特許第6620246号(P6620246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6620246-光吸収層、光電変換素子、及び太陽電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6620246
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】光吸収層、光電変換素子、及び太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20191202BHJP
   H01L 31/0352 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   H01L31/04 112Z
   H01L31/04 342A
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-540181(P2018-540181)
(86)(22)【出願日】2017年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2017009266
(87)【国際公開番号】WO2018163325
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2018年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】澤田 拓也
【審査官】 小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/109902(WO,A2)
【文献】 Jianbing Zhang et al.,"Diffusion-Controlled Synthesis of PbS and PbSe Quantum Dots with in Situ Halide Passivation for Quantum Dot Solar Cells",ACS Nano,2014年,Vol.8,pp.614-622
【文献】 Guangda Niu et al.,"Inorganic halogen ligands in quantum dots: I-, Br-, Cl- and film fabrication through electrophoretic deposition",Physical Chemistry Chemical Physics,2013年,Vol.15,pp.19595-19600
【文献】 Zhijun Ning et al.,"Quantum-dot-in-perovskite solids",Nature,2015年,Vol.523,pp.324-328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/02−31/078
H01L31/18−31/20
H01L51/42−51/48
H02S10/00−10/40
H02S30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト化合物と、結晶構造を構成する成分以外にCl元素を含む量子ドットと、を含有する光吸収層であって、
前記ペロブスカイト化合物は、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上であり、
前記量子ドットは、金属カルコゲナイドを含む、光吸収層
RMX (1)
(式中、Rはアルキルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、Mは2価の金属カチオンであり、Xはハロゲンアニオンである。)
【請求項2】
前記Xは、フッ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオン、又はヨウ素アニオンである請求項に記載の光吸収層。
【請求項3】
前記Mは、P2+、Sn2+、又はGe2+ある請求項1又は2に記載の光吸収層。
【請求項4】
前記ペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギーは、1.5eV以上4.0eV以下である請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層。
【請求項5】
記量子ドットのバンドギャップエネルギーは、0.2eV以上前記ペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギー以下である請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層。
【請求項6】
記量子ドットは、金属カルコゲナイドの表面に少なくともCl元素が配位した化合物である請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層。
【請求項7】
記量子ドットは、Pb元素を含む請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層。
【請求項8】
前記ペロブスカイト化合物と前記量子ドットの合計含有量に対する前記量子ドットの含有割合は、0.1質量%以上10質量%以下である請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層。
【請求項9】
記量子ドットは、量子ドットを構成する金属元素に対するCl元素の原子比が、0.1以上1下である請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層。
【請求項10】
ペロブスカイト化合物又はその前駆体と、結晶構造を構成する成分以外にCl元素を含む量子ドットと、を含有する分散液であって、
前記ペロブスカイト化合物は、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上であり、
前記量子ドットは、金属カルコゲナイドを含む、分散液
RMX (1)
(式中、Rはアルキルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、Mは2価の金属カチオンであり、Xはハロゲンアニオンである。)
【請求項11】
前記分散液は溶剤を含有し、前記分散液の溶剤は、極性溶剤である請求項10に記載の分散液。
【請求項12】
前記分散液中のペロブスカイト化合物又はその前駆体の金属濃度は、0.1mol/L以上1.5mol/L以下である請求項10又は11に記載の分散液。
【請求項13】
前記分散液中の前記量子ドットの固形分濃度は、1mg/mL以上100mg/mL以下である請求項1012のいずれかに記載の分散液。
【請求項14】
ペロブスカイト化合物と、結晶構造を構成する成分以外にCl元素を含む量子ドットと、を含有する光吸収層の製造方法であって、
前記ペロブスカイト化合物は、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上であり、
前記量子ドットは、金属カルコゲナイドを含み、
前記ペロブスカイト化合物又はその前駆体と、前記量子ドットと、を混合する工程を含む光吸収層の製造方法。
RMX (1)
(式中、Rはアルキルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、Mは2価の金属カチオンであり、Xはハロゲンアニオンである。)
【請求項15】
前記混合する工程は、ウエットプロセスの工程である請求項14に記載の光吸収層の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜のいずれかに記載の光吸収層を有する光電変換素子。
【請求項17】
請求項16に記載の光電変換素子を有する太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収層、該光吸収層を有する光電変換素子、及び該光電変換素子を有する太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを電気エネルギーに変える光電変換素子は、太陽電池、光センサー、複写機などに利用されている。特に、環境・エネルギー問題の観点から、無尽蔵のクリーンエネルギーである太陽光を利用する光電変換素子(太陽電池)が注目されている。
【0003】
一般的なシリコン太陽電池は、超高純度のシリコンを利用すること、高真空下でのエピタキシャル結晶成長などの「ドライプロセス」により製造していること、などから、大きなコストダウンが期待できない。そこで、塗布プロセスなどの「ウエットプロセス」により製造される太陽電池が、低コストな次世代太陽電池として期待されている。
【0004】
「ウエットプロセス」により製造可能な次世代太陽電池として、量子ドット太陽電池がある。量子ドットとは、粒径が約20nm以下の、結晶構造を有する無機ナノ粒子であり、量子サイズ効果の発現により、バルク体とは異なる物性を示すものである。例えば、量子ドットの粒径の減少に伴い、バンドギャップエネルギーが増大(吸収波長が短波長化)することが知られており、粒径約3nmでバンドギャップエネルギー約1.2eVの硫化鉛(PbS)量子ドットを量子ドット太陽電池に用いることが報告されている(ACS Nano 2014,8,614−622)。しかしながら、PbSやPbSe量子ドットに代表される量子ドット太陽電池は、近赤外光領域(800〜2500nm)の光電変換が可能であるが、バンドギャップエネルギーが小さいことから高電圧が得られず、変換効率が低い。
【0005】
次世代太陽電池の最有力候補として、近年の光電変換効率の急増が報告されている、ペロブスカイト太陽電池がある。このペロブスカイト太陽電池は、例えば、メチルアンモニウムなどのカチオンとヨウ化鉛などのハロゲン化金属塩から構成されるペロブスカイト化合物(CHNHPbI)を光吸収層に用いた光電変換素子を具備する(J.Am.Chem.Soc.2009,131,6050−6051)。ペロブスカイト太陽電池は、可視光領域(400〜800nm)の光電変換が可能であり、比較的高い変換効率を示すものの、近赤外光領域を利用できないことから、太陽光の有効利用という観点では不十分である。
【0006】
最近、ペロブスカイト化合物(CHNHPbI)で表面処理したPbS量子ドットを光吸収層に用いた量子ドット太陽電池が報告されている(Nano Lett.2015,15,7539−7543)。しかしながら、ペロブスカイト化合物量が少なく、ペロブスカイト化合物の発電の寄与がほとんど無く、変換効率が不十分である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、可視光領域と近赤外光領域の両領域において光電変換可能な、高変換効率の光電変換素子及び太陽電池を形成するための光吸収層、当該光吸収層を有する光電変換素子及び太陽電池に関する。
【0008】
本発明者らは、ペロブスカイト化合物と、Cl元素を含む量子ドットと、を含有する光吸収層を用いることにより、光電変換効率が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ペロブスカイト化合物と、Cl元素を含む量子ドットと、を含有する光吸収層、に関する。
【0010】
ペロブスカイト化合物と、Cl元素を含む量子ドットと、を光吸収層の形成材料として用いることにより、ペロブスカイト化合物が吸収できる短波長領域の光に加えて、Cl元素を含む量子ドットが吸収できる近赤外などの長波長領域の光も含む幅広い波長領域の光を吸収できるため、幅広い波長領域において光電変換機能を有する光電変換素子を得ることができる。
【0011】
また、Cl元素を含まない量子ドットを用いた場合と比べて、Cl元素を含む量子ドットを用いると、ペロブスカイト化合物とCl元素を含む量子ドットとを含む複合膜(光吸収層)の光電変換効率が向上する。その原因は定かではないが、以下のように推察される。
【0012】
量子ドット表面にCl元素が存在することにより、量子ドット表面の有機配位子(例えば、オレイン酸アニオンなど)量を低減でき、光吸収層中や分散液(例えば、N,N−ジメチルホルムアミドを溶媒とする液など)中の量子ドットの分散性が向上する。その結果、ペロブスカイト化合物の結晶性が高く(結晶子径が大きく)、被覆率の高い、高品質な光吸収層が得られるため、光電変換効率が向上したと推察される。また、量子ドット表面にCl元素が存在することにより、ペロブスカイト化合物から量子ドットへのキャリア移動が抑制され、ペロブスカイト化合物からのキャリア取出し効率が向上することにより、光電変換効率が向上したと推察される。
【0013】
本発明によれば、可視光領域と近赤外光領域の両領域において光電変換可能な、高変換効率の光電変換素子及び太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の光電変換素子の構造の一例を示す概略断面図である。
【発明の詳細な説明】
【0015】
<光吸収層>
本発明の光吸収層は、光吸収剤として、ペロブスカイト化合物と、Cl元素を含む量子ドットとを含有する。なお、本発明の光吸収層は、本発明の効果を損なわない範囲で前記以外の光吸収剤を含有していてもよい。
【0016】
前記光吸収層は、光電変換素子の電荷分離に寄与し、光吸収によって生じた電子及び正孔をそれぞれ反対方向の電極に向かって輸送する機能を有しており、電荷分離層又は光電変換層とも呼ばれる。
【0017】
前記ペロブスカイト化合物は特に制限されないが、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上であり、より好ましくは下記一般式(1)で表される化合物である。
【0018】
RMX (1)
(式中、Rは1価のカチオンであり、Mは2価の金属カチオンであり、Xはハロゲンアニオンである。)
【0019】
n−13n+1 (2)
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立に1価のカチオンであり、Mは2価の金属カチオンであり、Xはハロゲンアニオンであり、nは1以上10以下の整数である。)
【0020】
前記Rは1価のカチオンであり、例えば、周期表第一族元素のカチオン、及び有機カチオンが挙げられる。周期表第一族元素のカチオンとしては、例えば、Li、Na、K、及びCsが挙げられる。有機カチオンとしては、例えば、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン、及び置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが挙げられる。置換基に特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンとしては、例えば、アルキルアンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン及びアリールアンモニウムイオンが挙げられ、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくはアルキルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、より好ましくはモノアルキルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはメチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、ブチルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはメチルアンモニウムイオンである。
【0021】
前記R、R、及びRはそれぞれ独立に1価のカチオンであり、R、R、及びRのいずれかまたは全てが同一でも良い。例えば、周期表第一族元素のカチオン、及び有機カチオンが挙げられる。周期表第一族元素のカチオンとしては、例えば、Li、Na、K、及びCsが挙げられる。有機カチオンとしては、例えば、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン、及び置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが挙げられる。置換基に特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンとしては、例えば、アルキルアンモニウムイオン、ホルムアミジニウムイオン及びアリールアンモニウムイオンが挙げられ、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくはアルキルアンモニウムイオン及びホルムアミジニウムイオンから選ばれる1種以上であり、より好ましくはモノアルキルアンモニウムイオンであり、更に好ましくはメチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、ブチルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、デシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、テトラデシルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、及びオクタデシルアンモニウムイオンから選ばれる1種以上である。
【0022】
前記nは1以上10以下の整数であり、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは1以上4以下である。
【0023】
前記Mは2価の金属カチオンであり、例えば、Pb2+、Sn2+、Hg2+、Cd2+、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Y2+、及びEu2+などが挙げられる。前記Mは、光電変換効率に優れる観点から、好ましくはPb2+、Sn2+、又はGe2+であり、より好ましくはPb2+、又はSn2+であり、更に好ましくはPb2+である。
【0024】
前記Xはハロゲンアニオンであり、例えば、フッ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオン、及びヨウ素アニオンが挙げられる。前記Xは、目的とするバンドギャップエネルギーを有するペロブスカイト化合物を得るために、好ましくはヨウ素アニオン、塩素アニオン、又は臭素アニオンであり、より好ましくはヨウ素アニオン、又は臭素アニオンであり、更に好ましくは臭素アニオンである。
【0025】
光吸収層におけるペロブスカイト化合物としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物であれば特に制限はないが、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは1.5eV以上4.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有するものである。ペロブスカイト化合物は、1種単独でもよく、バンドギャップエネルギーが異なる2種以上であってもよい。
【0026】
前記ペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギーは、光電変換効率(電圧)を向上させる観点から、より好ましくは1.7eV以上、更に好ましくは2.0eV以上、より更に好ましくは2.1eV以上、より更に好ましくは2.2eV以上であり、光電変換効率(電流)を向上させる観点から、より好ましくは3.6eV以下、更に好ましくは3.0eV以下、より更に好ましくは2.4eV以下である。なお、ペロブスカイト化合物及びCl元素を含む量子ドットのバンドギャップエネルギーは、後述する実施例に記載の方法で、25℃で測定した吸収スペクトルから求めることができる。吸収スペクトルから求めたバンドギャップエネルギーに対応する波長を吸収端波長という。
【0027】
1.5eV以上4.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有する上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、CHNHPbCl、CHNHPbBr、CHNHPbI、CHNHPbBrI、CHNHPbBrI、CHNHSnCl、CHNHSnBr、CHNHSnI、CH(=NH)NHPbCl、及びCH(=NH)NHPbBrなどが挙げられる。これらのうち、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくはCHNHPbBr、CH(=NH)NHPbBrであり、より好ましくはCHNHPbBrである。
【0028】
1.5eV以上4.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有する上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、(CNHPbI、(C13NHPbI、(C17NHPbI、(C1021NHPbI、(C1225NHPbI、(CNH(CHNH)Pb、(C13NH(CHNH)Pb、(C17NH(CHNH)Pb、(C1021NH(CHNH)Pb、(C1225NH(CHNH)Pb、(CNH(CHNHPb10、(C13NH(CHNHPb10、(C17NH(CHNHPb10、(C1021NH(CHNHPb10、(C1225NH(CHNHPb10、(CNHPbBr、(C13NHPbBr、(C17NHPbBr、(C1021NHPbBr、(CNH(CHNH)PbBr、(C13NH(CHNH)PbBr、(C17NH(CHNH)PbBr、(C1021NH(CHNH)PbBr、(C1225NH(CHNH)PbBr、(CNH(CHNHPbBr10、(C13NH(CHNHPbBr10、(C17NH(CHNHPbBr10、(C1021NH(CHNHPbBr10、(C1225NH(CHNHPbBr10、(CNH(CHNHPbCl10、(C13NH(CHNHPbCl10、(C17NH(CHNHPbCl10、(C1021NH(CHNHPbCl10、及び(C1225NH(CHNHPbCl10などが挙げられる。
【0029】
光吸収層のペロブスカイト化合物の結晶子径は、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは40nm以上であり、同様の観点から、好ましくは1000nm以下である。なお、光吸収層の100nm以下の範囲の結晶子径は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。また、100nmを超える範囲の結晶子径は、後述する実施例に記載の方法等で測定することはできないが、光吸収層の厚さを超えることはない。
【0030】
ペロブスカイト化合物は、例えば、後述のようにペロブスカイト化合物の前駆体から製造することができる。ペロブスカイト化合物の前駆体としては、例えば、ペロブスカイト化合物が前記一般式(1)で表される化合物の場合、MXで表される化合物と、RNHXで表される化合物との組合せが挙げられる。また、ペロブスカイト化合物が前記一般式(2)で表される化合物の場合、MXで表される化合物と、RNHXで表される化合物、RNHXで表される化合物及びRNHXで表される化合物から選ばれる1種以上との組合せが挙げられる。
【0031】
光吸収層のペロブスカイト化合物は、例えば、元素分析、赤外(IR)スペクトル、ラマンスペクトル、核磁気共鳴(NMR)スペクトル、X線回折パターン、吸収スペクトル、発光スペクトル、電子顕微鏡観察、及び電子線回折などの常法により同定することができる。
【0032】
Cl元素を含む量子ドットとは、結晶構造を構成する成分以外にCl元素を含む量子ドットであり、Cl元素の状態は特に限定されないが、好ましくは、量子ドット表面にCl元素が配位した化合物(量子ドットを構成する金属元素にCl元素が配位した化合物)である。なお、量子ドット表面にCl元素と共にその他の配位子が配位していてもよい。以下、特に断らない限り、Cl元素を含む量子ドットの好ましい態様は、Cl元素以外の配位子の好ましい態様を除き、光吸収層とその原料とに共通の好ましい態様である。
【0033】
前記Cl元素を含む量子ドットとしては、例えば、金属酸化物又は金属カルコゲナイド(例えば、硫化物、セレン化物、及びテルル化物など)の表面にCl元素が配位した化合物が挙げられる。光電変換効率向上の観点から、金属カルコゲナイドの表面にCl元素が配位した化合物が好ましい。金属カルコゲナイドとしては、具体的には、PbS、PbSe、PbTe、CdS、CdSe、CdTe、Sb23、Bi23、Ag2S、Ag2Se、Ag2Te、Au2S、Au2Se、Au2Te、Cu2S、Cu2Se、Cu2Te、Fe2S、Fe2Se、Fe2Te、In23、SnS、SnSe、SnTe、CuInS2、CuInSe2、CuInTe2、EuS、EuSe、及びEuTeなどが挙げられる。前記Cl元素を含む量子ドットは、光電変換効率に優れる観点から、好ましくはPb元素を含み、より好ましくはPbS又はPbSeを含み、更に好ましくはPbSを含む。また、ペロブスカイト化合物と量子ドットの相互作用を大きくするために、ペロブスカイト化合物を構成する金属と量子ドットを構成する金属は同じ金属であることが好ましい。
【0034】
前記Cl元素を含む量子ドットを構成する金属元素に対するCl元素の原子比は特に制限されないが、光吸収層中や分散液中の量子ドットの分散性を向上させる観点、及びペロブスカイト化合物から量子ドットへのキャリア移動を抑制する観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。なお、光吸収層において、Cl元素を含む量子ドットを構成する金属元素に対するCl元素の原子比は、光吸収層の原料に用いるCl元素を含む量子ドットにおける、量子ドットを構成する金属元素に対するCl元素の原子比と同程度であると考えられる。
【0035】
前記Cl元素を含む量子ドットに、任意に含まれるその他の配位子は特に限定されるものではないが、Cl元素を含む量子ドットの光吸収層及び分散液中における分散性の観点から、好ましくは有機配位子が挙げられる。有機配位子としては、例えば、カルボキシ基含有化合物、アミノ基含有化合物、チオール基含有化合物、及びホスフィノ基含有化合物などが挙げられる。
【0036】
カルボキシ基含有化合物としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、及びカプリン酸などが挙げられる。
【0037】
アミノ基含有化合物としては、例えば、オレイルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン、カプリルアミン、オクチルアミン、ヘキシルアミン、及びブチルアミンなどが挙げられる。
【0038】
チオール基含有化合物としては、例えば、エタンチオール、エタンジチオール、ベンゼンチオール、ベンゼンジチオール、デカンチオール、デカンジチオール、及びメルカプトプロピオン酸などが挙げられる。
【0039】
ホスフィノ基含有化合物としては、例えば、トリオクチルホスフィン、及びトリブチルホスフィンなどが挙げられる。
【0040】
前記有機配位子は、前記Cl元素を含む量子ドットの製造容易性、分散安定性、汎用性、コストなどの観点から、好ましくはカルボキシ基含有化合物又はアミノ基含有化合物、より好ましくはカルボキシ基含有化合物、更に好ましくは長鎖脂肪酸、より更に好ましくはオレイン酸である。
【0041】
Cl元素を含む量子ドットに好ましくは有機配位子が含まれる場合、光吸収層を製造する際に原料として用いる量子ドットにおいて、Cl元素を含む量子ドットを構成する金属元素に対する有機配位子のモル比は、光吸収層を製造する際に有機配位子とペロブスカイト化合物の前駆体との配位子交換を促進させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.12以上であり、光吸収層中や分散液中の量子ドットの分散性を向上させる観点から、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.15以下である。
【0042】
Cl元素を含む量子ドットに好ましくは有機配位子が含まれる場合、光吸収層において、量子ドットを構成する金属元素に対する有機配位子のモル比は特に制限されないが、光吸収層における量子ドットの分散性を向上させ優れた性能を発現させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.09以上、より更に好ましくは0.1以上であり、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.15以下である。
【0043】
Cl元素を含む量子ドットに好ましくは有機配位子が含まれる場合、光吸収層において、前記ペロブスカイト化合物を構成する金属元素に対する前記Cl元素を含む量子ドットに含まれる有機配位子のモル比は特に制限されないが、光吸収層における量子ドットの分散性を向上させ優れた性能を発現させる観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.02以下である。
【0044】
前記Cl元素を含む量子ドットのバンドギャップエネルギーは特に制限されないが、前記ペロブスカイト化合物が有しないバンドギャップエネルギーを補完して、近赤外光領域の光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは0.2eV以上かつペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギー以下である。前記Cl元素を含む量子ドットは、1種単独で用いてもよく、バンドギャップエネルギーが異なる2種以上を併用してもよい。なお、バンドギャップエネルギーの異なる2種以上のペロブスカイト化合物を用いる場合、前記Cl元素を含む量子ドットのバンドギャップエネルギーの前記上限である「ペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギー以下のバンドギャップエネルギー」とは、2種以上のペロブスカイト化合物の有するバンドギャップエネルギーの最大値以下のバンドギャップエネルギーのことである。また、(Cl元素を含む)量子ドットのバンドギャップエネルギーは、前述の通り、後述する実施例に記載の方法で、25℃で測定した吸収スペクトルから求めることができる。
【0045】
前記Cl元素を含む量子ドットのバンドギャップエネルギーは、光電変換効率(電圧)を向上させる観点から、より好ましくは0.7eV以上、更に好ましくは0.8eV以上、より更に好ましくは0.9eV以上、より更に好ましくは1.0eV以上であり、光電変換効率(電流)を向上させる観点から、より好ましくは1.6eV以下、更に好ましくは1.4eV以下、より更に好ましくは1.2eV以下、より更に好ましくは1.1eV以下である。
【0046】
前記光吸収層におけるペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギーと前記Cl元素を含む量子ドットのバンドギャップエネルギーとの差は、光電変換効率向上の観点から、好ましくは0.4eV以上、より好ましくは0.6eV以上、更に好ましくは0.8eV以上であり、好ましくは2.0eV以下、より好ましくは1.5eV以下、更に好ましくは1.3eV以下である。
【0047】
前記光吸収層におけるCl元素を含む量子ドット、及び前記光吸収層の原料であるCl元素を含む量子ドットの粒径は、安定性及び光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは3nm以上であり、成膜性及び光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下である。前記Cl元素を含む量子ドットの粒径は、XRD(X線回折)の結晶子径解析や透過型電子顕微鏡観察などの常法によって測定することができる。
【0048】
(Cl元素を含む)量子ドットについては、例えば、電子顕微鏡観察、電子線回折、及びX線回折パターンなどにより量子ドットの粒径及び種類が決まれば、粒径とバンドギャップエネルギーとの相関(例えば、ACS Nano2014,8,6363−6371)から、バンドギャップエネルギーを算出することもできる。
【0049】
量子ドット表面にCl元素を配位させる方法は特に制限されず、例えば、Cl元素配位子の存在下で量子ドットの核発生と結晶成長をさせることにより、量子ドット表面にCl元素が配位した量子ドットを調製できる。具体的には、量子ドットを構成する金属元素を含む金属塩化物と、酸素源又はカルコゲン源とを反応させることにより、量子ドット表面にCl元素が配位した量子ドットを調製できる。
【0050】
光吸収層の(Cl元素を含む)量子ドットは、例えば、元素分析、赤外(IR)スペクトル、ラマンスペクトル、核磁気共鳴(NMR)スペクトル、X線回折パターン、吸収スペクトル、発光スペクトル、小角X線散乱、電子顕微鏡観察、及び電子線回折などの常法により同定することができる。
【0051】
前記量子ドットがCl元素を含むことを確認する方法として、例えば、ESCA(X線光電子分光)などの光電子分光法を用いて、量子ドット表面の元素分析によりCl元素を検出する方法がある。更に、量子ドットを構成する成分としてCl元素を含まない場合、XRD(X線回折)などの回折法を用いて、量子ドットがCl元素を含まない結晶構造に帰属されることを確認することが好ましい。一方、量子ドットを構成する成分としてCl元素を含む場合、ESCAなどを用いて、Clの結合エネルギーピークシフトから結晶構造と表面のCl元素を区別できる。
【0052】
前記ペロブスカイト化合物と前記Cl元素を含む量子ドットの好ましい組み合わせとしては、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは同じ金属元素を含む化合物の組み合わせであり、例えば、CHNHPbBrとCl元素が配位したPbS、CHNHPbBrとCl元素が配位したPbSe、CHNHPbIとCl元素が配位したPbS、CH(=NH)NHPbBrとCl元素が配位したPbS、CH(=NH)NHPbBrとCl元素が配位したPbSeなどが挙げられ、より好ましくはCHNHPbBrとCl元素が配位したPbSとの組み合わせである。
【0053】
前記光吸収層中における前記ペロブスカイト化合物と前記Cl元素を含む量子ドットの含有割合は特に制限されないが、前記ペロブスカイト化合物と前記Cl元素を含む量子ドットの合計含有量に対する前記Cl元素を含む量子ドットの含有割合は、光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、成膜性と光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
【0054】
光吸収層の厚さは、特に制限されないが、光吸収を大きくして光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であり、同様の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、更に好ましくは600nm以下、より更に好ましくは500nm以下である。なお、光吸収層の厚さは、膜断面の電子顕微鏡観察などの測定方法で測定できる。
【0055】
光吸収層の表面平滑性は、正孔輸送剤(HTM)層の強度を向上させる観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、光電変換効率向上の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下である。なお、光吸収層の表面平滑性は下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0056】
光吸収層の多孔質層に対する被覆率は、光電変換効率(電流)を向上させる観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、より更に好ましくは40%以上であり、100%以下である。なお、光吸収層の多孔質層に対する被覆率は、下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0057】
光吸収層における(Cl元素を含む)量子ドット(QD)のペロブスカイト化合物(P)に対する吸光度比(QD/P)は、光電変換効率(電圧)を向上させる観点から、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0である。なお、光吸収層における吸光度比(QD/P)は、下記実施例の記載の方法で測定した光吸収層の吸収スペクトルから、少なくとも1種の(Cl元素を含む)量子ドットの吸光度の最大値の少なくとも1種のペロブスカイト化合物の吸光度に対する比率である。ここで、少なくとも1種の(Cl元素を含む)量子ドットの吸光度と少なくとも1種のペロブスカイト化合物の吸光度は、それぞれ、それらを単独で測定した場合の吸収ピーク位置における吸光度として得られる。
【0058】
光吸収層における発光ピークエネルギーは、光電変換効率(電圧)を向上させる観点から、波長800nm(エネルギー1.55eV)の光で光吸収層を励起した時、好ましくは0.2eV以上、より好ましくは0.4eV以上、更に好ましくは0.6eV以上、より更に好ましくは0.8eV以上であり、光電変換効率(電流)を向上させる観点から、好ましくは1.4eV以下、より好ましくは1.3eV以下、更に好ましくは1.2eV以下、より更に好ましくは1.1eV以下である。
【0059】
光吸収層における発光ピークエネルギーとペロブスカイト化合物のバンドギャップエネルギーとの差は、光電変換効率向上の観点から、好ましくは0.4eV以上、より好ましくは0.8eV、更に好ましくは1.0eV以上、より更に好ましくは1.2eV以上であり、好ましくは3.4eV以下、より好ましくは2.5eV以下、更に好ましくは2.0eV以下、より更に好ましくは1.5eV以下である。
【0060】
光吸収層における発光ピークエネルギーと(Cl元素を含む)量子ドットのバンドギャップエネルギーとの差は、光電変換効率向上の観点から、好ましくは0.5eV以下、より好ましくは0.2eV以下、更に好ましくは0.1eV以下である。
【0061】
(Cl元素を含む)量子ドットの分散液中の発光ピークエネルギーと光吸収層中の発光ピークエネルギーとの差(発光ピークシフト)は、光吸収層中の(Cl元素を含む)量子ドットの粒子間距離、すなわち分散性に相関があると推定され、光電変換効率向上の観点から、好ましくは0.5eV以下、より好ましくは0.2eV以下、更に好ましくは0.1eV以下である。光吸収層中のCl元素を含む量子ドットの分散性を向上させるためには、前記の通り、量子ドットのCl元素や有機配位子の含有量、粒径などや分散液、光吸収層の製造方法を好ましい範囲に制御することが好ましい。
【0062】
なお、光吸収層における発光ピークエネルギーは、下記実施例の記載の通り、波長800nm(エネルギー1.55eV)の光で光吸収層を励起した時の発光スペクトルのピーク波長(ピークエネルギー)として求めることができる。
【0063】
前記光吸収層は、前記ペロブスカイト化合物及び前記Cl元素を含む量子ドットを含有するものであればよいが、前記ペロブスカイト化合物及び前記Cl元素を含む量子ドットにより形成された複合体を含むことが好ましい。複合化することにより、ペロブスカイト化合物の結晶構造中にCl元素を含む量子ドットを均一に存在させることができるだけでなく、ペロブスカイト化合物とCl元素を含む量子ドット間の界面構造を原子、分子レベルで均一化できるため、本発明の効果をより向上させることが期待できる。ペロブスカイト化合物とCl元素を含む量子ドット間の界面構造を原子、分子レベルで均一化して複合体を形成するためには、ペロブスカイト化合物と量子ドット間との結晶格子マッチングが有効であり、例えば、Pb−Pb原子間距離が、CHNHPbBr(5.92Å)とPbS(5.97Å)とは近似していることから、CHNHPbBrとPbSとの組み合わせが複合体形成に好ましい。なお、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)観察などにより、ペロブスカイト化合物と量子ドットとの界面構造が原子、分子レベルで均一化されているかを確認することができる。
【0064】
前記ペロブスカイト化合物及び前記Cl元素を含む量子ドットにより形成された複合体の形成方法は特に限定されないが、前記ペロブスカイト化合物の前駆体と前記Cl元素を含む量子ドットとを分散液中で混合する方法などが挙げられる。混合方法に制限はないが、製造容易性、コスト、分散液の保存安定性、光電変換効率向上などの観点から、混合温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下である。また、同様の観点から、混合時間は、好ましくは0時間超、より好ましくは0.1時間以上であり、好ましくは72時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは1時間以下である。また、上記観点から、混合温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは10℃以上40℃以下、更に好ましくは20℃以上30℃以下であり、混合時間は、好ましくは0時間超72時間以下、より好ましくは0時間超24時間以下、更に好ましくは0.1時間以上1時間以下である。
【0065】
<光電変換素子>
本発明の光電変換素子は、前記光吸収層を有するものである。本発明の光電変換素子において、前記光吸収層以外の構成は特に制限されず、公知の光電変換素子の構成を適用することができる。また、本発明の光電変換素子は、前記光吸収層以外は公知の方法で製造することができる。
【0066】
以下、本発明の光電変換素子の構成と製造方法を図1に基づいて説明するが、図1は一例にすぎず、図1に示す態様に限定されるものではない。
【0067】
図1は、本発明の光電変換素子の構造の一例を示す概略断面図である。光電変換素子1は、透明基板2、透明導電層3、ブロッキング層4、多孔質層5、光吸収層6、及び正孔輸送層7が順次積層された構造を有する。光10入射側の透明電極基板は、透明基板2と透明導電層3から構成されており、透明導電層3は外部回路と電気的につなげるための端子となる電極(負極)9に接合している。また、正孔輸送層7は外部回路と電気的につなげるための端子となる電極(正極)8に接合している。
【0068】
透明基板2の材料としては、強度、耐久性、光透過性があればよく、合成樹脂及びガラスなどを使用できる。合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどの熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド、及びフッ素樹脂などが挙げられる。強度、耐久性、コストなどの観点から、ガラス基板を用いることが好ましい。
【0069】
透明導電層3の材料としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO2)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、及び高い導電性を有する高分子材料などが挙げられる。高分子材料としては、例えば、ポリアセチレン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリフェニレンビニレン系の高分子材料が挙げられる。また、透明導電層3の材料として、高い導電性を有する炭素系薄膜を用いることもできる。透明導電層3の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、及び分散物を塗布する方法などが挙げられる。
【0070】
ブロッキング層4の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミ、酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化錫、及び酸化亜鉛などが挙げられる。ブロッキング層4の形成方法としては、上記材料を透明導電層3に直接スパッタする方法、及びスプレーパイロリシス法などが挙げられる。また、上記材料を溶媒に溶解した溶液、又は金属酸化物の前駆体である金属水酸化物を溶解した溶液を透明導電層3上に塗布し、乾燥し、必要に応じて焼成する方法が挙げられる。塗布方法としては、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、及びダイコート法などが挙げられる。
【0071】
多孔質層5は、その表面に光吸収層6を担持する機能を有する層である。太陽電池において光吸収効率を高めるためには、光を受ける部分の表面積を大きくすることが好ましい。多孔質層5を設けることにより、光を受ける部分の表面積を大きくすることができる。
【0072】
多孔質層5の材料としては、例えば、金属酸化物、金属カルコゲナイド(例えば、硫化物、及びセレン化物など)、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(ただし、前記光吸収剤を除く)、ケイ素酸化物(例えば、二酸化ケイ素及びゼオライト)、及びカーボンナノチューブ(カーボンナノワイヤ及びカーボンナノロッドなどを含む)などが挙げられる。
【0073】
金属酸化物としては、例えば、チタン、スズ、亜鉛、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、及びタンタルの酸化物などが挙げられ、金属カルコゲナイドとしては、例えば、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化カドミウム、及びセレン化カドミウムなどが挙げられる。
【0074】
ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物としては、例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、スズ酸バリウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸ストロンチウム、タンタル酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、鉄酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸バリウムランタン、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、及びチタン酸ビスマスなどが挙げられる。
【0075】
多孔質層5の形成材料は、好ましくは微粒子として用いられ、より好ましくは微粒子を含有する分散物として用いられる。多孔質層5の形成方法としては、例えば、湿式法、乾式法、その他の方法(例えば、Chemical Review,第110巻,6595頁(2010年刊)に記載の方法)が挙げられる。これらの方法において、ブロッキング層4の表面に分散物(ペースト)を塗布した後に、焼成することが好ましい。焼成により、微粒子同士を密着させることができる。塗布方法としては、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、及びダイコート法などが挙げられる。
【0076】
光吸収層6は前述の本発明の光吸収層である。光吸収層6の形成方法は特に制限されず、例えば、前記ペロブスカイト化合物又はその前駆体と、前記Cl元素を含む量子ドットとを含む分散液を調製し、多孔質層5の表面に調製した分散液を塗布し、乾燥する、いわゆるウエットプロセスによる方法が好適に挙げられる。
【0077】
前記ウエットプロセスにおいて、ペロブスカイト化合物又はその前駆体と、前記Cl元素を含む量子ドットとを含む分散液は、成膜性、コスト、保存安定性、優れた性能(例えば、光電変換特性)発現の観点から、好ましくは溶剤を含有する。溶剤としては、例えば、エステル類(メチルホルメート、エチルホルメートなど)、ケトン類(γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジメトキシメタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール、tert−ブタノール、メトキシプロパノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなど)、グリコールエーテル(セロソルブ)類、アミド系溶剤(N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリルなど)、カーボネート系(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルムなど)、炭化水素、及びジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0078】
前記分散液の溶剤は、成膜性、コスト、保存安定性、優れた性能(例えば、光電変換特性)発現の観点から、好ましくは極性溶剤、より好ましくはケトン類、アミド系溶剤、及びジメチルスルホキシドから選ばれる少なくとも1種の溶剤、更に好ましくはアミド系溶剤、より更に好ましくはN,N−ジメチルホルムアミドである。
【0079】
前記分散液中のペロブスカイト化合物又はその前駆体の金属濃度は、成膜性、コスト、保存安定性、優れた性能(例えば、光電変換特性)発現の観点から、好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは0.2mol/L以上、更に好ましくは0.3mol/L以上であり、好ましくは1.5mol/L以下、より好ましくは1.0mol/L以下、更に好ましくは0.5mol/L以下である。
【0080】
前記分散液中のCl元素を含む量子ドットの固形分濃度は、成膜性、コスト、保存安定性、優れた性能(例えば、光電変換特性)発現の観点から、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは5mg/mL以上、更に好ましくは10mg/mL以上であり、好ましくは100mg/mL以下、より好ましくは50mg/mL以下、更に好ましくは30mg/mL以下である。
【0081】
前記分散液の調製方法は特に限定されない。なお、具体的な調製方法は実施例の記載による。
【0082】
前記ウエットプロセスにおける塗布方法は特に限定されず、例えば、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、及びダイコート法などが挙げられる。
【0083】
前記ウエットプロセスにおける乾燥方法としては、製造容易性、コスト、優れた性能(例えば、光電変換特性)発現の観点から、例えば、熱乾燥、気流乾燥、真空乾燥などが挙げられ、好ましくは熱乾燥である。
【0084】
また、前記ペロブスカイト化合物及び前記Cl元素を含む量子ドットを含有する光吸収層6を形成するより詳細な方法として、例えば、以下の形成方法が好適に挙げられる。なお、具体的な形成方法は実施例の記載による。
【0085】
まず、Cl元素とその他の配位子が配位した量子ドットを含む分散液を調製する。その他の配位子は、前述の通りである。
【0086】
量子ドット表面にCl元素とその他の配位子を配位させる方法は、前述の通りである。
【0087】
次に、ペロブスカイト化合物の前駆体を含む溶液を調製する。溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びγ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0088】
その後、調製したCl元素とその他の配位子が配位した量子ドットを含む分散液と、調製したペロブスカイト化合物の前駆体を含む溶液とを混合して、前記量子ドットの配位子の一部をペロブスカイト化合物の前駆体に交換して、ペロブスカイト化合物の前駆体が配位した量子ドットを含む分散液を調製する。なお、Cl元素とその他の配位子が配位した量子ドットを含む分散液の分散媒体と、ペロブスカイト化合物の前駆体を含む溶液の溶媒は、混和しないものであることが好ましい。それにより、離脱した配位子を含む溶液と、ペロブスカイト化合物の前駆体が配位した量子ドットを含む分散液とを相分離させることができ、ペロブスカイト化合物の前駆体が配位した量子ドットを含む分散液を抽出することができる。前記分散液の分散媒体と、前記溶液の溶媒は、前記溶剤の中から混和しないものをそれぞれ用いればよい。
【0089】
前記配位子交換において、Cl元素以外の配位子の配位子除去率は、光吸収層中や分散液中の量子ドットの分散性を向上させる観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。
【0090】
そして、調製したペロブスカイト化合物の前駆体が配位した量子ドットを含む分散液を多孔質層5の表面に塗布し、乾燥して光吸収層6を形成する。塗布方法としては、例えば、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、及びダイコート法などが挙げられる。
【0091】
正孔輸送層7の材料としては、例えば、カルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体、及びポリパラフェニレンビニレン誘導体などが挙げられる。正孔輸送層7の形成方法としては、例えば、塗布法、及び真空蒸着法などが挙げられる。塗布方法としては、例えば、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、及びダイコート法などが挙げられる。
【0092】
電極(正極)8及び電極(負極)9の材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、白金などの金属;スズ添加酸化インジウム(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物;導電性高分子などの有機系導電材料;ナノチューブなどの炭素系材料が挙げられる。電極(正極)8及び電極(負極)9の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、及び塗布法などが挙げられる。
【0093】
<太陽電池>
本発明の太陽電池は、前記光電変換素子を有するものである。本発明の太陽電池において、前記光吸収層以外の構成は特に制限されず、公知の太陽電池の構成を適用することができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。また、評価・測定方法は以下のとおりである。なお、特に断らない限り、測定は25℃で行った。
【0095】
<I-V曲線>
キセノンランプ白色光を光源(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、PEC-L01)とし、太陽光(AM1.5)相当の光強度(100 mW/cm2)にて、光照射面積0.0363 cm2(2mm角)のマスク下、I−V特性計測装置(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、PECK2400−N)を用いて走査速度0.1 V/sec(0.01 V step)、電圧設定後待ち時間50 msec、測定積算時間50 msec、開始電圧-0.1 V、終了電圧1.1 Vの条件でセルのI-V曲線を測定した。なお、シリコンリファレンス(BS-520、0.5714 mA)で光強度補正を行った。I-V曲線から短絡電流密度(mA/cm2)、開放電圧(V)、フィルファクター(FF)、及び変換効率(%)を求めた。
【0096】
<IPCE(incident photon-to-current (conversion) efficiency)>
IPCE(入射光に対する外部変換効率の波長依存性)は、分光感度測定装置(分光計器株式会社製、CEP-2000MLR)を用い、光照射面積0.0363cmのマスク下、300〜1200nmの波長範囲で測定を行った。波長500nmと900nmの外部量子効率を求めた。
【0097】
<吸収スペクトル>
光吸収層の吸収スペクトルは、正孔輸送剤を塗布する前の試料において、UV-Vis分光光度計(株式会社島津製作所製、SolidSpec-3700)を用い、スキャンスピード中速、サンプルピッチ1 nm、スリット幅20、検出器ユニット積分球の条件で300〜1600nmの範囲を測定した。FTO(Fluorine-doped tin oxide)基板(旭硝子ファブリテック株式会社製、25×25×1.8 mm)でバックグラウンド測定を行った。
PbS量子ドット分散液の吸収スペクトルは、PbS量子ドット粉末0.1mg/mLの濃度のヘキサン分散液において、1cm角石英セルを用いて、同様に測定した。
なお、横軸;波長λ、縦軸;吸光度Aの吸収スペクトルを、横軸;エネルギーhν、縦軸;(αhν)1/2(α;吸光係数)のスペクトルに変換し、吸収の立ち上がる部分に直線をフィッティングし、その直線とベースラインとの交点をバンドギャップエネルギーとした。
【0098】
<発光スペクトル>
光吸収層の発光スペクトルは、正孔輸送剤を塗布する前の試料において、近赤外蛍光分光計(株式会社堀場製作所製、Fluorolog)を用い、励起波長800nm(実施例1、比較例1)または励起波長815nm(実施例2、比較例2)、励起光スリット幅10nm、発光スリット幅15nm、取り込み時間0.1sec、積算2回平均、ダークオフセットオンの条件で850〜1550nmの範囲を測定した。
PbS量子ドット分散液の発光スペクトルは、PbS量子ドット粉末0.1mg/mLの濃度のヘキサン分散液において、1cm角四面透明セルを用いて、同様に測定した。
【0099】
<光吸収層の表面平滑性>
光吸収層の表面平滑性は、正孔輸送剤を塗布する前の試料において、ナノスケールハイブリッド顕微鏡(AFM、株式会社キーエンス製、VN-8010)を用い、DFM-Hモード、測定範囲100μm×75μmにおいて、5か所にて傾き自動補正後のRy(Rmax)を測定し、その平均値を求めた。
【0100】
<光吸収層の被覆率>
光吸収層の被覆率は、正孔輸送剤を塗布する前の試料において、電界放射型高分解能走査電子顕微鏡(FE-SEM、株式会社日立製作所製、S-4800)を用いて光吸収層表面のSEM写真(拡大倍率20000倍)を測定し、そのSEM写真を画像解析ソフト(Winroof)を用い、ペンツールで光吸収層を指定し、全面積に対する光吸収層の面積比(面積率)から算出した。
【0101】
<X線回折解析>
光吸収層のペロブスカイト化合物の結晶子径は、正孔輸送剤を塗布する前の試料において、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、MiniFlex600、光源CuKα、管電圧40kV、管電流15mA)を用い、サンプリング幅0.02°、走査速度20°/min、ソーラースリット(入射)5.0°、発散スリット1.250°、縦発散13.0mm、散乱スリット13.0mm、ソーラースリット(反射)5.0°、受光スリット13.0mmの条件で5〜60°の範囲を測定した。ペロブスカイト化合物の結晶子径は、解析ソフト(PDXL、ver.2.6.1.2)を用いてペロブスカイト化合物の最強ピークにおいて算出した。
PbS量子ドットの結晶子径(粒径)は、ガラスホルダー上のPbS量子ドット粉末において、同様に測定し、解析ソフト(PDXL、ver.2.6.1.2)を用いてPbSのcubic(220)ピーク(2θ=42°)において算出した。
【0102】
<PbS量子ドット粉末の組成>
PbS量子ドット粉末中のPb濃度は、PbS量子ドット粉末を硝酸/過酸化水素混合溶液に完全溶解後、高周波誘導結合プラズマ発光分光(ICP)分析により定量した。
PbS量子ドット粉末中のオレイン酸アニオン濃度は、重トルエン(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、99atom%D、TMS0.03vol%含有)溶媒中、ジブロモメタン(和光純薬株式会社製)を内部標準物質として用い、プロトン(H)核磁気共鳴(NMR)法により定量した。NMR装置(アジレント社製、VNMRS400)を用い、共鳴周波数400HHz、遅延時間60秒、積算32回の条件で測定し、ジブロモメタン(3.9ppm vs.TMS)の積分値に対するオレイン酸アニオンのビニルプロトン(5.5ppm vs.TMS)の積分値の比からPbS量子ドット粉末中のオレイン酸アニオン濃度を求めた。
PbS量子ドット粉末中のCl濃度は、ガラス基板上のPbS量子ドット粉末において、光電子分光法(ESCA)により定量した。ESCA装置(アルバックファイ社製、PHI Quantera SXM)を用い、X線源単色化AlKα(25W,15kV)、ビーム径100μm、測定範囲1mm、パスエネルギー112eV、ステップ0.2eV、帯電補正ニュウトラライザーおよびAr照射、光電子取出し角度45°、結合エネルギー補正C1s(284.8eV)の条件でESCA測定し、Pb4f、S2p、Cl2pピークから組成を求めた。
【0103】
<オレイン酸アニオン除去率>
PbS量子ドットのオレイン酸アニオンからペロブスカイト原料への配位子交換時のオレイン酸アニオン除去率は、配位子交換時の上相ヘキサン溶液中のオレイン酸濃度をNMR法により定量し、配位子交換前のPbS量子ドットのオレイン酸アニオン量に対するヘキサン溶液中のオレイン酸量のモル比を計算した。
オレイン酸アニオン除去率(%)=100×上相ヘキサン溶液中のオレイン酸量/配位子交換前のPbS量子ドットのオレイン酸アニオン量
【0104】
<光吸収層中のPbS量子ドットを構成するPb元素に対するオレイン酸アニオンのモル比>
光吸収層中のPbS量子ドットを構成するPb元素に対するオレイン酸アニオンのモル比は、配位子交換前のPbS量子ドットのオレイン酸アニオン量と該オレイン酸アニオン除去率から算出した。
光吸収層中のPbS量子ドットを構成するPb元素に対するオレイン酸アニオンのモル比=(1−オレイン酸アニオン除去率/100)×(配位子交換前のPbS量子ドットのオレイン酸アニオン/Pbモル比)
【0105】
<光吸収層中のペロブスカイトを構成するPb元素に対するオレイン酸アニオンのモル比>
光吸収層中のペロブスカイトを構成するPb元素に対するオレイン酸アニオンのモル比は、配位子交換前のPbS量子ドットのオレイン酸アニオン量と該オレイン酸アニオン除去率と、配合組成(ペロブスカイトを構成するPb元素に対するPbS量子ドットを構成するPb元素のモル比)から算出した。
光吸収層中のペロブスカイトを構成するPb元素に対するオレイン酸アニオンのモル比=(1−オレイン酸アニオン除去率/100)×(配位子交換前のPbS量子ドットのオレイン酸アニオン/Pbモル比)×(PbS量子ドットのPbモル/ペロブスカイトのPbモル比)
【0106】
<Cl元素を含むPbS量子ドットの製造>
塩化鉛(Alfa Aesar社製、99.999%)8.34g、オレイルアミン(Acros Organics社製、C18 80%以上)64.8gを300mL三口フラスコに入れ、80℃で反応系内をダイヤフラム型真空ポンプにより脱気、窒素ガス置換後、140℃で30分間撹拌、30℃まで冷却して、Pb源白濁液を調製した。一方、硫黄結晶(和光純薬株式会社製、99.999%)0.321gをオレイルアミン8.10gに120℃で溶解後、80℃まで冷却して、S源溶液を調製した。窒素ガス雰囲気、強撹拌下、Pb源白濁液(30℃)にS源溶液をシリンジを用いて10秒で注入し、Cl元素とオレイルアミンとを含むPbS量子ドット(黒濁液)を生成させた。更に、40秒撹拌後、冷ヘキサン200mLを添加し、PbS量子ドットの結晶成長を停止させた。遠心分離(日立工機株式会社製、CR21GIII、R12Aローター、4000rpm、3分)により灰色沈殿物(塩化鉛)を除去後、黒色上澄み液に同量のエタノールを添加して黒色沈殿物を得た。減圧乾燥した黒色沈殿物4gをヘキサン100gに再分散後、遠心分離により灰色沈殿物(塩化鉛)を除去後、黒色上澄み液にオレイン酸(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、90%)10gを添加混合後、18時間静置した。更に、遠心分離により灰色沈殿物(塩化鉛)を除去後、黒色上澄み液に同量のエタノールを添加して黒色沈殿物を得た。減圧ろ過(孔径0.2μm、材質PTFE)、エタノール洗浄後、黒色ろ過物を減圧乾燥してCl元素とオレイン酸アニオンとが配位したPbS量子ドット粉末を製造した。
ESCA分析結果よりPb/S/Cl原子比=1/1.2/0.65、NMRおよびICP分析結果よりオレイン酸アニオン/Pbモル比=0.13、X線回折結果より結晶子径3.6nm、吸収スペクトルより吸収端波長1240nm、発光スペクトルより発光ピーク波長1260nmであった。
【0107】
<Cl元素を含まないPbS量子ドットの製造>
PbS core−type quantum dots(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、オレイン酸コート、蛍光波長1000nm、濃度10mg/mLトルエン)5gに同量のアセトン(和光純薬株式会社製)を混合し、遠心分離(日立工機株式会社製、CR21GIII、R3Sローター、2500rpm、60分)により上澄み除去後、得られた黒色沈殿物を減圧乾燥することにより、Cl元素を含まないPbS量子ドット粉末を製造した。
ESCA分析結果よりPb/S/Cl原子比=1/1.1/0、NMRおよびICP分析結果よりオレイン酸アニオン/Pbモル比=0.62、X線回折結果より結晶子径3.0nm、吸収スペクトルより吸収端波長1050nm、発光スペクトルより発光ピーク波長1050nmであった。
【0108】
<実施例1>
次の(1)〜(7)の工程を順に行い、セルを作製した。
(1)FTO基板のエッチング、洗浄
25mm角のフッ素ドープ酸化スズ(FTO)付ガラス基板(旭硝子ファブリテック株式会社製、25×25×1.8 mm、以下、FTO基板という)の一部をZn粉末と2mol/L塩酸水溶液でエッチングした。1質量%中性洗剤、アセトン、2−プロパノール(IPA)、イオン交換水で、この順に各10分間超音波洗浄を行った。
【0109】
(2)オゾン洗浄
緻密TiO層形成工程の直前にFTO基板のオゾン洗浄を行った。FTO面を上にして、基板をオゾン発生装置(メイワフォーシス株式会社製オゾンクリーナー、PC-450UV)に入れ、30分間UV照射した。
【0110】
(3)緻密TiO層(ブロッキング層)の形成
エタノール(脱水、和光純薬工業株式会社製)123.24 gにビス(2,4−ペンタンジオナト)ビス(2−プロパノラト)チタニウム(IV)(75 %IPA溶液、東京化成工業株式会社製)4.04 gを溶解させ、スプレー溶液を調製した。ホットプレート(450℃)上のFTO基板に約30cmの高さから0.3MPaでスプレーした。20cm×8列を2回繰り返して約7gスプレー後、450℃で3分間乾燥した。この操作を更に2回行うことにより合計約21gの溶液をスプレーした。その後、このFTO基板を、塩化チタン(和光純薬工業株式会社製)水溶液(50mM)に浸漬し、70℃で30分加熱した。水洗、乾燥後、500℃で20分焼成(昇温15分)することにより、緻密TiO(cTiO)層を形成した。
【0111】
(4)メソポーラスTiO層(多孔質層)の形成
アナターゼ型TiOペースト(PST-18NR、日揮触媒化成株式会社製)0.404 gにエタノール(脱水、和光純薬工業株式会社製)1.41gを加え、1時間超音波分散を行い、TiOコート液を調製した。ドライルーム内において、上記のcTiO層上にスピンコーター(ミカサ株式会社製、MS-100)を用いてTiOコート液をスピンコートした(5000rpm×30sec)。125℃のホットプレート上で30分間乾燥後、500℃で30分焼成(昇温時間60分)することにより、メソポーラスTiO(mTiO)層を形成した。
【0112】
(5)光吸収層の形成
光吸収層および正孔輸送層の形成は、グローブボックス内にて行った。臭化鉛(PbBr、ペロブスカイト前駆体用、東京化成工業株式会社製)0.114g、メチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr、東京化成工業株式会社製)0.035g、脱水N,N−ジメチルホルムアミド(脱水DMF、和光純薬工業株式会社製)1 mLを混合、室温撹拌し、0.31M臭素系ペロブスカイト(CHNHPbBr)原料のDMF溶液(無色透明)を調製した。室温(25℃)、撹拌下、上記のCl元素とオレイン酸アニオンとが配位したPbS量子ドット粉末のヘキサン分散液(PbS量子ドット粉末10mg/mLヘキサン)2mLに上記調製した臭素系ペロブスカイト原料のDMF溶液1mLを添加し、10分間撹拌後、1時間静置した。上相の無色透明ヘキサン溶液を除去後、下相の臭素系ペロブスカイト原料が配位したPbS量子ドットを含む分散液(PbSとペロブスカイトの合計含有量に対するPbSの質量比は6.3%)を孔径0.45μmのPTFEフィルターでろ過した。上記のmTiO層上にスピンコーター(ミカサ株式会社製MS-100)を用いて前記分散液をスピンコートした(5000rpm×30sec)。なお、スピン開始20秒後に貧溶媒であるトルエン(脱水、和光純薬工業株式会社製)1mLをスピン中心部に一気に滴下した。スピンコート後すぐに100℃ホットプレート上で10分間乾燥した。DMFを浸み込ませた綿棒でFTOとのコンタクト部分を拭き取った後、70℃で60分間乾燥させ、光吸収層を形成した。この光吸収層には臭素系ペロブスカイト化合物CHNHPbBr、及びCl元素を含むPbS量子ドットが含まれる。ペロブスカイト化合物が生成していることはX線回折パターン、吸収スペクトル及び電子顕微鏡観察により、また、量子ドットが形成していることは蛍光スペクトルから確認した。
【0113】
(6)正孔輸送層の形成
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI、和光純薬工業株式会社製)9.1 mg、[トリス(2−(1H−ピラゾール−1−イル)−4−テrt−ブチルピリジン)コバルト(III) トリス(ビス(トリフルオロメチルスルホニル(イミド))(Co(4−tButylpyridyl−2−1H−pyrazole)3.3TFSI、和光純薬工業株式会社製)8.7 mg、2,2’,7,7’−テトラキス[N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミノ]−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD、和光純薬工業株式会社製)72.3 mg、クロロベンゼン(ナカライテスク株式会社製)1 mL、トリブチルホスフィン(TBP、シグマアルドリッチ製)28.8 μLを混合し、室温撹拌して正孔輸送剤(HTM)溶液(黒紫色透明)を調製した。使用直前に、HTM溶液を孔径0.45 μmのPTFEフィルターでろ過した。上記の光吸収層上にスピンコーター(ミカサ株式会社、MS-100)を用いてHTM溶液をスピンコートした(4000 rpm×30sec)。スピンコート後すぐに70℃ホットプレート上で30分間乾燥した。乾燥後、クロロベンゼンを浸み込ませた綿棒でFTOとのコンタクト部分を拭き取った後、DMFを浸み込ませた綿棒で基板裏面全体を拭き取り、更に70℃のホットプレート上で数分間乾燥させ、正孔輸送層を形成した。
【0114】
(7)金電極の蒸着
真空蒸着装置(アルバック機工株式会社製VTR-060M/ERH)を用い、真空下(4〜5×10−3 Pa)、上記の正孔輸送層上に金を100nm蒸着(蒸着速度8〜9 Å/sec)して、金電極を形成した。
【0115】
<実施例2>
実施例1の(5)光吸収層の形成において、臭化鉛の代わりにヨウ化鉛(PbI、ペロブスカイト前駆体用、東京化成工業株式会社製)0.143g、メチルアミン臭化水素酸塩の代わりにメチルアミンヨウ化水素酸塩(CHNHI、東京化成工業株式会社製)0.049gを用いた以外は、実施例1と同様にして光吸収層を形成し、セルを作製した。
【0116】
<比較例1>
実施例1の(5)光吸収層の形成において、上記のCl元素を含むPbS量子ドットの代わりにCl元素を含まないPbS量子ドットを用いた以外は、実施例1と同様にして光吸収層を形成し、セルを作製した。
【0117】
<比較例2>
実施例2の(5)光吸収層の形成において、上記のCl元素を含むPbS量子ドットの代わりにCl元素を含まないPbS量子ドットを用いた以外は、実施例2と同様にして光吸収層を形成し、セルを作製した。
【0118】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の光吸収層及び光電変換素子は、次世代太陽電池の構成部材として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1:光電変換素子
2:透明基板
3:透明導電層
4:ブロッキング層
5:多孔質層
6:光吸収層
7:正孔輸送層
8:電極(正極)
9:電極(負極)
10:光
図1