現する神経細胞の増加を確認できた(
図10)。また、弓状核に存在して食欲を調節するものと知られているPOMC神経細胞をインビトロで培養し、Fmoc六重突然変異1μM及びインスリン10nMを処理してPBSで洗浄した後、ライシスバッファー(0.1% triton X−100、0.2M Tris、pH8.0)100μlで20分間常温で溶解した。
【0077】
細胞からタンパク質を抽出し、ウエスタンブロットによって分析した。インスリンによってはAKT及びERKのリン酸化が示されるが、GALR2アゴニストによってはERK経路のみがリン酸化されることによって、GALR2がインスリンとは異なる経路を通じて作用することが分かった(
図11A)。また、POMC神経細胞にGALR2アゴニストを処理した後、mRNAを抽出したときにPOMC神経細胞が増加し、a−MSHホルモンが増加することが分かった(
図11B〜
図11E)。これは、改善されたGALR2アゴニストが摂食行動を抑制し、肥満を治療できる薬物として使用可能であることを示唆している。
【0078】
<実施例4>不安障害克服のためのアゴニストの効能測定
【0079】
不安障害克服に対するGALR2アゴニストの効果を検証するために、実施例3の方法でマウスの側脳室に導管を挿入し、対照群であるジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide、DMSO)又は実験群であるGALR2アゴニストdN1−Quを4μg注入してから2時間〜3時間後、不安/強迫度を測定するEPM検査法(elevated plus maze test)を実施した。EPM検査法は、閉鎖部分(closed arm)及び開放部分(open arm)で構成された高架式十字迷路において閉鎖部分を好むマウスの性質を用いた方法であって、開放部分に多く出るほど不安度が低いことを用いた検査法である。マウスを十字迷路に載せた後、開放部分に存する時間(time in open arm)、回数(number of open arm entry)及び全体の動き(number of center crossing)を15分間測定し、後半10分を結果分析に使用した。
【0080】
その結果、GALR2アゴニストdN1−Quの注入によって全体の動きには差がないが、開放部分に留まる時間及び開放部分に入る回数の増加によって不安度が減少することを示した(
図12)。
【0081】
また、このような不安度減少効果は、活動性及び不安効果を同時に測定するOFT検査法(open field test)を行って検証した。OFTは、四角い領域でマウスが中央より周辺部に留まる行動を用いた検査法である。マウスを四角い領域の中央に下ろし、周辺部に移動した瞬間から10分間、中央部に入った比率(%time in center)、全体の動きのうち中央から動いた距離の比率(%distance in center)及び全体の動き(total distance)を測定し、前半と後半5分をそれぞれ分析に使用した。対照群と反復的な電気衝撃を通じて不安度増加を誘導したマウスの側脳室にDMSO又はGALR2アゴニストdN1−Quを4μg注入してから2時間〜3時間後、不安度及び活動性を測定した。
【0082】
前半5分区間で不安が誘導されたマウスの場合、対照群であるDMSOに比べて全体の動きには差がないが、GALR2アゴニストdN1−Quの注入による中央への動きが増加することによって不安度が減少することを確認できた。また、後半5分区間で不安が誘導された後、DMSOを注入したマウスで不安度が増加するのとは対照的に、dN1−Quの注入による中央での動きが増加することによって不安度減少効果を検証できた(
図13A〜
図13B)。
【0083】
また、GALR2アゴニストの注入による不安調節脳神経細胞の活性度増加を確認するために免疫組織化学法(immunohistochemistry、IHC)を実施した。成体マウスに対してGALR2アゴニスト0.4、4、40μgを脳室に注入してから1時間〜2時間後に腹腔麻酔を実施し、胸部の皮を切開し、左心室に注射針を刺入し、0.9%生理食塩水50mLで血液を抜き出した後、50mLの4%パラホルムアルデヒドが含有された0.9%リン酸緩衝食塩水で24時間固定し、30%の砂糖が含有されたリン酸緩衝食塩水で24時間ほど処理した。その後、これを脳組織用鋳型に置き、30%の砂糖溶液を含むOCT合成物を入れ、ドライアイス上で冷たく維持させたイソペンタン溶液に移して凍らせ、利用前まで80℃で保管した。保管されたマウスの脳組織を冷凍微細切断機を用いて40μmに薄く切断した後、免疫組織化学法を実施した。
【0084】
神経細胞の活性度を検証できるc−fos抗体(1:2000希釈比率)を通じて、GALR2アゴニストの注入による不安調節脳領域である扁桃体におけるc−fosを発現する神経細胞の増加を確認できた(
図14)。他の情緒調節脳領域における神経細胞が活性化されないことによって、GALR2アゴニストの不安調節に特異的な効果を示すことを検証できた(
図15A〜
図15D)。これは、GALR2アゴニストが不安障害治療のための薬物として使用可能であることを示唆する。また、扁桃体は、不安障害及び外傷後ストレス症侯群(Post−traumatic stress disorder、PTSD)とも密接に関連しており、これにより、GALR2アゴニストがPTSDの治療のための薬物として使用可能であることが示唆される。
【0085】
<実施例5>GALR2アゴニストの中毒性減少効能の検証
【0086】
GALR2アゴニストの中毒性減少効果を検証するために、実施例3の方法でマウスの側脳室に導管を挿入し、DMSO及び0.4、4、40μgのdN1−Quを注射した後、中毒性を測定できるSPT検査法(sucrose preference test)を通じて2日間の水消費量及び1%砂糖水消費量を測定した。水槽に水及び砂糖水をそれぞれ入れ、アゴニストを注射する前の重さを測定した後、2日間自由に液体を消費できるようにしてから2日後に水槽の重さを測定し、全体の液体消費量と全体の液体中の砂糖水消費との比率を比較する方法を用いた。
【0087】
2日間の測定結果、全体の液体消費量には差がないが、対照群の場合は、全体の液体消費量中の70%程度を砂糖水で消費する一方、GALR2アゴニストdN1−Quを注入したときは全体の液体消費量に対する砂糖水の消費量が60%以下に減少することが示された。また、砂糖水の消費量のみを比較したとき、GALR2アゴニストdN1−Quを注入すると砂糖水の消費量が著しく減少したことが分かった(
図16)。これは、甘い成分に対する中毒性がGALR2アゴニストdN1−Quの注入によって減少していることを意味する。その一方で、砂糖水をエネルギー源として認識すると見たとき、砂糖水消費量の減少は、食欲又は摂食行動の減少を意味すると見ることもできる。よって、中毒に対する治療剤及び摂食障害治療剤としてのGALR2アゴニストの用途を示唆している。
【0088】
<実施例6>鼻腔吸収方式を通じた脳内伝達方法の検証
【0089】
ペプチド性薬物が体内に伝達されて脳に作用するためには、血液脳障壁(Blood brain barrier、BBB)を通過できる薬物伝達システムを導入しなければならない。鼻腔吸収技法によると、血液脳障壁を通過する小型分子の開発を経なくても薬物の脳内への伝達が可能である。実際に、鼻腔吸収方式は、オキシトシン(oxytocin)の薬物伝達方式として検証されたことがあり、オキシトシンの注入後、ヒトの脳活性に変化が誘導されたというfMRI結果を通じて、ペプチド性薬物が脳に作用する効果をより効率的に高められる方法として期待される。スペキシンの脳内への伝達を検証するために、スペキシンに蛍光物質であるFITCを標識(FITC−スペキシン)し、鼻腔吸収伝達方式の研究に使用されるプロピレングリコール(propylene glycol)と組み合わせ、ペントバルビタールナトリウム(sodium pentobarbital)(50mg/kg、i.p.)で麻酔されたマウスの鼻に4μgを注入し、3時間後に免疫組織化学法(immunohistochemistry、IHC)を行ってFITC蛍光信号を示す脳領域を調査した。成体マウスに腹腔麻酔を実施し、胸部の皮を切開し、左心室(left cardiac ventricle)に注射針を刺入し、0.9%生理食塩水50mLで血液を抜き出した後、50mLの4%パラホルムアルデヒドが含有された0.9%リン酸緩衝食塩水で24時間固定し、30%の砂糖が含有されたリン酸緩衝食塩水で24時間ほど処理した。その後、これを脳組織用鋳型に置き、30%の砂糖溶液を含むOCT合成物を入れ、ドライアイス上で冷たく維持させたイソペンタン溶液に移して凍らせ、利用前まで80℃で保管した。保管されたマウスの脳組織を冷凍微細切断機(crystat microtome)を用いて40μmに薄く切断した後、免疫組織化学法を実施した。
【0090】
その結果、FITC−スペキシンの鼻腔吸収方式を介したFITC蛍光信号は、食欲を調節するものと知られている弓状核(arcuate nucleus、ARC)領域と、情緒調節に関与するものと知られている黒質−腹側被蓋領域(substantia nigra−ventral tegmental area、SN−VTA)で斑点(punctate)の形態で発見された(
図17)。また、鼻腔吸収方式のためにプロピレングリコールと組み合わせたGALR2アゴニストPEG−seを8μg鼻に注入してから1時間〜2時間後に脳室注射と比較したとき、脳室注射によって神経細胞活性の増加を示した扁桃体及び弓状核において、鼻腔吸収によって二つの脳領域の全てでGALR2アゴニストによる神経細胞活性の増加を確認できた(
図18)。これは、鼻腔吸収方式を用いた方法がペプチド性薬物の脳内への伝達に利用可能であり、スペキシンのアミノ酸序列置換を通じて開発したGALR2アゴニストが摂食及び情緒関連疾患治療剤として開発可能であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、ガラニン2型受容体によって誘導される疾患の予防又は治療分野で使用可能である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]