特許第6620745号(P6620745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6620745高純度ビニレンカーボネート、非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6620745
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】高純度ビニレンカーボネート、非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C07D 317/40 20060101AFI20191209BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20191209BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20191209BHJP
【FI】
   C07D317/40
   H01M10/0567
   H01G11/64
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-534343(P2016-534343)
(86)(22)【出願日】2015年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2015068019
(87)【国際公開番号】WO2016009793
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2018年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-144374(P2014-144374)
(32)【優先日】2014年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-184642(P2014-184642)
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晶和
(72)【発明者】
【氏名】敷田 庄司
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03457279(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第1789259(CN,A)
【文献】 特表2008−540467(JP,A)
【文献】 特開2010−282760(JP,A)
【文献】 特開2007−284427(JP,A)
【文献】 特表2014−511149(JP,A)
【文献】 特開平11−123302(JP,A)
【文献】 SCHNAUTZ, N. G. et al.,Radiation polymerization of vinylene carbonate,Report,1978年,PER-11,p.11-6,https://inis.iaea.org/search/search.aspx?orig_q=RN:10432614
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D201/00−521/00
H01G 11/64
H01M 10/0567
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液であって、高純度ビニレンカーボネートを含み、
該高純度ビニレンカーボネートが、酸素含有雰囲気下で45℃で7日間保持して酸素に配位させ、マンセル表色系の色相環で、10Y〜10GYの範囲の黄緑色を呈するものであり、酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物がゼロのビニレンカーボネートであって、
該ビニレンカーボネートの窒素雰囲気下におけるハーゼン単位色数が10以下であることを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
非水電解液中に0.1〜1.5質量%のジフルオロリン酸リチウムを含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
非水電解液中に1〜50ppmのHFを含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
非水電解液中のLiPOとHFの濃度の比率(HF濃度/LiPO量)が1/15000〜1/20である、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項5】
正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、非水電解液が請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項6】
酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物がゼロのビニレンカーボネートであって、
該ビニレンカーボネートが、酸素含有雰囲気下で45℃で7日間保持して酸素に配位させ、マンセル表色系の色相環で、10Y〜10GYの範囲の黄緑色を呈するものであり、該ビニレンカーボネートの窒素雰囲気下におけるハーゼン単位色数が10以下であることを特徴とする高純度ビニレンカーボネート。
【請求項7】
前記ビニレンカーボネートが、酸素含有雰囲気下で45℃で7日間保持した場合のAPHAが100以上である、請求項6に記載の高純度ビニレンカーボネート。
【請求項8】
大気圧における融点が20℃以上22℃未満である、請求項6に記載の高純度ビニレンカーボネート。
【請求項9】
酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物が、試料を溶媒に溶解し、酸水素炎燃焼処理して、得られた気体を炭酸ナトリウム水溶液に吸収させ、該吸収溶液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフィーにより測定し、塩素原子換算で算出される、請求項6に記載の高純度ビニレンカーボネート。
【請求項10】
ビニレンカーボネートが、下記の工程(A)〜()を含む方法で製造されたものである、請求項6に記載の高純度ビニレンカーボネートの製造方法。
(A)晶析槽において結晶化された粗ビニレンカーボネート結晶を掻き取り機で掻き取り、溶融精製塔の底部に沈降させる工程
(B)沈降するビニレンカーボネート結晶と、溶融精製塔の底部で溶融されたビニレンカーボネート溶融液の一部とを向流接触させる工程
(C)溶融精製塔の底部からビニレンカーボネート溶融液の一部を抜き出す工程
(D)得られたビニレンカーボネートを、酸素含有雰囲気下で保持して酸素に配位させる工程
【請求項11】
請求項6〜のいずれかに記載の高純度ビニレンカーボネートの製造方法であって、塩素不純物を含有する粗ビニレンカーボネート結晶と粗ビニレンカーボネートの溶融液の一部とを固液向流接触させることを特徴とする高純度ビニレンカーボネートの製造方法。
【請求項12】
下記の工程(A)〜()を含む、請求項11に記載の高純度ビニレンカーボネートの製造方法。
(A)晶析槽において結晶化された粗ビニレンカーボネート結晶を掻き取り機で掻き取り、溶融精製塔の底部に沈降させる工程
(B)沈降するビニレンカーボネート結晶と、溶融精製塔の底部で溶融されたビニレンカーボネート溶融液の一部とを向流接触させる工程
(C)溶融精製塔の底部からビニレンカーボネート溶融液の一部を抜き出す工程
(D)得られたビニレンカーボネートを、酸素含有雰囲気下で保持して酸素に配位させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を含まない高純度ビニレンカーボネート、非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ビニレンカーボネート(以下、「VC」ともいう)はリチウム二次電池用電解液の添加剤として有用であることが広く知られ、その電池性能を高めるために、塩素不純物の少ない高純度のVCが電解液の添加剤として有用であることが知られている(特許文献1、4、5)。VCの精製方法としては、蒸留法、晶析法、又は両者を組み合わせた方法(特許文献2)等の各種の方法が提案されている。また、尿素で粗ビニレンカーボネートを140℃で処理したのち、蒸留し、更に静置式の溶融晶析装置で精製する方法(特許文献3)が知られている。
従来の塩素不純物が100ppm以上含まれていたVCは、茶色〜黄色をしていた。それを塩素不純物100ppm以下にすることにより、VCを透明にすることができるようになった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−8721号
【特許文献2】特開2002−322171号
【特許文献3】特表2008−540467号
【特許文献4】特開2009−29814号
【特許文献5】特開2010−282760号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Electrolytes for Lithium and Lithium-Ion Batteries (Modern Aspects of Electrochemistry) Volume 58, 2014, pp 172-173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の高純度VCは、不純物の極めて少ないVCであるが、それでも酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法によれば、塩素不純物含有量はゼロではない。
特許文献2の高純度VCの製造方法によれば、トルエンとヘキサンの混合溶媒によって晶析し、更に蒸留しなければならず、バッチ式での製造となる。しかも塩素不純物を究極的にゼロにまで減らす方法として有用とは言えず、工業的には必ずしも効率的な方法とは言えないことが判明した。
また、特許文献3の精製方法によるとVCが長時間高熱にさらされるため、この間に微量の塩素や塩化水素等とVCとの反応も生起し、VCのロスと共に塩素含有副生物が生成する。得られた蒸留物を更に静置式溶融晶析で精製すると、結晶の付着とスエッティングという操作の不連続な切り替えが必要な上、向流接触効果がないため、不純物量が除去しにくい精製法であることが判明した。
【0006】
特許文献4の実施例には、全塩素量が14ppmのVCが記載されているが、全塩素量が14ppm未満のVCについては、具体的に実証されていない。
特許文献5には、特定の塩素化合物の含有量が10ppm以下であるVCを含む非水電解液が記載されている。
特許文献5の実施例においては、特定の一般式(1)で表される塩素原子を含むエーテル群の検出はガスクロマトグラフィーで行われている。このため、各々のエーテル化合物の検出ピークを特定しなければ塩素不純物量の定量はできない。特許文献5は、塩素を含むビニルエーテル系の不純物が低減されたことを示しているが、ビニルエーテル系でない他の塩素不純物を低減することについては、何らの記載もない。特許文献5に示された蒸留操作だけでは、様々な塩素置換化合物や塩素イオンの全てを除去することは不可能であり、しかも、ガスクロマトグラフィーでは塩素不純物の一部しか検出できない。以上のことから、引用文献1の実施例で得られたビニレンカーボネートの塩素不純物を酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で測定すると、塩素不純物は数10ppm程度の量にはなると考えられる。
【0007】
以上のとおり、上記特許文献1〜5では、不純物として、塩素不純物が低濃度に減らすことが開示されているのみであり、より高度に塩素不純物をゼロまで低減されたVCは知られておらず、当然ながら、その電池性能については何らの記載ないし示唆もなく、塩素不純物ゼロのVCの電池性能については知る術がなかった。
本発明は、塩素不純物がゼロまで低減された、言い換えると、不純物を実質的に全く含有しない高純度VC、該高純度VCを含む非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、VC中の塩素不純物を実質的にゼロまで減らすことに成功し、そのことによって、特別な現象が起こることを見出した。
本発明者らは、VC中の塩素不純物を究極まで減らす簡便な工業的方法として、固液向流接触を伴う晶析により工業的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。その製造方法により得られる塩素不純物をゼロまで低減された高純度VCは、窒素雰囲気下においては、従来の塩素不純物を100ppm以下10ppm程度以上含有するVCと同様に無色透明の液体であるが、空気中に暴露することによって、高純度VCは、マンセル表色系(図2参照)で黄緑色を呈するという特異な現象を発見した。
第1石油類や第2石油類に分類されるリチウムイオン電池用の電解液の製造法においては、発火や水分混入の恐れがあることから、通常、常識的には酸素含有雰囲気中(例えば空気中等)に暴露することはしないため、この現象を発見することは困難であった。しかも、従来の塩素不純物を100ppm以下10ppm程度以上としたVCでは、酸素含有雰囲気中に暴露しても無色透明のままで、黄緑色を呈することはなかった。
この酸素含有雰囲気中に暴露した黄緑色を呈する高純度VCを含む非水電解液を用いたリチウム二次電池等の蓄電デバイスは、低温の出力特性や極めて長期にわたりサイクル特性が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔13〕を提供するものである。
〔1〕酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物がゼロのVCであって、該VCの窒素雰囲気下におけるハーゼン単位色数(以下、「APHA」という)が10以下であることを特徴とする高純度ビニレンカーボネート(以下、「高純度VC」ともいう)。
〔2〕前記VCが、酸素含有雰囲気下で、45℃で7日間保持した場合のAPHAが100以上である、前記〔1〕に記載の高純度VC。
〔3〕前記VCが、酸素含有雰囲気下で45℃で7日間保持した場合にマンセル表色系の色相環で、10Y〜10GYの範囲の黄緑色を呈するものである、前記〔1〕に記載の高純度VC。
〔4〕大気圧における融点が20℃以上22℃未満である、前記〔1〕に記載の高純度VC。
〔5〕酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物が、試料を溶媒に溶解し、酸水素炎燃焼処理して、得られた気体を炭酸ナトリウム水溶液に吸収させ、該吸収溶液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフィーにより測定し、塩素原子換算で算出される、前記〔1〕に記載の高純度VC。
【0010】
〔6〕ビニレンカーボネートが、下記の工程(A)〜(C)を含む方法で製造されたものである、前記〔1〕に記載の高純度VCの製造方法。
(A)晶析槽において結晶化された粗VC結晶を掻き取り機で掻き取り、溶融精製塔の底部に沈降させる工程
(B)沈降するVC結晶と、溶融精製塔の底部で溶融されたVC溶融液の一部とを向流接触させる工程
(C)溶融精製塔の底部からVC溶融液の一部を抜き出す工程
【0011】
〔7〕非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液であって、前記〔1〕に記載の高純度VCを含むことを特徴とする非水電解液。
〔8〕非水電解液中に0.1〜1.5質量%のLiPOを含む、前記〔7〕に記載の非水電解液。
〔9〕非水電解液中に1〜50ppmのHFを含む、前記〔7〕に記載の非水電解液。
〔10〕非水電解液中のLiPOとHFの濃度の比率(HF濃度/LiPO量)が1/15000〜1/20である、前記〔7〕に記載の非水電解液。
【0012】
〔11〕正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、非水電解液が前記〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【0013】
〔12〕前記〔1〕〜〔6〕に記載の高純度VCの製造方法であって、塩素不純物を含有する粗VC結晶と粗VCの溶融液の一部とを固液向流接触させることを特徴とする高純度VCの製造方法。
〔13〕下記の工程(A)〜(C)を含む、前記〔12〕に記載の高純度VCの製造方法。
(A)晶析槽において結晶化された粗VC結晶を掻き取り機で掻き取り、溶融精製塔の底部に沈降させる工程
(B)沈降するVC結晶と、溶融精製塔の底部で溶融されたVC溶融液の一部とを向流接触させる工程
(C)溶融精製塔の底部からVC溶融液の一部を抜き出す工程
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物が全くない高純度VC、該高純度VCを含む非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することができる。
本発明の高純度VCを含む非水電解液を用いた蓄電デバイスは、低温の出力特性や長期のサイクル特性を向上させることができる。特に、サイクル特性については極めて長期にわたり高い放電容量を維持でき、蓄電デバイスの寿命を大幅に伸ばすことができるため、省エネルギー効果を有する。
なお、サイクル特性の評価は、従来50〜100サイクル程度のサイクルで評価していたが、本発明の高純度VCを含む非水電解液を用いた蓄電デバイスは、従来行うことのなかった1000サイクルという極めて長期のサイクル特性の評価においても優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の高純度VCの製造方法を実施するための装置の一例を示す図である。
図2】マンセル表色系の色相環の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[高純度ビニレンカーボネート]
本発明の高純度VCは、酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法(Wickbold combustion - Ion chromatography method)で検出される塩素不純物(塩素原子を含む有機化合物又は無機化合物のことをいう)がゼロのビニレンカーボネートであって、該ビニレンカーボネートの窒素雰囲気下におけるハーゼン単位色数が10以下であることを特徴とする。
本発明の高純度VCは、従来知られているVCとは異なり、塩素不純物を実質的に全く含まないVCであり、従来の塩素不純物を含むVCを、後述する方法により、精製して初めて得ることができる従来にない高純度VCである。
酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法によれば、VC試料を酸水素炎燃焼処理して、得られた気体を炭酸ナトリウム水溶液に吸収させ、該吸収溶液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフ装置を用いて測定するので、VC試料中の全ての塩素不純物を確実に検出することができる。しかも、塩素不純物は、その全量がClの全塩素量として検出されるため、イオンクロマトグラフィーにおけるClの検出ピークの変動などはない。
したがって、本明細書において「酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法で検出される塩素不純物がゼロ」とは、当該方法で検出される検出限界まで確認してもピークの存在が確認できないこと、即ち、現在の技術レベルで測定できる全塩素量の測定限界においてもClを検出できないことを意味する。
酸水素炎燃焼処理においては、例えば、VC試料をメタノール等の炭素数1〜3のアルコール等の溶媒に溶解したのち、酸水素炎燃焼させ、5mMの炭酸ナトリウム(NaCO)水溶液に吸収させるが、必ずしもこの例に限定されるものではない。なお、酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィーによる塩素不純物量の測定方法の詳細は、実施例に記載のとおりである。
【0017】
従来、VCの塩素含量を低下させるという課題は公知であったが、「塩素不純物がゼロ」となるまで高純度化したVCは知られておらず、また現実的に製造することも困難であった。しかも、「塩素不純物がゼロ」となるまで高純度化したVCが、従来高純度と認識されていたVCと比較して、著しく異なる物性を有するとは全く予想もできないことである。
さらに、本発明の高純度VCは、APHAが10以下であるという特徴を有するが、その他に、酸素含有雰囲気下で45℃で7日間保持した場合のAPHA、色相環、融点においても特徴的である。かかる事項は本願発明に係る高純度ビニレンカーボネートを特定するものである。以下、これらの事項について説明する。
【0018】
(高純度VCの色相)
本発明の高純度VCは、窒素(N)雰囲気下では無色透明であり、窒素雰囲気下におけるAPHAは、10以下であり、好ましくは5以下である。
また、本発明の高純度VCは、酸素(O)含有雰囲気下で、45℃で7日間保持した場合のAPHAの下限は、100以上であるが、好ましくは200以上、より好ましくは300以上である。
また、酸素(O)含有雰囲気下で、45℃で7日間保持した場合のAPHAの上限は、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等のカーボネート化合物、酢酸エチル等のエステル化合物等のような、APHAの測定の妨げにならない溶媒で希釈した35%濃度溶液のAPHAで500以下であり、好ましくは溶媒で希釈した50%濃度溶液のAPHAで500以下であり、より好ましくは溶媒で希釈しない場合のAPHAで500以下である。APHAが前記範囲内であれば、電気化学特性がより向上するので好ましい。
なお、APHAの測定は、色差計(日本電色工業株式会社製、ZE6000)を用いて行った。
【0019】
本発明の高純度VCは窒素雰囲気下では無色透明であるが、酸素が含まれる雰囲気下では黄緑色に発色するようになる。
本発明の高純度VCが酸素含有雰囲気下で45℃で7日間保持した場合に呈する黄緑色は、図2に示すマンセル表色系の色相環の5Yを超えて5Gには至らない黄緑系であるが、好ましくは10Y〜10GYの範囲の黄緑系であり、より好ましくは10Yを超えて10GYには至らない黄緑系、すなわちGYの黄緑色である。この高純度VCを含む非水電解液を用いた電池は、より低温の出力特性や長期のサイクル特性が向上するので好ましい。
前記の酸素含有雰囲気とは、酸素を含む任意の濃度の雰囲気のことをいい、例えば酸素のみ、又は酸素を他の気体で任意に希釈した雰囲気であってもよく、好ましくは、空気雰囲気であり、上記雰囲気は乾燥雰囲気であることが好ましい。
本発明の高純度VCを酸素含有雰囲気下に保持する時間は、一瞬であってもよいが、好ましくは10分以上であり、より好ましくは30分以上である。
【0020】
前記酸素含有雰囲気下における黄緑色の発色は、塩素不純物を実質的に全く含有しない高純度VCが空気中の酸素と配位した結果と推定される。この黄緑色の発色が起きた高純度VCを含む非水電解液をリチウム二次電池等の蓄電デバイスに用いると、従来公知のVCを用いた非水電解液に比較して、負極上に酸素を多く含んだ相間固体電解質(SEI)被膜が形成されるため、特に低温でSEI中のLiイオンの拡散がスムーズになり、低温出力特性や極めて長期のサイクル特性が向上するものと推測される。
なお、塩素不純物を全く含有しない高純度のVCは、予め酸素と触れさせて黄緑色の発色が起こるとより高い効果が得られるが、酸素と触れさせずに、窒素雰囲気下のまま電池の用いた場合であっても、電池内に少なからず存在する極僅かな電極表面吸着酸素と接触し、電池内で黄緑色の発色が起こるため、上記と同様の効果が得られるものと考えられる。
【0021】
(高純度VCの純度と融点)
本発明の高純度VCの純度は100質量%であり、融点(常圧)は20℃以上22℃未満を示し、消防法の危険物の分類で言うと、指定可燃物(可燃性固体類)の範囲に属する。
しかし、酸素含有雰囲気下で無色透明又は黄色〜褐色を示す従来のVC(アルドリッチ試薬カタログ2012−2014年版2604ページに、融点が19℃〜22℃との記載あり)は、融点(常圧)が本発明の高純度VCよりも1℃〜2℃低く、19℃以上20℃未満となって、危険物4類第3石油類の範囲となってしまうという違いがある。この理由としては、本発明の高純度VCは、塩素不純物を実質的にゼロまで減らし、純度100質量%とすることができたことにより、融点が上がったものと推定され、この融点の違いも特別な現象を裏付けする一つの証拠である。
【0022】
本発明の高純度VCが示す融点の下限は、大気圧下において、20℃以上であり、好ましくは20.5℃以上である。また、融点の上限は22℃未満である。
ここで、本願明細書における融点とは、固体のVCが完全に溶け終わった温度で定義するものとする。
上記範囲内の融点を有する高純度VCは、蓄電デバイス用の非水電解液の添加剤として用いたときに従来のVCに優る出力特性等の向上効果を示す。
【0023】
[高純度ビニレンカーボネートの製造方法]
本発明の高純度VCは、晶析法と向流接触法を組み合せた方法で製造することが好ましい。すなわち、本発明の高純度VCの製造方法は、塩素不純物を含有する粗VC結晶(一般的な精製前の塩素不純物を含有するVC結晶)と粗VCの溶融液の一部とを固液向流接触させることを特徴とする方法である。
本発明の高純度VCの製造方法としては、具体的には、下記の工程(A)〜(C)を含む方法が好ましい。
(A)晶析槽において結晶化された粗VC結晶を掻き取り機で掻き取り、溶融精製塔の底部に沈降させる工程
(B)沈降するVC結晶と、溶融精製塔の底部で溶融されたVC溶融液の一部とを向流接触させる工程
(C)溶融精製塔の底部からVC溶融液の一部を抜き出す工程
本発明の上記高純度VCの製造方法においては、前記工程(A)〜(C)を含む溶融精製を1回行うだけで高純度にすることができる。VCは二重結合を有することから、熱履歴による変質を受け易いため、できるだけ熱履歴を少なくすることが望まれるが、本発明はこの点においても、本発明方法は有利である。
一方、特許文献5の段落〔0016〕には、精製操作を2回以上行うと記載されており、従来法では、精製操作を2回以上行っても、十分にVCを精製することができなかったことを考慮すれば、本発明の高純度VCの製造方法の優位性は明らかである。
【0024】
本発明の高純度VCを得るために供される粗VCは、従来公知の製法で得られたものであり、事前にある程度の不純物を除去する目的で、蒸留精製しておいてもよく、不純物種や製造方法等は何ら限定されるものではない。
本発明の高純度VCの製造方法では、粗VCを晶析後、向流接触法で精製することにより、実質的に塩素不純物ゼロの高純度に精製されたVCを得ることができる。向流接触法は、粗VC結晶と粗VC溶融液とが接触することにより精製効果が生まれ、塩素不純物ゼロに精製された高純度のVCを取得できる方法である。
向流接触法に用いられる精製装置の好ましい具体例としては、晶析槽と溶融精製塔で構成され、溶融精製塔の底部に加熱手段を備えた装置が挙げられる。
かかる精製装置で処理する粗VC結晶は、任意の方法で該装置に供給することができる。例えば、粗VC結晶を含んだスラリーを溶融精製塔に直接供給する方法、VCを含んだ溶液、又は溶融液を晶析槽に供給し、結晶化させ、掻き取る方法が挙げられる。これらの中でも、粗VC溶融液を晶析槽に供給し、粗VCを結晶化させ、掻き取り、落下させる方法によれば、粗VC結晶が溶融精製塔に効率よく供給され、閉塞の恐れもないことから好ましい。
かかる方法の一例として図1に示すような構成からなる直立の溶融精製塔を使用する方法が挙げられる。この方法では、溶融精製塔の上部から粗VC結晶を沈降させ、溶融精製塔の底部において溶融されたVC溶融液の一部と向流接触することで、VC結晶の純度をより高めながら溶融精製塔の底部に堆積させる。その溶融液の一部を溶融精製塔の底部から抜き出すことで高純度VCを得ることができる。
次に、本発明で好適に用いられる高純度VCの製造装置をより具体的に説明する。
【0025】
(高純度VCの製造装置)
本発明で用いられる高純度VCの製造装置としては、粗VC結晶と粗VC溶融液の一部とを固液向流接触させて精製する装置が好ましい。
図1は、本発明の製造方法を実施するための晶析−溶融精製装置の一例を示す図である。この装置は、底部に加熱部1、中間部に溶融精製塔2、上部に掻取式間接冷却晶析装置を有する晶析槽3を有する竪型の装置であり、晶析槽3と溶融精製塔2は装置内で直結し、連続している。
図1において、粗VC溶融液(原料)は、粗VC溶融液供給管6から、原料フィルター7を通して、晶析槽3に導入され、晶析された後、溶融精製される。
【0026】
晶析槽3の周囲には冷却ジャケット等の冷却器4が設けられ、この冷却器4に冷媒が供給され、晶析槽3の壁面を間接的に冷却し、粗VC溶融液を過飽和状態とし、粗VCを晶析させるように構成されている。また、晶析槽3内には、駆動装置によって回転駆動される複数の掻取羽根(図示せず)を高さ方向に具備する掻き取り機5が設けられている。晶析槽3の内壁面に析出した粗VC結晶は掻き取り機5で掻き取られ、掻き取られた粗VC結晶は溶融精製塔2内に落下し、さらに溶融精製塔2の底部に沈降する。
一方、晶析槽3の溶融液の一部は母液として母液抜出管11から抜き出され、この母液は、供給管6を通して晶析槽3に再度供給される。
晶析槽3の圧力(蒸発圧力)は、粗VC結晶の掻き取り操作性の観点等から、常圧付近が好ましく、4気圧以下が望ましい。
【0027】
溶融精製塔2は、攪拌機10を有し、その底部に加熱ヒーター等の溶融加熱手段を備えた加熱部1を有している。攪拌機10は、溶融精製塔2の下方領域の溶融層における結晶粒子の挙動を安定化させるためのもので、駆動モーターによって回転可能となっている撹拌軸に取り付けられた水平撹拌翼を備えている。
溶融精製塔2は、加熱部1により粗VC結晶を加熱溶融することにより、還流液として上昇流を発生させ、晶析槽3から掻き落されてくる粗VC結晶群中を上昇させる。晶析槽3から掻き落された結晶は、溶融精製塔2の底部において溶融された純度の高いVC溶融液の上昇流と固液向流接触し、分散されながら、同時に塩素不純物量が多い結晶表面が溶融洗浄され、VC結晶の純度を高めながら溶融精製塔2の底部に沈降、堆積し、堆積層(A)を形成する。この溶融精製塔2では、粗VC結晶と溶融液が確実に固液向流接触するため、精製効率は極めて高い。
製品となる高純度VCは、溶融精製塔2の底部の製品抜き出し管8から、製品フィルター9を通して、結晶体を分離しながら、抜出し液として取り出される。抜出し液以外の溶融物は還流液となって溶融精製塔2内を上昇する。このような操作が連続的に行われ、粗VCの精製効果をより一層高めることができる。
【0028】
溶融精製塔2の底部における加熱温度は、製品抜出し管8から抜き出されるVCの融点以上であれば、特に制限されないが、製品となる高純度VCの熱劣化を抑制する観点から低い方が好ましい。従って、溶融精製塔2の底部における加熱温度は、通常20〜35℃、好ましくは21〜30℃、より好ましくは21〜25℃である。
【0029】
[非水電解液]
本発明の非水電解液は、一般的に知られている非水溶媒に一般的に知られている電解質塩を溶解し、本発明の高純度VCを添加することにより得ることができる。該VCの添加量は任意の量で用いることができるが、非水電解液中に、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。即ち、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.05〜15質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.2〜5質量%である。
この際、用いる非水溶媒は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0030】
(非水溶媒)
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、ラクトン、エーテル、アミド、ニトリル、リン酸エステル、S=O結合含有化合物、カルボン酸無水物及び芳香族化合物等が挙げられる。
本発明の効果をより効果的に発揮させる観点から、非水溶媒は環状カーボネートを含有することが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含有することがより好ましい。
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、及びビニルエチレンカーボネート(VEC)から選ばれる1種以上が好適に挙げられる。これらの中では、EC、PCの他、ECとFEC、ECとVEC、PCとPC、PCとDFEC、ECとFECとPC等の組合せから選ばれる1種以上が好ましい。
環状カーボネートの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積の0〜40体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が40体積%を超えると非水電解液の粘度が上昇する場合があるので上記範囲であることが好ましい。
【0031】
鎖状カーボネートとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネートから選ばれる1種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートから選ばれる1種以上の対称鎖状カーボネートが挙げられる。
特に非対称鎖状カーボネートを含むと長期サイクル特性等の電池特性が向上する傾向があるので好ましく、非対称鎖状カーボネートと対称鎖状カーボネートを併用することも好ましい。非対称鎖状カーボネートとしてはMECがより好ましく、対称鎖状カーボネートとしてはDMCがより好ましい。
鎖状カーボネートの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜100体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%未満であると非水電解液の粘度が上昇する場合があるので上記範囲であることが好ましい。
環状カーボネートと鎖状カーボネートの割合は、長期サイクル特性等の電池特性を向上させる観点から、環状カーボネート:鎖状カーボネート(容量比)が10:90〜40:60が好ましく、15:85〜35:65がより好ましく、20:80〜30:70が更に好ましい。
【0032】
(電解質塩)
本発明に使用される電解質塩としては、リチウム塩、オニウムカチオンとアニオンを組み合わせたオニウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiPOF、LiBF、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOCF及びLiN(SO等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩から選ばれる1種以上が好ましく、LiPF、LiPO及びLiBFから選ばれる1種以上がより好ましく、LiPFと少量のLiPOが含まれることが更に好ましい。
電解質塩の非水電解液中の濃度は、好ましくは0.3M以上、より好ましくは0.5M以上、更に好ましくは0.8M以上であり、そして、好ましくは4M以下、より好ましくは3M以下、更に好ましくは2M以下である。
【0033】
本発明の高純度VCは、非水電解液中に好ましくは0.1質量%以上、2質量%以下のジフルオロリン酸リチウム(LiPO)が含まれる電解質塩を含む電解液と混合することにより、更に低温での出力特性が向上する効果をもたらすことが判明した。その理由は必ずしも明らかではないが、電解液中で、酸素を配位したVCがLiPOの効果を補助しているものと考えられる。具体的には電極との相互作用で出力を向上させるLiPOと酸素を配位したVCが電極上で相互作用することで、電極活物質の表面にイオン伝導を助ける酸素原子を多く含む皮膜を形成し、低温出力を向上させる結果になったと推測される。
【0034】
本発明の非水電解液に含まれるLiPOの含有量に特に制限はないが、LiPOの含有量の下限は、非水電解液中に、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.6質量%以上、最も好ましくは0.8質量%以上である。LiPOの含有量が前記下限値以上であると、より低温出力を向上させる効果が高まるので好ましい。また、LiPOの含有量の上限は、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。LiPOの含有量が前記上限値以下であると、より低温出力を向上させる効果が高まるので好ましい。
【0035】
本発明の非水電解液に含まれるHF濃度の下限は、好ましくは1ppm以上であり、より好ましくは2ppm以上である。HF濃度が前記下限値以上であると、より低温出力を向上させる効果が高まるので好ましい。また、HF濃度の上限が、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは20ppm以下であり、更に好ましくは8ppm以下であると、より低温出力を向上させる効果が高まるので好ましい。
前記LiPO含有量に対するHF濃度の比率(HF濃度/LiPO含有量)(ただし、この比率はLiPOの含有量及びHF濃度のどちらもppmで表した場合の比率である。)は、好ましくは1/15000〜1/20であり、より好ましくは1/10000〜1/20である。前記比率の上限としては、1/220以下であることが好ましく、1/500以下であることがより好ましい。
(HF濃度/LiPO含有量)の比率が上記範囲内であると、LiPOと酸素を配位したVCとの相互作用をHFが阻害する影響が抑えられるのでより好ましい。
【0036】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、非水電解液が本発明の非水電解液であることを特徴とする。
本発明の蓄電デバイスとしては、電解質塩にリチウム塩を使用するリチウム一次又は二次電池、リチウムイオンキャパシタ(負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイス)、電気二重層キャパシタ(電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイス)等が挙げられるが、リチウム電池が好ましく、リチウム二次電池がより好ましく、リチウムイオン二次電池が最も適している。
【0037】
本発明の蓄電デバイスは、例えば、一般的に用いられている正極及び負極、並びに前記非水電解液を備えることにより得ることができる。
蓄電デバイス、特にリチウム二次電池の正極活物質としては、コバルト、マンガン、及びニッケルから選ばれる1種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物、鉄、コバルト、ニッケル、及びマンガンから選ばれる1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。
蓄電デバイス、特にリチウム二次電池の負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、チタン酸リチウム化合物等が挙げられるが、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料が好ましく、黒鉛型結晶構造を有する炭素材料が更に好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、VC中の塩素不純物量、APHAの測定は、以下の方法により行った。
(1)酸水素炎燃焼−イオンクロマトグラフィー法によるVC中の塩素不純物量の測定
VC試料2.0gをメタノール2mlに溶解し、酸水素炎燃焼装置(東科精機株式会社製、商品名:TSN−LS型)を用いて酸水素炎燃焼処理して、得られた気体を5.0mM NaCO水溶液に吸収させ、吸収溶液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフ装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社(旧日本ダイオネクス株式会社)製、商品名:DX−320)を用いて以下の条件で測定し、塩素原子換算で算出した。
・カラム:ガードカラム IonPac AG12A、Dionex
・分離カラム IonPac AS12A、Dionex
・溶離液:2.7mM炭酸ナトリウム−0.3mM炭酸水素ナトリウム
・流速:1.5mL/min
・サプレッサー:AMMSアニオンメンブランサプレッサー
・再生液:12.5mM硫酸溶液
・検出器:電気伝導度検出器
(2)APHAの測定
VCのAPHAの測定は色差計(日本電色工業株式会社製:ZE6000)を用いて測定した。
(3)融点の測定
VCの融点の測定はJIS K0064に記載された目視方法により測定した。
【0039】
[合成例1]
晶析−溶融精製装置として、図1と同様の装置を使用した。溶融精製塔2は、内径220mm、有効高さ2000mm(塔下部の溶解部の上から塔頂までの高さ)であり、晶析槽3は外径350mm、有効高さ850mmであり、内部に掻き取り機5を有している。冷却器4には、冷水(入口11.2℃、同出口11.7℃)を通した。加熱器1には、熱媒として温水(加熱入口で30.0℃、同出口で27.9℃)を通した。撹拌機10は、水平撹拌翼を有する撹拌軸を使用した。粗VC供給管6及び製品抜き出し管8には、孔径1.0μmのメンブレンカートリッジフィルター(濾材:PTFE)を取り付けた。
【0040】
粗VC供給管6から、粗VC溶融液(VC量:99.20質量%、塩素不純物量:2789ppm)を供給した。
【0041】
晶析槽3の内壁に粗VC結晶が析出し、掻き取り機5により掻き取られた粗VC結晶は溶融精製塔2の底部へ沈降する。粗VC結晶は、溶融精製塔2の底部において溶融されたVC溶融液の一部と固液向流接触することで、純度を高めながら塔の底部に沈降し、堆積層(A)を形成した。この時点では、製品抜き出し管8からVC溶融液を抜き出さず、温水と冷水の温度を制御しながら、溶融精製塔2内の温度分布が安定するまで、24時間運転を継続した。この後、製品抜出し管8よりVC溶融液の抜き出しを開始した。
【0042】
更に2時間運転を続行し、結晶の堆積層の乱れがないことを目視及び溶融精製塔2の温度分布より確認し、製品抜出し管8から高純度VCを抜き出した。その結果、精製VC中の塩素不純物はゼロであった。また、粗VC供給管6から供給した粗VC量に対して製品抜き出し管8から得られた高純度VCの割合は0.95であった。
得られた高純度VC量(Kg)/供給した粗VC量(Kg)=0.95
【0043】
〔VCの保存試験〕
合成例1の方法で取得した高純度VC(化合物1)について、精製直後、及び窒素雰囲気下、又は酸素含有雰囲気下(乾燥空気下)、45℃、7日間保存した後、希釈せずにそのVCのAPHAを測定した。また、塩素不純物を含む化合物2及び化合物3についても化合物1と同様に保存し、APHAを測定した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi1/3Mn1/3Co1/3 94質量%、アセチレンブラック(導電剤)3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤)3質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、帯状の正極シートを作製した。
また、人造黒鉛95質量%を、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極シートを作製した。
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比で30:30:40に混合した溶媒にLiPFを1.1mol/Lとなるように溶解して非水電解液とした。
そして、上記保存試験前後のVCをそれぞれ非水電解液に対して2質量%となるように添加し、実施例1〜6及び比較例1〜4のリチウムイオン二次電池に用いた。また、実施例4〜6及び比較例4では、電解液中でLiPFが加水分解して生成したLiPOと、意図的に加えたLiPOを合算したトータルのLiPO量が表2に示す量となるよう調整した。なお、実施例4〜6及び比較例4の非水電解液に含まれるHFの濃度はそれぞれ、実施例4では21ppm(HF濃度/LiPO含有量≒1/238)、実施例5では8ppm(HF濃度/LiPO含有量≒1/625)、実施例6では14ppm(HF濃度/LiPO含有量≒1/857)となるように調整した。
正極シート、セパレータ、負極シートの順に積層し、前記非水電解液を加えて、ラミネート型電池を作製し、評価を行った。
【0046】
〔高温サイクル特性の評価〕
<初期の放電容量>
上記の方法で作製したラミネート電池を用いて、25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.7Vまで放電して、初期の放電容量を求めた。
<高温サイクル後の放電容量維持率>
次に、このラミネート電池を60℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.7Vまで放電することを1サイクルとし、これを1000サイクルに達するまで繰り返した。そして、以下の式により放電容量維持率を求めた。
放電容量維持率(%)=(1000サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
<高温サイクル後のインピーダンス>
1000サイクル後の電池を0℃の恒温槽中、1kHzの周波数でインピーダンスを測定し、低温の出力特性を評価した。そして、比較例1のインピーダンスを100として、抵抗比を以下の式により求めた。
抵抗比(%)=(インピーダンス/比較例1のインピーダンス)×100
この抵抗比(%)が低いほど、低温の出力特性が優れていることを示す。
電解液中のVC及びLiPOに関する条件と電池評価の結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1〜6の塩素不純物がゼロの高純度VC(化合物1)を含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、比較例1〜4で得られたリチウムイオン二次電池と比べて、いずれも、高温における1000サイクルという極めて長期のサイクル特性が優れたものとなり、低温の出力特性も向上することが分かる。
より具体的に説明すると、実施例2、3の塩素不純物がゼロの高純度VC(化合物1)を含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、比較例1、2の全塩素不純物量が14ppmのVC(化合物2)を含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比べて、1000サイクル後の放電容量維持率(%)が、67.4%(比較例1)から70.2%(実施例2)と向上し、また66.8%(比較例2)から71.8%(実施例3)と向上する。このことから、リチウム二次電池等の蓄電デバイスの全使用可能時間を大幅に改善できることが分かる。
また、低温の出力特性(抵抗比(%))も、比較例1、2の100に対して、実施例2、3はそれぞれ97%、96%と低く、低温の出力特性が優れたものになる。
更には、実施例4〜6の塩素不純物がゼロの高純度VC(化合物1)とLiPOを含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、比較例4の全塩素不純物量が305ppmのVC(化合物3)とLiPOを含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比べて、1000サイクル後の放電容量維持率(%)が、61.0%(比較例4)から72.0%(実施例4)〜73.4%(実施例6)と向上する。これらの効果は、LiPOが含まれない実施例1〜3と比べても大きく向上している。このことから、リチウム二次電池等の蓄電デバイスの全使用可能時間を一段と改善できることが分かる。
また、低温の出力特性(抵抗比(%))も、比較例4(109%)対して、実施例4〜6は、86%〜89%と低く、一段と低温の出力特性が優れたものになる。
以上のとおり、本発明は、従来技術に相当する比較例1、2に対して予測し得ない顕著な効果を発揮する。
【符号の説明】
【0049】
1:加熱器
2:溶融精製塔
3:晶析槽
4:冷却器
5:掻き取り機
6:粗VC溶融液供給管
7:原料フィルター
8:製品抜出し管
9:製品フィルター
10:撹拌機
11:母液抜出管
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の高純度VCを含む非水電解液を使用すれば、低温の出力特性や長期のサイクル特性等の電気化学特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。得られる蓄電デバイスは、長寿命で省エネルギー効果を有する。
図1
図2