特許第6620367号(P6620367)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6620367
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20191209BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20191209BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M4/13
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】9
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2017-504851(P2017-504851)
(86)(22)【出願日】2016年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2016001066
(87)【国際公開番号】WO2016143295
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2018年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-47046(P2015-47046)
(32)【優先日】2015年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博之
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
(72)【発明者】
【氏名】中垣 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿光
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/065067(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/200012(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/030008(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/030686(WO,A1)
【文献】 特開2013−225496(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050114(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/124240(WO,A1)
【文献】 特開2011−146152(JP,A)
【文献】 特開2007−280723(JP,A)
【文献】 特許第5457953(JP,B2)
【文献】 特許第5625028(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052,10/0568,10/0569
H01M 4/13,4/505,4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下のヘテロ元素含有特定有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒と、リチウムをカチオンとし下記一般式(1−2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とを、(前記ヘテロ元素含有有機溶媒のモル数)/(前記金属塩のモル数)の値であるモル比3〜5で含み、
前記ヘテロ元素含有有機溶媒は前記ヘテロ元素含有特定有機溶媒を80モル%以上で含む電解液、
並びに、
正極活物質として、粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足する、若しくは、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Mgのうち少なくとも1つ)で表される、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物を具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
(RSO)(RSO)N 一般式(1−2)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【請求項2】
比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下のヘテロ元素含有特定有機溶媒と、リチウムをカチオンとし下記一般式(1−2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とを、(前記ヘテロ元素含有特定有機溶媒のモル数)/(前記金属塩のモル数)の値であるモル比3〜5で含む電解液、
並びに、
正極活物質として、粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足する、若しくは、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Mgのうち少なくとも1つ)で表される、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物を具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
(RSO)(RSO)N 一般式(1−2)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【請求項3】
前記ヘテロ元素含有特定有機溶媒はカーボネートを化学構造に含む請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記ヘテロ元素含有特定有機溶媒は下記一般式(2)で表される鎖状カーボネートである請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
20OCOOR21 一般式(2)
(R20、R21は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。)
【請求項5】
下記一般式(2)で表される鎖状カーボネートを含むヘテロ元素含有有機溶媒と、リチウムをカチオンとし、下記一般式(1−2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とを、(前記ヘテロ元素含有有機溶媒のモル数)/(前記金属塩のモル数)の値であるモル比3〜5で含み、
前記ヘテロ元素含有有機溶媒は前記鎖状カーボネートを80モル%以上で含む電解液、
並びに、
正極活物質として、粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足する、若しくは、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Mgのうち少なくとも1つ)で表される、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物を具備することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
20OCOOR21 一般式(2)
(R20、R21は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。)
(RSO)(RSO)N 一般式(1−2)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【請求項6】
前記金属塩が(CFSONLi、(FSONLi、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、又は(SOCFCFCFSO)NLiである請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記ヘテロ元素含有特定有機溶媒又は前記鎖状カーボネートがジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はジエチルカーボネートから選択される請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
アルミニウム製の正極集電体を具備する請求項1〜7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極及び/又は負極の表面にS及びO含有皮膜が形成されている請求項1〜8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二次電池等の蓄電装置は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。そして、電解液には、適切な電解質が適切な濃度範囲で添加されている。例えば、リチウムイオン二次電池の電解液には、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、CFSOLi、(CFSONLi等のリチウム塩が電解質として添加されるのが一般的であり、ここで、電解液におけるリチウム塩の濃度は、概ね1mol/Lとされるのが一般的である。
【0003】
また、電解液に用いられる有機溶媒には、電解質を好適に溶解させるために、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の比誘電率及び双極子モーメントの高い有機溶媒を約30体積%以上で混合して用いるのが一般的である。
【0004】
実際に、特許文献1には、エチレンカーボネートを33体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特許文献2には、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを66体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、(CFSONLiを1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0005】
また、二次電池の性能を向上させる目的で、リチウム塩を含む電解液に種々の添加剤を加える研究が盛んに行われている。
【0006】
例えば、特許文献3には、エチレンカーボネートを体積比で30体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液に対し、特定の添加剤を少量加えた電解液が記載されており、この電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特許文献4にも、エチレンカーボネートを体積比で30体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液に対し、フェニルグリシジルエーテルを少量加えた電解液が記載されており、この電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−149477号公報
【特許文献2】特開2013−134922号公報
【特許文献3】特開2013−145724号公報
【特許文献4】特開2013−137873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4に記載のとおり、従来、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液においては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の比誘電率及び双極子モーメントの高い有機溶媒を約30体積%以上で含有する混合有機溶媒を用い、かつ、リチウム塩を概ね1mol/Lの濃度で含むことが技術常識となっていた。そして、特許文献3〜4に記載のとおり、電解液の改善検討においては、リチウム塩とは別個の添加剤に着目して行われるのが一般的であった。
【0009】
従来の当業者の着目点とは異なり、本発明者らは、特定の電解質からなる金属塩と、専ら比誘電率及び/又は双極子モーメントの低い有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒とを組み合わせること、及び、それらのモル比に着目した新たな電解液を開発した。
【0010】
さて、一般に、リチウムイオン二次電池の作動時には抵抗が生じ、また、リチウムイオン二次電池は充放電を繰り返すと容量が低下することが知られている。上記の新たな電解液を具備するリチウムイオン二次電池についても例外ではなく、作動時には抵抗が生じ、そして充放電を繰り返すと容量が低下した。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、抵抗を一定程度抑制し、容量を好適に維持するリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、数多くの試行錯誤を重ねながら鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、特定の層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物と、上記の新たな電解液とを具備するリチウムイオン二次電池であれば、抵抗が一定程度抑制され、かつ、容量が好適に維持されることを知見した。この知見に基づき、本発明者は、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒と、リチウムをカチオンとし下記一般式(1)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とを、モル比3〜5で含む電解液、
並びに、
粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足する、若しくは、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Zr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Zn、Cuのうち少なくとも1つ)で表される、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物を具備することを特徴とする。
【0014】
(R)(RSO)N 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、抵抗が一定程度抑制され、かつ、容量が好適に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】金属塩がLiFSAであり、特定有機溶媒がDMCである電解液の、特定有機溶媒と金属塩のモル比とイオン伝導度との関係のグラフである。
図2】実施例Aのハーフセルに対する電位(3.0〜4.5V)と応答電流との関係を示すグラフである。
図3】実施例Aのハーフセルに対する電位(3.0〜5.0V)と応答電流との関係を示すグラフである。
図4】比較例Aのハーフセルに対する電位(3.0〜4.5V)と応答電流との関係を示すグラフである。
図5】比較例Aのハーフセルに対する電位(3.0〜5.0V)と応答電流との関係を示すグラフである。
図6】参考評価例Iにおける、電池の複素インピーダンス平面プロットである。
図7】参考評価例IIIにおける、硫黄元素についてのX線光電子分光分析チャートである。
図8】参考評価例IIIにおける、酸素元素についてのX線光電子分光分析チャートである。
図9】製造例1のリチウム金属複合酸化物のX線回折チャートである。
図10】比較製造例1のリチウム金属複合酸化物のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒と、リチウムをカチオンとし下記一般式(1)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とを、モル比3〜5で含む電解液(以下、本発明の電解液ということがある。)、
並びに、
粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足する、若しくは、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Zr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Zn、Cuのうち少なくとも1つ)で表される、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物を具備することを特徴とする。
【0019】
(R)(RSO)N 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
【0020】
まず、本発明の電解液について説明する。
【0021】
上記一般式(1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
【0022】
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0023】
前記金属塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(1−1)で表される化学構造が好ましい。
【0024】
(R)(RSO)N 一般式(1−1)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
【0025】
上記一般式(1−1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)で説明したのと同義である。
【0026】
上記一般式(1−1)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1−1)で表される化学構造の、RとRが結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
【0027】
前記金属塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(1−2)で表されるものがさらに好ましい。
【0028】
(RSO)(RSO)N 一般式(1−2)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【0029】
上記一般式(1−2)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1−2)で表される化学構造の、RとRが結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
【0030】
また、上記一般式(1−2)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
【0031】
金属塩は、(CFSONLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSONLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、(SOCFCFCFSO)NLi、FSO(CHSO)NLi、FSO(CSO)NLi、又はFSO(CSO)NLiが特に好ましい。
【0032】
金属塩は、リチウムと以上で説明したアニオンを組み合わせたものを採用すれば良い。本発明の電解液における金属塩は1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
【0033】
本発明の電解液には、上記金属塩以外に、蓄電装置の電解液に使用可能である他の電解質が含まれていてもよい。本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全電解質に対し、上記金属塩が50質量%以上で含まれるのが好ましく、70質量%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上で含まれるのがさらに好ましい。
【0034】
本発明の電解液はヘテロ元素含有有機溶媒を含み、そして、前記ヘテロ元素含有有機溶媒は比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒を含む。ヘテロ元素含有有機溶媒としては、蓄電装置の電解液に使用可能である有機溶媒のうち、ヘテロ元素を含有しているものであればよい。特定有機溶媒としては、比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下のヘテロ元素含有有機溶媒であればよい。
【0035】
ヘテロ元素含有有機溶媒又は特定有機溶媒はヘテロ元素を有するため、上記金属塩を一定程度の濃度で好適に溶解できる。他方、ヘテロ元素を有さない炭化水素からなる有機溶媒では、上記金属塩を好適に溶解できない。
【0036】
ヘテロ元素含有有機溶媒又は特定有機溶媒としては、ヘテロ元素が窒素、酸素、硫黄、ハロゲンから選択される少なくとも1つである有機溶媒が好ましく、ヘテロ元素が酸素である有機溶媒がより好ましい。また、ヘテロ元素含有有機溶媒又は特定有機溶媒としては、NH基、NH基、OH基、SH基などのプロトン供与基を有さない、非プロトン性溶媒が好ましい。
【0037】
ヘテロ元素含有有機溶媒を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
【0038】
特定有機溶媒は、特定有機溶媒以外の比誘電率が10を超える及び/又は双極子モーメントが5Dを超えるヘテロ元素含有有機溶媒(以下、「他のヘテロ有機溶媒」という場合がある。)と比較して、極性が低い。それゆえに、特定有機溶媒と金属イオンとの親和性は、他のヘテロ有機溶媒と金属イオンとの親和性と比較して、劣ると考えられる。そうすると、本発明の電解液が二次電池の電解液として用いられた際には、二次電池の電極を構成するアルミニウムや遷移金属は、本発明の電解液にイオンとして溶解するのが困難であるといえる。
【0039】
ここで、一般的な電解液を用いた二次電池においては、正極を構成するアルミニウムや遷移金属は、特に高電圧充電環境下において高酸化状態となり、陽イオンである金属イオンとして電解液に溶解し(アノード溶出)、そして、電解液中に溶出した金属イオンは静電気的引力に因り電子リッチな負極に引き寄せられて、負極上で電子と結合することで還元され、金属として析出する場合があることが知られている。このような反応が起こると、正極の容量低下や負極上での電解液分解などが生じ得るため、電池性能が低下することが知られている。しかし、本発明の電解液には前段落に記載の特徴があるため、本発明のリチウムイオン二次電池においては、正極からの金属イオン溶出及び負極上の金属析出が抑制される。
【0040】
特定有機溶媒の比誘電率は10以下であれば好ましいが、7以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。特定有機溶媒の比誘電率の下限は特に限定されないが、敢えて述べると、1以上、2以上、2.5以上を例示できる。
【0041】
また、特定有機溶媒の双極子モーメントは5D以下であれば好ましいが、2.5D以下がより好ましく、1D以下がさらに好ましい。特定有機溶媒の双極子モーメントの下限は特に限定されないが、敢えて述べると、0.05D以上、0.1D以上、0.2D以上を例示できる。
【0042】
特定有機溶媒はカーボネートを化学構造に含むものが好ましい。より好ましい特定有機溶媒として、下記一般式(2)で示される鎖状カーボネートを挙げることができる。
【0043】
20OCOOR21 一般式(2)
(R20、R21は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m=f+g+h+i+jを満たす。)
【0044】
上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
【0045】
上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートのうち、下記一般式(2−1)で表されるものが特に好ましい。
【0046】
22OCOOR23 一般式(2−1)
(R22、R23は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるC、又は、環状アルキルを化学構造に含むCのいずれかから選択される。n、a、b、m、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m=f+gを満たす。)
【0047】
上記一般式(2−1)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
【0048】
上記一般式(2−1)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートが特に好ましい。
【0049】
また、本明細書の開示から、上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートを含むヘテロ元素含有有機溶媒と、リチウムをカチオンとし、上記一般式(1)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とをモル比3〜5で含む電解液を把握することができる。なお、この電解液についても、本明細書の「本発明の電解液」についての説明を妥当な範囲で適用できる。
【0050】
好適な特定有機溶媒を用いた本発明の電解液においては、好適なイオン伝導度を示す金属塩の濃度が比較的高濃度となる。さらに、特定有機溶媒として上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートを用いた本発明の電解液においては、多少の金属塩濃度の変動に対してイオン伝導度の変動が小さい、すなわち、堅牢性に優れるとの利点を有する。しかも、上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートは、酸化及び還元に対する安定性に優れている。加えて、上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートは、自由回転可能な結合が多く存在し、柔軟な化学構造であるため、当該鎖状カーボネートを用いた本発明の電解液が高濃度の金属塩を含む場合であっても、その粘度の著しい上昇は抑えられ、高いイオン伝導度を得ることができる。
【0051】
以上で説明した特定有機溶媒は単独で電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。
【0052】
参考までに、各種の有機溶媒の比誘電率及び双極子モーメントを表1に列挙する。
【0053】
【表1】
【0054】
本発明の電解液は、ヘテロ元素含有有機溶媒と前記金属塩とをモル比3〜5で含む。本明細書でいう上記モル比とは、前者を後者で除した値、すなわち、(本発明の電解液に含まれるヘテロ元素含有有機溶媒のモル数)/(本発明の電解液に含まれる金属塩のモル数)の値を意味する。本発明の電解液を用いた二次電池は、電極/電解液界面で形成されるSEI皮膜が従来の有機溶媒由来成分主体ではなく低抵抗なS=O構造を有する金属塩由来成分が主体となっており、かつ皮膜中のLiイオン濃度が高い等の理由によって、反応抵抗が比較的小さい。上記モル比3〜5との範囲の意義は、二次電池の反応抵抗が比較的小さい範囲であって、かつ、電解液のイオン伝導度が好適な範囲である。本発明の電解液における、ヘテロ元素含有有機溶媒と前記金属塩とのモル比は、3.2〜4.8の範囲内がより好ましく、3.5〜4.5の範囲内がさらに好ましい。なお、従来の電解液は、ヘテロ元素含有有機溶媒と、電解質若しくは金属塩とのモル比が概ね10程度である。
【0055】
本発明の電解液においては、前記金属塩とヘテロ元素含有有機溶媒とが相互作用を及ぼしていると推定される。微視的には、本発明の電解液は、金属塩とヘテロ元素含有有機溶媒のヘテロ元素とが配位結合することで形成された、金属塩とヘテロ元素含有有機溶媒からなる安定なクラスターを含有していると推定される。
【0056】
本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩の存在割合が高いといえる。そうすると、本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なっているといえる。そのため、本発明の電解液を用いた二次電池等の蓄電装置においては、電解液中の金属イオン輸送速度の向上、電極と電解液の界面における反応速度の向上、二次電池のハイレート充放電時に起こる電解液の金属塩濃度の偏在の緩和、電極界面における電解液の保液性の向上、電極界面で電解液が不足するいわゆる液枯れ状態の抑制、電気二重層の容量増大などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
【0057】
本発明の電解液の密度d(g/cm)について述べる。なお、本明細書において、密度とは20℃での密度を意味する。本発明の電解液の密度d(g/cm)は好ましくは1.0≦dであり、1.1≦dがより好ましい。
【0058】
参考までに、代表的なヘテロ元素含有有機溶媒の密度(g/cm)を表2に列挙する。
【0059】
【表2】
【0060】
本発明の電解液の粘度η(mPa・s)について述べると、3<η<50の範囲が好ましく、4<η<40の範囲がより好ましく、5<η<30の範囲がさらに好ましい。
【0061】
また、電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は高ければ高いほど、電解液中でイオンが移動し易い。このため、このような電解液は優れた電池の電解液となり得る。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)について述べると、1≦σであるのが好ましい。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、あえて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2≦σ<100の範囲が好ましく、3≦σ<50の範囲がより好ましく、4≦σ<30の範囲がさらに好ましい。
【0062】
ところで、本発明の電解液は金属塩のカチオンを高濃度で含有する。このため、本発明の電解液中において、隣り合うカチオン間の距離は極めて近い。そして、二次電池の充放電時にリチウムイオン等のカチオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のカチオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該カチオンがあった場所には、当該カチオンに隣り合う他のカチオンが移動する。つまり、本発明の電解液中においては、隣り合うカチオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のカチオンの移動距離は短く、その分だけカチオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、本発明の電解液を有する二次電池の反応速度は高いと考えられる。
【0063】
本発明の電解液には、特定有機溶媒以外に、上記他のヘテロ有機溶媒やヘテロ元素を有さない炭化水素からなる有機溶媒が含まれていてもよい。本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全溶媒に対し、特定有機溶媒が80体積%以上で含まれるのが好ましく、90体積%以上で含まれるのがより好ましく、95体積%以上で含まれるのがさらに好ましい。また、本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全溶媒に対し、特定有機溶媒が80モル%以上で含まれるのが好ましく、90モル%以上で含まれるのがより好ましく、95モル%以上で含まれるのがさらに好ましい。
【0064】
本発明の電解液の一態様として、比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒と、リチウムをカチオンとし上記一般式(1)で表される化学構造をアニオンとする金属塩とを、モル比3〜5で含む電解液を挙げることができる。
【0065】
なお、特定有機溶媒以外に他のヘテロ有機溶媒を含む本発明の電解液は、他のヘテロ有機溶媒を含まない本発明の電解液と比較して、粘度が上昇する場合や、イオン伝導度が低下する場合がある。さらに、特定有機溶媒以外に他のヘテロ有機溶媒を含む本発明の電解液を用いた二次電池は、その反応抵抗が増大する場合がある。
【0066】
また、特定有機溶媒以外に上記炭化水素からなる有機溶媒を含む本発明の電解液は、その粘度が低くなるとの効果を期待できる。
【0067】
上記炭化水素からなる有機溶媒としては、具体的にベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−メチルナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを例示することができる。
【0068】
また、本発明の電解液には、難燃性の溶媒を加えることができる。難燃性の溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の安全度をさらに高めることができる。難燃性の溶媒としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ハイドロフルオロエーテルなどのハロゲン系溶媒、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのリン酸誘導体を例示することができる。
【0069】
本発明の電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を電池の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。
【0070】
上記ポリマーとしては、リチウムイオン二次電池などの電池に使用されるポリマーや一般的な化学架橋したポリマーを採用することができる。特に、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレンなど電解液を吸収しゲル化し得るポリマーや、ポリエチレンオキシドなどのポリマーにイオン導電性基を導入したものが好適である。
【0071】
具体的なポリマーとしては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリグリシドール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリクロトン酸、ポリアンゲリカ酸、カルボキシメチルセルロースなどのポリカルボン酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、無水マレイン酸とグリコール類を共重合した不飽和ポリエステル、置換基を有するポリエチレンオキシド誘導体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を例示できる。また、上記ポリマーとして、上記具体的なポリマーを構成する二種類以上のモノマーを共重合させた共重合体を選択しても良い。
【0072】
上記ポリマーとして、多糖類も好適である。具体的な多糖類として、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、アミロペクチン、キシログルカン、アミロースを例示できる。また、これら多糖類を含む材料を上記ポリマーとして採用してもよく、当該材料として、アガロースなどの多糖類を含む寒天を例示することができる。
【0073】
上記無機フィラーとしては、酸化物や窒化物などの無機セラミックスが好ましい。
【0074】
無機セラミックスはその表面に親水性及び疎水性の官能基を有している。そのため、当該官能基が電解液を引き付けることにより、無機セラミックス内に伝導性通路が形成され得る。さらに、電解液に分散した無機セラミックスは前記官能基により無機セラミックス同士のネットワークを形成し、電解液を封じ込める役割を果たし得る。無機セラミックスのこのような機能により、電池における電解液の液漏れをさらに好適に抑制することができる。無機セラミックスの上記機能を好適に発揮するために、無機セラミックスは粒子形状のものが好ましく、特にその粒子径がナノ水準のものが好ましい。
【0075】
無機セラミックスの種類としては、一般的なアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、リチウムリン酸塩などを挙げることができる。また、無機セラミックス自体にリチウム伝導性があるものでも良く、具体的には、LiN、LiI、LiI−LiN−LiOH、LiI−LiS−P、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiO−B、LiO−V−SiO、LiO−B−P、LiO−B−ZnO、LiO−Al−TiO−SiO−P、LiTi(PO、Li−βAl、LiTaOを例示することができる。
【0076】
無機フィラーとしてガラスセラミックスを採用してもよい。ガラスセラミックスはイオン性液体を封じ込めることができるので、本発明の電解液に対しても同様の効果を期待できる。ガラスセラミックスとしては、xLiS−(1−x)Pで表される化合物、並びに、当該化合物のSの一部を他の元素で置換したもの、及び、当該化合物のPの一部をゲルマニウムに置換したものを例示できる。
【0077】
また、本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の添加剤を加えてもよい。
【0078】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池に具備される層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物について説明する。
【0079】
本発明のリチウムイオン二次電池に具備される層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物は、粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足するものであるか、又は、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Zr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Zn、Cuのうち少なくとも1つ)で表されるものである。
【0080】
本発明のリチウムイオン二次電池に具備される層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物としては、粉末X線回折測定において1.10≦((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))<2.0を満足し、かつ、一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Zr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Zn、Cuのうち少なくとも1つ)で表されるものが好ましい。
【0081】
以後、((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))を、本発明のパラメータということがある。本発明のパラメータの技術的意義について説明する。
【0082】
層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物において、粉末X線回折測定における(003)面に由来するピークの積分強度I(003)とは、層状岩塩構造をミラー指数で表した場合の(003)面からの回折光に該当する粉末X線回折チャート上のピークの積分強度、すなわちピーク面積を意味する。当該ピークは、粉末X線回折チャートにおいて2θ=17〜20°付近に観察され、層状岩塩構造に固有のものと考えられている。
【0083】
同様に、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物において、粉末X線回折測定における(104)面に由来するピークの積分強度I(104)とは、層状岩塩構造をミラー指数で表した場合の(104)面からの回折光に該当する粉末X線回折チャート上のピークの積分強度、すなわちピーク面積を意味する。当該ピークは、粉末X線回折チャートにおいて2θ=43〜46°付近に観察される。ただし、当該ピークは、層状岩塩構造のみに固有のものではなく、立方岩塩構造からも観察されると考えられている。
【0084】
したがって、リチウム金属複合酸化物において、本発明のパラメータの値が低ければ、層状岩塩構造の割合が低いことを意味する。逆に、リチウム金属複合酸化物において、本発明のパラメータの値が高すぎる場合には、層状岩塩構造の特定の軸又は面のみが著しく成長した結晶癖が生じているか、リチウム、遷移金属、酸素の配合量のバランスが欠けているといえる。
【0085】
一般的には、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物において、本発明のパラメータは、層状岩塩構造のリチウムサイトへのニッケル等の遷移金属の混入の度合いを判断する指標、及び、リチウム金属複合酸化物と電解液との反応性の指標とされている。そして、一般に、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物は、1.10≦本発明のパラメータ<4.0の範囲内のものが好ましいとされている。
【0086】
ここで、本発明のパラメータが1.10未満のリチウム金属複合酸化物は、層状岩塩構造のリチウムサイトへのニッケル等の遷移金属の混入の度合いが著しく高いとされている。そのようなリチウム金属複合酸化物は充放電に寄与できるリチウムイオンの量が減少しているため、当該リチウム金属複合酸化物を正極活物質として使用したリチウムイオン二次電池は充放電特性が低下する。
【0087】
また、本発明のパラメータが4.0以上のリチウム金属複合酸化物を正極活物質として使用したリチウムイオン二次電池においては、リチウム金属複合酸化物と電解液とが不都合な反応を容易に生じ得る。
【0088】
本発明においては、本発明のパラメータの好適な範囲を1.10≦本発明のパラメータ<2.0と規定した。この範囲の層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物であれば、層状岩塩構造のリチウムサイトへのニッケル等の遷移金属の混入の度合いが高くなく、また、リチウム金属複合酸化物と電解液とが不都合な反応を容易に生じることもない。
【0089】
一般式Li(NiCo)O(1.05≦a≦1.20、0.15≦x≦0.55、0.25≦y≦0.75、0.01≦z≦0.29、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Zr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Zn、Cuのうち少なくとも1つ)において、a、x、y、z、bは上述の範囲内であればよい。
【0090】
好ましいaの範囲として1.05≦a≦1.15、好ましいxの範囲として0.45≦x≦0.55、好ましいyの範囲として0.25≦y≦0.35、好ましいzの範囲として0.1≦z≦0.25を例示できる。
【0091】
また、Mを、Mnz1z2(z1+z2=z、DはZr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Zn、Cuから選択される。)と表すこともできる。好ましいz1の範囲として0.01≦z1≦0.29、0.1≦z1≦0.25を例示できる。好ましいz2の範囲として0≦z2≦0.1、0.01≦z2≦0.05を例示できる。
【0092】
層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物は、表層部が密であり内部が疎である中空状の構造でもよいし、表層部及び内部が共に密である中実状の構造でもよい。
【0093】
層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物は、通常、複数の一次粒子が結合した二次粒子からなる。二次粒子の形状には特に限定は無いが、二次電池に優れた特性を付与する観点から、二次粒子は均一であって適度な大きさの粒子径のものが好ましい。粒子径が著しく大きなリチウム金属複合酸化物を具備する二次電池では、リチウム金属複合酸化物と電解液との反応面積を十分に確保することが困難となり、容量低下や抵抗上昇などの不具合が生じる可能性がある。他方、粒子径が著しく小さなリチウム金属複合酸化物は取り扱いが困難である。また、大きさの均一性に乏しい、すなわち二次粒子の粒度分布が広範囲であるリチウム金属複合酸化物を具備する二次電池では、粒子径の著しい相違に起因して各二次粒子に印加される電圧が著しく不均一となり、二次粒子の選択的な劣化が進行し、容量低下や抵抗上昇などの不具合が生じる可能性がある。
【0094】
以上の知見を総合すると、大きさの観点からは、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の平均粒子径は0.5〜7μmの範囲内が好ましく、1〜6μmの範囲内がより好ましい。均一性の観点からは、100×(二次粒子の粒子径の標準偏差)/(二次粒子の平均粒子径)の値が24未満の二次粒子が好ましい。なお、本明細書にて平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。また、「二次粒子の粒子径」及び「二次粒子の粒子径の標準偏差」は、リチウム金属複合酸化物を一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定して算出された値である。
【0095】
一次粒子とは、特定の結晶方位を示す粒子を意味する。一次粒子は単結晶であると推定される。リチウム金属複合酸化物の外観を顕微鏡で観察すると、一次粒子が多数結合して、二次粒子を構成していることがわかる。
【0096】
一次粒子の形状には特段の限定がない。本発明者は、一次粒子の長径長さと、粒界のせん断応力との関係をフェーズフィールド法により解析した。その結果、一次粒子の長径長さが小さいほど、粒界のせん断応力が小さくなることが判明した。しかし、著しく長径長さの小さい一次粒子のみで構成される二次粒子は、再現性良く製造するのが困難な場合がある。また、著しく長径長さの小さい一次粒子のみで構成される二次粒子の密度が材料の真密度から大きく乖離する場合があるため、活物質の容量の観点から不利になる場合がある。他方、著しく長径長さの大きい一次粒子で構成される二次粒子は、粒界のせん断応力が大きくなるため割れが生じ易くなるといえる。さらに、著しく長径長さの大きい一次粒子で構成される二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物を具備する二次電池は、充放電速度の変化に因って電池特性が著しく低下する傾向がある。これらの知見を総合すると、一次粒子の形状は、長径長さの平均値が0.1〜2μmの範囲内のものが好ましく、0.2〜1μmの範囲内のものがより好ましい。なお、「長径長さ」とは、一次粒子観察時における、一次粒子の最も長い箇所の長さを意味する。そして、「長径長さの平均値」とは、10個以上の一次粒子から得られた「長径長さ」の算術平均値を意味する。
【0097】
また、上記フェーズフィールド法の解析結果から、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)が1.1〜5.0、好ましくは1.7〜4.0、より好ましくは2.0〜4.0の範囲内であれば、粒界のせん断応力が極小になることが判明した。この知見から、一次粒子は、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)の平均値が1.1〜5.0の範囲内のものがよく、1.7〜4.0の範囲内が好ましく、2.0〜4.0の範囲内がより好ましい。なお、「一次粒子の長径長さ」とは、上述したのと同様に、一次粒子観察時における、一次粒子の最も長い箇所の長さを意味する。「一次粒子の短径長さ」とは、一次粒子観察時における一次粒子において、長径の直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。そして、「(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)の平均値」とは、10個以上の一次粒子から得られた「(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)」の算術平均値を意味する。
【0098】
一次粒子観察は、リチウム金属複合酸化物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、電子線後方散乱回折(EBSD)などで測定して得られる画像に基づき、行えばよい。上記画像に対し、画像解析ソフトを用いて解析してもよい。
【0099】
層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物の製造方法について説明する。層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物は種々の材料から、例えば、以下のa)工程〜d)工程を含む製造方法で製造される。
a)遷移金属塩を水に溶解し、遷移金属イオン水溶液を調製する工程
b)塩基性水溶液を調製する工程
c)塩基性水溶液に前記遷移金属イオン水溶液を供給し、遷移金属水酸化物粒子を形成させる工程
d)遷移金属水酸化物粒子を成長させる工程
e)遷移金属水酸化物粒子及びリチウム塩を混合し、焼成する工程
【0100】
a)工程について説明する。a)工程の遷移金属イオン水溶液の組成が、リチウム金属複合酸化物における遷移金属組成の基礎となる。よって、リチウム金属複合酸化物における遷移金属が複数の場合は、a)工程の遷移金属イオン水溶液における複数の遷移金属のモル比を、所望の比となるように設定する。
a)工程で用いる金属塩としては、リチウム金属複合酸化物の製造に用いられる公知のものを採用すれば良い。リチウム金属複合酸化物がニッケル、コバルト、マンガンを含む場合の塩を例示する。ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化ニッケルを挙げることができる。用いるコバルト塩としては、例えば、硫酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化コバルトを挙げることができる。マンガン塩としては、例えば、硫酸マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガンを挙げることができる。
【0101】
遷移金属イオン水溶液の好ましい遷移金属イオン濃度範囲は0.01〜4mol/Lであり、より好ましくは0.05〜3mol/Lであり、さらに好ましくは0.1〜2mol/Lであり、特に好ましくは0.5〜1.5mol/Lである。
【0102】
b)工程は塩基性化合物を水に溶解し、塩基性水溶液を調製する工程である。b)工程の塩基性水溶液のpHは9〜14の範囲が好ましく、10〜13.5の範囲がより好ましく、11〜13の範囲がさらに好ましい。なお、本明細書で規定するpHは25℃で測定した場合の値をいう。使用し得る塩基性化合物としては水に溶解して塩基性を示すものであれば良く、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属炭酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三リチウムなどのアルカリ金属リン酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムなどのアルカリ金属酢酸塩、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウムなどのアルカリ金属シュウ酸塩を挙げることができる。塩基性化合物は単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。b)工程に続くc)工程の水溶液のpHは好適な範囲に保たれることが好ましいため、b)工程の塩基性水溶液には、緩衝能を有する塩基性化合物が含まれるのが好ましい。緩衝能を有する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属シュウ酸塩を挙げることができる。
【0103】
b)工程は、撹拌装置を備えた反応槽で行われるのが好ましく、さらに窒素やアルゴンなどの不活性ガス及び酸素や乾燥空気などの酸化性ガスを導入できる装置を備えた反応槽で行われるのが好ましい。また、恒温条件となる装置を備えた反応槽がより好ましい。b)工程の具体例を以下に挙げる。撹拌装置、窒素ガス導入装置及び加熱装置を備えた反応槽に、水を投入し、40℃に加熱する。反応槽に不活性ガスを導入して不活性ガス雰囲気下とする。水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水を反応槽に投入し、塩基性水溶液を調製する。
【0104】
c)工程は、前記塩基性水溶液に遷移金属イオン水溶液を供給し、遷移金属水酸化物粒子を形成させる工程である。c)工程はb)工程で述べたのと同様の条件下の反応槽で行われるのが好ましい。撹拌速度や温度条件は、遷移金属水酸化物粒子の核発生及び粒子形成に好適な範囲に適宜設定すればよい。遷移金属イオン水溶液の供給に伴い塩基性水溶液のpHが変動する場合や気化によりアンモニアなどの塩基性化合物が反応槽から失われる場合には、b)工程で採用した塩基性化合物を含む水溶液を適宜供給して、上記核発生及び上記粒子形成に好適なpHやアンモニア濃度を維持すればよい。工程の安定性の観点から、遷移金属イオン水溶液の供給速度は一定であることが好ましい。好ましい供給速度として1〜30mL/min.を挙げることができ、より好ましくは1.5〜15mL/min.、さらに好ましくは2〜8mL/min.を挙げることができる。
【0105】
d)工程は前記遷移金属水酸化物粒子を成長させる工程である。d)工程を具体的な作業で述べると、d)工程は、必要によりc)工程の液を減じつつ、c)工程の液を継続して保持及び/又は撹拌する工程である。d)工程はc)工程と連続して行われるのが好ましい。さらには、d)工程において、c)工程と同様に、遷移金属イオン水溶液、塩基性化合物を含む水溶液を適宜供給してもよい。d)工程とc)工程とを厳密に区別するのは困難な場合もある。また、d)工程においては所望の粒子の大きさになるまで液を保持及び/又は撹拌するのが好ましい。得られた粒子は濾過で分離できる。分離後の粒子は必要に応じて再度d)工程に供してもよい。分離後の粒子は加熱条件下にて脱水されるのが良い。加熱条件としては100〜600℃、1〜30時間を挙げることができる。
【0106】
e)工程は、d)工程で得られた遷移金属水酸化物粒子及びリチウム塩を混合し、焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る工程である。リチウム塩としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウムを例示することができる。リチウム塩の配合量は、所望のリチウム組成のリチウム金属複合酸化物となるように適宜決定すればよい。一例を挙げると、e)工程で用いられる原料全体において、リチウムとニッケル、コバルト及びマンガンの合計とのモル比が1.05:1〜1.2:1の範囲内になるように、リチウム塩の配合量を決定すればよい。
【0107】
混合装置としては、乳鉢及び乳棒、攪拌混合機、V型混合機、W型混合機、リボン型混合機、ドラムミキサー、ボールミルを例示できる。
【0108】
焼成条件は、例えば、500〜1000℃、1〜30時間の範囲内で適宜設定すればよい。焼成途中に温度を変化させ、複数の温度下で焼成しても良い。好適な焼成条件として、500〜800℃、3〜20時間の条件下で第1次焼成を行い、次いで、800〜1000℃、3〜20時間の条件下で第2次焼成を行うことを例示できる。焼成後に得られたリチウム金属複合酸化物は、必要ならば水洗工程、粉砕工程、篩過等の分級工程を経て、一定の粒度分布のものとするのが好ましい。
【0109】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の電解液、及び、上述したリチウム金属複合酸化物を具備する。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウム金属複合酸化物を含む正極、負極、及び、本発明の電解液を具備する。
【0110】
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0111】
正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
【0112】
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
【0113】
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
【0114】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
【0115】
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0116】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0117】
正極活物質としては、上述したリチウム金属複合酸化物を用いる。正極活物質としては、上述したリチウム金属複合酸化物を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、本発明のリチウムイオン二次電池には他の公知の正極活物質や活性炭等の分極性電極材料を併用してもよい。
【0118】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。負極の集電体は、正極で説明したものを適宜適切に選択すればよい。
【0119】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0120】
結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
【0121】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
【0122】
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0123】
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0124】
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
【0125】
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
【0126】
また、例えば特開2013−065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
【0127】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0128】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、及び各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0129】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0130】
本発明のリチウムイオン二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0131】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法の具体例を説明する。
正極及び負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0132】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0133】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0134】
ところで、一般に、二次電池における負極及び正極の表面には、皮膜が生成することが知られている。当該皮膜はSEI(Solid Electrolyte Interphase)とも呼ばれ、電解液の還元分解物等で構成される。例えば、特開2007−19027号公報には、SEI皮膜について記載されている。
【0135】
負極表面及び正極表面のSEI皮膜は、リチウムイオン等の電荷担体の通過を許容する。また、負極表面のSEI皮膜は、負極表面と電解液との間に存在し、電解液の更なる還元分解を抑制すると考えられている。特に黒鉛やSi系の負極活物質を用いた低電位負極には、SEI皮膜の存在が必須と考えられている。
【0136】
SEI皮膜が存在することで電解液の継続的な分解が抑制されれば、充放電サイクル経過後の二次電池の放電特性を向上させ得ると考えられる。しかし、その一方で、従来の二次電池において、負極表面及び正極表面のSEI皮膜は必ずしも電池特性の向上に寄与するとはいえなかった。
【0137】
本発明の電解液において、上記金属塩の上記一般式(1)の化学構造には、SOが含まれている。そして、本発明のリチウムイオン二次電池の充放電により上記金属塩の一部が分解して、正極及び/又は負極の表面にS及びO含有皮膜が形成されると推定される。S及びO含有皮膜はS=O構造を有すると推定される。当該皮膜により電極が被覆されるため、電極及び電解液の劣化が抑制され、その結果、本発明のリチウムイオン二次電池の耐久性が向上すると考えられる。
【0138】
本発明の電解液においては、従来の電解液に比べて、カチオンとアニオンとが近くに存在し、アニオンはカチオンからの静電的な影響を強く受けることで従来電解液に比べ還元分解され易くなると考えられる。。従来の電解液を用いた従来の二次電池においては、電解液に含まれるエチレンカーボネート等の環状カーボネートが還元分解されて生成する分解生成物によって、SEI皮膜が構成されていた。しかし、上述したように、本発明の二次電池に含まれる本発明の電解液においてはアニオンが還元分解されやすく、また従来の電解液に比べ高濃度に金属塩を含有するために電解液中のアニオン濃度が高い。このため、本発明のリチウムイオン二次電池におけるSEI皮膜、つまりS及びO含有皮膜には、アニオンに由来するものが多く含まれると考えられる。また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートを用いることなく、SEI皮膜を形成することができる。
【0139】
また、本発明のリチウムイオン二次電池におけるS及びO含有皮膜は充放電に伴って状態変化する場合がある。例えば、充放電の状態に因り、S及びO含有皮膜の厚さや当該皮膜内の元素の割合が可逆的に変化する場合がある。このため、本発明のリチウムイオン二次電池におけるS及びO含有皮膜には、上述したアニオンの分解物に由来し皮膜中に定着する部分と、充放電に伴って可逆的に増減する部分とが存在すると考えられる。
【0140】
なお、S及びO含有皮膜は電解液の分解物に由来すると考えられるため、S及びO含有皮膜の大部分又は全ては二次電池の初回充放電以降に生成すると考えられる。つまり、本発明のリチウムイオン二次電池は、使用時において、負極の表面及び/又は正極の表面にS及びO含有皮膜を有する。S及びO含有皮膜の構成成分は、電解液に含まれる成分や電極の組成等に応じて異なる場合があると考えられる。また、当該S及びO含有皮膜において、S及びOの含有割合は特に限定されない。さらに、S及びO含有皮膜に含まれるS及びO以外の成分及び量は特に限定されない。S及びO含有皮膜は、主に本発明の電解液に含まれる金属塩のアニオンに由来すると考えられるため、当該金属塩のアニオンに由来する成分をその他の成分よりも多く含むのが好ましい。
【0141】
S及びO含有皮膜は負極表面にのみ形成されても良いし、正極表面にのみ形成されても良い。S及びO含有皮膜は負極表面及び正極表面の両方に形成されるのが好ましい。
【0142】
本発明のリチウムイオン二次電池は電極にS及びO含有皮膜を有し、当該S及びO含有皮膜はS=O構造を有するとともに多くのカチオンを含むと考えられる。そして、S及びO含有皮膜に含まれるカチオンは電極に優先的に供給されると考えられる。よって、本発明のリチウムイオン二次電池においては、電極近傍に豊富なカチオン源を有するため、この点においても、カチオンの輸送速度が向上すると考えられる。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池においては、本発明の電解液と電極のS及びO含有皮膜との協働によって、優れた電池特性が発揮されると考えられる。
【0143】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。また、上記の本発明のリチウムイオン二次電池の説明における、負極活物質の一部若しくは全部、及び/又は、正極活物質の一部を分極性電極材料として用いられる活性炭などに置き換えて、リチウムイオンキャパシタなどのハイブリッドキャパシタとしても良い。
【実施例】
【0144】
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0145】
(実施例1−1)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.0mol/Lである実施例1−1の電解液を製造した。実施例1−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3である。
【0146】
(実施例1−2)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.7mol/Lである実施例1−2の電解液を製造した。実施例1−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.5である。
【0147】
(実施例1−3)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.3mol/Lである実施例1−3の電解液を製造した。実施例1−3の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が4である。
【0148】
(実施例1−4)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.0mol/Lである実施例1−4の電解液を製造した。実施例1−4の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が5である。
【0149】
(実施例2−1)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び特定有機溶媒であるジエチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lである実施例2−1の電解液を製造した。実施例2−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3である。
【0150】
(実施例2−2)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び特定有機溶媒であるジエチルカーボネートを7:1のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lである実施例2−2の電解液を製造した。実施例2−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3である。
【0151】
(実施例3)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるプロピレンカーボネートを7:1のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.0mol/Lである実施例3の電解液を製造した。実施例3の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3である。
【0152】
(実施例4)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるエチレンカーボネートを7:1のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.0mol/Lである実施例4の電解液を製造した。実施例4の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.1である。
【0153】
(実施例5)
特定有機溶媒であるエチルメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.2mol/Lである実施例5の電解液を製造した。実施例5の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.5である。
【0154】
(実施例6)
特定有機溶媒であるジエチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.0mol/Lである実施例6の電解液を製造した。実施例6の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.5である。
【0155】
(実施例7−1)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである実施例7−1の電解液を製造した。実施例7−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3である。
【0156】
(実施例7−2)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.0mol/Lである実施例7−2の電解液を製造した。実施例7−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が4.7である。
【0157】
(実施例8−1)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.4mol/Lである実施例8−1の電解液を製造した。実施例8−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.3である。
【0158】
(実施例8−2)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.0mol/Lである実施例8−2の電解液を製造した。実施例8−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が4である。
【0159】
(実施例9)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(CFSONLiを溶解させて、(CFSONLiの濃度が3.0mol/Lである実施例9の電解液を製造した。実施例9の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.5である。
【0160】
(実施例10)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(CFSONLiを溶解させて、(CFSONLiの濃度が1.6mol/Lである実施例10の電解液を製造した。実施例10の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が4.7である。
【0161】
(実施例11−1)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び特定有機溶媒であるエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lである実施例11−1の電解液を製造した。実施例11−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3である。
【0162】
(実施例11−2)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び特定有機溶媒であるエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.6mol/Lである実施例11−2の電解液を製造した。実施例11−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が3.6である。
【0163】
(比較例1)
トルエンに金属塩である(FSONLiを溶解させて、トルエンと金属塩のモル比が本発明の電解液相当となる電解液を製造しようと試みたが、(FSONLiが溶解せず、懸濁液となった。
【0164】
(比較例2)
ヘキサンに金属塩である(FSONLiを溶解させて、ヘキサンと金属塩のモル比が本発明の電解液相当となる電解液を製造しようと試みたが、(FSONLiが溶解せず、懸濁液となった。
【0165】
(比較例3−1)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.5mol/Lである比較例3−1の電解液を製造した。比較例3−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が1.6である。
【0166】
(比較例3−2)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.9mol/Lである比較例3−2の電解液を製造した。比較例3−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2である。
【0167】
(比較例3−3)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.0mol/Lである比較例3−3の電解液を製造した。比較例3−3の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が11である。
【0168】
(比較例4−1)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が5.0mol/Lである比較例4−1の電解液を製造した。比較例4−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2.1である。
【0169】
(比較例4−2)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.5mol/Lである比較例4−2の電解液を製造した。比較例4−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2.4である。
【0170】
(比較例4−3)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.0mol/Lである比較例4−3の電解液を製造した。比較例4−3の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が7.9である。
【0171】
(比較例4−4)
特定有機溶媒であるアセトニトリルに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.0mol/Lである比較例4−4の電解液を製造した。比較例4−4の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が17である。
【0172】
(比較例5−1)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである比較例5−1の電解液を製造した。比較例5−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が1.5である。
【0173】
(比較例5−2)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.6mol/Lである比較例5−2の電解液を製造した。比較例5−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が1.9である。
【0174】
(比較例5−3)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.0mol/Lである比較例5−3の電解液を製造した。比較例5−3の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が8.8である。
【0175】
(比較例5−4)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が0.5mol/Lである比較例5−4の電解液を製造した。比較例5−4の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が18である。
【0176】
(比較例5−5)
特定有機溶媒である1,2−ジメトキシエタンに、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が0.1mol/Lである比較例5−5の電解液を製造した。比較例5−5の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が93である。
【0177】
(比較例6)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、電解質であるLiPFを溶解させて、LiPFの濃度が3.2mol/Lである比較例6の電解液を製造した。比較例6の電解液においては、有機溶媒と電解質のモル比が3である。
【0178】
(比較例7)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートに、電解質であるLiBFを溶解させて、LiBFの濃度が3.4mol/Lである比較例7の電解液を製造した。比較例7の電解液においては、有機溶媒と電解質のモル比が3である。
【0179】
(比較例8)
特定有機溶媒であるジエチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるエチレンカーボネートを7:3の体積比で混合した混合溶媒に、電解質であるLiPFを溶解させて、LiPFの濃度が1.0mol/Lである比較例8の電解液を製造した。比較例8の電解液においては、有機溶媒と電解質のモル比が概ね10である。
【0180】
(比較例9−1)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるプロピレンカーボネートを95:5のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである比較例9−1の電解液を製造した。比較例9−1の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2である。
【0181】
(比較例9−2)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるプロピレンカーボネートを90:10のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである比較例9−2の電解液を製造した。比較例9−2の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2である。
【0182】
(比較例9−3)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるプロピレンカーボネートを80:20のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである比較例9−3の電解液を製造した。比較例9−3の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2である。
【0183】
(比較例9−4)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及び他のヘテロ有機溶媒であるプロピレンカーボネートを50:50のモル比で混合した混合溶媒に、金属塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである比較例9−4の電解液を製造した。比較例9−4の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が2である。
【0184】
(比較例10)
特定有機溶媒であるジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネート並びに他のヘテロ有機溶媒であるエチレンカーボネートを4:3:3の体積比で混合した混合溶媒に、電解質であるLiPFを溶解させて、LiPFの濃度が1.0mol/Lである比較例10の電解液を製造した。比較例10の電解液においては、有機溶媒と金属塩のモル比が概ね10である。
【0185】
表3−1に実施例の電解液の一覧を、表3−2に比較例の電解液の一覧を示す。比較例1及び2の結果から、トルエンやヘキサンのようなヘテロ元素を有さない有機溶媒は、好適に金属塩を溶解できないといえる。
【0186】
【表3-1】
【0187】
表3−1及び以下の表における略号の意味は以下のとおりである。
LiFSA:(FSONLi
LiTFSA:(CFSONLi
DMC:ジメチルカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
AN:アセトニトリル
DME:1,2−ジメトキシエタン
PC:プロピレンカーボネート
EC:エチレンカーボネート
【0188】
【表3-2】
【0189】
(評価例1:イオン伝導度)
実施例及び比較例の電解液のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表4−1及び表4−2に示す。なお、表の空欄は未測定を意味する。
【0190】
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
【0191】
【表4-1】
【0192】
【表4-2】
【0193】
実施例の電解液は、いずれも好適なイオン伝導性を示した。よって、本発明の電解液は、いずれも各種の蓄電装置の電解液として機能し得ると理解できる。さらに、実施例1−1、比較例6、比較例7の電解液の結果をみると、本発明の電解液に用いる金属塩が、他の電解質と比較して、好適なイオン伝導性を示すことがわかる。また、実施例1−1、実施例3、実施例4の電解液の結果をみると、特定有機溶媒の一部を他のヘテロ有機溶媒で置換したヘテロ元素含有有機溶媒を用いた場合には、イオン伝導度が低下することがわかる。
【0194】
ここで、金属塩がLiFSAであり、特定有機溶媒が鎖状カーボネートに属するDMCである、実施例1−1、1−4及び比較例3−1〜3−3の電解液につき、特定有機溶媒と金属塩のモル比とイオン伝導度との関係をグラフにした。当該グラフを図1に示す。
【0195】
図1から、金属塩がLiFSAであり、特定有機溶媒が鎖状カーボネートに属するDMCである電解液において、イオン伝導度の極大値が、特定有機溶媒と金属塩のモル比3〜5の範囲内にあることが示唆される。
【0196】
(評価例2:密度)
実施例及び比較例の電解液の20℃における密度を測定した。結果を表5−1及び表5−2に示す。なお、表の空欄は未測定を意味する。
【0197】
【表5-1】
【0198】
【表5-2】
【0199】
(評価例3:粘度)
実施例及び比較例の電解液の粘度を以下の条件で測定した。結果を表6−1及び表6−2に示す。
【0200】
粘度測定条件
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
【0201】
【表6-1】
【0202】
【表6-2】
【0203】
実施例の電解液の粘度は、低すぎることもなく高すぎることもないことがわかる。本発明の電解液で規定する特定有機溶媒と金属塩のモル比の範囲外の電解液では、粘度が低すぎるか、粘度が高すぎる場合があることがわかる。電解液の粘度が低すぎると、そのような電解液を具備する蓄電装置が破損した際には、電解液が大量に漏れるとの懸念がある。他方、電解液の粘度が高すぎると、電解液のイオン伝導特性が低下する懸念や、蓄電装置製造時に電極やセパレータ等への電解液の浸透性が劣るため生産性が低下する懸念がある。
【0204】
また、実施例1−1、実施例3、実施例4の電解液の結果をみると、特定有機溶媒の一部を他のヘテロ有機溶媒で置換したヘテロ元素含有有機溶媒を用いた場合には、粘度が増加することがわかる。
【0205】
(評価例4:低温保管試験)
実施例1−1、実施例1−3、実施例1−4、比較例3−2、比較例3−3の各電解液をそれぞれ容器に入れ、不活性ガスを充填して密閉した。これらを−20℃の冷凍庫に2日間保管した。保管後に各電解液を観察した。結果を表7に示す。
【0206】
【表7】
【0207】
特定有機溶媒と金属塩のモル比の値が大きくなるほど、すなわち従来の値に近づくほど、低温で凝固しやすくなることがわかる。なお、実施例1−4の電解液は−20℃で2日間保管することで凝固したものの、従来の濃度の電解液である比較例3−3の電解液と比較すると、凝固しがたいといえる。
【0208】
(実施例A)
実施例1−1の電解液を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
径13.82mm、面積1.5cm、厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)を作用極とし、対極は金属Liとした。セパレータは、厚み400μmのWhatmanガラスフィルター不織布:品番1825−055を用いた。
作用極、対極、セパレータ及び実施例1−1の電解液を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これを実施例Aのハーフセルとした。
【0209】
(比較例A)
比較例3−3の電解液を用いた以外は、実施例Aのハーフセルと同様にして、比較例Aのハーフセルを作製した。
【0210】
(評価例A:作用極Alでのサイクリックボルタンメトリー評価)
実施例A及び比較例Aのハーフセルに対して、3.0V〜4.5V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、3.0V〜5.0V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。実施例A及び比較例Aのハーフセルに対する電位と応答電流との関係を示すグラフを図2図5に示す。
【0211】
図4及び図5から、比較例Aのハーフセルでは、2サイクル以降も3.0Vから4.5Vにかけて電流が流れ、しかも高電位になるに従い電流が増大していることがわかる。この電流は、作用極のアルミニウムが腐食したことによるAlの酸化電流と推定される。
【0212】
図2及び図3から、実施例Aのハーフセルにおいては、2サイクル以降は3.0Vから4.5Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。特に3サイクル目以降では4.5Vに至るまで電流の増大はほぼない。そして、実施例Aのハーフセルでは高電位となる4.5V以降に電流の増大がみられるが、これは比較例Aのハーフセルにおける4.5V以降の電流値に比べると遙かに小さい値である。
【0213】
サイクリックボルタンメトリー評価の結果から、少なくとも4.5V程度の高電位条件でも、実施例1−1の電解液のアルミニウムに対する腐食性や酸化分解性は低いといえる。すなわち、実施例1−1の電解液は、集電体などにアルミニウムを用いた蓄電装置に対し、好適な電解液といえる。
【0214】
(参考例A)
比較例3−2の電解液を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
活物質である平均粒径10μmの黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、活物質層が形成された銅箔を得た。これを作用極とした。
【0215】
対極は金属Liとした。
【0216】
作用極、対極、両者の間に挟装したセパレータとしての厚さ400μmのWhatmanガラス繊維ろ紙及び比較例3−2の電解液を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これを参考例Aのハーフセルとした。
【0217】
(参考例B)
電解液として比較例9−1の電解液を用いた以外は、参考例Aと同様の方法で、参考例Bのハーフセルを製造した。
【0218】
(参考例C)
電解液として比較例9−2の電解液を用いた以外は、参考例Aと同様の方法で、参考例Cのハーフセルを製造した。
【0219】
(参考例D)
電解液として比較例9−3の電解液を用いた以外は、参考例Aと同様の方法で、参考例Dのハーフセルを製造した。
【0220】
(参考例E)
電解液として比較例9−4の電解液を用いた以外は、参考例Aと同様の方法で、参考例Eのハーフセルを製造した。
【0221】
(参考評価例A:レート容量試験)
参考例A〜Eのハーフセルのレート容量を以下の方法で試験した。
各ハーフセルに対し、2.0Vから0.01Vまでの放電及び0.01Vから2.0Vまでの充電を、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、5C、10C及び0.1Cレートの順序で、各レートにつき3回ずつ行う充放電サイクル試験を行った。初めの0.1Cレートでの2回目の放電容量に対する、5Cレート及び10Cレートでの2回目の放電容量の比率を算出した結果を表8に示す。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。1Cとは一定電流において1時間で電池を完全充電又は放電させるために要する電流値を意味する。
【0222】
【表8】
【0223】
表8から、電解液のヘテロ元素含有有機溶媒において、特定有機溶媒の比率が低くなるに従い、換言すると高誘電率及び高双極子モーメントを示す他のヘテロ有機溶媒の比率が高くなるに従い、セルの高レートでの容量が低下することがわかる。この事実は、電解液のヘテロ元素含有有機溶媒において、特定有機溶媒の比率が低くなるに従い、又は、他のヘテロ有機溶媒の比率が高くなるに従い、電極における反応抵抗が大きくなることを示唆している。
【0224】
(参考実施例I)
実施例1−1の電解液を用いた参考実施例Iのリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0225】
正極活物質であるLiNi5/10Co2/10Mn3/10で表される層状岩塩構造のリチウム含有金属酸化物90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。
【0226】
負極活物質である球状黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
【0227】
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
【0228】
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに実施例1−1の電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を参考実施例Iのリチウムイオン二次電池とした。
【0229】
(参考実施例II)
電解液として実施例1−3の電解液を用いた以外は、参考実施例Iと同様の方法で、参考実施例IIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0230】
(参考比較例I)
電解液として比較例3−2の電解液を用いた以外は、参考実施例Iと同様の方法で、参考比較例Iのリチウムイオン二次電池を得た。
【0231】
(参考比較例II)
電解液として比較例4−2の電解液を用いた以外は、参考実施例Iと同様の方法で、参考比較例IIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0232】
(参考比較例III)
電解液として比較例8の電解液を用いた以外は、参考実施例Iと同様の方法で、参考比較例IIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0233】
(参考評価例I:電池の内部抵抗)
参考実施例I〜II、参考比較例I〜IIIのリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、電池の内部抵抗を評価した。
各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電、つまり定電流充放電を繰り返した。そして、初回充放電後の交流インピーダンス、及び、100サイクル経過後の交流インピーダンスを測定した。得られた複素インピーダンス平面プロットを基に、電解液、負極及び正極の反応抵抗を各々解析した。図6に示すように、複素インピーダンス平面プロットには、二つの円弧がみられた。図6中左側、つまり複素インピーダンスの実部が小さい側の円弧を第1円弧と呼ぶ。図6中右側の円弧を第2円弧と呼ぶ。第1円弧の大きさを基に負極の反応抵抗を解析し、第2円弧の大きさを基に正極の反応抵抗を解析した。第1円弧に連続する図6中最左側のプロットを基に電解液の抵抗を解析した。解析結果を表9及び表10に示す。なお、表9は、初回充放電後の電解液の抵抗(所謂溶液抵抗)、負極の反応抵抗、正極の反応抵抗を示し、表10は100サイクル経過後の各抵抗を示す。
【0234】
【表9】
【0235】
表9の参考実施例I、参考実施例II、参考比較例Iの結果から、特定有機溶媒と金属塩のモル比が大きくなるほど、溶液抵抗が低下することがわかる。表4及び図1のイオン伝導度の結果と併せて考察すると、特定有機溶媒と金属塩のモル比3〜5の範囲内の本発明の電解液が、イオン伝導度及び反応抵抗の両者を好適に満たす電解液であることがわかる。また、参考比較例IIIのリチウムイオン二次電池は、正極反応抵抗が著しく高かった。
【0236】
【表10】
【0237】
表9及び表10から、特定有機溶媒がDMCであり金属塩がLiFSAの電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、充放電サイクル後の溶液抵抗、負極反応抵抗及び正極反応抵抗がいずれも、初期と比べて同等又は低下することがわかる。他方、特定有機溶媒がANであり金属塩がLiFSAの電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、充放電サイクル後の正極反応抵抗が、初期と比べて増加することがわかる。
【0238】
(参考評価例II:容量維持率)
参考実施例I〜II、参考比較例I〜IIIのリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、容量維持率を評価した。
各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電を繰り返した。初回充放電時の放電容量、及び、300サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回充放電時の各リチウムイオン二次電池の容量を100%として、300サイクル時の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を算出した。結果を表11に示す。
【0239】
【表11】
【0240】
参考実施例I〜IIのリチウムイオン二次電池は、参考比較例I〜IIIのリチウムイオン二次電池と比較して、同等以上の容量維持率を示した。本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、充放電サイクルに対し、優れた耐久性を示すことが裏付けられた。
【0241】
(参考評価例III:電極のS及びO含有皮膜の分析)
参考評価例II前及び参考評価例IIを経た参考実施例IIのリチウムイオン二次電池をそれぞれ解体して正極を取出し、当該正極をジメチルカーボネートで3回洗浄後、乾燥して、分析対象の正極とした。なお、リチウムイオン二次電池の解体から分析対象としての正極を分析装置に搬送するまでの全ての工程を、Arガス雰囲気下で行った。X線光電子分光法を用いて、以下の条件で、分析対象の正極を分析した。硫黄元素についての分析チャートを図7に、酸素元素についての分析チャートを図8に、それぞれ示す。各図において、点線が参考評価例II前の参考実施例IIのリチウムイオン二次電池の正極のピークであり、実線が参考評価例IIを経た参考実施例IIのリチウムイオン二次電池の正極のピークである。
【0242】
装置:アルバックファイ社 PHI5000 VersaProbeII
X線源:単色AlKα線、電圧15kV、電流10mA
【0243】
図7及び図8から、参考評価例IIを経た参考実施例IIのリチウムイオン二次電池の正極には、新たにS及びO含有皮膜が形成されたことがわかる。図7に観察される、170eV付近のピークはS=O結合に由来するピークと考えられる。そのため、上記正極のS及びO含有皮膜には、S=O結合が存在するといえる。そして、参考実施例IIのリチウムイオン二次電池は、S及びS=O結合を有する金属塩を具備し、これ以外にS又はS=O結合を有するものを具備しないことから、上記正極のS及びO含有皮膜のS又はS=O結合は、当該金属塩に由来するものといえる。
【0244】
(参考評価例IV:Ni、Mn、Coの溶出確認)
参考実施例II及び参考比較例IIのリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、負極におけるNi、Mn、Coの沈着量を分析した。
各リチウムイオン二次電池につき、60℃、3.0V〜4.1Vの範囲で1Cレートにて定電流充放電を200回繰り返した。その後、各リチウムイオン二次電池を解体し、負極を取り出した。負極の表面へ沈着したNi、Mn、Coの量を高周波誘導結合プラズマ発光分光法にて分析した。測定結果を表12に示す。表のNi、Mn、Co量(%)は、負極活物質層のNi、Mn、Coの質量の割合である。
【0245】
【表12】
【0246】
参考実施例IIのリチウムイオン二次電池の負極において、Ni、Mn、Co量は、それぞれの元素の検出限界未満であった。他方、参考比較例IIのリチウムイオン二次電池の負極においては、Ni、Mn、Coが、いずれも検出された。ここで、負極から検出されたNi、Mn、Coは、正極から電解液に溶出し、負極に沈着したものと推測される。すなわち、本発明の電解液を具備する参考実施例IIのリチウムイオン二次電池においては、正極の遷移金属が本発明の電解液に極めて溶出しがたいといえる。換言すると、本発明の電解液は、正極からの遷移金属の溶出を好適に抑制するといえる。
【0247】
(参考実施例III)
実施例1−2の電解液を具備する参考実施例IIIのリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0248】
正極活物質であるLiNi5/10Co2/10Mn3/10を90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極用集電体として厚み20μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。なお、正極活物質層は正極集電体上に塗工面単位面積あたり5.5mg/cmで形成されており、また、正極活物質層の密度は2.4g/cmであった。
【0249】
負極活物質として球状黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極用集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。なお、負極活物質層は負極集電体上に塗工面単位面積あたり3.8mg/cmで形成されており、また、負極活物質層の密度は1.1g/cmであった。
【0250】
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに実施例1−2の電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を参考実施例IIIのリチウムイオン二次電池とした。
【0251】
(参考実施例IV)
電解液として実施例1−3の電解液を用いたこと以外は、参考実施例IIIと同様にして参考実施例IVのリチウムイオン二次電池を得た。
【0252】
(参考比較例IV)
電解液として比較例3−2の電解液を用いたこと以外は、参考実施例IIIと同様にして参考比較例IVのリチウムイオン二次電池を得た。
【0253】
(参考比較例V)
電解液として比較例4−2の電解液を用いたこと以外は、参考実施例IIIと同様にして参考比較例Vのリチウムイオン二次電池を得た。
【0254】
(参考比較例VI)
電解液として比較例8の電解液を用いたこと以外は、参考実施例IIIと同様にして参考比較例VIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0255】
(参考評価例V:容量維持率<2>と直流抵抗)
参考実施例III、参考実施例IV、参考比較例IV〜参考比較例VIのリチウムイオン二次電池につき、以下の試験を行い、容量維持率と直流抵抗を評価した。
【0256】
各リチウムイオン二次電池につき、温度25℃、1Cレートでの定電流で4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1Cレートでの定電流で3.0Vまで放電し、1分間休止するとの充放電サイクルを300サイクル繰り返した。容量維持率を以下の式で算出した。
容量維持率(%)=100×(300サイクルでの放電容量)/(初回の放電容量)
【0257】
また、300サイクル後の各リチウムイオン二次電池につき、温度25℃、0.5Cレートの定電流にて電圧3.5Vに調整した後、3Cレートで10秒の定電流放電をした際の前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により放電時の直流抵抗を算出した。
【0258】
さらに、300サイクル後の各リチウムイオン二次電池につき、温度25℃、0.5Cレートの定電流にて電圧3.5Vに調整した後、3Cレートで10秒の定電流充電をした際の前後の電圧変化量及び電流値からオームの法則により充電時の直流抵抗を算出した。
【0259】
以上の試験結果を表13に示す。
【0260】
【表13】
【0261】
表13の結果から、本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、充放電サイクル後でも好適に容量を維持し、充放電時の直流抵抗が小さいことがわかる。他方、参考比較例IV及び参考比較例VIのリチウムイオン二次電池は充放電時の直流抵抗が大きいこと、参考比較例Vのリチウムイオン二次電池は容量の維持率に劣ることがわかる。
【0262】
(参考実施例V)
電解液として実施例1−1の電解液を用いたこと及び正極活物質層の密度が2.3g/cmであったこと以外は、参考実施例IIIと同様にして参考実施例Vのリチウムイオン二次電池を得た。
【0263】
(参考実施例VI)
電解液として実施例2−1の電解液を用いたこと以外は、参考実施例Vと同様にして参考実施例VIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0264】
(参考実施例VII)
電解液として実施例2−2の電解液を用いたこと以外は、参考実施例Vと同様にして参考実施例VIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0265】
(参考比較例VII)
電解液として比較例8の電解液を用いたこと以外は、参考実施例Vと同様にして参考比較例VIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0266】
(参考評価例VI:容量維持率<3>と直流抵抗<2>)
参考実施例V、参考実施例VI、参考実施例VII、参考比較例VIIのリチウムイオン二次電池につき、参考評価例Vと同様の方法で試験を行い、容量維持率と直流抵抗を評価した。結果を表14に示す。
【0267】
【表14】
【0268】
表14の結果からも、本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、充放電サイクル後でも好適に容量を維持し、充放電時の直流抵抗が小さいことがわかる。他方、参考比較例VIIのリチウムイオン二次電池は充放電時の直流抵抗が大きいことがわかる。
【0269】
(製造例1)
製造例1のリチウム金属複合酸化物を以下のように製造した。
【0270】
a)工程
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解させて、Ni:Co:Mnのモル比が5:3:2であり、かつNi、Co及びMnの合計濃度が0.9mol/Lである遷移金属イオン水溶液を調製した。
【0271】
b)工程
攪拌装置及び窒素導入管を備えた反応槽に水を入れ、攪拌しながら50℃に加熱した。該反応槽を窒素置換した後、窒素気流下、反応槽内の空間を酸素濃度0.1%以下に維持しつつ、16質量%水酸化ナトリウム水溶液と28質量%アンモニア水とをそれぞれ適量加えて、液温25℃でのpHが11.6であり、液相のアンモニア濃度が9g/Lである塩基性水溶液を調製した。
【0272】
c)工程
b)工程と同じ酸素雰囲気下であって撹拌条件下の上記反応槽中の塩基性水溶液に、遷移金属イオン水溶液、16質量%水酸化ナトリウム水溶液及び3質量%アンモニア水を一定速度でそれぞれ別の流入ルートから供給することにより、反応液をpH11.6かつアンモニア濃度を9g/Lに維持しつつ、遷移金属水酸化物粒子を形成させ、反応液から該粒子を晶析させた。
【0273】
d)工程
上記反応槽の反応液を濃縮し、上記の遷移金属イオン水溶液、16質量%水酸化ナトリウム水溶液及び3質量%アンモニア水の供給速度を調節して、反応液をpH11.4かつアンモニア濃度を9g/Lに制御しつつ、撹拌条件下で上記遷移金属水酸化物粒子を成長させた。
ここまでのd)工程を2回行った後、濾過、水洗し、遷移金属水酸化物粒子を単離した。該遷移金属水酸化物粒子に対し、大気雰囲気下、300℃、20時間加熱処理した。
【0274】
e)工程
加熱処理後の遷移金属水酸化物粒子とLiCOを、(Ni+Co+Mn):Liのモル比が1:1.10となるように混合し、混合物とした。この混合物に対し、600℃で16時間保持する第一焼成を行い、次いで、840℃で5時間保持する第二焼成を行って焼成物を得た。焼成物を冷却後に解砕し、篩分けにて分級して、Li1.10Ni0.5Co0.3Mn0.2で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。
【0275】
(製造例2)
a)工程のNi:Co:Mnのモル比を50:35:15にし、e)工程の第二焼成の温度を820℃にした以外は、製造例1と同様の方法で、Li1.10Ni0.5Co0.35Mn0.15で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。これを製造例2のリチウム金属複合酸化物とした。
【0276】
(製造例3)
a)工程のNi:Co:Mnのモル比を40:45:15にし、e)工程の第二焼成の温度を830℃にした以外は、製造例1と同様の方法で、Li1.10Ni0.4Co0.45Mn0.15で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。これを製造例3のリチウム金属複合酸化物とした。
【0277】
(製造例4)
a)工程のNi:Co:Mnのモル比を20:65:15にし、e)工程の第二焼成の温度を870℃にした以外は、製造例1と同様の方法で、Li1.10Ni0.2Co0.65Mn0.15で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。これを製造例4のリチウム金属複合酸化物とした。
【0278】
(製造例5)
b)工程の酸素濃度を0.5%に維持したこと、d)工程の加熱温度を120℃としたこと、及び、e)工程を以下のとおりとした以外は、製造例1と同様の方法で、Li1.10Ni0.48Co0.29Mn0.19Mg0.04で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。これを製造例5のリチウム金属複合酸化物とした。
e)工程
加熱処理後の遷移金属水酸化物粒子とLiCOを、(Ni+Co+Mn):Liのモル比が1:1.10となるように混合し、混合物とした。この混合物に対し、700℃で5時間保持する第一焼成を行い、次いで、第一焼成後の粉末に対し0.5重量%の酸化マグネシウムを加えて混合し、混合物とした。この混合物に対して840℃で5時間保持する第二焼成を行って焼成物を得た。焼成物を冷却後に解砕し、篩分けにて分級して、Li1.10Ni0.48Co0.29Mn0.19Mg0.04で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。
【0279】
(製造例6)
e)工程で酸化マグネシウムを加えなかったこと以外は、製造例5と同様の方法で、Li1.10Ni0.5Co0.3Mn0.2で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。これを製造例6のリチウム金属複合酸化物とした。
【0280】
(比較製造例1)
a)工程のNi:Co:Mnのモル比を5:2:3にし、e)工程の第二焼成の温度を850℃にした以外は、製造例1と同様の方法で、Li1.10Ni0.5Co0.2Mn0.3で表されるリチウム金属複合酸化物を得た。これを比較製造例1のリチウム金属複合酸化物とした。
【0281】
(製造評価例1)
製造例1、製造例5、製造例6、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物につき、CuKα線での粉末X線回折測定装置を用いて、X線回折パターンを測定した。製造例1、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物のX線回折チャートを図9及び図10に示す。(003)面に由来するピークは18〜19°に観察され、(104)面に由来するピークは44〜45°に観察された。((003)面に由来するピークの積分強度I(003))/((104)面に由来するピークの積分強度I(104))の値は、製造例1のリチウム金属複合酸化物では1.27、製造例5のリチウム金属複合酸化物では1.31、製造例6のリチウム金属複合酸化物では1.22であり、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物では1.08であった。
この結果から、各リチウム金属複合酸化物の層状岩塩構造におけるリチウムサイトへのニッケル等の遷移金属の混入の度合いが少ない順は、製造例5、製造例1、製造例6、比較製造例1であるといえる。そして、大きな電流での充放電特性が優れている順序も、上記順序と考えられる。
【0282】
(製造評価例2)
製造例1、製造例5、製造例6、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物につき、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装株式会社)を用い、循環溶剤としてN−メチルピロリドンを用いて、平均粒子径(D50)、100×(粒子径の標準偏差)/(平均粒子径)の値(以下、「粒子径のCV%」ということがある。)を算出した。結果を表15に示す。
【0283】
【表15】
【0284】
(製造評価例3)
製造例1、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物につき、イオンスライサー(EM−09100IS、日本電子株式会社製)を用いたArイオンミリング法にて断面を形成させ、該断面をSEMとEBSDで観察した。得られた各SEM画像から、いずれのリチウム金属複合酸化物も複数の一次粒子が結合した二次粒子であることが確認できた。また、製造例1、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物は表層部及び内部がともに密であり、中空状とはいえないものであった。
各EBSD画像から一次粒子の長径長さの平均値、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)の値(なお、以下の表では「アスペクト比」と称した。)を算出した。結果を表16に示す。
【0285】
【表16】
【0286】
(実施例I)
実施例2−1の電解液、及び、製造例1のリチウム金属複合酸化物を用いた実施例Iのリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0287】
正極活物質として製造例1のリチウム金属複合酸化物90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み20μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。なお、正極活物質層は正極集電体の塗工面において5.5mg/cmで形成されており、また、正極活物質層の密度は2.5g/cmであった。
【0288】
負極活物質として球状黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。なお、負極活物質層は負極集電体の塗工面において3.8mg/cmで形成されており、また、負極活物質層の密度は1.1g/cmであった。
【0289】
セパレータとして、厚さ20μmのポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
【0290】
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに実施例2−1の電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例Iのリチウムイオン二次電池とした。
【0291】
(実施例II)
正極活物質として製造例2のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、実施例IIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0292】
(実施例III)
正極活物質として製造例3のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、実施例IIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0293】
(実施例IV)
正極活物質として製造例4のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、実施例IVのリチウムイオン二次電池を得た。
【0294】
(実施例V)
正極活物質として製造例5のリチウム金属複合酸化物を用い、電解液として実施例11−2の電解液を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、実施例Vのリチウムイオン二次電池を得た。
【0295】
(実施例VI)
正極活物質として製造例6のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Vと同様の方法で、実施例VIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0296】
(比較例I)
正極活物質として比較製造例1のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、比較例Iのリチウムイオン二次電池を得た。
【0297】
(比較例II)
電解液として比較例10の電解液を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、比較例IIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0298】
(比較例III)
正極活物質として比較製造例1のリチウム金属複合酸化物を用い、電解液として比較例10の電解液を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、比較例IIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0299】
実施例I〜IV及び比較例I〜IIIのリチウムイオン二次電池の一覧を表17に示す。
【0300】
【表17】
【0301】
(評価例I:直流抵抗と容量維持率)
実施例I、比較例I〜比較例IIIのリチウムイオン二次電池につき、以下の試験を行い、直流抵抗と容量維持率を評価した。
【0302】
各リチウムイオン二次電池につき、温度25℃、0.5Cレートの定電流にてSOC15%相当の電圧(実施例I、比較例IIは3.44V、比較例I、IIIは3.49V)に調整した後、15Cレートで2秒間、定電流放電をさせた。放電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により放電時の各リチウムイオン二次電池の直流抵抗を算出した。結果を表18に示す。
【0303】
また、各リチウムイオン二次電池につき、温度60℃、1Cレートでの定電流で4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1Cレートでの定電流で3.0Vまで放電し、1分間休止するとの充放電サイクルを200サイクル繰り返した。容量維持率を以下の式で算出した。結果を表18に示す。
容量維持率(%)=100×(200サイクルの放電容量)/(初回の放電容量)
【0304】
【表18】
【0305】
表18の結果から、実施例2−1の電解液と製造例1のリチウム金属複合酸化物を具備した実施例Iのリチウムイオン二次電池は、抵抗が低く、かつ、サイクル後の容量維持率が高いことがわかる。
【0306】
製造評価例1で述べたように、製造例1のリチウム金属複合酸化物では本発明のパラメータの値が1.27であり、比較製造例1のリチウム金属複合酸化物では1.08であった。製造例1のリチウム金属複合酸化物の方が本発明のパラメータの値が大きいため、層状岩塩構造のリチウムサイトへのニッケル等の遷移金属の混入の度合いが低く、その結果、製造例1のリチウム金属複合酸化物を具備するリチウムイオン二次電池の直流抵抗が低く抑制されたといえる。
【0307】
また、参考評価例IIIで示された電極に対するS及びO含有皮膜の形成や、参考評価例IVで示された遷移金属の溶出抑制などの本発明の電解液の奏する効果により、本発明の電解液である実施例2−1の電解液を具備するリチウムイオン二次電池の容量維持率が優れていたといえる。
【0308】
表18の直流抵抗に関する結果を詳細に検討する。比較例Iと比較例IIIのリチウムイオン二次電池の結果から、電解液が比較例10から実施例2−1に変わることで、直流抵抗は8.2Ωから3.4Ωに変化したことがわかる。3.4/8.2の値は0.41であるので、電解液が比較例10から実施例2−1に変わることで、直流抵抗は0.41倍に減少することが期待される。しかし、実施例Iと比較例IIのリチウムイオン二次電池の結果から、電解液が比較例10から実施例2−1に変わることで、直流抵抗は4.4Ωから1.6Ωに変化した。ここで、1.6/4.4の値は0.36であった。すなわち、実施例Iのリチウムイオン二次電池においては、直流抵抗の値が、電解液が比較例10から実施例2−1に変わることで期待される以上に減少したといえる。
【0309】
また、比較例IIと比較例IIIのリチウムイオン二次電池の結果から、正極活物質が比較製造例1から製造例1に変わることで、直流抵抗は8.2Ωから4.4Ωに変化したことがわかる。4.4/8.2の値は0.54であるので、正極活物質が比較製造例1から製造例1に変わることで、直流抵抗は0.54倍に減少することが期待される。しかし、実施例Iと比較例Iのリチウムイオン二次電池の結果から、正極活物質が比較製造例1から製造例1に変わることで、直流抵抗は3.4Ωから1.6Ωに変化した。ここで、1.6/3.4の値は0.47であった。すなわち、実施例Iのリチウムイオン二次電池においては、直流抵抗の値が、正極活物質が比較製造例1から製造例1に変わることで期待される以上に減少したといえる。
【0310】
以上の考察から、実施例Iのリチウムイオン二次電池においては、電解液及び正極活物質の組み合わせに因る、予測を超えた直流抵抗低減効果があったといえる。本発明のリチウムイオン二次電池は、特定の電解液と特定のリチウム金属複合酸化物との組み合わせに因る相乗効果を奏することが裏付けられた。
【0311】
(評価例II:低温直流抵抗)
実施例V、実施例VIのリチウムイオン二次電池につき、以下の試験を行い、低温直流抵抗を評価した。
【0312】
各リチウムイオン二次電池につき、温度−10℃、0.5Cレートの定電流にてSOC15%相当の電圧である3.45Vに調整した後、3Cレートで2秒間、定電流放電をさせた。放電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により放電時の各リチウムイオン二次電池の直流抵抗を算出した。結果を表19に示す。
【0313】
【表19】
【0314】
表19の結果から、Mgをドープしたリチウム金属複合酸化物を具備した実施例Vのリチウムイオン二次電池は、Mgをドープしないリチウム金属複合酸化物を具備した実施例VIのリチウムイオン二次電池と比較して、抵抗が低いことがわかる。
【0315】
(実施例VII)
正極活物質として製造例1のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Vと同様の方法で、実施例VIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0316】
(実施例VIII)
正極活物質として製造例2のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Vと同様の方法で、実施例VIIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0317】
(実施例IX)
正極活物質として製造例3のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Vと同様の方法で、実施例IXのリチウムイオン二次電池を得た。
【0318】
(比較例IV)
正極活物質として比較製造例1のリチウム金属複合酸化物を用いた以外は、実施例Vと同様の方法で、比較例IVのリチウムイオン二次電池を得た。
【0319】
(評価例III)
実施例VII〜IX、比較例IVのリチウムイオン二次電池につき、以下の試験を行い、直流抵抗と容量維持率を評価した。各リチウムイオン二次電池につき、温度−10℃、0.5Cレートの定電流にて3.65Vに調整した後、3Cレートで10秒の定電流充電をした。充電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により、充電時の直流抵抗を算出した。同様に、各リチウムイオン二次電池につき、温度−10℃、0.5Cレートの定電流にて3.65Vに調整した後、3Cレートで2秒の定電流放電をした。放電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により、放電時の直流抵抗を算出した。
【0320】
また、各リチウムイオン二次電池につき、温度25℃、1Cレートでの定電流で4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1Cレートでの定電流で3.0Vまで放電し、1分間休止するとの充放電サイクルを200サイクル繰り返した。容量維持率を以下の式で算出した。実施例VII〜IX、比較例IVのリチウムイオン二次電池に用いた電解液とリチウム金属複合酸化物の一覧を表20−1に示し、以上の評価結果を、表20−2に示す。
容量維持率(%)=100×(200サイクルでの放電容量)/(初回の放電容量)
【0321】
【表20-1】
【0322】
【表20-2】
【0323】
本発明の電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、容量を好適に維持できるといえる。また、本発明の電解液を本発明で規定するリチウム金属複合酸化物と組み合わせた本発明のリチウムイオン二次電池は、充放電時の直流抵抗が低いことが確認された。
図1
図2
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図10