特許第6619332号(P6619332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6619332ヒトEZH2遺伝子中の変異を検出するための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619332
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】ヒトEZH2遺伝子中の変異を検出するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6858 20180101AFI20191202BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20191202BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20191202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20191202BHJP
【FI】
   C12Q1/6858 Z
   C12N15/09 ZZNA
   !A61K45/00
   !A61P35/00
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-516945(P2016-516945)
(86)(22)【出願日】2014年10月7日
(65)【公表番号】特表2016-533708(P2016-533708A)
(43)【公表日】2016年11月4日
(86)【国際出願番号】EP2014071372
(87)【国際公開番号】WO2015052147
(87)【国際公開日】20150416
【審査請求日】2017年10月4日
(31)【優先権主張番号】61/888,660
(32)【優先日】2013年10月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】シヤオジュイ マックス マー
(72)【発明者】
【氏名】チトラ マノハー
(72)【発明者】
【氏名】アリソン ツァン
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/049770(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/042498(WO,A1)
【文献】 Anal. Biochem.,2005年,Vol.340,pp.287-294
【文献】 Blood,2013年 9月19日,Vol.122,pp.3165-3168
【文献】 Cancer Cytopathology,2013年 1月29日,Vol.121,pp.377-386
【文献】 Plant Methods,2012年,Vol.8,34
【文献】 Genome Research,1992年,Vol.2,pp.14-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6858
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然に存在するヒトEZH2遺伝子の配列と1つのミスマッチを含むことを除いて、EZH2_Y646H_R(配列番号11)のオリゴヌクレオチド配列を含む、ヒトEZH2遺伝子における変異を検出するための、単離されたオリゴヌクレオチドであって、
前記ミスマッチは、前記オリゴヌクレオチドの3’末端の最後の5つのヌクレオチドの中のn−2位又はn−3位に位置し、ここでnは、前記オリゴヌクレオチドの3’末端のヌクレオチドであり、配列番号15、16及び18〜20から成る群から選択される、単離されたオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
少なくとも1つの非天然ヌクレオチドを更に含む、請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
核酸試料中のヒトEZH2核酸における変異を検出する方法であって、
(a)前記核酸試料を請求項1又は2に記載のオリゴヌクレオチドと接触させ、
(b)前記オリゴヌクレオチドが前記EZH2核酸中の標的配列へとハイブリダイゼーションすることができる条件下で前記核酸試料をインキュベートし、
(c)前記EZH2核酸中の標的配列を含む増幅産物を生成させ、そして
(d)前記増幅産物の存在を検出し、それにより前記EZH2核酸中の変異の存在を検出すること
を含む、前記方法。
【請求項4】
前記核酸試料は、血液細胞、血漿、血清又はホルマリン固定パラフィン包埋組織から得られる、請求項に記載の方法。
【請求項5】
悪性腫瘍を有する患者が、EZH2阻害剤に応答する可能性があるか否かを決定する方法であって、
(a)前記患者由来の核酸試料を、請求項1又は2に記載のオリゴヌクレオチドと接触させ、
(b)前記オリゴヌクレオチドがEZH2核酸中の標的配列へとハイブリダイゼーションすることができる条件下で前記試料をインキュベートし、前記EZH2核酸中の標的配列を含む増幅産物を生成させ、
(c)前記増幅産物の存在を検出し、それにより前記EZH2核酸中の変異の存在を検出すること
を含み、ここで、前記変異の存在は、前記患者がEZH2阻害剤に応答する可能性があることを示す、前記方法。
【請求項6】
前記悪性腫瘍は癌の兆候であり、ここで前記癌はリンパ腫である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
ヒトEZH2遺伝子における変異を検出するためのキットであって、
請求項1又は2に記載のオリゴヌクレオチドと、
PCRにおける使用のための少なくとも1つの追加の試薬と
を含む、前記キット。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドは、配列番号16、18、19及び20から選択される、請求項に記載のキット。
【請求項9】
1又は2以上の対応する第二プライマー、標識されていてもよい1又は2以上のプローブ、ヌクレオチド三リン酸、核酸ポリメラーゼ、及び/又は緩衝液をさらに含む、請求項7又は8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、癌診断、及び癌療法のためのコンパニオン診断に関する。特に、本発明は、癌の診断及び予後判定(prognosis)のために、並びに癌治療の有効性を予測するために有用である、変異の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
EZH2は、クロマチン−修飾酵素標的化ヒストンタンパク質である。特に、EZH2タンパク質は、ヒストン3(H3)のリシン−27(K27)に対して特異的なヒストンメチルトランスフェラーゼであるポリコーム抑制複合体2(PRC2)の触媒サブユニットである。メチル化されたH3−K27は、遺伝子抑制に関連している。EZH2の異常に高められたレベルが、種々の癌組織に見出されており、そして遺伝子抑制に関連しており、このことは、Simon, J., and Lange, C. (2008) Roles of EZH2 histone methyltransferase in cancer epigenetics, Mut. Res. 647:21に報告されている。特定の変異がその基質選択性を変えることにより、EZH2タンパク質のヒストン−修飾機能を変更することもまた発見されている。位置Y646変異誘発されたEZH2(Wiggle, T., et al. (2011) FEBS Lett. 585:3011を参照のこと)は、ジメチル化H3(H3K27me2)をトリメチル化形(H3K27me3)へとメチル化することについて異常に活性的である。位置A629で変異誘発されたEZH2(Majer, C., et al. (2012) FEBS Lett, 586:3348を参照のこと)は、ジメチル化について異常に活性的であり;そして位置A682で変異誘発されたEZH2(McCabe, M., et al. (2012), PNAS 109:2989を参照のこと)は、すべての3種のメチル化段階で異常に活性的である。ヒト癌においては、それらの変異は、ヒストン過剰メチル化を介して遺伝子抑制を促進することが示されている。
【0003】
EZH2標的化治療が開発されている。EZH2の選択的小分子阻害剤は、EZH2(及びPRC2)活性をブロックし、そしてインビトロで癌細胞の死滅化を促進することが知られている(Knutson, S, et al. (2012) Nature Chem. Bio. 8:890)。その阻害剤は、野生型EZH2(Id.)を有する細胞に影響を及ぼさないで、異常活性変異体EZH2を有する細胞の死滅化で独自に効果的である。従って、コンパニオン診断試験は、腫瘍が変異体EZH2を有し、そしておそらく、EZH2阻害剤の恩恵を受ける得る患者を同定するために必要である。EZH2変異についての臨床試験は十分な感度で、できるだけ多くの変異を標的とすることが必須である。これは、めったにない変異を有する患者が「偽陰性」試験結果を受け、そして救命治療を潜在的に見逃していないことを確証する。同時に、この試験は、患者が「偽陽性」結果を受け取り、そして高コストで且つ効果のない治療を受けないことを保証するために非常に特異的であるべきである。
【0004】
敏感で且つ多重化に適している1つの技法は、対立遺伝子特異的 (allele-specific)PCR(AS−PCR)である。この技法は、配列の野生型変異体の存在下で、核酸配列の変異及び多型を検出する。成功した対立遺伝子特異的PCRにおいては、標的核酸の所望する変異体が増幅されるが、他の変異体は存在しないか、又は少なくとも検出可能レベルではない。対立遺伝子特異的PCRにおいては、少なくとも1つのプライマーは、配列の特定の変異体が存在する場合のみ、プライマー伸長が起こるように、対立遺伝子特異的である。1又は2以上の多型部位を標的とする1又は2以上の対立遺伝子特異的プライマーは、同じ反応混合物に存在することができる。成功する対立遺伝子特異的プライマーの設計は、予測不可能な技術である。既知配列のためのプライマーを設計することは日常的であるが、非常に類似する配列を識別できるプライマーを設計するための製法は存在しない。
【0005】
診断アッセイにおいては、正確な識別が必要とされる。例えば、EZH2変異検出の場合、対立遺伝子特異的プライマーの性能は、患者の癌治療の経過を決定することができる。従って、最大の特異性及び感度で最大数のEZH2変異を検出できる総合的アッセイが必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態において、本発明は、天然に存在するヒトEZH2遺伝子の配列と少なくとも1つのミスマッチを含むことを除いて、EZH2_Y646N_R(配列番号1)、Y646H_R(配列番号12)、Y646F_R(配列番号21)、Y646C_R(配列番号41)、A682G_R(配列番号59)及びA692V_R(配列番号73)に対応する配列番号から選択されるオリゴヌクレオチド配列からな、ヒトEZH2遺伝子における変異を検出するための、単離されたオリゴヌクレオチドである。配列番号1、12、21、41、59及び73の各々は、TTデュープレット(duplet)及びTTT又はCTCトリプレット(triplet)を少なくとも含む。任意の前記配列番号の長さは、20〜30ヌクレオチドである。これらの実施形態の変形において、ミスマッチは、各々のオリゴヌクレオチドの3’末端の最後の5つのヌクレオチドの中に位置する。これらの実施形態のさらなる変形において、当該オリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの非天然オリゴヌクレオチドを更に含む。
【0007】
別の実施形態において、本発明は、試料中のヒトEZH2核酸における変異を検出する方法であって、(a)前記試料中の核酸を、上記の配列番号1、12、21、41、59及び73に対応する配列番号から選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドと接触させ、(b)前記リゴヌクレオチドが前記EZH2核酸中の標的配列へとハイブリダイゼーションすることができる条件下で前記試料をインキュベートし、(c)前記EZH2核酸中の標的配列を含む増幅産物を生成させ、そして(d)前記増幅産物の存在を検出し、それにより前記EZH2核酸中の変異の存在を検出することを含む、方法である。この実施形態の変形において、サンプル中の核酸が、表2〜4に列記された対立遺伝子特異的プライマーから選択されるオリゴヌクレオチドであって、ヒトEZH2遺伝子の天然に存在する配列と少なくとも1つのミスマッチを含む前記オリゴヌクレオチドと接触される。
【0008】
別の実施形態において、本発明は、悪性腫瘍を有する患者が、EZH2阻害剤に応答する可能性があるか否かを決定する方法であって、(a)前記患者由来の試料中の核酸を、表2〜4に列記された対立遺伝子特異的プライマーから選択されるオリゴヌクレオチドであって、ヒトEZH2遺伝子の天然に存在する配列と少なくとも1つのミスマッチを含む前記オリゴヌクレオチドの少なくとも1つと接触させ、(b)前記オリゴヌクレオチドがEZH2核酸中の標的配列へとハイブリダイゼーションすることができる条件下で前記試料をインキュベートし、前記EZH2核酸中の標的配列を含む増幅産物を生成させ、(c)前記増幅産物の存在を検出し、それにより前記EZH2核酸中の変異の存在を検出することを含み、ここで、前記変異の存在は、前記患者がEZH2阻害剤に応答する可能性があることを示す、方法である。この実施形態の変形において、オリゴヌクレオチドは、位置Y646における変異、A682における変異及びA692における変異から選択される変異のうち、少なくとも2つに特異的である。この実施形態のさらなる変形において、オリゴヌクレオチドが、Y646N、Y646H、Y646S、Y646F、Y646C、A682G及びA692Vから選択される変異のうち、少なくとも2つに特異的である。
【0009】
さらに別の実施形態において、本発明は、ヒトEZH2遺伝子における変異を検出するためのキットであって、表2〜4に列記された対立遺伝子特異的プライマーから選択されるオリゴヌクレオチドであって、ヒトEZH2遺伝子の天然に存在する配列と少なくとも1つのミスマッチを含む前記オリゴヌクレオチドの少なくとも1つと、場合により、PCRにおける使用のための少なくとも1つの追加の試薬とを含む、前記キットである。この実施形態の変形において、キットは、配列番号1〜51、58〜68及び72〜83のうち、2つ以上を含む。この実施形態のさらなる変形において、キットは、位置Y646における変異、A682における変異及びA692における変異から選択される変異と各々特異的である、2つ以上のオリゴヌクレオチドを含む。この実施形態のさらなる変形において、キットは、Y646N、Y646H、Y646S、Y646F、Y646C、A682G及びA692Vから選択される変異と各々特異的である、2つ以上のオリゴヌクレオチドを含む。
【0010】
さらに別の実施形態において、本発明は、癌を有する患者を処置する方法であって、前記患者へ適当用量のEZH2阻害剤を投与することを含み、ここで、前記患者の腫瘍は、表2〜4に列記された対立遺伝子特異的プライマーから選択されるオリゴヌクレオチドであって、ヒトEZH2遺伝子の天然に存在する配列と少なくとも1つのミスマッチを含む前記オリゴヌクレオチドを用いて検出されたEZH2遺伝子中の体細胞変異を有する、前記方法である。
【0011】
さらに別の実施形態において、本発明は、癌を有する患者を処置する方法であって、表2〜4に列記された対立遺伝子特異的プライマーから選択されるオリゴヌクレオチドであって、ヒトEZH2遺伝子の天然に存在する配列と少なくとも1つのミスマッチを含む前記オリゴヌクレオチドの少なくとも1つを用いて、EZH2遺伝子中の変異に関して前記患者の試料を調査し、変異が発見される場合に、前記患者へ投与量のERH2阻害剤を投与することを含む、前記方法である。この実施形態の変形において、変異は、位置Y646、A682及びA692に存在する。この実施形態のさらなる変形において、変異は、Y646N、Y646H、Y646S、Y646F、Y646C、A682G及びA692Vから選択される。この実施形態のさらなる変形において、オリゴヌクレオチドは、配列番号1〜51、58〜68及び72〜83から選択される。この実施形態のさらなる変形において、EZH2阻害剤は、EI1、EPZ6438(E7438)、GSK343又はGSK126から選択される。この実施形態のさらなる変形において、癌はリンパ腫である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
定義
本開示の理解を促進するために、本明細書に使用される用語の次の定義が提供される。
【0013】
用語「X[n]Y」とは、位置[n]における、アミノ酸Xのアミノ酸Yへの置換を生じる変異のことである。例えば、用語「Y646C」とは、位置646におけるチロシンがシステインへ置換される変異のことである。
【0014】
用語「対立遺伝子−特異的プライマー」(allele-specific primer)又は「ASプライマー」(AS primer)とは、標的配列の2つ以上の変異体に対してハイブリダイズするが、標的配列の変異体間を区別できるプライマーのことであり、ここで前記変異体の1つによってのみ、プライマーは適切な条件下で核酸ポリメラーゼにより効果的に延長される。標的配列の他の変異体によれば、その延長は低効率的又は非効率的である。
【0015】
用語「共通プライマー」(common primer)とは、対立遺伝子特異的プライマーを含むプライマー対における第二プライマーのことである。共通プライマーは、対立遺伝子特異的ではなく、すなわち対立遺伝子特異的プライマーが区別する標的配列の変異体間を区別しない。
【0016】
用語「相補的」(complementary)又は「相補性」(complementarity)は、ワトソン−クリック塩基対規則により関連するポリヌクレオチドの逆平行鎖に関連して使用される。用語「完全に相補的」(perfectly complementary)又は「100%相補的」(100% complementary)とは、逆平行鎖間のすべての塩基のワトソン−クリック対を有する相補的配列のことであり、すなわちポリヌクレオチド二重鎖における任意の2つの塩基間にミスマッチは存在しない。しかしながら、二重鎖は、完全な相補性の不在下でさえ、逆平行鎖間で形成される。用語「部分的に相補的」(partially complementary)又は「不完全に相補的」(incompletely complementary)とは、100%未満、完全である逆平行ポリヌクレオチド鎖間の塩基の任意の配置のことである(例えば、ポリヌクレオチド二重鎖に少なくとも1つのミスマッチ又はマッチしない塩基が存在する)。部分的に相補的な鎖間の二重鎖は一般的に、完全に相補的な鎖間の二重鎖よりも低い安定性を有する。
【0017】
用語「試料」(sample)とは、核酸を含むか又は含むと推定される任意の組成物のことである。これは、個人から単離された組織又は体液、例えば皮膚、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、滑液、尿、涙、血液細胞、器官及び腫瘍の試料、並びに、ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPET)又はコア針生検を含む、個人から採取された細胞から確立されたインビトロ培養物、及びそれらから単離される核酸の試料のことである。
【0018】
用語「ポリヌクレオチド」(polynucleotide)及び「オリゴヌクレオチド」(oligonucleotide)は、交換可能的に使用される。「オリゴヌクレオチド」は、より短いポリヌクレオチドを記載するために時々使用される用語である。オリゴヌクレオチドは、指定されたヌクレオチド配列の領域に対応する、少なくとも6個のヌクレオチド、例えば少なくとも約10〜12個のヌクレオチド、又は少なくとも約15〜30個のヌクレオチドを含んでも良い。
【0019】
用語「一次配列」(primary sequence)とは、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドにおけるヌクレオチドの配列のことである。ヌクレオチド修飾、例えば窒素含有塩基修飾、糖修飾又は他のバックボーン修飾は、一次配列の一部ではない。標識、例えばオリゴヌクレオチドに接合される発色団 (chromophore) もまた、一次配列の一部ではない。従って、2つのオリゴヌクレオチドは、同じ一次配列を共有することができるが、修飾及び標識に関しては異なることができる。
【0020】
用語「プライマー」(primer)とは、標的核酸における配列とハイブリダイズし、そして核酸の相補鎖に沿って合成の開始点として、そのような合成のために適切な条件下で作用することができるオリゴヌクレオチドのことである。本明細書において使用される場合、用語「プローブ」(probe)とは、標的核酸における配列とハイブリダイズし、そして通常、検出可能に標識されるオリゴヌクレオチドのことである。プローブは、修飾、例えば核酸ポリメラーゼによってプローブを延長できなくさせる修飾、及び1つ又は2つ以上の発色団を有することができる。同じ配列を有するオリゴヌクレオチドは、1つのアッセイにおけるプライマーとして、及び異なったアッセイにおけるプローブとして作用することができる。
【0021】
用語「ミスマッチ」とは、核酸二重鎖における相補鎖間のワトソン−クリック塩基対を欠いていることである。例えば、(グアニンの代わりに)アデニンが相補鎖中のシトシンの反対側に存在する場合にミスマッチが生じる。一本鎖核酸(例えば増幅プライマー)がミスマッチを有するといわれる場合、それは、その標的配列とハイブリダイズするときに、当該プライマーが相補鎖上の対応する塩基とワトソン−クリック塩基対を欠く塩基を有するヌクレオチドを有することを意味する。
【0022】
用語「標的配列」、「標的核酸」又は「標的」とは、増幅されるか、検出されるか、又はその両方がなされる、核酸配列の一部のことである。
【0023】
用語「ハイブリダイズされる」(hybridized)及び「ハイブリダイゼーション」(hybridization)とは、二重鎖の形成をもたらす、2つの核酸間の塩基対合相互作用のことである。2種の核酸は、ハイブリダイゼーション及び鎖伸長を達成するために、それらの全長にわたって100%の相補性を有することは必要条件ではない。
【0024】
ヒトEZH2遺伝子は、癌において頻繁に変異することが知られている。表1は、現時点で報告されている、最も一般的な変異を示す。
【0025】
表1 ヒトEZH2遺伝子における変異
【表1】
【0026】
対立遺伝子特異的PCRは、米国特許第6,627,402号に記載されている。対立遺伝子特異的PCRにおいては、識別プライマーは、標的配列の所望する変異体に対して相補的であるが、しかし標的配列の所望しない変異体とミスマッチする配列を有する。典型的には、プライマーにおける識別ヌクレオチド、すなわち標的配列の1つの変異体のみとマッチするヌクレオチドは、3’−末端ヌクレオチドである。しかしながら、プライマーの3’末端は、特異性の多くの決定因子の1つに過ぎない。対立遺伝子特異的PCRにおける特異性は、マッチされたプライマーの伸長速度よりも、マッチされたプライマーのより遅い伸長速度に起因し、究極的には、ミスマッチされた標的の相対的増幅効率を低める。低められた伸長動態及びPCR特異性は、酵素の性質、反応成分及びそれらの濃度、伸長温度及びミスマッチの全体的な配列属性を包含する多くの要因により影響される。各特定のプライマーに対するそれらの要因の効果は、確実には定量化され得ない。信頼できる定量的ストラテジーなしでは、及び膨大な数の変数の存在のために、対立遺伝子特異的プライマーの設計は、しばしば、驚くべき結果を伴っての試行錯誤の問題である。下記に記載されるEZH2の変異対立遺伝子の場合、試験されるプライマーの一部のみが、適切な性能、すなわち許容できるPCR効率、及び同時に、変異体と野生型鋳型との間の識別性を提供する。
【0027】
対立遺伝子特異的プライマーの特異性を高める1つのアプローチは、末端ミスマッチの他に、内部ミスマッチヌクレオチドを含むことによってであり、米国特許公開第2010/0099110号を参照のこと。プライマー中の内部ミスマッチヌクレオチドは、所望する及び所望しない両標的配列によりミスマッチされ得る。ミスマッチは所望する及び所望しない両鋳型を有するプライマー−鋳型ハイブリッドを不安定にするので、ミスマッチのいくつかは、両鋳型の増幅を妨げ、そしてPCRの障害を引起す。従って、特定の対立遺伝子特異的PCRに対するそれらの内部ミスマッチの効果は予測され得ない。
【0028】
プライマーの成功した伸長のためには、プライマーは、標的配列に対して少なくとも部分的な相補性を有する必要がある。一般的には、プライマーの3’末端での相補性は、プライマーの5’末端での相補性よりも、より決定的である(Innis et al. Eds. PCR Protocols, (1990) Academic Press, Chapter 1, pp. 9-11)。従って、本発明は、表1〜7に開示されるプライマー、及び5’末端の変動(variations)を有するそれらのプライマーの変異体を包含する。
【0029】
一般的に、PCR増幅に関して、プライマー特異性は、プライマー中のヌクレオチドの化学的修飾の使用により高められ得ることは、これまで記載されている。環外アミノ基の共有的修飾を有するヌクレオチド、及びPCRへのそのようなヌクレオチドの使用は、米国特許第6,001,611号に記載されている。修飾は、所望する及び所望しない両鋳型を有するプライマー−鋳型ハイブリッドにおけるワトソン−クリック水素結合を崩壊するので、修飾のいくつかは、両鋳型の修飾を妨げ、そしてPCRの不良を引き起こす。従って、対立遺伝子特異的PCRに対するそれらの共有的修飾の効果は予測され得ない。
【0030】
一実施形態によれば、本発明は、単一のチューブにおいて、複数のEZH2変異を同時に検出するための単離されたオリゴヌクレオチドを含む。一実施形態によれば、本発明は、ヒトEZH2遺伝子における位置Y646での変異を特異的に検出するための単離されたオリゴヌクレオチドを含む(表2)。別の実施形態によれば、本発明は、ヒトEZH2遺伝子における位置Y682での変異を特異的に検出するための単離されたオリゴヌクレオチドを含む(表3)。さらに別の実施形態によれば、本発明は、ヒトEZH2遺伝子における位置Y692での変異を特異的に検出するための単離されたオリゴヌクレオチドを含む(表4)。それらのオリゴヌクレオチドプライマーのいくつかは、内部ミスマッチ、例えば表2〜4に示されるように、天然に存在する変異体又は野生型配列に存在しないヌクレオチドを含む。それらのオリゴヌクレオチドプライマーは、前記表に示されるような非天然のヌクレオチドを含む。
【0031】
実験結果(表5〜7)に示されるように、同じ原理に従って設計される対立遺伝子特異的プライマーの性能は大きく変化する。本発明は、いくつかの密接に関連する配列(すなわち、単一コドン646での一連の変異)の1つに対して各々特異的な単離されたオリゴヌクレオチドを包含する。表5〜7に示されるように、プライマーは、類似する変異及び同じコドンでの野生型配列と、それらの標的変異とを独自に区別することができる。
【0032】
選択肢として、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)アッセイにおいては、表2〜4に開示される対立遺伝子特異的プライマーは、「共通の (common)」、すなわち、表2〜4に開示される対立遺伝子特異的ではない第二プライマーと、そして適切な場合、表2〜4に同様に開示される検出プローブと対合され得る。当業者は、AS−PCRにより、ヒトEZH2遺伝子中の位置Y646、A682及びA692で変異を検出するために、代わりの共通プライマー及び検出プローブが設計され、そして本発明の対立遺伝子特異的プライマーと組合わされ得ることを、ただちに理解するであろう。
【0033】
表2.位置Y646での変異を検出するためのオリゴヌクレオチド
【表2】
【表3】
【0034】
表3.位置A682での変異を検出するためのオリゴヌクレオチド
【表4】
【0035】
表4.位置A692での変異を検出するためのオリゴヌクレオチド
【表5】
【0036】
別の実施形態によれば、本発明は、表2〜4に開示されるオリゴヌクレオチドを用いて、EZH2変異を検出するための診断方法である。前記方法は、核酸を含む試験試料と、表2〜4から選択されたEZH2変異のための1又は2以上の対立遺伝子特異的プライマーとを、その対応する第二プライマー、(任意には、また表2〜4から選択される)、ヌクレオチド三リン酸及び核酸ポリメラーゼの存在下で、前記1又は2以上の対立遺伝子特異的プライマーが、EZH2変異が試料中に存在する場合のみ、効果的に伸長され得るよう、接触し;そして伸長生成物の有無を検出することにより、EZH2変異の有無を検出することを含んで成る。
【0037】
特定の実施形態によれば、伸長生成物の存在は、プローブにより検出される。本実施形態の変形例によれば、プローブは表2〜4から選択される。プローブは、放射性、蛍光又は発色団標識により標識され得る。例えば、変異は、リアル・タイムポリメラーゼ連鎖反応(rt−PCR)による伸長生成物の増幅を検出することにより検出され得、ここで伸長生成物へのプローブのハイブリダイゼーションが、プローブの酵素消化及び得られる蛍光の検出をもたらす(TaqMan(登録商標)プローブ法, Holland et al. (1991) P.N.A.S. USA 88:7276-7280)。rt−PCRでの増幅生成物の存在はまた、プローブと伸長生成物との間での核酸二重鎖の形成のために、蛍光の変化を検出することによっても検出され得る(米国特許公開番号2010/0143901号)。他方では、伸長生成物及び増幅生成物の存在は、Sambrook, J. and Russell, D.W. (2001) Molecular Cloning, 3rd ed. CSHL Press, Chapters 5 and 9に記載されるように、ゲル電気泳動により、続いて染色又はブロット、及びハイブリダイゼーションにより検出され得る。
【0038】
さらなる別の実施形態によれば、本発明は、ヒトEZH2遺伝子中の位置Y646、A682及びA692での変異を同時に検出するためのオリゴヌクレオチドの組み合わせである。この実施形態の変形例によれば、前記組み合わせは、表2〜4の個々からの少なくとも1つの対立遺伝子特異的プライマー、及び表2〜4の個々からの少なくとも1つの共通プライマー、及びさらに任意には、表2〜4の個々からの少なくとも1つのプローブを含む。例えば、表5に示されるように、本発明の単離されたオリゴヌクレオチドは、試験キットに組み合されるためにも適切である。表5は、各オリゴヌクレオチドは、密接に関連する変異が試料中に存在していてさえ、その標的変異に対して特異的であることを示している。
【0039】
別の実施形態によれば、本発明は、変異EZH2遺伝子を有する細胞をおそらく保有する腫瘍を有する患者の治療方法である。前記方法は、患者からの試料と、表2〜4から選択されたEZH2変異に対する1又は2以上の対立遺伝子特異的プライマーとを、その対応する第二プライマー(任意には、また表2〜4から選択される)の存在下で接触せしめ、対立遺伝子特異的増幅を実施し、そして伸長生成物の有無を検出することにより、EZH2変異の有無を検出し、そして少なくとも1つの変異が見出される場合、その変異誘発された遺伝子によりコードされる変異EZH2タンパク質のシグナル伝達を阻害する化合物を、患者に投与することを含んで成る。この実施形態の変形例によれば、EZH2阻害剤は、EI1 (Qi, W., et al. (2012) PNAS USA 109(52):21360); EPZ6438−E7438 (Knutson, S.K., et al. (2012) Nat Chem Biol. 8(11):890; GSK343 又は GSK126 (McCabe, M.T., et al. (2012) Nature 108:108;又は利用できるか、又は利用可能になるであろう何れか他の適切な選択的EZH2阻害剤から選択される。
【0040】
さらなる別の実施形態によれば、本発明は、EZH2遺伝子における変異を検出するために必要な試薬を含むキットである。試薬は、各表2〜4から選択されたEZH2変異に対する1又は2以上の対立遺伝子特異的プライマー、1又は2以上の対応する第二プライマー(任意にはまた、各表2〜4から選択される)、及び任意には、1又は2以上のプローブ(任意にはまた、各表2〜4から選択される)を含む。キットはさらに、増幅及び検出アッセイの実施のために必要な試薬、例えばヌクレオチド三リン酸、核酸ポリメラーゼ、およびポリメラーゼの機能のために必要な緩衝液を含む。いくつかの実施形態によれば、プローブは検出可能的に標識される。そのような実施形態によれば、キットは標識し、そしてその標識を検出するための試薬を含む。
【実施例】
【0041】
典型的反応条件
プライマーの性能を試験するために使用される典型的な反応条件は、次の通りである。50mMのトリス−HCl(pH8.0)、75〜90mMの塩化カリウム、それぞれ160μMのdATP、dCTP及びdGTP、320μMのdUTP,0.075〜0.2μMの各選択及び共通プライマー、005〜0.1μMのプローブ、標的DNA(変異体を含む組換えプラスミドの100及び10,000のコピー)、又は10,000のコピーの野生型ゲノムDNA(プールされたゲノムDNA、プールされたゲノムDNA、Promega, Madison, Wisc., Cat. No. DD2011)、0.2U/μlのウラシル−N−グリコシラーゼ、200nMのNTQ21−46Aアプタマー、40nMのDNAポリメラーゼ、0.1mMのEDTA、1.25%〜2%のDMSO、2.5mMの酢酸マグネシウムを含むPCR混合物。増幅及び分析は、Roche LightCycler(登録商標)480 装置 (Roche Applied Science, Indianapolis, Ind.)を用いて行われた。次の温度プロフィールを使用した:95℃(10秒)〜62℃(30秒)の2サイクル、続いて、93℃(10秒)〜62℃(30秒)の55回のサイクル、37℃(10秒)への冷却(1サイクル)及び25℃(10秒)への冷却(1サイクル)。蛍光データを、55サイクルにおける各62℃段階の開始で集めた。任意には、反応は、内因性陽性対照鋳型を含んだ。
【0042】
対立遺伝子特異的PCRの成功を、標的配列により得られたCt及び非標的配列により得られたCt、例えば同じ位置での異なった変異又は野生型配列を比較することにより測定した。
【0043】
実施例1
ヒトEZH2遺伝子における位置Y646での変異を検出するためのプライマー
表2に示されたプライマー及びプローブを、上記に示される実験条件下で試験した。表5は増幅を示す(Ctにより測定される通り)。
【0044】
表5.ヒトEZH2遺伝子における位置Y646でのプライマーの性能
【表6】
【表7】
【0045】
実施例2
ヒトEZH2遺伝子における位置Y682での変異を検出するためのプライマー
表3に示されたプライマー及びプローブを、上記に示される実験条件下で試験した。表6は、Gt及びΔCt(マッチ(変異体)鋳型とミスマッチ(野生型)鋳型との間の)により測定される場合、増幅特異性を示す。
【0046】
表6.ヒトEZH2遺伝子における位置Y682でのプライマーの性能
【表8】
【0047】
実施例3
ヒトEZH2遺伝子における位置Y692での変異を検出するためのプライマー
表4に示されたプライマー及びプローブを、上記に示される実験条件下で試験した。表7は、Gt及びΔCt(マッチ(変異体)鋳型とミスマッチ(野生型)鋳型との間の)により測定される場合、増幅特異性を示す。
【0048】
表7.ヒトEZH2遺伝子における位置Y692でのプライマーの性能
【表9】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]