特許第6620711号(P6620711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6620711
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】熱転写用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20191209BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20191209BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20191209BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20191209BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20191209BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20191209BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20191209BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   B32B27/00 L
   B32B27/18 J
   B32B9/00 A
   H01M8/0221
   H01M8/0228
   B05D3/12 Z
   B05D1/36 Z
   B05D7/24 303B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-193336(P2016-193336)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-52048(P2018-52048A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年11月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】両角 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】羽柴 美智
【審査官】 鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−171041(JP,A)
【文献】 特開2014−067612(JP,A)
【文献】 特開2009−054421(JP,A)
【文献】 特開2012−236753(JP,A)
【文献】 特開2001−332129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B05D 1/36
B05D 3/12
B05D 7/24
B32B 9/00
B32B 27/18
H01M 8/0221
H01M 8/0228
WPI
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のセパレータの表面に密着させた状態で加圧及び加熱されることで前記セパレータの表面に導電性の複数の層を一度に熱転写する熱転写用シートを製造する方法であって、
炭素系材料からなる第1粒子を含む第1塗料を調合するとともに、同第1塗料に含まれる前記第1粒子を粉砕する調合粉砕工程と、
ースフィルムの一方の面に前記第1塗料を塗工して第1層を形成する第1塗工工程と、
前記第1層上に導電性粒子と樹脂材料からなるとともに前記セパレータの表面に結合される結合材とを含む第2塗料を塗工して第2層を形成する第2塗工工程と、を備える熱転写用シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱転写用シートの製造方法において、
前記調合粉砕工程では、前記第1粒子のメジアン径が3μm以上、6μm以下の範囲内になるように、同第1粒子を粉砕する
ことを特徴とする熱転写用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースフィルムの一方の面に複数の層が形成された熱転写用シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池を構成するセパレータを、金属板材を成形して製造する技術が周知である(例えば特許文献1参照)。金属板材からなるセパレータの基材の表面には酸化被膜(不動態被膜)が存在している。こうした酸化被膜は金属板材の母材に比べて接触抵抗が大きいことから、基材の表面と電極との接触部分で多量のジュール熱が発生し、大きな熱損失が発生して燃料電池の発電効率を低下させる一因となる。
【0003】
これに対して、特許文献1に記載の技術では、金属材料からなる基材の表面に対して、樹脂材料からなる結合材と、基材の被膜よりも硬度が高く、且つ導電性を有する充填材とを含む第1塗料が塗工される(第1工程)。続いて、基材に塗工された第1塗料の上に、樹脂材料からなる結合材とグラファイト粒子とを含む第2塗料が塗工される(第2工程)。最後に、第1塗料の結合材および前記第2塗料の結合材を硬化させるとともに充填材が基材の酸化被膜を貫通して母材の表面に接触するように、第1塗料および第2塗料が塗工された基材が加圧される(第3工程)。こうして製造されたセパレータにおいては、基材の表面に酸化被膜が存在していても、基材の母材、充填材、およびグラファイト粒子によって、接触抵抗の大きい酸化被膜を経由しない導電経路が形成されるため、セパレータと電極との接触抵抗を低減することができる。
【0004】
また、特許文献2には、転写用シートを用いてセパレータの基材の表面に金を転写する技術が開示されている。この転写用シートはポリエステル製のベースフィルムを有しており、その一方の面に金が真空蒸着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−22885号公報
【特許文献2】特開2002−237311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の技術の場合、基材に対して第1塗料および第2塗料を各別に塗工しなければならず、製造工程が煩雑になる。
一方、特許文献2に記載の技術のように、熱転写用シートを用いて基材の表面に2つの層を一度に転写(熱転写)することが考えられる。図7および図8に示すように、そうした熱転写用シート60の製造に際しては、ベースフィルム70の一方の面に第1塗料80Aを塗工して第1層80を形成する。続いて、第1層80上に第2塗料90Aを塗工して第2層90を形成する。しかしながらこの場合、図7中に矢印で示すように、塗工された第2塗料90Aの充填材91や結合材92が、第1層80のグラファイト粒子81同士の間や結合材82同士の間、あるいはグラファイト粒子81と結合材82との間に形成された空隙(図示略)に吸収されやすい。そのため、図8に示すように、第2塗料90Aが上記空隙に吸収された部分ほど第1層80および第2層90全体の厚さが薄くなり、同厚さを均一にすることが難しい。これに対して、第2塗料90Aの塗工量を増やすことにより厚さを均一にすることが考えられる。しかしながら、この場合には、第2塗料90Aの使用量が増大してコストが増大する。また、第1層80および第2層90全体の厚さが大きくなることによってセパレータの板厚が増大する。
【0007】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗料の使用量の増大を抑制しつつ、層の厚さが位置によってばらつくことを抑制することのできる熱転写用シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための熱転写用シートの製造方法は、ベースフィルムの一方の面に複数の層が形成された熱転写用シートを製造する方法であって、炭素系材料からなる第1粒子を含む第1塗料を調合するとともに、同第1塗料に含まれる前記第1粒子を粉砕する調合粉砕工程と、前記ベースフィルムの一方の面に前記第1塗料を塗工して第1層を形成する第1塗工工程と、前記第1層上に導電性粒子と樹脂材料からなる結合材とを含む第2塗料を塗工して第2層を形成する第2塗工工程と、を備える。
【0009】
上記製造方法によれば、第1塗料の塗工に先立ち、第1塗料に含まれる第1粒子を粉砕して微粒子化することができる。そのため、第1塗料からなる第1層を緻密な構造にすることができ、第1層における空隙の割合が低減される。これにより、その後の第2塗料の塗工に際して、第2塗料中の導電性粒子や結合材が第1層の空隙に吸収されることを抑えることができ、第1層の各部における導電性粒子や結合材の吸収量にばらつきが生じることを抑えることもできる。したがって、塗料の使用量の増大を抑制しつつ、層の厚さが位置によってばらつくことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる熱転写用シートの製造方法によれば、塗料の使用量の増大を抑制しつつ、層の厚さが位置によってばらつくことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態の製造方法が適用される熱転写用シートの断面図。
図2】同製造方法の各工程を示すフローチャート。
図3】調合粉砕工程におけるグラファイト粒子の粉砕手法を示す略図。
図4】粉砕装置の通過前後におけるグラファイト粒子の粒径分布を示すグラフ。
図5】第1塗工工程を示す断面図。
図6】第2塗工工程を示す断面図。
図7】従来の製造方法が適用される熱転写用シートの製造過程における断面図。
図8】従来の製造方法が適用される熱転写用シートの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1図6を参照して、熱転写用シートの製造方法の一実施形態について説明する。
図1に示すように、熱転写用シート10は、ポリエチレンテレフタレート製のベースフィルム20を有している。ベースフィルム20の一方の面には第1層30が形成されており、この第1層30上には第2層40が形成されている。
【0013】
第1層30は、グラファイト粒子31を含んでいる。本実施形態では、このグラファイト粒子31が、炭素系材料からなる第1粒子に相当する。
また、第2層40は、導電性粒子41と結合材43とを含んでいる。本実施形態では、導電性粒子41は窒化チタンであり、結合材43はエポキシ樹脂である。
【0014】
次に、熱転写用シート10の製造方法について説明する。
先ず、図2のステップS1に示す調合粉砕工程において、グラファイト粒子31と溶剤32(本実施形態では、N−メチル−2−ピロリドン)とを含む第1塗料30Aが調合される。そして、図3に示すように、調合された第1塗料30Aを粉砕装置50に通過させることにより、第1塗料30Aに含まれるグラファイト粒子31を粉砕する処理が実行される。なお本実施形態では、粉砕装置50として、いわゆる湿式ジェットミルが採用されている。
【0015】
図4に、粉砕装置50の通過前後におけるグラファイト粒子31の粒径分布を測定した結果を示す。図4に示すように、粉砕装置50を通過する前のグラファイト粒子31のメジアン径が比較的大きい(詳しくは「10μm」程度)のに対して、粉砕装置50を通過した後のグラファイト粒子31のメジアン径は小さく(具体的には「5μm」程度)になる。また図4から明らかなように、粉砕装置50を通過する前のグラファイト粒子31の粒径のばらつきと比較して、粉砕装置50を通過した後のグラファイト粒子31の粒径のばらつきが小さくなる。本実施形態では、こうしたグラファイト粒子31の微粒子化と粒径ばらつきの縮小とが共に実現されるように、粉砕装置50の仕様が定められている。
【0016】
その後、図2のステップS2に示す第1塗工工程において、ベースフィルム20(図1)の一方の面に第1層30が形成される。詳しくは、図5に示すように、ベースフィルム20が搬送装置(図示略)によって搬送されるとともに、搬送されるベースフィルム20の一方の面に対して、塗工機(図示略)の塗工ヘッド51から第1塗料30Aが供給されて第1塗料30Aが塗工される。
【0017】
続いて、図2のステップS3に示す第2塗工工程において、第1層30上に第2層40が形成される。詳しくは、図6に示すように、第1層30(または第1塗料30Aの層)を有するベースフィルム20が搬送装置(図示略)によって搬送されるとともに、この第1層30の表面に対して塗工ヘッド52から第2塗料40Aが供給されて第2塗料40Aが塗工される。この第2塗料40Aには、上述した導電性粒子41および結合材43の他に溶剤44が含まれている。なお、この溶剤44はメチルエチルケトンである。
【0018】
本実施形態では、こうした調合粉砕工程、第1塗工工程、および第2塗工工程を通じて、熱転写用シート10(図1)が製造される。
ちなみに、本実施形態の熱転写用シート10を用いた燃料電池のセパレータへの樹脂層の形成は、以下のようにして行われる。熱転写装置により、熱転写用シート10の第2層40の表面と燃料電池のセパレータの表面とを密着させた状態で、同熱転写用シート10が加圧および加熱される。このとき、第2層40の導電性粒子41がセパレータ表面の酸化被膜を貫通してセパレータの母材の表面に接触するとともに、結合材43が硬化する。これにより、導電性粒子41を含むエポキシ樹脂からなる第1樹脂層がセパレータの表面に形成される。また、このとき、結合材43の一部がグラファイト粒子31の間に流れ出て硬化する。これにより、グラファイト粒子31を含むエポキシ樹脂からなる第2樹脂層が上記第1樹脂層上に形成される。
【0019】
以下、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態では、第1塗工工程における第1塗料30Aの塗工に先立ち、調合粉砕工程において、第1塗料30Aに含まれるグラファイト粒子31を粉砕して微粒子化することができる。
【0020】
そのため、グラファイト粒子を粉砕する処理を実行しない手法で製造された熱転写用シート(図7参照)と比較して、熱転写用シート10(図1)の第1層30(あるいは第1塗料30Aの層)を緻密な構造にすることができ、同第1層30における空隙の割合が低減されるようになる。なお、この空隙は、グラファイト粒子31同士の間や、溶剤32同士の間、あるいはグラファイト粒子31と溶剤32との間に形成される空隙である。したがって、その後の第2塗工工程における第2塗料40Aの塗工に際して、第2塗料40A中の導電性粒子41や結合材43が第1層30の空隙に吸収されることを抑えることができ、さらには第1層30の各部における導電性粒子41や結合材43の吸収量にばらつきが生じることを抑えることもできる。これにより、第2塗料40Aの塗工量を増やさなくても、熱転写用シート10の各部における第2層40の厚さのばらつきが抑えられるようになるため、第2層40の狙いの厚さを薄くすることができる。
【0021】
このように本実施形態の熱転写用シート10の製造方法によれば、第2塗料40Aの使用量の増大を抑制しつつ、第1層30および第2層40からなる塗料層の厚さが位置によってばらつくことを抑制することができる。
【0022】
発明者等による各種の実験やシミュレーションの結果から、前記調合粉砕工程(図2のステップS1)において、グラファイト粒子31のメジアン径が3μm以上、6μm以下の範囲内になるように同グラファイト粒子31を粉砕することにより、塗料使用量の増大を抑えつつ、塗料層の厚さのばらつきを適度に抑えることが可能になることが分かった。なお、グラファイト粒子31の粒径(詳しくは、その粒径分布)の測定には、株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置“LA−950”を使用した。この点を踏まえて、本実施形態では、調合粉砕工程において、グラファイト粒子31のメジアン径が「5μm」になるように同グラファイト粒子31を粉砕するようにしている。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)第1塗料30Aの塗工に先立ち、同第1塗料30Aに含まれるグラファイト粒子31を粉砕する処理を実行するようにした。そのため、第2塗料40Aの使用量の増大を抑制しつつ、第1層30および第2層40からなる塗料層の厚さが位置によってばらつくことを抑制することができる。
【0024】
(2)調合粉砕工程において、グラファイト粒子31のメジアン径が「5μm」になるように同グラファイト粒子31を粉砕するようにした。そのため、塗料使用量の増大を抑えつつ、塗料層の厚さのばらつきを適度に抑えることができる。
【0025】
<変形例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・粉砕装置としては、例えば湿式ビーズミルなど、湿式ジェットミル以外の装置を採用することができる。
【0026】
・調合粉砕工程において、グラファイト粒子31のメジアン径が3μm未満の所定値になるように同グラファイト粒子31を粉砕する処理を実行したり、グラファイト粒子31のメジアン径が6μmよりも大きい所定値になるように同グラファイト粒子31を粉砕する処理を実行したりしてもよい。
【0027】
・ベースフィルム20は、ポリエチレンテレフタレート製のものに限定されず、他の材料(例えばポリエチレン)によって形成されたものに変更することができる。
・導電性粒子41は窒化チタンに限定されず、カーボンブラックや炭化チタン、硼化チタンなど他の導電性セラミックスに変更することができる。
【0028】
・第1塗料30Aに含まれるグラファイト粒子31を、炭素系材料からなる他の粒子(カーボンブラック粒子など)に変更することができる。
・第1塗料30Aとして、グラファイト粒子31および溶剤32に加えて結合材を含むものを用いてもよい。この結合材としてはエポキシ樹脂を採用することができる。また、第1塗料30Aの結合材および第2塗料40Aの結合材の双方をポリフッ化ビニリデン樹脂にすることもできる。その他、第1塗料30Aの結合材および第2塗料40Aの結合材の一方をエポキシ樹脂にするとともに、他方をポリフッ化ビニリデン樹脂にすることもできる。また、第1塗料30Aの結合材や第2塗料40Aの結合材は、上記以外の他の樹脂材料からなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
10…熱転写用シート、20…ベースフィルム、30…第1層、30A…第1塗料、31…グラファイト粒子、32…溶剤、40…第2層、40A…第2塗料、41…導電性粒子、43…結合材、44…溶剤、50…粉砕装置、51,52…塗工ヘッド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8