特許第6619336号(P6619336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619336
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/252 20060101AFI20191202BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   D06M13/252
   D06M13/224
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-525772(P2016-525772)
(86)(22)【出願日】2015年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2015064852
(87)【国際公開番号】WO2015186545
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2018年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-117293(P2014-117293)
(32)【優先日】2014年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】正路 大輔
(72)【発明者】
【氏名】奥澤 政巨
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特公平04−061110(JP,B2)
【文献】 特開平05−148756(JP,A)
【文献】 特開2009−235647(JP,A)
【文献】 特開平07−138815(JP,A)
【文献】 国際公開第98/024559(WO,A1)
【文献】 特開昭56−079771(JP,A)
【文献】 特開平03−213571(JP,A)
【文献】 特開2008−163489(JP,A)
【文献】 特開平10−008377(JP,A)
【文献】 特開平09−176967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 11/00 − 11/16
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される含硫黄エステル化合物(A1)と、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸又はジカルボン酸誘導体との縮合物であるエステル化合物(B1)及びその縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル化合物(B2)からなる群より選ばれた少なくとも1種のエステル化合物(B)とを含有し、
前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記エステル化合物(B)との重量比(A/B)が1/10〜15/1であ処理剤の不揮発分に占める前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記エステル化合物(B)の合計の重量割合が5〜75重量%であり、
脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造もつエステルであって、分子内に2個以上のエステル結合を有する多価エステル(C)を含有し、処理剤の不揮発分に占める前記多価エステル(C)の重量割合が1〜58重量%であり、
脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造もつエステルであって、分子内に1個のエステル結合を有するモノエステル(D)を含有し、処理剤の不揮発分に占める前記モノエステル(D)の重量割合が1〜25重量%である、
合成繊維用処理剤。
【化1】
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数12〜24の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記モノエステル(D)との重量比(A1/D)が1/5〜20/1である、請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
下記一般式(2)で示される含硫黄エステル化合物(A2)をさらに含有し、
前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記含硫黄エステル化合物(A2)との重量比(A1/A2)が3/1〜50/1である、請求項1又は2に記載の処理剤。
【化2】
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、Rは炭素数12〜24の炭化水素基である。)
【請求項4】
原料合成繊維フィラメント糸条に、請求項1〜のいずれかに記載の処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条。
【請求項5】
原料合成繊維フィラメント糸条に、請求項1〜のいずれかに記載の処理剤を付与する工程を含む、合成繊維フィラメント糸条の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の合成繊維フィラメント糸条含む、繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維を製造する際に用いられる合成繊維用処理剤及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業資材用の高強度ポリエステル等の合成繊維は、シートベルト、スリング等の細幅織物、伝動ベルト、コンベアベルト、タイヤコード等のゴム補強材、およびテント、ターポリン、重布、バッグ用基布等の広幅織物に広く用いられている。これら用途では、製織または撚糸された後、細幅織物では染色、ゴム補強材では接着剤付与、広幅織物では樹脂コートが行われる。
合成繊維の染色工程、接着剤付与工程等の工程(以下、これらを合わせて処理工程という)は、環境負荷や安全性の観点から、特別な理由がない限り、水系処理にて行われる。このとき、大量の水を必要とするため、工業用水、河川水又は地下水を軟水化することなく使用する場合が多い。硬度の高い水を軟水化することなく使用した場合、合成繊維の製造工程において合成繊維に付与された処理剤成分が脱したときには、浴中で、処理剤成分と、染料、接着剤成分等との相互作用が生じ、染料、接着剤成分等の凝集を引き起こす(以下、このような処理剤は硬水安定性に劣ると表現する)。その結果、合成繊維への染料、接着剤成分等の均一付着の妨げや、合成繊維から水分を除去する乾燥機内部の汚染を引き起こす問題がある。
【0003】
合成繊維を製造する際に用いられ、染色安定性や染色時の強力低下防止を図る従来技術の処理剤としては、脂肪族カルボン酸アルキルエステル、ポリアルキレングリコール型非イオン性界面活性剤およびリン酸エステル化合物からなることを特徴とするポリエステル繊維用処理剤(特許文献1)や、脂肪族一価エステル化合物(A)を主体成分とし、水酸基を有するグリセライドのアルキレンオキシド付加物と二塩基酸成分との反応生成物を含有する処理剤(特許文献2)を提案した例がある。
【0004】
しかし、これらの処理剤では、硬度100mg/L程度の硬水には対応できたが、近年の製造業グローバル化の流れのなかで、工場立地国・地域においては硬度1000mg/Lレベルの高硬度水への対応が迫られており、近年の硬水安定性の要求に対して不十分であった。また、これらの処理剤では、近年の生産性が向上した多糸条化・高速化された設備では、熱セットローラーの高温化に伴う、発煙増加による作業環境悪化、ローラーへの汚れ増加によるローラー清掃回数の増加がみられ、安定操業できなかった。
【0005】
このように、優れた硬水安定性を有した上で、高機能化繊維を高品位且つ高効率に生産でき、かつ耐熱性に優れ、生産環境を悪化しない合成繊維用処理剤が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2005−206980号公報
【特許文献2】日本国特開平4−339875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、染色工程や接着剤付与工程等において、1000mg/Lレベルの硬度の高い水を使用した場合であっても、硬水安定性に優れ、かつ合成繊維を製造する工程において、毛羽、断糸の発生を低減することができ、耐熱性に優れ、生産環境を悪化させない合成繊維用処理剤、該処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条、該処理剤を用いた合成繊維フィラメント糸条の製造方法、該製造方法で得られた合成繊維フィラメント糸条を含む繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の含硫黄エステル化合物(A1)と特定のエステル化合物(B)を特定の割合で含有する合成繊維処理剤であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の合成繊維用処理剤は、下記一般式(1)で示される含硫黄エステル化合物(A1)と、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸又はジカルボン酸誘導体との縮合物であるエステル化合物(B1)及びその縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル化合物(B2)からなる群より選ばれた少なくとも1種のエステル化合物(B)とを含有し、前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記エステル化合物(B)との重量比(A/B)が1/10〜15/1である。
【0009】
【化1】
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数12〜24の炭化水素基である。)
【0010】
処理剤の不揮発分に占める前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記エステル化合物(B)の合計の重量割合は、5〜75重量%であることが好ましい。
【0011】
本発明の処理剤は、下記一般式(2)で示される含硫黄エステル化合物(A2)をさらに含有し、前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記含硫黄エステル化合物(A2)との重量比(A1/A2)が3/1〜50/1であることが好ましい。
【0012】
【化2】
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、Rは炭素数12〜24の炭化水素基である。)
【0013】
本発明の処理剤は、脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造もつエステルであって、分子内に2個以上のエステル結合を有する多価エステル(C)をさらに含有し、処理剤の不揮発分に占める前記多価エステル(C)の重量割合が1〜58重量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の処理剤は、脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造もつエステルであって、分子内に1個のエステル結合を有するモノエステル(D)をさらに含有し、処理剤の不揮発分に占める前記モノエステル(D)の重量割合が1〜25重量%であることが好ましい。
【0015】
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、原料合成繊維フィラメント糸条に、上記の処理剤が付与されたものである。
【0016】
本発明の合成繊維フィラメント糸条の製造方法は、原料合成繊維フィラメント糸条に、上記の処理剤を付与する工程を含むものである。
【0017】
本発明の繊維構造物は、上記の合成繊維フィラメント糸条及び/又は上記の製造方法で得られた合成繊維フィラメント糸条を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の合成繊維用処理剤は、合成繊維を製造する際の毛羽、断糸の発生を低減することができる。また、本発明の合成繊維用処理剤は、耐熱性に優れ、生産環境を悪化させることもない。さらに、本発明の合成繊維用処理剤は、合成繊維の染色工程や接着剤付与等の処理工程において、1000mg/Lレベルの硬度の高い水を使用した場合であっても、染料、接着剤成分等の凝集を抑制することができ、優れた硬水安定性を有する。
本発明の製造方法によれば、毛羽、断糸の発生を低減することができ、糸品位に優れた合成繊維フィラメント糸条を製造することができる。また、タールが少なく高品位な原糸が得られる。本発明の合成繊維フィラメント糸条又は本発明の製造方法によって得られた合成繊維フィラメント糸条は、染色、接着剤付等の処理工程において、硬度の高い水を使用した場合であっても、染料、接着剤成分等の凝集を抑制することができる。
本発明の繊維構造物は、高品位な原糸を用いており、また染料や接着剤が均一に付着されているので、品質に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の合成繊維用処理剤は、特定の含硫黄エステル化合物(A1)と特定のエステル化合物(B)を特定の割合で含有するものである。以下、詳細に説明する。
【0020】
〔含硫黄エステル化合物(A1)〕
含硫黄エステル化合物(A1)は、上記一般式(1)で示される化合物であり、本発明の処理剤の必須成分である。含硫黄エステル化合物(A1)をエステル化合物(B)と併用し、かつ特定の割合で用いることにより、本発明の効果を発揮できる。
【0021】
一般式(1)の式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数12〜24の炭化水素基である。R及びRは同一であってもよく、異なっていてもよい。R及びRは、直鎖状、分岐鎖状のどちらでもよいが、硬水安定性の観点から、直鎖状が好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等が挙げられ、アルケニル基が好ましい。炭化水素基の炭素数は、14〜22が好ましく、16〜20がさらに好ましい。該炭素数が12未満であると、分子量が小さくなりすぎて製糸熱延伸工程で発煙が増加する。一方、炭素数が24を超えると、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加する。
【0022】
一般式(1)の式中、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、2が好ましい。1〜4以外の場合、酸化防止効果が低くなり製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加する。
【0023】
直鎖状の炭化水素基の具体例としては、例えば、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、オレイル基、ステアリル基等が挙げられる。また、分岐鎖状の炭化水素基の具体例としては、例えば、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、イソステアリル基等が挙げられる。これらの中でも、潤滑性の観点から、イソヘキサデシル基、オレイル基、イソステアリル基が好ましい。
【0024】
含硫黄エステル化合物(A1)としては、例えば、チオジエタン酸ジ(n−ドデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(n−トリデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(n−テトラデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(n−ペンタデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(オレイル)エステル等のチオジエタン酸ジ直鎖型エステル;チオジエタン酸ジ(イソドデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(イソトリデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(イソテトラデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(イソペンタデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(イソヘキサデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジエタン酸ジ(イソステアリル)エステル等のチオジエタン酸ジ分岐鎖型エステル;チオジプロピオン酸ジ(n−ドデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(n−トリデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(n−テトラデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(n−ペンタデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(オレイル)エステル等のチオジプロピオン酸ジ直鎖型エステル;チオジプロピオン酸ジ(イソドデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(イソトリデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(イソテトラデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(イソペンタデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(イソヘキサデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(イソステアリル)エステル等のチオジプロピオン酸ジ分岐鎖型エステル;チオジブタン酸ジ(n−ドデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(n−トリデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(n−テトラデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(n−ペンタデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(オレイル)エステル等のチオジブタン酸ジ直鎖型エステル;チオジブタン酸ジ(イソドデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(イソトリデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(イソテトラデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(イソペンタデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(イソヘキサデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジブタン酸ジ(イソステアリル)エステル等のチオジブタン酸ジ分岐鎖型エステル;チオジペンタン酸ジ(n−ドデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(n−トリデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(n−テトラデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(n−ペンタデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(オレイル)エステル等のチオジペンタン酸ジ直鎖型エステル;チオジペンタン酸ジ(イソドデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(イソトリデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(イソテトラデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(イソペンタデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(イソヘキサデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジペンタン酸ジ(イソステアリル)エステル等のチオジペンタン酸ジ分岐鎖型エステル;等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、潤滑性や硬水安定性の観点から、チオジプロピオン酸ジ直鎖型エステル、チオジプロピオン酸ジ分岐鎖型エステルが好ましく、チオジプロピオン酸ジ(イソヘキサデシル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(オレイル)エステル、チオジプロピオン酸ジ(イソステアリル)エステルがさらに好ましい。
これらの含硫黄エステル化合物(A1)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
含硫黄エステル化合物(A1)のヨウ素価については、特に限定はない。なお、本発明でのヨウ素価は、JIS K−0070に基づき測定した値をいう。
【0026】
含硫黄エステル化合物(A1)の製造方法としては、特に限定なく、公知の手法を採用できる。例えば、チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールのエステル化反応を行うことで製造することができる。具体的な例としては、チオジプロピオン酸に対して脂肪族アルコール2〜2.5倍モルの仕込み比率で、生成してくる水を抜きながらエステル化反応を行う方法が挙げられる。
【0027】
エステル化条件として、例えば、エステル化反応温度としては、通常120〜250℃であり、130℃〜230℃が好ましい。また、反応時間としては、通常1〜10時間であり、2〜8時間が好ましい。反応は無触媒で行っても後述するエステル化触媒を用いて反応を行ってもよい。
【0028】
脂肪族アルコールの具体例としては、例えば、n−ドデカノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール、n−ペンタデカノール、n−ヘキサデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘキサデカノール、2−ヘキシルデカノール、オレイル基、ステアリル基等が挙げられる。これらの中でも、イソヘキサデシル基、オレイル基、イソステアリル基が好ましい。
これらの脂肪族アルコールは、単独であるいは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、スルホン酸類等が挙げられる。より具体的には、ルイス酸類としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体等が、更にスルホン酸類としては、パラトルエンスルホン酸、メタスルホン酸、硫酸等が挙げられる。これらの中でも、チタン誘導体、スルホン酸類が好ましい。その使用量は、例えば原料の総重量に対して、0.05〜5重量%程度が好ましい。
【0030】
エステル化反応では、必要に応じて、生成してくる水をベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の水同伴剤を用いて系外に共沸留去させてもよい。
エステル化反応終了後、反応に応じて、過剰の脂肪族アルコールを減圧化又は常圧下にて留去させ、また、慣用の精製方法、例えば、水洗、減圧蒸留、活性炭等の吸着剤精製を行い、チオジプロピオン酸ジエステルを得ることができる。
【0031】
[エステル化合物(B)]
本発明で用いられるエステル化合物(B)は、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)とジカルボン酸又はジカルボン酸誘導体との縮合物であるエステル化合物(B1)及びその縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル化合物(B2)からなる群より選ばれた少なくとも1種のエステル化合物である。エステル化合物(B)は本発明の処理剤の必須成分であり、含硫黄エステル化合物(A1)と併用し、かつ特定の割合で用いることにより、本発明の効果を発揮する。ここで、ジカルボン酸誘導体とは、エステル化反応やエステル交換反応等により水酸基含有化合物とカルボン酸エステルを形成できる誘導体である。つまり、ジカルボン酸のアルキルエステル、酸無水物、アミド等が挙げられる。
【0032】
エステル化合物(B1)を構成するポリヒドロキシエステルは、構造上、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上(好ましくは全部)の水酸基がエステル化されていることが好ましい。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0033】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の炭化水素基に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸の炭化水素基と結合していない片末端が水酸基となっている。
ポリヒドロキシエステルとしては、例えば、炭素数6〜22(好ましくは12〜22)のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物のアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。ヒドロキシ脂肪酸の炭素数が6未満であると、集束性が低くなり、毛羽やフィブリル化を低減する性能が低下する可能性がある。一方、22を超えると、染色性が低下する可能性がある。
【0034】
炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等が挙げられ、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸が好ましい。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン等が挙げられ、グリセリンが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドの炭素数2〜4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0035】
ポリヒドロキシエステルは、例えば、多価アルコールとヒドロキシ脂肪酸(ヒドロキシモノカルボン酸)を通常の条件でエステル化してエステル化物を得て、次いでこのエステル化物にアルキレンオキシドを付加反応させることによって製造できる。ポリヒドロキシエステルは、ヒマシ油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ヒマシ油を用い、さらにアルキレンオキシドを付加反応させることによっても、好適に製造できる。ポリヒドロキシエステルを製造する場合、多価アルコールの水酸基1モル当量あたりのヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基当量は、0.5〜1の範囲であることが好ましい。
【0036】
アルキレンオキシドの付加モル数は、前記ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの1分子当り、好ましくは50以下、さらに好ましくは5〜30である。染色性が低下する可能性がある。アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上である。エチレンオキシドの割合が大きくなる程、染色性が向上する傾向が見られる。2種類以上のアルキレンオキシドを付加する場合、それらの付加順序は特に限定されるものでなく、付加形態はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。アルキレンオキシドの付加は公知の方法により行うことができるが、塩基性触媒の存在下にて行うことが一般的である。
【0037】
本発明で用いられるエステル化合物(B1)は、ポリヒドロキシエステルとジカルボン酸又はジカルボン酸誘導体との縮合物である。エステル化合物(B1)を製造する場合、ポリヒドロキシエステルの水酸基1モル当量あたりのジカルボン酸のカルボキシル基当量は、0.2〜1の範囲であることが好ましく、0.4〜0.8がさらに好ましい。前述の縮合物を得る為には、通常のエステル化反応やエステル交換反応等のエステル化物が得られるような一般的な反応条件で良く、特に限定はない。ジカルボン酸(又はジカルボン酸誘導体)のジカルボン酸部分の炭素数については、2〜10が好ましく、2〜8がさらに好ましい。ジカルボン酸の炭素数が10を超えると、染色性が低下する可能性がある。
【0038】
このような縮合物を与える原料のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。また、前述の縮合物の原料となるジカルボン酸の他にジカルボン酸誘導体として、無水マロン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水ピメリン酸、無水スベリン酸、無水アゼライン酸、無水セバシン酸、無水マレイン酸等の酸無水物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル等のジカルボン酸エステルも挙げられるが、特にこれらに限定するわけではない。ジカルボン酸(又はジカルボン酸誘導体)と共に、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸等のカルボン酸を20重量%以下(好ましくは10重量%以下)含有してもよい。
【0039】
本発明で用いられるエステル化合物(B2)は、エステル化合物(B1)において、少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したものである。封鎖する脂肪酸の炭素数は10〜50が好ましく、12〜36がさらに好ましい。また、脂肪酸の炭素数が10未満であると集束性が低下し、毛羽やフィブリル化を低減する性能が低下する可能性があり、一方、50を超えると染色性が低下する可能性がある。
【0040】
このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラノリン脂肪酸(ウールグリースを精製したラノリン誘導体である炭素数12〜36の脂肪酸)等が挙げられるが、ステアリン酸、ベヘン酸、ラノリン脂肪酸が好ましい。エステル化合物(B1)と脂肪酸とのエステルを製造する場合、エステル化合物(B1)の水酸基1モル当量あたりの脂肪酸のカルボキシル基当量は0〜1の範囲であることが好ましい。エステル化の反応条件については特に限定はない。
【0041】
本発明の効果をより発揮させるためには、含硫黄エステル化合物(A1)と前記エステル化合物(B)との重量比(A/B)は、1/10〜15/1が好ましく、1/4〜10/1がより好ましく、1/3〜8/1がさらに好ましい。該重量比が15/1超の場合、集束性が低下し、毛羽やフィブリル化を低減する性能が低下することがある。一方、該重量比が1/10未満の場合、染色性が低下する可能性がある。
【0042】
〔含硫黄エステル化合物(A2)〕
本発明の処理剤は、上記一般式(2)で示される含硫黄エステル化合物(A2)をさらに含有することが好ましい。前述した含硫黄エステル化合物(A1)及びエステル化合物(B)に加え、含硫黄エステル化合物(A2)を含有することにより、硬水安定性を向上することができる。
【0043】
一般式(2)の式中、Rは炭素数12〜24の炭化水素基であり、直鎖状、分岐鎖状のどちらでもよいが、集束性や焼成時操業性の観点から、分岐鎖状が好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、アルケニル基が好ましい。炭化水素基の炭素数は、14〜22が好ましく、16〜20がさらに好ましい。該炭素数が12未満であると、分子量が小さくなりすぎて製糸熱延伸工程で発煙が増加する。一方、炭素数が24を超えると、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加する。
直鎖状の炭化水素基や分岐鎖状の炭化水素基の具体例については、前述のR及びRの項目で説明した例と同様である。
【0044】
一般式(1)の式中、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、2が好ましい。1〜4以外の場合、酸化防止効果が低くなり製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加する。
【0045】
含硫黄エステル化合物(A2)としては、例えば、チオジエタン酸モノ(n−ドデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(n−トリデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(n−テトラデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(n−ペンタデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(オレイル)エステル等のチオジエタン酸モノ直鎖型エステル;チオジエタン酸モノ(イソドデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(イソトリデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(イソテトラデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(イソペンタデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(イソヘキサデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジエタン酸モノ(イソステアリル)エステル等のチオジエタン酸モノ分岐鎖型エステル;チオジプロピオン酸モノ(n−ドデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(n−トリデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(n−テトラデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(n−ペンタデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(オレイル)エステル等のチオジプロピオン酸モノ直鎖型エステル;チオジプロピオン酸モノ(イソドデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(イソトリデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(イソテトラデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(イソペンタデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(イソヘキサデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(イソステアリル)エステル等のチオジプロピオン酸モノ分岐鎖型エステル;チオジブタン酸モノ(n−ドデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(n−トリデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(n−テトラデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(n−ペンタデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(オレイル)エステル等のチオジブタン酸モノ直鎖型エステル;チオジブタン酸モノ(イソドデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(イソトリデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(イソテトラデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(イソペンタデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(イソヘキサデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジブタン酸モノ(イソステアリル)エステル等のチオジブタン酸モノ分岐鎖型エステル;チオジペンタン酸モノ(n−ドデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(n−トリデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(n−テトラデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(n−ペンタデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(n−ヘキサデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(オレイル)エステル等のチオジペンタン酸モノ直鎖型エステル;チオジペンタン酸モノ(イソドデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(イソトリデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(イソテトラデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(イソペンタデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(イソヘキサデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(2−ヘキシルデシル)エステル、チオジペンタン酸モノ(イソステアリル)エステル等のチオジペンタン酸モノ分岐鎖型エステル;等が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、潤滑性や硬水安定性の観点から、チオジプロピオン酸モノ直鎖型エステル、チオジプロピオン酸モノ分岐鎖型エステルが好ましく、チオジプロピオン酸モノ(イソヘキサデシル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(オレイル)エステル、チオジプロピオン酸モノ(イソステアリル)エステルがさらに好ましい。
これらの含硫黄エステル化合物(A2)は、単独であるいは二種以上組み合わせて使用することができる。
含硫黄エステル化合物(A2)のヨウ素価については、特に限定はない。
【0047】
含硫黄エステル化合物(A2)の製造方法としては、特に限定なく、公知の手法を採用できる。例えば、チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールのエステル化反応を行うことで製造することができる。具体的な例としては、チオジプロピオン酸に対して脂肪族アルコールを等モル程度仕込み、生成してくる水を抜きながらエステル化反応を行い、蒸留・精製する等の方法が挙げられる。
なお、脂肪族アルコールの仕込み量は、チオジプロピオン酸に対して、1〜1.2倍モルを仕込み比率で仕込むことが好ましい。エステル化条件、脂肪族アルコールの具体例、エステル化触媒等については、前述の含硫黄エステル化合物(A1)の製造方法の項目で説明したものと同様である。
【0048】
含硫黄エステル化合物(A1)と含硫黄エステル化合物(A2)は、前述の方法でそれぞれエステル化合物を調製して用いてもよく、チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールのエステル化反応を行い、含硫黄エステル化合物(A1)及び含硫黄エステル化合物(A2)を含むエステル混合物を調製して用いてもよい。
【0049】
含硫黄エステル化合物(A1)及び含硫黄エステル化合物(A2)のエステル混合物を調製する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
1)チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのエステル化反応を行う時に、脂肪族アルコールのモル比をチオジプロピオン酸に対して、1.5〜1.99倍モル、好ましくは1.8〜1.9倍モル仕込みエステル化反応を行う方法が挙げられる。エステル化条件、脂肪族アルコールの具体例、エステル化触媒等については、前述の含硫黄エステル化合物(A1)の製造方法の項目で説明したものと同様である。
2)前述の含硫黄エステル化合物(A1)の製造方法において、エステル混合物が所望の全酸価になるようにエステル化反応を途中で終了させる方法が挙げられる。
【0050】
なお、エステル混合物中の含硫黄エステル化合物(A1)と含硫黄エステル化合物(A2)の重量比は次の方法により算出できる。得られたエステル混合物を、ガスクロマトグラフィー分析により分析し原料であるチオジプロピオン酸の含有量を測定し、エステル混合物中のチオジプロピオン酸由来の酸価を求める。次に、エステル混合物の全酸価を測定する。全酸価からチオジプロピオン酸由来の酸価を差し引いた値と含硫黄エステル化合物(A2)の分子量から、エステル混合物中の含硫黄エステル化合物(A1)と含硫黄エステル化合物(A2)の重量比を算出することができる。
【0051】
本発明の効果をより発揮させるためには、前記含硫黄エステル化合物(A1)と前記含硫黄エステル化合物(A2)との重量比(A1/A2)は、3/1〜50/1が好ましく、7/1〜35/1がより好ましく、10/1〜40/1がさらに好ましい。該重量比が50/1超の場合、硬水安定性が低下したり、油剤成分が分離したりすることがある。一方、該重量比が4/1未満の場合、耐熱性が悪化し、その結果、毛羽、断糸も悪化することがある。
【0052】
[多価エステル(C)]
本発明の処理剤は、脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造もつエステルであって、分子内に2個以上のエステル結合を有する多価エステル(C)をさらに含有することが好ましい。前述した含硫黄エステル化合物(A1)及びエステル化合物(B)に加え、多価エステル(C)を含有することにより、ローラー汚れが低減でき、その結果、毛羽、断糸が抑制することができる。多価エステル(C)は、分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。多価エステル(C)は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の効果をより発揮させるためには、含硫黄エステル化合物(A1)と多価エステル(C)との重量比(A1/C)は、1/30〜30/1が好ましく、1/20〜20/1がより好ましく、1/10〜10/1がさらに好ましい。該重量比が30/1超の場合、耐熱性が悪化し、その結果、毛羽、断糸も悪化することがある。一方、該重量比が1/30未満の場合、硬水安定性が低下することがある。
【0054】
多価エステル(C)を構成する脂肪族多価アルコールは、2価以上であれば特に限定はなく、1種又は2種以上を使用できる。脂肪族多価アルコールは、製糸性の点から、3価以上が好ましく、3〜4価がより好ましく、3価がさらに好ましい。
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ショ糖等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖が好ましく、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタンがより好ましく、グリセリン、トリメチロールプロパンがさらに好ましい。
【0055】
多価エステル(C)を構成する脂肪酸(脂肪族1価カルボン酸)は、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和結合の数については特に限定はないが、2つ以上有する場合、酸化により劣化が進行して処理剤が増粘して精練性が損なわれるため、1つが好ましい。脂肪酸の炭素数としては、製糸性と硬水安定性の両立から、8〜24が好ましく、10〜20がより好ましく、12〜18がさらに好ましい。脂肪酸は、1種又は2種以上を使用してもよく、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を併用してもよい。
【0056】
脂肪酸としては、酪酸、クロトン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、イソエイコサ酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ドコサン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、テトラコサン酸、イソテトラコサン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
これらの中でも、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、イソエイコサ酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ドコサン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、テトラコサン酸、イソテトラコサン酸、ネルボン酸が好ましく、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、イソエイコサ酸、ガドレイン酸、エイコセン酸がより好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸がさらに好ましい。
【0057】
多価エステル(C)は、分子内に2個以上のエステル結合を有する化合物であるが、製糸性の観点から、分子内に3個以上のエステル結合を有する化合物であることが好ましく、分子内に3個のエステル結合を有する化合物であることがさらに好ましい。
多価エステル(C)のヨウ素価については、特に限定はない。
【0058】
多価エステル(C)の酸価は、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。多価エステル(C)の酸価が10超の場合、熱処理時に多量の発煙が発生したり、臭気が発生したりして、使用環境を悪化する場合がある。なお、本発明での酸価は、JIS K−0070に基づき測定した。
【0059】
多価エステル(C)の水酸基価は、0.1〜25が好ましく、0.5〜23がより好ましく、1.0〜20がさらに好ましい。多価エステル(C)の水酸基価が0.1未満の場合、エステルを得るのは困難な場合がある。一方、多価エステル(C)の水酸基価が25超の場合、該処理剤の平滑剤としての役割が不足し、毛羽が増加する場合がある。なお、本発明での水酸基価は、JIS K−0070に基づき測定した。
【0060】
多価エステル(C)の重量平均分子量は、500〜1000が好ましく、500〜800がより好ましく、500〜700がさらに好ましい。該重量平均分子量が500未満の場合、油膜強度が不足し、毛羽が増加したり、熱処理時の発煙が増加したりする場合がある。一方、該重量平均分子量が1000超の場合、平滑性が不足して毛羽が多発し、高品位の繊維が得られないだけでなく、製織や編み工程での品位が劣る場合がある。なお、本発明における重量平均分子量は、東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF−402HQ、KF−403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
【0061】
多価エステル(C)としては、例えば、トリメチロールプロパントリカプリレート、トリメチロールプロパントリカプリナート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリオレエート、トリメチロールプロパン(ラウレート、ミリスチレート、パルミテート)、トリメチロールプロパン(ラウレート、ミリスチレート、オレエート)、トリメチロールプロパンジカプリレート、トリメチロールプロパンジカプリナート、トリメチロールプロパンジラウレート、トリメチロールプロパンジオレエート、トリメチロールプロパン(ラウレート、ミリスチレート)、トリメチロールプロパン(ラウレート、オレエート)、トリメチロールプロパン(ミリスチレート、オレエート)、ヤシ油、グリセリントリラウレート、グリセリントリイソステアレート等が挙げられる。
【0062】
多価エステル(C)、は一般的に市販されている脂肪族多価アルコールと脂肪酸を用いて、公知の方法で合成し得られたものを使用してもよい。又、天然の果実、種子又は花など天然より得られる天然エステルであって、多価エステル(C)の構成を満足する天然エステルをそのまま使用したり、必要に応じて、天然エステルを公知の方法で精製したり、更に精製したエステルを公知の方法で融点差を利用して分離、再精製を行ったエステルを用いたりしてもよい。
【0063】
多価エステル(C)の製造方法としては、特に限定なく、公知の手法を採用できる。例えば、トリメチロールプロパンと脂肪酸のエステル化反応を行う例を挙げて説明することができる。具体的な例としては、トリメチロールプロパン1モルに対して脂肪酸を3モル程度仕込み、生成してくる水を抜きながらエステル化反応を行い、蒸留・精製する等の方法が挙げられる。
なお、脂肪酸の仕込み量は、トリメチロールプロパンに対して、2.8〜3.2倍モルを仕込み比率で仕込むことが好ましい。
【0064】
エステル化条件として、例えば、エステル化反応温度としては、通常120〜250℃であり、130℃〜230℃が好ましい。また、反応時間としては、通常1〜24時間であり、2〜16時間が好ましい。反応は無触媒で行っても後述するエステル化触媒を用いて反応を行ってもよい。
【0065】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、スルホン酸類等が挙げられる。より具体的には、ルイス酸類としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体等が、更にスルホン酸類としては、パラトルエンスルホン酸、メタスルホン酸、硫酸等が挙げられる。これらの中でも、チタン誘導体、スルホン酸類が好ましい。その使用量は、例えば原料の総重量に対して、0.05〜5重量%程度が好ましい。
【0066】
エステル化反応では、必要に応じて、生成してくる水をベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の水同伴剤を用いて系外に共沸留去させてもよい。
エステル化反応終了後、反応に応じて、過剰の脂肪族アルコールを減圧化又は常圧下にて留去させ、また、慣用の精製方法、例えば、水洗、減圧蒸留、活性炭等の吸着剤精製を行い、多価エステル(C)を得ることができる。
【0067】
[モノエステル(D)]
本発明の処理剤は、脂肪族多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造もつエステルであって、分子内に1個のエステル結合を有するモノエステル(D)をさらに含有することが好ましい。前述した含硫黄エステル化合物(A1)及びエステル化合物(B)に加え、モノエステル(D)を含有することにより、硬水安定性を高めることができる。モノエステル(D)は、分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。モノエステル(D)は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本発明の効果をより発揮させるためには、含硫黄エステル化合物(A1)とモノエステル(D)との重量比(A1/D)は、1/5〜20/1が好ましく、2/5〜15/1がより好ましく、1/2〜10/1がさらに好ましい。該重量比が20/1超の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、モ該重量比が1/5未満の場合、耐熱性が悪化し、その結果、毛羽、断糸も悪化することがある。
【0069】
モノエステル(D)を構成する脂肪族多価アルコールは、2価以上であれば特に限定はなく、1種又は2種以上を使用できる。脂肪族多価アルコールは、本発明の効果をより発揮させる観点から、3価以上が好ましい。
脂肪族多価アルコールとしては、多価エステル(C)のところで例示した脂肪族多価アルコールと同様のものを挙げることができる。それらの中でも、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖が好ましく、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトールがより好ましく、ジグリセリン、グリセリン、ソルビタン、ソルビトールがさらに好ましい。
【0070】
モノエステル(D)を構成する脂肪酸(脂肪族1価カルボン酸)は、飽和であっても不飽和であってもよい。脂肪酸の不飽和結合の数については特に限定はないが、2つ以上有する場合、酸化により劣化が進行して処理剤が増粘して精練性が損なわれるため、1つが好ましい。脂肪酸の炭素数としては、製糸性と硬水安定性の両立から、8〜24が好ましく、10〜20がより好ましく、12〜18がさらに好ましい。脂肪酸は、1種又は2種以上を使用してもよく、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を併用してもよい。
【0071】
脂肪酸としては、多価エステル(C)のところで例示した脂肪酸と同様のものを挙げることができる。好ましい範囲も同様である。
【0072】
モノエステル(D)の中でも、上述した効果をより発揮させる点及びコストの点から、3価以上の脂肪族多価アルコールと炭素数8〜24の脂肪酸とのモノエステルがより好ましく、脂肪族3価アルコールと炭素数12〜18の不飽和脂肪酸とのモノエステルがさらに好ましい。
モノエステル(D)のヨウ素価については、特に限定はない。
【0073】
モノエステル(D)の酸価は、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。モノエステル(D)の酸価が20超の場合、熱処理時に多量の発煙が発生したり、臭気が発生したりして、使用環境を悪化する場合がある。
【0074】
モノエステル(D)の水酸基価は、100〜300が好ましく、120〜240がより好ましく、150〜200がさらに好ましい。モノエステル(D)の水酸基価が100未満の場合、硬水安定性が低下する場合がある。一方、モノエステル(D)の水酸基価が300超の場合、毛羽が増加する場合がある。
【0075】
モノエステル(D)の重量平均分子量は、200〜1200が好ましく、300〜1000がより好ましく、300〜900がさらに好ましい。該重量平均分子量が200未満の場合、油膜強度が不足し、毛羽が増加したり、熱処理時の発煙が増加したりする場合がある。一方、該重量平均分子量が1200超の場合、平滑性が不足して毛羽が多発し、高品位の繊維が得られないだけでなく、製織や編み工程での品位が劣る場合がある。
【0076】
モノエステル(D)としては、例えば、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート等が挙げられる。
【0077】
モノエステル(D)の製造方法としては、特に限定なく、公知の手法を採用できる。例えば、グリセリンと脂肪酸のエステル化反応を行う例を挙げて説明することができる。具体的な例としては、グリセリンに対して脂肪酸を等モル程度仕込み、生成してくる水を抜きながらエステル化反応を行い、蒸留・精製する等の方法が挙げられる。
なお、脂肪酸の仕込み量は、グリセリンに対して、1〜1.2倍モルを仕込み比率で仕込むことが好ましい。
【0078】
エステル化条件として、例えば、エステル化反応温度としては、通常120〜250℃であり、130℃〜230℃が好ましい。また、反応時間としては、通常1〜10時間であり、2〜8時間が好ましい。反応は無触媒で行っても後述するエステル化触媒を用いて反応を行ってもよい。
【0079】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、スルホン酸類等が挙げられる。より具体的には、ルイス酸類としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体等が、更にスルホン酸類としては、パラトルエンスルホン酸、メタスルホン酸、硫酸等が挙げられる。これらの中でも、チタン誘導体、スルホン酸類が好ましい。その使用量は、例えば原料の総重量に対して、0.05〜5重量%程度が好ましい。
【0080】
エステル化反応では、必要に応じて、生成してくる水をベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の水同伴剤を用いて系外に共沸留去させてもよい。
エステル化反応終了後、反応に応じて、過剰の脂肪族アルコールを減圧化又は常圧下にて留去させ、また、慣用の精製方法、例えば、水洗、減圧蒸留、活性炭等の吸着剤精製を行い、モノエステル(D)を得ることができる。
【0081】
[合成繊維用処理剤]
本発明の合成繊維用処理剤は、上記の含硫黄エステル化合物(A1)とエステル化合物(B)とを必須に含有するものである。処理剤の不揮発分に占める含硫黄エステル化合物(A1)の重量割合は、1〜60重量%が好ましく、2〜50重量%がより好ましく、3〜40重量%がさらに好ましい。該重量割合が1重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が60重量%超の場合、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加することがある。なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0082】
処理剤の不揮発分に占めるエステル化合物(B)の重量割合は、1〜20重量%が好ましく、2〜15重量%がより好ましく、3〜10重量%がさらに好ましい。該重量割合が1重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が20重量%超の場合、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加することがある。
【0083】
処理剤の不揮発分に占める含硫黄エステル化合物(A1)とエステル化合物(B)の合計の重量割合は、5〜75重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、15〜45重量%がさらに好ましい。該重量割合が5重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が75重量%超の場合、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加することがある。
【0084】
処理剤の不揮発分に占める含硫黄エステル化合物(A2)の重量割合は、0.1〜15重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましく、1〜5重量%がさらに好ましい。該重量割合が0.1重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が15重量%超の場合、平滑性が低下し、毛羽やフィブリル化を低減する性能が低下することがある。することがある。
【0085】
処理剤の不揮発分に占める多価エステル(C)の重量割合は、1〜50重量%が好ましく、1〜45重量%がより好ましく、1〜40重量%がさらに好ましい。該重量割合が1重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が50重量%超の場合、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加することがある。
【0086】
処理剤の不揮発分に占めるモノエステル(D)の重量割合は、1〜25重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。該重量割合が1重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が25重量%超の場合、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加することがある。
【0087】
(ノニオン界面活性剤)
本発明の処理剤は、前述の成分以外に、ノニオン界面活性剤(E)を含有してよい。なお、ここでいうノニオン界面活性剤(E)は、モノエステル(D)を除くものをいう。ノニオン界面活性剤は、1種又は2種以上を使用してもよい。
処理剤の不揮発分に占めるノニオン界面活性剤(E)の重量割合は、1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましく、1〜15重量%がさらに好ましい。該重量割合が1重量%未満の場合、硬水安定性が低下することがある。一方、該重量割合が30重量%超の場合、製糸熱延伸工程で熱分解されたあと、延伸ローラー上に堆積しやすくなり、毛羽・糸切れが増加することがある。
【0088】
ノニオン界面活性剤(E)としては、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)、ポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0089】
(ポリヒドロキシエステル、ポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル)
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(ポリヒドロキシエステル)は、エステル化合物(B)のところで記載した通りである。
ポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルにおいて、封鎖する脂肪酸の炭素数は6〜24が好ましく、12〜18がさらに好ましい。脂肪酸中の炭化水素基の炭素数は分布があってもよく、炭化水素基は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、多環構造を有していてもよい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。エステル化の方法、反応条件等については特に限定はなく、公知の方法、通常の条件を採用できる。
【0090】
ポリヒドロキシエステル又はポリヒドロキシエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルとしては、例えば、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、ヒマシ油エチレンオキシド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物モノオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物ジオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレート、ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレート、これらのなかでも処理剤の相溶性、油膜強度、毛羽減少の点から、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレートが好ましい。
【0091】
(ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル)
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルとは、多価アルコールに対して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドが付加した構造を持つ化合物である。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでもグリセリン、トリメチロールプロパン、ショ糖、が好ましい。
【0092】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、3〜100が好ましく、4〜70がより好ましく、5〜50がさらに好ましい。また、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルの重量平均分子量は、300〜10000が好ましく、400〜8000がより好ましく、500〜5000がさらに好ましい。
【0093】
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジグリセリンエチレンオキシド付加物、ソルビタンエチレンオキシド付加物、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ソルビトールエチレンオキシド付加物、ソルビトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジトリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ショ糖エチレンオキシド付加物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0094】
(ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル)
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルは、多価アルコールに対して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドが付加した化合物と、脂肪酸とがエステル結合した構造を持つ化合物である。
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでも、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトールが好ましい。
【0095】
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ドコサン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、イソテトラコサン酸等が挙げられる。
【0096】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、3〜100が好ましく、5〜70がより好ましく、10〜50がさらに好ましい。また、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルの重量平均分子量は、300〜7000が好ましく、500〜5000がより好ましく、700〜3000がさらに好ましい。
【0097】
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリンエチレンオキシド付加物モノラウレート、グリセリンエチレンオキシド付加物ジラウレート、グリセリンエチレンオキシド付加物トリラウレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物トリラウレート、ソルビタンエチレンオキシド付加物モノオレエート、ソルビタンエチレンオキシド付加物ジオレエート、ソルビタンエチレンオキシド付加物トリオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物モノオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物ジオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物トリオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物トリラウレート、ショ糖エチレンオキシド付加物トリラウレート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0098】
(ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル)
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテルとは、脂肪族一価アルコールに対し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加した構造を持つ化合物である。
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテルとしては、例えば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
アルキレンオキシドの付加モル数としては、1〜100モルが好ましく、2〜70モルがより好ましく、3〜50モルがさらに好ましい。また、アルキレンオキシド全体に対するエチレンンオキシドの割合は、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
【0099】
(ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル)
ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルとはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールと、脂肪酸とがエステル結合した構造を持つ化合物である。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、100〜1000が好ましく、150〜800がより好ましく、200〜700がさらに好ましい。
【0100】
ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルとしては、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジラウレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノオレエート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジオレエート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0101】
(その他成分)
本発明の合成繊維用処理剤は、処理剤のエマルション化、繊維への付着性補助、繊維からの処理剤の水洗、繊維への制電性、潤滑性、集束性の付与等のために、上記のノニオン界面活性剤(E)以外の界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、アルキルホスフェートの金属塩又はアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルホスフェートの金属塩又はアミン塩、ジオクチルスルホサクシネート塩、アルカンスルホン酸塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキルイミダゾリニウム塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。これら界面活性剤は、1種又は2種以上で併用してもよい。これら界面活性剤を含有する場合の処理剤の不揮発分に占める界面活性剤の重量割合は、特に限定はないが、0.01〜15重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。なお、ここでいう界面活性剤は、重量平均分子量が1000未満のものをいう。
【0102】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、耐熱性を付与するため、さらに酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、フェノール系、チオ系、ホスファイト系等の公知のものが挙げられる。酸化防止剤は1種または2種以上を併用してもよい。酸化防止剤を含有する場合の処理剤の不揮発分に占める酸化防止剤の重量割合は、特に限定はないが、0.1〜5重量%が好ましく、0.1〜3重量%が好ましい。
【0103】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、更に原液安定剤(例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール)を含有してもよい。処理剤に占める原液安定剤の重量割合は、0.1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。
【0104】
本発明の合成繊維用処理剤は、不揮発分のみからなる前述の成分で構成されていてもよく、不揮発分と原液安定剤とから構成されてもよく、不揮発分を低粘度鉱物油で希釈したものでもよく、水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンであってもよい。本発明の合成繊維用処理剤が水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンの場合、不揮発分の濃度は5〜35重量%が好ましく、6〜30重量%がより好ましい。不揮発分を低粘度鉱物油で希釈した処理剤の粘度(30℃)は、繊維材料に均一に付与させる点から、3〜120mm/sが好ましく、5〜100mm/sがさらに好ましい。
【0105】
本発明の合成繊維用処理剤の製造方法については、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。合成繊維用処理剤は、構成する前記の各成分を任意又は特定の順番で添加混合することによって製造される。
【0106】
[合成繊維フィラメント糸条の製造方法及び繊維構造物]
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、原料合成繊維フィラメント糸条に、本発明の合成繊維用処理剤が付与されたものである。本発明の合成繊維フィラメント糸条の製造方法は、原料合成繊維フィラメント糸条に、本発明の合成繊維用処理剤を付与する工程を含むものである。付与する工程としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することできる。通常、原料合成繊維フィラメント糸条の紡糸工程で合成繊維用処理剤を付与する。処理剤が付与された後、熱ローラーにより延伸、熱セットが行われ、巻き取られる。このように、処理剤を付与した後、一旦巻き取れられることなく熱延伸する工程を有する場合に、本発明の合成繊維用処理剤は好適に使用することができる。熱延伸する際の温度として一例をあげると、ポリエステル、ナイロンでは、産業資材用であれば210〜260℃、衣料用であれば110〜180℃が想定される。
原料合成繊維フィラメント糸条に付与する際の合成繊維処理剤は、前述したように、不揮発分のみからなる処理剤、不揮発分を低粘度鉱物油で希釈した処理剤、又は水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョン処理剤等が挙げられる。付与方法としては、特に限定されるものではないが、ガイド給油、ローラー給油、ディップ給油、スプレー給油等が挙げられる。これらの中ででも、付与量の管理のしやすさから、ガイド給油、ローラー給油が好ましい。
【0107】
合成繊維用処理剤の不揮発分の付与量は、原料合成繊維フィラメント糸条に対して、0.05〜5重量%が好ましく、0.1〜3重量%がより好ましく、0.1〜2重量%がさらに好ましい。0.05重量%未満の場合、本発明の効果を発揮することができない場合がある。一方、5重量%超の場合、処理剤の不揮発分が糸道に脱落しやすく、熱ローラー上のタールが著しく増加し、毛羽、断糸に繋がる場合がある。
【0108】
(原料)合成繊維フィラメント糸条としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維のフィラメント糸条が挙げられる。本発明の合成繊維用処理剤は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維に適している。ポリエステル繊維としては、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PET)、トリメチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PTT)、ブチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PBT)、乳酸を主たる構成単位とするポリエステル(PLA)等が挙げられ、ポリアミド繊維としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられ、ポリオレフィン繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。合成繊維フィラメント糸条の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【0109】
(繊維構造物)
本発明の繊維構造物は、上記の合成繊維フィラメント糸条及び/又は本発明の製造方法で得られた合成繊維フィラメント糸条を含むものである。具体的には、本発明の合成繊維用処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条を用いてウォータージェット織機、エアジェット織機、または、レピア織機で織られた織物、および丸編み機、経編み機、または、緯編み機で編まれた編物である。また繊維構造物の用途としては、シートベルト、タイヤコード、エアバッグ、魚網、ロープ等の産業資材、衣料用等が挙げられる。織物、編物を製造する方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例により本発明を説明する、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、文中及び表中の「%」は「重量%」を、意味する。
【0111】
[実施例1〜26、比較例1〜20]
(実施例1〜5、11〜15、比較例1〜5、11〜15の処理剤)
表1〜5に記載の成分を混合し、均一になるまで攪拌し、処理剤を調製した。調製した処理剤を炭素数12〜15の低粘度鉱物油で希釈して、不揮発分濃度が70重量%である処理剤を調製した。
(実施例6〜10、16〜26、比較例6〜10、16〜20の処理剤)
表1〜5に記載の成分を混合して、均一になるまで攪拌し、処理剤を調製した。調製した処理剤を攪拌下のイオン交換水に徐々に投入した。投入後、均一な状態になるまで60分攪拌し、不揮発分濃度が18重量%である処理剤(O/W型エマルション状態)を調製した。
【0112】
なお、表1〜5に示す成分は、次の通りである。
A1−1 チオジプロピオン酸ジ(オレイル)エステル
A1−2 チオジプロピオン酸ジ(イソステアリル)エステル
A1−3 チオジプロピオン酸(オレイル、ステアリル)エステル
A2−1 チオジプロピオン酸モノ(オレイル)エステル
A2−2 チオジプロピオン酸モノ(イソステアリル)エステル
A2−3 チオジプロピオン酸モノ(ステアリル)エステル
B1−1 POE(30)硬化ヒマシ油−マレエート
B1−2 POE(20)ヒマシ油−アジペート
B2−1 POE(20)硬化ヒマシ油のマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル
B2−2 POP(8)/POE(12)硬化ヒマシ油のマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル
B2−3 POP(4)/POE(26)ヒマシ油のマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりラウリン酸1モル当量で封鎖したエステル
B2−4 POE(20)硬化ヒマシ油のアジピン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル
C−1 トリメチロールプロパントリラウレート
C−2 トリメチロールプロパン(ラウレート・ミリスチレート・パルミテート)
C−3 トリメチロールプロパン(ラウレート・ミリスチレート・オレエート)
D−1 グリセリンモノオレエート
D−2 ソルビタンモノステアレート
D−3 ジグリセリンモノオレエート
【0113】
E−1 POE(20)硬化ヒマシ油エーテル
E−2 POE(20)硬化ヒマシ油エーテルトリオレエート
E−3 POE(20)硬化ヒマシ油エーテルトリステアレート
E−4 POE(20)ソルビタンエーテル
E−5 POE(20)ソルビタントリオレエート
E−6 POE(20)ソルビタントリパルミテート
E−7 POE(20)グリセリンエーテル
E−8 POE(20)グリセリンエーテルジオレエート
E−9 POE(20)グリセリンエーテルジパルミテート
F−1 アルカンスルホネートNa塩(C13〜16)
F−2 ジオクチルスルホサクシネートNa塩
F−3 オレイルホスフェート
F−4 POE(8)オレイルアルコールホスフェート
F−5 トリエチレングリコール−bis−3(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオネート
【0114】
上記で調製した各処理剤を用いて、次の方法で、硬水安定性、ローラー汚れ、毛羽、断糸を評価した。その結果を表1〜5に示す。
【0115】
(硬水安定性)
サーモゾル染料1gを100mLのミネラルウォーター(硬度1468mg/L、品名コントレックス、原産地フランス、発売元ポッカサッポロフード&ビバレッジ社)に分散させ、温度95℃まで加熱した。この染料分散液を撹拌しながら、14gの処理剤を滴下して、15分間撹拌を継続する。十分に撹拌均一化できたら、撹拌を止め、室温で1日間静置して、表面に浮遊する処理剤と染料の凝集層の量を観測した。
サーモゾル染料としては、DISPARSE RED60、DISPARSE ORANGE30、DISPARSE BLUE56を1:3:4の重量割合で混合したものを使用した。
○ : 凝集層が認められない。
△ : 厚さ1〜2mmほどの凝集層が認められる。
× : 厚さ2mm超の凝集層が認められる。
【0116】
(ローラー汚れ)
1000デニール、96フィラメントの無給油ポリエステルフィラメント(原糸)に対して、上記で調製した処理剤を、ガイド給油法を用いて、不揮発分の付与量が0.6重量%となるよう付与し、温度25℃、湿度65%の雰囲気に48時間放置、調湿した。
調湿した原糸を、走糸法摩擦試験機(東レエンジニアリング社製)にて、250℃の摩擦体(梨地クロムメッキ、直径5cm)に接触させ、荷重500g、走糸速度200m/分で糸を24時間走行させ、摩擦体に付着する汚れを下記の条件で判定し、ローラー汚れを評価した。
○ : タール化物が認められないか、ごくわずかである。
× : 著しいタール化物が認められる。
【0117】
(断糸、毛羽)
溶融紡糸工程において、ポリエステルポリマーを溶融紡糸、冷却固化した糸条に対して、上記で調製した処理剤を、不揮発分の付与量が0.6重量%となるよう付与した。付与方法は、実施例1〜5、11〜15、比較例1〜5、11〜15はガイド給油法を用いて、実施例6〜10、16〜26、比較例6〜10、16〜20の処理剤はロール給油法を用いて実施した。
処理剤が付与された糸条は、一旦巻き取ること無く連続して延伸され、250℃のホットローラを介し、5.1倍に延伸し、1000デニール、96フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを得た。延伸、熱セットされた糸条は巻き上げられるが、巻き上げ直前に糸条にインターレースをかけ、フィラメント相互を集束させた。インターレースは高圧の流体、例えば、高圧空気を、ノズルを通して噴きつけることによって行った。毛羽、断糸について、下記の条件で評価した。
断糸:各処理剤について原糸1トン当たりの糸切れ回数で評価し、1回より少ない場合を○とし、1回以上を×とした。
毛羽:各処理剤付着糸を毛羽カウンターで毛羽数をチェックし、百万m当たりの値が1個より少ない場合を○とし、1個以上を×とした。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
表1〜5からわかるように、本発明の実施例1〜26は、断糸、毛羽の発生が著しく低減している。さらに、ローラー汚れが少なく、耐熱性に優れ、生産環境を悪化させていない。一方、比較例1〜20は、断糸評価、毛羽評価、ローラー評価の少なくとも一つが劣っており、これら評価全てを満足できるものはない。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の合成繊維処理剤は、シートベルト、タイヤコード、ターポリン、エアバッグ、魚網、ロープ等の産業資材、織物や編み物等の衣料用等に用いられる合成繊維フィラメント糸条に好適である。