特許第6619443号(P6619443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6619443吸着剤及びこれを用いた化合物の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619443
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】吸着剤及びこれを用いた化合物の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20191202BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20191202BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20191202BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20191202BHJP
   C22B 34/24 20060101ALN20191202BHJP
【FI】
   B01J20/22 B
   C22B3/24
   B01J20/34 G
   B01D15/00 N
   !C22B34/24
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-544470(P2017-544470)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2016079017
(87)【国際公開番号】WO2017061331
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2018年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-199477(P2015-199477)
(32)【優先日】2015年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴彦
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−194122(JP,A)
【文献】 特開平03−296434(JP,A)
【文献】 植木龍也ら,海水からの1,000万倍濃縮−ホヤの金属代謝,実験医学,2014年,Vol.32, No.15(増刊),pp.123-129
【文献】 道端齊ら,ホヤの金属濃縮機構と海水中のレアメタルの選択的分取への応用,日本海水学会誌,2005年,Vol.59, No.5,pp.326-331
【文献】 ROMAIDI, et al.,Screening for vanadium-accumulating bacteria isolated from the intestine of Ascidia sydneiensis samea,第17回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨集,2015年 5月30日,p.98
【文献】 ROMAIDI, et al.,Vanadium Resistant Bacteria Isolated from the Intestine of Ascidia sydneiensis samea and Their Ability to Accumulate Vanadium Ions,第16回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨集,2014年 5月31日,p.76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
B01D 15/00
C22B 3/00− 3/24
C22B 34/00−34/24
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタルの化合物を吸着する吸着剤であって、
該吸着剤は、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸及び極性無電荷アミノ酸のうちの少なくとも1種のアミノ酸、又は該アミノ酸の塩を含み、
前記アミノ酸は、L−リジン、L−グルタミン酸のうちの少なくとも1種を有する、吸着剤。
【請求項2】
アルコールを含む溶媒に、タンタルの化合物を含有する部材から溶出されたタンタルの化合物イオンを溶かして、該化合物イオンを含有する第1溶液を得る工程と、
該第1溶液と、請求項1に記載の吸着剤を含む第2溶液とを混合して、第3溶液を得る工程と、
該第3溶液のpHを調整して、前記吸着剤に前記化合物イオンを吸着させる工程と、
前記第3溶液から、前記化合物イオンを吸着した前記吸着剤を分離する工程と、
前記化合物イオンを吸着した前記吸着剤から前記化合物を回収する工程と、を有するタンタルの化合物の回収方法。
【請求項3】
前記第3溶液のpHを調整する工程において、前記吸着剤に含まれる前記アミノ酸の等電点よりもpHが低くなるように前記第3溶液のpHを調整する請求項に記載のタンタルの化合物の回収方法。
【請求項4】
前記第3溶液のpHを調整する工程において、前記第3溶液のpHを1〜3に調整する請求項又はに記載のタンタルの化合物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本態様は、第5族元素の化合物を吸着する吸着剤及びこれを用いた化合物の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタル(Ta)及びニオブ(Nb)などの第5族元素は、例えば、コンデンサ、生体インプラント及び高硬度の工具材などの部材に利用されている。現在、これらの部材は、その使用後に廃材(スクラップ)となり、廃棄又は鉱石として処理されている。しかしながら、第5族元素は希少価値の高い金属であることから、第5族元素、及び第5族元素を含む化合物の回収プロセスが求められている。
【0003】
第5族元素と同様に希少価値の高いタングステンに関して、例えば国際公開第2013/151190号(特許文献1)にタングステンを含む化合物の回収プロセスが開示されている。特許文献1には、タングステンの化合物の溶液に微生物を投入し、溶液を酸性に調整することによって微生物にタングステン化合物イオンを吸着させる方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1には、タングステンを含む化合物の回収プロセスが開示されている一方で、第5族元素を回収するプロセスは開示されていない。そのため、第5族元素を含む化合物を吸着する吸着剤が求められている。
【発明の概要】
【0005】
本態様は、タンタルの化合物を吸着する吸着剤であって、該吸着剤は、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸及び極性無電荷アミノ酸のうちの少なくとも1種のアミノ酸、又は該アミノ酸の塩を含み、前記アミノ酸は、L−リジン、L−グルタミン酸のうちの少なくとも1種を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第5族元素の化合物の回収方法の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態の第5族元素の化合物を吸着する吸着剤及びこれを用いた化合物の回収方法について具体的に説明する。本実施形態の吸着剤は、溶液中でイオンとして存在する第5族元素の化合物イオンを吸着する。
【0008】
第5族元素としては、例えば、タンタル及びニオブが挙げられる。本実施形態の吸着剤で回収されるタンタルの化合物としては、例えば、炭化タンタル(TaC)、酸化タンタル(Ta)、塩化タンタル(TaCl)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、タンタル酸カリウム(KTaO)、炭化タンタルハフニウム(TaHf1−x)及びハフニウム酸タンタル(TaHfO)などが挙げられる。これらの化合物は、必要に応じてpHが調整された溶液中で、タンタル酸イオンなどの酸素酸イオンとして存在する。
【0009】
また、ニオブの化合物としては、例えば、炭化ニオブ(NbC)、酸化ニオブ(Nb)、塩化ニオブ(NbCl)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)及び炭化ニオブハフニウム(NbHf1−x)などが挙げられる。ニオブの化合物は、タンタルの化合物と同様に、必要に応じてpHが調整された溶液中で、ニオブ酸イオンなどの酸素酸イオンとして存在する。
【0010】
本実施形態の吸着剤は、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸及び極性無電荷アミノ酸のうちの少なくとも1種のアミノ酸、又は該アミノ酸の塩を含む。この吸着剤を含有する溶液において第5族元素の化合物イオンが吸着剤に吸着される。本実施形態の吸着剤に吸着された第5族元素の化合物イオンは、溶液において固形分として沈殿する。
【0011】
この沈殿物を濾別することによって、第5族元素の化合物イオンを吸着した吸着剤を分離することができる。その後、第5族元素の化合物イオンを吸着した吸着剤から吸着剤を除去又は離脱させることによって、第5族元素の化合物を回収することができる。このように、簡単な処理工程で第5族元素の化合物を回収できる。しかも、多量の薬品を使う必要がないので、環境汚染を抑制できる。
【0012】
アミノ酸は、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸及び極性無電荷アミノ酸のいずれか、又はその塩である。具体的には、塩基性アミノ酸としては、L−アルギニン(L-Arginine)、L−リジン(L-Lysine)及びL−ヒスチジン(L-Histidine)などが挙げられる。酸性アミノ酸としては、L−アスパラギン酸(L-Aspartic asid)及びL−グルタミン酸(L-Glutamic acid)などが挙げられる。極性無電荷アミノ酸としては、グリジン(Glycine) 、チロシン(Tyrosine)、トレオニン(Threonine)、L−アスパラギン(L-Asparagine)、L−セリン(L-Serine)、L−システイン(Cystine)及びL−グルタミン(L-Glutamine)などが挙げられる。
【0013】
上記アミノ酸として、L−リジン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−アスパラギン酸及びL−グルタミン酸のうちの少なくとも1種、又はその塩が用いられる場合には、第5族元素の化合物の回収効率が高められる。特に、第5族元素の化合物が酸素酸イオンとして存在することから、塩基性アミノ酸であるL−リジン、L−アルギニン及びL−ヒスチジンのうちの少なくとも1種、又はその塩が用いられる場合には、より一層第5族元素の化合物の回収効率が高められる。
【0014】
吸着剤は、上記のアミノ酸を単体で含んでいてもよいが、基体の表面に上記のアミノ酸が担持された状態のものであってもよい。基体の材質としては、有機物及び無機物を適用できる。有機物としては、例えば、遊離アミノ酸を含むペプチド、微生物などの生体を形成する物質、タンパク質及び樹脂などが挙げられる。なお、本実施形態では、基体が、遊離アミノ酸を含むペプチド、微生物などの生体を形成する物質、又はタンパク質からなる吸着剤を、生体系吸着剤という場合がある。
【0015】
生体系吸着剤は、粉末、粉末を成形したペレット、ゲル又は水溶液など種々の形態からなる。粉末やペレットであれば、保管や取り扱いが容易である。吸着剤が粉末やペレットなどの固形物である場合には、固形物を一旦、水などの別の液体に溶解させた後、第5族元素の化合物を含む溶液に添加してもよい。
【0016】
上記のアミノ酸の塩としては、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩及び炭酸塩が挙げられる。アミノ酸の塩を含む吸着剤は、溶媒に溶けた際に、上記のアミノ酸として溶液中に存在し得る。そして、生体系吸着剤と同様に、アミノ酸の塩を含む吸着剤を一旦、水などの別の液体で溶解させた後、第5族元素の化合物イオンを含む溶液に添加してもよい。
【0017】
アミノ酸の塩を含む吸着剤及び第5族元素の化合物イオンを含む溶液のpHは必要に応じて調整されてもよい。第5族元素の化合物イオンが溶液中で陰イオンとして存在している場合において、例えば、吸着剤におけるアミノ酸の等電点よりもpHが低くなるように溶液のpHを調整すれば、アミノ酸がプロトン化し、第5族元素の化合物の陰イオンが、吸着剤における正に帯電したアミノ酸に吸着し易くなる。
【0018】
アミノ酸の塩からなる吸着剤は、基体の表面にアミノ酸が担持された形態の吸着剤に比べて、吸着剤中のアミノ酸の含有比率を高くできる。そのため、第5族元素の化合物イオンの吸着効率が高く、少量の吸着剤で多量の第5族元素の化合物イオンを吸着できる。また、第5族元素の化合物イオンを吸着した後で第5族元素の化合物を回収する際に、廃棄が必要な不要物の含有量が少なくなることから、取り扱いが容易であり、製造コストが削減できる。さらに、アミノ酸の塩からなる吸着剤は、菌や微生物のように生物ではないので、吸着剤の保管、管理が容易である。
【0019】
アミノ酸の塩からなる吸着剤を保管する際には、溶液の状態であってもよいが、固体である場合には、取り扱い、保管及び管理が容易である。特に、アミノ酸の塩からなる吸着剤が粉末状である場合には、使用する際に容易に溶液中に溶解できる。また、吸着剤の取り扱いを容易とするために、吸着剤をペレット状としてもよい。
【0020】
アミノ酸の塩として、L−リジン、L−アルギニン又はL−ヒスチジンの少なくとも一つの塩が主成分であるものを用いる場合には、吸着剤の吸着効率が高められる。これらの塩のうち、L−リジン塩酸塩は、安定であり、且つ、安価である。なお、上記の塩が主成分であるとは、吸着剤におけるL−リジンの塩、L−アルギニンの塩及びL−ヒスチジンの塩の総質量の、吸着剤の総量に対する比率が50質量%以上であることをいう。
【0021】
吸着剤中に存在するL−リジンの塩、L−アルギニンの塩及びL−ヒスチジンの塩の総量は90質量%以上であるのがよい。これによって、少量の吸着剤で多量の第5族元素の化合物を吸着させることができる。吸着剤中に存在するL−リジンの塩、L−アルギニンの塩及びL−ヒスチジンの塩の総量のさらに望ましい範囲は、95質量%以上である。
【0022】
なお、アミノ酸の塩のうち、L−グルタミン酸の塩は安価であり、吸着剤のコストを低下させることができる。中でも、グルタミン酸ナトリウムは安定で安価である。
【0023】
アミノ酸は1種類のみに限定されるものではなく、例えば、L−グルタミン酸の塩とともに、L−リジン、L−アルギニン及びL−ヒスチジンなどの他のアミノ酸の塩が添加されたものであってもよい。また、使用するアミノ酸の塩がアルコールに不溶である場合には、吸着剤を水に溶解させて、水溶液として用いればよい。
【0024】
基体として遊離アミノ酸を含むペプチドを用いる場合のように、吸着剤が、溶液中で遊離アミノ酸を含有していてもよい。この場合には、遊離アミノ酸を含有する吸着剤の水溶液と第5族元素の化合物イオンを含有する溶液とを混合した際に、第5族元素の化合物イオンが吸着剤に吸着され易くなる。
【0025】
吸着剤が遊離アミノ酸を含有する際に、この遊離アミノ酸の含有量は特に限定されないが、吸着剤を乾燥して得られる固形物の総量、すなわち、吸着剤の固形分に対して、遊離アミノ酸が総量で0.5質量%以上である場合には、第5族元素の化合物の回収効率を向上させることができる。
【0026】
遊離アミノ酸が総量で0.5質量%未満である場合には、遊離アミノ酸を別途添加する、或いは、後述する手法によって遊離アミノ酸を増加させてもよい。具体的には、吸着剤が生体系吸着剤からなる場合のように、吸着剤が吸着反応には寄与しないアミノ酸(以下、不活性アミノ酸という場合がある)を含有している場合には、吸着剤における遊離アミノ酸の含有比率を高めるために、吸着剤中に存在する不活性アミノ酸のペプチド結合を切断する処理を行って、不活性アミノ酸を遊離アミノ酸に変えてもよい。不活性アミノ酸としては、例えば、ペプチド結合で結合されたアミノ酸のうちの中間の位置に存在するアミノ酸や、吸着剤の表面に露出しない内部の位置に存在するアミノ酸が挙げられる。
【0027】
例えば、生体系吸着剤として用いられる微生物中に存在するペプチド結合を切断する処理としては、既存の処理方法が挙げられる。具体的には、微生物を構成するタンパク質を、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ及びv8プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素で分解する。これにより、微生物の体内に含まれる不活性アミノ酸の少なくとも一部を遊離アミノ酸に変えることができる。
【0028】
不活性アミノ酸を遊離アミノ酸に変える他の方法として、吸着剤に対して、例えば60℃以上の加熱処理、煮沸処理、又はオートクレーブ装置などを用いた加熱・加圧処理を施し、タンパク質を分解させる方法も有効である。なお、吸着剤が微生物などの生物では無い場合、又は、吸着剤を溶液中にて保存しなければならない場合ではなく、微生物が分解された無生物のように、吸着剤を固形物として保存できる場合には、培養や保管のための大規模な設備や維持が不要であり、設備が小型化できる。
【0029】
次に、本実施形態の吸着剤を用いた第5族元素の化合物の回収方法について説明する。
【0030】
第5族元素の化合物の回収方法の一実施形態として、図1に基づいて、超硬合金を主成分とする工具スクラップから酸化タンタルを回収する方法を一例に挙げて具体的に説明する。従って、第5族元素の化合物の回収方法として、下記の実施形態におけるタンタル化合物を、例えばニオブ化合物に置き換えてもよい。
【0031】
超硬合金とは、炭化タングステン(WC)などを主成分とするものであり、工具スクラップには炭化タンタル(TaC)のような第5族元素の化合物が含有される。工具スクラップとしては、超硬工具などの製造工程において生じるスクラップ、使用済み工具などのハードスクラップ、及び、研削スラッジなどの粉状のソフトスクラップなどが挙げられる。
【0032】
工具スクラップは、WCとTaC以外に、鉄、ニッケル及びコバルトなどを結合相とし、必要に応じて添加物成分としてTiC、NbC、VC、Crなどを含む場合もある。対象となる超硬合金を含んだ工具スクラップの一例として、切削工具(切削インサート、ドリル、エンドミルなど)、金型(成形ロール、成形型など)及び土木鉱山用工具(石油掘削用工具、岩石粉砕用工具など)などが挙げられる。なお、本実施形態においては、廃棄物から第5族元素の化合物を回収する工程について説明するが、これに限定されるものではなく、鉱石から第5族元素の化合物を抽出する際にも適用できる。
【0033】
まず、アルコールを含む溶媒に、第5族元素の化合物(タンタル化合物)を含有する部材(工具スクラップ)から溶出された第5族元素の化合物イオンを溶かして、この化合物イオンを含有する第1溶液を得る。ここでアルコールとしては、例えば、メタノール及びエタノールなどの低級アルコールが挙げられる。
【0034】
このようにして得られた第1溶液に、上記の実施形態の吸着剤を含む第2溶液を混合することによって、第3溶液が得られる。第2溶液は、例えば、吸着剤が生体系吸着剤である場合、タンタル濃度を0.1〜10mmol/l(第1溶液1リットルにおいてタンタル濃度が0.1〜10mmol)に調整した第1溶液1mあたり、吸着剤が600g〜150kgとなるように添加したものである。
【0035】
ここで、生体系吸着剤においては、吸着剤を乾燥して得られた固形物の総量、すなわち、吸着剤の固形分に対して、遊離アミノ酸を総量で0.5質量%以上含有する処理をしてもよい。
【0036】
具体的には、生体系物質に対して、加熱、加圧又は酵素を添加する方法などによって、生体系物質中に存在する不活性アミノ酸のペプチド結合を切断する処理を行う。これによって、不活性アミノ酸を遊離アミノ酸に変えることができ、吸着剤の吸着効率が高くなる。
【0037】
吸着剤がアミノ酸の塩からなる場合、例えば、吸着剤中のアミノ酸の塩の合計添加量が、タンタル化合物のタンタル成分1molに対して、0.5〜30molの含有比率となるように吸着剤を第1溶液に添加する。これによって、多量のタンタル化合物イオンを吸着させることができる。
【0038】
またこのとき、アミノ酸の塩の合計添加量を第1溶液に対して、0.5〜300g/lとしてもよい。アミノ酸の塩の合計添加量が上記の値である場合には、溶液の粘性が高くならず、タンタル化合物の回収効率が低下しにくくなる。特に、吸着剤がアミノ酸の塩からなる場合、溶液の粘性が上がりにくく、作業性がよい。
【0039】
温度は吸着剤に含有されるアミノ酸の活性に応じて調整すればよく、通常は室温で構わない。第3溶液のpHを、例えば、塩酸などを用いてアミノ酸がプロトン化するように調整する。これによって、吸着剤にタンタル化合物イオンを吸着させる。なお、第3溶液のpH調整は、第1溶液と第2溶液とを混合した後に行ってもよいが、混合する前の第1溶液及び第2溶液のpHを予め所望のpHに調整しておいてもよい。
【0040】
第3溶液のpHは7未満(酸性)である。アミノ酸がL−リジン、L−アルギニン、L−ヒスチジンの場合、好適なpHは4以下、好ましくは1〜3、望ましくは1〜2.3である。アミノ酸がL−グルタミン酸の場合、好適なpHは1.5以下である。これによって、タンタル化合物の回収率を高めることができる。
【0041】
吸着剤がアミノ酸の塩である場合、吸着反応は1時間以内で完了する。吸着反応は1分以内で進行するが、第3溶液の混合状態を加味して吸着反応の時間を制御すればよい。
【0042】
次に、第3溶液から、タンタル化合物イオンを吸着した吸着剤を分離する。例えば、タンタル化合物イオンを吸着した吸着剤を、遠心分離などの手段により脱水する。そして、必要に応じて、純水洗浄するなどして不純物を除去する。これによって、容易にタンタル化合物イオンを吸着した吸着剤を分離することができる。
【0043】
その後、例えばタンタル化合物イオンを吸着した吸着剤を、乾燥させた後、大気中で300℃以上の温度で焼却するなどによって、吸着剤を含む有機物成分を除去することによって、タンタル化合物を回収することができる。本実施形態によれば、酸化性雰囲気中で焼成することによって、タンタル化合物が酸化されて酸化タンタル(Ta)となり、第5族元素の化合物として酸化タンタルが得られる。
【0044】
なお、得られた酸化タンタルは、コンデンサなどの各種用途に利用可能であるが、超硬合金の原料として用いる際には、酸化タンタルを炭化タンタルに置換してもよい。酸化タンタルを炭化タンタルに置換するには、例えば還元雰囲気にて500℃以上の温度で熱処理し、酸化タンタルを還元・炭化すればよい。
【0045】
本実施形態のタンタル化合物の回収方法では、使用する薬品量や廃液量が少なく、且つ、処理工程が簡単であることから、低コストでタンタル化合物を回収できる。
【0046】
第3溶液から分離させた吸着剤を、第3溶液とは異なるpHに調整された溶液に溶かした状態で、タンタル化合物イオンを吸着剤から脱離させてもよい。吸着剤及び吸着剤から脱離したタンタル化合物イオンを含む懸濁液を、遠心分離やフィルターろ過を行うことにより、吸着剤と、タンタル化合物イオンを含む溶液とに分離することができる。分離した吸着剤は、回収して再利用することができる。この方法では、吸着剤を再利用することができるので、高価な吸着剤を使用する場合には、吸着剤に要するコストを低減することができる。
【0047】
このように、本実施形態のタンタル化合物の回収方法では、簡単な処理工数かつ低コストでタンタル化合物を回収することができる。
【実施例1】
【0048】
塩化タンタル(TaCl)0.05gをエタノール5mLに添加し、撹拌して溶解させた第1溶液を作製した。また、リジン塩酸塩0.62gを水43mLに添加し、撹拌することによってリジン塩酸塩を溶解させた第2溶液を作製した。そして、第1溶液における0.01mmolのTaOに対するリジン塩酸塩の比率が約20倍となるように、第1溶液に第2溶液を添加することによって第3溶液を作製した。この第3溶液に対して、塩酸(HCl)を添加してpHを2に調整した。pH調整後、第3溶液を25℃で60分間撹拌した。
【0049】
撹拌後の第3溶液を遠心分離し、上澄み液中のタンタル濃度をICP発光分光分析にて測定した。上澄み液中のタンタル濃度と、吸着剤を添加する前のタンタル濃度と比較し、回収されなかったタンタル化合物の濃度及び回収されたタンタル化合物の濃度を算出したところ、タンタル化合物の回収率は30%であった。
【実施例2】
【0050】
実施例1における第2溶液のリジン塩酸塩をグルタミン酸ナトリウムに変更する以外は、実施例1と同じ条件でタンタル化合物の吸着テストを行った。この吸着テストの結果、タンタル化合物の回収率は99%であった。
図1