(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無酸素雰囲気下における前記セルロースの機械的な破壊は、前記セルロースと粉砕子とを容器に加えた後、該容器の内部を前記無酸素雰囲気とし、その後、前記容器を加振することで、前記容器内の前記セルロースに対して機械的エネルギーを付加することにより行われる請求項2に記載のカチオン系重合開始剤の生成方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のカチオン系重合開始剤、カチオン系重合開始剤の生成方法
およびポリマーの生成方法について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
<カチオン系重合開始剤>
カチオン系重合開始剤(本発明のカチオン系重合開始剤)は、後述するカチオン系重合開始剤の生成方法において、セルロースに機械的処理を施すことにより生成される、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物のうちの少なくとも1種であることを特徴とする、カチオンを有するセルロースに由来する化合物である。
【0021】
【化3】
[各式中、各R
0は、それぞれ独立して、水素原子またはCZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基を表し、各Zは、水素原子を表し、n、mは、それぞれ独立して、繰り返し単位の数を示す自然数を表し、n
1は、0以上10以下の整数を表す。]
【0022】
このカチオン系重合開始剤を用いて、カチオン重合性モノマーのようなカチオン重合性化合物がカチオン重合することで、ポリマーが生成されるが、そのカチオン重合させる方法については、後述するポリマーの生成方法において説明する。
【0023】
以下では、まず、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤の生成方法について説明する。
【0024】
<カチオン系重合開始剤の生成方法>
[1]まず、セルロースを用意する。
【0025】
セルロースとしては、特に限定されないが、例えば、リンターパルプ、バクテリアセルロース(BC)、微結晶セルロース(MCC)等を好適に用いることができるが、木質系セルロース等、その他のセルロースを用いることもできる。
【0026】
また、セルロースは、グルコピラノース環上の側鎖が備える水酸基がCZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基で置換されたものであってもよい。なお、本明細書中では、この水酸基が前記置換基で置換されたセルロースも含めて、単に「セルロース」と言うこととする。
このような、セルロースは、下記一般式(5)で表される。
【0027】
【化4】
[式中、R
0は、それぞれ独立して、水素原子またはCZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基を表し、各Zは、水素原子を表し、A、Bは、セルロースの主鎖であり、それぞれ下記式(5a)で表される繰り返し単位を有する基であり、n
1は、0以上10以下の整数を表す。]
【0028】
【化5】
[式中、各R
0は、それぞれ独立して、水素原子またはCZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基を表し、各Zは、水素原子を表し、n
1は、0以上10以下の整数を表す。]
【0029】
なお、セルロースを、その水酸基が、CZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基のうちCH
3−CO−で表される置換基で置換されたもの、すなわちアセチル化されたものとする場合、セルロースが備える水酸基(グルコピラノース環上の側鎖の水酸基)のアセチル化は、例えば、酢酸および無水トリフルオロ酢酸を添加し、加熱しつつ撹拌することにより行うことができる。
【0030】
この場合、加熱温度は、40℃以上70℃以下であるのが好ましく、加熱時間は5時間以上20時間以下であるのが好ましい。
【0031】
[2]次に、セルロースを無酸素雰囲気下において、機械的破壊する。
かかる雰囲気下で、セルロースを破壊することで、破壊されたセルロースにおいて、イオンが生成し、その結果、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤が生成される。
【0032】
セルロースの機械的破壊は、具体的には、まず、セルロースを容器に入れ、これに粉砕子を加え、真空装置を用いて真空にしたり、不活性ガスと置換したりして、内部が無酸素状態となるようにして該容器を密閉する。
【0033】
次いで、例えば、容器を液体窒素等の液体中で加振しながら容器内のセルロースに対して機械的エネルギーを付加することで、このセルロースを破壊する。
【0034】
なお、容器や粉砕子は、容器にあっては、例えば、ガラス製、ステンレス製等の金属容器が好適に用いられ、粉砕子にあっては、例えば、ガラス製、陶製、ジルコニア系等のボールが好適に用いられる。
【0035】
このような機械的破壊により、セルロースは、前記一般式(5)中の波線1または波線2で示される結合部位においてβ−1、4グリコシド結合がそれぞれ切断して破壊され、その結果、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表されるカチオン(セルロースメカノカチオン)、下記一般式(3)または下記一般式(4)で表されるアニオンが生成する。
【0036】
【化6】
[各式中、各R
0は、それぞれ独立して、水素原子またはCZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基を表し、各Zは、水素原子を表し、n、mは、それぞれ独立して、繰り返し単位の数を示す自然数を表し、n
1は、0以上10以下の整数を表す。]
【0037】
そして、これらのうち、前記一般式(1)、前記一般式(2)の主鎖末端型アルキルカチオンは、カチオン重合性化合物のカチオン系重合開始剤として用いられる。
【0038】
なお、無酸素雰囲気とは、酸素分圧が0.2kPa以下の雰囲気のことを言い、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、真空雰囲気(好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.6Pa以下)とすることがより好ましい。また、無酸素雰囲気とする有効な手段としては、前記容器内の酸素を、例えば、凍結−排気−融解により除去する方法(Freeze−pump−thaw法)が好適に用いられる。
【0039】
また、セルロースを機械的破壊する際の温度は、30℃以下に設定されていればよいが、好ましくは−150℃以下、より好ましくは液体窒素温度(−196℃)以下に設定される。
【0040】
以上のような工程を経ることで、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤が生成される。
【0041】
<カチオン重合性化合物>
上記のようなカチオン系重合開始剤を用いて、カチオン重合性化合物をカチオン重合させることで、ポリマーが生成されるが、以下、カチオン重合させるべきカチオン重合性化合物について説明する。
【0042】
カチオン重合性化合物は、カチオン重合性モノマーの他、このカチオン重合性モノマーが重合したカチオン重合性オリゴマーおよびカチオン重合性ポリマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
カチオン重合性モノマーとしては、特に限定されず、例えば、
アルキルビニルエーテル、アリールビニルエーテル、官能基置換されたビニルエーテル、ジビニルエーテル、α−置換またはβ−置換されたビニルエーテルのようなビニルエーテル系モノマー、
N−ビニルカルバゾールのようなビニル基含有化合物、2-メチレン-ビシクロ[3.1.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、2-メチレン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2,5-ジエンのようなビシクロ化合物および、下記式(A)に挙げられる環状不飽和化合物等が挙げられる。
【0048】
また、アルキルビニルエーテルは、CH
2=CHORで表されるモノマーであり、Rは、直鎖状、分岐鎖状もしくは環式のアルキル基、または、アラルキル基からなり、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソ−プロピルビニルエーテル、イソ−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等が挙げられる。
【0049】
アリールビニルエーテルは、CH
2=CHOR'で表されるモノマーであり、R'はフェニル基、置換フェニル基、ナフチル基、または(置換基が低級アルキル,ハロゲンである)置換ナフチル基からなり、例えば、フェニルビニルエーテル、パラートリルビニルエーテル、ナフチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0050】
官能基置換されたビニルエーテルは、CH
2=CHOXで表されるモノマーであり、Xはヘテロ原子(例えば、ハロゲン、シリコン等)に結合されたアルキル基もしくはアリール基、または、エーテル、エステルまたはアミン誘導基を有するアルキル基もしくはアリール基からなり、例えば、パラ−アニシルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、CH
2=CHOCH
2CH
2O
2CCH
3、CH
2=CHOCH
2CH
2O
2CC
6H
5、CH
2=CHOCH
2CH
2O
2CC(CH
3)=CH、CH
2=CHOCH
2CH
2O
2CCH=CH
2、CH
2=CHOCH
2CH
2O
2CCH=CHC
6H
5、CH
2=CHOCH
2CH
2O
2CCH=CHCH=CHCH
3、CH
2=CHOCH
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nC
2H
5、CH
2=CHOCH
2CH
2OC
6H
5、CH
2=CHOCH
2CH
2CH(CO
2C
2H
5)
2、CH
2=CHOCH
2CH
2C(CO
2C
2H
5)
3、CH
2=CHOCH
2CH
2OC
6H
4−P−C
6H
4−P−OCH
3、CH
2=CHOCH
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nC
6H
4−P−C
6H
4−p−OCH
3等が挙げられる。
【0051】
ジビニルエーテルは、CH
2=CHOHC=CH
2およびCH
2=CHOXOCH=CH
2で表されるモノマーであり、Xは、−(CH
2)
n−、−(CH
2CH
2O)
nCH
2CH
2−、−CH
2CH
2OC(CH
3)
2C
6H
4C(CH
3)
2OCH
2CH
2−等からなり、nは、例えば、1から12の整数である。
【0052】
α−置換されたビニルエーテルは、CH
2=CR'ORで表されるモノマーであり、Rは、12以下の炭素数を有する直鎖状、分岐鎖状、または環状をなすアルキル基であり、R'は、α−メチルエチルビニルエーテルのような12以下の炭素数を有するアルコキシル基または塩素である。
【0053】
さらに、β−置換されたビニルエーテルは、R'CH=CHORで表されるモノマーであり、Rは、12以下の炭素数を有する直鎖状、分岐鎖状、または環式をなすアルキル基であり、R'はβ−メチルエチルビニルエーテルのような12以下の炭素数を有するアルコキシル基または塩素である。
【0054】
これらの中でも、カチオン重合性モノマー
としては、アルキルビニルエーテルであることが好ましい。前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤によれば、アルキルビニルエーテルを優れた反応性をもって重合させることができるため、ポリアルキルビニルエーテルを確実に生成させることができる。
【0055】
以上のようなカチオン重合性化合物を、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤を用いたポリマーの生成方法により、重合させることで、ポリマーを得ることができる。
【0056】
以下、このポリマーの生成方法について説明する。
<ポリマーの生成方法>
ポリマーの生成は、無酸素雰囲気下において、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤のうちの少なくとも1種と、カチオン重合性化合物とを混合した後、カチオン重合性化合物が固体として存在できる温度未満、すなわちカチオン重合性化合物が気化あるいは液化する温度範囲に設定することにより行われる。
【0057】
このポリマーの生成は、具体的には、まず、前記工程[2]において、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤が生成された容器内に、カチオン重合性化合物を入れ、その後、内部が無酸素状態となるようにした後、該容器を密閉する。前記容器内の酸素を除去する方法としては、例えば、凍結−排気−融解により除去する方法(Freeze−pump−thaw法)が好適に用いられる。次いで、例えば、振とう器等を用いて加振することにより、カチオン重合性化合物とメカノカチオン系重合開始剤とを接触させる。
【0058】
これにより、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤が重合開始剤として機能して、カチオン重合性化合物がカチオン重合し、その結果、下記一般式(6)および下記一般式(7)で表させるポリマー(
セルロースブロック共重合体)が生成される。
【0059】
このようなポリマーの生成方法によれば、従来のカチオン重合で用いられる、塩化水素等の付加体や、ルイス酸金属触媒が存在しない系でポリマーを生成することができる。そのため、触媒を除去する除去工程を省略することができる。さらに、不均一反応系(固相体表面反応)であるため有機溶媒の溶媒を添加することなく、ポリマーを得ることができることから、環境に対する負荷の小さい(有機溶媒の使用が省略された)重合方法であると言える。また、セルロース固体表面に生成したカチオン系重合開始剤(セルロースメカノカチオン)が重合を開始するとともにブロック共重合体を生成するためセルロース固体表面の化学修飾となっている。
【0060】
【化8】
[各式中、各Mは、それぞれ独立して、カチオン重合性モノマーがカチオン重合した基を表し、各R
0は、それぞれ独立して、水素原子またはCZ
3−(CZ
2)
n1−CO−で表される置換基を表し、各Zは、水素原子を表し、n、m、xは、それぞれ独立して、繰り返し単位の数を示す自然数を表し、n
1は、0以上10以下の整数を表す。]
【0061】
なお、無酸素雰囲気とは、酸素分圧が0.2kPa以下の雰囲気のことを言い、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、真空雰囲気(好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.6Pa以下)とすることがより好ましい。また、無酸素雰囲気とする有効な手段としては、前記容器内の酸素を、例えば、凍結−排気−融解により除去する方法(Freeze−pump−thaw法)が好適に用いられる。
【0062】
また、カチオン重合性化合物を気化させる際の温度は、30℃以下に設定されていればよいが、好ましくは−150℃以下、より好ましくは液体窒素温度(−196℃)以下に設定される。
【0063】
なお、前記一般式(6)および前記一般式(7)で表させるポリマーの生成確認は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、水素原子の核磁気共鳴(H−NMR)を用いた公知の化学種同定方法により行うことができる。
【0064】
また、本実施形態では、予め、セルロースを機械的破壊することで、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤を生成させ、その後、カチオン重合性化合物を添加してポリマーを得る場合について説明したが、このような場合に限定されず、例えば、セルロースの機械的破壊とポリマーの生成とをほぼ同時に行うようにしてもよい。
【0065】
このようにセルロースの機械的破壊とポリマーの生成とをほぼ同時に行う方法としては、例えば、セルロースとカチオン重合性化合物とを混合し、無酸素雰囲気下において、雰囲気の温度をカチオン重合性化合物が固体として存在できる温度未満に設定した後、セルロースを機械的破壊する方法が挙げられる。
【0066】
具体的には、セルロースとカチオン重合性化合物とを同じ容器に入れ、これらに粉砕子を加え、その後、容器の内部を無酸素雰囲気下として容器を密閉した後、例えば、容器を液体窒素中に浸漬し、振とう器等を用いて加振しながら容器内のセルロースに対して機械的エネルギーを付加することでセルロースを破壊する方法が挙げられる。
【0067】
かかる方法によれば、前記一般式(1)および前記一般式(2)で表されるカチオン系重合開始剤を分離・採取することなく、ワンポットで前記一般式(6)および前記一般式(7)で表させるポリマーを連続的に製造することができる。
【0068】
上記のようにして、前記一般式(6)および前記一般式(7)で表させるポリマーを得ることができる。なお、得られたポリマーは、ソックスレー抽出法のような抽出法を用いて、分級するようにしてもよい。
【0069】
以上、本発明のカチオン系重合開始剤、カチオン系重合開始剤の生成方法
およびポリマーの生成方法について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0070】
例えば、本発明のカチオン系重合開始剤には、同様の機能を発揮し得る、任意の成分が添加されていてもよい。
【0071】
また、本発明のカチオン系重合開始剤の生成方法および本発明のポリマーの生成方法には、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を具体的な実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
木質セルロースとして微結晶セルロース(MCC; 1g)を硝子製粉砕子(直径7mm)が入っている硝子製ボールミル容器に入れ、真空ラインに接続し、100℃、6時間の条件で真空(1Pa)乾燥し、真空に保持した。
【0074】
次いで、イソブチルビニルエーテル(IBVE)を真空ライン内でfreeze-pump-thew法を行い溶存気体を除去し、真空蒸留を行った後、IBVE(0.2ml)をガラス製ボールミルに導入した。この後、溶融封止し、ガラス製ボールミルを真空ラインから切り離し、振動型ボールミル装置にセット、ガラス製ボールミルを液体窒素中で24時間機械的粉砕を行った。
【0075】
次いで、粉砕試料を77Kで電子スピン共鳴装置(ESR、Bruker EMX Plus)で観測した。その結果、予め測定したMCC主鎖末端型のラジカルのスペクトル(
図1(a))と同一のスペクトルが得られた(
図1(b))。
【0076】
これは、生成しているセルロースメカノカチオンは電子スピンを持っていないためESRでは検知されないためである。一方、メカノラジカルが観測されたことはセルロース主鎖が機械的破壊により切断されたことを示しているとともに、MCCメカノラジカルはIBVEのカチオン重合には関与していないことを示している。
【0077】
次いで、硝子製ボールミルから試料を取り出し、40℃で5時間真空乾燥し、未反応のIBVEを除去した。さらに、ソックスレー抽出器(溶媒:クロロホルム)で24時間洗浄し、透明濾液を得た。透明濾液からクロロホルムを蒸発させた試料(膜状)を50℃で真空乾燥し、Filtrateとした。
【0078】
次いで、KBr法を用いてFiltrateのFT-IRを観測した。Filtrateのスペクトル(
図2(b))にはメチル基(CH
3;2851, 2954 cm
-1)、メチレン基(CH
2;2918, 2851 cm
-1), エーテル結合(-O-; 1150-1029 cm
-1)による吸収ピークが観測された。また、FiltrateにはMCCのFT-IRスペクトルの吸収ピーク(
図2(a)矢印)に対応するピーク(
図2(b)矢印)も観測されている。
【0079】
この結果は、Filtrate試料では、MCCとPIBVEとが化学的に結合しブロック共重合体(MCC-block-PIBVE)が生成していることを示している。
【0080】
また、Filtrateをd-クロロホルムに溶解した、
1H-NMRによる観測(
図3)では、ポリIBVEのa-H: 1.60 ppm, b-H:3.49 ppm, c-H: 3.177 ppm, d-H:1.79 ppm, e-H: 0.900 ppm)が観測された。
【0081】
以上のことから、MCCメカノカチオンがIBVEの重合を開始し、ポリイソブチルビニルエーテルが得られたことを示している。
【0082】
(実施例2)
まず、木質セルロースとして微結晶セルロース(MCC) 1gを硝子製粉砕子(直径7mm)が入っている硝子製ボールミル容器に入れ、真空ラインに接続し、100℃、6時間の条件で真空(1Pa)乾燥し、真空に保持した。
【0083】
次いで、イソブチルビニルエーテル(IBVE)を真空ライン内でfreeze-pump-thew法を行い溶存気体を除去し、真空蒸留を行った後、IBVE(0.2ml)をガラス製ボールミルに導入した。この後、溶融封止し、ガラス製ボールミルを真空ラインから切り離し、振動型ボールミル装置にセット、ガラス製ボールミルを室温で24時間機械的粉砕を行った。
【0084】
次いで、硝子製ボールミルから試料を取り出し、40℃で5時間真空乾燥し、未反応のIBVEを除去した。さらに、ソックスレー抽出器(溶媒:クロロホルム)で24時間洗浄し、透明な濾液を得た。透明濾液からクロロホルムを蒸発させた試料(膜状)を50℃で真空乾燥し、Filtrateとした。
【0085】
KBr法を用いてFiltrate のFT-IRを観測した結果、
図2(b)と同一のスペクトルが得られた。
また、Filtrateの
1H-NMRスペクトルは
図3と同じであった。
【0086】
以上のことから、Filtrate試料はMCCとPIBVEが化学的に結合したMCC-block-PIBVEが生成していることを示している。MCCの機械的破壊により生成した新鮮表面に捕捉されているMCCメカノカチオンが室温でもIBVEの重合を開始し、表面からカチオン重合で成長したPIBVE鎖を生成した。
【0087】
すなわち、MCC-block-PIBVEのPIBVE鎖がMCC微粒子表面を覆い、結果的にPIBVE鎖によるMCC微粒子表面の化学修飾が成されたことを示している。
【0088】
(実施例3)
実施例2と同じ手法でIBVE存在下MCCを真空中室温で24時間粉砕、その後、クロロホルムによるソックスレー抽出を行い、透明な濾液を得た。これを真空乾燥し、Filtrate試料とした。
【0089】
このFiltrate試料のFT-IRスペクトルは
図2(b)同じであった。また、
1H-NMRスペクトル(
図4(b);x軸:6〜0.15ppm)は、
図3x軸の同じ範囲(6〜0.15ppm)で同一であった。
【0090】
実施例2と同じく、Filtrateのクロロホルム溶液は透明であったが、MCCはクロロホルムに不溶であるため、Filtrateクロロホルム溶液にはMCCは存在しないと考えられる。しかし、クロロホルム溶液を蒸発させ、真空乾燥させたFiltrateのFT-IRスペクトルには、セルロースに起因する吸収ピーク(
図2(b)矢印)が観測された。
【0091】
これは、MCC表面に存在するMCCメカノカチオンがIBVEから電子を対で獲得し、MCCとIBVEカチオンとの間に炭素-炭素結合が生成し、IBVEのカチオン成長末端がカチオン重合を進行させ、MCC-block-PIBVEを合成したと考えられる。
【0092】
ところで、MCCメカノラジカルによるMMAのラジカル重合を開始し、MCC微粒子表面からPMMAが成長し、MCC-block-PMMAが合成され、微粒子表面がMCC-block-PMMAのPMMA鎖により化学修飾されたこと、MCC-block-PMMAによる表面化学修飾MCC微粒子はクロロホルムに分散し、その微粒子径は動的光散乱法により52nmであること、この表面化学修飾MCCナノ粒子径は可視光の波長以下であるため分散液は透明であったことが報告されている(非特許文献:M. Sakaguchi, T. Ohura, T. Iwata, and Y. Enomoto-Rogers, “Nano cellulose particles covered with block copolymer of cellulose and methyl methacrylate produced by solid mechano chemical polymerization”, Polymer Degradation and Stability, 97, 257-263 (2012))。
【0093】
このことからFiltrateクロロホルム濾液は透明であるが、そこにはMCC-block-PIBVEで表面化学修飾されたMCCナノ粒子が存在していることが示唆される。このことは、FT-IRデータが示している。
【0094】
一般的に、MCCはd-クロロホルムに溶解しないので、MCCを構成するグリコピラノース環上の6個のHによるピークは溶液の
1H-NMRでは観測されない。したがって、Filtrateの
1H-NMRスペクトル(
図3および
図4(b))にはグリコピラノース環上の6個のHによるピークは検出されていない。
【0095】
そこで、FiltrateのMCCをアセチル化しクロロホルムに可溶な化合物に変化させるために、無水トリフルオロ酢酸、酢酸混合溶液を用い50℃で12時間の条件で反応させた。得られたFiltrateのアセチル化試料(TACMCC)の
1H-NMRスペクトルを
図4(A)に示す。グルコピラノース環上の6個のH(1-H: 4.42 ppm, 2-H: 4.79 ppm, 3-H: 5.07 ppm, 4-H: 4.71 ppm, 5-H: 3.54 ppm, 6-H: 4.38 ppm, 6’-H: 4.07 ppm)が観測されている。
【0096】
一方、Filtrate 試料をd-クロロホルムに分散(透明分散液)させ、1H-NMRを観測すると
図4(B)のスペクトルが得られた。このスペクトルはポリイソブチルビニルエーテル(PIBVE)に起因する-CH
2, a: 1.599 ppm, -CH, b: 3.49 ppm, -CH
2, c: 3.17 ppm, -CH, d: 1.79 ppm, -CH
3, e: 0.900 ppmのピークが観測される。しかしながら、MCCナノ粒子が固体であるためMCCのグリコピラノース環上の6個のHによるピークは観測されない。
【0097】
Filtrate(7.3 mg)を無水トリフルオロ酢酸(0.91 g)、酢酸(0.36 g)の混合溶液中に入れ50℃で12時間アセチル化し、濃褐色の溶液が得られた。エバポレーターで濃縮後、風乾、さらに、5時間真空乾燥して褐色の固体を得た。これをアセチル化MCC-block-PIBVEとした。
【0098】
アセチル化MCC-block-PIBVE試料をd-クロロホルムに溶解し、1H-NMRを観測し、
図4(C)を得た。アセチル化前には観測されなかったグルコピラノース環上の6個のH(1-H: 4.42 ppm, 2-H: 4.80 ppm, 3-H: 5.07 ppm, 4-H: 3.71 ppm, 5-H: 3.55 ppm, 6-H: 4.38 ppm, 6’-H: 4.07 ppm)が観測されている。このことは、MCC-block-PIBVEが合成されていることを示している。
【0099】
すなわち、MCCメカノカチオンが、IBVEのカチオン重合を開始し、MCC-block-PIBVEが生成するとともにMCCナノ粒子表面がMCC-block-PIBVEのPIBVE鎖により化学修飾されたことを意味する(
図5)。
【0100】
また、これはカウンターイオンが存在しないフリーのMCCメカノカチオンがIBVEの重合を開始し、ブロック共重合体を生成したことを意味しており、MCC-block-PIBVEが新規の化合物であるとともに新規のカチオン重合機構によって合成されたといえる。
【0101】
GPC測定によりアセチル化MCC-block-PIBVEの分子量は、Mw = 8.23 10
4 g/mol, Mn = 2.90 10
4 g/mol, Mw/Mn = 1.82と求められた。