(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
作業機械本体と、この作業機械本体に対して上下方向に揺動自在に取り付けられ複数の可動部を有する作業フロントと、この作業フロントの各可動部を駆動する駆動アクチュエータと、この駆動アクチュエータの駆動を制御する制御演算を行う演算装置と、前記駆動アクチュエータへの圧油の供給を制御する流量制御弁および操作レバーの操作に基づいて前記流量制御弁に供給するパイロット圧油を出力する比例減圧弁を有するアクチュエータ駆動油圧回路とを備えた作業機械において、
前記演算装置は、作業機械の速度を推定し、前記推定された速度と作業機械の姿勢に基づき、作業機械が急停止すると仮定した場合の作業機械の挙動を予測し、前記予測された挙動に基づき前記作業機械の安定性を判定し、前記安定性の判定結果に基づき前記駆動アクチュエータの減速度を制限して前記駆動アクチュエータを緩やかに停止させる緩停止指令および前記駆動アクチュエータの上限動作速度を制限する動作速度制限指令を演算して、出力し、
前記アクチュエータ駆動油圧回路は、前記演算装置からの前記緩停止指令および前記動作速度制限指令に応じて前記比例減圧弁から出力されるパイロット圧を補正するパイロット圧補正部を有し、
このパイロット圧補正部は、前記操作レバーの停止操作時に前記駆動アクチュエータを緩やかに停止させるようにパイロット圧を補正する停止特性変更部と、前記駆動アクチュエータの動作速度を制限するようにパイロット圧を補正する動作速度制限部とから構成され、
前記停止特性変更部および前記動作速度制限部は、前記演算装置からの前記緩停止指令および前記動作速度制限指令によってそれぞれ駆動され、前記演算装置から前記緩停止指令および前記動作速度制限指令が入力された場合は前記比例減圧弁から出力されるパイロット圧を補正し、前記演算装置から前記緩停止指令および前記動作速度制限指令が入力されない場合には、前記比例減圧弁から出力されるパイロット圧を補正することなく前記流量制御弁に供給し、
前記停止特性変更部は、電磁比例弁と高圧選択部とから構成され、
前記電磁比例弁は、前記比例減圧弁以外のパイロット圧油供給部と接続されており、前記演算装置から指令される設定圧のパイロット圧を生成し、
前記高圧選択部は、前記比例減圧弁から出力されるパイロット圧と前記電磁比例弁から出力されるパイロット圧とのうち高圧側のパイロット圧を選択して出力し、
前記演算装置は、前記電磁比例弁に対し、常に、前記電磁比例弁の応答性を早めるための待機信号を与えるように構成されている
ことを特徴とする作業機械。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の作業機械の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
本発明の作業機械の第1の実施形態を、
図1乃至
図9Bを用いて説明する。
【0017】
<対象装置>
図1に示すように、本実施形態に係る作業機械1は、走行体2と、走行体2の上部に旋回可能に取り付けられた旋回体3と、一端が旋回体3に連結された多関節型のリンク機構よりなる作業フロント6とを備えている。
【0018】
旋回体3は旋回モータ7によって中心軸3cを中心に旋回駆動される。旋回体3上には運転室4およびカウンタウエイト8が設置されている。また、この旋回体3上の所要の部分には、動力系を構成するエンジン5と、駆動アクチュエータ(後述)の駆動油圧回路100等から構成され、作業機械1の起動停止および動作全般を制御する運転制御装置9が備えられている。
【0019】
なお、図中の符号29は地表面を示している。
【0020】
作業フロント6は、一端が旋回体3に連結されたブーム10(可動部)と、一端がブーム10の他端に連結されたアーム12(可動部)と、一端がアーム12の他端に連結されたアタッチメント23(可動部)とを有しており、これらの各部材は、それぞれ上下方向に回動するように構成されている。
【0021】
ブームシリンダ11は、ブーム10を支点40の回りに回動する駆動アクチュエータであり、旋回体3とブーム10とに連結されている。アームシリンダ13は、アーム12を支点41の回りに回動する駆動アクチュエータであり、ブーム10とアーム12とに連結されている。アタッチメントシリンダ15はアタッチメント23を支点42の回りに回動する駆動アクチュエータであり、リンク16を介してアタッチメント23と連結され、リンク17を介してアーム12に連結されている。アタッチメント23は、マグネット、グラップル、カッタ、ブレーカ、バケット等の図示しない作業具に任意に交換可能である。旋回モータ7は、旋回体3を駆動する駆動アクチュエータである。
【0022】
運転室4内には、オペレータが各駆動アクチュエータに対する動きの指示を入力するための複数の操作レバー50が備えられている。
【0023】
<駆動アクチュエータの駆動油圧回路>
図2Aに油圧パイロット式操作装置を有する一般的な作業機械における駆動アクチュエータの駆動油圧回路の概念図を示す。
【0024】
図2Aにおいて、作業機械1の各駆動アクチュエータ7,11,13,15はメインポンプ101から供給される圧油によって駆動される。駆動油圧回路100Aは、各駆動アクチュエータ7,11,13,15に圧油を供給するための回路であり、主に、エンジン5によって駆動されるメインポンプ101およびパイロットポンプ102と、メインポンプ101と接続され、駆動アクチュエータへの供給流量を制御するパイロット式流量制御弁群110と、パイロットポンプ102と接続され、操作レバー50の操作に応じて流量制御弁群110に供給するパイロット圧油を生成する比例減圧弁群120とから構成される。
【0025】
流量制御弁群110は、ブーム流量制御弁111、アーム流量制御弁113、アタッチメント流量制御弁115、旋回流量制御弁117から構成される。比例減圧弁群120は、ブーム伸長比例減圧弁121、ブーム縮小比例減圧弁122、アーム伸長比例減圧弁123、アーム縮小比例減圧弁124、アタッチメント伸長比例減圧弁125、アタッチメント縮小比例減圧弁126、右旋回比例減圧弁127、左旋回比例減圧弁128から構成される。
【0026】
なお、駆動アクチュエータの駆動方法はいずれの駆動アクチュエータでも同様であるため、以下では、ブームシリンダ11を例にとって説明する。
【0027】
図2Bに油圧パイロット式操作装置を有する一般的な作業機械におけるブームシリンダ11の駆動油圧回路100Aの概略構成図を示す。
【0028】
図2Bにおいて、ブーム比例減圧弁は、ブーム伸長比例減圧弁121と、ブーム縮小比例減圧弁122とから構成される。これらの比例減圧弁121,122は、ブーム操作レバー50bを伸長側あるいは縮小側に操作することにより駆動され、パイロットポンプ102の吐出する圧油からブーム操作レバー50bの操作量に対応する圧力のパイロット圧油を生成する。
【0029】
ブーム伸長比例減圧弁121は、第一ポート121a、第二ポート121b、および第三ポート121cを備えており、第一ポート121aは作動油タンク103と、第二ポート121bはパイロットポンプ102と、第三ポート121cは後述するブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eと接続される。ブーム操作レバー50bを伸長側に操作していない場合には、第一ポート121aと第三ポート121cとを連通する弁路が全開、第二ポート121bが全閉となり、パイロットポンプ102からの圧油は第三ポート121cへ供給されない。ブーム操作レバー50bが伸長側に操作されると、その操作によって、第二ポート121bと第三ポート121cとを連通する弁路が開くように駆動され、パイロットポンプ102から第三ポート121cへパイロット圧油が供給され、レバー操作量に応じた圧力の圧油が第三ポート121cから出力される。ブーム操作レバー50bを操作状態から非操作状態に戻す方向に操作すると、ブーム伸長比例減圧弁121は、第二ポート121bと第三ポート121cとを連通する弁路を閉じ、第一ポート121aと第三ポート121cとを連通する弁路を開く方向に駆動され、非操作状態まで戻されると、第一ポート121aと第三ポート121cとを連通する弁路が全開となる。この時、第三ポート121cに接続されるパイロット油路の圧油は、第一ポート121aと第三ポート121cとを連通する弁路を流通して作動油タンク103に排出される。
【0030】
ブーム縮小比例減圧弁122はブーム伸長比例減圧弁121と同様の構成を有している。ブーム操作レバー50bが縮小側に操作された場合には、ブーム伸長比例減圧弁121の代わりにブーム縮小比例減圧弁122が駆動され、レバー操作量に応じた圧力の圧油がブーム縮小比例減圧弁122の第三ポート122cから出力される。また、ブーム操作レバー50bを縮小側に操作した状態から非操作状態に戻す方向に操作すると、ブーム縮小比例減圧弁122の第三ポート122cに接続されるパイロット油路の圧油は、第一ポート122aと第三ポート122cとを連通する弁路を流通して作動油タンク103に排出される。
【0031】
ブーム流量制御弁111は、ブーム伸長側パイロットポート111eとブーム縮小側パイロットポート111sを有するパイロット式の3位置切換弁である。ブーム伸長側パイロットポート111eには、ブーム伸長比例減圧弁121がブーム伸長側パイロット油路を介して接続され、ブーム縮小側パイロットポート111sには、ブーム縮小比例減圧弁122がブーム縮小側パイロット油路を介して接続される。また、ブーム流量制御弁111のアクチュエータ側ポート111a,111bは、それぞれブーム伸長側メイン油路およびブーム縮小側メイン油路を介してブームシリンダ11のボトム側油室11bおよびロッド側油室11rに接続される。ブーム流量制御弁111のポンプポート111pはメインポンプ101と、タンクポート111tは作動油タンク103とそれぞれ接続されている。
【0032】
ブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eとブーム縮小側パイロットポート111sとのいずれにもパイロット圧油が供給されていない場合には、ブーム流量制御弁111は中立位置となり、ブームシリンダ11への圧油の供給およびブームシリンダ11からの圧油の排出は行われない。ブーム操作レバー50bが伸長側に操作され、ブーム伸長側パイロットポート111eにパイロット圧油が供給されると、ブーム流量制御弁111は伸長駆動位置に切り換わり、メインポンプ101からの圧油がブームシリンダ11のボトム側油室11bに供給される。これにより、ブームシリンダ11は伸長駆動される。一方、ブーム操作レバー50bが縮小側に操作された場合には、ブーム縮小側パイロットポート111sにパイロット圧油が供給され、ブーム流量制御弁111が縮小駆動位置に切り換わり、メインポンプ101からの圧油がブームシリンダ11のロッド側油室11rに供給される。これにより、ブームシリンダ11は縮小駆動される。この時、ブーム流量制御弁111の開口面積は、各パイロットポート111e,111sに供給されるパイロット圧油の圧力によって決定され、ブームシリンダ11はパイロット圧油の圧力に応じた速度で伸縮駆動される。
【0033】
≪安定化制御≫
本実施形態に係る作業機械1には、作業中の不安定化を防ぐ安定化制御装置190が搭載されている。作業機械1では、オペレータが操作レバー50を操作することにより、種々の作業が行われるが、作業フロント6を伸ばした姿勢で作業を行う場合やアタッチメント23に加わる負荷が大きい場合には安定性が低下する。また、急操作を行った場合には、急激な速度変化に伴って大きな慣性力が作用し、その影響により、作業機械1の安定性が大きく変化する。特に、操作レバー50を操作状態から瞬時に停止指令状態に戻すような急停止操作時には、転倒方向に大きな慣性力が働き、作業機械1が不安定になりやすい。
【0034】
本実施形態の安定化制御装置190は、無理な操作や誤った操作を行った場合であっても作業機械1が不安定にならないよう、安定性評価に基づいて駆動アクチュエータの動作を制限する装置である。また、本実施形態の安定化制御装置190は、急停止操作により安定性が大幅に低下することを考慮し、作業機械1を安定に保つための動作制限として、緩停止と動作速度制限を行う。
【0035】
ここで、緩停止とは停止操作時の可動部の減速加速度を制限し、可動部を緩やかに停止させる作用であり、動作速度制限とは駆動アクチュエータの最大速度を制限する作用である。緩停止を導入することにより、急停止操作時に発生する慣性力を抑制することができ、急停止に伴って発生する大きな慣性力によって作業機械1が不安定になることを防ぐことができる。一方、緩停止を行うと、制動距離が増大するため、あらかじめ許容制動距離を定め、許容制動距離内で停止できるように停止特性を設定する必要がある。そこで、本実施形態の安定化制御装置190は、あらかじめ定められた許容制動距離の範囲内で必要に応じて緩停止を行い、また、いかなる動作状態においても許容制動距離内で安定に作業できるように動作速度を制限する。
【0036】
安定化制御装置190は、作業機械1に備えられた全ての駆動アクチュエータに対して動作制限を行うように構成されている。しかし、以下では、作業機械1の安定性に特に大きな影響を与えるブームシリンダ11とアームシリンダ13に対してのみ、動作制限を適用するように構成した場合を例にとって説明する。
【0037】
図3に本実施形態の安定化制御装置190の概略構成図を示す。
【0038】
図3において、安定化制御装置190は、主に、状態量検出部30と、演算装置60と、パイロット圧補正部200とから構成される。
【0039】
状態量検出部30は、作業機械1の状態量を検出するために作業機械1の各所に取り付けられたセンサである。
【0040】
演算装置60は、図示しないCPU(Central Process
ing Un
it)、記憶装置等から構成され、状態量検出部30の検出信号に基づいて、安定化制御演算を行い、作業機械1を安定に保つために必要なブームシリンダ11およびアームシリンダ13の動作制限を算出し、パイロット圧補正部200への駆動指令を出力する。
【0041】
パイロット圧補正部200は、オペレータからのレバー操作によって生成されるパイロット圧油の圧力を、演算装置60において算出された動作制限を満たすように補正する油圧装置であり、流量制御弁群110と比例減圧弁群120とを接続するパイロット油路に設けられている。
【0043】
<状態量検出部>
作業機械1の主要部分には、状態量検出部30として、機械の状態量を検出するセンサが備えられる。以下、本実施形態に係る作業機械1に備えられる状態量検出部30の詳細について、
図1および
図3を参照して説明する。
【0044】
本実施形態の状態量検出部30は、作業機械1の姿勢を検出する姿勢検出部49と、各駆動アクチュエータに対するオペレータからの動作指令量を検出するレバー操作量検出部50aとから構成される。
【0045】
姿勢検出部49は、作業機械1の姿勢を検出する機能ブロックであり、姿勢センサ3b、各角度センサ3s,40a,41a,42aから構成される。旋回体3には、作業機械1の傾きを検出するための姿勢センサ3bが設けられる。また、旋回体3の中心軸3c上には、走行体2と旋回体3の旋回角度を検出するための旋回角度センサ3sが設けられる。旋回体3とブーム10の支点40には、ブーム10の回動角度を計測するためのブーム角度センサ40aが設けられる。ブーム10とアーム12の支点41には、アーム12の回動角度を計測するためのアーム角度センサ41aが設けられる。アーム12とアタッチメント23の支点42には、アタッチメント角度センサ42aが設けられる。
【0046】
レバー操作量検出部50aは、作業機械1の各駆動アクチュエータに対するオペレータからの動作指令量を検出する機能ブロックであり、操作レバー50の操作量を検出するレバー操作量センサが設けられる。前述の油圧パイロット式操作装置では、操作レバー50を操作すると比例減圧弁群120のうちの対応する比例減圧弁が駆動され、レバー操作量に応じた圧力のパイロット圧油が出力される。したがって、各比例減圧弁の出力する圧油の圧力を検出する圧力センサを設けることにより、オペレータからの動作指令量を検出することができる。
【0047】
より具体的には、ブーム伸長比例減圧弁121の出力する圧油の圧力を検出するブーム伸長操作量センサ51と、ブーム縮小比例減圧弁122の出力する圧油の圧力を検出するブーム縮小操作量センサ52と、アーム伸長比例減圧弁123の出力する圧油の圧力を検出するアーム伸長操作量センサ53と、アーム縮小比例減圧弁
124の出力する圧油の圧力を検出するアーム縮小操作量センサ54と、アタッチメント伸長比例減圧弁125の出力する圧油の圧力を検出するアタッチメント伸長操作量センサ55と、アタッチメント縮小比例減圧弁126の出力する圧油の圧力を検出するアタッチメント縮小操作量センサ56と、右旋回比例減圧弁127の出力する圧油の圧力を検出する右旋回操作量センサ57と、左旋回比例減圧弁128の出力する圧油の圧力を検出する左旋回操作量センサ58とが設けられる。
【0048】
<パイロット圧補正部>
パイロット圧補正部200は、オペレータのレバー操作に応じて比例減圧弁群から出力されるパイロット圧油の圧力を、後述する演算装置60内の安定化制御演算部60aから指令される動作制限を満たす圧力に補正する機能ブロックである。本実施形態の安定化制御装置190では、安定化のための動作制限として、停止特性を変更して緩やかに停止させる緩停止と、動作速度に上限を設ける動作速度制限を行う。パイロット圧補正部200は、この2種類の動作制限を行うために、停止特性変更部210と動作速度制限部240とを備えている。
【0049】
図5Aに、本実施形態の安定化制御装置190におけるパイロット圧補正部200を備えた駆動アクチュエータの駆動油圧回路の概念図を示す。
【0050】
安定化制御演算に基づく動作制限をブームシリンダ11およびアームシリンダ13に対して適用する場合、作業機械1はパイロット圧補正部200として、
図5Aに示すようにブーム伸長パイロット圧補正部201、ブーム縮小パイロット圧補正部202、アーム伸長パイロット圧補正部203、アーム縮小パイロット圧補正部204が設けられる。
【0051】
ブーム伸長パイロット圧補正部201はブーム伸長停止特性変更部211とブーム伸長動作速度制限部241を、ブーム縮小パイロット圧補正部202はブーム縮小停止特性変更部212とブーム縮小動作速度制限部242を、アーム伸長パイロット圧補正部203はアーム伸長停止特性変更部213とアーム伸長動作速度制限部243を、アーム縮小パイロット圧補正部204はアーム縮小停止特性変更部214とアーム縮小動作速度制限部244をそれぞれ備えている。各パイロット圧補正部201,202,203,204の構成はいずれについても同様であるため、以下では、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとり、
図5Bを参照してブーム伸長パイロット圧補正部201の詳細を説明する。
【0052】
前述のように、ブームシリンダ11の動作は、ブーム流量制御弁111の各パイロットポート111e,111sに供給されるパイロット圧油の圧力によって決定される。したがって、何らかの制御を導入し、制御演算結果に基づいてブームシリンダ11を伸長駆動するためには、ブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eにパイロット圧油を供給するパイロット油路に、レバー操作に応じて比例減圧弁121から出力されるパイロット圧油の圧力を補正し、制御演算結果を満たす圧力の圧油を生成するパイロット圧補正部201を設ければ良い。以下では、レバー操作に応じて比例減圧弁121から出力されるパイロット圧油をレバー操作パイロット圧油、レバー操作パイロット圧油の圧力をレバー操作パイロット圧と呼び、パイロット圧補正部201によって補正されたパイロット圧油を補正パイロット圧油、補正パイロット圧油の圧力を補正パイロット圧と呼ぶ。
【0053】
制御演算結果に基づく所望のパイロット圧を生成する方法としては、パイロットポンプ102とブーム流量制御弁111とを接続するパイロット油路に電気指令に基づいてパイロットポンプ102が吐出する圧油を減圧して出力する電磁比例弁を設ける構成が考えられる。電磁比例弁を制御演算結果に基づいて駆動し、電磁比例弁から出力されるパイロット圧油を例えば比例減圧弁121から出力されるパイロット圧油の代わりにブーム流量制御弁111に供給する構成とすることによって、所望の圧力のパイロット圧油をブーム流量制御弁111に供給できる。このような構成とした場合には、レバー操作パイロット圧油に対する補正の要否にかかわらず、追加した電磁比例弁からの圧油がブーム流量制御弁111へ供給される。
【0054】
一方、パイロット圧補正部201を設けるにあたっては、従来の操作性を損なわないように構成する必要がある。前述のように電磁比例弁を設ける構成では、常に従来とは異なる構成でブーム流量制御弁111へパイロット圧油を供給するため、応答性等が変化し、操作の違和感を生む恐れがある。従来の操作性を維持するためには、補正の必要のない場合には、パイロット圧補正部201を設けない場合と同様に、例えば比例減圧弁121から出力されるレバー操作パイロット圧油をブーム流量制御弁111のパイロットポート111eに供給し、補正が必要な場合のみ、レバー操作パイロット圧を補正する構成とすることが望ましい。そこで、本実施形態では、比例減圧弁121を用いた従来のパイロット圧油供給回路を生かしつつ、安定化制御演算によって動作制限が必要と判断された場合のみ、レバー操作パイロット圧に対して補正を行うようにパイロット圧補正部201を構成する。
【0055】
本実施形態の安定化制御装置190において行われる動作制限は、停止特性を変更して緩やかに停止させる緩停止と、動作速度に上限を設ける動作速度制限である。緩停止を行うためには、レバー操作パイロット圧が急激に低下する場合に、圧力の低下が緩やかになるように補正する必要がある。一方、動作速度制限を行うためには、レバー操作パイロット圧に対して上限圧を設定する必要がある。緩停止を行うための補正例を
図4Aに、動作速度制限を行うための補正例を
図4Bに示した。
【0056】
本実施形態のパイロット圧補正部201は、前述の2種類の動作制限(緩停止と動作速度制限)を行うために、停止特性変更部211と動作速度制限部241とを備えている。比例減圧弁121から出力されたレバー操作パイロット圧油は、まず、停止特性変更部211に入力され、演算装置60内で行われる安定化制御演算により指令された緩停止の停止特性を満たすように補正される。この停止特性変更部211によって補正されたパイロット圧油は動作速度制限部241に入力され、演算装置60内で行われる安定化制御演算により指令された動作速度制限を満たすように補正される。この動作速度制限部241によって補正されたパイロット圧油は、対応するブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eに入力される。
【0057】
本実施形態のパイロット圧補正部201において、停止特性変更部211は、緩停止用電磁比例弁221と緩停止用高圧選択部231とから構成され、動作速度制限部241は速度制限用電磁比例弁251から構成される。緩停止用電磁比例弁221および速度制限用電磁比例弁251は後述する演算装置60から出力される指令信号により駆動される。
【0058】
・停止特性変更部
本実施形態のブーム伸長停止特性変更部211は、上述したように緩停止用電磁比例弁221と緩停止用高圧選択部231とから構成される。
【0059】
緩停止用電磁比例弁221は、演算装置60からの指令により駆動され、パイロットポンプ102から吐出される圧油から演算装置60内の安定化制御演算部60aにより指令された緩停止を行うためのパイロット圧油(緩停止パイロット圧油)を生成する弁である。また、緩停止用高圧選択部231は、レバー操作パイロット圧油と、緩停止パイロット圧油とのうち高圧側の圧油を選択して出力するブロックである。
【0060】
緩停止用電磁比例弁221は、第一ポート221a、第二ポート221b、第三ポート221c、およびソレノイド221dを備えている。第一ポート221aには作動油タンク103が、第二ポート221bにはパイロットポンプ102がそれぞれ接続される。演算装置60からの指令信号によってソレノイド221dが励磁されると、指令信号に応じた圧力の緩停止パイロット圧油が第三ポート221cに出力される。緩停止用電磁比例弁221はソレノイド221dが励磁されていない時に、第一ポート221aと第三ポート221cとを連通する弁路が全開、第二ポート221bが全閉となり、パイロットポンプ102からの圧油の供給が遮断される常時閉式の特性を持つ。したがって、ソレノイド221dが非励磁状態の場合には、第三ポート221c側の圧力はタンク圧となる。演算装置60からの指令信号によってソレノイド221dが励磁されると、第二ポート221bと第三ポート221cが連通する弁路が開く方向に駆動され、パイロットポンプ102からの圧油が第三ポート221cに出力される。緩停止用電磁比例弁221は、ソレノイド221dに与えられる指令信号が大きくなるにつれて、第三ポート221cから出力される圧油の圧力が高くなるような特性を持つ。したがって、第三ポート221cから出力される圧油の圧力を安定化制御演算部60aによって指令された緩停止の停止特性を満たす圧力とするように、演算装置60からソレノイド221dに対して駆動指令を行えば良い。
【0061】
緩停止用高圧選択部231は、例えばシャトル弁であって、比例減圧弁121から出力されるレバー操作パイロット圧油と緩停止用電磁比例弁から出力される緩停止パイロット圧油とが入力される。緩停止用高圧選択部231は、入力されたレバー操作パイロット圧油と緩停止パイロット圧油とのうち高圧側の圧油を選択して、停止特性変更部211の出力とする。
【0062】
レバー操作パイロット圧が安定化制御演算部60aにより指令された緩停止の停止特性よりも急激に低下する場合には、緩停止パイロット圧がレバー操作パイロット圧よりも高くなり、緩停止用高圧選択部231により緩停止用パイロット圧油が選択され、指令された停止特性の緩停止が実現される。一方、安定化制御演算部60aによって指令された停止特性よりも緩やかに停止するような操作が行われた場合には、レバー操作パイロット圧が緩停止パイロット圧よりも緩やかに低下するため、緩停止パイロット圧に対してレバー操作パイロット圧が高く、緩停止用高圧選択部231においてレバー操作パイロット圧油が選択される。したがって、この場合には、停止特性変更部211においてレバー操作パイロット圧油は補正されることなく出力される。また、停止特性変更部211におけるパイロット圧油の圧力の補正は、急激に動作速度が低下するような操作が行われた場合を対象としており、それ以外の定常的な動作指令操作時や増速操作時等には緩停止用電磁比例弁221は駆動されない。したがって、このような操作時にも、緩停止用高圧選択部231においてレバー操作パイロット圧油が選択され、レバー操作パイロット圧油は補正されることなく出力される。
【0063】
・動作速度制限部
本実施形態では、上述したように、ブーム伸長動作速度制限部241として速度制限用電磁比例弁251を備えている。速度制限用電磁比例弁251は、ブーム流量制御弁111に供給されるパイロット圧油に対し、演算装置60内の安定化制御演算部60aによって指令された動作速度制限を満たすように上限圧を設定する。
【0064】
図5Bに示すように、速度制限用電磁比例弁251は、第一ポート251a、第二ポート251b、第三ポート251c、およびソレノイド251dを備えている。第一ポート251aには作動油タンク103が、第二ポート251bには緩停止用高圧選択部231の出力ポートが、第三ポート251cにはブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eがそれぞれ接続される。第三ポート251cから出力される圧油が、パイロット圧補正部201による補正パイロット圧油である。
【0065】
速度制限用電磁比例弁251は、緩停止用電磁比例弁221と同様、ソレノイド251dが励磁されていない場合には、速度制限用電磁比例弁251の第一ポート251aと第三ポート251cを連通する弁路が全開、第二ポート251bが全閉となる常時閉式の特性を有している。したがって、ソレノイド251dが励磁されていない場合には、ブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eは作動油タンク103と連通され、補正パイロット圧はタンク圧となる。一方、演算装置60からの指令信号によってソレノイド251dが励磁されると、第二ポート251bと第三ポート251cとを連通する弁路が開く方向に駆動され、停止特性変更部211から第二ポート251bに供給されるパイロット圧油が、第三ポート251cに出力される。第二ポート251bと第三ポート251cとを連通する弁路を流通する圧油の圧力は、ソレノイド251dに与えられる指令信号の大きさによって決定される。ここで、指令信号によって決定されるのは流通する圧油の上限圧であり、補正パイロット圧は、第二ポート251bに供給される圧油の圧力と、ソレノイド251dに与えられる指令信号によって決定される上限圧との低い方となる。また、ソレノイド251dに対して最大の指令信号を与えた場合には、第二ポート251bに供給される圧油の圧力によらず、第二ポート251bと第三ポート251cとを連通する弁路が全開となり、補正パイロット圧は停止特性変更部211の出力圧と等しくなる。停止特性変更部211の出力圧が安定化制御演算部60aによって指令された動作速度制限を満たす上限圧よりも高い場合には、パイロット圧油は速度制限用電磁比例弁251によって減圧され、指令された動作速度制限が実現される。一方、停止特性変更部211の出力圧が上限圧よりも低い場合には、パイロット圧油は速度制限用電磁比例弁251によって補正されず、停止特性変更部211の出力するパイロット圧油がブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eに供給される。また、安定化制御演算部60aにおいて動作速度制限指令が行われない場合も、パイロット圧油は速度制限用電磁比例弁251によって補正されない。
【0066】
以上で説明したように、本実施形態の停止特性変更部211は指令された緩停止を行うために、レバー操作パイロット圧油の補正が必要な場合のみ、緩停止用電磁比例弁221により緩停止パイロット圧油を出力し、補正の必要がない場合には、従来のパイロット圧油供給回路と同様、比例減圧弁121から出力されるレバー操作パイロット圧油を出力する。
【0067】
本実施形態の動作速度制限部241は、指令された動作速度制限を行うために停止特性変更部211から供給されるパイロット圧油を補正する必要がある場合のみ、速度制限用電磁比例弁251によりパイロット圧油を減圧し、補正の必要のない場合には、停止特性変更部211から供給されるパイロット圧油をそのまま出力する。つまり、緩停止指令および動作速度制限指令のいずれの指令も行われない場合や、レバー操作パイロット圧が緩停止指令および動作速度制限指令を満たしている場合には、停止特性変更部211および動作速度制限部241において、レバー操作パイロット圧は補正されず、従来のパイロット圧油供給回路と同様、比例減圧弁121から出力されるレバー操作パイロット圧油がブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eに供給される。このように、従来のパイロット圧油供給回路を生かした構成とすることによって、従来の操作性に影響を与えることなく、動作制限を行うことができる。
【0068】
<演算装置>
演算装置60は図示しないCPU、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、およびフラッシュメモリ等からなる記憶部、およびこれらを備えているマイクロコンビュータ並びに図示しない周辺回路などから構成され、例えばROMに格納されるプログラムにしたがって作動する。
【0069】
演算装置60は、作業機械1の各部に取り付けられた各センサからの信号が入力される入力部60x、入力部60xに入力される信号を受けて所定の演算を行う演算部60z、演算部60zからの出力信号を受けてパイロット圧補正部200への駆動指令を出力する出力部60yを備えている。
【0070】
<演算部>
以下、
図3を参照して演算部60zの詳細を説明する。
【0071】
演算部60zは、状態量検出部30から取り込まれる信号に応じて作業機械1を安定に保つために必要な動作制限を算出する安定化制御演算部60aと、安定化制御演算部60aからの出力に基づいてパイロット圧補正部200への駆動指令を算出する指令値生成部60iとから構成される。
【0072】
<安定化制御演算部>
前述のように、本実施形態の安定化制御装置190では、作業機械1を安定に保つための動作制限として、緩停止と動作速度制限を行う。安定化制御演算部60aは、状態量検出部30の検出結果に基づいて作業機械1の安定性を評価し、この安定性評価結果に基づいて動作制限の要否を判定し、動作制限が必要な場合には緩停止指令値および動作速度制限値を出力する。
【0073】
作業機械1の安定性の評価方法および動作制限の決定方法は、種々の方法が考えられるが、本実施形態では、安定性評価指標としてZMP(Zero Moment Point)を用い、急停止時の挙動予測に基づいて動作制限を算出する方法を適用する場合を例にとって説明する。
【0074】
前述のように、操作レバー50を操作状態から瞬時に停止指令状態に戻すような急停止操作時には、転倒方向に大きな慣性力が働き、作業機械1が不安定になりやすい。そのため、本実施形態の安定化制御演算部60aでは、急停止操作が行われると仮定した場合の作業機械1の挙動を予測し、急停止操作時にも安定状態が保たれるように動作制限を決定する。
【0075】
作業機械1を安定に保つための動作制限を算出する方法は、安定条件からの逆演算による方法と、適用する動作制限を変えて挙動予測および安定性評価を複数回繰り返す順演算による方法とがある。前者は一度の演算で最適な動作制限を算出できるが、複雑な演算式を導出する必要がある。一方、後者は、複数回の試行が必要であるが、比較的簡易な演算式を用いることができる。以下では、後者の手法を例にとって説明する。
【0076】
図3に示すように、安定化制御演算部60aは、速度推定部60bと、急停止時挙動予測部60cと、安定性判定部60dと、動作制限決定部60hの各機能ブロックから構成される。速度推定部60bでは、状態量検出部30の検出結果から各駆動アクチュエータの動作速度を推定する。急停止時挙動予測部60cでは、急停止操作が行われると仮定し、作業機械1が完全に停止するまでの作業機械1の挙動を予測する。安定性判定部60dでは、急停止時挙動予測部60cの予測結果に基づき、急停止過程のZMP軌跡を算出し、安定性を判定する。そして、動作制限決定部60hでは、安定性判定部60dの判断結果に基づいて、動作制限の要否を判断し、緩停止指令および動作速度制限指令を出力する。
【0077】
・ZMPに基づく安定性評価
安定化制御演算部60aの各機能ブロックの詳細を説明する前に、本実施形態において作業機械1の安定性の評価に用いるZMPと、ZMPを用いた安定性判定方法(ZMP安定判別規範)について説明する。なお、ZMPの概念ならびにZMP安定判別規範については「LEGGED LOCOMOTION ROBOTS:Miomir Vukobratovic著(「歩行ロボットと人工の足:加藤一郎訳,日刊工業新聞社」)により詳しく記載されている。
【0078】
ZMPは、対象物に加わるモーメントがゼ口になる路面上の点を意味する。作業機械1から地表面29には重力、慣性力、外力およびこれらのモーメントが作用するが、ダランベールの原理によればこれらは地表面29から作業機械1への反作用としての床反力および床反力モーメントとつりあう。したがって、作業機械1が地表面29に安定に接地している場合、作業機械1と地表面29との接地点を凹にならないように結んだ支持多角形の辺上あるいはその内側にピッチ軸およびロール軸方向のモーメントがゼロになる点が存在する。この点をZMPと呼ぶ。逆に言えば、ZMPが支持多角形内に存在し、作業機械1から地表面29に作用する力が地表面29を押す向きであれば作業機械1は安定に接地しているといえる。
【0079】
ZMPが支持多角形の中心に近いほど安定性は高く、支持多角形の内側にあれば作業機械1は安定状態を保ち、転倒することなく作業を行うことができる。一方、ZMPが支持多角形上に存在する場合には作業機械1は転倒を開始する。したがって、ZMPと作業機械1と地表面29とが形成する支持多角形とを比較することによって安定性を判定することができる。
【0080】
ZMPは、重力、慣性力、外力によって発生するモーメントの釣り合いから導出される以下の方程式の式(1)を用いて算出される。
【0082】
r
zmp:ZMP位置ベクトル
m
i:i番目の質点の質量
r
i:i番目の質点の位置ベクトル
r”
i:i番目の質点に加わる加速度ベクトル(重力加速度含む)
M
j:j番目の外力モーメント
s
k:k番目の外力作用点位置ベクトル
F
k:k番目の外力ベクトル
なお、各ベクトルはX成分、Y成分、Z成分で構成される3次元ベクトルである。
【0083】
作業機械1が静止状態にあり、作業機械1に対して重力のみが働く場合のZMPは、作業機械1の重心(質量中心)の地表面29への投影点と一致する。したがって、ZMPは動的状態と静的状態との両方を考慮した重心の地表面29への投影点として扱うことが可能であり、ZMPを指標として用いることによって、作業機械1が静止している場合と動作を行っている場合との両方を統一的に扱うことができる。
【0084】
<速度推定部>
速度推定部60bでは、状態量検出部30の検出結果をもとに、現在のレバー操作によって生じる各駆動アクチュエータの動作速度を推定する。一般に、作業機械1の各駆動アクチュエータの動作速度は、作業状況や負荷状態によって変化するものの、対応する操作レバー50の操作量、すなわちレバー操作パイロット圧に概ね比例して変化する。操作レバー50の操作と動作速度との間には油圧および機構による遅れが存在するため、レバー操作情報を用いることによって近未来の動作速度を予測することができる。そこで、速度推定部60bでは、過去のレバー操作パイロット圧と現在のレバー操作パイロット圧と現在の動作速度を用いて近未来の動作速度を予測する。
【0085】
具体的には、速度推定部60bでは、まず、過去のレバー操作パイロット圧と現在の動作速度から速度算出モデルを同定する。次に、同定された速度算出モデルに現在のレバー操作パイロット圧を入力することにより、近未来の動作速度を予測する。速度算出モデルはエンジン回転数、負荷の大きさ、姿勢、油温等によって時々刻々と変化することが予想されるが、微小な時刻間では作業状況の変化が小さいため、モデルの変化も小さいものと考えてよい。速度推定部60bのより簡易な実現部として、操作レバー50を操作してから駆動アクチュエータが動き始めるまでのむだ時間T
Lと、レバー操作パイロット圧と動作速度との比例係数α
vとを用いる方法がある。ここで、むだ時間T
Lは変化しないものと仮定し、あらかじめ求めておく。T
L秒後の速度は、以下の手順で算出する。
【0086】
(ステップ1)
T
L秒前のレバー操作パイロット圧P
lev(t−T
L)と現在の速度V(t)より以下の式(2)を用いて比例係数α
vを算出する。
【0088】
(ステップ2)
算出した比例係数α
vと現在のレバー操作パイロット圧P
lev(t)より以下の式(3)を用いてT
L秒後の速度の推定値v(t+T
L)を算出する。
【0090】
・急停止時挙動予測部
急停止時挙動予測部60cでは、急停止指令が行われると仮定し、急停止指令時の作業機械1の挙動を予測する。現在の姿勢情報と速度推定部60bの速度推定結果と急停止モデルとから、急停止指令が行われてから駆動アクチュエータが完全に停止するまでの位置軌跡、速度軌跡、加速度軌跡を算出する。急停止モデルとしては、例えば、急停止時の速度軌跡をモデル化し、その速度軌跡から位置軌跡および加速度軌跡を算出する方法が考えられる。あらかじめ急停止指令時の速度軌跡をモデル化し、時刻tにおいて急停止指令が行われたときの時刻(操作レバー開放時刻)からt
e秒後のシリンダ速度をV
stop(t,t
e)として与えたとき、t
e秒後のシリンダ長l
stop(t,t
e)とシリンダ加速度a
stop(t,t
e)は、急停止開始時のシリンダ、長l
stop(t,0)を用いて以下の式(4)で算出できる。
【0092】
実時間で急停止時挙動予測を行うためには、急停止時の速度軌跡を簡易なモデルでモデル化すると良い。急停止時の速度軌跡の簡易モデルとしては、1次遅れ系や多次遅れ系や多項式関数が考えられる。本実施形態の安定化制御では緩停止を行うため、急停止指令に加え、緩停止指令時の挙動についても同様のモデル化を行う。
【0093】
安定性判定部60dは、この急停止時挙動予測部60cにおいて算出された急停止時軌跡を用いて、急停止過程におけるZMP軌跡を算出し、安定性を判定する。
【0094】
具体的には、安定性判定部60dでは、まず、急停止時挙動予測部60cの予測結果を用いて、作業機械1の主要構成部材の重心の位置ベクトル軌跡と加速度ベクトル軌跡を算出する。そして、式(1)から導出される以下の式(5)および式(6)を用いてZMP軌跡を算出する。
【0097】
上式のrに各主要構成部材の重心の急停止時位置ベクトル軌跡を、r”に急停止時加速度ベクトル軌跡を代入することにより、急停止時のZMP軌跡を算出することができる。
【0098】
次に、算出された急停止時のZMP軌跡を用いて急停止時の安定性を判定する。前述のようにZMPが作業機械1と地表面29とで形成する支持多角形Lの十分内側の領域に存在する場合には、作業機械1は不安定になる可能性はほとんどなく、安定に作業を行うことができる。走行体2が地表面29に
正立している場合、支持多角形Lは、走行体2の平面形状と等しい。したがって、走行体2の平面形状が矩形の場合、支持多角形Lは
図6に示すように矩形となる。より具体的には、走行体2としてクローラを有している場合の支持多角形Lは左右のスプロケットの中心点を結んだ線を前方境界線、左右のアイドラの中心点を結んだ線を後方境界線、左右それぞれのトラックリンク外側端を左右の境界線とした四角形である。なお、前方および後方の境界は、最も前方の下部ローラおよび最も後方の下部ローラを接地点としても良い。
【0099】
安定性判定部60dでは、支持多角形Lを作業機械1が不安定となる可能性が十分に低い通常領域Jと不安定となる可能性の高い安定警告領域Nとに分け、ZMPがいずれの領域にあるかを判定することによって安定性を判定する。通常、領域Jと安定警告領域Nとの境界Kは、安全率に従って決定される比率に応じて支持多角形Lを中心点側に縮小した多角形、あるいは、安全率に従って決定される長さだけ支持多角形Lを内側に移動した多角形に設定される。安定性判定部60dでは、急停止時のZMP軌跡上の全ての点が通常領域Jにある場合に、安定性判定結果を「安定」として出力する。一方、急停止時のZMP軌跡が安定警告領域Nに侵入する場合、すなわち、急停止過程のいずれかの時点でZMPが安定警告領域Nに侵入する場合には、判定結果を「不安定」として出力する。
【0100】
・動作制限決定部
動作制限決定部60hでは、安定性判定部60dの判定結果を元に動作制限の要否を判定し、動作制限指令を算出する。本実施形態の安定化制御装置190では、作業機械1を安定に保つために緩停止と動作速度制限を行う。したがって、動作制限決定部60hは、動作制限指令として緩停止指令と動作速度制限指令を算出し、指令値生成部60iに出力する。
【0101】
前述のように、本実施形態の安定化制御演算部60aでは、挙動予測および安定性評価を必要に応じて複数回繰り返すことにより、安定化に必要な動作制限を算出する。動作制限および繰り返し演算の要否判定方法について、
図7を用いて説明する。
【0102】
図7において、第一回目の試行においては、速度推定部60bの推定結果および急停止モデルを用いる設定とし(ステップS71)、挙動予測(ステップS72)および安定性の判定を行う(ステップS73)。
【0103】
ステップS73における判定結果が「安定」であった場合には、動作制限を行わない(ステップS73のOK)。この場合には、「緩停止なし」、「動作速度制限ゲイン=1」を出力する(ステップS710)。
【0104】
一方、安定性判定部60dの判定結果が「不安定」であった場合(ステップS73のNG)は、急停止モデルに代えて緩停止モデルを用いる設定とし(ステップS74)、設定変更後での挙動予測(ステップS75)および安定性判定を行う(ステップS76)。
【0105】
ステップS76における安定性判定部60dの判定結果が「安定」であった場合(ステップS76のOK)は、動作速度制限ゲインを1とし、緩停止のみを行うように動作制限指令を行う(ステップS711)。
【0106】
一方、安定性判定部60dの判定結果が「不安定」であった場合(ステップS76のNG)は、速度推定値に動作速度制限ゲインα(<1)を乗じたものと、緩停止モデルとを用いる設定とし(ステップS77)、設定変更後での挙動予測(ステップS78)および安定性判定(ステップS79)を行う。
【0107】
安定性判定部60dの判定結果が「安定」であった場合(ステップS79のOK)は、緩停止
および動作速度制限ゲインαの動作速度制限を行うように動作制限指令を行う(ステップS712)。
【0108】
一方、安定性判定部60dの判定結果が「不安定」であった場合(ステップS79のNG)は、動作速度制限ゲインαを徐々に小さくし、安定性判定部60dの判定結果が「安定」となるまで、挙動予測(ステップS78)と安定性判定(ステップS79)を繰り返す。
【0109】
なお、上記では、緩停止指令時に選択される停止特性が一通りである場合を例にとって説明したが、複数の停止特性を設定し、安定状態に応じて緩停止の程度を変更するように構成しでも良い。緩停止の程度を表す指標としては、停止に要する時間(停止時間)、停止に要する距離(制動距離)、減速加速度、単位時間当たりのパイロット圧の低下量(パイロット圧変化率)等が例として挙げられ、複数の設定を設ける場合には、あらかじめそれぞれの設定のおいて満たすべき停止特性を定める。また、動作制限決定部60hでは、全ての緩停止設定において安定性判定結果が不安定となった場合に初めて動作速度を制限するように動作制限指令を算出する。
【0110】
<指令値生成部>
指令値生成部60iは、安定化制御演算部60aから出力された緩停止指令および動作速度制限指令に基づいて、パイロット圧補正部200の駆動指令値を生成し、演算装置60の出力部60yに出力する。
【0111】
より具体的には、指令値生成部60iは、緩停止指令値から停止特性変更部210の駆動指令値を、動作速度制限ゲインから動作速度制限部240の駆動指令値を算出する。本実施形態の安定化制御装置190では、
図5Aに示したように、ブーム伸長、ブーム縮小、アーム伸長、アーム縮小のそれぞれのパイロット油路に、各停止特性変更部211,212,213,214および各動作速度制限部241,242,243,244が設けられており、指令値生成部60iは、各停止特性変更部211,212,213,214および各動作速度制限部241,242,243,244に対して駆動指令値を算出する。以下では、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとって、ブーム伸長停止特性変更部211およびブーム伸長動作速度制限部241の駆動指令値の算出方法を説明する。まず、ブーム伸長停止特性変更部211の駆動指令値の算出方法について説明する。
【0112】
図5Bを用いて説明したように、本実施形態の停止特性変更部211は、緩停止用電磁比例弁221と緩停止用高圧選択部231とから構成されている。停止特性変更部211では、急減速操作あるいは停止操作が行われた場合に、動作制限決定部60hから出力された緩停止指令を満たすパイロット圧油を生成するように緩停止用電磁比例弁221を駆動することにより、駆動アクチュエータを緩やかに停止させる。同様に、停止特性変更部212は、緩停止用電磁比例弁222と緩停止用高圧選択部232とから構成され、動作速度制限部242は速度制限用電磁比例弁252から構成される。緩停止用電磁比例弁222および速度制限用電磁比例弁252は後述する演算装置60から出力される指令信号により駆動される。
【0113】
緩停止を行うための駆動指令の算出方法は、緩停止時の停止特性の設定方法により種々考えられるが、以下では、停止特性としてブーム流量制御弁111に供給するパイロット圧油の圧力の変化率を指令し、レバー操作パイロット圧を
図4Aに示す補正曲線を用いて補正する場合を例にとって説明する。
【0114】
前述のように、ブーム流量制御弁111に供給するパイロット圧油の圧力と駆動アクチュエータの動作速度は比例の関係にある。このため、減速および停止操作時のレバー操作パイロット圧の変化率が指令値よりも大きい場合は指令された停止特性よりも速やかに減速し、指令値よりも小さい場合は、指令された停止特性よりも緩やかに減速する。本実施形態の安定化制御装置190において動作制限を行う必要があるのは、指令された停止特性よりも速やかに停止する場合である。
【0115】
このために、指令値生成部60iでは、まず、レバー操作パイロット圧の変化率と変化率指令値を比較する。そして、レバー操作パイロット圧の変化率が変化率指令値よりも大きい場合には、
図4Aに示す補正曲線を用いて、パイロット圧が変化率指令値を満たす単調減少となるように補正する。つまり、停止特性変更部211の出力するパイロット圧油の圧力を以下の式(7)のようにする。
【0117】
ここで、P
lev(t)は時刻tにおけるレバー操作パイロット圧、P
211(t)は時刻tにおいて停止特性変更部211の出力するパイロット圧油の圧力、kはパイロット圧変化率指令値である。停止特性変更部211においてレバー操作パイロット圧油を補正せずに出力する場合には、緩停止用電磁比例弁221を駆動する必要はなく、レバー操作パイロット圧の変化率が変化率指令値よりも大きい場合のみ、式(7)で算出される圧力の緩停止パイロット圧油を生成するように緩停止用電磁比例弁221を駆動すれば良い。したがって、緩停止用電磁比例弁221の指令圧は以下の式(8)のように算出する。
【0119】
ここで、P
221c(t)は時刻tにおける緩停止用電磁比例弁221の指令圧である。
【0120】
緩停止用電磁比例弁221の出力する圧油の圧力は指令信号の大きさによって決定され、指令信号と圧力との関係は、弁の出力特性として、例えば、
図8Aのように与えられる。緩停止用電磁比例弁221への駆動指令値は、式(8)で算出される指令圧と緩停止用電磁比例弁221の出力特性を用いて決定する。例えば、
図8Bに示した補正を行う場合の緩停止用電磁比例弁221への駆動指令値は
図8Cのように算出される。
【0121】
本実施形態の安定化制御装置190では、ブームシリンダ11およびアームシリンダ13に対して動作制限を行うため、ブーム伸長緩停止用電磁比例弁221、ブーム縮小緩停止用電磁比例弁222、アーム伸長緩停止用電磁比例弁、アーム縮小緩停止用電磁比例弁の4つの緩停止用電磁比例弁が備えられている。指令値生成部60iは、それぞれの緩停止用電磁比例弁に対して、それぞれの対応するレバー操作パイロット圧を用いて駆動指令値を算出する。
【0122】
次に、ブーム伸長動作速度制限部241の駆動指令値の算出方法について説明する。前述のように、本実施形態では動作速度制限部241として速度制限用電磁比例弁251を備えており、速度制限用電磁比例弁251への駆動指令値によって、ブーム流量制御弁111のパイロットポートに供給されるパイロット圧油の上限圧が決定される。駆動アクチュエータの動作速度はパイロット圧に概ね比例するため、動作制限決定部60hから出力された動作速度制限ゲインに基づいて速度制限用電磁比例弁251の駆動指令値を算出すればよい。
【0123】
具体的には、速度制限用電磁比例弁251に対して最大の駆動指令を与えた場合には、停止特性変更部211から速度制限用電磁比例弁251に入力されるパイロット圧油の圧力によらず、入力された圧油が補正されることなく出力される。したがって、動作速度制限ゲインが1である場合は、速度制限用電磁比例弁251に対し、最大の駆動指令を行う。
【0124】
一方、動作速度制限ゲインが1未満の場合は、レバー操作パイロット圧を減ずる必要があるため、動作速度制限ゲインに応じて、レバー操作パイロット圧を減圧するように駆動指令を行う。ここで、動作速度制限ゲインは、レバー操作によって指令された動作速度からの必要な減速率を表しており、レバー操作パイロット圧に対して行うべき減圧率と考えて良い。つまり、速度制限用電磁比例弁251から出力される補正パイロット圧油の圧力を、レバー操作パイロット圧に動作速度制限ゲインを乗じた圧力以下とするように、速度制限用電磁比例弁251を駆動すれば良い。したがって、速度制限用電磁比例弁251の指令圧は以下のように算出される。
【0126】
ここで、P
251c(t)は時刻tにおける速度制限用電磁比例弁251の指令圧であり、P
MAXは速度制限用電磁比例弁251の定格圧力である。
【0127】
緩停止用電磁比例弁221の場合と同様、速度制限用電磁比例弁251の出力する圧油の圧力は指令信号の大きさによって決定され、指令信号と圧力との関係は、弁の出力特性として、例えば、
図8Aのように与えられる。速度制限用電磁比例弁251への駆動指令値は、式(9)で算出される指令圧と速度制限用電磁比例弁251の出力特性を用いて決定する。例えば、
図8Bに示した補正を行う場合の速度制限用電磁比例弁251への駆動指令値は
図8Dのように算出される。
【0128】
本実施形態の安定化制御装置190では、ブームシリンダ11およびアームシリンダ13に対して動作制限を行うため、ブーム伸長速度制限用電磁比例弁251、ブーム縮小速度制限用電磁比例弁252、アーム伸長速度制限用電磁比例弁(図示せず)、アーム縮小速度制限用電磁比例弁(図示せず)の4つの速度制限用電磁比例弁が備えられており、指令値生成部60iは、それぞれの電磁比例弁に対して駆動指令値を算出する。駆動指令値は、それぞれ対応するレバー操作パイロット圧から式(9)を用いて算出する。このようにレバー操作パイロット圧に基づいて駆動指令を算出することによって、作業状態によってパイロット圧と動作速度との関係が変化する場合であっても、速度制限用電磁比例弁251によって、安定化制御演算部60aから指令された動作速度制限を確実に実現することができる。
【0129】
<作用>
以上で説明したように、本実施形態によれば、作業機械1に対して無理な操作や誤った操作を行った場合にも、作業機械1を安定に保つために必要な動作制限が行われ、安定性を損なうことなく、作業を継続させることができる。また、本実施形態では、動作制限が必要な場合のみ、パイロット圧補正部200における補正を行い、動作制限の必要のない場合には従来と同様に比例減圧弁群から出力されるパイロット圧油を用いて駆動アクチュエータを駆動する構成を有しており、従来の操作性を損なうことなく、動作制限を行うことができる。したがって、本実施形態の安定化制御装置190により、操作性および安定性の高い作業機械を提供することができる。
【0130】
<第1の実施形態の変更例>
<センサ構成>
上記の実施形態では、姿勢検出部49として作業機械1の傾きを検出するための姿勢センサ3bを設ける例を示したが、作業中に作業機械1の傾きが変化しない場合には、作業機械1の傾きを一定値とし、姿勢センサ3bを設けない構成としても良い。
【0131】
また、上記の実施形態では、レバー操作量検出部50aとして、ブーム伸長操作量センサ51と、ブーム縮小操作量センサ52と、アーム伸長操作量センサ53と、アーム縮小操作量センサ54と、アタッチメント伸長操作量センサ55と、アタッチメント縮小操作量センサ56と、右旋回操作量センサ57と、左旋回操作量センサ58とを設ける例を示したが、動作制限を適用する駆動アクチュエータへのレバー操作にコいてのみセンサを設ける構成としても良い。例えば、ブームシリンダ11およびアームシリンダ13に対して動作制限を行う場合には、アタッチメント伸長操作量センサ55と、アタッチメント縮小操作量センサ56と、右旋回操作量センサ57と、左旋回操作量センサ58を省略する構成としても良い。
【0132】
<対象とする駆動アクチュエータ>
上記の実施形態では、ブームシリンダ11、およびアームシリンダ13に対して動作制限を行う場合を例にとって説明したが、ブームシリンダ11、アームシリンダ13に加えて、旋回モータ7やアタッチメントシリンダ、15に対して動作制限を行うように構成しても良い。
【0133】
この場合には、ブーム伸長、ブーム縮小アーム伸長、アーム縮小の各パイロット油路に加え、右旋回、左旋回、アタッチメント伸長、アタッチメント縮小の各パイロット油路に各パイロット圧補正部を設けて、指令値生成部60iにおいて、ブーム伸長、ブーム縮小、アーム伸長、アーム縮小の各パイロット圧補正部201,202,203,204への駆動指令に加えて、右旋回、左旋回、アタッチメント伸長、アタッチメント縮小の各パイロット圧補正部への駆動指令を生成するように構成すればよい。
【0134】
<動作速度制限部の変更例>
以下では、パイロット圧補正部の変更例について、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとって説明する。
【0135】
上記の実施形態では、ブーム伸長動作速度制限部241として、常時閉式の特性を持つ速度制限用電磁比例弁251を用いる例を示したが、速度制限用電磁比例弁251は、ブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eに供給するパイロット圧油の圧力を指令圧まで減圧する機能を有すれば良く、必ずしも上記の特性を持つ弁である必要はない。例えば、速度制限用電磁比例弁251の他の例としては、
図9Aに示すような常時開式の特性を持つ電磁比例弁が挙げられる。
【0136】
具体的には、
図9Aに示すように、速度制限用電磁比例弁251を常時開式の電磁比例弁とする。この場合、ソレノイド251dが励磁されていない時には、第二ポート251bと第三ポート251cとを連通する弁路が全開、第一ポート251aが全閉となり、停止特性変更部211からのパイロット圧油が減圧されることなくブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eに供給される。これに対し、演算装置60からの指令信号によってソレノイド251dが励磁されると、第二ポート251bと第三ポート251cとを連通する弁路が閉じる方向に駆動され、停止特性変更部211からのパイロット圧油が指令圧まで減圧される。また、ソレノイド251dへの指令信号が最大である場合には、第一ポート251aと第三ポート251cとを連通する弁路が全開、第二ポート251bが全閉となる。このとき、ブーム流量制御弁111へのパイロット圧油の供給は停止され、ブーム流量制御弁111のパイロットポートに接続されるパイロット油路の圧油は作動油タンク103に排出される。
【0137】
このような特性を有する電磁比例弁を用いる場合には、指令値生成部60iにおいて、動作制限決定部60hから出力される動作速度制限ゲインが1の場合はソレノイド251dを非励磁状態とし、動作速度制限ゲインが1未満の場合は速度制限用電磁比例弁251の指令圧を式(9)によって算出される圧力とするように駆動指令を行う。
【0138】
速度制限用電磁比例弁251として常時閉式の電磁比例弁を用いる場合と常時開式を用いる場合の特徴を説明する。
【0139】
図5Bに示すような常時閉式とする場合には、演算装置60や、演算装置60と速度制限用電磁比例弁251とを接続する電気回路に不具合が生じ、ソレノイド251dへの指令信号が与えられなかった場合に、ソレノイド251dが非励磁状態となり、ブーム流量制御弁111へのパイロット圧油の供給が停止され、駆動アクチュエータは停止状態となる。一方、速度制限用電磁比例弁251を常時開式とすると、ソレノイド251dへの指令信号が与えられなかった場合には、停止特性変更部211の出力するパイロット圧油がブーム流量制御弁111へ供給されるため、動作速度が制限されないまま、駆動アクチュエータの動作が継続される。
【0140】
また、常時閉式の速度制限用電磁比例弁251を用いる場合には、動作速度制限部241において補正の必要がない時に、常に演算装置60から最大の指令信号を出力する必要があるが、常時開式を用いる場合には指令信号を零とすれば良く、必要な電流量は常時開式を用いるほうが少なくなる傾向がある。
【0141】
したがって、安全性の観点では常時閉式が、利便性、電流量の観点では常時開式が優れている。いずれの特性の電磁比例弁を用いるかは、適用する作業機械において求められる安全性、利便性、および演算装置の性能を考慮して決定すれば良い。
【0142】
また、上記の実施形態では、動作速度制限部241として速度制限用電磁比例弁251を設ける例を示したが、動作速度制限部241は、ブーム流量制御弁111に供給するパイロット圧油の圧力を指令圧まで減圧する機能を有すればよく、電磁比例弁以外の他の構成を用いても良い。他の構成例として、速度制限用電磁比例弁251に代えて速度制限用電磁比例リリーフ弁261を備えている構成が考えられる。動作速度制限部として速度制限用電磁比例リリーフ弁261を備えている場合のブーム伸長パイロット圧補正部201の概略構成を
図9Bに示した。
【0143】
具体的には、
図9Bに示すように、速度制限用電磁比例リリーフ弁261は、入力ポート261aとタンクポート261bとソレノイド261cとを備えており、入力ポート261aは停止特性変更部211とブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eとを接続するパイロット油路に、タンクポート261bは作動油タンク103にそれぞれ接続される。ソレノイド261cは演算装置60からの指令信号によって励磁され、その指令信号の大きさによって、速度制限用電磁比例リリーフ弁261の設定圧が決定される。
【0144】
速度制限用電磁比例リリーフ弁261では、入力ポート261a側の圧力が設定圧よりも高い場合には、入力ポート261aとタンクポート261bとを連通する弁路が開き、入力ポート261aに接続される油路の圧油が作動油タンク103に排出される。これにより、入力ポート261a側の圧力、すなわち、停止特性変更部211からブーム流量制御弁111のブーム伸長側パイロットポート111eへ供給されるパイロット圧油の圧力は、設定圧以下に保たれる。また、入力ポート261aとタンクポート261bとを連通する弁路が全閉である場合には、パイロット圧油は速度制限用電磁比例リリーフ弁261によって補正されない。したがって、速度制限用電磁比例リリーフ弁261の設定圧を、安定化制御演算部60aによって指令された動作速度制限を満たす上限圧とすることによって、速度制限用電磁比例弁251を用いる場合と同様に、動作速度制限を行うことができる。
【0145】
動作速度制限部241として速度制限用電磁比例リリーフ弁261を用いる場合には、指令値生成部60iにおいて、動作制限決定部60hから出力される動作速度制限ゲインが1の場合は、設定圧が最大となるように駆動指令値を算出すれば良い。また、動作速度制限ゲインが1未満の場合は、設定圧が式(9)によって算出される指令圧となるように駆動指令値を算出すれば良い。
【0146】
<緩停止用電磁比例弁の駆動指令>
上記の実施形態では、指令値生成部60iにおいて、レバー操作パイロット圧が指令された停止特性よりも急激に低下する場合のみ、緩停止用電磁比例弁221へ駆動指令を行う例を示した。そして、上記の例では、レバー操作パイロット圧が低下しない場合や、指令された停止特性よりも緩やかに低下する場合には指令信号を零とした。
【0147】
しかし、一般に電磁比例
弁へ駆動信号を行ってから出力される圧油が指令圧になるまでには、ある程度の遅れがある。緩停止用電磁比例弁221の応答性が低い場合には、指令圧までの立ち上がりのタイムラグにより、圧力が一時的に低下し、正確に緩停止が行われない可能性がある。このような問題を回避するために、緩停止用電磁比例弁221に対し、常に待機信号を与えるように構成しても良い。この場合の待機信号の大きさは、緩停止パイロット圧がレバー操作パイロット圧を超えない大きさとし、緩停止用電磁比例弁221の応答性を考慮して決定すればよい。
【0148】
<動作速度制限指令算出方法の変更例>
上記の実施形態では、動作制限決定部60hにおいて動作速度制限ゲインを算出し、指令値生成部60iにおいて、動作速度制限ゲインとレバー操作パイロット圧とを用いて速度制限用電磁比例弁251の駆動指令値を算出する例を示した。このような構成とすることにより、パイロット圧と動作速度との関係が作業状態によって変化する場合においても、適切に動作速度制限を行うことができる。
【0149】
一方、作業状態によらず、パイロット圧から動作速度が一意に決定される場合には、以下のように構成しても良い。動作制限決定部60hにおいて、動作速度制限ゲインを算出する代わりに、動作速度の上限値を算出する。また、指令値生成部60iにおいて、パイロット圧と動作速度との関係式を用いて、動作速度上限値からパイロット圧上限値を算出し、このパイロット圧上限値を速度制限用電磁比例弁251の指令圧として、駆動指令を行う。
【0150】
<第2の実施形態>
本発明の作業機械の第2の実施形態を
図10を用いて説明する。
【0151】
本実施形態では、停止特性変更部210として、第1の実施形態で用いた緩停止用電磁比例弁221,222を含む緩停止用電磁比例弁群と緩停止用高圧選択部231,232を含む緩停止用高圧選択部群とに代えて、緩停止用電磁比例圧力保持弁271,272を含む電磁比例圧力保持弁群と緩停止用逆止弁281,282を含む逆止弁群とを用いる。以下では、
図10を参照し、主に第1の実施形態との相違点を説明する。なお、
図1乃至
図9Bと同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。以下の実施形態においても同様とする。
【0152】
<パイロット圧補正部>
本実施形態のパイロット圧補正部200は、第1の実施形態と同様、停止特性変更部210と動作速度制限部240とから構成される。安定化制御演算に基づく動作制限をブームシリンダ11およびアームシリンダ13に対して適用するために、作業機械1には、パイロット圧補正部200として、ブーム伸長パイロット圧補正部201、ブーム縮小パイロット圧補正部202、アーム伸長パイロット圧補正部(図示せず)、アーム縮小パイロット圧補正部(図示せず)が設けられる。各パイロット圧補正部201,202の構成はいずれについても同様の構成であり、ブーム伸長パイロット圧補正部201はブーム伸長停止特性変更部211とブーム伸長動作速度制限部241を備え、ブーム縮小パイロット圧補正部202はブーム縮小停止特性変更部212とブーム縮小動作速度制限部242を備えている。図示しないアーム伸長パイロット圧補正部も同様にアーム伸長停止特性変更部とアーム伸長動作速度制限部を備え、アーム縮小パイロット圧補正部もアーム縮小停止特性変更部とアーム縮小動作速度制限部を備えている。本実施形態の各動作速度制限部241,242…の構成は第1の実施形態と同様である。以下では、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとり、ブーム伸長停止特性変更部211についてのみ説明する。
【0153】
<停止特性変更部>
本実施形態のブーム伸長停止特性変更部211は、電磁比例圧力保持弁群としての緩停止用電磁比例圧力保持弁271と逆止弁群としての緩停止用逆止弁281とから構成される。
【0154】
緩停止用逆止弁281は、圧油の流れ方向を制限する弁であり、緩停止用電磁比例圧力保持弁271は、パイロット圧油の作動油タンク103への排出を制御する弁である。緩停止用逆止弁281および緩停止用電磁比例圧力保持弁271は、比例減圧弁121と動作速度制限部241とを接続する油路に並列に設けられる。すなわち、比例減圧弁121と動作速度制限部241との間には、緩停止用逆止弁281を備えたパイロット油路と緩停止用電磁比例圧力保持弁271を備えたパイロット油路とが設けられており、圧油はいずれかの油路を流通する。以下では緩停止用逆止弁281と緩停止用電磁比例圧力保持弁271の詳細を説明する。
【0155】
緩停止用逆止弁281は、圧油の流れ方向を制限する弁であって、入力ポート281aおよび出力ポート281bを備えている。緩停止用逆止弁281の入力ポート281aには比例減圧弁121の第三ポート121cが、出力ポート281bには動作速度制限部241を構成する速度制限用電磁比例弁251の第二ポート251bが接続され、比例減圧弁121から動作速度制限部241への圧油の流れを自由流れとし、動作速度制限部241から比例減圧弁121への圧油の流れを遮断する。したがって、圧油は、比例減圧弁121から動作速度制限部241へ流通する場合には、緩停止用逆止弁281を備えたパイロット油路を通り、動作速度制限部241から比例減圧弁121へ流通する場合には緩停止用電磁比例圧力保持弁271を備えたパイロット油路を流通する。
【0156】
前述のように、パイロット油路の圧油の流れの方向は、操作レバー50の操作状態によって決定される。操作レバー50を、比例減圧弁121から出力されるレバー操作パイロット圧を増大させる方向に操作した場合には、比例減圧弁121からパイロット油路へパイロット圧油が供給され、レバー操作パイロット圧を低下させる方向に操作した場合には、パイロット油路の圧油が比例減圧弁121の第一ポート121aと第三ポート121cとを連通する弁路を流通して作動油タンク103に排出される。したがって、本実施形態の停止特性変更部211は、レバー操作パイロット圧を増大させる場合の圧油の供給を自由流れとし、レバー操作パイロット圧を低下させる場合、すなわち、駆動アクチュエータを減速させる場合の圧油の流通を緩停止用電磁比例圧力保持弁271よって制御する構成である。
【0157】
緩停止用電磁比例圧力保持弁271は、第一ポート271a、第二ポート271b、およびソレノイド271cを備えており、第一ポート271aは速度制限用電磁比例弁251の第二ポート251bと、第二ポート271bは比例減圧弁121の第三ポート121cとそれぞれ接続される。ソレノイド271cは演算装置60からの指令信号によって励磁され、その指令信号の大きさによって、緩停止用電磁比例圧力保持弁271の保持圧が決定される。
【0158】
緩停止用電磁比例圧力保持弁271では、第一ポート271a側の圧力が保持圧よりも高い場合には、第一ポート271aと第二ポート271bとを連通する弁路が開き、第一ポート271aから第二ポート271bへ圧油が供給される。前述のように、圧油が緩停止用電磁比例圧力保持弁271を通過するのは、動作速度制限部241から比例減圧弁121へ圧油が流通する場合のみであり、この時、比例減圧弁121に供給された圧油は、比例減圧弁121の第一ポート121aと第三ポート121cとを連通する弁路を流通して作動油タンク103へ排出される。つまり、緩停止用電磁比例圧力保持弁271は、緩停止用電磁比例圧力保持弁271と動作速度制限部241とを連結するパイロット油路の圧油の圧力が保持圧よりも高い場合には圧油を作動油タンク103に排出し、保持圧よりも低い場合には作動油タンク103への排出を遮断する。これによって、パイロット圧油の圧力を保持圧に保つ。
【0159】
ソレノイド271cが励磁されていない場合には、パイロット油路の圧油の圧力によらず、第一ポート271aと第二ポート271bとを連通する弁路が全開となり、作動油タンク103への排出が自由に行われる。
【0160】
一方、緩停止用電磁比例圧力保持弁271に対して最大の駆動指令を行うと、第一ポート271aと第二ポート271bとを連通する弁路が閉じ状態となり、駆動アクチュエータを減速あるいは停止させるように操作レバー50を操作した場合においても、パイロット油路の圧油が作動油タンク103に排出されない。このとき、動作速度制限部241に供給されるパイロット圧油の圧力はレバー操作によって比例減圧弁121から出力されたレバー操作パイロット圧の最大圧に保たれ、駆動アクチュエータは減速されることなく動作を継続する。
【0161】
このように、緩停止用電磁比例圧力保持弁271の保持圧を緩やかに低下させることにより、パイロット圧油の圧力を緩やかに低下させ、駆動アクチュエータを緩やかに減速させることができる。したがって、緩停止用電磁比例圧力保持弁271の保持圧を、安定化制御演算部60aによって指令された緩停止の停止特性を満たす圧力とすることによって、緩停止用電磁比例弁221を用いる場合と同様に、指令された緩停止を行うことができる。
【0162】
<演算装置>
演算装置60は、第1の実施形態と同様に、作業機械1の各部に取り付けられた各センサからの信号が入力される入力部60x、入力部60xに入力される信号を受けて所定の演算を行う演算部60z、演算部60zからの出力信号を受けてパイロット圧補正部200への駆動指令を出力する出力部60yを備えている。演算部60zは、作業機械1を安定に保つための動作制限を算出する安定化制御演算部60aと、パイロット圧補正部200への駆動指令を算出する指令値生成部60iとから構成される。
【0163】
第2の実施形態の演算装置60において、第1の実施形態と異なるのは、指令値生成部60iにおける停止特性変更部210への駆動指令の算出方法のみである。以下では、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとり、指令値生成部60iにおける緩停止用電磁比例圧力保持弁271への駆動指令の算出方法についてのみ説明する。
【0164】
<指令値生成部>
本実施形態のブーム伸長停止特性変更部211は、緩停止用逆止弁281と緩停止用電磁比例圧力保持弁271とから構成されており、停止特性変更部211の出力するパイロット圧油が動作制限決定部60hから出力された緩停止指令を満たす圧力となるように、緩停止用電磁比例圧力保持弁271を駆動することにより、駆動アクチュエータを緩やかに停止させる。
【0165】
以下では、第1の実施形態と同様に、停止特性としてブーム流量制御弁111に供給するパイロット圧油の圧力の変化率を指令し、レバー操作パイロット圧を
図4Aに示す補正曲線を用いて補正する場合を例にとって、緩停止用電磁比例圧力保持弁271への駆動指令値の算出方法を説明する。
【0166】
本実施形態において指令された緩停止を行うためには、停止特性変更部211の出力圧を式(7)で算出される圧力とする必要がある。緩停止用電磁比例圧力保持弁271を圧油が流通しない場合や、緩停止用電磁比例圧力保持弁271において出力圧を補正する必要がない場合には、緩停止用電磁比例圧力保持弁271を駆動する必要はない。つまり、レバー操作パイロット圧の変化率が変化率指令値よりも大きい場合のみ、保持圧を式(7)で算出される圧力とするように駆動すればよい。したがって、緩停止用電磁比例圧力保持弁271の保持圧は、第1の実施形態の緩停止用電磁比例弁221の指令圧と同様に式(8)を用いて算出される圧力とすればよい。また、緩停止用電磁比例圧力保持弁271の保持圧はソレノイド271cに与えられる指令信号の大きさによって決定され、指令信号と圧力との関係は、弁の出力特性としてあらかじめ与えられる。したがって、緩停止用電磁比例圧力保持弁271への駆動指令値は式(8)で算出される保持圧と、弁の出力特性とを用いて算出する。
【0167】
<特長>
本実施形態のような態様の停止特性変更部211を用いると、定常的な動作指令操作時や増速操作時等、レバー操作パイロット圧を低下させないような操作時には、レバー
操作パイロット圧油は緩停止用逆止弁281を備えた油路を流通し、補正されることなく出力される。また、安定化制御演算部60aにより指令された緩停止の停止特性よりも緩やかに停止させるような操作が行われた場合にも、緩停止用電磁比例圧力保持弁271による補正は行われない。
【0168】
一方、レバー操作パイロット圧が安定化制御演算部60aから指令された緩停止の停止特性よりも急激に低下する場合には、緩停止用電磁比例圧力保持弁271は、停止特性変更部211の出力圧が指令された緩停止の停止特性を満たす圧力となるように駆動され、緩停止用電磁比例圧力保持弁271によってパイロット圧油の作動油タンク103への排出が制御され、指令された停止特性の緩停止が実現される。
【0169】
したがって、本実施形態の停止特性変更部211は第1の実施形態の停止特性変更部211と同様、レバー操作パイロット圧油の圧力が安定化制御演算部60aから指令された緩停止指令を満たさない場合のみ補正を行う構成であり、従来の操作性に影響を与えることなく、動作制限を行うことができる。
【0170】
また、本実施形態の停止特性変更部211は、緩停止用逆止弁281により、比例減圧弁121からブーム流量制御弁111へのパイロット圧油の流れを自由流れとしていることから、緩停止用電磁比例圧力保持弁271は、ソレノイド271cの駆動状態によらず、駆動アクチュエータを駆動する方向の圧油の流通に影響を及ぼさない。
【0171】
また、第1の実施形態の停止特性変更部211では、パイロットポンプ102の吐出する圧油を用いて緩停止パイロット圧を生成するのに対し、第2の実施形態の停止特性変更部211では、パイロット圧油の作動油タンクへの排出を制御することによってパイロット圧の低下を緩やかにして緩停止を実現する。つまり、第2の実施形態では、緩停止をパイロット油路へ新たに圧油を流入することなく実現しており、緩停止用電磁比例圧力保持弁271に対して誤った指令信号が与えられた場合にも、操作レバーが非操作状態において駆動アクチュエータが動作する恐れがなく、安全性が高い、との利点を有している。
【0172】
<第3の実施形態>
本発明の作業機械の第3の実施形態を
図11を用いて説明する。
【0173】
第2の実施形態では、停止特性変更部210として緩停止用逆止弁281,282を含む逆止弁群と緩停止用電磁比例圧力保持弁271,272を含む電磁比例圧力保持弁群を用いたが、本実施形態では緩停止用電磁比例圧力保持弁271,272を含む電磁比例圧力保持弁群に代えて、緩停止用電磁比例流量制御弁291,292
を含む電磁比例流量制御弁群を用いる。以下では、
図11を参照し、主に第1および第2の実施形態との相違点を説明する。
【0174】
<パイロット圧補正部>
本実施形態のパイロット圧補正部200は、第1および第2の実施形態と同様、停止特性変更部210と動作速度制限部240とから構成される。作業機械1には、パイロット圧補正部200として、ブーム伸長パイロット圧補正部201、ブーム縮小パイロット圧補正部202、アーム伸長パイロット圧補正部(図示せず)、アーム縮小パイロット圧補正部(図示せず)が設けられる。各パイロット圧補正部201,202の構成はいずれについても同様の構成であり、ブーム伸長パイロット圧補正部201はブーム伸長停止特性変更部211とブーム伸長動作速度制限部241を備え、ブーム縮小パイロット圧補正部202はブーム縮小停止特性変更部212とブーム縮小動作速度制限部242を備えている。図示しないアーム伸長パイロット圧補正部はアーム伸長停止特性変更部とアーム伸長動作速度制限部を備え、アーム縮小パイロット圧補正部もアーム縮小停止特性変更部とアーム縮小動作速度制限部を備えている。本実施形態の各動作速度制限部241,242…は第1の実施形態と同様である。以下では、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとり、ブーム伸長停止特性変更部211についてのみ説明する。
【0175】
<停止特性変更部>
本実施形態のブーム伸長停止特性変更部211は、緩停止用逆止弁281と緩停止用電磁比例流量制御弁291とから構成される。緩停止用逆止弁281は、圧油の流れ方向を制限する弁であり、緩停止用電磁比例流量制御弁291は、パイロット油路の圧油の作動油タンク103への排出を制御する弁である。
【0176】
緩停止用電磁比例流量制御弁291は、第2の実施形態の緩停止用電磁比例圧力保持弁271の代わりに設けられる弁であり、緩停止用逆止弁281および緩停止用電磁比例流量制御弁291は、比例減圧弁121と動作速度制限部241とを接続する油路に並列に設けられる。
【0177】
緩停止用逆止弁281の構成および作用は第2の実施形態と同様であり、本実施形態の停止特性変更部211は、レバー操作パイロット圧を増大させる場合の圧油の供給を自由流れとし、レバー操作パイロット圧を低下させる場合、すなわち、駆動アクチュエータを減速させる場合の圧油の流通を緩停止用電磁比例流量制御弁291よって制御する構成である。以下では、緩停止用電磁比例流量制御弁291の詳細を説明する。
【0178】
緩停止用電磁比例流量制御弁291は、第一ポート291a、第二ポート291b、およびソレノイド291cを備えており、第一ポート291aは速度制限用電磁比例弁251の第二ポート251bと、第二ポート291bは比例減圧弁121の第三ポート121cとそれぞれ接続される。第一ポート291aと第二ポート291bとを連通する弁路には開度を変更可能な絞り291dが設けられている。ソレノイド291cは演算装置60からの指令信号によって励磁され、その指令信号の大きさによって、絞り291dの開度が決定される。
【0179】
前述のように、圧油が緩停止用電磁比例流量制御弁291を通過するのは、動作速度制限部241から比例減圧弁121へ圧油が流通する場合のみであり、緩停止用電磁比例流量制御弁291は、駆動アクチュエータを減速させる操作が行われた場合のパイロット圧油の作動油タンク103への排出を制御する機能を持つ。絞り291dの開度によって第一ポート291aと第二ポート291bを連通する弁路を流通する圧油の流量が決定される。
【0180】
具体的には、絞り291dの開度が大きい場合には、弁路を流通できる流量が大きく、パイロット圧油は作動油タンク103へ速やかに排出される。それに伴い、パイロット圧油の圧力は速やかに低下する。絞り291dの開度を最大とした場合には、圧油の流通は自由流れとなる。一方、絞り291dの開度を小さくすると、第一ポート291aから第二ポート291bへ流通する圧油の流量が制限され、パイロット圧油の作動油タンク103への排出が緩やかになるため、パイロット圧油の圧力は緩やかに低下する。したがって、緩停止用電磁比例流量制御弁291の絞り291dの開度を適切に調整することにより、指令された停止特性の緩停止を行うことができる。
【0181】
<演算装置>
演算装置60は、第1および第2の実施形態と同様に、作業機械1の各部に取り付けられた各センサからの信号が入力される入力部60x、入力部60xに入力される信号を受けて所定の演算を行う演算部60z、演算部60zからの出力信号を受けて、パイロット圧補正部200への駆動指令を出力する出力部60yを備えている。演算部60zは、作業機械1を安定に保つための動作制限を算出する安定化制御演算部60aと、パイロット圧補正部200への駆動指令を算出する指令値生成部60iとから構成される。
【0182】
第3の実施形態の演算装置において、第1および第2の実施形態と異なるのは、指令値生成部60iにおける停止特性変更部210への駆動指令の算出方法のみである。以下では、ブーム伸長パイロット圧油の補正を例にとり、指令値生成部60iにおける緩停止用電磁比例流量制御弁291への駆動指令の算出方法について説明する。
【0183】
<指令値生成部>
本実施形態のブーム伸長停止特性変更部211は、緩停止用逆止弁281と緩停止用電磁比例流量制御弁291とから構成されており、緩停止用電磁比例流量制御弁291の内部に設けられた絞り291dの開度を適切に調整することによって、駆動アクチュエータの停止特性を所望の特性へ変更する。
【0184】
前述のとおり、駆動アクチュエータを減速させる操作を行った場合、動作速度制限部241へ供給されるパイロット圧油の圧力は、絞り291dの開度を大きくするほど急激に低下し、開度を小さくするほど緩やかに低下する。この停止特性と絞り291dの開度との関係は、弁の流量特性としてあらかじめ与えられる。そして絞り291dの開度を最大とした場合には、圧油の流通は自由流れとなる。したがって、停止特性変更部211において、レバー操作パイロット圧の補正の必要がない場合には絞り291dの開度を最大とする。
【0185】
一方、レバー操作パイロット圧が安定化制御演算部60aから出力された緩停止指令を満たさない場合には、指令された緩停止の停止特性と弁の流量特性を用いて、絞り291dの開度を決定する。緩停止用電磁比例流量制御弁291の絞り291dの開度はソレノイド291
cに与えられる指令信号の大きさによって決定され、この指令信号と開度の関係もあらかじめ弁の特性として与えられる。したがって、緩停止用電磁比例流量制御弁291への駆動指令値は、前述のように決定される絞り291dの開度と、弁の出力特性とを用いて算出する。
【0186】
<特長>
本実施形態の停止特性変更部211を用いると、定常的な動作指令操作時や増速操作時等、レバー操作パイロット圧を低下させないような操作時には、レバー
操作パイロット圧油は緩停止用逆止弁281を備えた油路を流通し、補正されることなく出力される。また、安定化制御演算部60aにより指令された緩停止の停止特性よりも緩やかに停止するような操作が行われた場合には、緩停止用電磁比例流量制御弁291の絞り291dによる流量制限の影響を受けず、レバー操作パイロット圧油は補正されない。
【0187】
一方、レバー操作パイロット圧が安定化制御演算部60aから指令された緩停止の停止特性よりも急激に低下する場合には、緩停止用電磁比例流量制御弁291の絞り291dによって、パイロット圧油の作動油タンクへの排出が制御され、指令された停止特性の緩停止が実現される。
【0188】
したがって、本実施形態の停止特性変更部211は第1および第2の実施形態の停止特性変更部211と同様、レバー操作パイロット圧油の圧力が安定化制御演算部60aから指令された緩停止指令を満たさない場合のみ補正を行う構成であり、従来の操作性に影響を与えることなく、動作制限を行うことができる。
【0189】
また、本実施形態の停止特性変更部211は、緩停止用逆止弁281により比例減圧弁121からブーム流量制御弁111へのパイロット圧油の流れを自由流れとしており、緩停止用電磁比例流量制御弁291は、ソレノイド291cの駆動状態によらず、駆動アクチュエータを駆動する方向の圧油の流通に影響を及ぼさない。また、本実施形態では、第2の実施形態と同様、パイロット圧油の作動油タンクへの排出を制御することによってパイロット圧の低下を緩やかにして緩停止を実現するため、緩停止を行うためにパイロットポンプからパイロット油路へ新たに圧油を流入させる必要がない。したがって、緩停止用電磁比例流量制御弁291に対して誤った指令信号が与えられた場合にも、操作レバーが非操作状態において駆動アクチュエータが動作する恐れがなく、安全性が高い、との利点を有している。
【0190】
更に、緩停止用電磁比例流量制御弁291を用いる場合、演算部60zからの指令信号によって決定されるのは、緩停止用電磁比例流量制御弁291の絞り291dの開度、すなわち、パイロット圧油の流通流量であって、ブーム流量制御弁111に供給するパイロット圧油の圧力ではない。そのため、ブーム流量制御弁111に供給するパイロット圧油の圧力を精密に制御することはできない。一方、演算装置60の指令値生成部60iにおける指令信号の演算は簡易になる。演算装置60からの指令信号によって停止特性変更部211から出力する圧力を決定する場合には停止過程において、指令信号を時々刻々と変化させる必要があるが、緩停止用電磁比例流量制御弁291を用いる場合は、指令された停止特性に応じて絞り291dの開度を決定すれば良く、急停止操作中か否かの判定の必要がなく、また、停止過程において指令信号を変化させる必要がない。したがって、指令信号算出の演算処理が簡易になる、との利点を有している。
【0191】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えているものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0192】
例えば、安定判別方式は、ZMPのみで行う態様に限られず、ZMPと力学的エネルギとの2つの評価指標を用いて判別することができる。
【0193】
また、緩停止を行うためのパイロット圧の補正例は、
図4Aに示すようなパイロット圧が変化率指令値を満たす単調減少となるように補正する態様に限られず、減少量に変化をつけた補正とすることができる。