特許第6619908号(P6619908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6619908診断装置、診断方法および診断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6619908
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法および診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
   G01R31/34 A
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-166839(P2019-166839)
(22)【出願日】2019年9月13日
【審査請求日】2019年9月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】知識 陽平
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】園田 隆
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−61462(JP,A)
【文献】 特開2015−227889(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/069877(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第3474029(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01M 99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断装置であって、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するよう構成された実効値取得部と、
取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するよう構成された分布情報算出部と、
算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するよう構成された検知部と、を備える診断装置。
【請求項2】
前記診断対象機械が正常状態にある際の前記測定電流の第2所定期間での時間推移である正常電流波形における前記規定周期数毎の前記実効値の分布状態を表す正常分布情報を記憶するよう構成された記憶部を、さらに備え、
前記検知部は、前記対象分布情報と前記正常分布情報とに基づいて、前記異常検知を実行する請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記対象分布情報および前記正常分布情報は確率分布であり、
前記検知部は、前記対象分布情報と前記正常分布情報との距離に基づいて、前記異常検知を実行する請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記距離は相対ピアソン距離である請求項3に記載の診断装置。
【請求項5】
前記実効値取得部には、前記診断対象機械に接続された電流測定装置から前記測定電流の瞬時値または前記実効値である測定値が入力されるように構成されており、
前記実効値取得部は、
前記回転機械の回転開始から回転停止までの期間内に設定される第1稼働期間に入力される前記測定値に基づいて、前記正常電流波形に関する前記複数の実効値を取得する第1取得部と、
前記第1稼働期間の経過後で、かつ、前記回転停止までの間に設定される第2稼働期間に入力される前記測定値に基づいて、前記対象電流波形に関する前記複数の実効値を取得する第2取得部と、を有する請求項2〜4のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項6】
前記回転機械は、前記第1稼働期間と前記第2稼働期間との間は継続して回転している状態にある請求項5に記載の診断装置。
【請求項7】
前記実効値は、前記規定周期数の電流波形からのサンプリングにより得られた複数の前記測定電流の瞬時値に基づいて算出され、
前記サンプリングによるサンプリング数は、前記規定周期数を構成する1周期あたり900以上1200以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項8】
前記規定周期数は1である請求項1〜7のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項9】
前記分布情報算出部は、前記実効値取得部によって取得された400以上の前記実効値に基づいて、前記対象分布情報を算出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項10】
回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断方法であって、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するステップと、
取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するステップと、
算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するステップと、を備える診断方法。
【請求項11】
回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断プログラムであって、
コンピュータに、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するよう構成された実効値取得部と、
取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するよう構成された分布情報算出部と、
算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するよう構成された検知部と、を実現させるための診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械を有する装置の診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1〜2には、電動機などの回転機械の異常検知を回転機械の電流値に基づいて行う手法が開示されている。具体的には、特許文献1は、ファンモータを流れる電流の実効値と、この実効値が得られた際の電源周波数および電源電圧に応じて設定された閾値とを比較して、ファンモータのモータ異常の判定(検知)を行うことを開示する。また、特許文献2は、設備状態が変化すると、その電流波形の振幅確率密度関数も変化することから、電動機の定格電流の基準の正弦波から求めた参照振幅確率密度関数と、電動機の稼働時に計測した電流波形から求めた点検時振幅確率密度とのカルバック・ライブラー距離(情報距離)を算出することで、電動機の異常の検知を行うことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−050294号公報
【特許文献2】特開2011−257362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動機の電流値は負荷やモータの特性により大きく異なる。このため、電動機の異常検知を実効値の閾値監視で実施する場合、負荷やモータの特性ごとに閾値を設定する必要があるが、実際にはその数が膨大となるなど、個別に設定することは困難である。また、定格電流の正弦波を基準として異常度合いの計算を行う方法についても同様に、電流値が負荷やモータによって大きく異なるため、実際には正常と判定すべきところを異常と判定知してしまう可能性がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、回転機械を有する装置の測定電流に基づく異常検知精度が向上された診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係る診断装置は、
回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断装置であって、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するよう構成された実効値取得部と、
取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するよう構成された分布情報算出部と、
算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するよう構成された検知部と、を備える。
【0007】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る診断方法は、
回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断方法であって、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するステップと、
取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するステップと、
算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するステップと、を備える。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る診断プログラムは、
回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断プログラムであって、
コンピュータに、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するよう構成された実効値取得部と、
取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するよう構成された分布情報算出部と、
算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するよう構成された検知部と、を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、回転機械を有する装置の測定電流に基づく異常検知精度が向上された診断装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る診断装置および診断対象機械を含む診断系を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る診断装置の機能を概略的に示す図である。
図3A】本発明の一実施形態に係るある種類の異常についての電流の実効値の正常時と異常時とを対比して示す図である。
図3B】本発明の一実施形態に係る他の種類の異常についての電流の実効値の正常時と異常時とを対比して示す図である。
図4A】本発明の一実施形態に係る回転機械が異常時の実効値の確率密度分布を示す図である。
図4B】本発明の一実施形態に係る回転機械が正常時の実効値の確率密度分布を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る複数の診断対象機械の正常電流波形を対比して示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る診断の流れを説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態に係る診断方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る診断装置1および診断対象機械9を含む診断系6を概略的に示す図である。図2は、本発明の一実施形態に係る診断装置1の機能を概略的に示す図である。
【0013】
図1に示すように、診断装置1は、回転機械91を有する診断対象機械9を、その回転機械91の回転時の測定電流に基づいて診断する装置である。回転機械91は、例えば、供給された電気エネルギーを回転力に変換するモータやポンプなどの電動機、力学的エネルギー(機械エネルギー)により回転子を回転させることで、力学的エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機、このような発電機を回転駆動させるガスタービンや蒸気タービンなどである。また、診断対象機械9は、例えば、回転機械91を主要なコンポーネントとする電動機や発電機自体、このような電動機や発電機を備える例えば車両などの機械(装置)、蒸気タービンやガスタービンなどの回転軸に発電機の駆動軸が連結されて発電を行う発電装置などである。なお、発電装置は、例えば火力発電プラントやガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電プラントなどの発電プラントを構成するものであっても良い。
【0014】
例えば、図1に示すように、診断装置1は、例えば診断対象機械9が備える回転機械(電動機)に供給される交流電流や、回転機械(発電機)から出力される交流電流など、診断対象機械9における電流Iを測定可能な電流測定装置7に接続されることで、この電流Iをリアルタイムに監視するように構成されても良い。図1に示す実施形態では、診断対象機械9は、回転機械91である電動機を備える機械である。そして、この電動機と、電動機を回転駆動するための電力を入力(供給)する例えば配電盤、分電盤あるいは制御盤などとなる電気盤8とを接続する配線(電源線81)を流れる交流の電流Iを、小型クランプを用いて電流測定装置7で測定するようになっている。また、電流測定装置7は、測定した電流I(測定電流)の測定値Imを、有線または無線などの通信媒体71(図1では通信線)を介して診断装置1に送信(入力)するようになっている。
【0015】
例えば診断対象機械9が、回転機械91として、発電機、および、この発電機を回転駆動するガスタービンや蒸気タービンを備える場合には、発電機から電気盤8などに出力される電流Iを測定電流としても良い。つまり、診断対象機械9が、関連して回転する2以上の回転機械91を備える場合には、そのうちの一つの回転機械91から出力される電流I、あるいは、そのうちの一つの回転機械91に入力(供給)される電流Iを測定電流としても良い。例えば、蒸気タービン等による発電により生じる電流Iを測定することで、蒸気タービン等および発電機の両方が正常であるか否かを診断することが可能となり、少なくとも一方に異常が生じている場合の検知が可能となる。
【0016】
ただし、図1に示すような実施形態に本発明は限定されない。他の幾つかの実施形態では、診断対象機械9は、電流測定装置7に接続されていなくても良い。この場合、電流測定装置7による上記の測定によって、その測定値Imの時間推移のデータを記憶しておき、このデータを、例えばUSBメモリ、SDメモリ、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの持ち運び可能な記憶媒体を介して診断装置1に入力しても良い。あるいは、この測定値Imの時間推移のデータを、通信ネットワークを介して診断装置1が受信するように構成しても良い。
【0017】
以下、診断装置1について、図2を用いて詳細に説明する。
図2に示すように、診断装置1は、実効値取得部2と、分布情報算出部3と、検知部4と、を備える。この診断装置1は、コンピュータで構成されている。例えば、診断装置1は、図1に示すようなラップトップ型のコンピュータであっても良い。診断装置1が備える各機能部について、それぞれ説明する。
【0018】
なお、コンピュータは、図示しないCPUなどのプロセッサ11や、ROMやRAMといったメモリ(記憶装置12)などを備えている。そして、主記憶装置にロードされたプログラム(診断プログラム10)の命令に従ってプロセッサ11が動作(データの演算など)することで、上記の各機能部を実現する。換言すれば、上記の診断プログラム10は、コンピュータに上記の各機能部を実現させるためのソフトウェアであり、一時的な信号ではなく、コンピュータによる読み込みが可能で持ち運び可能な上記のような記憶媒体に記憶されても良い。
【0019】
実効値取得部2は、上述したような診断対象機械9の測定電流の所定期間(以下、第1所定期間)での時間推移である電流波形W(以下、対象電流波形Wt)における規定周期数毎の実効値Ieを取得するよう構成された機能部である。上記の規定周期数は1以上(1周期数以上)であり、第1所定期間は測定電流の規定周期数分の電流波形Wの複数分の時間以上を有する期間である。つまり、対象電流波形Wtは、複数周期に渡る測定電流の時間推移で形成(構成)される。よって、対象電流波形Wtにおいて時間軸に沿って並ぶ規定周期数分ごとの電流波形W(以下、単位電流波形Wu)に基づいて実効値Ieがそれぞれ算出されることで、対象電流波形Wtから複数の実効値Ieが得られる。
【0020】
例えば、上記の複数の実効値Ieの算出は、上記の実効値取得部2が行っても良い。この場合には、電流測定装置7から診断装置1に入力される電流の測定値Imは電流の瞬時値である。そして、実効値取得部2は、対象電流波形Wtの全体を取得した後、取得した対象電流波形Wtを形成する複数の単位電流波形Wuを、時間軸に沿って重複する部分がないように識別した上で、その各々の単位電流波形Wuの実効値Ieを算出しても良い。または、実効値取得部2は、対象電流波形Wtの各部分を時間の経過に従って順次取得しつつ、得られた単位電流波形Wuについての実効値Ieの算出を順次行っても良い。
【0021】
あるいは、複数の実効値Ieの算出は、上述した電流測定装置7などの他の装置が行っても良い。この場合には、電流測定装置7から診断装置1に入力される電流の測定値Imは実効値Ieである。そして、実効値取得部2は、第1所定期間で得られることが期待される数の電流の実効値Ieが得られた場合に、後述する処理を行っても良い。
【0022】
より詳細には、上記の実効値Ieは、対象電流波形Wtを形成する各々の単位電流波形Wuからのサンプリングにより得られた複数の電流の瞬時値に基づいて算出される。つまり、1つの単位電流波形Wuから、相互に異なる時間における電流の瞬時値が例えば等間隔でサンプリングされる。より具体的には、上記のサンプリングによるサンプリング数は、単位電流波形Wuを構成する1以上の周期の1周期あたり900以上1200以下であるのが良い。これによって、必要な精度を得つつ、処理負荷が過大とならないようにできる。図1図2に示す実施形態では、上記のサンプリング数は、例えば1090など、1070〜1110の範囲としている。なお、上記の規定周期数は1周期としている。このサンプリング数を適切に設定することで、後述する対象分布情報に、回転機械の稼働状態(正常または異常)が適切に反映されるように図っている。
【0023】
なお、既に説明したように、上記の測定電流は、診断対象機械9(回転機械91)に供給される電力の電流を測定したものであっても良いし、診断対象機械9(回転機械91)から出力される電力の電流を測定したものであっても良い。また、電流測定装置7を用いてリアルタイムに測定される電流の瞬時値を第1所定期間の間測定することで、対象電流波形Wtを取得しても良いし、既に測定済みの対象電流波形Wtのデータを取得しても良い。
【0024】
分布情報算出部3は、上記の実効値取得部2によって取得された複数の実効値Ieの分布状態を表す分布情報(以下、対象分布情報Dt)を算出するよう構成された機能部である。この分布情報は、確率密度関数などの確率分布であっても良いし、分布の形や、この分布の形を数値化した標準偏差や分散値などであっても良い。図1図2に示す実施形態では、対象分布情報Dtの作成にあたって取得する実効値Ieの数は400以上としている。これによって、回転機械の稼働状態(正常または異常)が対象分布情報Dtに適切に反映されるようにすることが可能である。
【0025】
検知部4は、上記の分布情報算出部3によって算出された対象分布情報Dtに基づいて、診断対象機械9の異常検知を実行するよう構成された機能部である。この異常検知(異常検知処理)は、診断対象機械9が正常か異常かを判定することであり、測定電流の実効値Ieに影響を与えるような異常の発生を判定できる。例えば、ミスアライメント(芯ずれ)、ポンプにおいてパイプ内の圧力低下により液体が気化した気泡を生じるキャビテーション、ディスク円盤接触、ベルトの緩み、地絡などの異常の検知が可能である。
【0026】
図1図2に示す実施形態では、図2に示すように、診断装置1は、電流測定装置7に接続されており、電流測定装置7からリアルタイムに電流の測定値Imが入力されるようになっており、これを実効値取得部2が取得するようになっている。また、診断装置1においては、実効値取得部2と分布情報算出部3とが接続されており、分布情報算出部3は、実効値取得部2から入力された複数の実効値Ieに基づいて、対象分布情報Dtを算出するようになっている。そして、検知部4は、分布情報算出部3に接続されており、分布情報算出部3から対象分布情報Dtが入力されると、上記の異常検知を実行するようになっている。また、この検知部4は、出力装置14に異常検知の結果を出力するようになっている。本実施形態では、出力装置14はディスプレイなどの表示装置であるが、他の実施形態では、ユーザに異常検知の結果を知らせることができれば、出力装置14は、表示装置以外であっても良く、表示装置、プリンタ、スピーカー、あるいはLEDなどの発光装置のうちの少なくとも1つを含んでいても良い。
【0027】
なお、診断対象機械9が蒸気タービン等と発電機とを備える場合には、蒸気タービン等が発電機を駆動させる。このような関係にあるため、例えば発電機の発電による電流の時間推移を対象電流波形Wtとして診断を実行する場合に異常が判定されると、蒸気タービン等または発電機の少なくとも一方の異常が疑われることになる。よって、検知部4による診断を1次診断として、異常が検知された場合には詳細な調査を行っても良い。
【0028】
上記の構成によれば、診断対象機械9が備える例えばタービンや発電機、モータなどの回転機械91の回転時に、回転機械91(例えば電動機)に供給される交流電流や、回転機械91(例えば発電機)から出力される交流電流などの電流Iの瞬時値(測定電流)の時間推移である電流波形W(対象電流波形Wt)における規定周期数毎の電流波形W(後述する単位電流波形Wu)の実効値Ieを取得する。そして、こうして取得された複数の実効値Ieの、例えば確率密度関数や標準偏差などの分布状態を表す情報(対象分布情報Dt)に基づいて、診断対象機械9の異常検知を実行する。
【0029】
本発明者らは、回転機械91の異常の種類によっては、異常発生時において電流の瞬時値の分布状態に基づいて異常検知を実行した場合(特許文献2参照)よりも、電流の実効値の分布状態に基づいて異常検知を実行した場合の方が、異常判定の精度が高いことを見出している。よって、上記の対象電流波形Wtに基づいて得られる複数の電流の実効値Ieの分布状態(ばらつき)に基づいて回転機械91の診断を実行することで、回転機械91が正常であるか、異常であるかをより適切に診断することができる。
【0030】
次に、上述した検知部4についての幾つかの実施形態について、詳細に説明する。
図3Aは、本発明の一実施形態に係るある種類の異常についての電流の実効値の正常時と異常時とを対比して示す図である。図3Bは、本発明の一実施形態に係る他の種類の異常についての電流の実効値の正常時と異常時とを対比して示す図である。図4Aは、本発明の一実施形態に係る回転機械が異常時の実効値Ieの確率密度分布を示す図である。また、図4Bは、本発明の一実施形態に係る回転機械が正常時の実効値Ieの確率密度分布を示す図である。なお、図3Aおよび図3Bの縦軸および横軸のスケールは同じである。同様に、図4Aおよび図4Bの縦軸および横軸のスケールは同じである。
【0031】
幾つかの実施形態では、図2に示すように、診断装置1は、診断対象機械9が正常状態にある際の上記の測定電流の所定期間(以下、第2所定期間)での時間推移である電流波形W(以下、正常電流波形Wb)における規定周期数毎の実効値Ieの分布状態を表す正常分布情報Dbを記憶するよう構成された記憶部5を、さらに備えても良い。そして、検知部4は、対象分布情報Dtと正常分布情報Dbとに基づいて、上記の異常検知を実行する。正常分布情報Dbの作成にあたって取得する実効値Ieの数は、対象分布情報Dtのものと同数であっても良いし、異なっていても良く、また、400以上であっても良い。また、正常電流波形Wbからの電流の瞬時値のサンプリング数についても、対象電流波形Wtのものと同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0032】
例えば、図3A図3Bに示すように、上記の複数の実効値Ieは、回転機械91に異常が生じている状態である異常状態と、異常が生じていない状態である正常状態とで、挙動が異なる。具体的には、図3A図3Bに示すように、横軸を、電流の瞬時値の1周期分の波形の数(波形数)、縦軸を実効値Ieとしたグラフに異常状態および正常状態の各々における上記の複数の実効値Ieをプロットすると、異常状態の時(異常時)の実効値Ieの振幅は、正常状態の時(正常時)の実効値Ieの振幅よりも大きく変化する。なお、図3Aおよび図3Bには、回転機械91に相互に異なる種類の異常が生じた場合が示されている。
【0033】
このため、診断対象機械9の異常時および正常時の両方における複数の実効値Ieの確率密度分布をそれぞれ算出すると、例えば図4A図4Bのようになる。図4A図4Bのグラフは、横軸が実効値Ieであり、縦軸が確率密度である。また、図4Aが異常時を示し、図4Bが正常時を示すが、異常時の方が正常時よりも分布が広がっており、ばらつき度合いが大きくなっている。すなわち、正常時と異常時とで実効値Ieの分布状態に違いが出てくることから、検知部4は、対象分布情報Dtと正常分布情報Dbとの分布状態の違いに基づいて、異常検知を実行する。
【0034】
なお、上記の第1所定期間および上記の第2所定期間は、互いに重なる部分のない期間であり、これらの期間の長さは通常は同じとするが、相互に異なる長さの期間であっても良い。また、記憶装置12に正常電流波形Wb、あるいは正常電流波形Wbを形成する単位電流波形Wuに基づいて算出された実効値Ieが記憶されていても良い。この場合には、診断装置1は、検知部4による異常検知の前に記憶装置12の記憶情報に基づいて正常分布情報Dbを算出し、記憶部5に記憶しても良い。この記憶部5は、診断装置1が備える記憶装置12の所定の記憶領域に形成される。
【0035】
上記の構成によれば、対象分布情報Dtと、診断対象機械9(回転機械91)の正常時の電流波形W(正常電流波形Wb)に基づいて得られる正常分布情報Dbとの比較などに基づいて、診断対象機械9の異常検知を実行する。これによって、診断対象機械9(回転機械91)が正常であるか異常であるかを適切に判定することができる。
【0036】
図5は、本発明の一実施形態に係る複数の診断対象機械9の正常電流波形Wbを対比して示す図である。また、図6は、本発明の一実施形態に係る診断の流れを説明するための図である。
【0037】
幾つかの実施形態では、上記の正常分布情報Dbは、診断対象機械9の個体毎に用意しても良い。本発明者らは、図5に示すように、同じ種類の診断対象機械9であったとしても、個体間で、正常電流波形Wbの振幅の大きさの程度が同じとはならず、実効値Ieの変化の程度が同じとはならない場合があることを見出している。
【0038】
図5のグラフは、横軸が波形数、縦軸が実効値Ieである。そして、このグラフに、相互に異なる個体である複数(図5では4台)の診断対象機械9(9a〜9d)の正常電流波形Wbをそれぞれプロットすると、図5に示すように実効値Ieの振幅の変化が相互に異なっている。実効値Ieの振幅の変化の程度などが異なれば、正常分布情報Dbも相互に異なり得る。よって、診断対象機械9の個体毎の正常分布情報Dbを予め測定などを通して取得(保存)し、対象分布情報Dtと、この対象分布情報Dtを取得した診断対象機械9の正常分布情報Dbとの比較などに基づいて異常検知を行うことで、誤検知を防止することが可能となる。
【0039】
図2に示す実施形態では、上述した実効値取得部2には、診断対象機械9に接続された電流測定装置7から測定電流の瞬時値または実効値Ieである測定値Imが入力されるように構成されている。そして、図6に示すように、実効値取得部2は、回転機械91の回転開始から回転停止までの期間T内に設定される第1稼働期間Taに入力される測定値Imに基づいて、正常電流波形Wbに関する複数の実効値Ieを取得する第1取得部21と、この第1稼働期間Taの経過後で、かつ、回転機械91の回転停止までの間に設定される第2稼働期間Tbに入力される測定値Imに基づいて、対象電流波形Wtに関する複数の実効値Ieを取得する第2取得部22と、を有している。よって、回転機械91は、第1稼働期間Taと第2稼働期間Tbとの間は継続して回転している状態にある。
【0040】
図6に示す実施形態では、回転機械91の回転開始後、回転状態が安定したとみなせる時期以降において、回転機械91の正常性を確認した後、第1稼働期間Taを設定している。その後、定期的に第2稼働期間Tbを設定し、診断対象機械9の回転機械91の正常性を監視している。また、回転の停止後に再度回転を開始した後も、同様に、第1稼働期間Taの後に第2稼働期間Tbを設定している。
【0041】
上記の構成によれば、回転機械91が停止することなく回転を継続している状態において、正常分布情報Dbの算出の元になる測定値Im(測定電流の瞬時値またはその実効値Ie)が取得された後に、対象分布情報Dtの算出の元になる測定値Imが取得される。換言すれば、対象電流波形Wtを取得する前における回転機械91の回転時の診断対象機械9の状態を正常と定義しつつ、その後において回転機械が回転を継続している状態で得られた測定値Imを診断のために監視する。
【0042】
本発明者らは、回転機械91の異常の種類によっては、異常発生時において電流の瞬時値の分布状態に基づいて異常検知を実行した場合(特許文献2参照)よりも、電流の実効値Ieの分布状態に基づいて異常検知を実行した場合の方が、異常判定の精度が高いことを見出している。これによって、正常時の診断対象機械9の個体間に、電流波形Wに基づいて得られる複数の実効値Ieのばらつき度合いに違いがあるような場合であっても、診断対象機械毎に正常状態を適切に定義することが可能となる。また、正常状態に対する変化を回転機械91の継続した回転時に定期的などで監視することで、その傾向に基づいて異常の予兆診断を行うこともできる。
【0043】
また、上述した実施形態において、幾つかの実施形態では、上述した対象分布情報Dtおよび正常分布情報Dbは、確率密度関数などの確率分布であり、検知部4は、各々が確立分布である対象分布情報Dtと正常分布情報Dbとの距離に基づいて、異常検知を実行しても良い。この距離は、例えば周知なカルバック・ライブラー距離や相対ピアソン距離など、2つの確率分布(確率密度関数)の違いを定量化することが可能な指標値であれば良い。なお、正常分布情報Dbである確率分布をp(x)、対象分布情報Dtである確率分布をp’(x)とすると、相対ピアソン距離は、例えば、∫qα(x)[{p(x)/qα(x)}−1]dxで算出可能であり、この際、qα=αp+(1−α)p’ 0≦α<1の関係を有する。
【0044】
図2に示す実施形態では、検知部4は、対象分布情報Dtである確率分布(例えば確率密度関数など)と、正常分布情報Dbである確率分布との間の相対ピアソン距離に基づいて、診断対象機械9の異常検知を行うようになっている。実効値Ieの確率分布が正規分布に近い場合には、確率分布の端部においては確率密度がゼロとなるが、このような場合であっても相対ピアソン距離を用いることによって、ノイズに対してロバストな異常検知を行うことが可能となる。
【0045】
以下、上述した診断装置1が行う処理に対応する診断方法について、図7を用いて説明する。図7は、本発明の一実施形態に係る診断方法を示す図である。
【0046】
この診断方法は、回転機械91を有する診断対象機械9を、その回転機械91の回転時の測定電流に基づいて診断する方法である。図6に示すように、診断方法は、実効値取得ステップ(S1)と、分布情報算出ステップ(S2)と、検知ステップ(S3)と、を備える。これらの各ステップについて説明する。
これらのステップについて、図1に示す診断系6において実行する場合を例に説明する。
【0047】
実効値取得ステップ(S1)は、対象電流波形Wtにおける規定周期数毎の実効値Ieを取得するステップである。実効値取得ステップ(S1)は、既に説明した実効値取得部2が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0048】
分布情報算出ステップ(S2)は、上記の実効値取得ステップによって取得された複数の実効値Ieの対象分布情報Dtを算出するステップである。分布情報算出ステップ(S2)は、既に説明した分布情報算出部3が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0049】
検知ステップ(S3)は、上記の分布情報算出ステップによって算出された対象分布情報Dtに基づいて、診断対象機械9の異常検知を実行するステップである。この検知ステップ(S3)は、既に説明した検知部4が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0050】
図7に示す実施形態では、ステップS0において、上述した正常分布情報Dbを取得する。具体的には、診断対象機械9が備える回転機械91の回転開始から回転停止までの期間T内に設定される第1稼働期間Taにおいて入力される測定値Imに基づいて、正常電流波形Wbに関する複数の実効値Ieを取得すると共に、取得された複数の実効値Ieに基づいて正常分布情報Dbを算出し、記憶部5に記憶している。なお、測定値Imが電流の実効値Ieである場合には、測定値Imが入力されることで複数の実効値Ieが取得されるが、測定値Imが測定電流の瞬時値である場合には、既に説明したように第2所定期間の間の測定電流の瞬時値に基づいて複数の実効値Ieを算出する。こうして取得された複数の実効値Ieに基づいて、正常分布情報Dbをする。
【0051】
その後、ステップS1において、上記の実効値取得ステップを実行し、対象電流波形Wtから得られる複数の実効値Ieを取得する。ステップS2において、分布情報算出ステップを実行し、対象分布情報Dtを算出する。そして、ステップS3において、検知ステップを実行し、診断対象機械9の異常検知を実行する。図6に示す実施形態では、対象分布情報Dtと正常分布情報Dbとの相対ピアソン距離を算出し、この相対ピアソン距離に基づいて異常検知を実行している。また、ステップS4において、異常検知の結果を例えばディスプレイなどの出力装置14に出力する。
【0052】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
<付記>
【0053】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る診断装置(1)は、
回転機械(91)を有する診断対象機械(9)を前記回転機械(91)の回転時の測定電流に基づいて診断する診断装置(1)であって、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形(Wt)における規定周期数毎の実効値(Ie)を取得するよう構成された実効値取得部(2)と、
取得された複数の前記実効値(Ie)の分布状態を表す対象分布情報(Dt)を算出するよう構成された分布情報算出部(3)と、
算出された前記対象分布情報(Dt)に基づいて、前記診断対象機械(9)の異常検知を実行するよう構成された検知部(4)と、を備える。
【0054】
上記(1)の構成によれば、診断対象機械(9)が備える例えばタービンや発電機、モータなどの回転機械(91)の回転時に、回転機械(91)(電動機)に供給される交流電流や、回転機械(91)(発電機)から出力される交流電流などの電流の瞬時値(測定電流)の時間推移である電流波形(Wt)における規定周期数毎の電流波形(後述する単位電流波形)の実効値(Ie)を取得する。そして、こうして取得された複数の実効値(Ie)の、例えば確率密度関数や標準偏差などの分布状態を表す情報(対象分布情報(Dt))に基づいて、診断対象機械(9)の異常検知を実行する。これによって、上記の対象電流波形(Wt)に基づいて得られる複数の電流の実効値(Ie)の分布状態(ばらつき)に基づいて回転機械(91)の診断を実行することで、回転機械(91)が正常であるか、異常であるかをより適切に診断することができる。
【0055】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記診断対象機械(9)が正常状態にある際の前記測定電流の第2所定期間での時間推移である正常電流波形(Wb)における前記規定周期数毎の前記実効値(Ie)の分布状態を表す正常分布情報(Db)を記憶するよう構成された記憶部(5)を、さらに備え、
前記検知部(4)は、前記対象分布情報(Dt)と前記正常分布情報(Db)とに基づいて、前記異常検知を実行する。
【0056】
上記(2)の構成によれば、対象分布情報(Dt)と、診断対象機械(9)(回転機械(91))の正常時の電流波形(Wb)に基づいて得られる正常分布情報(Db)との比較などに基づいて、診断対象機械(9)の異常検知を実行する。これによって、個体診断対象機械(9)(回転機械(91))が正常であるか異常であるかを適切に判定することができる。
【0057】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記対象分布情報(Dt)および前記正常分布情報(Db)は確率分布であり、
前記検知部(4)は、前記対象分布情報(Dt)と前記正常分布情報(Db)との距離に基づいて、前記異常検知を実行する。
【0058】
上記(3)の構成によれば、対象分布情報(Dt)である確率分布(例えば確率密度関数など)と、正常分布情報(Db)である確率分布との距離に基づいて、診断対象機械(9)の異常検知を実行する。これによって、上記の距離と閾値との比較に基づいて正常、異常を判定するなど、診断対象機械(9)の異常検知を容易に行うことができる。
【0059】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記距離は相対ピアソン距離である。
【0060】
上記(4)の構成によれば、検知部(4)は、対象分布情報(Dt)である確率分布と、正常分布情報(Db)である確率分布との間の相対ピアソン距離に基づいて、診断対象機械(9)の異常検知を行う。実効値(Ie)の確率分布が正規分布に近い場合には、確率分布の端部においては確率密度がゼロとなるが、このような場合であっても相対ピアソン距離を用いることによって、ノイズに対してロバストな異常検知を行うことができる。
【0061】
(5)幾つかの実施形態では、上記(2)〜(4)の構成において、
前記実効値取得部(2)には、前記診断対象機械(9)に接続された電流測定装置(7)から前記測定電流の瞬時値または前記実効値(Ie)である測定値(Im)が入力されるように構成されており、
前記実効値取得部(2)は、
前記回転機械(91)の回転開始から回転停止までの期間内に設定される第1稼働期間(Ta)に入力される前記測定値(Im)に基づいて、前記正常電流波形(Wb)に関する前記複数の実効値(Ie)を取得する第1取得部(21)と、
前記第1稼働期間(Ta)の経過後で、かつ、前記回転停止までの間に設定される第2稼働期間(Tb)に入力される前記測定値(Im)に基づいて、前記対象電流波形(Wt)に関する前記複数の実効値(Ie)を取得する第2取得部(22)と、を有する。
【0062】
上記(5)の構成によれば、回転機械(91)が停止することなく回転を継続している状態において、正常分布情報(Db)の算出の元になる測定値(Im)(測定電流の瞬時値または実効値(Ie))が取得された後に、対象分布情報(Dt)の算出の元になる測定値(Im)が取得される。換言すれば、対象電流波形(Wt)を取得する前における回転機械(91)の回転時の診断対象機械(9)の状態を正常と定義しつつ、その後において回転機械(91)が回転を継続している状態で得られた測定値(Im)を診断のために監視する。これによって、正常時の診断対象機械(9)の個体間に、電流波形に基づいて得られる複数の実効値(Ie)のばらつき度合いに違いがあるような場合であっても、診断対象機械(9)毎に正常状態を適切に定義することができる。また、正常状態に対する変化を回転機械(91)の継続した回転時に定期的などで監視することで、その傾向に基づいて異常の予兆診断を行うこともできる。
【0063】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記回転機械(91)は、前記第1稼働期間(Ta)と前記第2稼働期間(Tb)との間は継続して回転している状態にある。
【0064】
上記(6)の構成によれば、上記(5)と同様の効果を奏する。なお、同一の回転機械(91)である場合など、回転機械(91)が変わる等の条件変更がなければ、回転機械(91)は、第1稼働期間(Ta)と第2稼働期間(Tb)との間は継続して回転している状態にある必要はない。
【0065】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の構成において、
前記実効値(Ie)は、前記規定周期数の電流波形からのサンプリングにより得られた複数の前記測定電流の瞬時値に基づいて算出され、
前記サンプリングによるサンプリング数は、前記規定周期数を構成する1周期あたり900以上1200以下である。
【0066】
上記(7)の構成によれば、サンプリング数を900以上1200以下とすることにより、回転機械(91)の稼働状態(正常または異常)が適切に反映された対象分布情報(Dt)を得ることができ、適切な診断精度での診断を行うことができる。
【0067】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)の構成において、
前記規定周期数は1である。
上記(8)の構成によれば、規定周期数を1周期とすることにより、回転機械(91)の稼働状態(正常または異常)が適切に反映された対象分布情報(Dt)を得ることができ、適切な診断精度での診断を行うことができる。
【0068】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(8)の構成において、
前記分布情報算出部(3)は、前記実効値取得部(2)によって取得された400以上の前記実効値(Ie)に基づいて、前記対象分布情報(Dt)を算出する。
【0069】
上記(9)の構成によれば、400以上の実効値(Ie)に基づいて対象分布情報(Dt)を算出することで、回転機械(91)の稼働状態(正常または異常)が対象分布情報(Dt)に適切に反映されるようにすることができる。
【0070】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る診断方法は、
回転機械(91)を有する診断対象機械(9)を前記回転機械(91)の回転時の測定電流に基づいて診断する診断方法であって、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形(Wt)における規定周期数毎の実効値(Ie)を取得するステップ(例えば図6のS1)と、
取得された複数の前記実効値(Ie)の分布状態を表す対象分布情報(Dt)を算出するステップ(例えば図6のS2)と、
算出された前記対象分布情報(Dt)に基づいて、前記診断対象機械(9)の異常検知を実行するステップ(例えば図6のS3)と、を備える。
上記(10)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【0071】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る診断プログラム(10)は、
回転機械(91)を有する診断対象機械(9)を前記回転機械(91)の回転時の測定電流に基づいて診断する診断プログラム(10)であって、
コンピュータに、
前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形(Wt)における規定周期数毎の実効値(Ie)を取得するよう構成された実効値取得部(2)と、
取得された複数の前記実効値(Ie)の分布状態を表す対象分布情報(Dt)を算出するよう構成された分布情報算出部(3)と、
算出された前記対象分布情報(Dt)に基づいて、前記診断対象機械(9)の異常検知を実行するよう構成された検知部(4)と、を実現させるためのプログラムである。
上記(11)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0072】
1 診断装置
10 診断プログラム
11 プロセッサ
12 記憶装置
14 出力装置
2 実効値取得部
21 第1取得部
22 第2取得部
3 分布情報算出部
4 検知部
5 記憶部
6 診断システム
7 電流測定装置
71 通信媒体
8 電気盤
9 診断対象機械
91 回転機械
I 電流
Ie 実効値
Im 測定値
W 電流波形
Wb 正常電流波形
Wt 対象電流波形
Wu 単位電流波形
Db 正常分布情報
Dt 対象分布情報
T 回転機械の回転開始から回転停止までの期間
Ta 第1稼働期間
Tb 第2稼働期間
【要約】
【課題】回転機械を有する装置の測定電流に基づく異常検知精度が向上された診断装置を提供する。
【解決手段】診断装置は、回転機械を有する診断対象機械を前記回転機械の回転時の測定電流に基づいて診断する診断装置であって、前記測定電流の第1所定期間での時間推移である対象電流波形における規定周期数毎の実効値を取得するよう構成された実効値取得部と、取得された複数の前記実効値の分布状態を表す対象分布情報を算出するよう構成された分布情報算出部と、算出された前記対象分布情報に基づいて、前記診断対象機械の異常検知を実行するよう構成された検知部と、を備える。
【選択図】 図2
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7