【文献】
Biodrugs: Clinical Immunotherapeutics, Biopharmaceuticals and Gene Therapy,2005年,Vol.19, No.5,p.279-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成熟ヒト涙液リポカリンのアミノ酸配列に対して、位置28または位置105におけるシステイン残基によるネイティブアミノ酸のアミノ酸置換を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のムテイン。
プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に結合する、請求項1に記載のヒト涙液リポカリンの1種または複数種のムテインを作製する方法であって、
(a)ヒト涙液リポカリンをコードする核酸分子を、
(i)成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列(SEQ ID NO: 1)のアミノ酸配列位置26〜34、56〜58、80、83、104〜106、および108のうちの少なくとも10個、ならびに
(ii)成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列(SEQ ID NO: 1)のアミノ酸配列位置61、101、111、114、および153のうちのいずれか1つまたは複数
における変異誘発に供し、それによって、ヒト涙液リポカリンの1種または複数種のムテインをコードする1種または複数種の核酸分子を得る段階、
(b)(a)で得られた1種または複数種の核酸分子を発現系において発現させ、それによって、ヒト涙液リポカリンの1種または複数種のムテインを得る段階、ならびに
(c)(b)で得られた1種または複数種のムテインをさらに選択する段階
を含み、
該1種または複数種のムテインが、10nM以下の解離定数(KD)で、ヒト以外の霊長類のPCSK9またはその免疫原性断片、マウスPCSK9またはその免疫原性断片、およびヒトPCSK9またはその免疫原性断片のそれぞれに結合する、
方法。
請求項1〜6のいずれか一項に記載のムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子またはSEQ ID NO: 36〜61、72〜81、および86〜87のいずれか1つに示す核酸分子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
IV. 開示内容の詳細な説明
1つの局面において、本開示は、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型またはPCSK9に結合するヒト涙液リポカリンのムテインを提供する。いくつかの態様において、リポカリンムテインは、PCSK9に対して高い親和性を有する。本開示のムテインの標的としてのPCSK9は、典型的には、哺乳動物のタンパク質、例えば、ヒト以外の霊長類のタンパク質またはヒトタンパク質である。完全長ヒトPCSK9は、SEQ ID NO: 34に示すアミノ酸配列を有する。
【0014】
また、本開示のリポカリンムテインは、PCSK9の免疫原性断片に結合することもできる。PCSK9の免疫原性断片は、1つもしくは複数のエピトープ、ミモトープ、もしくは他の抗原決定基を有し、したがって、免疫応答を誘発する能力があるか、または抗体がそれに対して産生され得る、断片である。免疫原性断片は、単一のエピトープを含んでもよく、または複数のエピトープを有してもよい。抗原提示系、例えば、担体タンパク質が、免疫系による認識に必要とされるサイズを提供するのに使用され得るため、免疫原性断片に特定のサイズ制限は適用されない。それゆえ、免疫原性断片は、「ハプテン」、すなわち、それ自体では抗原性である必要がない断片であってもよく、または特に分子量が、それに応じてサイズが小さいことが原因で低い免疫原性を有するものでもよい。通常、免疫原性断片は、単独で、または担体上に提示された場合に、免疫グロブリンに結合され得る。通常、PCSK9の免疫原性断片は、LDL-Rと相互作用し、それによって、血流中を循環する低密度リポタンパク質(LDL)粒子を調整する能力がある。いくつかの態様において、PCSK9の免疫原性断片は、本開示によるリポカリンムテインによって認識および/または結合されるための完全長リガンドの能力を保持している。例えば、免疫原性断片は、N末端および/またはC末端が短縮されたタンパク質またはペプチドであってよい。
【0015】
様々な態様において、本開示のリポカリンムテインは、検出可能な親和性で、すなわち、少なくとも200nMのK
Dで、ヒト以外の霊長類のPCSK9(例えば、カニクイザルPCSK9もしくはチンパンジーPCSK9)のPCSK9またはその免疫原性断片に結合することができる。いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、約10nM、約1nM、または約0.3nM以下のK
Dで、ヒト以外の霊長類のPCSK9またはその免疫原性断片に結合し得る。様々な態様において、抗原結合部分は、約10nM、約1nM、または約0.5nM以下のK
Dで、マウスPCSK9またはその免疫原性断片に結合する。
【0016】
様々な態様において、1種または複数種の本開示のリポカリンムテインは、検出可能な親和性で、すなわち、少なくとも200nMのK
Dで、ヒトPCSK9またはその免疫原性断片に結合することができる。いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、約10nM、約1nM、約0.1nM、約0.5nM、約0.25nM、約10pM以下であるか、またはさらに小さいK
Dで、ヒトPCSK9またはその免疫原性断片に結合し得る。
【0017】
いくつかのさらなる態様において、ヒトPCSK9またはその免疫原性断片に対する1種または複数種のリポカリンムテインの結合親和性は、K
Dが0.1nM未満のものであることが判明しており、いくつかの態様においては、K
Dが約1ピコモル濃度(pM)以下のものであることが判明している(
図7を参照されたい)。
【0018】
選択された標的、本発明の場合はPCSK9に対するリポカリンムテインの結合親和性は、当業者に公知の多数の方法によって測定することができ、それによって、ムテイン-リガンド複合体のK
D値が決定することができる。このような方法には、蛍光滴定、競合ELISA、等温滴定熱量測定(ITC)のような熱量測定法、および表面プラズモン共鳴(BIAcore)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。このような方法の例は、下記に詳述される(例えば実施例7を参照されたい)。
【0019】
1つの態様において、本開示のリポカリンムテインは、PCSK9のアンタゴニストとして作用し得る。「PCSK9のアンタゴニスト」という用語は、本明細書において使用される場合、PCSK9とLDL-Rの結合の邪魔をする能力がある作用物質を意味する。一部の場合において、PCSK9アンタゴニストは、PCSK9とLDL-Rの結合を全面的にまたは部分的に(partically)阻害する能力に基づいて、同定され得る。
【0020】
さらに、本開示のリポカリンムテインは、PCSK9へのLDL-Rの結合に関して競合的であり得る(実施例7を参照されたい)。
【0021】
さらに、本開示のリポカリンムテインは、SEQ ID NO: 29およびSEQ ID NO: 33を含むモノクローナル抗体のPCSK9への結合に関して競合的であり得る(実施例12を参照されたい)。
【0022】
さらなる態様において、本開示のリポカリンムテインは、PCSK9の媒介によるLDL-Rの下方調節を全面的にまたは部分的に阻害できる場合がある。例えば、PCSK9の媒介によるLDL-Rの下方調節が、本開示のリポカリンムテインに曝露された場合に、対照の存在下またはリポカリンムテインの非存在下でのPCSK9の媒介によるLDL-Rの下方調節と比較して少なくとも約10%弱い、例えば、少なくとも約25%、50%、75%弱いか、または完全に阻害される場合、阻害が起こっている。いくつかのさらに別の態様において、本開示のリポカリンムテインは、PCSK9の媒介によるLDL-Rの下方調節を用量依存的に阻害できる場合がある。いくつかのさらに別の態様において、PCSK9の媒介によるLDL-Rの下方調節の阻害は、実施例13で本質的に説明するHEPG2細胞ベースのアッセイ法において実証され得る。
【0023】
さらに別の態様において、本開示のリポカリンムテインは、PCSK9の存在下でのLDL取込みを回復させることができる場合がある。いくつかのさらなる態様において、PCSK9の存在下でのLDL取込みの回復(restorage)は、実施例11で本質的に説明するHEPG2細胞ベースのアッセイ法において実証され得る。いくつかのさらに別の態様において、アッセイ法を準備するために、HEPG2細胞が一定濃度のhPCSK9(例えば100nM)と共にインキュベートされてよく、次いで、1種または複数種のリポカリンムテインを用いて滴定されてよい。
【0024】
PCSK9を利用して(taken)、ヒト涙液リポカリンの非天然リガンドを定めることができる。「非天然リガンド」という用語は、成熟ヒト涙液リポカリンに生理的条件下で結合しない化合物を意味する。「ヒト涙液リポカリン」という用語は、本明細書において使用される場合、SWISS-PROT Data Bankアクセッション番号P31025のタンパク質に対応する成熟ヒト涙液リポカリンを意味するが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO: 1)は、SWISS-PROTアクセッション番号P31025の配列に含まれているN末端シグナルペプチドは含まない。
【0025】
本開示のムテインのアミノ酸配列は、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO: 1)に対して高い配列同一性を有している。この状況において、本開示のムテインのアミノ酸配列は、成熟ヒト涙液リポカリンのアミノ酸配列に実質的に類似し得る。本開示のリポカリンムテインの各配列は、成熟ヒト涙液リポカリンの配列に実質的に類似しており、様々な態様において、変更された位置または配列が維持されることを条件として、成熟ヒト涙液リポカリンの配列に対して、少なくとも95%の同一性を含む、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも85%、少なくとも87%、または少なくとも90%の同一性を有し得る(例えば、
図10および
図14を参照されたい)。
【0026】
「同一性」とは、類似性または関係の程度を示す、配列の性質を意味する。同一性は、同一残基の数を残基の総数で割り、その結果に100を掛けることによって測定される。2つの例示的な例として、SEQ ID NO: 3のムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンのアミノ酸配列に対して82.28%の配列同一性を有し、SEQ ID NO: 7のムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンに対して83.54%のアミノ酸配列同一性を有している。
【0027】
「ギャップ」とは、アミノ酸の付加または欠失の結果である、アライメント中の隙間である。したがって、まさに同じ配列の2つのコピーは100%の同一性を有するが、それほど高度に保存されておらず、欠失、付加、または置換を有する配列は、同一性の程度が劣る場合がある。当業者は、いくつかのコンピュータープログラム、例えば、Blast(Altschul, et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25, 3389-3402)、Blast2(Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215, 403-410)、およびSmith-Waterman(Smith, et al. (1981) J. Mol. Biol. 147, 195-197)が、標準的なパラメーターを用いて配列同一性を決定するために利用可能であることを認識するであろう。
【0028】
本開示の核酸またはポリペプチドに関連する「変異した」または「ムテイン」という用語は、それぞれ、天然に存在する核酸またはポリペプチドと比較した、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換、欠失、または挿入を意味する。本開示のムテインは、対応するネイティブなヒト涙液リポカリンと比較して少なくとも3つの置換を含む。
【0029】
いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンのムテインは、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO: 1)の直線状ポリペプチド配列の配列位置26〜34、56〜58、80、83、104〜106、および108のいずれか1つにおいて、3個、4個、5個、6個、8個、10個、12個、14個、15個、16個、17個、または18個を含む少なくとも2個の変異したアミノ酸残基を含む。位置26〜34はABループに含まれ、位置56〜58はCDループに含まれる。位置80は、αヘリックス領域に位置する。位置83は、このαヘリックス領域とβシート(βF)の間のループを定めている単一のアミノ酸である。位置104〜106および108は、涙液リポカリンのβバレル構造の開放端の結合部位中のGHループに含まれる。これらの領域の定義は、Flower (Flower, 1996、前記、Flower, et al., 2000、前記)およびBreustedt et al. (2005、前記)に従って本明細書において使用される。
【0030】
いくつかの態様において、本開示によるヒトリポカリンムテインは、セリン残基による位置61および/または位置153のネイティブなシステイン残基のアミノ酸置換をさらに含み得る。この状況において、システイン残基61番および153番によって形成される成熟ヒト涙液リポカリンの(各ネイティブ核酸ライブラリーのレベルでの)構造的ジスルフィド結合が除かれることにより(Breustedt, et al., 2005、前記を参照されたい)、安定にフォールディングされるだけでなくさらに、所与の非天然リガンドに高い親和力で結合することもできるヒト涙液リポカリンムテインが得られることが判明していることが注目される。理論に拘束されることを望むものではないが、構造的ジスルフィド結合の消失により、本開示のムテインに非天然の人工(artifical)ジスルフィド結合を(自発的に)発生させることまたは意図的に導入することが可能になり(実施例を参照されたい)、それによって、例えば、ムテインの安定性が高まるというさらなる利点がもたらされるとも考えられている。しかしながら、PCSK9に結合し、かつCys61とCys153の間で形成されるジスルフィド結合を有するヒト涙液リポカリンムテインもまた、本開示の一部分である。
【0031】
いくつかの態様において、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、アミノ酸置換Cys61→Ala、Phe、Lys、Arg、Thr、Asn、Tyr、Met、Ser、Pro、もしくはTrp、および/またはCys153→SerもしくはAlaを含む。
【0032】
いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、セリン残基による位置101のネイティブなシステイン残基のアミノ酸置換を含む。さらに、いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、プロリン残基による位置111のネイティブなアルギニン残基のアミノ酸置換を含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、トリプトファン残基による位置114のネイティブなリジン残基のアミノ酸置換を含む。
【0033】
いくつかの態様において、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、付加的なアミノ酸置換であってよいArg111→ProおよびLys114→Trpより選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、別のアミノ酸によって置換される、成熟ヒト涙液リポカリンの配列の位置101のシステインをさらに含んでよい。この置換は、例えば、変異Cys101→SerまたはCys101→Proであってよい。
【0034】
いくつかの態様において、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、以下のアミノ酸置換のうちの1つまたは複数を含む:
。
【0035】
いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、以下のアミノ酸置換のうちの少なくとも1つを含む:
。
【0036】
いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、以下のアミノ酸置換のうちの1つまたは複数を含む:
。
【0037】
いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、以下のアミノ酸置換のうちの少なくとも1つを含む:
。
【0038】
いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→Phe;Asn32→Ile;Glu34→Thr;Leu56→Met;Ser58→Ala;およびLys83→Serを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→Trp;Asn32→Leu;Glu34→Thr;Leu56→Ser;およびSer58→Alaを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→His;Asn32→Tyr;Glu34→Thr;Leu56→Ser;Ser58→Arg;およびLys83→Glnを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→Phe;Asn32→Met;Glu34→Thr;Leu56→Gln;Ser58→Ala;およびLys83→Thrを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せAsn32→Trp;Glu34→Arg;Leu56→Asn;Ser58→Trp;およびLys83→Serを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→Phe;Asn32→Leu;Glu34→Thr;Leu56→Phe;Ser58→Ala;およびLys83→Argを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→Thr;Asn32→Trp;Glu34→Asn;Leu56→His;Ser58→Pro;およびLys83→Serを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せAsn32→Trp;Glu34→Asn;Leu56→Phe;Ser58→Arg;およびLys83→Gluを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せArg26→Trp;Asn32→Leu;Glu34→Thr;Leu56→Met;Ser58→Ala;およびLys83→Serを含む。いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の組合せAsn32→Trp;Glu34→Gly;Leu56→Gln;Ser58→Ala;およびLys83→Glnを含む。
【0039】
いくつかの態様において、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、アミノ酸置換の以下のセットのうちの1つを含む:
。
【0040】
特定の態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の以下の組合せを含む:
。さらに別の態様において、ヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、以下のアミノ酸置換のうちの1つまたは複数を含む:
。
【0041】
さらに別の特定の態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、アミノ酸置換の以下の組合せを含む:
。さらに別の態様において、ヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンと比較して、以下のアミノ酸置換のうちの1つまたは複数を含む:
。
【0042】
いくつかのさらなる態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置79、92、および105のいずれか1つにおいて、1つまたは複数の変異したアミノ酸残基を含む。例えば、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、以下のアミノ酸置換を含み得る:Ala79→Met、Thr、もしくはVal、His92→Pro、および/またはLeu105→Ala、Val、Asp、Pro、Arg、Gly、Lys、もしくはHis。
【0043】
上記に定義したように、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO: 1)の直線状ポリペプチド配列の位置26、27、28、30、31、33、34、57、61、80、83、104〜106、および108の配列位置に位置する、少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。いくつかの態様において、本開示のムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンのこれらの配列位置の2つまたはそれ以上、例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、または16個のアミノ酸置換を含む。1つの特定の態様において、ムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列の配列位置26、27、28、30、31、33、53、57、61、64、66、80、83、104〜106、および108のそれぞれにおいて、変異したアミノ酸残基を有している(例えば、
図10および
図14を参照されたい)。
【0044】
また、いくつかの態様において、本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンのアミノ酸配列に対して、成熟ヒト涙液リポカリンのループ領域内の位置のいずれかにおいて、システイン残基によるネイティブアミノ酸残基の1つまたは複数(少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを含む)のアミノ酸置換を含む場合もある。いくつかの態様において、本開示によるムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンのアミノ酸配列に対して、位置28または位置105におけるシステイン残基によるネイティブアミノ酸のアミノ酸置換を含む。
【0045】
本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、残りの領域、すなわち、配列位置26〜34、56〜58、80、83、104〜106、および108と異なる領域において、変異したアミノ酸配列位置以外に野生型(天然)アミノ酸配列を含むことができる。また、いくつかの態様において、本開示によるヒト涙液リポカリンムテインは、変異がムテインの結合活性およびフォールディングを少なくとも本質的に妨げないか、または邪魔をしない限りにおいて、1つの配列位置/複数の配列位置に1つまたは複数のそのようなアミノ酸変異を保有してよい。このような変異は、確立されている標準的方法を用いて、DNAレベルで非常に容易に達成することができる。アミノ酸配列の変更の例示的な例は、挿入または欠失、ならびにアミノ酸置換である。このような置換は保存的であることができ、すなわち、あるアミノ酸残基が、特に大きさだけでなく極性に関しても化学的に特性が類似しているアミノ酸残基で置換される。保存的置換の例は、次のグループのメンバー間の置換である:1)アラニン、セリン、およびトレオニン;2)アスパラギン酸およびグルタミン酸;3)アスパラギンおよびグルタミン;4)アルギニンおよびリジン;5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン。その一方で、アミノ酸配列に非保存的変更を導入することも可能である。さらに、単一のアミノ酸残基を置換する代わりに、涙液リポカリンの一次構造の1つまたは複数の連続的アミノ酸を挿入するかまたは欠失させることもまた、これらの欠失または挿入の結果、安定なフォールディングされた/機能的ムテインが得られる限りにおいて、可能である(例えば、N末端およびC末端が短縮されたムテインを作製する実験セクションを参照されたい)。
【0046】
アミノ酸配列のこのような改変には、特定の制限酵素のための切断部位を組み入れることにより、変異したリポカリン遺伝子またはその一部分のサブクローニングを容易にするための、単一のアミノ酸位置を指定した(directed)変異誘発が含まれる。さらに、これらの変異は、所与の標的に対するリポカリンムテインの親和性をさらに向上させるために組み入れることもできる。さらに、変異は、必要に応じて、ムテインのいくつかの特徴を変化させるため、例えば、フォールディング安定性、血清安定性、タンパク質耐性、もしくは水溶性を向上させるため、または凝集傾向を小さくするために、導入することもできる。例えば、天然に存在するシステイン残基を他のアミノ酸に変異させて、ジスルフィド結合の形成を防ぐことができる。また、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン、ペプチド、もしくはタンパク質などの他の化合物にコンジュゲートさせるため、または天然に存在しないジスルフィド結合を形成させるために、新しい反応性基を導入することを目的として、他のアミノ酸配列位置をシステインに故意に変異させることも可能である。ヒト涙液リポカリンムテインのアミノ酸配列にシステイン残基を導入するためのこのような変異の例示的な実現可能例には、置換Thr40→Cys、Glu73→Cys、Arg90→Cys、Asp95→Cys、およびGlu131→Cysが含まれる。アミノ酸位置40、73、90、95、および/または131のいずれかの側面に生成されたチオール部分は、例えば、各涙液リポカリンムテインの血清半減期を長くするために、ムテインをPEG化またはHES化するのに使用され得る。
【0047】
本開示はまた、成熟ヒト涙液リポカリンの配列の最初の4個のN末端アミノ酸残基 (His-His-Leu-Leu;位置1〜4)および/または成熟ヒト涙液リポカリンの配列の最後の2個のC末端アミノ酸残基(位置157のSerおよび位置158のAsp)が欠失している上記に定義したムテインも包含する(
図10および
図14を参照されたい)。野生型配列の別の実行可能な変異は、PCT公報2005/019256で説明されているように、配列位置5〜7番目のアミノ酸配列(Ala Ser Asp)をGly Gly Aspに変更するものである。
【0048】
本開示のヒト涙液リポカリンムテインは、SEQ ID NO: 3〜28、62〜71、および82に示すアミノ酸配列のいずれか1つまたはその断片もしくは変種を含み得るか、本質的にそれからなり得るか、またはそれからなり得る。
【0049】
「断片」という用語は、本開示のリポカリンムテインに関連して本明細書において使用される場合、N末端および/またはC末端が短くなっている、すなわち、N末端アミノ酸および/またはC末端アミノ酸のうちの少なくとも1つを欠いている、完全長成熟リポカリン由来のタンパク質またはペプチドに関する。このような断片は、成熟リポカリンの一次配列の少なくとも10個、より多く、例えば、20個もしくは30個、またはそれ以上の連続したアミノ酸を含んでよく、通常、成熟リポカリンのイムノアッセイ法において検出可能である。
【0050】
「変種」という用語は、本開示で使用される場合、例えば、置換、欠失、挿入、または化学的改変によるアミノ酸配列の改変を含む、本開示のリポカリンムテインの派生物に関する。いくつかの態様において、このような改変によって、ムテインの機能性が低下することはない。例えば、このような変種を作製するために、本開示のムテインの1つまたは複数のアミノ酸を、それらの各々のD立体異性体によって、または天然に存在する20種のアミノ酸以外のアミノ酸、例えば、オルニチン、ヒドロキシプロリン、シトルリン、ホモセリン、ヒドロキシリジン、ノルバリンによって、置換することができる。しかしながら、このような置換もまた、保存的であることができ、すなわち、あるアミノ酸残基が、化学的に類似しているアミノ酸残基で置換される。保存的置換の例は、次のグループのメンバー間の置換である:1)アラニン、セリン、およびトレオニン;2)アスパラギン酸およびグルタミン酸;3)アスパラギンおよびグルタミン;4)アルギニンおよびリジン;5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン。
【0051】
本開示のリポカリンムテインは、単量体タンパク質として存在し得る。いくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、自発的に二量体化またはオリゴマー化することができる場合がある。安定な単量体を形成するリポカリンムテインの使用は、例えば、拡散がより速く組織浸透が優れていることから、一部の用途において有利である場合がある。他の態様において、安定なホモ二量体または多量体を自発的に形成するリポカリンムテインの使用が有利である場合がある。そのような多量体は、所与の標的に対する(さらに)増大した親和性および/または結合活性を提供できることがその理由である。さらに、リポカリンムテインのオリゴマー型は、より遅い解離速度またはより長い血清半減期を有し得る。安定な単量体を形成するムテインの二量体化または多量体化が望ましい場合、これは、例えば、本開示のムテインにjun-fosドメインもしくはロイシンジッパーなどの各オリゴマー化ドメインを融合させることにより、または「Duocalins」を用いることによって(下記も参照されたい)、実現することができる。
【0052】
本開示による涙液リポカリンムテインは、天然型のヒト涙液リポカリンの変異誘発によって得ることができる。「変異誘発」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト涙液リポカリン(Swiss-ProtデータバンクエントリーP31025)の所与の配列位置に天然に存在するアミノ酸を、各天然ポリペプチド配列においてこの特定の位置に存在しない少なくとも1つのアミノ酸で置換することができるように実験条件を選択することを意味する。また、「変異誘発」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸の欠失または挿入による、配列セグメントの長さの(さらなる)改変も含む。したがって、例えば、選択された配列位置の1つのアミノ酸が一続きの3つのランダムな変異によって置換されて、野生型タンパク質の各セグメントの長さと比べて2つのアミノ酸残基が挿入されることは、本開示の範囲内である。このような挿入または欠失は、本開示の変異誘発に供され得るペプチドセグメントのいずれかに、互いに無関係に導入されてよい。本開示の1つの例示的な態様において、いくつかの変異の挿入が、選択されたリポカリンスキャフォルドのループAB中に導入され得る(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるPCT公報WO 2005/019256を参照されたい)。「ランダム変異誘発」という用語は、前もって決定された単一アミノ酸(変異)が、ある特定の配列位置に存在することはないが、少なくとも2つのアミノ酸が、変異誘発の間に規定の配列位置にある程度の確率で組み入れられ得ることを意味する。
【0053】
ヒト涙液リポカリンのコード配列(Redl, B. et al. (1992) J. Biol. Chem. 267, 20282-20287)は、本開示で選択されるペプチドセグメントの変異誘発のための開始点として使用される。列挙されたアミノ酸位置の変異誘発のために、当業者は、部位特異的変異誘発のための様々な確立された標準的方法を自由裁量で使える。通常使用される技術は、所望の配列位置に縮重塩基組成物を有する合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いたPCR (polymerase chain reaction)による、変異の導入である。例えば、コドンNNKまたはNNS(N=アデニン、グアニン、シトシン、またはチミン;K=グアニンまたはチミン;S=アデニンまたはシトシン)を使用すると、変異誘発の間に20種のアミノ酸すべてに加えてアンバー停止コドンを組み入れることが可能になるのに対し、コドンVVS(V=アデニン、グアニン、またはシトシン)は、ポリペプチド配列の選択位置にアミノ酸Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Valが組み入れられることを不可能にするため、組み入れられる可能性があるアミノ酸の数が12に限定される。例えば、コドンNMS(M=アデニンまたはシトシン)を使用すると、選択された配列位置にアミノ酸Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Valが組み入れられることを不可能にするため、選択された配列位置に存在し得るアミノ酸の数が11に制限される。この点に関して、セレノシステインまたはピロリジンなど(通常の天然に存在する20種のアミノ酸以外の)他のアミノ酸のコドンもまた、ムテインの核酸に組み入れられてよいことが注目される。また、Wang, L., et al. (2001) Science 292, 498-500またはWang, L., and Schultz, P.G. (2002) Chem. Comm. 1, 1-11によって説明されているように、通常とは違う他のアミノ酸、例えばo-メチル-L-チロシンまたはp-アミノフェニルアラニンを挿入するために、停止コドンとして通常は認識されているUAGのような「人工」コドンを使用することも可能である。
【0054】
例えば、イノシン、8-オキソ-2'デオキシグアノシン、または6(2'-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-3,4-ジヒドロ-8H-ピリミンド-1,2-オキサジン-7-オンのように、塩基対の特異性が低減されたヌクレオチド構成単位(building block)を使用することは(Zaccolo et al. (1996) J. Mol. Biol. 255, 589-603)、選択された配列セグメントに変異を導入するための別の選択肢である。
【0055】
別の実行可能な手段は、いわゆるトリプレット変異誘発である。この方法では、コード配列中に組み入れるために、それぞれが1種のアミノ酸をコードする異なるヌクレオチドトリプレットの混合物を使用する(Virnekas B, et al., (1994) Nucleic Acids Res 22, 5600-5607)。
【0056】
各ポリペプチドの選択領域に変異を導入するための1つの実行可能な戦略は、変異させようとする対応する配列セグメントのうちの1つにそれぞれが部分的に由来する4つのオリゴヌクレオチドを使用することに基づく。これらのオリゴヌクレオチドを合成する場合、当業者は、すべての天然アミノ酸をコードするコドンがランダムに現れ、最終的にリポカリンペプチドライブラリーが生じるように、変異させようとするアミノ酸位置に対応するヌクレオチドトリプレットを合成するために核酸構成単位の混合物を使用することができる。例えば、第1のオリゴヌクレオチドは、―変異位置は別として―、その配列が、リポカリンポリペプチドの一番N末端の位置の変異させようとするペプチドセグメントのコード鎖に対応する。したがって、第2のオリゴヌクレオチドは、ポリペプチド配列中で次に来る2番目の配列セグメントの非コード鎖に対応する。そして次に、第3のオリゴヌクレオチドは、対応する3番目の配列セグメントのコード鎖に対応する。最後に、第4のオリゴヌクレオチドは、4番目の配列セグメントの非コード鎖に対応する。ポリメラーゼ連鎖反応は、各々の第1のオリゴヌクレオチドおよび第2のオリゴヌクレオチドを用いて、および必要な場合には別々に、各々の第3のオリゴヌクレオチドおよび第4のオリゴヌクレオチドを用いて、実施することができる。
【0057】
これらの両方の反応の増幅産物を様々な公知の方法によって結合して、1番目の配列セグメントから4番目の配列セグメントまでの配列を含み選択位置に変異が導入されている単一の核酸にすることができる。このために、両方の産物を、例えば、隣接するオリゴヌクレオチドならびに2番目の配列セグメントと3番目の配列セグメントの間の配列を与える1つまたは複数のメディエーター核酸分子を用いた新たなポリメラーゼ連鎖反応に供することができる。変異誘発のために使用されるオリゴヌクレオチドの数および配列内での配置を選択するにあたって、当業者は、多数の代替手段を自由裁量で使える。
【0058】
上記に定義した核酸分子は、リポカリンポリペプチドをコードする核酸の欠損している5'配列および3'配列ならびに/またはベクターを用いたライゲーションによって連結することができ、公知の宿主生物においてクローニングすることができる。ライゲーションおよびクローニングには、多数の確立された手順が利用可能である。例えば、クローニングベクターの配列中にも存在する制限エンドヌクレアーゼの認識配列を、合成オリゴヌクレオチドの配列中に人工的に作り出すことができる。したがって、各PCR産物の増幅および酵素的切断の後、結果として生じる断片は、対応する認識配列を用いて容易にクローニングすることができる。
【0059】
変異誘発のために選択された、タンパク質をコードする遺伝子内のより長い配列セグメントもまた、公知の方法によって、例えば、エラー率が高められた条件下でのポリメラーゼ連鎖反応を用いて、化学変異誘発によって、または細菌のミューテーター株を用いることにより、ランダムな変異誘発に供することができる。このような方法は、リポカリンムテインの標的親和性または標的特異性をさらに最適化するためにも使用され得る。実験による変異誘発のセグメント外で起こる可能性がある変異は、許容されることが多いか、または有利であることが判明する場合さえあり、例えば、それらの変異がリポカリンムテインのフォールディング効率またはフォールディング安定性の改善に寄与する場合がそうである。
【0060】
本開示による例示的な方法において、ヒト涙液リポカリンムテインをコードする核酸分子は、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO: 1)の直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置26〜34、56〜58、80、83、104〜106、および108のうちの1つまたは複数における変異誘発に供される。いくつかの態様において、核酸分子は、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置61、101、111、114、および153のうちの1つまたは複数における変異誘発にさらに供される。
【0061】
本開示の1つの態様において、ヒト涙液リポカリンのムテインを作製するための方法は、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置26〜34、56〜58、80、83、104〜106、および108のいずれかのコドンのうちの少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、8個、10個、12個、14個、15個、16個、または17個を変異させる段階を含む。1つの態様において、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置26、27、28、29、30、31、32、33、34、56、57、58、80、83、104、105、106、および108のコドン18個すべてを、変異させる。
【0062】
本開示のさらなる態様において、本開示による方法は、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO: 1)の直線状ポリペプチド配列中の位置61および153のシステインをコードするコドンの両方の変異を含む。1つの態様において、位置61は、ありうる例をほんの少し挙げると、アラニン残基、フェニルアラニン残基、リジン残基、アルギニン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、チロシン残基、メチオニン残基、セリン残基、プロリン残基、またはトリプトファン残基をコードするように変異させられる。位置153が変異している態様においては、セリンまたはアラニンなどのアミノ酸が、位置153に導入され得る。
【0063】
本明細書において説明する本開示の別の態様において、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置111および/または114をコードするコドンは、例えば、位置111でアルギニンを、位置114でトリプトファンをコードするように変異させられる。
【0064】
本開示の方法の別の態様は、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列の位置101のシステインをコードするコドンの変異誘発を伴い、その結果、このコドンは他の任意のアミノ酸をコードする。1つの態様において、位置101をコードする変異コドンは、セリンをコードする。したがって、いくつかの態様において、位置61、101、および153のシステインコドンの2つまたは3つすべてが、別のアミノ酸のコドンで置換されている。
【0065】
本開示の方法によれば、ヒト涙液リポカリンをコードする核酸分子から開始してリポカリンムテインが得られる。このような核酸分子は、変異誘発に供され、組換えDNA技術を用いて適切な細菌宿主生物または真核性宿主生物中に導入される。リポカリンムテインの核酸ライブラリーの獲得は、抗体に似た特性を有するリポカリンムテイン、すなわち所与の標的に対する親和性を有するムテインを作製するための当技術分野において公知である任意の適切な技術を用いて成し遂げることができる。このような組合せ方法の例は、例えば、PCT公報WO 99/16873、WO 00/75308、WO 03/029471、WO 03/029462、WO 03/029463、WO 2005/019254、WO 2005/019255、WO 2005/019256、またはWO 2006/56464において詳細に説明されている。これらの各特許出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。適切な宿主中で変異誘発に供された核酸配列の発現後、所与の標的に結合する複数の各リポカリンムテインに関する遺伝子情報を有するクローンを、得られたライブラリーより選択することができる。これらのクローンを選択するために、周知の技術、例えば、ファージディスプレイ法(Kay, B.K. et al. (1996) 前記; Lowman, H.B. (1997) 前記、またはRodi, D.J., and Makowski, L. (1999) 前記において概説されている)、コロニースクリーニング(Pini, A. et al. (2002) Comb. Chem. High Throughput Screen. 5, 503-510において概説されている)、リボソームディスプレイ(Amstutz, P. et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12, 400-405において概説されている)、もしくはWilson, D.S. et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 3750-3755において報告されているmRNAディスプレイ、またはWO 99/16873、WO 00/75308、WO 03/029471、WO 03/029462、WO 03/029463、WO 2005/019254、WO 2005/019255、WO 2005/019256、もしくはWO 2006/56464において具体的に説明されている方法を使用することができる。
【0066】
結果として生じた、1種または複数種の本開示のリポカリンムテインをコードする核酸分子は、任意の適切な発現系を用いて発現させることができる。得られた1種または複数種のリポカリンムテインを、さらに選択することができる。この選択は、例えば、競合的条件下で実施され得る。本明細書において使用される場合、競合的条件とは、リポカリンムテインと野生型リポカリンの所与の非天然リガンドとが、そのような非天然リガンドへのムテインの結合と競合する付加的なリガンドの存在下で接触させられる少なくとも1つの段階を、リポカリンムテインの選択が含むことを意味する。この付加的なリガンドは、標的の生理学的リガンド、過剰な標的それ自体、または本開示のムテインによって認識されるエピトープに少なくとも1つの重複するエピトープを結合させ、したがって、ムテインの標的結合の邪魔をする、標的の他の任意の非生理学的リガンドであってよい。あるいは、付加的なリガンドは、アロステリック効果によって、標的に対するムテインの結合部位とは異なるエピトープと複合体を形成することによって、ムテインの結合と競合する。
【0067】
溶原性ファージM13を用いたファージディスプレイ技術(Kay, B.K. et al. (1996)、前記; Lowman, H. B. (1997) 前記、またはRodi, D.J., & Makowski, L. (1999)、前記において概説されている)の態様は、本開示で使用され得る選択方法の例として与えられる。本開示のムテインの選択のために使用され得るファージディスプレイ技術の別の態様は、Brodersら(Broders et al. (2003) "Hyperphage. Improving antibody presentation in phage display." Methods Mol. Biol. 205:295-302)によって説明されているハイパーファージを用いたファージ技術である。f1のような他の溶原性ファージまたはT7のような溶菌性ファージも、同様に使用され得る。例示的な選択方法の場合、OmpAシグナル配列のようなシグナル配列をN末端に有し、ファージM13のキャプシドタンパク質pIIIまたはファージのキャプシド中に組み入れられることができるその断片をC末端に有する融合物として変異リポカリン核酸配列を発現することを可能にするM13ファージミドが作製される。野生型配列のアミノ酸217〜406を含むファージキャプシドタンパク質のC末端断片ΔpIIIが、これらの融合タンパク質を作製するのに使用され得る。1つの態様において、位置201のシステイン残基がなくなっているか、または別のアミノ酸で置換されている、pIIIのC末端断片が使用される。
【0068】
したがって、本開示の方法のさらなる態様は、所与のリガンドの結合に関して少なくとも1つのムテインを選択するために、1つまたは複数のリポカリンムテインをコードし、かつ3'末端の変異誘発の結果として生じる核酸分子を、M13ファミリーの糸状ファージのコートタンパク質pIIIまたはこのコートタンパク質の断片をコードする遺伝子と機能的に融合させる段階を含む。
【0069】
融合タンパク質は、融合タンパク質またはその一部分の固定、検出、および/または精製を可能にする、アフィニティータグのような追加の構成要素を含んでよい。さらに、リポカリンまたはそのムテインをコードする配列領域とファージキャプシド遺伝子またはその断片との間に停止コドンを配置することもでき、その際、この停止コドン、例えば、アンバー停止コドンは、適切なサプレッサー株において翻訳中にアミノ酸に少なくとも部分的に翻訳される。
【0070】
例えば、pTlc27とも呼ばれるファスミド(phasmid)ベクターpTLPC27(例えば、PCT公報WO 2008/015239の
図20およびSEQ ID NO: 9を参照されたい)が、ヒト涙液リポカリンムテインをコードするファージミドライブラリーの調製のために使用され得る。涙液リポカリンムテインをコードする本発明の核酸分子は、2つのBstXI制限部位を用いてベクターに挿入され得る。ライゲーション後、結果として生じる核酸混合物を用いて、大腸菌(E. coli)XL1-Blueのような適切な宿主株を形質転換して、多数の独立したクローンを得る。所望の場合は、ハイパーファージミドライブラリーの調製のために各ベクターを作製することができる。
【0071】
続いて、得られたライブラリーを、機能的ファージミドを産生させるために、液体培養で適切なM13ヘルパーファージまたはハイパーファージに重感染させる。この組換えファージミドは、コートタンパク質pIIIまたはその断片との融合物としてリポカリンムテインをその表面に提示するが、融合タンパク質のN末端シグナル配列は通常、切断除去される。その一方で、この組換えファージミドは、ヘルパーファージによって供給されるネイティブなキャプシドタンパク質pIIIの1つまたは複数のコピーも有し、したがって、受容者、一般にはFプラスミドまたはF'プラスミドを有する細菌株に感染することができる。ハイパーファージディスプレイの場合、ハイパーファージミドは、感染性のコートタンパク質pIIIを有するがネイティブなキャプシドタンパク質は有していない融合物として、リポカリンムテインをその表面に提示する。ヘルパーファージまたはハイパーファージの感染中または感染後に、リポカリンムテインとキャプシドタンパク質pIIIの融合タンパク質の遺伝子発現を、例えば、アンヒドロテトラサイクリンの添加によって誘導することができる。誘導条件は、得られるファージミドのかなりの割合が、少なくとも1つのリポカリンムテインをその表面に提示するように選ばれる。ハイパーファージディスプレイの場合、誘導条件の結果、リポカリンムテインおよびキャプシドタンパク質pIIIからなる3〜5個の間の融合タンパク質を有するハイパーファージミドの集団が得られる。ポリエチレングリコールを用いた沈殿のような様々な方法が、ファージミドを単離するために公知である。典型的には、単離は、6〜8時間のインキュベーション期間後に行われる。
【0072】
次いで、単離されたファスミドは、所望の標的とのインキュベーションによる選択に供されてよく、その際、標的は、所望の結合活性を有するムテインを外被中に融合タンパク質として保有するファージミドを少なくとも一時的に固定することを可能にする形態で与えられる。当業者に公知の様々な態様のうちで、標的は、例えば、血清アルブミンのような担体タンパク質とコンジュゲートされ、この担体タンパク質を介してタンパク質結合表面、例えばポリスチレンに結合され得る。例えば、ELISA技術に適するマイクロタイタープレートまたはいわゆる「イムノスティック」が、標的のそのような固定のために使用され得る。あるいは、標的とビオチンのような他の結合基とのコンジュゲートも使用され得る。その場合、標的は、この基に選択的に結合する表面、例えば、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、またはアビジンでコーティングされたマイクロタイタープレートまたは常磁性粒子に固定され得る。標的が免疫グロブリンのFc部分に融合される場合、固定はまた、プロテインAまたはプロテインGでコーティングされた表面、例えば、マイクロタイタープレートまたは常磁性粒子を用いて実現され得る。
【0073】
表面に存在する非特異的なファージミド結合部位は、ELISA法に関して公知であるブロッキング溶液を用いてふさぐ(saturate)ことができる。次に、典型的には、ファージミドは、生理学的緩衝液の存在下で、表面に固定された標的と接触させられる。多数回洗浄することによって、未結合のファージミドが除去される。次いで、表面に留まっているファージミド粒子が溶出される。溶出のために、いくつかの方法が実施可能である。例えば、ファージミドは、プロテアーゼの添加によって、または酸、塩基、界面活性剤、もしくはカオトロピック塩の存在下で、または中程度の変性条件下で、溶出させることができる。1つのこのような方法は、pH2.2の緩衝液を用いた溶出であり、続いて溶出液が中和される。あるいは、ファージミドへの結合に関して固定標的と競合させるために、遊離標的の溶液を添加してもよく、または関心対象の標的に特異的に結合する免疫グロブリンまたは天然のリガンド結合(liganding)タンパク質との競合によって、標的特異的ファージミドを溶出させてもよい。
【0074】
その後、大腸菌細胞を、溶出されたファージミドに感染させる。あるいは、溶出されたファージミドから核酸配列を抽出し、別の様式での配列解析、増幅、または細胞形質転換のために使用することもできる。このようにして得られた大腸菌クローンから開始して、前述の方法に従うM13ヘルパーファージまたはハイパーファージの重感染によって、新しいファージミドまたはハイパーファージミドを再び産生させ、このようにして増幅したファージミドを、固定標的上での選択にもう一度供する。最適な形態の本開示のリポカリンムテインを有するファージミドを得るために、多数回の選択サイクルがしばしば必要である。いくつかの態様において、選択サイクルの数は、その後の機能解析において、調査したクローンの少なくとも0.1%が、所与の標的に対して検出可能な親和性を有するムテインを産生するような仕方で選ばれる。使用されるライブラリーの大きさ、すなわち複雑さによって、典型的には、2〜8サイクルがこのために必要とされる。
【0075】
選択されたムテインの機能解析のために、選択サイクルから得られたファージミドに大腸菌株を感染させ、対応する二本鎖ファスミドDNAを単離する。このファスミドDNAから開始して、またはファージミドから抽出された一本鎖DNAから同様に開始して、当技術分野において公知の方法により、本開示の選択されたムテインの核酸配列を決定することができ、アミノ酸配列をそれから導き出すことができる。完全なリポカリンムテインの変異領域または配列を、別の発現ベクターにサブクローニングし、適切な宿主生物中で発現させることができる。例えば、pTlc26とも呼ばれるベクターpTLPC26(
図9の説明で言及される)が、大腸菌TG1のような大腸菌株における発現のために使用され得る。このようにして作製されたリポカリンムテインは、様々な生化学的方法によって精製され得る。例えばpTlc26を用いて作製されたリポカリンムテインは、例えばそのC末端にアフィニティーペプチド、いわゆるアフィニティータグを保有してよく、したがって、アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。アフィニティータグの例には、ビオチン、Strepタグ、StrepタグII(Schmidt et al.、前記)、オリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、またはカルモジュリン結合ペプチド(CBP)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0076】
一部のアフィニティータグは、ハプテン、例えば、限定されるわけではないが、ジニトロフェノールおよびジゴキシゲニンである。一部のアフィニティータグは、エピトープタグ、例えば、FLAG(登録商標)ペプチド
、T7エピトープ
、マルトース結合タンパク質(MBP)、単純ヘルペスウイルス糖タンパク質Dの配列
を有するHSVエピトープ、配列
のヘマグルチニン(HA)エピトープ、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質のVSV-Gエピトープ
、配列
のEエピトープタグ、配列
のE2エピトープタグ、配列
を有する、哺乳動物MAPK/ERKキナーゼのC末端のTag-100エピトープタグ、配列
のSタグ、配列
の転写因子c-mycの「myc」エピトープ、およびパラミクソウイルスのサルウイルス5のPプロテインおよびVプロテイン上に存在する小型V5エピトープ
である。さらに、ただし通常は単一のタグとしてではないが、NusA、チオレドキシン (TRX)、低分子ユビキチン様修飾因子(SUMO)、およびユビキチン(Ub)などの溶解性を高めるタグも使用され得る。ハプテンおよびエピトープタグは、結合相手としての対応する抗体または抗体に似たタンパク質性分子と組み合わせて使用され得る。配列
のSペプチドエピトープは、それぞれの抗体と共に、または結合相手としてのSプロテインと組み合わせて、エピトープタグとして使用され得る(Hackbarth, JS, et al., BioTechniques (2004) 37, 5, 835-839)。
【0077】
また、選択は、他の方法を用いても実施することができる。多くの対応する態様が当業者に公知であるか、または文献で説明されている。さらに、方法の組合せも利用され得る。例えば、「ファージディスプレイ」によって選択されるか、または少なくとも濃縮されたクローンが、「コロニースクリーニング」にさらに供されてもよい。この手順には、標的に対して検出可能な結合親和性を有するリポカリンムテインの作製に関して、個々のクローンを直接的に単離することができるという利点がある。
【0078】
「ファージディスプレイ」技術または「コロニースクリーニング」法において宿主生物として大腸菌を使用することに加えて、他の細菌株、酵母、または同様に昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞が、この目的のために使用され得る。スクリーニングサイクルを繰り返した後に、標的に対して何らかの結合活性を既に有しているムテインを標的に対する親和性または特異性に関して最適化するために、限定的変異誘発を含む発展的(evolutive)方法もまた、前述のランダムなライブラリーからのリポカリンムテイン選択にさらに適用することができる。
【0079】
複合体形成が、結合相手の濃度、競合相手の存在、緩衝液系のイオン強度などの多くの因子に依存することが、当業者には容易に明らかになる。通常、選択および濃縮(enrichment)は、所望の標的との複合体の状態で解離定数が少なくとも200nMであるリポカリンムテインの単離を可能にする条件下で実施される。しかしながら、洗浄段階および溶出段階は、様々なストリンジェンシーのもとで実施することができる。動態学的特徴に関する選択も、同様に実施可能である。例えば、選択は、標的と、標的からの遅い解離または言い換えると遅いk
off速度を示すムテインとの複合体形成を促進する条件下で実施され得る。あるいは、選択は、ムテインと標的との複合体の速い形成、または言い換えると速いk
on速度を促進する条件下でも実施され得る。さらなる例示的な代替方法として、スクリーニングは、(野生型リポカリンまたは予め選択された標的に対する親和性を既に有しているムテインのいずれかと比べて)、向上したムテインの熱安定性に基づいて選択する条件下で実施され得る。
【0080】
所与の標的に対する親和性を有するリポカリンムテインを選択した後で、親和性がさらに高い変種または特性が改善された変種、例えば、より高い熱安定性; 向上した血清安定性; 熱力学的安定性; 向上した溶解性; 改善された単量体挙動; 熱変性、化学的変性、タンパク分解、もしくは界面活性剤に対する耐性の向上などを示す変種を続いて選択するために、そのようなムテインを別の変異誘発に供することも、さらに可能である。より高い親和性を目標とする場合はインビトロの「親和性成熟」とみなされ得るこのさらなる変異誘発は、合理的設計またはランダム変異に基づく部位特異的変異によって達成することができる。より高い親和性または改善された特性を得るための別の実行可能なアプローチは、誤りがちなPCRの使用であり、これは、リポカリンムテインの配列位置の選択した範囲において点変異をもたらす。誤りがちなPCRは、Zaccolo et al. (1996) J. Mol. Biol. 255, 589-603によって説明されているもののような任意の公知のプロトコルに従って実施することができる。このような目的に適しているランダム変異誘発の他の方法には、Murakami, H et al. (2002) Nat.Biotechnol. 20, 76-81によって説明されているランダム挿入/欠失(RID)変異誘発またはBittker, J. A et al. (2002) Nat. Biotechnol. 20,1024-1029によって説明されている非相同的ランダム組換え (NRR)が含まれる。所望の場合は、ジゴキシゲニンに対して高い親和性を有するビリン結合タンパク質のムテインが獲得されたWO 00/75308またはSchlehuber, S. et al. (2000) J. Mol. Biol. 297, 1105-1120において説明されている手順に従って、親和性成熟を実施することもできる。
【0081】
この点に関して、親和性のK
D値(各ムテインとそのリガンドとの間で形成された複合体の解離定数)は、所与のリガンドに対する特定のリポカリンムテインの親和性を測定するのに使用される方法および実験設定によって、一定の実験範囲内で変動し得ることは、当業者には明らかである。これは、例えば、K
D値が表面プラズモン共鳴(Biacore)により測定されたか、または競合ELISAにより測定されたかによって、K
D測定値のわずかなずれまたは許容誤差範囲が存在し得ることを意味する。
【0082】
また、各ムテインが潜在的な免疫原性に関して変更または改変された上記ムテインの形態も、本開示の範囲に含まれる。
【0083】
細胞障害性T細胞は、クラスI主要組織適合性複合体(MHC)分子と結合した、抗原提示細胞の細胞表面のペプチド抗原を認識する。ペプチドがMHC分子に結合する能力は、対立遺伝子特異的であり、それらの免疫原性と相互に関係している。所与のタンパク質の免疫原性を低下させるために、あるタンパク質中のどのペプチドが所与のMHC分子に結合する潜在能力を有しているかを予測できることは、大いに価値がある。潜在的なT細胞エピトープを同定するためにコンピューターによるスレッディングアプローチを使用するアプローチは、MHCクラスI分子への所与のペプチド配列の結合を予測するために以前に説明されている(Altuvia et al. (1995) J. Mol. Biol. 249, 244-250)。
【0084】
また、このようなアプローチは、本開示のムテイン中の潜在的なT細胞エピトープを同定するため、および意図される用途に応じて、予測される免疫原性に基づいて特定のムテインを選択するためにも利用され得る。T細胞エピトープを含むと予測されたペプチド領域をさらなる変異誘発に供してこれらのT細胞エピトープを減少させるか、もしくは消失させ、したがって免疫原性を最小限にすることがさらに可能である場合がある。遺伝子操作された抗体からの両親媒性エピトープの除去が説明されており(Mateo et al. (2000) Hybridoma 19, 6, 463-471)、本開示のムテイン向けに適応させることができる。
【0085】
このようにして得られたムテインは、後述するもののような治療用途および診断用途において使用するために望ましい最小限に抑えられた免疫原性を有することができる。
【0086】
本明細書において開示するリポカリンムテインのいくつかの用途のために、本発明のリポカリンムテインは、例えばN末端またはC末端においてある部分に融合されてよく、この部分は、タンパク質、タンパク質ドメイン、またはシグナル配列および/もしくはアフィニティータグなどのペプチドであってよい。
【0087】
Strepタグ(登録商標)もしくはStrepタグ(登録商標)II(Schmidt, T.G.M. et al. (1996) J. Mol. Biol. 255, 753-766)、mycタグ、FLAGタグ、His6タグ、もしくはHAタグなどのアフィニティータグ、または組換えタンパク質の容易な検出および/もしくは精製を同じく可能にするグルタチオン-S-トランスフェラーゼのようなタンパク質は、適切な融合相手のさらなる例である。最後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)または黄色蛍光タンパク質(YFP)などの発色特性または蛍光特性を有するタンパク質も、同様に本開示のリポカリンムテインにとって適切な融合相手である。例えば、下記の実施例で説明する実験で使用される場合、本明細書において開示するリポカリンムテインは、アミノ酸10個(SAWSHPQFEK)からなるStrepタグ(登録商標)II精製タグ(IBA GmbH)をC末端に有する。
【0088】
一部の用途の場合、標識された形態の本開示のムテインを使用することも有用である。したがって、本開示は、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属複合体、金属、およびコロイド金からなる群より選択される標識部分にコンジュゲートされたリポカリンムテインも対象としている。また、ムテインは、低分子量の有機化合物にコンジュゲートされてもよい。「低分子量有機化合物」という用語は、本明細書において使用される場合、脂肪族部分、脂環式部分、および/または芳香族部分を有し得る炭素系単量体化合物を意味する。典型的な態様において、低分子量有機化合物は、少なくとも2つの炭素原子、いくつかの態様においては、7個または12個以下の回転可能な炭素結合からなる主鎖を有する有機化合物である。このような化合物は、約100〜約2000ダルトン、例えば約100〜約1000ダルトンの範囲の分子量を有する。この化合物は、1つまたは2つの金属原子を任意で含んでもよい。
【0089】
一般に、化学反応、物理反応、光学的反応、または酵素反応において検出可能な化合物またはシグナルを直接的にまたは間接的に生じる任意の適切な化学物質または酵素でリポカリンムテインを標識することが可能である。物理的反応および同時に光学的反応/マーカーの例は、放射性標識を用いる場合にX線を照射または放射された際の蛍光発光である。アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、およびβ-ガラクトシターゼは、発色性反応生成物の形成を触媒する酵素標識(同時に光学的標識)の例である。一般に、抗体に対して通常使用される標識すべて(免疫グロブリンのFc部分の糖部分と共にもっぱら使用されるものを除く)もまた、本開示のムテインにコンジュゲートさせるために使用され得る。本開示のムテインはまた、例えば、任意の適切な治療活性を有する作用物質を所与の細胞、組織、もしくは器官に狙いを定めて送達するため、または周囲の正常細胞に影響を及ぼさずに細胞、例えば腫瘍細胞を選択的に標的とするために、そのような作用物質とコンジュゲートさせることもできる。このような治療活性を有する作用物質の例には、放射性核種、毒素、有機低分子、および治療用ペプチド(例えば、細胞表面受容体のアゴニスト/アンタゴニストとして作用するペプチドまたは所与の細胞標的上のタンパク質結合部位を得るために競合するペプチド)が含まれる。しかしながら、本開示のリポカリンムテインはまた、アンチセンス核酸分子、低分子干渉RNA、マイクロRNA、またはリボザイムなどの治療活性を有する核酸分子とコンジュゲートさせることもできる。このようなコンジュゲートは、当技術分野において周知の方法によって作製することができる。
【0090】
また、1つの態様において、本開示のムテインは、開示される本発明のムテインをある対象の所望の身体領域、生物、組織、器官、または細胞に送達するために、そのような対象の内部の特定の身体領域、生物、組織、器官、または細胞を標的とすることができる部分に結合されてもよい。このような改変が望ましい場合がある1つの例は、血液脳関門の通過である。血液脳関門を通過するために、本開示のムテインは、この関門を通過する能動輸送を容易にする部分に結合されてよい(Gaillard PJ, et al. , Diphtheria-toxin receptor-targeted brain drug delivery. International Congress Series, 2005 1277, 185-198またはGaillard PJ, et al. Targeted delivery across the blood-brain barrier. Expert Opin Drug Deliv. 2005 2, 299-309を参照されたい)。このような部分は、例えば、商品名 2B-Trans(商標)(to-BBB technologies BV, Leiden, NL)のものが利用可能である。
【0091】
先に示したように、いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、ムテインの血清半減期を延ばすことができる部分にコンジュゲートされてよい(この点に関して、このようなコンジュゲーション戦略が、CTLA-4に対する結合親和性を有するヒト好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリンのムテインに関して説明されているPCT公報WO 2006/56464も参照されたい)。本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」または「コンジュゲーション」という用語は、ある部分が化学物質、例えば架橋剤、またはある部分をアミノ酸の側鎖に連結する作用物質などを介してリポカリンムテインに連結されることを含む。また、前記用語は、本明細書において使用される場合、例えば、半減期を延ばす部分を翻訳によってリポカリンムテインに融合することにより、共有結合を形成することによってある部分をリポカリンムテインのいずれかの末端に遺伝学的に融合させることを含むと理解される。当業者は、前記用語が使用されている文脈から、化学物質がコンジュゲーションのために使用されているのかどうか、または遺伝子工学によって達成される翻訳融合が意味されているのかどうかを理解するであろう。血清半減期を延ばす部分は、ほんの少し挙げると、ポリアルキレングリコール分子、ヒドロキシエチルデンプン、パルミチン酸のような脂肪酸分子(Vajo & Duckworth (2000) Pharmacol. Rev. 52, 1-9)、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミンもしくはその断片、アルブミン結合ペプチド、またはアルブミン結合タンパク質、トランスフェリンであってよい。アルブミン結合タンパク質は、細菌アルブミン結合タンパク質、アルブミン結合ペプチド、操作されたアルブミン結合ポリペプチド、抗体、ドメイン抗体を含む抗体断片(例えば、米国特許第6,696,245号を参照されたい)、またはアルブミンに対する結合活性を有するリポカリンムテインであってよい。したがって、本開示のリポカリンムテインの半減期を延ばすための適切なコンジュゲーション相手には、アルブミン(Osborn, B.L. et al. (2002) J. Pharmacol. Exp. Ther. 303, 540-548)、またはアルブミン結合タンパク質、例えば、連鎖球菌プロテインGの1種のような細菌アルブミン結合ドメイン(Konig, T., & Skerra, A. (1998) J. Immunol. Methods 218, 73-83)が含まれる。コンジュゲーション相手として使用され得るアルブミン結合ペプチドの例は、例えば、Cys-Xaa
1-Xaa
2-Xaa
3-Xaa
4-Cysコンセンサス配列を有するものである(米国特許出願第2003/0069395号またはDennis et al. (Dennis, M. S., Zhang, M., Meng, Y. G., Kadkhodayan, M., Kirchhofer, D., Combs, D. & Damico, L. A. (2002) J. Biol. Chem. 277, 35035-35043)において説明されているように、Xaa
1はAsp、Asn、Ser、Thr、またはTrpであり;Xaa
2 はAsn、Gln、His、Ile、Leu、またはLysであり;Xaa
3 は Ala、Asp、Phe、Trp、またはTyrであり;Xaa
4 はAsp、Gly、Leu、Phe、Ser、またはThrである)。
【0092】
連鎖球菌プロテインG(SpG)は、連鎖球菌のある種の株の表面に存在する二機能性受容体であり、IgGと血清アルブミンの両方に結合することができる(Bjorck et al, Mol Immunol 24:1 1 13, 1987)。その構造は、繰り返しが非常に多く、構造的かつ機能的に異なるいくつかのドメインを有しており(Guss et al, EMBO J 5:1567, 1986)、より正確には、3つのIg結合ドメインおよび3つの血清アルブミン結合ドメインを有している(Olsson et al, Eur J Biochem 168:319, 1987)。3ヘリックスバンドルフォールドを示している、SpG中のこれら3つの血清アルブミン結合ドメインのうちの1つの構造が決定された(Kraulis et al, FEBS Lett 378:190, 1996, Johansson et al, J. Biol. Chem. 277:81 14-20, 2002)。46 アミノ酸のモチーフはABD(albumin binding domain)と定義され、その後、G148-GA3(プロテインGに関連するアルブミン結合のためのGA)とも呼ばれた。例えば、PCT公報WO 2009/016043において、46アミノ酸のモチーフABDのアルブミン結合変種が開示されている。
【0093】
また、プロテインG中のもの以外の細菌アルブミン結合ドメインも同定されており、これらの一部は、プロテインGのものと構造が類似している。このようなアルブミン結合ドメインを含むタンパク質の例は、PABタンパク質、PPLタンパク質、MAGタンパク質、およびZAGタンパク質である(Rozak et al, Biochemistry 45:3263- 3271 , 2006)。このようなアルブミン結合ドメインの構造および機能の研究は、例えばJohanssonおよび共同研究者によって実施され報告された(Johansson et al, J Mol Biol 266:859-865, 1997)。さらに、Rozakらは、G148-GA3の人工変種の作製について報告し、これらの人工変種は異なる種特異性および安定性に関して選択され研究され(Rozak et al, Biochemistry 45:3263-3271, 2006)、一方、Jonssonらは、ヒト血清アルブミンに対する親和性が非常に大きく向上したG148-GA3人工変種を開発した(Jonsson et al, Prot Eng Des Sel 21:515-27, 2008)。これらの変種の一部では、熱安定性の低下という代償を払って、より高い親和性が達成された。
【0094】
前述の3ヘリックスを含むタンパク質に加えて、アルブミンに結合する他の無関係の細菌タンパク質も存在する。
【0095】
最近、連鎖球菌株148プロテインG(G148)のアルブミン結合領域内で、少数のT細胞エピトープおよびB細胞エピトープが実験によって確認された(Goetsch et al, Clin Diagn Lab Immunol 10:125-32, 2003)。この研究の著者らは、G148のT細胞エピトープをワクチンに利用することに、すなわち、アルブミン結合領域の固有の免疫刺激特性を利用することに関心があった。Goetschらはさらに、G148の配列中に、B細胞エピトープ、すなわち免疫化後に抗体が結合する領域も発見した。
【0096】
しかしながら、ヒト投与向けの薬学的組成物では、免疫応答がないことが望ましい。したがって、アルブミン結合ドメインG148は、前述の免疫刺激特性が原因でそのような組成物中で使用するのにそれ自体では不適切である。このような欠点および欠陥は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるPCT公報WO 2012/004384において開示されている操作されたアルブミン結合ポリペプチドによって、克服されるかまたは改善される。
【0097】
この点に関して、本開示のリポカリンムテインは、1つまたは複数のペプチド結合リンカー、例えば非限定的な例としてGGGおよびKLGGGGなどを介して、ヒト血清アルブミン(「HSA」)に結合するアルブミン結合タンパク質にコンジュゲートさせることができる。いくつかの態様において、このようなアルブミン結合タンパク質は、連鎖球菌株148プロテインG (G148)のようなアルブミン結合ドメインであってよい。いくつかの他の態様において、アルブミン結合タンパク質は、操作されたアルブミン結合ポリペプチドであってよい。例えば、アルブミン結合ポリペプチドは、SEQ ID NO: 85を含むアミノ酸配列を有してよい。したがって、いくつかの態様において、SEQ ID NO: 85のアルブミン結合ポリペプチドは、いずれかの末端に結合された付加的なアミノ酸残基、例えば、3アミノ酸KLNを有してよい。この点に関して、本発明の開示は、SEQ ID NO: 83〜84のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含む、例示的なコンジュゲートされたリポカリンムテインを提供する。
【0098】
他の態様において、アルブミンそれ自体またはアルブミンの生物学的活性断片は、本開示のリポカリンムテインのコンジュゲーション相手として使用され得る。「アルブミン」という用語は、ヒト血清アルブミン(「HSA」)またはウシ血清アルブミンもしくはラットアルブミンなどの哺乳動物アルブミンすべてを含む。アルブミンまたはその断片は、米国特許第5,728,553号または欧州特許出願EP0330451およびEP0361991において説明されているように組換えによって作製することができる。代表的な例として、組換えヒトアルブミン(Recombumin(登録商標)) Novozymes Delta Ltd. (Nottingham, UK)が、ムテインの半減期を延ばすためにリポカリンムテインにコンジュゲートまたは融合され得る。
【0099】
アルブミン結合タンパク質が抗体断片である場合、それはドメイン抗体であってよい。ドメイン抗体は、生物物理学的特性およびインビボ半減期の正確な制御を可能にして、最適な安全性および有効性の生成物プロファイルをもたらすように、操作される。例えば、ドメイン抗体は、Domantis Ltd.(Cambridge, UKおよびMA, USA)から市販されている。
【0100】
本開示のムテインの血清半減期を延ばすための部分としてトランスフェリンを用いて、非グリコシル化トランスフェリンのN末端もしくはC末端または両方にムテインを遺伝学的に融合させることができる。非グリコシル化トランスフェリンの半減期は14〜17日であり、トランスフェリン融合タンパク質は、延長された半減期を同様に有すると考えられる。また、トランスフェリン担体は、高度な生物学的利用能、体内分布、および循環血中安定性も与える。この技術は、BioRexis(BioRexis Pharmaceutical Corporation, PA, USA)によって市販されている。タンパク質安定化物質/半減期延長相手として使用するための組換えヒトトランスフェリン(DeltaFerrin(商標))もまた、Novozymes Delta Ltd.(Nottingham, UK)によって市販されている。
【0101】
免疫グロブリンのFc部分が、本開示のムテインの血清半減期を延長する目的で使用される場合、Syntonix Pharmaceuticals, Inc (MA, USA)によって市販されているSynFusion(商標)技術が使用され得る。このFc融合技術の使用により、より長い時間作用する生物薬剤を作ることが可能になり、例えば、薬物動態、溶解度、および製造効率を向上させるために抗体のFc領域に連結されたムテインの2つのコピーからなり得る。
【0102】
本開示のリポカリンムテインの半減期を延長するためのさらに別の代替方法は、本開示のリポカリンムテインのN末端またはC末端に、長くて明確な構造を持たず柔軟なグリシンリッチ配列(例えば、約20〜80個の連続したグリシン残基を有するポリグリシン)を融合することである。例えばWO2007/038619において開示されているこのアプローチは、「rPEG」(recombinant PEG)とも呼ばれている。
【0103】
ポリアルキレングリコール分子が本開示のムテインの血清半減期を延長する目的で使用される場合、このポリアルキレングリコールは、置換型、非置換型、直線状、または分枝状であることができる。また、これは、活性化されたポリアルキレン誘導体であってもよい。適切な化合物の例は、インターフェロンに関してWO 99/64016、米国特許第6,177,074号、もしくは米国特許第6,403,564号において説明されているか、またはPEG修飾アスパラギナーゼ、PEG-アデノシンデアミナーゼ(PEG-ADA)、もしくはPEG-スーパーオキシドジスムターゼなどの他のタンパク質に関して説明されている(例えば、Fuertges et al. (1990) The Clinical Efficacy of Poly(Ethylene Glycol)-Modified Proteins J. Control. Release 11, 139-148を参照されたい)、ポリエチレングリコール(PEG)分子またはその活性化誘導体である。ポリエチレングリコールのようなこのようなポリマーの分子量は、約300〜約70,000ダルトンに及んでよく、例えば、分子量が約10,000ダルトン、約20,000ダルトン、約30,000ダルトン、または約40,000ダルトンのポリエチレングリコールが含まれる。さらに、例えば米国特許第6,500,930号または同第6,620,413号で説明されているように、デンプンまたはヒドロキシエチルデンプン (HES)などの炭水化物オリゴマーおよび炭水化物ポリマーを、血清半減期を延ばす目的で本開示のムテインにコンジュゲートさせることができる。いくつかのさらなる態様において、本開示のムテインの血清半減期を延長するために、短いPEGではなくPEG30またはPEG40が、腎臓ろ過が正常な動物/ヒトにおいて推薦されるであろう。短いPEG、すなわち、PEG12またはPEG20が速く排泄されることにより、本開示のPEGコンジュゲート(PEG化)リポカリンムテインの有効性および持続期間が制限される場合があることがその理由である。この点に関して、本発明の開示は、PEGコンジュゲートさせることができる、SEQ ID NO: 30〜32に示す例示的な複合リポカリンムテインを提供する。
【0104】
別の態様において、本開示のリポカリンムテインは、酵素活性または他の分子に対する結合親和性などの新しい特徴を融合物に与えることができる1つまたは複数の部分に融合され得る。このような適切な部分の例は、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、プロテインGのアルブミン結合ドメイン、プロテインA、抗体断片、オリゴマー形成ドメイン、結合特異性が同じリポカリンムテインもしくは結合特異性が異なるリポカリンムテイン(その結果、「Duocalins」が形成される。Schlehuber, S., and Skerra, A. (2001), Duocalins, engineered ligand-binding proteins with dual specificity derived from the lipocalin fold. Biol. Chem. 382, 1335-1342を参照されたい)、または毒素である。
【0105】
特に、本開示のリポカリンムテインを別々の酵素活性部位と融合し、その結果、得られた融合物の両方の「構成要素」が、所与の治療標的に対して一緒に作用できるようにすることが可能である場合がある。例えば、一緒になるように融合された場合、リポカリンムテインの結合ドメインは、疾患の原因となる標的に結合し、それによって、酵素ドメインが標的の生物学的機能を無効にすることを可能にすることができる。
【0106】
上記の部分のうちの1つが本開示のヒト涙液リポカリンムテインにコンジュゲートされる場合、アミノ酸側鎖へのコンジュゲーションが有利であり得る。適切なアミノ酸側鎖は、ヒト涙液リポカリンのアミノ酸配列中に天然に存在する場合があり、または変異誘発によって導入されてもよい。適切な結合部位を変異誘発によって導入する場合、1つの実行可能な手段は、適切な位置のアミノ酸をシステイン残基によって置換することである。1つの態様において、このような変異は、置換Thr40→Cys、Glu73→Cys、Arg90→Cys、Asp95→Cys、およびGlu131→Cysのうちの少なくとも1つを含む。これらの位置のいずれかに新しく作り出されたシステイン残基は、続いて、ムテインの血清半減期を延長する部分、例えばPEGまたはその活性化誘導体にムテインをコンジュゲートするのに利用され得る。
【0107】
別の態様において、本開示のムテインに上記の部分のうちの1つをコンジュゲートさせるのに適切なアミノ酸側鎖を提供するために、人工アミノ酸が変異誘発によって導入され得る。一般に、このような人工アミノ酸は、反応性がより高くなるように、したがって、所望の部分へのコンジュゲーションを促進するように、設計されている。人工tRNAを介して導入され得るそのような人工アミノ酸の1つの例は、パラ-アセチル-フェニルアラニンである。
【0108】
いくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、シグナル配列を含んでよい。あるポリペプチドのN末端のシグナル配列は、このポリペプチドを特定の細胞区画、例えば、大腸菌の周辺質または真核細胞の小胞体に向かわせる。多数のシグナル配列が、当技術分野において公知である。あるポリペプチドを大腸菌の周辺質中に分泌させるための例示的なシグナル配列は、OmpAシグナル配列である。
【0109】
また、本発明の開示は、本明細書において説明するムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)にも関する。遺伝コードの縮重により、いくつかのコードが同じアミノ酸を指定する他のコドンによって置換されることが可能であるため、本開示は、本開示のムテインをコードするある特定の核酸分子に限定されず、機能的ムテインをコードするヌクレオチド配列を含むあらゆる核酸分子を包含する。この点に関して、本発明の開示は、本開示のいくつかのリポカリンムテインをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 36〜61、72〜81、および86〜89に示す)を提供する。
【0110】
したがって、本発明の開示は、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置26〜34、56〜58、80、83、104〜106、および108のいずれかの少なくとも1つのコドンに変異を有する本開示によるムテインをコードする核酸配列を含み、その際、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列の配列位置61および153のシステイン残基のうちの少なくとも1つをコードするコドンは、他の任意のアミノ酸残基をコードするように変異させられている。いくつかのさらなる態様において、本開示によるムテインをコードする核酸配列は、成熟ヒト涙液リポカリンの直線状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置79、92、および105のいずれかの少なくとも1つのコドンにおいて変異を有する。
【0111】
また、本明細書において開示する開示内容は、実験による変異誘発で指定された配列位置の外側にその他の変異を含む本開示の涙液リポカリンムテインをコードする核酸分子も含む。このような変異は、許容されることが多いか、または有利であることが判明する場合さえあり、例えば、それらの変異がムテインのフォールディング効率、血清安定性、熱安定性、またはリガンド結合親和性の改善に寄与する場合がそうである。
【0112】
本出願において開示される核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするために1つの調節配列(または複数の調節配列)に「機能的に連結され」てよい。
【0113】
DNAのような核酸分子は、転写調節および/または翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントを含み、そのような配列が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「機能的に連結され」ている場合、「核酸分子を発現させることができる」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にする」ことができると呼ばれる。機能的な連結とは、調節配列エレメントおよび発現されるべき配列が、遺伝子発現を可能にするように結合されている連結である。遺伝子発現に必要な調節領域の厳密な性質は、種によって様々であり得るが、一般に、これらの領域はプロモーターを含み、プロモーターは、原核生物では、両方のプロモーター、すなわち、転写開始を指示するDNAエレメント、ならびにRNAに転写されると翻訳開始の合図を出すと考えられるDNAエレメントを本質的に含む。通常、このようなプロモーター領域は、原核生物の-35/-10ボックスおよびシャイン・ダルガノ配列、または真核生物のTATAボックス、CAAT配列、および5'キャッピング配列などの転写および翻訳の開始に関与する5'非コード配列を含む。また、これらの領域は、エンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメント、ならびに宿主細胞の特定の区画へとネイティブなポリペプチドを標的指向させるための翻訳されたシグナル配列またはリーダー配列も含み得る。
【0114】
さらに、3'非コード配列は、転写終結またはポリアデニル化などに関与している調節エレメントを含み得る。しかしながら、これらの終結配列が、特定の宿主細胞において充分に機能的ではない場合、それらは、その細胞において機能的なシグナルで置換されてよい。
【0115】
したがって、本開示の核酸分子は、プロモーター配列のような調節配列を含むことができる。いくつかの態様において、本開示の核酸分子は、プロモーター配列および転写終結配列を含む。例えば、適切な原核生物プロモーターは、tetプロモーター、lacUV5プロモーター、またはT7プロモーターである。真核細胞における発現に有用なプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0116】
本開示の核酸分子はまた、ベクターまたは他の任意の種類のクローニングビヒクル、例えば、プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド、もしくは人工染色体の一部分であることもできる。
【0117】
1つの態様において、核酸分子はファスミドに含まれる。ファスミドベクターとは、関心対象のcDNAに融合されたM13またはf1などの溶原性(temperent)ファージの遺伝子間領域またはその機能的部分をコードするベクターを意味する。細菌宿主細胞にそのようなファージミドベクターおよび適切なヘルパーファージ(例えば、M13K07、VCS-M13、またはR408)を重感染させた後に、無傷のファージ粒子が生産され、それによって、コード化された異種cDNAをファージ表面に提示された対応するポリペプチドに物理的に結び付けることが可能になる(例えば、Lowman, H.B. (1997) Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 26, 401-424、またはRodi, D.J., and Makowski, L. (1999) Curr. Opin. Biotechnol. 10, 87-93を参照されたい)。
【0118】
このようなクローニングビヒクルは、前述の調節配列および本開示のリポカリンムテインをコードする核酸配列とは別に、発現に使用される宿主細胞と適合性のある種に由来する複製配列および制御配列、ならびに形質転換された細胞または形質移入された細胞に選択可能な表現型を与える選択マーカーを含むことができる。多数の適切なクローニングベクターが当技術分野において公知であり、市販されている。
【0119】
本開示のリポカリンムテインをコードするDNA分子、特に、そのようなリポカリンムテインのコード配列を含むクローニングベクターを、その遺伝子を発現することができる宿主細胞に形質転換させることができる。形質転換は、標準的技術を用いて実施することができる。したがって、本開示は、本明細書において開示する核酸分子を含む宿主細胞も対象としている。
【0120】
形質転換された宿主細胞は、本開示の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を発現するのに適した条件下で培養される。適切な宿主細胞は、大腸菌(Escherichia coli(E. coli))もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)などの原核性、またはサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、SF9昆虫細胞もしくはHigh5昆虫細胞、不死化哺乳動物細胞株(例えば、HeLa細胞もしくはCHO細胞)、もしくは初代哺乳動物細胞などの真核性であることができる。
【0121】
また、本開示は、本開示のムテインを作製するための方法であって、ムテイン、ムテインの断片、またはムテインと別のポリペプチドとの融合タンパク質が、遺伝子工学方法を用いて、ムテインをコードする核酸から出発して作製される、方法にも関する。この方法は、インビボで実施することができ、例えば、ムテインを、細菌宿主生物または真核性宿主生物において作製し、次いで、この宿主生物またはその培養物から単離することができる。また、例えば、インビトロの翻訳系を用いて、タンパク質をインビトロで作製することも可能である。
【0122】
インビボでムテインを作製する場合、本開示のムテインをコードする核酸は、(前の部分で既に概説したように)組換えDNA技術を用いて適切な細菌宿主生物または真核性宿主生物中に導入される。この目的のために、宿主細胞は最初に、確立された標準的方法を用いて、本開示のムテインをコードする核酸分子を含むクローニングベクターで形質転換される。次いで、宿主細胞は、異種DNAの発現、したがって対応するポリペプチドの合成の発現を可能にする条件下で培養される。続いて、そのポリペプチドが、細胞または培養培地のいずれかから回収される。
【0123】
一部の本開示の涙液リポカリンムテインにおいて、Cys61とCys153の間に天然に存在するジスルフィド結合が除かれる。したがって、そのようなムテイン(または分子内ジスルフィド結合を含まない他の任意の涙液リポカリンムテイン)は、還元性の酸化還元環境を有する細胞区間、例えば、グラム陰性細菌の細胞質において作製され得る。本開示のリポカリンムテインが分子内ジスルフィドを含む場合、適切なシグナル配列を用いて、酸化性の酸化還元環境を有する細胞区間に新生ポリペプチドを向かわせることが望ましい場合がある。このような酸化性環境は、大腸菌のようなグラム陰性細菌の周辺質によって、グラム陽性細菌の細胞外環境において、または真核細胞の小胞体の内腔において提供され得、通常、構造的なジスルフィド結合の形成を促進する。しかしながら、大腸菌のような宿主細胞のサイトゾルにおいて本開示のムテインを作製することもまた可能である。この場合、ポリペプチドは、可溶性の折り畳まれた状態で直接的に獲得され得るか、または封入体の形態で回収され、続いてインビトロで復元され得る。別の選択肢は、酸化性の細胞内環境を有し、したがって、サイトゾルでのジスルフィド結合形成を可能にし得る特定の宿主株を使用することである(Venturi M, et al. (2002) J. Mol. Biol. 315, 1-6)。
【0124】
しかしながら、本開示のリポカリンムテインは、必ずしも、遺伝子工学だけを用いて生成または作製しなくてもよい。もっと正確に言えば、リポカリンムテインは、メリフィールド固相ポリペプチド合成のような化学合成によって、またはインビトロの転写および翻訳によって得ることもできる。例えば、分子モデリングを用いて有望な変異を特定し、次いで、求められている(設計された)ポリペプチドをインビトロで合成し、所与の標的に対する結合活性を調査することが可能である。タンパク質を固相合成および/または溶相合成するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Bruckdorfer, T. et al. (2004) Curr. Pharm. Biotechnol. 5, 29-43を参照されたい)。
【0125】
別の態様において、本開示のリポカリンムテインは、当業者に公知の十分に確立した方法を用いるインビトロの転写/翻訳によって作製され得る。
【0126】
上記の開示内容から明らかであるように、本開示のリポカリンムテインまたはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートは、多くの用途で使用され得る。したがって、一般に、本明細書において開示するムテインおよびその誘導体は、抗体またはその断片と同様の多くの分野で使用され得る。したがって、本発明のムテインの多数の考え得る用途が、医学分野に存在する。
【0127】
例えば、本開示は、対象の中のPCSK9に結合するために、本開示の1種もしくは複数種のリポカリンムテインまたはそのようなムテインを含む1種もしくは複数種の組成物を使用すること、および/または対象においてPCSK9が低密度リポタンパク質受容体(LDL-R)に結合するのを阻害することを包含する。いくつかの態様において、このような使用は、本開示の1種もしくは複数種のリポカリンムテインまたはそのようなムテインを含む1種もしくは複数種の組成物の有効量を対象に投与することを含む。この点に関して、本出願はまた、PCSK9に結合し、かつ対象におけるLDL-RへのPCSK9の結合を阻害する方法であって、本開示の1種もしくは複数種のリポカリンムテインそのようなムテインを含む1種もしくは複数種の組成物の有効量を前記対象に投与する段階を含む方法も開示する。
【0128】
本開示の別の局面において、本発明の開示は、PCSK9との複合体形成のために本開示のリポカリンムテインを使用することを含む。この文脈において、各ムテインとそのリガンドとの複合体形成が、各結合相手の濃度、競合相手の存在、使用される緩衝液系のpHおよびイオン強度、ならびにK
Dを測定するために使用される実験方法(例えば、いくつかの例を挙げると、蛍光滴定、競合ELISA、または表面プラズモン共鳴)などの多くの異なる因子、またはさらに、実験データを評価するのに使用される数学アルゴリズムの影響を受けることも、注目される。
【0129】
いくつかの態様において、本明細書において開示する発明されたリポカリンムテインは、PCSK9の検出のために使用され得る。このような使用は、ムテインを、所与のリガンドを含むと疑われる試料と適切な条件下で接触させ、それによって、ムテインと所与のリガンドとの複合体を形成させ、複合体を形成したムテインを、適切なシグナルによって検出することを含み得る。
【0130】
検出可能なシグナルは、上記に説明したように標識によって、または結合に起因する物理的特性の変化、すなわち複合体形成それ自体によって、もたらすことができる。1つの例は表面プラズモン共鳴であり、その値は、結合相手同士(そのうちの一方が金箔のような表面に固定されている)が結合する間、変化する。
【0131】
別の局面において、本開示は、少なくとも1種の本開示のムテインおよびキットを使用するための1つまたは複数の取扱い説明書を含むキットを提供する。
【0132】
いくつかの態様において、キットは、それに一体化して、または1つもしくは複数の個別の文書として、キットの内容物および1種または複数種の本開示のムテインの使用に関連する情報をさらに含む。キットは、希釈剤中で復元するように調製された1種または複数種の本開示のムテインを含んでよい。このような希釈剤、例えば、滅菌済み希釈剤もまた、例えば容器に入れて、キット中に含まれてよい。
【0133】
本明細書において開示するリポカリンムテインはまた、PCSK9の分離のためにも使用され得る。このような使用は、ムテインを、前記リガンドを含むことになっている試料と適切な条件下で接触させ、それによって、ムテインとそのリガンドとの複合体を形成させ、試料からムテイン/リガンド複合体を分離することを含み得る。
【0134】
PCSK9検出ならびにPCSK9分離のために本開示のムテインを使用する際、ムテインおよび/またはPCSK9は、適切な固相に固定されてよい。
【0135】
いくつかの態様において、1種または複数種の本開示のリポカリンムテインはまた、化合物で処置すべき予め選択された生物、組織、器官、または細胞へとその化合物を標的指向させるのにも使用され得、その際、そのような生物、組織、器官、または細胞にはPCSK9が存在する。そのような目的のために、ムテインは、複合体形成を可能にするために関心対象の化合物と接触させられる。次いで、ムテインおよび関心対象の化合物を含む複合体が、予め選択された生物、組織、器官、または細胞に送達される。この使用は、予め選択された生物、組織、器官、または細胞、例えば、薬物で処置されることになっている感染した身体部分にその薬物を(選択的に)送達するのに特に適しているが、それに限定されるわけではない。ムテインと関心対象の化合物との複合体の形成に加えて、ムテインを所与の化合物と反応させて、ムテインと化合物のコンジュゲートを得ることもできる。上記の複合体と同様に、そのようなコンジュゲートは、予め選択された生物、組織、器官、または細胞にその化合物を送達するのに適している場合がある。ムテインと化合物のこのようなコンジュゲートはまた、ムテインと化合物を互いに共有結合的に連結するリンカーも含んでよい。任意で、このようなリンカーは、血流中では安定であるが、細胞環境においては切断可能である。
【0136】
本開示のその他の目的、利点、および特徴は、限定することを意図しない以下の実施例およびその添付図面を考察すると、当業者に明らかになるであろう。したがって、本開示は例示的な態様および任意の特徴によって具体的に開示されるが、本明細書において開示されその中に包含される開示内容の修正および変更を当業者は行ってもよいこと、ならびにそのような修正および変更が本開示の範囲内であるとみなされることを理解すべきである。
【実施例】
【0137】
V. 実施例
実施例1: 組換えヒトPCSK9およびヒトPCSK9変異体の作製および特徴付け
C末端FLAGタグを含むヒトPCSK9(SEQ ID NO: 34)を、形質移入したHEK293F細胞において発現させた。形質移入細胞600mlをDMEM/TS/0.05%BSA中で6日間培養し、hPCSK9を含む上清を回収した。hPCSK9をFLAG M2樹脂に結合させ、50CVの洗浄緩衝液(10mM Tris/HCL pH7.4、150ml NaCl、2mM Cacl2、10%グリセロール)で洗浄し、100μg/mlの3×FLAGペプチドを含む5CVの洗浄緩衝液を用いて溶出させた。Superdex 200 16/60カラム(GE Healthcare)を用いたゲルろ過によって、溶出されたタンパク質をさらに精製した。HepG2細胞を用いたLDL-R細胞ELISAによって、機能性を調べた。
【0138】
関心対象のリポカリンムテインを選択およびスクリーニングするために、hPCSK9をビオチン標識してもよい。5倍モル過剰のEZ-リンクNHS-発色性ビオチン試薬(Thermo Scientific)と共に室温で1時間、hPCSK9をインキュベートした。過剰なビオチンを除去し、ビオチン標識されたタンパク質を限外ろ過によって濃縮した。Streptacinプルダウンアッセイ法によって、ビオチン標識を確認した。
【0139】
機能hPCSK9_D374Y変異体を獲得し、カニクイザルPCSK9およびマウスPCSK9を作製し、同じようにして特徴付けた。
【0140】
実施例2: 2×10
10個の独立したリポカリンムテインを有するライブラリーの作製およびPCSK9を相手にしたリポカリンムテインのファージミド選択
多様性の高い2×10
10個のリポカリンムテインのランダムライブラリーを、成熟ヒト涙液リポカリンのランダム変異誘発によって作製した(例えば、WO2007/107563を参照されたい)。PCSK9特異的リポカリンムテインを選択するために、このライブラリーから得た2×10
12個のファージミドを、200nMのビオチン標識したヒトPCSK9および/またはカニクイザルPCSK9と共にインキュベートした。ニュートラアビジンまたはストレプトアビジンでコーティングした常磁性ビーズを用いて、PCSK9/ファージミド複合体を捕捉し、続いて磁石を用いてそれらを単離した。1ml PBS/Tで8回ビーズを洗浄することにより、結合されなかったファージミドを除去した。最初にトリエチルアミンと、次いで0.1MグリシンpH2.2とインキュベーションすることによって、結合したファージミドを溶出させた。選択を4回連続して実施した。
【0141】
ファージディスプレイ選択の後に得られたファスミド調製物の変異誘発した中央のカセットを、BstX1を用いてDNAを消化し、続いて標準的方法を用いたアガロースゲル電気泳動によって精製することによって単離した(Sambrook et al., (1989) Molecular cloning: a laboratory manual)。このDNAを、テトラサイクリンプロモーターの制御下でムテインを細菌に産生させることを可能にする同様に切断したベクターpTlc10に挿入した。ライゲーション混合物を用いて、CaCl
2によってコンピテントにしたTG1-F'細胞を形質転換し、LB/Ampプレート上に播種した。個々のコロニーを用いて、2xYT/Amp培地に植え付け、定常期になるまで一晩(14〜18時間)増殖させた。続いて、定常期の培養物から50μlの2xYT/Ampを植え付け、37℃で3時間、次いで22℃に変えて、OD
595が0.6〜0.8に達するまでインキュベートした。1.2μg/mlアンヒドロテトラサイクリンを添加した2xYT/Amp 10μlを添加することによって、アンチカリン産生を誘導した。翌日まで22℃で培養物をインキュベートした。PBS/T中5% (w/v) BSA 40μlを添加し25℃で1時間インキュベーションした後、培養物は、スクリーニングアッセイ法で使用する準備が整った状態となった。
【0142】
リポカリンムテインを選択するために、前日にプレートにコーティングしたPBS中最終濃度5μg/mlの抗FLAGタグ抗体(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)を用いて、いずれもFLAGタグを有するヒトPCSK9およびカニクイザルPCSK9(PBS/T中1μg/ml)をマイクロタイタープレート上に捕捉した。抗Flagタグ抗体のみは、陰性対照としての機能を果たした。続いて、BSAでブロックした培養物20μlを添加し、25℃で1時間、インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(「HRP」、Merck KgaA, Darmstadt)とコンジュゲートさせた抗T7抗体のPBS/T中1:10000希釈物を用いて、結合したムテインを検出した。定量のために、QuantaBlu蛍光原性ペルオキシダーゼ基質20μlを添加し、励起波長320nmおよび発光波長430nmで測定した。
【0143】
実施例3: PCSK9特異的リポカリンムテインを最適化するための偏りのある成熟化ライブラリーの作製
上記の実施例2においてリポカリンライブラリーから同定されたPCSK9特異的ムテインを最適化するために、リポカリンムテインSEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、およびSEQ ID NO: 7(以後、本実施例において「母クローン(mother clone)」と名付ける)をそれぞれベースとする追加のライブラリーを作製した。これらのライブラリーは、選択された位置のみの部分的なランダム化をもたらすように、作製した。選択された各位置について、コードされるアミノ酸が、各母クローンに存在するアミノ酸に確率70%で対応し、同時に、それが確率30%で異なるアミノ酸であることができるように、設計を行った。標的とされる位置の数をNとし、Bを偏りとすると、最も確率が高いクローン1個当たり交換数は、N×(1-B)である。例えば、20個のアミノ酸位置が、母クローンのアミノ酸に対して70%の偏りで部分的にランダム化される場合、これにより、母クローンと比べて、全体的に、ただし標的とされた位置のみに、6個の変異を平均して含む変異体のライブラリーが得られると考えられる。しかしながら、これらクローンのどれもが6個の交換を有すると思われるわけではない:クローン1個当たりの変異の頻度は、
図11Dに示すように、二項分布に従うと考えられる。
【0144】
このようなライブラリーを組み立てるために、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)反応におけるオリゴヌクレオチドの反復的組立て(Stemmer et al., (1995) Gene 164:49‐53)を用いた。オリゴヌクレオチドは、標準的なホスホルアミダイト化学反応(Beaucage et al., (1981) Tetrahedron Lett. 22, 1859-62; McBride et al., (1983) Tetrahedron Lett. 24, 245-8)によって作製した。偏り70%のコード化を可能にするために、本発明者らは、20種の標準的な(canonical)アミノ酸のそれぞれのヌクレオチドトリプレットの各位置について最適化された混合物を推測した(calculated)。例えば、偏り70%でセリンをコードし、残り30%に様々な異なるアミノ酸を配分する混合物は、ヌクレオシドホスホルアミダイト構成単位の混合物「abc」(aは、85%のチミジン、ならびに各5%のグアニニジン(guaninidine)、シトシン、およびアデノシンからなる混合物に対応し、bは、85%のシトシンおよび各5%の他のヌクレオシドからなる混合物に対応し、cは、50%のグアニジンおよび50%のチミジンからなる混合物に対応する)によって作製される(
図11を参照されたい)。
【0145】
前述の技術を用いて、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、およびSEQ ID NO: 7をそれぞれベースとする前記ライブラリーを反復PCRによって作製した。続いて、作製したリポカリンムテインを、ほぼ説明されているとおりにして、ファージミドベクターに極めて効率的にクローニングした(例えば、Kim et al., (2009) J Am Chem Soc 131(10):3565-76を参照されたい)。ライブラリーの規模は、変異体7×10
9個〜11×10
9個の範囲であった。これらのライブラリーを後続のファージパンニング法において使用した(実施例4を参照されたい)。
【0146】
実施例4: PCSK9を相手にした、最適化されたリポカリンムテインのファージミド選択
最適化されたPCSK9特異的リポカリンムテインを選択するために、実施例3で説明したライブラリーから得た2×10
12個のファージミドを使用した。0.1% Tween-20(v/v)(すなわちPBS/T)、50mMベンズアミジン、および1%(w/v)カゼインを添加したPBSにファージミドを溶解させた。親和性が増大したリポカリンムテインを選択するために、0.01〜10nMの範囲の低濃度のビオチン標識PCSK9タンパク質と共にファージミドをインキュベートした。いくつかの例において、耐熱性が上昇したムテインを選択するために、65℃で10分間、ファージミドをインキュベートした。ブロックしたファージミドをビオチン標識PCSK9タンパク質と共に40分間インキュベートした後、0.3mMデスチオビオチンを溶液に添加して、空いているストレプトアビジン結合部位を完全にふさぎ、インキュベーションを20分間継続した。続いて、ブロック(PBS/T中1%(w/v)カゼイン)し水気を切った、ストレプトアビジンまたはニュートラアビジンのいずれかでコーティングした常磁性ビーズを、20分間添加して、PCSK9-ファージミド複合体を捕捉した。徹底的に再懸濁し、続いて磁石を用いてビーズを回収することにより、1ml PBS/Tで8回ビーズを洗浄することによって、複合体を形成していないファージミドを除去した。k
off速度が低下したムテインを特異的に選択するために、1回目の後に5回、2回目の後に10回、3回目の後に15回、4回目の後に20回の洗浄段階を追加して実施することにより、よりストリンジェントな洗浄プロトコールを適用するか、または様々な量(10nM〜5μM)の精製親ムテイン(例えば、SEQ ID NO: 3、4、または7)と共にムテイン-PCSK9複合体をインキュベートして、最適化されたリポカリンムテインと親リポカリンムテインとの間でPCSK9結合の競合を起こさせた。さらに、両方の方法の組合せも適用した。結合したファージミドを、70mMトリエチルアミン300μlを10分間用いて最初に溶出させ、続いて、1M Tris-Cl pH6.0 100μlを用いて上清を直ちに中和した。1回の中間洗浄サイクルの後に、100mMグリシンpH2.2を10分間用いて、残存するファージミドを溶出させ、続いて、0.5M Tris塩基50μlを用いて直ちに中和した。両方の溶出画分を集め、再増幅させるために大腸菌の対数期培養物(OD
5500.45〜0.6)4mlを感染させるのに使用した。撹拌しながら30分間インキュベーションした後、5000×gで2分間遠心分離することによって細菌を回収し、2xYT培地1ml中に再懸濁し、大きなLB/Amp寒天プレート(10g/lバクトトリプトン、5g/l酵母抽出物、5g/l NaCl、pH7.5、15g/l寒天、100μg/mlアンピシリン)3枚に播いた。プレートを32℃で一晩インキュベートした。100μg/mlアンピシリンを添加した2xYT培地(2xYT/Amp)50mlを用いて、寒天プレートから感染細胞をかき取った。OD
550が0.08に達するまで、適切な体積の細菌懸濁液を2xYT/Amp培地50mlに植え付けた。OD
550が0.5に達するまで、37℃、振盪機(160rpm)上でこの培養物をインキュベートし、次いで、穏やかに撹拌しながら15分間、および37℃、振盪機上で45分間のインキュベーションによって、ヘルパーファージ(1.5×10
11pfu)に感染させた。続いて、最終濃度が70μg/mlとなるようにカナマイシンを添加して、ヘルパーファージに感染した細菌を選択した。最後に、25ng/mlアンヒドロテトラサイクリンの添加によって、pIII-リポカリンタンパク質の発現を誘導した。
【0147】
実施例5: スクリーニングによる、PCSK9特異的Tlcムテインの同定
実施例4で説明したように、ファージディスプレイ選択の後に得られたファスミド調製物の変異誘発した中央のカセットを、BstX1を用いてDNAを消化し、続いて標準的方法を用いたアガロースゲル電気泳動によって精製することによって単離した(Sambrook et al. 1989)。このDNAを、テトラサイクリンプロモーターの制御下でムテインを細菌に産生させることを可能にする同様に切断したベクターに挿入した。ライゲーション混合物を用いて、CaCl
2によってコンピテントにしたTG1-F'細胞を形質転換し、LB/Ampプレート上に播種した。個々のコロニーを用いて、2xYT/Amp培地に植え付け、定常期になるまで一晩(14〜18時間)増殖させた。続いて、定常期の培養物から50μlの2xYT/Ampを植え付け、37℃で3時間、次いで22℃に変えて、OD
595が0.6〜0.8に達するまでインキュベートした。1.2μg/mlアンヒドロテトラサイクリンを添加した2xYT/Amp 10μlを添加することによって、リポカリンムテイン産生を誘導した。翌日まで22℃で培養物をインキュベートした。PBS/T中5%(w/v)BSA 40μlを添加し25℃で1時間インキュベーションした後、培養物は、スクリーニングアッセイ法で使用する準備が整った状態となった。
【0148】
リポカリンムテインを選択するために、前日にプレートにコーティングしたPBS中最終濃度5μg/mlの抗FLAGタグ抗体(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)を用いて、いずれもFLAGタグを有するヒトPCSK9およびカニクイザルPCSK9(PBS/T中1μg/ml)ならびにhPCSK9-D374Y変異体をマイクロタイタープレート上に捕捉した。続いて、BSAでブロックした培養物20μlを添加し、25℃で1時間、インキュベートした。HRP(Merck KgaA, Darmstadt)とコンジュゲートさせた抗T7抗体のPBS/T中1:10000希釈物を用いて、結合したリポカリンムテインを検出した。定量のために、QuantaBlu蛍光原性ペルオキシダーゼ基質20μlを添加し、励起波長320nmおよび発光波長430nmで測定した。
【0149】
リポカリンムテインの親和性を順位付けするために、PBSに溶かした抗Strepタグ抗体(IBA, Goettingen)をマイクロタイタープレートに塗り、BSAでブロックした培養物20μlを添加し、プレート上でリポカリンムテインを特異的に捕捉させた。様々な濃度(0.5〜5nM)のビオチン標識PCSK9タンパク質を添加し、徹底的に洗浄した後、エクストラアビジン(extravidin)-HRP(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)を用いて、特異的に結合したPCSK9タンパク質を検出した。定量のために、QuantaBlu 20μlを添加し、励起波長320nmおよび発光波長430nmで測定した。
【0150】
抗FLAGタグ(PBS中5μg/ml)をマイクロタイタープレートに塗り、続いてhPCSK9-D374Y変異体(PBS/T中1μg/ml)を捕捉することによって、競合的リポカリンムテインの選択を実施した。ブロックした培養物を精製LDL受容体が30nMになるように調整し、捕捉されたhPCSK9-D374Y変異体を有するプレートに72時間添加した。これによって系を平衡にし、競合的ムテインを高い信頼性で選択できるようにした。HRPコンジュゲート抗Hisタグ抗体(PBS/T中1μg/ml;Abcam, Cambridge, UK)を用いて、結合した受容体を検出した。定量のために、QuantaBlu蛍光原性ペルオキシダーゼ基質20μlを添加し、励起波長320nmおよび発光波長430nmで測定した。
【0151】
実施例6: 代表的なリポカリンムテインのPCSK9に対する親和性
ビオチン標識PCSK9に対するリポカリンムテインの代表的なグループの結合親和性を測定するために、Biacore T200装置(GE Healthcare)を利用して、表面プラズモン共鳴 (SPR)に基づくアッセイ法を用いた。SPR親和性アッセイ法(
図1)のために、Biotin CAPtureキット(GE Healthcare)を使用した。
【0152】
各測定サイクルにおいて、Biotin CAPture試薬(GE Healthcare)を、センサーチップ(Sensor Chip)CAP(GE Healthcare)の参照流路および測定流路に流速2μl/分で5分間、添加した。濃度4μg/mlのビオチン標識PCSK9を流速10μl/分で2分間、測定流路に注入した。親和性を測定するために、HBS-EP+(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20)緩衝液中で、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、およびSEQ ID NO: 12の3〜4つの希釈物を調製し、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 11、およびSEQ ID NO: 12については濃度500nM、125nM、31nM、および8nM、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 9、およびSEQ ID NO: 10については濃度300nM、75nM、19nM、および5nM、SEQ ID NO: 7については濃度75nM、19nM、および5nMを用いて、チップ表面に添加した。3分の接触時間、20分の解離時間を用い、流速30μl/分を適用して、結合アッセイ法を実施した。測定はいずれも25℃で実施した。0.25M NaOHを含む6Mグアニジン-HClを注入し(2分)、続いて泳動用緩衝液で追加洗浄し、2分の安定化期間を与えることによって、センサーチップCAP表面の再生を実現した。各測定前に、3回の連続的な再生段階からなる1回のコンディショニングサイクルを実施した。Biacore T200評価ソフトウェア(V1.0)を用いてデータを評価した。二重の参照(double referencing)を使用した。1:1結合モデルを用いて、生データを当てはめた。
【0153】
SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 6、およびSEQ ID NO: 11について得られた当てはめ曲線をそれぞれ
図1(A〜D)に示す。例えば、データから、SEQ ID NO: 3(
図1A)が高い親和性でPCSK9に結合した(K
D=0.85nM)ことが示されている。すべてのリポカリンムテインの結合速度定数k
aまたはk
on、解離速度定数k
dまたはk
off、および結果として得られた解離定数K
Dを以下の表1にまとめて示す。
【0154】
【表1】
【0155】
実施例7: 代表的なリポカリンムテインのPCSK9に対する競合的な作用様式
実施例6で開示したリポカリンムテインが競合的な様式でPCSK9に結合するかどうかを、競合ELISA形式を用いてインビトロで試験した。この実験において、一定の濃度のヒトPCSK9(SEQ ID NO: 34)またはヒトPCSK9_D374Y変異体を、多様な濃度のリポカリンムテインと共に1時間インキュベートした。溶液中でのこのプレインキュベーションの後、一定量のリポカリンムテイン/PCSK9混合物を、ヒトLDL-RでコーティングしたELISAプレートに移して、hLDL-Rに結合するのを妨害されなかったhPCSK9の濃度を測定した。
【0156】
インキュベーション段階はすべて、300rpmで振盪しながら実施し、各インキュベーション段階の後に、Biotek ELx405 select CW洗浄機を用いてPBS-T緩衝液(PBS(Phosphate buffered saline)、0.05%Tween20)100μlでプレートを5回洗浄した。第1段階において、PBSに溶かした濃度5μg/mlの組換えヒトLDL-R(R&D Systems、カタログ番号2148-LD/CF) 20μlで、4℃で一晩、384ウェル蛍光プレートをコーティングした。洗浄後、PBS-T/BSA(0.05%Tween20を含むPBSに溶かした2%BSA(Bovine serum albumin))100μlを用いて、室温(「RT」)で1時間、LDL-Rでコーティングしたウェルをブロックした。
【0157】
一定濃度の25nMヒトPCSK9または0.25nMヒトPCSK9_D374Y変異体を、開始濃度300nM(これをPBS-T/BSA緩衝液中で5pMに薄まるまで1:3の比率で段階的に希釈した)を用いて、(i)様々な濃度のSEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、もしくはSEQ ID NO: 29およびSEQ ID NO: 33の基準(benchmark)抗体と共に、または(ii)陰性対照としてのSEQ ID NO: 2と共に、溶液中でインキュベートした。室温で1時間インキュベーションした後、LDL-RでコーティングしたELISAプレートに反応混合物20μlを移して、RTで20分間、結合していない(遊離の)PCSK9または非競合的に結合したPCSK9を捕捉した。ELISAの読み取り結果を遊離hPCSK9の濃度に変換することを可能にするために(下記を参照されたい)、25/50nMから始まる様々な濃度のhPCSK9またはhPCSK9_ D374Y変異体(1:3の段階希釈を11段階)を含む検量線を、PBS-T/BSA中で調製し、同様にMSD(MesoScaleDiscovery)プレート上で20分間インキュベートした。
【0158】
結合したPCSK9の検出および定量を可能にするために、残りの上清を廃棄し、マウス抗Flag M2-西洋ワサビペルオキシダーゼ(「HRP」)(Sigma-Aldrich)20μlをPBS-T/BSA中で1:5000希釈して添加し、RTで1時間インキュベートした。洗浄後、QuantaBlu蛍光原性ペルオキシダーゼ基質20μlを各ウェルに添加し、15分後、GENios Plusプレートリーダー(Tecan)を用いて励起波長320nmおよび発光波長430nmで蛍光を測定した。
【0159】
評価は次のようにして実施した:遊離hPCSK9または遊離hPCSK9_D374Y変異体の濃度c(hPCSK9)free/c(hPCSK9_D374Y)freeを、並行して測定してリポカリンムテイン濃度、すなわちc(SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、またはSEQ ID NO: 29 およびSEQ ID NO: 33の基準抗体)に対してプロットした検量線を用いて、相対的蛍光シグナルから算出した。PCSK9/LDL-R複合体の形成が50%妨害された際のリポカリンムテイン濃度(IC50)を得るために、c(PCSK9)free=c(PCSK9)tot/(1+c(リポカリンムテイン)/IC50))(トレーサー合計濃度をc(PCSK9)totとし、上記で得られるIC50値を自由パラメーターとする)に基づく一部位結合モデルを用いて、非線形回帰によって曲線を当てはめた。曲線の当てはめは、GraphPad Prism 4ソフトウェアを用いて実施した。
【0160】
要約すれば、陰性対照SEQ ID NO: 2はPCSK9に結合しなかった。一方、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8は、hLDL-Rに対して競合させた場合、hPCSK9およびhPCSK9_D374Y変異体に対して強い競合的結合を示した。当てはめたIC50値を下記の表2ならびに
図2(AおよびB)に示す。リポカリンムテイン(SEQ ID NO: 3、4、および6〜9)の競合的な作用様式が、野生型PCSK9と変異体PCSK9の両方に対して示された。hPCSK9を用いた競合ELISAにおけるIC50値は、一定濃度25nMにもっぱら影響を受ける。0.25nM hPCSK9_D374Y変異体を用いた競合ELISAにおいて、IC50値は、リポカリンムテインの親和性ならびに変異体の一定濃度の影響を受ける。
【0161】
【表2】
【0162】
実施例8: 代表的なリポカリンムテインのPCSK9に対する特異性および種交差反応性
リポカリンムテインの特異性および種交差反応性(
図3(A〜D))を結合ELISAにおいて分析した。結合ELISAの原理は次のとおりであった:ニュートラアビジンでコーティングしたELISAプレート上にビオチン標識リガンド(ヒトPCSK9、ヒトPCSK9_D374Y、マウスPCSK9、およびカニクイザルPCSK9)を捕捉し、様々な濃度のリポカリンムテインを添加した。ウサギ抗Streptag II抗体(GenScript、カタログ番号A00626)およびHRP標識抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号211-035-109)を用いて、結合したリポカリンムテインを検出した。
【0163】
以下の詳細な実験プロトコールにおいて、実施例7の競合ELISAプロトコールにおいて前述したようにして、インキュベーション段階および洗浄段階を実施した。蛍光測定に適した384ウェルプレート(Greiner FLUOTRAC(商標)600、黒色平底、高結合能)を、4℃で一晩、PBS中濃度5μg/mlのニュートラアビジン20μlでコーティングした。洗浄後、ニュートラアビジンでコーティングしたウェルを、ブロッキング緩衝液(PBS-T/BSA)100μlを用いて、室温で1時間ブロックした。再び洗浄した後、PBS-T/BSA中濃度1μg/mlのビオチン標識リガンド、すなわちヒトPCSK9、ヒトPCSK9_D374Y、マウスPCSK9、またはカニクイザルPCSK9のいずれか20μlを室温で1時間添加した。追加の洗浄段階によって、過剰なリガンドを除去した。
【0164】
リポカリンムテイン溶液の濃度を100nMに調整し、次いで、PBS-T/BSA中で2nMに薄まるまで1:3の比率で溶液を段階的に希釈した。体積20μlの希釈物を384ウェルプレートに移し、室温で1時間結合させた。
【0165】
インキュベーション後、残りの上清を廃棄し、PBS-T/BSA中で1:5.000希釈した抗Streptag II抗体20μlを添加し、室温で1時間インキュベートした。上清を再び廃棄した。結合した抗Streptag II抗体を検出するために、マウス抗ウサギIgG-HRP 20μlを添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、蛍光原性HRP基質(Quantablue, Pierce) 20μlを各ウェルに添加し、15分間、反応を進行させた。プレートのすべてのウェルの相対蛍光単位(RFU)で表された蛍光強度を、Safireマイクロプレートリーダー(Tecan)を用いて読み取った。蛍光シグナル最大値の50%に達した際のリポカリンムテイン濃度(EC50)を得るために、RFU=RFUmax×c(リポカリンムテイン)/(EC50+c(リポカリンムテイン))(相対蛍光最大値をRFUmaxとし、EC50値を自由パラメーターとする)に基づく一部位結合モデルを用いて、非線形回帰によって曲線を当てはめた。曲線の当てはめは、GraphPad Prism 4ソフトウェアを用いて実施した。
【0166】
要約すれば、ヒトPCSK9、ヒトPCSK9_D374Y変異体、マウスPCSK9、およびカニクイザルPCKS9に対するSEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、およびSEQ ID NO: 9の結合を検出することができたのに対し、陰性対照SEQ ID NO: 2は、これらの標的のいずれに対しても結合を示さなかった。当てはめたEC50値を下記の表3に示す。ヒトPCSK9およびカニクイザルPCSK9に対するEC50値は同程度であったことから、これらのリポカリンムテインがカニクイザルPCSK9と十分に交差反応性であることが示される。マウスPCSK9に対する親和性は同様であるか、または最低で10分の1の低さであるが、ヒトPCSK9_D374Y変異体に対するEC50値は、ヒトPCSK9に対して得られた値と同様である。
【0167】
【表3】
【0168】
実施例9: リポカリンムテインは、細胞ベースのアッセイ法において、Dil標識LDL取込みの下方調節からの回復をもたらした
PCSK9に結合するリポカリンムテイン(SEQ NO: 3、SEQ NO: 4、SEQ NO: 6、SEQ NO: 7、およびSEQ NO: 8)が、PCSK9の媒介による表面LDL-R分子数の減少を無効にし、その結果、下方調節されたLDL取込みをHepG2細胞において回復させる能力を、細胞ベースのアッセイ法を用いて実証した。SEQ ID NO: 2が、陰性対照しての機能を果たした。
【0169】
この点に関して、ポリ-d-リジンでコーティングした96ウェルプレート(Greiner, 955946)の10%FCS(Fetal calf serum)を含む100μl/ウェルDMEM(PAN P04-04510)中に、60,000細胞/ウェルの密度でHepG2細胞を播種した。24時間後、1%FCSを含むDMEM(100μl/ウェル)に培地を交換した。18時間後、培地を除去し、(洗浄段階を行わずに)20μg/ml LDL-Bodipy(登録商標)FL(Invitrogen, L3483)を含むがFCSを含まないDMEM 50μlに交換した。濃度4000nMから開始して、リポカリンムテインの1:2段階希釈を実施した。15 μg/ml PCSK9を含むDMEM中で1つの希釈系列を調製し、純粋なDMEM中でもう1つの希釈系列を対照として調製した。リポカリンムテインおよびPCSK9を室温で30分間プレインキュベートし、次いで、50μlを細胞に添加して、その結果、PCSK9の最終濃度を100nMとした。プレート上の試料体積の合計は100μlであり、試料はすべて、5回反復して測定した。LDLおよびPCSK9を含まないDMEM、LDLおよびPCSK9を含むDMEM、およびLDLを含むがPCSK9を含まないDMEM中の細胞を対照として使用した。
【0170】
試料を入れたプレートを37℃で6時間インキュベートした後、細胞をPBSで洗浄した。ウェルをPBS 100μlで満たし、BMG PheraStarリーダーを用いて、細胞の蛍光を485/535 nmで読み取った。
【0171】
IC50値を決定するために、5回の反復実験の最高値および最低値を除外し、残る各データポイントの平均値および標準偏差を算出した。非線形回帰「シグモイド用量反応、可変勾配」モデル(5PL当てはめ)を用いてGraphPad Prism 4によって曲線を当てはめた。刺激された細胞および刺激されなかった細胞(PCSK9を伴う/伴わない細胞)の値を用いて、データを標準化した。当てはめた曲線を
図4に示し、算出したIC50値を下記の表4に要約する。
【0172】
【表4】
【0173】
実施例10: その他のリポカリンムテインのPCSK9に対する親和性
ビオチン標識ヒトPCSK9(hPCSK9-Bio)に対するその他のリポカリンムテインの結合親和性を測定するために、Biacore T200装置(GE Healthcare)を利用して、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくアッセイ法を用いた。SPR親和性アッセイ法(
図5(A〜C))のために、Biotin CAPtureキット(GE Healthcare)を使用した。
【0174】
各測定サイクルにおいて、Biotin CAPture試薬(GE Healthcare)を、センサーチップCAP(GE Healthcare)の参照流路および測定流路に流速2μl/分で5分間、添加した。濃度1μg/mlのhPCSK9-Bioを流速10μl/分で2分間、測定流路に注入した。親和性を測定するために、SEQ ID NO: 13〜28のリポカリンムテインの3〜4つの希釈物(表5を参照されたい)をHBS-EP+緩衝液中で調製し、前記ムテインの濃度128nM、32nM、8nM、および2nMを用いて、チップ表面に添加した。3分の接触時間、15分の解離時間を用い、流速30μl/分を適用して、結合アッセイ法を実施した。測定はいずれも25℃で実施した。0.25M NaOHを含む6Mグアニジン-HClを注入し(2分)、続いて泳動用緩衝液で追加洗浄し、2分の安定化期間を与えることによって、センサーチップCAP表面の再生を実現した。各測定前に、3回の連続的な再生段階からなる1回のコンディショニングサイクルを実施した。Biacore T200評価ソフトウェア(V1.0)を用いてデータを評価した。二重の参照を使用した。1:1結合モデルを用いて、生データを当てはめた。
【0175】
リポカリンムテインの一部に関して得られた当てはめ曲線を
図5に示す。すなわち、SEQ ID NO: 13(
図5C)、SEQ ID NO: 20(
図5A)、およびSEQ ID NO: 22(
図5B)は、高い親和性でヒトPCSK9に結合した。すべてのムテインの結合速度定数k
aまたはk
on、解離速度定数k
dまたはk
off、および結果として得られた解離定数K
Dを表5にまとめて示す。
【0176】
【表5】
【0177】
実施例11: その他のリポカリンムテインのPCSK9に対する種交差反応性
ビオチン標識したヒトPCSK9、カニクイザルPCSK9、およびマウスPCSK9に対するリポカリンムテインSEQ ID NO: 13、SEQ ID NO: 20、およびSEQ ID NO: 22の結合親和性を測定するために、Biacore T200装置(GE Healthcare)を利用して、表面プラズモン共鳴 (SPR)に基づくアッセイ法を用いた。SPR親和性アッセイ法(
図6(A〜C))のために、Biotin CAPtureキット(GE Healthcare)を使用した。
【0178】
下記の実験プロトコールにおいて、捕捉段階、試料結合段階、および再生段階、ならびにデータ評価は、実施例10において前述したようにして実施した。親和性を測定するために、前記ムテインの4つの希釈物をHBS-EP+緩衝液中で調製し、それぞれ濃度128nM、32nM、8nM、および2nMを用いて、チップ表面に添加した。
【0179】
SEQ ID NO: 20について得られた当てはめ曲線をそれぞれ
図6に示す。このデータから、SEQ ID NO: 20が、高い親和性でヒトPCSK9(
図6A)およびカニクイザルPCSK9(
図6B)に結合したことが示されている。マウスPCSK9に対する親和性(
図6C)の方が低い。結合速度定数k
aまたはk
on、解離速度定数k
dまたはk
off、および結果として得られた解離定数K
Dを下記の表6にまとめて示す。
【0180】
【表6】
【0181】
実施例12: 溶液中のPCSK9へのその他のリポカリンムテインの結合
溶液中のビオチン標識ヒトPCSK9(hPCSK9-Bio)に対するリポカリンムテインおよびそのPEG化変種(ここでは、分枝PEG40を有するもの)の結合を、競合的電気化学発光(ECL) アッセイ形式を用いてインビトロで試験した(
図7)。この実験では、一定の濃度のhPCSK9-Bioを、様々な濃度のリポカリンムテインSEQ ID NO: 13、SEQ ID NO: 20、およびSEQ ID NO: 22、ならびにPEG化変種SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 31、およびSEQ ID NO: 32と共に1時間インキュベートした。溶液中でのこのプレインキュベーションの後、一定量のリポカリンムテイン/PCSK9混合物を、基準モノクローナル抗体(SEQ ID NO: 29の軽鎖およびSEQ ID NO: 33の重鎖を含む)でコーティングしたECLプレートに移して、リポカリンムテイン(PEG化型ならびに非PEG化型)によって妨害されず、したがって抗体が依然として結合することができるhPCSK9の濃度を測定した(
図7)。これらのリポカリンムテインの競合的な作用様式を、hPCSK9-Bioを用いて示した。
【0182】
インキュベーション段階はすべて、300rpmで振盪しながら実施し、各インキュベーション段階の後に、Biotek ELx405 select CW洗浄機を用いてPBS-T緩衝液(PBS、0.05%Tween20)80μlでプレートを5回洗浄した。第1段階において、PBSに溶かした濃度5μg/mlの基準抗体20μlで、4℃で一晩、384ウェルMSDプレートをコーティングした。洗浄後、PBS-T/BSA(0.05%Tween20を含むPBSに溶かした2%BSA)60μlを用いて、室温で1時間、LDL-Rでコーティングしたウェルをブロックした。
【0183】
一定濃度の10pM hPCSK9-Bioを、開始濃度100nM(これをPBS-T/BSA緩衝液中で1.7pMに薄まるまで1:3の比率で段階的に希釈した)を用いて、様々な濃度の前記ムテインと共に溶液中でインキュベートした。室温で1時間インキュベーションした後、抗体でコーティングしたELISAプレートに反応混合物20μlを移して、結合していない(遊離の)PCSK9を室温で20分間捕捉した。ELISAの読み取り結果を遊離hPCSK9の濃度に変換することを可能にするために(下記の、結合したhPCSK9-Bioの検出および定量を参照されたい)、10nMから始まる様々な濃度のhPCSK9-Bio(1:3の段階希釈を11段階)を含む検量線を、PBS-T/BSA中で調製し、MSDプレート(MesoScaleDiscovery)上で20分間インキュベートした。
【0184】
結合したhPCSK9-Bioの検出および定量を可能にするために、残りの上清を廃棄し、スルホタグ標識ストレプトアビジン(Meso Scale Discovery)20μlをPBS-T/BSA中1μg/mlの濃度で添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、界面活性剤を含む2×MSD読取り緩衝液(Meso Scale Discovery)35μlを各ウェルに添加し、SECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)を用いて15分以内に電気化学発光(ECL)シグナルを測定した。
【0185】
評価は次のようにして実施した:遊離PCSK9濃度c(PCSK9)
freeを、並行して測定してリポカリンムテイン濃度c(リポカリンムテイン)に対してプロットした検量線を用いて、ECLシグナルから算出した。PCSK9/基準抗体複合体の形成が50%妨害されるリポカリンムテイン濃度(IC50)を得るために、c(PCSK9)
free=c(PCSK9)
tot/(1+c(リポカリンムテイン)/IC50))(トレーサー合計濃度をc(PCSK9)
totとし、IC50値を自由パラメーターとする)に基づく一部位結合モデルを用いて、非線形回帰によって曲線を当てはめた。曲線の当てはめは、GraphPad Prism 4ソフトウェアを用いて実施した。
【0186】
要約すれば、リポカリンムテインSEQ ID NO: 13、SEQ ID NO: 20、およびSEQ ID NO: 22、ならびにPEG化変種SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 31、およびSEQ ID NO: 32は、基準抗体(SEQ ID NO: 29およびSEQ ID NO: 33を含む)に対して競合させた場合、hPCSK9-Bioに対して強い競合的結合を示した。当てはめたIC50値を下記の表7にまとめて示す。
【0187】
【表7】
【0188】
実施例13: その他のリポカリンムテインによる、PCSK9の媒介によるLDL-Rの下方調節の阻害
ヒトPCSK9は、LDL-Rの内部移行、したがって、細胞表面からのLDL-Rの減少を引き起こす。実施例12で言及したリポカリンムテイン(PEG化型(ここでは、分枝PEG40を有するもの)ならびに非PEG化型)の存在下で、このアッセイ法においてLDL-R発現を評価して、LDL-Rの細胞表面での減少をもたらす際のPCSK9活性をリポカリンムテインが阻害する効力を測定した。その際、SEQ ID NO: 2を陰性対照として使用した。
【0189】
100μg/mlポリ-d-リジンで予めコーティングした384ウェルMSD(Mesoscale Discovery)プレートに、HEPG2細胞(10,000細胞/ウェル)を24時間付着させた。次いで、完全培地(1mg/ml G418および10%FBSを含むDMEM)を、血清を欠くDMEMまたは10%のリポタンパク質欠損血清を含むDMEMのいずれかに交換して、細胞表面でLDL-Rを最大限に発現させた。次いで、細胞をPBSで洗浄し、リポカリンムテイの希釈系列を100nM PCSK9の存在下、37℃で6時間、インキュベートした。次いで、穏やかに軽くたたいて落とすことによって混合物を廃棄し、次いで、Roti(登録商標)-Histofixを室温で20分間添加することによって、細胞の固定を行った。細胞をPBSで2回洗浄し、ブロッキング緩衝液(PBS/FCS4%/BSA2%)と共に4℃で一晩インキュベートした。緩衝液をそっと廃棄し、ブロッキング緩衝液に溶かした1μg/mlのヤギ抗hLDL-R(R&D systems、カタログ番号AF2148)および2μg/mlのロバ抗ヤギスルホタグ(MSD、カタログ番号R32AG-1)の混合物を、室温で1時間インキュベートした。次いで、細胞をPBSでそっと2回洗浄し、界面活性剤を含まない読取り緩衝液(MSD)を添加した。SECTOR Imager 2400(MSD)を用いて、ECLシグナルを測定した。評価は次のようにして実施した:競合相手(ここではリポカリンムテイン)の非存在下でのPCSK9活性に関して測定されたシグナルを100%のPCSK9活性に設定することによって、ECLシグナルを変換した。GraphPad Prism4ソフトウェアを用いて、共通の傾きを有するシグモイド用量反応モデルを用いてデータを当てはめた(
図8)。得られたIC50値およびIC90値を下記の表8にまとめて示す。
【0190】
【表8】
【0191】
実施例14: 位置的飽和変異誘発(saturation mutagenesis)による、熱安定化されたPCSK9特異的リポカリンムテインの作製
PCSK9特異的ムテインの熱安定性を向上させるために、(
図14に示すように)SEQ ID NO: 13のリポカリンムテインの位置79および位置105を変異させた。それ自体でまたはポリメラーゼ連鎖反応におけるNNKオリゴヌクレオチドの反復的組立ての使用(例えば、WO2007/107563を参照されたい)と組み合わせて、前述の位置が最大限に(saturated)ランダム化される様式で、SEQ ID NO: 13の熱安定化させた誘導体のライブラリーを作製した。同じ目的のために、(
図14に示すように)SEQ ID NO: 22のリポカリンムテインの位置92をヒスチジンからプロリンに変異させた。
【0192】
実施例15: スクリーニングによる、熱安定化されたPCSK9特異的ムテインの同定
実施例14で説明したような、PCR組立て後に得られたライブラリー調製物の変異誘発した中央のカセットを、(実施例5で説明したように)テトラサイクリンプロモーターの制御下でリポカリンムテインを細菌に産生させることを可能にするベクターに挿入した。
【0193】
最適化されたリポカリンムテインの親和性を順位付けするために、PBSで希釈した抗Strepタグ抗体(IBA, Goettingen)をマイクロタイタープレートに塗り、BSAでブロックした培養物20μlを添加し、プレート上でリポカリンムテインを特異的に捕捉させた。様々な濃度(0.5〜5nM)のビオチン標識PCSK9タンパク質を添加し、徹底的に洗浄した後、エクストラアビジン(extravidin)-HRP(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)を用いて、特異的に結合したPCSK9タンパク質を検出した。定量のために、QuantaBlu 20μlを添加し、励起波長320nmおよび発光波長430nmで測定した。
【0194】
PCSK9標的とのインキュベーションの前に30分間、リポカリンムテインを含む細菌抽出物を65℃まで加熱したことを唯一の相違点とする、前述したのと同じ方法で、熱安定化されたリポカリンムテインの選択を実施した。加熱されていない試料と比べて、加熱段階後に結合シグナルが影響を受けなかったムテインを、配列決定のために選択した。
【0195】
実施例16: 最適化されたPCSK9特異的ムテインの融解温度の測定
PCSK9特異的ムテインの融解温度を測定するために、PBS(Gibco)に溶かしたタンパク質濃度1mg/mlの試料を、キャピラリーナノDSC装置(Q2000, TA Instruments)を用いて、1C/分で走査した(25〜100℃)。内蔵型のソフトウェアによって、表示されたサーモグラムから融解温度(Tm)を算出した。
【0196】
2種のリポカリンムテイン(SEQ ID NO: 22およびSEQ ID NO: 13)ならびに最適化されたそれらの誘導体(SEQ ID NO: 62〜71)について得られた融解温度を、下記の表9にまとめて示す。例えば、このデータから、SEQ ID NO: 63、SEQ ID NO: 64、およびSEQ ID NO: 65のTmがSEQ ID NO: 13と比べて有意に高かったこと、ならびに融解の始まりが最大で13℃変化したことが示されている(
図12)。
【0197】
【表9】
【0198】
実施例17: PCSK9に対する最適化されたリポカリン誘導体の親和性
ビオチン標識ヒトPCSK9に対するリポカリンムテインの代表的なグループの結合親和性を測定するために、Biacore T200装置(GE Healthcare)を利用して、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくアッセイ法を用いた。SPR親和性アッセイ法のために、Biotin CAPtureキット(GE Healthcare)を使用した。
【0199】
各測定サイクルにおいて、Biotin CAPture試薬(GE Healthcare)を、センサーチップCAP(GE Healthcare)の参照流路および測定流路に流速2μl/分で5分間、添加した。濃度4μg/mlのビオチン標識PCSK9を流速10μl/分で2分間、測定流路に注入した。親和性を測定するために、HBS-EP+(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20)緩衝液中で、SEQ ID NO: 62〜71の3〜4つの希釈物を調製し、最終濃度128nM、32nM、8nM、および4nMを用いて、チップ表面に添加した。3分の接触時間、20分の解離時間を用い、流速30μl/分を適用して、結合アッセイ法を実施した。測定はいずれも25℃で実施した。0.25M NaOHを含む6Mグアニジン-HClを注入し(2分)、続いて泳動用緩衝液で追加洗浄し、2分の安定化期間を与えることによって、センサーチップCAP表面の再生を実現した。各測定前に、3回の連続的な再生段階からなる1回のコンディショニングサイクルを実施した。Biacore T200評価ソフトウェア(V1.0)を用いてデータを評価した。二重の参照を使用した。1:1結合モデルを用いて、生データを当てはめた。
【0200】
SEQ ID NO: 62〜71のリポカリンムテインに関して得られた当てはめ曲線をそれぞれ
図13(A〜J)に示す。このデータから、熱安定化されたリポカリンムテイン(SEQ ID NO: 62〜71)の親和性が、SEQ ID NO: 13およびSEQ ID NO: 22のリポカリンムテインと比べて完全に保持されていることが示されている。結合速度定数はk
aまたはk
onであり、解離速度定数はk
dまたはk
offである。前記リポカリンムテインの得られた解離定数K
Dを以下の表10にまとめて示す。
【0201】
【表10】
【0202】
実施例18: 大腸菌におけるPCSK9特異的Tlcムテインの作製
PCSK9特異的リポカリンムテイン(SEQ ID NO: 62、82、83、および84)を大腸菌において発現させた。各リポカリンムテインをコードするDNA(それぞれ、SEQ ID NO: 86、87、88、および89)を、T5プロモーター(SEQ ID NO: 62、82、および84の場合)またはT7A3プロモーター(SEQ ID NO: 83の場合)の制御下でムテインを細菌に産生させることを可能にする同様に切断したベクターに挿入した。陰イオン交換カラム、フェニルセファロースカラム、ゲルろ過カラム、およびキレート化カラムを用いたカラムクロマトグラフィー法の組合せによって(SEQ ID NO: 82およびSEQ ID NO: 84の場合)、細胞溶解物からムテインを精製した。最後に、精製したムテインをPBS中で可溶化した。
【0203】
実施例19: Biacore解析
手順はすべて、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて25℃で実施した。HBS-EP+緩衝液(10mM HEPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、および0.05% surfactant P20)を泳動用緩衝液として使用した。標識試薬であるEZ-リンクスルホ-NHS-LC-LC-ビオチン(Thermo Scientific)を用いる一般的な様式で、PCSK9タンパク質のビオチン標識を実施し、脱塩スピンカラムによって、未反応の試薬を除去した。Biotin CAPtureキット(GE Healthcare)を用いて、ビオチン標識PCSK9リガンドをセンサーチップに固定した。ss-DNAオリゴが予め固定されたCAPセンサーチップ上のフローセルを、ストレプトアビジンとコンジュゲートさせた相補的ss-DNAオリゴとハイブリダイズさせ、続いて、ビオチン標識リガンドを注入した。
【0204】
捕捉実験のために、ストレプトアビジン-DNAコンジュゲートを2つのフローセルに20秒間注入し;ビオチン標識PCSK9試料を泳動用緩衝液で1ng/μlに希釈し、次いで、一方のフローセルには10μl/分で1分間注入し、もう一方のフローセルには捕捉試料を加えないままにして参照表面を提供した。捕捉プロトコールは、20RU以下のRmax値が得られるリガンド試料の捕捉レベルをもたらすように設計した。
【0205】
各動態学的実験において、0.03nM〜100nMの範囲の様々な濃度の精製したPCSK9特異的リポカリンムテインを分析物として調製し、30μl/分で300秒間注入し、次いで30分間解離させた。0.25M水酸化ナトリウム中6M塩酸グアニジンを2分間適用して(pulse)、捕捉表面および参照表面を再生した。
【0206】
1:1ラングミュア結合モデルを用いて、解離定数(KD)を算出した。Biacore T200評価ソフトウェア(バージョン1.0、GE Healthcare)を用いて生データセットを解析し、試料を捕捉したフローセルのセンサーグラムから、参照フローセルのセンサーグラムを引いた。
【0207】
実施例20: 無細胞PCSK9-LDLR TR-FRETアッセイ法
分泌されたPCSK9は、肝臓LDLRの分解を促進して、血清LDL-Cレベルの上昇をもたらす。したがって、PCSK9とLDLRの相互作用の邪魔をするPCSK9特異的リポカリンムテインにより、LDLRの原形質膜への再利用が高まって、LDL-C取込み(intake)が活性化され、最終的に循環血中LDL-C レベルが低下する。
【0208】
無細胞TR-FRETアッセイ法を用いて、PCSK9とLDLRの結合に対する、リポカリンムテイン(SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 82、SEQ ID NO: 83、およびSEQ ID NO: 84)の阻害効果を測定した。5倍モル過剰のEZ-リンクNHS発色性ビオチン試薬(Thermo Scientific)と共に室温で1時間インキュベーションすることによって、このアッセイ法で使用するビオチン標識hPCSK9(ビオチン-hPCSK9)を調製し、illustra NAPカラム(GE Healthcare Life Science)によって、過剰なビオチンを除去した。以前の報告で説明されているようにして(Fisher TS, et al., J. Biol. Chem. (2007) 282(28), 20502-20512)、ユーロピウムで標識したLDLR(Eu-LDLR)を調製した。
【0209】
無細胞PCSK9-LDLR TR-FRETアッセイ法は、384ウェル形式で実施した。最終濃度20nMのビオチン-hPCSK9を、結合緩衝液(10mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl、0.1mM CaCl
2、および0.05%(w/v)BSA)に溶かした数種類の濃度の試験リポカリンムテインと共に室温で2時間、34mg/mlのヒト血清アルブミンの存在下または非存在下でインキュベートした。次いで、10マイクロリットルの上記ビオチン-hPCSK9-リポカリン溶液および10マイクロリットルのEu-LDLR/Alexa-SA溶液(1.0nMのEu-LDLR、80nMのストレプトアビジン/Alexa Fluor 647コンジュゲート(Invitrogen)、10mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl、0.1mM CaCl
2、および0.05%(w/v)BSA)をウェル中で混合し、暗所、室温で2時間インキュベートし、続いて、冷蔵庫中で一晩インキュベートした。BMG Lab Systems Rubystarリーダーセットを用いて試料を読み取って、50μsの積分遅滞および200μsの積分時間で、合計読取り時間1100ms/ウェルの間、20フラッシュ/ウェルを読み取った。665/620nmにおける発光比を測定することによってFRETを定量した。以下の式によってTR-FRET比を算出した。
TR-FRET比=(665nmにおける計数値/620nmにおける計数値)×10,000
【0210】
PCSK9/LDLR複合体の形成が50%妨害されるリポカリンムテイン濃度(IC50)を得るために、一部位結合モデルを用いて、非線形回帰によって曲線を当てはめた。曲線の当てはめは、Kaleida Graphバージョン4.1.1ソフトウェア(Synergy Software)を用いて実施した。
【0211】
得られたIC50の計算値を実施例21の下の表11にまとめて示す。
【0212】
実施例21: PCSK9特異的リポカリンムテインのインビボでの血漿半減期
リポカリンムテインを、特定の身体領域、生物、組織、器官、または細胞を標的とすることができる部分とコンジュゲートさせることによって、体内のリポカリンムテインの半減期を延ばすことができる。例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)の半減期は約19日であると報告されており(Biochimica et Biophysica Acta 1830; 5526-5534, 2013)、したがって、PCSK9特異的リポカリンムテイン(SEQ ID NO: 62およびSEQ ID NO: 82)を、HSAに結合するアルブミン結合タンパク質(G148およびSEQ ID NO: 85など)にコンジュゲートさせ、その結果、リポカリンムテインの体内での長い(long)半減期を延ばすことができる。
【0213】
アルブミン結合タンパク質とコンジュゲートさせることの効果を観察するため、およびPCSK9特異的リポカリンムテインの血漿中の長い(long)半減期を測定するために、いくつかの試験リポカリンムテインを正常ラットに静脈内投与し、サンドイッチELISAを用いてリポカリンムテインの血漿濃度を測定した。試験リポカリンムテインの投与後、様々な時点に、血漿半減期を測定するための血液試料採取を行った。
【0214】
4種のリポカリンムテインの得られた血漿半減期を以下のとおり表11にまとめて示す。例えば、このデータから、HASに結合できる部分とコンジュゲートさせたリポカリンムテインの方が、リポカリンムテイン単独よりも長い半減期を示すことが示されている。
【0215】
【表11】
【0216】
本明細書において例示的に説明する態様は、本明細書において具体的に開示しない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限の非存在下で、適切に実施することができる。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などの用語は、包括的に、かつ非限定的に読み取られるものとする。さらに、本明細書において使用される用語および表現は、限定するのではなく説明する用語として使用されており、そのような用語および表現を使用する際、示し説明する特徴またはその一部分の任意の等価物を除外する意図はないが、請求される本発明の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。したがって、本発明の態様は好ましい態様および任意の特徴によって具体的に開示されるが、その修正および変更を当業者は行ってもよいこと、ならびにそのような修正および変更が本発明の範囲内であるとみなされることを理解すべきである。本明細書において説明したすべての特許、特許出願、教科書、および同領域の専門家によって審査された刊行物は、全体が参照により本明細書に組み入れられる。さらに、参照により本明細書に組み入れられる参考文献におけるある用語の定義または使用が、本明細書において提供されるその用語の定義と一致しないか、または異なる場合、本明細書において提供されるその用語の定義が適用され、その参考文献におけるその用語の定義は適用されない。また、一般的開示(generic disclosure)の範囲に入る下位種(narrower species)および亜属のグループ(groupings)のそれぞれも、本発明の一部分をなす。これは、属から任意の題目(subject matter)を除く条件または否定的限定を伴う本発明の一般的な説明を、削除される題材(material)が本明細書において具体的に挙げられているかどうかに関わらず、含む。さらに、特徴がマーカッシュ群によって説明される場合、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーの下位集団の観点からも、開示内容がそれによって説明されることを、当業者は認識すると考えられる。さらなる態様は、以下の特許請求の範囲から明らかになる。