(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の太陽電池集電電極形成用導電性組成物(以下、単に「本発明の導電性組成物」ともいう。)ならびにこれを用いて形成した集電電極を有する太陽電池セルおよび太陽電池モジュールについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
〔導電性組成物〕
本発明の導電性組成物は、金属粉末(A)と、エポキシ樹脂(B)と、カチオン系硬化剤(C)と、ブロック化カルボン酸(D)とを含有し、上記ブロック化カルボン酸(D)が、カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される化合物(d1)とビニルエーテル化合物(d2)とを反応させて得られた化合物である、太陽電池集電電極形成用の導電性組成物である。
また、本発明の導電性組成物は、後述するように、必要に応じて、フェノキシ樹脂(E)、脂肪酸金属塩(F)、溶媒(G)などを含有していてもよい。
【0014】
本発明においては、上述した通り、カチオン系硬化剤(C)とともに所定のブロック化カルボン酸(D)を配合することにより、透明導電層に対する密着性が良好な電極を形成することができる導電性組成物となる。
これは、詳細には明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
まず、ブロック化カルボン酸(D)は、電極等を形成する際の加熱乾燥中に、ブロックが外れたカルボン酸を生成し、このカルボン酸のカルボキシ基とエポキシ樹脂(B)とが反応し、硬化反応が進行すると考えられる。
そして、このように生成したカルボン酸は、系内にカチオン性硬化剤(C)が別途存在していることにより、少なくとも一部がエポキシ樹脂(B)と反応せずに系内に残存すると考えられ、この残存しているカルボン酸の極性の高さにより、透明導電層との密着性が発現すると考えられる。
【0015】
以下に、本発明の導電性組成物が含有する金属粉末(A)、エポキシ樹脂(B)、カチオン系硬化剤(C)およびブロック化カルボン酸(D)ならびに所望により含有してもよい他の成分について詳述する。
【0016】
<金属粉末(A)>
本発明の導電性組成物が含有する金属粉末(A)は特に限定されず、例えば、電気抵抗率が20×10
-6Ω・cm以下の金属材料を用いることができる。
上記金属材料としては、具体的には、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、接触抵抗の低い集電電極を形成することができる理由から、銀粉末、銅粉末であるのが好ましく、銀粉末であるのがより好ましい。
なお、このような銀粉末は、銀以外の金属粉(例えば、ニッケル粉、銅粉など)の表面に銀がコートされた銀コート金属粉であってもよい。
【0017】
本発明においては、上記金属粉末(A)は、印刷性(特に、スクリーン印刷性)が良好となる理由から、球状の金属粉末(A1)を用いるのが好ましく、球状の金属粉末(A1)とともにフレーク(鱗片)状の金属粉末(A2)を併用するのがより好ましく、球状の金属粉末(A1)とフレーク状の金属粉末(A2)とを質量比(A1:A2)が70:30〜30:70となる割合で併用するのがより好ましい。
ここで、球状とは、長径/短径の比率が2以下の粒子の形状をいい、また、フレーク状とは、長径/短径の比率が2超の形状をいう。
【0018】
上記金属粉末(A)としての球状金属粉末(A1)の平均粒子径は、印刷性がより良好となる理由から、0.5〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5.0μmであるのがより好ましい。
ここで、球状金属粉末(A1)の平均粒子径とは、球状の金属粉末の粒子径の平均値をいい、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された50%体積累積径(D50)をいう。なお、平均値を算出する基になる粒子径は、金属粉末の断面が楕円形である場合はその長径と短径の合計値を2で割った平均値をいい、正円形である場合はその直径をいう。
【0019】
上記金属粉末(A)としてのフレーク状金属粉末(A2)の平均厚さは、印刷性がより良好となり、ペースト化しやすいという理由から、0.05〜2.0μmであるのが好ましく、0.05〜1.0μmであるのがより好ましい。
ここで、フレーク状金属粉末(A2)の平均厚さとは、フレーク状の金属粉末の比表面積をBET法(気体吸着法)により測定した値をS(m
2/g)として、下記式(i)から算出した値をいう。
平均厚さ=0.19/S ・・・(i)
【0020】
本発明においては、上記金属粉末(A)として市販品を用いることができる。
球状の銀粉末の市販品の具体例としては、AG2−1C(平均粒子径:1.0μm、DOWAエレクトロニクス社製)、AG4−8F(平均粒子径:2.2μm、DOWAエレクトロニクス社製)、AG3−11F(平均粒子径:1.4μm、DOWAエレクトロニクス社製)、AgC−102(平均粒子径:1.5μm、福田金属箔粉工業社製)、AgC−103(平均粒子径:1.5μm、福田金属箔粉工業社製)、EHD(平均粒子径:0.5μm、三井金属社製)等が挙げられる。
また、フレーク状の銀粉末の市販品の具体例としては、Ag−XF301K(平均厚さ:0.1μm、福田金属箔粉工業社製)等が挙げられる。
【0021】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明の導電性組成物で使用されるエポキシ樹脂(B)は、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物からなる樹脂であれば特に限定されず、一般的に、エポキシ当量が90〜2000g/eqのものである。
このようなエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。
具体的には、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物や、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物や、ナフタレン環を有するエポキシ化合物や、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;
フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;
ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;
N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン(TGDDS)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン(TGMXDA)、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン、テトラグリシジル1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(TG1,3−BAC)、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;
トリシクロ〔5,2,1,0
2,6〕デカン環を有するエポキシ化合物、具体的には、例えば、ジシクロペンタジエンとメタクレゾール等のクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる公知の製造方法によって得ることができるエポキシ化合物;
脂環型エポキシ樹脂;東レチオコール社製のフレップ10に代表されるエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂;ポリブタジエン、液状ポリアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、これらのうち、硬化性、耐熱性、耐久性およびコストの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であるのが好ましい。
【0023】
本発明においては、上記エポキシ樹脂(B)は、硬化収縮が少ないエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。基板であるシリコンウエハは破損しやすいため、硬化収縮が大きいエポキシ樹脂を用いると、ウエハの割れや欠けの原因になる。昨今では、低コスト化のため、シリコンウエハの薄型化が進んでおり、硬化収縮の少ないエポキシ樹脂は、ウエハの反りを抑える効果も併せ持つ。
硬化収縮を低減し、また、形成される集電電極の接触抵抗が低くなり、更に、透明導電層との密着性もより良好となる理由から、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドが付加されたエポキシ樹脂であるのが好ましい。
ここで、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドが付加されたエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等をエピクロロヒドリンと反応させてエポキシ樹脂を調製する際に、エチレンおよび/またはプロピレンを添加して付加(変性)することで得られる。
エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドが付加されたエポキシ樹脂としては市販品を用いることができ、その具体例としては、エチレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(BEO−60E、新日本理化社製)、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(BPO−20E、新日本理化社製)、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP−4010S、ADEKA社製)、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP−4000S、ADEKA社製)等が挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂の硬化収縮を調整する別な手法として、異なる分子量のエポキシ樹脂を2種類以上併用することが挙げられる。特に、形成される集電電極の接触抵抗が低くなり、また、透明導電層との密着性もより良好となる理由から、エポキシ当量が1500〜4000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)およびエポキシ当量が1000g/eq以下の多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂(B2)または1000g/eq以下の希釈タイプのビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)を併用するのが好ましい。
【0025】
(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1))
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)は、エポキシ当量が1500〜4000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)は、エポキシ当量が上記範囲であるため、上記のとおりビスフェノールA型エポキシ樹脂(B1)を併用すると、本発明の導電性組成物の硬化収縮が抑えられ、基板や透明導電層に対する密着性も良好となる。より体積抵抗率が低くなることから、エポキシ当量は2000〜4000g/eqであるのが好ましく、2000〜3500g/eqであるのがより好ましい。
【0026】
(多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂(B2))
上記多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂(B2)は、エポキシ当量が1000g/eq以下の多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂である。
上記多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂(B2)は、エポキシ当量が上記範囲であるため、上記のとおり多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂(B2)を併用すると、本発明の導電性組成物の粘度が良好となり、印刷性が良好となる。
また、上記多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂(B2)のエポキシ当量は、スクリーン印刷をする際の粘度が適当になる理由から、100〜400g/eqであるのが好ましく、100〜300g/eqであるのがより好ましい。
【0027】
(希釈タイプのビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3))
希釈タイプのビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)は、エポキシ当量が1000g/eq以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の特性を損なわずに反応性希釈剤を用いて低粘度化したものである。
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)は、エポキシ当量が上記範囲であるため、上記のとおりビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)を併用すると、本発明の導電性組成物の粘度が良好となり、印刷性が良好となる。
また、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)のエポキシ当量は、スクリーン印刷をする際の粘度が適当になる理由から、100〜400g/eqであるのが好ましく、100〜300g/eqであるのがより好ましい。
【0028】
本発明においては、上記エポキシ樹脂(B)の含有量は、形成される集電電極の接触抵抗が低くなり、また、透明導電層との密着性もより良好となる理由から、上記金属粉末(A)100質量部に対して2〜20質量部であるのが好ましく、2〜15質量部であるのがより好ましく、2〜10質量部であるのがさらに好ましい。
【0029】
<カチオン系硬化剤(C)>
本発明の導電性組成物で用いるカチオン系硬化剤(C)は、特に限定されず、アミン系、スルホニウム系、アンモニウム系、ホスホニウム系の硬化剤が好ましい。
上記カチオン系硬化剤(C)としては、具体的には、例えば、三フッ化ホウ素エチルアミン、三フッ化ホウ素ピペリジン、三フッ化ホウ素フェノール、p−メトキシベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルイオドニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラフェニルスルホニウム、テトラ−n−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエート、下記式(I)で表されるスルホニウム塩等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、硬化時間が短くなるという理由から、下記式(I)で表されるスルホニウム塩を用いるのが好ましい。
【0030】
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子を表し、R
2は、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基またはα−ナフチルメチル基を表し、R
3は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、Qは、下記式(a)〜(c)のいずれかで表される基を表し、Xは、SbF
6、PF
6、CF
3SO
3、(CF
3SO
2)
2N、BF
4、B(C
6F
5)
4またはAl(CF
3SO
3)
4を表す。)
【化2】
(式(a)中、Rは、水素原子、アセチル基、メトキシカルボニル基またはベンジルオキシカルボニル基を表す。)
【0031】
上記式(I)で表されるスルホニウム塩のうち、半田付け性が良好な電極を形成することができる理由から、上記式(I)中のXがSbF
6で表されるスルホニウム塩であるのが好ましく、その具体例としては、下記式(1)および(2)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
本発明においては、上記カチオン系硬化剤(C)の含有量は、熱により活性化してエポキシ基の開環反応を十分に進行させることができるという理由から、上記エポキシ樹脂(B)100質量部に対して1〜10質量部であるのが好ましく、1〜5質量部であるのがより好ましい。
【0034】
<ブロック化カルボン酸(D)>
本発明の導電性組成物が含有するブロック化カルボン酸(D)は、カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される化合物(d1)とビニルエーテル化合物(d2)とを反応させて得られた化合物である。
すなわち、ブロック化カルボン酸(D)の「ブロック化」とは、化合物(d1)に由来するカルボキシ基(−COOH)をビニルエーテル化合物(d2)のビニルエーテル基(−O−CH=CH
2)またはビニルチオエーテル基(−S−CH=CH
2)との付加反応させることにより、カルボキシ基を保護することをいう。
なお、ブロック化カルボン酸(D)は、カルボキシ基の少なくとも一部がブロック化されていればよく、ブロックされていないカルボキシル基が一部残存していてもよい。
【0035】
ここで、上記化合物(d1)とビニルエーテル化合物(d2)との反応としては、例えば、カルボン酸化合物とビニルエーテル化合物とを反応させる態様;カルボン酸無水物とヒドロキシビニルエーテル化合物とを反応させる態様;カルボン酸無水物と多価アルコールとの反応物をジビニルエーテル化合物で付加重合させる態様;ジカルボン酸とジビニルエーテル化合物とを付加重合させる態様;などが挙げられる。
【0036】
(化合物(d1))
ブロック化カルボン酸(D)の生成に用いられる化合物(d1)のうち、カルボン酸化合物としては、具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、2,4−ジエチルグルタル酸、2,4−ジメチルグルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
なお、本発明においては、このようなカルボン酸化合物としては、上述した反応態様に示す「カルボン酸無水物と多価アルコールとの反応物」を含むものであり、この反応物の具体例としては、後述するカルボン酸無水物と、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなど)とを、無溶媒または適当な溶媒中で室温〜200℃において反応させることにより得ることができる。
【0037】
また、ブロック化カルボン酸(D)の生成に用いられる化合物(d1)のうち、カルボン酸無水物としては、具体的には、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、無水フタル酸、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、形成される集電電極と透明導電層に対する密着性がより良好となる理由から、上記化合物(d1)の炭素数が3〜9であるのが好ましく、密着性が更に良好となる理由から、上記化合物(d1)の炭素数が奇数(特に、3、5、7および9のいずれか)であるのがより好ましい。
すなわち、上記化合物(d1)としては、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸およびアゼライン酸からなる群から選択される少なくとも1種のジカルボン酸であるのが好ましい。
このように密着性が向上する理由は明らかではないが、上述した通り、ブロック化カルボン酸(D)のブロックが外れたカルボン酸の一部がエポキシ樹脂と反応するため、形成される集電電極と透明導電層との間の距離が短くなり、これらの相互作用が高まったためと考えられる。
【0039】
(ビニルエーテル化合物(d2))
ブロック化カルボン酸(D)の生成に用いられるビニルエーテル化合物(d2)は、ビニルエーテル基(−O−CH=CH
2)またはビニルチオエーテル基(−S−CH=CH
2)を有している化合物であれば特に限定されず、例えば、脂肪族ビニルエーテル、脂肪族ビニルチオエーテル、環状ビニルエーテル、環状ビニルチオエーテル等が挙げられる。
脂肪族ビニルエーテルとしては、具体的には、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのモノビニルエーテル化合物;ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテルなどのジビニルエーテル化合物;トリメチロールプロパントリビニルエーテルなどのトリビニルエーテル化合物;ペンタエリスリトールテトラビニルエーテルなどのテトラビニルエーテル化合物;等が挙げられる。なお、脂肪族ビニルチオエーテルとしては、上記脂肪族ビニルエーテルの例示に対応するチオ化合物が挙げられる。
また、環状ビニルエーテルとしては、具体的には、例えば、2,3−ジヒドロフラン、3,4−ジヒドロフラン、2,3−ジヒドロ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2−メトキシ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−4,4−ジメチル−2H−ピラン−2−オン、3,4−ジヒドロ−2−エトキシ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2−カルボン酸ナトリウム等が挙げられる。なお、環状ビニルチオエーテルとしては、上記環状ビニルエーテルの例示に対応するチオ化合物が挙げられる。
【0040】
また、ビニルエーテル化合物(d2)のうち、カルボン酸無水物との反応に用いられるヒドロキシビニルエーテル化合物としては、具体的には、例えば、ヒドロキシメチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシヘプチルビニルエーテル、ヒドロキシオクチルビニルエーテル、ヒドロキシノニルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、3−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、2−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
上述した化合物(d1)およびビニルエーテル化合物(d2)を用いたブロック化カルボン酸(D)の合成方法は特に限定されず、付加反応の常法に従い行うことができる。例えば、上述した化合物(d1)およびビニルエーテル化合物(d2)を100℃で4時間混合することにより、カルボキシ基をブロック化したブロック化カルボン酸(D)を合成することができる。
【0042】
本発明においては、上記ブロック化カルボン酸(D)の含有量は、上記金属粉末(A)100質量部に対して0.05〜5質量部であるのが好ましく、形成される集電電極の接触抵抗が低くなる理由から、上記金属粉末(A)100質量部に対して0.05〜1質量部であるのがより好ましい。
【0043】
<フェノキシ樹脂(E)>
本発明の導電性組成物は、上述したエポキシ樹脂(B)と相溶して安定したペースト状態を得ることができる理由から、フェノキシ樹脂(E)を含有するのが好ましい。
上記フェノキシ樹脂(E)としては、具体的には、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂が挙げられる。
【0044】
本発明においては、上記フェノキシ樹脂(E)として市販品を用いることができ、その具体例としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(1256、ジャパンエポキシレジン社製)、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(YP−50、東都化成社製)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(FX−316、東都化成社製)、ビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合タイプ(YP−70、東都化成社製)等が挙げられる。
【0045】
また、本発明においては、上記フェノキシ樹脂(E)を含有する場合の含有量は、形成される集電電極の接触抵抗が低くなり、また、透明導電層との密着性もより良好となる理由から、上記金属粉末(A)100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.5〜5質量部であるのがより好ましい。
【0046】
<脂肪酸金属塩(F)>
本発明の導電性組成物は、形成される集電電極の接触抵抗が低くなる理由から、脂肪酸金属塩(F)を含有するのが好ましい。
上記脂肪酸金属塩(F)は、有機カルボン酸の金属塩であれば特に限定されず、例えば、銀、マグネシウム、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、スズおよび鉛からなる群から選択される少なくとも1種以上の金属のカルボン酸金属塩を用いるのが好ましい。
これらのうち、銀のカルボン酸金属塩(以下、「カルボン酸銀塩」ともいう。)を用いるのが好ましい。
ここで、上記カルボン酸銀塩は、有機カルボン酸(脂肪酸)の銀塩であれば特に限定されず、例えば、特開2008−198595号公報の[0063]〜[0068]段落に記載された脂肪酸金属塩(特に3級脂肪酸銀塩)、特許第4482930号公報の[0030]段落に記載された脂肪酸銀塩、特開2010−92684号公報の[0029]〜[0045]段落に記載された水酸基を1個以上有する脂肪酸銀塩、同公報の[0046]〜[0056]段落に記載された2級脂肪酸銀塩、特開2011−35062号公報の[0022]〜[0026]に記載されたカルボン酸銀等を用いることができる。
【0047】
本発明においては、上記脂肪酸金属塩(F)を含有する場合の含有量は、形成される集電電極の接触抵抗が更に低くなる理由から、上記金属粉末(A)100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.5〜5質量部であるのがより好ましい。
【0048】
<溶媒(G)>
本発明の導電性組成物は、印刷性等の作業性の観点から、溶媒(G)を含有するのが好ましい。
上記溶媒(G)は、本発明の導電性組成物を基板上に塗布することができるものであれば特に限定されず、その具体例としては、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン、イソホロン、α−テルピネオール等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
<添加剤>
本発明の導電性組成物は、必要に応じて、還元剤等の添加剤を含有していてもよい。
上記還元剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコール類等が挙げられる。
また、本発明の導電性組成物は、高温(700〜800℃)焼成タイプの導電性ペーストとして一般的に用いられるガラスフリットについては特に必要がなく、上記金属粉末(A)100質量部に対して0.1質量部未満であるのが好ましく、実質的に含有していないのが好ましい。
【0050】
本発明の導電性組成物の製造方法は特に限定されず、上述した各成分を、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機等により混合する方法が挙げられる。
【0051】
〔太陽電池セル〕
本発明の太陽電池セルは、集電電極と上記集電電極の下地層として透明導電層を具備する太陽電池セルであって、上記集電電極が上述した本発明の導電性組成物を用いた形成された太陽電池セルである。
【0052】
本発明の太陽電池セルの好適な態様としては、n型単結晶シリコン基板を中心にその上下にアモルファスシリコン層および透明導電層(例えば、TCO)を具備し、上記透明導電層を下地層として、上記透明導電層上に上述した本発明の導電性組成物を用いて集電電極を形成した太陽電池(例えばヘテロ接合型太陽電池)セルが挙げられる。
上記太陽電池セルは、単結晶シリコンとアモルファスシリコンとをハイブリッドした太陽電池セルであり、高い変換効率を示す。
以下に、本発明の太陽電池セルの好適な態様について
図1を用いて説明する。
【0053】
図1に示すように、太陽電池セル100は、n型単結晶シリコン基板11を中心に、その上下にi型アモルファスシリコン層12aおよび12b、並びに、p型アモルファスシリコン層13aおよびn型アモルファスシリコン層13b、並びに、透明導電層14aおよび14b、並びに、上述した本発明の導電性組成物を用いて形成した集電電極15aおよび15bを具備する。
【0054】
上記n型単結晶シリコン基板は、n型を与える不純物がドープされた単結晶シリコン層である。n型を与える不純物としては、例えば、リン、砒素などが挙げられる。
上記i型アモルファスシリコン層は、ドープされていないアモルファスシリコン層である。
上記p型アモルファスシリコンは、p型を与える不純物がドープされたアモルファスシリコン層である。p型を与える不純物としては、例えば、ホウ素、アルミニウムなどが挙げられる。
上記n型アモルファスシリコンは、n型を与える不純物がドープされたアモルファスシリコン層である。n型を与える不純物は上述のとおりである。
上記集電電極は、上述した本発明の導電性組成物を用いて形成された集電電極である。
集電電極の配置(ピッチ)、形状、高さ(好ましくは、数〜数十μm)、幅、アスペクト比(高さ/幅)(好ましくは0.4以上)等は特に限定されない。
なお、集電電極は、
図1に示すように、通常、複数存在する。その場合、集電電極の一部のみが本発明の導電性組成物で形成されたものであってもよいが、全ての集電電極が本発明の導電性組成物で形成されたものであることが好ましい。
【0055】
<透明導電層>
上記透明導電層の材料の具体例としては、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタンなどの単一金属酸化物;酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウムチタン、酸化スズカドミウムなどの多種金属酸化物;ガリウム添加酸化亜鉛、アルミニウム添加酸化亜鉛、硼素添加酸化亜鉛、チタン添加酸化亜鉛、チタン添加酸化インジウム、ジルコニウム添加酸化インジウム、フッ素添加酸化スズなどのドーピング型金属酸化物;などが挙げられる。
【0056】
<太陽電池セルの製造方法>
本発明の太陽電池セルの製造方法は特に限定されないが、例えば、特開2010−34162号公報に記載の方法などで製造することができる。
具体的には、n型単結晶シリコン基板11の片方の主面上に、PECVD(plasma enhanced chemical vapor deposition)法などによって、i型アモルファスシリコン層12aを形成する。さらに、形成したi型アモルファスシリコン層12a上にPECVD法などによってp型アモルファスシリコン層13aを形成する。
次に、n型単結晶シリコン基板11のもう一方の主面上に、PECVD法などによって、i型アモルファスシリコン層12bを形成する。さらに、形成したi型アモルファスシリコン層12b上にPECVD法などによってn型アモルファスシリコン層13bを形成する。
次に、スパッタ法などによって、p型アモルファスシリコン層13a上およびn型アモルファスシリコン層13b上にITOなどの透明導電層14aおよび14bを形成する。
次に、形成した透明導電層14aおよび14b上に本発明の導電性組成物を塗布して配線を形成し、さらに、形成した配線を熱処理(乾燥ないし焼成)することで集電電極15aおよび15bを形成する。
以下に、配線を形成する工程(配線形成工程)および配線を熱処理する工程(熱処理工程)について詳述する。
【0057】
(配線形成工程)
上記配線形成工程は、本発明の導電性組成物を透明導電層上に塗布して配線を形成する工程である。
ここで、塗布方法としては、具体的には、例えば、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷等が挙げられる。
【0058】
(熱処理工程)
上記熱処理工程は、上記配線形成工程で形成された塗膜を熱処理して導電性の配線(集電電極)を形成する工程である。
【0059】
上記熱処理は、450℃以下の温度条件であるのが好ましく、具体的には、150〜200℃の温度で、数秒〜数十分間、加熱(焼成)する処理であるのが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて、本発明の導電性組成物について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1〜9、比較例1〜3)
ボールミルに、下記第1表に示す銀粉等を下記第1表中に示す組成比(質量比)となるように添加し、これらを混合することにより導電性組成物を調製した。
一方、ソーダライムガラスの表面に、透明導電層としてITO(Snをドープした酸化インジウム)を製膜して評価用のガラス基板を作製した。
次いで、調製した各導電性組成物を、ガラス基板上にスクリーン印刷で塗布して、幅1.5mm、長さ15mmの細線形状のテストパターンを1.8mm間隔で6本並べて形成した。
オーブンにて200℃で30分間乾燥し、細線形状の導電性被膜(細線電極)を形成し、太陽電池セルのサンプルを作製した。
【0062】
<接触抵抗>
作製した太陽電池セルのサンプルについて、各細線電極間の抵抗値をデジタルマルチメーター(HIOKI社製:3541 RESISTANCE HiTESTER)を用いて測定し、Transfer Length Method(TLM法)により接触抵抗を算出した。結果を下記第1表に示す。
【0063】
<密着性>
作製した太陽電池セルのサンプルのテストパターン(細線電極)上に半田リボンを半田付けした後、180度引張り試験を行い、ピール強度を求めた。結果を下記第1表に示す。ピール強度が1.0N以上の場合を密着十分と判断した。
【0064】
【表1】
【0065】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・球状金属粉末A1−1:AgC−103(形状:球状、平均粒子径:1.5μm、福田金属箔粉工業社製)
・フレーク状金属粉末A2−1:AgC−224(形状:フレーク状、平均厚さ:0.7μm、福田金属箔粉工業社製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂B1−1:EP−4100E(ADEKA社製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂B1−2:YD−019(新日鉄住金社製)
・多価アルコール系グリシジル型エポキシ樹脂B2−1:EX−850(ナガセケムテックス社製)
・ビスフェノールA型フェノキシ樹脂:YP−50S(新日鉄住金社製)
【0066】
・ブロック化カルボン酸D−1:サンタシッドG(日油社製)
・ブロック化カルボン酸D−2:アゼライン酸(炭素数9)18.8gと2−エチルヘキシルビニルエーテル32.8gとを100℃で4時間反応させ、カルボキシ基をブロック化したポリカルボン酸。なお、未反応のビニルエーテル化合物については溜去した。
・ブロック化カルボン酸D−3:マロン酸(炭素数3)10.4gと2−エチルヘキシルビニルエーテル32.8gとを100℃で4時間反応させ、カルボキシ基をブロック化したポリカルボン酸。なお、未反応のビニルエーテル化合物については溜去した。
・ブロック化カルボン酸D−4:アジピン酸(炭素数6)14.6gと2−エチルヘキシルビニルエーテル32.8gとを100℃で4時間反応させ、カルボキシ基をブロック化したポリカルボン酸。なお、未反応のビニルエーテル化合物については溜去した。
・ブロック化カルボン酸D−5:セバシン酸(炭素数10)20.2gと2−エチルヘキシルビニルエーテル32.8gとを100℃で4時間反応させ、カルボキシ基をブロック化したポリカルボン酸。なお、未反応のビニルエーテル化合物については溜去した。
【0067】
・ポリカルボン酸銀塩(1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸銀塩):まず、酸化銀(東洋化学工業社製)50g、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(新日本理化社製)25.29gおよびメチルエチルケトン(MEK)300gをボールミルに投入し、室温で24時間撹拌させることにより反応させた。次いで、吸引ろ過によりMEKを取り除き、得られた粉末を乾燥させることによって、白色の1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸銀塩を調製した。
・カチオン系硬化剤:三フッ化ホウ素エチルアミン(ステラケミファ社製)
・溶媒:テルピネール:テルピネオール(ヤスハラケミカル社製)
【0068】
第1表に示す結果から、ブロック化カルボン酸(D)を配合せずに調製した導電性組成物は、透明導電層との密着性が劣ることが分かった(比較例1)。
また、カチオン系硬化剤(C)を配合せずに調製した比較例2の導電性組成物は、硬化しないことが分かり、カチオン系硬化剤(C)を配合せず、ブロック化カルボン酸(D)の配合量を増やして調製した比較例3の導電性組成物は、形成される集電電極の接触抵抗が高くなり、実用に耐えないことが分かった。
これに対し、カチオン系硬化剤(C)およびブロック化カルボン酸(D)を配合した導電性組成物は、形成される集電電極の接触抵抗がいずれも低くなり、また、透明導電層との密着性が良好となることが分かった(実施例1〜9)。
特に、実施例4〜6の対比から、ブロック化カルボン酸(D)の生成に用いるポリカルボン酸の炭素数が奇数であると、透明導電性との密着性がより良好となることが分かった。
また、実施例4〜6および9の対比から、ブロック化カルボン酸(D)の生成に用いるポリカルボン酸の炭素数が3〜9であると、透明導電性との密着性がより良好となることが分かった。