特許第6619340号(P6619340)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6619340難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619340
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20191202BHJP
   C08K 5/5357 20060101ALI20191202BHJP
   D04H 1/4291 20120101ALI20191202BHJP
【FI】
   C08L23/02
   C08K5/5357
   D04H1/4291
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-538334(P2016-538334)
(86)(22)【出願日】2015年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2015071216
(87)【国際公開番号】WO2016017571
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2017年1月18日
【審判番号】不服2018-17230(P2018-17230/J1)
【審判請求日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-156464(P2014-156464)
(32)【優先日】2014年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山中 克浩
(72)【発明者】
【氏名】武田 強
【合議体】
【審判長】 近野 光知
【審判官】 武貞 亜弓
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−267984(JP,A)
【文献】 特開2002−003727(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147294(WO,A1)
【文献】 特開昭50−105560(JP,A)
【文献】 特開昭50−060481(JP,A)
【文献】 特開昭50−068978(JP,A)
【文献】 特開2004−018380(JP,A)
【文献】 特開2004−018381(JP,A)
【文献】 特開2004−018382(JP,A)
【文献】 特開2004−018383(JP,A)
【文献】 特開2004−010586(JP,A)
【文献】 特開2004−010587(JP,A)
【文献】 宮坂啓象編、プラスチック事典、日本、1992発行、p.336、354−355
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L23/00-23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂(A成分)100重量部に対して、下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)〜100重量部を含み、該ポリオレフィン系樹脂は、(i)JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが50g/10分以下のポリエチレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、(ii)JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.1〜50g/10分のポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、(iii)JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが20g/10分以下のポリ1−ブテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、または(iv)JIS K7210規格に準じ、260℃、5.0kg荷重にて測定したメルトフローレートが1〜200g/10分のポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であり、該有機リン化合物は、有機純度が97.0%以上であり、塩素含有量が1000ppm以下であり、ΔpHが1.0以下であり、残存溶媒量が1000ppm以下である難燃性樹脂組成物。
【化1】
(式中、X、Xは同一もしくは異なり、下記式(2)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化2】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基である。nは1〜3の整数を示し、ArはAL中の任意の炭素原子に結合することができる。)
【請求項2】
A成分のポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ1−ブテン系樹脂、ポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂を60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
B成分の有機リン化合物が、下記式(3)で表される有機リン化合物である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【化3】
【請求項4】
B成分の有機リン化合物は、有機純度が98.0%以上であり、塩素含有量が500ppm以下であり、ΔpHが0.8以下であり、残存溶媒量が800ppm以下である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが30g/10分以下のポリエチレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.2〜45g/10分のポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが15g/10分以下のポリ1−ブテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、260℃、5.0kg荷重にて測定したメルトフローレートが5〜180g/10分のポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1記載の難燃性樹脂組成物より形成された成形品。
【請求項10】
請求項1記載の難燃性樹脂組成物を紡糸することにより得られた繊維および繊維製品。
【請求項11】
請求項1記載の難燃性樹脂組成物より得られた不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性および良好な物性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物およびそれから形成される成形品に関する。さらに詳しくは特定の特性を有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を含有しかつ実質的にハロゲンフリーの難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物およびそれからの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は、良好な加工性と良好な物性、低比重等の特徴から、幅広い用途に使用されている。また、ポリオレフィン系樹脂は多様なポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとする樹脂種を有しており、各種用途に適した物性を選択することが可能である。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は易燃焼性材料であるため、これまでに種々の難燃化検討が行われてきた。
【0003】
かかる難燃化の例として、従来、ハロゲン系難燃剤を添加する検討が行われてきたが、近年、燃焼時の有毒ガス発生等の環境問題からノンハロゲン系難燃剤の検討が盛んに行われている。ポリオレフィン系樹脂のノンハロゲン難燃化技術として最も多く実施されている例としては、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を添加する方法である。本難燃化手法は、殊に電線被覆材料の技術として多数の報告がなされているが、これら水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等を含む難燃性樹脂組成物は、難燃性能を得るために多量の難燃剤を添加する必要があり、そのため樹脂組成物の物性が低下し、樹脂本来の特性が得られない問題や、ポリオレフィン系樹脂の特徴でもある加工性が犠牲になるなどの問題があった。このため、金属水酸化物を添加したポリオレフィン系樹脂組成物は電線被覆材料への展開は可能であるものの、成形品や繊維製品等への展開は極めて困難であった。
【0004】
かかる問題を解決するため、リン酸エステル系難燃剤を用いたポリオレフィン系樹脂の難燃化技術が検討されている。トリフェニルホスフェートに代表されるリン酸エステル単量体は揮発性が高く、成形時のモールドデポジットや成形品使用時のブリードアウト等の問題があったため、縮合型リン酸エステル系難燃剤の検討がなされている。しかしながら、縮合型リン酸エステル系難燃剤を使用した場合も、難燃効果が不十分であり、またリン酸エステルの可塑効果により耐熱性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで近年、特定のリン酸塩系難燃剤を用いて、燃焼時に成形品表面に発泡層を形成し、分解生成物の拡散や伝熱を抑制し難燃性を発揮させる、イントメッセント系難燃剤が提案されている(特許文献1)。イントメッセント系難燃剤は優れた難燃性を有するものの、二次凝集による樹脂への分散不良や、加水分解による吸湿性の悪化等の問題があった。そのため、特定の分子構造を有するリン酸エステルやシリコーンオイル、ポリカルボジイミド等の化合物を共添加することにより改良がなされているが、未だ満足できる特性には至っていない(特許文献2〜4)。
【0006】
また、先に述べた難燃化技術は、多様なポリオレフィン系樹脂全般に適応できる技術では無く、ポリオレフィン系樹脂の中でも特定の樹脂種にのみ適応可能な技術であった。中でもポリメチルペンテン樹脂に代表される高耐熱型ポリオレフィン系樹脂は、その加工温度が高く、リン酸エステル系難燃剤では対応ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−26935号公報
【特許文献2】特開2004−238568号公報
【特許文献3】特開2009−120717号公報
【特許文献4】特開2009−292965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高度な難燃性と良好な物性、殊に耐熱性の低下の無い難燃性樹脂組成物およびそれからなる製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これらの問題を解決するため、鋭意、研究を行った結果、ポリオレフィン系樹脂(A成分)100重量部に対して、下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)を〜100重量部含み、該ポリオレフィン系樹脂は、(i)JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが50g/10分以下のポリエチレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、(ii)JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.1〜50g/10分のポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、(iii)JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが20g/10分以下のポリ1−ブテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、または(iv)JIS K7210規格に準じ、260℃、5.0kg荷重にて測定したメルトフローレートが1〜200g/10分のポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であり、該有機リン化合物は、有機純度が97.0%以上であり、塩素含有量が1000ppm以下であり、ΔpHが1.0以下であり、残存溶媒量が1000ppm以下とすることにより、高度な難燃性と良好な物性の両立を可能とするポリオレフィン系樹脂組成物を提供することができることを見出した。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、X、Xは同一もしくは異なり、下記式(2)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基である。nは1〜3の整数を示し、ArはAL中の任意の炭素原子に結合することができる。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実質的にハロゲンを含有せず、高度な難燃性と良好な物性、殊に耐熱性の低下の無い難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。
(ポリオレフィン系樹脂(A成分))
本発明においてA成分として使用するポリオレフィン系樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の単独重合体、それら同士あるいはそれらと3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数2〜20程度の他のα−オレフィンや、酢酸ビニル、ビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等との共重合体等が挙げられる。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂の具体的としては、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等(分岐状又は直鎖状)のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のポリエチレン系樹脂や、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、1−ブテン単独重合体、1−ブテン−エチレン共重合体、1−ブテン−プロピレン共重合体等のポリ1−ブテン系樹脂などが挙げられる。
【0017】
これらのポリオレフィン系樹脂は、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体や不飽和シラン化合物等で変性したものであってもよい。更には、部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0018】
ここでポリエチレン系樹脂とは、原料モノマーとしてエチレンを主成分とし、好ましくはエチレンを50重量%以上含有する重合体を意味する。また、ポリプロピレン系樹脂とは、原料モノマーとしてプロピレンを主要成分とし、好ましくはプロピレンを50重量%以上含有する重合体を意味する。同様にポリ1−ブテン系樹脂とは、原料モノマーとして1−ブテンを主要成分とし、好ましくは1−ブテンを50重量%以上含有する重合体を意味する。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂として共重合体を用いる場合の連鎖形式は限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等の何れであってもよい。また、重合方法及び重合に用いる触媒も公知のものを適宜使用することができる。
【0020】
これらのポリオレフィン系樹脂は、1種の単独使用、または2種以上の混合物を用いてもよい。ポリオレフィン系樹脂の好適例としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ1−ブテン系樹脂、ポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂を60重量%以上含有する樹脂成分が好ましい。
【0021】
本発明におけるポリエチレン系樹脂の好適例としては、JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが50g/10分以下のものが好ましく、より好ましくはメルトフローレートが30g/10分以下のもの、さらに好ましくはメルトフローレートが25g/10分のものが適している。メルトフローレートが50g/10分より大きいものを用いた場合は、成形物の燃焼時に多くの滴下物を生じ、所望の難燃性を得られない場合がある。
【0022】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂の好適例としては、JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.1〜50g/10分のものが好ましく、より好ましくはメルトフローレートが0.2〜45g/10分のもの、さらに好ましくはメルトフローレートが0.3〜40g/10分のもの、特に好ましくはメルトフローレートが10〜35g/10分のものが適している。メルトフローレートが50g/10分より大きいものを用いた場合は、成形物の燃焼時に多くの滴下物を生じ、所望の難燃性を得られない場合がある。
【0023】
本発明におけるポリ1−ブテン系樹脂の好適例としては、JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが20g/10分以下のものが好ましく、より好ましくはメルトフローレートが15g/10分以下のもの、さらに好ましくはメルトフローレートが10g/10分以下のものが適している。
【0024】
本発明におけるポリ4−メチル−1−ペンテン系樹脂の好適例としては、JIS K7210規格に準じ、260℃、5.0kg荷重にて測定したメルトフローレートが1〜200g/10分のものが好ましく、より好ましくはメルトフローレートが5〜180g/10分のもの、さらに好ましくはメルトフローレートが5〜150g/10分のもの、特に好ましくはメルトフローレートが7〜50g/10分のものが適している。
【0025】
A成分のポリオレフィン系樹脂は、必要に応じて他の熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、並びにフェノキシまたはエポキシ樹脂など)を含有しても良い。
【0026】
(有機リン化合物(B成分))
本発明において、B成分として使用する有機リン化合物は、下記式(1)で表される有機リン化合物である。
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、X、Xは同一もしくは異なり、下記式(2)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはその芳香環に置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基またはアントリル基である。nは1〜3の整数を示し、ArはAL中の任意の炭素原子に結合することができる。)
好ましくは下記式(3)で表される有機リン化合物である。
【0031】
【化5】
【0032】
前記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)は、当該樹脂に対して極めて優れた難燃効果を発現する。本発明者らが知る限り、従来当該樹脂のハロゲンフリーによる難燃化において、少量の難燃剤での難燃化は困難であり、実用上多くの問題点があった。
ところが本発明によれば、前記有機リン化合物(B成分)は驚くべきことにそれ自体単独の少量使用により当該樹脂の難燃化が容易に達成され、樹脂本来の特性を損なうことが無い。
【0033】
しかし本発明ではB成分の他に、B成分以外のリン化合物、フッ素含有樹脂または他の添加剤を、B成分の使用割合の低減、成形品の難燃性の改善、成形品の物理的性質の改良、成形品の化学的性質の向上またはその他の目的のために当然配合することができる。
【0034】
次に本発明における前記有機リン化合物(B成分)の合成法について説明する。B成分は、以下に説明する方法以外の方法によって製造されたものであってもよい。
B成分は例えばペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いて酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属化合物により処理し、次いでアラルキルハライドを反応させることにより得られる。
【0035】
また、ペンタエリスリトールにアラルキルホスホン酸ジクロリドを反応させる方法や、ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させることによって得られた化合物にアラルキルアルコールを反応させ、次いで高温でArbuzov転移を行う方法により得ることもできる。後者の反応は、例えば米国特許第3,141,032号明細書、特開昭54−157156号公報、特開昭53−39698号公報に開示されている。
【0036】
B成分の具体的合成法を以下説明するが、この合成法は単に説明のためであって、本発明において使用されるB成分は、これら合成法のみならず、その改変およびその他の合成法で合成されたものであってもよい。より具体的な合成法は後述する調製例に説明される。
【0037】
(B成分中の前記式(3)の有機リン化合物の合成法)
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、次いでターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、ベンジルブロマイドを反応させることにより得ることができる。
また別法としては、ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、得られた生成物とベンジルアルコールの反応生成物を触媒共存下で加熱処理する事により得られる。
【0038】
前述の有機リン化合物(B成分)は、HPLCにて測定された有機純度が、好ましくは97.0%以上、より好ましくは98.0%以上、さらに好ましくは99.0%以上のものが使用される。有機純度がこの範囲のB成分を使用することにより、高度な難燃性と良好な物性を両立することが可能となる。特に有機純度は得られた樹脂組成物の難燃性に影響し、有機純度が低い場合、高度な難燃性が得られない。さらに、有機純度の低いB成分は、不純物の影響により得られた樹脂組成物の色相悪化や物性の低下、特に耐熱性の低下が発現する。
【0039】
ここでB成分のHPLCによる有機純度の測定は、以下の方法を用いることにより効果的に測定が可能となる。
カラムは野村化学(株)製Develosil ODS−7 300mm×4mmφを用い、カラム温度は40℃とした。溶媒としてはアセトニトリルと水の6:4(容量比)の混合溶液を用い、5μlを注入した。検出器はUV−264nmを用いた。
【0040】
B成分中の不純物を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、水、メタノール等の溶剤でリパルプ洗浄(溶剤で洗浄、ろ過を数回繰り返す)を行う方法が最も効果的で、且つコスト的にも有利である。洗浄時にB成分と溶剤の混合物を加熱しながら撹拌を行うことによって、さらに効果的な洗浄が可能である。
【0041】
B成分は、その塩素含有量が1000ppm以下のものが好ましく、より好ましくは500ppm以下のもの、さらに好ましくは100ppm以下のものが好適に使用できる。本発明の目的の一つとしては、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を提供することが挙げられるため、塩素含有量がこの範囲のB成分を用いることが好ましい。さらに塩素含有量がこの範囲のB成分を用いることにより、熱安定性の良好な成形品が得られ、かつ色相に優れた成形品が得られる。塩素含有量がこの範囲を超える場合、樹脂組成物の熱安定性が低下し、高温成形時のヤケ発生による色相の低下が発現する。
B成分の塩素含有量は、ASTM D5808に準拠し、燃焼法にて分析を行い、滴定法にて検出することにより効果的に測定が可能となる。
【0042】
B成分は、そのΔpHが1.0以下のものが好ましく、より好ましくは0.8以下のもの、さらに好ましくは0.5以下のもの、特に好ましくは0.3以下のものが好適に使用できる。ΔpHがこの範囲のB成分を用いることにより、熱安定性の良好な成形品が得られ、かつ色相に優れた成形品が得られる。ΔpHがこの範囲を超える場合、樹脂組成物の熱安定性が低下し、高温成形時のヤケ発生による色相の低下が発現する。
B成分のΔpHは、以下の方法を用いることにより効果的に測定が可能となる。
【0043】
蒸留水99gと分散剤1gを混合し、1分間撹拌後、pH計にてpHを測定する(得られたpH値をpH1とする)。前記蒸留水と分散剤の混合溶液にB成分の有機リン化合物1gを添加し、1分間撹拌する。撹拌後の混合物を濾過し、濾液のpHをpH計にて測定する(得られたpH値をpH2とする)。本発明のΔpHは下記式(4)により算出できる。
ΔpH=|pH1−pH2| …(4)
【0044】
さらにB成分は、その残存溶媒量が1000ppm以下のものが好ましく、より好ましくは800ppm以下のもの、さらに好ましくは500ppm以下のもの、特に好ましくは100ppm以下のものが好適に使用できる。残存溶媒量がこの範囲のB成分を用いることにより、高度な難燃性を有する樹脂組成物を得ることができる。ポリオレフィン系樹脂は一般に難燃性が低く、残存溶媒量がこの範囲を超えるB成分を用いた場合、所望の難燃性を得ることが困難となる。
B成分の残存溶媒量は、HPLCを用いて有機純度測定方法と同様の方法にて効果的に測定が可能となる。
【0045】
前記B成分は、ポリオレフィン系樹脂(A成分)100重量部に対して1〜100重量部、好ましくは5〜90重量部、より好ましくは10〜70重量部、さらに好ましくは10〜50重量部の範囲で配合される。B成分の配合割合は、所望する難燃性レベル、ポリオレフィン系樹脂(A成分)の種類などによりその好適範囲が決定される。これら組成物を構成するA成分およびB成分以外であっても必要に応じて他の成分を本発明の目的を損なわない限り使用することができ、他の難燃剤、難燃助剤、フッ素含有樹脂の使用によってもB成分の配合量を変えることができ、多くの場合、これらの使用によりB成分の配合割合を低減することができる。
【0046】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の安定剤、造核剤、無機充填剤、有機充填剤、衝撃改質剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、発泡剤、流動改質剤、着色剤、帯電防止剤、抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤などを配合してもよい。これら各種の添加剤は、周知の配合量で利用することができる。
【0047】
本発明の難燃性樹脂組成物の調製は、ポリオレフィン系樹脂(A成分)、有機リン化合物(B成分)および必要に応じてその他成分を、V型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて予備混合し、かかる予備混合物は混練機に供給し、溶融混合する方法が好ましく採用される。混練機としては、種々の溶融混合機、例えばニーダー、単軸または二軸押出機などが使用でき、なかでも二軸押出機を用いて樹脂組成物を各種ポリオレフィン系樹脂の推奨温度で溶融して、サイドフィーダーにより液体成分を注入し、押出し、ペレタイザーによりペレット化する方法が好ましく使用される。
【0048】
成形品の成形方法としては射出成形、ブロー成形、プレス成形等、特に限定されるものではないが、好ましくはペレット状の樹脂組成物を射出成形機を用いて、射出成形することにより成形される。
繊維の紡糸方法としては、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法等、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂の場合は一般に溶融紡糸法が好適に用いられる。
【0049】
不織布の製造方法としては特に限定されるものでは無く、一般に乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等のフリース形成法によって形成されたフリースを、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法等のフリース結合法によって結合し製造することが可能である。ポリオレフィン系樹脂の場合、一般にスパンボンド法やサーマルボンド法が好適に用いられる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の%は特段の表記が無い限り重量%を意味し、評価は下記の方法で行った。
【0051】
(1)有機純度
カラムは野村化学(株)製Develosil ODS−7 300mm×4mmφを用い、カラム温度は40℃とした。溶媒としてはアセトニトリルと水の6:4(容量比)の混合溶液を用い、5μlを注入した。検出器はUV−264nmを用いた。測定結果より、面積比をもって有機純度とした。
【0052】
(2)塩素含有量
ASTM D5808に準拠し、燃焼法にて分析を行い、滴定法にて検出した。
【0053】
(3)ΔpH
蒸留水99gと分散剤(エタノール)1gを混合し、1分間撹拌後、pH計にてpHを測定する(得られたpH値をpH1とする)。前記蒸留水と分散剤の混合溶液にB成分の有機リン化合物1gを添加し、1分間撹拌する。撹拌後の混合物を濾過し、濾液のpHをpH計にて測定する(得られたpH値をpH2とする)。ΔpHは下記式(4)により算出した。
ΔpH=|pH1−pH2| …(4)
【0054】
(4)残存溶媒量
カラムは野村化学(株)製Develosil ODS−7 300mm×4mmφを用い、カラム温度は40℃とした。溶媒としてはアセトニトリルと水の6:4(容量比)の混合溶液を用い、5μlを注入した。検出器はUV−264nmを用いた。別途作成した検量線を用い、残存溶媒量を算出した。
【0055】
(5)酸素指数
JIS−K−7201に準拠して行った。数値が高いほど難燃性に優れる。
【0056】
(6)色相
射出成形により2mm厚の成形品を作成し、下記の基準にて目視判定した。
○:良好な色相のもの
△:若干のヤケが認められるもの
×:明らかなヤケが認められるもの
【0057】
(7)耐熱性保持率(荷重たわみ温度保持率;HDT保持率)
ASTM−D648に準拠した方法により6.35mm(1/4インチ)試験片を用いて0.45MPa荷重で荷重たわみ温度(HDT)を測定した。また、荷重たわみ温度保持率(M)は、使用したベース樹脂(A成分)からの成形品の荷重たわみ温度x(℃)と難燃性樹脂組成物(ベース樹脂とB成分の混合物)からの成形品の荷重たわみ温度y(℃)を測定し、M=(y/x)×100(%)の計算式により算出した。
【0058】
[調製例1]
2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9−ジベンジル−3,9−ジオキサイド(FR−1)の調製
攪拌機、温度計、コンデンサーを有する反応容器に、3,9−ジベンジロキシ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン22.55g(0.055モル)、ベンジルブロマイド19.01g(0.11モル)およびキシレン33.54g(0.32モル)を充填し、室温下攪拌しながら、乾燥窒素をフローさせた。次いでオイルバスで加熱を開始し、還流温度(約130℃)で4時間加熱、攪拌した。加熱終了後、室温まで放冷し、キシレン20mLを加え、さらに30分攪拌した。析出した結晶をろ過により分離し、キシレン40mLで2回洗浄した。得られた粗精製物とメタノール50mLをコンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に入れ、約3時間還流した。室温まで冷却後、結晶をろ過により分離し、メタノール20mLで2回洗浄した後、得られたろ取物を120℃、1.33×10Paで20時間乾燥し、白色の鱗片状結晶を得た。生成物は質量スペクトル分析、H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析でビスベンジルペンタエリスリトールジホスホネートであることを確認した。収量は19.76g、収率は88%、31PNMR純度は99%であった。また、本文記載の方法で測定した有機純度は99.5%であった。塩素含有量は51ppmであった。ΔpHは0.1であった。残留溶媒量は47ppmであった。
【0059】
[調製例2]
2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9−ジベンジル−3,9−ジオキサイド(FR−2)の調製
キシレン40mlで2回洗浄とメタノール還流洗浄の操作を省略した他は、調製例1と同様の調製方法にて調製した。
収量は21.33g、収率は95%、31PNMR純度は95%であった。また、本文記載の方法で測定した有機純度は94%であった。塩素含有量は2500ppmであった。ΔpHは1.5であった。残留溶媒量は1100ppmであった。
【0060】
実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いた。
(イ)ポリオレフィン系樹脂(A成分)
(i)市販のポリプロピレン樹脂(プライムポリマー製プライムポリプロJ106G;メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は15.4g/10分)を用いた(以下PP−1と称する)。
(ii)市販のポリプロピレン樹脂(プライムポリマー製プライムポリプロJ707G;メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は31.3g/10分)を用いた(以下PP−2と称する)。
(iii)市販のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂(三井化学製TPX DX845;メルトフローレート(260℃、5.0kg荷重)は9.6g/10分)を用いた(以下TPX−1と称する)。
(iv)市販のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂(三井化学製TPX MX004;メルトフローレート(260℃、5.0kg荷重)は26.7g/10分)を用いた(以下TPX−2と称する)。
【0061】
(ロ)有機リン化合物(B成分)
(i)調製例1で合成した2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9−ジベンジル−3,9−ジオキサイド
前記一般式(3)で示される有機リン系化合物(以下FR−1と称する)。
(ii)調製例2で合成した2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9−ジベンジル−3,9−ジオキサイド
前記一般式(3)で示される有機リン系化合物(以下FR−2と称する)。
【0062】
(ハ)その他の有機リン化合物
市販の芳香族リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業製PX−200)を用いた(以下FR−3と称する)。
【0063】
[実施例1〜8および比較例1〜14]
表1および2記載の各成分を表1および2記載の量(重量部)でタンブラーにて配合し、15mmφ二軸押出機(テクノベル製、KZW15)にてペレット化し、得られたペレットを射出成形機(日本製鋼所製、J75Si)にて各試験片を成形した。この試験片を用いて評価した結果を表1および表2に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2-1】
【0066】
【表2-2】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、実質的にハロゲンを含有することなく高度な難燃性と良好な物性、殊に耐熱性の低下の無い難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供するものであり、本樹脂組成物は種々の成形品、繊維や不織布の材料として有用であり、工業的に極めて有用である。