(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しつつ、本発明の実施形態について例示説明する。
【0012】
(シミュレーションシステム)
まず、
図1を参照して、本発明のゴルフスイングのシミュレーション方法に用い得る、シミュレーションシステムの一例を説明する。
図1の例において、シミュレーションシステム1は、ゴルファがゴルフクラブ50を用いてスイングをする間、スイングを測定する測定装置20と、測定装置20から得られる測定データを用いて、ゴルフスイングのシミュレーションを実施するコンピュータ30とを、備えている。
【0013】
測定装置20による測定中にゴルファによって使用されるゴルフクラブ50は、グリップ51と、ヘッド53と、グリップ51及びヘッド53どうしを連結するシャフト52と、を有する。なお、以下の説明では、ゴルフクラブ50の長手方向(シャフト52の長手方向と同じ。)において、ゴルフクラブ50のグリップ51側を「上側」と呼び、ゴルフクラブ50のヘッド53側を「下側」と呼ぶことがある。
【0014】
図1の例において、測定装置20は、モーションセンサ21を有している。
モーションセンサ21は、
図1の例ではゴルフクラブ50のグリップ51の下端部に取り付けられており、ゴルファがゴルフクラブ50を用いてスイングする間、所定時間間隔毎(例えば0.001秒間毎)に少なくとも加速度及び角速度を測定し、測定により得られた3次元時系列の加速度データ及び角速度データを含む測定データを、測定中又は測定後に、コンピュータ30へ無線通信により送信する。
なお、
図1の例に限られず、モーションセンサ21は、ゴルフクラブ50上の任意の位置に取り付けられてもよいし、あるいは、ゴルファの手に取り付けられてもよい。モーションセンサ21をゴルフクラブ50上に取り付ける場合、モーションセンサ21は、シャフト52の長手方向において、グリップ51の上端(シャフト52とは反対側の端)とシャフト52の下端(グリップ51とは反対側の端)との間の中心点よりも、比較的シャフト52のしなりの影響を受けにくい上側(グリップ51側。ゴルファの手側。)に配置されるのが好ましく、本例のようにグリップ51上に配置されるのがさらに好ましい。
測定装置20は、ゴルフクラブ50に又はゴルファの手に取り付けられたモーションセンサ21を複数個有していてもよいが、本例のように1個のみ有しているのが好ましい。これにより、仮に複数個のモーションセンサ21を設けた場合に生じ得る高周波ノイズによる測定データへの影響を抑制できる。
【0015】
図1の例において、コンピュータ30は、制御部31と、通信部32と、記憶部33と、入力部34と、表示部35と、を有する。
【0016】
制御部31(制御装置)は、例えばCPUから構成され、記憶部33に記憶されたプログラムを実行することにより、通信部32、記憶部33、入力部34、及び表示部35を含む、コンピュータ30の全体を制御しながら、後述する算出ステップやシミュレーションステップを実行する。制御部31による処理の詳細については、後に
図2を参照しながら説明する。
【0017】
通信部32は、測定装置20(本例ではモーションセンサ21)との間で通信を行う。通信部32が、この例では3次元時系列の、測定データを測定装置20から受信すると、制御部31は、その測定データを記憶部33に格納する。
【0018】
記憶部33は、例えばROM及び/又はRAMから構成され、制御部31が実行するためのプログラムや、通信部32が測定装置20から受信する測定データ等、様々な情報を記憶する。
【0019】
入力部34は、例えばキーボード、マウス、及び/又は押しボタン等から構成され、ユーザからの入力を受け付ける。
表示部35は、例えば液晶パネル等から構成され、後述するシミュレーションステップで得られるシミュレーション結果等、様々な情報を表示する。
なお、入力部34及び表示部35は、タッチパネルを構成してもよい。
【0020】
(シミュレーション方法)
つぎに、
図2〜
図4を参照して、本発明の一実施形態に係るゴルフスイングのシミュレーション方法を説明する。
図2は、本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。ここでは、
図1の例のシミュレーションシステム1を用いる場合について説明するが、後述するように、他の構成を持つシミュレーションシステムを用いて、本実施形態に係るゴルフスイングのシミュレーション方法を実施することもできる。
【0021】
−測定ステップ(S1)−
まず、ゴルファがゴルフクラブ50を用いてスイングする間に、測定装置20がスイングを測定する(測定ステップS1)。より具体的に、本例では、モーションセンサ21が、所定時間間隔毎(例えば0.001秒間毎)に少なくとも加速度及び角速度を測定し、測定により得られた3次元時系列の加速度データ及び角速度データを含む測定データを、測定中又は測定後に、コンピュータ30へ無線通信により送信する。
一方、コンピュータ30側では、通信部32が、測定データをモーションセンサ21から受信すると、制御部31が、その測定データを記憶部33に格納する。
【0022】
−算出ステップ(S2)−
測定ステップS1の後、コンピュータ30の制御部31(制御装置)は、測定ステップS1で得られた測定データに基づいて、測定ステップS1で行われたスイング中にゴルフクラブ50に加わったトルク及び力をそれぞれ表す3次元のトルクデータ及び力データを、それぞれ算出により得る(算出ステップS2)。より具体的に、本例では、制御部31は、測定データに基づいて、測定ステップS1で行われたスイング中に所定時間間隔毎(例えば0.001秒間毎)にゴルフクラブ50に加わったトルク及び力をそれぞれ表す、3次元時系列のトルクデータT(Tx, Ty, Tz)及び力データF(Fx, Fy, Fz)を、それぞれ算出により得る。トルクデータT及び力データFの算出は、例えば逆動力学計算により行うことができる。制御部31は、算出ステップS2で得られた算出結果(トルクデータT及び力データF)を、記憶部33内へ格納する。
ここで、「測定ステップS1で行われたスイング中に所定時間間隔毎にゴルフクラブ50に加わったトルク及び力」とは、スイング中にゴルフクラブ50上のある1点のみにトルク及び力が作用したと仮定した場合に、測定ステップS1で行われたスイング中での所定時間間隔毎の当該作用点の変位(位置の変化)を再現できるような、トルク及び力を指す。
なお、算出対象とするトルク及び力のゴルフクラブ50への作用点は、シミュレーション精度向上の観点から、シャフト52のしなりによる影響を受けにくい、グリップ51上の任意の1点とするのが好ましい。また、計算量低減の観点からは、算出対象とするトルク及び力のゴルフクラブ50への作用点が、ゴルフクラブ50上でのモーションセンサ21の取り付け箇所と一致しているのが好ましいが、ゴルフクラブ50上でのモーションセンサ21の取り付け箇所とは異なる位置としてもよい。
【0023】
なお、制御部31は、上記の「測定ステップS1で行われたスイング中での所定時間間隔毎の当該作用点の変位」を、当該作用点の位置及び回転角度をそれぞれ表す3次元時系列の位置データP(X, Y, Z)及び回転角度データΘ(Θx, Θy, Θz)により把握する。このような変位データ(位置データP及び回転角度データΘ)は、測定ステップS1で得られた測定データ(例えば、加速度及び角速度)に基づいて得られる。
【0024】
−シミュレーションステップ(S3)−
算出ステップS2の後、制御部31は、コンピュータシミュレーション用のゴルフクラブモデルを用いて、スイングのシミュレーションを実施する(シミュレーションステップS3)。
図3は、コンピュータシミュレーション用のゴルフクラブモデル500の一例を示している。ゴルフクラブモデル500は、グリップ501と、ヘッド503と、グリップ501及びヘッド503どうしを連結するシャフト502と、を有している。
【0025】
シミュレーションの準備段階として、予め、制御部31は、ゴルフクラブモデル500のパラメータを設定することにより、所望の仕様のゴルフクラブモデル500を設計する。より具体的には、ユーザが入力部34からパラメータを入力すると、制御部31が、入力されたパラメータに基づいて、ゴルフクラブモデル500を設計(生成)する。ゴルフクラブモデル500の設計用のパラメータは、例えば、シャフト502の剛性(ねじり剛性や曲げ剛性)、剛性分布、ヘッド503の重心位置、ヘッド503の形状(フェース角やロフト角等)、及び、ヘッド503の重量のうち、少なくとも1つである。
なお、制御部31は、シミュレーションの直前に、シミュレーションに用いるためのゴルフクラブモデル500を設計してもよい。あるいは、制御部31は、予め、それぞれ異なる仕様を有する複数のゴルフクラブモデル500を設計して、それぞれを記憶部33に格納しておいてもよい。その場合、シミュレーションの直前に、ユーザが、入力部34を操作することにより、記憶部33に予め記憶された複数のゴルフクラブモデル500の中から、所望のゴルフクラブモデル500を選択できるようにしてもよい。
【0026】
ここで、シミュレーションで用いられるゴルフクラブモデル500の仕様は、測定ステップS1で使用されたゴルフクラブ50の仕様とは異なるものであることが好ましい。これにより、仮に同じゴルファが異なる仕様のゴルフクラブを用いてスイングした場合に、スイングにどのような違いが現れるかを、シミュレーションにより確認することができる。そのシミュレーション結果は、そのゴルファに最も適したゴルフクラブを選択するための判断材料として用いることができる。
なお、シミュレーション結果に基づくゴルフクラブの選択は、ユーザが行ってもよいし、制御部31が自動的に行ってもよい。
【0027】
本例で用いるゴルフクラブモデル500は、
図3に示すように、スイングのシミュレーション中において、ゴルフクラブモデル500上のある1点に、少なくとも6成分のデータを入力できるように構築されたものである。以下、ゴルフクラブモデル500上において少なくとも6成分のデータを入力できるようにされた点を、「入力点504」という。シミュレーション中では、制御部31が、上述したパラメータにより決定されるゴルフクラブモデル500の仕様と、この入力点504に入力される少なくとも6成分のデータとに基づいて、ゴルフクラブモデル500の運動(ひいてはゴルフスイング)を求める。
入力点504に入力可能なデータは、3次元時系列の変位データとしての位置データP(X, Y, Z)及び回転角度データΘ(Θx, Θy, Θz)と、変位データに代えて、あるいは変位データに加えて、3次元時系列のトルクデータT(Tx, Ty, Tz)及び力データF(Fx, Fy, Fz)と、である。
一般的に、剛体の運動は、剛体の1点に作用される6成分で決定できる。上述のようなゴルフクラブモデル500を用いることにより、6成分という少ないデータのみで、簡単かつ高精度にスイングのシミュレーションを実施できる。
【0028】
シミュレーション精度の向上の観点から、ゴルフクラブモデル500上における入力点504の位置は、算出ステップS2で算出対象とされたトルク及び力のゴルフクラブ50上での作用点に対応する位置であることが好ましい。例えば、算出ステップS2においてトルク及び力の作用点を、ゴルフクラブ50のグリップ51の下端部とした場合、ゴルフクラブモデル500上における入力点504の位置も、グリップ501の下端部とするのが好ましい。
【0029】
ここで、
図4を参照して、ゴルフクラブモデル500の入力点504に入力されるデータについて、より詳しく説明する。
図4は、測定ステップS1で得られたゴルファのスイングの測定結果の例を示している。より具体的に、
図4は、スイングのうちの、トップ(ダウンスイング開始時)からインパクト(ダウンスイング終了時)までの間(すなわちダウンスイング中)おける、角速度の変化を示している。
本実施形態において、スイングのシミュレーション中においては、スイングのうちの少なくともダウンスイングの一部分において、ゴルフクラブモデル500の入力点504に、変位データ(位置データP及び回転角度データΘ)が入力されないとともに、トルクデータT及び力データFが入力され、入力されるトルクデータT及び力データFに基づいてゴルフクラブモデル500の運動が求められる。
例えば、
図4に示すように、スイング開始から、ダウンスイングにおけるあるタイミング(以下、「入力切替タイミングICT」という。)までは、ゴルフクラブモデル500の入力点504に、前記測定ステップS1で得られた測定データに基づいて前記算出ステップS2で得られた変位データ(3次元時系列の位置データP及び回転角度データΘ)のみを入力し、入力切替タイミングICTからインパクトまでは、ゴルフクラブモデル500の入力点504に、上記変位データを入力せずに、3次元時系列のトルクデータT及び力データFのみを入力する。
【0030】
一般的に、ダウンスイング(特にダウンスイングのうち、手首のアンコック以降の部分)は、スイングにおける他の部分に比べて、ゴルフクラブの仕様(ヘッドの重さ及び大きさやシャフトの長さ等)の違いに応じた、ゴルフクラブの振りにくさの違いの影響を、大きく受ける傾向がある。仮にダウンスイング中に変位データをゴルフクラブモデル500に入力すると、ゴルフクラブの違い、ひいてはゴルフクラブの振りにくさの違いに関わらず、入力された変位データに従ってゴルフクラブモデル500が強制的に変位されることとなるため、高精度なシミュレーションができない。少なくともダウンスイングにおける一部分において、変位データをゴルフクラブモデル500に入力しないとともに、トルクデータT及び力データFをゴルフクラブモデル500に入力することにより、ゴルフクラブの違いによるスイングの違いを出すことができ、ひいては、シミュレーション精度を向上できる。
【0031】
上述した、入力点504への入力が、変位データからトルクデータT及び力データFへと切り替えられる入力切替タイミングICTは、ダウンスイング中の任意のタイミングであることが好ましく、ダウンスイング中における手首のアンコック(手首を戻す動き)以降の任意のタイミングであることがより好ましく、手首のアンコックのタイミングであることがさらに好ましい。これにより、シミュレーション精度をより向上できる。
仮に、入力切替タイミングICTが、手首のアンコックよりも大幅に早いタイミングであると、トップ近傍でのゴルフクラブモデル500の運動の計算に誤差の生じるおそれがある。言い換えれば、トップ近傍では、少なくとも変位データが入力されることが好ましい。また、仮に、入力切替タイミングICTが、手首のアンコックよりも大幅に遅いタイミングであると、入力切替タイミングICTからインパクトまでの期間が短くなり、ゴルフクラブの違いによるスイングの違いをさほど大きくは出せないおそれがある。
【0032】
入力切替タイミングICTは、ユーザが測定データに基づいて入力部34の操作により設定してもよいし、制御部31が測定データに基づいて自動的に決定してもよい。
制御部31が自動的に入力切替タイミングICTを手首のアンコックのタイミングに設定する場合、制御部31は、手首のアンコックのタイミングを、測定ステップS1で得られた測定データから検知し、検知した手首のアンコックのタイミングを、入力切替タイミングICTとして設定してもよい。例えば、制御部31は、
図4に示すように、測定データに含まれる角速度データに基づいて得られる、角速度の波形において、角速度が連続的な増加を開始する点に対応するタイミングを、手首のアンコックのタイミングとして検知してもよい。
制御部31は、シミュレーション中に測定データを読み込みながら手首のアンコックの検知を行ってもよいし、シミュレーションを実施する前に予め測定データを読み込んで手首のアンコックの検知を行い、検知した手首のアンコックのタイミングを、入力切替タイミングICTに設定してもよい。
【0033】
なお、入力切替タイミングICTより前の期間の少なくとも一部において、変位データに加えて、トルクデータT及び力データFを、ゴルフクラブモデル500に入力してもよい。
また、ダウンスイング中において、いったん入力切替タイミングICT以降に変位データを入力しないようにした後に、再び変位データを入力するようにしてもよい。ただし、入力切替タイミングICTからインパクトまでは、継続的に、変位データを入力しないようにするほうが、シミュレーション精度をより向上できる。
【0034】
(実施例)
つぎに、
図5〜
図6を参照して、比較例及び実施例のそれぞれに係るシミュレーション方法を用いた場合の効果を確かめるために、ゴルフクラブモデル500の入力点504への入力のみをそれぞれ異ならせて、上記のシミュレーションステップS3を実施した。比較例及び実施例に係るシミュレーションでは、それぞれ同じゴルフクラブモデル500を用いた。
実施例に係るシミュレーションでは、スイングのうちの少なくともダウンスイングの一部分(より具体的には、手首のアンコックからインパクトまでの部分)において、ゴルフクラブモデル500に、変位データ(位置データP及び回転角度データΘ)を入力せず、トルクデータT及び力データFのみを入力し、スイングにおける他の部分では、変位データをゴルフクラブモデル500に入力した。一方、比較例に係るシミュレーションでは、スイング全体にわたって、変位データをゴルフクラブモデル500に入力した。
比較例及び実施例に係るシミュレーションにおいてゴルフクラブモデル500へ入力されるデータとしては、実際のスイングの測定データから得られるデータを用いずに、ある軌跡をある速度で動く人工的なスイングをある基準ゴルフクラブモデルを用いて行った場合について計算した結果を用いた。
そして、比較例及び実施例に係るシミュレーションで用いたゴルフクラブモデル500は、そのヘッドの重心距離が、上記基準ゴルフクラブモデルのヘッドの重心距離GDよりも、10mmだけ長い(GD+10mm)ものとした。
【0035】
図5(a)及び
図5(b)は、比較例及び実施例のそれぞれのシミュレーション結果として得られた、スイング中におけるヘッド速度及びヘッド位置の時間的変化を表すグラフである。
図5(a)及び
図5(b)から判るように、ヘッド速度及びヘッド位置については、比較例と実施例とで、同じ結果が得られた。
【0036】
図6は、上記基準ゴルフクラブモデルを用いた場合のスイングと、比較例及び実施例のそれぞれに係るシミュレーションによるスイングとで、それぞれ得られた、インパクト時におけるフェース角を表すグラフである。なお、ここでいう、インパクト時における「フェース角」とは、一般的な定義に従った、ゴルフクラブに固有なフェース角ではなく、ある仮想の基準面に対する、インパクト時でのフェース面の傾斜角度を指している。
一般的に、ヘッドの重心距離が長くなると、その分、ゴルフクラブが振り難くなり、ひいては、インパクト時におけるフェース角が開く方向(スライスする方向)に変化する(小さくなる)傾向がある。言い換えれば、上記基準ゴルフクラブモデルよりもヘッドの重心距離の長いゴルフクラブモデル500を用いたシミュレーションの結果としては、基準ゴルフクラブモデルを用いた場合のフェース角よりも開く方向に変化した(小さくなった)ものであれば、妥当といえる。その点、実施例に係るシミュレーション(
図6の実線)では、妥当な結果が得られたといえる。一方、比較例に係るシミュレーション(
図6の破線)では、フェース角が基準ゴルフクラブモデルを用いた場合のフェース角よりも閉じる方向(フックする方向)に変化(大きくなる)しており、妥当な結果が得られなかったといえる。
【0037】
なお、図示は省略するが、
図6と同様に、上記基準ゴルフクラブモデルを用いた場合のスイングと、比較例及び実施例のそれぞれに係るシミュレーションによるスイングとで、それぞれ得られた、インパクト時におけるヘッド速度を求めた結果、比較例及び実施例の両方のシミュレーション結果において、ヘッド速度が、基準ゴルフクラブモデルを用いた場合のヘッド速度よりも高くなり、ひいては、妥当な結果が得られた。
【0038】
図5及び
図6のシミュレーション結果から判るように、実施例のシミュレーションによれば、スイング中でのヘッドの挙動(ヘッド速度やヘッド位置等)については比較例のシミュレーションと同じ精度の結果を得ることができ、かつ、インパクト時でのヘッドの挙動(フェース角)については比較例のシミュレーションよりも高精度な結果を得ることができる。インパクト時でのヘッドの挙動をより高精度に予測できるので、インパクト後のゴルフボールの弾道をより高精度に予測するための判断材料を提供でき、ひいては、より適切なゴルフクラブの選定を可能とするための判断材料を提供できる。
【0039】
(変形例)
本実施形態によるゴルフスイングのシミュレーション方法は、
図1の例のシミュレーションシステム1とは異なる構成を持つシミュレーションシステムを用いて実施することもできる。
例えば、
図7に示すような構成を持つ測定装置20を用いて、測定ステップS1を実施してもよい。
図7は、本実施形態によるゴルフスイングのシミュレーション方法に用い得る、シミュレーションシステムの変形例を示している。
図7の例は、測定装置20の構成のみが、
図1の例と異なる。
図7の例において、測定装置20は、少なくとも2台の撮像装置23と、三次元画像計測処理装置22と、を有している。測定ステップS1で用いるゴルフクラブ50には、一直線上にない少なくとも3つ(図の例では3つのみ)の立体状(図の例では球状)のマーカーM1〜M3が取り付けられている。
図7の例では、3つのマーカーM1〜M3のうち、2つのマーカーM1、M3が、それぞれグリップ51の上端部及び下端部に設けられ、上側のマーカーM1の中心がグリップ51の中心軸線上に配置されており、下側のマーカーM3がグリップ51の外周面上に取り付けられており、残りの1つのマーカーM2が、シャフト52の外周面から突出するように取り付けられた取付部材54の突出先端部に設けられている。ただし、少なくとも3つのマーカーM1〜M3は、一直線上に配置されない限り、ゴルフクラブ50の任意の位置に取り付けられてよい。
【0040】
そして、測定ステップS1において、各撮像装置23は、ゴルファがゴルフクラブ50を用いてスイングする間、それぞれゴルフクラブ50に取り付けられたマーカーM1〜M3を撮像し、撮像して得た撮像データ(動画データ)を、三次元画像計測処理装置22に出力する。
一方、三次元画像計測処理装置22は、各撮像装置23から得られた撮像データに基づいて、スイング中の所定時間間隔毎における各マーカーM1〜M3の中心の3次元座標を、算出により求める。この際、いわゆるサークルフィッティング法を用いて、球状のマーカーM1〜M3の輪郭を抽出し、抽出した輪郭に近似した円を設定して、設定した円の中心を、マーカーM1〜M3の中心としてもよい。そして、三次元画像計測処理装置22は、このようにして得られた、マーカーM1〜M3に対応する3点の3次元時系列の変位データを含む測定データを、コンピュータ30へ送信する。
【0041】
なお、
図7のシステム1において、測定ステップS1の後の算出ステップS2では、制御部31(制御装置)が、測定ステップS1で得られた測定データ(マーカーM1〜M3に対応する3点の3次元時系列の変位データ)に基づいて、例えば逆動力学計算により、前述したようなトルクデータT及び力データFを求める。
この場合、制御部31は、算出ステップS2において、測定ステップS1で得られた測定データを、低域通過フィルタを使用してフィルタリング処理して、フィルタリング処理済の測定データに基づいて、トルクデータT及び力データFを求め、シミュレーションステップS3において、このトルクデータT及び力データFをゴルフクラブモデル500への入力に用いると、好適である。これにより、測定データに生じ得る高周波ノイズを除去できるので、シミュレーション精度を向上できる。