(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619248
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】レーザーマーキング装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20191202BHJP
【FI】
B23K26/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-16642(P2016-16642)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-131963(P2017-131963A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄一
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−188931(JP,A)
【文献】
特開2015−188930(JP,A)
【文献】
特開2010−111071(JP,A)
【文献】
特開2006−150386(JP,A)
【文献】
特開2008−280562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射するレーザーエンジンと、
出射されたレーザー光を画像データに応じて印画媒体に照射するレーザー照射部と、
画像データに応じて前記レーザーエンジンの出力を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
画像データから前記印画媒体にて所望の発色濃度を得るのに要求される要求レーザー光照射強度を得る第1調整テーブルと、
前記要求レーザー光照射強度から前記レーザーエンジンへの出力指示値を得る第2調整テーブルとを備え、
前記第1調整テーブルと前記第2調整テーブルによって、画像データに基づいて前記レーザーエンジンへの出力指示値を調整することを特徴とするレーザーマーキング装置。
【請求項2】
前記第1調整テーブルは、前記印画媒体の発色特性を補償するように設定されていることを特徴とする請求項1記載のレーザーマーキング装置。
【請求項3】
前記第1調整テーブルは、前記印画媒体の種類毎に共通して設定されており、前記第2調整テーブルは、当該レーザーマーキング装置の個体毎に設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザーマーキング装置。
【請求項4】
レーザーマーキング装置のレーザーエンジン出力を制御するレーザーマーキング階調制御方法であって、
第1調整テーブルによって画像データを中間値に変換し、
前記第1調整テーブルによって変換された中間値を第2調整テーブルによって前記レーザーエンジンへの出力指示値に変換し、
前記出力指示値によって前記レーザーエンジンの出力を制御することで印画媒体に照射するレーザー光の照射強度を調整して階調制御を行うことを特徴とするレーザーマーキング階調制御方法。
【請求項5】
前記中間値は、レーザー光が照射される印画媒体にて所望の発色濃度を得るのに要求されるレーザー光照射強度であることを特徴とする請求項4記載のレーザーマーキング階調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印画媒体にレーザー光を照射して画像を印画するレーザーマーキング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー光の照射によって、カードなどの紙葉類に文字,絵柄,写真などの画像を印画するレーザーマーキング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなレーザーマーキング装置は、印画媒体表面に形成された発色層のレーザー光照射による発色反応を利用しており、照射するレーザー光の強度などを調整することで印画媒体に印画される画像の濃度(階調)を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−163405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなレーザーマーキング装置による印画では、各種の印画媒体が異なる発色反応(媒体感度)を示すので、照射するレーザー光の強度が同じであっても、種類の異なる印画媒体では異なる濃度で印画されてしまう問題がある。また、各種の印画媒体毎に、レーザー光の照射強度の変化に対する発色変化(階調変化)の特性(発色特性或いは階調特性)が異なるので、レーザー光の強度を変化させて階調を変化させようとしても、所望の階調を得ることができない問題が生じる。
【0005】
これに対しては、画像データ(濃度データ)のデータ入力値に対してレーザーエンジン(レーザー発振器)への出力指示値を決めるテーブルを作成することがなされており、使用する印画媒体の基準媒体を用い、所定の出力指示値によって所定強度で出力されたレーザー光を基準媒体に照射して、基準媒体がどの程度の発色濃度を示したかを測定する発色テストを行いながら、所望の発色濃度が得られるように、前述したテーブルを調整することがなされている。
【0006】
しかしながら、このような調整方法では、レーザーエンジンの個体差によって、レーザーエンジンへの出力指示値に対してどの程度の強度のレーザー光が出力されるかにばらつきがあるため、レーザーマーキング装置1台毎に前述した発色テストを実施して、個別のテーブルを作成する必要があり、その調整に多大な労力を要する問題があった。また、レーザーエンジンは、継続使用によって出力特性が低下することがあり、このような出力特性の経時変化に対しても、前述した発色テストをやり直してテーブルを再調整せざるを得ない問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題への対処を課題とするものである。すなわち、入力する画像データ(濃度データ)に対して、印画媒体にて所望の発色濃度を得るための調整が煩雑であるという課題を解決している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明によるレーザーマーキング装置は、以下の構成を具備するものである。
レーザー光を出射するレーザーエンジンと、出射されたレーザー光を画像データに応じて印画媒体に照射するレーザー照射部と、画像データに応じて前記レーザーエンジンの出力を制御する制御部とを備え、前記制御部は、画像データから前記印画媒体にて所望の発色濃度を得るのに要求される要求レーザー光照射強度を得る第1調整テーブルと、前記要求レーザー光照射強度から前記レーザーエンジンへの出力指示値を得る第2調整テーブルとを備え、前記第1調整テーブルと前記第2調整テーブルによって、画像データに基づいて前記レーザーエンジンへの出力指示値を調整することを特徴とするレーザーマーキング装置。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザーマーキング装置の基本構成を示した説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るレーザーマーキング装置の制御部における濃度調整機能を示した説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るレーザーマーキング装置における第1調整テーブルの作成方法示した説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るレーザーマーキング装置における第1調整テーブルの作成方法示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下、異なる図における同一符号は略同一の構成を示しており、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
図1に示すように、レーザーマーキング装置1は、レーザーエンジン(レーザー発振器)2、レーザー照射部3、制御部4を基本構成として備えている。レーザーエンジン2は、レーザー光を発振して、一方向に向けて出射するレーザー光源であり、レーザー発振の構造、レーザー媒体の種類、出射光の種類などによって各種のもの(例えば、ファイバーレーザー、CO
2レーザー、YAGレーザー、YVO
4レーザー、UVレーザー、グリーンレーザーなど)を採用することができる。
【0012】
レーザー照射部3は、レーザーエンジン2から出射されたレーザー光(例えば、パルスレーザー光)Lを画像データに応じて印画媒体Wに照射するものであり、集光光学系(fθレンズなど)30、スキャナ(ガルバノスキャナなど)31などを備えている。スキャナ31は、駆動部31Aを備えており、画像データに応じて制御部4から出力される制御信号によって、駆動部31Aがスキャナ31を制御し、レーザー光Lは、印画媒体W上の所定位置に照射され、画像データに応じた画像が印画媒体W上に印画される。
【0013】
制御部4は、レーザー照射部3におけるスキャナ31の駆動部31Aとレーザーエンジン2に制御信号を出力することで、レーザー光Lの照射位置と照射強度を制御するものである。レーザー光の照射強度制御は、印画媒体の発色濃度(マーキング濃度)の調整を行うための制御であり、レーザーエンジン2への出力指示値の調整によって、発振周波数やドットピッチなどが制御される。
【0014】
また、レーザーマーキング装置1は、印画媒体Wを搬送する搬送部5を備えている。搬送部5は、制御部4から出力される制御信号によって制御され、印画媒体Wを印画面(表面)に沿った平面上の一軸又は2軸方向に搬送する。搬送部5は、レーザー照射部3によるレーザー光の照射位置に印画媒体Wを供給・排出するだけでなく、スキャナ31によるスキャン動作の一部を印画媒体Wの移動に置き換える動作を行うことができる。
【0015】
制御部4は、画像データなどに応じて制御信号を出力する。画像データは、印画媒体Wの印画面に所望の画像を印画するための情報(ドット位置データと濃度データ)を含んでいる。印画面に形成される画像は、単色の濃淡画像であり、文字、記号、図形、絵柄、写真などの各種形態の画像である。図示の例では、制御部4にはコンピュータ(PC)6が接続されており、このPC6にインストールされたプログラムによって形成された画像、PC6に別の記録媒体などを経由して入力された画像、PC6のメモリに予め記憶されている画像、PC6に接続されたイメージスキャナやカメラ(図示省略)から入力された画像などが、画像データとして制御部4に入力される。また、制御部4のメモリに画像データを予め記憶させておくこともできる。
【0016】
図2は、制御部4における発色濃度(マーキング濃度)制御の機能を示している。画像データ(濃度データ)に対して、レーザーエンジン2への出力指示値を出力する制御部4は、第1調整テーブル4Aと第2調整テーブル4Bを備えている。
【0017】
第1調整テーブル4Aは、画像データ(濃度データ)から印画媒体にて所望の発色濃度を得るのに要求される要求レーザー光照射強度(中間値)を得るためのテーブルである。この第1調整テーブル4Aは、印画媒体の発色特性を補償するように設定されており、また、画像データに対してどのようなカーブで階調調整を行うかの階調カーブが設定されている。
【0018】
これに対して、第2調整テーブル4Bは、前述した要求レーザー光照射強度(中間値)から、レーザーエンジン2への出力指示値を得るためのテーブルである。この第2調整テーブル4Bは、レーザーエンジン2の個体差などを補償するためのテーブルであり、レーザーマーキング装置1の個体毎に調整しながら適宜設定されるものである。
【0019】
このような制御部4を備えるレーザーマーキング装置1は、第1調整テーブル4Aと第2調整テーブル4Bによって、画像データ(濃度データ)に基づいてレーザーエンジン2への出力指示値を調整することにより、同種の印画媒体を用いる場合には、レーザーマーキング装置1の基準となる1台で、基準媒体による発色テストを行って第1調整テーブル4Aを作成し、これを他の装置に反映させることによって、他の装置では、発色テストを行う必要が無い第2調整テーブル4Bの個体差補償調整のみで、各種印画媒体に対して所望の発光濃度を得ることができる。
【0020】
第1調整テーブル4Aにおける「要求レーザー光照射強度」は、画像データ(濃度データ)からレーザーエンジン2への出力指示値を得るための中間値である。第1調整テーブル4Aは、レーザーエンジン2の出力特性に個体差があるか、レーザーエンジン2の出力特性が経時変化したかに拘わらず、レーザーエンジン2の出力結果であるレーザー光照射強度と画像データ(濃度データ)とを関連付けて、画像データ(濃度データ)に対して所望の発色濃度を得ることができるレーザー光照射強度を特定できるようにしたものである。したがって、第1調整テーブル4Aは、レーザーエンジン2の出力特性とは無関係に、使用する印画媒体の種類毎に設定することができる。
【0021】
一方、第2調整テーブル4Bは、第1調整テーブル4Aによって画像データ(濃度データ)に関連して設定された「要求レーザー光照射強度」が、レーザーエンジン2の出力結果として得られるように、レーザーエンジン2の出力特性に応じて設定されるテーブルであり、所定の画像データ(濃度データ)に対して、第1調整テーブル4Aで得られる「要求レーザー光照射強度」を出力結果として得るように、レーザーエンジン2の出力指示値を設定したものである。したがって、第2調整テーブル4Bは、印画媒体の種類とは無関係に、レーザーエンジン2の出力特性に応じて設定される。
【0022】
ここで、
図3及び
図4によって、第1調整テーブル4Aの作成方法の一例を説明する。先ず、レーザーマーキング装置1の基準装置を用意する(S1:基準装置の用意)。基準装置は、第2調整テーブル4Bが調整済みであり、中間値とレーザーエンジン2への出力指示値との関係が既知の(固定されている)装置である。
【0023】
次に、基準階調特性を設定する(S2:基準階調特性の設定)。基準階調特性は、具体的には、
図3(a)に示すように、256階調中に10数点(図示の例では15点)程度の調整点(N
1…N
5…N
10…N
15)を設定し、その点の濃度を規定する。図示のような調整点と濃度パターンの組み合わせ(調整パターン)が基準階調特性になる。
【0024】
次に、基準マーキング条件を設定する(S3:基準マーキング条件の設定)。基準マーキング条件としては、基準媒体、発振周波数、ドットピッチなどを設定する。ここでは、基準階調特性の最大濃度が余裕を持って設定できる条件を設定することが好ましい。基準マーキング条件の設定で、レーザーマーキング装置1の基準装置を動作させた際のレーザー光照射強度が規定される。
【0025】
次に、設定された基準マーキング条件(レーザー光照射強度G
1…G
5…G
10…G
15)で、適宜設定される仮第1調整テーブル(仮テーブル)を用いて、レーザーマーキング装置1の基準装置を動作させて発色テストを行い、
図3(b)に示すような特性調査用パターンをマーキングする(S4:仮テーブルの設定及び特性調査用パターンのマーキング)。
【0026】
そして、この特性調査用パターンの濃度を測定することで、
図3(c)に示すような、中間値(レーザー光照射強度)と濃度との関係(特性曲線)を求める(S5:中間値−濃度特性曲線作成)。特性調査用パターンの測定点数は、基準階調特性の調整点数と同じか、それより多いことが好ましい。また、特性曲線の作成においては、測定点間の値は補間で推定する。
【0027】
次に、
図3(c)に示す特性曲線から、
図3(a)に示す基準階特性における調整点の濃度に相当する中間値(レーザー光照射強度)を求める。そして、調整点(濃度データ)と中間値(レーザー光照射強度)との関係によって、第1調整テーブルを作成する(S6:第1調整テーブル作成)。
【0028】
その後は、作成した第1調整テーブルを用いて、調整パターンをマーキングし(S7:調整パターンマーキング)、そのマーキング結果を濃度測定して、基準階調特性(
図3(a))との誤差を求める(S8:誤差抽出)。そして、誤差が許容範囲に入れば(S9:誤差判定(YES))、調整を終了し(作成完了)、誤差が許容範囲に入らなければ(S9:誤差判定(NO))、各調整点の値を調整して再度第1調整テーブルを作成し(S10:第1調整テーブル再作成)、再び調整パターンをマーキングする(S7)。これを返すことで、所望の第1調整テーブル4Aを得る。
【0029】
本発明の実施形態に係るレーザーマーキング装置1は、制御部4が第1調整テーブル4Aと第2調整テーブル4Bを備えることで、発色特性が均一な1種類の印画媒体を用いる場合には、基準装置を用いた発色テストで前述した工程により第1調整テーブル4Aを作成すれば、他の装置に対してその第1調整テーブル4Aを転用することができる。レーザーエンジン2の個体差に対しては、各々のレーザーマーキング装置1で調整する必要があるが、これは、発色テストを必要としない第2調整テーブル4Bの調整で行うことができるので、各レーザーマーキング装置1における濃度調整を簡易に行うことが可能になる。
【0030】
このレーザーマーキング装置1を用いてレーザーエンジン2の出力を制御するレーザーマーキング階調制御方法は、第1調整テーブル4Aによって画像データ(濃度データ)を中間値に変換し、第1調整テーブル4Aによって変換された中間値を第2調整テーブル4Bによってレーザーエンジン2への出力指示値に変換し、この出力指示値によってレーザーエンジン2の出力を制御することで印画媒体に照射するレーザー光の照射強度を調整して階調制御を行う。
【0031】
これによると、中間値をレーザー光が照射される印画媒体にて所望の発色濃度が得るのに要求されるレーザー光照射強度にすることで、様々な発色特性を有する印画媒体において、画像データに基づいて所望の発色濃度を得ることができる。この際の第1調整テーブル4Aは、前述したように、基準装置を用いた発色テストで印画媒体の発色特性を補償するように設定される。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1:レーザーマーキング装置,2:レーザーエンジン,
3:レーザー照射部,30:集光光学系,31:スキャナ,31A:駆動部,
4:制御部,4A:第1調整テーブル,4B:第2調整テーブル,
5:搬送部,6:コンピュータ(PC),
L:レーザー光,W:印画媒体