特許第6619875号(P6619875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6619875積層構造体、高分子アクチュエータ素子、センサ素子、および機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619875
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】積層構造体、高分子アクチュエータ素子、センサ素子、および機器
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20191202BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20191202BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   B32B7/025
   B32B27/18 J
   H02N11/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-513061(P2018-513061)
(86)(22)【出願日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2017009398
(87)【国際公開番号】WO2017183351
(87)【国際公開日】20171026
【審査請求日】2018年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-84180(P2016-84180)
(32)【優先日】2016年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 功
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−034368(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/031270(WO,A1)
【文献】 特開2009−216964(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113416(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08K 5/02
C08L 101/00
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の2つの主面のそれぞれの上に設けられた電極層とを備える積層構造体であって、
電解質層は、複数のイオン液体を含有する混合イオン液体および電解質用ベースポリマーを備え、
前記電極層は、いずれも、ベースポリマーとカーボン材料と前記混合イオン液体とを備え、
前記混合イオン液体の融点Tmmは、前記複数のイオン液体のうち、融点が最も低い第1イオン液体の融点Tm1よりも低く、
前記混合イオン液体の融点Tmmと前記第1イオン液体の融点Tm1とは、下記式を満たすことを特徴とする積層構造体。
Tmm1≦Tmm≦Tmm1+(Tm1−Tmm1)/2
(ここで、Tmm1は、前記混合イオン液体を構成する前記複数のイオン液体の配合量を変化させて得られる混合イオン液体のうち、融点が最も低い第1混合イオン液体の融点である。)
【請求項2】
電解質層と、前記電解質層の2つの主面のそれぞれの上に設けられた電極層とを備える積層構造体であって、
電解質層は、複数のイオン液体を含有する混合イオン液体および電解質用ベースポリマーを備え、
前記電極層は、いずれも、ベースポリマーとカーボン材料と前記混合イオン液体とを備え、
前記混合イオン液体の融点Tmmは、前記複数のイオン液体のうち、融点が最も低い第1イオン液体の融点Tm1よりも低く、
前記混合イオン液体は、トリフレート系アニオンを含み、
前記混合イオン液体は、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMI−TfO)および1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(BMI−TfO)を含有し、
前記混合イオン液体に含有される、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMI−TfO)の重量の1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(BMI−TfO)の重量の比は、1.5以上4以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項3】
前記混合イオン液体は、複数種類のカチオンを含む、請求項1または2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記混合イオン種は、複数種類のイミダゾリウム系カチオンを含む、請求項3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記電極層はカーボン材料を含有し、前記カーボン材料の重量に対する前記混合イオン液体の重量の比は0.5以上3以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の積層構造体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載される積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子。
【請求項7】
請求項6に記載される高分子アクチュエータ素子を可動部として備える機器。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載される積層構造体を備えるセンサ素子。
【請求項9】
請求項8に記載されるセンサ素子を計測部として備える機器。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載される積層構造体を備え、前記積層構造体をアクチュエータ素子として機能させることおよびセンサ素子として機能させることが可能な機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータ素子の構成要素となりうる積層構造体、上記の積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子およびセンサ素子、ならびにこれらの素子を備える機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電解質層と電極層とを有する高分子アクチュエータ素子において、前記電極層には、活性化処理されたカーボンナノファイバーとカーボンナノホーンを含むことを特徴とする高分子アクチュエータ素子が記載されている。この高分子アクチュエータ素子においては、電解質層がイオン液体とベースポリマーとを有し、電極層が、活性化されたカーボンナノファイバー(ANCF)、カーボンナノホーン(CNF)、イオン液体及びベースポリマーとを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/104331号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような高分子アクチュエータ素子は、素子サイズを小型化することが容易であって、しかもモーターなどの駆動機器に備えるアクチュエータ素子とは異なる柔らかな動作が可能であることから、様々な用途が期待されている。このため、高分子アクチュエータ素子は、例えば低温環境などの多様な環境においても安定的に動作しうることが好ましい。
しかしながら、高分子アクチュエータ素子の電解質として、安全性と動作効率等に優れることから一般的に使用されるイオン液体は、高分子アクチュエータ素子における通常想定される使用環境温度範囲(−5℃〜45℃)内またはその近傍に融点を有する。このため、融点付近以下の温度では粘度上昇に伴う高分子アクチュエータ素子の動作特性の低下が生じてしまう。
【0005】
本発明は、低温環境における動作安定性を高めることが可能な高分子アクチュエータ素子(本明細書において「低温特性に優れる高分子アクチュエータ素子」ともいう。)の構成要素となりうる積層構造体を提供することを目的とする。
本発明は、上記の積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子およびセンサ素子、ならびにこれらの素子を備える機器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために提供される本発明の一態様は、電解質層と、前記電解質層の2つの主面のそれぞれの上に設けられた電極層とを備える積層構造体であって、電解質層は、複数のイオン種を含有する混合イオン液体および電解質用ベースポリマーを備え、前記電極層は、いずれも、ベースポリマーとカーボン材料と前記混合イオン液体とを備え、前記混合イオン液体の融点Tmmは、前記複数のイオン種のそれぞれからなるイオン液体のうち、融点が最も低い第1イオン液体の融点Tm1よりも低いことを特徴とする積層構造体である。
【0007】
高分子アクチュエータ素子は、その内部に含まれるイオン液体が電解質層を挟んで対に配置された電極層に印加された電位差によって分極して移動することが動作原理の一つと考えられている。したがって、高分子アクチュエータ素子の変形しやすさの一因子として、イオン液体の流動性が挙げられる。それゆえ、高分子アクチュエータ素子の構成要素となる積層構造体に含有されるイオン液体の融点を低温化することにより、積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子が低温環境下に置かれた場合であっても、高分子アクチュエータ素子の動作安定性を高めることができる。
【0008】
そこで、積層構造体に含有されるイオン液体を複数のイオン液体からなる混合イオン液体として、混合イオン液体の融点Tmmを、複数のイオン種のそれぞれからなるイオン液体のうち、融点が最も低い第1イオン液体の融点Tm1よりも低いものとすることにより、低温特性に優れる高分子アクチュエータ素子の構成要素となりうる積層構造体が得られる。
【0009】
低温特性に優れる高分子アクチュエータ素子の構成要素となりうる積層構造体を安定的に得る観点から、前記混合イオン液体の融点Tmmと前記第1イオン液体の融点Tm1とは、下記式を満たすことが好ましい。
Tmm1≦Tmm≦Tmm1+(Tm1−Tmm1)/2
(ここで、Tmm1は、前記混合イオン液体を構成する前記複数のイオン液体の配合量を変化させて得られる混合イオン液体のうち、融点が最も低い第1混合イオン液体の融点である。)
【0010】
前記混合イオン液体は、複数種類のカチオンを含んでいてもよい。この場合において、前記混合イオン種は、複数種類のイミダゾリウム系カチオンを含むことが好ましい場合がある。
【0011】
上記の積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子の動作安定性を長期にわたって確保することを容易にする観点から、前記混合イオン液体は、トリフレート系アニオンを含むことが好ましい場合がある。この場合において、前記混合イオン液体は、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMI−TfO)および1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(BMI−TfO)を含有し、前記混合イオン液体に含有される、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMI−TfO)の重量の1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(BMI−TfO)の重量の比は、1.5以上4以下であることが好ましい。
【0012】
上記の積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子の動作安定性をより安定的に確保する観点から、前記電極層はカーボン材料を含有し、前記カーボン材料の重量に対する前記混合イオン液体の重量の比は0.5以上3以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の一態様は、上記の積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子である。本発明の別の一態様は、上記の高分子アクチュエータ素子を可動部として備える装置である。本発明のまた別の一態様は、上記の積層構造体を備えるセンサ素子である。本発明のさらに別の一態様は、上記のセンサ素子を計測部として備える機器である。本発明のさらにまた別の一態様は、上記の積層構造体を備え、前記積層構造体をアクチュエータ素子として機能させることおよびセンサ素子として機能させることが可能な機器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低温特性に優れる高分子アクチュエータ素子の構成要素となりうる積層構造体が提供される。また、本発明によれば、上記の積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子およびセンサ素子、ならびにこれらの素子を備える機器も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る高分子アクチュエータ素子の部分断面図である。
図2】実施例に係る混合イオン液体における配合比率と融点との関係を示すグラフである。
図3】実施例に係る高分子アクチュエータ素子の動作の温度特性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る積層構造体について、図面を参照しつつ詳しく説明する。本発明の一実施形態に係る積層構造体は高分子アクチュエータの構成要素となりうる。以下の説明では、本発明の一実施形態に係る積層構造体からなる高分子アクチュエータを具体例とする。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る高分子アクチュエータ素子の部分断面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る高分子アクチュエータ素子1は、電解質層2と、電解質層2の厚さ方向(図1のZ方向)の両側表面に形成される電極層3、4と、を備える。電解質層2の主面のそれぞれに、電極層3、4の主面が対向するように、2つの電極層3、4と電解質層2とは積層されている。
【0018】
図1に示す例では、高分子アクチュエータ素子1の基端部5が固定端部であり、この基端部5が、固定支持部6、6にて片持ちで固定支持されている。両面の電極層3、4間に駆動電圧を印加すると、図1の点線に示すように、電解質層2と電極層3、4との間のイオン移動などによって電極層3と電極層4の間に容積差が生じ、これにより曲げ応力が発生して、高分子アクチュエータ素子1の自由端部である先端部7を湾曲変形させることができる。上記イオン移動で電極層3、4間に容積の差が生じる原理は一般に一義的ではないとされているが、代表的な原理要因の1つに、陽イオンと陰イオンのイオンサイズの差で容積に差が生じることが知られている。
【0019】
ここで、図1に示す固定支持部6は、電極層3、4と電気的に接続する接続部(給電部)として構成することができる。
【0020】
高分子アクチュエータ素子1の電解質層2は、複数のイオン液体を含有する混合イオン液体および電解質用ベースポリマーを有する。この電解質層2は、例えば10〜30μmの厚さで形成する。
【0021】
混合イオン液体の組成は、混合イオン液体の融点Tmm(単位:℃)が、混合イオン液体を構成する複数のイオン液体のうち、融点が最も低い第1イオン液体の融点Tm1よりも低いことを満たす限り、任意である。このような混合イオン液体を用いることにより、実施例において後述するように、高分子アクチュエータの低温特性を向上させることができる。
【0022】
高分子アクチュエータ素子1の低温特性を向上させる手段としては、高分子アクチュエータ素子1を環境温度よりも高くする、すなわち外部から熱に変換されるエネルギーを加える(加温する)ことが一般的であった。そのような手段として、高分子アクチュエータ素子1外にヒータを設け、ヒータからの熱を支持部(固定支持部6)から高分子アクチュエータ素子1内に伝達させる方法、電極層3、4に電流路を形成したり漏れ電流を生じさせたりするなど電極層3、4に追加的な構成を備えさせて、電極層3、4内にジュール熱を発生させる方法、高分子アクチュエータ素子1を動作させるために印加する電圧に高周波信号を重畳してこの高周波信号によって高分子アクチュエータ素子1の構成要素(イオン液体など)を振動させて発熱する方法などが挙げられる。混合イオン液体を用いて高分子アクチュエータ素子1の低温特性を向上させる方法は、こうした方法とは全く異質な方法である。したがって、本発明の一実施形態に係る混合イオン液体を用いた高分子アクチュエータ素子1に対して、上記のような加温式の方法を用いることも可能である。
【0023】
混合イオン液体を構成しうるイオン液体の具体例として、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMI−TfO)、1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(BMI−TfO)、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)、エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)等が例示される。混合イオン液体を構成する複数のイオン液体は、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムイオン、1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムイオンなど複数種類のイミダゾリウム系カチオンを含むことが好ましい場合がある。高分子アクチュエータ素子1の動作安定性を長期にわたって確保することを容易にする観点から、混合イオン液体は、トリフレート系アニオンを含むことが好ましい場合がある。したがって、混合イオン液体の好ましい一具体例として、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMI−TfO)および1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(BMI−TfO)を含有する場合が挙げられる。以下、混合イオン液体がEMI−TfOおよびBMI−TfOからなる場合(以下、この混合イオン液体を「混合イオン液体1」ともいう。)を具体例として、説明を行う。
【0024】
EMI−TfOの融点は−10℃であり、BMI−TfOの融点は12℃である。したがって、混合イオン液体1を構成するイオン液体のうち、融点が最も低い第1イオン液体はEMI−TfOであり、混合イオン液体1の融点は、−10℃未満となるように、配合比率が決定されている。以下の説明では、混合イオン液体1におけるEMI−TfOの重量比率を「配合比率」という。
【0025】
図2は、配合比率を変化させた複数種類の混合イオン液体1の融点を、BMI−TfOからなるイオン液体(配合比率が0%の混合イオン液体1に相当する。)の融点およびEMI−TfOからなるイオン液体(配合比率が100%の混合イオン液体1に相当する。)の融点とともにプロットしたものである。図中の破線は、4次関数による近似曲線である。配合比率を変化させることにより、混合イオン液体1の融点も変化する。本明細書において、混合イオン液体を構成する複数のイオン液体の配合量を変化させて得られる混合イオン液体のうち、最も低い混合イオン液体を第1混合イオン液体という。混合イオン液体1では、配合比率を80%程度とすることにより、第1混合イオン液体が得られる。したがって、高分子アクチュエータ素子1の混合イオン液体として、この第1混合液体、またはこの第1混合液体に近い組成からなる混合イオン液体1を用いることが好ましい。
【0026】
この点に関し、高分子アクチュエータ素子1の混合イオン液体の融点Tmmは、第1イオン液体の融点Tm1および第1混合イオン液体の融点Tmm1と、下記式を満たすことが好ましい。
Tmm1≦Tmm≦Tmm1+(Tm1−Tmm1)/2
【0027】
混合イオン液体の融点Tmmが上記式を満たすことにより、その混合イオン液体を備える高分子アクチュエータ素子1の低温特性を高めることがより安定的に実現される。なお、図2に基づいて具体的に示せば、第1イオン液体の融点Tm1が−12℃で、第1混合イオン液体の融点Tmm1が−46℃程度なので、混合イオン液体1の融点Tmmが−46℃以上−29℃以下となるように、約60%から約87%の範囲に配合比率を設定することが好ましい。
【0028】
電解質用ベースポリマーの材料は限定されない。電解質用ベースポリマーの材料の例として、ポリフッ化ビニリデン、フィブリル化されたポリテトラフルオロエチレン(Fb−PTFE)電極層3、4が備えるようなFb−PTFE、フィブリル化されていないポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。電解質用ベースポリマーは複数種類の材料から構成されていてもよい。
【0029】
電解質層の2つの主面のそれぞれの上に設けられた電極層は、いずれも、電極層用ベースポリマーとカーボン材料と混合イオン液体とを備える。
【0030】
電極層用ベースポリマーを構成する材料として、電極層3、4が備えるようなFb−PTFE、フィブリル化されていないポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどが例示される。電極層用ベースポリマーは複数種類の材料から構成されていてもよい。電極層用ベースポリマーを構成する材料は電解質用ベースポリマーを構成する材料と共通であってもよい。
【0031】
カーボン材料を構成する材料として、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノ炭素材、などが例示される。カーボン材料は複数種類の材料から構成されていてもよい。カーボン材料を構成する材料は賦活処理によって活性化して表面積を増大させたものであってもよい。
【0032】
電極層3、4において、カーボン材料の重量に対する混合イオン液体の重量の比は0.5以上3以下であることが、応答性を確保しつつ変形量を適切に有する観点から好ましい場合がある。
【0033】
本発明の一実施形態に係る高分子アクチュエータ素子1は、各種機器の可動部として使用することができる。その動作は、モーターなどからなる可動部の動作とは異なり、柔らかで滑らかな動きである。しかも、変位量の割に可動部としての重量を低く抑えることができる。したがって、点字ディスプレイ、3次元ディスプレイ等立体的な表示機器、チョウ等の動物の動作や旗等の動作をリアリティ高く再現する動作機器などに好適に使用することができる。
【0034】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、本発明の一実施形態に係る積層構造体は、センサ素子としても機能しうる。具体的には、上記の高分子アクチュエータ素子1と共通の構造を有する積層構造体は、先端部7に外力が付与されて変形すると、これに応じて電極層3、4の間に電位差が生じる。この電位差を検出することにより、先端部の変形を定量的に測定することができる。積層構造体が給電機能を有する装置(電源)および計測機能を有する装置(計測器)に接続されている場合には、積層構造体は、高分子アクチュエータ素子として機能したりセンサ素子として機能したりすることができる。給電機能を有する装置が給電量を計測する機能を有していれば、積層構造体はセンサ素子としての機能およびアクチュエータ素子としての機能の双方を同時に発揮することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、以下の条件で、積層構造体からなる高分子アクチュエータ素子を製造した。各工程は、特に記載している場合を除いて常温・大気中で行った。
【0037】
(1)炭素含有フィルムの作製
i)第2混練工程
下記カーボン材料にベースポリマーを添加して混練を行い、混練物を得た。
カーボン材料:活性炭およびカーボンブラック
ベースポリマー:Fb−PTFE
【0038】
ここで、ベースポリマーの重量のカーボン材料の総重量に対する比は、0.11であった。
【0039】
ii)ペレット化工程
上記の混練工程により得られた混練物を、ペレタイザーを用いて加圧することによってペレットを得た。
【0040】
iii)膜状化工程
上記のペレット化工程で得られたペレットを一方向に偏って延伸させ、厚さ200μmの膜状体を得た。
【0041】
iv)含浸工程
上記で得られた膜状体に下記の混合イオン液体1を適量滴下することで含浸させ、炭素含有フィルムを作製した。
イオン液体:EMI−TfOとBMI−TfOとからなる混合イオン液体1であって、配合比率(混合イオン液体1全体に対するEMI−TfOの配合量の重量比率)が75%であるもの
【0042】
(2)高分子アクチュエータ素子の作製
i)積層工程
以下の構成の電解質層(厚さ:20μm)を用意した。
ベースポリマー:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)100mg
イオン液体:上記の混合イオン液体1 100mg
得られた電解質層の主面のそれぞれに、上記の混合イオン液体1を含浸させた炭素含有フィルムからなる電極層の主面が対向するように、2つの電極層と電解質層とを積層した。具体的には、一方の電極層(厚さ:200μm)を平面上に載置し、その上に電解質層を載置し、さらに他方の電極層(厚さ:200μm)を載置した。得られた積層部材を加圧することにより一体化して、厚さ420μmの積層体を得た。ここで、積層した2つの電極層は、それぞれに含有されるFb−PTFEの配向が揃うように配置した。
【0043】
ii)切断工程
上記の積層工程により得られた積層体の積層方向に沿う方向に、切断刃を用いて積層体を切断して、平面視形状が5mm×10mmの長方形の積層構造体からなる高分子アクチュエータ素子を得た。
【0044】
(比較例1)
実施例1における上記の混合イオン液体1に代えて、EMI−TfOからなるイオン液体を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、高分子アクチュエータ素子を得た。
【0045】
(比較例2)
実施例1における上記の混合イオン液体1に代えて、BMI−TfOからなるイオン液体を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、高分子アクチュエータ素子を得た。
【0046】
(測定例1)アクチュエータ素子の変位量の測定
実施例および比較例において作製した高分子アクチュエータ素子を、所定の環境温度と等しい温度となるように、無通電の状態で10分間放置した。その後、高分子アクチュエータ素子に対して5分間通電して、高分子アクチュエータ素子を駆動させたことによる発熱の影響を低減させてから変位量を測定し、測定された値をその環境温度での変位量とした。この測定を、−20℃から40℃の範囲まで10℃ごとに行った。得られた測定結果のうち、比較例1において作製した高分子アクチュエータ素子における環境温度が20℃の場合の変位量を基準(0dB)として他の測定結果を規格化し、実施例および比較例において作製した高分子アクチュエータ素子のそれぞれについて、変位量の環境温度依存性プロファイルを得た。得られた各プロファイルを図3に示した。
【0047】
図3に示されるように、複数のイオン液体を含む混合イオン液体を備える実施例1に係る高分子アクチュエータ素子は、1種類のイオン液体だけを含む比較例に係る高分子アクチュエータ素子よりも、低温側、特に10℃以下の領域での動作特性に優れることが確認された。また、混合イオン液体に含まれるイオン液体の融点のいずれよりも高い20℃以上の領域でも、1種類のイオン液体だけを含む比較例に係る高分子アクチュエータ素子と同等かそれ以上の動作特性を示すことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係る積層構造体を備える高分子アクチュエータ素子は低温特性に優れるため、高分子アクチュエータ素子の適用範囲広げることができる点で有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 高分子アクチュエータ素子
2 電解質層
3、4 電極層
5 基端部
6 固定支持部
7 先端部
図1
図2
図3