特許第6619964号(P6619964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619964
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】ヒートシール紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/24 20060101AFI20191202BHJP
   D21H 13/14 20060101ALI20191202BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20191202BHJP
   D21H 15/10 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   D21H13/24
   D21H13/14
   D21H27/00 E
   D21H15/10
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-158203(P2015-158203)
(22)【出願日】2015年8月10日
(65)【公開番号】特開2017-36521(P2017-36521A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 純也
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−128132(JP,A)
【文献】 特開平03−287896(JP,A)
【文献】 特開2012−031546(JP,A)
【文献】 米国特許第06352947(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ繊維と合成繊維の混合物とを含む繊維混合物から調製された原料パルプスラリーが、湿式抄紙されてなり、
前記合成繊維の混合物が、芯鞘構造を有するポリプロピレン繊維と、芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート繊維と、芯鞘構造を有さないポリエチレンテレフタレート繊維とを含み、
前記芯鞘構造を有するポリプロピレン繊維は、芯部がポリプロピレンで、鞘部がポリプロピレン又はポリエチレンであり、
前記芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート繊維は、芯部がポリエチレンテレフタレートで、鞘部がポリエチレンであり、
JIS P 8116に準拠して得た横方向の引張伸び(CD)と縦方向の引張伸び(MD)との比(CD/MD)が、1.10以上であり、かつ
JIS P 8135に準拠して得た横方向の湿潤引張伸び(CD)と縦方向の湿潤引張伸び(MD)との比(CD/MD)が、1.00以上である、ヒートシール紙。
【請求項2】
合成繊維の混合物100質量部に対して、芯鞘構造を有するポリプロピレン繊維が10〜20質量部、芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート繊維が30〜50質量部、及び芯鞘構造を有さないポリエチレンテレフタレート繊維が10〜30質量部含まれる、請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
JIS P 8117に準拠して得た透気抵抗度が、1.0〜2.5秒である、請求項1又は2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
請求項1に記載のヒートシール紙の製造方法であって、
前記繊維混合物から原料パルプスラリーを調製する工程と、
円網と傾斜型短網とを備えた抄紙機で前記原料パルプスラリーを湿式抄紙し、ヒートシール原紙を製造する工程と、
前記ヒートシール原紙の片面に、熱カレンダーにて加熱処理を施す工程と
からなる、ヒートシール紙の製造方法。
【請求項5】
150〜200℃で熱カレンダーにて加熱処理を施す、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
円網のワイヤーメッシュを140メッシュ以下にして、クラフトパルプ繊維から調製した原料パルプスラリーを湿式抄紙して1つの紙層とし、かつ
傾斜型短網を10.0〜15.0度の傾斜角に調整して、合成繊維の混合物から調製した原料パルプスラリーを湿式抄紙してもう1つの紙層とする、請求項4又は5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコーヒーフィルター等に用いられるヒートシール紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばコーヒーフィルター用紙等の食品フィルター用紙として、従来、クラフトパルプや麻パルプといった天然パルプ繊維と、ポリエチレンやポリプロピレンといった合成繊維とを抄紙したシート紙が用いられているほか、ポリオレフィン系繊維を主成分とした合成繊維のみを抄紙したシート紙も提案されている。
【0003】
特許文献1には、エチレン共重合変成ポリプロピレンを鞘成分とし、プロピレンを芯成分とした鞘芯型複合繊維に、ポリエーテルアミド系化合物を付着させた繊維と、親水性繊維とを混合抄紙した抽出用シート紙が開示されている。
【0004】
特許文献2には、特定範囲の融点を有するエチレン共重合体を芯部、脂肪族ポリエステルとポリオレフィンとの組成物を鞘部とする芯鞘複合繊維又はフィブリル化芯鞘複合繊維を含む不織布をヒートシール層としたティーバッグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−169296号公報
【特許文献2】特開2010−275676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えばコーヒー用のポッドフィルターとして使用時のコーヒー等の粉末微粒子の粉落ちが低減され、適度な抽出性を有するほか、コーヒーメーカー設備でポッドフィルターを交換する際に必要な作業効率性や機械的強度及びヒートシール性に優れたヒートシール紙、並びに該ヒートシール紙の簡易でかつ効率のよい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
クラフトパルプ繊維と合成繊維の混合物とを含む繊維混合物から調製された原料パルプスラリーが、湿式抄紙されてなり、
前記合成繊維の混合物が、芯鞘構造を有するポリプロピレン繊維と、芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート繊維と、芯鞘構造を有さないポリエチレンテレフタレート繊維とを含み、
前記芯鞘構造を有するポリプロピレン繊維は、芯部がポリプロピレンで、鞘部がポリプロピレン又はポリエチレンであり、
前記芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート繊維は、芯部がポリエチレンテレフタレートで、鞘部がポリエチレンであり、
JIS P 8116に準拠して得た横方向の引張伸び(CD)と縦方向の引張伸び(MD)との比(CD/MD)が、1.10以上であり、かつ
JIS P 8135に準拠して得た横方向の湿潤引張伸び(CD)と縦方向の湿潤引張伸び(MD)との比(CD/MD)が、1.00以上である、ヒートシール紙
に関する。
【0008】
また本発明は、
前記ヒートシール紙の製造方法であって、
前記繊維混合物から原料パルプスラリーを調製する工程と、
円網と傾斜型短網とを備えた抄紙機で前記原料パルプスラリーを湿式抄紙し、ヒートシール原紙を製造する工程と、
前記ヒートシール原紙の片面に、熱カレンダーにて加熱処理を施す工程と
からなる、ヒートシール紙の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、例えばコーヒー用のポッドフィルターとして使用時のコーヒー等の粉末微粒子の粉落ちが低減され、適度な抽出性を有するほか、コーヒーメーカー設備でポッドフィルターを交換する際に必要な作業効率性や機械的強度及びヒートシール性に優れている。また本発明の製造方法により、このようなヒートシール紙を簡易にかつ効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態)
本発明のヒートシール紙は、クラフトパルプ繊維と、合成繊維の混合物とを含む、繊維混合物を原料とする。
【0011】
クラフトパルプ繊維には、食品用フィルターの分野で通常用いられるクラフトパルプを用いることができる。該クラフトパルプとしては、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)や針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)や広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いられる。これらの中でも、ヒートシール紙をヒートシール加工する際に、ヒートシール装置に繊維が付着するのを妨げる効果が大きいという点、及び、機械的強度の向上や、引張伸び及び湿潤引張伸びを抑制する効果が大きい点で、特に針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)が好適に用いられる。
【0012】
前記クラフトパルプのJIS P 8121−2に準拠したフリーネス(CSF)には特に限定がなく、例えば、400〜650ml程度に調整すればよい。さらに、機械的強度の向上や、引張伸び及び湿潤引張伸びを抑制する効果が大きいという点から、450〜550mlに調整することが好ましい。
【0013】
合成繊維の混合物には、芯鞘構造を有するポリプロピレン(以下、PPともいう)繊維と、芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)繊維と、芯鞘構造を有さないPET繊維とが含まれる。
【0014】
前記芯鞘構造を有するPP繊維は、ヒートシール紙にヒートシール性、特に適度なヒートシール強度を付与することができ、例えば、芯部がPPで、鞘部がPPやポリエチレン(以下、PEともいう)である複合繊維が好適に用いられる。
【0015】
芯鞘構造を有するPP繊維において、芯部の融点が155〜170℃程度、鞘部の融点が130〜150℃程度であることが好ましく、繊度が1.4〜3.0デシテックス(dtex)程度、繊維長が4〜6mm程度であることが好ましい。
【0016】
前記芯鞘構造を有するPET繊維は、ヒートシール紙における繊維の定着性を向上させ、ヒートシール紙に均一な地合を付与し、適度な目詰まりとなるようにすることができるほか、ヒートシール紙が容易に収縮するようにすることもできる。芯鞘構造を有するPET繊維としては、例えば、芯部がPETで、鞘部がPEである複合繊維が好適に用いられる。
【0017】
芯鞘構造を有するPET繊維において、芯部の融点が240〜280℃程度、鞘部の融点が90〜135℃程度であることが好ましく、繊度が0.5〜1.7デシテックス(dtex)程度、繊維長が4〜6mm程度であることが好ましい。
【0018】
前記芯鞘構造を有さないPET繊維は、ヒートシール紙に均一な地合を付与し、適度な目詰まりとなるようにすることができるほか、ヒートシール紙の収縮性を向上させることもできる。
【0019】
芯鞘構造を有さないPET繊維は、融点が240〜280℃程度、繊度が0.1〜1.2デシテックス(dtex)程度、繊維長が4〜6mm程度であることが好ましい。
【0020】
合成繊維の混合物中の各繊維の量は、ヒートシール紙への適度な抽出性や、優れた機械的強度及びヒートシール性の付与を考慮して適宜調整されるが、合成繊維の混合物100質量部に対して、芯鞘構造を有するPP繊維が10〜20質量部、さらには13〜18質量部、芯鞘構造を有するPET繊維が30〜50質量部、さらには35〜45質量部、及び芯鞘構造を有さないPET繊維が10〜30質量部、さらには13〜18質量部含まれることが好ましい。
【0021】
芯鞘構造を有するPP繊維の量が10質量部未満であると、ヒートシール紙にヒートシール性、特に適度なヒートシール強度が充分に付与されず、基材の剛度が低下して機械的強度が低下する恐れがある。また芯鞘構造を有するPP繊維の量が20質量部を超えると、フィルターに使用した際の粉落ち性能が低下する恐れがある。
【0022】
芯鞘構造を有するPET繊維の量が30質量部未満であると、ヒートシール紙における繊維の定着性が充分に向上しない恐れや、ヒートシール紙に均一な地合が付与されず、目詰まりが不充分となる恐れがある。また芯鞘構造を有するPET繊維の量が50質量部を超えると、フィルターに使用した際の粉落ち性能が低下する恐れがある。
【0023】
芯鞘構造を有さないPET繊維の量が10質量部未満であると、ヒートシール紙に均一な地合が付与されず、目詰まりが不充分となる恐れや、ヒートシール紙の収縮性が充分に向上しない恐れがある。また芯鞘構造を有さないPET繊維の量が30質量部を超えると、芯鞘構造を有するPP繊維によるヒートシール性の付与効果が阻害される恐れがある。
【0024】
前記合成繊維の混合物には、前記合成繊維のほかにも、例えばクラフトパルプ繊維が含まれていてもよい。該クラフトパルプ繊維としては、例えば、前記化学パルプ等のクラフトパルプを用いることができる。合成繊維の混合物に含まれるクラフトパルプは、前記化学パルプ等のクラフトパルプと同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよいが、NBKPを用いることが、ヒートシール紙へ適度な抽出性やヒートシール強度を付与する効果が大きいという点から好ましい。
【0025】
合成繊維の混合物において、合成繊維のほかに前クラフトパルプ繊維を配合する場合、その量は、混合物100質量部に対して20〜50質量部、さらには25〜35質量部となるように調整することが、ヒートシール紙の適度な抽出性や粉落ち性能の向上、ヒートシール加工の工程時に合成繊維由来の粘着物が低減する点から好ましい。
【0026】
本発明のヒートシール紙の製造方法では、まず、クラフトパルプ繊維と合成繊維の混合物とを含む繊維混合物から原料パルプスラリーを調製する。
【0027】
原料パルプスラリーは、クラフトパルプ繊維としてクラフトパルプを適宜選択し、また合成繊維の混合物として芯鞘構造を有するPP繊維、芯鞘構造を有するPET繊維及び芯鞘構造を有さないPET繊維、並びに必要に応じてクラフトパルプ等を適宜選択して、各成分を配合することにより調製することができる。
【0028】
原料パルプスラリーを調製する際には、例えば、粘度調整剤、分散剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、消泡剤、剥離剤、定着剤等の添加薬品を適宜配合することができる。これらの添加薬品は、クラフトパルプ繊維、合成繊維の混合物各々の原料に応じて、その種類を適宜変更することが好ましい。
【0029】
次に、抄紙機で前記原料パルプスラリーを湿式抄紙し、ヒートシール原紙を製造する。
【0030】
本発明の製造方法では、原料パルプスラリーを、乾式抄紙ではなく、湿式抄紙することが特徴の1つである。従来のヒートシール紙を、例えばポッドフィルター等のコーヒーフィルターに使用した場合、コーヒーの粉末微粒子が粉落ちすることが多く、このような粉落ちを防ぐことがヒートシール紙の使用時の課題であった。粉末微粒子の粉落ちは、ヒートシール紙の伸びに関係しており、原料パルプスラリーを乾式抄紙して得られるヒートシール紙は、伸びが大きくなり過ぎ、使用時に粉落ちが生じる。原料パルプスラリーを湿式抄紙することにより、ヒートシール紙の伸びを適度に調整することが可能となり、使用時の粉落ちを防ぐことができる。また、ヒートシール紙は伸びが小さ過ぎると機械的強度が低下する傾向があるが、このように伸びを適度に調整することにより、使用時の粉落ちを防ぐとともに、機械的強度を向上させることもできる。
【0031】
原料パルプスラリーを湿式抄紙する際には、ワイヤーパートに円網と傾斜型短網とを備えた抄紙機を用いる。このように円網と傾斜型短網とを備えた抄紙機で湿式抄紙することにより、ヒートシール紙に均一な地合を付与し、適度な目詰まりとなるようにすることができるとともに、ヒートシール紙の横方向の引張強度(Y)と縦方向の引張強度(T)との比(Y/T)を調整し、ヒートシール紙に適度な抽出性を付与することもできる。
【0032】
前記したように、原料パルプスラリーは、クラフトパルプ繊維と合成繊維の混合物とを含む繊維混合物から調製されるが、クラフトパルプ繊維から調製した原料パルプスラリーをワイヤーパートの円網に供給して湿式抄紙し、1つの紙層(以下、紙層Aともいう)とするとともに、合成繊維の混合物から調製した原料パルプスラリーをワイヤーパートの傾斜型短網に供給して湿式抄紙し、もう1つの紙層(以下、紙層Bともいう)とすることができる。
【0033】
クラフトパルプ繊維から調製した原料パルプスラリーを円網に供給し、抄紙速度や抄紙時間を適宜調整して抄紙する際に、ヒートシール紙に均一な地合を付与し、適度な目詰まりとなるようにするという点から、該円網のワイヤーメッシュを140メッシュ以下、さらには70〜100メッシュに設定することが好ましい。円網のワイヤーメッシュが140メッシュを超えると、脱水効率が悪化するため、原料パルプスラリーを抄紙してシート化した際に、シートの均一性が低下し、目的とする均一な地合のヒートシール紙を得ることが困難になる。また円網のワイヤーメッシュが70メッシュ未満であると、原料パルプスラリーを抄紙する際に、微細なパルプ繊維が抄紙機のワイヤーから脱落し、シート化した際に適度な目詰まりが付与されず、ヒートシール紙に必要な粉落ち性能を充分に得ることが困難になる。
【0034】
合成繊維の混合物から調製した原料パルプスラリーを傾斜型短網に供給して抄紙する際に、抄紙速度や抄紙時間を適宜調整するとともに、該傾斜型短網の傾斜角を調整することにより、ヒートシール紙の横方向の引張強度(Y)と縦方向の引張強度(T)との比(Y/T)が所望の範囲となるようにすることができる。該Y/Tの値は、後述するように、ヒートシール紙に適度な抽出性を付与するという点から、0.30以上となるようにすることが好ましいが、このようなY/Tの値を得るには、傾斜型短網を10.0〜15.0度、さらには11.0〜14.0度の傾斜角に調整することが好ましい。
【0035】
次に、例えば前記のごとく得られた紙層A、紙層Bを合わせて、抄紙機のプレスパートにて適宜条件を設定して脱水し、ヒートシール原紙を製造する。次いで該ヒートシール原紙をドライヤーパートに送り、乾燥温度や乾燥時間を適宜調整して乾燥させる。
【0036】
次に、乾燥したヒートシール原紙に熱カレンダーにて加熱処理を施す。ここで、加熱処理はヒートシール原紙の両面ではなく、片面に施すことが、本発明の製造方法の特徴の1つである。ヒートシール原紙に熱カレンダーにて加熱処理を施さない場合には、前記芯鞘構造を有するPP繊維による、ヒートシール紙にヒートシール性、特に適度なヒートシール強度を付与する効果が充分に発現されない。また、ヒートシール原紙の両面に熱カレンダーにて加熱処理を施した場合には、ヒートシール紙が高密度化され、フィルター用途に必要な抽出性が確保できない結果となってしまう。すなわち、ヒートシール原紙の片面に熱カレンダーにて加熱処理を施すことにより、合成繊維同士が充分に定着し、ヒートシール紙が適度に嵩高(低密度)になって抽出性が向上し、適度な目詰まりとなって使用時の粉落ちが充分に低減される。
【0037】
熱カレンダーにて加熱処理を施す際の加熱温度は、150〜200℃、さらには155〜190℃であることが好ましい。加熱温度が150℃未満であると、合成繊維間の熱融着性が不充分であり、機械的強度の低下やシートから繊維の脱落が起こる恐れがある。また加熱温度が200℃を超えると、合成繊維が完全に溶融して、繊維形状を維持できなくなり、機械的強度や他の性能が低下する恐れがある。
【0038】
なお、前記熱カレンダーによる加熱処理は、実質、熱カレンダーロールを加圧せずに行うことが好ましい。熱カレンダーロールを加圧せずに、ヒートシール原紙で熱ロールを巻くように接触させるのみにして加熱処理を行うことにより、得られるヒートシール紙の厚さが小さくなり過ぎず、ヒートシール紙に適度な収縮性が付与される。このことで、抽出性と機械的強度という、相反する品質をともに高めることができる。
【0039】
かくして得られる本発明のヒートシール紙は、JIS P 8116:2000に準拠して得た横方向の引張伸び(CD)と縦方向の引張伸び(MD)との比(CD/MD)が、1.10以上であり、かつ、JIS P 8135:1998に準拠して得た横方向の湿潤引張伸び(CD)と縦方向の湿潤引張伸び(MD)との比(CD/MD)が、1.00以上である。CD/MDが1.10未満である場合、及び/又は、CD/MDが1.00未満である場合には、使用時の粉落ちが充分に低減されず、抽出性も不充分である。なお、CD/MDは1.10〜2.00、さらには1.20〜1.45であることが好ましく、CD/MDは1.00〜1.90、さらには1.10〜1.40であることが好ましい。また、CDは2.5〜4.5%程度、MDは2.0〜3.5%程度であることが好ましく、CDは6.0〜8.5%程度、MDは3.5〜7.0%程度であることが好ましい。
【0040】
本発明のヒートシール紙は、JIS P 8117:2009(低圧法)に準拠して得た透気抵抗度が、1.0〜2.5秒、さらには1.3〜2.0秒であることが好ましい。透気抵抗度が1.0秒未満であると、抽出性が不充分となる恐れがある。また透気抵抗度が2.5秒を超えると、粉落ち性能が低下し、適度な抽出性が得られなくなる恐れがある。なお、該透気抵抗度は、後述のとおり、ヒートシール紙を30枚積層して測定した値である。
【0041】
ヒートシール紙の、JIS P 8113:2006に準拠して得た横方向の引張強度(Y)と縦方向の引張強度(T)との比(Y/T)は、適度な抽出性を得るという点から、0.30以上、さらには0.40〜0.50であることが好ましい。また、Yは0.40〜1.00kN/mであることが好ましく、Tは1.00〜2.10kN/mであることが好ましい。
【0042】
ヒートシール紙の、JIS Z 0238:1998に準拠して得たヒートシール強度は、ポッドフィルターに加工した際のシール箇所の強度維持、ポッドフィルターとして使用する際に加工された形状を維持するという点から、70〜200N/m、さらには80〜150N/mであることが好ましい。なお、該ヒートシール強度は、後述のとおり、ヒートシール紙を160℃、圧力0.5kg/cmの条件でヒートシールして得られた試料について測定した値である。
【0043】
ヒートシール紙の、JIS P 8124:2011に準拠して得た坪量は、20〜35g/m程度であることが好ましく、JIS P 8118:2014に準拠して得た厚さは、70〜110μm程度であることが好ましく、同じくJIS P 8118:2014に準拠して得た密度は、0.2〜0.4g/cm程度であることが好ましい。
【0044】
このように、本発明のヒートシール紙は、クラフトパルプ繊維と特定の3種の合成繊維の混合物とを含む繊維混合物を原料とし、これを湿式抄紙した原紙の片面に加熱処理を施して得られたものであり、横方向の引張伸びと縦方向の引張伸びとの比が特定範囲で、横方向の湿潤引張伸びと縦方向の湿潤引張伸びとの比も特定範囲である。よって本発明のヒートシール紙は、使用時のコーヒー等の粉末微粒子の粉落ちが低減され、適度な抽出性を有するほか、機械的強度及びヒートシール性に優れている。
【0045】
次に、本発明のヒートシール紙及びその製造方法を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、配合における部数は、固形分の部数である。
【0046】
各調製例、実施例及び比較例で用いた成分は、以下のとおりである。
【0047】
(1)クラフトパルプ繊維
・NBKP
針葉樹晒クラフトパルプ
JIS P 8121−2:2012に準拠したフリーネス(CSF):約500ml
【0048】
(2)合成繊維の混合物
・芯鞘構造を有するPP繊維(芯鞘PP)
芯部:PP(融点160℃)、鞘部:PE(融点140℃)
繊度:2.2dtex、繊維長:5mm
・芯鞘構造を有するPET繊維(芯鞘PET)
芯部:PET(融点260℃)、鞘部:PE(融点110℃)
繊度:1.1dtex、繊維長:5mm
・芯鞘構造を有さないPET繊維(通常PET)
融点:260℃、繊度:0.6dtex、繊維長:5mm
・NBKP
針葉樹晒クラフトパルプ
JIS P 8121−2:2012に準拠したフリーネス(CSF):約500ml
【0049】
調製例1(原料パルプスラリーの調製)
NBKPを分散させた水中に、増粘剤、分散剤及び消泡剤を添加し、NBKP 100質量部に対して、乾燥紙力増強剤(製品名:セロゲンSG、第一工業製薬(株)製)を0.2質量部、湿潤紙力増強剤(製品名:WS−4024、星光PMC(株)製)を2.0質量部配合し、NBKPの原料パルプスラリーAを調製した。
【0050】
また、芯鞘PP 15.0質量%、芯鞘PET 40.0質量%、通常PET 15.0質量%及びNBKP 30.0質量%を配合し、合成繊維の混合物を得た。この合成繊維の混合物を分散させた水中に、増粘剤、分散剤及び消泡剤を添加し、NBKP 100質量部に対して、乾燥紙力増強剤(製品名:セロゲンSG、第一工業製薬(株)製)を0.2質量部、湿潤紙力増強剤(製品名:WS−4024、星光PMC(株)製)を2.0質量部配合し、合成繊維の混合物の原料パルプスラリーB1を調製した。
【0051】
調製例2(原料パルプスラリーの調製)
調製例1と同様にして原料パルプスラリーAを調製した。また、合成繊維の混合物として、芯鞘PP 11.0質量%、芯鞘PET 44.0質量%、通常PET 15.0質量%及びNBKP 30.0質量%を配合したほかは、調製例1と同様にして原料パルプスラリーB2を調製した。
【0052】
調製例3(原料パルプスラリーの調製)
調製例1と同様にして原料パルプスラリーAを調製した。また、合成繊維の混合物として、芯鞘PP 19.0質量%、芯鞘PET 36.0質量%、通常PET 15.0質量%及びNBKP 30.0質量%を配合したほかは、調製例1と同様にして原料パルプスラリーB3を調製した。
【0053】
調製例4(原料パルプスラリーの調製)
調製例1と同様にして原料パルプスラリーAを調製した。また、合成繊維の混合物として、芯鞘PP 11.0質量%、芯鞘PET 30.0質量%、通常PET 11.0質量%及びNBKP 48.0質量%を配合したほかは、調製例1と同様にして原料パルプスラリーB4を調製した。
【0054】
比較調製例1(原料パルプスラリーの調製)
調製例1と同様にして原料パルプスラリーAを調製した。また、合成繊維の混合物として、芯鞘PPを用いず、芯鞘PET 55.0質量%、通常PET 15.0質量%及びNBKP 30.0質量%を配合したほかは、調製例1と同様にして原料パルプスラリーB’1を調製した。
【0055】
比較調製例2(原料パルプスラリーの調製)
調製例1と同様にして原料パルプスラリーAを調製した。また、合成繊維の混合物として、芯鞘PETを用いず、芯鞘PP 55.0質量%、通常PET 15.0質量%及びNBKP 30.0質量%を配合したほかは、調製例1と同様にして原料パルプスラリーB’2を調製した。
【0056】
実施例1(ヒートシール紙の製造)
ワイヤーパートに円網と傾斜型短網とを備えた抄紙機を用い、ヒートシール紙の坪量が約22g/mとなるように、調製例1で得られた原料パルプスラリーA、原料パルプスラリーB1を湿式抄紙した。
【0057】
原料パルプスラリーAを円網(ワイヤーメッシュ:80メッシュ)に供給し、抄紙速度80m/分の条件で抄紙して、紙層Aを得た。また、原料パルプスラリーB1を傾斜型短網に供給し、傾斜型短網の傾斜角13.8度、抄紙速度80m/分の条件で抄紙して、紙層Bを得た。得られた紙層A、紙層Bを重ね合わせて抄紙機のプレスパートにて脱水し、ヒートシール原紙を製造した。
【0058】
得られたヒートシール原紙を抄紙機のドライヤーパートに送り、乾燥させた。乾燥したヒートシール原紙を抄紙機のカレンダーパートに送り、加熱温度155℃、処理速度100m/分の条件で加圧なしで、ヒートシール原紙の片面に熱カレンダーによる加熱処理を施し、ヒートシール紙を製造した。
【0059】
実施例2〜6(ヒートシール紙の製造)
原料パルプスラリーの種類、又は、熱カレンダーによる加熱処理の条件を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様にしてヒートシール紙を製造した。
【0060】
実施例7(ヒートシール紙の製造)
ヒートシール紙の坪量が約30g/mとなるように、調製例1で得られた原料パルプスラリーA、原料パルプスラリーB1を湿式抄紙し、熱カレンダーによる加熱処理の条件を加熱温度185℃、処理速度100m/分に変更したほかは、実施例1と同様にしてヒートシール紙を製造した。
【0061】
実施例8〜12(ヒートシール紙の製造)
原料パルプスラリーの種類、又は、熱カレンダーによる加熱処理の条件を表1に示すように変更したほかは、実施例7と同様にしてヒートシール紙を製造した。
【0062】
比較例1〜2(ヒートシール紙の製造)
原料パルプスラリーの種類、及び/又は、熱カレンダーによる加熱処理の条件を表1に示すように変更したほかは、実施例7と同様にしてヒートシール紙を製造した。
【0063】
比較例3(ヒートシール紙の製造)
抄紙機のワイヤーパートにて傾斜型短網を用いず、原料パルプスラリーA、原料パルプスラリーB1いずれも円網に供給し、熱カレンダーによる加熱処理の処理速度を50m/分に変更したほかは、実施例1と同様にしてヒートシール紙を製造した。
【0064】
比較例4(ヒートシール紙の製造)
熱カレンダーによる加熱処理を行わなかったほかは、実施例7と同様にしてヒートシール紙を製造した。
【0065】
試験例
得られたヒートシール紙について、以下の方法に従って物性及び特性を調べた。その結果を表1、表2に示す。
【0066】
(1)横方向の引張伸び(CD)及び縦方向の引張伸び(MD
JIS P 8116:2000に準拠して求めた。またこれらの値から、CDとMDとの比(CD/MD)を算出した。
【0067】
(2)横方向の湿潤引張伸び(CD)及び縦方向の湿潤引張伸び(MD
JIS P 8135:1998に準拠して求めた。またこれらの値から、CDとMDとの比(CD/MD)を算出した。
【0068】
(3)透気抵抗度
JIS P 8117:2009「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」(低圧法)に準拠し、ヒートシール紙を30枚積層したものを空気100mlが通過する時間(秒)を測定した。
【0069】
(4)横方向の引張強度(Y)及び縦方向の引張強度(T)
JIS P 8113:2006に準拠して求めた。またこれらの値から、YとTとの比(Y/T)を算出した。
【0070】
(5)坪量
JIS P 8124:2011に準拠して求めた。
【0071】
(6)厚さ及び密度
JIS P 8118:2014に準拠して求めた。
【0072】
(7)ヒートシール強度
JIS Z 0238:1998に準拠し、ヒートシール紙を160℃、圧力0.5kg/cmの条件でヒートシールして得られた試料について測定した。
【0073】
(8)抽出性
ヒートシール紙をプラスチックボトルの開口部上に貼付し、100mlの水をヒートシール紙上からプラスチックボトル内部へ流し込んだ際に、全量の水がヒートシール紙から流れ出るまでに要する時間を、市販のストップウォッチにて測定した。
【0074】
なお、この測定結果が8.0秒以下のヒートシール紙は、液の通過が早過ぎて、適した濃度のコーヒー液を抽出することができず、コーヒーフィルターとして使用不可であると判断した。また測定結果が22.0秒以上のヒートシール紙は、適した濃度のコーヒー液を抽出することができたが、液の通過が遅すぎて、抽出性が遅く、操業性が悪いため、通常のコーヒーメーカー装置に適用不可であると判断した。
【0075】
(9)粉落ち
ヒートシール紙に市販のコーヒー粉末を10g包み、ヒートシール加工をしてパッケージングした。次いで、得られたパッケージングをカップ上に設置し、100mlの熱水を注ぎ、コーヒーを抽出して得られるコーヒー液を30分間静置後、カップの底に溜まった沈澱物を目視にて確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:カップの底に、コーヒー粉末は確認されなかった。
○:カップの底に、わずかにコーヒー粉末が確認されたが、使用に問題がない。
×:カップの底に、全体的にコーヒー粉末が確認され、使用できない。
【0076】
【表1】
【表2】
【0077】
実施例1〜12のヒートシール紙は、クラフトパルプ繊維と、芯鞘構造を有するPP繊維、芯鞘構造を有するPET繊維及び芯鞘構造を有さないPET繊維の3種の合成繊維の混合物とを原料とし、円網と傾斜型短網とを備えた抄紙機で湿式抄紙した原紙の片面に、熱カレンダーで加熱処理を施して得られたものである。
【0078】
したがって、実施例1〜12のヒートシール紙は、CD/MDが1.10以上で、かつCD/MDが1.00以上であり、粉落ちが充分に低減され、適度な抽出性を有し、機械的強度及びヒートシール性にも優れている。
【0079】
これに対して、比較例1のヒートシール紙は、芯鞘構造を有するPP繊維を用いずに得られたものであるので、粉落ちは低減されているものの、抽出性に劣り、操業性が悪いため、コーヒーフィルターとして使用できない。
【0080】
比較例2のヒートシール紙は、芯鞘構造を有するPET繊維を用いずに得られたものであるので、抽出性に劣り、適した濃度のコーヒー液を抽出することができないうえに、抽出後のコーヒー液全体にコーヒー粉末が確認され、コーヒーフィルターとして使用できない。
【0081】
比較例3のヒートシール紙は、抄紙機のワイヤーパートにて傾斜型短網を用いず、円網のみで湿式抄紙して得られたものであるので、抽出性に劣り、適した濃度のコーヒー液を抽出することができないうえに、抽出後のコーヒー液全体にコーヒー粉末が確認され、コーヒーフィルターとして使用できない。
【0082】
比較例4のヒートシール紙は、ヒートシール原紙に熱カレンダーによる加熱処理を施さずに得られたものであるので、抽出性に劣り、適した濃度のコーヒー液を抽出することができないうえに、抽出後のコーヒー液全体にコーヒー粉末が確認され、コーヒーフィルターとして使用できない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のヒートシール紙は、例えばポッドフィルター等のコーヒーフィルターに好適に利用することができる。