(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ワイヤ溶融情報は、いずれの前記溶接ワイヤにおいても、12≦{適正溶接電流(A)/送給速度(m/min)}≦125の範囲に設定されることを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
前記溶接ワークの長手方向に移動可能に設けられ、当該溶接ワークを保持して回転させる一対の回転ポジショナと、前記一対の回転ポジショナの移動方向と平行な方向に移動可能に設けられた単数または複数の台車と、前記単数または複数の台車上において、前記回転ポジショナの移動方向と直交する方向に移動可能に設けられた前記溶接ロボットと、前記溶接ロボットの先端に設けられた溶接トーチと、を備え、
前記一対の回転ポジショナは、
前記溶接ワークが内部に収容され、複数の固定治具によって当該溶接ワークを保持する一対の環状保持部と、
前記一対の環状保持部の一方または双方を回転させる駆動部と、
を備え、
前記環状保持部は、前記溶接ワークを収容できるように環状部分の所定位置が分断されて当該環状部分の一部が開口して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
同一の前記溶接ワークに存在する断面積と溶接長のいずれかもしくは両方が異なることで、溶接すべき体積の異なる複数の溶接継手を複数の前記溶接ロボットによって同時に溶接する場合に、基点から次の基点までの溶接時間を同じにするために、前記溶接ワイヤの送り量を変えるように制御することで、溶接すべき体積の違いを補うことを特徴とする請求項7に記載の溶接装置。
前記溶接制御装置は、各パスで溶接可能な溶接電流範囲を設け、その範囲内での溶接を行い、その結果生じる溶着量の違いをそれ以降のパスで補うように制御することで、トータルの溶着量を所望の値内にすることを特徴とする請求項8に記載の溶接装置。
前記溶接制御装置は、各パスで溶接可能な溶接電流範囲内での溶接が行えない場合において、少なくとも1つのパスを溶接継手ごとに個別に溶接するように制御することで、全体の肉量誤差を補うことを特徴とする請求項8に記載の溶接装置。
前記溶接制御装置は、各パスで溶接可能な溶接電流範囲内での溶接が行えない場合において、ワイヤ送給量の差を大きくするとともに、溶接電流が適正範囲外となることに対して当該溶接電流が所望の値となるように溶接ワイヤの突き出し長さを変えるように制御することを特徴とする請求項9または10に記載の溶接装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る溶接装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、説明の便宜上、図面中で部材の大きさや形状を誇張して示している場合や、一部の構成の描写を省略している場合がある。
【0023】
[第1実施形態]
本発明の本実施形態に係る溶接装置について、
図1〜
図14を参照しながら説明する。溶接装置1は、溶接用ワークである鉄骨構造物Wを、例えばガスシールドアーク溶接によって溶接するものである。溶接装置1は、
図1に示すように、回転ポジショナ10と、台車20と、溶接ロボット30と、ワイヤ供給容器40と、ノズル交換装置50と、ノズル清掃装置60と、ワイヤ切断装置80と、溶接制御装置90と、を備えている。また、溶接装置1は、
図1に示した構成以外にも、スラグ除去装置70を備えている(
図6参照)。
【0024】
(回転ポジショナ)
回転ポジショナ10は、溶接の際に溶接ワークWを保持するとともに回転させるものである。回転ポジショナ10は、
図1に示すように、一対で構成され、柱状の溶接ワークWを、当該溶接ワークWの長手方向における2点で保持する。回転ポジショナ10は、例えば溶接ロボット30によって溶接ワークWの直線部分を溶接する場合は当該溶接ワークWを回転させず、溶接ロボット30によって溶接ワークWの円弧部分(コーナー部)を溶接する場合は当該溶接ワークWを回転させる。これにより、溶接装置1は、溶接ワークWの直線部分のみならず、円弧部分においてもアークを切ることなく連続して溶接することができる。回転ポジショナ10は、ここでは
図1に示すように、環状保持部11と、昇降アーム機構12と、ブラケット13と、レール台車14と、を備えている。
【0025】
環状保持部11は、溶接ワークWを内部に収容して保持するものである。環状保持部11の内側には、
図1に示すように、溶接ワークWを四方から保持するための複数の固定治具111が伸縮自在に設けられている。そして、環状保持部11は、
図1に示すように、これら複数の固定治具111によって、溶接ワークWを四方から挟んで固定する。また、環状保持部11の外周には、
図2Aに示すように、ギア11aが形成されており、後記するように、当該ギア11aがブラケット13内部に設けられたピニオンギア131と噛み合うように構成されている(
図3A及び
図3B参照)。なお、
図1では、一部(円周の右側のみ)を除いてギア11aの図示を省略している。
【0026】
昇降アーム機構12は、環状保持部11を分断して開閉するためのものである。昇降アーム機構12は、
図2Aに示すように、環状保持部11およびブラケット13の側方(ここでは右側)に設けられ、一端側が環状保持部11の上部に接続され、他端側がブラケット13の側面(ここでは右側)に接続されている。
【0027】
昇降アーム機構12は、具体的には
図2Aに示すように、環状保持部11を所定位置で分断するように開放し、当該環状保持部11の一部である円弧部分11bを、環状保持部11の残りの部分から離間させることで、溶接ワークWを収容可能な状態とする。そして、昇降アーム機構12は、
図2Bに示すように、溶接ワークWが収容されると、
図2Cに示すように、円弧部分11bを再び閉鎖し、環状保持部11の内側に設けられた4つの固定治具111によって溶接ワークWを挟んで保持させる。
【0028】
ブラケット13は、
図1に示すように、環状保持部11を収容するものである。ブラケット13は、
図2Aに示すように、環状保持部11の下半分を収容し、環状保持部11の上半分を露出させるような形状を呈している。また、ブラケット13の内部には、
図3Aに示すように、環状保持部11のギア11aと噛み合うように配置されたピニオンギア131と、当該ピニオンギア131を駆動させる駆動部132と、が設けられている。なお、この駆動部132は、一対の回転ポジショナ10の少なくとも一方に設けられていればよく、一方の回転ポジショナ10の回転に他方の回転ポジショナ10が従動する構成であっても構わない。
【0029】
レール台車14は、回転ポジショナ10をポジショナ用移動レールR1に沿って移動可能とするものである。レール台車14は、
図1に示すように、回転ポジショナ10の下部に一対で設けられ、当該回転ポジショナ10を溶接ワークWの長手方向に移動可能とする。
【0030】
回転ポジショナ10は、前記したように、環状保持部11の外周に形成されたギア11aと、ブラケット13内部に設けられたピニオンギア131とが噛み合うように構成されている(
図3A参照)。従って、回転ポジショナ10は、
図3Bに示すように、駆動部132の駆動によって環状保持部11を回転させることで、溶接作業中に溶接ワークWを回転させることができる。
【0031】
(台車)
台車20は、溶接装置1を構成する各機構を載置するものである。台車20は、
図1に示すように、平板状に形成されている。そして、台車20の上部には、
図1に示すように、溶接ロボット30と、ワイヤ供給容器40と、ノズル交換装置50と、ノズル清掃装置60と、ワイヤ切断装置80と、溶接制御装置90と、が載置されている。また、台車20の上部には、
図1に示すように、スラグ除去装置70(
図6参照)を載置するスラグ除去装置用載置台70aが載置されている。
【0032】
台車20の下部には、
図1に示すように、車輪21が設けられており、台車20は、当該車輪21によって、台車用移動レールR2に沿って移動可能に構成されている。すなわち、台車20は、
図1に示すように、溶接ワークWの長手方向であって、前記した回転ポジショナ10の移動方向と平行な方向に移動可能に設けられている。
【0033】
台車20の上部には、
図1に示すように、スライダ機構22が設けられており、当該スライダ機構22の上部に溶接ロボット30が載置されている。このスライダ機構22は、回転ポジショナ10の移動方向、すなわち溶接ワークWの長手方向、と直交する方向に移動可能に構成されている。従って、当該スライダ機構22の上部に載置された溶接ロボット30は、溶接の際に、回転ポジショナ10の移動方向と直交する方向に移動可能に構成されている。
【0034】
(溶接ロボット)
溶接ロボット30は、溶接ワークWを溶接するものである。溶接ロボット30は、
図1に示すように、アーム先端に溶接ワイヤを供給する溶接トーチ31を備えている。この溶接トーチ31は、図示しない溶接電源に接続されており、当該溶接トーチ31を介して、溶接ワイヤに電力が供給されるように構成されている。溶接ロボット30は、
図1に示すように、スライダ機構22を介して台車20に載置されており、前記したように、回転ポジショナ10の移動方向と直交する方向(溶接ワークWの幅方向)に移動可能に設けられている。また、溶接ロボット30は、
図1に示すように、一対の回転ポジショナ10の間もしくはその外側に配置されており、当該一対の回転ポジショナ10の間の溶接継手を溶接する。
【0035】
(ワイヤ供給容器)
ワイヤ供給容器40は、溶接トーチ31に供給される溶接ワイヤが収容されるものである。ワイヤ供給容器40は、
図1に示すように、円筒状に形成されており、内部に溶接ワイヤがコイル状に巻かれながら収容されている。ワイヤ供給容器40内の溶接ワイヤは、図示しないワイヤ送給装置によって溶接時には巻き解かれ、容器上部のテーパ状にすぼまったワイヤ引き出し治具を通り、図示しないコンジットチューブを介して溶接トーチ31に供給される。
【0036】
(ノズル交換装置)
ノズル交換装置50は、溶接トーチ31先端に設けられたシールドガス供給用のノズルを交換するものである。例えば、溶接装置1を用いて開先の深い溶接継手を溶接する場合、その初層または2層目の溶接ではノズルと開先との干渉を防ぐために短いノズルを用い、それ以降の層の溶接ではシールド性を確保するために長いノズルを用いることがある。このような場合に、ノズル交換装置50を用いることで、溶接の途中であってもノズルを交換することができるため、当該交換作業を自動化することができる。
【0037】
ノズル交換装置50は、
図1に示すように、台車20上おける溶接ロボット30の近傍に載置されている。ノズル交換装置50は、具体的には
図4に示すように、円筒状の基台51と、当該基台51上に配置された円筒状のノズル着脱機構52と、基台51上に配置された円筒状のチップ清掃機構53と、ノズル着脱機構52とチップ清掃機構53とを接続する中間歯車55と、を備えている。なお、ここでは図示を省略したが、ノズル着脱機構52は、基台51上に複数配置されている。
【0038】
ノズル着脱機構52は、溶接トーチ31先端のノズルを着脱するものである。ノズル着脱機構52は、
図4に示すように、ノズルが挿入されるコイルバネ521と、当該コイルバネを支持する筒部材522と、平歯車523を介してコイルバネ521を正回転または逆回転させる回転駆動源524と、を備えている。なお、平歯車523は、
図4に示すように、中間歯車55を介して平歯車534と接続されている。従って、ノズル交換装置50は、
図4に示すように、ノズル着脱機構52側の平歯車523が回転すると、中間歯車55を介して、その回転力がチップ清掃機構53側の平歯車534にも伝達されるように構成されている。
【0039】
このような構成を備えるノズル着脱機構52は、例えば以下のような手順によって溶接トーチ31からノズルを取り外す。まず、ノズル着脱機構52は、
図5Aに示すように、回転駆動源524により、バネ内径が広がる方向(ここでは左回り)にコイルバネ521を回転させる。次に、ノズル着脱機構52は、
図5Bに示すように、溶接トーチ31が降下してコイルバネ521内にノズル311が挿入されると、
図5Cに示すように、回転駆動源524により、バネ内径が縮まる方向(ここでは右回り)にコイルバネ521を回転させる。このような動作により、コイルバネ521のバネ内径が縮んでノズル311がコイルバネ521によって締め付けられることになる。従って、ノズル着脱機構52は、
図5Cに示すように、溶接トーチ31を上昇させることで、トーチ本体312からノズル311を容易に取り外すことができる。なお、このようにノズル311を取り外した後に新たなノズル311をトーチ本体312に取り付ける場合は、
図5A〜
図5Cに示した手順を逆から行えばよい。
【0040】
チップ清掃機構53は、ノズル311が取り外された溶接トーチ31先端のチップ313(
図5A〜
図5C参照)を清掃するものである。すなわち、ノズル交換装置50は、ノズル着脱機構52によって溶接トーチ31からノズル311を取り外した後、当該溶接トーチ31先端のチップ313を清掃するように構成されている。
【0041】
チップ清掃機構53は、
図4に示すように、筒状の装置本体53aの上部に、溶接トーチ31先端のチップ313(
図5C参照)が挿入される貫通孔53bが形成されている。また、装置本体53aの内部には、回転中心Oの方向に向かってばねで張力をかけ、負荷がかかった場合にはその回転半径が広がるように取り付けた複数のブラシが配置されている。そして、チップ清掃時は、回転中心Oの上方から、ノズル311が外され、チップ313およびオリフィスが装着された溶接トーチ31を降下させて貫通孔53bに挿入し、チップ313およびオリフィスに付着したスパッタを除去する。
【0042】
以上説明したようなノズル交換装置50を備える溶接装置1は、コイルバネ521に対してノズル311がずれて挿入された場合であっても、コイルバネ521の変形および撓みによってそのズレに容易に追従することができるため、ノズル311に熱変形や寸法誤差があってもノズル311の交換を確実に行うことができる。
【0043】
(ノズル清掃装置)
ノズル清掃装置60は、溶接トーチ31先端のノズル311を清掃するものである。ノズル清掃装置60の上部には、
図1に示すように、溶接トーチ31のノズル311が挿入される貫通孔(図示省略)が形成されている。そして、ノズル清掃装置60は、当該貫通孔にノズル311が挿入された後、当該ノズル311に対してショット玉を吹きつけることで、ノズル311先端に付着しリング状になったスパッタを除去する。溶接装置1は、このようなノズル清掃装置60を備えることで、ノズル311に付着するスパッタの増加に伴うシールド性の低下を防止することができる。
【0044】
(スラグ除去装置)
スラグ除去装置70は、溶接ワークWを溶接ロボット30によって溶接する際に、溶接部に発生したスラグを除去するものである。スラグ除去装置70は、溶接ロボット30先端の溶接トーチ31と取り替えて用いるタイプと、溶接トーチ31に追加装着して用いるタイプとがあるが、以下では溶接トーチ31と取り替えて用いるタイプについて説明する。
【0045】
スラグ除去装置70は、溶接時においては、
図1に示すスラグ除去装置用載置台70aに載置され、溶接中における予め用意された所定のパスごとに溶接トーチ31と自動的に取り替えて溶接ロボット30の先端に取り付けられて溶接部のスラグを除去するように構成されている。スラグ除去装置70は、ここでは
図6に示すように、タガネ機構71と、スライド保持機構72と、タガネ側着脱機構73と、ロボット側着脱機構74と、を備えている。また、スラグ除去装置70は、
図6に示すように、タガネ機構71、スライド保持機構72およびタガネ側着脱機構73と、ロボット側着脱機構74とが着脱可能に設けられている。
【0046】
タガネ機構71は、溶接部に発生したスラグを打撃によって除去するものである。タガネ機構71は、
図6に示すように、例えば直径3mmの複数のニードル711aを束ねたニードル集合体711と、ニードル集合体711の前部を突出させながら保持し、タガネ作動用エアの供給によりニードル集合体711を例えば4000回/分で進退移動させるニードル駆動体712と、を備えている。
【0047】
スプリング726は、
図6に示すように、軸芯方向がニードル移動方向と一致しており、ニードル駆動体712をニードル移動方向において柔支持している。すなわち、スプリング726は、ニードル駆動体712が水平状態の姿勢にされているときに、圧縮力および引張力を発生していない中立位置でニードル駆動体712をニードル移動方向において柔支持している。そして、このスプリング726は、軸芯方向がニードル移動方向に一致されることによって、伸縮による圧縮力および引張力からなる弾性力でニードル駆動体712からのニードル移動方向の衝撃力を1/10以下に効率良く減衰することができる。
【0048】
ここで、スプリング726のバネ定数は、例えば稼動部の重量が3.3kgの場合、0.20〜0.35(kg/mm)の範囲であることが好ましい。バネ定数を当該範囲とする理由は、一般的にはスプリング726を柔らかくする方が振動を減衰させる効果が高いと考えられるものの、溶接継手の位置によってニードル駆動体712の姿勢が変化するため、あまり柔らかすぎると、ニードル駆動体712の姿勢変化によってスプリング726に付与される重量が変化してタガネ先端位置が大きく変化してしまうためである。また、スラグを良好に除去しようとする場合、ニードル駆動体712を所定以上の保持力で保持しなければ、スラグの除去に十分な衝撃力をビードおよびスラグに付与することができないためである。なお、スライド保持機構72は、スプリング726と同等の機能を有するものであれば、当該スプリング726に代えて他の方式のショックダンパを採用しても良い。
【0049】
タガネ側着脱機構73は、タガネ機構71およびスライド保持機構72をロボット側着脱機構74に対して着脱可能とするものである。タガネ側着脱機構73は、
図6に示すように、一方がスライド保持機構72のスライド支持部材725と接続されるとともに、他方がロボット側着脱機構74のロボット側着脱部材741と接続されている。タガネ側着脱機構73は、
図6に示すように、スライド支持部材725の下面に連結された連結部材731と、当該連結部材731に接続され、スライド保持機構72から伝達された衝撃力を検出するショックセンサ732と、当該ショックセンサ732を支持するツールプレート733と、当該ツールプレート733に固設されたツール側着脱部材734と、を備えている。
【0050】
ツール側着脱部材734の側周面には、
図6に示すように、空気ポート734aが形成されている。空気ポート734aは、前記したニードル駆動体712にタガネ作動用エアを供給するように、
図6に示すように、柔軟性を有した第1エア配管735aを介して、ニードル駆動体712に連結されている。また、ツール側着脱部材734の側周面には、図示しない空気ポートに、
図6に示すような第2エア配管735bが接続されている。この第2エア配管735bは、
図6に示すように、開口端がニードル集合体711の先端部近傍に配置されており、開口端からブロー用エアをニードル集合体711の先端部前方に噴出することで、溶接部表面のスラグを吹き飛ばすように構成されている。
【0051】
また、ツール側着脱部材734には、
図6に示すように、ロボット側着脱部材741が着脱用エアによって着脱可能に連結されている。そして、ツール側着脱部材734とロボット側着脱部材741とは、前記したショックセンサ732からのショック検出信号を伝達するように電気的に接続可能にされているとともに、タガネ作動用エアおよびブロー用エアを通過させるように空気路を形成できるように構成されている。
【0052】
ロボット側着脱部材741の側周面には、
図6に示すように、第1空気ポート741aおよび第2空気ポート741bが形成されているとともに、図示しない第3空気ポートが形成されている。この第1空気ポート741aは、前記したツール側着脱部材734の空気ポート734aに空気路を介して連通されているとともに、スラグ除去時にタガネ作動用エアを供給する図示しないタガネ作動用エア供給装置に接続されている。また、第2空気ポート741bは、着脱動作時に着脱用エアを供給する図示しない着脱用エア供給装置に接続されている。そして、第3空気ポートは、第2エア配管735bに空気路を介して連通されているとともに、スラグ除去時にブロー用エアを供給する図示しないブロー用エア供給装置に接続されている。なお、前記した3種類のエア供給装置(図示省略)は、所定のタイミングで開閉制御される3ポート分の開閉バルブと、各開閉バルブが接続された1台のエア送給装置とで構成しても構わない。
【0053】
なお、ここでは
図6に示すように、スライド保持機構72に対して、ショックセンサ732、ツールプレート733、ツール側着脱部材734、ロボット側着脱部材741、ブラケット742の順番で配置され、ツール側着脱部材734とロボット側着脱部材741とが着脱可能に構成されたスラグ除去装置70について説明を行ったが、各構成の配置は
図6に示すものに限定されない。例えばスラグ除去装置70は、スライド保持機構72に対して、ツールプレート733に類似したブラケット(図示省略)またはベースプレート(図示省略)を介して、ツール側着脱部材734、ロボット側着脱部材741、ツールプレート733、ショックセンサ732、ブラケット742の順番で配置され、ツール側着脱部材734とロボット側着脱部材741とが着脱可能に構成されたものであっても構わない。
【0054】
このような構成を備えるスラグ除去装置70は、溶接トーチ31による溶接時は、例えば
図1に示すスラグ除去装置用載置台70aに載置されている。そして、予め用意された所定のパスが終了した後に、
図6に示すように、溶接ロボット30のアーム部先端32に取り付けられて溶接部のスラグを除去する。なお、スラグ除去装置70によってスラグを除去している間は、スラグ除去装置70の代わりに、溶接トーチ31がスラグ除去装置用載置台70aに載置されている。
【0055】
ここで、スラグ除去装置70によってどの溶接パスでスラグを除去するのかは、予め教示データとして溶接制御装置90に入力されている。例えば、溶接制御装置90に第5パス目にスラグを除去する旨の教示データが入力されている場合、当該溶接制御装置90は、第5パス目の溶接処理が終了し、教示データがスラグ除去処理を指示していると判断した場合には、溶接ロボット30を作動させて溶接トーチ31を前記したスラグ除去装置用載置台70aの方向に移動させる。
【0056】
次に、溶接制御装置90は、スラグ除去装置用載置台70aに溶接トーチ31を載置し、ツール側着脱部材734とロボット側着脱部材741との連結を解除し、溶接トーチ31を溶接ロボット30のアーム部先端32から切り離す。次に、溶接制御装置90は、スラグ除去装置用載置台70aに予め載置されているスラグ除去装置70を溶接ロボット30のアーム部先端32に装着する。そして、溶接制御装置90は、このように溶接トーチ31とスラグ除去装置70とを取り替えると、続いてスラグ除去用教示データを作成し、当該スラグ除去用教示データに基づいて溶接部のスラグを除去する。
【0057】
なお、前記したスラグ除去装置70を溶接トーチ31と取り替えて用いるのではなく、溶接トーチ31に追加装着する場合は、例えば溶接トーチ31の近傍にタガネ把持用のツール着脱部材を設けるか、エア膨張式把持機構等によってスラグ除去装置70を把持する取付手段を設ける。そして、所定の溶接パスが終了した後に、溶接トーチ31の取付手段にスラグ除去装置70を追加装着してスラグを除去するように構成すればよい。
【0058】
以上説明したようなスラグ除去装置70を備える溶接装置1は、溶接部に発生したスラグを除去することができるため、溶接不良や溶接欠陥を防止することができる。
【0059】
(ワイヤ切断装置)
ワイヤ切断装置80は、溶接ワイヤを切断するものである。溶接ロボット30は、後記するように、溶接位置や溶接ワークWの位置の検出のため溶接ワイヤによるセンシング(3方向、ギャップセンシング等)を行うが、溶接ワイヤ先端にスラグが付着しているとセンシング時の通電性が悪くなり正確な位置検出ができない場合がある。そのため、溶接装置1は、ワイヤ切断装置80によって溶接ワイヤの先端を切断してスラグを除去することでセンシング精度を上げる。
【0060】
ワイヤ切断装置80は、
図1に示すように、台車20上において、溶接トーチ31が届きやすい高さに配置されている。そして、ワイヤ切断装置80は、例えば溶接ワイヤを切断する複数のカッターを備えており、当該カッターの刃先が例えばエアによって駆動し、複数の刃先を交差させることで溶接ワイヤを切断する。
【0061】
(溶接制御装置)
溶接制御装置90は、回転ポジショナ10、台車20、溶接ロボット30、ノズル交換装置50、ノズル清掃装置60、スラグ除去装置70およびワイヤ切断装置80の動作を制御するものである。溶接制御装置90は、ここでは
図7に示すように、入力手段91と、センシング手段92と、ルートギャップ算出手段93と、演算手段94と、記憶手段95と、を備えており、さらに、記憶手段95にはワイヤ溶融情報を含む。以下では、溶接制御装置90が備える手段のうち、主に溶接ロボット30の動作と入熱を制御するための手段について説明し、その他の装置(回転ポジショナ10、台車20、溶接ロボット30、ノズル交換装置50、ノズル清掃装置60、スラグ除去装置70およびワイヤ切断装置80)の動作を制御するための手段については説明を省略する。
【0062】
入力手段91は、マスターデータとしての設定電流、電圧、溶接速度等の溶接情報または溶接ワークWの寸法および溶接継手に関する施工情報が入力されるものである。入力手段91には、溶接情報と施工情報のいずれか、あるいはその両方と、溶接実行可否の情報とが、作業者による入力あるいは溶接ワークWのCADデータの入力によって入力される。そして、入力手段91は、
図7に示すように、入力されたこれらの情報を演算手段94に出力する。なお、入力手段91には、作業者による入力あるいは溶接ワークWのCADデータの入力によって、例えば溶接ワークWのルートギャップや、溶接ワークWの位置座標等が入力されても構わない。また、ロボットの動作軌跡等の教示データを入力しても良い。
【0063】
センシング手段92は、溶接ワークWの位置座標を検出するものである。センシング手段92は、レーザーセンサによるもの、またはタッチセンシングによって溶接ワークWの位置座標を検出する。尚、タッチセンシングとは所定突き出し長さに設定された溶接ワイヤを支持する溶接トーチ31と溶接ワークWとの間にセンシング電圧を印加し、溶接ワイヤと溶接ワークWとの接触による通電状態を検出することで溶接ワークWの位置を検出するものである。より具体的には、タッチセンシングを行った溶接トーチ31から、溶接ワークWに接触した際の通電検出信号が入力され、当該通電検出信号に基づいて溶接ワークWの位置座標を検出する。
【0064】
以下、溶接トーチ31によるタッチセンシングの手順の一例について説明する。なお、以下では、
図8に示すように、溶接ワークWが鉄骨構造物(コラム)W1および鉄骨構造物(ダイヤフラム)W2で構成されるとともに、両者の間にレ型の開先が形成され、さらにこの開先の底部に裏当部材BMが配置された場合の例について説明する。
【0065】
まず、第1の手順として、
図8に示すように、所定突き出し長さの溶接ワイヤを支持する溶接トーチ31をセンシング開始位置PSに位置決めし、溶接ワイヤと溶接ワークW1,W2との間にセンシング電圧を印加する。なお、センシング開始位置PSは、
図8に示すように、溶接ワークW1の表面W1bの検出を開始する検出開始位置P1から、表面W1bに平行に距離Aだけ開先側に離れた位置に予め設定される。
【0066】
次に、第2の手順として、
図8に示すように、センシング開始位置PSから溶接ワークW1の表面W1bの検出を開始する検出開始位置P1まで、溶接トーチ31を−Y方向に移動させる。次に、第3の手順として、
図8に示すように、検出開始位置P1から位置P2まで、溶接トーチ31を+X方向に移動させる。そして、溶接ワイヤを溶接ワークW1の表面W1bに接触させ、その通電検出信号を溶接トーチ31からセンシング手段92に出力する。これにより、センシング手段92は、溶接ワークW1の表面W1bの位置P2の位置座標を検出する。
【0067】
次に、第4の手順として、
図8に示すように、位置P2から予め用意された所定距離b(例えば2mm)だけ−X方向に引き戻した位置P3に溶接トーチ31を移動させる。次に、第5の手順として、
図8に示すように、位置P3から位置P4まで、溶接トーチ31を+Y方向に移動させる。次に、第6の手順として、
図8に示すように、位置P4から位置P5まで、溶接トーチ31を+X方向に所定距離Dだけ移動させる。なお、この所定距離Dは、例えば
図8に示すように、予め設定された設定開先深さCと、溶接ワークW1の表面W1bの検知後の引き戻し距離bとから、開先深さCの距離割合比に基づいて演算設定されたものを用いることができる。
【0068】
次に、第7の手順として、
図8に示すように、位置P5から位置P6まで、溶接トーチ31を+Y方向に移動させる。そして、溶接ワイヤを溶接ワークW2の開先面W2aの位置P6に接触させ、その通電検出信号を溶接トーチ31からセンシング手段92に出力する。これにより、センシング手段92は、開先面W2aの位置P6の位置座標を検出する。次に、第8の手順として、
図8に示すように、位置P6から位置P7まで、溶接トーチ31を−Y方向に移動させる。そして、溶接ワイヤを溶接ワークW1の開先面W1aの位置P7に接触させ、その通電検出信号を溶接トーチ31からセンシング手段92に出力する。これにより、センシング手段92は、開先面W1aの位置P7の位置座標を検出する。
【0069】
次に、第9の手順として、
図8に示すように、位置P7から位置P8まで、溶接トーチ31を+Y方向に移動させる。なお、位置P8は、開先面W1aの位置P6と開先面W2aの位置P7との間の開先幅の中央位置のことであり、図示しない開先幅中央位置算出手段によって算出され、溶接ロボット30に入力される。そして、これらのセンシングが溶接トーチ31によって行われた後、センシング手段92は、
図7に示すように、算出した位置P2,P6,P7の位置座標をルートギャップ算出手段93に出力する。
【0070】
ルートギャップ算出手段93は、開先のルートギャップを算出するものである。ルートギャップ算出手段93は、例えば
図8の例では、センシング手段92によって検出された開先面W1a,W2aの検出位置データ、すなわち位置P6,P7の位置座標と、設定開先深さCと検出開始位置P1との差と、予め設定された開先面W1a,W2aの角度θ1,θ2とに基づいて、ルートギャップを算出する。すなわち、ルートギャップ算出手段93は、
図8に示すように、位置P6の位置座標と開先面W1aの角度θ1(ここでは90度)とから、開先ルート位置Q1を算出する。また、ルートギャップ算出手段93は、
図8に示すように、位置P7の位置座標と開先面W2aの角度θ2とから、開先ルート位置Q2を算出する。そして、ルートギャップ算出手段93は、開先ルート位置Q1と開先ルート位置Q2との距離rをルートギャップとして算出し、これを演算手段94に出力する。
【0071】
演算手段94は、溶接しようとする溶接情報および/または施工情報に対する積層パターンおよび溶接条件を自動生成して動作プログラムを作成するものである。演算手段94は、ここでは
図9に示すように、積層パターン決定手段941と、溶接条件決定手段942と、動作プログラム作成手段943と、を備えている。
【0072】
積層パターン決定手段941は、溶接しようとする溶接継手に対する積層パターンを決定するものである。積層パターン決定手段941は、具体的には、溶接しようとする溶接継手に対応して入力された溶接ワークWの寸法(例えば板厚)、あるいは溶接ワークWの寸法およびルートギャップに基づいて、記憶手段95に予め記憶された積層パターンデータベースの中から、溶接しようとする溶接継手に応じた積層パターンを選択して決定する。すなわち、記憶手段95には、溶接ワークWの寸法ごと、あるいは溶接ワークWの寸法およびルートギャップごとに、積層パターンがデータベースとして記憶されており、積層パターン決定手段941は、そのデータベースを参照して最適な積層パターンを決定する。なお、積層パターン決定手段941で用いられるルートギャップは、作業者によって入力手段91を介して入力された溶接ワークWのルートギャップでもよく、あるいは、センシングにより得られた溶接ワークWのルートギャップ、すなわちセンシング手段92およびルートギャップ算出手段93を経て得られたルートギャップであっても構わない。
【0073】
溶接条件決定手段942は、溶接しようとする溶接継手に対する溶接条件を決定するものである。溶接条件決定手段942は、具体的には、溶接しようとする溶接継手に対応して入力された溶接ワークWの寸法(例えば板厚)、あるいは溶接ワークWの寸法、またはルートギャップと後述するワイヤ溶融情報に基づいて、記憶手段95に予め記憶された溶接条件データベースの中から、溶接しようとする溶接継手に応じた溶接条件を選択して決定する。すなわち、記憶手段95には、ワイヤ溶融情報ごと、溶接ワークWの寸法ごと、あるいは溶接ワークWの寸法 、またはルートギャップごとに、溶接情報がデータベースとして記憶されており、溶接条件決定手段942は、そのデータベースを参照して最適な溶接条件(溶接電流、溶接電圧、溶接速度、ウィービング条件)を決定する。例えば、溶接条件は、板厚に応じてデータベース上に格納されており、予め入力(CAD,もしくはビジョンセンサからでも良い)された板厚に応じた溶接条件を抽出し、ルートギャップの結果に応じて計算することで求められる。
なお、溶接条件決定手段942で用いられるルートギャップは、作業者によって入力手段91を介して入力された溶接ワークWのルートギャップでもよく、あるいは、センシングにより得られた溶接ワークWのルートギャップ、すなわちセンシング手段92およびルートギャップ算出手段93を経て得られたルートギャップであっても構わない。
【0074】
動作プログラム作成手段943は、溶接ロボット30の動作プログラムを作成するものである。動作プログラム作成手段943は、具体的には、積層パターン決定手段941で決定された積層パターンと、溶接条件決定手段942で決定された溶接条件とに応じて、溶接ロボット30の動作軌跡を含むロボット動作プログラムを作成し、当該溶接ロボット30に出力して設定する。すなわち、動作プログラム作成手段943は、溶接ロボット30が本溶接処理を行う前に、溶接対象とする溶接継手の各パスのそれぞれの溶接に必要な手順を教示するプログラムを作成する。この教示プログラムは、溶接条件として、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、溶接トーチ31の突き出し長さ、ワイヤ送給速度に対応した電流値等の情報や、溶接ロボット30の動作軌跡、アークON位置、本溶接開始位置、クレータ形成位置、継目処理の開始位置等の情報を含んでいる。
【0075】
記憶手段95は、ワイヤ溶融情報、および溶接ワークWの寸法ごと、あるいは溶接ワークWの寸法およびルートギャップごとの積層パターンの施工情報、および溶接電流やアーク電圧、溶接速度等の溶接情報を記憶するものである。記憶手段95は、具体的には、データを記憶することができるメモリ、ハードディスク等で具現される。なお、記憶手段95は、ここでは
図7に示すように、溶接制御装置90の内部に設けられているが、溶接電源内部等の外部に設けても構わないし、内部と外部に分けて記憶手段を設けてもよい。例えば、ワイヤ溶融情報のみ溶接電源内部の記憶手段に記憶させてもよい。
【0076】
(ワイヤ溶融情報)
記憶手段95に記憶されるワイヤ溶融情報は、
図10に示すように、ワイヤ組成(鋼種)ごとに、ワイヤ送給速度と適正溶接電流値の関係を導きだしたパラメータをデータベース化したものである。尚、適正溶接電流値とはワイヤ送給速度に対し、適正電圧で溶接した場合に出力する実溶接電流となる。送給速度と適正溶接電流の関係は[適正溶接電流/送給速度]の傾きとした場合、この傾きが12以上であると溶接ワイヤはより溶け難い特性、即ちワイヤを溶かすために溶接電流を増大させる必要があるので、増大した溶接電流のエネルギーにより溶込みが確保しやすくなり溶接後の品質がより良好となる。一方、傾きが125以下であると、溶接ワイヤはより溶けやすい特性、即ち、ワイヤを溶かすために高い電流を必要としなくなるので、溶着量あたりの実溶接電流が低下し、規定した入熱以下の管理がより容易となる。したがって、12≦適正溶接電流/送給速度≦125の範囲で規定することが好ましい。また、導き出すパラメータはパラメータの精度の観点から少なくとも3点以上の送給速度から導き出すことがより好ましい。
【0077】
また、ワイヤ組成(鋼種)ごとに加え、ガス種ごと、ワイヤ径ごと、ワイヤ突出し長さごとにワイヤ送給速度と適正溶接電流値の関係を導きだしたパラメータをデータベース化することが好ましく、ワイヤ経、ワイヤ突出し長さは、特にワイヤの溶融特性に寄与することから、ワイヤ溶融情報として、適正範囲に規定することがより好ましい。
【0078】
(ワイヤ径)
ワイヤ線径は電極と溶接ワーク間の電気抵抗に寄与し、溶着量を一定とした場合、線径が太い程、電気抵抗が低下し、出力する溶接電流が増加し、線径が細い程、電気抵抗が増加し、出力する溶接電流が低下する傾向となる。鉄骨構造物を対象とした場合、線径が1.0mm以上の場合、溶込みが確保しやすくなり溶接後の品質がより良好となる。一方、線径が2.0mm以下の場合、溶着量あたりの実溶接電流が低下し、規定した入熱以下の管理がより容易となる。
【0079】
(ワイヤ突出し長さ)
ワイヤ突出し長さもワイヤ線径と同様に電極と溶接ワーク間の電気抵抗に寄与し、溶着量を一定とした場合、ワイヤ突出し長さが長い程、ジュール熱によって電気抵抗が増加し、出力する溶接電流が低下し、ワイヤ突出し長さが短い程、電気抵抗が低下し、出力する溶接電流が増加する傾向となる。鉄骨構造物を対象とした場合、突出し長さが35mm以下であれば、溶込みが確保しやすくなり溶接後の品質がより良好となる。一方、突出し長さが10mm以上とすることで、溶着量あたりの実溶接電流を低下させることができ、規定した入熱以下の管理がより容易となる。
【0080】
(溶接ワイヤ)
溶接ワイヤの種類は特に問わず、ソリッドワイヤでも良いし、フラックスコアードワイヤであっても良い。尚、フラックスコアードワイヤは、筒状を呈する外皮と、その外皮の内側に充填されたフラックスとからなる。フラックス入り溶接ワイヤは、外皮に継目のないシームレスタイプ、外皮に継目のあるシームタイプのいずれの形態であってもよい。また、ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ共にワイヤ表面(外皮の外側)に銅メッキを施されていても施されていなくてもよい。
【0081】
溶接ワイヤの化学組成は、電極とワーク間の電気抵抗に影響を及ぼし、溶着量を一定とした場合、電気抵抗が低いほど出力する溶接電流が増加し規定した入熱以下の管理が困難となる。一方、電気抵抗が高くなるほど、出力する溶接電流が低下し、溶込み不足、融合不良等の溶接欠陥が発生しやすくなり溶接後の品質に悪影響を及ぼすため、各元素の添加量は適正な範囲に規定することが好ましい。また、各元素の添加量によって、スラグ剥製性やスパッタといった溶接作業性に関しても影響する。以下、溶接ワイヤの成分量の好ましい数値範囲を、その限定理由と共に記載する。なお、成分量は、フラックスコアードワイヤの場合、外皮とフラックスにおける成分量の総和で表わし、ワイヤ(外皮及びフラックス)に含まれる各成分の質量をワイヤの全質量に対する割合で規定する。
【0082】
[C:0.50質量%以下(0質量%を含む)]
溶接ワイヤ中のCは、溶接金属の強度を高める上で一般的に添加される。Cの含有量が少量である場合、電気抵抗または溶接後の品質に悪影響を与えないため下限は設定しない。一方、Cの含有量が0.50質量%を超えて多量に含まれると、溶接中に酸素と結合し、COガスとなって溶滴表面にバブルを発生させ、これが飛散することによって、スパッタを発生量が増え、溶接後の品質を劣化させる可能性がある。このため、Cの含有量は0.50質量%以下にすることが好ましい。強度の確保のため、より好ましくは0.01質量%を下限とし、0.01〜0.50質量%の範囲とする。
【0083】
[Si:0.10〜2.00質量%]
溶接ワイヤ中のSiは脱酸元素であり、溶接金属の強度や靱性を確保するために一般的に添加する元素である。Siは添加するほど溶接ワイヤの電気抵抗が増加する。また、Siの脱酸による発生するスラグはガラス質で剥離が容易なため、Siは0.10質量%以上含むことが好ましい。また、2.00質量%以下に抑えることが好ましく、過度なスラグ発生によるスラグ巻き込みや過度な電気抵抗増加による溶け込み不良を抑制することができる。
【0084】
[Mn:0.10〜3.00質量%]
溶接ワイヤ中のMnは、Siと同じく、脱酸剤あるいは硫黄捕捉剤としての効果を発揮し、溶接金属の強度や靱性を確保するために一般的に添加される元素である。Siと同様添加するほど溶接ワイヤの電気抵抗が増加するため、入熱管理の観点からMnは0.10質量%以上含むことが好ましい。また、3.00質量%以下に抑えることが好ましく、過度なスラグ発生によるスラグ巻き込みや過度な電気抵抗増加による溶け込み不良を抑制することができる。
【0085】
[S:0.0500質量%以下(0%を含む)]
Sは不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましく、このため下限は設定しない。Sが0.0500質量%を超えて多量に存在すると、溶接金属の割れといった溶接欠陥が発生し、溶接後の品質に悪影響を及ぼす可能性がある。このため、Sの含有量は、0.0500質量%以下(0%を含む)とすることが好ましい。
【0086】
[Ti:0.80質量%以下(0%を含む)、Al:0.80質量%以下(0%を含む)]
Ti、Alは強脱酸元素であり、溶接金属の強度や靱性を確保するために一般的に添加される元素である。Ti,Alの含有量が少量である場合、電気抵抗または溶接後の品質に大きく悪影響を与えないため下限は設定しないが、0.80質量%を超えるとスラグ剥離性が悪くなる傾向にある。このため、Ti,Alの含有量は、いずれも0.80質量%以下とすることが好ましい。
【0087】
[Mo,Ni,Cr,Cu、B]
さらに、溶接金属の強度または靭性向上のため、Mo,Ni,Cr,Cu、Bを添加してもよい。各元素の添加量は過剰に添加すると、割れが発生しやすくなるため、以下の上限範囲におさめることが好ましい。尚、Cuは銅めっき分を含む。
Mo:5.00質量%以下
Ni:20.00質量%以下
Cr:30.00質量%以下
B:0.0100質量%以下
【0088】
[0.10≦Si/{1+(Al+Ti)}]
Siから発生するスラグはガラス質で剥離しやすいが、Al,Tiから発生するスラグは剥離し難い。よってスラグを形成するSi,Ti,Alの比率としてSi/{1+(Al+Ti)}の値が大きい程剥離は容易となる。また、スラグ剥離性は入熱量に影響し、入熱量が高い程スラグ剥離性は悪化する傾向にある。スラグ剥製性に関連するワイヤ元素と入熱量の関係からSi/{1+(Al+Ti)}の値が0.10以上であると、スラグ剥離性がより良好となり、スラグ除去工程が容易となることで溶接作業性の効率化を図ることができる。なお、Si/{1+(Al+Ti)}の値は、2.00以下とするのが好ましい。
【0089】
シールドガスの種類は特に問わず、一般的に適用される100%CO
2ガスやAr−20%CO
2ガスでも良いし、その他、ArやCO
2ガスに酸素や窒素ガスを一定量含んだ組成のガスでも良い。
【0090】
(第1実施形態の処理手順)
溶接制御装置90は、
図7及び
図11を参照して、入力手段91に対して、作業者による入力あるいは溶接ワークWのCADデータの入力によって、溶接情報および/または溶接ワークWの寸法や溶接継手の形状等の施工情報、溶接実行可否の情報が入力される(ステップS1)。この際、溶接情報として、基準となる入熱の値を入力する。入熱の値は式(1)で表すことができるため、設定溶接電流、設定アーク電圧、設定溶接速度の値の入力で代用しても良い。
入熱H=(60×アーク電圧E×溶接電流I)/溶接速度V・・・(1)
【0091】
次に、溶接制御装置90は、センシング手段92によって、溶接ワークWの位置を検出する(ステップS2)。次に、溶接制御装置90は、ルートギャップ算出手段93によって、センシング手段92によって検出された開先面W1a,W2aの位置P6,P7の位置座標と、設定開先深さCと検出開始位置P1との差と、予め設定された開先面W1a,W2aの角度θ1,θ2と、に基づいてルートギャップを算出する(ステップS3)。
【0092】
次に、溶接制御装置90は、演算手段94によって、ルートギャップ算出手段93によって求められたルートギャップ、及び記憶手段95のワイヤ溶融情報を基に、予め決められた入熱量以下になるように溶接条件および積層パターンを自動生成し、動作プログラムを作成する(ステップS4)。そして、溶接制御装置90は、演算手段94によって作成された動作プログラムを溶接ロボット30に出力して設定する(ステップS5)。以上のような処理手順を経て、溶接ロボット30による溶接が開始される。
【0093】
(パス分割機能)
また、複数の溶接継手を多層盛り溶接する場合、入力手段91に入力する溶接情報の一つとして、継手ごとに積層を設ける順番を変更できるパス分割設定ができることが好ましい。例えば、パス分割設定の方式としては、
図12に示す一つの継手を全パス溶接して次継手へ移動する「全パス一括」、
図13に示す1継手を1パスずつ順番に溶接していく「パス分割」、
図14に示す各継手の1パス目のみ分割して溶接する「1パス目のみ分割」が挙げられる。この設定により、パス間温度管理が容易となり、溶接作業性の効率化を図ることができる。即ち、「パス分割」方式によれば、1継手を1パスのみ溶接することで、パス間温度を下げることができる。また、スラグを手動で剥離する時にタイミングを合わせることが可能となる。また、「1パス目のみ分割」方式によれば、厚板の溶接では無人運転時に初層の溶接でビードが破断することがあるため、先に初層の溶接のみ実施することが出来る。
【0094】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る溶接装置1Aについて、
図15を参照しながら説明する。溶接装置1Aは、
図1および
図15に示すように、溶接制御装置90の代わりに溶接制御装置90Aを備える以外は、第1実施形態に係る溶接装置1と同様の構成を備えている。従って、以下では、溶接装置1との相違点を中心に説明を行い、当該溶接装置1と重複する構成および溶接装置1Aの処理手順については詳細説明を省略する。
【0095】
溶接制御装置90Aは、前記した溶接制御装置90に対して、鉄骨構造物Wの偏心量に基づいて動作プログラムを修正する機能を追加したものである。溶接制御装置90Aは、
図15に示すように、入力手段91、センシング手段92、ルートギャップ算出手段93、演算手段94および記憶手段95に加えて、中心位置算出手段96と、偏心量算出手段97と、修正手段98と、をさらに備えている。
【0096】
中心位置算出手段96は、鉄骨構造物Wの中心位置を算出するものである。中心位置算出手段96は、具体的には
図15に示すように、入力手段91から入力された鉄骨構造物Wの寸法と、センシング手段92によって検出された鉄骨構造物Wの位置座標とから、鉄骨構造物Wの中心位置を算出する。そして、中心位置算出手段96は、
図15に示すように、当該鉄骨構造物Wの中心位置を偏心量算出手段97に出力する。
【0097】
偏心量算出手段97は、鉄骨構造物Wの偏心量を算出するものである。偏心量算出手段97は、具体的には、予め設定されている回転ポジショナ10の回転中心位置の位置座標と、中心位置算出手段96によって算出された鉄骨構造物Wの中心位置とから、回転ポジショナ10の回転中心に対する鉄骨構造物Wのズレ量である偏心量を算出する。そして、偏心量算出手段97は、
図15に示すように、当該鉄骨構造物Wの偏心量を修正手段98に出力する。
【0098】
修正手段98は、演算手段94によって作成されたロボット動作軌跡を修正するものである。修正手段98は、具体的には
図7に示すように、偏心量算出手段97によって算出された偏心量に従って、演算手段94の動作プログラム作成手段943(
図9参照)によって作成された動作プログラムに含まれるロボット動作軌跡を修正する。すなわち、演算手段94に作成される動作プログラムは、回転ポジショナ10の回転中心に対する鉄骨構造物Wの偏心量が0であることを前提として作成されているが、修正手段98によって、偏心量に基づいて動作プログラムの補正を行うことができる。なお、修正手段98による具体的なロボット動作軌跡の修正方法としては、例えば予め偏心量に応じたロボット動作軌跡の補正データを実験的に求めておき、偏心量算出手段97によって算出された偏心量に応じて補正データを選択して適用する方法が挙げられる。そして、修正手段98は、このようにして修正した動作プログラムを溶接ロボット30に出力する。
【0099】
以上のような構成を備える溶接装置1Aは、中心位置算出手段96によって鉄骨構造物Wの中心位置を算出し、偏心量算出手段97によって鉄骨構造物Wの偏心量を算出することができるため、回転ポジショナ10によって偏心しながら回転する鉄骨構造物Wであっても正確に溶接を行うことができる。
【0100】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態に係る溶接装置1Bについて、
図16〜
図18Fを参照しながら説明する。溶接装置1Bは、
図1および
図16に示すように、溶接制御装置90の代わりに溶接制御装置90Bを備える以外は、第1実施形態に係る溶接装置1と同様の構成を備えている。従って、以下では、溶接装置1との相違点を中心に説明を行い、当該溶接装置1と重複する構成および溶接装置1Bの処理手順については詳細説明を省略する。
【0101】
溶接制御装置90Bは、前記した溶接制御装置90に対して、鉄骨構造物Wに対するインチングの機能を追加したものである。溶接制御装置90Bは、
図16に示すように、入力手段91、センシング手段92、ルートギャップ算出手段93、演算手段94および記憶手段95に加えて、インチング手段101をさらに備えている。
【0102】
インチング手段101は、溶接トーチ31から突き出された溶接ワイヤをインチングするものである。インチング手段101は、具体的には溶接トーチ31の溶接開始位置で、センシング電圧を印加した溶接ワイヤを鉄骨構造物Wに対してインチング操作によって進出させる。次に、インチング手段101は、溶接ワイヤの先端が鉄骨構造物Wと接触した際の短絡を検出し、溶接ワイヤと鉄骨構造物Wとの通電を確認する。次に、インチング手段101は、溶接ワイヤを所定長さだけ逆方向にインチング操作する。そして、インチング手段101は、溶接トーチ31の溶接開始位置で溶接ワイヤに所定の溶接電力を供給し、アークを点火して溶接を開始させる制御信号を生成し、
図16に示すように、当該制御信号を溶接ロボット30に出力する。
【0103】
以下、インチング手段101によるインチング操作の一例について、
図17A〜
図17Fおよび
図18A〜
図18Fを参照しながら説明する。なお、以下では、
図17A〜
図17Fおよび
図18A〜
図18Fに示すように、鉄骨構造物Wが鉄骨構造物(コラム)W3および鉄骨構造物(ダイヤフラム)W4で構成されるとともに、両者の間にレ型の開先が形成され、さらにこの開先の底部に裏当部材BMが配置された場合の例について説明する。
【0104】
まず、インチング手段101は、
図17Aに示すような初期状態の溶接トーチ31を、アークスタート位置である鉄骨構造物W3と鉄骨構造物W4との接合部であって、裏当部材BMが配置された開先に到達させる前に、
図17Bに示すように、溶接ワイヤの切断または溶接ワイヤの逆インチング操作によって、溶接トーチ31先端の溶接ワイヤの突き出し長さを溶接時の突き出し長さよりも短くする。なお、
図17Aにおいて、θは開先角度であり、rはルートギャップである。
【0105】
次に、インチング手段101は、
図17Cに示すように、溶接トーチ31先端の溶接ワイヤの長さを溶接時の突き出し長さよりも短くした溶接トーチ31をアークスタート位置に移動させ、この状態で、溶接ワイヤにセンシング電圧を印加してワイヤインチング操作を行う。
【0106】
次に、インチング手段101は、溶接ワイヤのインチング操作中に、最大ワイヤインチング量、例えば20mmに達する前に、溶接ワイヤと鉄骨構造物W3,W4との間で、
図17Dに示すように、センシング電圧が低下することによって通電を検出し、これによって溶接開始位置を検出できた場合、
図17Eに示すように、溶接ワイヤが鉄骨構造物W3,W4から離れてセンシング電圧が上昇するまで逆方向にインチング操作する。そして、インチング手段101は、
図17Fに示すように、所定長さ、例えば5mmだけ溶接ワイヤを逆方向インチング操作してアークスタート性を向上させた後、アークをスタートして溶接を開始する。
【0107】
ここで、最大ワイヤインチング量に達しても、溶接ワイヤのインチング操作中に溶接ワイヤと鉄骨構造物W3,W4との通電を検知できなかった場合であって、所定のアークスタート可能位置検索回数、例えば3回に満たない場合は、インチング手段101は、
図17Dに示すように、現在の位置で通電を検出できなかったとして異なる位置で再度検索を試みる。また、インチング手段101は、
図18Aに示すように、所定距離、例えば5mmだけ溶接トーチ31を引き上げ、溶接ワイヤを逆方向に例えば15mmインチング操作し、
図18Bに示すように、XYZ方向のアークスタート位置を基準とした位置に溶接トーチ31を引き上げる。
【0108】
次に、インチング手段101は、
図18Cに示したように、XYZ方向に所定距離シフトした前記溶接開始位置とは異なる位置、例えば溶接線進行方向のシフト量を0mm、溶接線左右シフト量を壁から1mm離れる位置まで移動し、この位置で
図18Dに示すように、再度センシング電圧を印加して通電性確認操作を実施する。ここで、
図18Eに示すように、この通電性確認操作によっても溶接ワイヤと鉄骨構造物W3,W4との導通を検出できなかった場合は、インチング手段101は、再度所定長さだけ溶接ワイヤを逆方向にインチング操作する。そして、インチング手段101は、
図18Fに示すように、溶接ワイヤの引き上げ処理を行い、通電が検出されるまで、または、予め設定した所定回数だけこの通電性確認操作を繰り返す。なお、前記した溶接開始位置とは異なる位置とは、前記溶接開始位置の近傍であって溶接開始位置以外の位置をいい、この位置から溶接を開始しても差し支えない位置のことを意味している。
【0109】
一方、最大ワイヤインチング量に達しても、溶接ワイヤのインチング操作中に溶接ワイヤと鉄骨構造物W3,W4との通電を検知できない場合であって、所定のアークスタート可能位置検索回数、例えば3回を超えた場合は、インチング手段101は、アークスタート開始位置を検出できなかったとしてエラー処理へ移行する。なお、このエラー処理の詳細についてはここでは説明を省略する。
【0110】
以上のような構成を備える溶接装置1Bは、インチング手段101を備えることで、溶接開始前にアーク発生の可不可を確認し、溶接開始位置で確実にアークをスタートすることができる。
【0111】
[第4実施形態]
また、溶接制御装置90Cは、前記した
図7に示すように、入力手段91、センシング手段92、ルートギャップ算出手段93および記憶手段95に加えて、演算手段94Cを備えている。また、この演算手段94Cは、
図19に示すように、積層パターン決定手段941、溶接条件決定手段942および動作プログラム作成手段943に加えて、溶接条件修正手段944を備えている。ここで、溶接制御装置90Cにおける演算手段94C以外の構成と、演算手段94Cにおける溶接条件修正手段944以外の構成は既に説明済みであるため、説明を省略する。
【0112】
溶接条件修正手段944は、溶接条件決定手段942によって決定された溶接条件を修正するものである。溶接条件修正手段944は、具体的には、同一の溶接ワークWに存在する断面積と溶接長のいずれかもしくは両方が異なることで、溶接すべき体積の異なる複数の溶接継手を2台の溶接ロボット30によって同時に溶接する場合に、基点から次の基点までの溶接時間を同じにするため、溶接条件決定手段942によって決定された溶接条件に含まれる溶接ワイヤの送り量を変更する。これにより、溶接条件修正手段944は、複数の溶接継手における溶接すべき体積の違いを補うことができる。
【0113】
以下、溶接条件修正手段944における具体的な処理について説明する。ここで、溶接条件修正手段944における処理の前段階として、以下のような準備を行っておく。まず、所定突き出し長さにおけるワイヤ送り速度に対する溶接電流と適正アーク電圧との関係を予め求めておく。次に、突き出し長さを増減させた場合のワイヤ送り速度に対する溶接電流と適正アーク電圧との関係を求めておく。そして、所定突き出し長さおよび基準ルートギャップの場合において、板厚ごとの基準となる溶接条件(基準溶接条件、すなわち溶接電流、アーク電圧、溶接速度および狙い位置)を実験等から求めておき、さらに、その溶接パス(多層盛溶接を行う場合にはその各パス)について、変動可能な溶接電流範囲およびそれに対応したアーク電圧を求めておく(溶接電流範囲)。この場合、薄い板厚の積層パターン、溶接電流および溶接速度(各パスののど厚が同じになる)は、厚い板厚の途中までと同じ条件となるケースが多いと考えられるが、仕上げ付近のパスのように板厚個別の条件としても構わない。そして、これらの情報を記憶手段95に格納し、
図19に示すように、溶接条件修正手段944に対して出力可能な状態とする。
【0114】
以上のような準備を行った上で、溶接条件修正手段944は、以下のような処理を行う。まず、溶接条件修正手段944は、2台の溶接ロボット30で同時に溶接しようとするパスについて、このパス終了後の基準溶接条件におけるのど厚が同じ場合、すなわち積層パターン、溶接電流および溶接速度が同じである場合、各基準溶接条件とその溶接継手のルートギャップ、および、それ以前に溶接したパスがある場合はそれまでに溶接したのど厚から、基準溶接条件におけるのど厚を保つことを前提とした場合の基点間の溶接に必要な溶着金属量を求め、その平均値を目標とする溶着金属量(目標溶着金属量)として定める。
【0115】
次に、溶接条件修正手段944は、予め求めてあるワイヤ送り速度と溶接電流との関係から、このパスの基準溶接条件の電流値を使用した場合の目標溶着金属量となる溶接時間を求める。この場合、溶接条件修正手段944は、溶接ワークWの直線部分については、基点間の溶接長から溶接速度を算出する。また、溶接条件修正手段944は、溶接ワークWの円弧部分(コーナー部)については、溶接時間が回転ポジショナ10の回転時間となることから、今回溶接する溶接位置に応じた溶接長を、それまでののど厚が異なっていることを考慮して求め、溶接速度(溶接ワークWと溶接トーチ31との相対速度)を算出する。次に、溶接条件修正手段944は、求めた溶接速度と各溶接継手の当パスで必要とする溶着金属量から、各溶接継手で必要なワイヤ送り速度を求め、ワイヤ溶融情報から、実電流値とそれに対応するアーク電圧を決定する。
【0116】
一方、複数の溶接ロボット30で同時に溶接しようとするパスについて、このパス終了後の基準溶接条件におけるのど厚が異なる場合、すなわち積層パターン、溶接電流および溶接速度が異なる場合、溶接条件修正手段944は、各基準溶接条件とその溶接継手のルートギャップ、および、それ以前に溶接したパスがある場合はそれまでに溶接したのど厚からそれぞれの溶接継手について基準溶接条件におけるのど厚を保つことを前提とした場合の基点間の溶接に必要な溶着金属量を求め、その平均値を目標とする溶着金属量(目標溶着金属量)として定める。
【0117】
次に、溶接条件修正手段944は、各基準溶接条件から同時に溶接しようとするパスの電流値に対するワイヤ送り速度を求め、その平均値を求め、これをワイヤ平均送り速度とする。次に、溶接条件修正手段944は、目標溶着金属量とワイヤ平均送り速度から、この時の溶接時間を求める。この場合、溶接条件修正手段944は、溶接ワークWの直線部分については、基点間の溶接長と溶接時間から溶接速度を算出する。また、溶接条件修正手段944は、溶接ワークWの円弧部分(コーナー部)については、溶接時間が回転ポジショナ10の回転時間となることから、今回溶接する溶接位置に応じた溶接長を、それまでののど厚が異なっていることを考慮して求め、溶接速度(溶接ワークWと溶接トーチ31との相対速度)を算出する。次に、溶接条件修正手段944は、求めた溶接速度と各溶接継手の当パスで必要とする溶着金属量から、各溶接継手で必要なワイヤ送り速度を求め、ワイヤ溶融情報から、実電流値とそれに対応するアーク電圧を決定する。このように、複数の溶接ロボット30による溶接ワイヤの送り量を変えることで、複数の溶接ロボット30によって、溶接すべき体積の異なる複数の溶接継手を同時に溶接することができる。
【0118】
ここで、溶接条件修正手段944は、各パスで溶接可能な適正溶接電流範囲を設け、その範囲内での溶接を行い、その結果生じる肉量の違いをそれ以降のパスで補うことにより、トータルの肉量を所望の値内とするように溶接条件を修正することが好ましい。すなわち、溶接電流を所定の溶接電流範囲内に変更し、肉量を変えて溶接した場合、各溶接継手の各パスにおける溶着金属量が所望の値にならなくなるが、この場合、その足りない溶着金属量または溢れた溶着金属量を次のパスに繰り越すこととする。また、今回のパスののど厚が0以下になった場合にも、下限値で溶接し、溢れた溶着金属量を次パスに繰り越すこととする。従って、溶接条件修正手段944は、繰り越しした溶着金属量の目標に対する誤差を加算したものをその溶接継手の次パスで必要とする溶着金属量とし、前記したものと同様の処理を行う。
【0119】
このように、第4実施形態に係る溶接装置は、溶接の際に生じる肉量の違いを後のパスで補い、トータルの肉量を所望の値内にすることで、複数の溶接ロボット30によって、複数の溶接継手を同時に効率よく、かつ、適正に溶接することができる。
【0120】
また、溶接条件修正手段944は、各パスで溶接可能な適正溶接電流範囲内での溶接が行えない場合、少なくとも1つのパスを溶接継手ごとに個別に溶接することにより、全体の肉量誤差を補うように溶接条件を修正することが好ましい。すなわち、複数の溶接継手間の溶接金属量の差が大きくなると、全パス終了時の溶接結果において、各溶接継手の溶着金属量に誤差が生じ、所望の溶接品質を得られないケースが発生する。この場合、溶接条件修正手段944は、1つ以上のパスを同時溶接させないようにし、つまり、複数の溶接継手のうちの少なくとも1つの溶接継手を同時溶接させないようにし、再度、基準溶接条件の溶接電流を前提として、この時の回転ポジショナ10の回転速度(溶接速度)をこのパスまでに必要な残りの溶着金属量に合わせて再計算する。そして、このように修正された溶接条件に基づいて溶接を行う。なお、この場合における残りの溶接継手は、この溶接継手の溶接前または溶接後に、このパスの溶接を行うものとする。
【0121】
このように、第4実施形態に係る溶接装置は、少なくとも1つのパスを溶接継手ごとに個別に溶接し、全体の肉量誤差を補うことで、溶接継手ごとで基点間の溶接すべき体積の差が大きくても、複数の溶接ロボット30によって、複数の溶接継手を同時に効率よく、かつ、適正に溶接することができる。
【0122】
また、溶接条件修正手段944は、各パスで溶接可能な適正溶接電流範囲内での溶接が行えない場合、ワイヤ送給量の差を大きくし、その際、溶接電流が適正範囲外になることに対して当該溶接電流が所望の値となるように溶接ワイヤの突き出し長さを変えるように溶接条件を修正することが好ましい。すなわち、前記した溶接電流範囲は限られているため、溶接継手間の溶接金属量の差が大きくなると、同時溶接できないパスが増加することになる。そしてこのように同時溶接できないパスが増加すると、結局、個別に溶接するケースに稼動時間が近づき、同時溶接の効果が薄れてしまう。従って、溶接条件修正手段944は、電流値を上下限値にしても、溶着金属量を所望の値にできない場合には、ワイヤ突き出し長さを変えることで溶接電流を範囲内に保ちつつ、溶着量を所望の値にする。つまり、溶接条件修正手段944は、予め、突き出し長さの変化に対する溶接電流およびアーク電圧の相関関係の変化を実験等から求めておき、溶接速度と溶着金属量から決まるワイヤ送り量における溶接電流値が電流範囲内になるように突き出し長さを変えることで、適正な溶接条件を保ち、同時溶接を可能とする。
【0123】
このように、第4実施形態に係る溶接装置は、複数の溶接ロボット30の溶接ワイヤの突き出し長さを変えることで、複数の溶接ロボット30によって複数の溶接継手を同時に効率よく、かつ、適正な溶接電流を保って溶接することができる。
【0124】
溶接条件修正手段944は、以上のように修正した溶接条件を、
図19に示すように、動作プログラム作成手段943に出力する。そして、動作プログラム作成手段943は、積層パターン決定手段941で決定された積層パターンと、溶接条件修正手段944で修正された溶接条件とに応じて、溶接ロボット30のロボット動作プログラムを作成し、当該溶接ロボット30に出力して設定する。
【0125】
以上のような構成を備える第4実施形態に係る溶接装置1Cは、溶接制御装置90Cの入力手段91に入力された鉄骨構造物Wの寸法等の情報に基づいて、複数の溶接ロボット30の動作軌跡および溶接条件を自動的に生成することができる。
【0126】
また、第4実施形態に係る溶接装置1Cは、一対の回転ポジショナ10によって鉄骨構造物Wを保持するとともに、台車20ごとに設けられた溶接ロボット30によって鉄骨構造物Wの別々の直線部分を溶接する場合は、当該鉄骨構造物Wを回転させずに複数の溶接ロボット30によって溶接することができ、また、台車20ごとに設けられた溶接ロボット30によって鉄骨構造物Wの別々の円弧部分(コーナー部)を溶接する場合は、当該鉄骨構造物Wを回転させながら複数の溶接ロボット30によって溶接することができる。これにより、第4実施形態に係る溶接装置1Cは、鉄骨構造物Wの直線部分のみならず、円弧部分においてもアークを切ることなく連続して溶接することができる。
【0127】
以上、本発明に係る溶接装置について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0128】
例えば、ノズル清掃装置60は、
図5A〜
図5Cに示すように、ノズル着脱機構52が溶接トーチ31のノズル311の着脱のみを行っていたが、例えば取り外したノズル311の内面(内周面)をワイヤブラシ等で自動清掃する構成を備えても構わない。これにより、ノズル311の内面に付着したスパッタを除去し、シールド性の低下をより効果的に防止することができる。
【0129】
また、
図11の処理方法は1台の溶接ロボット30を備える場合について説明を行ったが、複数の溶接ロボット30を備える場合であっても適用することができる。
【実施例】
【0130】
本発明の有効性を立証するため、シールドガス、溶接ワイヤ、溶接条件、ワイヤ溶融情報を変更した各種条件において、入熱30KJ/cm以下に入熱管理して溶接試験を行った。なお、
図20A及び
図20Bに示すように、溶接部は、コラムW1およびダイヤフラムW2と、開先の底部に裏当部材BMを設けた、レ型の開先が形成される構成とした。さらに、ルートギャップrは、6〜8mmに変化させた。
【0131】
溶接は、以下の実施手順に従って行った。
1)センシング手段及びルートギャップ算出手段によりルートギャップを検出する。
2)ワイヤ溶融情報および検出されたルートギャップに基づいて、適切な条件をデータベースから読み出す。なお、データベースには、使用される溶接ワイヤに対して、ルートギャップごとに30KJ/cmを超えない溶接条件がデータベース化されており、入力された板厚、及びセンシングにより取得したルートギャップに応じてデータベースから溶接条件を抽出し、溶着量及び入熱量を計算する。例えば、ルートギャップ3mm時の溶接条件、ルートギャップ4mm時の溶接条件としてデータベースを構築し、30KJ/cmを超える条件となる場合には、溶接は行われない。また、積層パターンを自動生成することで、溶着量が制御されるようにしても良い。なお、本実施例では、ルートギャップごとに適正条件が異なるため、積層パターンの説明については、省略する。
3.読み出されたデータベースに基づいて作成された条件(積層パターン及び溶接条件)に従って、自動溶接する。
【0132】
なお、本実施例のデータベースには、溶接ワイヤの組成、ワイヤ線径、ワイヤ突き出し長さ、適正電流/送給速度が、本実施形態で述べた適正範囲のものと、適正範囲外のものとが含まれる。
【0133】
溶接品質のビード外観は、溶接部のオーバーラップ、アンダーカット等の形状的な溶接欠陥について、目視により以下の評価基準で評価した。
アンダーカット:アンダーカット無し「〇」。欠陥と認められない程度(深さ0.5mm以下で且つ長さ20mm以下)のアンダーカットあり「△」。
オーバーラップ:オーバーラップ無し「〇」。欠陥と認められない程度(深さ0.5mm以下で且つ長さ20mm以下)のオーバーラップあり「△」。
【0134】
また、溶接品質として、スラグ剥離性、スパッタについても以下の評価基準で評価した。
スラグ剥離性:スラグ除去装置を用いて90%以上のスラグが剥離「〇」。スラグ除去装置を用いて80%以上のスラグが剥離「△」(従来レベル)。
スパッタ:鋼板に付着している1mm以上の大粒スパッタの付着なし「○」。1mm以上の大粒スパッタの数が10個以下「△」(従来レベル)。
【0135】
なお、適正電流/送給速度の比率が高いと、電流値が高くなる。溶接電流や溶接速度を過度に増加した場合、アーク力で振り下げることが原因でアンダーカットが発生したり、スパッタが発生したりする。また、適正電流/送給速度の比率が低いと、電流値が低くなる。過剰な溶融金属が重力のために垂れ下がることが原因でラップが発生する。なお、適正電流/送給速度は、150Aと300Aにおける送給速度の比率における平均とする。
【0136】
試験結果を、各溶接条件と共に表1及び表2に示す。なお、シールドガスとしては、試験No.1〜13、15〜47、50〜51では、100%CO
2ガス、試験No.14では、98%Ar+2%O
2ガス、試験No.48、49では、80%Ar+20%CO
2ガスが使用されている。また、電流波形は、試験No.14、49では、パルス方式で、その他の試験では、定電圧方式で行われた。さらに、試験No.16、17、50では、フラックスコアードワイヤが使用され、その他の試験では、ソリッドワイヤが使用された。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
表1に示す、試験No.1〜13では、同じ組成の溶接ワイヤを用いて、ワイヤ突き出し長さ、線径、及び適正電流/送給速度を変えて評価を行った。ワイヤ突き出し長さが10〜35mmの範囲外である試験No.6、7では、ビード外観及びスパッタが共に「△」であった。また、ワイヤ線径が1.0〜2.0mmの範囲外である試験No.11、13でも、ビード外観及びスパッタが共に「△」であった。なお、試験No.13では、適正電流/送給速度も12〜125の適正範囲外であった。
一方、試験No.1〜5、8〜10、12では、ワイヤ線径が1.0〜2.0mm、ワイヤ突き出し長さが10〜35mm、適正電流/送給速度が12〜125と、いずれも適正範囲内であり、良好な溶接品質が得られた。
【0140】
また、SUS系の溶接ワイヤが使用される試験No.14〜17のうち、試験No.14〜16では、良好な品質が得られたが、試験No.17では、適正電流/送給速度が12未満であり、ビード外観及びスパッタが共に「△」であった。
【0141】
また、試験No.20では、Cが0.50質量%を超えており、この場合、スパッタの評価が「△」であった。試験No.22では、Siが含有されておらず、Si/{1+(Al+Ti)}が0となっており、この場合、スラグ剥離性が「△」であった。また、試験No.24では、Siが2.10質量%であり、2.00質量%を超え、止端部にスラグが密集することでスラグ剥離が困難になり、結果としてスラグ剥離性が「△」であった。
【0142】
試験No.26では、Mnが含有されておらず、この場合、スパッタの評価は「△」であった。また、試験No.28では、Mnが3.00質量%を超えており、スラグ剥離性が「△」であった。試験No.30では、Sが0.0500質量%を超えており、この場合、スパッタの評価及びスラグ剥離性が共に「△」であった。
【0143】
試験No.32及びNo.51では、Tiが0.80質量%を超えており、この場合、スラグ剥離性が「△」であった。また、試験No.51では、さらにAlが0.80質量%を超え、且つSi/{1+(Al+Ti)}が0.10未満であり、ビード外観(アンダーカット)及びスパッタも「△」であった。
【0144】
また、Alが0.80質量%を超える試験No.36、Crが30.0質量%を超える試験No.38、Moが5.0質量%を超える試験No.41、Niが20.0質量%を超える試験No.42は、いずれもスラグ剥離性が「△」であった。さらに、Bが0.0100質量%を超える試験No.47は、ビード外観(ラップ)及びスラグ剥離性が「△」であった。
【0145】
また、溶接ワイヤの組成は、適正範囲内である一方、Si/{1+(Al+Ti)}が0.10未満の試験No34では、スラグ剥離性が「△」であった。
【0146】
一方、溶接ワイヤの組成、Si/{1+(Al+Ti)}、ワイヤ突き出し長さ、ワイヤ線径、適正電流/送給速度が適正範囲内の試験No.1〜5,8〜10,12,14〜16,18,19,21,23,25,27,29,31,33,35,37,39,40,43〜46,及び48〜50では、いずれも良好な結果であった。