特許第6619272号(P6619272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6619272廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619272
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/06 20060101AFI20191202BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20191202BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   C08J11/06ZAB
   C08J11/12
   C04B7/38
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-57780(P2016-57780)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-171750(P2017-171750A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洸
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−049273(JP,A)
【文献】 特開2005−120316(JP,A)
【文献】 特開2007−131463(JP,A)
【文献】 特開2014−193788(JP,A)
【文献】 特開平06−008247(JP,A)
【文献】 特開平03−275548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00、
B29B17/00−17/04、
C08J11/00−11/28、
C04B2/00−32/02、
C04B40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント及び水を混合して混合物を硬化させ、
得られた固形物をセメントキルンの窯尻に供給することを特徴とする廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項2】
前記混合対象物にさらに飛散防止材としてスラグ、燃焼灰、焼却灰又は焼却飛灰を添加して硬化させることを特徴とする請求項1に記載の廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項3】
前記混合対象物にさらに溶融剤として炭酸ナトリウム、炭酸リチウム又は炭酸カリウムを添加して硬化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項4】
前記固形物の粒径を10mm以上100mm以下に調整することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項5】
前記廃棄炭素繊維強化プラスチックは、粒径が50mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項6】
廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント及び水を混合する混合装置と、
該混合物が硬化して得られた固形物をセメントキルンの窯尻に供給する供給装置とを備えることを特徴とする廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の廃棄物をセメント焼成装置で燃焼処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維強化プラスチックの廃棄物(以下、適宜「廃CFRP」という。)は最終処分場で埋立処理されていたが、最終処分場の枯渇のおそれに鑑み、焼却処理をする場合も近年では燃焼熱の有効利用が求められ、セメント焼成装置で燃焼処理することが提案されている。
【0003】
しかし、廃CFRPをセメント焼成装置に供給すると、廃CFRP中の炭素繊維よりも先に樹脂が燃焼するため、樹脂により一体化していた炭素繊維が分散し、分散した炭素繊維が燃焼せずにセメント焼成装置の排ガスと共に排出され、廃CFRPをセメント焼成装置で包括的に燃焼させることは困難であった。また、セメント焼成装置の排ガスに分散した炭素繊維が含まれることで、排ガスを処理する電気集塵装置で荷電不良等の不具合が生じたり、バグフィルターの性能低下が生じるおそれがあった。
【0004】
そこで、特許文献1には、廃CFRPを3mm以下に粉砕してセメントキルンの窯前に供給して燃焼処理することが提案されている。これにより、廃CFRPをセメントキルンの1200℃以上の高温領域で包括的に燃焼させ、セメント焼成装置の排ガスに廃CFRP中の炭素繊維が含まれるのを防止し、電気集塵装置の不具合やバグフィルターの性能低下を防止することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−131463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、強度の高い廃CFRPを3mm以下に粉砕する必要があるため運転コストが高騰する。そのため、廃CFRPを低コストで効率よく処理する方法が要請されていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、セメント焼成装置の排ガスを集塵する電気集塵装置の安定運転を維持しながら、低コストで効率よく廃CFRPを包括的に燃焼処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法であって、廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント及び水を混合して混合物を硬化させ、得られた固形物をセメントキルンの窯尻に供給することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、廃棄炭素繊維強化プラスチックをセメントと一体化することで、セメントキルンの窯尻内で廃棄炭素繊維強化プラスチック中の樹脂が燃焼しても、廃棄炭素繊維強化プラスチック中の炭素繊維が分散することがなく、炭素繊維がセメント焼成装置から燃焼せずに排出されるのを防止することができる。これにより、セメント焼成装置の排ガスを集塵する電気集塵装置の安定運転を維持しながら、セメントキルンの窯尻からキルン内で廃棄炭素繊維強化プラスチックを包括的に燃焼させ、燃焼熱を有効利用することができる。
【0010】
また、廃棄炭素繊維強化プラスチックをセメント及び水と混合するだけの簡易な方法で包括的な燃焼を可能にし、細かく粉砕する必要もないため、運転コストを低く抑えながら効率よく燃焼処理することができる。
【0011】
上記廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理方法において、前記混合対象物(廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント及び水)にさらに飛散防止材としてスラグ、燃焼灰、焼却灰又は焼却飛灰を添加して硬化させることができる。これにより、廃棄炭素繊維強化プラスチックをセメントとより強固に一体化させることで、炭素繊維がセメント焼成装置の排ガスと共に排出されるのをより確実に防止することができる。
【0012】
また、前記混合対象物(廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント及び水、又は廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント、水及び飛散防止材)にさらに溶融剤として炭酸ナトリウム、炭酸リチウム又は炭酸カリウムを添加して硬化させることができる。これにより、セメントキルンの窯尻に供給された固形物が加熱され、固形物の強度が低下した後に固形物中の溶融剤が溶融状態になって固形物が一体化するため、廃棄炭素繊維強化プラスチック中の炭素繊維の分散を防止し、炭素繊維がセメント焼成装置の排ガスと共に排出されるのをより確実に防止することができる。
【0013】
さらに、前記固形物の粒径を10mm以上100mm以下に調整することができ、セメントキルンを安定して運転しながら、廃棄炭素繊維強化プラスチック内の炭素繊維の飛散を確実に防止することができる。
【0014】
また、前記廃棄炭素繊維強化プラスチックを粒径50mm以下とすることができる。これにより、廃棄炭素繊維強化プラスチックをより確実に燃焼させると共に、固形物を強固に一体化することができる。
【0015】
さらに、本発明は、廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理装置であって、廃棄炭素繊維強化プラスチック、セメント及び水を混合する混合装置と、該混合物が硬化して得られた固形物をセメントキルンの窯尻に供給する供給装置とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、上記発明と同様、セメントキルンの窯尻で廃棄炭素繊維強化プラスチックを低コストで包括的に燃焼させることなどが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、セメント焼成装置の排ガスを集塵する電気集塵装置の安定運転を維持しながら、低コストで効率よくセメント焼成装置で廃棄炭素繊維強化プラスチックを包括的に燃焼させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理装置の一実施の形態を示し、この処理装置1は、廃CFRP、セメントC、水W等を混合する混合装置2と、混合物Mが硬化して得られた固形物Sをセメントキルンの窯尻に供給する供給装置3とを備える。尚、セメントキルンの窯尻とは、セメントキルンの燃焼排ガスがセメントキルンから排出された後、仮焼炉を含む主要熱交換機器まで導かれる間に存在するライジングダクト、窯尻ハウジング等のダクト機能を有する部分をいう。
【0021】
混合装置2は、廃CFRP、セメントC、飛散防止材A1、溶融剤A2及び水Wを混合するために備えられる。混合装置2には、フラットダイス方式、リングダイス方式、スクリュー方式等の押出成形機、パン型転動造粒機、型枠成型機等を用いることができる。型枠成型機を用いる場合には、型枠成型機から排出された成型品をフレーク状に解砕するクラッシャー等の解砕装置を備えてもよい。
【0022】
飛散防止材A1には、スラグ、燃焼灰、焼却灰及び焼却飛灰等が用いられ、1200℃程度で軟化、溶融を開始するものである。スラグには、高炉スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、電気炉酸化スラグ、溶融スラグ等が含まれる。尚、溶融スラグとは、一般廃棄物、下水汚泥、又はこれらの焼却灰を溶融固化して得られたものなどをいう。また、燃焼灰とは、微粉炭、重油、コークス等の燃料を燃焼させることにより発生する灰をいう。石炭灰は、溶融温度が1200℃より高いものも存在するが、セメントを混合した場合には、溶融温度が低下するので燃焼灰に含めるものとする。さらに、焼却灰及び焼却飛灰には、一般廃棄物や下水汚泥を焼却することで発生したものなどが用いられる。溶融剤A2には、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム等の炭酸塩が用いられ、1000℃以下で溶融するものである。
【0023】
供給装置3は、固形物Sをセメントキルンの窯尻付近に輸送した後、セメントキルンの窯尻ハウジング等に投入するために設けられ、スクリューフィーダ、ロータリフィーダ、ベルトフィーダ等が用いられる。
【0024】
次に、上記構成を有する廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理装置の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0025】
廃CFRP、セメントC、飛散防止材A1、溶融剤A2及び水Wを混合装置2で混合する。炭素繊維の飛散防止の観点から、飛散防止材A1、溶融剤A2の有無に関わらず、固形物S中の廃CFRPの割合(内割り)は、25〜50質量%程度とする。ここで、廃CFRPには後述する固形物Sの最大粒径の観点から粒径50mm以下のもの、飛散防止材A1及び溶融剤A2には付着性防止の観点から、粒径1mm以下のものを用いることが好ましい。また、混合物M全体に対するセメントの割合(内割り)は、固形物Sが投入時やキルン内で崩壊しないよう5〜20質量%とするのが好ましい。尚、飛散防止材A1、溶融剤A2は必ずしも添加する必要はないが、添加する場合には各々70〜95質量%、1〜10質量%程度(内割り)添加する。
【0026】
混合装置2から排出された混合物Mに含まれるセメントCと水Wとの水和反応により混合物Mは硬化し、硬化後の固形物Sを供給装置3からセメント焼成装置のセメントキルンの窯尻(不図示)に供給する。
【0027】
混合装置2から排出する固形物Sの粒径は10mm〜100mmであるのが好ましい。この粒径を10mm未満にすると廃棄炭素繊維強化プラスチック中の炭素繊維が飛散するおそれがある。一方、セメントキルンの投入口の大きさにより上記粒径を100mmより大きくするのは容易ではなく、また、粒径を100mmより大きくするのは、セメントキルン内での固形物の転動によりセメントキルンの内部の耐火物等が損傷するおそれがあるため好ましくない。尚、固形物Sの粒径は、廃CFRPの2倍程度であるのが好ましい。
【0028】
混合装置2に型枠成型機と解砕装置の両方を用いる場合には、型枠成型機から粒径が100mmより大きい成型品を排出し、この成型品を解砕装置で解砕し、粒径10mm〜100mmの固形物Sとすることもできる。
【0029】
供給装置3によって固形物Sをセメントキルンの窯尻に供給することで、セメントCで初期強度を確保し、飛散防止材A1で廃棄炭素繊維強化プラスチックをセメントとより強固に一体化しているため、900〜1200℃程度の窯尻内で廃CFRP中の樹脂が燃焼しても固形物Sの形状がある程度の時間維持され、さらに、固形物中のセメント強度が低下した後に溶融剤A2が溶融状態になって固形物Sの一体化を維持することができる。これにより、廃CFRP中の炭素繊維の分散を防止し、炭素繊維がセメント焼成装置から燃焼せずに排出されるのを防止しながら廃CFRPを包括的に燃焼させることができる。尚、飛散防止材A1及び溶融剤A2を混合した方が上記作用効果を奏して好ましいが、必ずしも両者を添加する必要はなく、廃CFRP、セメントC、水Wのみで固形物Sを構成することもでき、飛散防止材A1又は溶融剤A2のいずれか一方を廃CFRP、セメントC、水Wに添加することもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 廃棄炭素繊維強化プラスチックの処理装置
2 混合装置
3 供給装置
A1 飛散防止材
A2 溶融剤
C セメント
M 混合物
S 固形物
W 水
図1