【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2014−229283号明細書(2014年11月11日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.本発明の概要
本発明は、前述のとおり、下記(a)の組換えワクシニアウイルスと下記(b)の組換えベクターとを含むか、あるいは、下記(c)の組換えワクシニアウイルスと下記(d)の組換えワクシニアウイルスとを含む、C型肝炎の治療及び/又は予防用医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」ということがある)であり、
下記(a)の組換えワクシニアウイルス及び下記(b)の組換えベクターのいずれか一方を初期免疫用に投与した後、他方を追加免疫用に投与するか、あるいは、
下記(c)の組換えワクシニアウイルス及び下記(d)の組換えワクシニアウイルスのいずれか一方を初期免疫用に投与した後、他方を追加免疫用に投与する
ことを特徴とする、前記医薬組成物である。ここで、下記(a)、(c)、(d)は、一般に、いわゆるワクシニアワクチンと称されるものに該当し、下記(b)は、一般に、いわゆるDNAワクチンと称されるものに該当するといえるが、特に限定はされない。
(a)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部又は一部を含む組換えワクシニアウイルス
(b)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部又は一部(但し、前記(a)の組換えワクシニアウイルスに含まれるC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部又は一部とは、塩基配列が異なるものである。)を含む組換えベクター
(c)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部又は一部を含む組換えワクシニアウイルス
(d)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部又は一部(但し、前記(c)の組換えワクシニアウイルスに含まれるC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部又は一部とは、塩基配列が異なるものである。)を含む組換えワクシニアウイルス
一般に、従来公知のプライム/ブースト(prime/boost)法は、より強く細胞性免疫を誘導する方法として、まずDNAワクチンにより初期免疫を行い、その後、組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)により追加免疫を行う、感染症等に対する免疫治療・予防等の方法である(前掲の非特許文献7等)。この従来公知のプライム/ブースト法では、初期免疫に用いるDNAワクチンに組み込むDNA(原因ウイルス等のゲノムcDNA由来のDNA)と、追加免疫に用いる組換えワクシニアウイルスに組み込むに挿入するDNAとについて、互いに、実質的に同一の塩基配列からなるDNAを用いる(互いに、当該ゲノムcDNA中の同一領域のDNAを用いる)ことが、当業者において技術常識となっていた。
しかしながら、本発明者は、従来全く想定されていなかった、初期免疫用ワクチンに組み込むDNAと追加免疫用ワクチンに組み込むDNAとを別の塩基配列からなるDNAとする(互いに、原因ウイルス等のゲノムcDNA中の別領域のDNAを用いる)ことにより、互いに同一領域のDNAを用いた場合に比べ、有意かつ非常に強力な特異的細胞性免疫が誘導されるという効果を見出した。しかもこの効果は、免疫賦活化が誘導されづらいHCV全長遺伝子を発現するモデル動物(トランスジェニックマウス)において、より顕著であることを見出した。さらに本発明者は、DNAワクチンと組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)のどちらを初期免疫に用い、どちらを追加免疫に用いても、上記顕著な効果が発揮され、加えて、初期免疫と追加免疫の両方に組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)を用いても、上記顕著な効果が発揮される、という従来のプライム/ブースト法では全く想定されていなかったことも見出した。本発明は、本発明者が繰り返し行った鋭意実験・検討の結果得られた、上述の様々な知見に基づいて完成されたものである。
2.ワクシニアワクチン(組換えワクシニアウイルス)
前記1.項で述べた(a)、(c)、(d)の組換えワクシニアウイルス(すなわちHCV組換えワクシニアウイルス;いわゆるワクシニアワクチン)及びその作製方法等について、以下に説明する。
C型肝炎ウイルス(HCV)のタンパク質をコードしているすべての遺伝子、外殻を構成する構造タンパク質領域をコードする遺伝子、及び複製に関与している非構造タンパク質領域をコードする遺伝子は、すでにクローニングされ、プラスミドに挿入されている。したがって、本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、遺伝子工学的手法として一般的に用いられているDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる遺伝子配列を単離又は合成した後に、それぞれの遺伝子に特異的なプライマーを設計し、PCR装置を用いてその遺伝子配列を増幅するPCR法、又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を用いることができる。上記方法は、「Moleculer cloning,A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001))等に従い、当業者ならば容易に行うことができる。得られたPCR産物の精製には公知の方法を用いることができる。
本発明の好ましい態様においては、上記プラスミドに挿入されているHCV遺伝子(遺伝子型1b;核酸番号1−9611;DDBJ/EMBL/GenBank accessionnumber;AY045702)を鋳型に用いることができる。そして、HCV遺伝子のcDNAを鋳型とし、HCV遺伝子特異的なプライマーを用いてPCRを行うことにより、HCVの各遺伝子領域を調製することができる。本発明においては、HCVのすべての遺伝子領域を「CN5」、主に外殻を構成する構造タンパク質の構造タンパク質領域をコードする遺伝子(非構造タンパク質領域をコードする遺伝子も一部に含む)を「CN2」、主に複製に関与している非構造タンパク質領域をコードする遺伝子(構造タンパク質領域(具体的には、E2領域の一部(E2領域の全長ではない)とp7領域)をコードする遺伝子も一部に含む)を「N25」という。
CN2、N25及びCN5の塩基配列を、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3に示す。但し、配列番号1〜3に示される塩基配列からなるDNAのほか、以下のDNAも、本発明において使用することができる。
配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、C型肝炎ウイルスの構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードするDNA(CN2の変異型DNA)。
配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、C型肝炎ウイルスの構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードするDNA(N25の変異型DNA)。
配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、C型肝炎ウイルスの構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードするDNA(CN5の変異型DNA)。
ここで、「C型肝炎ウイルスの構造タンパク質をコードする」とは、ウイルスの外殻を構成するタンパク質をコードすることを意味し、具体的には、少なくともコア領域、E1領域、E2領域をコードする。また、「C型肝炎ウイルスの非構造タンパク質をコードする」とは、ウイルスが増殖するときに細胞中に産生されるタンパク質をコードすることを意味し、具体的には、少なくともNS2領域、NS3領域、NS4a領域、NS4b領域、NS5a領域、NS5b領域をコードする。また、「C型肝炎ウイルスの構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードする」とは、ウイルスの外殻を構成するタンパク質と、ウイルスが増殖するときに細胞中に産生されるタンパク質をコードすることを意味し、具体的には、少なくともコア領域、E1領域、E2領域、NS2領域、NS3領域、NS4a領域、NS4b領域、NS5a領域、NS5b領域をコードする。
また、上記構造タンパク質をコードする遺伝子及び非構造タンパク質をコードする遺伝子には、全長配列のほか、その一部の配列も含まれる。
CN2の場合は、コア領域、E1領域、E2領域、p7領域、及びNS2領域(又はその一部)の全部又はいずれかの領域を含む限り、全長である必要はなくその一部でもよい。例えば、配列番号1に示す塩基配列中のE1領域(589〜1164番)、E2の領域(1165〜2253番)を使用することができる。
N25の場合は、E2領域(具体的にはその一部)、p7領域、NS2領域、NS3領域、NS4a領域、NS4b領域、NS5a領域、及びNS5b領域の全部又はいずれかの領域を含む限り、全長である必要はなくその一部でもよい。例えば、配列番号2に示す塩基配列中のNS2領域(805〜1455番)、NS3領域(1456〜3348番)を使用することができる。
CN5の場合は、コア領域、E1領域、E2領域、p7領域、NS2領域、NS3領域、NS4a領域、NS4b領域、NS5a領域、及びNS5b領域の全部又はいずれかの領域を含む限り、全長である必要はなくその一部でもよい。例えば、配列番号3に示す塩基配列中のE1領域(589〜1164番)、E2領域(1165〜2253番)、NS2領域(2443〜3093番)、NS3領域(3094〜4986番)を使用することができる。
上記変異型DNAは、化学合成により得ることができ、あるいは、配列番号1〜3で表される塩基配列からなるDNA、又はその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。上記ハイブリダイゼーションにおいてストリンジェントな条件としては、たとえば、0.1×SSC〜10×SSC、0.1%〜1.0%SDS及び20℃〜80℃の条件が挙げられ、より詳細には、37℃〜56℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSC、0.1%SDS中、室温で10〜20分の洗浄を1〜3回行う条件が挙げられる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Press(2001))等を参照することができる。
また、配列番号1に示す塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性(同一性)を有し、かつ、C型肝炎ウイルスの構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードするDNA(CN2の変異型DNA)、配列番号2に示す塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性(同一性)を有し、かつ、C型肝炎ウイルスの構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードするDNA(N25の変異型DNA)、配列番号3に示す塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性(同一性)を有し、かつ、C型肝炎ウイルスの非構造タンパク質及び構造タンパク質をコードするDNA(CN5の変異型DNA)を用いることができる。
本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれるプロモーターは、ワクシニアウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子領域内にポックスウイルスA型封入体(ATI)プロモーター及び複数反復するワクシニアウイルス7.5kDaタンパク質(p7.5)前期発現プロモーターにより構成されるハイブリットプロモーターである。このプロモーターは、適当なプラスミドに連結することができ、例えばpBMSF7Cが知られている(Arch.Virol.138,315−330,1994;特開平6−237773号公報)。
本発明において使用可能なハイブリッドプロモーターの塩基配列を配列番号4に示す。但し、配列番号4に示す塩基配列からなるDNAのほか、配列番号4に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を有するDNAも、本発明において使用することができる。「ストリンジェントな条件」は前記と同様である。「プロモーター活性を有する」とは、構造タンパク質又は非構造タンパク質をコードする遺伝子の転写活性を有することを意味する。また、配列番号4に示す塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性(同一性)を有し、かつ、プロモーター活性を有するDNAも用いることができる。
このハイブリットプロモーターにより発現されるタンパク質は、ワクシニアウイルス感染前期から後期まで完全な糖修飾を受けた形で大量に発現することができる。本発明においては、pBMSF7Cのプロモーター下流にHCV遺伝子(CN5)を挿入したプラスミドベクターをpBMSF7C−CN5という。また、本発明において、pBMSF7Cのプロモーター下流に、主に構造タンパク質領域(非構造タンパク質領域も一部に含む)遺伝子(CN2)を挿入したプラスミドベクターをpBMSF7C−CN2という。さらに、pBMSF7Cのプロモーター下流に、主に非構造タンパク質領域(構造タンパク質領域も一部に含む)遺伝子(N25)を挿入したプラスミドベクターをpBMSF7C−N25という。
これらのプラスミドベクターを、宿主であるワクシニアウイルスに導入することで、組換えワクシニアウイルスを作製することができる。プラスミドベクターの宿主への導入は、公知の任意の手法を採用することができ、例えば弱毒ワクシニアウイルスLC16m8株を感染した動物細胞中にプラスミドベクターpBMSF7C−CN5、pBMSF7C−CN2、pBMSF7C−N25をそれぞれ導入することにより、ワクシニアウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子領域で相同組換えを引き起こし、HCVの各タンパク質をそれぞれ発現する組換えワクシニアウイルス(rVV−CN5、rVV−CN2及びrVV−N25)を作製することができる。
なお、組換えワクシニアウイルスの作製に用いたワクシニアウイルスLC16m8株は、動物個体で増殖可能であるが、神経細胞における増殖性は極めて低い弱毒株である。日本では痘瘡ワクチンとして認可されており、約5万人の小児に接種の結果、重篤な副作用は発生していない(厚生省種痘研究班研究報告、臨床とウイルスvol.3,No.3,269,1975)。一方、免疫誘導能に関しては親株であるLister株と同等であることが報告されており、LC16m8株は安全で効果的なワクチンである。
作製したrVV−CN5、rVV−CN2及びrVV−N25は、ワクシニアウイルスのHA遺伝子領域にHCVのタンパク質遺伝子が挿入されるため、HAタンパク質の発現が欠如し、赤血球凝集反応を起こさない。したがって、rVV−CN5、rVV−CN2及びrVV−N25を動物細胞に感染させ、これにより形成するプラークへのニワトリ赤血球の凝集反応を指標にして、組換えワクシニアウイルスのスクリーニングを行う。目的の組換えワクシニアウイルスは、赤血球凝集が認められないホワイトプラークを選別すればよい。
ホワイトプラークより得られたウイルスは、ウイルスゲノムを鋳型としてHCV遺伝子特異的なプライマーによりPCRを行い、HCVの遺伝子導入を確認することができる。
HCVタンパク質の発現は、rVV−CN5、rVV−CN2及びrVV−N25を感染させた後の動物細胞をサンプルとして、ウエスタンブロット法により確認することができる。なお、抗体は、HCVポリペプチドを免疫して作製した抗血清から(J.Biol.Chem.279:14531−14541,2004)Protein GによりIgGを精製した物を用いることができる。
組換えワクシニアウイルスの作製において目的遺伝子の挿入部位として、HA遺伝子領域以外として、一般にはチミジンキナーゼ(TK)遺伝子領域が用いられるが、TK遺伝子領域に目的遺伝子を挿入することにより、TKの発現欠損により組換えワクシニアウイルスの増殖性が低下することが知られている。一方、HAタンパク質発現欠損による組換えワクシニアウイルスの増殖性はほとんど影響がないことが報告されている(Vaccine 12,675−681,1994)。したがって、本発明においては、目的遺伝子の挿入部位としてHA遺伝子領域が好ましい。
3.DNAワクチン(組換えベクター)
前記1.項で述べた(b)の組換えベクター(いわゆるDNAワクチン)及びその作製方法等について、以下に説明する。
DNAワクチンは、遺伝子を運ぶベクター(プラスミドやウイルス)に、所望の遺伝子(本発明ではHCVゲノム由来のcDNA)を組み込んで患者等に投与し、このDNAワクチンを取り込んだ細胞に上記所望の遺伝子から発現するタンパク質やペプチドを産生させるというものである。産生されたタンパク質等は免疫系を刺激し、その抗体を誘導する。DNAワクチンは、投与後長時間体内に止まり、タンパク質等を緩徐に産生し続けるため、過剰な免疫反応を避けることが可能であり、単純な構造であるために改良も可能である(Tang DC et al.,Nature 356:152−154,1992;Barry MA et al.,Nature 377:632−635,1995)。さらに、宿主に誘導される免疫反応はTh2型であるという利点がある(Tang DC et al.,Nature 356:152−154,1992;Ulmer JB et al.,Science 259:1745−1749,1993;Hoffman SL et al.,Ann N Y Acad Sci 772:88−94,1995)。
本発明で用いるDNAワクチンとしては、前記2.項で説明した組換えワクシニアウイルスに組み込まれるHCVゲノム由来cDNA等(当該cDNAの変異型を含む)と同様のcDNAやこれに対応するRNA等が組み込まれたプラスミドベクターやウイルスベクターが挙げられる。具体的には、本発明で用いるDNAワクチンとしては、前述したプラスミドベクターpBMSF7C−CN5、pBMSF7C−CN2、pBMSF7C−N25が好ましく挙げられるが、特に限定はされない。
4.C型肝炎の治療及び/又は予防用医薬組成物
本発明の医薬組成物は、前記1.項で述べた(a)の組換えワクシニアウイルスと(b)の組換えベクターとを併用する医薬組成物、及び、前記1.項で述べた(c)の組換えワクシニアウイルスと(d)の組換えワクシニアウイルスとを併用する医薬組成物である。
ここで、上記併用にあたり、上記(a)の組換えワクシニアウイルスに含まれる(組み込まれる)HCVゲノムのcDNAの全部または一部と、上記(b)の組換えベクターに含まれる(組み込まれる)HCVゲノムのcDNAの全部または一部とが、互いに塩基配列が異なるものであることが重要である。
同様に、上記併用にあたり、上記(c)の組換えワクシニアウイルスに含まれる(組み込まれる)HCVゲノムのcDNAの全部または一部と、上記(d)の組換えワクシニアウイルスに含まれる(組み込まれる)HCVゲノムのcDNAの全部または一部とが、互いに塩基配列が異なるものであることが重要である。
このように、組み込まれるHCVゲノムのcDNAが、互いに異なる塩基配列のものであることにより、前述した顕著な効果、すなわち非常に強力な特異的細胞性免疫誘導の効果が発揮される。
上記(a)の組換えワクシニアウイルスと上記(b)の組換えベクターにそれぞれ組み込むHCVゲノム由来のcDNAの組みわせや、上記(c)の組換えワクシニアウイルスと上記(d)の組換えワクシニアウイルスにそれぞれ組み込むHCVゲノム由来のcDNAの組みわせとしては、特に限定はされず、前記2.項で説明した本発明に利用できる各種HCVゲノム由来cDNA等から任意に選択することができる。例えば、上記(a)の組換えワクシニアウイルスにN25を組み込み、上記(b)の組換えベクターにCN2を組み込む組合せや、またその逆の組合せが挙げられ、あるいは、上記(c)の組換えワクシニアウイルスにN25を組み込み、上記(d)の組換えワクシニアウイルスにCN2を組み込む組合せや、またその逆の組合せが挙げられるが、これらに限定はされない。
さらに、本発明の医薬組成物においては、上記(a)の組換えワクシニアウイルスと上記(b)の組換えベクターとの併用の場合は、いずれか一方を初期免疫用に投与し、その後他方を、追加免疫用に投与することが重要である。また、上記(c)の組換えワクシニアウイルスと上記(d)の組換えワクシニアウイルスとの併用の場合も、いずれか一方を初期免疫用に投与し、その後他方を、追加免疫用に投与することが重要である。本発明においては、初期免疫の投与自体をさらに複数回(好ましくは2回)に分けて行ってもよいし、追加免疫の投与自体をさらに複数回(好ましくは2回)に分けて行ってもよい。例えば、初期免疫の投与を0weekと2week後の2回に分けて行った後、4week後に追加免疫の投与を行う投与スケジュールや、初期免疫の投与を0weekに行った後、2week後と4week後の2回に分けて追加免疫の投与を行う投与スケジュールなどが好ましく挙げられる。異なる種類のワクチンを、初期免疫と追加免疫の2段階に経時的に分けて投与する細胞性免疫誘導の方法は、プライム/ブースト法の特徴である。
なお、本発明においては、被験動物(患者)に、下記(a)の組換えワクシニアウイルス及び下記(b)の組換えベクターのいずれか一方を初期免疫用に投与した後、他方を追加免疫用に投与することを特徴とする、C型肝炎の治療及び/又は予防方法を提供することもできる。
(a)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部または一部を含む組換えワクシニアウイルス
(b)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部または一部(但し、前記(a)の組換えワクシニアウイルスに含まれるC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部または一部とは、塩基配列が異なるものである。)を含む組換えベクター
また本発明においては、C型肝炎の治療及び/又は予防をするための、本発明の医薬組成物の使用、具体的には、上記(a)の組換えワクシニアウイルス及び上記(b)の組換えベクターの使用、特に、上記(a)の組換えワクシニアウイルス及び上記(b)の組換えベクターのいずれか一方の初期免疫用の使用、並びに、他方の追加免疫用の使用を提供することもできる。
さらに本発明においては、被験動物(患者)に、下記(c)の組換えワクシニアウイルス及び下記(d)の組換えワクシニアウイルスのいずれか一方を初期免疫用に投与した後、他方を追加免疫用に投与することを特徴とする、C型肝炎の治療及び/又は予防方法を提供することもできる。
(c)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部または一部を含む組換えワクシニアウイルス
(d)発現プロモーター、及びC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部または一部(但し、前記(c)の組換えワクシニアウイルスに含まれるC型肝炎ウイルスゲノムのcDNAの全部または一部とは、塩基配列が異なるものである。)を含む組換えワクシニアウイルス
また本発明においては、C型肝炎の治療及び/又は予防をするための、本発明の医薬組成物の使用、具体的には、上記(c)の組換えワクシニアウイルス及び上記(d)の組換えワクシニアウイルスの使用、特に、上記(c)の組換えワクシニアウイルス及び上記(d)の組換えワクシニアウイルスのいずれか一方の初期免疫用の使用、並びに、他方の追加免疫用の使用を提供することもできる。
本発明の医薬組成物は、あらゆる公知の方法、例えば、筋肉、腹腔内、皮内又は皮下等の注射、あるいは鼻腔、口腔又は肺からの吸入、経口投与により生体に投与することができ、限定はされない。なお、本発明の医薬組成物に含まれる組換えワクシニアウイルスの投与の際には、既存の抗ウイルス薬(例えばインターフェロン)を併用することもできる。この併用の態様は特に限定されるものではなく、本発明の組換えウイルスと既存の抗ウイルス薬とを同時に投与することもできるし、一方を投与後、一定時間経過後に他方を投与する方法により生体に導入することもできる。
また、本発明の医薬組成物は、賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等と混合することができる。
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤等の経口投与剤、注射剤、外用剤、坐剤、点眼剤等の非経口投与剤などの形態に応じて、経口投与又は非経口投与することができる。好ましくは、皮内、筋肉、腹腔等への局部注射等が例示される。
投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択されるが、組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)や組換えベクター(DNAワクチン)の一日投与量としては、経口の場合は1000〜1000000000PFU(plaque forming units)程度、好ましくは100000〜100000000PFU程度であり、非経口の場合は100〜1000000000PFU(plaque forming units)程度、好ましくは1000〜100000000PFU程度である。組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)や組換えベクター(DNAワクチン)は、1日1回投与することもでき、複数回に分けて投与することもできる。
本発明に用いる組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)や組換えベクター(DNAワクチン)は、予めワクチンとしての抗体価または細胞性免疫活性を測定しておくことが好ましい。
例えば、組換えワクシニアウイルス(ワクシニアワクチン)としてのrVV−CN5、rVV−CN2、rVV−N25、または親株であるLC16m8株に対する抗体価は、これらのウイルス株をウサギに接種後、経時的に血清を回収し、血清のHCVに対するELISA価を測定することで得ることができる。組換えベクター(DNAワクチン)の抗体価も、上記と同様の手法により測定することができる。
また、細胞性免疫活性は、rVV−CN5、rVV−CN2、rVV−N25、または親株であるLC16m8株をマウスに接種後、免疫したマウスから脾臓細胞を分離し、HCV特異的なCTL(細胞障害性T細胞)が誘導されている否かを、ELISPOT assayにより測定することができる。組換えベクター(DNAワクチン)の細胞性免疫活性も、上記と同様の手法により測定することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例5】
【0010】
ELISPOT法による特異的細胞性免疫誘導能の測定
赤血球溶血処理を行った脾細胞(1×10
5)又は、脾細胞を磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて分離したCD8
+、CD4
+細胞(2×10
5)を予めマイトマイシン処理を行った刺激細胞(HCVの各遺伝子部位を過剰発現した腫瘍細胞(EL−4/CN2,/C,/E2,/NS2,/N3−4A))(1×10
4)で刺激し、37℃、5% CO
2インキュベーター中で48時間培養、HCV抗原特異的IFN−γ産生細胞をELISPOT法により測定した。
(1日目)
96wellニトロセルロースプレートに精製抗マウスIFN−γ抗体(R4−6A2)(1mg/ml)(Pharmingen)を最終濃度8μg/mlに調整(sterile PBSにて125倍希釈)し、75〜100μl/wellでまき、4度で一晩静置した。
(2日目)
マウスより脾臓細胞を取り出し、洗浄用RPMIで適量に浮遊させた。洗浄用RPMIは2.5% FCSを添加したものを使用した。1200rpm,4度で5分間遠心し細胞を集めた。ACK(ammonium chloride potassium)処理し、洗浄用RPMIで適量に浮遊し、再度1200rpm,4度で5分間遠心し細胞を集めた。フィルターに500μlの洗浄用RPMIを通した後に細胞浮遊液を通し、完全に通った後洗浄用RPMI 1.5mlで洗った。10% FCS添加RPMIで1回洗浄し、H−h培地に浮遊後、1×10
7/mlに調整した。
1)H−h培地:10% FCS添加RPMIと10% FCS添加CLICK’S mediumを等量混合したもの
2)10% FCS添加RPMI:RPMI−1640(SIGMA R8758),FCS(final 10%),2−メルカプトエタノール(終濃度5μM),ペニシリン−ストレプトマイシン(終濃度PCs:100μ/ml,SM:0.1mg/ml),7.5% NaHCO
34ml
3)10% FCS添加CLICK’S培地:CLICK’S培地(SIGMA C5572),FCS(終濃度10%),2−メルカプトエタノール(終濃度5μM),ペニシリン−ストレプトマイシン(終濃度PCs:100μ/ml,SM:0.1mg/ml),7.5% NaHCO
34ml
培養の開始
上記96wellニトロセルロースプレートをPBS(100μl/well)で3回洗浄後、10% FCS添加RPMIを100μl/wellで加え、37度で1時間CO
2インキュベーター中に入れブロッキングを行った。培地を捨て、エフェクター細胞を1×10
6/100μl/wellから0.125×10
6/100μl/wellまで2倍階段希釈で播いた。
ペプチド溶液(200μg/ml)を100μl/well(終濃度100μg/ml)にて加え、37度で24時間CO
2インキュベーター中で培養した。
(3日目)
培地を捨て、PBS,0.05% Tween 20(200μl/well)で10回洗浄した。ビオチン化抗−マウスIFN−γ(XMG1.2)(0.5mg/ml)(Pharmingen)を最終濃度2μg/mlに調整(PBSにて250倍希釈)し、100μl/wellで添加した。4度で1晩静置した。
(4日目)
上記96wellニトロセルロースプレートをPBS,0.05% Tween 20(200ul/well)で10回洗浄した。ストレプトアビジン−アルカリフォスファターゼ(1mg/ml)(MABTECH AB)を最終濃度1μg/mlに調整(PBSにて1000倍希釈)し、100μl/wellで添加した。
得られた溶液を室温で1.5時間静置した。25×AP color development buffer(BIO−RAD)をDWで25倍希釈し、1/100量のAP color reagent A and B(BIO−RAD)をそれぞれ加えて反応混合物を調製した。上記96wellニトロセルロースプレートをPBS,0.05% Tween 20(200μl/well)で10回洗浄した。反応混合物を100μl/wellで加え、室温で10〜20分静置した。発色しdarkspotが出現したら反応混合物を捨て、水中でよく洗った。96wellニトロセルロースプレートの底を剥がし乾燥させ、ELISPOT Readerでスポットの数を計数した。
HCV−N25ワクチン及びrVV−N25を投与したC57BL/6マウスより脾臓を採取し、脾細胞中のHCV抗原特異的IFN−γ産生細胞をELISPOT法により測定した。コントロール群由来の脾細胞は刺激後、何ら特異的なスポットを示さなかったが、HCV−N25投与群由来の脾臓細胞では、EL−4/E2,/NS2,/N3−4A細胞による刺激後に、顕著にIFN−γを産生することを確認した(
図2)。また、プライム/ブースト群においても同様にEL−4/E2,/NS2,/N3−4A細胞に対し、IFN−γを産生することを確認した。
計数した結果を示す。
図2はHCV部分長TgマウスへのHCV−N25とrVV−N25のプライム/ブーストワクチン接種の結果を示している。HCV−N25単独接種に比較してHCV特異的細胞性免疫反応を強く誘導している。
図3はそのときの肝臓中HCVコアタンパク質量を示しており、HCV−N25とrVV−N25のプライム/ブーストワクチン接種の方が強く排除されている。
図4はそのときの肝臓組織所見で、HCV−N25とrVV−N25のプライム/ブーストワクチン接種が最も肝炎の改善が認められる。しかしながら、
図5に示すようにHCV全長TgマウスへのHCV−N25とrVV−N25のプライム/ブーストワクチン接種では十分なHCV特異的細胞性免疫反応の誘導が認められなかった。そこで、
図6に示すようにプライム/ブーストワクチン接種の組み合わせを各種に変えて検討を行った。
その結果、
図7に示すようにHCV−N25とrVV−CN2プライム/ブーストワクチン接種のように異なった遺伝子領域の組み合わせで、強くHCV特異的細胞性免疫反応を誘導できることが明らかとなった。さらに各種の組み合わせで解析した結果を
図8に示す。このように異なった遺伝子領域であればHCV−DNAとrVVのプライム/ブーストワクチン接種のみならず、異なった遺伝子領域のrVVのプライム/ブーストワクチン接種でも強くHCV特異的細胞性免疫反応を誘導できることが明らかとなった。この異なった遺伝子領域の組み合わせでHCV全長TgマウスへのHCV−N25とrVV−CN2プライム/ブーストワクチン接種を行ったところ、
図9に示すように非常に強いHCV特異的細胞性免疫反応の誘導が認められた。