(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記説明した特許文献1に記載の複合型車両駆動装置では、第2電動機が内燃機関のモータリングを行うモータリング減速モードに移行するとき、内燃機関の回転数が目標機関回転数に収束するよう制御される。したがって、当該モード時にアクセルペダルが踏み込まれれば、燃料噴射の再開によって直ちに内燃機関の自立運転が開始し、加速に移行できるが、十分な加速に要する出力はアクセルペダルが踏み込まれたときの車速等によって異なる。しかし、特許文献1に記載の複合型車両駆動装置では、目標機関回転数が車速の変化に依らずに設定されるため、アクセルペダルが踏み込まれたときの車速によっては十分な加速応答性を実現できない。
【0005】
本発明の目的は、減速走行中に要求駆動力が増加したときの、走行速度によらない加速応答性の向上を実現可能なハイブリッド車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
出力軸(例えば、後述の実施形態での駆動軸9)に接続された第1回転電機(例えば、後述の実施形態での第1回転電機MG1)と、
内燃機関(例えば、後述の実施形態での内燃機関ENG)と、
前記内燃機関に接続された第2回転電機(例えば、後述の実施形態での第2回転電機MG2)と、を備えるハイブリッド車両であって、
前記ハイブリッド車両の運転者が操作するアクセルペダルの開度(例えば、後述の実施形態でのAP開度)に基づく要求駆動力を導出する導出部(例えば、後述の実施形態での要求駆動力導出部153)と、
前記要求駆動力に応じて、前記内燃機関、前記第1回転電機及び前記第2回転電機を制御する制御部(例えば、後述の実施形態での制御部155)と、を備え、
前記制御部は、
前記第1回転電機の動力による前記ハイブリッド車両の走行中、前記要求駆動力が0以下のときの前記内燃機関の回転数を、前記ハイブリッド車両の走行速度に基づいた前記走行速度が大きいほど高い可変な所定値に保持し、前記要求駆動力が0よりも大きくなった場合には、
前記要求駆動力に応じた回転数よりも前記所定値が低い場合に、前記内燃機関の回転数を、前記所定値に保持されていた回転数から、前記要求駆動力に応じた回転数まで上げるよう制御するハイブリッド車両である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記制御部は、前記内燃機関の動力によって前記第2回転電機が発電した電力が供給される前記第1回転電機の動力による前記ハイブリッド車両の走行中、前記要求駆動力が0以下のときの前記内燃機関の回転数を前記所定値に保持する。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記内燃機関と前記出力軸との間の動力の伝達経路を断接する断接部(例えば、後述の実施形態でのロックアップクラッチCL)を備え、
前記所定値は、前記断接部を締結した状態で前記ハイブリッド車両が走行する場合の、前記内燃機関の回転数以下の値である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明において、
前記所定値は、前記内燃機関のアイドリング動作時の回転数より高い値である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の発明において、
前記制御部は、前記内燃機関の回転数を前記所定値に保持するよう制御しているときは、前記内燃機関の動力によって前記第2回転電機が発電を行うよう制御する。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、
前記第1回転電機及び前記第2回転電機と電気的に接続された蓄電器(例えば、後述の実施形態での蓄電器BAT)を備え、
前記制御部は、
前記内燃機関の動力によって前記第2回転電機が発電した電力を前記蓄電器に入力するよう制御し、
前記蓄電器に入力される電力の制限値を超えない範囲で前記第2回転電機が発電を行うよう制御する。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、
前記制御部は、前記内燃機関の回転数を前記所定値に保持するよう制御した状態での前記蓄電器に入力される電力が前記制限値を超える場合は、前記回転数を前記所定値に保持したまま前記内燃機関のトルクを低減する。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか1項に記載の発明において、
前記内燃機関の回転数が前記所定値となるよう制御された状態で前記ハイブリッド車両が坂道を走行する場合の前記所定値は、前記坂道の勾配に応じた可変な値である。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、
前記坂道が登坂路である場合、前記所定値は、前記登坂路の勾配が大きいほど高い値である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係るハイブリッド車両では、第1回転電機の動力による走行時の要求駆動力が大きいと、内燃機関の動力によって第2回転電機が発電した電力を第1回転電機に供給する。但し、第2回転電機の発電電力の大きさは内燃機関の回転数に依存し、内燃機関のトルクが一定であれば、内燃機関の回転数が高いほど上記発電電力は大きい。このため、第1回転電機の動力による走行時に、要求駆動力が増加したときの内燃機関の回転数が低いと、第1回転電機は十分な電力を得られない。また、ハイブリッド車両の走行に必要な駆動力は、転がり抵抗や空気抵抗等を含む定常走行抵抗、加速抵抗及び勾配抵抗の合計に依存する。特に定常走行抵抗は、ハイブリッド車両の走行速度の増加と共に大きくなるため、走行速度が高いほど大きな駆動力が求められる。このように、ハイブリッド車両の走行速度が異なれば走行抵抗等も異なるため、第1回転電機の要求出力の大きさは、同じ要求駆動力であっても走行速度によって異なる。
【0016】
請求項1の発明では、ハイブリッド車両が第1回転電機の動力による走行中、要求駆動力が0以下であれば、その後の加速要求に備えて、内燃機関の回転数を所定値に保持するよう制御する。さらに、上記所定値は、ハイブリッド車両の走行速度が大きいほど高い値である。このため、請求項1の発明によれば、1回転電機の動力による前記ハイブリッド車両の走行中、要求駆動力が0以下であり走行速度が高い状態で要求駆動力が増加しても、内燃機関は高回転数の状態から所望の回転数に短時間で到達できる。すなわち、加速のために要求駆動力が増加したときの高出力発生までの応答時間を走行速度によらずに短縮できる。このように、減速走行中に要求駆動力が増加したとき、ハイブリッド車両の走行速度によらない加速応答性の向上を実現できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、内燃機関の動力によって第2回転電機が発電した電力が供給される第1回転電機の動力によってハイブリッド車両が走行中、要求駆動力が0以下のときの内燃機関の回転数を上記所定値に保持するため、シリーズ走行での減速走行中に要求駆動力が増加したとき、ハイブリッド車両の走行速度によらない加速応答性の向上を実現できる。
【0018】
請求項3の発明では、所定値は、断接部を締結した状態での内燃機関の動力による直結走行状態での走行速度に応じた内燃機関の回転数よりも低い値であるため、直結走行状態のときにアクセルペダルが離されて要求駆動力が略0になったときの内燃機関の回転数は低下する。このため、直結走行状態での走行中にアクセルペダルを離す操作が行われたときに生じる内燃機関の回転数の変化は、ハイブリッド車両の運転者に違和感を与えない。
【0019】
請求項4の発明によれば、所定値は、内燃機関のアイドリング動作時の回転数より高い値であるため、要求駆動力が略0になってから要求駆動力が増加したときの加速応答性を向上できる。
【0020】
請求項5の発明によれば、ハイブリッド車両の加速応答性を向上するために要求駆動力が略0であるときの内燃機関の回転数を所定値に保持するよう制御しているときは、内燃機関の動力によって第2回転電機が発電を行うよう制御する。このため、内燃機関の回転数を所定値に保持している間には、発電によって燃費性能の低下を防止しつつ、要求駆動力が増加したときの加速応答性を向上できる。
【0021】
請求項6の発明によれば、内燃機関の回転数を所定値に保持するよう制御しているときは、蓄電器に入力される電力の制限値を超えない範囲で第2回転電機が発電するよう制御されるため、蓄電器を保護しつつ、発電電力の蓄電によって燃費性能の低下を防止でき、かつ、要求駆動力が増加したときの加速応答性を向上できる。
【0022】
請求項7の発明によれば、蓄電器に入力される電力が制限値を超える場合は、内燃機関の回転数を所定値に保持したまま内燃機関のトルクを低減することで、制限値を超えない範囲に蓄電器への入力電力を抑えることができるため、加速応答性の向上を実現しつつ蓄電器を保護することができる。
【0023】
ハイブリッド車両が坂道を走行する場合、坂道の勾配が大きいほど大きな要求駆動力が求められる。請求項8の発明によれば、所定値は、坂道の勾配に応じた可変な値であるため、要求駆動力が略0の状態で坂道を走行中に要求駆動力が増加しても、ハイブリッド車両の加速応答性を向上できる。
【0024】
請求項9の発明によれば、所定値は、ハイブリッド車両が走行する登坂路の勾配が大きいほど高い値であるため、要求駆動力が略0の状態で勾配の大きな登坂路を走行中に要求駆動力が増加しても、内燃機関は所望の回転数に短時間で到達できる。したがって、要求駆動力が増加したときの加速応答性を、走行する登坂路の勾配によらずに向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
HEV(Hybrid Electrical Vehicle:ハイブリッド電気自動車)は、回転電機及び内燃機関を備え、車両の走行状態に応じて回転電機及び/又は内燃機関の駆動力によって走行する。HEVには、大きく分けてシリーズ方式とパラレル方式の2種類がある。シリーズ方式のHEVは、回転電機の動力によって走行する。内燃機関は主に発電のために用いられ、内燃機関の動力によって別の回転電機で発電された電力は蓄電器に充電されるか、回転電機に供給される。一方、パラレル方式のHEVは、回転電機及び内燃機関のいずれか一方又は双方の駆動力によって走行する。また、これら両方式を切り換え可能なHEVも知られている。この種のHEVでは、走行状態に応じてクラッチを切断又は締結する(断接する)ことによって、駆動力の伝達系統をシリーズ方式及びパラレル方式のいずれかの構成に切り替える。
【0028】
図1は、シリーズ方式とパラレル方式とを切り換え可能なHEVの内部構成を示すブロック図である。
図1に示すHEV(以下、単に「車両」という。)は、回転する動力を出力する内燃機関ENGと、第1回転電機MG1と、第2回転電機MG2と、ロックアップクラッチ(以下、単に「クラッチ」という)CLと、ギアボックス(以下、単に「ギア」という。)GBと、車速センサー101と、バッテリセンサー103と、蓄電器BATと、VCU(Voltage Control Unit)105と、第1インバータINV1と、第2インバータINV2と、回転数センサー106と、加速度センサー108と、ECU(Electronic Control Unit)107とを備える。なお、
図1中の太い実線は機械連結を示し、二重点線は電力配線を示し、細い実線の矢印は制御信号又は検出信号を示す。
【0029】
内燃機関ENGは、クラッチCLが切断された状態で、第2回転電機MG2を発電機として駆動する。但し、クラッチCLが締結されると、内燃機関ENGが出力した動力は、車両が走行するための機械エネルギーとして、第2回転電機MG2、クラッチCL、ギアGB、第1回転電機MG1、ディファレンシャルギヤ8及び駆動軸9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。
【0030】
第2回転電機MG2は、内燃機関ENGの動力によって駆動され、電力を発生する。
【0031】
第1回転電機MG1は、回転子が蓄電器BAT及び第2回転電機MG2の少なくとも一方からの電力供給によって電動機として動作し、車両が走行するための動力を発生する。第1回転電機MG1で発生したトルクは、ディファレンシャルギヤ8及び駆動軸9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。また、第1回転電機MG1は、車両の制動時には発電機として動作し得る。
【0032】
クラッチCLは、ECU107からの指示に応じて、内燃機関ENGから駆動輪DW,DWまでの動力の伝達経路を切断又は締結する(断接する)。クラッチCLが切断状態であれば、内燃機関ENGが出力した動力は駆動輪DW,DWに伝達されず、クラッチCLが接続状態であれば、内燃機関ENGが出力した動力は駆動輪DW,DWに伝達される。ギアGBは、変速段又は固定段を含み、内燃機関ENGからの動力を所定の変速比で変速して駆動輪DWに伝達する。ギアGBにおける変速比はECU107からの指示に応じて変更される。
【0033】
蓄電器BATは、直列に接続された複数の蓄電セルを有し、例えば100〜200Vの高電圧を供給する。蓄電セルは、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池である。
【0034】
車速センサー101は、車両の走行速度(車速VP)を検出する。車速センサー101が検出した車速VPを示す信号は、ECU107に送られる。
【0035】
バッテリセンサー103は、蓄電器BATの出力(端子電圧,充放電電流)を検出する。バッテリセンサー103が検出した端子電圧や充放電電流等を示す信号は、バッテリ情報としてECU107に送られる。
【0036】
VCU105は、第1回転電機MG1が電動機として動作する際の蓄電器BATの出力電圧を昇圧する。また、VCU105は、車両の制動時に第1回転電機MG1が発電して直流に変換された回生電力を蓄電器BATに充電する場合に、第1回転電機MG1の出力電圧を降圧する。さらに、VCU105は、内燃機関ENGの駆動によって第2回転電機MG2が発電して直流に変換された電力を降圧する。VCU105によって降圧された電力は、蓄電器BATに充電される。
【0037】
図2は、蓄電器BAT、VCU105、第1インバータINV1、第2インバータINV2、第2回転電機MG2及び第1回転電機MG1の関係を示す電気回路図である。
図2に示すように、VCU105は、蓄電器BATが出力するV1電圧を入力電圧として2つのスイッチング素子をオンオフ切換動作することによって、出力側のV2電圧をV1電圧よりも高い電圧に昇圧する。なお、VCU105の2つのスイッチング素子がオンオフ切換動作しないときのV2電圧はV1電圧に等しい。
【0038】
第1インバータINV1は、直流電圧を交流電圧に変換して3相電流を第1回転電機MG1に供給する。また、第1インバータINV1は、車両の制動時に第1回転電機MG1が発電した交流電圧を直流電圧に変換する。第2インバータINV2は、内燃機関ENGの駆動によって第2回転電機MG2が発電した交流電圧を直流電圧に変換する。
【0039】
回転数センサー106は、内燃機関ENGの回転数Neを検出する。回転数センサー106が検出した回転数Neを示す信号は、ECU107に送られる。
【0040】
加速度センサー108は、車両の前後方向に作用する加速度(以下「前後加速度」という。)を検出する。加速度センサー108によって検出された前後加速度を示す信号は、ECU107に送られる。なお、前後加速度の値は、車両の前方向に加速度がかかった場合は正値を示し、車両の後方向に加速度がかかった場合は負値を示す。したがって、登坂路上で検出される前後加速度の値は、当該登坂路の勾配が大きいほど正値側に大きい。
【0041】
ECU107は、車両の状態に応じて、第1インバータINV1、第2インバータINV2及びVCU105の制御、並びに、クラッチCLの断接及び内燃機関ENGの運転の制御を行うことで、車両の状態に適した制御を行う。ECU107には、車両の運転者が操作するアクセルペダルの開度(AP開度)を示す信号、運転者によるブレーキペダルの操作に応じたブレーキペダル踏力(BRK踏力)を示す信号、車速センサー101から得られた車速VPを示す信号、バッテリセンサー103から得られたバッテリ情報を示す信号、回転数センサー106が検出した内燃機関ENGの回転数Neを示す信号、及び加速度センサー108が検出した前後加速度を示す信号が入力される。
【0042】
図3は、車両の状態に適した制御を行うECU107の内部構成を示すブロック図である。
図3に示すように、ECU107は、充放電電力算出部151と、要求駆動力導出部153と、制御部155とを有する。以下、ECU107が有する各構成要素について説明する。
【0043】
充放電電力算出部151は、バッテリセンサー103から得られたバッテリ情報に基づいて、蓄電器BATに入力される充電電力又は蓄電器BATが出力する放電電力を算出する。
【0044】
要求駆動力導出部153は、AP開度及び車速センサー101から得られた車速VPに基づいて、車両への要求駆動力を導出する。
図4は、AP開度と車速VPと要求駆動力との関係を示す図である。要求駆動力導出部153は、AP開度及び車速VPに基づいて、
図3に示す関係の算出式又はマップから要求駆動力を導出する。なお、要求駆動力導出部153が導出する要求駆動力は、中車速及び高車速領域では、AP開度が0に近いほど要求駆動力が0以下となる。
【0045】
制御部155は、要求駆動力導出部153が導出した要求駆動力等に基づいて、車両が以下に説明するどの走行モードで走行するかを選択し、選択した走行モード及び要求駆動力等に応じて、第1インバータINV1、第2インバータINV2、VCU105、内燃機関ENG及びクラッチCLの制御を行う。
【0046】
(車両の走行モード)
図1に示した車両は、
図5に示すように、典型的に以下の走行モードを有している。
【0047】
[EV走行モード]
EV走行モードに設定された車両では、クラッチCLは開放され、内燃機関ENGは停止している。車両は、蓄電器BATからの電力供給によって駆動する第1回転電機MG1の動力によって走行する。
【0048】
[シリーズ走行モード]
シリーズ走行モードに設定された車両では、クラッチCLは開放され、内燃機関ENGは運転している。車両は、蓄電器BATからの電力供給と共に、内燃機関ENGの運転によって第2回転電機MG2が発電した電力が供給される第1回転電機MG1の動力によって走行する。
【0049】
[エンジン走行モード]
エンジン走行モードに設定された車両では、クラッチCLは締結され、内燃機関ENGは運転している。車両は、内燃機関ENGが出力した動力によって走行する。なお、エンジン走行モードでの走行時、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の各回転子は、内燃機関ENGの駆動と共に連れ回される。但し、ECU107は、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2がそれぞれ無負荷状態となるようゼロトルク制御を行う。
【0050】
以下、車両がシリーズ走行モードで加速走行中に要求駆動力が0以下となり自然減速走行に移行したときにECU107が行う処理について、
図6及び
図7を参照して詳細に説明する。
図6は、車両がシリーズ走行モードで走行中に加速走行から自然減速走行に移行した後、再び加速走行に移行する場合にECU107が行う処理を示すフローチャートである。
図7は、シリーズ走行モードでの加速走行時及びシリーズ走行モードでの自然減速走行時の動力及び電力の伝達を示す図である。なお、「加速走行」とは、運転者がアクセルペダルを踏み込むことにより要求駆動力が0より大きな状態で車両が走行している状態をいう。なお、加速走行時に車速VPが増加している必要はない。また、「自然減速走行」とは、運転者が踏んでいたアクセルペダルを離したために要求駆動力が0以下となり、ブレーキペダルを踏む操作も行っていないために、車両が走行抵抗等のために減速している状態をいう。なお、自然減速走行時には、第1回転電機MG1の回生動作が行われても良い。
【0051】
図6に示すように、ECU107の制御部155は、要求駆動力導出部153が導出した要求駆動力から、車両がシリーズ走行モードで加速走行中であるか否かを判断し(ステップS101)、シリーズ走行モードでの加速走行中であればステップS103に進む。なお、シリーズ走行モードで加速走行中の車両では、
図7の(A)に示すように、要求駆動力に応じて運転される内燃機関ENGが第2回転電機MG2を発電機として駆動し、第2回転電機MG2が発電した電力が供給される第1回転電機MG1の動力によって走行する。
【0052】
ステップS103では、制御部155は、要求駆動力が正の値から0以下になり、かつ、BRK踏力が0のままであれば、自然減速走行に移行したと判断し、ステップS105に進む。シリーズ走行モードで自然減速走行中の車両では、要求駆動力が0以下であるため内燃機関ENGの運転を停止しても良いが、本実施形態では、その後の加速要求に備えて、制御部155は、内燃機関ENGの回転数Neを車速VPに応じて可変な所定値NRに保持するよう制御する(ステップS105)。このため、シリーズ走行モードで自然減速中の車両では、
図7の(B)に示すように、回転数Neを所定値NRに保持して内燃機関ENGの運転を維持する。
【0053】
ステップS105で保持される内燃機関ENGの回転数Neである上記所定値NRは、自然減速走行中の車速VPに応じて可変な値であり、車速VPが大きいほど高い値に設定されている。また、上記所定値NRは、内燃機関ENGのアイドリング動作時の回転数(アイドル回転数)より高い値である。さらに、上記所定値NRは、車両がエンジン走行モードで走行する場合の、車速VPに応じた内燃機関ENGの回転数Neよりも低い値である。
【0054】
また、上記所定値NRは、車両がシリーズ走行モードで登坂路を要求駆動力が0以下のまま自然減速走行している場合には、当該登坂路の勾配に応じて変更され、勾配が大きいほど高い値に設定される。すなわち、制御部155は、加速度センサー108から得られる前後加速度及び車速に基づき登坂路の勾配を算出し、車速に応じて可変な上記所定値NRを、算出した勾配に応じて補正する。
【0055】
ステップS105の処理では、制御部155は、回転数Neを所定値NRに保持して運転される内燃機関ENGの出力によって、第2回転電機MG2が発電を行うよう制御する。このときの第2回転電機MG2の発電電力は蓄電器BATに入力され、蓄電器BATが充電される。但し、蓄電器BATに入力される充電電力には、蓄電器BATの劣化抑制や故障防止等を目的とした最大制限値が設定されている。このため、制御部155は、ECU107の充放電電力算出部151によって算出された充電電力が上記最大制限値を超えない範囲で第2回転電機MG2が発電を行うよう、内燃機関ENGの運転点を制御する。例えば、上記充電電力が最大制限値を超える場合、制御部155は、内燃機関ENGの回転数Neを上記所定値NRに保持したまま内燃機関ENGのトルクを低減するよう制御する。
【0056】
制御部155は、上述したステップS105の処理が行われるシリーズ走行モードでの自然減速中に、要求駆動力が0よりも大きくなり、かつ、BRK踏力が0のままであれば(ステップS107でYES)、加速走行に移行したと判断し、ステップS109に進む。このとき、制御部155は、所定値NRに保持されていた内燃機関ENGの回転数Neを、要求駆動力に応じて第1回転電機MG1へ供給する電力を第2回転電機MG2が発電する回転数まで上げるよう制御する(ステップS109)。
【0057】
図8は、車両がシリーズ走行モードで走行中に加速走行から自然減速走行に移行した後、再び加速走行に移行した際の各パラメータの経時変化の一例を示す図である。
図8には、シリーズ走行モードで加速走行から自然減速走行に移行すると内燃機関ENGの回転数Neを上記所定値NRに保持する本実施形態の場合の変化を実線で示し、内燃機関ENGの回転数Neをアイドル回転数に低下させる場合の変化を点線で示す。
【0058】
図8に示す例では、シリーズ走行モードでの加速走行中に、運転者が踏んでいたアクセルペダルを離したためにAP開度が0になり、要求駆動力が0以下となってシリーズ走行モードのまま自然減速走行に移行すると、内燃機関ENGは、回転数Neをアイドル回転数まで低下することなく上記所定値NRに保持するよう制御される。但し、当該所定値NRは車速VPに応じて可変であり、車速VPが高いほど高い値に設定されるため、
図8に示す例のように、内燃機関ENGの回転数Neは、車速VPの低下に従い低下するが、アイドル回転数よりも高い値に保持される。その後、運転者がアクセルペダルを踏み込むと、要求駆動力に応じて第1回転電機MG1へ供給する電力を第2回転電機MG2が発電するために、内燃機関ENGの回転数Neが所定値NRから所望の回転数まで増加される。このとき、内燃機関ENGの回転数Neは、アイドル回転数からの増加ではないため、速やかに所望の回転数に到達し、車速VPが速やかに上昇する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、車両がシリーズ走行モードでの加速走行中にアクセルペダルが離され自然減速走行に移行すると、その後の加速要求に備えて、内燃機関ENGの回転数Neを所定値NRに保持するよう制御する。当該所定値NRは、車速VPに応じた可変値であるため、再びアクセルペダルが踏み込まれたときの内燃機関ENGの回転数Neは、このときの車速VPによらずに所望の回転数に短時間で到達できる。特に、所定値NRは、自然減速走行時の車速VPが高いほど高い値であるため、車速VPが高いときに再びアクセルペダルが踏み込まれても、内燃機関ENGは高い回転数の所定値NRから所望の回転数に短時間で到達できる。このように、自然減速走行中に加速のため要求駆動力が増加したときの高出力発生までの応答時間を車速VPによらずに短縮できるため、車速VPによらない加速応答性の向上が可能である。
【0060】
また、上記所定値NRは、エンジン走行モードでの車速VPに応じた内燃機関ENGの回転数Neよりも低い値であるため、エンジン走行モードでの加速走行中にアクセルペダルが離され自然減速走行に移行したときの内燃機関ENGの回転数Neは低下する。このため、エンジン走行モードでの加速走行中にアクセルペダルを離す操作が行われたときに生じる内燃機関ENGの回転数Neの変化は、車両の運転者に違和感を与えない。
【0061】
また、所定値NRは、内燃機関ENGのアイドル回転数より高い値であるため、アクセルペダルを離す操作が行われた後にアクセルペダルが再び踏み込まれたときの加速応答性を向上できる。
【0062】
また、シリーズ走行モードでの自然減速走行中の内燃機関ENGの回転数Neを所定値NRに保持するよう制御しているときは、内燃機関ENGの動力によって第2回転電機MG2が発電を行うよう制御する。このとき、蓄電器BATに入力される電力の最大制限値を超えない範囲で第2回転電機が発電するよう制御し、蓄電器BATに入力される電力が最大制限値を超える場合は、内燃機関ENGの回転数Neを所定値NRに保持したまま内燃機関ENGのトルクを低減する。このため、蓄電器BATを保護しつつ、発電電力の蓄電によって燃費性能の低下を防止でき、かつ、再びアクセルペダルが踏み込まれたときの加速応答性を向上できる。
【0063】
また、車両が坂道を走行する場合、坂道の勾配が大きいほど大きな要求駆動力が求められるが、本実施形態では、所定値NRは、車両が走行する登坂路の勾配が大きいほど高い値であるため、シリーズ走行モードでの自然減速走行中に再びアクセルペダルが踏み込まれても、走行する登坂路の勾配によらずに加速応答性を向上できる。
【0064】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上記説明した車両は、シリーズ方式とパラレル方式とを切り換え可能なHEVであるが、
図9に示すシリーズ式のHEVであっても、
図10に示す2MOT型電動4WDのHEVであっても、内燃機関ENGと第2回転電機MG2との間にクラッチが設けられた
図11に示すシリーズ方式とパラレル方式とを切り換え可能なHEVであっても良い。